説明

車両の制御装置

【課題】複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両において、駆動力の制御性を高めることが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】配分比決定部95は要求トルクFの符号が負である場合には静荷重分配比に基づいて要求トルクFの配分比を決定する。一方、配分比決定部95は要求トルクFの符号が正である場合には動荷重分配比に基づいて配分比を決定する。配分比決定部95は要求トルクFの符号が変わるときには、静荷重分配比と動荷重分配比とを用いて配分比を決定する。これによって要求トルクFの符号が変化しても車両の前後輪における駆動力が不連続的に変化するのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置に関し、特に、複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両、およびこのような車両の制御装置が従来から知られている。たとえば特開2001−171378号公報(特許文献1)には、前輪および後輪の一方を第1原動機で駆動可能とし、他方を第2原動機で駆動可能とした4輪駆動車の制御装置が開示される。
【0003】
この制御装置は運転者による出力操作手段の操作程度と車速とに基づいて目標駆動力を求める。そして制御装置は、その目標駆動力を前輪側および後輪側から出力するための前輪駆動力および後輪駆動力を、車両状態またはその車両の運転状態に基づいて制御する。
【特許文献1】特開2001−171378号公報
【特許文献2】特開2004−135471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような4輪駆動車において制御装置は車両状態や車両の運転状態等に基づいて、目標駆動力を前後輪に分配する際の分配比を決定する。たとえば車両の加速時等、目標駆動力の符号が正であるときには、分配比(動荷重分配比)は車両の走行条件に応じて様々に決定される。一方、車両の減速時等、目標駆動力の符号が負であるときには、分配比は静荷重分配比(静止状態で前輪と後輪とにかかる車両荷重の比)に決定される。
【0005】
しかしながら上述のように分配比を決定した場合には、車両の加速と減速とが繰り返して行なわれると、加速状態と減速状態との切換わり時に分配比が不連続的に変化する(大きく変化する)ことが考えられる。よって駆動力が急変する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両において、駆動力の制御性を高めることが可能な車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は要約すれば、複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両の制御装置である。制御装置は、要求駆動力決定部と、配分比決定部とを備える。要求駆動力決定部は、車両の運転状態に基づいて、車両に求められる要求駆動力を決定する。配分比決定部は、車両の運転状態に基づいて、複数の車輪への要求駆動力の配分比を決定する。配分比決定部は、要求駆動力の符号が負であるときには車両の静荷重分配比に基づいて配分比を決定する。配分比決定部は、要求駆動力の符号が正であるときには車両の動荷重分配比に基づいて配分比を決定する。配分比決定部は、要求駆動力の符号が変わるときには、静荷重分配比と動荷重分配比とを用いて配分比を決定する。制御装置は、配分比に従って複数の動力源を制御する動力源制御部をさらに備える。
【0008】
好ましくは、複数の動力源は、第1の動力源と、第2の動力源とである。第1の動力源は、複数の車輪のうちの2つの前輪を駆動する。第2の動力源は、複数の車輪のうちの2つの後輪を駆動する。第1および第2の動力源の少なくとも一方は電動機を含む。
【0009】
より好ましくは、配分比決定部は、要求駆動力の符号が変わるときには、要求駆動力が0のときの動荷重分配比と静荷重分配比とを用いた線形補間によって配分比を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両において駆動力の制御性を高めることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【0012】
