車両の制御装置
【課題】エンジンの始動開始直後から、安定してHCCI燃焼モードでエンジンを運転することができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】ハイブリッド車両は、HCCI燃焼モードとSI燃焼モードとで燃焼モードを切り換え可能なエンジンと、エンジンの燃焼室内に燃料を直接噴射する第2インジェクタと、エンジンの排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量を変更可能な排気側バルブ機構と、を備える。このハイブリッド車両の制御装置は、エンジンをHCCI燃焼モードで始動する場合、その始動時には、エンジンの圧縮工程中に第2インジェクタにより燃焼室内に直接噴射した燃料を点火プラグで着火するとともに、排気バルブの閉止タイミングをSI燃焼モード時における排気バルブの閉止タイミングよりも早め、排気の一部をエンジンのシリンダ内に残留させる。
【解決手段】ハイブリッド車両は、HCCI燃焼モードとSI燃焼モードとで燃焼モードを切り換え可能なエンジンと、エンジンの燃焼室内に燃料を直接噴射する第2インジェクタと、エンジンの排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量を変更可能な排気側バルブ機構と、を備える。このハイブリッド車両の制御装置は、エンジンをHCCI燃焼モードで始動する場合、その始動時には、エンジンの圧縮工程中に第2インジェクタにより燃焼室内に直接噴射した燃料を点火プラグで着火するとともに、排気バルブの閉止タイミングをSI燃焼モード時における排気バルブの閉止タイミングよりも早め、排気の一部をエンジンのシリンダ内に残留させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼モードを予混合圧縮着火燃焼モードと火花点火燃焼モードとで切り換える内燃機関を供えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料と空気とを混合して希薄かつ均一な混合気を生成し、この混合気を圧縮し自着火させる予混合圧縮着火燃焼が可能な内燃機関が提案されている。予混合圧縮着火燃焼は、窒素酸化物(NOx)の排出量が少なく、また圧縮比を高めて高効率な運転が可能であることなどから注目されている。しかしながら、この予混合圧縮着火燃焼は、例えば高負荷の運転領域や、アイドリング時などの極低負荷の運転領域では、適切なタイミングで混合気を燃焼させることが困難でありノッキングや失火などが生じやすい。そこで近年では、予混合圧縮着火燃焼が困難な運転領域を補うべく、点火プラグにより混合気を燃焼させる火花点火燃焼モードと上記予混合圧縮着火燃焼モードとで、燃焼モードを運転領域に応じて切り換えることが可能な内燃機関が開発されている。
【0003】
このように火花点火燃焼モードと予混合圧縮着火燃焼モードとで運転モードを切換可能な内燃機関を備えたハイブリッド車両について、例えば特許文献1には、内燃機関の始動時において、内燃機関の冷却水温度が所定の温度(予混合圧縮着火燃焼モードで運転可能な温度)よりも高い場合には、内燃機関の回転数をモータで所定の回転数まで高くした後、予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関の運転を開始する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−52693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術によれば、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、実際の燃焼に先立って、内燃機関の回転数を予混合圧縮着火燃焼モードで運転可能な回転数まで高くするので、予め何も行わずに燃焼を開始する場合と比較すれば始動直後から安定した燃焼を行うことができる。しかしながら、内燃機関で初めて燃焼を開始する場合、前サイクル時には燃焼を行っていないため、シリンダ内の温度が低く着火時期が安定せず、最悪の場合には失火するおそれがある。このため、ドライバビリティおよびエミッションが悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、内燃機関の始動開始直後から、安定して予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を運転することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン2)の燃焼室(例えば、後述の燃焼室2a)内の混合気を圧縮着火燃焼させる予混合圧縮着火燃焼モードと、前記燃焼室内の混合気を当該燃焼室に設けられた点火手段(例えば、後述の点火プラグ28)により燃焼させる火花点火燃焼モードとで前記内燃機関の運転を所定の条件に応じて切り換える車両の制御装置を提供する。前記車両の制御装置は、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する直接燃料噴射装置(例えば、後述の第2インジェクタ27)と、前記内燃機関の排気バルブおよび吸気バルブのうち少なくとも排気バルブのバルブタイミングを変更可能な可変バルブ機構(例えば、後述の吸気側バルブ機構29a、および排気側バルブ機構29b)と、前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時(例えば、エンジン始動開始から所定数M燃焼サイクル経過するまでの間、)には、前記内燃機関の圧縮工程中に前記直接燃料噴射装置で噴射した燃料を前記点火手段で着火するとともに、前記排気バルブの閉止タイミングを前記火花点火燃焼モード時における前記排気バルブの閉止タイミングよりも早め、排気の一部を前記内燃機関のシリンダ内に残留させる内燃機関制御手段(例えば、後述のECU9、および図13および図14に示す処理の実行にかかる手段)と、を備える。
【0008】
本発明によれば、予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を始動する場合、その始動時には、圧縮工程中に燃焼室内に直接噴射し、これを点火手段で着火するとともに、排気バルブの閉止タイミングを火花点火燃焼モード時における閉止タイミングよりも早め、上記燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させる。このように、予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を始動する場合であっても、その始動時には、予混合圧縮着火燃焼モードとは異なる条件で燃焼することにより、前サイクル時に燃焼していない場合であっても失火することなく安定して燃焼することができる。さらにこの燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させることにより、シリンダ内の温度を上昇させることができるので、例えば次サイクル以降から安定して予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を運転することができる。
【0009】
この場合、前記車両の制御装置は、バッテリ(例えば、後述の高圧バッテリ8)と、前記バッテリに蓄えられた電力により前記内燃機関の駆動力を補う駆動力を発生、又は、前記内燃機関の駆動力の一部を回生し前記バッテリを充電する電動機(例えば、後述のモータ5)と、前記内燃機関および前記電動機を含むパワープラント(例えば、後述のパワープラント)で発生するパワープラントトルクに対する要求値(例えば、後述のパワープラント要求トルク)を取得する要求トルク取得手段と、前記パワープラントトルクに対する要求値に基づいて、前記内燃機関で発生する内燃機関トルク(例えば、後述のエンジントルク)に対する要求値(例えば、後述のエンジン要求トルク)、並びに、前記電動機で回生又は発生する電動機トルク(例えば、後述のモータトルク)に対する要求値(例えば、後述のモータ要求トルク)を設定するトルク配分手段(例えば、後述のECU9、並びに図9および図10の処理の実行にかかる手段)と、を備え、当該トルク配分手段は、前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時(例えば、エンジン始動開始から所定数N燃焼サイクル経過するまでの間)には、前記内燃機関トルクに対する要求値を、予混合圧縮着火燃焼モードにおける所定の中央値(例えば、後述のHCCI中央トルク)に設定するとともに、前記パワープラントトルクの要求値に対する前記中央値の過不足分に応じて前記電動機トルクに対する要求値を設定することが好ましい。
【0010】
この発明によれば、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、内燃機関トルクに対する要求値を、予混合圧縮着火燃焼モードにおける所定の中央値、すなわち予混合圧縮着火燃焼モードで安定して内燃機関を運転したときに発生する内燃機関トルクの値に設定する。また、上記中央値に設定した内燃機関トルクに対する要求値が、パワープラントトルクに対する要求値に対し過不足する場合、この過不足分に応じて電動機で回生又は発生する発電機トルクに対する要求値を設定する。これにより、例えば、内燃機関トルクに対する要求値がパワープラントトルクに対する要求値よりも大きい場合には、この過分を電動機で回生しバッテリを充電したり、内燃機関トルクに対する要求値がパワープラントトルクに対する要求値よりも小さい場合、この不足分を電動機で発生したりすることができる。これにより、始動直後から内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで安定して運転しながら、パワープラントトルクに対する要求値に応じた適切な配分で電動機を制御することができる。
【0011】
この場合、前記内燃機関制御手段は、前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より大きくかつ前記バッテリが過放電状態である場合、又は前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より小さくかつ前記バッテリが過充電状態である場合、前記火花点火燃焼モードで前記内燃機関を運転することが好ましい。
【0012】
パワープラントトルクが上記中央値よりも大きい場合、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで運転しながらその不足分を電動機で発生するのが好ましいものの、このときバッテリが過放電状態であると、電動機で上記不足分を発生するのが困難となる。また、パワープラントトルクに対する要求値が上記中央値よりも小さい場合、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで運転しながらその過分を電動機で回生するのが好ましいものの、このときバッテリが過充電状態であると、電動機で上記過分を回生するのが困難となる。この発明によれば、バッテリに以上のような事態が発生した場合、火花点火燃焼モードで内燃機関を運転するので、パワープラントトルクに対する要求値に相当するトルクを内燃機関のみで発生することができる。したがって、パワープラントトルクに対する要求値に応じたトルクを発生することができずに、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の構成を示す模式図である。
【図2】上記実施形態にかかるエンジンと、その吸気系および排気系との構成を示す模式図である。
