説明

薄膜堆積方法

本発明は、少なくとも1つのバーナー(2)を含む火炎処理装置に沿って移動するガラス基材(1)上に堆積された少なくとも1つの薄膜を火炎熱処理するための方法であり、この処理が少なくとも1つの薄膜の結晶化率を増大させ及び/又は少なくとも1つの薄膜内の微結晶サイズを増大させるのに適している方法であって、最大の一時的な曲げ「b」が150mm未満でかつ以下の条件、すなわち、b≦0.9×dを満たし、式中、曲げ「b」が、加熱されない基材の平面(P1)と、バーナー(2)の先端(6)を通りかつ加熱されない基材の平面(P1)に平行な平面(P2)に最も近い基材の点との間のmm単位で表される距離に対応し、「d」が、加熱されない基材の平面(P1)とバーナー(2)の先端(6)との間のmm単位で表される距離に対応し、移動方向(5)に垂直な方向での基材の幅「L」が1.1m以上であることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い無機膜、特にガラス基材上に堆積される薄い無機膜の分野に関する。本発明は、より詳細には、前記薄膜を少なくとも部分的に結晶化するためのプロセス並びにこのプロセスを使用して得られた或る種の製品に関する。
【背景技術】
【0002】
基材、特に平担か又はわずかに湾曲したガラスで作られた基材上には、得られる材料に対して特別な特性すなわち光学的特性、例えば所与の波長範囲を有する放射線に対する反射又は吸収特性;特定の導電率;又は清浄の簡便さ又は材料の自浄可能性に付随するその他の特性などを付与する目的で、数多くの薄膜が堆積される。
【0003】
これらの薄膜は通常、酸化物又は窒化物などの無機化合物、あるいは金属をベースとしている。それらの厚さは一般に数ナノメートルから数百ナノメートルまで変動し、したがってこれらは「薄」と称される。
【0004】
例を挙げると、インジウムスズ混合酸化物(ITOと呼ばれる)、インジウム亜鉛混合酸化物(IZOと呼ばれる)、ガリウムドープ又はアルミニウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウム又は亜鉛、あるいはフッ素ドープ及び/又はアンチモンドープ酸化スズをベースとする薄膜に言及してよい。これらのさまざまな膜は、透明であるもののそれでも伝導性又は半伝導性の膜であるという特別な特徴を有しており、これら2つの特性が求められる数多くのシステム、すなわち液晶ディスプレー(LCD)、太陽センサー又は光起電センサー、エレクトロクロミック又はエレクトロルミネッセント素子において利用される。
【0005】
導電特性及び赤外線反射特性を有する金属銀又は金属モリブデン又はニオブをベースとする薄膜、ひいては日照調整グレージング特に日照保護グレージング(入射太陽エネルギーの量を削減することを目的とする)又は低放射率グレージング(建物又は車両の外側に消散するエネルギー量を削減することを目的とする)におけるその使用にも言及してよい。
【0006】
自浄性をもち、紫外線作用下における有機化合物の分解及び鉱物汚染(粉塵)の流水の作用を介した除去をより容易にするという特別な特徴を有する酸化チタンベースの薄膜にも言及してよい。
【0007】
言及されたさまざまな膜は、それが少なくとも部分的に結晶化状態にある場合にその特性の一部が改善されるという共通の特徴を有する。一般に、目的は、これらの膜の結晶化度(結晶化された材料の重量又は体積比率及び結晶粒のサイズ(又はX線回折方法により測定されたコヒーレント回折ドメインのサイズ)を最大限にすること、又は一部のケースにおいては、特定の結晶学的形態を促進することにある。
【0008】
酸化チタンの場合、アナターゼ形態で結晶化された酸化チタンは、非晶質酸化チタン又はルチル又は板チタン石形態で結晶化された酸化チタンに比べて、有機化合物分解に関してはるかに効果的であることが公知である。
【0009】
結晶化度が高い、すなわち非晶質銀の残留含有量が少ない銀膜は、主に非晶質である銀膜に比べて低い放射率と低い抵抗率を有することも同様に公知である。同じことは、結晶学的にコヒーレントである結晶質ドメインのサイズが増大する場合にもあてはまる。これらの膜の導電率及び低放射率特性はこうして改善される。
【0010】
同様にして、上述の透明な伝導性膜、特にドープされた酸化亜鉛又はスズドープ酸インジウム膜は、それらの結晶化度が高くなればなるほど導電率が高くなる。
【0011】
特にガラス基材上で薄膜堆積のために工業的規模で一般に利用される1つのプロセスは、マグネトロンスパッタリングと呼ばれる磁気強化スパッタリングプロセスである。このプロセスにおいては、堆積すべき化学元素を含むターゲット近くの高真空の中でプラズマが生成される。ターゲットをボンバードするプラズマの活性種が前記元素を剥ぎ取り、基材上にこれらを堆積させて所望の薄膜を形成する。このプロセスは、ターゲットから剥ぎ取られた元素とプラズマ中に含まれたガスの間の化学反応の結果得られる材料で膜が構成される場合、「反応性」プロセスと言われる。したがって、金属チタンターゲットと酸素ベースのプラズマとを利用する反応性マグネトロンスパッタリングプロセスにより、酸化チタン膜を堆積させることが公知である。このプロセスの主要な利点は、さまざまなターゲットの下に連続的に基材を走らせることにより、同じライン上で非常に複雑な多重層コーティングを堆積させることができるという点にあり、これは一般に1つの同じ装置内で実施される。
【0012】
工業的規模でマグネトロンスパッタリングプロセスを実施する場合、基材は周囲温度にとどまるかあるいは、特に基材の走行速度が高い(これは一般に経済的理由で所望されることである)場合に、中程度の温度(80℃未満)まで上昇させられる。しかしながら、上述の膜の場合、関与する低温では結晶が十分に成長できないことから、利点と思われるかもしれないものが欠点となる。これは、最も詳細には、厚さの小さい薄膜及び/又は非常に高い融点を有する材料で作られた膜について言えることである。したがって、このプロセスによって得られる膜は、大半が、さらには全面的に、非晶質か又はナノ結晶質(結晶粒の平均サイズは数ナノメートル未満である)であり、所望の結晶化度又は所望の結晶粒サイズを得るためには熱処理が必要であることが判明している。
【0013】
考えられる熱処理は、堆積中又は堆積後、マグネトロンラインを離れた時点で、基材を再加熱することから成る。最も一般的には、少なくとも300℃又は400℃の温度が必要である。実際、基材の温度が薄膜を構成する材料の融点に近くなればなるほど、優れた結晶化が得られなくなり、結晶粒サイズは大きくなる。
【0014】
しかしながら、工業的マグネトロンライン内では、詳細には、幅数メートルの大型基材の場合には、本来必然的に放射性である真空中における熱伝達が制御困難でありかつコストが高くつくことから、特に1メートル超の寸法を有する建築用サイズの基材については、(堆積中に)基材の加熱を実施することはむずかしいことが判明している。厚さの小さいガラス基材の場合、このタイプの処理では破損の危険性が高くなることが多い。
