説明

調理方法およびそれを用いた調理機器

【課題】従来の調理方法では、塩分調整をしながら調理をすることで、使い勝手が悪く、また、調味液の食材への染み込みにムラがあり、美味しい調理物を得ることができなかった。
【解決手段】食品を加熱することにより95℃〜200℃の温度に加熱する加熱工程31と、それを一定時間維持する沸騰維持工程32と、沸騰維持工程32後、冷却を行う冷却工程33と、冷却工程33後に60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持工程34とを有し、加熱工程31と沸騰維持工程32と冷却工程33の工程時間を食品の種類によって制御し、保温維持工程34の工程時間を調味液の塩分濃度で制御することによって、最適な調理工程時間を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を調理するための調理方法および調理機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の食文化の多様化や質の向上にともなって、食品をより美味しく調理する為に様々な方法が提案されている。
【0003】
特に食品の塩分濃度は、美味しい料理を作るには重要であり、最近の健康ブームにおいても、自分の塩分摂取量をチェックできるようにすることが求められている。
【0004】
一般に、塩分摂取量の情報を得るために、塩分計を飲食物に挿入して簡易的に測定する方法がある。
【0005】
この方法を応用して、飲食物を収納する容器内面に、飲食物に接し、温度、塩分を検知する各種センサーを設け、これを表示装置で表示することで、飲食物の各種情報を簡単にチェックすることができるものがある。
【0006】
上記構成は、飲食物を容器内に入れ、操作部を操作すると、飲食物に接した各種センサーが飲食物内に含まれる温度、塩分濃度等を瞬時に検知し、これを解析回路で解析してその結果が表示装置に表示され、飲食物の各種情報をチェックしながら調理することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−27624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記従来の機器では、飲食物の各種情報をチェックし、塩分調整をしながら調理することで、健康食としての減塩メニューを容易に作ることができるが、調味液が食材に染み込んでおらず、薄く感じ、美味しい調理物を得ることができなかった。
【0008】
さらに、調理中、鍋内の調理物から一部を取り出して容器に移し変え、その都度調味液を調整する必要があり、使い勝手が悪かった。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を考慮して、加熱調理中の調味液の塩分濃度を検知し、最適な塩分濃度に自動で調整し、出来上がった調理物に含有されている塩分や糖分を低減しても、食品内部まで調味液を染み込ませることで官能的に美味しい調理物を得ることができる調理方法および調理機器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の調理方法は、食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程と、前記沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持工程とを有し、前記加熱工程および前記沸騰維持工程および前記冷却工程の各工程時間を食品の種類によって制御し、前記保温維持工程の工程時間を調理物の煮汁の塩分濃度で制御するものである。
【0011】
これによって、食品の種類、煮汁の塩分濃度に応じて最適な調理工程時間を制御することができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、官能的に美味しいと感じられる最適な量の調味液を食品に染み込ませる調理方法を実現することができる。
【0012】
また、本発明の調理機器は、断熱構造で構成された調理室と、前記調理室内に収納された食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱手段と、前記加熱手段によって加熱された前記食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持手段と、前記沸騰維持手段によって沸騰維持された前記食品を60℃〜80℃の温度まで冷却を行う冷却手段と、前記冷却手段によって冷却された前記食品を60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持手段と調理物の煮汁の塩分濃度を検知する検知手段を備え、前記加熱手段および前記沸騰維持手段および前記冷却手段の各作動時間を食品の種類によって制御し、前記保温維持手段の作動時間を前記検知手段で検知した塩分濃度で制御する制御装置を備えたものである。
