説明

自動変速機の制御装置

【課題】車両が高速走行域で走行した場合だけでなく通常走行域で走行した場合にもクラッチプレートの引き摺りトルクを低減させることによって、自動変速機の耐久性の向上を図ることができるとともに車両の燃費の向上を図ることができる自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】トランスミッションECUは、第2ブレーキが係合していないと判定した場合(ステップS2でYESの場合)、摩擦プレートとセパレータプレートとの回転速度の差を表す差回転を算出し(ステップS3)、差回転が予め定められた値α以上であると判定した場合(ステップS4でYESの場合)、第2ブレーキのパッククリアランスを狭幅状態にし(ステップS5)、差回転が予め定められた値α未満である場合(ステップS4でNOの場合)には、第2ブレーキのパッククリアランスを広幅状態にする(ステップS6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置、特に、摩擦係合要素が非係合時にそのクリアランスを最適に調整する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トルクコンバータと遊星歯車機構とからなる自動変速機においては、遊星歯車機構に設けられるクラッチやブレーキに多板クラッチ式の摩擦係合要素が多く用いられている。
【0003】
このような、従来の自動変速機として、2個のクラッチで前進6段の多段変速を可能とする自動変速機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この自動変速機を構成する摩擦係合要素の一つである第2ブレーキは、一般に油圧を用いてピストンを軸方向に移動させることによって、両面に摩擦材が貼り合わされた回転側摩擦プレートとケースに固定された非回転側摩擦プレートとから構成されるクラッチプレートを押し付けて係合状態を形成する一方、リターンスプリングの付勢力により非係合状態を形成するようになっている。
【0004】
第1変速段が成立される第2ブレーキは、並列して一方向クラッチが設けられているため、発進時(加速時)には、第2ブレーキを係合させないが、エンジンブレーキ時には、第2ブレーキを係合させるようになっている。
【特許文献1】特開2003−240068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の自動変速機においては、例えば車両が高速で走行した場合、車両の速度に応じて回転側摩擦プレートが非回転側摩擦プレートに対して高速に空転する。
【0006】
回転側摩擦プレートの摩擦材と非回転側摩擦プレートとのクリアランス、すなわちパッククリアランスが比較的大きい状態で回転側摩擦プレートが高速で回転すると、回転側摩擦プレートが非回転側摩擦プレートに対して激しく暴れ、回転側摩擦プレートの摩擦材が非回転側摩擦プレートに接触して摩擦力が増大し、クラッチプレートの引き摺りトルクが大きくなる。
【0007】
その結果、自動変速機内の油温がさらに上昇し、オーバーヒートし易いという問題があった。
【0008】
一方、高速走行域での回転側摩擦プレートの暴れを抑えるために、パッククリアランスを詰めて比較的小さくすることも考えられる。
【0009】
しかしながら、パッククリアランスを詰めて比較的小さくした状態で、回転側摩擦プレートが通常走行域での回転数で回転した場合には、回転側摩擦プレートが高速走行域での回転数で回転した場合と比較して、オイルが摩擦材と非回転側摩擦プレートとの間に溜まり易く、オイルのせん断力が増加してクラッチプレートの引き摺りトルクが大きくなる。
【0010】
このように、クラッチプレートの引き摺りトルクが大きくなると、動力損失が増大してひいては車両の燃費の低下を招くという問題もあった。
【0011】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、車両が高速走行域で走行した場合だけでなく通常走行域で走行した場合にもクラッチプレートの引き摺りトルクを低減させることによって、自動変速機の耐久性の向上を図ることができるとともに車両の燃費の向上を図ることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、上記目的を達成するため、(1)多板のクラッチプレートによって構成された複数組の摩擦係合要素を有し、前記クラッチプレートを作動するピストンを制御することによって、それぞれの前記摩擦係合要素の係合状態および非係合状態を切り替えて、複数の変速段を形成する自動変速機の制御装置において、前記非係合状態における前記クラッチプレートの相対的な回転速度差を検出する回転速度差検出手段と、前記回転速度差検出手段によって検出された前記回転速度差に応じて、前記非係合状態における前記クラッチプレート間のクリアランスを調節するよう前記ピストンの作動圧を制御する油圧制御手段と、を備えた構成を有している。
【0013】
この構成により、回転速度差検出手段によって検出された回転速度差に応じて、非係合状態におけるクラッチプレート間のクリアランスを調節することができ、車両が高速走行域で走行した場合だけでなく通常走行域で走行した場合にもクラッチプレートの引き摺りトルクを低減させることによって、自動変速機の耐久性の向上を図ることができるとともに車両の燃費の向上を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係る自動変速機の制御装置は、上記(1)に記載の自動変速機の制御装置において、(2)前記油圧制御手段が、前記非係合状態における前記回転速度差が大きい場合に、前記クラッチプレート間のクリアランスを小さくする構成を有している。
【0015】
この構成により、車両が高速走行域で走行した場合に、クラッチプレートの暴れを低減することができるので、クラッチプレートの引き摺りトルクを低減することができる。この結果、自動変速機の耐久性の向上を図ることができるとともに車両の燃費の向上を図ることができる。
【0016】
また、本発明に係る自動変速機の制御装置は、上記(1)または(2)に記載の自動変速機の制御装置において、(3)前記油圧制御手段が、前記摩擦係合要素が前記非係合状態から前記係合状態に切り替えられた場合に、前記自動変速機の変速状態に基づいて、前記非係合状態における前記クラッチプレート間のクリアランスを補正する構成を有している。
【0017】
この構成により、自動変速機の変速状態に基づいて、非係合状態におけるクラッチプレート間のクリアランスを補正することができるので、摩擦係合要素の各部品の経時変化に対応することができ、最適なクリアランスを維持することができる。
