説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両の動力伝達制御装置において、変速作動終了後にて内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との回転速度差が生じた状態でクラッチ機構が接合状態へ切り替えられた場合におけるドライバビリティの悪化の抑制。
【解決手段】変速機入力軸と電動機出力軸との間で動力伝達系統が形成される「IN接続状態」、変速機出力軸と電動機出力軸との間で動力伝達系統が形成される「OUT接続状態」、及び、いずれの間にも動力伝達系統が形成されない「ニュートラル状態」の何れかの状態が選択可能な切替機構が備えられる。変速作動の終了後にクラッチが接合状態へ切り替えられる際、前記回転速度差の存在によりクラッチが半接合状態を経て完全接合状態に移行する場合、半接合状態の期間(t3〜t4)にて、変速機入力軸が受ける「内燃機関出力軸の回転に関する慣性トルク」を考慮して、電動機側駆動トルクTmが調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、動力源として内燃機関と電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。ハイブリッド車両では、電動機が、内燃機関と協働又は単独で、車両を駆動する駆動トルクを発生する動力源として、或いは、内燃機関を始動するための動力源として使用される。加えて、電動機が、車両を制動する回生トルクを発生する発電機として、或いは、車両のバッテリに供給・貯留される電気エネルギを発生する発電機として使用される。このように電動機を使用することで、車両全体としての総合的なエネルギ効率(燃費)を良くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、ハイブリッド車両では、電動機の出力軸と変速機の入力軸との間で動力伝達系統が形成される接続状態(以下、「IN接続状態」と称呼する。)が採用される場合と、電動機の出力軸と変速機の出力軸(従って、駆動輪)との間で変速機を介することなく動力伝達系統が形成される接続状態(以下、「OUT接続状態」と称呼する。)が採用される場合と、がある。
【0005】
IN接続状態では、変速機の変速段を変更することで、車両速度に対する電動機の出力軸の回転速度を変更することができる。従って、変速機の変速段を調整することで、電動機の出力軸の回転速度をエネルギ変換効率(より具体的には、駆動トルク、回生トルク等の発生効率)が良好となる範囲内に維持し易いというメリットがある。
【0006】
一方、OUT接続状態では、動力伝達系統が複雑な機構を有する変速機を介さないことから、動力の伝達損失を小さくできるというメリットがある。また、変速機(特に、トルクコンバータを備えない形式の変速機)では、通常、変速作動中(変速段を切り替える作動中)において、変速機の入力軸から出力軸への動力の伝達が一時的に遮断される場合が多い。この結果、車両前後方向の加速度の急激な変化(所謂変速ショック)が発生し易い。このような変速作動中においても、OUT接続状態では、電動機の駆動トルクを変速機の出力軸(従って、駆動輪)へ連続して出力し続けることができ、変速ショックを低減できるというメリットもある。以下、この効果を「OUT接続状態での変速ショック低減効果」と呼ぶ。
【0007】
以上のことに鑑み、本出願人は、特願2007−271556号において、電動機の出力軸の接続状態(以下、単に「電動機接続状態」とも称呼する。)をIN接続状態とOUT接続状態とに切り替え可能な切替機構について既に提案している。この切替機構では、電動機の出力軸と変速機の入力軸との間も電動機の出力軸と変速機の出力軸との間も動力伝達系統が形成されない接続状態(以下、「非接続状態」と称呼する。)も選択され得る。
【0008】
ところで、上述のハイブリッド車両に適用される動力伝達制御装置において、内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との間に、両軸間で動力を伝達する接合状態と動力を伝達しない遮断状態とに調整可能なクラッチ機構が介装されたものを考える。この装置では、変速作動中にてクラッチ機構が遮断状態に維持され、変速作動の終了後、クラッチ機構が接合状態に切り替えられる。
【0009】
