説明

立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法

【課題】立方晶炭化ケイ素と格子定数が異なるシリコン基板上に、結晶欠陥が少なくかつ高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板1は、シリコン基板2の表面2aに立方晶炭化ケイ素膜3が形成され、このシリコン基板2の立方晶炭化ケイ素膜3との界面近傍に、シリコン基板2の表面2aから内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔4が多数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法に関し、特に、ワイドバンドギャップ半導体として期待される炭化ケイ素(SiC)半導体に好適に用いられ、シリコン基板上に結晶欠陥が少なくかつ高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、バンドギャップが2.2eV(300K)と、シリコン(Si)と比べて2倍以上のバンドギャップを有するワイドバンドギャップ半導体であり、パワーデバイス用半導体材料あるいは高耐圧デバイス用材料として注目されている。
ところで、この炭化ケイ素(SiC)の結晶生成温度は、シリコン(Si)と比べて高く、シリコンと同じように液相からの引き上げ法により炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを得るのが困難である。そこで、昇華法という方法により炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを作製するが、昇華法では、大口径で結晶欠陥の少ない炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを得ることが非常に難しい。それ故、現在市販されている炭化ケイ素(SiC)基板の径は3〜4インチであり、価格も非常に高価である。
【0003】
一方、炭化ケイ素(SiC)の中でも立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)は、結晶生成温度が比較的低温であり、安価なシリコン基板上にエピタキシャル成長(ヘテロエピタキシー)させることができる。そこで、炭化ケイ素(SiC)基板の大口径化の手段の一つとして、このヘテロエピタキシャル技術が検討されている。
ところで、立方晶炭化ケイ素の格子定数は4.359オングストロームであり、立方晶シリコンの格子定数(5.4307オングストローム)と比べて20%程度も小さく、かつ熱膨張係数も異なることから、結晶欠陥が少ない高品質のエピタキシャル膜を得ることが非常に難しい。
そこで、シリコン基板上に、シリコンと格子定数の差が大きい結晶をエピタキシャル成長するときに、格子定数の差を緩和する目的で、このシリコン基板とエピタキシャル膜との間に、格子定数がシリコン基板とエピタキシャル膜との中間にあるバッファ層を設ける方法が提案されている。
【0004】
例えば、シリコン基板上にバッファ層として、リン化ホウ素(BP)層を設ける方法が提案されている(特許文献1)。
このリン化ホウ素(BP)層は、立方晶の結晶構造をとり、格子定数が4.538オングストロームと立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)の格子定数に近いので、シリコン基板上に立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)層をエピタキシャル成長させるときのバッファ層として好適である。
【0005】
また、シリコン基板上にバッファ層として、酸化ジルコニウム(ZrO)を主成分とするエピタキシャル酸化物薄膜を設ける方法が提案されている(特許文献2)。
この酸化ジルコニウム(ZrO)は、立方晶の結晶構造をとり、格子定数が5.15オングストロームとシリコンの格子定数より小さい。
このように、シリコン及び立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)と同じ結晶構造をとり、格子定数がシリコン及び立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)の中間にある材料をバッファ層として用いることが検討されている。
【0006】
また、支持基板上に、空孔により分離された薄膜シリコン層を形成し、この薄膜シリコン層の上に炭化ケイ素(SiC)エピタキシャル膜を形成する方法が提案されている(特許文献3)。
この空孔部は、H+イオン注入を高濃度にて行い、その後熱処理を行うことで形成している。そして、この空孔部により応力を緩和し、良質のエピタキシャル膜を得ている。
【0007】
さらに、フォトリソグラフィによりシリコン基板上にマスクパターンを形成し、このマスクパターンを用いたエッチングによりシリコン基板上に溝を形成し、その後、H2雰囲気にて熱処理することで、上部開口部をシリコン薄膜にて塞ぎ、空孔を有する基板を作製し、この基板の上に炭化ケイ素(SiC)エピタキシャル膜を形成する方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−81695号公報
【特許文献2】特開平8−109099号公報
【特許文献3】特開2002−299277号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.40,2001,pp.5907−5908
