説明

車両の制御装置

【課題】内燃機関の回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】ECU100は、エンジン回転数が所定値以下(ステップS1で"Yes")、且つ、フューエルカット非実施(ステップS2で"Yes")、且つ、アクセルオフ(ステップS3で"Yes")、且つ、ブレーキマスタ圧が所定値以上(ステップS4で"Yes")のとき、ブレーキマスタ圧に応じたダウンシフト先の変速段の決定(ステップS5)および順番変速か飛び変速かの決定(ステップS6)を行って、ダウンシフトを実施し(ステップS7)、ロックアップクラッチ圧を出力(ステップS8)してから、フューエルカットを実施する(ステップS9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、フューエルカットを行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両においては、アクセルペダルが踏み込まれていないときに燃料噴射を停止するいわゆるフューエルカットを行うことにより燃費を向上するようになっている。フューエルカットは、エンジンがストールしないよう、エンジンがフューエルカット開始エンジン回転数以上のときに実行されるようになっている。
【0003】
従来、この種の車両の制御装置としては、減速走行中のエンジンの回転数をフューエルカット開始エンジン回転数以上に保持するように自動変速機の変速段を制御するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、この種の車両の制御装置としては、フューエルカット中、且つ、エンジンがアイドル回転中、且つ、ブレーキ制動中に、車速条件を満たすとともに車両の減速度が所定値以上のときに、ダウンシフトを行うようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−203559号公報
【特許文献2】特開平1−229143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2に記載の車両の制御装置においては、定常走行状態または緩加速走行状態のような変速段が高速側でエンジン回転数が低い燃費に優れた走行状態からアクセルをオフにして減速走行を行う場合には、エンジン回転数がフューエルカット開始エンジン回転数以下となっているので、フューエルカットを実行することができず、減速走行時の燃費を向上することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、エンジン回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両の制御装置は、上記課題を解決するため、(1)内燃機関の出力をロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと複数の変速段を有する自動変速機とを介して駆動輪に伝達する車両の制御装置であって、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、運転者の減速意図を検出する減速意図検出手段と、前記内燃機関が低速回転している走行状態で前記アクセル開度検出手段によりアクセルオフが検出されたとき、前記減速意図検出手段が検出した減速意図に応じて前記自動変速機の変速段をダウンシフトさせてから、前記内燃機関のフューエルカットを行う制御手段と、を備えたことを特徴とした構成を有している。
【0009】
この構成により、内燃機関の回転数を低く抑えた定常走行または緩加速走行による燃費の向上と、この定常走行または緩加速走行から減速するときのフューエルカットによる燃費の向上を両立することができるので、内燃機関の回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記内燃機関が低速回転している走行状態とは、前記内燃機関がフューエルカット可能回転数以下で走行している状態であることを特徴とした構成を有している。
【0011】
この構成により、内燃機関の回転数がフューエルカット可能回転数以下のときに自動変速機の変速段をダウンシフトすることなく内燃機関のフューエルカットを行って内燃機関がストールしてしまうことを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記制御手段が、前記減速意図が大きいほど、前記自動変速機の変速段をより低速の変速段にダウンシフトさせることを特徴とした構成を有している。
【0013】
この構成により、ダウンシフト先の変速段において短時間でフューエルカットが中止されてしまうことが防止され、内燃機関の回転数が所定値より高くフューエルカットを継続できる時間を十分に確保することができる。
【0014】
さらに、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の車両の制御装置において、(4)前記制御手段が、前記自動変速機の変速段をダウンシフトさせてから、前記ロックアップクラッチを係合または半係合させた後に、前記内燃機関のフューエルカットを行うことを特徴とした構成を有している。
【0015】
この構成により、駆動輪から内燃機関への逆入力による内燃機関の回転数の上昇がトルクコンバータの作動油の滑りにより抑制されてしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内燃機関の回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の本実施の形態に係る自動変速機における各シフトポジションおよび各変速段に対応する摩擦係合要素の作動状態を表す作動状態対応マップである。
【図3】(a)は、本発明の実施の形態に係る車両の制御処理のECUに記憶されるダウンシフト時のダウン行き先選択マップであり、(b)は、ダウンシフト時の順番・飛び変速パターン選択マップである。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両の制御処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に係る車両の制御処理を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
まず、構成について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る車両10は、動力源としてのエンジン11と、エンジン11において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態に応じた変速段を形成する自動変速機20と、自動変速機20を油圧により制御するための油圧制御回路30と、プロペラシャフト25によって伝達された動力を伝達するディファレンシャル機構40と、ディファレンシャル機構40によって伝達された動力を用いて回転することにより車両10を駆動させる駆動輪45L、45Rと、を備えている。