図1は、本発明に従う車両の制御装置によって制御される車両の概略構成を示すブロック図である。
【0013】
図1を参照して、ハイブリッド車両100は、バッテリ10と、電力変換部20と、電動機(モータ)30と、エンジン40と、動力分割機構50と、発電機(ジェネレータ)60と、減速機70と、前輪80a,80bとを備える。ハイブリッド車両100は、さらに、電動機および発電機として機能するモータジェネレータ75と、後輪85a,85bと、制御装置90とを備える。ハイブリッド車両100は、さらに、アクセルペダル装置110と、アクセル開度センサ120と、車速センサ130とを備える。
【0014】
バッテリ10は、充電可能な二次電池(たとえばニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池)から構成される。電力変換部20は、バッテリ10から供給された直流電圧を、モータ30やモータジェネレータ75を駆動するための交流電圧に変換するインバータ(図示せず)を含む。このインバータは、双方向の電力変換が可能なように構成され、モータ30やモータジェネレータ75の回生制動動作による発電電力(交流電圧)およびジェネレータ60による発電電力(交流電圧)を、バッテリ10充電用の直流電圧に変換する機能を併せ持つ。
【0015】
電力変換部20は、直流電圧のレベル変換を行なう昇降圧コンバータ(図示せず)をさらに含んでもよい。このような昇降圧コンバータを配置することにより、バッテリ10の供給電圧よりも高電圧を振幅とする交流電圧によってモータ30やモータジェネレータ75を駆動することができるので、モータ駆動効率を向上することができる。
【0016】
エンジン40は、ガソリン等を燃料とする内燃機関であり、燃料の燃焼による熱エネルギを駆動力となる運動エネルギに変換して出力する。動力分割機構50は、エンジン40からの出力を、減速機70を介して前輪80a,80bへ伝達する経路と、ジェネレータ60へ伝達する経路とに分割可能である。ジェネレータ60は、動力分割機構50を介して伝達されたエンジン40からの出力によって回転されて発電する。ジェネレータ60による発電電力は、電力変換部20によって、バッテリ10の充電電力、あるいはモータ30およびモータジェネレータ75の駆動電力として用いられる。
【0017】
モータ30は、電力変換部20から供給された交流電圧によって回転駆動されて、その出力は、減速機70を介して前輪80a,80bへ伝達される。また、モータ30が前輪80a,80bの減速に伴って回転される回生制動動作時には、モータ30は発電機として作用する。
【0018】
モータジェネレータ75は、モータ30と同様に電力変換部20から供給された交流電圧によって回転駆動されて、その出力は、減速機(図示せず)を介して後輪85a,85bへ伝達される。また、モータジェネレータ75が後輪85a,85bの減速に伴って回転される回生制動動作時には、モータジェネレータ75は発電機として作用する。
【0019】
アクセルペダル装置110は、運転者によって踏込まれるアクセルペダル105の踏力に応じたアクセル開度を設定する。アクセル開度センサ120は、アクセルペダル装置110と接続されて、アクセル開度Aに応じた出力電圧を制御装置90に送出する。
【0020】
車速センサ130は、ハイブリッド車両100の車速Vに応じた出力電圧を制御装置90に送出する。
【0021】
ハイブリッド車両100では、発進時、あるいは低速走行時および緩やかな坂を下るとき等の軽負荷時には、エンジン効率の低い領域を避けるために、エンジン40の出力を用いることなく、モータ30およびモータジェネレータ75のみによる出力で走行する。この場合には暖機運転が必要な場合を除いてエンジン40の運転が停止される。なお、暖機運転が必要な場合には、エンジン40はアイドル運転される。
【0022】
通常走行時には、エンジン40が始動され、エンジン40からの出力は、動力分割機構50によって前輪80a,80bの駆動力と、ジェネレータ60での発電用駆動力とに分割される。ジェネレータ60による発電電力は、モータ30の駆動に用いられる。したがって、通常走行時には、エンジン40による出力をモータ30からの出力でアシストして、前輪80a,80bが駆動される。制御装置90は、動力分割機構50による動力分割比率を、全体の効率が最大となるように制御する。