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、シリコン基板とバッファ層と立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)層との間で格子定数の差が完全に解消されるわけではないので、格子定数の差による結晶欠陥の発生を完全に防止することができないという問題点があった。
また、特許文献3及び非特許文献1の方法では、応力緩和による結晶性の向上、デバイス特性の向上等の効果があるが、空孔を形成するために多くの工程を必要とし、製造工程に係るコストも大きくなるという問題点があり、現実的ではない。
【0011】
さらに、従来では、シリコン基板をプロパンやエチレン等の炭化水素系ガスを用いて炭化処理を行った後、その上に炭化ケイ素(SiC)膜をエピタキシャル成長させる場合、偶発的に、シリコン基板に逆ピラミッド状の空孔が形成されることが知られているが、この逆ピラミッド状の空孔は、まばらにしか形成されないために、応力緩和による結晶性の向上等の効果を得ることはできない。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、立方晶炭化ケイ素と格子定数が異なるシリコン基板上に、結晶欠陥が少なくかつ高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法を採用した。
すなわち、本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板は、シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜が形成された立方晶炭化ケイ素膜付き基板であって、前記シリコン基板の前記立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、前記シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔が形成されていることを特徴とする。
【0014】
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板では、シリコン基板の立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔を形成したことにより、これら略四角錐状の空孔がシリコン基板と立方晶炭化ケイ素膜との界面に生じる応力を緩和し、この立方晶炭化ケイ素膜の結晶性を向上させることができる。これにより、シリコン基板上に結晶欠陥が少なくかつ高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板を提供することができる。その結果、大口径シリコン基板を用いた高品質立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)ヘテロエピタキシャル基板を実現することが可能になり、低価格で高品質の高耐圧炭化ケイ素デバイスを実現することが可能になる。
【0015】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板は、前記空孔の開口の一辺の長さは、0.05μm以上かつ5μm以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板では、空孔の開口の一辺の長さを0.05μm以上かつ5μm以下としたことにより、この大きさの空孔がシリコン基板と立方晶炭化ケイ素膜との界面に生じる応力を効果的に緩和し、この立方晶炭化ケイ素膜の結晶性をさらに向上させることができる。
【0016】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板は、前記空孔の密度は、2.0×10個/cm以上かつ1.0×1010個/cm以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板では、空孔の密度を2.0×10個/cm以上かつ1.0×1010個/cm以下としたことにより、多数の空孔がシリコン基板と立方晶炭化ケイ素膜との界面に生じる応力を効果的に緩和し、この立方晶炭化ケイ素膜の結晶性をさらに向上させることができる。
【0017】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を形成する方法であって、前記シリコン基板を炭素及び水素を含むガス雰囲気中にて加熱し、前記シリコン基板の温度を炭化処理温度まで上昇させる間に前記シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程と、前記炭化処理温度に達した前記シリコン基板を、その温度を所定時間保持することにより、前記シリコン基板の前記立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、前記シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔を形成する第2の工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、シリコン基板を炭素及び水素を含むガス雰囲気中に導入して加熱し、シリコン基板の温度を炭化処理温度まで上昇させる間にシリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程と、炭化処理温度に達したシリコン基板を、その温度を所定時間保持することにより、シリコン基板の立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔を形成する第2の工程と、を有することにより、シリコン基板の立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔が形成された立方晶炭化ケイ素膜付き基板を、簡便な工程で、容易かつ安価に得ることができる。