ここで、内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との回転速度差が生じている状態でクラッチ機構が接合状態へ切り替えられた場合、クラッチ機構は、半接合状態を経て完全接合状態に移行する。ここで、半接合状態とは、接合状態であって且つ内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との回転速度差が生じている状態を指し、完全接合状態とは、接合状態であって且つ内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との回転速度が一致している状態を指す。
【0010】
係る半接合状態の期間では、内燃機関の出力軸が、前記回転速度差が減少する方向のトルクを受けることで内燃機関の出力軸の回転速度が変化する。この内燃機関の出力軸の回転速度の変化に起因して、変速機の入力軸は、内燃機関の出力軸の駆動トルクのみならず、内燃機関の出力軸の回転に関する慣性トルク(以下、単に「慣性トルク」とも呼ぶ。)を受ける。
【0011】
具体的には、内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも大きい場合、内燃機関の出力軸が減速方向のトルクを受けることで内燃機関の出力軸の回転速度が減少する。この結果、変速機の入力軸は、クラッチ機構を介して、内燃機関の出力軸の駆動トルクに加えて、加速方向の慣性トルクを受ける。従って、半接合状態の期間において、この慣性トルクを考慮せずに電動機側駆動トルクを決定すると、車両において加速方向のショックが発生し、ドライバビリティが悪化するという問題が発生し得る。
【0012】
同様に、内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも小さい場合、内燃機関の出力軸が加速方向のトルクを受けることで内燃機関の出力軸の回転速度が増大する。この結果、変速機の入力軸は、クラッチ機構を介して、内燃機関の出力軸の駆動トルクに加えて、減速方向の慣性トルクを受ける。従って、半接合状態の期間において、この慣性トルクを考慮せずに電動機側駆動トルクを決定すると、車両において減速方向のショックが発生し、ドライバビリティが悪化するという問題が発生し得る。
【0013】
本発明の目的は、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、変速作動終了後にて内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との回転速度差が生じている状態でクラッチ機構が接合状態へ切り替えられた場合においてドライバビリティの悪化を抑制できるものを提供することにある。
【0014】
本発明による車両の動力伝達制御装置は、変速機と、クラッチ機構と、制御手段と、を備える。以下、順に説明していく。
【0015】
前記変速機は、前記内燃機関の出力軸との間で動力伝達系統が形成される入力軸と、前記車両の駆動輪との間で動力伝達系統が形成される出力軸とを備えている。変速機は、変速機の出力軸の回転速度に対する変速機の入力軸の回転速度の割合(変速機減速比)を調整可能に構成されている。前記変速機の入力軸と前記電動機の出力軸との間で動力伝達系統が形成され、又は、前記変速機の出力軸と前記電動機の出力軸との間で前記変速機を介することなく動力伝達系統が形成されている。即ち、IN接続状態かOUT接続状態の何れかが達成されている。
【0016】
前記変速機は、前記変速機減速比として予め定められた異なる複数の減速比を設定可能な多段変速機であっても、前記変速機減速比として減速比を連続的に(無段階に)調整可能な無段変速機であってもよい。また、前記変速機は、トルクコンバータを備えるとともに車両の走行状態に応じて変速作動が自動的に実行される多段変速機又は無段変速機(所謂オートマチックトランスミッション(AT))であっても、トルクコンバータを備えない多段変速機(所謂マニュアルトランスミッション(MT))であってもよい。MTの場合、運転者により操作されるシフトレバーの位置を示す信号に基づいてアクチュエータの駆動力により変速作動が実行される形式であっても、運転者によるシフトレバー操作によらず車両の走行状態に応じてアクチュエータの駆動力により変速作動が自動的に実行され得る形式(所謂、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション)であってもよい。
【0017】
前記クラッチ機構は、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装され、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達する接合状態と、前記動力を伝達しない遮断状態とに調整可能となっている。ここで、前記接合状態において、上述した「半接合状態」と「完全接合状態」とが存在する。