【0015】
例えば炉又はオーブンの中に基材を置くか又は赤外線ランプなどの従来の加熱器から来る赤外線に基材を付すことによって、コーティングされた基材を堆積後に加熱することにもまた、これらのさまざまなプロセスが基材及び薄膜を区別なく加熱してしまう原因となるため、欠点がある。大きな基材(幅が数メートルのもの)の場合、基材の幅全体にわたり同じ温度を確保することが不可能であるために、基材を150℃超の温度まで加熱することは破損の原因になる可能性が高い。一般に基材を互いに重ね合わせて行なわれる切断又は保存を見込む前に基材を完全に冷却させる必要があることから、基材の加熱は同様に、プロセス全体の速度を低下させる。ガラス内部の応力発生ひいては破損の可能性を防止するために、高度に制御された冷却も不可欠である。このような高度に制御された冷却は非常に高価であるため、アニール処理は一般にガラス内部の熱応力を除去するのに十分なほど制御されておらず、したがってライン内破損の数は増大する。亀裂が線形に広がる傾向が低いことから、アニール処理には同様に、ガラスの切断をよりむずかしくするという欠点もある。
【0016】
ガラスがその軟化温度よりも高い温度(一般的に数分間600℃超、さらには700℃超)まで再加熱されることから、グレージングが曲げ加工を受け及び/又は強化された場合に基材の加熱がまさに発生する。したがって、強化又は曲げ加工によって、薄膜を結晶化させるという所望の結果を得ることができる。しかしながら、膜の結晶化を改善することだけを目的として全てのグレージングをこのような処理に付すのは高価なことであると思われる。その上、強化されたグレージングはもはや切断することができず、或る種の薄膜多層コーティングは、ガラスの強化中に受ける高温に耐えることができない。
【0017】
本出願人が出願した国際公開第2008/096089号は、膜に単位面積あたりの極めて高い出力を提供することからなる高速アニーリングプロセスについて記述している。膜は、熱が基材内部に拡散するひまなく、極めて急速に加熱される。こうして、基材を著しく加熱することなくかつ熱衝撃に関連する破損の危険性を制限しながら、薄膜を熱処理することが可能である。基材の走行方向に対し垂直に位置づけされた装置を用いたガラスの火炎処理は、提案されたプロセスの中に見られる。米国特許公開第2008/8829号も同様に、コーティングされたガラスの火炎処理のためのプロセスを記述している。
【0018】
しかしながら、この技術は、走行方向に垂直なその幅が1.1m超である大きなサイズの基材の場合に問題を呈するものであることがわかった。実際、発明者らは、ガラスシートが火炎処理装置の下を通過する時に曲げられ、非常に大きいものであり得る弓形を作り出すことに気付いた。この現象は、最終的なガラスが冷却時点でその当初の平担な形状に復帰するという意味において、純粋に一時的なものである。いずれか1つの科学的理論に拘束されることは望まないが、比較的高温であるガラスの上部層は、下部の低温層以上に膨張し、これらの膨張差を調整するためにガラス板は一時的に湾曲するように思われる。ガラスの厚さ内の温度勾配が減少すると、板ガラスはその初期形状に復帰する。この曲げは、たとえ一時的であっても、製造中に数多くの問題を提起し得るものである。隆起するガラスシートは、火炎処理装置に接近し、所々でそれに接触しさえし、隆起の最も大きいシートの部分(典型的には中央部分)はより高い温度を受けることから、こうして破損が導かれ、かついずれの場合でも処理は不均質となる可能性がある。得られる製品は、たとえ破損しなくても、処理の不均質性ひいては構造の不均質性を示す。その上、基材がローラーにより支持されて、火炎処理装置が基材の下側にある場合には、大きな問題が発生する。この場合、基材の曲げられた部分はローラーを押しのけ、破損を招いたり又は走行を停止させるかもしれない。この一時的な曲げ現象は、大きなサイズの基材(1.1m超の幅さらには2m超又は3m超の幅を有するもの)について特に際立ったものである。その他のことが全て同じであれば、大きい幅にはより大きい一時的な曲げが随伴する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、上述の欠点を示さない、ガラス上に堆積された薄膜の火炎処理による高速処理プロセスを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的のために、本発明の1つの主題は、少なくとも1つのバーナーを含む少なくとも1つの火炎処理装置の経路内を走行するガラス基材上に堆積された少なくとも1つの薄膜を火炎処理することによる熱処理方法であり、この処理によって少なくとも1つの薄膜の結晶化度を増大させ及び/又は少なくとも1つの薄膜内の微結晶サイズを増大させることができる熱処理方法であって、少なくとも1つのバーナーの位置が調整され及び/又は少なくとも1つの追加の手段が配置されて、最大の一時的な曲げ「b」が150mm未満でかつ以下の条件、すなわち、
b≦0.9×d
を満たすようにされ、式中、曲げ「b」が、加熱なしの基材の平面と、バーナーの先端を通りかつ加熱なしの基材の平面に平行な平面に最も近い基材の点との間のmm単位で表される距離に対応し、
「d」が、加熱なしの基材の平面とバーナーの先端との間のmm単位で表される距離に対応し、
走行方向に垂直な方向での基材の幅「L」が1.1m以上であることを特徴とする熱処理方法である。
【0021】
好ましくは、最大の一時的な曲げ「b」は、以下の条件、すなわち、
b≦500×L2/e3
を満たし、式中、「e」がmm単位で表される基材の厚さに対応し、幅「L」がメートル単位で表される。
【0022】
「バーナーの先端」という表現は、バーナーからガスが排出されるときに通るバーナーの端部部分を意味するものと理解される。バーナーは、燃料と酸化剤の混合がバーナーの先端で又はバーナーの連続部分内で行なわれるという意味において、外燃式バーナーであってよい。この場合、基材は炎の作用を受ける。バーナーは、燃料と酸化剤がバーナーの内部で混合されるという意味において、内燃式バーナーであってもよく、その場合、基材は高温ガスの作用を受ける。当然のことながら、燃焼の一部分のみがバーナー内部で行なわれ、他の部分が外部で行なわれてよいという意味において、全ての中間的なケースが可能である。一部のバーナー、詳細にはアエローリック(aeraulic)バーナーすなわち、酸化剤として空気を用いるバーナーは、燃焼の全て又は一部が行なわれる予備混合チャンバーを有する。この場合、基材は、火炎及び/又は高温ガスの作用を受けるかもしれない。酸素燃焼バーナーすなわち、純粋酸素を使用するバーナーは、一般に予備混合チャンバーを含まない。高温ガスはプラズマトーチを使用して生成されてもよい。すなわち加熱は、燃焼反応によってではなくトーチの電極間のイオン化により実施される。
