説明

車両の制御装置

【課題】摩擦係合要素状態のばらつきに拘らず、駆動源回転数の吹け上がりを抑制することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両の制御装置は、駆動源制御手段(図11)により、駆動源(エンジン)1からの出力トルクを制御するトルク指令値を、伝達容量検出手段(CL1ストロークセンサ)16により検出された摩擦係合要素(第1クラッチ)4における伝達トルク容量を超えない値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源と駆動輪の間のトルク伝達を断接する摩擦係合要素を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源と駆動輪の間に介装され、駆動源と駆動輪との間のトルク伝達を断接する摩擦係合要素を備え、この摩擦係合要素の押し付け荷重が、摩擦係合要素におけるトルク伝達を開始する荷重よりも小さいときに、駆動源トルクの上限値を所定値に設定する車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-24646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両の制御装置にあっては、摩擦係合要素の状態によっては、駆動源トルクが摩擦係合要素の伝達トルク容量を上回り、駆動源回転数が吹け上がってしまうことがあった。
すなわち、摩擦係合要素における実際の伝達トルク容量は、摩擦係合要素の温度や劣化状態、固体ばらつき等によって、指令値が同じであっても異なってしまう。そのため、駆動源回転数の吹け上がりを抑制するために、駆動源トルクの上限値を一律に設定しても、摩擦係合要素状態によっては、駆動源回転数が吹け上がってしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、摩擦係合要素状態のばらつきに拘らず、駆動源回転数の吹け上がりを抑制することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両の制御装置では、駆動源と、摩擦係合要素と、伝達容量検出手段と、駆動源制御手段と、を備える構成とした。
前記摩擦係合要素は、前記駆動源から駆動輪への駆動系に設けられ、前記駆動源と前記駆動輪との間のトルク伝達を断接する。
前記伝達容量検出手段は、前記摩擦係合要素における伝達トルク容量を検出する。
前記駆動源制御手段は、前記駆動源からの出力トルクを制御するトルク指令値を、前記伝達容量検出手段により検出された前記伝達トルク容量を超えない値に設定する。
【発明の効果】
【0007】
よって、駆動源制御手段により、駆動源からの出力トルクを制御するトルク指令値は、伝達容量検出手段により検出された摩擦係合要素における伝達トルク容量を超えない値に設定される。
すなわち、摩擦係合要素における伝達トルク容量に応じて駆動源へのトルク指令値が設定される。これにより、摩擦係合要素の状態によって伝達トルク容量がばらついても、駆動源からの出力トルクが摩擦係合要素の伝達トルク容量を超えることはない。この結果、駆動源回転数の吹け上がりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレインを示すパワートレイン構成図である。
【図2】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。
【図3】実施例1の統合コントローラを示す演算ブロック図である。
【図4】実施例1の制御装置で用いられるマップ図であり、(a)は目標定常トルクマップを示し、(b)はMGアシストトルクマップを示す。
【図5】実施例1の制御装置で用いられるモードマップ選択部の選択ロジックを表す概略図である。
【図6】実施例1の制御装置で用いられるモードマップのうち、通常モードマップを示す。
【図7】実施例1の制御装置で用いられるモードマップのうち、MWSC対応モードマップを示す。
【図8】実施例1の制御装置で用いられるバッテリSOCに対する走行中発電要求出力を示す特性図である。
【図9】実施例1の制御装置で用いられるエンジンの最適燃費線を示す特性図である。
【図10】実施例1の自動変速機における変速線の一例を示す変速マップ図である。
【図11】実施例1の動作点指令部が有する目標エンジントルク演算ブロック図である。
【図12】(a)は、WSCモードにおけるエンジン回転数・モータジェネレータ回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比の特性を示す図であり、(b)は、MWSCモードにおけるエンジン回転数・モータジェネレータ回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比の特性を示す図である。
