説明

膜形成材料および膜形成方法

【課題】信号の処理速度向上が得られる層間絶縁膜として好適な誘電率が小さな材料を提供する。
【解決手段】化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、 (i−C372Si(OCH32を供給する供給工程と、 前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体素子の層間絶縁膜を形成する材料、並びに該材料を用いて化学気相成長方法により層間絶縁膜を形成する方法、更には半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体分野における進歩は著しく、LSIからULSIに移って来ている。そして、信号の処理速度を向上させる為、又、その他の要請から微細化が進んでいる。これに伴って配線幅も狭くなり、超細線化している。このようなことから、従来のW配線膜、更にはAl配線膜では、細線化に耐えられないと言われている。そして、配線膜の材料としてCuを採用することが提案されている。
【0003】
しかしながら、配線膜材料として抵抗値が低いCuが採用されても、未だ、十分では無いと言われ出している。
【0004】
すなわち、信号の処理速度を向上させる為に、配線膜間の絶縁膜に対する改善も要求されるようになった。例えば、従来では、配線膜間の層間絶縁膜はSiOで構成されていた。しかしながら、信号の処理速度の向上の観点から、最近では、SiOより誘電率が低い材料を層間絶縁膜に用いることが提案され始めた。すなわち、SiOより誘電率が低い材料を層間絶縁膜の材料として採用することにより、信号の遅延が緩和されると言われている。
【特許文献1】WO99/57330(特表2002−514004)
【特許文献2】特開2000−216153
【特許文献3】特開2003−151972
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、信号速度の向上から、配線膜材料として低抵抗な金属が、又、層間絶縁膜材料として誘電率が低いSiO2系材料が提案されていた。
【0006】
そして、誘電率が低い層間絶縁膜を形成する技術として、上記特許文献で提案されている如く、RnSi(OR)mタイプのアルコキシドシリコンを用いて化学気相成長方法(CVD)により成膜することが試みられている。そして、それなりの成果が得られている。
【0007】
しかしながら、これまでの提案になるものでも満足できず、更なる開発が求められている。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、信号の処理速度向上が得られる層間絶縁膜として好適な誘電率が小さな材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決する為の研究を鋭意押し進めて行く中に、本発明者は、RnSi(OR)mタイプのアルキルアルコキシドシリコンを用いてCVDにより成膜するにしても、用いる原料化合物の構造上の違いによって形成される絶縁膜の誘電率がかなり左右されていることに気付くに至った。
【0010】
そして、このような知見を基に各種の構造のアルキルアルコキシドシリコンについて精力的に検討を押し進めて行った。その結果、ジイソプロピルジメトキシシラン[(i−C372Si(OCH32]を原料として作成した膜が層間絶縁膜として非常に有望である事実に到達するに至った。
このような知見により本発明が達成されたものである。
【0011】
すなわち、前記の課題は、
化学気相成長方法により膜を形成する為の材料であって、
(i−C372Si(OCH32を含む
ことを特徴とする膜形成材料によって解決される。
例えば、化学気相成長方法により膜を形成する為の材料であって、
(i−C372Si(OCH32からなる
ことを特徴とする膜形成材料によって解決される。
【0012】
特に、化学気相成長方法により誘電率が2.2以下の絶縁膜を形成する為の材料であって、
(i−C372Si(OCH32を含む
ことを特徴とする膜形成材料によって解決される。
例えば、化学気相成長方法により誘電率が2.2以下の絶縁膜を形成する為の材料であって、
(i−C372Si(OCH32からなる
ことを特徴とする膜形成材料によって解決される。
【0013】
上記の膜形成材料が用いられることによって、Si−O−C系の膜が形成される。そして、この膜は誘電率が小さく、特に、2.1以下、例えば1.9〜2.1と言ったように小さく、半導体素子における層間絶縁膜として非常に好ましいものである。
【0014】
又、前記の課題は、
化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、
(i−C372Si(OCH32を供給する供給工程と、
前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程
とを具備することを特徴とする膜形成方法によって解決される。
【0015】
特に、化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、