【0021】
さらに、車両10は、自動変速機20におけるシフトポジションを切り替えるためのシフトレバー17と、車両10の全体を制御するための車両用電子制御装置としてのECU100と、各種センサを備えている。各種センサは、検出した検出信号を、ECU100に出力するようになっている。ここで、後述するように、シフトポジションとは、前進、後進等の動力の伝達方向を決定する位置(ポジション)を示し、変速段とは、1速、2速等の自動変速機20の入出力間の変速比を決定するギヤ段を示す。
【0022】
エンジン11は、ガソリンまたは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する内燃機関である。エンジン11は、燃焼室内で混合気の燃焼を断続的に繰り返すことによりシリンダ内のピストンを往復動させ、ピストンと動力伝達可能に連結されたクランクシャフト15を回転させることにより、自動変速機20に動力を伝達するようになっている。
【0023】
なお、エンジン11は、動力を出力するものであればよく、上記公知の動力装置に限られるものではない。また、エンジン11に用いられる燃料は、エタノール等のアルコールを含有するアルコール燃料であってもよい。
【0024】
自動変速機20は、後述する複数の遊星歯車装置を備えている。これらの遊星歯車装置は、油圧アクチュエータによって係合制御される複数の摩擦係合要素としてのクラッチおよびブレーキを有している。
【0025】
また、これらのクラッチおよびブレーキは、油圧制御回路30が有する図示しない各種のソレノイドおよびマニュアルバルブによって切り替えられる油圧回路の状態に応じて、係合状態および解放状態の間で作動するようになっている。したがって、自動変速機20は、これらのクラッチおよびブレーキの係合状態および解放状態の組み合わせに応じた変速段を形成するようになっている。
【0026】
このような構成により、自動変速機20は、エンジン11の動力として入力されるクランクシャフト15の回転を所定の変速比γで減速あるいは増速してプロペラシャフト25に伝達する有段式の変速機であり、車室内に設けられたシフトレバー17の切替位置のうちのいずれかのシフトポジションに応じた変速段を形成し、各変速段に対応した回転速度の変換がなされるようになっている。
【0027】
また、自動変速機20は、走行状態に応じてECU100に制御されることにより、変速段を変更するようになっている。さらに、自動変速機20は、ECU100がシフトセンサ81によって入力された検出信号に基づいて検出したシフトレバー17の切替位置に応じて、シフトポジションの変更に伴う変速段の変更を行うようになっている。なお、自動変速機20は、シフトレバー17の切替位置が駐車レンジ(Pレンジ)である場合には、図示しないパーキングロック機構によって、プロペラシャフト25の回転を機械的に禁止するように構成されている。
【0028】
シフトレバー17は、自動変速機20における動力伝達状態またはシフトポジションの切替時に、運転者によって切替操作されるようになっている。シフトレバー17は、運転者に、前進位置(Dレンジ)、後進位置(Rレンジ)、駐車位置(Pレンジ)、および中立位置(Nレンジ)のいずれかの切替位置(シフト)を選択させるように構成されている。
【0029】
シフトレバー17の切替位置は、シフトセンサ81によって検出され、ECU100に入力される。ECU100は、シフトセンサ81によって入力される検出信号が表すシフトレバー17の切替位置に基づいて、後述するマニュアル弁の切替位置を切り替えるようになっている。マニュアル弁は、この切替位置に応じて、図示しないオイルポンプから供給される油圧を、油圧経路を切り替えて、油圧制御回路30に供給するようになっている。
【0030】
油圧制御回路30は、複数のトランスミッションソレノイドおよびリニアソレノイドを有する油圧回路から構成される。また、油圧制御回路30は、ECU100によって制御され、油圧を利用して自動変速機20の変速段の変更およびロックアップクラッチ21aの係合状態を制御するとともに、自動変速機20の各潤滑部に対して潤滑油を供給するようになっている。
【0031】
また、油圧制御回路30は、複数のトランスミッションソレノイドおよびリニアソレノイドの作動状態に応じて、油圧経路の選択および流量を制御し、ライン圧を元圧とする油圧により、自動変速機20の複数の摩擦係合要素が選択的に係合あるいは解放されるようになっている。油圧制御回路30は、自動変速機20に、これらの摩擦係合要素の係合および解放の組み合わせに応じて、クランクシャフト15とプロペラシャフト25との回転数の比を変更させ、所望の変速段を形成させるようになっている。
【0032】
ディファレンシャル機構40は、車両10がカーブ等を走行する場合に、駆動輪45Lの回転数と駆動輪45Rの回転数との差を許容するものである。ディファレンシャル機構40は、プロペラシャフト25の回転により伝達された動力を、ドライブシャフト43L、43Rを回転させることによって駆動輪45L、45Rに伝達するようになっている。なお、ディファレンシャル機構40は、駆動輪45L、45Rの回転数の差を制限する状態(デフロック状態)をとることができるものであってもよい。
【0033】
駆動輪45L、45Rは、ドライブシャフト43L、43Rによって伝達された動力により回転し、路面との摩擦作用によって、車両10を駆動させるようになっている。なお、駆動輪45L、45Rは、車室内に設けられたブレーキペダル92によって操作される図示しないフットブレーキによって、制動されるようになっている。また、駆動輪45L、45Rは、車両10の停止時には、車室内に設けられた図示しないパーキングブレーキペダルによって操作されるパーキングブレーキによって制動されるようになっている。
【0034】
ECU100は、主制御部を構成するメインマイクロコンピュータ101と、補助制御部を構成するサブマイクロコンピュータ105と、各種センサの電気信号を入力する入力ポート106と、メインマイクロコンピュータ101およびサブマイクロコンピュータ105によって出力された信号を油圧制御回路30やエンジン11に出力する出力ポート107と、を含んで構成され、これらは双方向性バス108を介して互いに接続されている。また、メインマイクロコンピュータ101は、CPU(Central Processing Unit)102と、RAM(Random Access Memory)103と、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)104と、を有している。