【図13】MWSC→WSCモード遷移時における走行モード・Eng回転数・目標MG回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比・Engトルク指令値・CL1トルク指令値の各特性を示す図である。
【図14】比較例のモード遷移制御の課題を説明するためのタイムチャートである。
【図15】実施例1の制御装置を適用した場合のMWSC→WSCモード遷移時における走行モード・Eng回転数・目標MG回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比・Engトルク指令値・Eng実トルク・CL1トルク指令値・CL1実トルクの各特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレインを示すパワートレイン構成図である。以下、図1に基づきパワートレイン構成を説明する。
【0011】
実施例1のハイブリッド車両のパワートレインは、図1に示すように、エンジン(駆動源)1と、モータジェネレータ2と、自動変速機3と、第1クラッチ(摩擦係合要素)4と、第2クラッチ5と、ディファレンシャルギア6と、タイヤ(駆動輪)7,7と、を備えている。この実施例1のハイブリッド車両は、エンジンと1モータ・2クラッチを備えたパワートレイン構成である。
【0012】
前記エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、ハイブリッド車両の駆動源となる。このエンジン1は、出力軸とモータジェネレータ(略称MG)2の入力軸とが、第1クラッチ(略称CL1)4を介して連結される。
【0013】
前記第1クラッチ4は、エンジン1とモータジェネレータ2の間に介装され、エンジン1とタイヤ7,7との間のトルク伝達を断接する。この第1クラッチ4は、締結油圧により駆動して伝達トルク容量を可変する油圧クラッチである。この第1クラッチ4としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力を保ち、ピストンを有する油圧アクチュエータを用いたストローク制御により完全締結〜スリップ締結〜完全解放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0014】
前記モータジェネレータ2は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータであり、その出力軸と自動変速機(略称AT)3の入力軸とが連結される。
【0015】
前記第2クラッチ5は、モータジェネレータ2とタイヤ7,7の間に介装され、モータジェネレータ2とタイヤ7,7との間のトルク伝達を断絶するクラッチであり、締結油圧により駆動して伝達トルク容量を可変する。この第2クラッチ5としては、例えば、比例ソレノイドで油流量及び油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。
【0016】
前記自動変速機3は、有段の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機であり、その出力軸にディファレンシャルギア6を介してタイヤ7,7が連結される。なお、実施例1では、前記第2クラッチ5として、自動変速機3とは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機3の各変速段にて締結される複数の摩擦係合要素のうち、所定の条件に適合する摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)を選択している。
【0017】
前記自動変速機3の入力軸には、この入力軸により駆動される機械式オイルポンプ8が設けられている。そして、車両停止時等で機械式オイルポンプ8からの吐出圧が不足するとき、油圧低下を抑えるために電動モータにより駆動される電動サブオイルポンプ9がモータハウジング等に設けられている。
【0018】
さらに、このパワートレインには、エンジン1の出力回転数を検出するエンジン回転センサ10と、モータジェネレータ2の入力回転数を検出するMG回転センサ11と、自動変速機3の入力軸回転数を検出するAT入力回転センサ12と、自動変速機3の出力軸回転数を検出するAT出力回転センサ13と、が設けられる。
【0019】
そして、このハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という)と、エンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSCモード」という)と、を有する。
【0020】
前記「EVモード」は、第1クラッチ4を解放状態とし、モータジェネレータ2の駆動力のみで走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EVモード」は、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0021】