【図3】SI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。
【図4】HCCI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。
【図5】上記実施形態にかかるエンジンにおいてHCCI燃焼を行う運転領域とSI燃焼を行う運転領域とを示す図である。
【図6】上記実施形態にかかるハイブリッド車両における走行モードとその運転領域を示す図である。
【図7】上記実施形態にかかるハイブリッド車両の走行モード、トルク配分およびエンジンの燃焼モードの設定にかかる処理のメインフローチャートである。
【図8】上記実施形態にかかるハイブリッド車両の走行モードを設定する手順を示すフローチャートである。
【図9】上記実施形態にかかるエンジンとモータのトルク配分を設定する手順を示すフローチャートである。
【図10】上記実施形態にかかるエンジンとモータのトルク配分を設定する手順を示すフローチャートである。
【図11】上記実施形態にかかるエンジン始動開始直後において、HCCI燃焼モードでエンジンを運転する領域を示す図である。
【図12】上記実施形態にかかるエンジンの燃焼モードを設定する手順を示すフローチャートである。
【図13】上記実施形態にかかる吸気、排気バルブの制御の手順を示すフローチャートである。
【図14】上記実施形態にかかる第1、第2インジェクタおよび点火プラグの制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態にかかるハイブリッド車両1の構成を示す模式図である。
ハイブリッド車両1は、エンジン2とモータ5との2つの駆動力発生源から成るパワープラントを備えた車両である。このハイブリッド車両1は、燃料タンク7に蓄えられた燃料を燃焼させることによりエンジン2で発生した駆動力と、高圧バッテリ8に蓄えられた電力によりモータ5で発生した駆動力との両方又は何れかで駆動輪11,12を駆動し、走行することが可能となっている。
【0015】
エンジン2のクランクシャフトは、クラッチCLを介してモータ5の出力軸に連結されている。また、このモータ5の出力軸は、トランスミッションTMを介して駆動輪11,12に連結されている。したがって、クラッチCLを接続することにより、エンジン2で発生したトルクのみ、又は、エンジン2およびモータ5で発生したトルクにより駆動輪11,12を駆動し、走行することが可能となる。また、クラッチCLを切断することにより、モータ5で発生したトルクのみで駆動輪11,12を駆動し、走行することが可能となる。クラッチCLは、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)9からの制御信号に基づいて動作し、エンジン2のクランクシャフトとモータ5の出力軸とを断続する。なお、このエンジン2の詳細な構成については、後に図2を参照して説明する。
【0016】
モータ5は、例えば、三相のDCブラシレスモータが用いられ、インバータを備えたパワードライブユニット(以下、「PDU」という)6を介して高圧バッテリ8に接続されている。高圧バッテリ8は、例えば複数のリチウムイオン型のバッテリで構成されている。また、この高圧バッテリ8には、チャージャー81が接続されており、このチャージャー81のプラグ82を図示しない家庭用コンセントに差し込んで、高圧バッテリ8を充電することが可能となっている。
【0017】
PDU6は、ECU9から入力されたトルク指令信号に基づいて動作し、高圧バッテリ8の電力によりモータ5でトルクを発生させたり、エンジン2で発生したトルクの一部又は車両1の減速走行時に駆動輪11,12から出力軸に伝達するトルクを高圧バッテリ8に回生させたりする。より具体的には、モータ5を駆動運転する場合、PDU6は、高圧バッテリ8に蓄えられた電力を三相交流電力に変換してモータ5に供給する。また、モータ5を回生運転する場合、モータ5から出力される三相交流電力を直流電力に変換し、高圧バッテリ8を充電する。
ECU9は、モータで発生するトルク(以下、「モータトルク」という)に対する要求値(以下、「モータ要求トルク」という)を後に図9および図10を参照して説明する手順により設定し、このモータ要求トルクに応じたトルク指令信号をPDU6に入力する。
【0018】
図2は、エンジン2と、その吸気系および排気系との構成を示す模式図である。
エンジン2は、複数、例えば4つのシリンダ21aを備えた4気筒エンジンであり、図2には、このうちの1つを代表的に示す。エンジン2は、シリンダ21aが形成されたシリンダブロック21と、シリンダヘッド22とを組み合わせて構成される。このエンジン2には、吸気が流通する吸気管31と、排気が流通する排気管32と、排気管32内の排気の一部を吸気管31に還流する排気還流通路33とが設けられている。
【0019】
シリンダ21a内にはピストン23が摺動可能に設けられており、このピストン23の頂面とシリンダヘッド22のシリンダ21a側の面により、エンジン2の燃焼室2aが形成される。ピストン23は、コンロッド24を介してクランクシャフト25に連結されている。すなわち、シリンダ21a内におけるピストン23の往復動に応じてクランクシャフト25が回転する。
【0020】
シリンダヘッド22には、燃焼室2aと吸気管31とを接続する吸気ポート22aと、燃焼室2aと排気管32とを接続する排気ポート22bとが形成されている。吸気ポート22aのうち燃焼室2aに臨む吸気開口は吸気バルブ22cにより開閉され、排気ポート22bのうち燃焼室2aに臨む排気開口は排気バルブ22dにより開閉されるようになっている。吸気バルブ22cは、吸気側バルブ機構29aにより駆動され、排気バルブ22dは、排気側バルブ機構29bにより駆動される。
【0021】
吸気側バルブ機構29aは、吸気バルブ22cのカムシャフトのクランクシャフト25に対する位相を変更する吸気カム位相可変機構(図示せず)と、吸気バルブ22cのリフト量を変更する吸気リフト可変機構(図示せず)と、を備えており、吸気バルブ22cのバルブリフト量およびバルブタイミングを変更することが可能となっている。また、排気側バルブ機構29bも同様に、排気バルブ22dのカムシャフトのクランクシャフト25に対する位相を変更する排気カム位相可変機構(図示せず)と、排気バルブ22dのリフト量を変更する排気リフト可変機構(図示せず)と、を備えており、排気バルブ22dのバルブリフト量およびバルブタイミングを変更することが可能となっている。バルブ22c、22dのバルブリフト量およびバルブタイミングの変更にかかるバルブ機構29a、29bの各種アクチュエータはECU9に接続されており、このECU9からの制御信号に基づいて動作する。なお、これらバルブ機構29a、29bのリフト可変機構やカム位相可変機構には、既知のものが用いられる。より具体的には、リフト可変機構には、例えば本願出願人による特開2008−75614号公報に詳細に記載されたものが用いられ、カム位相可変機構には、例えば本願出願人による特開2009−222021号公報に記載されたものが用いられる。
【0022】
吸気ポート22aのうち上記吸気開口よりも吸気管31側には、燃焼室2a側へ向って燃料を噴射する第1インジェクタ26が設けられ、シリンダヘッド22には、燃焼室2a内に臨み、この燃焼室2a内に燃料を直接噴射する第2インジェクタ27が設けられている。第1インジェクタ26からの噴射燃料量およびその燃料噴射タイミング、並びに、第2インジェクタ27からの噴射燃料量およびその燃料噴射タイミングは、ECU9により制御される。
【0023】
また、シリンダヘッド22には、燃焼室2a内のうち上記第2インジェクタ27よりも排気バルブ22d側に臨む点火プラグ28が設けられている。この点火プラグ28による混合気の点火時期は、ECU9により制御される。
【0024】
吸気管31には、この吸気管31を流通しエンジン2の燃焼室2aに供給される空気の吸気量を制御するスロットル弁34が設けられている。このスロットル弁34は、図示しないアクチュエータを介してECU9に接続されており、その開度はECU9により制御される。
【0025】
排気管32には、エンジン2の排気を浄化する三元触媒を担持した触媒コンバータ35が設けられている。この三元触媒は、例えば、排気浄化能を有する触媒貴金属に加えて排気中の酸素を吸着し貯蔵する酸素吸蔵能を有するOSC材を含有しており、排気中のHCおよびCOを酸化するとともに、排気中のNOxを還元する。
【0026】
排気還流通路33は、排気管32のうち上記触媒コンバータ35の下流側と、吸気管31のうちスロットル弁34の下流側とを接続し、エンジン2から排出された排気の一部を還流する。この排気還流通路33には、還流される排気を冷却するEGRクーラ36と、還流する排気の流量を制御するEGR弁37とが設けられている。EGR弁37は、図示しないアクチュエータを介してECU9に接続されており、その開度はECU9により電磁的に制御される。
【0027】
ECU9には、エアフローセンサ41、吸気温度センサ46、排気温度センサ43、クランク角度位置センサ44、アクセル開度センサ45、および冷却水温度センサ47などが接続されている。エアフローセンサ41は、エンジン2に吸入される空気の吸気量を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。吸気温度センサ46は、エンジン2に吸入される空気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。排気温度センサ43は、排気管32のうち触媒コンバータ35から流出する排気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。
【0028】
クランク角度位置センサ44は、クランクシャフト25の回転角度を示すパルス信号をECU9に送信する。エンジン2の回転数は、このクランク角度位置センサ44から送信されたクランク角信号に基づいて、ECU9により算出される。アクセル開度センサ45は、車両のアクセルペダルの開度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。冷却水温度センサ47は、エンジン2の冷却水の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。
【0029】
以上のように構成されたエンジン2は、運転領域に応じてその燃焼モードを、予混合圧縮着火燃焼モード(以下、「HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)燃焼モード」という)と火花点火燃焼モード(以下、「SI(Spark Ignition)燃焼モード」という)とで切り換えることが可能となっている。
【0030】
SI燃焼モードでは、吸気工程中に第1インジェクタ26により吸気管31内に所定量の燃料を噴射し、さらに圧縮工程中に第2インジェクタ27により特に点火プラグ28の近傍が理論空燃比よりもリッチになるように所定量の燃料を噴射する。そして、以上のようにして供給された混合気を、所定のタイミングで点火プラグ28から発せられた火花で着火燃焼させる。ここで、SI燃焼モードにおいて、2つのインジェクタ26,27からの噴射燃料量は、燃焼室2a内の混合気の空燃比、すなわち燃焼空燃比が理論空燃比の近傍になるように調整される。
【0031】
図3は、SI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。
SI燃焼モードでは、ピストンの頂面が下死点から上死点に向う排気工程にわたり、排気バルブを開き、ピストンの頂面が上死点から下死点に向う吸気工程にわたり、吸気バルブを開く。
【0032】
