説明

絶縁膜形成用塗布液および半導体装置用絶縁膜の形成方法

【課題】微細な溝も完全に埋め込み、かつ下地段差を平坦化するのに十分な厚塗りができ、下地パターン全体の均一な平坦性を達成でき、さらに水を含まず誘電率の低い、膜特性に優れた絶縁膜を形成することのできる、シロキサン類を用いる、絶縁膜形成用塗布液および半導体装置用絶縁膜の形成方法を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造に用いられる絶縁膜形成用塗布液であって、少なくとも一種類の有機置換基と結合したSi原子を含むシロキサン類を含み、かつ、前記シロキサン類の29Si−NMRスペクトルのシグナルの積分値から求められる所定の式で示される含有比率Xが、所定の式を満足する、150℃以上300℃以下の自己流動化温度を有することを特徴とする絶縁膜形成用塗布液、及びこれを用いる半導体装置用絶縁膜の形成方法を提供することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地に凹凸が形成されている基板表面を平坦化し、かつ電気絶縁する絶縁膜、特に電子デバイスの配線構造体、例えばLSI多層配線構造体を平坦化しかつ絶縁層を形成する層間絶縁膜の前駆体として用いられるシロキサン類を含む溶液、すなわち絶縁膜形成用塗布液において、特にSi原子と直接結合した有機置換基をその構造の一部に含むシロキサン類の単位構造の存在比率を求め、この値を用いて、前記絶縁膜形成用シロキサン類を評価する方法、半導体装置の製造に用いられるシロキサン類を用いた絶縁膜形成用塗布液およびその製造方法ならびに半導体装置用絶縁膜の形成方法およびこれを適用する半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置の高集積化に伴い、素子の配線の微細化および多層化が進むにつれて、配線間に形成される段差がますます大きくなってきている。このため、配線間に形成する絶縁材料の埋込性や、膜を形成したあとでの表面の平坦性が大きな問題となっている。平坦性の許容範囲は、フォト工程での解像度を追従させるために、レジストの焦点深度が小さくなり、例えば0.7μmのラインアンドスペースのパターンでは表面の凹凸を200nm以下に抑える必要があるという報告もある。この凹凸の抑制はチップあるいはウェーハ全域に亙って要求されるため、文字通り広域の完全平坦化が必要である。
【0003】
これらの課題に対し、現在例えば特開昭61−77695号に示されたようなオゾンとテトラエトキシシランを原料とした化学気相成長法(O3−TEOS AP−CVD)により絶縁膜を形成することで、下地の段差を埋込み、緩和する方法が知られている。
しかしながら、O3−TEOS APCVDはステップカバレッジが良く、優れた埋込性が得られるという特徴があるものの、膜の形成が配線にコンフォーマルに生じるために、基板上の広い範囲にわたっての平坦化は不可能である。O3−TEOS APCVDには、広い平坦部と狭い間隔で密集した配線パターン上での堆積速度が異なるという欠点もあるため、配線の密度が場所によって異なるようなパターンの上の平坦化も困難である。
【0004】
また例えばL.B.Vines and S.K.Gupta,1986 IEEE VLSI Multilevel Interconnect Conference,p.506,Santa Clara,CA(1986) あるいは R.Chebi and S.Mittal,1991 IEEE VLSI Multilevel Interconnect Conference,p.61,Santa, Clara,CA(1991)あるいは B.M.Somero,R.P.Chebi,E.U.Travis,H.B.Haver,andW.K.Morrow, 1992 IEEE VLSI Multilevel Interconnection Conf.,p.72, Santa Clara,CA(1992)などに示されたような、化学的機械的研磨法(CMP)によって厚く堆積した絶縁膜を表面から研磨して平坦化する方法も知られている。CMPによれば、条件さえ適切に設定すれば、ほぼ理想に近い広域の平坦性の形状が得られるとされている。
【0005】
しかしながら、CMPを行うに先立って、配線間の溝の埋込みは別途行わなければならない。すなわち溝の埋込みのために、他のCVDなどの方法を組み合わせる必要がある。CMPそのものにも多数の大きな課題があり、例えば、スループットの低下、パーティクルの発生、金属/アルカリ汚染、研磨終点の検出の不安定性、装置コストの増大、などが指摘されており、まだ広く使用されるには至っていない。
【0006】
配線間の溝の埋込み技術だけに注目すれば、基板にバイアスを加えた高密度プラズマCVD法(バイアスドHDP CVD)が近年注目されている。S.Matsuo and M.Kiuchi,Jpn.J.Appl.Phys.,22,L210(1983), あるいは K.Machida and H.Oikawa,J.Vac.Sci.Technol.,B4,818(1986) これは通常のCVD法とは異なり、アルゴンイオンで基板表面を異方的にスパッタエッチングしながら酸化膜を堆積する方法であり、このときのプラズマ源としては、プラズマイオン密度の高いECRやICPなどが使用される。
HDPによる層間絶縁膜の形成によれば、溝埋込み技術としてはほぼ満足されるが、スパッタエッチング残りによる突起がパターン全面に発生するため、平坦化はCMPなど別途の方法によらなければならない。また、パーティクルの発生や、堆積速度が小さいため、スループットの低下などの問題も未だ解決されていない。
【0007】
一方、応用物理第57巻第12号(1988)等に紹介されているスピン−オン−グラス法(SPIN ON GLASS:SOG法)によって塗布によって絶縁膜を形成し、下地の凹凸を緩和する方法は、半導体装置製造に広く一般的に用いられているものである。例えば、LSI多層配線用層間絶縁膜にはSOG法によるSiO質の硬化膜が一般的に用いられている。
SOGはオリゴシラノールあるいはオリゴシリケート類を含む溶液を基板上にスピンコータによって塗布し、熱硬化によってSiO2質の硬化膜を形成させる技術、またはその方法によって形成された絶縁膜、あるいは絶縁膜形成のための塗布液を指す。SOG塗布液は狭い配線間の溝の中にも流れ込む特性があるため、形成される膜も配線間の溝の中に良好に埋め込まれると同時に広い平坦凹部にも流れるため、比較的幅の広く高い段差を平坦化できるという特長を併せ持っている。SOGのプロセスは400℃程度の低温で行われるため、熱ダメージを受けやすいAl配線後の層間絶縁膜として賞用される。
【0008】
