説明

芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体、この芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を使用したプリプレグ、及びこのプリプレグを使用した積層板並びに配線板

プリプレグ及びその製造方法、プリプレグを使用した積層板並びにプリント配線板が開示される。プリプレグは、織布または不織布の基材と、基材上に含浸された芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体とを含む。これにより、プリプレグは、変形やブリスタが発生せずに、高周波領域で低誘電特性を有する。また、プリプレグを使用した金属箔積層板またはプリント配線板は金属薄膜の腐食が改善されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体、この芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を使用したプリプレグ、及びこのプリプレグを使用した積層板並びに配線板に係り、さらに詳細には、変形やブリスタが発生せずに、高周波領域で低誘電特性を有する芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体、この芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を使用したプリプレグ、及びこのプリプレグを使用した積層板並びに配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電子機器の小型化、多機能化によって、プリント配線板の高密度化、小型化が進んでおり、銅箔積層板は、スタンピング加工性、ドリル加工性にすぐれ、価格が廉価であって、電子機器のプリント配線板用の基板として広く利用されている。
【0003】
このようなプリント配線板用の銅箔積層板に利用されるプリプレグは、半導体の性能、及び半導体パッケージング製造工程条件に適するように、下記の主要特性を満足せねばならない:
【0004】
(1)金属熱膨張率に対応可能な低熱膨張率;
【0005】
(2)1GHz以上の高周波領域での低誘電率及び誘電安定性;
【0006】
(3)270℃ほどのリフロー工程に対する耐熱性。
【0007】
プリプレグは、エポキシまたはビスマレトリアジンに由来する樹脂をガラス織布に含浸させた後、半硬化させて製造する。次に、前記プリプレグに銅箔を積層させて樹脂を硬化させ、銅箔積層板を製造する。かような銅箔積層板は、薄膜化され、270℃のリフロー工程など、高温工程を経ることになるが、このような高温工程を経つつ、薄膜状の銅箔積層板が、熱変形によって収率が低下するというような問題点がある。また、エポキシまたはビスマレトリアジンの樹脂は、それ自体の高い吸湿性によって改善が要求されており、特に、1GHz以上の高周波領域での誘電特性が劣悪であり、高周波、高速処理を要求する半導体パッケージング用のプリント配線板に適用し難いという問題点がある。従って、このような問題点を引き起こさない低誘電性のプリプレグが要求されている。
【0008】
また、最近、エポキシまたはビスマレトリアジン由来の樹脂の代替として、芳香族液晶ポリエステルをプリプレグ形成に利用した例もある。かようなプリプレグは、有機または無機の織布に、芳香族液晶ポリエステルを含浸させて製造する。特に、芳香族液晶ポリエステル樹脂と芳香族液晶ポリエステル織布とを使用し、芳香族液晶ポリエステル・プリプレグを製造した場合もある。具体的に、芳香族液晶ポリエステルを、塩素のようなハロゲン元素を含有する溶剤に溶解させて溶液組成物を製造し、この溶液組成物を芳香族液晶ポリエステル織布に含浸させた後で乾燥させ、芳香族液晶ポリエステル・プリプレグを製造する。しかし、この方法は、ハロゲン元素を含有する溶剤を完全に除去し難く、ハロゲン元素が銅箔を腐食させることがあり、非ハロゲン溶剤の使用への改善が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体、及びこれを使用することによって変形やブリスタが発生しないプリプレグを提供することを目的とする。
【0010】
本発明の目的はまた、高周波領域で低誘電特性を有するプリプレグを提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、前記プリプレグを使用したプリプレグ積層板及び金属箔積層板を提供することである。
【0012】
本発明の目的はまた、前記プリプレグを使用したプリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記のような課題を解決するために本発明は、(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体と、芳香族アミノカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体とからなる群から選択された少なくとも1種と、(2)芳香族ジアミン、またはそのアミド形成用誘導体と、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、またはそのアミド形成用誘導体とからなる群から選択された少なくとも1種と、(3)芳香族ジカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体とを重合して得られる芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体が提供される。
