説明

筒内噴射型内燃機関

【課題】 吸蔵型NOx触媒を備えた筒内噴射型内燃機関において、吸蔵型NOx触媒を早期に高温状態とし、吸蔵されたSOxを燃費の悪化なく常に確実に除去可能な筒内噴射型内燃機関を提供する。
【解決手段】 燃料の一部を圧縮行程及び吸気行程のいずれか一方において主噴射として噴射するとともに、残部を膨張行程において副噴射として噴射する2段噴射手段(S16,S26)と、吸気行程において空燃比がリッチ空燃比となるよう燃料を噴射するリッチ空燃比運転手段(S20,S30)とを備え、硫黄成分(S成分)の除去が必要なとき(S10)、硫黄成分除去手段(当該Sパージ制御)によってこれら2段噴射手段とリッチ空燃比運転手段とが交互にまたは気筒毎に実施されるよう構成されている(S14〜S24)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、筒内噴射型内燃機関に係り、詳しくは、吸蔵型NOx触媒を備えた筒内噴射型内燃機関において、吸蔵型NOx触媒を昇温する技術に関する。
【0002】
【関連する背景技術】筒内噴射型内燃機関は、吸気行程のみならず圧縮行程において燃料を直接筒内に噴射可能に構成されており、これにより、空燃比を理論空燃比(値14.7)よりも超希薄側、つまりリーン側の目標値(例えば、値24)以上の超リーン空燃比に制御し、エンジンの燃費特性等を改善することが可能とされている。
【0003】ところが、このように空燃比をリーン空燃比とすると、従来の三元触媒ではその浄化特性からNOx(窒素酸化物)を充分に浄化できないという問題があり、最近では、酸素過剰雰囲気においてもNOxを浄化できる吸蔵型NOx触媒が開発され実用化されている。吸蔵型NOx触媒は、酸素過剰状態(酸化雰囲気)において排ガス中のNOxを硝酸塩X−NO3として吸蔵し、該吸蔵したNOxをCO(一酸化炭素)過剰状態(還元雰囲気)でN2(窒素)に還元させる特性(同時に炭酸塩X−CO3が生成される)を有した触媒として構成されている。筒内噴射型内燃機関に関していえば、例えば、吸蔵型NOx触媒のNOx吸蔵量が飽和する前に空燃比を理論空燃比またはその近傍値に制御するような吸気行程でのリッチ空燃比運転に定期的に切換え(これをリッチスパイクという)、これにより、COの多い還元雰囲気を生成し、吸蔵したNOxを浄化還元(NOxパージ)して吸蔵型NOx触媒の再生を図るようにしている。
【0004】ところで、燃料中にはS(サルファ)成分(硫黄成分)が含まれており、このS成分は酸素と反応してSOx(硫黄酸化物)となり、該SOxは硫酸塩X−SO4としてNOxの代わりに吸蔵型NOx触媒に吸蔵される。つまり、吸蔵型NOx触媒には、硝酸塩と硫酸塩とが吸蔵されることになる。ところが、硫酸塩は硝酸塩よりも塩としての安定度が高く、空燃比がリッチ状態(酸素濃度が低下した還元雰囲気)になってもその一部しか分解されず、吸蔵型NOx触媒に残留する硫酸塩の量は時間とともに増加する。このように硫酸塩の量が増加すると、吸蔵型NOx触媒の吸蔵能力が時間とともに低下し、吸蔵型NOx触媒としての性能が悪化することになり好ましいことではない(S被毒)。
【0005】しかしながら、このように吸蔵されたSOxは、空燃比をリッチ状態にしてCO過剰状態(還元雰囲気)を生成するとともに、触媒を高温状態にすることで除去(Sパージ)されることが分かっており、還元雰囲気の下で、例えば点火時期のリタードにより排気昇温させ触媒を高温状態にする技術が特開平7−217474号公報等に開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記公報に開示される如く点火時期をリタードさせて触媒温度を昇温させる方法は昇温効果が小さく、また、燃焼を緩慢にしているため、燃費を悪化させる要因となるとともに、大きく昇温すべくリタード量を大きくすると燃焼悪化によりドラビリ悪化に繋がる虞があり好ましいことではない。
【0007】そこで、筒内噴射型内燃機関では、例えば、目標空燃比である全体空燃比を所定のリッチ空燃比(例えば、値12)に設定するとともに、燃料噴射を吸気行程における噴射(主噴射)と膨張行程における噴射(副噴射)との2段噴射に分割し、当該副噴射により供給される燃料(HC)を未燃状態のまま排出させ、これにより燃焼を排気通路内或いは吸蔵型NOx触媒内で生起させ排気温度を高めて吸蔵型NOx触媒を加熱することが考えられている。