前記「HEVモード」は、第1クラッチ4を締結状態として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、いずれかのモードにより走行する。なお、モータアシスト走行モードは、エンジン1とモータジェネレータ2の2つを駆動源として走行する。発電走行モードは、エンジン1を駆動源として走行すると同時に、エンジン1の動力を利用してモータジェネレータ2を発電機として動作させる。エンジン走行モードは、エンジン1の駆動力のみで走行する。この「HEVモード」は、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0022】
前記「WSCモード」は、第1クラッチ4の締結状態で、モータジェネレータ2の回転数制御により第2クラッチ5をスリップ締結させて走行するモードである。このとき、第2クラッチ5を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態や運転者操作に応じて決まる要求駆動トルクになるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら走行する。この「WSCモード」は、「HEVモード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域において選択される。また、「WSCモード」では、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときであってもクリープ走行が達成可能である。
【0023】
さらに、路面勾配が所定値以上における上り坂等で、運転者がアクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールド(ストール停車状態)が行われるような場合、WSCモードでは、第2クラッチ5のスリップ量の過多状態が継続されるおそれがある。エンジン1の回転数をアイドル回転数以下にすることができないからである。そこで、実施例1のハイブリッド車両では、エンジン1を作動させたまま第1クラッチ4を解放し、モータジェネレータ2の回転数制御により第2クラッチ5をスリップ締結させて走行するモータスリップ走行モード(以下、「MWSCモード」という)を有する。この「MWSCモード」では、モータジェネレータ2のみを駆動源として走行し、モータジェネレータ2の回転数をエンジン1のアイドル回転数よりも低い回転数に設定する。このとき、エンジン1は、アイドル回転数を目標回転数とするフィードバッグ制御に切り替える。
【0024】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。以下、図2に基づいて制御システム構成を説明する。
【0025】
実施例1の制御システムは、図2に示すように、統合コントローラ30と、エンジンコントローラ31と、モータコントローラ32と、サブポンプコントローラ33と、インバータ34と、バッテリ35と、CL1用ソレノイドバルブ14と、CL2用ソレノイドバルブ15と、CL1用ストロークセンサ(伝達容量検出手段)16と、アクセル開度センサ17と、Gセンサ18と、車輪速センサ19と、電圧センサ20と、電流センサ21と、を備えている。
【0026】
前記統合コントローラ30は、パワートレイン系の動作点を統合制御する。この統合コントローラ30では、アクセル開度APOと車速VSP(自動変速機出力軸回転数に比例)とバッテリ充電状態SOC(バッテリ出力電圧及び出力電流から換算)と、に応じて、運転者が望む駆動力を実現できる走行モードを設定する。そして、エンジンコントローラ31に目標エンジントルクを指令し、モータコントローラ32に目標MGトルクもしくは目標MG回転数を指令し、サブポンプコントローラ33に所定の駆動信号を指令し、CL1用ソレノイドバルブ14及びCL2用ソレノイドバルブ15に所定の駆動信号を指令する。
【0027】
前記エンジンコントローラ31は、エンジン1を制御する。前記モータコントローラ32は、モータジェネレータ2を制御する。前記サブポンプコントローラ33は、電動サブオイルポンプ9を駆動する電動モータを制御する。前記インバータ34は、モータジェネレータ2及び上記電動モータを駆動する。前記バッテリ35は、電気エネルギーを蓄える。
【0028】
さらに、前記CL1用ソレノイドバルブ14は、第1クラッチ4の締結油圧を制御する。前記CL2用ソレノイドバルブ15は、第2クラッチ5の締結油圧を制御する。前記CL1用ストロークセンサ16は、第1クラッチ4の油圧アクチュエータによって駆動するピストンのストローク量(クラッチストローク量)を検出する。前記アクセル開度センサ17は、アクセル開度(APO)を検出する。前記Gセンサ18は、車両に作用する前後加速度を検出する。前記車輪速センサ19は、4輪の各車輪速を検出する。前記電圧センサ20は、バッテリ35からの出力電圧を検出する。前記電流センサ21は、バッテリ35からの出力電流を検出する。