【0014】
また、前記のような課題を解決するために本発明は、基材と、前記基材上に含浸された前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体とを含むプリプレグを提供する。
【0015】
また、前記のような課題を解決するために本発明は、前記プリプレグを少なくとも一つ積層して得られるプリプレグ積層板を提供する。
【0016】
また、前記のような課題を解決するために本発明は、前記プリプレグ積層板の少なくとも一面上に金属薄膜を形成した金属箔積層板を提供する。
【0017】
また、前記のような課題を解決するために本発明は、前記金属箔積層板の金属薄膜をエッチングして得られるプリント配線板を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の望ましい実施例について詳細に説明する。
【0019】
本実施例によるプリプレグは、基材及び前記基材上に含浸された芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を含む。
【0020】
本実施例によるプリプレグは、芳香族液晶ポリエステルアミド重合体を溶剤に溶解させた組成物溶液を、基材に含浸または塗布した後、溶剤を除去して得られる。
【0021】
基材としては、芳香族液晶ポリエステル、ガラス、カーボン、ガラス紙、またはそれらの混合物で形成された織布及び/または不織布が使われうる。機械的、電気的特性及び経済性側面で、ガラス織布を使用することが望ましい。
【0022】
芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体としては、溶剤に溶解可能なものであるならば、制限なしに使われうるが、望ましくは、400℃以下で光学的異方性を示す溶融体を形成できるサーモトロピック(thermotropic)液晶ポリエステルアミド共重合体が使われうる。具体的に、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、溶融温度(融点)が250℃ないし400℃であることが望ましい。前記温度が250℃未満であるならば、後のプリント配線板の基板加工工程におけるハンダ付け温度より低いため、基板の変形が発生するので望ましくなく、400℃を超えるようになれば、重合体の溶剤溶解度が落ちて望ましくない。また、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、数平均分子量が1,000ないし20,000であることが望ましい。前記数平均分子量が1,000未満であるならば、液晶性が示され難くて望ましくなく、20,000を超えるようになれば、溶解性が低くなって望ましくない。
【0023】
かような特性を有する芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体として、次の例を挙げることができる:
【0024】
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体と、芳香族アミノカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体とからなる群から選択された少なくとも1種と、
【0025】
(2)芳香族ジアミン、またはそのアミド形成用誘導体と、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、そのアミド形成用誘導体とからなる群から選択された少なくとも1種と、
【0026】
(3)芳香族ジカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体とを重合して得られる重合体。
【0027】
また、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、前記(1)、(2)、(3)の化合物以外に、重合反応性の補完のために、芳香族ジオール化合物30モル%以下をさらに添加して重合されうる。前記添加量が30モル%を超えるようになれば、溶解性が低下して望ましくない。この場合、芳香族ジオール化合物としては、ビフェノール及び/またはヒドロキノンなどが使われうる。
【0028】
前記芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸、または芳香族ジカルボン酸のエステル形成用誘導体は、それらが酸塩化物、酸無水物などの反応性が高い誘導体からなっているか、またはアルコール類やエチレングリコールなどや、エステルを形成するものなどを意味する。
【0029】
また、前記芳香族ジアミン、または芳香族アミンのアミド形成用誘導体は、それらのアミン基がカルボン酸類とアミドを形成するものなどを意味する。
【0030】
前記のような重合反応によって、前記芳香族液晶ポリエステルアミド重合体は、多様な反復単位を鎖内に含むことになり、例えば、次のような反復単位を含むことができる。
【0031】
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する反復単位
【0032】
【化1】

