自動変速機の変速制御装置
【課題】この発明は、所定回転数が検知されてからシフトアップ変速されるまでの間に運転者によってアクセルが戻された場合に、自動的なシフトアップ変速を規制して、運転者にとって予期せぬシフトアップが生じることを抑制できる自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】マニュアルモードで設定されている変速段に対するタービン回転数が設定限界回転数A以上となるエンジン過回転を検知した場合にシフトアップ変速を自動的に実行する制御装置30を、制御コントローラ31がエンジン過回転検知して(ステップs2:Yes)、シフトアップ変速の変速指令が出力されてから(ステップs4)、イナーシャフェーズ開始Iに達するまでの間に(ステップs6:Yes)、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル戻し操作が入力された場合(ステップs5:Yes)に上記シフトアップ変速を解除(ステップs8)する構成とした。
【解決手段】マニュアルモードで設定されている変速段に対するタービン回転数が設定限界回転数A以上となるエンジン過回転を検知した場合にシフトアップ変速を自動的に実行する制御装置30を、制御コントローラ31がエンジン過回転検知して(ステップs2:Yes)、シフトアップ変速の変速指令が出力されてから(ステップs4)、イナーシャフェーズ開始Iに達するまでの間に(ステップs6:Yes)、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル戻し操作が入力された場合(ステップs5:Yes)に上記シフトアップ変速を解除(ステップs8)する構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車に搭載される、手動変速機能を備えた自動変速機における変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行状態に応じて自動的に変速段を切り替える自動変速モードと、運転者の手動操作によって変速段を切り替えるマニュアルモードとを備えた自動車用自動変速機が多く用いられている。
【0003】
このような自動変速機のレンジ切替え用のシフト操作部20には、駐車用のPレンジ、後退用のRレンジ、中立用のNレンジ及び自動変速モードによる前進用のDレンジに加えて、マニュアルモード用のMレンジが設けられている(図2(b)参照)。
【0004】
運転者によってシフトレバー21がDレンジに操作されると自動変速モードでの前進走行することができ、運転者によってシフトレバー21がMレンジに操作されることによって、マニュアルモードが選択される。マニュアルモードでは、手前側(図2(b)において下側)の「+」を表示する側にシフトレバー21を倒すことでシフトアップ操作し、奥側(図2(b)において上側)の「−」を表示する側にシフトレバー21を倒すことでシフトダウン操作することができる。
【0005】
なお、このようなマニュアルモードを備えた自動変速機では、マニュアルモードであっても、変速段とアクセル開度が保持されるとエンジン回転数がエンジン限界回転数Lを超え、エンジンが損傷する可能性のあるオーバーレブ状態となることを防止するために(図5参照)、エンジンの設定限界回転数Aを検知すると自動的にシフトアップ制御してエンジンのオーバーレブを回避するよう構成している。
【0006】
しかし、このような自動的なシフトアップ制御は運転者にとって予期せぬ変速であるため、運転フィーリングを損なうのみならず、運転者が期待する駆動力を確保できず、意図しない車両挙動が生じる惧れがある。
【0007】
また、このような自動的にシフトアップ制御してエンジンのオーバーレブを回避する自動変速機において、例えば、自動的なシフトアップ制御と、手動操作によるシフトアップ操作が略同タイミングで行われて重複する場合、変速段が2段階アップするという問題もある。この問題に対し、特許文献1では、自動的なシフトアップ制御が入力された場合は手動操作によるシフトアップ操作を規制することで、変速段が重複的に2段階アップすること防止して、運転者の意図しないシフトアップ変速を防止している。
【0008】
なお、自動的にシフトアップ制御してエンジンのオーバーレブを回避する自動変速機は、一般的に、シフトアップ変速開始Sから変速完了Eまでに適宜の作動時間Tを要するため、作動時間Tにおいて回転数が上昇しても、エンジン限界回転数Lを越えないように、設定限界回転数Aをエンジン限界回転数Lより低く設定している(図5参照)。
【0009】
例えば、このようにエンジンのエンジン限界回転数Lより低く設定された設定限界回転数Aを検知してからシフトアップの変速完了Eまでの間に、運転者によってオーバーレブを回避するためにアクセルが戻された場合であっても、自動的なシフトアップ制御によって変速段がシフトアップされると、運転者にとって予期せぬシフトアップとなり、運転者は期待する駆動力を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−315414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この発明は、所定回転数が検知されてからシフトアップ制御されるまでの間に、運転者によってアクセルが戻された場合に自動的なシフトアップ制御によって変速段がシフトアップされることを違和感なく規制して、運転者にとって予期せぬシフトアップが生じることを抑制できる、手動変速モードを備えた自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、手動操作によって出力される信号に基づいて変速を行う手動変速モードを備え、手動変速モードで設定されている変速段に対して、エンジン回転数あるいはその関連回転数が所定回転数以上となることを検知した場合にはその変速段から次の変速段へのシフトアップ変速を、手動操作に基づく信号によらずに実行する車両用の自動変速機の変速制御装置であって、上記所定回転数A以上のエンジン回転数あるいはその関連回転数を検知したことによるシフトアップ変速の変速指令が出力されてから上記シフトアップ変速の変速進行度が所定変速進行度に達するまでの間に、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル操作が入力された場合に上記シフトアップ変速を解除することを特徴とする。
【0013】
上記エンジン回転数あるいはその関連回転数は、エンジンの回転数、トルクコンバータのタービンの回転数あるいはタイヤの回転数であることを含む。
上記シフトアップ変速の変速進行度は、変速段を上位の変速段に切り替える切替え動作過程における進行度であることをいう。
【0014】
上記構成により、シフトアップ指令から変速完了までには作動時間を要するが、その作動時間における所定変速進行度に達するまでの間に、運転者によるアクセルを戻すアクセル操作があった場合に、シフトアップ変速を解除することができる。
【0015】
したがって、アクセル戻し操作とシフトアップとによる運転者の意図しない大きな駆動力低下変化を防止することができ、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0016】
この発明の態様として、上記所定変速進行度を、イナーシャフェーズ開始までとすることができる。
上記イナーシャフェーズ開始は、トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行した時点であり、シフトアップ変速によるエンジン回転数あるいはその関連回転数の増減方向の逆転変化を検知した時点であるこという。
【0017】
上記構成により、イナーシャフェーズ開始前であればシフトアップ変速を解消し、イナーシャフェーズ開始後であればシフトアップ変速を続行する。詳述すると、イナーシャフェーズ開始を境界として変速ショックが生じることなく、シフトアップ変速の解消と続行を決定することができる。
これにより、シフトアップ変速の解消と続行に起因する変速ショックを生じさせることなく過回転を防止することができる。
【0018】
また、この発明の態様として、上記車両の進行方向の道路勾配を検知する道路勾配検知手段を備え、上記所定回転数を、上記道路勾配の勾配量に応じて設定することができる。
【0019】
上記道路勾配検知手段は、加速度センサ、駆動出力と車速から勾配を検知する検知手段、或いは、GPSナビゲーションシステムのマップデータから勾配情報を読み出す検知手段であることを含む。
【0020】