【0018】
また、本発明に係る自動変速機の制御装置は、上記(1)から(3)に記載の自動変速機の制御装置において、(4)前記回転速度差検出手段が、車速およびギヤ段に基づいて前記非係合状態における前記クラッチプレートの相対的な回転速度差を検出する構成を有している。
【0019】
この構成により、車速およびギヤ段に基づいて非係合状態におけるクラッチプレートの相対的な回転速度差を検出するので、回転速度差を正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、車両が高速走行域で走行した場合だけでなく通常走行域で走行した場合にもクラッチプレートの引き摺りトルクを低減させることによって、自動変速機の耐久性の向上を図ることができるとともに車両の燃費の向上を図ることができる自動変速機の制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
まず、構成について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置を搭載した車両を模式的に示す概略構成図である。本実施の形態においては、本発明に係る自動変速機の制御装置をFF(Front engine Front drive)車両に適用した場合について説明する。
【0024】
図1に示すように、車両1は、エンジン2と、トルクコンバータ3と、前進クラッチを有する変速機構4と、トルクコンバータ3および変速機構4を油圧で制御するための油圧制御回路5と、動力源としてのエンジン2を制御するためのエンジンECU(Electronic Control Unit)6と、油圧制御回路5を制御するためのトランスミッションECU7と、によって構成されている。
【0025】
エンジン2は、図示しないインジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、図示しないクランクシャフトが回転させられる。なお、内燃機関の代わりに外燃機関を用いてもよい。また、エンジン2の代わりに回転電機などを用いてもよい。
【0026】
トルクコンバータ3は、エンジン2から変速機構4にトルクを増大してエンジン2の動力を伝達するようになっており、エンジン2の出力軸と連結されるポンプインペラー(以下、単にインペラーという)と、変速機構4の入力軸と連結されるタービンランナー(以下、単にタービンという)と、ワンウェイクラッチによって一方向の回転が阻止されているステータとを有している。インペラーとタービンとは、流体を介して動力を伝達するようになっている。
【0027】
トルクコンバータ3と、変速機構4とは、自動変速機8を構成している。自動変速機8は、所望の変速段を形成することにより、クランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。変速機構4については、後で詳細に説明する。油圧制御回路5は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5を有している。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の構成を示す骨子図である。
【0029】
図2に示すように、自動変速機8の変速機構4は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置21を主体として構成されている第1変速部22と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置23およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置24を主体として構成されている第2変速部25とを同軸線上に有し、入力軸26の回転を変速して出力歯車27から出力するようになっている。入力軸26は、エンジン2によって回転駆動されるトルクコンバータ3のタービン軸であり、出力歯車27は、差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動するようになっている。なお、変速機構4は、中心線に対して略対称的に構成されており、図2においては、中心線の下半分が省略されている。
【0030】
第1変速部22を構成している第1遊星歯車装置21は、サンギヤS1、キャリアCA1およびリングギヤR1の3つ回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸26に連結されて回転駆動されるとともに、キャリアCA1が第3ブレーキB3を介して回転不能にケース28に固定されることにより、リングギヤR1が入力軸26に対して減速回転させられて出力するようになっている。
【0031】
第2変速部25を構成している第2遊星歯車装置23および第3遊星歯車装置24は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置24のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置23のリングギヤR2および第3遊星歯車装置24のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置23のキャリアCA2および第3遊星歯車装置24のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置23のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。
【0032】
第2遊星歯車装置23および第3遊星歯車装置24は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材によって構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材によって構成されており、かつ、第2遊星歯車装置23のピニオンギヤが第3遊星歯車装置24の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0033】