【0019】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、前記炭素及び水素を含むガスは、炭化水素系ガスを含むことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、炭素及び水素を含むガスを炭化水素系ガスとしたことにより、炭化水素系ガスに含まれる水素原子がシリコン基板の表面をエッチングし、このシリコン基板の表面に多数の略四角錐状の空孔を容易に形成することができる。
【0020】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、前記シリコン基板を前記炭素及び水素を含むガス雰囲気中にて加熱する際の加熱前の基板温度は、室温以上かつ800℃以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、シリコン基板の炭素及び水素を含むガス雰囲気中における基板温度を室温以上かつ800℃以下としたことにより、シリコン基板の表面の上に安定した炭素及び水素を含むガス雰囲気を形成することができる。したがって、次工程であるシリコン基板の炭化処理を効率的に行うことができる。
【0021】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、前記炭化処理温度は、800℃以上かつ1400℃以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、炭化処理温度を800℃以上かつ1400℃以下としたことにより、シリコン基板を加熱する過程で、このシリコン基板の表面が炭素及び水素を含むガスにより曝露されて炭化されることにより、このシリコン基板の表面に結晶性のよい立方晶炭化ケイ素膜を形成することができる。
また、この炭化処理温度を上記の範囲で制御することにより、形成される略四角錐状の空孔の大きさ及び密度を所望の大きさ及び密度に制御することができる。
【0022】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、前記炭素及び水素を含むガス雰囲気の圧力は、1.0×10−3Pa以上かつ1.0×10−1Pa以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、炭素及び水素を含むガス雰囲気の圧力を1.0×10−3Pa以上かつ1.0×10−1Pa以下としたことにより、この炭素及び水素を含むガス雰囲気の圧力を上記の範囲で制御することにより、形成される略四角錐状の空孔の大きさ及び密度を所望の大きさ及び密度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を示す過程図である。
【図3】本発明の実施例1の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
【図4】本発明の実施例1の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の断面構造を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図5】本発明の実施例2の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
【図6】本発明の実施例3の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の断面構造を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図7】本発明の実施例4の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板及びその製造方法を実施するための形態について説明する。
本実施形態においては、発明の内容の説明を容易にするために、構造上の各部分の形状等については、適宜、実際の形状と異ならせてある。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を示す断面図である。図において、1は立方晶炭化ケイ素膜付き基板であり、シリコン(Si)基板2の表面2aに立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3が形成され、このシリコン基板2の立方晶炭化ケイ素膜3との界面近傍に、シリコン基板2の表面2aから内部に向かって漸次縮小する略四角錐状、いわゆる逆ピラミッド状の空孔4が多数形成されている。
【0026】
この空孔4の開口は正方形状であり、この開口の一辺の長さは、0.05μm以上かつ5μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上かつ2μm以下である。
ここで、空孔4の開口の一辺の長さが0.05μm未満であると、この上に形成される立方晶炭化ケイ素膜とシリコン基板2との間に加わる応力の緩和が不十分なものとなり、結晶欠陥の少ない良質な立方晶炭化ケイ素膜を形成することが難しくなり、一方、空孔4の開口の一辺の長さが5μmを超えると、開口が大きすぎるために、この上に形成される立方晶炭化ケイ素膜とシリコン基板2との間に加わる応力に分布が生じ、結晶欠陥の少ない良質な立方晶炭化ケイ素膜を形成することが難しくなるので、好ましくない。
【0027】