上記所定回転数を上記道路勾配の勾配量に応じて設定するは、登板路における登板勾配が大きくなるに応じて上記所定回転数を大きく設定すること、或いは下り坂路における下り坂勾配が大きくなるに応じて上記所定回転数を小さく設定することを含む。
【0021】
上記構成により、車両が走行する道路勾配に応じてエンジンの過回転を検知するための所定回転数を適切に設定できるため、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを抑制できる。
【0022】
また、この発明の態様として、自動変速機の油温を検知する自動変速機油温検知手段を備え、上記所定回転数を、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定することができる。
上記油温は、自動変速機に充填されているオートマチック・トランスミッション・フルード(以下において、ATFという)の油温であることをいう。
【0023】
これにより、低温時の確実なエンジンの過回転を防止することができる。詳しくは、ATFが低温である場合は粘度が高く、ATFが高温である場合と比較して、シフトアップ変速開始から変速完了までに所定の作動時間が長くかかるため、上記所定回転数を、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定することで、作動時間が長くかかった場合であっても確実にエンジン限界回転数Lを超えてエンジンの過回転となることを防止できる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、手動変速モードを備えた自動変速機の変速制御装置において所定回転数が検知されてからシフトアップ制御されるまでの間に、運転者によってアクセルが戻された場合に自動的なシフトアップ制御によって変速段がシフトアップされることを違和感なく規制して、運転者にとって予期せぬシフトアップが生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る自動変速機を備えた車両の概略構成図。
【図2】シフト操作部についての説明図。
【図3】自動変速機を制御する制御装置のブロック図。
【図4】自動シフトアップ変速動作のフローチャート。
【図5】自動シフトアップ変速動作における回転数についての説明図。
【図6】所定回転数を設定するフローチャート。
【図7】記憶部に記憶する管理テーブルについての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は本発明の実施形態に係る自動変速機10を備えた車両1の概略構成図を示し、図2はシフト操作部20についての説明図を示し、図3は自動変速機10を制御する制御装置30のブロック図を示し、図4は自動シフトアップ変速動作のフローチャートを示し、図5は自動シフトアップ変速動作における回転数についての説明図を示し、図6は所定回転数Aを設定するフローチャートを示し、図7は自動変速機10に備えた記憶部38に記憶する管理テーブルについての説明図を示している。
【0027】
図1に示すように、車両1の前部のエンジンルーム1A内には、エンジン2と自動変速機10とを結合して構成するパワーユニットを配置している。
また、車室1B内には、運転者用とパッセンジャー用の2つの座席3a,3bが設けられ、運転者用の座席3aの前方にはステアリング4が配置されるとともに、2つの座席3a,3bの間のセンターコンソロール5にはシフト操作部20を配置している。
【0028】
シフト操作部20は、頭部に握持しやすい形状で形成されたグリップ21aを備えたシフトレバー21と、シフトレバー21を沿わせて操作する操作溝23が形成されたガイド盤22とで構成している。
【0029】
操作溝23は、車両前方側(図2(b)において上側)に駐車レンジ位置P、該駐車レンジ位置Pから逆コの字状となる車両後方側(図2(b)において下側)位置の後退レンジ位置R、該後退レンジ位置RからL字状となる車両右後ろ側位置の中立レンジ位置N、該中立レンジ位置Nから車両後ろ側位置の前進レンジ位置D、該前進レンジ位置Dから車両右側位置のマニュアルレンジ位置Mで構成している。
【0030】
なお、本明細書において、車両を中心とした方向は、座席3に着座した運転者から見た方向であり、例えば、車両前方とはエンジンルーム1A側である前側を示し、右側とは、車両前方向きに着座した運転者にとっての右側であることをいう。
【0031】
マニュアルレンジ位置Mは、前進レンジ位置Dに対して倒位のT字型で形成された溝形状であり、「−」を示す車両前方側にはシフトレバー21を前方に倒した際に押下されるシフトダウンスイッチ24を装備し、「+」を示す車両後方側にはシフトレバー21を後方に倒した際に押下されるシフトアップスイッチ25を装備している。
【0032】
上記構成により、運転者は、ガイド盤22の操作溝23に沿ってシフトレバー21を所定位置に移動操作することで車両1における自動変速機10を所望のレンジに設定することができる。具体的には、シフトレバー21を前進レンジ位置Dに移動操作することで自動変速機10は自動変速モードに設定され、図示省略するアクセルを踏み込むことで前進することができる。
【0033】
また、シフトレバー21をマニュアルレンジ位置Mに移動操作し、さらに、シフトレバー21を車両前後方向に倒して、シフトダウンスイッチ24やシフトアップスイッチ25を押下することでシフトアップダウン操作をすることができる。
【0034】
次に、図3とともに、自動変速機10を制御する制御装置30の構成について説明する。
制御装置30は、図3に示すように、制御コントローラ31と、該制御コントローラ31に接続され、車速を検出する車速センサ32、アクセルの開度を検出するアクセル開度センサ33、シフトレバー21が操作された位置を検出するシフト位置センサ34、トルクコンバータのタービン回転数を検出するタービン回転数センサ35、ATFの油温を検出する油温センサ36、車両1が走行する走行路の勾配を検出する勾配センサ37、及び後述する管理テーブル(図7参照)等を記憶する記憶部38とで構成している。
【0035】
また、上述のシフト操作部20のシフトダウンスイッチ24やシフトアップスイッチ25も制御コントローラ31に接続されている。さらにまた、自動変速機10も制御コントローラ31からの変速指令によって変速動作するよう制御コントローラ31に接続されている。
【0036】
次に、制御コントローラ31からの変速指令によって変速動作する自動変速機10において、マニュアルモード時の過回転防止のための自動シフトアップ変速動作について、図4に示すフローチャートともに説明する。
【0037】
まず、制御コントローラ31は、シフト位置センサ34の検出結果からシフトレバー21がマニュアルレンジ位置Mに位置しているか否か、すなわちマニュアルモードが選択されているか否かを判断する(ステップs1)。
【0038】
その結果、マニュアルモードでない、すなわちシフトレバー21が前進レンジ位置Dに位置する自動変速モードである場合(ステップs1:No)、自動変速モードにおける変速マップに基づいて変速動作が行われ、エンジンの過回転、すなわちオーバーレブ状態とならないため、このフローを終了する。
【0039】
シフトレバー21がマニュアルレンジ位置Mに位置し、マニュアルモードが選択されている場合(ステップs1:Yes)、タービン回転数センサ35の検出結果からエンジン回転数を検出し、予め設定された設定限界回転数Aを超えているかどうか判断する(ステップs2)。
【0040】
検出されたエンジン回転数が設定限界回転数Aを超えていない場合(ステップs2:No)、エンジンの過回転、すなわちオーバーレブ状態とならないため、このフローを終了する。
【0041】
検出されたエンジン回転数が設定限界回転数Aを超えている場合(ステップs2:Yes)、制御コントローラ31はアクセル開度センサ33からアクセル開度を検出し、アクセル開度メモリAP01として記憶部38に記憶し(ステップs3)、エンジンの過回転を防止するために、自動変速機10にシフトアップ指令を出力する(ステップs4)。なお、シフトアップ指令の出力によって自動変速機10はシフトアップ変速動作を開始する(変速開始S)。
【0042】
自動変速機10へのシフトアップ指令出力後(変速開始S)において、アクセル開度センサ33の検出結果からアクセル開度が変化するアクセル操作があったことを検出すると、制御コントローラ31は今回のアクセル開度センサ33の検出結果と、記憶部38に記憶したアクセル開度メモリAP01と比較して、所定アクセル戻り量B以上のアクセル戻し操作があったかどうか判断する。
【0043】
アクセル戻し操作が所定アクセル戻り量B以下であった場合(ステップs5:No)は、自動シフトアップ変速動作を続行し(ステップs7)、このフローを終了する。
【0044】