HCCI燃焼モードでは、吸気工程中に第1インジェクタにより吸気管内に所定量の燃料を噴射し、この噴射により燃焼室に供給された空気との混合気を圧縮し、自己着火させる。ここで、HCCI燃焼モードにおいて、第1インジェクタからの噴射燃料量は、燃焼空燃比が理論空燃比よりもリーンになるように調整される。
【0033】
図4は、HCCI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。なお図4には、比較のため、SI燃焼モードにおけるこれらバルブの動作例を破線で示す。
HCCI燃焼モードでは、混合気を圧縮自己着火させることから、シリンダ内の温度を、SI燃焼モード時における温度よりも高くする必要がある。そこで、HCCI燃焼モードでは、燃焼サイクル中に、排気バルブの開弁時期と吸気バルブの開弁時期とに負の重複(NOL(Negative OverLap))が生じるように、すなわちこれらバルブが共に閉じた期間が生じるように排気バルブおよび吸気バルブを駆動する。より具体的には、HCCI燃焼モードでは、排気バルブのバルブリフト量をSI燃焼モード時よりも低く変更し、さらにバルブタイミングを進角側に変更することにより、排気バルブの閉止タイミングをSI燃焼モードよりも早める。また、吸気バルブのバルブリフト量をSI燃焼モード時よりも低く変更し、さらにバルブタイミングを遅角側に変更することにより、吸気バルブの開放タイミングをSI燃焼モード時よりも遅らせる。HCCI燃焼モードでは、排気バルブの開弁時期と吸気バルブの開弁時期について以上のような負の重複を設けることにより、排気の一部をシリンダ内に残留させ、シリンダ内の温度をSI燃焼モード時よりも高くする。
【0034】
図5は、HCCI燃焼を行うことが可能な運転領域を示す図である。
図5に示すように、エンジンで発生させるトルク(以下、「エンジントルク」という)に対する要求値(以下、「エンジン要求トルク」という)とエンジンの回転数との2つのパラメータに対し、HCCI燃焼を安定して行うことができる運転領域は、低負荷かつ低回転数の領域に限られている。また、HCCI燃焼は、特定の運転領域(図5においてハッチングで模式的に示す領域)内では特に安定した燃焼が可能となっている。以下では、このような特に安定した燃焼が可能な運転領域内で、エンジンをHCCI燃焼モードで運転したときに発生するエンジントルクの中央値をHCCI中央トルクという。これに対してSI燃焼は、上述のHCCI燃焼が可能な運転領域を含み、基本的にはHCCI燃料が可能な領域を含む全運転領域にわたって安定して行うことが可能となっている。
【0035】
図6は、ハイブリッド車両における走行モードとその運転領域を示す図である。
以上のようなエンジンとモータとの2つの駆動力発生源からなるパワープラントを備えたハイブリッド車両における走行モードは、エンジン、モータおよびクラッチの制御態様に応じて、モータ走行モードと、モータアシストモードと、モータ回生モードとの3種類の走行モードに大別される。
【0036】
モータ走行モードでは、クラッチを切断し、エンジンを休筒運転し、モータで発生したトルクのみで車両を走行する。
モータアシストモードでは、クラッチを接続するとともに、エンジンで発生したトルク、およびこのエンジンのトルクを補うべくモータで発生したトルクにより車両を走行する。
モータ回生モードでは、クラッチを接続し、エンジンで発生したトルクにより車両を走行するとともに、このエンジンで発生したトルクの一部又は駆動輪から伝達するトルクをモータで回生し、高圧バッテリを充電する。
【0037】
図6に示すように、モータ走行モードではエンジンを休筒運転することから、車両の走行モードをモータ走行モードにできる運転領域は、エンジンおよびモータからなるパワープラントで発生するトルク(以下、「パワープラントトルク」という)に対する要求値(以下、「パワープラント要求トルク」という)が小さくかつ中低速の運転領域に限られている。なお、以下では、モータアシストモードとモータ回生モードとを合わせて、アシスト/回生モードという。
【0038】
図7は、ハイブリッド車両の走行モード、トルク配分およびエンジンの燃焼モードの設定にかかる処理のメインフローチャートである。この処理は、ECUにより所定の周期で繰り返し実行される。
先ず、S1では、車両の走行モードを、上述のモータ走行モードおよびアシスト/回生モードの何れかに設定する処理を行い、S2に移る。この走行モードを設定する詳細な手順は、後に図8を参照して詳細に説明する。
S2では、トルク配分、すなわちパワープラント要求トルクに応じたエンジン要求トルクとモータ要求トルクとを設定する処理を行い、S3に移る。このトルク配分を設定する詳細な手順は、後に図9〜図11を参照して詳述する。
S3では、エンジンの燃焼モードを、上述のHCCI燃焼モードおよびSI燃焼モードの何れかに設定する処理を行い、この処理を終了する。この燃焼モードを設定する詳細な手順は、後に図12を参照して詳述する。
【0039】
図8は、ハイブリッド車両の走行モードを設定する手順を示すフローチャートである。
S11では、パワープラント要求トルクを取得し、S12に移る。このパワープラント要求トルクは、運転者による車両の操作および車両の状態に応じて、パワープラントに要求されるトルクに相当する値であり、アクセル開度センサの検出値、エンジン回転数、および車速などのパラメータに基づいて算出される。
【0040】
S12では、車両の運転領域がモータ走行に適したモータ走行領域内にあるか否かを判別する。この判別は、上記S11で取得したパワープラント要求トルクおよび車速に基づいて、例えば上述の図6に示すようなマップを検索することにより判別される。このS12の判別がYESの場合、S13に移り、バッテリの残容量(以下、「SOC(State Of Charge)という」)を取得し、このSOCがモータ走行を行うのに十分な状態であるか否かを判別する。
【0041】
S13の判別がYESであり、車両の運転領域がモータ走行領域に含まれかつバッテリのSOCが十分であると判定された場合、S14に移り、車両の走行モードをモータ走行モードに設定し、この処理を終了する。
S12の判別がNOであり車両の運転領域がモータ走行領域に含まれていない場合、又はS13の判別がYESでありバッテリのSOCが十分でない場合、S15に移り、車両の走行モードをアシスト/回生モードに設定し、この処理を終了する。なお、この処理において、車両の走行モードがアシスト/回生モードからモータ走行モードに変更されたことに応じてエンジンは休筒運転され、車両の走行モードがモータ走行モードからアシスト/回生モードに変更されたことに応じてエンジンは始動される。
【0042】
図9および図10は、エンジンとモータのトルク配分、すなわちエンジン要求トルク値とモータ要求トルク値とを設定する手順を示すフローチャートである。
S21では、車両の走行モードがモータ走行モードであるか否かを判別する。S21の判別がYESである場合、上述のS11で取得したパワープラント要求トルクの全てをモータでまかなうべく、S22に移り、エンジン要求トルクをゼロに設定するとともに、モータ要求トルクを上記パワープラント要求トルクと同じ値に設定し、この処理を終了する。
【0043】
一方、S21の判別がNOであり走行モードがアシスト/回生モードである場合、S23に移り、エンジンの始動開始から所定数N燃焼サイクル(所定数Nは、1以上の値に設定される)経過したか否か、すなわち走行モードがモータ走行モードからアシスト/回生モードに変更されてから上記N燃焼サイクル経過したか否かを判別する。
【0044】
S23の判別がYESでありエンジンの始動を開始してから既にN燃焼サイクル経過している場合には、エンジンではHCCI燃焼モードおよびSI燃焼モードともに安定した運転が可能であると判断し、S24に移る。S24では、エンジン要求トルクとモータ要求トルクの和がパワープラント要求トルクに一致するように、所定の通常制御アルゴリズムに基づいて、エンジン要求トルクおよびモータ要求トルクを設定し、この処理を終了する。
【0045】
一方、S23の判別がNOでありエンジンの始動を開始してからまだ上記N燃焼サイクル経過していない場合、すなわちエンジン始動開始直後である場合には、上記S24の通常制御アルゴリズムとは別のアルゴリズムに基づいてエンジン要求トルクおよびモータ要求トルクを設定するべく、S25に移る。
【0046】
S25以降の処理について、具体的な手順を説明する前に、図11を参照してその概要を説明する。
後に詳述するように、本実施形態では、エンジン始動開始直後から安定してHCCI燃焼モードでエンジンを運転することができる。そこで、エンジン始動開始直後である場合には、エンジンの燃焼モードをHCCI燃焼モードに優先的に設定するとともに、エンジン要求トルクを、HCCI燃焼を安定して行うことができる上述のHCCI中央トルクに設定する。そして、パワープラント要求トルクに対しHCCI中央トルクに過不足が生じた場合には、この過不足分をモータで補うようにモータ要求トルクを設定する。
【0047】
例えばパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクを大きく下回る場合、より具体的にはパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクよりもやや小さな値に設定されたHCCI中央トルク幅下限より小さい場合には、このエンジントルクの過分をモータで回生しバッテリを充電する。
また、例えばパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクを大きく上回る場合、より具体的にはパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクよりもやや大きな値に設定されたHCCI中央トルク幅上限以上である場合には、このエンジントルクの不足分をバッテリの電力によりモータで発生する。
【0048】
以上のように、エンジン始動開始直後からパワープラントトルクを大きく変動させることなくHCCI燃焼モードでエンジンを運転できるものの、SOCが小さくバッテリが過放電状態である場合や、SOCが大きくバッテリが過充電状態である場合などには、モータを補助的に用いることは好ましくない。したがってこのような場合、すなわち図11中ハッチングで示す領域にある場合には、エンジンの燃焼モードとしては、モータを補助的に用いることなくパワープラント要求トルクに応じたエンジントルクを安定して発生することができるSI燃焼モードを要求する。
【0049】
図9および図10に戻って、S25以降の処理の具体的な手順について説明する。
S25では、パワープラント要求トルクが上述のHCCI中央トルク幅上限よりも小さいか否かを判別する。S25判別がYESの場合、S26に移り、バッテリのSOCが過充電状態であるか否かを判別する。
S25の判別がNOの場合、S27に移り、パワープラント要求トルクが上述のHCCI中央トルク幅下限以上であるか否かを判別する。S27の判別がYESの場合、S28に移り、バッテリのSOCが過放電状態であるか否かを判別する。
S27の判別がNOの場合、S29に移り、バッテリのSOCが過充電状態又は過放電状態であるか否かを判別する。
【0050】
S26、S28およびS29の判別がYESの場合、すなわち、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅下限より小さくかつバッテリが過充電状態である場合、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅上限以上かつバッテリが過放電状態である場合およびパワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅内にありかつバッテリが過充電状態又は過放電状態である場合には、S30に移り、エンジンの燃焼モードとしてSI燃焼モードを要求した後、上述のS24に移る。