【0008】しかしながら、筒内噴射型内燃機関において2段噴射を行う場合、全体空燃比を所定のリッチ空燃比とすることによってCOが生成されるものの、通常のリッチ運転よりもCO生成量は少なく、故に、運転状態によっては、COの生成量が不足し、十分にSパージを実施できない場合がある。本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、吸蔵型NOx触媒を備えた筒内噴射型内燃機関において、吸蔵型NOx触媒を早期に高温状態とし、吸蔵されたSOxを燃費の悪化なく常に確実に除去可能な筒内噴射型内燃機関を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、請求項1の発明では、筒内噴射型内燃機関において、燃料の一部を圧縮行程及び吸気行程のいずれか一方において主噴射として噴射するとともに、残部を膨張行程において副噴射として噴射する2段噴射手段と、吸気行程において空燃比がリッチ空燃比となるよう燃料を噴射するリッチ空燃比運転手段とを備えており、吸蔵型NOx触媒から硫黄成分を除去する場合、これら2段噴射手段とリッチ空燃比運転手段とを交互にまたは気筒毎に実施させるよう構成されている。
【0010】このため、2段噴射手段が実施されると、副噴射により未燃燃料成分(未燃HC等の可燃物)が多量に排出され、該未燃燃料成分が排気通路内或いは吸蔵型NOx触媒内で燃焼して吸蔵型NOx触媒が良好に加熱し昇温させられることになり、一方、リッチ空燃比運転手段が実施されると、不完全燃焼によりCOが多量に発生し、該COによって吸蔵型NOx触媒に吸蔵された硫黄成分、即ちSOxが良好に除去させられることになる。つまり、本発明では、硫黄成分の除去に必要なこれら吸蔵型NOx触媒の昇温とCOの生成とを両立させており、これにより、吸蔵型NOx触媒が効率よく確実に昇温するとともにCOが十分に供給されて確実にSパージが実施されることとなる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。先ず、実施例1について説明する。図1を参照すると、車両に搭載された本発明に係る筒内噴射型内燃機関の概略構成図が示されており、以下同図に基づいて本発明に係る筒内噴射型内燃機関の構成を説明する。
【0012】機関本体(以下、単にエンジンという)1は、例えば、燃料噴射モード(運転モード)を切換えることで吸気行程での燃料噴射(吸気行程噴射モード)または圧縮行程での燃料噴射(圧縮行程噴射モード)を実施可能な筒内噴射型火花点火式直列4気筒ガソリンエンジンとされている。そして、この筒内噴射型のエンジン1は、容易にして理論空燃比(ストイキオ)での運転やリッチ空燃比での運転(リッチ空燃比運転)の他、リーン空燃比での運転(リーン空燃比運転)が実現可能とされており、特に圧縮行程噴射モードでは、超リーン空燃比での運転が可能とされている。
【0013】同図に示すように、エンジン1のシリンダヘッド2には、各気筒毎に点火プラグ4とともに電磁式の燃料噴射弁6が取り付けられており、これにより、燃焼室8内に燃料を直接噴射可能とされている。燃料噴射弁6には、燃料パイプを介して燃料タンクを擁した燃料供給装置(共に図示せず)が接続されている。より詳しくは、燃料供給装置には、低圧燃料ポンプと高圧燃料ポンプとが設けられており、これにより、燃料タンク内の燃料を燃料噴射弁6に対し低燃圧或いは高燃圧で供給し、該燃料を燃料噴射弁6から燃焼室内に向けて所望の燃圧で噴射可能とされている。この際、燃料噴射量は高圧燃料ポンプの燃料吐出圧と燃料噴射弁6の開弁時間、即ち燃料噴射時間とから決定される。
【0014】シリンダヘッド2には、各気筒毎に略直立方向に吸気ポートが形成されており、各吸気ポートと連通するようにして吸気マニホールド10の一端がそれぞれ接続されている。そして、吸気マニホールド10の他端にはスロットル弁11が接続されており、該スロットル弁11にはスロットル開度θthを検出するスロットルセンサ11aが設けられている。
【0015】また、シリンダヘッド2には、各気筒毎に略水平方向に排気ポートが形成されており、各排気ポートと連通するようにして排気マニホールド12の一端がそれぞれ接続されている。なお、図中符号13は、クランク角を検出するクランク角センサであり、該クランク角センサ13はエンジン回転速度Neを検出可能とされている。
【0016】なお、当該筒内噴射型のエンジン1は既に公知のものであり、その構成の詳細についてはここでは説明を省略する。同図に示すように、排気マニホールド12には排気管(排気通路)14が接続されており、この排気管14にはエンジン1に近接した小型の近接三元触媒20及び排気浄化触媒装置30を介してマフラー(図示せず)が接続されている。また、排気管14には排気温度を検出する高温センサ16が設けられている。
