説明

誘電体磁器組成物およびその製造方法

【課題】低温での焼成が可能であり、Q値および絶縁抵抗に優れ、しかも高温加速寿命特性が改善された誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】誘電体酸化物を含む主成分と、Liの酸化物を含む第1成分およびM1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)を含む第2成分を有する焼結助剤と、を含有する誘電体磁器組成物であって、前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子と、隣り合う前記誘電体粒子間に存在する結晶粒界と、を有しており、複数の前記誘電体粒子は、粒子表面から粒子内部に向かって、M1元素の濃度が低くなっているとともに、前記誘電体粒子の粒径をDとし、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合を100%とした場合に、粒子表面からの深さが前記粒径Dの50%である深さT50における、M1元素の含有割合が、3〜55%であることを特徴とする誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層として用いられる誘電体磁器組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層型セラミックコンデンサを構成する従来の誘電体磁器組成物は、強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO)や、常誘電体であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ジルコン酸ストロンチウムカルシウム(CaSrZrO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)、酸化チタン(TiO)、チタン酸ネオジム(NdTiO)などの各種誘電体酸化物を含む主成分を有する。
【0003】
この種の誘電体磁器組成物は、そのままでは焼結し難いことから、各種焼結助剤を加えた上で1300℃を超える温度で焼成されていた。また、この種の誘電体磁器組成物は、低酸素分圧である中性雰囲気または還元性雰囲気下で焼成すると、還元されて半導体化する性質を有していることから、該誘電体磁器組成物を用いて積層型セラミックコンデンサを製造するに際しては、高酸素分圧である酸化性雰囲気下で焼成することを余儀なくされていた。
【0004】
このため、誘電体磁器組成物と同時に焼成される内部電極材料としては、該誘電体磁器組成物が焼結する温度で溶融しない程度の高い融点をもち、酸化性雰囲気下で焼成しても酸化されない、などの特性を有する貴金属(たとえばパラジウムや白金など)を用いる必要があった。
【0005】
しかしながら、貴金属は一般に高価であることから、積層型セラミックコンデンサの低価格化の妨げとなっていた。
【0006】
さらに、焼成温度が高いと、次のような問題がある。すなわち、焼成炉そのものの価格も高価な上に、用いる焼成炉の損傷も激しくなり、焼成炉の保守や管理コストなどが使用時間の経過につれて漸次増加するとともに、磁器化に要するエネルギーコストも膨大になってしまう。また、誘電体磁器組成物と内部電極材料との間の熱膨張係数の差により応力が溜まりやすく、クラックの発生や比誘電率の低下などの不都合を生じる要因ともなる。
【0007】
したがって、低温で焼成が可能であり、安価な卑金属(たとえばニッケルや銅など)を内部電極の材料に用いて中性雰囲気または還元性雰囲気下で焼成しても半導体化せず、すなわち耐還元性に優れ、焼成後には十分な比誘電率や優れた誘電特性を有する、誘電体磁器組成物を開発することが求められている。
【0008】
低温での焼成を可能とするために、たとえば特許文献1では、CaZrO系セラミックスを主成分とし、Si−Li−B系ガラス相を含有する誘電体磁器組成物を有する積層型電子部品が開示されている。この文献によると、Si−Li−B系ガラスにおけるLi,Bの量を所定の比率にすることにより、低温焼結を可能とし、しかも焼成により蒸発しやすいという性質を有するLiの蒸発を抑制できる旨が記載されている。そして、その結果として、Q値の向上を図っている。なお、Q値は損失を表す指標であり、誘電損失tanδの逆数、すなわちQ=1/tanδで表される。しかしながら、この文献では、焼成時におけるLiの蒸発についてはある程度抑制されている一方で、焼成時にLiがCaZrO系の母材中に固溶してしまい、その結果、高温負荷寿命が悪化するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開2004−207629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、本発明の目的は、低温での焼成が可能であり、Q値および絶縁抵抗に優れ、しかも高温加速寿命特性が改善された誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、Liの酸化物と、M1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)と、を少なくとも含有する焼結助剤を用い、さらに誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子を、粒子表面から粒子内部に向かって、M1元素の濃度が除々に低くなっていくような構成とするとともに、誘電体粒子内部におけるM1元素の濃度を所定の範囲内に制御することにより、Q値および絶縁抵抗を良好に保ちながら、低温での焼成を可能としつつ、しかも高温加速寿命特性を改善できることを見出し、この知見に基づき本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