【0018】
前記制御手段は、前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関、前記電動機、前記変速機、及び前記クラッチ機構を制御する。具体的には、前記制御手段は、前記内燃機関及び前記電動機を制御して前記内燃機関の出力軸の駆動トルクに基づく前記変速機の出力軸に伝達されるトルク(内燃機関側駆動トルク)と前記電動機の出力軸の駆動トルクに基づく前記変速機の出力軸に伝達されるトルク(電動機側駆動トルク)とを調整する。前記制御手段は、前記変速機を制御して前記変速機減速比を変更する変速作動を行う。前記制御手段は、前記クラッチ機構を制御して前記変速作動中にて前記クラッチ機構を前記遮断状態に維持するとともに、前記変速作動の終了後にて前記クラッチ機構を前記接合状態に切り替える。
【0019】
本発明に係る動力伝達制御装置の特徴は、前記制御手段が、前記クラッチ機構の前記接合状態への切り替え後において、内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との回転速度差の存在により前記クラッチ機構が半接合状態を経て完全接合状態に移行する場合、前記半接合状態の期間において、前記内燃機関の出力軸が前記回転速度差が減少する方向のトルクを受けることによる前記内燃機関の出力軸の回転速度の変化に起因して前記変速機の入力軸が受ける前記内燃機関の出力軸の回転に関する慣性トルクを考慮して、前記電動機側駆動トルクを調整するように構成されたことにある。
【0020】
ここにおいて、前記半接合状態の期間において、前記電動機側駆動トルクの調整に利用される前記慣性トルクとして、前記内燃機関の出力軸の回転に関する慣性モーメントに、前記内燃機関の出力軸の角加速度(回転速度の時間微分値)を乗じて得られる値が使用される。「内燃機関の出力軸の回転に関する慣性モーメント」とは、内燃機関の出力軸の回転に伴って作動する(移動する、回転する)部材(ピストン、カムシャフト等)が全て考慮された状態での慣性モーメント(外部から内燃機関の出力軸にトルクを付与したことでその出力軸の角加速度が発生する場合における、角加速度の大きさに対するトルクの大きさの割合)である。
【0021】
具体的には、前記半接合状態の期間において、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも大きい場合(即ち、変速機の入力軸が加速方向の慣性トルクを受ける場合)には、前記慣性トルクに相当する分だけ前記電動機側駆動トルクを小さくし、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも小さい場合(即ち、変速機の入力軸が減速方向の慣性トルクを受ける場合)には、前記慣性トルクに相当する分だけ前記電動機側駆動トルクを大きくするように構成される。
【0022】
これによれば、半接合状態の期間において、慣性トルクが考慮されて電動機側駆動トルクが調整されることで、慣性トルクが相殺され得る。この結果、慣性トルクに起因する上述した車両のショックの発生が抑制されて、ドライバビリティの悪化が抑制され得る。
【0023】
以下、OUT接続状態が達成された状態で変速作動がなされる場合について説明する。この場合、前記制御手段は、前記車両の運転者による加速操作部材の操作に基づいて得られる前記運転者が要求する駆動トルク(要求トルク)を算出する算出手段を備え、前記制御手段は、前記変速作動中にて、前記電動機側駆動トルクを前記要求トルクと等しい値に調整するとともに、前記半接合状態の期間において、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも大きい場合には、前記電動機側駆動トルクを、前記要求トルクから「(前記内燃機関の出力軸の駆動トルクに前記慣性トルクを加えた値)に前記減速機減速比を乗じた値」を減じて得られる値に調整し、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも小さい場合には、前記電動機側駆動トルクを、前記要求トルクから「(前記内燃機関の出力軸の駆動トルクから前記慣性トルクを減じた値)に前記減速機減速比を乗じた値」を減じて得られる値に調整するように構成されることが好適である。
【0024】
ここにおいて、前記要求トルクは、前記変速機の出力軸についてのトルクである。また、前記制御手段は、通常(変速作動開始前において)、内燃機関側駆動トルクと電動機側駆動トルクの和(合計トルク)が要求トルクに一致するように、車両の走行状態に応じて内燃機関側駆動トルク及び電動機側駆動トルクを調整する。