【0029】
図3は、実施例1の統合コントローラを示す演算ブロック図である。以下、図3に基づいて統合コントローラの構成を説明する。
【0030】
前記統合コントローラ30は、図3に示すように、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標発電出力演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を備えている。
【0031】
前記目標駆動トルク演算部100は、図4(a)に示す目標定常トルクマップと、図4(b)に示すMGアシストトルクマップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、目標定常トルクとMGアシストトルクを算出する。
【0032】
前記モード選択部200は、路面勾配推定部201と、モードマップ選択部202と、を有し、選択されたモードマップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、走行モードを演算する。
【0033】
前記路面勾配推定部201は、Gセンサ18の検出値と、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から演算した実加速度との偏差から路面勾配を推定する。前記モードマップ選択部202は、路面勾配推定部201により推定された路面勾配に基づいて、所定のモードマップを選択する。このモードマップとしては、通常モードマップと、MWSC対応モードマップと、を有する。
【0034】
図5は、モードマップ選択部の選択ロジックを表す概略図である。図6は、通常モードマップを示し、図7は、MWSC対応モードマップを示す。
【0035】
前記モードマップ選択部202は、通常モードマップ(図6)が選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、MWSC対応モードマップに選択を切り替える。一方、MWSC対応モードマップ(図7)が選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに選択を切り替える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切替時の制御ハンチングを防止する。
【0036】
前記通常モードマップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EVモード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線と、運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」と「WSCモード」を切り替えるHEV⇔WSC切替線と、が設定されている。
【0037】
ここで、前記EV⇒HEV切替線と前記HEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。但し、「EVモード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0038】
また、前記HEV⇔WSC切替線は、自動変速機3が1速段のときに、エンジン1がアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定されている。但し、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、第1設定車速VSP1よりも高い第2設定車速VSP1´領域までWSC領域が設定されている。
すなわち、アクセル開度APOが大きいときの要求を、アイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引上げてより大きなトルクを出力させれば、例え第1設定車速VSP1よりも高い車速まで「WSCモード」であっても、短時間で「WSCモード」から「HEVモード」に移行することができる。この場合が図6に示す第2設定車速VSP1´まで広げられたWSC領域である。
【0039】
前記MWSC対応モードマップは、EV領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。このMWSCモードマップには、運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」と「WSCモード」を切り替えるHEV⇔WSC切替線と、運転点(APO,VSP)が横切ると「WSCモード」と「MWSCモード」を切り替えるWSC⇔MWSC切替線と、が設定されている。
【0040】