従来、SOGの材料としてはSiと結合した有機置換基を一切含まない、一般式Si(OR)n(OH)4-nで表される無機SOGと呼ばれるオリゴシリケートが用いられてきた。無機SOGは加熱硬化の際に約20%の体積収縮が起こるため、クラック耐性に乏しく、1回の塗布でたかだか200ないし300nm程度しか塗布できない。配線断面アスペクト比が1程度より大きい配線による段差の緩和には、少なくとも配線高さ程度のSOGの厚塗りが必要であるが、無機SOGは割れが入るため、このような厚塗りができない。すなわち、無機SOGは大きな断面アスペクト比を持つ段差パターンの平坦化には使用することができなかった。
【0009】
無機SOGのもつ上記欠点を解消し、膜の収縮性、平坦性、エッチング速度、密着性、および耐クラック性を向上させるため、Siと直接結合する有機置換基を有する、すなわち化学構造の中に有機Siを含む、一般式RmSi(OR)n(OH)4-n-mで表される有機SOGと呼ばれるオリゴシロキサンが検討され、開発されている。有機置換基としては、熱安定性、脱ガス特性、耐プラズマ性、膜の降伏値や膜の柔軟性の関係からメチル基が主に用いられているが、フェニル基など他の種類の置換基が用いられることもある。有機SOGは無機SOGに比べ、加熱硬化の際の膜の収縮率が小さく、したがって耐クラック性が高いことが特長となっている。また、CHF3を含むエッチングガスに対するエッチング速度がCVD膜程度に低いため、パターン上のCVD酸化膜上に有機SOGを厚く塗布し、これを硬化した上で、CHF3を含むエッチングガスによってCVD膜と同時にエッチングする(等速全面エッチバック法)による平坦化のプロセスが容易に構成できることも特長となっている。
【0010】
しかしながら、従来の有機SOGにおいても、加熱による硬化は100℃程度から始まり、それに伴って体積収縮が起こるため、塗布によっていったんは平坦になった表面も、下地形状に追従した凹凸が現われてしまうため、平坦性はさほど良くはならないという問題があった。
また、塗布液の流動による平坦化の効果が発揮される基板上の面積範囲は、たかだか10μmオーダーの局所的なものであるといわれ、10μm以上に広い配線間の凹部と広い配線上の凸部の上での膜厚がほぼ同じになってしまう。すなわち10μm以上のオーダーの視野から見れば、凹部と凸部の段差は何ら緩和されていないことになる。このように、形成される膜厚には、配線パターンの疎密に対する依存性があるため、チップ/ウェーハレベルでの広域の平坦化には有機SOGは無力である。
【0011】
また、有機SOGにおいても加熱硬化時に少なくとも7%程度の体積収縮があり、500nm厚以上の塗布形成によって、無機SOGと同様、収縮応力によるクラックが発生するおそれがある。
有機SOGは、膜質が悪く、水を含有あるいは吸収しやすいため、後工程でSOGからの脱ガスによるトラブルが発生しやすい。また水によって見掛け上の誘電率が上昇し、従って線間容量による遅延が大きくなり、高速な配線用の絶縁膜としては不利である、というようなさまざまな困難な問題を有している。
【0012】
SOGにおいても有機SOGの上記欠点に対策したものが数種類報告されている。ひとつはラダーシロキサンオリゴマーである。これは、構造式で現すと、
【化2】

のようになり、各Siに対し1つのメチル基(あるいはフェニル基)が結合し、さらに梯子状に規則正しい構造をとったものである。
ラダーシロキサンは、構造の規則性が高いため加熱により結晶のように溶融流動するという特徴があるものの、収縮率が大きく、クラック耐性が非常に悪いため、厚塗りが不可能であること、および構造上活性な水酸基(Si−OH)に乏しく、下地との密着が悪く、剥がれを生じやすい、という致命的な欠点がある。
【0013】
また、別の対策として、ハイドロジェンシロキサンオリゴマーやペルヒドロシラザンオリゴマーを原料とした無機SOGも知られている。これらの新しいSOGは、構造内にSiと直接結合する有機基を持たず、代わりにSiと直接結合する水素を持っているのが特徴となっている。いずれも塗布乾燥後、加熱硬化中に炉内雰囲気に含まれる酸素を吸収して体積膨張を起こすため、見掛け上の収縮率が小さく、厚塗りできるのが長所である。しかし、塗布から乾燥までのあいだの収縮で下地の凹凸形状がトレースされるという有機SOGと同様の欠点があるため、広域の平坦性は望むべくもない。さらに、加熱硬化後もフリーの水酸基を膜中に残すため、脱ガスの発生や高い誘電率を示す原因ともなっている。
【0014】
以上列記した問題に対し、これまで材料面からの解決法は未だ確立していない。
一方、半導体装置の絶縁膜、特に、LSI多層配線用層間絶縁膜の膜特性の向上には、絶縁膜を形成するシロキサン類の分析が必要である。
一般に種々の材料中に含まれているシロキサン類の分析には、試料をそのままあるいは適当な有機溶媒にシロキサン類を抽出し、赤外分光光度法、核磁気共鳴(NMR)法、プラズマ誘導結合発光分光分析法(特開平4−40347号公報参照)等により分析する方法が知られている。また、シロキサン類を化学的に分解して生じる分解生成物を検出し、定量する方法(特公昭62−8146号公報参照)も知られている。しかし、これらの方法は、いずれも材料中の全Si量を測定することを目的とするものである。
【0015】
ところで、上述したようにシロキサン類の分析方法はいくつか知られているが、有機SOG中の有機置換基の含有比率を分析する工業的に有用な方法は未だ確立されておらず、特に、有機SOG、すなわち絶縁膜形成用シロキサン類を半導体装置の絶縁膜、特にLSI多層配線用層間絶縁膜の膜特性と結びつけて、正確かつ簡単に分析し、評価する工業的に有用な方法は未だ確立されていないという問題があった。また、半導体装置の絶縁膜、特にLSI多層配線用層間絶縁膜の膜特性を十分に向上させることができる絶縁膜形成用塗布液およびその製造方法ならびに半導体装置用絶縁膜の形成方法が切望されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、微細な溝も完全に埋め込むことが可能で、かつ下地段差を平坦化するのに十分な厚塗りができ、下地パターン全体の均一な(グローバル)な平坦性を達成でき、さらに水を含まず誘電率の低い、高速配線に有利な絶縁膜、すなわち膜特性に優れた絶縁膜、特に半導体装置用層間絶縁膜を形成することのできる、シロキサン類を用いる、絶縁膜形成用塗布液および半導体装置用絶縁膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、シロキサン類とそれを用いたLSI多層配線用層間絶縁膜の特性について、鋭意研究を進めた結果、シロキサン類における有機置換基の含有比率、もしくは結合した有機置換基の数の異なるSi原子の存在比率、すなわちシロキサン類の単位構造の存在比率が膜の特性に大きく影響することを知見し、さらに、鋭意検討の結果、29Si−NMRスペクトルのシグナル積分値からSOGの有機性を評価することができ、その評価に従って、得られた有機SOG塗布液を用いることにより、優れた膜特性を持つ絶縁膜を形成することができることを知見し、本発明に至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明の第1の態様は、半導体装置の製造に用いられる絶縁膜形成用塗布液であって、少なくとも一種類の有機置換基と結合したSi原子を含む下記式〔1〕で表されるシロキサン類を含み、かつ、前記シロキサン類の29Si−NMRスペクトルのシグナルの積分値から求められる下記式〔2〕で示される含有比率Xが、下記式〔2〕を満足するシロキサン類を含む絶縁膜形成用塗布液を用い、前記絶縁膜形成用塗布液を塗布後乾燥し、150℃以上300℃以下の温度に保持して流動化させ、さらに、350℃以上450℃以下の温度にて硬化させる工程を含むことを特徴とする半導体装置用絶縁膜の形成方法を提供するものである。