【0017】排気浄化触媒装置30は、吸蔵型NOx触媒30aと三元触媒30bとの2つの触媒を備えて構成されており、三元触媒30bの方が吸蔵型NOx触媒30aよりも下流側に配設されている。吸蔵型NOx触媒30aは、酸化雰囲気においてNOxを一旦吸蔵させ、主としてCOの存在する還元雰囲気中においてNOxをN2(窒素)等に還元させる機能を持つものである。詳しくは、吸蔵型NOx触媒30aは、貴金属として白金(Pt),ロジウム(Rh)等を有した触媒として構成されており、吸蔵材としてはバリウム(Ba)等のアルカリ金属、アルカリ土類金属が採用されている。
【0018】また、吸蔵型NOx触媒30aと三元触媒30bとの間にはNOx濃度を検出するNOxセンサ32が設けられている。さらに、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU(電子コントロールユニット)40が設置されており、このECU40により、エンジン1を含めた本発明に係る筒内噴射型内燃機関の総合的な制御が行われる。ECU40の入力側には、上述した高温センサ16やNOxセンサ32等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力する。
【0019】一方、ECU40の出力側には、点火コイルを介して上述した点火プラグ4や燃料噴射弁6等が接続されており、これら点火コイル、燃料噴射弁6等には、各種センサ類からの検出情報に基づき演算された燃料噴射量や点火時期等の最適値がそれぞれ出力される。これにより、燃料噴射弁6から適正量の燃料が適正なタイミングで噴射され、点火プラグ4によって適正なタイミングで点火が実施される。
【0020】実際には、ECU40では、スロットルセンサ11aからのスロットル開度情報θthとクランク角センサ13からのエンジン回転速度情報Neとに基づいてエンジン負荷に対応する目標筒内圧、即ち目標平均有効圧Peを求めるようにされており、さらに、当該目標平均有効圧Peとエンジン回転速度情報Neとに応じてマップ(図示せず)より燃料噴射モードを設定するようにされている。例えば、目標平均有効圧Peとエンジン回転速度Neとが共に小さいときには、燃料噴射モードは圧縮行程噴射モードとされ、燃料は圧縮行程で噴射され、一方、目標平均有効圧Peが大きくなり或いはエンジン回転速度Neが大きくなると燃料噴射モードは吸気行程噴射モードとされ、燃料は吸気行程で噴射される。
【0021】そして、目標平均有効圧Peとエンジン回転速度Neとから制御目標となる目標空燃比(目標A/F)が設定され、上記適正量の燃料噴射量は該目標A/Fに基づいて決定される。上記高温センサ16により検出された排気温度情報からは触媒温度Tcatが推定される。詳しくは、高温センサ16を吸蔵型NOx触媒30aに直接設置できないことに起因して発生する誤差を補正するために、目標平均有効圧Peとエンジン回転速度情報Neとに応じて予め実験等により温度差マップ(図示せず)が設定されており、故に触媒温度Tcatは、目標平均有効圧Peとエンジン回転速度情報Neとが決まると一義に推定されるようにされている。
【0022】以下、このように構成された本発明に係る筒内噴射型内燃機関の作用について説明する。つまり、吸蔵型NOx触媒30aには、上述したようにSOxも吸蔵されてしまうのであるが、ここでは、当該SOxを除去する制御、即ちSパージ制御(硫黄成分除去手段)の制御手順について説明する。図2を参照すると、排気昇温制御を行う際の制御ルーチンのフローチャートが示されており、以下当該フローチャートに沿って説明する。
【0023】先ず、ステップS10では、NOx触媒がS(サルファ)劣化したか否か、即ち吸蔵型NOx触媒30aに吸蔵されたSOxの量(被毒S量Qs)が所定量に達したか否かを判別する。ここに、被毒S量Qsは推定により求められる値である。以下、被毒S量Qsの推定手法(検出方法)について簡単に説明する。被毒S量Qsは、基本的には燃料噴射積算量Qfに基づき設定されるものであり、燃料噴射制御ルーチン(図示せず)の実行周期毎に次式により演算される。
【0024】Qs=Qs(n-1)+ΔQf・K−Rs …(1)ここに、Qs(n-1)は被毒S量の前回値であり、ΔQfは実行周期当たりの燃料噴射積算量、Kは補正係数、Rsは実行周期当たりの再生S量を示している。つまり、現在の被毒S量Qsは、実行周期当たりの燃料噴射積算量ΔQfを補正係数Kで補正して積算するとともに、該積算値から実行周期当たりの再生S量Rsを減算することで求められる。