【0023】
最大の一時的な曲げは、好ましくは100mm以下、又は80mm以下さらには60mm又は40mm以下である。
【0024】
第1の好ましい実施形態によると、基材の幅全体が処理されるように配置されるが同じライン内には配置されない複数の線形火炎処理装置(7a〜7i)が使用され、各装置の長さは1.2m以下である。
【0025】
「線形火炎処理装置」という表現は、1本のラインに沿って、一般にそして好ましくは1本の直線に沿って延在する装置を意味するものとして理解される。このような装置の長さは、装置の2つの端点の間の前記ラインにしたがった距離である。このタイプの装置は、基材の広い領域を本発明に係る熱処理に付すことを可能にする。「線形装置は同じライン内に位置づけされる」という表現は、各々の線形装置のそれぞれのラインが全く同一のラインとして一致することを意味するものとして理解される。反対に、第1の好ましい実施形態によると、線形装置が延在しているラインは、1本の同じラインを形成しない。
【0026】
上述の国際公開第2008/096089号は、火炎処理リグの使用、ひいては少なくとも基材の幅に等しい長さを有する、基材の走行方向に対し垂直に位置づけされた単一の線形装置の使用を記述している。
【0027】
発明者らは、基材の表面全体を処理し続けながら短縮された長さの装置を使用できるような形で一定数の火炎処理装置を細分することにより、曲げを大幅に削減することが可能であることを実証した。
【0028】
一時的な曲げをさらに最小限におさえるためには、火炎処理装置の長さは有利には1.0m以下、さらには0.8m又は0.5m、あるいはまた0.3m以下である。
【0029】
好ましくは、各火炎処理装置の長さは、基材の幅の3分の1以下、さらには4分の1以下、さらには5分の1以下である。
【0030】
火炎処理装置は、互いに平行に、又は平行でなく、走行方向に対して垂直に又は、走行方向と90°以外の角度を成して、といったさまざまな要領で位置づけされてよい。例としては、これらを互い違いの横列の形又は角度をつけて、位置づけしてもよい。火炎処理装置は同様に、V字形で走行方向に対し垂直に位置づけされてもよい。火炎処理装置の数は、少なくとも2基である。その数は基材の幅に応じて、3基以上、又は4基以上さらには5基以上、あるいは6基又は7基さらには8基以上であってもよい。
【0031】
間隔要件を理由として、火炎処理装置は好ましくは、基材の走行方向に対して垂直な横列の形で位置づけされる。横列の数は好ましくは2本さらには3本である。有利には、横列の数は、火炎処理領域の設置面積を限定するために、3本以下である。
【0032】
可能なかぎり曲げを削減するために、火炎処理装置又は横列は好ましくは、基材の走行方向に沿って、少なくとも火炎処理装置の長さの90%超の距離だけ離隔されている。この距離は、有利には火炎処理装置の長さの1.5倍超、特に2倍、さらには3倍である。基材に対して垂直な方向で、火炎処理装置は好ましくは、少なくとも火炎処理装置の長さに等しい距離、特に火炎処理装置の長さの少なくとも1.5倍、又はその2倍さらにはその3倍だけ離隔されている。
【0033】
基材が全体に処理を受けるようにするためには、重複が存在するように、すなわち一部の領域(小さなサイズ、典型的には10cm未満の)が少なくとも2回処理されるような形で、火炎処理装置を位置づけることが好ましい。
【0034】
第2の好ましい実施形態によると、少なくとも1つの火炎処理装置は、火炎と基材の各面の接点が最大で30cm離れて配置されるように、基材の面の各々に対面して配置される。
【0035】
実際、第1の火炎処理装置に対面して又はほぼ対面して第2の火炎処理装置を設置することによって、曲げを大幅に制限すること、さらにはそれを完全になくすることが可能である。各面と火炎の接点の間の距離はゼロ(この場合、バーナーは互いに正確に対面して位置設定されている)、又は30cm以下、特に20cmさらには10cm以下であってよい。この距離が非常に小さい場合には、火炎が基材に斜めにすなわち基材の平面に対して垂直でなく当たるような形で、火炎処理装置を配向することが可能である。これはこうして、基材のもう一方の側にあるバーナーに向かう熱放射が過度に大きくなるのを回避させる。
【0036】
好ましくは、2つの火炎処理装置間の高温ガスの平均速度の相対的差異及び/又は高温ガスの温度の相対的差異は、10%以下、好ましくは5%以下である。この相対的な差異は、さらに好ましくはゼロである。
【0037】
第3の実施形態によると、基材は、基材の走行方向で火炎処理領域の直後に位置する領域において冷却される。こうして、ガラスは火炎処理領域を離れると直ちに冷却され、これは曲げを非常に大幅に削減する効果をもつ。さまざまな冷却装置を使用することができ、好ましい装置はガス特に空気を吹きつけるための装置である。ガスは基材の方向にノズルにより吹きつけられてよい。ガスの温度は好ましくは周囲温度であり、吹きつけ速度は、高速冷却を得るのに適したものである。50〜150m/sの空気吹きつけ速度が適切であることが立証された。
【0038】
本発明の実施形態の如何に関わらず、2〜15m/minの基材走行速度が好ましくは選択される。この速度は、処理すべき膜において標的温度を得ることができるように、バーナーのパラメータに応じて調整されなくてはならない。
【0039】
基材とバーナーの先端の間の距離「d」は、一般に5〜150mm、特に5〜50mmである。この距離は、用いられるバーナー技術、特にバーナーから出るガスの温度そして基材において達成すべき温度に応じて適合されなくてはならない。実際の燃焼反応の中心である火炎の青色部分が処理すべき膜と接触状態にあることが好ましいが、それは、この部分が火炎のうちで温度が最も安定しているからであり、このことは処理の均質性にとって有益である。
【0040】
高温ガスの温度は、アエローリックバーナーの場合、好ましくは1300〜2200℃の間、特に1300〜1700℃の間である。高温ガスの速度は好ましくは5〜100m/秒である。
【0041】
先に記述した実施形態の各々は、当然のことながら他の実施形態の1つ以上と組み合わされてよい。例えば、第1の実施形態を第2の実施形態及び/又は第3の実施形態と組み合わせてよい。同様にして、第2の実施形態を第1の実施形態及び/又は第3の実施形態と組み合わせてもよい。
【0042】
火炎処理は、好ましくは、少なくとも1つの薄膜の各点が300℃以上の温度にされ、一方で、第1の面と反対側の基材の面の任意の点において150℃以下の温度が維持され、薄膜を溶融させるステップなしでその連続性を保ちながら薄膜の結晶化度を増大させるようにされる。