【0035】
CPU102は、RAM103の一次記憶機能を利用しつつ、予めEEPROM104に記憶されたプログラムに従って、入力ポート106から図示しないADC(Analog Digital Converter)を介して入力された各種検出信号の処理等を実行することにより、エンジン11の出力制御、および自動変速機20の変速制御等を実行するようになっている。出力ポート107から出力された電気信号は、図示しないADCを介してエンジン11、油圧制御回路30等の制御対象に入力されるようになっている。
【0036】
また、EEPROM104は、CPU102がプログラムを実行する際の各種パラメータの他、図3(a)に示すダウン行き先選択マップ、および図3(b)に示す順番・飛び変速パターン選択マップを記憶しており、EEPROM104のCPU102は、後述するエンジン回転数センサ82の検出信号と、アクセル開度センサ83の検出信号と、ブレーキセンサ84の検出信号と、フューエルカットの実施状態とに基づいて、EEPROM104に記憶されたダウン行き先選択マップと順番・飛び変速パターン選択マップを参照して、自動変速機20のダウンシフト先の変速段と変速方法を決定し、決定した変速方法により変速段を形成するように油圧制御回路30を制御するようになっている。
【0037】
さらに、ECU100は、シフトセンサ81、エンジン回転数センサ82、アクセル開度センサ83およびブレーキセンサ84に接続されている。
【0038】
シフトセンサ81は、シフトレバー17が、複数の切替位置のうちいずれの切替位置にあるかを検出し、シフトレバー17の切替位置を表す検出信号をECU100に出力するようになっている。なお、ECU100は、シフトセンサ81によって入力された検出信号に基づいて、シフトレバー17の切替位置が表すシフトポジションを判定するようになっている。
【0039】
エンジン回転数センサ82は、エンジン11のクランクシャフト15に設けられた図示しないタイミングロータの所定の回転角ごとにパルスを発生し、このパルスをエンジン回転数を表す信号としてECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号に基づいて、エンジン回転数を算出するようになっている。
【0040】
アクセル開度センサ83は、例えば、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されており、アクセルペダル91が運転者により操作されると、アクセルペダル91の位置が示すアクセル開度を表す信号を、ECU100に出力するようになっている。アクセル開度センサ83は、本発明におけるアクセル開度検出手段を構成する。
【0041】
ブレーキセンサ84は、ブレーキマスタ圧、すなわちブレーキペダル92に連結されたマスタシリンダ93の油圧を検出し、このブレーキマスタ圧を表す検出信号をECU100に出力するようになっている。ブレーキセンサ84は、本発明における減速意図検出手段およびブレーキ圧検出手段を構成する。なお、減速意図検出手段としてのブレーキセンサ84は、ブレーキマスタ圧に代えて、ブレーキペダル92の踏力、ブレーキベダル92のストローク(踏み込み量)、または駆動輪45L、45Rに設けられた図示しないブレーキシリンダの油圧を検出することにより、ブレーキペダル92の踏力、ブレーキペダル92のストローク、またはブレーキシリンダの油圧を表す検出信号をECU100に出力するようにしてもよい。
【0042】
次に、自動変速機20の詳細な構成について説明する。自動変速機20は、エンジン11からクランクシャフト15を介して伝達された動力を、作動油を介して伝達するトルクコンバータ21と、変速装置23と、を備えている。
【0043】
トルクコンバータ21は、エンジン11と変速装置23との間に配置されており、コンバータカバー21kを介してクランクシャフト15に連結されたポンプインペラ21iと、変速装置23のインプットシャフト22に連結されたタービンランナ21tと、一方向の回転が禁止されているステータ21sと、クランクシャフト15とインプットシャフト22とを一体的に回転させるためのロックアップ機構21cと、を有している。
【0044】
ポンプインペラ21iとタービンランナ21tとの間には、作動油が充填されており、クランクシャフト15の回転によりポンプインペラ21iが回転すると、作動油を介してポンプインペラ21iの回転がタービンランナ21tに伝達され、タービンランナ21tが回転させられる。したがって、トルクコンバータ21は、エンジン11からクランクシャフト15を介して伝達された動力を、作動油を介して変速装置23に伝達するようになっている。
【0045】
ロックアップ機構21cは、インプットシャフト22と一体回転可能に連結されている。一般に、トルクコンバータ21は、作動油によってポンプインペラ21iの回転をタービンランナ21tに伝達するため、作動油のスリップ等が原因となり、伝達効率が小さくなる。そのため、ロックアップ機構21cは、伝達効率を増大させるため、クランクシャフト15とインプットシャフト22とを一体的に回転させることができるようになっている。
【0046】
ロックアップ機構21cにおいては、車速が一定以上となって、ポンプインペラ21iとタービンランナ21tの回転数が近づくと、作動油が図中に点線矢印で示した方向に流れることとなる。作動油は、ロックアップピストン21pを図中左方向に移動させ、ロックアップクラッチ21aを、クランクシャフト15と連結されたコンバータカバー21kに押し当てて係合させる。これにより、ロックアップ機構21cは、クランクシャフト15とインプットシャフト22とを一体的に回転させることにより作動油のスリップを発生させないため、燃費を向上させることができる。なお、トルクコンバータ21の構造は、従来の構造と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
変速装置23は、第1遊星歯車装置23aと、第2遊星歯車装置23bと、複数の摩擦係合要素としての第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2と、を有している。
【0048】
第1遊星歯車装置23aは、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であり、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、複数個のインナーピニオンギヤP1aと、複数個のアウターピニオンギヤP1bと、第1キャリヤCA1と、を有している。
【0049】