【0025】補正係数Kは、例えば、次式(2)に示すように、空燃比A/Fに応じたS被毒係数K1、燃料中のS含有量に応じたS被毒係数K2及び触媒温度Tcatに応じたS被毒係数K3の3つの補正係数の積からなっている。
K=K1・K2・K3 …(2)また、実行周期当たりの再生S量Rsは次式(3)から演算される。
【0026】Rs=α・R1・R2・dT …(3)ここに、αは単位時間当たりの再生率(設定値)であり、dTは燃料噴射制御ルーチンの実行周期を示しており、R1及びR2はそれぞれ触媒温度Tcatに応じた再生能力係数及び空燃比A/Fに応じた再生能力係数を示している。そして、ステップS10の判別結果が偽(No)で、上記のようにして求めた被毒S量Qsが未だ所定量に達していないと判定される場合には、何もせず当該ルーチンを抜ける。
【0027】一方、ステップS10の判別結果が真(Yes)で、被毒S量Qsが所定量に達したと判定される場合には、次にステップS12に進み、制御モードをSパージモードに切り換える。これにより吸蔵型NOx触媒30aに吸蔵されたSOxの除去、即ちSパージが開始される。Sパージが開始されたら、ステップS14において、上記目標平均有効圧Peが所定値Pe1(エンジン回転速度Neに対するマップ)よりも小さいか否かを判別する。詳しくは、図3に示す主噴射モード選択マップに基づき、エンジン回転速度Neとの関係において、目標平均有効圧Peが領域Aの範囲内にあるか否かを判別する。
【0028】ステップS14の判別結果が真(Yes)で、目標平均有効圧Peが所定値Pe1(エンジン回転速度Neに対するマップ)より小さいような場合、即ちアイドリング時や低速走行時のようにエンジン負荷、エンジン回転速度が小さい場合には、次にステップS16に進む。ステップS16では、主噴射の燃料噴射モードを上述の通常の設定に拘わらず圧縮行程噴射モードとするとともに、膨張行程(特に、膨脹行程中期又はそれ以降)において副噴射を行うようにする(2段噴射手段)。つまり、上述した如く、Sパージを行う際には、2段噴射を行うようにしているのであるが、目標平均有効圧Pe、エンジン回転速度Neが図3中のA領域にあるときには、圧縮行程噴射と膨張行程噴射とで2段噴射を行うようにする。
【0029】そして、目標A/F、つまり主噴射と副噴射とを合わせた全体としての目標A/F、即ち全体A/Fは所定のリッチ空燃比(Sパージに適した値であって、例えば、値12)に設定されるとともに、図3の主噴射モード選択マップに基づき目標平均有効圧Peとエンジン回転速度Neに応じて主噴射の目標空燃比(メインA/F)が決定される。このとき、全体A/Fは上記所定のリッチ空燃比(例えば、値12)に保持されたままメインA/Fが設定されることになる。つまり、全体の燃料噴射量が一定に維持され、還元雰囲気が良好に形成された状態のままに、主噴射量(一部)と副噴射量(残部)のそれぞれの燃料噴射比率が適正に決定される。
【0030】通常、目標平均有効圧Pe或いはエンジン回転速度Neが小さければ、吸蔵型NOx触媒30aの温度、即ち触媒温度Tcatは低く吸蔵型NOx触媒30aの昇温は容易でないと判断できる。故に、この場合には、副噴射量を多くする一方、全体A/Fを上述の如く所定のリッチ空燃比に保持しながら主噴射量を極力少なくするようにするのがよい。ところが、吸気行程噴射モードで実現可能な空燃比には上限値(例えば、値22)がある。つまり、吸気行程においては当該上限値(例えば、値22)より大きい空燃比では燃焼が成立しないのである。
【0031】従って、メインA/Fが上限値(例えば、値22)より大きくなるような場合には、当該上限値(例えば、値22)よりも大きな空燃比で燃焼が成立する圧縮行程において主噴射を実施するようにする。ところで、エンジン負荷、エンジン回転速度が小さいほど吸蔵型NOx触媒30aの温度、即ち触媒温度Tcatは低いとみなすことができる。従って、メインA/Fは、目標平均有効圧Pe或いはエンジン回転速度Neが小さいほどその値が大きく、よりリーン空燃比側の空燃比となるようにされている。つまり触媒温度Tcatが低いほど主噴射量が少なく副噴射量が多くなるようにされている。