【0043】
「薄く連続した膜」という用語は、本発明に関連して、膜が実質的に基材全体を又は多層コーティングの場合には隣接する膜全体を覆っていることを意味するものとして理解される。薄膜の連続性(ひいてはその有利な特性)が本発明に係る処理により維持されることが重要である。
【0044】
「フイルムの点」という用語は、所与の瞬間において処理を受けている膜の部域を意味するものとして理解される。好ましくは、膜全体(ひいては各点)が少なくとも300℃の温度にされるが、膜の各点は必ずしも同時に処理されるわけではない。膜は、全体が同じ瞬間に処理されてよく、膜の各点は同時に少なくとも300℃の温度にされる。代替的には、膜のさまざまな点又は点のセットが連続して少なくとも30℃の温度にされるような形で、膜を処理してよく、工業的規模での連続的実施の場合、この第2の方法が用いられることがより多い。
【0045】
本発明に係るプロセスは、固相にとどまっている膜内にすでに存在する核を中心とした結晶成長の物理化学的機序により、薄膜の結晶化を促進するのに十分なエネルギーを提供する。本発明に係るプロセスには、溶融材料からの冷却による結晶化機序は関与していないが、それは一方では、薄膜を溶融させるためにそれを極めて高い温度にすることが求められると考えられるからであり、また他方では、これが膜の厚さ及び/又は屈折率ひいてはその特性を修正する可能性が高いと考えられるからである。これは詳細には、膜の光学的外観を修正して、目で検出できる不均質性を生成すると考えられる。
【0046】
本発明に係るプロセスは、基材全体を有意に加熱することなく、薄膜(又は多層コーティングの場合には複数の膜)のみを加熱するという利点を有する。したがって、ガラスを切断又は保管する前に基材を制御された低速冷却に付すことは必要ではない。このプロセスは同様に、既存の連続生産ライン上に、さらに詳細にはマグネトロンラインの真空蒸着チャンバーの出口とガラスをスタック状に保管するための装置の間にある空間に、加熱装置を統合させることをも可能にする。一部のケースでは、実際の真空蒸着チャンバー内で本発明に係る処理を実施することもまた可能である。
【0047】
火炎処理は、単位面積あたりの極めて高い出力を生成することを可能にするが、これは、薄膜の性質及び厚さを含めた数多くの要因により左右されることから、絶対的に定量化することのできないものである。単位面積あたりのこの高い出力は、極めて急速に(一般に1秒以下の時間)膜内で所望の温度を達成すること、そしてその結果処理の持続時間を相応して制限することを可能にし、したがって生成された熱は基材内へと拡散するひまがない。薄膜の各点は、一般に2秒以下、特には1秒以下又は0.5秒以下の時間にわたり本発明に係る処理に付される(すなわち300℃以上の温度にされる)。これを行なうためには、処理中の基材の走行速度は有利には少なくとも2m/分である。
【0048】
最大の基材(例えば長さ6m×幅3.2m)の場合の破損数を最小限に抑えるために、薄膜が堆積される面とは反対側の基材の面の任意の点において好ましくは100℃以下、特には50℃以下の温度が処理全体にわたり維持される。
【0049】
本発明の別の利点は、このプロセスにより薄膜又は薄膜多層コーティングが強化作業と同等の作業を受けるという点にある。一部の薄膜多層コーティングは、ガラスが強化された時点でその光学的特性(比色座標、光透過率又はエネルギー伝達)を変更させるということが判明している。したがって本発明に係るプロセスは、強化されていないガラス(したがって内部に、強化ガラスに特異的な応力プロファイルを有していないため、切断可能なガラス)でありながら、あたかも強化されたように実質的に同じ光学的特性を有するガラスを得ることを可能にする。
【0050】
本発明に係るプロセスを用いて得られる結晶化度は、好ましくは20%以上又は50%以上、70%以上さらには90%以上である。材料の総質量に対する結晶化された材料の質量として定義されるこの結晶化度は、リートベルト法を用いたX線回折により決定されてよい。核又は種子からの結晶粒の成長による結晶化機序のため、結晶化度の増大には一般に、結晶化された結晶粒のサイズの増大又はX線回折により測定されるコヒーレント回折ドメインの増大が随伴する。
【0051】
基材は、ソーダ石灰シリカガラスからなることが好ましい。ホウケイ酸塩、アルミノケイ酸塩又はアルミノ−ホウケイ酸塩ガラスなどの他のタイプのガラスを使用してもよい。基材は、透明、半透明又は不透明、無色又は有色(例えば青色、灰色、青銅色、緑色などに着色)であってよい。
【0052】
ガラス基材は有利には、2m以上さらには3m以上の少なくとも1つの寸法(特に幅L)を有する。基材の厚さ「e」は、一般に、0.5mm〜19mmの間で変動する。好ましくは、本発明に係るプロセスは、2〜6mm、特に2〜5mmの厚さを有するガラス基材について実施される。
【0053】
薄膜は好ましくは、この膜の結晶化度が増大した時に少なくとも1つの特性が改善される膜である。上述の理由から、そして特性と結晶化度の間の相関関係のため、薄膜は好ましくは、銀、モリブデン、ニオブ、酸化チタン、インジウム亜鉛又はインジウムスズ混合酸化物、アルミニウムドープ又はガリウムドープ酸化亜鉛、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウム及び/又はスズ酸亜鉛、並びにフッ素ドープ及び/又はアンチモンドープ酸化スズから選択された金属、酸化物、窒化物又は酸化物の混合物をベースとするものである。それはさらに好ましくは、このような金属、酸化物、窒化物又は酸化物混合物で構成されている。薄膜の厚さは好ましくは2〜500nmの間である。
【0054】
上述の薄膜の大部分は、全体的にUV−可視線に対し透明であるという特別な特徴を有する(吸収は可視範囲内で50%未満である)。それらの吸収スペクトルは、基材のものとわずかしか異なっていない(特に基材がガラス製である場合)ことから、基材ではなく膜を特異的に加熱することは特に困難である。
【0055】
本発明にしたがって処理される薄膜は、基材上に堆積された唯一の薄膜であってよい。それは、一般に酸化物、窒化物又は金属から選択された、薄膜を含む薄膜多層コーティングの中に含まれていてもよい。薄膜は同様にそれ自体が、薄膜多層コーティングであってもよい。処理される薄膜が薄膜多層コーティング内に含まれている場合、本発明に係るプロセスは、多層コーティングの1つ以上の薄膜の結晶化特性を改善するかもしれない。
【0056】