【0013】
これによって、食品の種類、煮汁の塩分濃度に応じて最適な調理工程時間を制御することができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、官能的に美味しいと感じられる最適な量の調味液を食品に染み込ませる調理を実現する調理機器を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の調理方法は、食品の種類、煮汁の塩分濃度に応じて最適な調理工程時間、冷却速度を制御することができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、官能的に美味しいと感じられる最適な量の調味液を食品に染み込ませる調理方法を実現することができ、健康的でかつ美味しい調理物を提供することができる。
【0015】
また、本発明の調理機器は、食品の種類、煮汁の塩分濃度に応じて最適な調理工程時間を制御することができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、官能的に美味しいと感じられる最適な量の調味液を食品に染み込ませる調理を実現することができる調理機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
請求項1に記載の発明は、食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程と、前記沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持工程とを有し、前記加熱工程および前記沸騰維持工程および前記冷却工程の各工程時間を食品の種類によって制御し、前記保温維持工程の工程時間を調理物の煮汁の塩分濃度で制御することにより、食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明に加えて、少なくとも保温維持工程の保温維持時間を調理物の煮汁の塩分濃度に加えて、さらに食品の種類によって制御するものであり、さらに精度良く食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明に加えて、加熱工程の前に0℃〜10℃の温度で冷却保存する保存工程とをさらに備えたものであり、食品を調理前に保存しておいても食品の鮮度が低下することを防ぐことができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明に加えて、保温維持工程の後に95℃〜200℃の温度に加熱する再加熱工程とをさらに備えたものであり、調理後の食品を温かい状態にすることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明に加えて、少なくとも加熱工程と沸騰維持工程と冷却工程と保温維持工程とを食品の種類に加えて、さらに食品の重量によって制御するものであり、各調理工程を食品の種類に加えて重量によって制御することにより、食品の重量に応じてさらに精度良く食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明に加えて、少なくとも加熱工程と沸騰維持工程と冷却工程と保温維持工程とを食品の種類に加えて、さらに食品の温度によって制御するものであり、各調理工程を食品の種類に加えて温度によって制御することにより、外気温や食品の温度に応じてさらに精度良く食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、断熱構造で構成された調理室と、前記調理室内に収納された食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱手段と、前記加熱手段によって加熱された前記食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持手段と、前記沸騰維持手段によって沸騰維持された前記食品を60℃〜80℃の温度まで冷却を行う冷却手段と、前記冷却手段によって冷却された前記食品を60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持手段と調理物の煮汁の塩分濃度を検知する検知手段を備え、前記加熱手段および前記沸騰維持手段および前記冷却手段の各作動時間を食品の種類によって制御し、前記保温維持手段の作動時間を前記検知手段で検知した塩分濃度で制御する制御装置を備えたものであり、食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止する調理機器を実現することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、調理物の塩分濃度を検知する検知手段として、赤外線吸収スペクトルを利用する請求項7に記載の調理機器であり、正確に塩分濃度を検知することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、調理物の塩分濃度を検知する検知手段として、電気伝導度を検知するセンサーを利用する請求項7または8に記載の調理機器であり、正確に塩分濃度を検知することができる。