【0032】そして、特に、このように主噴射が圧縮行程噴射であると、空燃比を超リーン空燃比(例えば、上限値50までの範囲)にまで希薄化することができ、主噴射量を極めて少なくする一方、副噴射によって多量の燃料を噴射するようにできることになる。これにより、エンジン負荷、エンジン回転速度が小さいときには多量の未燃燃料成分が排気管14内に排出されて余剰酸素存在の下に排気管14内或いは吸蔵型NOx触媒30a内で強力に燃焼することになり、触媒温度Tcatが低温であっても吸蔵型NOx触媒30aはSパージ可能な所定の高温Tcat1(例えば、650℃)まで迅速に加熱されることになる。従って、例えば低速走行時のようにエンジン負荷、エンジン回転速度が小さく吸蔵型NOx触媒30aが低温状態にあるような場合であっても、主噴射の空燃比を超リーン空燃比(例えば、上限値50までの範囲)とするようにして、エンジン1の運転に影響を与えることなく排気昇温に寄与する副噴射量を極めて多くすることができ、吸蔵型NOx触媒30aを上記Sパージ可能な所定の高温Tcat1にまで急速に加熱することが可能となる。
【0033】次のステップS18では、ステップS16において2段噴射が開始されてから所定時間t2(例えば、2sec)が経過したか否かを判別する。判別結果が偽(No)で未だ所定時間t2が経過していないと判定された場合には、所定時間t2が経過するまで2段噴射を継続する。一方、判別結果が真(Yes)で所定時間t2が経過したと判定されたら、次にステップS20に進む。
【0034】ステップS20では、燃料噴射モードを吸気行程噴射モードとして2段噴射を行わずにリッチ空燃比運転を実施する(リッチ空燃比運転手段)。この場合、目標A/Fは上記全体A/Fと同様に所定のリッチ空燃比(例えば、値12)に設定される。このようにリッチ空燃比運転を行うと、燃料過剰状態であることから燃料は不完全燃焼を起こすことになり、COが多量に排出される。つまり、当該リッチ空燃比運転の実施によって、SOxを還元除去に必要なCOが多量に吸蔵型NOx触媒30aに供給されることになり、Sパージが促進されることになる。
【0035】そして、ステップS22では、ステップS20においてリッチ空燃比運転が開始されてから所定時間t3(例えば、2sec)が経過したか否かを判別する。判別結果が偽(No)で未だ所定時間t3が経過していないと判定された場合には、所定時間t3が経過するまでリッチ空燃比運転を継続する。一方、判別結果が真(Yes)で所定時間t3が経過したと判定されたら、次にステップS24に進む。
【0036】一方、上記ステップS14の判別結果が偽(No)で、目標平均有効圧Peが所定値Pe1(エンジン回転速度Neに対するマップ)以上と判定された場合、即ち中速走行時のようにエンジン負荷、エンジン回転速度が比較的大きい場合には、次にステップS26に進む。ステップS26では、主噴射の燃料噴射モードを上述の通常の設定に拘わらず吸気行程噴射モードとするとともに、膨張行程において副噴射を行うようにする。即ち、エンジン負荷、エンジン回転速度が比較的大きく、目標平均有効圧Pe、エンジン回転速度Neが図3中のB領域にあるときには、吸気行程噴射と膨張行程噴射とで2段噴射を行うようにする。
【0037】そして、上記同様に、全体A/Fが所定のリッチ空燃比(例えば、値12)に設定されるとともに、該全体A/Fを上記所定のリッチ空燃比(例えば、値12)に保持したままに主噴射の目標空燃比(メインA/F)が決定され、主噴射量(一部)と副噴射量(残部)のそれぞれの燃料噴射比率が適正に決定される。通常、エンジン負荷、エンジン回転速度が比較的大きければ、吸蔵型NOx触媒30aはある程度高温にまで加熱されており、吸蔵型NOx触媒30aをSパージ可能な所定の高温Tcat1(例えば、650℃)まで容易に昇温可能と判断できる。故に、この場合には、副噴射量を少なくする一方、全体A/Fを所定のリッチ空燃比に保持すべく主噴射量を多くするようにするのがよい。ところが、圧縮行程噴射モードで実現可能な空燃比には下限値(例えば、値22)がある。つまり、圧縮行程においては上記の場合とは逆に当該下限値(例えば、値22)以下の空燃比では燃焼が成立しないのである。
【0038】従って、主噴射の空燃比が下限値(例えば、値22)以下となるような場合には、当該下限値(例えば、値22)以下の空燃比で燃焼が成立する吸気行程において主噴射を実施するようにする。これにより、やはり全体の燃料噴射量が一定に維持されて還元雰囲気が良好に形成された状態のまま、主噴射量(一部)と副噴射量(残部)のそれぞれの燃料噴射比率が適正に決定され、中速走行時において吸蔵型NOx触媒30aがSパージ可能な所定の高温Tcat1(例えば、650℃)まで迅速に加熱される。