【0023】
加速時には、エンジン40の出力が増加する。エンジン40の出力は動力分割機構50によって前輪80a,80bの駆動力と、ジェネレータ60での発電用駆動力とに分割される。ジェネレータ60の発電による電力はモータ30およびモータジェネレータ75の駆動に用いられる。つまり加速時にはエンジン40の駆動力にモータ30およびモータジェネレータ75の駆動力が加えられて前輪80a,80bおよび後輪85a,85bが駆動される。
【0024】
減速および制動時には、モータ30は、前輪80a,80bによって回転駆動されて発電する。同様にモータジェネレータ75は、後輪85a,85bによって回転駆動されて発電する。これらモータ30およびモータジェネレータ75の回生発電によって回収された電力は、電力変換部20によって直流電圧に変換されてバッテリ10の充電に用いられる。
【0025】
このように、ハイブリッド車両100は、複数の動力源としてエンジン40、モータ30、ジェネレータ60、モータジェネレータ75を備える。複数の動力源は、エンジン40、モータ30、およびジェネレータ60からなる動力源65(第1の動力源)とモータジェネレータ75(第2の動力源)とからなる。動力源65はハイブリッド車両100の複数の車輪のうちの2つの前輪80a,80bを駆動する。モータジェネレータ75は複数の車輪のうちの2つの後輪85a,85bを駆動する。
【0026】
図2は、図1の制御装置90の制御ブロック図である。
図2を参照して、制御装置90は要求トルク決定部91と、配分比決定部95と、動力源制御部98とを備える。
【0027】
要求トルク決定部91は、図1のハイブリッド車両100の運転状態に基づいて要求駆動力(要求トルクF)を決定する。ハイブリッド車両100の「運転状態」に関する情報として、図1のアクセル開度センサ120と車速センサ130とからアクセル開度A、車速Vに関する情報がそれぞれ要求トルク決定部91に送られる。要求トルク決定部91はアクセル開度Aと車速Vと要求トルクFとが対応付けられたマップMAPを予め記憶し、このマップMAPを参照することで要求トルクFを決定する。
【0028】
配分比決定部95は、上述の運転状態に基づいて、前輪と後輪とに対する要求トルクFの配分比を決定する。この配分比に従って要求トルクFは前輪要求トルクfrqと後輪要求トルクrrqとに分配される。
【0029】
配分比決定部95は、後輪トルク分配比算出部92と、乗算部93と、加減算部94とを含む。
【0030】
後輪トルク分配比算出部92は、図1のアクセル開度センサ120と車速センサ130とを含めた各種センサの出力、すなわちハイブリッド車両100の「運転状態」に関する情報に基づいて前後輪の理想的な駆動力配分を実現する後輪トルク分配比rを算出する。なお後輪トルク分配比rは0から1までの値である。
【0031】
乗算部93は要求トルクFと後輪トルク分配比rとの積により後輪要求トルクrrqを算出する(rrq=F×r)。また、加減算部94は要求トルクFから後輪要求トルクrrqを減じることにより前輪要求トルクfrqを算出する(frq=F−rrq)。
【0032】
配分比決定部95は要求トルクFの符号が負である場合には静荷重分配比に基づいて要求トルクFの配分比を決定する。一方、配分比決定部95は要求トルクFの符号が正である場合には動荷重分配比に基づいて配分比を決定する。配分比決定部95は要求トルクFの符号が変わるときには、静荷重分配比と動荷重分配比とを用いて配分比を決定する。これによって要求トルクFの符号が変化しても図1のハイブリッド車両100の前後輪における駆動力が不連続的に変化するのを防ぐことができる。つまり本実施の形態によればハイブリッド車両100における駆動力の制御性を高めることが可能になる。
【0033】
なお本発明において「動荷重分配比」とは、車両が動いている状態において、前輪と後輪とにかかる車両荷重の比を意味するものとする。また「静荷重分配比」とは車両の静止状態で前輪と後輪とにかかる車両荷重の比を意味するものとする。本実施の形態では静荷重分配比r1は固定値に設定されるものとする。
【0034】