薄膜が銀又は銀ベースの膜である場合には、それは、特にその酸化を防止する目的で好ましくは薄膜多層コーティングの中に含み入れられる。日照調整又は低放射率グレージングの場合、銀ベースの薄膜は一般に2枚の酸化物ベース又は窒化物ベースの誘電薄膜の間に設置される。銀膜の下に、銀の濡れ性及び核形成を促進する意図をもつ非常に薄い膜(例えば酸化亜鉛ZnOの膜)を、そして銀膜上には、後続する膜が酸化雰囲気内で堆積される場合又は熱処理が多層コーティング内への酸素の移動を結果としてもたらす場合に銀膜を保護するように意図された非常に薄い第2の膜(例えばチタン製の犠牲膜)を設置することも同様に可能である。多層コーティングは同様に複数の銀膜を含んでいてもよく、これらの膜の各々は一般に本発明に係るプロセスの実施の影響を受ける。多層コーティングが酸化亜鉛膜を含む場合、銀膜の処理には一般に酸化亜鉛の結晶化度の増大も随伴する。
【0057】
薄膜が透明な導電性膜、例えばガリウムドープ及び/又はアルミニウムドープ酸化亜鉛をベースとする膜である場合、それは、アルカリ金属の移動に対する障壁を形成する少なくとも1つの下層及び/又は酸化障壁として作用する少なくとも1つの上層を含む多層コーティングの中に含まれていてよい。このタイプの多層コーティングは例えば国際公開第2007/018951号に記載されている。しかしながら、本発明に係る処理は、加熱が速いためにアニール又は強化処理と比べてアルカリ金属又は酸素の移動を極くわずかしかひき起こさないことから、このタイプの下層又は上層を不要にすることができる。これは、導電性膜を電極として使用しなければならずしたがって他の機能膜と電気的に直接接触した状態に置かなくてはならない場合(例えば光電池又はOLEDの利用分野の場合)には、なおさら有利なことである。強化又はアニール処理の場合には、酸化保護を提供する上層は、処理の間必要であり、その後に除去しなくてはならない。本発明に係るプロセスにより、この上層を不要にすることができる。
【0058】
酸化チタンをベースとする膜は、好ましくは酸化チタンで作られた膜(任意にはドープされている)である。この膜の表面全体は好ましくは、酸化チタンが十分にその自浄機能を行うことができるように、外部と接触状態にある。これらの膜の結晶化をさらに改善するためには、酸化チタンベースの膜の下に、特にアナターゼ形態の酸化チタンの結晶成長を促進する効果を有する下層を提供することが可能である。これは特に、国際公開第02/40417号に記載されているようなZrO2下層であってもよいし、あるいは例えば国際公開第2005/040058号に記載されているようなアナターゼ形態での酸化チタンのヘテロエピタキシャル成長を促進する下層、特にBaTiO3又はSrTiO3膜であってもよい。
【0059】
本発明に係る処理の前の薄膜は、任意のタイプのプロセスによって、詳細には主に非晶質又はナノ結晶化膜を生成するプロセス、例えばマグネトロンスパッタリングプロセス、プラズマ化学気相堆積(PECVD)プロセス、真空蒸発プロセス又はゾル−ゲルプロセスなどによって得られてよい。しかしながら、それは、例えばゾル−ゲルプロセスなどによって得られる「湿潤」膜とは異なり、いかなる水性又は有機溶媒も含まない「乾燥」膜であることが好ましい。それは、スパッタリング、特に磁気強化スパッタリング(マグネトロンスパッタリングプロセス)により得られるのが、非常に好ましい。ゾル−ゲルプロセスで得られる膜の場合、溶液(ゾル)中の前駆体は基材上に堆積され、このとき得られた膜はあらゆる溶媒痕跡を除去するため乾燥させられアニールされる。この場合、加熱により提供されるエネルギーはこのとき、膜の結晶化特性に必ずしも影響を及ぼすことなく、主にこの溶媒の除去に役立つものであり、したがって、基材にも加熱が及ばないように十分短い時間で前記特性を改善させることはさらに困難である。
【0060】
火炎処理のために用いられるガスは、特に空気、酸素又はその混合物から選択された酸化剤ガスと、詳細には天然ガス、プロパン、ブタンまたさらにはアセチレン又は水素又はその混合物から選択された燃料ガスとの混合物であってよい。酸素は、詳細には天然ガス(メタン)又はプロパンと組み合わせた場合に、酸化剤ガスとして好適であるが、これは、一方ではそれがより高い温度の達成を可能にし結果として処理を短縮し基材の加熱を防ぐからであり、また他方ではそれが窒素酸化物NOxの生成を妨げるからである。薄膜において所望の温度を達成するために、コーティングされた基材は一般に、可視炎の内部特に火炎の最も高温の領域内に位置づけされ、このとき可視炎の一部分は、処理済み領域のまわりに延在する。
【0061】
火炎処理は、ポリマーの表面を処理してその濡れ特性を改善しそれらを塗料でコーティングし易くするために広く用いられている技術である。火炎処理が使用される用途において、その原理は、処理すべき表面を、高温にすることなく燃焼により生成されたラジカルの作用に付すというものである。米国特許出願公開第2006/128563号は、親水性特性の改善を目的として酸化チタン膜の表面を活性化するためのこの技術の使用について記述している。ポリマー基材上で実施されるものにかなり類似したものである記述された処理は、可視炎の先端を通してか又はそのわずか下(数センチ下)に基材を走行させることからなる。しかしながら酸化チタンの表面上にヒドロキシル基を作り出すことを目的とするこのタイプの処理は、可視炎の先端における温度が不十分であることから、酸化チタンの結晶化度を増大させるためには適切ではない。
【0062】
薄膜が酸化チタンをベースとしている(又は酸化チタンで構成されている)場合には、本発明の1つの好ましい実施形態は、前記薄膜を300〜800℃、好ましくは400〜600℃の温度にし、こうして前記薄膜がアナターゼ形態の酸化チタンを含むようにすることからなる。上述の通り、このような結晶化は、酸化チタンの光触媒活性を著しく増大させることができるようにする。
【0063】
本発明に係るプロセスは、アルカリ金属イオンを含む基材(例えばソーダ石灰シリカタイプのグラス)が高温にされた場合、前記イオンは酸化チタン膜内に拡散する傾向を有し、こうしてその光触媒特性を非常に著しく削減さらには削除する傾向を有することから、酸化チタンの場合に特に有利である。この理由で、欧州特許出願公開第0850204号(EP−A−0850204)中で教示されているようにアルカリ金属の移動を防ぐために薄い酸化チタン膜と基材の間に障壁層を間置すること、又は欧州特許出願公開第0966409号(EP−A−0966409)で教示されているように、膜の少なくとも最も外側の表面が汚染されないように酸化チタン膜の厚さを増大させることが一般的な実践方法である。本発明に係るプロセスの場合、基材は実際には加熱されず、したがって、アルカリ金属の移動は事実上ゼロである。したがって、本発明に係るプロセスは、なおも非常に高い光触媒活性を有する薄い酸化チタン膜(例えばおよそ10nmの厚さを有する)が直接コーティングされたソーダ石灰シリカガラス製の基材を得ることを可能にする。
【0064】
薄膜が銀をベースとしている(あるいは銀で構成されている)場合、前記薄膜は好ましくは300〜600℃、好ましくは350〜550℃の温度まで上昇させられる。