第1サンギヤS1は、自動変速機20のケース20aに回転不可能に固定されている。第1リングギヤR1は、第3クラッチC3を介して第1中間ドラムD1に一体回転可能または相対回転可能に支持されるとともに、第1クラッチC1を介して第2中間ドラムD2に一体回転可能または相対回転可能に支持されている。
【0050】
複数個のインナーピニオンギヤP1aおよび複数個のアウターピニオンギヤP1bは、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とが対向することにより形成される環状空間に複数個介装されている。
【0051】
それぞれのインナーピニオンギヤP1aは、第1サンギヤS1と、それぞれのアウターピニオンギヤP1bと、に噛合している。また、それぞれのアウターピニオンギヤP1bは、それぞれのインナーピニオンギヤP1aと、第1リングギヤR1と、に噛合している。また、各インナーピニオンギヤP1aおよび各アウターピニオンギヤP1bは、第1キャリヤCA1の支持軸部によって自転可能および公転可能に支持されている。これにより、各インナーピニオンギヤP1aおよび各アウターピニオンギヤP1bは、第1キャリヤCA1の支持軸を回転軸として自転することができるとともに、インプットシャフト22を回転軸として公転することができるようになっている。
【0052】
なお、インナーピニオンギヤP1aおよびアウターピニオンギヤP1bの自転とは、第1キャリヤCA1の支持軸部を回転軸とした回転であり、公転とは、インプットシャフト22を回転軸とした回転をいうものとする。
【0053】
第1キャリヤCA1は、各インナーピニオンギヤP1aと、各アウターピニオンギヤP1bとを、支持軸部によって自転可能および公転可能に支持するものである。また、第1キャリヤCA1は、中心軸部がインプットシャフト22に一体的に連結され、各インナーピニオンギヤP1aと、各アウターピニオンギヤP1bとを支持する支持軸部が第4クラッチC4を介して第1中間ドラムD1に一体回転可能または相対回転可能に支持されている。
【0054】
第1中間ドラムD1は、第1リングギヤR1の外径側に回転可能に配置されており、第3クラッチC3を介して第1リングギヤR1を一体回転可能または相対回転可能に支持し、第4クラッチC4を介して第1キャリヤCA1を一体回転可能または相対回転可能に支持している。また、第1中間ドラムD1は、第1ブレーキB1を介してケース20aに回転不可能または相対回転可能に支持されている。
【0055】
第2中間ドラムD2は、第1中間ドラムD1の内周側に設けられており、第1クラッチC1を介して第1リングギヤR1を一体回転可能または相対回転可能に支持している。
【0056】
第2遊星歯車装置23bは、ラビニヨ型の遊星歯車装置を有しており、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2よりも小径の第3サンギヤS3と、第2リングギヤR2と、複数個のロングピニオンギヤP2と、複数個のショートピニオンギヤP3と、第2キャリヤCA2と、ワンウェイクラッチF1と、を備えている。
【0057】
第2サンギヤS2は、第1中間ドラムD1に連結され、第3クラッチC3を介して第1リングギヤR1に一体回転可能または相対回転可能に連結されるとともに、第4クラッチC4を介して第1キャリヤCA1に一体回転可能または相対回転可能に連結されている。また、第2サンギヤS2は、インプットシャフト22を回転軸として回転可能となっている。
【0058】
第3サンギヤS3は、第2中間ドラムD2に連結され、第1クラッチC1を介して第1リングギヤR1に一体回転可能または相対回転可能に連結されるとともに、インプットシャフト22を回転軸として回転可能となっている。
【0059】
第2リングギヤR2は、プロペラシャフト25に連結されるとともに、インプットシャフト22を回転軸として回転可能になっている。
【0060】
それぞれのロングピニオンギヤP2は、第2サンギヤS2と、それぞれのショートピニオンギヤP3と、第2リングギヤR2と、に噛合している。また、それぞれのショートピニオンギヤP3は、第3サンギヤS3と、それぞれのロングピニオンギヤP2と、に噛合している。
【0061】
各ロングピニオンギヤP2と、各ショートピニオンギヤP3は、第2サンギヤS2および第3サンギヤS3が第2リングギヤR2と対向することによって形成される環状空間に複数個介装されるとともに、第2キャリヤCA2によって自転可能および公転可能に支持されている。これにより、各ロングピニオンギヤP2および各ショートピニオンギヤP3は、第2キャリヤCA2の支持軸部を回転軸として自転することができるとともに、インプットシャフト22を回転軸として公転することができるようになっている。
【0062】
第2キャリヤCA2は、各ロングピニオンギヤP2および各ショートピニオンギヤP3を自転可能および公転可能に支持するようになっている。また、第2キャリヤCA2は、中心軸部が第2クラッチC2を介してインプットシャフト22に一体回転可能または相対回転可能に支持されるとともに、各ロングピニオンギヤP2および各ショートピニオンギヤP3を支持する支持軸部が、第1ブレーキB1を介してケース20aに回転不可能または相対回転可能に支持されている。
【0063】
第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2は、オイルの粘性を利用した湿式多板型の摩擦係合要素によって構成されている。
【0064】
第1クラッチC1は、第3サンギヤS3が第1リングギヤR1に対して一体回転可能となる係合状態、または相対回転可能となる解放状態をとることができるようになっている。
【0065】
第2クラッチC2は、第2キャリヤCA2がインプットシャフト22に対して一体回転可能となる係合状態、または相対回転可能となる解放状態をとることができるようになっている。
【0066】
第3クラッチC3は、第1リングギヤR1が第1中間ドラムD1に対して一体回転可能となる係合状態、または相対回転可能となる解放状態をとることができるようになっている。
【0067】
第4クラッチC4は、第1キャリヤCA1が第1中間ドラムD1に対して一体回転可能となる係合状態、または相対回転可能となる解放状態をとることができるようになっている。
【0068】
第1ブレーキB1は、第1中間ドラムD1が自動変速機20のケース20aに対して相対回転不可能となる係合状態、または相対回転可能な解放状態をとることができるようになっている。
【0069】
第2ブレーキB2は、第2キャリヤCA2がケース20aに対して相対回転不可能となる係合状態、または相対回転可能となる解放状態をとることができるようになっている。
【0070】
ワンウェイクラッチF1は、第2キャリヤCA2の一方向のみの回転を許容するようになっている。
【0071】