【0051】
一方、S26、S28およびS29の判別がNOの場合、すなわち、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅下限より小さくかつバッテリが過充電状態でない場合、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅上限以上かつバッテリが過放電状態でない場合およびパワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅内にありかつバッテリが過充電状態又は過放電状態でもない場合には、S31に移る。
【0052】
S31では、エンジン要求トルクをHCCI中央トルクに設定するとともに、モータ要求トルクを、パワープラント要求トルクからエンジン要求トルクを減算した値に設定する。なお、エンジン要求トルクがパワープラント要求トルクよりも大きい場合、これはパワープラント要求トルクを上回るエンジントルクが発生することを意味する。したがって、S31においてモータ要求トルクが負となった場合、エンジン要求トルクのパワープラント要求トルクに対する過分をモータで回生しバッテリを充電するように、モータを回生運転する。
【0053】
図12は、エンジンの燃焼モードを設定する手順を示すフローチャートである。
先ず、S41では、エンジンの始動開始から上記N燃焼サイクル経過したか否かを判別する。
S41の判別がYESである場合、S42に移り、エンジンの冷却水温度がHCCI燃焼可能な温度TWHCCIより高いか否かを判別する。S42の判別がYESである場合、S43に移り、吸気温度がHCCI燃焼可能な温度TAHCCIより高いか否かを判別する。S43の判別がYESである場合、S44に移り、排気温度がHCCI燃焼可能な温度TEXHCCIより高いか否かを判別する。S44の判別がYESである場合、S45に移り、HCCI燃焼可能な運転領域であるか否かを判別する。より具体的には、例えば、上記S2において設定したエンジン要求トルクおよびエンジン回転数に基づいて、上述の図5に示すマップを検索することで判別される。
【0054】
上記S42、S43、S44、およびS45の判別の何れかがNOである場合、S46に移り、エンジンの燃焼モードをSI燃焼モードに設定し、この処理を終了する。
また、S45の判別がYESである場合、S47に移り、エンジンの燃焼モードをHCCI燃焼モードに設定し、この処理を終了する。
【0055】
一方、S41の判別がNOでありエンジン始動を開始してからまだ上記N燃焼サイクル経過していない場合、すなわちエンジン始動開始直後である場合には、S48に移り、エンジンの燃焼モードとしてSI燃焼モードが要求された状態であるか否かを判別する。このS48の判別がYESの場合、S46に移り、エンジンの燃焼モードをSI燃焼モードに設定し、S48の判別がNOの場合、S47に移り、エンジンの燃焼モードをHCCI燃焼モードに設定し、この処理を終了する。
【0056】
以下、図13および図14を参照して、エンジンの制御の手順について説明する。
図13は、吸気、排気バルブの制御の手順を示すフローチャートであり、エンジンの燃焼サイクルごとにECUにより実行される。
S51では、車両の走行モードがモータ走行モードであるか否かを判別する。S51の判別がYESであり車両の走行モードがモータ走行モードである場合には、S52に移り、吸気、排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量の設定を所定の休筒運転時用にし、当該設定の下で吸気、排気バルブを制御する。
【0057】
S51の判別がNOであり車両の走行モードがモータ走行モードでない場合には、S53に移り、エンジンの燃焼モードがHCCI燃焼モードであるか否かを判別する。S53の判別がNOでありエンジンの燃焼モードがHCCI燃焼モードでない場合には、S55に移り、吸気バルブおよび排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量の設定をSI運転時用(上述の図3参照)にし、当該SI燃焼時用の設定の下で吸気、排気バルブを制御する。
一方、S53の判別がYESの場合には、S54に移り、吸気バルブおよび排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量の設定をHCCI燃焼時用(上述の図4参照)にし、当該HCCI燃焼時用の設定の下で吸気、排気バルブを制御する。
【0058】
図14は、第1、第2インジェクタおよび点火プラグの制御の手順を示すフローチャートであり、エンジンの燃焼サイクルごとにECUにより実行される。
S61では、車両の走行モードがモータ走行モードであるか否かを判別する。S61の判別がYESであり走行モードがモータ走行モードである場合、S62に移り休筒制御、すなわち噴射燃料量をゼロにする。
【0059】
S61の判別がNOでありモータ走行モードでない場合、S63に移り、エンジンの燃焼モードがHCCI燃焼モードであるか否かを判別する。S63の判別がNOの場合、S66に移り、噴射燃料量および噴射タイミングを、エンジン要求トルクや車速などの複数のパラメータに基づいて、SI燃焼時用の条件下で設定し、当該設定の下で燃料を噴射し、点火プラグで着火燃焼する。すなわちこの場合、上述のように、第1インジェクタから吸気工程中に燃料を噴射し、第2インジェクタから圧縮工程中に燃料を噴射し、これを添加プラグで着火する。また、このときの第1、第2インジェクタによる噴射燃料量は、燃焼空燃比が理論空燃比の近傍になるように調整される。
【0060】
S63の判別がYESであり燃焼モードがHCCI燃焼モードである場合、S64に移り、エンジンの始動開始から所定数M燃焼サイクル(所定数Mは、上述の所定数N以下の値、例えば1に設定される)経過したか否かを判別する。S64の判別がYESの場合、S65に移り、噴射燃料量および噴射タイミングを、エンジン要求トルクや車速などの複数のパラメータに基づいて、HCCI燃焼時用の条件下で設定し、当該設定の下で燃料を噴射し、圧縮着火燃焼する。すなわちこの場合、上述のように、第1インジェクタから吸気工程中に燃料を噴射し、これを圧縮自着火させる。また、このときの第1インジェクタによる噴射燃料量は、燃焼空燃比が理論空燃比よりもリーンになるように調整される。
【0061】
一方、S64の判別がNOの場合、すなわちエンジンをHCCI燃焼モードで始動する場合、S67に移り、噴射燃料量および噴射タイミングを上記S65におけるHCCI燃焼時用の条件とは別の成層燃焼時用の条件下で設定し、当該設定の下で燃料を噴射し、点火プラグで着火燃焼する。より具体的には、特に点火プラグの近傍の空燃比がリッチになるように第2インジェクタから圧縮工程中に燃料を噴射し、これを点火プラグで着火する。また、このときの第2インジェクタによる噴射燃料量は、例えば、燃焼空燃比が上記HCCI燃焼時における燃焼空燃比よりもリーンになるように調整される。
【0062】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)HCCI燃焼モードでエンジンを始動する場合、その始動開始からM燃焼サイクルが経過するまでの間は、圧縮工程中に第2インジェクタにより燃焼室内に直接噴射し、これを点火プラグで着火するとともに、HCCI燃焼時用の設定の下で排気バルブを制御する。すなわち、排気バルブの閉止タイミングをSI燃焼モード時における閉止タイミングよりも早め、上記燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させる。このように、HCCI燃焼モードでエンジンを始動する場合であっても、その始動時には、HCCI燃焼モードとは異なる条件で燃焼することにより、前サイクル時に燃焼していない場合であっても失火することなく安定して燃焼することができる。さらにこの燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させることにより、シリンダ内の温度を上昇させることができるので、次サイクル以降から安定してHCCI燃焼モードでエンジンを運転することができる。
【0063】
(2)エンジンをHCCI燃焼モードで始動する場合、エンジン要求トルクを、HCCI中央トルクに設定する。また、HCCI中央トルクに設定したエンジン要求トルクが、パワープラント要求トルクに対し過不足する場合、この過不足分に応じてモータ要求トルクを設定する。これにより、例えば、設定したエンジン要求トルクがパワープラント要求トルクよりも大きい場合には、この過分をモータで回生し高圧バッテリを充電したり、設定したエンジン要求トルクがパワープラント要求トルクよりも小さい場合には、この不足分をモータで発生したりすることができる。これにより、エンジン始動直後からエンジンをHCCI燃焼モードで安定して運転しながら、パワープラント要求トルクに応じた適切な配分でモータを制御することができる。
【0064】
(3)パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅上限より大きくかつバッテリが過放電状態である場合、又はパワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅下限以下でありかつバッテリが過充電状態である場合、SI燃焼モードでエンジンを運転するので、パワープラント要求トルクに相当するトルクをエンジンのみで発生することができる。したがって、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…ハイブリッド車両
2…エンジン(内燃機関)
27…第2インジェクタ(直接燃料噴射装置)
28…点火プラグ(点火手段)
29b…排気側バルブ機構(可変バルブ機構)
45…アクセル開度センサ(要求トルク取得手段)
5…モータ(電動機)
9…ECU(内燃機関制御手段、トルク配分手段、要求トルク取得手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼モードを予混合圧縮着火燃焼モードと火花点火燃焼モードとで切り換える内燃機関を供えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料と空気とを混合して希薄かつ均一な混合気を生成し、この混合気を圧縮し自着火させる予混合圧縮着火燃焼が可能な内燃機関が提案されている。予混合圧縮着火燃焼は、窒素酸化物(NOx)の排出量が少なく、また圧縮比を高めて高効率な運転が可能であることなどから注目されている。しかしながら、この予混合圧縮着火燃焼は、例えば高負荷の運転領域や、アイドリング時などの極低負荷の運転領域では、適切なタイミングで混合気を燃焼させることが困難でありノッキングや失火などが生じやすい。そこで近年では、予混合圧縮着火燃焼が困難な運転領域を補うべく、点火プラグにより混合気を燃焼させる火花点火燃焼モードと上記予混合圧縮着火燃焼モードとで、燃焼モードを運転領域に応じて切り換えることが可能な内燃機関が開発されている。
【0003】