誘電体酸化物を含む主成分と、Liの酸化物を含む第1成分およびM1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)を含む第2成分を有する焼結助剤と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子と、隣り合う前記誘電体粒子間に存在する結晶粒界と、を有しており、
複数の前記誘電体粒子は、粒子表面から粒子内部に向かって、M1元素の濃度が低くなっているとともに、
前記誘電体粒子の粒径をDとし、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合を100%とした場合に、粒子表面からの深さが前記粒径Dの50%である深さT50における、M1元素の含有割合が、3〜55%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の誘電体磁器組成物において、好ましくは、粒子表面からの深さが前記粒径Dの30%である深さT30における、M1元素の含有割合が、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合100%に対し、5〜60%である。
【0014】
本発明の誘電体磁器組成物において、好ましくは、粒子表面からの深さが前記粒径Dの15%である深さT15における、M1元素の含有割合が、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合100%に対し、15〜70%である。
【0015】
なお、本発明において、前記粒径Dは各誘電体粒子の直径を意味する。そのため、たとえば、粒径Dの50%である深さT50におけるM1元素の含有割合は、誘電体粒子の略中心部におけるM1元素の含有割合となる。
【0016】
本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、
誘電体酸化物を含む主成分と、Liの酸化物を含む第1成分およびM1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)を含む第2成分を有する焼結助剤と、を含有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
焼成後に前記誘電体磁器組成物となる誘電体磁器組成物原料を準備する原料準備工程と、準備した前記誘電体磁器組成物原料を焼成する焼成工程と、を有し、
前記焼成工程における、焼成保持温度まで昇温する際の昇温速度を300〜700℃/時間とすることを特徴とする。
【0017】
本発明の製造方法において、好ましくは、前記焼成工程における焼成保持温度を900〜1100℃とする。
【0018】
本発明の製造方法において、好ましくは、前記焼成工程における温度保持時間を0〜0.5時間とする。なお、温度保持時間を0時間とする場合には、前記昇温速度で、前記焼成保持温度まで昇温し、その後、焼成保持温度に保持することになく冷却することとなる。
【0019】
本発明において、好ましくは、主成分として含有される前記誘電体酸化物が、組成式{(Ba(1−x−y) Ca Sr)O}(Ti(1−z) Zr で表され、
前記組成式中のA、B、x、yおよびzが、0.75≦A/B≦1.04、0≦x≦0.9、0≦y≦0.5、0<z<1である。
【0020】
本発明において、好ましくは、前記焼結助剤が、M2の化合物(ただし、M2はBa、Ca、Sr、Mg、Mn、B、AlおよびZnから選ばれる少なくとも1つ)を含む第3成分と、
Siの酸化物および/または焼成によりSiの酸化物になる化合物を含む第4成分と、をさらに含有する。
【0021】
本発明に係る電子部品は、上記本発明の誘電体磁器組成物、あるいは本発明の製造方法により得られる誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、Liの酸化物と、M1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)と、を少なくとも含有する焼結助剤を用い、さらに誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子を、粒子表面から粒子内部に向かって、M1元素の濃度が除々に低くなっていくような構成とするとともに、誘電体粒子内部におけるM1元素の濃度を所定の範囲に制御している。そして、このように誘電体粒子内部に、その濃度が除々に低くなっていくような態様でM1元素を固溶させることにより、焼成時におけるLi元素の誘電体粒子内部への拡散・固溶を防止することができる。そのため、結果として、Q値および絶縁抵抗を良好に保ちながら、低温での焼成を可能としつつ、高温加速寿命の向上を図ることができ、信頼性の高い誘電体磁器組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図、
図3は誘電体粒子の粒子内構造を説明するための概念図である。
【0024】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層されたコンデンサ素子本体10を有する。コンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0025】
コンデンサ素子本体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0026】
誘電体層2