【0065】
本発明の別の主題は、基材と少なくとも1つの薄膜を含む材料を得るためのプロセスにおいて、前記少なくとも1つの薄膜が前記基材上に堆積され、次に前記少なくとも1つの薄膜が、本発明に係る熱処理プロセスに付される、プロセスにある。好ましくは、少なくとも1つの薄膜はスパッタリング、特に磁気強化(マグネトロン)スパッタリングによって堆積される。薄膜及びこの薄膜が中にあってよい多層コーティングの性質に関して先に示した全ての詳細が、このプロセスにも同様に適用可能であることは明らかである。
【0066】
本発明にしたがって得られた基材は、鏡又はガラス壁被覆内の単一、多重又は積層グレージングにおいて使用されてよい。ガス層で分離された少なくとも2枚のガラスシートを含む多重グレージングの場合、薄膜を前記ガス層と接触した状態で面の上に位置づけさせることが好ましい。
【0067】
本発明にしたがって得られた基材は同様に、光起電力グレージング又は光起電力電池内、ソーラーパネル内で使用されてもよく、本発明にしたがって処理された薄膜は、例えば黄銅鉱をベースとした(特にCISタイプのもの、すなわちCuInSe2)又は非晶質及び/又は多結晶シリコンをベースとした多層コーティング内の、ZnO:Al又はZnO:GaをベースとしたあるいはCdTeをベースとした電極である。
【0068】
光起電力グレージング又は電池においては、本発明に係る基材は、好ましくは、フェースプレート基材である。それは一般に、透明な電極コーティングが光起電性材料に向けられた主要表面の下にくるような形で配向されている。この電極コーティングは、主要な入射光が上面を介して到着するとみなされる場合、下側に設置された光起電性材料と電気的に接触した状態にある。
【0069】
したがって、このフェースプレート電極コーティングは一般に、太陽電池の負の(正孔収集)端子を構成する。当然のことながら、太陽電池は同様に、バックプレート基材上に電極コーティングも有しており、このコーティングはこのとき、太陽電池の正の(又は電子収集)端子を構成するが、一般にバックプレート基材の電極コーティングは透明ではない。
【0070】
本発明にしたがって得られた基材は、同様にLCD(液晶ディスプレー)、OLED(有機発光ダイオード)又はFED(電界放出ディスプレー)タイプのディスプレースクリーン内でも使用されてよく、本発明にしたがって処理された薄膜は例えばITOの導電性膜である。これらは同様に、電気化学的グレージング内で使用されてもよく、本発明にしたがって処理された薄膜は、例えば、仏国特許第2833107号(FR−A−2833107)で教示されている通りの上部透明導電性膜である。
【0071】
本発明は、以下の図及び非限定的な実施形態例により例示される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】一時的な曲げ現象を示す概略的断面図である。
【図2】図2−1〜2−3は本発明のさまざまな実施形態を上面図として例示し、図2−4は本発明以外の比較用実施形態を示す。
【図3】図3−1〜3−4は本発明のさまざまな実施形態を上面図として例示する。
【図4】本発明の別の実施形態の垂直断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態の垂直断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図1において、厚さeの基材1は、バーナー2を含む火炎処理装置の下を方向5に走行している。火炎4により放出された熱は、基材上に存在する薄膜(図示せず)を結晶化する効果を有する。この熱は同様に、一時的な曲げbを作り出す。距離bは、加熱なしの基材の平面P1とこの基材の平面P1に平行でバーナー2の先端6を通過する平面P2に最も近い基材の点3との間の距離に対応する。距離dは、加熱なしの基材の平面とバーナー2の先端6との間の距離に対応する。最大の曲げは一般にバーナー2の軸内になく、わずかにオフセットされている。
【0074】
図2−1〜2−4及び3−1〜3−4において、方向5に走行する幅Lの基材1は、上面図として表されている。基材1の全幅Lが処理されるような形で基材1に面して、複数の線形火炎処理装置7が位置づけされている。
【0075】
これらの装置は、それらが各々図2−1、2−3及び2−4に破線で表されたラインに沿って延在していることから、線形である。装置の長さlは、図2−1に表されている。
【0076】
しかしながら、線形装置は、本発明に入らない実施形態を示す図2−4に表されているものとは違って、同一ライン内に位置づけされていない。図2−4のケースでは、線形装置は、各装置が延在する方向での各ラインが一致して1本の同じラインを形成していることから、同一ライン内に位置づけされている。この比較用実施形態は、基材の幅全体にわたって延在する単一の線形装置のみを使用する態様と同等であることから、有意な曲げの出現を防止することを可能にしない。本発明の実施形態を示す他の図においては、線形装置が延在する方向において、さまざまなラインが明らかに相異なり、1本の同じラインを形成していない。
【0077】
各装置の長さは1.2mを超えない。図中、装置は、数が5、6又は9個であるが、2以上の任意の他の数が可能である。図は、火炎処理装置のさまざまな考えられる形態を示している。装置7は、基材1の走行方向に対して垂直に(図2−1、2−2、3−1及び3−3)、あるいは斜めに(図2−3、3−2、3−4)横列の形で位置づけされていてよい。横列の数は2又は3本であるが、他の任意の数が可能である。
【0078】
図4及び5の実施形態において、バーナー2a又は2bを含む火炎処理装置は、基材1のそれぞれの面8a及び8bの各々に面して位置づけされている。各面8a及び8bと火炎4a及び4bとの接点9a及び9bの離隔距離は、走行方向5で多くとも30cmである。図4で表されている実施形態においては、バーナー2a及び2bは、基材1に垂直な方向に対して斜めに位置づけされている。このようにして、接点9aと9bの間の距離は、火炎に起因する放射が反対側の面に対面して位置づけされたバーナー2に損傷を与えることなく、ゼロ又はほぼゼロであってよい。
【0079】
図6の実施形態において、基材1は、基材1の走行方向5で火炎処理領域の直後に位置設定された領域の中で冷却される。これを行なうために、冷却装置10はバーナー2を含む火炎処理装置の後に位置づけされている。冷却装置10はここでは、新鮮な空気を吹き付けるための装置である。空気は、基材の方向に吹き付けられる(破線11で表されている)。この吹き付けは、曲げbを著しく削減する効果を有する。
【実施例】
【0080】
[例1(比較例)]
フロートプロセスにより得られ次にそのサイズが幅3.2m×長さ6m、厚さ4mmとなるように切断されたソーダ石灰シリカガラス基材を、マグネトロンスパッタリングプロセスにより公知の要領で、厚さ15nmの薄い酸化チタン膜でコーティングした。厚さ25nmのシリカ膜を基材と酸化チタン膜の間に間置した。