このように火花点火燃焼モードと予混合圧縮着火燃焼モードとで運転モードを切換可能な内燃機関を備えたハイブリッド車両について、例えば特許文献1には、内燃機関の始動時において、内燃機関の冷却水温度が所定の温度(予混合圧縮着火燃焼モードで運転可能な温度)よりも高い場合には、内燃機関の回転数をモータで所定の回転数まで高くした後、予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関の運転を開始する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−52693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術によれば、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、実際の燃焼に先立って、内燃機関の回転数を予混合圧縮着火燃焼モードで運転可能な回転数まで高くするので、予め何も行わずに燃焼を開始する場合と比較すれば始動直後から安定した燃焼を行うことができる。しかしながら、内燃機関で初めて燃焼を開始する場合、前サイクル時には燃焼を行っていないため、シリンダ内の温度が低く着火時期が安定せず、最悪の場合には失火するおそれがある。このため、ドライバビリティおよびエミッションが悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、内燃機関の始動開始直後から、安定して予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を運転することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン2)の燃焼室(例えば、後述の燃焼室2a)内の混合気を圧縮着火燃焼させる予混合圧縮着火燃焼モードと、前記燃焼室内の混合気を当該燃焼室に設けられた点火手段(例えば、後述の点火プラグ28)により燃焼させる火花点火燃焼モードとで前記内燃機関の運転を所定の条件に応じて切り換える車両の制御装置を提供する。前記車両の制御装置は、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する直接燃料噴射装置(例えば、後述の第2インジェクタ27)と、前記内燃機関の排気バルブおよび吸気バルブのうち少なくとも排気バルブのバルブタイミングを変更可能な可変バルブ機構(例えば、後述の吸気側バルブ機構29a、および排気側バルブ機構29b)と、前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時(例えば、エンジン始動開始から所定数M燃焼サイクル経過するまでの間、)には、前記内燃機関の圧縮工程中に前記直接燃料噴射装置で噴射した燃料を前記点火手段で着火するとともに、前記排気バルブの閉止タイミングを前記火花点火燃焼モード時における前記排気バルブの閉止タイミングよりも早め、排気の一部を前記内燃機関のシリンダ内に残留させる内燃機関制御手段(例えば、後述のECU9、および図13および図14に示す処理の実行にかかる手段)と、を備える。
【0008】
本発明によれば、予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を始動する場合、その始動時には、圧縮工程中に燃焼室内に直接噴射し、これを点火手段で着火するとともに、排気バルブの閉止タイミングを火花点火燃焼モード時における閉止タイミングよりも早め、上記燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させる。このように、予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を始動する場合であっても、その始動時には、予混合圧縮着火燃焼モードとは異なる条件で燃焼することにより、前サイクル時に燃焼していない場合であっても失火することなく安定して燃焼することができる。さらにこの燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させることにより、シリンダ内の温度を上昇させることができるので、例えば次サイクル以降から安定して予混合圧縮着火燃焼モードで内燃機関を運転することができる。
【0009】
この場合、前記車両の制御装置は、バッテリ(例えば、後述の高圧バッテリ8)と、前記バッテリに蓄えられた電力により前記内燃機関の駆動力を補う駆動力を発生、又は、前記内燃機関の駆動力の一部を回生し前記バッテリを充電する電動機(例えば、後述のモータ5)と、前記内燃機関および前記電動機を含むパワープラント(例えば、後述のパワープラント)で発生するパワープラントトルクに対する要求値(例えば、後述のパワープラント要求トルク)を取得する要求トルク取得手段と、前記パワープラントトルクに対する要求値に基づいて、前記内燃機関で発生する内燃機関トルク(例えば、後述のエンジントルク)に対する要求値(例えば、後述のエンジン要求トルク)、並びに、前記電動機で回生又は発生する電動機トルク(例えば、後述のモータトルク)に対する要求値(例えば、後述のモータ要求トルク)を設定するトルク配分手段(例えば、後述のECU9、並びに図9および図10の処理の実行にかかる手段)と、を備え、当該トルク配分手段は、前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時(例えば、エンジン始動開始から所定数N燃焼サイクル経過するまでの間)には、前記内燃機関トルクに対する要求値を、予混合圧縮着火燃焼モードにおける所定の中央値(例えば、後述のHCCI中央トルク)に設定するとともに、前記パワープラントトルクの要求値に対する前記中央値の過不足分に応じて前記電動機トルクに対する要求値を設定することが好ましい。
【0010】
この発明によれば、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、内燃機関トルクに対する要求値を、予混合圧縮着火燃焼モードにおける所定の中央値、すなわち予混合圧縮着火燃焼モードで安定して内燃機関を運転したときに発生する内燃機関トルクの値に設定する。また、上記中央値に設定した内燃機関トルクに対する要求値が、パワープラントトルクに対する要求値に対し過不足する場合、この過不足分に応じて電動機で回生又は発生する発電機トルクに対する要求値を設定する。これにより、例えば、内燃機関トルクに対する要求値がパワープラントトルクに対する要求値よりも大きい場合には、この過分を電動機で回生しバッテリを充電したり、内燃機関トルクに対する要求値がパワープラントトルクに対する要求値よりも小さい場合、この不足分を電動機で発生したりすることができる。これにより、始動直後から内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで安定して運転しながら、パワープラントトルクに対する要求値に応じた適切な配分で電動機を制御することができる。
【0011】
この場合、前記内燃機関制御手段は、前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より大きくかつ前記バッテリが過放電状態である場合、又は前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より小さくかつ前記バッテリが過充電状態である場合、前記火花点火燃焼モードで前記内燃機関を運転することが好ましい。
【0012】
パワープラントトルクが上記中央値よりも大きい場合、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで運転しながらその不足分を電動機で発生するのが好ましいものの、このときバッテリが過放電状態であると、電動機で上記不足分を発生するのが困難となる。また、パワープラントトルクに対する要求値が上記中央値よりも小さい場合、内燃機関を予混合圧縮着火燃焼モードで運転しながらその過分を電動機で回生するのが好ましいものの、このときバッテリが過充電状態であると、電動機で上記過分を回生するのが困難となる。この発明によれば、バッテリに以上のような事態が発生した場合、火花点火燃焼モードで内燃機関を運転するので、パワープラントトルクに対する要求値に相当するトルクを内燃機関のみで発生することができる。したがって、パワープラントトルクに対する要求値に応じたトルクを発生することができずに、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の構成を示す模式図である。
【図2】上記実施形態にかかるエンジンと、その吸気系および排気系との構成を示す模式図である。
【図3】SI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。
【図4】HCCI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。
【図5】上記実施形態にかかるエンジンにおいてHCCI燃焼を行う運転領域とSI燃焼を行う運転領域とを示す図である。
【図6】上記実施形態にかかるハイブリッド車両における走行モードとその運転領域を示す図である。
【図7】上記実施形態にかかるハイブリッド車両の走行モード、トルク配分およびエンジンの燃焼モードの設定にかかる処理のメインフローチャートである。
【図8】上記実施形態にかかるハイブリッド車両の走行モードを設定する手順を示すフローチャートである。
【図9】上記実施形態にかかるエンジンとモータのトルク配分を設定する手順を示すフローチャートである。
【図10】上記実施形態にかかるエンジンとモータのトルク配分を設定する手順を示すフローチャートである。
【図11】上記実施形態にかかるエンジン始動開始直後において、HCCI燃焼モードでエンジンを運転する領域を示す図である。
【図12】上記実施形態にかかるエンジンの燃焼モードを設定する手順を示すフローチャートである。
【図13】上記実施形態にかかる吸気、排気バルブの制御の手順を示すフローチャートである。
【図14】上記実施形態にかかる第1、第2インジェクタおよび点火プラグの制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態にかかるハイブリッド車両1の構成を示す模式図である。
ハイブリッド車両1は、エンジン2とモータ5との2つの駆動力発生源から成るパワープラントを備えた車両である。このハイブリッド車両1は、燃料タンク7に蓄えられた燃料を燃焼させることによりエンジン2で発生した駆動力と、高圧バッテリ8に蓄えられた電力によりモータ5で発生した駆動力との両方又は何れかで駆動輪11,12を駆動し、走行することが可能となっている。
【0015】
エンジン2のクランクシャフトは、クラッチCLを介してモータ5の出力軸に連結されている。また、このモータ5の出力軸は、トランスミッションTMを介して駆動輪11,12に連結されている。したがって、クラッチCLを接続することにより、エンジン2で発生したトルクのみ、又は、エンジン2およびモータ5で発生したトルクにより駆動輪11,12を駆動し、走行することが可能となる。また、クラッチCLを切断することにより、モータ5で発生したトルクのみで駆動輪11,12を駆動し、走行することが可能となる。クラッチCLは、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)9からの制御信号に基づいて動作し、エンジン2のクランクシャフトとモータ5の出力軸とを断続する。なお、このエンジン2の詳細な構成については、後に図2を参照して説明する。
【0016】
モータ5は、例えば、三相のDCブラシレスモータが用いられ、インバータを備えたパワードライブユニット(以下、「PDU」という)6を介して高圧バッテリ8に接続されている。高圧バッテリ8は、例えば複数のリチウムイオン型のバッテリで構成されている。また、この高圧バッテリ8には、チャージャー81が接続されており、このチャージャー81のプラグ82を図示しない家庭用コンセントに差し込んで、高圧バッテリ8を充電することが可能となっている。
【0017】