誘電体層2は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
本発明の誘電体磁器組成物は、組成式{(Ba(1−x−y) CaSr)O}(Ti(1−z) Zr で表される誘電体酸化物を含む主成分を有する。この際、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0027】
上記組成式中、記号Bに対する記号Aのモル比(A/B)は、特に限定されないが、好ましくは0.75≦A/B≦1.04、より好ましくは0.99≦A/B≦1.01である。A/Bを0.75以上とすることで、還元雰囲気下での焼成に対して半導体化を生じることが防止され、A/Bを1.04以下とすることで、低温での焼成も緻密な焼結体を得ることができる。
【0028】
上記組成式中、記号xは、特に限定されないが、好ましくは0≦x≦0.9、より好ましくは0≦x≦0.8である。xを0.9以下とすることで、低温焼結化の効果が得られる。
【0029】
上記組成式中、記号yは、特に限定されないが、好ましくは0≦y≦0.5、より好ましくは0≦y≦0.4である。yを0.5以下とすることで、信頼性の向上、CR積の向上、誘電損失の改善などの効果がある。
【0030】
上記組成式中、記号zは、特に限定されないが、好ましくは0<z<1、より好ましくは0.01≦z≦0.98である。zを1未満とすることで、比誘電率の低下が防止される。zはZr原子数を表すが、TiOに比べ還元されにくいZrOを置換していくことにより耐還元性がさらに増していく傾向がある。
【0031】
上記組成式中、記号xはCa原子数を表し、記号yはSr原子数を表す。これらx、y(Ba/Ca/Sr比)と、z(Ti/Zr比)と、を変えることで、結晶の相転移点を任意にシフトさせることが可能となる。そのため、容量温度係数や比誘電率を任意に制御することができる。
【0032】
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分としての誘電体酸化物に加えて、Liの酸化物を含む第1成分と、M1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)を含む第2成分と、を含有する焼結助剤を有する。
【0033】
第1成分(Liの酸化物)は、M1の酸化物を含む第2成分と組み合わされることにより、焼結温度を低下させる物質として作用する。焼結助剤全体100重量%に対する、第1成分の含有量は、好ましくは5〜50重量%であり、より好ましくは10〜30重量%である。第1成分の含有量が少なすぎると、焼結温度の低下効果が不十分となる傾向にあり、一方、多すぎると、高温加速寿命が悪化する傾向にある。
【0034】
第2成分(M1の酸化物)は、焼結温度の低下効果に加えて、母材となる誘電体酸化物に固溶することにより、各種電気特性を向上させる物質として作用する。焼結助剤全体100重量%に対する、第2成分の含有量は、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは1〜7重量%である。第2成分の含有量が少なすぎると、上記効果が得難くなる。一方、多すぎると焼成温度が高くなる傾向にある。
なお、第2成分を構成するM1の酸化物としては、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素の酸化物であれば良く、特に限定されないが、Wの酸化物、Vの酸化物およびMoの酸化物が好ましい。
【0035】
本発明の誘電体磁器組成物に含有される焼結助剤には、上記の第1成分、第2成分に加えて、M2の化合物(ただし、M2はBa、Ca、Sr、Mg、Mn、B、AlおよびZnから選ばれる少なくとも1つ)を含む第3成分と、Siの酸化物および/または焼成によりSiの酸化物になる化合物を含む第4成分と、がさらに含有されていてもよい。
【0036】
第3成分(M2の化合物)は、第1成分および第2成分と組み合わされることにより、母材となる誘電体酸化物との濡れ性を改善したり、焼結温度を低下させる物質として作用する。
【0037】
第4成分(Siの酸化物および/または焼成によりSiの酸化物になる化合物)は、焼結温度を一層低下させる物質として作用する。
【0038】
なお、上述した焼結助剤には、Na、K、Rb、Cs、Fr、Y、Gd、Tb、Dy、SnおよびPの化合物から選ばれる少なくとも1つを含むその他の成分が、さらに含有してあってもよい。
【0039】
焼結助剤の含有量は、誘電体磁器組成物全体を100モル%として、好ましくは0.1〜25モル%、より好ましくは1〜15モル%である。焼結助剤の添加量をこの範囲にすることで比誘電率を低下させることなく、より低い温度で焼成できる。
【0040】
また、焼結助剤の融点は、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1000℃以下である。融点が1200℃以下であることにより、低温での焼成が容易になる。
【0041】
誘電体層2の微細構造
図2に示すように、誘電体層2は、誘電体粒子(結晶粒)2aと、隣接する複数の誘電体粒子2a間に形成された結晶粒界(粒界相)2bとを含んで構成される。この誘電体粒子2aは、主に、主成分である組成式{(Ba(1−x−y) CaSr)O}(Ti(1−z) Zr で表される誘電体酸化物から構成されている粒子である。本実施形態では、誘電体粒子2aは、この誘電体酸化物の他に、少なくともM1元素を含有している。
【0042】