【化3】

上記式〔1〕において、
k、l、n:0〜1000の整数を示す。
m:1〜1000の整数を示す。
R:飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種の有機置換基を示し、同一であっても異なっていてもよく、フェニル基としては、置換基を有するフェニル基でもよい。
酸素原子は、Si、R、Hのいずれかと結合する。
【数2】

上記式〔2〕において、
029Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合をもたないSiに帰属されるSiシグナルの面積、
129Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を1本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積、
229Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を2本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積、
329Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を3本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積を示す。
【0019】
ここで、前記150℃以上300℃以下の温度への保持を30秒以上行うことが好ましい。また、前記硬化を窒素中で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明で提供されるシロキサン類、特にメチルシロキサンオリゴマーを含む塗布液を用いれば、膜特性に優れた半導体装置用絶縁膜、例えばLSI多層配線用層間絶縁膜の形成が可能となる。
すなわち、本発明で提供される塗布液およびこれを用いる絶縁膜の形成方法によれば、膜特性に優れた絶縁膜、すなわち下地パターン全体の均一な平坦性を達成でき、また微細な溝も完全に埋め込むことが可能で、かつ優れたクラック耐性を有し、下地段差を平坦化するのに十分な厚塗りができ、さらに水を含まず誘電率の低い、高速配線に有利な絶縁膜、特に半導体装置用層間絶縁膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で用いられる絶縁膜形成用シロキサン類の評価方法は、半導体装置用絶縁膜、例えばLSI多層配線用層間絶縁膜形成などに用いられる絶縁膜形成用塗布液に含まれる、少なくとも一種類の有機置換基と結合したSi原子を含むシロキサン類の、結合した有機置換基の数の異なるSi原子の少なくとも1種の存在比率を分析し、これによって、または、これに基づいて、例えばシロキサン類中の有機置換基の含有比率を求め、これによって、シロキサン類、例えば、その有機性を評価する方法である。特に、29Si−NMRにおいて有機シリコンによるシグナルの面積から前記存在比率および含有比率を求め、有機性を評価する方法である。
【0022】
本発明において用いられるシロキサン類を含む溶液、すなわち、絶縁膜形成用塗布液(以下、単に塗布液という)としては、半導体装置用絶縁膜(以下、単に絶縁膜という)を形成するための前駆体として用いられ、少なくとも一種類の有機置換基と結合したSi原子を含むシロキサン類の溶液あるいはこのようなシロキサン類を有機溶媒に溶解した溶液であれば、どのようなものでもよいが、例えば、通常、SOG膜形成のためのSOG溶液、もしくは有機SOG溶液などを挙げることができる。ここで、有機置換基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基およびフェニル基のいずれかであってもよいし、あるいは2種以上を含んでいてもよい。さらに、1つのSi原子に結合した有機置換基の数は1ないし3のいずれであってもよい。
【0023】
ここで、本発明に用いられるシロキサン類としては、下記式〔1〕で表わすことができるが、これらの単位構造の結合の仕方は特に制限的ではなく、直鎖型でも分岐型でもいずれでも良い。また、これらを混合して用いてもよい。
【0024】
【化4】

上記式〔1〕において、
k、l、m、n:0〜1000の整数を示す。
R:飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種の有機置換基を示し、同一であっても異なっていてもよく、フェニル基としては、置換基を有するフェニル基でもよい。
酸素原子は、Si、R、Hのいずれかと結合する。
【0025】
このようなシロキサン類としては、絶縁膜の形成を目的として用いられるシロキサンオリゴマーであるのが好ましく、より好ましくは、重合度が2〜500のシロキサンオリゴマーであるのが良い。すなわち、上記式〔1〕で表されるシロキサンオリゴマーの下記単位構造(a)〜(d)の繰り返し数〔k+l+m+n〕は、2〜500の範囲内であるのがより好ましい。ここで、重合度(繰り返し数)が500を超えるとシロキサンと溶媒から成る塗布溶液(SOG溶液)の粘度が高くなりすぎ、また2未満であるとシロキサンが絶縁膜形成工程で蒸発し易くなり、いずれの場合も、絶縁膜の形成が困難となる。
【0026】
【化5】

上記単位構造(a)〜(d)において、Rは飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種の有機置換基を示し、同一であっても異なっていてもよく、フェニル基としては、置換基を有するフェニル基でもよい。
【0027】
本発明においては、絶縁膜形成用シロキサン類を評価する際に、シロキサン類の有機置換基の含有比率を分析する、もしくは結合した有機置換基の数の異なるSi原子(Si−C結合の数が0〜4であるSi原子)、すなわち、上記単位構造(a)〜(d)の少なくとも1種を分析し、その存在比率を測定する。本発明に用いられるシロキサン類の有機置換基の含有比率の分析方法もしくは上記単位構造(a)〜(d)の存在比率の測定方法は、限定されないが、核磁気共鳴(NMR)法を用いるのが好ましい。より好ましくは、このような存在比率は、29Si−NMRスペクトルのシグナルの積分値から求めるのが好ましい。