PDU6は、ECU9から入力されたトルク指令信号に基づいて動作し、高圧バッテリ8の電力によりモータ5でトルクを発生させたり、エンジン2で発生したトルクの一部又は車両1の減速走行時に駆動輪11,12から出力軸に伝達するトルクを高圧バッテリ8に回生させたりする。より具体的には、モータ5を駆動運転する場合、PDU6は、高圧バッテリ8に蓄えられた電力を三相交流電力に変換してモータ5に供給する。また、モータ5を回生運転する場合、モータ5から出力される三相交流電力を直流電力に変換し、高圧バッテリ8を充電する。
ECU9は、モータで発生するトルク(以下、「モータトルク」という)に対する要求値(以下、「モータ要求トルク」という)を後に図9および図10を参照して説明する手順により設定し、このモータ要求トルクに応じたトルク指令信号をPDU6に入力する。
【0018】
図2は、エンジン2と、その吸気系および排気系との構成を示す模式図である。
エンジン2は、複数、例えば4つのシリンダ21aを備えた4気筒エンジンであり、図2には、このうちの1つを代表的に示す。エンジン2は、シリンダ21aが形成されたシリンダブロック21と、シリンダヘッド22とを組み合わせて構成される。このエンジン2には、吸気が流通する吸気管31と、排気が流通する排気管32と、排気管32内の排気の一部を吸気管31に還流する排気還流通路33とが設けられている。
【0019】
シリンダ21a内にはピストン23が摺動可能に設けられており、このピストン23の頂面とシリンダヘッド22のシリンダ21a側の面により、エンジン2の燃焼室2aが形成される。ピストン23は、コンロッド24を介してクランクシャフト25に連結されている。すなわち、シリンダ21a内におけるピストン23の往復動に応じてクランクシャフト25が回転する。
【0020】
シリンダヘッド22には、燃焼室2aと吸気管31とを接続する吸気ポート22aと、燃焼室2aと排気管32とを接続する排気ポート22bとが形成されている。吸気ポート22aのうち燃焼室2aに臨む吸気開口は吸気バルブ22cにより開閉され、排気ポート22bのうち燃焼室2aに臨む排気開口は排気バルブ22dにより開閉されるようになっている。吸気バルブ22cは、吸気側バルブ機構29aにより駆動され、排気バルブ22dは、排気側バルブ機構29bにより駆動される。
【0021】
吸気側バルブ機構29aは、吸気バルブ22cのカムシャフトのクランクシャフト25に対する位相を変更する吸気カム位相可変機構(図示せず)と、吸気バルブ22cのリフト量を変更する吸気リフト可変機構(図示せず)と、を備えており、吸気バルブ22cのバルブリフト量およびバルブタイミングを変更することが可能となっている。また、排気側バルブ機構29bも同様に、排気バルブ22dのカムシャフトのクランクシャフト25に対する位相を変更する排気カム位相可変機構(図示せず)と、排気バルブ22dのリフト量を変更する排気リフト可変機構(図示せず)と、を備えており、排気バルブ22dのバルブリフト量およびバルブタイミングを変更することが可能となっている。バルブ22c、22dのバルブリフト量およびバルブタイミングの変更にかかるバルブ機構29a、29bの各種アクチュエータはECU9に接続されており、このECU9からの制御信号に基づいて動作する。なお、これらバルブ機構29a、29bのリフト可変機構やカム位相可変機構には、既知のものが用いられる。より具体的には、リフト可変機構には、例えば本願出願人による特開2008−75614号公報に詳細に記載されたものが用いられ、カム位相可変機構には、例えば本願出願人による特開2009−222021号公報に記載されたものが用いられる。
【0022】
吸気ポート22aのうち上記吸気開口よりも吸気管31側には、燃焼室2a側へ向って燃料を噴射する第1インジェクタ26が設けられ、シリンダヘッド22には、燃焼室2a内に臨み、この燃焼室2a内に燃料を直接噴射する第2インジェクタ27が設けられている。第1インジェクタ26からの噴射燃料量およびその燃料噴射タイミング、並びに、第2インジェクタ27からの噴射燃料量およびその燃料噴射タイミングは、ECU9により制御される。
【0023】
また、シリンダヘッド22には、燃焼室2a内のうち上記第2インジェクタ27よりも排気バルブ22d側に臨む点火プラグ28が設けられている。この点火プラグ28による混合気の点火時期は、ECU9により制御される。
【0024】
吸気管31には、この吸気管31を流通しエンジン2の燃焼室2aに供給される空気の吸気量を制御するスロットル弁34が設けられている。このスロットル弁34は、図示しないアクチュエータを介してECU9に接続されており、その開度はECU9により制御される。
【0025】
排気管32には、エンジン2の排気を浄化する三元触媒を担持した触媒コンバータ35が設けられている。この三元触媒は、例えば、排気浄化能を有する触媒貴金属に加えて排気中の酸素を吸着し貯蔵する酸素吸蔵能を有するOSC材を含有しており、排気中のHCおよびCOを酸化するとともに、排気中のNOxを還元する。
【0026】
排気還流通路33は、排気管32のうち上記触媒コンバータ35の下流側と、吸気管31のうちスロットル弁34の下流側とを接続し、エンジン2から排出された排気の一部を還流する。この排気還流通路33には、還流される排気を冷却するEGRクーラ36と、還流する排気の流量を制御するEGR弁37とが設けられている。EGR弁37は、図示しないアクチュエータを介してECU9に接続されており、その開度はECU9により電磁的に制御される。
【0027】
ECU9には、エアフローセンサ41、吸気温度センサ46、排気温度センサ43、クランク角度位置センサ44、アクセル開度センサ45、および冷却水温度センサ47などが接続されている。エアフローセンサ41は、エンジン2に吸入される空気の吸気量を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。吸気温度センサ46は、エンジン2に吸入される空気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。排気温度センサ43は、排気管32のうち触媒コンバータ35から流出する排気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。
【0028】
クランク角度位置センサ44は、クランクシャフト25の回転角度を示すパルス信号をECU9に送信する。エンジン2の回転数は、このクランク角度位置センサ44から送信されたクランク角信号に基づいて、ECU9により算出される。アクセル開度センサ45は、車両のアクセルペダルの開度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。冷却水温度センサ47は、エンジン2の冷却水の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU9に送信する。
【0029】
以上のように構成されたエンジン2は、運転領域に応じてその燃焼モードを、予混合圧縮着火燃焼モード(以下、「HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)燃焼モード」という)と火花点火燃焼モード(以下、「SI(Spark Ignition)燃焼モード」という)とで切り換えることが可能となっている。
【0030】
SI燃焼モードでは、吸気工程中に第1インジェクタ26により吸気管31内に所定量の燃料を噴射し、さらに圧縮工程中に第2インジェクタ27により特に点火プラグ28の近傍が理論空燃比よりもリッチになるように所定量の燃料を噴射する。そして、以上のようにして供給された混合気を、所定のタイミングで点火プラグ28から発せられた火花で着火燃焼させる。ここで、SI燃焼モードにおいて、2つのインジェクタ26,27からの噴射燃料量は、燃焼室2a内の混合気の空燃比、すなわち燃焼空燃比が理論空燃比の近傍になるように調整される。
【0031】
図3は、SI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。
SI燃焼モードでは、ピストンの頂面が下死点から上死点に向う排気工程にわたり、排気バルブを開き、ピストンの頂面が上死点から下死点に向う吸気工程にわたり、吸気バルブを開く。
【0032】
HCCI燃焼モードでは、吸気工程中に第1インジェクタにより吸気管内に所定量の燃料を噴射し、この噴射により燃焼室に供給された空気との混合気を圧縮し、自己着火させる。ここで、HCCI燃焼モードにおいて、第1インジェクタからの噴射燃料量は、燃焼空燃比が理論空燃比よりもリーンになるように調整される。
【0033】
図4は、HCCI燃焼モードにおける排気バルブおよび吸気バルブの動作例を示す図である。なお図4には、比較のため、SI燃焼モードにおけるこれらバルブの動作例を破線で示す。
HCCI燃焼モードでは、混合気を圧縮自己着火させることから、シリンダ内の温度を、SI燃焼モード時における温度よりも高くする必要がある。そこで、HCCI燃焼モードでは、燃焼サイクル中に、排気バルブの開弁時期と吸気バルブの開弁時期とに負の重複(NOL(Negative OverLap))が生じるように、すなわちこれらバルブが共に閉じた期間が生じるように排気バルブおよび吸気バルブを駆動する。より具体的には、HCCI燃焼モードでは、排気バルブのバルブリフト量をSI燃焼モード時よりも低く変更し、さらにバルブタイミングを進角側に変更することにより、排気バルブの閉止タイミングをSI燃焼モードよりも早める。また、吸気バルブのバルブリフト量をSI燃焼モード時よりも低く変更し、さらにバルブタイミングを遅角側に変更することにより、吸気バルブの開放タイミングをSI燃焼モード時よりも遅らせる。HCCI燃焼モードでは、排気バルブの開弁時期と吸気バルブの開弁時期について以上のような負の重複を設けることにより、排気の一部をシリンダ内に残留させ、シリンダ内の温度をSI燃焼モード時よりも高くする。
【0034】
図5は、HCCI燃焼を行うことが可能な運転領域を示す図である。
図5に示すように、エンジンで発生させるトルク(以下、「エンジントルク」という)に対する要求値(以下、「エンジン要求トルク」という)とエンジンの回転数との2つのパラメータに対し、HCCI燃焼を安定して行うことができる運転領域は、低負荷かつ低回転数の領域に限られている。また、HCCI燃焼は、特定の運転領域(図5においてハッチングで模式的に示す領域)内では特に安定した燃焼が可能となっている。以下では、このような特に安定した燃焼が可能な運転領域内で、エンジンをHCCI燃焼モードで運転したときに発生するエンジントルクの中央値をHCCI中央トルクという。これに対してSI燃焼は、上述のHCCI燃焼が可能な運転領域を含み、基本的にはHCCI燃料が可能な領域を含む全運転領域にわたって安定して行うことが可能となっている。
【0035】
図6は、ハイブリッド車両における走行モードとその運転領域を示す図である。
以上のようなエンジンとモータとの2つの駆動力発生源からなるパワープラントを備えたハイブリッド車両における走行モードは、エンジン、モータおよびクラッチの制御態様に応じて、モータ走行モードと、モータアシストモードと、モータ回生モードとの3種類の走行モードに大別される。
【0036】
モータ走行モードでは、クラッチを切断し、エンジンを休筒運転し、モータで発生したトルクのみで車両を走行する。
モータアシストモードでは、クラッチを接続するとともに、エンジンで発生したトルク、およびこのエンジンのトルクを補うべくモータで発生したトルクにより車両を走行する。
モータ回生モードでは、クラッチを接続し、エンジンで発生したトルクにより車両を走行するとともに、このエンジンで発生したトルクの一部又は駆動輪から伝達するトルクをモータで回生し、高圧バッテリを充電する。
【0037】