本実施形態では、誘電体粒子2aに含有されているM1元素は、粒子表面から粒子内部に向かって、その濃度が除々に低くなっていくような態様で含有されているとともに、粒子表面から所定の深さにおけるM1元素の含有割合が所定範囲に制御されている。このような構成を採用することにより、第1成分として含有されるLi元素が、焼成時に誘電体粒子2a内部に拡散・固溶することを有効に防止することができる。そのため、Li元素を含有する焼結助剤を使用した場合に問題となっていた高温加速寿命の劣化を有効に防止することができる。
【0043】
なお、この理由としては必ずしも明らかではないが、誘電体粒子2a内部に、その濃度が除々に低くなっていくような態様でM1元素を固溶させることにより、M1元素が障壁となり、誘電体粒子2a内へのLi元素の拡散を防止できることによると考えられる。
【0044】
具体的には、図2に示す結晶粒界2bにおけるM1元素の含有割合を100%とした場合に、図3に示す粒子表面からの深さT50におけるM1元素の含有割合が、3〜55%であり、好ましくは3〜40%であり、より好ましくは3〜30%である。なお、この深さT50は、粒子表面からの深さが、誘電体粒子2aの粒径(直径)Dの50%であることを意味する。すなわち、深さT50におけるM1の含有割合は、誘電体粒子2aの略中心部におけるM1元素の含有割合となる。深さT50におけるM1元素の含有割合が少なすぎても、多すぎても、上記効果が得難くなり、損失を表すQ値や高温加速寿命特性が悪化する傾向にある。
【0045】
なお、誘電体粒子2aの粒径Dは、図2に示す断面において誘電体粒子2aの面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.5倍した値である。
【0046】
また、本実施形態では、深さT50に加えて、図3に示す粒子表面からの深さが粒径Dの30%、15%の深さである深さT30、T15におけるM1元素の含有割合についても、以下に示すような所定範囲とすることがより好ましい。すなわち、結晶粒界2bにおけるM1元素の含有割合を100%とした場合に、好ましくはT30:5〜60%、T15:15〜70%であり、より好ましくはT30:5〜45%、T15:15〜50%、さらに好ましくはT30:5〜30%、T15:15〜40%である。
【0047】
深さT50に加えて、深さT30、T15におけるM1元素の含有割合を上記範囲とすることにより、高温加速寿命の劣化抑制効果のさらなる向上を図ることができる。
【0048】
また、各深さT50、T30、T15におけるM1元素の含有割合を測定する方法は、特に限定されないが、たとえば、TEMによる線分析により測定することができる。すなわち、まず、誘電体粒子2aに対して、誘電体粒子2aの略中心を通り、かつ粒子の端から端まで一直線になるようにTEMで線分析を行う。その後90度ずらして同一の粒子に対して、線分析を行い、これらの結果を平均することにより求めることができる。
【0049】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜3μm、特に0.2〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0050】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度である。
【0051】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0052】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体磁器組成物原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
誘電体層用ペーストは、誘電体磁器組成物原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0053】
誘電体磁器組成物原料には、上述した本発明に係る誘電体磁器組成物の組成に応じ、主成分を構成する原料と、焼結助剤を構成する第1〜第4成分の原料およびその他必要に応じて添加されるその他の原料と、が用いられる。
【0054】
主成分原料としては、Ti、Ba、Sr、Ca、Zrの各酸化物や、焼成によりTi、Ba、Sr、Ca、Zrの各酸化物になる化合物などが用いられる。
【0055】
焼結助剤を構成する第1〜第4成分の原料としては、上記した各化合物の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。焼結助剤を構成する各成分の原料は、その添加形態は特に限定されず、あらかじめ焼結助剤を配合しておき、これを熱処理して溶融して化合物ガラス成分とし、その後に粉砕したものを主成分原料に添加して混合してもよい。
【0056】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものであり、有機ビヒクルに用いられるバインダは、特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、このとき用いられる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法等利用する方法に応じてテルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0057】
誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体磁器組成物原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0058】
内部電極用ペーストは、上述した各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。また、外部電極用ペーストも、この内部電極用ペーストと同様にして調製される。