ここで、WSC領域は、アクセル開度APOに拘らず領域を変更せず、HEV⇔WSC切替線は、第1設定車速VSP1に沿って設定されている。また、MWSC領域は、WSC領域内に設定されており、第1設定車速VSP1よりも低い第3設定車速VSP2と、所定アクセル開度APO1よりも高いアクセル開度APO2とで囲まれた領域となっている。なお、「MWSCモード」の詳細については後述する。
【0041】
前記目標発電出力演算部300は、図8に示す走行中発電要求出力マップを用いて、バッテリSOCから目標発電出力を演算する。また、現在の動作点から図9で示す最適燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、前記目標発電出力と比較して少ない出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0042】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと目標定常トルク,MGアシストトルクと目標モードと車速VSPと要求発電出力とを入力する。そして、これらの入力情報を動作点到達目標として、過渡的な目標MGトルクと目標CL2トルク容量と目標変速比とCL1ソレノイド電流指令を演算する。さらに、この動作点指令部400は、図11に示す目標エンジントルク演算ブロック(駆動源制御手段)を有し、目標エンジントルクを演算する。
【0043】
前記変速制御部500は、目標CL2トルク容量と目標変速比とから、これらを達成するように自動変速機3内のソレノイドバルブを駆動制御する。図10に変速制御で用いられる変速線マップの一例を示す。車速VSPとアクセル開度APOから現在の変速段から次変速段をいくつにするか判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御して変速させる。
【0044】
図11は、実施例1の動作点指令部が有する目標エンジントルク演算ブロック図(駆動源制御手段)である。
【0045】
前記動作点指令部400は、図11に示すように、ベース目標トルク演算部401と、位相進み補償器402と、ストローク→トルク変換部403と、トルク上限設定部404と、を備えている。
【0046】
前記ベース目標トルク演算部401は、目標定常トルク,MGアシストトルクと目標モードから、エンジン1へ出力するトルク指令値であるベース目標エンジントルクを演算する。このベース目標エンジントルクは、第1クラッチ4における伝達トルク容量に拘らず設定される値である。
【0047】
前記位相進み補償器402は、CL1用ストロークセンサ16によって検出された第1クラッチ4のピストンストローク量の位相をエンジン1の応答遅れ分進ませ、位相進み後ストロークを演算する。
【0048】
前記ストローク→トルク変換部403は、ストローク−トルク変換マップを用いて、位相進み補償器402によって求められた位相進み後ストロークから、第1クラッチ4における伝達トルク容量を演算する。なお、このストローク→トルク変換部403によって求められた伝達トルク容量の位相は、位相進み後ストロークに基づいて求められるため、エンジン応答遅れ分進んだものとなる。
【0049】
前記トルク上限設定部404は、ストローク→トルク変換部403によって求められた第1クラッチ4における位相進み後伝達トルク容量に合わせて、ベース目標エンジントルクに上限値を設定し、目標エンジントルクとして出力する。すなわち、出力する目標エンジントルクは、第1クラッチ4における位相進み後伝達トルク容量を超えない値に設定される。
【0050】
次に、作用を説明する。
まず、「WSCモードとMWSCモードについて」、「比較例のモード遷移制御の課題」の説明を行い、続いて、実施例1の車両の制御装置における「エンジントルク指令制御作用」を説明する。
【0051】
[WSCモードとMWSCモードについて]
図12(a)は、WSCモードにおけるエンジン回転数・モータジェネレータ回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比の特性を示す図であり、(b)は、MWSCモードにおけるエンジン回転数・モータジェネレータ回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比の特性を示す図である。図13は、MWSC→WSCモード遷移時における走行モード・Eng回転数・目標MG回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比・Engトルク指令値・CL1トルク指令値の各特性を示す図である。
【0052】
「WSCモード」とは、エンジン1が作動している状態に特徴があり、要求駆動力変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチ4を完全締結し、第2クラッチ5を要求駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジン1及びモータジェネレータ2の駆動力を用いて走行する。
【0053】