【0025】
請求項10に記載の発明は、請求項7から9のいずれか一項に記載の発明に加え、少なくとも保温維持工程の保温維持時間を調理物の煮汁の塩分濃度に加えて、さらに食品の種類によって制御する手段を備えたものであり、さらに精度良く食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止することができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項7から10のいずれか一項に記載の発明に加え、加熱手段によって食品を加熱する前に、0℃〜10℃の温度で冷却保存する保存手段とをさらに備えたものであり、食品を調理前に保存しておいても食品の鮮度が低下することを防ぐ調理機器を実現することができる。
【0027】
請求項12に記載の発明は、請求項7から11のいずれか一項に記載の発明に加え、保温維持手段によって食品を60℃〜80℃の温度で一定時間維持した後に95℃〜200℃の温度に加熱する再加熱手段とをさらに備えたものであり、調理後の食品を温かい状態にする調理機器を実現することができる。
【0028】
請求項13に記載の発明は、請求項7から12のいずれか一項に記載の発明に加えて、少なくとも加熱手段と沸騰維持手段と冷却手段と保温維持手段とを食品の種類に加えて、さらに食品の重量によって制御する制御装置を備えたものであり、各調理手段を食品の種類に加えて重量によって制御することにより、食品の重量に応じてさらに精度良く食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止する調理機器を実現することができる。
【0029】
請求項14に記載の発明は、請求項7から13のいずれか一項に記載の発明に加えて、少なくとも加熱手段と沸騰維持手段と冷却手段と保温維持手段とを食品の種類に加えて、さらに食品の温度によって制御する制御装置を備えたものであり、外気温や食品の温度に応じてさらに精度良く食品組織全体に調味液が染み込んだ上で調味液の食品への過剰な染み込みを防止する調理機器を実現することができる。
【0030】
請求項15に記載の発明は、請求項7から14のいずれか一項に記載の発明に加え、断熱構造として、ウレタン発泡材で形成されたものであり、さまざまな形状の調理室に応じた断熱構成を容易に形成することができる。
【0031】
請求項16に記載の発明は、請求項7または15に記載の発明に加え、断熱構造として、真空断熱材で形成されたものであり、調理室の断熱性能を向上させることができる。
【0032】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における調理機器の構成および作用について、図1を参照にしながら説明する。尚、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0033】
図1は、本発明の実施の形態1、2における調理機器を示す断面図である。
【0034】
調理機器は、調理する調理物10が収容されている鍋11と、調理物の温度を非接触で検知する赤外線センサー12と、調理する調理物を収容する鍋を加熱する電気ヒーター13と、鍋底で煮汁の塩分濃度を検知する塩分センサー15と、調理物10の重量を検知する重量センサー16を備えており、図には示していないが、圧縮機、凝縮器、キャピラリーチューブを有し、強制対流式蒸発器14により、調理室17内を冷却できる構造になっている。
【0035】
強制対流式蒸発器14で冷却された冷気は送風機18により調理室17内に強制通風される。ダンパーサーモ19は調理室入口に設けて電気的入力で冷気流入量を調整するものであり、モータ20の駆動力によってダンパーサーモ17を開閉するように構成されている。吐出ダクト21は前記送風機からの冷気を調理室17内に導くものであり、また吹き出し口22は調理室17内に冷気を吹き込むものであり、吸い込みダクト23は調理室17内の冷却した冷気を強制対流式蒸発器14に戻すために備えられている。
【0036】
また、調理室17はウレタン発泡あるいは、真空断熱材で形成された断熱構造を有している。
【0037】
図2は、本発明の実施の形態1、2における調理機器本体外殻の一部に設けたコントロールパネルを示す図である。コントロールパネル24は、調理する調理物のメニューを選択するメニュー選択キー25、選択したメニューを決定するメニュー決定ボタン26、選択したメニューを表示するメニュー表示パネル27、調理を開始する開始ボタン28、調理が終了したことを知らせる終了ランプ29を備えている。