【0059】
上述した各ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0060】
印刷法を用いる場合は、誘電体層用ペーストおよび内部電極用ペーストをポリエチレンテレフタレート等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断したのち基板から剥離することでグリーンチップとする。これに対して、シート法を用いる場合は、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極ペーストを印刷したのちこれらを積層してグリーンチップとする。
【0061】
そして、得られたグリーンチップに脱バインダ処理を施す(脱バインダ工程)。脱バインダ処理は、内部電極層ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、脱バインダ雰囲気中の酸素分圧を10−45 〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると、脱バインダ効果が低下する。また酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0062】
また、それ以外の脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、より好ましくは200〜350℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは2〜20時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とすることが好ましく、還元性雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0063】
次に、脱バインダ後のグリーンチップを焼成する(焼成工程)。焼成工程は、昇温工程と、温度保持工程と、降温工程と、からなる。
【0064】
昇温工程は、雰囲気温度を、所定の昇温速度で焼成保持温度まで昇温させる工程である。昇温速度は、300〜700℃/時間であり、さらに好ましくは500〜700℃/時間、より好ましくは600〜700℃/時間である。このように昇温速度を比較的に大きくすることにより、焼結助剤中に第2成分として含有されているM1元素を、図2に示す誘電体粒子2a中に、効果的に拡散・固溶させることができる。そしてその結果、焼成時における、誘電体粒子2a内へのLi元素の拡散を防止することができ、誘電体粒子2a内へのLi元素の拡散に起因する、高温加速寿命の劣化を有効に防止することができる。
【0065】
昇温工程においては、その最初から、あるいは途中から、酸素分圧を好ましくは10−10 〜10−3Paの雰囲気に調整する。内部電極層の導電材に卑金属を用いる場合において、雰囲気の酸素分圧が上記範囲未満であると内部電極層の導電材が異常焼結を起こして途切れてしまうことがあり、雰囲気の酸素分圧が上記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。そのため、雰囲気を上記範囲とすることが好ましい。なお、雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。すなわち、還元雰囲気とすることが好ましい。
【0066】
温度保持工程では、雰囲気を上記範囲としたまま、温度を一定時間保持する。焼成保持温度は、好ましくは900〜1100℃であり、より好ましくは950〜1050℃である。本実施形態では、上記した構成を有する焼結助剤を含有させているため、このように低温での焼結が可能となる。そして、低温での焼結が可能となることにより、焼成炉の損傷を防止でき、保守や管理コスト、ひいてはエネルギーコストをも効果的に抑制でき、しかもクラックの発生や比誘電率の低下などの不都合も防止し得る。温度保持工程における、温度保持時間は、好ましくは0〜0.5時間とする。温度保持時間を長くしすぎると、誘電体粒子が粒成長しすぎたり、電極途切れが発生する場合がある。なお、温度保持時間を0時間とする場合には、実質的に温度保持工程を経ることなく、降温工程に移ることとなる。この場合には、焼成保持温度は昇温工程における最高温度と同義となる。
【0067】
降温工程では、雰囲気を上記範囲としたまま降温させても良く、あるいは降温工程の途中から雰囲気を変更しても良い。すなわち、降温工程の途中から雰囲気を大気中としても良い。降温速度は、特に限定されず、たとえば昇温速度と同様の速度とすれば良い。すなわち、好ましくは300〜700℃/時間、より好ましくは500〜700℃/時間、さらに好ましくは600〜700℃/時間とすれば良い。本実施形態では、焼成保持温度を、好ましくは900〜1100℃と低くしているため、降温速度を、このように比較的に大きくした場合においても、素地クラック等の構造欠陥の発生を抑制することができる。
【0068】
次いで、焼成後のコンデンサチップ(コンデンサ素子本体)にアニールを施す(アニール工程)。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0069】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、1×10−4Pa以上、特に1×10−4〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、上記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0070】