この空孔4のシリコン基板2の表面2aにおける密度は、2.0×10個/cm以上かつ1.0×1010個/cm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0×10個/cm以上かつ5.0×10個/cm以下である。
ここで、空孔4の密度が2.0×10個/cm未満であると、この上に形成される立方晶炭化ケイ素膜とシリコン基板2との間に加わる応力の緩和が不十分なものとなり、結晶欠陥の少ない良質な立方晶炭化ケイ素膜を形成することが難しくなり、一方、空孔4の密度が1.0×1010個/cmを超えると、空孔4の密度が高すぎるために、この上に形成される立方晶炭化ケイ素膜とシリコン基板2との間に加わる応力に分布が生じ、結晶欠陥の少ない良質な立方晶炭化ケイ素膜を形成することが難しくなるので、好ましくない。
【0028】
次に、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板1の製造方法について、図2に基づき説明する。
まず、図2(a)に示すように、シリコン基板2を用意し、このシリコン基板2を熱処理炉のチャンバー内に収納し、このチャンバー内を真空にしてシリコン基板2を加熱して、その基板温度を所定の温度、例えば750℃に上昇させた後、所定の時間、例えば5分間熱処理を行い、シリコン基板2の表面2aの自然酸化膜等のクリーニングを行う。
【0029】
次いで、シリコン基板2の基板温度を室温以上かつ800℃以下、好ましくは400℃以上かつ800℃以下に調整し、この基板温度を保持した状態で、シリコン基板2の表面2aに炭素及び水素を含むガスgを導入する。
ここで、炭素及び水素を含むガスgを導入する際のシリコン基板2の基板温度を室温以上かつ800℃以下とした理由は、基板温度が800℃を超えると、シリコン基板2の表面2aの上に導入された炭素及び水素を含むガスgが熱分解等し易くなり、安定した炭素及び水素を含むガスg雰囲気を形成することができなくなるからである。
【0030】
この炭素及び水素を含むガスgとしては、多数の略四角錐状の空孔4を容易に形成することが出来ることから炭素原子及び水素原子を含む炭化水素系ガスが好ましい。
炭化水素系ガスとしては、例えば、メタン(CH)、アセチレン(C)、エチレン(C)、プロパン(C)、ノルマルブタン(n−C10)、イソブタン(i−C10)、ネオペンタン(neo−C12)等が好適に用いられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
この炭素及び水素を含むガスgの雰囲気の圧力は、1.0×10−3Pa以上かつ1.0×10−1Pa以下が好ましい。
この炭素及び水素を含むガスgの雰囲気の圧力を1.0×10−3Pa以上かつ1.0×10−1Pa以下としたことにより、この圧力を上記の範囲内で制御することにより、次工程の炭化処理にて形成される略四角錐状の空孔4の大きさ及び密度を所望の大きさ及び密度に制御することができる。
【0032】
次いで、このシリコン基板2を、炭素及び水素を含むガスgの雰囲気中にて加熱し、このシリコン基板2の基板温度を炭化処理温度まで上昇させる。
この炭化処理温度は、800℃以上かつ1400℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以上かつ1100℃以下である。
【0033】
ここで、炭化処理温度が800℃未満であると、炭素及び水素を含むガスgによるシリコン基板2の表面2aの炭化が不十分なものとなり、その結果、シリコン基板2の表面2aに結晶性のよい立方晶炭化ケイ素膜3を形成することができず、一方、炭化処理温度が1400℃を超えると、シリコンの融点(1410℃)を超えるため、基板が溶けてしまうという問題を生じる。
【0034】
このシリコン基板2の基板温度を炭化処理温度まで上昇させる過程で、このシリコン基板2の表面2aが炭素及び水素を含むガスgにより曝露されて炭化され、図2(b)に示すように、このシリコン基板2の表面2aに厚みが薄い多孔質性の立方晶炭化ケイ素膜3が形成される。
【0035】
次いで、この炭化処理温度に達したシリコン基板2を、この炭化処理温度にて所定時間保持する。
この炭化処理温度にて所定時間保持する過程で、炭素及び水素を含むガスgの熱分解により生じた水素原子は、厚みが薄い多孔質性の立方晶炭化ケイ素膜3を容易に透過してシリコン基板2の表面2aを、このシリコン基板2の表面2aと立方晶炭化ケイ素膜3との界面付近からエッチングする。これにより、図2(c)に示すように、このシリコン基板2の立方晶炭化ケイ素膜3との界面近傍に、シリコン基板2の表面2aから内部に向かって漸次縮小する略四角錐状、いわゆる逆ピラミッド状の空孔4が多数形成される。
同時に、エッチングによりシリコン基板2の表面2aから発生するケイ素(Si)と、炭素及び水素を含むガスg中の炭素(C)とが反応して、立方晶炭化ケイ素膜3上に立方晶炭化ケイ素をエピタキシャル成長させる。
【0036】
以上により、シリコン基板2の表面2aに立方晶炭化ケイ素膜3が形成され、このシリコン基板2の立方晶炭化ケイ素膜3との界面近傍に、シリコン基板2の表面2aから内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔4が多数形成された立方晶炭化ケイ素膜付き基板1を得ることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板1によれば、シリコン基板2の表面2aに立方晶炭化ケイ素膜3が形成され、このシリコン基板2の立方晶炭化ケイ素膜3との界面近傍に、シリコン基板2の表面2aから内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔4が多数形成されているので、これら略四角錐状の空孔4によりシリコン基板2と立方晶炭化ケイ素膜3との界面に生じる応力を緩和することができ、その結果、この立方晶炭化ケイ素膜3の結晶性を向上させることができる。したがって、シリコン基板2上に結晶欠陥が少なくかつ高品質の立方晶炭化ケイ素膜3を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板1を提供することができる。