アクセル戻し操作が所定アクセル戻り量B以上であった場合(ステップs5:Yes)は、ステップs4で自動変速機10に対して出力されたシフトアップ指令(変速開始S)によって自動変速機10のシフトアップ変速動作が進行し、図5におけるタービン回転数の山折れ部分で示すイナーシャフェーズ開始Iを超えているか否かを判断する。
【0045】
なお、イナーシャフェーズ開始Iは、図5に示すように、トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行した時点であり、シフトアップ変速によるエンジン回転数あるいはタービン回転数の増減方向の逆転変化を検知した時点である。
【0046】
すでに、アクセル戻し操作のタイミングがイナーシャフェーズ開始Iを超えている場合(ステップs6:Yes,図5中アクセル戻し操作2参照)、自動シフトアップ変速動作を続行し(ステップs7)、このフローを終了する。
【0047】
アクセル戻し操作のタイミングがイナーシャフェーズ開始Iを超えていない、イナーシャフェーズ開始I以前の場合(ステップs6:No,図5中アクセル戻し操作1参照)、自動シフトアップ変速動作を解除し(ステップs9)、元の変速段に戻りこのフローを終了する。
なお、「START」から「RETURN」までのフローは走行中繰り返し実行される。
【0048】
次に、ステップs2で検出されたエンジン回転数を比較する基準となる設定限界回転数Aを設定するための設定限界回転数設定処理について、図6及び図7とともに説明する。
【0049】
まず、自動変速機10に対して変速指令を出力する制御装置30において、図5に示すように、設定限界回転数Aは、シフトアップ開始(制御コントローラ31から自動変速機10へのシフトアップ指令:変速開始S)から完了(変速完了E)までに所定の作動時間Tを要するため、作動時間Tでの回転数の上昇によってエンジン限界回転数Lを超えないように、予め作動時間Tでの回転数上昇を踏まえ、設定限界回転数Aをエンジン限界回転数Lより低く設定している。
【0050】
しかも、作動時間Tは一律ではなく、自動変速機10内部における回転要素の拘束する摩擦要素(クラッチやブレーキ)の配置や機構が変速段によって異なるため作動時間Tも異なる。
【0051】
したがって、長い作動時間Tを要する変速段の場合、回転数の上昇分を考慮して設定限界回転数Aを低い回転数に設定し、作動時間Tが短い変速段の場合、回転数の上昇の影響は少ないため設定限界回転数Aを高い回転数に設定することができる。なお、各変速段に対応する設定限界回転数Aの回転数を変速段別限界回転数として、記憶部38に格納する変速段別限界回転数管理テーブル41で管理している(図7(a)参照)。
【0052】
さらには、自動変速機10内部に充填したATFの油温によっても作動時間Tは異なる。詳しくは、一般的なATFは、常温での動粘度は20.8mm2/s、100度での動粘度は4.2mm2/sというような値を示すように、油温によって動粘度が異なるため、自動変速機10の変速動作に大きな影響を与えるATFの動粘度によって作動時間Tが異なり、動粘度の高い低温時においては作動時間Tが長くなるため、設定限界回転数Aを低い回転数に設定する必要がある。
【0053】
なお、油温に対応する設定限界回転数Aの回転数を低回転補正する油温別補正回転数として、記憶部38に格納する油温別補正回転数管理テーブル42で管理している(図7(b)参照)。
【0054】
さらにまた、車両1が走行する走行路が勾配を有する場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、作動時間Tにおける回転数の変化は異なるため、走行路の道路勾配に応じた設定限界回転数Aを設定する必要がある。
【0055】
詳しくは、走行路が登板路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は遅く、設定限界回転数Aを高い回転数で設定することができる。なお、登板路における登板勾配に対応する設定限界回転数Aの回転数を高回転補正する登板勾配別補正回転数として登板勾配別補正回転数テーブル43で管理している(図7(c)参照)。
【0056】
逆に、走行路が下り坂路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は早く、設定限界回転数Aを低い回転数で設定しなければならない。なお、下り坂路における下り坂勾配に対応する設定限界回転数Aの回転数を低回転補正する下り坂勾配別補正回転数として下り坂勾配別補正回転数テーブル44で管理している(図7(d)参照)。
【0057】
したがって、状況に応じて適切な設定限界回転数Aを設定する制御コントローラ31は、まず、シフト位置センサ34での検出結果を元に現在マニュアルモードで選択されている変速段を検出し(ステップt1)、検出した変速段の対応する変速段別限界回転数を変速段別限界回転数管理テーブル41から読み出して一旦、仮設定限界回転数A’に設定する(ステップt2)。
【0058】
次に制御コントローラ31は、油温センサ36からATFの油温を検出し(ステップt3)、その結果、所定の基準油温Cより低いかどうか判断し、低温である場合(ステップt4:Yes)、制御コントローラ31は基準油温Cからの温度差に基づいて、油温別補正回転数管理テーブル42に格納する油温別補正回転数分を仮設定限界回転数A’に反映させて、低回転化する(ステップt5)。
【0059】
ステップt3での油温検出結果が基準油温Cより高温であった場合や(ステップt4:No)、ステップt5で仮設定限界回転数A’を低回転補正した後の制御コントローラ31は、次に走行路の道路勾配を加速度から算出する勾配センサ37で検出する(ステップt6)。
【0060】
勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超える登板勾配である場合(ステップt7:Yes)、登板勾配に基づいて、登板勾配別補正回転数テーブル43に格納する登板勾配別補正回転数分を仮設定限界回転数A’に反映させて高回転化し(ステップt8)、高回転化した仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0061】
逆に、勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超える下り坂勾配である場合(ステップt7:No、ステップt9:Yes)、下り板勾配に基づいて、下り坂勾配別補正回転数テーブル44に格納する下り板勾配別限界回転数低回転補正回転数分を仮設定限界回転数A’に反映させて低回転化し(ステップt10)、低回転化した仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0062】
なお、勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超えず(ステップt7:No,ステップt9:No)且つステップt3での油温検出結果が基準油温Cより高温である場合(ステップt4:No)、ステップt2で設定した仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0063】
さらにまた、ステップt5で低回転化されたが、勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超えない場合(ステップt7:No,ステップt9:No)、制御コントローラ31はステップt5で低回転化された仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0064】
このように、本発明の自動変速機10の制御装置30は、手動操作によって出力される信号に基づいて変速を行うマニュアルモードを備え、マニュアルモードで設定されている変速段に対して、タービン回転数が設定限界回転数A以上となることを検知した場合にはその変速段から次の変速段へのシフトアップ変速を、手動操作に基づく信号によらずに実行する。
【0065】
そして、設定限界回転数A以上のタービン回転数検知(ステップs2:Yes)によるシフトアップ変速の変速指令が出力されてから(ステップs4,変速開始S)、上記シフトアップ変速の変速進行度がイナーシャフェーズ開始Iに達するまでの間に(ステップs6:Yes)、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル戻し操作(図5中アクセル戻し操作1参照)が入力された場合(ステップs5:Yes)に上記シフトアップ変速を解除することができる(ステップs8:図5中シフトアップ解除1参照)。
【0066】