図6に示すように、モータ走行モードではエンジンを休筒運転することから、車両の走行モードをモータ走行モードにできる運転領域は、エンジンおよびモータからなるパワープラントで発生するトルク(以下、「パワープラントトルク」という)に対する要求値(以下、「パワープラント要求トルク」という)が小さくかつ中低速の運転領域に限られている。なお、以下では、モータアシストモードとモータ回生モードとを合わせて、アシスト/回生モードという。
【0038】
図7は、ハイブリッド車両の走行モード、トルク配分およびエンジンの燃焼モードの設定にかかる処理のメインフローチャートである。この処理は、ECUにより所定の周期で繰り返し実行される。
先ず、S1では、車両の走行モードを、上述のモータ走行モードおよびアシスト/回生モードの何れかに設定する処理を行い、S2に移る。この走行モードを設定する詳細な手順は、後に図8を参照して詳細に説明する。
S2では、トルク配分、すなわちパワープラント要求トルクに応じたエンジン要求トルクとモータ要求トルクとを設定する処理を行い、S3に移る。このトルク配分を設定する詳細な手順は、後に図9〜図11を参照して詳述する。
S3では、エンジンの燃焼モードを、上述のHCCI燃焼モードおよびSI燃焼モードの何れかに設定する処理を行い、この処理を終了する。この燃焼モードを設定する詳細な手順は、後に図12を参照して詳述する。
【0039】
図8は、ハイブリッド車両の走行モードを設定する手順を示すフローチャートである。
S11では、パワープラント要求トルクを取得し、S12に移る。このパワープラント要求トルクは、運転者による車両の操作および車両の状態に応じて、パワープラントに要求されるトルクに相当する値であり、アクセル開度センサの検出値、エンジン回転数、および車速などのパラメータに基づいて算出される。
【0040】
S12では、車両の運転領域がモータ走行に適したモータ走行領域内にあるか否かを判別する。この判別は、上記S11で取得したパワープラント要求トルクおよび車速に基づいて、例えば上述の図6に示すようなマップを検索することにより判別される。このS12の判別がYESの場合、S13に移り、バッテリの残容量(以下、「SOC(State Of Charge)という」)を取得し、このSOCがモータ走行を行うのに十分な状態であるか否かを判別する。
【0041】
S13の判別がYESであり、車両の運転領域がモータ走行領域に含まれかつバッテリのSOCが十分であると判定された場合、S14に移り、車両の走行モードをモータ走行モードに設定し、この処理を終了する。
S12の判別がNOであり車両の運転領域がモータ走行領域に含まれていない場合、又はS13の判別がYESでありバッテリのSOCが十分でない場合、S15に移り、車両の走行モードをアシスト/回生モードに設定し、この処理を終了する。なお、この処理において、車両の走行モードがアシスト/回生モードからモータ走行モードに変更されたことに応じてエンジンは休筒運転され、車両の走行モードがモータ走行モードからアシスト/回生モードに変更されたことに応じてエンジンは始動される。
【0042】
図9および図10は、エンジンとモータのトルク配分、すなわちエンジン要求トルク値とモータ要求トルク値とを設定する手順を示すフローチャートである。
S21では、車両の走行モードがモータ走行モードであるか否かを判別する。S21の判別がYESである場合、上述のS11で取得したパワープラント要求トルクの全てをモータでまかなうべく、S22に移り、エンジン要求トルクをゼロに設定するとともに、モータ要求トルクを上記パワープラント要求トルクと同じ値に設定し、この処理を終了する。
【0043】
一方、S21の判別がNOであり走行モードがアシスト/回生モードである場合、S23に移り、エンジンの始動開始から所定数N燃焼サイクル(所定数Nは、1以上の値に設定される)経過したか否か、すなわち走行モードがモータ走行モードからアシスト/回生モードに変更されてから上記N燃焼サイクル経過したか否かを判別する。
【0044】
S23の判別がYESでありエンジンの始動を開始してから既にN燃焼サイクル経過している場合には、エンジンではHCCI燃焼モードおよびSI燃焼モードともに安定した運転が可能であると判断し、S24に移る。S24では、エンジン要求トルクとモータ要求トルクの和がパワープラント要求トルクに一致するように、所定の通常制御アルゴリズムに基づいて、エンジン要求トルクおよびモータ要求トルクを設定し、この処理を終了する。
【0045】
一方、S23の判別がNOでありエンジンの始動を開始してからまだ上記N燃焼サイクル経過していない場合、すなわちエンジン始動開始直後である場合には、上記S24の通常制御アルゴリズムとは別のアルゴリズムに基づいてエンジン要求トルクおよびモータ要求トルクを設定するべく、S25に移る。
【0046】
S25以降の処理について、具体的な手順を説明する前に、図11を参照してその概要を説明する。
後に詳述するように、本実施形態では、エンジン始動開始直後から安定してHCCI燃焼モードでエンジンを運転することができる。そこで、エンジン始動開始直後である場合には、エンジンの燃焼モードをHCCI燃焼モードに優先的に設定するとともに、エンジン要求トルクを、HCCI燃焼を安定して行うことができる上述のHCCI中央トルクに設定する。そして、パワープラント要求トルクに対しHCCI中央トルクに過不足が生じた場合には、この過不足分をモータで補うようにモータ要求トルクを設定する。
【0047】
例えばパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクを大きく下回る場合、より具体的にはパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクよりもやや小さな値に設定されたHCCI中央トルク幅下限より小さい場合には、このエンジントルクの過分をモータで回生しバッテリを充電する。
また、例えばパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクを大きく上回る場合、より具体的にはパワープラント要求トルクがHCCI中央トルクよりもやや大きな値に設定されたHCCI中央トルク幅上限以上である場合には、このエンジントルクの不足分をバッテリの電力によりモータで発生する。
【0048】
以上のように、エンジン始動開始直後からパワープラントトルクを大きく変動させることなくHCCI燃焼モードでエンジンを運転できるものの、SOCが小さくバッテリが過放電状態である場合や、SOCが大きくバッテリが過充電状態である場合などには、モータを補助的に用いることは好ましくない。したがってこのような場合、すなわち図11中ハッチングで示す領域にある場合には、エンジンの燃焼モードとしては、モータを補助的に用いることなくパワープラント要求トルクに応じたエンジントルクを安定して発生することができるSI燃焼モードを要求する。
【0049】
図9および図10に戻って、S25以降の処理の具体的な手順について説明する。
S25では、パワープラント要求トルクが上述のHCCI中央トルク幅上限よりも小さいか否かを判別する。S25判別がYESの場合、S26に移り、バッテリのSOCが過充電状態であるか否かを判別する。
S25の判別がNOの場合、S27に移り、パワープラント要求トルクが上述のHCCI中央トルク幅下限以上であるか否かを判別する。S27の判別がYESの場合、S28に移り、バッテリのSOCが過放電状態であるか否かを判別する。
S27の判別がNOの場合、S29に移り、バッテリのSOCが過充電状態又は過放電状態であるか否かを判別する。
【0050】
S26、S28およびS29の判別がYESの場合、すなわち、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅下限より小さくかつバッテリが過充電状態である場合、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅上限以上かつバッテリが過放電状態である場合およびパワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅内にありかつバッテリが過充電状態又は過放電状態である場合には、S30に移り、エンジンの燃焼モードとしてSI燃焼モードを要求した後、上述のS24に移る。
【0051】
一方、S26、S28およびS29の判別がNOの場合、すなわち、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅下限より小さくかつバッテリが過充電状態でない場合、パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅上限以上かつバッテリが過放電状態でない場合およびパワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅内にありかつバッテリが過充電状態又は過放電状態でもない場合には、S31に移る。
【0052】
S31では、エンジン要求トルクをHCCI中央トルクに設定するとともに、モータ要求トルクを、パワープラント要求トルクからエンジン要求トルクを減算した値に設定する。なお、エンジン要求トルクがパワープラント要求トルクよりも大きい場合、これはパワープラント要求トルクを上回るエンジントルクが発生することを意味する。したがって、S31においてモータ要求トルクが負となった場合、エンジン要求トルクのパワープラント要求トルクに対する過分をモータで回生しバッテリを充電するように、モータを回生運転する。
【0053】
図12は、エンジンの燃焼モードを設定する手順を示すフローチャートである。
先ず、S41では、エンジンの始動開始から上記N燃焼サイクル経過したか否かを判別する。
S41の判別がYESである場合、S42に移り、エンジンの冷却水温度がHCCI燃焼可能な温度TWHCCIより高いか否かを判別する。S42の判別がYESである場合、S43に移り、吸気温度がHCCI燃焼可能な温度TAHCCIより高いか否かを判別する。S43の判別がYESである場合、S44に移り、排気温度がHCCI燃焼可能な温度TEXHCCIより高いか否かを判別する。S44の判別がYESである場合、S45に移り、HCCI燃焼可能な運転領域であるか否かを判別する。より具体的には、例えば、上記S2において設定したエンジン要求トルクおよびエンジン回転数に基づいて、上述の図5に示すマップを検索することで判別される。
【0054】
上記S42、S43、S44、およびS45の判別の何れかがNOである場合、S46に移り、エンジンの燃焼モードをSI燃焼モードに設定し、この処理を終了する。
また、S45の判別がYESである場合、S47に移り、エンジンの燃焼モードをHCCI燃焼モードに設定し、この処理を終了する。
【0055】
一方、S41の判別がNOでありエンジン始動を開始してからまだ上記N燃焼サイクル経過していない場合、すなわちエンジン始動開始直後である場合には、S48に移り、エンジンの燃焼モードとしてSI燃焼モードが要求された状態であるか否かを判別する。このS48の判別がYESの場合、S46に移り、エンジンの燃焼モードをSI燃焼モードに設定し、S48の判別がNOの場合、S47に移り、エンジンの燃焼モードをHCCI燃焼モードに設定し、この処理を終了する。
【0056】
以下、図13および図14を参照して、エンジンの制御の手順について説明する。
図13は、吸気、排気バルブの制御の手順を示すフローチャートであり、エンジンの燃焼サイクルごとにECUにより実行される。
S51では、車両の走行モードがモータ走行モードであるか否かを判別する。S51の判別がYESであり車両の走行モードがモータ走行モードである場合には、S52に移り、吸気、排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量の設定を所定の休筒運転時用にし、当該設定の下で吸気、排気バルブを制御する。
【0057】
