説明

衝突時に車両のドライブトレイン内での力の流れを遮断するための方法

【課題】 衝突時に車両のドライブトレイン内での力の流れを遮断するための方法を提供する。
【解決手段】 衝突時に車両のドライブトレイン内での力の流れを遮断するための方法であって、ドライブトレイン内に提供された電気機械が従動軸から切断される方法は、衝突時に、ドライブトレイン内で電気機械(EM)と従動軸(A)との間に配置されたオートマチックトランスミッション(G)がニュートラル位置にシフトされることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段による、衝突時に車両のドライブトレイン内での力の流れを遮断するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車または電気自動車は、高電圧電池に電気的に接続された少なくとも1つの電気機械をドライブトレイン内に有する。高電圧電池から電気機械に電流を供給することによって電気機械が電動機として作動される場合、電気機械は、少なくとも部分的に、車両の1つの車軸を駆動させることができる(電気走行またはブースト)。特に電気機械が発電機として作動される場合、車軸の回転運動が電気機械に伝達されることによって(エネルギー回収)、または電気機械が内燃機関によって回転されることによって、電気機械が高電圧電池に電流を充電することができる。しかし、車両の衝突時、電気機械が一時的に発電機として作動されるとき、高電圧電線路の損傷により、電熱効果が生じることがある。
【0003】
このため、この分野の下記特許文献1では、車軸ごとに、または車輪ごとに個別の機械的遮断ユニットが提供される。それにより、ドライブトレインの電気機械と従動軸との間での力の流れは確実に遮断されるが、これは、構造的に複雑であり、したがって高価な解決策である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,793,034B2号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第199 33 242 A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第199 17 665 A1号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第100 36 504 A1号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102 09 514 A1号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10 2006 034 297 A1号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第10 2005 051 382 A1号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第10 2006 012 759 A1号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第10 2006 007 960 A1号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第10 2007 025 144 A1号明細書
【特許文献11】独国特許出願公開第10 2007 051 504 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、単純であり費用対効果の高い代替法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載の特徴によって達成される。従属請求項は、本発明の有利な実施形態および発展形態に関する。
【0007】
本発明は、車両の衝突時に、ドライブトレイン内で電気機械と1つまたは複数の従動軸との間に配置されたオートマチックトランスミッションが、ニュートラル位置にシフトされることを提案する。したがって、本発明による方法は、同様に、ドライブトレイン内にオートマチックトランスミッションを備える車両の衝突時に、電気機械を駆動軸から確実に切り離す。ここで、自動的にニュートラル位置にシフトさせることができる任意の従来のトランスミッションをオートマチックトランスミッションとして提供することができる。本発明によれば、このとき、オートマチックトランスミッション自体は変更する必要がない。例えばトランスミッション制御デバイスの適切な変更によって、オートマチックトランスミッションの作動のみが変更される。したがって、本発明は、適切な制御論理によって、上記特許文献1における機械的デバイスと同じ効果を実現する。その結果、衝突時に車両のドライブトレイン内での力の流れを遮断する特に単純であり費用対効果の高い方法が得られる。
【0008】