上記構成により、シフトアップ指令(変速開始S)から変速完了Eまでには作動時間Tを要するが、その作動時間Tにおけるイナーシャフェーズ開始Iに達するまでの間に、運転者によるアクセルを戻すアクセル戻し操作(アクセル戻し操作1(図5参照))があった場合に、シフトアップ変速を解除する(シフトアップ解除1(図5参照))ことができるため、アクセル戻し操作とシフトアップとによる運転者の意図しない大きな駆動力低下変化を防止することができ、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0067】
また、アクセル戻し操作によるシフトアップ変速の解除と続行との経過的境界となる上記所定変速進行度をイナーシャフェーズ開始Iとしたことによって、シフトアップ変速を解除したことによる変速ショックに起因する違和感等のドライバビリティの低下を防止できる。
【0068】
詳しくは、イナーシャフェーズ開始I前であれば(アクセル戻し操作1(図5参照))、シフトアップ変速による回転数変化は生じておらず、シフトアップ変速を解除しても(シフトアップ解除1(図5参照))、意図しない変速ショックが生じることはないが、シフトアップ変速による回転数変化が生じているイナーシャフェーズ開始I後にシフトアップ変速を解除すると(シフトアップ解除2(図5参照))、シフトアップ変速解除による回転数変化が生じ(回転数変化2(図5参照))、シフトアップ変速解除による回転数変化によって意図しない変速ショックが生じることとなる。
【0069】
このように、シフトアップ変速の解除によって変速ショックが生じるようになるイナーシャフェーズ開始Iを経過的基準として、アクセル戻し操作(アクセル戻し操作1(図5参照))がイナーシャフェーズ開始I前であればシフトアップ変速を解除し(シフトアップ解除1(図5参照))、イナーシャフェーズ開始I後であれば(アクセル戻し操作2(図5参照))シフトアップ変速を続行することで、シフトアップ変速を解除したことによるドライバビリティの低下を防止できる。
【0070】
なお、本実施例においては、図5に示すタービン回転数をタービン回転数センサ35で検出してエンジンの過回転を防止する構成であったが、図5に示すようにタービン回転数とエンジン回転数とは対応関係にあるため、制御装置30にエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサを設けてエンジン回転数を直接検出する構成であってもよい。
【0071】
また、同様に、制御装置30にタイヤ回転数を検出するタイヤ回転数センサを設けて自動変速機のギア比に基づいてエンジン回転数を算出する構成であっても良い。なお、本実施例においては、もっとも回転数の検出精度の高いタービン回転数を用いている。
【0072】
また、制御装置30には、上記車両1の進行方向の道路勾配を検知する勾配センサ37を備え、上記設定限界回転数Aを、上記道路勾配の勾配量に応じて設定する(ステップt8,ステップt10)ため、車両1が走行する道路勾配に応じてエンジンの過回転を検知するための設定限界回転数Aを適切に設定でき、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを低減できる。
【0073】
詳しくは、走行路が登板路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は遅く、設定限界回転数Aを高い回転数で設定することができる。
【0074】
逆に、走行路が下り坂路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は早く、設定限界回転数Aを低い回転数で設定しなければならない。
【0075】
このように、道路勾配が登坂の場合は設定限界回転数Aを高回転化し、下り坂の場合は設定限界回転数Aを低回転化できるため、より詳細に道路勾配に応じた設定限界回転数Aをできる。したがって、エンジン回転数が上昇しやすい下り坂を走行している場合であっても確実にエンジン限界回転数Lを越えることなく、また、エンジン回転数が上昇しにくい登坂路を走行している場合であっても必要以上に自動シフトアップ変速が実行されることを防止できる。
【0076】
なお、上記実施例では、道路勾配が登坂の場合は設定限界回転数Aを高回転化し、下り坂の場合は設定限界回転数Aを低回転化する構成であったが、道路勾配が登坂の場合の高回転化と、下り坂の場合の低回転化のいずれか一方だけを実行する構成であってもよい。
【0077】
また、上記勾配センサ37は、加速度を検出する加速度センサによって構成しているが、駆動出力と車速から勾配を算出する方法、或いは、GPSナビゲーションシステムのマップデータから勾配情報を読み出す方法であってもよい。
【0078】
また、制御装置30には、自動変速機10のATF温度を検知する油温センサ36を備え、上記設定限界回転数Aを、上記ATF温度に応じ、ATF温度が低温であるほど低い回転数に設定できるため、低温時の確実なエンジンの過回転を防止することができる。
【0079】
詳しくは、ATFが低温である場合は粘度が高く、ATFが高温である場合と比較して、シフトアップ開始(変速開始S)から完了(変速完了E)までの作動時間Tが長くかかるため、上記設定限界回転数Aを、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定することで、作動時間Tが長くかかった場合であっても確実にエンジン限界回転数Lを超えてオーバーレブとなることを防止できる。
【0080】
さらには、制御装置30は、マニュアルモードで設定されている変速段に応じた設定限界回転数Aを設定できるため、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを低減できる。
【0081】
詳しくは、自動変速機10内部における回転要素の拘束する摩擦要素(クラッチやブレーキ)の配置や機構が変速段によって異なることに起因して作動時間Tが異なるため、長い作動時間Tを要する変速段の場合、回転数の上昇分を考慮して設定限界回転数Aを低い回転数に設定し、作動時間Tが短い変速段の場合、回転数の上昇の影響は少ないため設定限界回転数Aを高い回転数に設定することができる。これにより、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを低減できる。
【0082】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の手動変速モードは、マニュアルモードに対応し、
以下同様に、
エンジン回転数あるいはその関連回転数は、タービン回転数に対応し、
所定回転数は、設定限界回転数Aに対応し、
所定変速進行度は、イナーシャフェーズ開始Iに対応し、
アクセル開度を所定値以上戻すアクセル操作は、アクセル戻し操作に対応し、
変速制御装置は、制御装置30に対応し、
道路勾配検知手段は、勾配センサ37に対応し、
油温は、ATFの温度に対応し、
自動変速機油温検知手段は、油温センサ36に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができ、例えば、ステップs4におけるシフトアップ指令(変速開始S)後に、タービン回転数センサ35からの検出結果を確認する制御コントローラ31によってイナーシャフェーズ開始Iを監視し、イナーシャフェーズ開始Iが確認できない状態でアクセル開度の所定アクセル戻り量Bの戻しを確認してシフトアップ実行を解除する処理方法であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…車両
10…自動変速機
30…制御装置
36…油温センサ
37…勾配センサ
A…設定限界回転数
I…イナーシャフェーズ開始
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車に搭載される、手動変速機能を備えた自動変速機における変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行状態に応じて自動的に変速段を切り替える自動変速モードと、運転者の手動操作によって変速段を切り替えるマニュアルモードとを備えた自動車用自動変速機が多く用いられている。
【0003】
このような自動変速機のレンジ切替え用のシフト操作部20には、駐車用のPレンジ、後退用のRレンジ、中立用のNレンジ及び自動変速モードによる前進用のDレンジに加えて、マニュアルモード用のMレンジが設けられている(図2(b)参照)。
【0004】