また要求トルクFの符号が正である場合とは、たとえば車両の発進時、加速時、坂道を一定速度で走行している場合などである。要求トルクFの符号が負である場合とは、たとえば車両の減速時等である。動力源制御部98は、上述の配分に従って複数の動力源(エンジン40、モータ30、ジェネレータ60、モータジェネレータ75、バッテリ10、電力変換部20)を制御する。これにより前輪は前輪要求トルクfrqで駆動されるとともに後輪は後輪要求トルクrrqで駆動される。
【0035】
図3は、図2の後輪トルク分配比算出部92の構成例を示す制御ブロック図である。
図3を参照して、後輪トルク分配比算出部92は、基本分配比決定部92Aと、制御分配比決定部92Bと、ガード処理部92Cとを含む。
【0036】
基本分配比決定部92Aは、図1のハイブリッド車両100の加速状態に動荷重分配比r0の値を制御分配比決定部92Bに送出する。動荷重分配比r0の値は各種センサの出力に基づいて決定される。
【0037】
制御分配比決定部92Bは、要求トルクFに基づいて後輪トルク分配比rの値を決定する。制御分配比決定部92Bにおける処理の詳細は後述する。
【0038】
ガード処理部92Cは後輪トルク分配比rの値が上限値を超える場合には後輪トルク分配比rの値を上限値に制限する。またガード処理部92Cは後輪トルク分配比rの値が下限値を下回る場合には後輪トルク分配比rの値を下限値に制限する。後輪トルク分配比rの範囲を制限することで、たとえば極端に摩擦係数が低い路面でハイブリッド車両100を旋回させたときに、ハイブリッド車両100のスリップを防止することができる。
【0039】
図4は、図3の制御分配比決定部92Bにおける処理を説明するフローチャートである。
【0040】
図4および図3を参照して、処理が開始されるとステップS1において制御分配比決定部92Bは要求駆動力(要求トルクF)が0以上か否かを判定する。要求駆動力が0以上の場合(ステップS1においてYES)、ステップS2において制御分配比決定部92Bは後輪トルク分配比rを動荷重分配比r0に設定する。つまり、制御分配比決定部92Bは基本分配比決定部92Aから受ける動荷重分配比r0をそのまま出力する。
【0041】
一方、要求駆動力(要求トルクF)が0未満の場合(ステップS1においてNO)、ステップS3において、制御分配比決定部92Bは後輪トルク分配比rを動荷重分配比r0および静荷重分配比r1に基づいて算出する。なお制御分配比決定部92Bは、静荷重分配比r1の値を予め保持している。ステップS2またはステップS3の処理が終了すると、全体の処理はステップS1に戻る。
【0042】
図5は、図4のステップS2およびステップS3における処理を詳細に説明する図である。
【0043】
図5を参照して、要求トルクF≧0[Nm]の場合には図4のステップS2に示す処理が行なわれる。つまり図2の制御分配比決定部92Bは後輪トルク分配比rを動荷重分配比r0に設定する。
【0044】
一方、要求トルクF<0[Nm]の場合には図4のステップS3に示す処理が行なわれる。制御分配比決定部92Bは要求駆動力(要求トルクF)が0のときの動荷重分配比r0と、アクセル開度が0%のときの要求駆動力に対応する静荷重分配比r1とを用いた線形補間により、ある要求トルクFに対応する後輪トルク分配比rを算出する。このときの後輪トルク分配比rはr2となる。
【0045】
従来技術によれば、要求トルクFの符号が変化した場合には後輪トルク分配比rはr0とr1との間で切換わる。これに対し、本実施の形態では要求トルクFの符号が正から負に変化する場合には後輪トルク分配比rはr0,r2,r1の順に切換わる。また本実施の形態では要求トルクFの符号が負から正に変化する場合には、後輪トルク分配比rはr1,r2,r0の順に切換わる。
【0046】
つまり本実施の形態では後輪トルク分配比rが不連続的に変化する(大きく変化する)のを防ぐことができる。すなわち本実施の形態によれば要求トルクFが正と負との間で切換る場合に前後輪の駆動力が急変するのを防ぐことができる。
【0047】
また、本実施の形態によれば図1のモータ30およびモータジェネレータ75の回生電力が急激に変化することを防止することができる。その理由は要求トルクFが正と負との間で切換る場合に前後輪の駆動力が急変するのを防ぐことができるためである。
【0048】
図6は、本実施の形態における後輪トルク分配比rの決定方法を説明する別の図である。図6に示される数値は本発明の理解を容易にするために用いた例であり、これらの数値により本発明が限定されるものではない。