【0038】
調理物を調理室17内の鍋11に収容し、コントロールパネル24のメニュー選択キー25によりメニューを選択し、開始ボタン28を押すことにより、選択されたメニューの情報に基づいて、赤外線センサー12で検知した調理物の温度を制御することより、調理物に最適な加熱と冷却を組み合わせた調理が行われる。
【0039】
以下、本実施の形態1における調理機器の調理室17にて調理する工程を従来の調理方法と比較しながら説明する。
【0040】
(表1)は、従来の調理方法で調理した食品に関するデータである。
【0041】
【表1】

【0042】
(表1)において、従来の調理方法で、調味液とともに調理した根菜煮の調理後の調味液の染み込み状態、煮崩れ状態、官能評価による軟らかさを示している。
【0043】
(表1)における調味液の染み込み状態の評価は、調理した食品の組織全体に調味液が染み込み、官能的に好ましい染み込みであるときには○、組織全体の1/2以上の染み込みのときには△、組織全体の1/2未満のとき、×とした。また、調理後の食品の見栄えや食感として重要な項目である煮崩れ状態は、調理した食品の組織全体がほとんど煮崩れていないときには○、煮崩れが組織全体の1/2未満のときは△、1/2以上のときは×とした。
【0044】
軟らかさの官能評価は、調理前の状態を0ポイントとし、1ポイント違うと軟らかさの差は明確に認識される。
【0045】
総合評価は、調理物として染み込み状態、煮崩れ状態、軟らかさから総合的に判断して評価を行い、染み込み状態が○、煮崩れが1/2未満、軟らかさが2ポイント以上のときに○、いずれか一項目でも満足しないときには×とした。
【0046】
(表1)により従来の調理方法1では、鍋等に調理物として根菜煮の材料と通常調理と比較して30%減塩した調味液を収容し、加熱操作により沸騰状態にした調理物をそのまま所定の時間維持したもので、煮崩れはほとんどなかったものの、染み込みは悪く、軟らかさも1ポイントと食べることは可能であるが十分軟らかい状態にはなっておらず、総合評価も×であった。
【0047】
(表1)に示したように、従来の調理方法1では、沸騰状態にある調理物を所定の時間維持し、通常調理の食材への染み込みが1.3%であるのに対し、0.6%と減塩になっていたものの、加熱維持時間が不充分であったため、染み込みが悪く、十分軟らかい状態にならなかった。
【0048】
また従来の調理方法2では、従来の調理方法1と同様に鍋等に調理物として同等の重量の根菜煮の材料と通常調理と比較して30%減塩した調味液を収容し、加熱操作により沸騰状態にした調理物をそのまま所定の時間維持したもので、染み込み状態及び軟らかさは従来の調理方法1と比較して良くなった。
【0049】
これは、沸騰維持時間を1時間と従来の調理方法より長くすることにより、食品の組織の破壊を促進し、その結果軟らかくなり、破壊された組織から調味液が染み込んだためである。しかし、沸騰状態を1時間維持したため、調理物の外側から煮崩れが生じ調理物本来の形を維持することができず、また、通常調理の食材への染み込みが1.3%であるのに対し、2.0%と減塩することができず、調理物の総合的な評価としては悪かった。
【0050】
また従来の調理方法3では、従来の調理方法1または2と同様に鍋等に調理物として同等の重量の根菜煮の材料と通常調理と比較して30%減塩した調味液を収容し、加熱操作により沸騰状態にした調理物を、塩分計を煮汁に入れたり、食材に挿入して塩分濃度を確認し、調味液や水を調整しながら調理したもので、染み込み状態及び軟らかさは従来の調理方法1よりは良かったが、従来の調理方法2より悪くなった。煮崩れは、従来の調理方法2と同様に悪く、調理物の総合的な評価としては悪かった。
【0051】
これは、加熱調理途中で塩分計を鍋内に挿入しながら調理するとき、塩分計が食材に接触したり、塩分計を食材に挿入するため、食材が煮崩れやすいからである。また、塩分計で確認する毎に、調味液や水加減を調整するため、食材の染み込み方にムラができたためである。
【0052】
次に、従来の調理方法1と同等の重量の根菜煮を例にとって、本実施の形態1における調理機器の調理室17にて調理する工程を説明する。
【0053】
まず、調理物10である根菜煮の材料を、調理室17内の、鍋11に収容し、メニュー選択キー25で根菜煮を選択し、選択したメニューをメニュー決定ボタン26で決定する。その後開始ボタン28を押すことにより、選択されたメニューの情報に基づいて調理が開始され、根菜煮の場合は、調理室17内の加熱手段としての電気ヒーター13が作動し、鍋11の加熱が行われることにより鍋11に収容された調理物10の温度が上昇し、根菜煮の温度は、赤外線センサーにより、沸騰維持手段としての電気ヒーター13の入力を制御することによって、所定の値で所定の時間維持される。その後、調理室17内の強制対流式蒸発器14が作動し、冷却手段として強制対流式蒸発器14で冷却された冷気が送風機18により調理室17内に強制通風され、根菜煮は冷却され、選択されたメニューの情報に基づいて、赤外線センサーにより保温維持手段としてダンパーサーモ19を制御することによって冷気量が調整され、所定の温度で所定の時間保温維持される。また、保温維持手段としては、ダンパーサーモ19を制御することで冷気量を調整するとともに、温度が下がりすぎた場合には電気ヒーター13を組み合わせて温度調節を行う。そして塩分センサー15により、煮汁が所定の塩分濃度に達した時点で、保温維持が終了し、終了ランプが点灯する。