【0039】ところで、車両が高速走行しておりエンジン回転速度Neと目標平均有効圧Peとが大きく、メインA/Fが下限値16よりも小さくストイキオ近傍となるような場合、つまり目標平均有効圧Pe、エンジン回転速度Neが図3中のC領域にあるときには、インジェクタドライバ等の制約により2段噴射が困難である一方、燃焼熱が大きく排気温度が十分高く、点火時期のリタードだけでも吸蔵型NOx触媒30aをSパージ可能な所定の高温Tcat1まで加熱させることが可能と判断できる。故に、この場合には、ステップS26の2段噴射に代えて主噴射のみを吸気行程で行い、点火時期のリタードによって昇温制御を行うようにする。なお、この場合においても、全体A/Fは所定のリッチ空燃比(例えば、値12)とされる。
【0040】また、エンジン回転速度Neと目標平均有効圧Peとが極めて大きく、メインA/Fがリッチ空燃比であるような場合、つまり目標平均有効圧Pe、エンジン回転速度Neが図3中のD領域にあるときには、燃焼熱が極めて大きく昇温制御を実施しなくても排気温度がSパージ可能なほど高いと判断でき、この場合には、ステップS26をスキップする。
【0041】次のステップS28では、上記ステップS18と同様に、ステップS26において2段噴射が開始されてから所定時間t2(例えば、2sec)が経過したか否かを判別する。判別結果が偽(No)で未だ所定時間t2が経過していないと判定された場合には、所定時間t2が経過するまで2段噴射を継続する。一方、判別結果が真(Yes)で所定時間t2が経過したと判定されたら、次にステップS30に進む。
【0042】ステップS30では、上記ステップS20と同様に、燃料噴射モードを吸気行程噴射モードとして2段噴射を行わずにリッチ空燃比運転を実施する。これによりCOが多量に排出されてSパージが促進されることになる。そして、ステップS32では、上記ステップS22と同様に、ステップS30においてリッチ空燃比運転が開始されてから所定時間t3(例えば、2sec)が経過したか否かを判別する。判別結果が偽(No)で未だ所定時間t3が経過していないと判定された場合には、所定時間t3が経過するまでリッチ空燃比運転を継続する。一方、判別結果が真(Yes)で所定時間t3が経過したと判定されたら、次にステップS24に進む。
【0043】ステップS24では、吸蔵型NOx触媒30aがSOx除去に適した高温(例えば、650℃)に達し、所定時間t4が経過したか否かを判別する。この所定時間t4は、吸蔵型NOx触媒30aを還元雰囲気中で所定の高温Tcat1に保持した場合にSOxを十分に除去可能な時間として実験等により予め設定された時間である。
【0044】ステップS24の判別結果が偽(No)で、所定時間t4が未だ経過していないと判定された場合には、ステップS14に戻りSパージモードでの運転を継続する。つまり、ステップS16及びステップS26における2段噴射とステップS20及びステップS30におけるリッチ空燃比運転とを交互に繰り返し実施し、高温センサ16の出力に基づき吸蔵型NOx触媒30aがSOx除去に適した高温以下とならないようにする。
【0045】即ち、当該Sパージ制御では、昇温効果の大きい2段噴射とCOを多く排出させられるリッチ空燃比運転とを所定時間t2、所定時間t3ずつ交互に繰り返すようにしており、昇温過程においても吸蔵型NOx触媒30aからSOxの除去を行いながら吸蔵型NOx触媒30aを所定の高温Tcat1まで早期に昇温させ、SOx除去に適した高温に保持することが可能とされている。
【0046】一方、ステップS24の判別結果が真(Yes)と判定されたら、SOxが十分に除去されたとみなし、当該ルーチンを抜けてSパージ制御を終了する。上記実施形態では、触媒昇温開始からSOx除去の全ての期間において2段噴射とリッチ空燃比運転とを常に交互に実施するようにしているが、触媒温度Tcatが所定の高温Tcat1以下でもCOを供給するとその温度に応じて多少はSパージされるため、先ず2段噴射を継続的に実施して触媒温度Tcatが所定の高温Tcat1に達した後、2段噴射とリッチ空燃比運転とを交互に実施してもよい。
【0047】この場合、図4を参照すると、上記図2のフローチャートにステップS19及びステップS29を追加したSパージ制御の制御ルーチンの一部が変形例として示されているが、ステップS16及びステップS26で2段噴射を実施した後に触媒温度Tcatが所定の高温Tcat1以上になったか否かの判別をステップS19及びステップS29で行うようにし、これらの判別結果が偽(No)で触媒温度Tcatが未だ所定の高温Tcat1に達していないうちはステップS21の2段噴射とリッチ空燃比運転とを実施せずに2段噴射を継続的に実施する。
【0048】ステップS19及びステップS29の判別結果が真(Yes)の場合には、ステップS21において、上記実施形態の如く、高温センサ16の出力に基づいて触媒温度Tcatを所定の高温Tcat1に維持しながら、2段噴射とリッチ空燃比運転とを例えば交互に実施し、吸蔵型NOx触媒30aをSOx除去雰囲気に保つ。そして、ステップS24において所定時間t4が経過したか否かを判別し、判別結果が真(Yes)となるまでステップS21の制御を継続する。