【0049】
図6を参照して、車速Vがa、かつ、アクセル開度AがX%(0<X<100)のときに要求トルクFは0である。このときの後輪トルク分配比r(すなわち動荷重分配比)は0.1となる。一方、車速Vがa、かつ、アクセル開度Aが0%のときには、要求トルクFが−20[Nm]、かつ、後輪トルク分配比r(すなわち静荷重分配比)が0.3であると予め決定されている。
【0050】
よって、車速Vがa、かつ、アクセル開度Aが0<A<Xであるときに要求トルクFが−10[Nm]と決定されると、このときの後輪トルク分配比rは0.1と0.3との中間の値、すなわち0.2と算出される。
【0051】
続いて本発明による効果をより具体的に説明する。
図7は、本実施の形態の比較例による後輪トルク変化のシミュレーション結果を示す図である。
【0052】
図7を参照して、アクセル開度Aは時刻t1において0%から変化を開始して、時刻t2には100%に達する。アクセル開度Aの変化に応じて要求トルクは負の値から正の値に変化する。
【0053】
後輪トルク分配比rは時刻t1において静荷重分配比rBである。比較例では要求トルクの符号が変わると後輪トルク分配比rが単位時間あたり一定の大きさで減少する。後輪トルク分配比rは時刻t3において動荷重分配比rAに達する。
【0054】
ここで動荷重分配比rA=0であるとする。つまり図1のハイブリッド車両100は時刻t1以前ではモータ30およびモータジェネレータ75により回生発電を行なっているが、時刻t1以後はFF走行を行なうものとする。FF走行ではモータジェネレータ75のトルクを0にすることでハイブリッド車両100の燃費を向上させることができる。
【0055】
後輪側MG(図1のモータジェネレータ75)のトルクは時刻t1以前では負の値である。時刻t1から時刻t2の間で要求トルクが負の値から正の値に変化するので、後輪側MGのトルクも負の値から正の値に変化する。よって、後輪側MGのトルクは時刻t2においてT1(T1>0)に達する。時刻t2以後、要求トルクはある正の値で一定となるが後輪トルク分配比rが減少しているため、後輪側MGのトルクも減少する。後輪側MGのトルクは、時刻t3において最終的に0となる。
【0056】
後輪側MGのトルクは時刻t1以後のできるだけ短期間で0となるのが好ましい。しかし比較例では後輪側MGのトルクは一旦正の値に変化した後に0となる。別の言い方をすれば時刻t1から時刻t2の期間および時刻t2から時刻t3の期間で後輪側MGのトルクが大きく変化する。また後輪側MGのトルクが正である期間が存在するので、この期間ではFF走行が実現されていない。
【0057】
これらの原因は後輪トルク分配比rを単位時間あたり一定の大きさで減少させているためである。アクセル開度が0%から100%に達する時間が短くなるほど、このような課題が比較例では生じやすい。
【0058】
図8は、本実施の形態による後輪トルク変化のシミュレーション結果を示す図である。なお、図7との比較のため、図8に示す各時刻は図7に示す各時刻と同一である。
【0059】
図8を参照して、アクセル開度Aの変化は図7に示すアクセル開度Aの変化と同じである。時刻t1から時刻t11の期間では要求トルクが負の値から正の値に変化する。要求トルクが負の値である期間、後輪トルク分配比rは、静荷重分配比rBと要求トルクが0のときの動荷重分配比とを用いた線形補間により決定される。
【0060】
要求トルクが負の値から正の値に変化するのに応じ、後輪トルク分配比rは時刻t11において動荷重分配比rA(すなわち0)になる。後輪側MGトルクは時刻t1では負の値であるが、時刻t1以後単調に増加して時刻t11において0になる。なお時刻t11は時刻t2よりも早い時刻である。
【0061】
このように図7と図8とから、本実施の形態では後輪側MGトルクの変化が小さくなることが分かる。また、図7と図8とから本実施の形態では短期間でハイブリッド車両100の状態を回生発電状態からFF走行状態に切換えることができることが分かる。
【0062】