【0028】
核磁気共鳴(NMR)法を行うに際し、まず、試料であるシロキサン類、例えば、SOG溶液を重水素溶媒に溶解する。ここで用いる重水素溶媒は、重水素溶媒を加えることによってSOG溶液中の構成成分が溶液から分離しないものであれば特に制限はなく、たとえば重クロロホルム、重アセトン、重メタノール等を用いることができる。試料の濃度は低すぎると十分な検出感度が得られず、また、高すぎると重水素溶媒の比率が下がり、NMR装置の周波数安定性が良好でなくなるので10−90%が好ましい。
【0029】
29Si−NMR測定に用いる試料管はテフロン(登録商標)製のものが好ましい。これは、通常のガラス製NMR試料管ではケイ酸ガラスに起因する29Siのシグナルが現われることを避けるためである。
本発明の目的で行なう29Si−NMRの測定においては水素核のデカップリングはしないことが望ましい。これは、29Si−NMRの核Overhauser効果因子の符号が負であるため、試料によっては29Si−NMRシグナルの強度が減衰することがあるためであり、また、シグナルの積分強度の定量性を確保するためである。
また、トリス(アセチルアセトナト)クロム(III),トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)等の緩和試薬を加えることも測定時間短縮のために好ましい。
【0030】
測定によって得られた29Si−NMRスペクトルの各シグナルを帰属し、各々のシグナル面積から前記単位構造(a)、(b)、(c)、(d)の存在比率、またはさらに有機置換基と結合したSi原子の存在比率を求める。有機置換基の含有比率については目的によっていくつかの異なった定義が可能であり、目的もしくは必要に応じて使い分ければよい。例えば、Si−C結合をもたないSiに帰属されるSiシグナルの面積をA0、Si−C結合を一本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積をA1、Si−C結合を二本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積をA2およびSi−C結合を三本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積をAで表すとき、有機性の尺度(Xで表わす)として、例えば下記式〔3〕あるいは式〔4〕のような定義ができる。
【0031】
【数3】

式〔3〕はシロキサン中のSi原子数に対する有機置換基の数の比を表わす式であり、式〔4〕はシロキサン中のSi原子数に対する有機Si原子数の比を表わす式である。有機性を評価する式の形は分析の目的によって上記式〔3〕、〔4〕に限ることなく定義できる。
【0032】
本発明で使用される評価方法によれば、有機シロキサン類の有機置換基の含有比率の分析において、従来法では不可能であった単位構造ごとの存在比率を求めることができ、有機シロキサン中の有機置換基含有比率を容易に決定できる。
したがって、この評価方法は、たとえば半導体装置の絶縁膜、特にLSI多層配線用層間絶縁膜形成用に用いられる有機シロキサン類を含む溶液中のシロキサン類の有機性評価に用いることができ、本発明で使用される評価方法により、この絶縁膜の耐薬品性、耐水性等の膜特性があらかじめ予測可能となる。また本発明によれば、絶縁膜に用いられるSOG製造時の品質管理が適確に行われるという効果も有する。
【0033】
本発明第3の態様は上記評価方法に基づいた、シロキサン類を用いる半導体装置用絶縁膜、例えばLSI多層配線用層間絶縁膜(以下、単に絶縁膜という)を形成するための塗布液を用いる絶縁膜の形成方法である。
【0034】
以下に、本発明の第3の態様の絶縁膜の形成方法で使用される絶縁膜形成用塗布液について説明する。
ここで、本発明者等は、シロキサン類の前記化学構造とSOG膜の特性に密接な関係があることを見出した。
すなわち、前記式〔1〕で表わされるシロキサン類の29Si−NMRスペクトルのシグナルの積分値から求められる下記存在比率Xが下記式〔2〕を満足するシロキサン類、好ましくはシロキサンオリゴマーを含む塗布液を用いた場合、形成される絶縁膜の特性が優れていることを見出した。
【0035】
【数4】

上記式〔2〕において、
029Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合をもたない
Siに帰属されるSiシグナルの面積
129Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を一本有す
るSiに帰属されるSiシグナルの面積
229Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を二本有す
るSiに帰属されるSiシグナルの面積
329Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を三本有す
るSiに帰属されるSiシグナルの面積
【0036】
ここで、上記式〔2〕で示される含有比率Xが、80%以上であるシロキサン類を含む塗布液を用いた場合に、絶縁膜の特性が優れている理由は、(1)吸水性が減るため、脱ガス量や誘電率が低く抑えられること、(2)耐クラック性が向上するので厚塗りが可能であること、および(3)ドライエッチングレートが低くなるので、エッチバックマージンが広くとれること、などが挙げられる。
【0037】
次に、本発明において提供される絶縁膜形成用塗布液について説明する。
本発明において提供される塗布液は、上述した有機性の尺度の評価を上記式〔3〕によって行うものであるということができる。
本発明においては、組成式(CH3ySiO2-y/2(式中のyは0.8以上1.3以下)で表される重量平均分子量が1500以上6000以下の不規則構造をもつメチルシロキサンオリゴマーを、沸点が120℃以上200℃以下の有機化合物を主成分とする溶媒に溶解したことを特徴とする塗布液を提供するものである。この塗布液は、従来の有機SOG(yの範囲は0.3ないし0.6)とは異なり、組成式中のyの値が0.8以上1.3以下であることを特徴とし、また規則構造を有するラダーシロキサンに対し、不規則構造を有することを特徴とするものである。
【0038】
メチルシロキサンオリゴマーの組成式においてyの値を0.8以上に限定することにより、メチルシロキサンオリゴマーの加熱重合硬化の際の収縮をほとんど無くすことができる。したがって、厚塗りができ、平坦性に有利に働く。また、この限定により、メチルシロキサンオリゴマーの吸水率をほとんど0にすることができ、さらに誘電率を3.5以下に低下することが可能になるため、水を含まず誘電率の低い、高速配線に有利なSOG膜を形成する、という特徴を付与することができる。yの値が0.8に満たない場合は、通常の有機SOGと類似の特性を示すようになり、収縮率、吸水率、平坦化性能、誘電率は従来技術の範囲のものしか得られない。また、yが1.3を超えると、加熱重合が困難となり、また膜を形成せずゴム状物となってしまうため、yの上限を1.3とした。