ここで、図1および図2に基づいて、各シフトポジションおよび各変速段に対応する第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2の作動状態および動力伝達経路について、シフトポジション(および変速段)が後進(R)およびシフトポジションが前進(D)で変速段が1速(1st)の場合を例に説明する。
【0072】
まず、自動変速機20におけるシフトポジションが前進(D)で変速段が1速(1st)の場合について説明する。なお、変速段を述べれば、シフトポジションは一意に決定されるので、以下では、特にシフトポジションの説明が必要でない場合には、変速段についてのみ説明する。
【0073】
図2の作動状態対応マップ400に示すように、変速段が1stの場合には、第1クラッチC1が係合状態となっている。なお、第2ブレーキB2はエンジンブレーキ作動時にのみ係合状態となり、ワンウェイクラッチF1は駆動時にのみ係合状態となる。
【0074】
まず、トルクコンバータ21を介してインプットシャフト22に入力されたエンジン11の動力は、インプットシャフト22を回転軸として第1キャリヤCA1を回転させる。
【0075】
また、第1サンギヤS1はケース20aに回転不可能に固定されている。したがって、第1キャリヤCA1の支持軸部に支持されたインナーピニオンギヤP1aおよびアウターピニオンギヤP1bは、第1キャリヤCA1の回転に伴い、第1キャリヤCA1の支持軸を回転軸として自転を行うとともに、インプットシャフト22を回転軸として公転を行うこととなる。この場合、インナーピニオンギヤP1aおよびアウターピニオンギヤP1bの公転方向はインプットシャフト22の回転方向と同一となる。また、インナーピニオンギヤP1aの自転方向はインプットシャフト22の回転方向と同一になり、アウターピニオンギヤP1bの自転方向はインナーピニオンギヤP1aの自転方向とは逆になる。したがって、アウターピニオンギヤP1bは、インプットシャフト22の回転方向と逆の方向に自転することとなる。
【0076】
これにより、第1リングギヤR1は、第1キャリヤCA1の回転数からアウターピニオンギヤP1bの回転数を差し引いた分だけ、第1キャリヤCA1と同一の方向、すなわちインプットシャフト22と同一の方向に回転することとなる。
【0077】
次に、第1クラッチC1は係合状態であるので、インプットシャフト22と同一の方向に回転する第1リングギヤR1と、第2中間ドラムD2とが一体的に回転することとなる。したがって、第3サンギヤS3が、第1リングギヤR1の回転方向と同一の方向、すなわち、インプットシャフト22と同一の方向に回転することとなる。
【0078】
また、第3サンギヤS3と噛合するショートピニオンギヤP3は、第3サンギヤS3と逆の方向に自転し、ショートピニオンギヤP3と噛合するロングピニオンギヤP2が、第2キャリヤCA2の支持軸を回転軸として、ショートピニオンギヤP3の自転方向とは逆の方向に自転する。さらに、ワンウェイクラッチF1が係合状態であることから、第2キャリヤCA2は公転しない。
【0079】
したがって、ロングピニオンギヤP2と噛合する第2リングギヤR2は、ロングピニオンギヤP2と同一の方向、すなわちショートピニオンギヤP3と逆の方向、言い換えれば、インプットシャフト22と同一の方向に回転することとなる。したがって、第2リングギヤR2の回転が1stに対応するエンジン11の動力として、プロペラシャフト25に出力されることとなる。
【0080】
自動変速機20は、シフトポジションが前進(D)のときに、第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2の作動状態(係合または解放)が、油圧制御回路30による油圧により制御されることで、1速から8速までの8つの変速段をとるようになっている。
【0081】
次に、自動変速機20における変速段がRレンジの場合について説明する。
【0082】
図2の作動状態対応マップ400に示すように、変速段がRレンジの場合には、第4クラッチC4および第2ブレーキB2が係合状態となり、第4クラッチC4および第2ブレーキB2以外のクラッチおよびブレーキは解放状態となる。
【0083】
まず、トルクコンバータ21を介してインプットシャフト22に伝達されたエンジン11の動力は、インプットシャフト22を回転軸として第1キャリヤCA1を回転させる。ここで、第4クラッチC4が係合状態であり、第3クラッチC3および第1ブレーキB1が解放状態であるため、第1キャリヤCA1とともに、第1中間ドラムD1がインプットシャフト22を回転軸として回転する。
【0084】
また、第1クラッチC1および第3クラッチC3は解放状態であり、第1サンギヤS1はケース20aに回転不可能に固定されている。したがって、第1リングギヤR1および第1キャリヤCA1の支持軸部に支持されたインナーピニオンギヤP1aおよびアウターピニオンギヤP1bは、第1キャリヤCA1の回転に伴い、支持軸部を回転軸として自転を行うとともに、インプットシャフト22を回転軸として公転を行うこととなる。
【0085】
第1中間ドラムD1がインプットシャフト22を回転軸として、インプットシャフト22と同一の方向に回転するため、第2サンギヤS2もインプットシャフト22を回転軸として、インプットシャフト22と同一の方向に回転することとなる。また、第2ブレーキB2が係合状態であるため、第2ブレーキB2と連結された第2キャリヤCA2は公転しない。
【0086】
したがって、インプットシャフト22と同一の方向に回転する第2サンギヤS2の回転に伴い、第2サンギヤS2と噛合するロングピニオンギヤP2が第2サンギヤS2とは逆の方向に回転する。したがって、ロングピニオンギヤP2と噛合する第2リングギヤR2は、ロングピニオンギヤP2と同一の方向、すなわち、第2サンギヤS2と逆の回転方向、言い換えれば、インプットシャフト22と逆の方向に回転することとなる。
【0087】
したがって、インプットシャフト22と逆の方向の回転が、Rレンジに対応するエンジン11の動力として、プロペラシャフト25に出力されることとなる。
【0088】
なお、ロングピニオンギヤP2の回転により、ロングピニオンギヤP2と噛合するショートピニオンギヤP3が回転したとしても、ショートピニオンギヤP3と噛合する第3サンギヤS3は、第1クラッチC1が解放状態であることにより、第1リングギヤR1の回転に影響を与えることなく、インプットシャフト22を回転軸として回転する。
【0089】
以下、本実施の形態に係る車両の制御装置の特徴的な構成について説明する。
【0090】
ECU100は、エンジン回転数センサ82が検出したエンジン回転数と、フューエルカットの実施状態と、アクセル開度センサ83が検出したアクセル開度と、ブレーキセンサ84が検出したブレーキマスタ圧とに基づいて、自動変速機20のダウンシフト先の変速段の設定、ロックアップクラッチ21aの係合の制御、フューエルカットの制御を行うようになっている。ECU100は、本発明における制御手段を構成する。