運転者によってシフトレバー21がDレンジに操作されると自動変速モードでの前進走行することができ、運転者によってシフトレバー21がMレンジに操作されることによって、マニュアルモードが選択される。マニュアルモードでは、手前側(図2(b)において下側)の「+」を表示する側にシフトレバー21を倒すことでシフトアップ操作し、奥側(図2(b)において上側)の「−」を表示する側にシフトレバー21を倒すことでシフトダウン操作することができる。
【0005】
なお、このようなマニュアルモードを備えた自動変速機では、マニュアルモードであっても、変速段とアクセル開度が保持されるとエンジン回転数がエンジン限界回転数Lを超え、エンジンが損傷する可能性のあるオーバーレブ状態となることを防止するために(図5参照)、エンジンの設定限界回転数Aを検知すると自動的にシフトアップ制御してエンジンのオーバーレブを回避するよう構成している。
【0006】
しかし、このような自動的なシフトアップ制御は運転者にとって予期せぬ変速であるため、運転フィーリングを損なうのみならず、運転者が期待する駆動力を確保できず、意図しない車両挙動が生じる惧れがある。
【0007】
また、このような自動的にシフトアップ制御してエンジンのオーバーレブを回避する自動変速機において、例えば、自動的なシフトアップ制御と、手動操作によるシフトアップ操作が略同タイミングで行われて重複する場合、変速段が2段階アップするという問題もある。この問題に対し、特許文献1では、自動的なシフトアップ制御が入力された場合は手動操作によるシフトアップ操作を規制することで、変速段が重複的に2段階アップすること防止して、運転者の意図しないシフトアップ変速を防止している。
【0008】
なお、自動的にシフトアップ制御してエンジンのオーバーレブを回避する自動変速機は、一般的に、シフトアップ変速開始Sから変速完了Eまでに適宜の作動時間Tを要するため、作動時間Tにおいて回転数が上昇しても、エンジン限界回転数Lを越えないように、設定限界回転数Aをエンジン限界回転数Lより低く設定している(図5参照)。
【0009】
例えば、このようにエンジンのエンジン限界回転数Lより低く設定された設定限界回転数Aを検知してからシフトアップの変速完了Eまでの間に、運転者によってオーバーレブを回避するためにアクセルが戻された場合であっても、自動的なシフトアップ制御によって変速段がシフトアップされると、運転者にとって予期せぬシフトアップとなり、運転者は期待する駆動力を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−315414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この発明は、所定回転数が検知されてからシフトアップ制御されるまでの間に、運転者によってアクセルが戻された場合に自動的なシフトアップ制御によって変速段がシフトアップされることを違和感なく規制して、運転者にとって予期せぬシフトアップが生じることを抑制できる、手動変速モードを備えた自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、手動操作によって出力される信号に基づいて変速を行う手動変速モードを備え、手動変速モードで設定されている変速段に対して、エンジン回転数あるいはその関連回転数が所定回転数以上となることを検知した場合にはその変速段から次の変速段へのシフトアップ変速を、手動操作に基づく信号によらずに実行する車両用の自動変速機の変速制御装置であって、上記所定回転数A以上のエンジン回転数あるいはその関連回転数を検知したことによるシフトアップ変速の変速指令が出力されてから上記シフトアップ変速の変速進行度が所定変速進行度に達するまでの間に、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル操作が入力された場合に上記シフトアップ変速を解除することを特徴とする。
【0013】
上記エンジン回転数あるいはその関連回転数は、エンジンの回転数、トルクコンバータのタービンの回転数あるいはタイヤの回転数であることを含む。
上記シフトアップ変速の変速進行度は、変速段を上位の変速段に切り替える切替え動作過程における進行度であることをいう。
【0014】
上記構成により、シフトアップ指令から変速完了までには作動時間を要するが、その作動時間における所定変速進行度に達するまでの間に、運転者によるアクセルを戻すアクセル操作があった場合に、シフトアップ変速を解除することができる。
【0015】
したがって、アクセル戻し操作とシフトアップとによる運転者の意図しない大きな駆動力低下変化を防止することができ、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0016】
この発明の態様として、上記所定変速進行度を、イナーシャフェーズ開始までとすることができる。
上記イナーシャフェーズ開始は、トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行した時点であり、シフトアップ変速によるエンジン回転数あるいはその関連回転数の増減方向の逆転変化を検知した時点であるこという。
【0017】
上記構成により、イナーシャフェーズ開始前であればシフトアップ変速を解消し、イナーシャフェーズ開始後であればシフトアップ変速を続行する。詳述すると、イナーシャフェーズ開始を境界として変速ショックが生じることなく、シフトアップ変速の解消と続行を決定することができる。
これにより、シフトアップ変速の解消と続行に起因する変速ショックを生じさせることなく過回転を防止することができる。
【0018】
また、この発明の態様として、上記車両の進行方向の道路勾配を検知する道路勾配検知手段を備え、上記所定回転数を、上記道路勾配の勾配量に応じて設定することができる。
【0019】
上記道路勾配検知手段は、加速度センサ、駆動出力と車速から勾配を検知する検知手段、或いは、GPSナビゲーションシステムのマップデータから勾配情報を読み出す検知手段であることを含む。
【0020】
上記所定回転数を上記道路勾配の勾配量に応じて設定するは、登板路における登板勾配が大きくなるに応じて上記所定回転数を大きく設定すること、或いは下り坂路における下り坂勾配が大きくなるに応じて上記所定回転数を小さく設定することを含む。
【0021】
上記構成により、車両が走行する道路勾配に応じてエンジンの過回転を検知するための所定回転数を適切に設定できるため、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを抑制できる。
【0022】
また、この発明の態様として、自動変速機の油温を検知する自動変速機油温検知手段を備え、上記所定回転数を、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定することができる。
上記油温は、自動変速機に充填されているオートマチック・トランスミッション・フルード(以下において、ATFという)の油温であることをいう。
【0023】
これにより、低温時の確実なエンジンの過回転を防止することができる。詳しくは、ATFが低温である場合は粘度が高く、ATFが高温である場合と比較して、シフトアップ変速開始から変速完了までに所定の作動時間が長くかかるため、上記所定回転数を、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定することで、作動時間が長くかかった場合であっても確実にエンジン限界回転数Lを超えてエンジンの過回転となることを防止できる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、手動変速モードを備えた自動変速機の変速制御装置において所定回転数が検知されてからシフトアップ制御されるまでの間に、運転者によってアクセルが戻された場合に自動的なシフトアップ制御によって変速段がシフトアップされることを違和感なく規制して、運転者にとって予期せぬシフトアップが生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る自動変速機を備えた車両の概略構成図。
【図2】シフト操作部についての説明図。
【図3】自動変速機を制御する制御装置のブロック図。
【図4】自動シフトアップ変速動作のフローチャート。
【図5】自動シフトアップ変速動作における回転数についての説明図。
【図6】所定回転数を設定するフローチャート。
【図7】記憶部に記憶する管理テーブルについての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は本発明の実施形態に係る自動変速機10を備えた車両1の概略構成図を示し、図2はシフト操作部20についての説明図を示し、図3は自動変速機10を制御する制御装置30のブロック図を示し、図4は自動シフトアップ変速動作のフローチャートを示し、図5は自動シフトアップ変速動作における回転数についての説明図を示し、図6は所定回転数Aを設定するフローチャートを示し、図7は自動変速機10に備えた記憶部38に記憶する管理テーブルについての説明図を示している。