【0039】
従来の技術では、yの値が高くなるほど下地との密着性が低下するとされ、実用に供することは不可能であった。ラダーメチルシロキサンも、本発明と同一の組成式で表され、また本発明のyの範囲にある(ラダー構造が形成されるためにはy=1である必要がある)が、同様に密着性に乏しくかつ収縮が大きいという問題があるため、利用するのは困難であることは、従来の技術の中で記述したとおりである。
【0040】
本発明では、シロキサン骨格を不規則構造とし、分子量を規定し、かつ溶媒を規定することにより、yが大きくなることによる密着低下の課題を解決している。不規則構造の導入によって、密着に貢献する多量のSi−OH終端がオリゴマーの構造中にとりこまれ、かつSi−O−Si網目構造が疎になるため、膜をソフトにして応力を吸収する能力を高めることが、密着力向上に寄与しているものと考えられる。不規則構造を規定する適切なパラメータは未だ見い出されていないが、従来の有機SOGは、たとえyを増加させても規則構造をとりやすく、密着性に劣るものであると推定される。分子量も、1500未満であると重合時の体積収縮が著しいため、内部応力が発生しやすく、割れや剥がれの原因となる。さらに、溶媒についても120℃未満の沸点の溶媒を使うと、乾燥速度の面内差異によって塗布ムラが発生しやすくなるばかりか、乾燥による応力の発生が著しく、密着に悪影響を与える。
【0041】
上記メチルシロキサンオリゴマーの重量平均分子量を1500〜6000までに制限する理由は、前記密着の問題の解決の他、1500未満であると連続な塗布膜が形成されず、また6000を超えると塗布液の粘度が高くなり過ぎるため、ストライエーションと呼ばれる放射状の塗布ムラの発生が起こるためである。重量平均分子量としては1500〜3500が最も好適である。
【0042】
上記メチルシロキサンオリゴマーを溶解する溶媒としては、沸点120℃以上200℃以下の有機化合物を主成分とする溶媒を用いる。沸点が120℃未満であると、塗布中の回転により溶媒の大部分が揮発してしまうため、塗布液の十分な流れ込みによる平坦化が達成できない。さらに、前記したように乾燥で発生する応力による密着の低下が問題となる。一方、沸点が200℃を超えると、乾燥が著しく遅くなり、スループットが低下する他、基板搬送中の欠陥の発生や、加熱工程中の発泡や炭素の残留などが生じるため、使用できない。より好適な溶媒の沸点の範囲は130〜160℃の間である。
【0043】
なお、溶媒の粘性率は微細な溝の埋込性能と塗布膜の均一性に大きな影響を及ぼす。好ましくは溶媒の粘性率が25℃で2.0cP以下のものを使用する。すなわち、溶媒の粘性率が2.0cPより大きいと、0.2μm以下の溝の埋込みが不完全になり、かつ塗布時に、ストライエーションと呼ばれる、基板中心から周囲にかけて放射状の縞模様となって発生する膜厚ムラが発生する頻度が著しく上がる。
【0044】
本発明の要件を満たす溶媒としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジn−アミルエーテル、メチルn−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸n−ヘキシル等が使用できる。
【0045】
これらの溶媒は単独でも使用できるが、2種以上のものを組み合わせて使用しても良い。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、水、酢酸ブチルなど、他の低沸点溶媒を加えて粘性率を下げたり、塗布性能を向上させたりするなどの手段をとることもできる。ただし、沸点が120℃以上200℃以下以外の溶媒を加える割合は、その体積割合が溶媒全体の50%を超えないことが好ましい。なお、後述する本発明の第1の態様の塗布液、および本発明の第2または3の態様で使用される塗布液においても、シロキサン類を溶解するために、上述した溶媒を用いてもよいことはいうまでもない。
【0046】
上記のような要件を満たした塗布液を用いると、詳しい理由は定かではないが、いったん乾燥固化した膜が、加熱時に軟化し、再流動してさらに一層平坦化するという、非常に特徴的な自己流動化と呼べる現象が生じる。自己流動化による平坦化は、メチルシロキサンオリゴマーの縮合硬化が起こるより低温の150〜200℃の範囲で起こる。この現象により、従来のSOGに比べはるかに広域の平坦化が達成できる。
【0047】
上記のような理由から、本発明で提供される塗布液のいずれか一方または両方の塗布液を用いることにより、下地パターン全体の均一な平坦性を達成でき、また微細な溝も完全に埋め込むことが可能で、かつ下地段差を平坦化するのに十分な厚塗りができ、さらに水を含まず誘電率の低い、絶縁性に優れ、高速配線に有利な絶縁膜を形成することができる。
【0048】
このような特徴を有する有機SOG塗布液は、後述する塗布液の製造方法で作製することができる。すなわち、アルコキシシランやアルキルアルコキシシランなどの化合物、特にテトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシランおよびジメチルジアルコキシシランよりなる群から選ばれた1種の化合物もしくは2種以上の混合物を原料とし、そのSi−CHのモル濃度が原料全体のSiのモル濃度の80%以上130%以下になるように配合し、原料全体のSiのモル濃度の2ないし4倍モル量の水とを、有機カルボン酸を触媒として、40℃以上80℃以下の温度に加熱して重合させ、該重合生成物に沸点120℃以上200℃以下の有機化合物を主成分とする溶媒を加えて希釈し、該希釈液を常圧あるいは減圧下で蒸留して重合反応の副生成物の水とアルコールを留去する。
【0049】
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(Si(OCH34)、テトラエトキシシラン(Si(OC254)が一般的に用いられる。また、メチルトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン(CH3Si(OCH33)あるいはメチルトリエトキシシラン(CH3Si(OC253)が一般的に用いられる。また、ジメチルジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン((CH32Si(OCH32)、ジメチルジエトキシシラン((CH32Si(OC252)が用いられる。これらの原料を、単独あるいは混合して、Si−CH3のモル濃度が原料全体のSiのモル濃度の80%以上130%以下になるようにあらかじめ配合しておく。この値は、本発明において提供される塗布液において、メチルシロキサンオリゴマーの組成式を(CH3ySiO2-y/2と表したときのyの値に等しい。すなわち、式中のyは0.8以上1.3以下とする必要がある。