【0049】これにより、上記実施形態に対し触媒昇温過程ではSOxの除去を十分にできないものの、吸蔵型NOx触媒30aを確実にSOxを除去可能な所定の高温Tcat1にまで速やかに到達させることができることになる。また、上記実施形態では、2段噴射を所定時間t2(例えば、2sec)実施した後、リッチ空燃比運転を所定時間t3(例えば、2sec)実施するようにしたが、2段噴射とリッチ空燃比運転とを所定行程数(1行程以上)毎に交互に実施するようにしてもよい。つまり、各気筒で所定行程数が経過する毎に2段噴射とリッチ空燃比運転とを繰り返すようにしてもよい。
【0050】また、ここでは、所定時間t2と所定時間t3を共に例えば2secとしたが、必要な昇温量と必要なCO量に応じて所定時間t2と所定時間t3とをそれぞれ別設定するようにしてもよい。さらに、これらを運転条件(目標平均有効圧Pe、エンジン回転速度Ne等)や触媒温度Tcatに応じて可変させるようにしてもよい。これにより、より一層適切にSパージを行うことができることになる。
【0051】次に、実施例2について説明する。上記実施例1では、2段噴射とリッチ空燃比運転とを所定時間毎或いは所定行程数毎に切り換えるようにしたが、該実施例2では、エンジン1が多気筒である場合において、所定時間、所定行程数に代えて気筒毎に2段噴射とリッチ空燃比運転とを繰り返すようにする。
【0052】図5を参照すると、図2のフローチャートに続く実施例2に係るSパージ制御(硫黄成分除去手段)の制御ルーチンを示すフローチャート一部が示されており、以下このフローチャートに基づき、上記実施例1と異なる部分についてのみ説明する。当該実施例2では、ステップS14において、目標平均有効圧Peが所定値Pe1より小さいか否かが判別され、判別結果が真(Yes)と判定された場合には次にステップS16’に進む。
【0053】ステップS16’では、一部気筒でリッチ空燃比運転を行い、残部気筒で2段噴射を行うようにする。つまり、ここではエンジン1が例えば筒内噴射型火花点火式直列4気筒ガソリンエンジンであるため、4気筒の一部気筒(例えば、2気筒)でリッチ空燃比運転を実施し、残部気筒(例えば、2気筒)で2段噴射を行うようにする。この場合、2段噴射については、上記ステップS14の判別に基づき、実施例1の場合と同様、主噴射を圧縮行程で実施するとともに副噴射を膨張行程で実施するようにする。
【0054】なお、エンジン1が例えばV型ガソリンエンジンの場合には、一方の片側バンクの各気筒でリッチ空燃比運転を実施し、他方の片側バンクの各気筒で2段噴射を実施するようにするのがよい。一方、ステップS14の判別結果が偽(No)と判定された場合には次にステップS26’に進む。
【0055】ステップS26’では、上記同様に一部気筒でリッチ空燃比運転を行い、残部気筒で2段噴射を行うようにし、この場合には、上記ステップS14の判別に基づき、やはり実施例1の場合と同様、主噴射を吸気行程で実施するとともに副噴射を膨張行程で実施するようにする。そして、ステップS24において、SOx除去雰囲気が所定時間t4経過したか否かを判別する。
【0056】ステップS24の判別結果が偽(No)で、所定時間t4が未だ経過していないと判定された場合には、ステップS14に戻る。この場合、ステップS16’及びステップS26’において、高温センサ16の出力に応じて、触媒温度Tcatを所定の高温Tcat1に維持し吸蔵型NOx触媒30aをSOx除去雰囲気に維持するよう2段噴射とリッチ空燃比運転とを気筒毎に実施し続けるようにする。
【0057】このようにすると、昇温効果の大きい2段噴射とCOを多く排出させられるリッチ空燃比運転とがバランスよく実施されることになり、SOx除去を行いながら吸蔵型NOx触媒30aを所定の高温Tcat1まで良好に昇温でき、その後、確実にSOxの除去を行うことが可能となる。従って、当該実施例2の場合にも、燃費の悪化を防止しながら、Sパージ、即ちSOxの除去が確実に実施されることになり、吸蔵型NOx触媒30aのNOx浄化効率を常に高く保つことが可能とされる。
【0058】なお、ここでは、一部気筒と残部気筒を共に例えば2気筒としたが、上記実施例1において所定時間t2と所定時間t3とを別設定した場合と同様に、必要な昇温量と必要なCO量に応じて一部気筒数と残部気筒数とを異なった気筒数に設定してもよい。さらに、これらを運転条件(目標平均有効圧Pe、エンジン回転速度Ne等)や触媒温度Tcatに応じて可変させるようにしてもよい。これにより、より一層適切にSパージを行うことができることになる。