【0027】
図1に示すように、車両1の前部のエンジンルーム1A内には、エンジン2と自動変速機10とを結合して構成するパワーユニットを配置している。
また、車室1B内には、運転者用とパッセンジャー用の2つの座席3a,3bが設けられ、運転者用の座席3aの前方にはステアリング4が配置されるとともに、2つの座席3a,3bの間のセンターコンソロール5にはシフト操作部20を配置している。
【0028】
シフト操作部20は、頭部に握持しやすい形状で形成されたグリップ21aを備えたシフトレバー21と、シフトレバー21を沿わせて操作する操作溝23が形成されたガイド盤22とで構成している。
【0029】
操作溝23は、車両前方側(図2(b)において上側)に駐車レンジ位置P、該駐車レンジ位置Pから逆コの字状となる車両後方側(図2(b)において下側)位置の後退レンジ位置R、該後退レンジ位置RからL字状となる車両右後ろ側位置の中立レンジ位置N、該中立レンジ位置Nから車両後ろ側位置の前進レンジ位置D、該前進レンジ位置Dから車両右側位置のマニュアルレンジ位置Mで構成している。
【0030】
なお、本明細書において、車両を中心とした方向は、座席3に着座した運転者から見た方向であり、例えば、車両前方とはエンジンルーム1A側である前側を示し、右側とは、車両前方向きに着座した運転者にとっての右側であることをいう。
【0031】
マニュアルレンジ位置Mは、前進レンジ位置Dに対して倒位のT字型で形成された溝形状であり、「−」を示す車両前方側にはシフトレバー21を前方に倒した際に押下されるシフトダウンスイッチ24を装備し、「+」を示す車両後方側にはシフトレバー21を後方に倒した際に押下されるシフトアップスイッチ25を装備している。
【0032】
上記構成により、運転者は、ガイド盤22の操作溝23に沿ってシフトレバー21を所定位置に移動操作することで車両1における自動変速機10を所望のレンジに設定することができる。具体的には、シフトレバー21を前進レンジ位置Dに移動操作することで自動変速機10は自動変速モードに設定され、図示省略するアクセルを踏み込むことで前進することができる。
【0033】
また、シフトレバー21をマニュアルレンジ位置Mに移動操作し、さらに、シフトレバー21を車両前後方向に倒して、シフトダウンスイッチ24やシフトアップスイッチ25を押下することでシフトアップダウン操作をすることができる。
【0034】
次に、図3とともに、自動変速機10を制御する制御装置30の構成について説明する。
制御装置30は、図3に示すように、制御コントローラ31と、該制御コントローラ31に接続され、車速を検出する車速センサ32、アクセルの開度を検出するアクセル開度センサ33、シフトレバー21が操作された位置を検出するシフト位置センサ34、トルクコンバータのタービン回転数を検出するタービン回転数センサ35、ATFの油温を検出する油温センサ36、車両1が走行する走行路の勾配を検出する勾配センサ37、及び後述する管理テーブル(図7参照)等を記憶する記憶部38とで構成している。
【0035】
また、上述のシフト操作部20のシフトダウンスイッチ24やシフトアップスイッチ25も制御コントローラ31に接続されている。さらにまた、自動変速機10も制御コントローラ31からの変速指令によって変速動作するよう制御コントローラ31に接続されている。
【0036】
次に、制御コントローラ31からの変速指令によって変速動作する自動変速機10において、マニュアルモード時の過回転防止のための自動シフトアップ変速動作について、図4に示すフローチャートともに説明する。
【0037】
まず、制御コントローラ31は、シフト位置センサ34の検出結果からシフトレバー21がマニュアルレンジ位置Mに位置しているか否か、すなわちマニュアルモードが選択されているか否かを判断する(ステップs1)。
【0038】
その結果、マニュアルモードでない、すなわちシフトレバー21が前進レンジ位置Dに位置する自動変速モードである場合(ステップs1:No)、自動変速モードにおける変速マップに基づいて変速動作が行われ、エンジンの過回転、すなわちオーバーレブ状態とならないため、このフローを終了する。
【0039】
シフトレバー21がマニュアルレンジ位置Mに位置し、マニュアルモードが選択されている場合(ステップs1:Yes)、タービン回転数センサ35の検出結果からエンジン回転数を検出し、予め設定された設定限界回転数Aを超えているかどうか判断する(ステップs2)。
【0040】
検出されたエンジン回転数が設定限界回転数Aを超えていない場合(ステップs2:No)、エンジンの過回転、すなわちオーバーレブ状態とならないため、このフローを終了する。
【0041】
検出されたエンジン回転数が設定限界回転数Aを超えている場合(ステップs2:Yes)、制御コントローラ31はアクセル開度センサ33からアクセル開度を検出し、アクセル開度メモリAP01として記憶部38に記憶し(ステップs3)、エンジンの過回転を防止するために、自動変速機10にシフトアップ指令を出力する(ステップs4)。なお、シフトアップ指令の出力によって自動変速機10はシフトアップ変速動作を開始する(変速開始S)。
【0042】
自動変速機10へのシフトアップ指令出力後(変速開始S)において、アクセル開度センサ33の検出結果からアクセル開度が変化するアクセル操作があったことを検出すると、制御コントローラ31は今回のアクセル開度センサ33の検出結果と、記憶部38に記憶したアクセル開度メモリAP01と比較して、所定アクセル戻り量B以上のアクセル戻し操作があったかどうか判断する。
【0043】
アクセル戻し操作が所定アクセル戻り量B以下であった場合(ステップs5:No)は、自動シフトアップ変速動作を続行し(ステップs7)、このフローを終了する。
【0044】
アクセル戻し操作が所定アクセル戻り量B以上であった場合(ステップs5:Yes)は、ステップs4で自動変速機10に対して出力されたシフトアップ指令(変速開始S)によって自動変速機10のシフトアップ変速動作が進行し、図5におけるタービン回転数の山折れ部分で示すイナーシャフェーズ開始Iを超えているか否かを判断する。
【0045】
なお、イナーシャフェーズ開始Iは、図5に示すように、トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行した時点であり、シフトアップ変速によるエンジン回転数あるいはタービン回転数の増減方向の逆転変化を検知した時点である。
【0046】
すでに、アクセル戻し操作のタイミングがイナーシャフェーズ開始Iを超えている場合(ステップs6:Yes,図5中アクセル戻し操作2参照)、自動シフトアップ変速動作を続行し(ステップs7)、このフローを終了する。
【0047】
アクセル戻し操作のタイミングがイナーシャフェーズ開始Iを超えていない、イナーシャフェーズ開始I以前の場合(ステップs6:No,図5中アクセル戻し操作1参照)、自動シフトアップ変速動作を解除し(ステップs9)、元の変速段に戻りこのフローを終了する。
なお、「START」から「RETURN」までのフローは走行中繰り返し実行される。
【0048】
次に、ステップs2で検出されたエンジン回転数を比較する基準となる設定限界回転数Aを設定するための設定限界回転数設定処理について、図6及び図7とともに説明する。
【0049】
まず、自動変速機10に対して変速指令を出力する制御装置30において、図5に示すように、設定限界回転数Aは、シフトアップ開始(制御コントローラ31から自動変速機10へのシフトアップ指令:変速開始S)から完了(変速完了E)までに所定の作動時間Tを要するため、作動時間Tでの回転数の上昇によってエンジン限界回転数Lを超えないように、予め作動時間Tでの回転数上昇を踏まえ、設定限界回転数Aをエンジン限界回転数Lより低く設定している。
【0050】
しかも、作動時間Tは一律ではなく、自動変速機10内部における回転要素の拘束する摩擦要素(クラッチやブレーキ)の配置や機構が変速段によって異なるため作動時間Tも異なる。
【0051】
したがって、長い作動時間Tを要する変速段の場合、回転数の上昇分を考慮して設定限界回転数Aを低い回転数に設定し、作動時間Tが短い変速段の場合、回転数の上昇の影響は少ないため設定限界回転数Aを高い回転数に設定することができる。なお、各変速段に対応する設定限界回転数Aの回転数を変速段別限界回転数として、記憶部38に格納する変速段別限界回転数管理テーブル41で管理している(図7(a)参照)。
【0052】