ここで、実施例1に示すようなハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しない。そのため、図12(a)に示すように、エンジン1の出力回転数(Eng回転数)とモータジェネレータ2の出力回転数(MG回転数)は一致する。一方、自動変速機3の出力軸に変速ギヤ比(ここでは1速ギヤ比)を積算した値(=駆動輪回転数相当値)は、第2クラッチ5における伝達トルク容量に応じて変化する。
【0054】
このとき、エンジン1には自立回転を維持するためのアイドリング回転数による下限値が存在する。すなわち、Eng回転数及びMG回転数は、上記下限値以下に設定することができない。そのため、この下限値に相当する車速よりも低車速領域とするためには、第2クラッチ5のスリップ量ΔCL2が大きくなる。
【0055】
一方、路面勾配が大きい勾配路において、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態又は微速発進状態に維持しようとすると、平坦路と比べて大きな駆動力が要求される。すなわち、第2クラッチ5における伝達トルク容量は、平坦路の場合よりも大きくなる。このとき「WSCモード」であると、第2クラッチ5は強い締結力でのスリップ状態を継続することになり、発熱量が過剰になってクラッチ耐久性の低下を招くことが考えられる。また、車速の上昇もゆっくりになることから、「HEVモード」への移行までに時間がかかり、さらに発熱するおそれがある。
【0056】
そこで、このような場合には、エンジン1を作動させたまま第1クラッチ4を解放し、第2クラッチ5の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータ2の回転数を第2クラッチ5の出力回転数よりも所定回転数高い回転数に制御する「MWSCモード」を設定する。
【0057】
言い換えると、この「MWSCモード」では、エンジン1とモータジェネレータ2が切り離されているため、それぞれ異なる回転数に設定することができる。そのため、モータジェネレータ2の回転数を、エンジン1の回転数(=アイドル回転数)よりも低い回転数としつつ第2クラッチ5のスリップ制御を行う(図12(b)参照)。
【0058】
この場合、エンジン1が作動状態であるために、モータジェネレータ2にエンジンクランキング分の余剰トルクを残しておく必要がなく、モータジェネレータ2の駆動トルク上限値を引上げることができる。また、第2クラッチ5のスリップ量ΔCL2が小さくなり、第2クラッチ5の発熱量を抑えてクラッチ耐久性を向上することができる。
【0059】
そして、例えば「MWSCモード」中に、アクセル踏込み動作があって「WSCモード」へのモード遷移指令が出力されたとする(図13に示すタイムチャートにおいて時刻t0)。
【0060】
このモード遷移指令の出力に伴って、走行モードが「MWSCモード」から「遷移状態」に移行する。これにより、モータジェネレータ2に出力する回転数指令値である目標MG回転数は、モータジェネレータ2の入力回転数をアイドル回転しているエンジン1の出力回転数(Eng回転数)に一致させるため、自動変速機出力軸回転数に変速ギヤ比(ここでは1速ギヤ比)を積算した値の上昇率よりも高い上昇率で、上昇し始める。
【0061】
時刻t1において、Eng回転数と目標MG回転数との回転数差ΔCL1が所定値に達すると、第1クラッチ4が締結するように、CL1用ソレノイドバルブ14に入力するCL1トルク指令値が出力される。なお、「CL1トルク指令値」とは、第1クラッチ4における伝達トルク容量の目標値である。
【0062】
一方、第1クラッチ4が締結すると、エンジン1とモータジェネレータ2が直結状態になるため、エンジン1に作用する負荷が増加する。そのため、時刻t1において、エンジンコントローラ31に対してEngトルク指令値が出力される。なお、「Engトルク指令値」とは、エンジン1から出力するエンジントルクの目標値(目標エンジントルク)である。このEngトルク指令値は、所定時間Δt後にCL1トルク指令値と一致するように制御される。
【0063】
時刻t2において、Eng回転数と目標MG回転数との回転数差ΔCL1が所定値以下になり、第1クラッチ4を締結したと判断されると、走行モードは「遷移状態」から「WSCモード」に移行する。これにより、CL1トルク指令値は、第1クラッチ4の締結状態を維持するために上昇する。ここで、Engトルク指令値は上昇せず、CL1トルク指令値よりも小さい値に設定される。
【0064】
[比較例のモード遷移制御の課題]
図14は、比較例のモード遷移制御の課題を説明するためのタイムチャートである。
【0065】
次に、「MWSCモード」から「WSCモード」へのモード遷移時に、例えば第1クラッチ4を駆動する作動油(ATF)の温度が低温(ここではゼロ度)であった場合を考える。このとき、作動油温が低温であるため、第1クラッチ4の応答が非常に遅くなり、指令値の変動に対して実際値は非常に遅れて変化する。
【0066】