第1回転要素RM1(サンギヤS3)は、第1ブレーキB1によって選択的にケース28に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は、第2ブレーキB2によって選択的にケース28に連結されて回転停止させられるようになっている。また、第4回転要素RM4(サンギヤS2)は、第1クラッチC1を介して選択的に入力軸26に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は、第2クラッチC2を介して選択的に入力軸26に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は、第1遊星歯車装置21のリングギヤR1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は、出力歯車27に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。
【0034】
第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、何れも作動圧によって摩擦係合させられる多板式の油圧式摩擦係合要素である。なお、第2回転要素RM2とケース28との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸26と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチFが第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0035】
第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合させられて、第4回転要素RM4が入力軸26と一体回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられると、出力歯車27に連結された第3回転要素RM3は「1st」で示す回転速度で回転させられ、最も大きい変速比の第1変速段「1st」が成立させられる。
【0036】
第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられて、第4回転要素RM4が入力軸26と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「2nd」で示す回転速度で回転させられ、第1変速段「1st」よりも変速比が小さい第2変速段「2nd」が成立させられる。
【0037】
第1クラッチC1および第3ブレーキB3が係合させられて、第4回転要素RM4が入力軸26と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が第1変速部22を介して減速回転させられると、第3回転要素RM3は「3rd」で示す回転速度で回転させられ、第2変速段「2nd」よりも変速比が小さい第3変速段「3rd」が成立させられる。
【0038】
第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合させられて、第2変速部25が入力軸26と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「4th」で示す回転速度、すなわち、入力軸26と同じ回転速度で回転させられ、第3変速段「3rd」よりも変速比が小さい第4変速段「4th」が成立させられる。なお、この第4変速段「4th」の変速比は1である。
【0039】
第2クラッチC2および第3ブレーキB3が係合させられて、第2回転要素RM2が入力軸26と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が第1変速部22を介して減速回転させられると、第3回転要素RM3は「5th」で示す回転速度で回転させられ、第4変速段「4th」よりも変速比が小さい第5変速段「5th」が成立させられる。
【0040】
第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられて、第2回転要素RM2が入力軸26と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「6th」で示す回転速度で回転させられ、第5変速段「5th」よりも変速比が小さい第6変速段「6th」が成立させられる。
【0041】
また、第2ブレーキB2および第3ブレーキB3が係合させられると、第2回転要素RM2が回転停止させられるとともに、第1回転要素RM1が第1変速部22を介して減速回転させられることにより、第3回転要素RM3は「Rev」で示す回転速度で逆回転させられ、後進変速段「Rev」が成立させられる。
【0042】
すなわち、自動変速機8は、それぞれの摩擦係合要素を係合状態から非係合状態または非係合状態から係合状態に切り替えて、複数のギヤ段を成立させるようになっている。
【0043】
図3は、本発明の実施の形態に係る自動変速機における複数の油圧式摩擦係合要素の作動の組み合わせとそれにより成立する変速段との関係を示す図である。
【0044】
図3において、「○」は係合状態を、「◎」はエンジンブレーキ時のみの係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。第1変速段「1st」を成立させるための第2ブレーキB2には並列に一方向クラッチFが設けられているため、発進時(加速時)には必ずしも第2ブレーキB2を係合させる必要は無い。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置21、第2遊星歯車装置23、および第3遊星歯車装置24の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態に係る第2変速部における第2ブレーキの構造を示す断面図である。
【0046】
図4に示すように、第2変速部25は、ローリバースハブ31と、複数の摩擦プレート32と、複数の摩擦材33と、複数のセパレータプレート34と、ピストン35と、リターンスプリング36と、油圧通路37と、油室38と、シール部材39と、を備えている。
【0047】
ローリバースハブ31は、第2変速部25における第2回転要素RM2に嵌合され、X軸方向(図の左右方向)に平行な第2回転要素RM2の回転軸まわりに第2回転要素RM2に連動して回転するようになっている。各摩擦プレート32は、環状の金属板によって構成され、ローリバースハブ31の外周面に取り付けられている。各摩擦プレート32は、ローリバースハブ31に連動して第2回転要素RM2の回転軸まわりに回転するようになっている。なお、各摩擦プレート32は、X軸方向に若干変位することができるように取り付けられている。また、各摩擦プレート32の両端面には、摩擦材33が貼り合わされている。
【0048】