さらには、自動変速機10内部に充填したATFの油温によっても作動時間Tは異なる。詳しくは、一般的なATFは、常温での動粘度は20.8mm2/s、100度での動粘度は4.2mm2/sというような値を示すように、油温によって動粘度が異なるため、自動変速機10の変速動作に大きな影響を与えるATFの動粘度によって作動時間Tが異なり、動粘度の高い低温時においては作動時間Tが長くなるため、設定限界回転数Aを低い回転数に設定する必要がある。
【0053】
なお、油温に対応する設定限界回転数Aの回転数を低回転補正する油温別補正回転数として、記憶部38に格納する油温別補正回転数管理テーブル42で管理している(図7(b)参照)。
【0054】
さらにまた、車両1が走行する走行路が勾配を有する場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、作動時間Tにおける回転数の変化は異なるため、走行路の道路勾配に応じた設定限界回転数Aを設定する必要がある。
【0055】
詳しくは、走行路が登板路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は遅く、設定限界回転数Aを高い回転数で設定することができる。なお、登板路における登板勾配に対応する設定限界回転数Aの回転数を高回転補正する登板勾配別補正回転数として登板勾配別補正回転数テーブル43で管理している(図7(c)参照)。
【0056】
逆に、走行路が下り坂路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は早く、設定限界回転数Aを低い回転数で設定しなければならない。なお、下り坂路における下り坂勾配に対応する設定限界回転数Aの回転数を低回転補正する下り坂勾配別補正回転数として下り坂勾配別補正回転数テーブル44で管理している(図7(d)参照)。
【0057】
したがって、状況に応じて適切な設定限界回転数Aを設定する制御コントローラ31は、まず、シフト位置センサ34での検出結果を元に現在マニュアルモードで選択されている変速段を検出し(ステップt1)、検出した変速段の対応する変速段別限界回転数を変速段別限界回転数管理テーブル41から読み出して一旦、仮設定限界回転数A’に設定する(ステップt2)。
【0058】
次に制御コントローラ31は、油温センサ36からATFの油温を検出し(ステップt3)、その結果、所定の基準油温Cより低いかどうか判断し、低温である場合(ステップt4:Yes)、制御コントローラ31は基準油温Cからの温度差に基づいて、油温別補正回転数管理テーブル42に格納する油温別補正回転数分を仮設定限界回転数A’に反映させて、低回転化する(ステップt5)。
【0059】
ステップt3での油温検出結果が基準油温Cより高温であった場合や(ステップt4:No)、ステップt5で仮設定限界回転数A’を低回転補正した後の制御コントローラ31は、次に走行路の道路勾配を加速度から算出する勾配センサ37で検出する(ステップt6)。
【0060】
勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超える登板勾配である場合(ステップt7:Yes)、登板勾配に基づいて、登板勾配別補正回転数テーブル43に格納する登板勾配別補正回転数分を仮設定限界回転数A’に反映させて高回転化し(ステップt8)、高回転化した仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0061】
逆に、勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超える下り坂勾配である場合(ステップt7:No、ステップt9:Yes)、下り板勾配に基づいて、下り坂勾配別補正回転数テーブル44に格納する下り板勾配別限界回転数低回転補正回転数分を仮設定限界回転数A’に反映させて低回転化し(ステップt10)、低回転化した仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0062】
なお、勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超えず(ステップt7:No,ステップt9:No)且つステップt3での油温検出結果が基準油温Cより高温である場合(ステップt4:No)、ステップt2で設定した仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0063】
さらにまた、ステップt5で低回転化されたが、勾配センサ37で検出した道路勾配が基準勾配Dを超えない場合(ステップt7:No,ステップt9:No)、制御コントローラ31はステップt5で低回転化された仮設定限界回転数A’を設定限界回転数Aに設定して(ステップt11)、このフローを終了する。
【0064】
このように、本発明の自動変速機10の制御装置30は、手動操作によって出力される信号に基づいて変速を行うマニュアルモードを備え、マニュアルモードで設定されている変速段に対して、タービン回転数が設定限界回転数A以上となることを検知した場合にはその変速段から次の変速段へのシフトアップ変速を、手動操作に基づく信号によらずに実行する。
【0065】
そして、設定限界回転数A以上のタービン回転数検知(ステップs2:Yes)によるシフトアップ変速の変速指令が出力されてから(ステップs4,変速開始S)、上記シフトアップ変速の変速進行度がイナーシャフェーズ開始Iに達するまでの間に(ステップs6:Yes)、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル戻し操作(図5中アクセル戻し操作1参照)が入力された場合(ステップs5:Yes)に上記シフトアップ変速を解除することができる(ステップs8:図5中シフトアップ解除1参照)。
【0066】
上記構成により、シフトアップ指令(変速開始S)から変速完了Eまでには作動時間Tを要するが、その作動時間Tにおけるイナーシャフェーズ開始Iに達するまでの間に、運転者によるアクセルを戻すアクセル戻し操作(アクセル戻し操作1(図5参照))があった場合に、シフトアップ変速を解除する(シフトアップ解除1(図5参照))ことができるため、アクセル戻し操作とシフトアップとによる運転者の意図しない大きな駆動力低下変化を防止することができ、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0067】
また、アクセル戻し操作によるシフトアップ変速の解除と続行との経過的境界となる上記所定変速進行度をイナーシャフェーズ開始Iとしたことによって、シフトアップ変速を解除したことによる変速ショックに起因する違和感等のドライバビリティの低下を防止できる。
【0068】
詳しくは、イナーシャフェーズ開始I前であれば(アクセル戻し操作1(図5参照))、シフトアップ変速による回転数変化は生じておらず、シフトアップ変速を解除しても(シフトアップ解除1(図5参照))、意図しない変速ショックが生じることはないが、シフトアップ変速による回転数変化が生じているイナーシャフェーズ開始I後にシフトアップ変速を解除すると(シフトアップ解除2(図5参照))、シフトアップ変速解除による回転数変化が生じ(回転数変化2(図5参照))、シフトアップ変速解除による回転数変化によって意図しない変速ショックが生じることとなる。
【0069】
このように、シフトアップ変速の解除によって変速ショックが生じるようになるイナーシャフェーズ開始Iを経過的基準として、アクセル戻し操作(アクセル戻し操作1(図5参照))がイナーシャフェーズ開始I前であればシフトアップ変速を解除し(シフトアップ解除1(図5参照))、イナーシャフェーズ開始I後であれば(アクセル戻し操作2(図5参照))シフトアップ変速を続行することで、シフトアップ変速を解除したことによるドライバビリティの低下を防止できる。
【0070】
なお、本実施例においては、図5に示すタービン回転数をタービン回転数センサ35で検出してエンジンの過回転を防止する構成であったが、図5に示すようにタービン回転数とエンジン回転数とは対応関係にあるため、制御装置30にエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサを設けてエンジン回転数を直接検出する構成であってもよい。
【0071】
また、同様に、制御装置30にタイヤ回転数を検出するタイヤ回転数センサを設けて自動変速機のギア比に基づいてエンジン回転数を算出する構成であっても良い。なお、本実施例においては、もっとも回転数の検出精度の高いタービン回転数を用いている。
【0072】