【0033】
【化2】

【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
(2)芳香族アミノカルボン酸に由来する反復単位
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
(3)芳香族ジアミンに由来する反復単位
【0042】
【化9】

【0043】
【化10】

【0044】
【化11】

【0045】
(4)フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する反復単位
【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
(5)芳香族ジカルボン酸に由来する反復単位:
【0050】
【化15】

【0051】
【化16】

【0052】
【化17】

【0053】
【化18】

【0054】
【化19】

【0055】
【化20】

【0056】
【化21】

【0057】
【化22】

【0058】
前記式で、R及びRは、互いに同一であるか異なり、それぞれハロゲン原子、カルボン酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換または非置換のC−C20アルキル基、置換または非置換のC−C20アルコキシ基、置換または非置換のC−C20アルケニル基、置換または非置換のC−C20アルキニル基、置換または非置換のC−C20ヘテロアルキル基、置換または非置換のC−C30アリール基、置換または非置換のC−C30アリールアルキル基、置換または非置換のC−C30ヘテロアリール基、あるいは置換または非置換のC−C30ヘテロアリールアルキル基を示す。
【0059】
本実施例による芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は:
【0060】
(1)パラヒドロキシベンゾ酸及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸からなる群から選択された1種以上の化合物に由来する反復単位と、4−アミノベンゾ酸、2−アミノ−ナフタレン−6−カルボン酸、及び4’−アミノ−ビフェニル−4−カルボン酸からなる群から選択された1種以上の化合物に由来する反復単位のうち、少なくとも1つの反復単位30ないし70モル%;
【0061】
(2)1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、及び2,6−ナフタレンジアミンからなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復単位と、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、及び2−アミノ−6−ナフトールからなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復単位のうち、少なくとも1つの反復単位10ないし40モル%;
【0062】
(3)イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復単位10ないし40モル%を含むことができる。
【0063】
この場合、前記(1)の反復単位が30モル%未満であるならば、液晶性が低下して望ましくなく、70モル%を超えるようになれば、溶剤への溶解性が低下して望ましくない。また、前記(2)の反復単位が10モル%未満であるならば、液晶性が低下して望ましくなく、40モル%を超えるようになれば、溶剤への溶解性が低下して望ましくない。また、前記(3)の反復単位が10モル%未満であるならば、溶剤への溶解性が低下して望ましくなく、40モル%を超えるようになれば、液晶性が低下して望ましくない。
【0064】
前述のような芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、一般的な芳香族液晶ポリエステルの製造方法によって製造でき、例えば、前記(1)の反復単位に対応する芳香族ヒドロキシカルボン酸、及び前記(2)の反復単位に対応する芳香族ジアミン、または芳香族ジアミンのフェノール性水酸基やアミド基を、過量の脂肪酸無水物によってアシル化してアシル化物を得て、得られたアシル化物を、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種とエステル交換することによって、溶融重合する方法を挙げることができる。
【0065】
前記アシル化反応において、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基やアミド基の1.0ないし1.2倍当量が望ましく、1.04ないし1.07がさらに望ましい。前記脂肪酸無水物の添加量が多ければ、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体の着色が顕著になる傾向があり、少なければ、重合体から原料モノマーなどが昇華したり、またはフェノールガスの発生量が多くなる傾向がある。かようなアシル化反応は、130ないし170℃で、30分ないし8時間反応させることが望ましく、140ないし160℃で、2ないし4時間反応させることがさらに望ましい。
【0066】
前記アシル化反応に使われる脂肪酸無水物は、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水イソブチル酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水ブチル酸などがあり、これらに特別に限定されるものではない。また、これら2種以上を混合して使用できる。経済性と取扱性とで、無水酢酸を使用することが望ましい。
【0067】
前記エステル交換及びアミド交換反応は、130ないし400℃で、0.1ないし2℃/分の昇温速度で実行することが望ましく、140ないし350℃で、0.3ないし1℃/分の昇温速度で実行することがさらに望ましい。
【0068】
このようにアシル化して得た脂肪酸エステルを、カルボン酸とエステル交換及びアミド交換反応させるとき、平衡を移動させるために、副生される脂肪酸と未反応無水物は、蒸発させたり、または反応系外に蒸留除去することが望ましい。
【0069】
前記アシル化反応、エステル交換反応及びアミド交換反応は、触媒を利用して実施できる。この触媒は、従来からポリエステル用触媒として公知のものであり、酢酸マグネシウム、酢酸第1スズ、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどがある。この触媒は、通常単量体の投入時、単量体と同時に投入し、触媒を除去することなしに、アシル化及びエステル交換を実行する。