各セパレータプレート34は、環状の金属板によって構成され、ケース28の内周面に取り付けられている。各セパレータプレート34は、ケース28の内周方向に回転することはできず、X軸方向には若干変位することができるように取り付けられている。なお、摩擦材33が貼り合わされた摩擦プレート32およびセパレータプレート34は、本発明のクラッチプレートを構成する。
【0049】
各々の両端面に摩擦材33が設けられた複数の摩擦プレート32および複数のセパレータプレート34は、X軸方向に交互に配設されて摩擦プレート層を形成するようになっている。なお、摩擦材33とセパレータプレート34との間には、作動油が介在している。
【0050】
ピストン35は、最も油室38の近くに配設されたセパレータプレート34に係合されている。ピストン35は、油室38から受ける油圧およびリターンスプリング36の付勢力に応じてX軸方向に変位するようになっている。
【0051】
リターンスプリング36は、ローリバースハブ31とピストン35との間に配設され、X軸方向に沿って付勢力を発生する。すなわち、リターンスプリング36は、第2ブレーキB2を解放させるための付勢力を発生し、摩擦プレート層がピストン35から受けるX1方向の押付力を緩和させて、摩擦材33とセパレータプレート34との間にクリアランス(以下、「第2ブレーキB2のパッククリアランス」という)を発生させる。
【0052】
油圧通路37は、リニアソレノイドバルブSL4によって調圧された油圧を油室38に伝達する。油室38内の油圧は、油圧通路37を介してリニアソレノイドバルブSL4によって直接的に制御される。なお、油室38内の油圧は、リニアソレノイドバルブSL4によってブレーキコントロールバルブを介して間接的に制御されるようになっていてもよい。シール部材39は、ピストン35の外周面とケース28の内周面との間に配設され、ピストン35のX軸方向の変位を許容しつつ油室38内のリークを防止するようになっている。
【0053】
第2ブレーキB2においては、リニアソレノイドバルブSL4から油圧通路37を介して油室38に供給される油圧を制御することにより、ピストン35を変位させ、ピストン35の変位量に応じて摩擦材33とセパレータプレート34との間のパッククリアランスの量(以下、「パッククリアランス量」という)を制御するようになっている。
【0054】
また、図1に示すように、エンジンECU6は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入力インターフェースおよび出力インターフェースを有している。エンジンECU6は、CPUによって、スロットルセンサ9やアクセル開度センサ13から入力された信号や、ROMに記憶されたマップなどに基づいてエンジン2の回転数を制御するようになっている。
【0055】
トランスミッションECU7は、図示しないCPU、RAM、ROM、入力インターフェースおよび出力インターフェースを有している。トランスミッションECU7は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5の作動状態を変化させ、ライン圧PLを元圧とする作動圧により変速機構4の複数組の摩擦係合要素を選択的に係合あるいは解放させるようになっている。これらの摩擦係合要素の係合および解放の組み合わせによって、変速機構4の入力軸と出力軸との回転数の比が変更され、変速段が成立するようになっている。
【0056】
トランスミッションECU7のRAMには、第2ブレーキB2が係合されているか否かを判定するための第2ブレーキフラグのオンまたはオフを表す情報が記憶されている。トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2に対応するリニアソレノイドバルブSL4に第2ブレーキB2の係合を指示するための信号を出力した場合、第2ブレーキフラグをオンにし、リニアソレノイドバルブSL4に第2ブレーキB2の解放を指示するための信号を出力した場合には、第2ブレーキフラグをオフにするようになっている。
【0057】
トランスミッションECU7のROMには、車速およびスロットル開度と変速機構4の変速段とを対応させたマップが記憶されている。したがって、トランスミッションECU7は、CPUによって、車速センサ10やスロットルセンサ9から入力された信号とROMに記憶されたマップに基づいて変速機構4の変速段を決定するようになっている。
【0058】
さらに、トランスミッションECU7のROMには、自動変速機8の変速時間のタイムラグと摩擦材33の摩耗量とが対応付けられた摩擦量推定マップおよび自動変速機8の変速時間のタイムラグと第2ブレーキB2のパッククリアランス量とが対応付けられたパッククリアランス量推定マップが記憶されている。ここで、自動変速機8の変速時間のタイムラグとは、トランスミッションECU7がリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に自動変速機8を変速させるための変速指令信号を出力してからタービン回転数NTが予め定められた回転数低下するまでの時間をいう。
【0059】
なお、トランスミッションECU7は、後述するように、本発明に係る自動変速機の制御装置、回転速度差検出手段および油圧制御手段を構成する。
【0060】
車両1は、さらに、スロットルセンサ9と、車速センサ10と、タービン回転数センサ11と、操作位置センサ12と、アクセル開度センサ13とを備えている。
【0061】
スロットルセンサ9は、例えば、スロットルバルブ14のスロットル開度に応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されている。スロットルセンサ9は、この出力電圧をスロットルバルブ14のスロットル開度を表す信号としてエンジンECU6およびトランスミッションECU7に出力するようになっている。
【0062】
車速センサ10は、変速機構4の出力軸の回転数(以下、「出力軸回転数」という)を検出し、検出した出力軸回転数を表す信号をエンジンECU6およびトランスミッションECU7に出力するようになっており、エンジンECU6およびトランスミッションECU7は、この信号に基づいて車速を算出するようになっている。
【0063】
タービン回転数センサ11は、入力軸26の回転数(以下、「タービン回転数」という)を検出し、検出したタービン回転数を表す信号をトランスミッションECU7に出力するようになっている。
【0064】
操作位置センサ12は、シフトレバー15の位置を検出し、検出した位置を表す信号をトランスミッションECU7に送信するようになっている。トランスミッションECU7は、シフトレバー15の位置に対応したレンジの中から最適となる変速機構4の変速段を形成するようになっている。また、操作位置センサ12は、運転者の操作に応じて、運転者が任意の変速段を選択できるマニュアルポジションにシフトレバー15が位置していることを検出するように構成してもよい。