【0054】
図3は、本発明の実施の形態1における調理工程の温度変化を示す調理工程図であり、図5は本発明の実施の形態1、2における調理工程の温度変化を示す調理工程図である。
【0055】
調理物の温度Tが、温度Tk1より低いことを検知したとき、加熱手段である電気ヒーター13が作動し、加熱手段によって、調理物は温度Tk1以上でt1時間沸騰維持工程として維持される。次に、調理物の温度Tが温度Tk2以上であることを検知したとき冷却手段である強制対流式蒸発器14が作動し冷却された冷気が調理室に強制通風される。その後t2時間が経過したときにとき調理物の温度Tが温度Tk2より高ければ、さらに冷却が継続しておこなわれ、調理物の温度Tが温度Tk2前後でt3時間保温維持されるように制御される。t3時間は、メニューによって定められた煮汁の塩分濃度M1<M<M2に達した時点で終了とし、終了表示される。
【0056】
まず、0℃〜10℃の保存工程30によって食品の鮮度低下を防ぎ、次に95℃〜200℃まで加熱する加熱工程31によって、食品の温度を上げ、次に95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程32を経た後、食品を60℃〜80℃まで冷却する冷却工程33で味を染み込ませた後、60℃〜80℃の温度で維持する保温維持工程34によってさらに食品内部まで味を染み込ませる。また、このようにして調理した調理物を再加熱する再加熱工程35によって、再び食品を温めることができる。
【0057】
なお調理物10を加熱する加熱手段は、電気ヒーター13に限定されるものでなく、IHやガス等でもよい。また、食品の温度を検知するセンサーは、赤外線センサー12に限定されるものではなく、芯温計等でもよい。さらに、冷却手段は強制対流式蒸発器14に限定されるものではなく、ペルチェ式等でもよい。
【0058】
(表2)は、実施の形態1、2の調理物に関するデータである。
【0059】
【表2】

【0060】
(表2)により実施の形態1では、調理後の染み込み状態は良く、十分軟らかくなっており、煮崩れもない調理物が得られ、総合評価も良かった。
【0061】
これは、(表2)の実施の形態1と同じ重量で、調味液30%減塩した根菜煮の従来の調理方法3と比較すると、(表2)の実施の形態1の煮汁の塩分濃度、食材に染み込んだ塩分濃度は同等であるが、食材へ均一に染み込んでおり、減塩していない通常調理の食材への染み込み1.3%と比較しても減塩しており、根菜煮に適した保温維持時間が実現できたことにより、調味液の染み込みも良くなり、煮崩れもなく十分軟らかい調理物を得ることが出来た。
【0062】
(表3)は食品のメニューによる最適な塩分濃度の一例である。
【0063】
【表3】

【0064】
(表3)の食品のメニューは調理方法の違いにより、煮汁を多く蒸発させる順にA、B、Cとしている。
【0065】
煮汁が最初から少なめで煮汁をやや残して煮詰めるAの煮付けは、保温維持時間を、煮汁の塩分濃度が1.2〜1.8%の時点で終了することで、食材へ1.5%の塩分が染み込み、煮付けに好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の塩分濃度を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0066】
次に、Aよりも煮汁は多く煮汁が無くなるまで煮詰めるBの煮しめは、保温維持時間を、煮汁の塩分濃度が0.8〜1.2%の時点で終了することで、食材へ1.0%の塩分が染み込み、煮しめに好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量や塩分濃度を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0067】
煮汁はAやBよりも多く、出来上がりの煮汁が多く残るCの含め煮は、保温維持時間を、煮汁の塩分濃度が0.4〜0.8%の時点で終了することで、食材へ0.5%の塩分が染み込み、含め煮に好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量や塩分濃度を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0068】