【0091】
具体的には、ECU100は、予めEEPROM104に記憶されたプログラムに従って、エンジン回転数センサ82が検出したエンジン回転数が所定値以下であるか否かの判別、エンジン11に対しフューエルカットを実施しているか否かの判別、アクセル開度センサ83が検出したアクセル開度がアクセルオフ、すなわちアクセル開度が0°であるか否かの判別、ブレーキセンサ84が検出したブレーキマスタ圧が所定値以上であるか否かの判別を行うようになっている。
【0092】
そして、ECU100は、エンジン回転数が所定値以下、且つ、フューエルカット非実施、且つ、アクセルオフ、且つ、ブレーキマスタ圧が所定値以上である条件を満たした場合、すなわち、例えば、6速〜8速等の高速側の変速段を用いてエンジン回転数を低く抑えた定常走行状態または緩加速走行状態のときに、運転者がアクセルペダル91から足を離してブレーキペダル92を踏む減速操作をしたとき、EEPROM104に予め記憶された図3(a)に示すダウン行き先選択マップを参照し、変速前の初期変速段とブレーキマスタ圧に応じて自動変速機20のダウンシフト先の変速段を決定するとともに、EEPROM104に予め記憶された図3(b)に示す順番・飛び変速パターン選択マップを参照し、変速前の初期変速段からダウンシフト先の変速段に順番変速または飛び変速のいずれの変速方法で変速を行うかをブレーキマスタ圧に応じて決定するようになっている。
【0093】
また、ECU100は、ダウン行き先選択マップを参照して決定したダウンシフト先の変速段に、順番・飛び変速パターン選択マップを参照して決定した変速方法で自動変速機20にダウンシフトさせるようになっている。
【0094】
また、ECU100は、ダウンシフトの実施後、油圧制御回路30によりロックアップクラッチ21aを係合または半係合し、エンジン11に対してフューエルカットを実施するようになっている。
【0095】
図3(a)に示すダウン行き先選択マップにおいては、変速前の初期変速段とブレーキマスタ圧との組み合わせに応じたダウンシフト先の変速段が定められている。
【0096】
ダウン行き先選択マップにおいては、ブレーキマスタ圧は、0〜極小、小、中、大の4つに所定のしきい値により区分されるとともに、初期変速段は、8速、7速、6速の3つに区分されており、初期変速段が8速のときに、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が小であればダウンシフト先の変速段を6速とし、ブレーキマスタ圧が中であればダウンシフト先の変速段を5速とし、ブレーキマスタ圧が大であればダウンシフト先の変速段を4速とすることが定められている。
【0097】
また、初期変速段が7速のときに、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が小であればダウンシフト先の変速段を5速とし、ブレーキマスタ圧が中であればダウンシフト先の変速段を4速とし、ブレーキマスタ圧が大であればダウンシフト先の変速段を3速とすることが定められている。
【0098】
また、初期変速段が6速のときに、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が小であればダウンシフト先の変速段を4速とし、ブレーキマスタ圧が中であればダウンシフト先の変速段を3速とし、ブレーキマスタ圧が大であればダウンシフト先の変速段を2速とすることが定められている。
【0099】
すなわち、ダウン行き先選択マップにおいては、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が大きいほど低速側の変速段にダウンシフトするよう定められている。
【0100】
図3(b)に示す順番・飛び変速パターン選択マップにおいては、変速前の初期変速段とブレーキマスタ圧との組み合わせに応じて、変速前の初期変速段からダウン行き先選択マップで決定されたダウンシフト先の変速段に順番変速または飛び変速のいずれの変速方法で変速を行うかが定められている。なお、順番・飛び変速パターン選択マップに定められるダウンシフト先の変速段(ダウンシフトしない場合も含む)は、ダウン行き先選択マップに定められるダウンシフト先の変速段と一致している。ここで、順番変速とは、例えばダウンシフト前の初期変速段である8速からダウンシフト先の変速段である6速に8速、7速、6速と順番に変速を行うことであり、飛び変速とは、例えばダウンシフト前の初期変速段である8速からダウンシフト先の変速段である6速に途中の7速を飛び越して変速を行うことである。
【0101】
順番・飛び変速パターン選択マップにおいても、ブレーキマスタ圧は、0〜極小、小、中、大の4つに所定のしきい値により区分されるとともに、初期変速段は、8速、7速、6速の3つに区分されており、初期変速段が8速のときに、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が小であればダウンシフト先の変速段である6速まで飛び変速を行うことなく8速、7速、6速と順番に変速を行い、ブレーキマスタ圧が中であればダウンシフト先の変速段である5速まで7速を飛び越して8速、6速、5速と飛び変速を行い、ブレーキマスタ圧が大であればダウンシフト先の変速段である4速まで7速、6速、5速を飛び越して8速から4速に飛び変速を行うことが定められている。
【0102】
また、初期変速段が7速のときに、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が小であればダウンシフト先の変速段である5速まで飛び越し変速を行うことなく7速、6速、5速と順番に変速を行い、ブレーキマスタ圧が中であればダウンシフト先の変速段である4速まで6速を飛び越して7速、5速、4速と飛び変速を行い、ブレーキマスタ圧が大であればダウンシフト先の変速段である3速まで6速、5速、4速を飛び越して7速から3速に飛び変速を行うことが定められている。
【0103】
また、初期変速段が6速のときに、ブレーキマスタ圧が0〜極小であればダウンシフトを行わず、ブレーキマスタ圧が小であればダウンシフト先の変速段である4速まで6速、5速、4速と順番に変速を行い、ブレーキマスタ圧が中であればダウンシフト先の変速段である3速まで5速を飛び越して6速、4速、3速と飛び変速を行い、ブレーキマスタ圧が大であればダウンシフト先の変速段である2速まで5速、4速、3速を飛び越して6速から2速に飛び変速を行うことが定められている。
【0104】
すなわち、順番・飛び変速パターン選択マップにおいては、ブレーキマスタ圧が大きいほど飛び越される変速段の数が多くなるよう定められている。
【0105】