(i−C372Si(OCH32を不活性ガスのバブリングにより供給する供給工程と、
前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程
とを具備することを特徴とする膜形成方法によって解決される。
【0016】
更には、化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、
(i−C372Si(OCH32を流量が10〜500sccm(特に、
50sccm以上。200sccm以下。)の不活性ガスのバブリングにより供給する供給工程と、
前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程
とを具備することを特徴とする膜形成方法によって解決される。
【0017】
上記膜形成方法における供給工程にあっては、(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの供給割合(圧力比)が前者/後者=1/10〜1/2(中でも、1/5以上。1/3以下。)であることが好ましい。又、(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの合計供給量(分解室における合計圧力)は0.1〜10torr(特に、1torr以上。5torr以下。)であることが好ましい。
【0018】
CVDにおける原料化合物の分解・堆積には、これまで、各種の手法が知られている。本発明にあっても、従来からの手法を採用できる。しかしながら、その理由の十分な理論的解明は未だであるものの、(i−C372Si(OCH32の分解・堆積はプラズマ手段と加熱手段との併用によって得られた膜が最も好ましい層間絶縁膜であった。
【0019】
そして、プラズマCVDによりSi−O−C−H系の層間絶縁膜を形成するに際して、電極間距離が20〜250mm(特に、50mm以上。120mm以下。)の平行平板型電極を備えたプラズマ手段が用いられるものが好ましいものであった。特に、平行平板型電極の一方の電極が基板ステージを兼ねると共に、他方の電極が(i−C372Si(OCH32の吹出しシャワーを兼ねているプラズマ手段が用いられるものが好ましいものであった。そして、プラズマはパワーが10〜400Wのものであることが好ましいものであった。
【0020】
又、分解生成物が堆積する基板は200〜500℃(特に、300℃以上。450℃以下。)に保持されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、例えば半導体素子の層間絶縁膜を形成する為の原料として、特に、CVDにより層間絶縁膜を形成する為の原料として、(i−C372Si(OCH32を用いるので、誘電率が小さなSi−O−C−H系の絶縁膜が簡単に形成される。そして、該膜が半導体素子における層間絶縁膜として構成された場合にあっては、信号処理速度の向上が期待される。
【0022】
又、(i−C372Si(OCH32を用いたCVDによりSi−O−C−H系の膜を形成するに際して、流量が10〜500sccm(特に、50sccm以上。200sccm以下。)の不活性ガスのバブリングにより(i−C372Si(OCH32を供給するようにしていると、誘電率が小さなSi−O−C−H系の絶縁膜を綺麗に形成できる。
【0023】
本発明において、(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの供給割合(圧力比)が前者/後者=1/10〜1/2(中でも、1/5以上。1/3以下。)を好ましいとした理由は次の通りである。すなわち、前者/後者が1/10より小さい場合、また逆に、1/2より大きい場合には、誘電率が小さなSi−O−C−H系の絶縁膜が形成され難くかったからによる。
【0024】
又、(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの合計供給量(分解室における合計圧力)が0.1〜10torr(特に、1torr以上。5torr以下。)を好ましいとした理由は次の通りである。すなわち、0.1torrより少ない場合には、誘電率が小さなSi−O−C−H系の絶縁膜が形成され難く、逆に、10torrより多い場合には、プラズマが立ち難く、化合物の分解が効率よく行われなかったことによる。
【0025】
CVDによる成膜に際して、原料化合物の分解には、光、レーザー、プラズマ、熱などの各種の手法が採用されていることは周知の通りである。本発明にあっても前記何れの手法をも採用できる。しかしながら、原料化合物として(i−C372Si(OCH32を用いた本発明では、プラズマ手段と加熱手段とを併用するのが好ましい結果を示した。すなわち、プラズマ手段のみによる分解・堆積とか、加熱手段のみによる分解・堆積と言う過程を経過して出来た膜よりも、プラズマ手段と加熱手段とによる分解・堆積の過程を経過して出来た膜の方が、半導体素子における層間絶縁膜として優れた性能を示すものであった。
【0026】