【0050】
たとえば、メチルトリメトキシシランを使う場合は、単独で原料に用いる場合Si−CH3/全Si=100%でy=1に相当するので、そのまま使用できる。また、テトラメトキシシランとメチルトリメトキシシランを混合する場合は、その混合比rをr=[Si(OCH34]/[CH3Si(OCH33]とすれば、0<r≦0.25とすれば0.8≦y<1.0とすることができる。テトラメトキシシランとジメチルジメトキシシランを混合する場合は、その混合比rをr=[Si(OCH34]/[(CH32Si(OCH32]とおけば、7/13≦r≦1.5とすれば0.8≦y≦1.3とすることができる。このように原料は2種あるいは3種を組み合わせて使用することができる。
【0051】
配合ないしは単独原料に含まれるSi−CH3のモル濃度が原料全体のSiのモル濃度の80%未満であると、生成するメチルシロキサンオリゴマーを組成式:(CH3ySiO2-y/2で表したときのyが0.8未満となるため、前述した理由により、所望の特性が発揮できない。また、配合ないしは単独原料に含まれるSi−CH3のモル濃度が130%を超えると、同様に生成するメチルシロキサンオリゴマーのyが1.3を超えるため、前述した理由により、硬化膜が形成されない。
【0052】
この原料に、原料全体のSiのモル濃度の2ないし4倍モル量の水を加え、ギ酸、酢酸、コハク酸などの有機カルボン酸を加えると、ただちに縮合反応が始まり、重合体の形成が行われる。水の量が原料の2倍モル量未満であると、反応速度が著しく低下するばかりか、重合体中のアルコキシル基の残存率が高くなるため、形成した膜中の炭素が残留しやすくなる。また、水の量が原料の4倍モル量を超えると、生成反応が急速に起こり過ぎるため、制御が困難になるばかりか、メチルシロキサンオリゴマー中の自由水酸基(Si−OH)の割合が高くなり過ぎるため、保存安定性に欠ける。
【0053】
触媒としての有機酸の濃度は、あまり生成物の構造や状態に影響を与えないので特に限定されないが、高濃度すぎると液が酸性に傾き、塗布液の安定性に影響があるため、可能な限りの低濃度、好ましくは原料の1/1000モルないし1/100モル程度とする。有機酸以外の、塩酸、燐酸などの無機酸は、塗布基板上の金属等に影響を与えるため、使用しない。
【0054】
水の添加の後は、混合液は一般には相溶しないので、スターラーなどを使って激しく混合を続ける必要がある。数分ないし数時間以内に、加水分解反応の複生成物であるアルコールが生成し、また重合体の親水性が増すため、相溶するようになる。
この重合反応に先立って、アルコール類などの溶剤を加えてあらかじめ希釈することもできる。たとえば原料の0.5倍モルのメタノールの添加により、反応初期の発熱を軽減し、相溶性を増して反応の安定性を向上させ、かつ重合反応を遅延させることができる。このために加える溶剤としては、原料の0.2〜3倍モル程度のメタノール、エタノール、ジオキサンなどが使用される。
【0055】
メチルシロキサンオリゴマーを重量平均分子量1500〜6000まで重合させるためには、前記混合物を30℃以上80℃以下の温度に加熱する。配合ないしは単独原料に含まれるSi−CH3のモル濃度の原料全体のSiのモル濃度に対する比yが比較的小さいときは低温で、またyが比較的大きいときは高温にして重合させるのが好ましい。加熱温度が30℃未満では、重合速度が極端に低下して所望の分子量のものが得られない。また加熱温度が80℃を超えると、副生成物のアルコールの沸騰が起こったり、重合が極めて急速に起こるため、制御が困難である。一般的には50℃前後の温度で、密栓して恒温器中に保管して反応を行わせるのが好ましい。反応に要する時間は温度に依存するが、特に限定されず、分子量を測定しつつ、4〜120時間程度の間で適当な時間を選択すれば良い。
【0056】
このようにして得られる重合生成物には、はじめに原料として加えた水の他、副生成物のアルコール、希釈のために溶剤を加えた場合は、その溶剤などが共存する。これを除く必要があるが、そのまま蒸留ないし乾燥すると、メチルシロキサンオリゴマーの濃度が急激に上昇するため、重合反応速度が加速的に上昇し、分子量数十万以上のゲル体になってしまうため、水やアルコール、溶剤の除去に際しては、メチルシロキサンオリゴマーの濃度を上昇させない工夫が必要となる。このためには、希釈に使用する主溶媒、すなわち沸点120℃以上200℃以下の有機化合物を主成分とする溶媒を、あらかじめ加えて希釈しておき、そのまま希釈液を常圧あるいは減圧下で蒸留することが必要である。蒸留条件として、水やアルコール、溶剤は留去されるが、主溶媒は蒸留されない温度と圧力を選択することが重要である。
【0057】
主溶媒としては、前記の本発明において提供される塗布液に用いるものと同一のものが使用できるのはいうまでもない。
このように水やアルコール、溶剤を除去したメチルシロキサンオリゴマーの溶液はそのまま、あるいは適当な溶媒を加え、必要に応じて濾過、熟成などの操作を加えたうえで、塗布液とすることができる。
【0058】
本発明第3の態様の半導体装置用絶縁膜の形成方法は、本発明において提供される絶縁膜形成用塗布液を用いるものであり、絶縁膜形成用塗布液を塗布後乾燥し、150℃以上300℃以下の温度に保持し、好ましくは30秒以上保持して流動化させる工程を含むものである。
この流動化させる工程の後、さらに350℃以上450℃以下の温度にて窒素中で硬化させて、絶縁膜を形成させることが好ましい。
こうして、本発明において膜特性に優れた絶縁膜、特に層間絶縁膜を持つ半導体装置を製造することができる。
【0059】
これは従来の有機SOGの膜の塗布形成方法と大筋は同一であるが、本発明のSOGの自己流動化温度が、150℃以上300℃以下の温度にあることに注目し、150℃以上300℃以下の温度において好ましくは30秒以上保持して、自己流動平坦化を完結させることに最大の特徴がある。すなわち、塗布乾燥された膜が、この温度範囲において、再度流動化し、高い広域の平坦性が得られるようになるからである。後に続く工程は通常のSOGのキュアと呼ばれる工程にほかならない。
【0060】
また、本発明の第1の態様に係る絶縁膜形成用塗布液は、上記理由から、絶縁膜を形成するに際して、150℃以上300℃以下の温度において保持することにより自己流動平坦化が可能な塗布液である。
即ち、本態様に係る絶縁膜形成用塗布液は、メチルシロキサンオリゴマーを有機化合物を主成分とする溶媒に溶解したものであり、前記メチルシロキサンオリゴマー中のSi−CH3 のモル濃度が、メチルシロキサンオリゴマー全体のSiのモル濃度の80%以上130%以下であって、150℃以上300℃以下の自己流動温度を有することを特徴とするものである。
本態様において、メチルシロキサンオリゴマーおよび有機化合物を主成分とする溶媒には、本発明において提供される絶縁膜形成用塗布液にて説明したすべてのものが含まれる。