【0065】
アクセル開度センサ13は、例えば、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されており、車両1に搭載されたアクセルペダル16が運転者により操作されると、アクセルペダル16の位置が示すアクセル開度を表す信号をエンジンECU6に出力するようになっている。
【0066】
以下、本発明の実施の形態に係るトランスミッションECU7の特徴的な構成について説明する。
【0067】
トランスミッションECU7は、車速センサ10によって検出された出力軸回転数に基づいて車速を算出し、算出した車速と現在のギヤ段とに基づいて、第2ブレーキB2の非係合状態における摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との回転速度の差を表す差回転を算出するようになっている。すなわち、トランスミッションECU7は、本発明の回転速度差検出手段を構成する。
【0068】
また、トランスミッションECU7は、算出した差回転に応じて、第2ブレーキB2の非係合状態における第2ブレーキB2のパッククリアランスを調節するようピストン35の作動圧を制御するようになっている。なお、トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2の非係合状態における差回転が予め定められた値α以上である場合に、第2ブレーキB2のパッククリアランスを小さくするようになっている。すなわち、トランスミッションECU7は、本発明の油圧制御手段を構成する。
【0069】
また、トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2が非係合状態から係合状態に切り替えられた場合に、自動変速機8の変速状態、すなわち変速時間のタイムラグに基づいて、第2ブレーキB2の非係合状態における第2ブレーキB2のパッククリアランスを補正するようになっている。
【0070】
次に、動作について説明する。
【0071】
図5は、本発明の実施の形態に係るトランスミッションECUの動作を示すフロー図である。なお、以下に説明する処理は、予めトランスミッションECU7のROMに記憶されているプログラムによって実現される。
【0072】
図5に示すように、まず、トランスミッションECU7は、車両1が走行中であるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、トランスミッションECU7は、車速センサ10によって検出された出力軸回転数に基づいて車速を算出し、算出した車速が0より大きいか否かを判定することにより、車両1が走行中であるか否かを判定する。ここで、トランスミッションECU7は、車両1が走行中でないと判定した場合(ステップS1でNOの場合)、再度ステップS1の処理を実行する。
【0073】
一方、トランスミッションECU7は、車両1が走行中であると判定した場合(ステップS1でYESの場合)には、第2ブレーキB2が係合していないか否かを判定する(ステップS2)。例えば、トランスミッションECU7は、第2ブレーキフラグのオンまたはオフを表す情報をトランスミッションECU7のRAMから取得することにより、第2ブレーキB2が係合していないか否かを判定する。ここで、トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2が係合していると判定した場合(ステップS2でNOの場合)、ステップS1に戻る。
【0074】
一方、トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2が係合していないと判定した場合(ステップS2でYESの場合)には、車速センサ10によって検出された出力軸回転数に基づいて車速を算出し、算出した車速と現在のギヤ段とに基づいて、摩擦プレート32とセパレータプレート34との回転速度の差を表す差回転を算出する(ステップS3)。すなわち、トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2が解放されている場合における摩擦プレート32とセパレータプレート34との回転速度の差を算出する。なお、トランスミッションECU7は、車速センサ10によって検出された出力軸回転数とタービン回転数センサ11によって検出されたタービン回転数とに基づいて現在のギヤ段を取得する。次に、トランスミッションECU7は、算出した差回転が予め定められた値α[rpm]以上であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0075】
ここで、トランスミッションECU7は、算出した差回転が予め定められた値α以上であると判定した場合(ステップS4でYESの場合)、すなわち、車両1が高速走行域を走行している場合、摩擦材33が暴れてセパレータプレート34と接触することを防止するため、ピストン35の作動圧を制御することにより第2ブレーキB2のパッククリアランスを狭幅状態にし(ステップS5)、処理を終了する。ここで、狭幅状態とは、パッククリアランス量がPC1である状態をいう。例えば、トランスミッションECU7は、パッククリアランス量PC1に応じた油圧P1でピストン35が押圧されるようにリニアソレノイドSL4に制御信号CTL1を出力する。リニアソレノイドSL4は、制御信号CTL1を受信すると、油室38内の油圧をP1にするようライン圧PLを調圧する。
【0076】
一方、トランスミッションECU7は、差回転が予め定められた値α未満であると判定した場合(ステップS4でNOの場合)、すなわち、車両1が通常走行域で走行している場合には、摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間に発生する引き摺りトルクを低減させるために、ピストン35の作動圧を制御することにより第2ブレーキB2のパッククリアランスを広幅状態にし(ステップS6)、処理を終了する。ここで、広幅状態とは、パッククリアランス量がPC2である状態をいう。例えば、トランスミッションECU7は、パッククリアランス量PC2に応じた油圧P2でピストン35が押圧されるようにリニアソレノイドSL4に制御信号CTL2を出力する。リニアソレノイドSL4は、制御信号CTL2を受信すると、油室38内の油圧をP2にするようライン圧PLを調圧する。
【0077】