煮汁ごと全て食べるDのスープは、保温維持時間を、煮汁の塩分濃度が0.5〜0.7%の時点で終了することで、食材へ0.6%の塩分が染み込み、スープに好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量や塩分濃度を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0069】
また、メニューや食品の重量、種類、大きさによっては、保温維持時間終了後、さらに加熱を行うことによって、調味液の染み込みも良くなり、煮崩れもなく十分軟らかい調理物を得ることが出来る。
【0070】
また、保存ボタンを備えたコントロールパネル24においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室17の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。また、再加熱ボタンを備えたコントロールパネル24においては、調理が終了した調理物10を、食べる直前に、再加熱ボタンを押すことにより、食べごろ温度にまで加熱維持することができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間、再加熱時間を設定することができることにより、保存、調理、再加熱を自動で行うことができる。
【0071】
以上述べたところから明らかなように、実施の形態1の調理機器は、調理物として根菜煮を調理するとき、材料の重量に関わらず最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現することにより、調味液の染み込みも良く、煮崩れもなく、十分軟らかい総合評価が良い調理物を得ることができることを特徴とするものである。
【0072】
(実施の形態2)
本実施の形態2における調理機器は、本実施の形態1の調理機器と同様の図1、図2に示すような構成になっている。
【0073】
従来の調理方法1と同等の重量で通常調理と比較して30%減塩したかぼちゃの含め煮を例にとって、本実施の形態2における調理機器の調理室17にて調理する工程を説明する。まず、調理物10であるかぼちゃの含め煮の材料を、調理室17内の、鍋11に収容し、メニュー選択キー25でかぼちゃの含め煮を選択し、選択したメニューをメニュー決定ボタン26で決定する。その後開始ボタン28を押すことにより、選択されたメニューの情報に基づいて調理が開始され、かぼちゃの含め煮の場合は、まず調理室17内の重量センサー16が調理物の重量を検知し、次に調理室17内の電気ヒーター13が作動し、鍋の加熱が行われることにより鍋に収容された調理物の温度が上昇し、かぼちゃの含め煮の温度は、赤外線センサーにより、電気ヒーターの入力を制御することによって、所定の値で所定の時間維持される。その後、調理室17内の強制対流式蒸発器14が作動し、強制対流式蒸発器14で冷却された冷気は送風機18により調理室17内に強制通風され、かぼちゃの含め煮は冷却され、選択されたメニューの情報に基づいて、赤外線センサーによりダンパーサーモ19を制御することによって、所定の温度で保温維持される。そして、重量センサー16により、食材の重量が、初期重量に対する所定の重量比に達した時点で、保温維持が終了し、終了ランプが点灯する。
【0074】
調理物を加熱する加熱手段は、電気ヒーターに限定されるものでなく、食品の温度を検知するセンサーは、赤外線センサーに限定されるものではない。さらに、冷却手段は強制対流式蒸発器に限定されるものでない。
【0075】
図4は、本発明の実施の形態2における調理工程の温度変化を示す調理工程図である。
【0076】
調理物の温度Tが、温度Tk1より低いことを検知したとき、重量センサー16で調理物の重量Waを検知する。次に加熱手段である電気ヒーター13が作動し、加熱手段によって、調理物は温度Tk1以上でt1時間沸騰維持工程として維持される。次に、調理物の温度Tが温度Tk2以上であることを検知したとき冷却手段である強制対流式蒸発器14が作動し冷却された冷気が調理室に強制通風される。その後t2時間が経過したときにとき調理物の温度Tが温度Tk2より高ければ、さらに冷却が継続しておこなわれ、調理物の温度Tが温度Tk2前後でt3時間保温維持されるように制御される。t3時間は、加熱調理前の重量Waに対する加熱調理後の重量Wbの比Wa/Wbがメニューによって定められた比率W1<Wa/Wb<W2に達した時点で終了とし、終了表示される。
【0077】
(表2)により実施の形態2では、調理後の染み込み状態は良く、十分軟らかくなっており、煮崩れもない調理物が得られ、総合評価も良かった。
【0078】
これは、(表2)の実施の形態2と同じ重量の根菜煮の従来の調理方法1の初期重量に対する調理後の重量比と、(表2)の実施の形態2の重量比は70%と変わらないが、食材に染み込んだ塩分濃度は0.5%と薄くなり、通常調理の食材への染み込み1.3%と比較して減塩されており、かぼちゃの含め煮に適した保温維持時間が実現できたことにより、調味液の染み込みも良くなり、煮崩れもなく十分軟らかい調理物を得ることが出来た。