アニールの際の保持温度は、好ましくは700〜800℃、より好ましくは750〜800℃とする。アニールの保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が上記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0071】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0072】
上記した脱バインダ工程、焼成工程およびアニール工程において、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0073】
以上のようにして得られたコンデンサ焼成体に、たとえば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、たとえば、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス中で600〜800℃にて10分〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じて外部電極4の表面にメッキ等により被覆層(パッド層)を形成する。
【0074】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
たとえば、上述した各実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、本発明の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0077】
実施例1
まず、最終的に、組成式{(Ca0.70Sr0.30)O−(Zr0.97Ti0.03)O}で示される誘電体酸化物が得られるように各酸化物や炭酸塩(CaCO、SrCO、ZrO、TiO)を調合して主成分原料を得た。
【0078】
次いで、得られた主成分原料100モルに対して、予め作製しておいた焼結助剤:Li−W−B−Si−Oガラスを、3モル添加し、ボールミルにて湿式混合し、乾燥することによって誘電体磁器組成物原料を得た。なお、焼結助剤としてのLi−W−B−Si−Oガラスは、次に示すようにして作製した。すなわち、まず、所定組成が得られるように、各成分の酸化物、すなわち、LiO、WO、B、SiOを調合した。次に、これをボールミルで16時間湿式混合して粉砕後、蒸発乾燥させ、乾燥後の粉末を、1000℃、空気中で2時間焼成した。その後、微粉砕し、平均粒径が約1〜2μm程度のガラス成分粉末を得た。なお、本実施形態では、LiO、WO、B、SiOの混合割合は、LiO:11重量部、WO:6重量部、B:23重量部、SiO:60重量部とした。
【0079】
次に、得られた誘電体磁器組成物原料100重量部と、アクリル樹脂4.8重量部と、塩化メチレン40重量部と、酢酸エチル20重量部と、ミネラルスピリット6重量部と、アセトン4重量部とをボールミルで混合し、ペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0080】
平均粒径0.1〜0.8μmのNi粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練し、ペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0081】
平均粒径0.5μmのCu粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)35重量部およびブチルカルビトール7重量部とを混練し、ペースト化し、外部電極用ペーストを得た。
【0082】
次いで、上記にて調製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に厚さ8μmのグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。
【0083】
次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着してグリーンチップを得た。内部電極を有するシートの積層数は100層とした。
【0084】
次いで、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニール(熱処理)を行って、積層セラミック焼成体を得た。
脱バインダ処理は、昇温速度:300℃/時間、保持温度:500℃、保持時間:2時間、雰囲気:大気中、の条件で行った。
焼成は、昇温速度:表1に示す昇温速度、焼成保持温度:1000℃、保持時間:0.5時間、冷却速度:表1に示す昇温速度と同じ速度、雰囲気:加湿したN+H混合ガス雰囲気(酸素分圧:1×10−10Pa)、の条件で行った。
アニールは、保持温度:800℃、温度保持時間:2時間、冷却速度200℃/時間、加湿したNガス雰囲気(酸素分圧は10−1Pa)の条件で行った。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0085】
次いで、積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、外部電極用ペーストを端面に転写し、加湿したN+H雰囲気中において、800℃にて10分間焼成して外部電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンサの試料1〜10を得た。なお、これら試料1〜10は、焼成時の昇温速度を10〜800℃の範囲で変化させた試料である。
【0086】
このようにして得られた各コンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は100、その厚さは5μmであり、内部電極層の厚さは1μmであった。