本発明のプラズマCVDにおいては、電極間距離が20〜250mm(特に、50mm以上。120mm以下。)の平行平板型電極を用いるものが好ましいものであった。特に、平行平板型電極の一方の電極が基板ステージを兼ねると共に、他方の電極が(i−C372Si(OCH32の吹出しシャワーを兼ねているタイプのものが好ましいものであった。すなわち、このようなタイプのCVDを用いて(i−C372Si(OCH32を分解・堆積させることにより、Si−O−C−H系の膜を形成するに際して、基板の面内均一性が保たれて、再現性のよい成膜が可能であったからである。
【0027】
又、プラズマの出力は10〜400Wが好ましいものであった。これは、出力が大きすぎた場合には、有機のi−C37が膜中に殆ど残らず、出力が小さすぎた場合には、(i−C372Si(OCH32の分解が上手く進まず、誘電率の小さな膜が形成され難かったことによる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明になる膜形成材料は、CVDにより形成する為の膜形成材料である。特に、誘電率が2.2以下(特に、1.9〜2.1)の絶縁膜を形成する為の材料である。更には、Si−O−C−H系の膜を形成する為の材料である。中でも、半導体素子における層間絶縁膜を形成する為の材料である。この材料(原料)は、(i−C372Si(OCH32である。
【0029】
本発明になる膜形成方法は、上記の膜を形成する方法である。すなわち、上記の膜を形成する為に、上記(i−C372Si(OCH32を用い、かつ、CVDにより膜を形成する方法である。例えば、化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、(i−C372Si(OCH32を供給する供給工程と、前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程とを具備する。特に、不活性ガスのバブリングにより(i−C372Si(OCH32を供給する供給工程と、前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程とを具備する。更には、流量が10〜500sccm(特に、50sccm以上。200sccm以下。)の不活性ガスのバブリングにより(i−C372Si(OCH32を供給する供給工程と、前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程とを具備する。
【0030】
上記(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの供給割合(圧力比)は、特に、前者/後者=1/10〜1/2(中でも、1/5以上。1/3以下。)である。又、(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの合計供給量(分解室における合計圧力)は、特に、0.1〜10torr(特に、1torr以上。5torr以下。)である。CVDにおける原料化合物の分解・堆積には、特に、プラズマ手段と加熱手段とが併用される。プラズマCVDは、特に、電極間距離が20〜250mm(特に、50mm以上。120mm以下。)の平行平板型電極を備えたプラズマCVDが用いられる。中でも、平行平板型電極の一方の電極が基板ステージを兼ねると共に、他方の電極が(i−C372Si(OCH32の吹出しシャワーを兼ねているプラズマCVDが用いられる。
以下、具体的な実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
図1は、本発明になる化学気相成長方法が実施されるCVD装置の概略図である。
図1中、1は原料容器、2は加熱器兼プラズマ放電用電極、3は分解反応炉、4はSi基板、5はガス流量制御器、6はガス吹出しシャワーヘッド兼プラズマ放電用電極、7は不活性ガス供給路である。
【0032】
本実施例では、図1のCVD装置が用いられ、Si基板4上にSi,O,C,Hからなる膜が形成された。
すなわち、容器1内には(i−C372Si(OCH32が入れられている。そして、キャリアガス(不活性ガス:He)を100ml/minの割合で供給した。尚、容器1内は20〜100℃に保持されている。
キャリアガスによるバブリングで気化した(i−C372Si(OCH32が、分解反応炉3内に導かれた。分解反応炉3内は、当初、3.5torrに排気されている。尚、原料ガスの供給により、分解反応炉3内における(i−C372Si(OCH32圧は80torr、不活性ガス圧は240torrになる。
Si基板4は、加熱器兼プラズマ放電用電極2上に保持され、200〜500℃に加熱されている。
加熱器兼プラズマ放電用電極2とガス吹出しシャワーヘッド兼プラズマ放電用電極6との間の距離は100mmとなるように設定されている。そして、電極間には所定の電圧が印加されて200Wのプラズマ放電が起こされている。
そして、(i−C372Si(OCH32の分解・結合・酸化が行われ、Si基板4上に膜が形成された。
【0033】
この膜をXPS(X線光電子分析法)により調べた。その結果、膜は、Si,O,Cを構成元素として含むものであることが判った(尚、HはXPSでは検出不能)。
又、この膜について、電流−電圧特性を測定した。その結果は、20Vでリーク電流が1.0×10−8A/cm2以下であることが判った。すなわち、絶縁膜として良好である。