【0070】
前記エステル交換及びアミド交換反応による重縮合は、通常溶融重合によって実行されるが、溶融重合と固状重合とを併用できる。
【0071】
前記溶融重合において、重合器は、特別に限定されるものではない。一般的に、高粘度反応に使われる撹拌設備を利用した反応器も可能である。このとき、アシル化工程の反応器と溶融重合工程の反応器は、同じ反応器で行うことも可能であり、異なったものを利用することもできる。
【0072】
前記固状重合は、溶融重合工程で排出されたプレポリマーを粉砕し、フレーク状またはパウダー状にした後、固状重合法によって実行することが望ましい。具体的な固状重合法は、窒素などの不活性雰囲気で、200ないし350℃で、1ないし30時間固状状態で熱処理することによって実行できる。固状重合は、撹拌しつつ行ってもよく、停止した状態で行ってもよい。また、適当な撹拌器具を具備し、溶融重合槽と固状重合槽とを同じ反応槽とすることもできる。得られた芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、公知の方法によってペレット化して成形に提供できる。また、得られた芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、公知の方法によってファイバ化が可能であり、これを使用した織布または不織布の製造に利用されうる。
【0073】
前述のような芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、溶剤に溶解されて溶液化された組成物を形成した後、これを有機または無機の織布及び/または不織布に含浸または塗布によって成形し、これによって多層プリント配線板や、または積層体用基材として使われるプリプレグに形成されうる。このとき、使用可能な成形法としては、溶液含浸法またはワニス(varnish)含浸法を例に挙げることができる。
【0074】
前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を溶解させる溶剤は、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体100重量部に対して、100ないし100,000重量部の含有量で使用でき、前記溶剤の含有量が100重量部未満であるならば、溶液粘性が上昇して溶解度が低下する問題があり、100,000重量部を超える場合には、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体の量が少ないので、生産性が低下する傾向があって望ましくない。
【0075】
前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を溶解する溶剤としては、非ハロゲン溶剤が使われることが望ましい。しかし、本発明がこれに限定されるものではなく、それ以外に、極性非プロトン系化合物、ハロゲン化フェノール、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタンなどが、単独でまたは2種以上が共に使われうる。特に、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体は、非ハロゲン溶剤にも良好に溶解され、ハロゲン元素を含有する溶剤を使用しなくてもよいので、これを含んだ金属箔積層板またはプリント配線板の金属箔がハロゲン元素を含有する溶剤を使用する場合でのような、ハロゲン元素による腐食が防止されうる。
【0076】
前記プリプレグ製造工程で含浸法を使用する場合、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を溶剤に溶解させた組成物溶液を、前記基材に含浸する時間は、通常0.001分ないし1時間が望ましい。前記含浸時間が0.001分未満であるならば、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体が均一に含浸されず、1時間を超えれば、生産性が低下しうる。
【0077】
また、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を溶剤に溶解させた組成物溶液を、前記基材に含浸させる温度は、20ないし190℃の範囲で可能であり、室温で行うことが望ましい。
【0078】
また、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体が前記基材の単位面積当たり含浸される量は、0.1〜1,000g/mの範囲であることが望ましい。前記含浸量が0.1g/m未満である場合には、生産性が低下して望ましくなく、1,000g/mを超える場合には、組成物溶液の粘度が高く、加工が困難になって望ましくない。
【0079】
前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を溶剤に溶解させた組成物溶液には、発明の目的を損なわない範囲で、誘電率及び熱膨張率を調節するために、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムの無機フィラー、硬化エポキシ、架橋アクリルなどの有機フィラーが添加されうる。特に、高誘電率の無機フィラーを添加してもよい。かような無機フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸塩、チタン酸バリウムのチタンまたはバリウムの一部を他の金属で代替したものなどを利用できる。このような無機フィラーまたは有機フィラーの含有量は、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体100重量部に対して、0.0001ないし100重量部の比率であることが望ましい。前記無機フィラーまたは有機フィラーの添加量が0.0001重量部未満であるならば、プリプレグの誘電率を十分に高めたり、熱膨張率を低くするのに難点がある傾向があり、100重量部を超えるようになれば、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体のバインダとしての効果が少なくなる傾向がある。
【0080】