次に、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の動作について、図面を参照して説明する。なお、図4に示すフローチャートは、ECU100のCPU102によって、RAM103を作業領域として実行される車両の制御処理のプログラムの実行内容を表す。このプログラムはECU100のEEPROM104に記憶されている。
【0106】
図4に示すように、まず、ECU100のCPU102は、エンジン回転数センサ82により検出されたエンジン回転数が所定値以下であるか否かを判別する(ステップS1)。ここで、所定値としては、例えば、フューエルカット開始エンジン回転数が用いられる。このフューエルカット開始エンジン回転数は、エンジン11への燃料供給の遮断を開始するエンジン回転数であり、本発明におけるフューエルカット可能回転数に対応する。
【0107】
ステップS1の判別において、図5の時間T1の状態のように、エンジン回転数が所定値以下であるとき(ステップS1で"Yes")、ECU100のCPU102は、フューエルカットの非実施中であるか否かを判別する(ステップS2)。具体的には、ECU100のCPU102は、フューエルカットフラグがオンであるかオフであるかを確認し、フューエルカットフラグがオンであればフューエルカット実施中であり、フューエルカットフラグがオフであればフューエルカット非実施中であると判別する。
【0108】
ステップS2の判別において、図5の時間T1の状態のように、フューエルカットフラグがオフであり、フューエルカット非実施中のとき(ステップS2で"Yes")、ECU100のCPU102は、アクセル開度センサ83が検出したアクセル開度に基づいて、アクセルオフ、すなわち、アクセルペダル91が踏まれておらずアクセル開度が0°の状態であるか否かを判別する(ステップS3)。
【0109】
ステップS3の判別において、図5の時間T2の状態のように、アクセル開度が0°でありアクセルオフであるとき(ステップS3で"Yes")、ECU100のCPU102は、ブレーキセンサ84が検出したブレーキマスタ圧が所定値以上であるか否かを判別する(ステップS4)。ステップS4の判別における所定値とは、図3(a)に示すダウン行き先選択マップおよび図3(b)に示す順番・飛び変速パターン選択マップにおけるブレーキマスタ圧の0〜極小と小とのしきい値である。
【0110】
ステップS4の判別において、図5の時間T3の状態のように、ブレーキマスタ圧が所定値以上であるとき(ステップS4で"Yes")、ECU100のCPU102は、図3(a)に示すダウン行き先選択マップを参照し、ダウンシフト前の初期変速段とブレーキマスタ圧に応じたダウンシフト先の変速段を決定する(ステップS5)。
【0111】
次いで、ECU100のCPU102は、図3(b)に示す順番・飛び変速パターン選択マップを参照し、ダウンシフト前の初期変速段とブレーキマスタ圧に応じて自動変速機20の変速段を順番変速により例えば8速、7速、6速とダウンシフトさせるか、または、8速から4速に飛び変速させるかを決定する(ステップS6)。
【0112】
次いで、ECU100のCPU102は、ステップS5で決定されたダウンシフト先の変速段にステップS6で決定された変速方法によりダウンシフトする(ステップS7)。なお、図5の時間T3では、ステップS7において自動変速機20の変速段がダウンシフト前の初期変速段であるN速(例えば、8速)からダウンシフト先のN−2速(例えば、6速)に飛び変速によりダウンシフトが行われた状態が示されている。
【0113】
次いで、ECU100のCPU102は、図5の時間T4の状態のように、油圧制御回路30によってロックアップクラッチ圧を出力させ、クランクシャフト15と連結されたコンバータカバー21kにロックアップピストン21pによりロックアップクラッチ21aを押し当てて、ロックアップクラッチ21aを係合または半係合させ、クランクシャフト15とインプットシャフト22とを一体的に回転させる(ステップS8)。
【0114】
ステップS7でダウンシフトが行われると、図5の時間T3のように、変速段がN速からN−2速にダウンシフトするにともない、駆動輪45L、45Rから自動変速機20を介してエンジン11に逆入力が行われ、車両10の走行速度とダウンシフト先の変速段に応じてエンジン回転数が上昇する。また、ステップS8でロックアップクラッチ21aが係合または半係合することにより、エンジン11への逆入力によるエンジン回転数の上昇がトルクコンバータ21の作動油の滑りにより抑制されてしまうことが防止される。エンジン11への逆入力により上昇したエンジン回転数は、図5の時間T4のように所定値を超える。
【0115】
次いで、ECU100のCPU102は、図5の時間T5の状態のように、フューエルカットを実行する(ステップS9)。なお、ECU100のCPU102は、エンジン11がストールすることを防止するために、ロックアップクラッチ21aが係合または半係合状態となったと確認または推定できてから実施する。具体的には、ECU100のCPU102は、エンジン回転数とタービンランナ21tの回転数との回転数差を監視することでロックアップクラッチ21aが係合または半係合状態となったことを確認したり、ロックアップクラッチ圧を出力してから所定時間が経過したときにロックアップクラッチ21aが係合または半係合状態となったと推定する。
【0116】
なお、ECU100のCPU102は、ステップS1〜S4の判別が"No"であるときは、ステップS5〜S9の処理を行うことなくReturnに移行する。
【0117】
このように、ECU100は、エンジン回転数が所定値以下、且つ、フューエルカット非実施、且つ、アクセルオフ、且つ、ブレーキマスタ圧が所定値以上のとき、運転者の減速意図を反映したブレーキマスタ圧に応じてダウンシフトを行い、ロックアップクラッチ21aを係合または半係合し、エンジン11に対してフューエルカットを実施するので、6速〜8速等の高速側の変速段を用いてエンジン回転数を低く抑えた燃費に優れる定常走行または緩加速走行を行っていても、この定常走行または緩加速走行からの減速時にマスタブレーキ圧に応じたダウンシフトを行うとともにフューエルカットを実施することにより燃費を向上することができるので、エンジン回転数を低く抑えた定常走行または緩加速走行による燃費の向上と、この定常走行または緩加速走行から減速するときのフューエルカットによる燃費の向上を両立することができる。
【0118】
したがって、エンジン回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができる。
【0119】
また、ECU100は、アクセルペダル91から足を離しただけのとき、または運転者の減速意図が弱くブレーキマスタ圧が0〜極小のときは、自動変速機20のダウンシフトを行わないので、単なるアクセルのオン/オフまたはブレーキペダル92に軽く足を乗せたり離したりすることにより変速ビジーが発生してしまうことが防止される。