【0061】
また、本発明の第2の態様に係る半導体装置用絶縁膜の形成方法は、本発明の第1の態様に係る絶縁膜形成用塗布液を用いるものである。
本態様において、本発明の第1の態様に係る絶縁膜形成用塗布液を塗布後乾燥し、150℃以上300℃以下の温度に保持して流動化させる工程を含むことが好ましく、この150℃以上300℃以下の温度への保持を、30秒以上行うことが更に好ましい。
また、前記流動化させる工程の後、さらに350℃以上450℃以下の温度にて窒素中で硬化させて絶縁膜を形成することが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
市販有機SOGに含まれるシロキサンオリゴマー中の前記単位構造(a)、(b)、(c)、(d)の存在比率および有機置換基の含有比率を分析した。ここでは、試料A(住友化学製SF1014)および試料B(東京応化製Type12000T)の2種類の有機SOGを分析した。
有機SOG(試料Aおよび試料Bの各々)1.5mlおよびトリス(アセチルアセトナト)クロム(III) 約40mgを重アセトン1.5mlに加えて溶解し、均一な溶液とした。この溶液を内径10mmのテフロン(登録商標)製NMR試料管に入れ、フーリエ変換型NMR分光計(日本電子製GX270)で29Si−NMRを測定した。観測中心周波数53.67MHz、観測周波数範囲16kHz、データポイント16kまたは32k、積算回数10000−45000、化学シフトの内部標準にはテトラメチルシランを用いた。
【0063】
得られた29Si−NMRスペクトルの一例を図1に示す。図中に示した各シグナルの面積から前記A0,A1,A2,A3の相対比を求めた。なお、図1のピーク面積は、対応する単位構造中のSiの原子数に比例する。ここで、単位構造(a)および(c)の場合、図示される複数のピーク面積の合計値となる。
また、前記式〔3〕で定義される有機置換基含有比率を算出した結果を表1に示す。
なお、この実施例においてRはメチル基である。
【0064】
上記のとおり、本発明で使用される評価方法を用いれば、有機シロキサン類の有機置換基の含有比率の分析において、29Si−NMRの測定をすることにより、従来法では不可能であった単位構造ごとの存在比率を求めることができ、たとえば有機SOG中の単位構造(a)、(b)、(c)および(d)の存在比率および有機置換基含有比率を容易に決定できる。
【0065】
【表1】


【0066】
(実施例2)
原料として、メチルトリメトキシシランとテトラメトキシシランを表2の割合でメタノールに溶解し、これに表1に示す割合の水およびギ酸0.002モルを加え、攪拌して30〜60℃で24時間重合反応を行った。生成物にベンゼンとエチレングリコールモノエチルエーテルの1:1混合物650mlを加え、減圧蒸留して過剰のメタノールと水を除き、固形分濃度約20重量%の塗布液を作製した。この塗布液中に含まれるシロキサンオリゴマーの重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定したところ、約3,000であり、これは重合度40〜50に相当するものであった。
【0067】
この塗布液を、6インチ径のシリコンウェーハ上に、回転数3,000rpmでスピンコートし、150℃、200℃、250℃で各々60秒ベークし、次いで窒素気流中400℃で30分加熱し、絶縁膜を作製した。
この膜について、収縮率、誘電率および吸水率を測定した結果を式〔2〕におけるXの値と共に表2および図2に併せて示した。
【0068】
ここで、収縮率の評価方法は、洗浄後の半導体基板に回転数を制御することによって膜厚の異なる塗布膜を形成し、以下に示す式〔5〕から収縮率を求めた。
収縮率(%)={(tb−ta)/tb}×100 〔5〕
ただし、taは硬化処理後の膜厚、tbはプリベーク処理後の膜厚である。
【0069】
誘電率は、洗浄後の半導体基板上全面にAlの膜をスパッタリング法により形成し、この上に前記の方法で回転数を制御することによって厚さ約300nmの塗布膜を形成し、プリベーク、キュア処理を行った後、メタルマスクを用いて約3mm角のAl電極を蒸着し、膜の端の部分を希フッ酸でエッチングして下部全面Alと蒸着Al膜の間での静電容量を計測し、電極面積と膜厚から求めた。
【0070】
また、吸水率は、硬化処理の終わった膜をクリーンルーム中で24時間放置し、膜中に含まれる水を電解セル式水分計(MEA(Moisture Evaluation Analyzer)デュポン社製)で400℃までの発生水分量を測定することで計測した。
表2および図2から明らかなように、Xと膜特性の間には明確な相関があり、またX≧80%のときに、収縮率、誘電率および吸水量がいずれも小で、優れた膜特性が得られることがわかった。
【0071】
【表2】

【0072】
(実施例3)
まず、はじめに本発明で提供される塗布液の製造方法に基づいて以下に示す手順で本発明において提供されるSOG形成用の塗布液を製造した。なお、原料の配合比率、合成条件、代表的な膜物性等はいずれも表3および4に列記した。表3は3種類の原料の組み合わせを変化させたものであり、表4は各種合成条件を変化させた場合のデータを掲げた。表3,4には測定したデータについても記載した。測定方法の詳細な説明は、以下に記載した。測定した膜物性は表3,4とも同一のものである。なお、本発明の範囲以外のものは、番号の前に*印を付け、対照用の比較例とした。
【0073】
(塗布液の合成)
原料として、いずれも純度99%以上のテトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランを表3および4に示す割合で混合し、これに表3および4に示す割合の水を加え、さらに1Nのギ酸水溶液をギ酸として0.002モルを加え、撹拌して均一な溶液とした後、密栓して表3および4に示した温度の恒温水槽に浸漬し、表3および4に示す時間保持し、重合反応を行った。かかる重合生成物に溶媒としてメチルn−アミルケトン(2−ヘプタノン、沸点151℃)を加え、50℃で50Torrの減圧下でロータリーエバポレータを用いて蒸留し、過剰のメタノールと水を除いた。その後さらにメチルn−アミルケトン(2−ヘプタノン)を用いて希釈し、固形分濃度20重量%の塗布液を作製した。表4には、この塗布液中に含まれるシロキサンオリゴマーの重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果を掲げた。表4の実施例において合成された塗布液は、いずれも本発明で提供される塗布液の条件を満たしていることがわかる。ただし、Si−O−Siネットワークの不規則性については測定できる方法がないので除外されるが、後述する収縮率が非常に小さいことから予測して、ラダー構造などの規則構造をとっていないことが自ずから知られる。
【0074】