図6は、本発明の実施の形態に係るパッククリアランスの学習処理を示すフロー図である。以下に説明する処理は、予めトランスミッションECU7のROMに記憶されているプログラムによって実現される。
【0078】
図6に示すように、トランスミッションECU7は、自動変速機8の変速が完了したか否かを判定する(ステップS11)。例えば、トランスミッションECU7は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5に自動変速機8を変速させるための変速指令信号を出力した後に、車速センサ10によって検出された出力軸回転数に所定のギヤ比を乗じたものとタービン回転数センサ11によって検出されたタービン回転数との差が予め定められた値以上である状態から、出力軸回転数に所定のギヤ比を乗じたものとタービン回転数との差が予め定められた値未満である状態に移行したか否かを判定することにより、自動変速機8の変速が完了したか否かを判定する。なお、本実施の形態においては、第2ブレーキB2のパッククリアランスが学習の対象であるため、ここでの変速とは、第2ブレーキB2の係合を伴う変速をいう。
【0079】
ここで、トランスミッションECU7は、自動変速機8の変速が完了していないと判定した場合(ステップS11でNOの場合)、再度ステップS11の処理を実行する。
【0080】
一方、トランスミッションECU7は、自動変速機8の変速が完了したと判定した場合(ステップS11でYESの場合)には、変速時間のタイムラグを検出する(ステップS12)。例えば、トランスミッションECU7は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5に変速指令信号を出力したときにタイマをスタートさせる。そして、トランスミッションECU7は、タービン回転数が予め定められた回転数低下したときのタイマのカウンタ値を読み出すことにより、変速時間のタイムラグを検出する。
【0081】
次に、トランスミッションECU7は、変速時間のタイムラグが、予め定められた値β[秒]以上であるか、または予め定められた値−β[秒]以下であるか否かを判定し(ステップS13)、変速時間のタイムラグが−βより大きく、かつ、βより小さいと判定した場合(ステップS13でNOの場合)、ステップS11に戻る。
【0082】
一方、トランスミッションECU7は、変速時間のタイムラグが予め定められた値β以上であると判定した場合(ステップS13でYESの場合)には、トランスミッションECU7のROMに記憶されている摩耗量推定マップを参照し、変速時間のタイムラグに基づいて摩擦材33の摩耗量を推定する(ステップS14)。
【0083】
次に、トランスミッションECU7は、摩耗量が予め定められた値γ[mm]以上であるか否かを判定する(ステップS15)。ここで、トランスミッションECU7は、摩耗量が予め定められた値γ以上であると判定した場合(ステップS15でYESの場合)、ステップS18に移行し、摩耗量が予め定められた値γ未満であると判定した場合(ステップS15でNOの場合)には、ステップS11に戻る。
【0084】
また、トランスミッションECU7は、変速時間のタイムラグが予め定められた値−β以下であると判定した場合(ステップS13でYESの場合)には、トランスミッションECU7のROMに記憶されているパッククリアランス量推定マップを参照し、変速時間のタイムラグに基づいてパッククリアランス量を推定する(ステップS16)。
【0085】
次に、トランスミッションECU7は、パッククリアランス量が予め定められた値θ[mm]以下であるか否かを判定する(ステップS17)。ここで、トランスミッションECU7は、パッククリアランス量が予め定められた値θ以下であると判定した場合(ステップS17でYESの場合)、ステップS18に移行し、パッククリアランス量が予め定められた値θより大きいと判定した場合(ステップS17でNOの場合)には、ステップS11に戻る。
【0086】
トランスミッションECU7は、第2ブレーキB2のパッククリアランスを最適なものに補正する(ステップS18)。例えば、トランスミッションECU7は、摩擦材33の摩耗量がγ以上であると判定した場合、パッククリアランス量PC1から予め定められた値を減算したものを新たなパッククリアランス量PC1にし、パッククリアランス量PC2から予め定められた値を減算したものを新たなパッククリアランス量PC2にする。すなわち、狭幅状態および広幅状態のパッククリアランス量を小さくして、摩擦材33の摩耗によって変速時間のタイムラグが長くなることを防止する。
【0087】
また、トランスミッションECU7は、パッククリアランス量が予め定められた値θ以下であると判定した場合、パッククリアランス量PC1から予め定められた値を加算したものを新たなパッククリアランス量PC1にし、パッククリアランス量PC2から予め定められた値を加算したものを新たなパッククリアランス量PC2にする。すなわち、狭幅状態および広幅状態のパッククリアランス量を大きくして、パッククリアランスが詰まり過ぎる状態を防止する。
【0088】
以上のように、本実施の形態に係るトランスミッションECU7によれば、摩擦プレート32とセパレータプレート34との回転速度の差を表す差回転に応じて、第2ブレーキB2の非係合状態における第2ブレーキB2のクリアランスを調節することができ、車両1が高速走行域で走行した場合だけでなく通常走行域で走行した場合にも摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間に発生する引き摺りトルクを低減させることによって、自動変速機8の耐久性の向上を図ることができるとともに車両1の燃費の向上を図ることができる。
【0089】
第2ブレーキB2は、例えば通常走行域および高速走行域において空転しているため、それぞれの走行域において、摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間に発生する引き摺りトルクが動力性能に与える影響が大きい。本実施の形態に係るトランスミッションECU7は、第2ブレーキB2における摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間に発生する引き摺りトルクを低減させることができるので、非常に有用である。
【0090】
また、本実施の形態に係るトランスミッションECU7によれば、車両1が高速走行域で走行した場合に、摩擦プレート32の暴れを低減することができるので、摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間に発生する引き摺りトルクを低減することができる。この結果、自動変速機8の耐久性の向上を図ることができるとともに車両1の燃費の向上を図ることができる。