更に、膜の容量−電圧特性を調べ、膜厚と電極から比誘電率を算出した処、比誘電率は2.1であった。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、(i−C372Si(OCH32の代わりに(CH32Si(OCH32を用いた以外は同様に行った。
本比較例1で得られた膜の比誘電率は2.7であった。従って、本発明の特長を到底に奏することが出来ない。
【0035】
[比較例2]
実施例1において、(i−C372Si(OCH32の代わりに(C252Si(OCH32を用いた以外は同様に行った。
本比較例2で得られた膜の比誘電率は2.6であった。従って、本発明の特長を到底に奏することが出来ない。
【0036】
[比較例3]
実施例1において、(i−C372Si(OCH32の代わりに(n−C72Si(OCH32を用いた以外は同様に行った。
本比較例3で得られた膜の比誘電率は2.9であった。従って、本発明の特長を到底に奏することが出来ない。
【0037】
[比較例4]
実施例1において、(i−C372Si(OCH32の代わりに(i−C37)Si(OCH33を用いた以外は同様に行った。
本比較例4で得られた膜の比誘電率は3.4であった。従って、本発明の特長を到底に奏することが出来ない。
【0038】
[比較例5]
実施例1において、(i−C372Si(OCH32の代わりに(i−C373Si(OCH3)を用いた以外は同様に行った。
本比較例5では電気的測定が可能な程の均一な膜は出来なかった。従って、本発明の特長を到底に奏することが出来ない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
半導体分野において特に有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】成膜装置(CVD)の概略図
【符号の説明】
【0041】
1 原料容器
2 加熱器・プラズマ放電用電極
3 分解反応炉
4 Si基板
5 ガス流量制御器
6 ガス吹出しシャワーヘッド・プラズマ放電用電極
7 不活性ガス供給路

代 理 人 宇 高 克 己


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長方法により膜を形成する為の材料であって、
(i−C372Si(OCH32を含む
ことを特徴とする膜形成材料。
【請求項2】
化学気相成長方法により誘電率が2.2以下の絶縁膜を形成する為の材料であって、
(i−C372Si(OCH32を含む
ことを特徴とする膜形成材料。
【請求項3】
Si−O−C−H系の膜を形成する為の材料であることを特徴とする請求項1又は請求項2の膜形成材料。
【請求項4】
化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、
(i−C372Si(OCH32を供給する供給工程と、
前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程
とを具備することを特徴とする膜形成方法。
【請求項5】
化学気相成長方法により基板上に膜を形成する方法であって、
(i−C372Si(OCH32を不活性ガスのバブリングにより供給する供給工程と、
前記供給工程で供給された(i−C372Si(OCH32の分解による分解生成物が前記基板上に堆積する堆積工程
とを具備することを特徴とする膜形成方法。
【請求項6】
不活性ガスの流量が10〜500sccmであることを特徴とする請求項5の膜形成方法。
【請求項7】
(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの供給割合(圧力比)が前者/後者=1/10〜1/2であることを特徴とする請求項5又は請求項6の膜形成方法。
【請求項8】
(i−C372Si(OCH32と不活性ガスとの合計供給量(分解室における合計圧力)が0.1〜10torrであることを特徴とする請求項5〜請求項7いずれかの膜形成方法。
【請求項9】
(i−C372Si(OCH32の分解・堆積はプラズマ手段と加熱手段との併用によって行われることを特徴とする請求項4〜請求項8いずれかの膜形成方法。
【請求項10】
電極間距離が20〜250mmの平行平板型電極によるプラズマ手段が用いられて行われることを特徴とする請求項4〜請求項9いずれかの膜形成方法。
【請求項11】
平行平板型電極の一方の電極が基板ステージを兼ねると共に他方の電極が(i−C372Si(OCH32の吹出しシャワーを兼ねているプラズマ手段が用いられて行われることを特徴とする請求項4〜請求項10いずれかの膜形成方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−196624(P2006−196624A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5675(P2005−5675)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(591006003)株式会社トリケミカル研究所 (31)
【Fターム(参考)】