以上のように本実施の形態によれば、複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両において、配分比決定部は要求駆動力の符号が変わるときに静荷重分配比と動荷重分配比とに基づいて算出した配分比に基づいて要求トルクを配分する。これにより要求駆動力の符号が変わる際に駆動力が急変するのを防止できる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、車両の前後輪の少なくとも一方は電動機により駆動されるので、電動機の回生電力が急変するのを防止できる。
【0064】
なお、以上の説明では、複数の動力源は、2つの前輪を駆動する第1の動力源と2つの後輪を駆動する第2の動力源とからなるとした。しかし、本発明は複数の車輪(たとえば4つの車輪)をそれぞれ駆動する複数の動力源(たとえば4つの動力源)が設けられた構成の車両に対しても適用可能である。
【0065】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に従う車両の制御装置によって制御される車両の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の制御装置90の制御ブロック図である。
【図3】図2の後輪トルク分配比算出部92の構成例を示す制御ブロック図である。
【図4】図3の制御分配比決定部92Bにおける処理を説明するフローチャートである。
【図5】図4のステップS2およびステップS3における処理を詳細に説明する図である。
【図6】本実施の形態における後輪トルク分配比rの決定方法を説明する別の図である。
【図7】本実施の形態の比較例による後輪トルク変化のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】本実施の形態による後輪トルク変化のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
10 バッテリ、20 電力変換部、30 モータ、40 エンジン、50 動力分割機構、60 ジェネレータ、65 動力源、70 減速機、75 モータジェネレータ、80a,80b 前輪、85a,85b 後輪、90 制御装置、91 要求トルク決定部、92 後輪トルク分配比算出部、92A 基本分配比決定部、92B 制御分配比決定部、92C ガード処理部、93 乗算部、94 加減算部、95 配分比決定部、98 動力源制御部、100 ハイブリッド車両、105 アクセルペダル、110 アクセルペダル装置、120 アクセル開度センサ、130 車速センサ、MAP マップ、S1〜S3 ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪を駆動する複数の動力源を含む車両の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記車両の運転状態に基づいて、前記車両に求められる要求駆動力を決定する要求駆動力決定部と、
前記運転状態に基づいて、前記複数の車輪への前記要求駆動力の配分比を決定する配分比決定部とを備え、
前記配分比決定部は、前記要求駆動力の符号が負であるときには前記車両の静荷重分配比に基づいて前記配分比を決定し、前記要求駆動力の符号が正であるときには前記車両の動荷重分配比に基づいて前記配分比を決定し、前記要求駆動力の符号が変わるときには、前記静荷重分配比と前記動荷重分配比とを用いて前記配分比を決定し、
前記制御装置は、
前記配分比に従って前記複数の動力源を制御する動力源制御部をさらに備える、車両の制御装置。
【請求項2】
前記複数の動力源は、前記複数の車輪のうちの2つの前輪を駆動する第1の動力源と、
前記複数の車輪のうちの2つの後輪を駆動する第2の動力源とであり、
前記第1および第2の動力源の少なくとも一方は電動機を含む、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記配分比決定部は、前記要求駆動力の符号が変わるときには、前記要求駆動力が0のときの前記動荷重分配比と前記静荷重分配比とを用いた線形補間によって前記配分比を算出する、請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−210418(P2007−210418A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31389(P2006−31389)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】