【0087】
次いで、得られた各コンデンサ試料について、各深さT(T15、T30、T50)におけるW元素(M1元素)の含有割合、Q値、絶縁抵抗IR、高温加速寿命(HALT)を、それぞれ下記に示す方法により測定した。
【0088】
各深さT(T15、T30、T50)におけるW元素(M1元素)の含有割合
得られたコンデンサ試料の誘電体層を加工した後、イオンミリングにより試料を薄片化した。その後、走査型透過電子顕微鏡(TEM)にて観察を行い、誘電体粒子の各深さT(T15、T30、T50)におけるW元素の含有割合を測定した。
【0089】
具体的には、まず、誘電体粒子の略中心を通り、かつ、粒子の端から端まで一直線になるように、図3に示す各深さT(T15、T30、T50)においてTEMで線分析を行った。その後、90度ずらして同一の粒子に対して、各深さTにおいて線分析を行い、これらの結果を平均することにより各深さTにおけるW元素の含有割合を測定した。本実施例においては、誘電体粒子内部におけるW元素の含有割合とは別に、結晶粒界におけるW元素の含有割合を測定し、結晶粒界におけるW元素の含有割合を100%とした場合における、各深さTにおけるW元素の含有割合をパーセンテージで算出することにより評価した。結果を表1に示す。
【0090】
なお、深さT15、T30およびT50は、それぞれ粒子表面からの深さが粒径Dの15%、30%および50%の深さに相当する。
【0091】
Q値
まず、コンデンサ試料に対して、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)を用いて、室温(25℃)、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で、誘電損失(tanδ)を測定した。そして、得られた誘電損失(tanδ)に基づいて、Q値(=1/tanδ)を算出した。Q値は損失を表す指標であり、高い方が好ましい。本実施例では8,000以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0092】
絶縁抵抗IR
絶縁抵抗IRは、コンデンサ試料について、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用い、室温(25℃)において、DC50V/μmを60秒間印加した後の絶縁抵抗IR(単位はΩ)を測定した。本実施例では5.0×1012Ω以上を良好とした。
【0093】
高温加速寿命(HALT)
高温加速寿命(HALT)は、得られたサンプルを、200℃で10V/μmの直流電圧の印加状態に保持し、平均寿命時間を測定することにより評価した。本実施例では、印加開始から絶縁抵抗が1桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温加速寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。本実施例では、50時間以上を良好とした。
【0094】
【表1】

表1中、各深さT15、T30およびT50におけるW元素の含有割合は、結晶粒界におけるW元素の含有割合を100%とした場合の、含有割合である。
【0095】
表1に示すように、焼成時の昇温速度を300〜700℃/時間の範囲とした試料3〜9は、誘電体粒子中のW元素の含有割合が、粒子表面から粒子内部に向かって低くなっていく構成となり、さらには各深さT15、T30、T50におけるW元素の含有割合も本発明の所定範囲となっていた。そして、これら試料3〜9は、Q値、絶縁抵抗IRおよび高温加速寿命(HALT)に優れ、良好な結果となった。なお、これらのなかでも、焼成時の昇温速度を500〜700℃/時間の範囲とした試料5〜9は、高温加速寿命が100時間を超え、特に良好な結果となった。
【0096】
これに対して、焼成時の昇温速度を300℃/時間未満とした試料1,2は、各深さT15、T30、T50におけるW元素の含有割合が本発明の範囲外となり、Q値、絶縁抵抗IRおよび高温加速寿命(HALT)に劣る結果となった。なお、この理由としては、焼結助剤に含有されているLiが、焼成時に誘電体粒子中に拡散・固溶したためと考えられる。
【0097】
また、昇温速度を800℃/時間とした試料10においても、同様に、各深さT15、T30、T50におけるW元素の含有割合が本発明の範囲外となり、Q値、絶縁抵抗IRおよび高温加速寿命(HALT)に劣る結果となった。なお、この理由としては、焼結不良によるものと考えられる。
【0098】
実施例2
焼結助剤として、Li−V−B−Si−Oガラス(LiO:11重量部、V:6重量部、B:23重量部、SiO:60重量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様にして評価した。なお、実施例2においては、各試料を作製する際の、焼成時の昇温速度を表2に示す各速度として、合計5種類の試料を作製した。結果を表2に示す。
【0099】
【表2】

表2中、各深さT15、T30およびT50におけるV元素の含有割合は、結晶粒界におけるV元素の含有割合を100%とした場合の、含有割合である。
【0100】
表2より、第2成分として、Wの酸化物の代わりに、Vの酸化物を使用した場合においても、同様の結果が得られることが確認できる。
【0101】
実施例3
焼結助剤として、Li−Mo−B−Si−Oガラス(LiO:11重量部、MoO:6重量部、B:23重量部、SiO:60重量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様にして評価した。なお、実施例3においては、各試料を作製する際の、焼成時の昇温速度を表3に示す各速度として、合計5種類の試料を作製した。結果を表3に示す。