【0079】
また、保存ボタンを備えたコントロールパネル24においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室17の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。また、再加熱ボタンを備えたコントロールパネル24においては、調理が終了した調理物10を、食べる直前に、再加熱ボタンを押すことにより、食べごろ温度にまで加熱維持することができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間、再加熱時間を設定することができることにより、保存、調理、再加熱を自動で行うことができる。
【0080】
(表4)は食品のメニューによる最適な重量割合の一例である。
【0081】
【表4】

【0082】
(表4)の食品のメニューは調理方法の違いにより、煮汁を多く蒸発させる順にA、B、Cとしている。
【0083】
煮汁が最初から少なめで煮汁をやや残して煮詰めるAの煮付けは、保温維持時間を、初期重量に対する調理後の重量比が55〜65%の時点で終了することで、食材へ1.5%の塩分が染み込み、煮付けに好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0084】
次に、Aよりも煮汁は多く煮汁が無くなるまで煮詰めるBの煮しめは、保温維持時間を、初期重量に対する調理後の重量比が45〜55%の時点で終了することで、食材へ1.0%の塩分が染み込み、煮しめに好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0085】
煮汁はAやBよりも多く、出来上がりの煮汁が多く残るCの含め煮は、保温維持時間を、初期重量に対する調理後の重量比が65〜75%の時点で終了することで、食材へ0.5%の塩分が染み込み、含め煮に好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0086】
煮汁ごと全て食べるDのスープは、保温維持時間を、初期重量に対する調理後の重量比が75〜85%の時点で終了することで、食材へ0.6%の塩分が染み込み、スープに好ましい十分な染み込みを実現することができる。この保温維持工程においては食品の重量を検知しながら制御していくことでより、食品のメニューに応じた染み込みを図ることができる。
【0087】
また、メニューや食品の重量、種類、大きさによっては、保温維持時間終了後、さらに加熱を行うことによって、調味液の染み込みも良くなり、煮崩れもなく十分軟らかい調理物を得ることが出来る。
【0088】
また、保存ボタンを備えたコントロールパネル24においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室17の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。また、再加熱ボタンを備えたコントロールパネル24においては、調理が終了した調理物10を、食べる直前に、再加熱ボタンを押すことにより、食べごろ温度にまで加熱維持することができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間、再加熱時間を設定することができることにより、保存、調理、再加熱を自動で行うことができる。
【0089】
以上述べたところから明らかなように、実施の形態2の調理機器は、調理物としてかぼちゃの含め煮を調理するとき、食品の種類に関わらず最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現することにより、調味液の染み込みも良く、煮崩れもなく、十分軟らかい総合評価が良い調理物を得ることができることを特徴とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明にかかる調理機器は、食品を調理するとき、食品の種類、食品の塩分濃度に応じた最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現することにより、調味液の食品への染み込みすぎを防止した上で、食品内部への染み込みを十分に図ることができるので、食品以外の有機物や無機物の加熱や冷却の制御を実現する用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態1,2における調理機器を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1,2におけるコントロールパネルを示す図
【図3】本発明の実施の形態1における調理工程図