本発明による方法は、パラレルハイブリッドとして具現化される車両で特に好適に使用される。そのような車両は、内燃機関と、電気機械と、オートマチックトランスミッションとが共通のシャフト上に配置されたドライブトレインを備える。内燃機関と電気機械との間にクラッチが提供され、このクラッチにより、電気機械および/または内燃機関によって車両を駆動させることができる。ここで、車両の衝突時にクラッチが閉じられる。通常、衝突時には、内燃機関への燃料供給が即時に停止され、その結果、前記内燃機関が静止状態となる。クラッチが閉じられているので、内燃機関によって電気機械が停止される。本発明に従ってオートマチックトランスミッションがニュートラル位置にシフトされると、電気機械と従動軸との間の力の流れが遮断されるので、従動軸の回転運動が電気機械に伝達され得ない。したがって、電気機械の回転、したがって発電機としての電気機械の動作が、車両の衝突時に確実に妨げられる。
【0009】
車両の衝突の確実な検出は、車両の加速度センサおよび/またはエアバッグ制御デバイスによって発生される信号(衝突信号)によって可能である。そのような信号が発生するとき、オートマチックトランスミッションがニュートラル位置にシフトされる。
【0010】
衝突時の安全性をさらに高めるために、冗長信号伝送を提供することができる。このために、衝突信号は、車両内で、例えば追加の信号線および/または信号経路によって、発生手段(例えば加速度センサまたはエアバッグ制御デバイス)から処理手段(例えばトランスミッション制御デバイス)に伝送される。
【0011】
ネットワーク化されたトランスミッション制御装置の1つの制御信号の伝送に失敗した場合、オートマチックトランスミッションがニュートラル位置にシフトされることにより、安全性を改善することができる。例えばトランスミッション制御デバイスのCAN信号のそのような失敗は、また、車両の衝突状況も特徴付ける。
【0012】
次に、本発明を、図面を参照してより詳細に提示する。ここで、唯一の図が、対応する信号伝送と共に本発明の特に好ましい実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】対応する信号伝送と共に本発明の特に好ましい実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
シングルシャフト・パラレルハイブリッドとして具現化されるハイブリッド車1を例示する。ここでは、内燃機関VMが提供され、この内燃機関VMは、電気機械EMと共に、オートマチックトランスミッションGの入力シャフト上に配置される。クラッチTが、電気機械EMと内燃機関VMとの間に提供される。ハイブリッド車1の従動軸Aの2つの車輪R1、R2を駆動させるための差動装置Dが、オートマチックトランスミッションGの出力シャフト上に提供される。電気機械EMは、電源回路LEを介して高電圧電池Bに電気的に接続される。さらに、高電圧電池Bは、電気ステアリング手段Lおよび電気空調システムKにも電流を提供する。
【0015】
クラッチTが閉じている場合、内燃機関VMと、電動機として作動される電気機械EMとの両方が、オートマチックトランスミッションGに力またはトルクを伝達して、ハイブリッド車1の従動軸Aを駆動させる。クラッチTが開いている場合、電気機械EMのみが、オートマチックトランスミッションGに力またはトルクを加え、したがって、ハイブリッド車1の純粋に電気による走行を可能にする。
【0016】
ハイブリッド車1を制動すべき場合、電気機械EMが発電機として動作することができ、このようにして加えられる力によって制動を行うことができる。ハイブリッド車1の走行中にさらなる電流が必要とされる場合、内燃機関VMが、従動軸Aに加えて、発電機として作動される電気機械EMも稼動させる。どちらの場合にも、それぞれ電気機械EMの回転によって電流が発生される。この電流は、電気機械EMと、電源回路LEと、高電圧電池Bとの間での電線路、例えば三相高電圧線を介して伝達される。その結果、電気機械EMが回転するとき、ここでそれぞれ高電圧が生じる。
【0017】
ハイブリッド車1の衝突時、衝突トリガしきい値を超えたとき、エアバッグ制御デバイスS1が、例えば車両バス(CAN)を介して、衝突信号をエンジン制御デバイスS2に伝送する。この衝突信号がエンジン制御デバイスS2で確認された場合、内燃機関VMの燃料ポンプPが即時に停止される。これにより、衝突信号の発生後、短時間のうちに内燃機関VMが停止される。さらに、この場合、クラッチT(この実施形態では油圧式で具現化される)は、自動的に、閉じた基本状態にされる。燃料ポンプPが燃料を内燃機関VMに供給しなくなるので、内燃機関VMは静止状態となる。また、内燃機関VMと電気機械EMとの間のクラッチTが閉じられているので、静止した内燃機関VMは、電気機械EMも停止させる。なぜなら、このタイプのシングルシャフト・パラレルハイブリッドでは、通常、内燃機関VMが、電気機械EMよりも大幅に高い回転質量を有するからである。
【0018】