【0081】
このようにコーティングした基材を、基材の幅全体にわたって延在する線形火炎処理装置に対面して走行させた。装置は本質的に、天然ガスを燃料とし酸素を酸化剤とする線形バーナーで構成されていた。バーナーの先端と処理なしの基材の平面の間の距離は50mm前後であり、こうして火炎の青色部分が酸化チタン膜と接触するようになっていた。こうして、処理すべき膜を、火炎の最も高温の領域内に置いた。走行速度は、5m/分前後であった。火炎処理の間に、バーナーの先端に基材が触れた点において有意な曲げが見られ、破損を導いた。
【0082】
処理前と処理後の層の光触媒活性を、紫外線の存在下でのメチレンブルーの分解速度を測定することにより査定した。密封したセル内において、コーティングされた基材(基材はセルの底面を形成している)と接触した状態に、メチレンブルー水溶液を置いた。30分間紫外線に曝露した後、メチレンブルーの濃度を、光透過率測定を用いて査定した。(Kbと記され、g・l-1・min-単位で表現された)光触媒活性は、単位曝露時間あたりのメチレンブルー濃度の減少に対応する。
【0083】
火炎処理の前の光触媒活性は、7g・l-1・min-1未満であった。処理後、光触媒活性は大幅に増大した(平均で約20)ものの試料全体を通して均質ではないように思われた。一部の領域はおよそ30の光触媒活性を有し、一方その他の領域の活性はおよそ10であった。
【0084】
[例2]
この例は例1と同一であるが、唯一の差異は、単一の線形火炎処理装置が、図3−1に表されているように走行方向に垂直に2列に位置づけされた長さ50cmの5つの線形装置で置換されているという点にある。
【0085】
一時的な曲げは、およそ30mmと極めて実質的に削減され、破損の危険性を完全になくした。その上、光触媒活性は、基材の表面全体にわたっておよそ30±2・l-1・min-1であった。処理の均質性はこうして大幅に改善された。
【0086】
[例3]
フロートプロセスにより得られ次にそのサイズが幅3.2m×長さ6m、厚さ4mmとなるように切断されたソーダ石灰シリカガラス基材を、マグネトロンスパッタリングプロセスにより公知の要領で、ガラスに低放射率特性を付与する銀膜を含んだ薄い多層コーティングでコーティングした。
【0087】
この多層コーティングは、(基材から外側表面に向かって)酸化物、金属膜又は窒化物膜を以下の順序で含んでいた。なお幾何学的厚さがカッコ内に示されている:
ガラス/SnO2(18nm)ZnO(16nm)/Ag(8.5nm)/Ni−Cr/ZnO(14nm)/Si34(23nm)
【0088】
図3−2に示されているように位置づけされた長さ80cmの6基の火炎処理装置を用いて、火炎処理を実施した。
【0089】
基材の走行速度は7m/分であり、バーナーに空気及びブタンを供給した。基材とバーナーの先端の間の距離は40mmであった。
【0090】
一時的な曲げは、およそ30mmという非常に小さいものであった。破損は一切見られなかった。
【0091】
下表1は、処理後の以下の特性の変化を表している:
・厚さ4mmのガラスシートと16mmの厚さを有するガス層(アルゴン90%と空気10%の混合物)を有する2重グレージングユニットについて、標準光源D65を基準とし「CIE1964」を基準オブザーバとし、実験スペクトルから計算した、TLと記されパーセント単位で表された、光源D65下の光透過率;
・Rcと記され、オーム単位で表されたシート抵抗;及び
・εnと記され、パーセント単位で表された、5〜50ミクロンのスペクトル範囲内の反射スペクトルからEN12898規格にしたがって計算された温度283Kにおける垂直放射率。
【0092】
膜の導電率及び低放射率性能を示す最後の2つの特性(シート抵抗及び放射率)は、よりうまく結晶化された銀膜がより高い導電率とより優れた放射率特性の両方を有することから、銀膜の結晶化度と結晶サイズを反映している。
【0093】
【表1】

【0094】
シート抵抗及び垂直放射率に関する処理に起因した変化は、10%前後である。これらの結果は、銀膜の処理が、より高い結晶化度及びより大きな結晶サイズによって特に特徴づけされる銀膜の結晶化の改善という帰結をもたらしたことを示している。同様に、得られるグレージングの光透過率の有意な増大が存在するという点にも留意してよい。
【0095】
最後に、実施された処理は、これらの特性(シート抵抗、垂直放射率及び光透過率)が基材の表面全体にわたり非常に均質であったという点において注目に値するものであった:これらの特性は、TLについては±0.5%超、シート抵抗Rcについては相対的に3%超変動することがなかった。
【0096】
[例4(比較例)]
比較例4は、単一の火炎処理装置が使用され、その幅が基材の幅以上であったという点で、例3と異なるものであった。
【0097】
この場合、一時的な曲げは、バーナーの先端に触れて基材を破断させる程度の大きさであった。光透過率、垂直放射率及びシート抵抗特性は、熱処理によって実質的に改善されたが、ガラスの表面全体にわたり均質ではなかった。
【0098】
[例5]
この例では、例1のものと同一のコーティングされた基材、つまり酸化チタン膜を含む多層コーティングでコーティングされた基材を使用した。
【0099】
長さがおよそ基材の幅である2基の火炎処理装置を基材の両側に位置づけし、図5に表されている通りに配向して、各面と火炎の接点の走行方向の離隔距離がゼロとなるようにした。ガスの速度とその温度は、火炎処理装置の各々について同一であり、こうして各面に同一の処理が施されるようにした。こうすることにより、曲げは、図5に概略的に表されているように、ほぼゼロであった。
【0100】
得られた光触媒活性は、アナターゼ形態での結晶化を実証しており、基材の表面全体にわたりとりわけ均質であった。
【0101】
[例6]
厚さ700nmのアルミニウムドープ酸化亜鉛をベースとした透明で伝導性の膜を、マグネトロンスパッタリングプロセスによりガラス基材上に堆積させた。基材の幅は2.2mであり、厚さは2.9mmであった。
【0102】
処理には、基材の走行方向に垂直に位置づけされた線形火炎処理装置を使用した。走行速度は、8m/分であり、装置には天然ガスと酸素を補給した。火炎処理装置の直後に、周囲温度で空気を吹き付けるためのノズルを位置づけした。
【0103】
得られた一時的な曲げは、吹き付けを実施した場合35mm未満であった。一方、吹き付けがない場合、それは130mm超であった。
【0104】
下表2は、処理前後のシート抵抗と光透過率を示している。
【0105】
【表2】

【0106】
これらの値は、空気吹き付けを使用した場合、とりわけ均質であった。
【0107】
[例7]