【0120】
また、ECU100は、運転者の減速意図が強くブレーキマスタ圧が大きいほどより低速の変速段までダウンシフトを行うので、エンジン回転数を所定値より高くしてフューエルカットを継続するためにブレーキマスタ圧に関わらず低速の変速段までダウンシフトした場合に減速度が強くなりすぎて運転者に違和感を与えてしまうことが防止される。
【0121】
また、ECU100は、運転者の減速意図が強くブレーキマスタ圧が大きいほどより低速の変速段までダウンシフトを行うので、ダウンシフト先の変速段においてエンジン回転数が短時間で所定値を下回ってフューエルカットが中止されてしまうことが防止され、エンジン回転数が所定値より高くフューエルカットを継続できる時間が十分に確保される。
【0122】
また、ECU100は、運転者の減速意図が強くブレーキマスタ圧が大きいほどより低速の変速段まで飛び変速によりダウンシフトを行うので、順番変速によりダウンシフトする場合にダウンシフト途中の変速段においてエンジン回転数が所定値を下回ってフューエルカットが中止されてしまうことが防止され、エンジン回転数が所定値より高くフューエルカットを継続できる時間が十分に確保される。
【0123】
以上のように、本実施の形態に係る車両の制御装置は、定常走行状態または緩加速走行状態のようにエンジン11が所定値以下で低速回転している走行状態でアクセル開度センサ83によりアクセルオフが検出されたとき、ブレーキセンサ84が検出したマスタブレーキ圧に応じて自動変速機20をダウンシフトさせてから、エンジン11のフューエルカットを行うECU100を備えたので、エンジン回転数を低く抑えた定常走行または緩加速走行による燃費の向上と、この定常走行または緩加速走行から減速するときのフューエルカットによる燃費の向上を両立することができる。
【0124】
したがって、エンジン回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができる。
【0125】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジン11が低速回転している走行状態とは、エンジン11が所定値としてのフューエルカット開始エンジン回転数以下で走行している状態であり、ECU100は、エンジン11がフューエルカット開始エンジン回転数以下で低速回転している走行状態でアクセル開度センサ83によりアクセルオフが検出されたとき、ブレーキセンサ84が検出したマスタブレーキ圧に応じて自動変速機20の変速段をダウンシフトさせるので、エンジン回転数がフューエルカット開始エンジン回転数以下のときに自動変速機20の変速段をダウンシフトすることなくエンジン11のフューエルカットを行ってエンジン11がストールしてしまうことを防止することができる。
【0126】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、ECU100が、減速意図であるマスタブレーキ圧が大きいほど自動変速機20の変速段をより低速の変速段にダウンシフトさせるので、ダウンシフト先の変速段においてエンジン回転数が短時間で所定値を下回ってフューエルカットが中止されてしまうことが防止され、エンジン回転数が所定値より高くフューエルカットを継続できる時間を十分に確保することができる。
【0127】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、ECU100が、自動変速機20の変速段をダウンシフトさせてから、ロックアップクラッチ21aを係合または半係合させた後に、エンジン11のフューエルカットを行うので、駆動輪45L、45Rからエンジン11への逆入力によるエンジン回転数の上昇がトルクコンバータ21の作動油の滑りにより抑制されてしまうことを防止することができる。
【0128】
以上に説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、内燃機関の回転数が低い走行状態からの減速時にもフューエルカットを実行することにより広範囲の走行状態において燃費を向上させることができるという効果を有し、フューエルカットを行う車両の制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0129】
10 車両
11 エンジン(内燃機関)
20 自動変速機
21 トルクコンバータ
21a ロックアップクラッチ
30 油圧制御回路
45L、45R 駆動輪
82 エンジン回転数センサ
83 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
84 ブレーキセンサ(減速意図検出手段、ブレーキ圧検出手段)
100 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力をロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと複数の変速段を有する自動変速機とを介して駆動輪に伝達する車両の制御装置であって、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
運転者の減速意図を検出する減速意図検出手段と、
前記内燃機関が低速回転している走行状態で前記アクセル開度検出手段によりアクセルオフが検出されたとき、前記減速意図検出手段が検出した減速意図に応じて前記自動変速機の変速段をダウンシフトさせてから、前記内燃機関のフューエルカットを行う制御手段と、を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関が低速回転している走行状態とは、前記内燃機関がフューエルカット可能回転数以下で走行している状態であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記減速意図が大きいほど、前記自動変速機の変速段をより低速の変速段にダウンシフトさせることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段が、前記自動変速機の変速段をダウンシフトさせてから、前記ロックアップクラッチを係合または半係合させた後に、前記内燃機関のフューエルカットを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−216337(P2010−216337A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63016(P2009−63016)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】