また、制御装置30には、上記車両1の進行方向の道路勾配を検知する勾配センサ37を備え、上記設定限界回転数Aを、上記道路勾配の勾配量に応じて設定する(ステップt8,ステップt10)ため、車両1が走行する道路勾配に応じてエンジンの過回転を検知するための設定限界回転数Aを適切に設定でき、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを低減できる。
【0073】
詳しくは、走行路が登板路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は遅く、設定限界回転数Aを高い回転数で設定することができる。
【0074】
逆に、走行路が下り坂路である場合、平坦な走行路を走行する場合と比較して、アクセル開度に対するエンジン回転数の上昇は早く、設定限界回転数Aを低い回転数で設定しなければならない。
【0075】
このように、道路勾配が登坂の場合は設定限界回転数Aを高回転化し、下り坂の場合は設定限界回転数Aを低回転化できるため、より詳細に道路勾配に応じた設定限界回転数Aをできる。したがって、エンジン回転数が上昇しやすい下り坂を走行している場合であっても確実にエンジン限界回転数Lを越えることなく、また、エンジン回転数が上昇しにくい登坂路を走行している場合であっても必要以上に自動シフトアップ変速が実行されることを防止できる。
【0076】
なお、上記実施例では、道路勾配が登坂の場合は設定限界回転数Aを高回転化し、下り坂の場合は設定限界回転数Aを低回転化する構成であったが、道路勾配が登坂の場合の高回転化と、下り坂の場合の低回転化のいずれか一方だけを実行する構成であってもよい。
【0077】
また、上記勾配センサ37は、加速度を検出する加速度センサによって構成しているが、駆動出力と車速から勾配を算出する方法、或いは、GPSナビゲーションシステムのマップデータから勾配情報を読み出す方法であってもよい。
【0078】
また、制御装置30には、自動変速機10のATF温度を検知する油温センサ36を備え、上記設定限界回転数Aを、上記ATF温度に応じ、ATF温度が低温であるほど低い回転数に設定できるため、低温時の確実なエンジンの過回転を防止することができる。
【0079】
詳しくは、ATFが低温である場合は粘度が高く、ATFが高温である場合と比較して、シフトアップ開始(変速開始S)から完了(変速完了E)までの作動時間Tが長くかかるため、上記設定限界回転数Aを、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定することで、作動時間Tが長くかかった場合であっても確実にエンジン限界回転数Lを超えてオーバーレブとなることを防止できる。
【0080】
さらには、制御装置30は、マニュアルモードで設定されている変速段に応じた設定限界回転数Aを設定できるため、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを低減できる。
【0081】
詳しくは、自動変速機10内部における回転要素の拘束する摩擦要素(クラッチやブレーキ)の配置や機構が変速段によって異なることに起因して作動時間Tが異なるため、長い作動時間Tを要する変速段の場合、回転数の上昇分を考慮して設定限界回転数Aを低い回転数に設定し、作動時間Tが短い変速段の場合、回転数の上昇の影響は少ないため設定限界回転数Aを高い回転数に設定することができる。これにより、より確実にエンジンの過回転を防止できるとともに、不要な強制シフトアップを低減できる。
【0082】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の手動変速モードは、マニュアルモードに対応し、
以下同様に、
エンジン回転数あるいはその関連回転数は、タービン回転数に対応し、
所定回転数は、設定限界回転数Aに対応し、
所定変速進行度は、イナーシャフェーズ開始Iに対応し、
アクセル開度を所定値以上戻すアクセル操作は、アクセル戻し操作に対応し、
変速制御装置は、制御装置30に対応し、
道路勾配検知手段は、勾配センサ37に対応し、
油温は、ATFの温度に対応し、
自動変速機油温検知手段は、油温センサ36に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができ、例えば、ステップs4におけるシフトアップ指令(変速開始S)後に、タービン回転数センサ35からの検出結果を確認する制御コントローラ31によってイナーシャフェーズ開始Iを監視し、イナーシャフェーズ開始Iが確認できない状態でアクセル開度の所定アクセル戻り量Bの戻しを確認してシフトアップ実行を解除する処理方法であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…車両
10…自動変速機
30…制御装置
36…油温センサ
37…勾配センサ
A…設定限界回転数
I…イナーシャフェーズ開始
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動操作によって出力される信号に基づいて変速を行う手動変速モードを備え、手動変速モードで設定されている変速段に対して、エンジン回転数あるいはその関連回転数が所定回転数以上となることを検知した場合にはその変速段から次の変速段へのシフトアップ変速を、手動操作に基づく信号によらずに実行する車両用の自動変速機の変速制御装置であって、
上記所定回転数A以上のエンジン回転数あるいはその関連回転数を検知したことによるシフトアップ変速の変速指令が出力されてから上記シフトアップ変速の変速進行度が所定変速進行度に達するまでの間に、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル操作が入力された場合に上記シフトアップ変速を解除する
自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
上記所定変速進行度を、イナーシャフェーズ開始までとした
請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
上記車両の進行方向の道路勾配を検知する道路勾配検知手段を備え、
上記所定回転数を、上記道路勾配の勾配量に応じて設定する
請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
自動変速機の油温を検知する自動変速機油温検知手段を備え、
上記所定回転数を、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定する
請求項1乃至3のうちいずれかに記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項1】
手動操作によって出力される信号に基づいて変速を行う手動変速モードを備え、手動変速モードで設定されている変速段に対して、エンジン回転数あるいはその関連回転数が所定回転数以上となることを検知した場合にはその変速段から次の変速段へのシフトアップ変速を、手動操作に基づく信号によらずに実行する車両用の自動変速機の変速制御装置であって、
上記所定回転数A以上のエンジン回転数あるいはその関連回転数を検知したことによるシフトアップ変速の変速指令が出力されてから上記シフトアップ変速の変速進行度が所定変速進行度に達するまでの間に、アクセル開度を所定値以上戻すアクセル操作が入力された場合に上記シフトアップ変速を解除する
自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
上記所定変速進行度を、イナーシャフェーズ開始までとした
請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
上記車両の進行方向の道路勾配を検知する道路勾配検知手段を備え、
上記所定回転数を、上記道路勾配の勾配量に応じて設定する
請求項1又は2に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
自動変速機の油温を検知する自動変速機油温検知手段を備え、
上記所定回転数を、上記油温に応じ、油温が低温であるほど低い回転数に設定する
請求項1乃至3のうちいずれかに記載の自動変速機の変速制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−159853(P2010−159853A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3531(P2009−3531)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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