本実施例による樹脂含浸基材は、低吸湿性及び低誘電特性を有する芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体と、機械的強度にすぐれる有機または無機の織布及び/または不織布とを使用するので、寸法安定性にすぐれ、熱変形が少なくてしっかりしており、ビアホールドリル加工及び積層加工に有利である。
【0081】
前記プリプレグを製造する含浸法において、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体を溶剤に溶解させた組成物溶液を、前記基材に含浸または塗布した後、前記溶剤を除去する方法は、特別に限定されるわけではないが、溶剤蒸発によることが望ましい。例えば、加熱、減圧、通風などの方法による蒸発を挙げることができる。そのうちでも、既存プリプレグ製造工程への適用性、生産効率、取扱面で、溶剤加熱蒸発が望ましく、通風加熱によって蒸発することがさらに望ましい。
【0082】
前記溶剤除去工程で、加熱温度は、本発明の製造方法で得られる芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体の組成物溶液に対して、20ないし190℃の範囲で、1分ないし2時間予備乾燥し、190ないし350℃の範囲で、1分ないし10時間まで熱処理を行うことが望ましい。
【0083】
このように得られた本発明によるプリプレグは、約5ないし200μm、望ましくは、約30ないし150μmの厚さを有することが望ましい。また、前記プリプレグは、一方向の熱膨張係数が3〜10ppm/℃であり、誘電定数が3.5以下であることが望ましい。前記熱膨張係数が3ppm/℃未満であるならば、後のプリント配線板の基板加工における熱処理時に、変形が発生したり、または金属箔との剥離が発生して望ましくなく、10ppm/℃を超えるようになれば、積層された基材の剥離現象が発生して望ましくない。また、前記誘電定数が3.5を超えるようになれば、高周波領域での絶縁基材として不適であって望ましくない。
【0084】
前記プリプレグを使用した本実施例によるプリプレグ積層板は、前述のようなプリプレグを所定枚数積層させ、これを加熱及び加圧することによって製造できる。
【0085】
また、本実施例による金属箔積層板は、前記プリプレグを所定枚数積層した後、その一面または両面に、銅箔、銀箔、アルミ箔などの金属薄膜を配し、前記と同様に、加熱及び加圧することによって製造できる。前記金属箔積層板において、プリプレグ積層板及び金属薄膜それぞれの厚さは、特別に限定されるわけではないが、0.1ないし300μmであることが望ましい。前記プリプレグ積層板の厚さが0.1μm未満であるならば、巻き取り方式の加工時にクラック発生が起きやすくて望ましくなく、300μmを超えるようになれば、限定された厚さの多層積層の層数に限定があって望ましくない。前記金属薄膜の厚さが0.1μm未満であるならば、金属薄膜積層時にクラック発生が起きやすくて望ましくなく、300μmを超えるようになれば、多層積層に不利であって望ましくない。
【0086】
前記金属箔積層板の製造時に適用される加熱及び加圧工程は、望ましくは、温度150ないし180℃、圧力9ないし20MPaほどで行うが、プリプレグ特性や芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体組成物の反応性、プレス機の能力、目的とする金属箔積層板の厚さなどを考慮して適当に決定できるので、特別に限定されるものではない。
【0087】
また、本実施例による金属箔積層板は、プリプレグ積層板と金属薄膜との接合強度を高めるために、それらの間に介在された接着剤層をさらに含むことができる。前記接着剤層としては、熱可塑性樹脂組成物または熱硬化性樹脂組成物が使われうる。また、前記接着剤層は、厚さが0.1〜100μmであることが望ましい。前記厚さが0.1μm未満であるならば、接着強度が低くて望ましくなく、100μmを超えるようになれば、過度に厚くなって望ましくない。
【0088】
前記金属箔積層板を具備する本実施例によるプリント配線板は、例えば、本実施例の金属箔積層板の金属薄膜をエッチングし、回路を形成することによって製造でき、必要によって、スルーホールなどを形成してもよい。本実施例の多層プリント配線板は、例えば、目的とする絶縁層の厚さに合わせ、内層基材や金属薄膜などの構成材の間に、本実施例のプリプレグを所定枚数配し、加熱及び加圧下で成形して製造できる。このときの加熱及び加圧条件は、前記金属箔積層板の製造時の条件と同様に適切に決定できる。また、前記内層基材は、電気絶縁材料として使われるプリプレグ積層板、金属箔積層板またはプリント配線板などを例に挙げることができ、それらを2種以上併用することもできる。
【0089】
以下、本発明を、実施例を例に挙げてさらに詳細に説明するが、本発明がそれらに限定されるものではない。
【0090】
実施例1
【0091】
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を具備した反応器に、パラヒドロキシベンゾ酸621.5g、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸94.1g、4−アミノフェノール273g、イソフタル酸415.3g及び無水酢酸1,123gを投入した。前記反応器内部を窒素ガスで十分に置換させた後、窒素ガス気流下で、30分にわたって150℃まで昇温し、この温度を維持しつつ3時間還流させた。
【0092】
その後、流出される酢酸及び未反応無水酢酸を蒸留除去しつつ、180分間320℃まで昇温し、トルクが上昇する時点を反応終了と見なし、内容物を排出させた。得られた固形分を室温まで冷却させ、微粉砕器で粉砕した後、窒素雰囲気下で、260℃で5時間維持しつつ固状重合を行い、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体粉末を得た。得られた粉末は、偏光顕微鏡によって、400℃以下で液晶特有のSully Christopher Wren形態が観察された。
【0093】
このように得られた芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体の粉末7gを、N−メチルピロリジノン(NMP)93gに添加し、120℃で4時間撹拌し、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体の組成物溶液を得た。
【0094】
この組成物溶液に、ガラス織布(IPC 2116)を80℃の温度で含浸させ、ダブルローラ間に通過させ、余分の組成物溶液を除去し、厚さを一定にした。その後、高温熱風乾燥器に入れ、120℃で溶剤を除去した後、300℃で60分間熱処理し、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体がガラス織布に含浸された形態のプリプレグを得た。