【0091】
また、本実施の形態に係るトランスミッションECU7によれば、自動変速機8の変速時間のタイムラグに基づいて、非係合状態における第2ブレーキB2のクリアランスを補正することができるので、摩擦材33等の各部品の経時変化に対応することができ、最適なクリアランスを維持することができる。
【0092】
また、本実施の形態に係るトランスミッションECU7によれば、車速および現在のギヤ段に基づいて非係合状態における摩擦プレート32とセパレータプレート34との回転速度の差を表す差回転を算出するので、差回転を正確に算出することができる。
【0093】
なお、本実施の形態においては、リターンスプリング36の付勢力により、摩擦材33とセパレータプレート34との間にパッククリアランスを発生させているが、これに限られず、第1リターンスプリングと第1リターンスプリングより短い第2リターンスプリングとにより、摩擦材33とセパレータプレート34との間にパッククリアランスを発生させてもよい。
【0094】
具体的には、第1リターンスプリングが、パッククリアランスを広幅状態にする場合に用いられ、第2リターンスプリングが、パッククリアランスを狭幅状態にする場合に用いられる。第2リターンスプリングは、パッククリアランス量がPC1である場合のローリバースハブ31とピストン35との距離に対応する。そして、油圧を所定の低圧レベルに制御すると、ローリバースハブ31とピストン35との距離を略第2リターンスプリングの長さとなり、油圧を0に制御すると、ピストン35をX2方向に最も後退した状態になる。
【0095】
これにより、油圧のばらつきなどに影響されない安定したパッククリアランスを発生させることができるため、摩擦材33の焼き付きを防止することができる。
【0096】
また、本実施の形態においては、摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間のクリアランスを本発明におけるクラッチプレート間のクリアランスとしたが、これに限られず、セパレータプレート34間のクリアランスや摩擦プレート32間のクリアランスを本発明におけるクラッチプレート間のクリアランスとしてもよい。
【0097】
この場合、トランスミッションECU7は、摩擦プレート32とセパレータプレート34との回転速度の差を表す差回転に応じて、セパレータプレート34間のクリアランスや摩擦プレート32間のクリアランスを調節する。
【0098】
また、本実施の形態においては、トランスミッションECU7が、第2ブレーキB2における摩擦プレート32の摩擦材33とセパレータプレート34との間のクリアランスを調節するようになっているが、これに限られず、第2ブレーキB2以外の摩擦係合要素における摩擦プレートの摩擦材とセパレータプレートとの間のクリアランスを調節するようになっていてもよい。
【0099】
また、本実施の形態においては、トランスミッションECU7が、摩擦プレート32とセパレータプレート34との回転速度の差を表す差回転に応じて、第2ブレーキB2のパッククリアランスを狭幅状態または広幅状態にしているが、これに限らず、差回転に応じたパッククリアランス量で第2ブレーキB2のパッククリアランスを発生させてもよい。
【0100】
この場合、トランスミッションECU7のROMには、例えば、差回転とパッククリアランス量とが対応付けられたパッククリアランス量マップが記憶されている。そして、トランスミッションECU7は、パッククリアランス量マップを参照し、差回転に基づいてパッククリアランス量を決定し、決定したパッククリアランス量で第2ブレーキB2のパッククリアランスを発生させる。
【0101】
また、本実施の形態においては、トランスミッションECU7が、図2に示す変速機構4における第2ブレーキB2のパッククリアランスを調節するようになっているが、これに限られず、本実施の形態におけるトランスミッションECU7が、以下に示す変速機構における第2ブレーキB2のパッククリアランスを調節するようになっていてもよい。
【0102】
図7は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の他の実施例を示す骨子図である。以下、図2に示す自動変速機の構成と実質的に共通の構成については同一の符号を付して説明する。
【0103】
図7に示すように、自動変速機8の変速機構41は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置42を主体として構成されている第1変速部43と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置44およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置45を主体として構成されている第2変速部46とを同軸線上に有し、入力軸26の回転を変速して出力歯車27から出力するようになっている。入力軸26は、エンジン2によって回転駆動されるトルクコンバータ3のタービン軸であり、出力歯車27は、差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動するようになっている。なお、変速機構41は、中心線に対して略対称的に構成されており、図7においては、中心線の下半分が省略されている。
【0104】
第1変速部43を構成している第1遊星歯車装置42は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸26に連結されて回転駆動されるとともに、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にケース28に固定されることにより、キャリアCA1が入力軸26に対して減速回転させられて出力するようになっている。
【0105】
第2変速部46を構成している第2遊星歯車装置44および第3遊星歯車装置45は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置45のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置44のリングギヤR2および第3遊星歯車装置45のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置44のキャリアCA2および第3遊星歯車装置45のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置44のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。