すなわち、図14に示すように、時刻t4において、Eng回転数と目標MG回転数との回転数差ΔCL1が所定値に達したことで、第1クラッチ4が締結するようにCL1トルク指令値が出力されても、第1クラッチ4における実際の伝達トルク容量(CL1実トルク)は、所定時間遅れた時刻t4´から生じ、その後非常に緩やかに増加していく。
【0067】
一方、Engトルク指令値は、CL1トルク指令値が出力されたことで、エンジン1とモータジェネレータ2が直結状態になってエンジン1に作用する負荷が増加するとして、時刻t4において出力され、所定時間Δt後にCL1トルク指令値と一致するように制御される。
【0068】
しかしながら、この所定時間Δt後におけるCL1実トルクは、クラッチ応答が遅いために想定した値よりも小さい値(ここではゼロ)である。そのため、エンジン1に実際に作用する負荷は非常に小さくなる。そしてこのように、第1クラッチ4が締結されることで、エンジン負荷が大きくなることを前提としてEngトルク指令値を出力すると、エンジン1の出力回転数が吹け上がってしまう(図14においてA部)。
【0069】
さらに、第1クラッチ4における応答の違いは、作動油温の違いだけに依存するものではない。作動油(ATF)の劣化状態、クラッチ自体の温度や劣化状態、さらにはクラッチ固体の精度のばらつき等によっても異なる。そのため、例えEngトルク指令値の上限値を一律に設定した場合であっても、第1クラッチ4の状態によってエンジン出力回転数が吹け上がってしまうという問題があった。
【0070】
[エンジントルク指令制御作用]
図15は、実施例1の制御装置を適用した場合のMWSC→WSCモード遷移時における走行モード・Eng回転数・目標MG回転数・出力軸回転数×1速ギヤ比・Engトルク指令値・Eng実トルク・CL1トルク指令値・CL1実トルクの各特性を示す図である。
【0071】
実施例1の車両の制御装置を適用したハイブリッド車両において、第1クラッチ4を駆動する作動油(ATF)の温度が低温であるときに、「MWSCモード」から「WSCモード」へモード遷移する場合を考える。
【0072】
時刻t6において、「MWSCモード」から「WSCモード」へのモード遷移指令が出力されると、走行モードが「MWSCモード」から「遷移状態」に移行すると同時に、目標MG回転数は、Eng回転数に一致するため、自動変速機出力軸回転数に変速ギヤ比(ここでは1速ギヤ比)を積算した値の上昇率よりも高い上昇率での上昇を始める。
【0073】
時刻t7において、Eng回転数と目標MG回転数との回転数差ΔCL1が所定値に達すると、第1クラッチ4が締結するようにCL1トルク指令値が出力される。
【0074】
このとき、作動油温が低いために第1クラッチ4の応答が悪く、CL1用ストロークセンサ16によって検出されるピストンストロークから求められる第1クラッチ4における実際の伝達トルク容量(CL1実トルク)はゼロである。
【0075】
そのため、エンジン1に作用する負荷はないとして、CL1実トルクに合わせてEngトルクトルク指令値を低く設定する。すなわち、Engトルク指令値がCL1実トルクを超えない値に設定する。しかしながら、ここでは、エンジン1の応答遅れを考慮し、第1クラッチ4における実際の伝達トルク容量の位相(CL1実ストローク位相)が、エンジン1の応答遅れ分進んでいると考える。そして、この位相進み後ストロークに基づいてEngトルク指令値を演算する。これにより、Engトルク指令値は、エンジン1の応答遅れ分位相が進んで出力される。つまり、Engトルク指令値は、エンジン1の応答遅れ時間分早めて出力される。
【0076】
そして、エンジン応答遅れ時間経過後の時刻t7´において、エンジン1から実際にトルク(Eng実トルク)が出力される。このとき、Engトルク指令値がCL1実トルクを超えない値に設定されているため、Eng実トルクがCL1実トルクを超えることはない。これにより、エンジン1の回転数が吹け上がることはなく、任意の回転数を維持することができる。さらに、エンジン1の応答遅れを考慮し、Engトルク指令値の位相を進ませることで、エンジン1からの出力トルクが応答するまでの間、エンジン回転数の低下を抑制することができる。すなわち、エンジン回転数の引き込みを防止することができる。
【0077】
また、実施例1の車両の制御装置では、ストローク→トルク変換部403により、第1クラッチ4のクラッチストローク量であるピストンのストローク量に基づいて、第1クラッチ4における伝達トルク容量を求めている。そのため、伝達トルク容量の検出精度を向上でき、第1クラッチ4の固体ばらつきや経年劣化、温度条件等による伝達トルク容量のばらつきに左右されることなく、エンジン1の回転数上昇をさらに精度よく抑制することができる。
【0078】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0079】