S51の判別がNOであり車両の走行モードがモータ走行モードでない場合には、S53に移り、エンジンの燃焼モードがHCCI燃焼モードであるか否かを判別する。S53の判別がNOでありエンジンの燃焼モードがHCCI燃焼モードでない場合には、S55に移り、吸気バルブおよび排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量の設定をSI運転時用(上述の図3参照)にし、当該SI燃焼時用の設定の下で吸気、排気バルブを制御する。
一方、S53の判別がYESの場合には、S54に移り、吸気バルブおよび排気バルブのバルブタイミングおよびバルブリフト量の設定をHCCI燃焼時用(上述の図4参照)にし、当該HCCI燃焼時用の設定の下で吸気、排気バルブを制御する。
【0058】
図14は、第1、第2インジェクタおよび点火プラグの制御の手順を示すフローチャートであり、エンジンの燃焼サイクルごとにECUにより実行される。
S61では、車両の走行モードがモータ走行モードであるか否かを判別する。S61の判別がYESであり走行モードがモータ走行モードである場合、S62に移り休筒制御、すなわち噴射燃料量をゼロにする。
【0059】
S61の判別がNOでありモータ走行モードでない場合、S63に移り、エンジンの燃焼モードがHCCI燃焼モードであるか否かを判別する。S63の判別がNOの場合、S66に移り、噴射燃料量および噴射タイミングを、エンジン要求トルクや車速などの複数のパラメータに基づいて、SI燃焼時用の条件下で設定し、当該設定の下で燃料を噴射し、点火プラグで着火燃焼する。すなわちこの場合、上述のように、第1インジェクタから吸気工程中に燃料を噴射し、第2インジェクタから圧縮工程中に燃料を噴射し、これを添加プラグで着火する。また、このときの第1、第2インジェクタによる噴射燃料量は、燃焼空燃比が理論空燃比の近傍になるように調整される。
【0060】
S63の判別がYESであり燃焼モードがHCCI燃焼モードである場合、S64に移り、エンジンの始動開始から所定数M燃焼サイクル(所定数Mは、上述の所定数N以下の値、例えば1に設定される)経過したか否かを判別する。S64の判別がYESの場合、S65に移り、噴射燃料量および噴射タイミングを、エンジン要求トルクや車速などの複数のパラメータに基づいて、HCCI燃焼時用の条件下で設定し、当該設定の下で燃料を噴射し、圧縮着火燃焼する。すなわちこの場合、上述のように、第1インジェクタから吸気工程中に燃料を噴射し、これを圧縮自着火させる。また、このときの第1インジェクタによる噴射燃料量は、燃焼空燃比が理論空燃比よりもリーンになるように調整される。
【0061】
一方、S64の判別がNOの場合、すなわちエンジンをHCCI燃焼モードで始動する場合、S67に移り、噴射燃料量および噴射タイミングを上記S65におけるHCCI燃焼時用の条件とは別の成層燃焼時用の条件下で設定し、当該設定の下で燃料を噴射し、点火プラグで着火燃焼する。より具体的には、特に点火プラグの近傍の空燃比がリッチになるように第2インジェクタから圧縮工程中に燃料を噴射し、これを点火プラグで着火する。また、このときの第2インジェクタによる噴射燃料量は、例えば、燃焼空燃比が上記HCCI燃焼時における燃焼空燃比よりもリーンになるように調整される。
【0062】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)HCCI燃焼モードでエンジンを始動する場合、その始動開始からM燃焼サイクルが経過するまでの間は、圧縮工程中に第2インジェクタにより燃焼室内に直接噴射し、これを点火プラグで着火するとともに、HCCI燃焼時用の設定の下で排気バルブを制御する。すなわち、排気バルブの閉止タイミングをSI燃焼モード時における閉止タイミングよりも早め、上記燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させる。このように、HCCI燃焼モードでエンジンを始動する場合であっても、その始動時には、HCCI燃焼モードとは異なる条件で燃焼することにより、前サイクル時に燃焼していない場合であっても失火することなく安定して燃焼することができる。さらにこの燃焼による排気の一部をシリンダ内に残留させることにより、シリンダ内の温度を上昇させることができるので、次サイクル以降から安定してHCCI燃焼モードでエンジンを運転することができる。
【0063】
(2)エンジンをHCCI燃焼モードで始動する場合、エンジン要求トルクを、HCCI中央トルクに設定する。また、HCCI中央トルクに設定したエンジン要求トルクが、パワープラント要求トルクに対し過不足する場合、この過不足分に応じてモータ要求トルクを設定する。これにより、例えば、設定したエンジン要求トルクがパワープラント要求トルクよりも大きい場合には、この過分をモータで回生し高圧バッテリを充電したり、設定したエンジン要求トルクがパワープラント要求トルクよりも小さい場合には、この不足分をモータで発生したりすることができる。これにより、エンジン始動直後からエンジンをHCCI燃焼モードで安定して運転しながら、パワープラント要求トルクに応じた適切な配分でモータを制御することができる。
【0064】
(3)パワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅上限より大きくかつバッテリが過放電状態である場合、又はパワープラント要求トルクがHCCI中央トルク幅下限以下でありかつバッテリが過充電状態である場合、SI燃焼モードでエンジンを運転するので、パワープラント要求トルクに相当するトルクをエンジンのみで発生することができる。したがって、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…ハイブリッド車両
2…エンジン(内燃機関)
27…第2インジェクタ(直接燃料噴射装置)
28…点火プラグ(点火手段)
29b…排気側バルブ機構(可変バルブ機構)
45…アクセル開度センサ(要求トルク取得手段)
5…モータ(電動機)
9…ECU(内燃機関制御手段、トルク配分手段、要求トルク取得手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内の混合気を圧縮着火燃焼させる予混合圧縮着火燃焼モードと、前記燃焼室内の混合気を当該燃焼室に設けられた点火手段により燃焼させる火花点火燃焼モードとで前記内燃機関の運転を所定の条件に応じて切り換える車両の制御装置であって、
前記燃焼室内に燃料を直接噴射する直接燃料噴射装置と、
前記内燃機関の排気バルブおよび吸気バルブのうち少なくとも排気バルブのバルブタイミングを変更可能な可変バルブ機構と、
前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時には、前記内燃機関の圧縮工程中に前記直接燃料噴射装置で噴射した燃料を前記点火手段で着火するとともに、前記排気バルブの閉止タイミングを前記火花点火燃焼モード時における前記排気バルブの閉止タイミングよりも早め、排気の一部を前記内燃機関のシリンダ内に残留させる内燃機関制御手段と、を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
バッテリと、
前記バッテリに蓄えられた電力により前記内燃機関の駆動力を補う駆動力を発生、又は、前記内燃機関の駆動力の一部を回生し前記バッテリを充電する電動機と、
前記内燃機関および前記電動機を含むパワープラントで発生するパワープラントトルクに対する要求値を取得する要求トルク取得手段と、
前記パワープラントトルクに対する要求値に基づいて、前記内燃機関で発生する内燃機関トルクに対する要求値、並びに、前記電動機で回生又は発生する電動機トルクに対する要求値を設定するトルク配分手段と、を備え、
当該トルク配分手段は、前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時には、前記内燃機関トルクに対する要求値を、予混合圧縮着火燃焼モードにおける所定の中央値に設定するとともに、前記パワープラントトルクの要求値に対する前記中央値の過不足分に応じて前記電動機トルクに対する要求値を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関制御手段は、
前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より大きくかつ前記バッテリが過放電状態である場合、又は前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より小さくかつ前記バッテリが過充電状態である場合、前記火花点火燃焼モードで前記内燃機関を運転することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内の混合気を圧縮着火燃焼させる予混合圧縮着火燃焼モードと、前記燃焼室内の混合気を当該燃焼室に設けられた点火手段により燃焼させる火花点火燃焼モードとで前記内燃機関の運転を所定の条件に応じて切り換える車両の制御装置であって、
前記燃焼室内に燃料を直接噴射する直接燃料噴射装置と、
前記内燃機関の排気バルブおよび吸気バルブのうち少なくとも排気バルブのバルブタイミングを変更可能な可変バルブ機構と、
前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時には、前記内燃機関の圧縮工程中に前記直接燃料噴射装置で噴射した燃料を前記点火手段で着火するとともに、前記排気バルブの閉止タイミングを前記火花点火燃焼モード時における前記排気バルブの閉止タイミングよりも早め、排気の一部を前記内燃機関のシリンダ内に残留させる内燃機関制御手段と、を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
バッテリと、
前記バッテリに蓄えられた電力により前記内燃機関の駆動力を補う駆動力を発生、又は、前記内燃機関の駆動力の一部を回生し前記バッテリを充電する電動機と、
前記内燃機関および前記電動機を含むパワープラントで発生するパワープラントトルクに対する要求値を取得する要求トルク取得手段と、
前記パワープラントトルクに対する要求値に基づいて、前記内燃機関で発生する内燃機関トルクに対する要求値、並びに、前記電動機で回生又は発生する電動機トルクに対する要求値を設定するトルク配分手段と、を備え、
当該トルク配分手段は、前記内燃機関を前記予混合圧縮着火燃焼モードで始動する場合、その始動時には、前記内燃機関トルクに対する要求値を、予混合圧縮着火燃焼モードにおける所定の中央値に設定するとともに、前記パワープラントトルクの要求値に対する前記中央値の過不足分に応じて前記電動機トルクに対する要求値を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関制御手段は、
前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より大きくかつ前記バッテリが過放電状態である場合、又は前記パワープラントトルクに対する要求値が前記中央値より小さくかつ前記バッテリが過充電状態である場合、前記火花点火燃焼モードで前記内燃機関を運転することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−226396(P2011−226396A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97360(P2010−97360)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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