【0106】
第2遊星歯車装置44および第3遊星歯車装置45は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、かつ、第2遊星歯車装置44のピニオンギヤが第3遊星歯車装置45の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0107】
第1回転要素RM1(サンギヤS3)は、第1ブレーキB1によって選択的にケース28に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は、第2ブレーキB2によって選択的にケース28に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(サンギヤS2)は、第1クラッチC1を介して選択的に入力軸26に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は、第2クラッチC2を介して選択的に入力軸26に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は、第1遊星歯車装置42のキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は、出力歯車27に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。
【0108】
このように、図7に示す自動変速機は、図2に示す自動変速機と同様に、第2ブレーキB2が、第1変速段のエンジンブレーキ時にのみ係合状態となる。このため、図7に示す自動変速機における第2ブレーキB2は、例えば通常走行域および高速走行域において空転しているため、それぞれの走行域において、摩擦プレートの摩擦材とセパレータプレートとの間に発生する引き摺りトルクが動力性能に与える影響が大きい。したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU7を図7に示す自動変速機に適用して第2ブレーキB2のパッククリアランスを調整することで、第2ブレーキB2における摩擦材プレートの摩擦材とセパレータプレートとの間に発生する引き摺りトルクを低減させることができるので、非常に有用である。
【0109】
以上、説明したように、本発明は、車両が高速走行域で走行した場合だけでなく通常走行域で走行した場合にもクラッチプレートの引き摺りトルクを低減させることによって、自動変速機の耐久性の向上を図ることができるとともに車両の燃費の向上を図ることができるという効果を有するものであり、摩擦係合要素が非係合時にそのクリアランスを最適に調整する自動変速機の制御装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置を搭載した車両を模式的に示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る自動変速機を示す骨子図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る自動変速機における複数の油圧式摩擦係合要素の作動の組み合わせとそれにより成立する変速段との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る第2変速部における第2ブレーキの構造を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るトランスミッションECUの動作を示すフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るパッククリアランスの学習処理を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る自動変速機の他の実施例を示す骨子図である。
【符号の説明】
【0111】
1 車両
7 トランスミッションECU(回転速度差検出手段、油圧制御手段)
8 自動変速機
10 車速センサ
11 タービン回転数センサ
31 ローリバースハブ
32 摩擦プレート
33 摩擦材
34 セパレータプレート
35 ピストン
36 リターンスプリング
37 油圧通路
38 油室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多板のクラッチプレートによって構成された複数組の摩擦係合要素を有し、前記クラッチプレートを作動するピストンを制御することによって、それぞれの前記摩擦係合要素の係合状態および非係合状態を切り替えて、複数の変速段を形成する自動変速機の制御装置において、
前記非係合状態における前記クラッチプレートの相対的な回転速度差を検出する回転速度差検出手段と、
前記回転速度差検出手段によって検出された前記回転速度差に応じて、前記非係合状態における前記クラッチプレート間のクリアランスを調節するよう前記ピストンの作動圧を制御する油圧制御手段と、を備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記油圧制御手段が、前記非係合状態における前記回転速度差が大きい場合に、前記クラッチプレート間のクリアランスを小さくすることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記油圧制御手段が、前記摩擦係合要素が前記非係合状態から前記係合状態に切り替えられた場合に、前記自動変速機の変速状態に基づいて、前記非係合状態における前記クラッチプレート間のクリアランスを補正することを特徴とする請求項1または2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記回転速度差検出手段が、車速およびギヤ段に基づいて前記非係合状態における前記クラッチプレートの相対的な回転速度差を検出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1の請求項に記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−63120(P2009−63120A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232798(P2007−232798)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】