【0059】また、先ず残部気筒或いは全気筒で2段噴射を実施した後、触媒温度Tcatが所定の高温Tcat1まで昇温したときに一部気筒でリッチ空燃比運転を開始するようにしてもよい。これにより、上記同様、触媒が所定の高温Tcat1に達するまでの触媒昇温過程ではSOxの除去は期待できないが、吸蔵型NOx触媒30aを確実にSOxを除去可能な所定の高温Tcat1にまで速やかに到達させることができることになる。
【0060】ところで、上記実施形態(実施例1及び実施例2)では、2段噴射を行うときに全体A/Fを所定のリッチ空燃比(例えば、値12)とするようにしたが、これは2段噴射時においても少しでもSパージするためであり、2段噴射を吸蔵型NOx触媒30aを昇温させるための手段としてのみ用いることを考えた場合には、2段噴射を行うときの全体A/Fはストイキオであってもリーン空燃比であってもよい。このようにすれば、さらに燃費の悪化を防止することができる。
【0061】また、リッチ空燃比運転において、点火時期をリタードさせるようにしてもよい。これにより、2段噴射運転時のみならずリッチ空燃比運転時においても少しでも多く昇温効果が得られることになり、吸蔵型NOx触媒30aをより早期に昇温させたいような場合に効果的である。さらに、本実施形態では、吸蔵型NOx触媒30aの被毒S量を推定して2段噴射とリッチ空燃比運転とを交互或いは気筒毎に実施するようにしたが、例えば、始動直後において、被毒S量を推定することなく必ず2段噴射とリッチ空燃比運転とを交互或いは気筒毎に実施してSパージ制御を行うようにしてもよい。
【0062】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明の請求項1の筒内噴射型内燃機関によれば、硫黄成分の除去に必要なこれら吸蔵型NOx触媒の昇温と還元雰囲気の生成とを両立できることになり、吸蔵型NOx触媒を効率よく確実に昇温でき且つCOを十分に供給して確実に還元雰囲気にできる。
【0063】従って、吸蔵型NOx触媒に吸蔵されたSOxを燃費の悪化もなく確実に除去可能となり、吸蔵型NOx触媒のNOx浄化効率を常に高い状態に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る筒内噴射型内燃機関を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係る筒内噴射型内燃機関の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】2段噴射を行う際の主噴射モード選択マップである。
【図4】図2の制御ルーチンの変形例を示すフローチャートの一部である。
【図5】実施例2に係る筒内噴射型内燃機関の制御ルーチンを示すフローチャートの一部である。
【符号の説明】
1 エンジン(筒内噴射型内燃機関)
4 点火プラグ
6 燃料噴射弁
11 スロットル弁
11a スロットルセンサ
13 クランク角センサ
16 高温センサ
30a 吸蔵型NOx触媒
40 電子コントロールユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 排気通路に設けられ、内燃機関がリーン空燃比運転状態にあるとき排気中のNOxを吸蔵させ、理論空燃比運転またはリッチ空燃比運転状態にあるとき前記吸蔵させたNOxを還元する吸蔵型NOx触媒と、燃料の一部を圧縮行程及び吸気行程のいずれか一方において主噴射として噴射するとともに、残部を膨張行程において副噴射として噴射する2段噴射手段と、吸気行程において空燃比がリッチ空燃比となるよう燃料を噴射するリッチ空燃比運転手段と、前記吸蔵型NOx触媒から硫黄成分を除去する際、前記2段噴射手段と前記リッチ空燃比運転手段とを交互または気筒毎に実施する硫黄成分除去手段と、を備えたことを特徴とする筒内噴射型内燃機関。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−54900(P2000−54900A)
【公開日】平成12年2月22日(2000.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−222175
【出願日】平成10年8月5日(1998.8.5)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】