【0038】
本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板1の製造方法によれば、シリコン基板2を炭素及び水素を含むガスg雰囲気中にて加熱し、シリコン基板2の温度を炭化処理温度まで上昇させる間にシリコン基板2の表面2aに立方晶炭化ケイ素膜3を形成し、次いで、炭化処理温度に達したシリコン基板2を、その温度を所定時間保持することにより、シリコン基板2の表面2aに内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔4を多数形成するので、シリコン基板2上に結晶欠陥が少なくかつ高品質の立方晶炭化ケイ素膜3を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板1を、簡便な工程で、容易かつ安価に得ることができる。
【0039】
本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板1は、結晶欠陥が少なくかつ高品質のワイドバンドギャップ半導体である立方晶炭化ケイ素膜を有するものであるから、パワーデバイス用半導体材料として好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
「実施例1」
シリコン基板を真空中にて750℃に昇温させ、5分間熱処理を行い、シリコン基板の表面の自然酸化膜等のサーマル・クリーニングを行った。
その後、シリコン基板を放冷して、その基板温度を600℃にまで低下させ、この基板温度を600℃に保持した状態で、シリコン基板上にネオペンタン(neo−C12)ガスを流速3sccmにて供給した。このときの雰囲気の圧力は8.0×10−3Paであった。
【0042】
次いで、シリコン基板を加熱して、その基板温度を1000℃まで昇温させ、1000℃に達した後、この温度を1時間保持し、炭化処理を行った。
炭化処理終了後、ネオペンタン(neo−C12)ガスの供給を停止し、シリコン基板を放冷して、その基板温度を室温付近にまで低下させ、実施例1の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を得た。
【0043】
図3は、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
図3によれば、表面全体に一辺が1μm前後の四角い空孔が形成されていることが分かる。この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の空孔の密度は1.5×10個/cmであった。
図4は、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の断面構造を示す走査型電子顕微鏡像である。
図4によれば、空孔の断面形状は、立方晶炭化ケイ素エピタキシャル層(立方晶炭化ケイ素膜)に底面が接する逆ピラミッド状の形をしていることが分かる。
【0044】
「実施例2」
シリコン基板を真空中にて750℃に昇温させ、5分間熱処理を行い、シリコン基板の表面の自然酸化膜等のサーマル・クリーニングを行った。
その後、シリコン基板を放冷して、その基板温度を600℃にまで低下させ、この基板温度を600℃に保持した状態で、シリコン基板上にネオペンタン(neo−C12)ガスを流速0.5sccmにて供給した。このときの雰囲気の圧力は1.6×10−3Paであった。
【0045】
次いで、シリコン基板を加熱して、その基板温度を1000℃まで昇温させ、1000℃に達した後、この温度を1時間保持し、炭化処理を行った。
炭化処理終了後、ネオペンタン(neo−C12)ガスの供給を停止し、シリコン基板を放冷して、その基板温度を室温付近にまで低下させ、実施例2の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を得た。
【0046】
図5は、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
図5によれば、表面全体に一辺が1μm前後の四角い空孔が形成されていることが分かる。この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の空孔の密度は3.3×10個/cmであった。
【0047】
「実施例3」
シリコン基板を真空中にて750℃に昇温させ、5分間熱処理を行い、シリコン基板の表面の自然酸化膜等のサーマル・クリーニングを行った。
その後、シリコン基板を放冷して、その基板温度を600℃にまで低下させ、この基板温度を600℃に保持した状態で、シリコン基板上にエチレン(C)ガスを流速3sccmにて供給した。このときの雰囲気の圧力は2.0×10−2Paであった。
【0048】
次いで、シリコン基板を加熱して、その基板温度を1000℃まで昇温させ、1000℃に達した後、この温度を30分間保持し、炭化処理を行った。
炭化処理終了後、エチレン(C)ガスの供給を停止し、シリコン基板を放冷して、その基板温度を室温付近にまで低下させ、実施例3の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を得た。
【0049】
図6は、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