【0102】
【表3】

表3中、各深さT15、T30およびT50におけるMo元素の含有割合は、結晶粒界におけるMo元素の含有割合を100%とした場合の、含有割合である。
【0103】
表3より、第2成分として、Wの酸化物の代わりに、Moの酸化物を使用した場合においても、同様の結果が得られることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3】図3は誘電体粒子の粒子内構造を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0105】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
2a… 誘電体粒子
2b… 結晶粒界
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化物を含む主成分と、
Liの酸化物を含む第1成分、およびM1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)を含む第2成分を有する焼結助剤と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子と、隣り合う前記誘電体粒子間に存在する結晶粒界と、を有しており、
複数の前記誘電体粒子は、粒子表面から粒子内部に向かって、M1元素の濃度が低くなっているとともに、
前記誘電体粒子の粒径をDとし、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合を100%とした場合に、粒子表面からの深さが前記粒径Dの50%である深さT50における、M1元素の含有割合が、3〜55%であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
粒子表面からの深さが前記粒径Dの30%である深さT30における、M1元素の含有割合が、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合100%に対し、5〜60%である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
粒子表面からの深さが前記粒径Dの15%である深さT15における、M1元素の含有割合が、前記結晶粒界におけるM1元素の含有割合100%に対し、15〜70%である請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
主成分として含有される前記誘電体酸化物が、組成式{(Ba(1−x−y) Ca Sr)O}(Ti(1−z) Zr で表され、
前記組成式中のA、B、x、yおよびzが、0.75≦A/B≦1.04、0≦x≦0.9、0≦y≦0.5、0<z<1である請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記焼結助剤が、M2の化合物(ただし、M2はBa、Ca、Sr、Mg、Mn、B、AlおよびZnから選ばれる少なくとも1つ)を含む第3成分と、
Siの酸化物および/または焼成によりSiの酸化物になる化合物を含む第4成分と、をさらに含有する請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
誘電体酸化物を含む主成分と、Liの酸化物を含む第1成分およびM1の酸化物(ただし、M1は、V族、VI族元素から選択される少なくとも1種の元素)を含む第2成分を有する焼結助剤と、を含有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
焼成後に前記誘電体磁器組成物となる誘電体磁器組成物原料を準備する原料準備工程と、準備した前記誘電体磁器組成物原料を焼成する焼成工程と、を有し、
前記焼成工程における、焼成保持温度まで昇温する際の昇温速度を300〜700℃/時間とすることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程における焼成保持温度を900〜1100℃とする請求項6に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程における温度保持時間を0〜0.5時間とする請求項6または7に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
主成分として含有される前記誘電体酸化物が、組成式{(Ba(1−x−y) Ca Sr)O}(Ti(1−z) Zr で表され、
前記組成式中のA、B、x、yおよびzが、0.75≦A/B≦1.04、0≦x≦0.9、0≦y≦0.5、0<z<1である請求項6〜8のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
前記焼結助剤が、M2の化合物(ただし、M2はBa、Ca、Sr、Mg、Mn、B、AlおよびZnから選ばれる少なくとも1つ)を含む第3成分と、
Siの酸化物および/または焼成によりSiの酸化物になる化合物を含む第4成分と、をさらに含有する請求項6〜9のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−223863(P2007−223863A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49017(P2006−49017)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】