この塗布液を6インチ径のシリコンウェーハ上に、回転数3000rpmでスピンコートし、150℃,200℃,250℃で各60秒ベークし、次いで窒素気流中400℃で30分加熱し、塗布膜を作製した。
この膜について、収縮率、誘電率および吸水率を測定した結果を、下記組成式1におけるyの値と共に表3に併せて示した。
(CH3)ySiO2-y/2 (組成式1)
ここで収縮率、誘電率および吸水率は、実施例2と同様にして測定し、評価した。
【0075】
表3および表4から明らかなように、yと膜特性の間には明確な相関があり、また0.8≦y≦1.3のときに収縮率が小さく、誘電率の小さい、水分の少ないという優れた膜特性が得られることがわかった。
【0076】
次に、本発明における絶縁膜の形成方法について図面を参照して説明する。
図3は、本発明にかかわる絶縁膜の製造工程を示す部分断面図である。図3(1)に示す工程では、所望の処理を施した半導体基板1上に、厚さ1.2μmの配線層を形成した後、これをパターニングし、配線幅=1μmの配線2a,2bおよび2c(配線2aと2bの間隔=配線2bと配線2cとの間隔=1μm)からなるラインアンドスペース配線パターン2、および配線幅=0.5μmの配線3a,3bおよび3c(配線3aと3bの間隔=配線3bと配線3cとの間隔=0.5μm)からなるラインアンドスペース配線パターン3を形成した。配線パターン2と配線パターン3との間隔は3μmとした。この工程により、半導体基板1と配線パターン2および3との間に段差が発生した。
【0077】
次に、図3(2)に示す工程では、図3(1)に示す工程で得た半導体基板1および配線パターン2および3の全面に、テトラエトキシシラン(TEOS)をベースとしたプラズマCVD法により、SiO2層4を300nmの厚さで形成した。このCVD酸化膜4は、ステップカバレッジが良好であるが、膜の形成が下地の形状(段差)に沿って行われるため、配線間の溝を埋め込むことはできなかった。
【0078】
次いで、図3(3)に示す工程では、絶縁膜の原料として、前記の方法によって合成した表3および4に掲げた各種の塗布液を使用し、スピンコーティング法により、0.7〜1.1μmの厚さで絶縁膜5を塗布し、窒素雰囲気中で80℃,150℃,230℃でそれぞれ60秒間ずつ加熱するプリベーク処理を行った。その後、400℃で30分間の窒素中キュア(硬化)処理を施し、絶縁膜5を形成した。こうして、本発明で提供される半導体装置6を製造した。得られた半導体装置6の絶縁膜5の断面を観察した。平坦性の評価は、図4に示す平坦性の尺度(DOP)を用いて具体的にその傾向を調べた。なお、平坦性の尺度であるDOP(%)は下記式で求めた。
DOP(%)={1−(θ/90)(d0/dm)}×100
ここで、θは、図4に示すように配線7によって生じた絶縁膜8の段差の傾き、d0は絶縁膜8の高低差、dmは配線7の厚さである。
【0079】
平坦性の測定の結果は表3および4に記載した。
いずれも、本発明によるSOGを使用することにより、優れた平坦性を達成できたことがわかる。
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1において用いた試料A(表1参照)の29Si−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2において式〔2〕で定義されるXと絶縁膜の収縮率、比誘電率および吸水率との関係を示すグラフである。
【図3】(1)、(2)および(3)は、それぞれ本発明に係る半導体装置用絶縁膜の製造における配線層パターン形成工程、CVD酸化膜形成工程および絶縁膜形成工程の各工程を示す部分断面模式図である。
【図4】実施例3において測定した平坦性の尺度であるDOPを求める方法を示す絶縁膜の段差部分の断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造に用いられる絶縁膜形成用塗布液であって、少なくとも一種類の有機置換基と結合したSi原子を含む下記式〔1〕で表されるシロキサン類を含み、かつ、前記シロキサン類の29Si−NMRスペクトルのシグナルの積分値から求められる下記式〔2〕で示される含有比率Xが、下記式〔2〕を満足するシロキサン類を含む絶縁膜形成用塗布液を用い、前記絶縁膜形成用塗布液を塗布後乾燥し、150℃以上300℃以下の温度に保持して流動化させ、さらに、350℃以上450℃以下の温度にて硬化させる工程を含むことを特徴とする半導体装置用絶縁膜の形成方法。
【化1】

上記式〔1〕において、
k、l、n:0〜1000の整数を示す。
m:1〜1000の整数を示す。
R:飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種の有機置換基を示し、同一であっても異なっていてもよく、フェニル基としては、置換基を有するフェニル基でもよい。
酸素原子は、Si、R、Hのいずれかと結合する。
【数1】

上記式〔2〕において、
029Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合をもたないSiに帰属されるSiシグナルの面積、
129Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を1本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積、
229Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を2本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積、
329Si−NMRスペクトルから求められる、Si−C結合を3本有するSiに帰属されるSiシグナルの面積を示す。
【請求項2】
前記150℃以上300℃以下の温度への保持を30秒以上行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置用絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
前記硬化を窒素中で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置用絶縁膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−229221(P2006−229221A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28381(P2006−28381)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【分割の表示】特願2002−136916(P2002−136916)の分割
【原出願日】平成6年11月11日(1994.11.11)
【出願人】(501285133)川崎マイクロエレクトロニクス株式会社 (449)
【Fターム(参考)】