【図4】本発明の実施の形態2における調理工程図
【図5】本発明の実施の形態1,2における調理工程図
【符号の説明】
【0092】
10 調理物
11 鍋
12 赤外線センサー
13 電器ヒーター(加熱手段)
14 強制対流式蒸発器(冷却手段)
15 塩分センサー
16 重量センサー
17 調理室
18 送風機
19 ダンパーサーモ
20 モータ
21 吐出ダクト
22 吹き出し口
23 吸い込みダクト
24 コントロールパネル
25 メニュー選択キー
26 メニュー決定ボタン
27 メニュー表示パネル
28 開始ボタン
29 終了ランプ
30 保存工程
31 加熱工程
32 沸騰維持工程
33 冷却工程
34 保温維持工程
35 再加熱工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程と、前記沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持工程とを有し、前記加熱工程および前記沸騰維持工程および前記冷却工程の各工程時間を食品の種類によって制御し、前記保温維持工程の工程時間を調理物の煮汁の塩分濃度で制御する調理方法。
【請求項2】
少なくとも保温維持工程の工程時間を調理物の煮汁の塩分濃度に加えて、さらに食品の重量によって制御する請求項1に記載の調理方法。
【請求項3】
加熱工程の前に0℃〜10℃の温度で冷却保存する保存工程とをさらに備えた請求項1または2に記載の調理方法。
【請求項4】
保温維持工程の後に95℃〜200℃の温度に加熱する再加熱工程とをさらに備えた請求項1から3のいずれか一項に記載の調理方法。
【請求項5】
少なくとも加熱工程と沸騰維持工程と冷却工程を食品の種類に加えて、さらに食品の重量によって制御する請求項1から4のいずれか一項に記載の調理方法。
【請求項6】
少なくとも加熱工程と沸騰維持工程と冷却工程を食品の種類に加えて、さらに食品の温度によって制御する請求項1から5のいずれか一項に記載の調理方法。
【請求項7】
断熱構造で構成された調理室と、前記調理室内に収納された食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱手段と、前記加熱手段によって加熱された前記食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持手段と、前記沸騰維持手段によって沸騰維持された前記食品を60℃〜80℃の温度まで冷却を行う冷却手段と、前記冷却手段によって冷却された前記食品を60℃〜80℃の温度で一定時間維持する保温維持手段と調理物の煮汁の塩分濃度を検知する検知手段を備え、前記加熱手段および前記沸騰維持手段および前記冷却手段の各作動時間を食品の種類によって制御し、前記保温維持手段の作動時間を前記検知手段で検知した塩分濃度で制御する制御装置を備えた調理機器。
【請求項8】
調理物の塩分濃度を検知する検知手段として、赤外線吸収スペクトルを利用する請求項7に記載の調理機器。
【請求項9】
調理物の塩分濃度を検知する検知手段として、電気伝導度を検知するセンサーを利用する請求項7または8に記載の調理機器。
【請求項10】
少なくとも保温維持手段の保温維持時間を調理物の煮汁の塩分濃度に加えて、さらに食品の重量によって制御する請求項7から9のいずれか一項に記載の調理機器。
【請求項11】
加熱手段によって食品を加熱する前に、0℃〜10℃の温度で冷却保存する保存手段とをさらに備えた請求項7から10のいずれか一項に記載の調理機器。
【請求項12】
保温維持手段によって食品を60℃〜80℃の温度で一定時間維持した後に95℃〜200℃の温度に加熱する再加熱手段とをさらに備えた請求項7から11のいずれか一項に記載の調理機器。
【請求項13】
少なくとも加熱手段と沸騰維持手段と冷却手段と保温維持手段とを食品の種類に加えて、さらに食品の重量によって制御する制御装置を備えた請求項7から12のいずれか一項に記載の調理機器。
【請求項14】
少なくとも加熱手段と沸騰維持手段と冷却手段と保温維持手段とを食品の種類に加えて、さらに食品の温度によって制御する制御装置を備えた請求項7から13のいずれか一項に記載の調理機器。
【請求項15】
前記断熱構造として、ウレタン発泡材で形成されたことを特徴とする請求項7から14のいずれか一項に記載の調理機器。
【請求項16】
前記断熱構造として、真空断熱材で形成されたことを特徴とする請求項7または15に記載の調理機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−333815(P2006−333815A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163918(P2005−163918)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】