図6によれば、表面全体に一辺が0.5μm前後の四角い空孔が形成されていることが分かる。この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の空孔の密度は1.76×10個/cmであった。
【0050】
「実施例4」
シリコン基板を真空中にて750℃に昇温させ、5分間熱処理を行い、シリコン基板の表面の自然酸化膜等のサーマル・クリーニングを行った。
その後、シリコン基板を放冷して、その基板温度を600℃にまで低下させ、この基板温度を600℃に保持した状態で、シリコン基板上にエチレン(C)ガスを流速20sccmにて供給した。このときの雰囲気の圧力は8.5×10−2Paであった。
【0051】
次いで、シリコン基板を加熱して、その基板温度を1000℃まで昇温させ、1000℃に達した後、この温度を5分間保持し、炭化処理を行った。
炭化処理終了後、エチレン(C)ガスの供給を停止し、シリコン基板を放冷して、その基板温度を室温付近にまで低下させ、実施例4の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を得た。
【0052】
図7は、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の表面状態を示す顕微鏡像である。
図7によれば、表面全体に一辺が0.5μm前後の四角い空孔が形成されていることが分かる。この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の空孔の密度は6.16×10個/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板は、シリコン基板の立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔を多数形成することで、これらの空孔がシリコン基板と立方晶炭化ケイ素膜との界面に生じる応力を緩和し、この立方晶炭化ケイ素膜の結晶性を向上させることができるものであるから、大口径シリコン基板を用いた高品質立方晶炭化ケイ素ヘテロエピタキシャル基板への応用も可能であり、よって、低価格で高品質の高耐圧炭化ケイ素デバイスを実現することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…立方晶炭化ケイ素膜付き基板、2…シリコン(Si)基板、2a…表面、3…立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜、4…空孔、g…炭素及び水素を含むガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜が形成された立方晶炭化ケイ素膜付き基板であって、
前記シリコン基板の前記立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、前記シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔が形成されていることを特徴とする立方晶炭化ケイ素膜付き基板。
【請求項2】
前記空孔の開口の一辺の長さは、0.05μm以上かつ5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板。
【請求項3】
前記空孔の密度は、2.0×10個/cm以上かつ1.0×1010個/cm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板。
【請求項4】
シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を形成する方法であって、
前記シリコン基板を炭素及び水素を含むガス雰囲気中にて加熱し、前記シリコン基板の温度を炭化処理温度まで上昇させる間に前記シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程と、
前記炭化処理温度に達した前記シリコン基板を、その温度を所定時間保持することにより、前記シリコン基板の前記立方晶炭化ケイ素膜との界面近傍に、前記シリコン基板の表面から内部に向かって漸次縮小する略四角錐状の空孔を形成する第2の工程と、
を有することを特徴とする立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭素及び水素を含むガスは、炭化水素系ガスを含むことを特徴とする請求項4記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン基板を前記炭素及び水素を含むガス雰囲気中にて加熱する際の加熱前の基板温度は、室温以上かつ800℃以下であることを特徴とする請求項4または5記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項7】
前記炭化処理温度は、800℃以上かつ1400℃以下であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
前記炭素及び水素を含むガス雰囲気の圧力は、1.0×10−3Pa以上かつ1.0×10−1Pa以下であることを特徴とする請求項4ないし7のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−41203(P2012−41203A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181205(P2010−181205)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】