【0095】
実施例2
【0096】
パラヒドロキシベンゾ酸448.9g、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸9.4g、4−アミノフェノール136.5g、ヒドロキノン137.6g、イソフタル酸415.3g、パラアミノベンゾ酸171.4g及び無水酢酸1,123gを、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体製造用として使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体がガラス織布に含浸された形態のプリプレグを得た。
【0097】
実施例3
【0098】
パラヒドロキシベンゾ酸448.9g、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸611.6g、4−アミノフェノール177.3g、ヒドロキノン89.5g、1,4フェニレンジアミン87.9g、イソフタル酸539.9g及び無水酢酸1,459.9gを、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体製造用として使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体がガラス織布に含浸された形態のプリプレグを得た。
【0099】
実施例4
【0100】
実施例1で製造した芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体の溶液に、高純度で焼成されたシリカ粉体(SiO
99%以上、比重:2.2、d90:13μm、熱膨張率:0.5ppm/℃、0〜1,000℃の範囲)を、前記溶液100重量部に対して、0.05重量部混合して分散させたことを除いては、実施例1と同じ方法で、芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体と無機フィラーとがガラス織布に含浸された形態のプリプレグを得た。
【0101】
前記実施例1〜4で製造したプリプレグの樹脂粉末脱落及び電気的特性の評価を、エポキシ樹脂をガラス織布に含浸させたプリプレグ(7409HGS、斗山株式会社製)と対比し、次の通り実施した。
【0102】
まず、前記実施例1〜4で得られたプリプレグと、7409HGSエポキシ含浸ガラス織布プリプレグとを、それぞれハンダ付け温度290℃のハンダ付け浴に1分間浸漬させ、表面状態を観察した。実施例1−4で製造されたプリプレグは、変形やブリスタが発生しなかったが、前記7409HGSエポキシ含浸ガラス織布プリプレグは、表面の一部が落ち、プリプレグ自体の変形も発生したことを確認した。
【0103】
また、前記実施例1〜4で得られたプリプレグと、7409HGSエポキシ含浸ガラス織布プリプレグについて、インピーダンス分析器を利用し、それぞれの誘電損失を測定した結果、実施例1で得られたプリプレグの誘電率が2.9(1GHz)、実施例2で得られたプリプレグの誘電率が2.8(1GHz)、実施例3で得られたプリプレグの誘電率が3.0(1GHz)、実施例4で得られたプリプレグの誘電率が2.9(1GHz)であると分かり、高周波領域で低い値を示した。しかし、7409HGSエポキシ含浸ガラス織布プリプレグの誘電率は4.9(1GHz)と示され、実施例1〜4の場合より、1.5倍以上の高い値を示した。
【0104】
また、前記実施例1〜4で得られたプリプレグと、7409HGSエポキシ含浸ガラス織布プリプレグについて、TMAを利用し、それぞれの熱膨張率を測定した結果、実施例1で得られたプリプレグの熱膨張率が、温度範囲50〜120℃で8.8ppm/℃、実施例2で得られたプリプレグの熱膨張率が、7.0ppm/℃、実施例3で得られたプリプレグの熱膨張率が、9.5ppm/℃、実施例4で得られたプリプレグの熱膨張率が、6.5ppm/℃であり、いずれも10ppm/℃未満であると分かった。しかし、7409HGSエポキシ含浸ガラス織布プリプレグの熱膨張率は、14ppm/℃であると示され、実施例1−4の場合より高い値を示した。
【0105】
一方、前述の通り、プリプレグを利用して積層板、金属箔積層板及びプリント配線板を製造する従来の製造方法によって、前記実施例で製造したプリプレグを利用し、プリプレグ積層板、金属箔積層板及びプリント配線板を製造できる。
【0106】
本発明について、実施例を参考に説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者ならば、それらから多様な変形及び均等な他の実施例が可能であるという点を理解することが可能であろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体と、芳香族アミノカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体とからなる群から選択された少なくとも1種と、
(2)芳香族ジアミン、またはそのアミド形成用誘導体と、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、またはそのアミド形成用誘導体とからなる群から選択された少なくとも1種と、
(3)芳香族ジカルボン酸、またはそのエステル形成用誘導体とを重合して得られる芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体。
【請求項2】
前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する反復単位が、下記化学式1ないし5からなる群から選択された少なくとも一つであり、前記芳香族アミノカルボン酸に由来する反復単位が、下記化学式6ないし8からなる群から選択された少なくとも一つであり、前記芳香族ジアミンに由来する反復単位が、下記化学式9ないし11からなる群から選択された少なくとも一つであり、前記フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する反復単位が、下記化学式12ないし14からなる群から選択された少なくとも一つであり、前記芳香族ジカルボン酸に由来する反復単位が、下記化学式15ないし22からなる群から選択された少なくとも1つである構造を有する請求項1に記載の芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