ハイブリッド車1の衝突時にクラッチTが自動的に閉じることにより、電気機械EMが確実に停止されるが、いくつかの構成では、従動軸Aの回転が、オートマチックトランスミッションGを介して電気機械EMに伝達され得る。従動軸Aによって相応の力が加えられると、ここで、電気機械EMと、閉じたクラッチTを介して結合された内燃機関VMとが回転されることがある。このとき、電気機械EMの回転は、対応する高い電圧を発生する。この高い電圧は、電気機械EMと電源回路LEとの間、および電源回路LEと高電圧電池Bとの間の電線路にも生じる。衝突時、これらの電線路が損傷されることがあり、その結果、生じている高電圧が電熱効果の危険を生み出す、例えば発火を招くおそれがある。
【0019】
したがって、ハイブリッド車1の衝突時に、オートマチックトランスミッションGがニュートラル位置にシフトされることが提案される。このために、衝突トリガしきい値を超えたとき、エアバッグ制御デバイスS1は、例えば車両バス(CAN)を介して、衝突信号をトランスミッション制御デバイスS3にも伝送する。対応する衝突信号がトランスミッション制御デバイスS3で確認された場合、トランスミッション制御デバイスS3によってオートマチックトランスミッションGがニュートラル位置にシフトされる。ここで、オートマチックトランスミッションGは、従動軸Aから電気機械EMへの力の流れを通さなくなるので、これは、ハイブリッド車1の回転従動軸Aから電気機械EMへの力の伝達を確実に遮断する。衝突時の安全性をさらに高めるために、トランスミッション制御デバイスS3が冗長的に稼動される。このために、トランスミッション制御デバイスS3は、エアバッグ制御デバイスS1の衝突信号に加えて、エンジン制御デバイスS2の信号も評価する。したがって、エアバッグ制御デバイスS1の衝突信号がエンジン制御デバイスS2で確認されたとき、前記エンジン制御デバイスS2は、燃料ポンプPを停止させるだけでなく、トランスミッション制御デバイスS3に信号を伝送する。その結果、ハイブリッド車1の衝突時、2つの信号が、互いに独立してトランスミッション制御デバイスS3に伝送される。その結果、トランスミッション制御デバイスS3は、オートマチックトランスミッションGをニュートラル位置に確実にシフトできるようになる。
【符号の説明】
【0020】
A 従動軸
EM 電気機械
G オートマチックトランスミッション
1 車両
VM 内燃機関
T クラッチ
S1 エアバッグ制御デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突時に車両のドライブトレイン内での力の流れを遮断するための方法であって、前記ドライブトレイン内に提供された電気機械が従動軸から切断される方法において、衝突時に、前記ドライブトレイン内で前記電気機械(EM)と前記従動軸(A)との間に配置されたオートマチックトランスミッション(G)がニュートラル位置にシフトされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記車両(1)が、内燃機関(VM)と、電気機械(EM)と、オートマチックトランスミッション(G)とが共通のシャフト上に配置されたドライブトレインを有するパラレルハイブリッドとして具現化され、クラッチ(T)が、前記内燃機関と前記電気機械との間に提供され、したがって前記電気機械および/または前記内燃機関によって前記車両を駆動させることができ、さらに、前記車両の衝突時に前記クラッチが閉じられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両トランスミッションが、前記車両の衝突時に、加速度センサおよび/またはエアバッグ制御デバイス(S1)によって発生される信号に基づいてニュートラル位置にシフトされる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発生される信号の冗長伝送が提供される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ネットワーク化されたトランスミッション制御装置の制御信号の伝送に失敗した場合、前記車両トランスミッションがニュートラル位置にシフトされる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
衝突時にドライブトレイン内での力の流れを遮断する車両であって、前記ドライブトレイン内に提供された電気機械が従動軸から切断される車両において、衝突時に、前記ドライブトレイン内で前記電気機械(EM)と前記従動軸(A)との間に配置されたオートマチックトランスミッション(G)がニュートラル位置にシフトされることを特徴とする車両。

【図1】
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【公開番号】特開2010−242967(P2010−242967A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−51598(P2010−51598)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】