(1) 駆動源(エンジン)1と、前記駆動源1から駆動輪(タイヤ)7,7への駆動系に設けられ、前記駆動源1と前記駆動輪7,7との間のトルク伝達を断接する摩擦係合要素(第1クラッチ)4と、前記摩擦係合要素4における伝達トルク容量を検出する伝達容量検出手段(CL1用ストロークセンサ)16と、前記駆動源1からの出力トルクを制御するトルク指令値(エンジントルク指令値)を、前記伝達容量検出手段16により検出された前記伝達トルク容量を越えない値に設定する駆動源制御手段(目標エンジントルク演算ブロック)と、を備える構成とした。
このため、摩擦係合要素状態のばらつきに拘らず、駆動源回転数の吹け上がりを抑制することができる。
【0080】
(2) 前記摩擦係合要素(第1クラッチ)4は、油圧により駆動して前記伝達トルク容量を可変する油圧クラッチ(乾式単板クラッチ)であり、前記伝達容量検出手段(CL1用ストロークセンサ)16は、前記油圧クラッチ(乾式単板クラッチ)のクラッチストローク量に基づいて、前記伝達トルク容量を検出する構成とした。
このため、(1)の効果に加え、摩擦係合要素における伝達トルク容量の検出精度を高めることができ、さらに精度良く駆動源回転数の吹け上がりを抑えることができる。
【0081】
(3) 前記駆動源制御手段(目標エンジントルク演算ブロック)は、前記トルク指令値の位相を、前記駆動源(エンジン)1の応答遅れ分進ませて出力する構成とした。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、摩擦係合要素における伝達トルク容量に基づいて設定した駆動源のトルク指令値に対して、駆動源が応答するまでの間に生じる駆動源回転数の低下を抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0083】
実施例1では、ハイブリッド車両の例を挙げ、駆動源としてエンジン1とし、摩擦係合要素として第1クラッチ4としている。しかしながら、摩擦係合要素と駆動輪の間のシステム(実施例1では、モータジェネレータ2、第2クラッチ5、自動変速機3)は、本実施例に限定されない。他の動力源の有無やクラッチ、変速機の有無も問わず、適宜採用することができる。また、駆動源はエンジン1に限らず、電動モータ、内燃機関、その他の動力源のいずれであってもよい。また、エンジン及びモータジェネレータを駆動源として併用したものであってもよい。要するに、車両走行のための駆動源と、その駆動源と駆動輪との間のトルク伝達を断接する摩擦係合要素を有する車両であれば、本発明を適用することができる。
【0084】
さらに、実施例1では、摩擦係合要素である第1クラッチ4として、ノーマルクローズの乾式単板クラッチを用いた例を挙げたが、これに限らない。湿式多板クラッチであってもよいし、電磁クラッチ、遠心クラッチ等であってもよい。要するに、伝達トルク容量を可変できれば、本発明の摩擦係合要素として適用することができる。
【0085】
また、実施例1では、MWSCモードからWSCモードへのモード遷移時におけるエンジントルク制御について説明しているが、例えば、ハイブリッド車両においてエンジンを始動して車両を発進させるシーンであっても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 エンジン(駆動源)
2 モータジェネレータ
3 自動変速機
4 第1クラッチ(摩擦係合要素)
5 第2クラッチ
7,7 タイヤ(駆動輪)
16 CL1用ストロークセンサ(伝達容量検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源から駆動輪への駆動系に設けられ、前記駆動源と前記駆動輪との間のトルク伝達を断接する摩擦係合要素と、
前記摩擦係合要素における伝達トルク容量を検出する伝達容量検出手段と、
前記駆動源からの出力トルクを制御するトルク指令値を、前記伝達容量検出手段により検出された前記伝達トルク容量を超えない値に設定する駆動源制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の制御装置において、
前記摩擦係合要素は、油圧により駆動して前記伝達トルク容量を可変する油圧クラッチであり、
前記伝達容量検出手段は、前記油圧クラッチのクラッチストローク量に基づいて、前記伝達トルク容量を検出することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された車両の制御装置において、
前記駆動源制御手段は、前記トルク指令値の位相を、前記駆動源の応答遅れ分進ませて出力することを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−87714(P2012−87714A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236219(P2010−236219)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】