前記式で、
及びRは、互いに同一であるか異なり、それぞれハロゲン原子、カルボン酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換または非置換のC−C20アルキル基、置換または非置換のC−C20アルコキシ基、置換または非置換のC−C20アルケニル基、置換または非置換のC−C20アルキニル基、置換または非置換のC−C20ヘテロアルキル基、置換または非置換のC−C30アリール基、置換または非置換のC−C30アリールアルキル基、置換または非置換のC−C30ヘテロアリール基、あるいは置換または非置換のC−C30ヘテロアリールアルキル基を示す。
【請求項3】
(1)パラヒドロキシベンゾ酸及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸からなる群から選択された1種以上の化合物に由来する反復単位と、4−アミノベンゾ酸、2−アミノ−ナフタレン−6−カルボン酸、及び4’−アミノ−ビフェニル−4−カルボン酸からなる群から選択された1種以上の化合物に由来する反復単位のうち、少なくとも1つの反復単位30ないし70モル%と、
(2)1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、及び2,6−ナフタレンジアミンからなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復単位と、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、及び2−アミノ−6−ナフトールからなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復単位のうち、少なくとも1つの反復単位10ないし40モル%と、
(3)イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復単位10ないし40モル%とを含む請求項1に記載の芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体。
【請求項4】
数平均分子量が1,000ないし20,000であり、溶融温度が250ないし400℃である請求項1に記載の芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体。
【請求項5】
前記(1)、(2)及び(3)の化合物と、芳香族ジオール化合物30モル%以下とを重合して得られる請求項1に記載の芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体。
【請求項6】
前記芳香族ジオール化合物は、ビフェノール及びヒドロキノンのうち、少なくとも1種を含む請求項5に記載の芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体。
【請求項7】
基材と、
前記基材上に含浸された請求項1ないし請求項6のうち、いずれか1項に記載の芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体とを含むプリプレグ。
【請求項8】
前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体が、厚さ5ないし200μmである基材に、単位面積当たり含浸される量が0.1〜1,000g/mの範囲である請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記基材が、芳香族液晶ポリエステル、ガラス、カーボン、及びガラス紙からなる群から選択された少なくとも一つを含む請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記基材に添加された有機または無機のフィラーを、前記芳香族液晶ポリエステルアミド共重合体100重量部に対して、0.0001ないし100重量部の割合でさらに含む請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項11】
一方向の熱膨張係数が3〜10ppm/℃であり、誘電定数が3.5以下である請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項12】
請求項7に記載のプリプレグを少なくとも一つ積層して得られるプリプレグ積層板。
【請求項13】
請求項12に記載のプリプレグ積層板の少なくとも一面上に、金属薄膜を形成した金属箔積層板。
【請求項14】
請求項13に記載の金属箔積層板の金属薄膜をエッチングして得られるプリント配線板。

【公表番号】特表2010−528149(P2010−528149A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509273(P2010−509273)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【国際出願番号】PCT/KR2008/002824
【国際公開番号】WO2008/143455
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(508130188)サムスン ファイン ケミカルズ カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】