フロートプロセスにより得られ次にそのサイズが幅3.2m×長さ6m、厚さ4mmとなるように切断されたソーダ石灰シリカガラス基材の第1の面を、厚さ15nmの薄い酸化チタン膜でコーティングした。厚さ25nmのシリカ膜を基材と酸化チタン膜の間に間置した。
【0108】
基材の第2の面も、銀膜を含む薄膜多層コーティングでコーティングし、この銀膜は、ガラスの低放射率特性を付与した。
【0109】
この多層コーティングは、(基材から外側表面へ向かって)酸化物、金属膜又は窒化物膜を以下の順序で含んでいた。なお幾何学的厚さがカッコ内に示されている:
ガラス/SnO2(18nm)ZnO(16nm)/Ag(8.5nm)/Ni−Cr/ZnO(14nm)/Si34(23nm)。全ての堆積はマグネトロンスパッタリングプロセスで実施した。
【0110】
長さがおよそ基材の幅である2基の火炎処理装置を図4に表されている通りに基材の両側に位置づけし、各面と火炎の接点の走行方向の離隔距離が僅かとなるようにした。ガスの速度とその温度は、火炎処理装置の各々について同一であり、こうして各面に同一の処理が施されるようにした。こうすることにより、曲げは、図4に概略的に表されているように、非常に小さいものであった。
【0111】
このようにして、アナターゼ形態で結晶化された酸化チタンをベースとする自浄性膜で片面がコーティングされもう一方の面が低放射率多層コーティングでコーティングされた基材が、1つのステップで得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのバーナー(2)を含む少なくとも1つの火炎処理装置の経路内を走行するガラス基材(1)上に堆積された少なくとも1つの薄膜を火炎処理することによる熱処理方法であり、この処理によって少なくとも1つの薄膜の結晶化度を増大させ及び/又は少なくとも1つの薄膜内の微結晶サイズを増大させることができる熱処理方法であって、少なくとも1つのバーナー(2)の位置が調整され及び/又は少なくとも1つの追加の手段が配置されて、最大の一時的な曲げ「b」が150mm未満でかつ以下の条件、すなわち、
b≦0.9×d
を満たすようにされ、式中、曲げ「b」が、加熱なしの基材の平面(P1)と、バーナー(2)の先端(6)を通りかつ加熱なしの基材の平面(P1)に平行な平面(P2)に最も近い基材の点との間のmm単位で表される距離に対応し、
「d」が、加熱なしの基材の平面(P1)とバーナー(2)の先端(6)との間のmm単位で表される距離に対応し、
走行方向(5)に垂直な方向での基材の幅「L」が1.1m以上であることを特徴とする、熱処理方法。
【請求項2】
最大の一時的な曲げ「b」が以下の条件、すなわち、
b≦500×L2/e3
を満たし、式中、「e」がmm単位で表される基材の厚さに対応し、幅「L」がメートル単位で表される、請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
基材(1)の幅全体が処理されるように配置されるが同じライン内には配置されない複数の線形火炎処理装置(7a〜7i)が使用され、各装置(7)の長さが1.2m以下である、請求項1又は2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
各火炎処理装置(7a〜7i)の長さが基材(1)の幅の3分の1以下である、請求項3に記載の熱処理方法。
【請求項5】
火炎(4a,4b)と基材(1)の各面(8a,8b)の接点(9a,9b)が最大で30cm離れて配置されるように、少なくとも1つの火炎処理装置が面(8a,8b)の各々に対面して配置される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項6】
基材(1)が、基材の走行方向で火炎処理領域の直後に位置する領域において冷却される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項7】
薄膜の各点が300℃以上の温度にされ、一方で、第1の面と反対側の基材の面の任意の点において150℃以下の温度が維持される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項8】
基材(1)がゾーダ石灰シリカガラスからなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項9】
薄膜が堆積される面とは反対側の基材(1)の面の任意の点において100℃以下、特には50℃以下の温度が維持される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項10】
薄膜の各点が1秒以下又は0.5秒以下の時間にわたり300℃以上の温度にされる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項11】
得られた結晶化度が20%以上、特には50%以上である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項12】
基材(1)の幅「L」が2m以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項13】
薄膜が、銀、モリブデン、ニオブ、酸化チタン、インジウム亜鉛又はインジウムスズ混合酸化物、アルミニウムドープ又はガリウムドープ酸化亜鉛、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウム及び/又はスズ酸亜鉛、並びにフッ素ドープ及び/又はアンチモンドープ酸化スズから選択された金属、酸化物、窒化物、又は酸化物の混合物をベースとするものである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱処理方法。
【請求項14】
基材(1)と少なくとも1つの薄膜を含む材料を得るための方法であって、少なくとも1つの薄膜が基材(1)上に堆積され、次いで少なくとも1つの薄膜が請求項1〜13のいずれか1項に記載の熱処理方法にさらされる、方法。
【請求項15】
少なくとも1つの薄膜がスパッタリング、特に磁気強化スパッタリングによって堆積される、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−520229(P2012−520229A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553495(P2011−553495)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050409
【国際公開番号】WO2010/103237
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】