【0025】
上記構成によれば、変速作動中にて、電動機側駆動トルクが要求トルクと等しい値に調整される。ここで、変速作動中では、クラッチ機構が遮断状態に維持されることで、内燃機関側駆動トルクがゼロに維持される。従って、合計トルク(=電動機側駆動トルク)が要求トルクと一致する状態が維持され得る。この結果、上述した「OUT接続状態での変速ショック低減効果」が発揮される。
【0026】
加えて、変速作動終了後の半接合状態の期間において、内燃機関の出力軸の駆動トルクが増大されていく際、内燃機関の出力軸の回転速度が変速機の入力軸の回転速度よりも大きい(小さい)場合には、内燃機関側駆動トルクが、「内燃機関の出力軸の駆動トルクに減速機減速比を乗じた値」に対して「慣性トルクに減速機減速比を乗じた値」だけ大きい(小さい)値で推移する。なお、このことは、クラッチ機構が伝達し得るトルクの最大値(クラッチトルク)が十分に大きい値(少なくとも、内燃機関の出力軸の駆動トルクと慣性トルクとの和よりも大きい値)に調整されていることを前提として成立する。
【0027】
従って、変速作動終了後の半接合状態の期間において、上述のように電動機側駆動トルクを調整することで、合計トルクが要求トルクと一致する状態が維持され得る。この結果、慣性トルクに起因する上述した車両のショックの発生が確実に抑制されて、ドライバビリティの悪化が確実に抑制され得る。
【0028】
ここで、OUT接続状態は、常時達成されていてもよい。或いは、電動機接続状態を、IN接続状態と、OUT接続続状態と、非接続状態とのうちで少なくともOUT接続状態を含む2以上の状態に切り替え可能な切替機構が備えられている場合、電動機接続状態がOUT接続状態に維持された状態で、変速作動が行われるように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した切替機構において切り替え可能な3状態を示した図である。
【図3】図1に示した装置が適用される場合において、OUT接続状態にて変速条件が成立した場合における、変速作動、並びに、種々のトルク・回転速度等の変化の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0031】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない多段変速機を使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッションを備えた車両に適用されている。
【0032】
この車両は、エンジン(E/G)10と、変速機(T/M)20と、クラッチ(C/T)30と、モータジェネレータ(M/G)40と、切替機構50とを備えている。E/G10は、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/G10の出力軸A1は、C/T30を介してT/M20の入力軸A2と接続されている。
【0033】
T/M20は、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の多段変速機の1つである。以下、前進用の変速段及び後進用の変速段を「走行用変速段」と称呼する。走行用変速段では、T/M20の入出力軸A2,A3の間で動力伝達系統が形成される。ニュートラル段では、T/M20の入出力軸A2,A3の間で動力伝達系統が形成されない。走行用変速段において、T/M20は、出力軸A3の回転速度に対する入力軸A2の回転速度の割合である変速機減速比Gtmを複数の段階の何れかに任意に設定可能となっている。T/M20では、変速段の切り替えは、T/Mアクチュエータ21を制御することでのみ実行される。
【0034】
C/T30は、周知の構成の1つ(例えば、クラッチストロークの調整により2枚のクラッチ板が当接・離間する構成)を備えていて、E/G10の出力軸A1とT/M20の入力軸A2との間で動力が伝達されない遮断状態、及び動力が伝達される接合状態に調整可能となっている。以下、説明の便宜上、接合状態において、E/G10の出力軸A1とT/M20の入力軸A2との回転が一致している状態を「完全接合状態」と呼び、一致していない状態を「半接合状態」と呼ぶ。この車両では、クラッチペダルは設けられていない。C/T30の状態は、C/Tアクチュエータ31によりクラッチストロークを調整することで制御されるようになっている。
【0035】
M/G40は、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)が出力軸A4と一体回転するようになっている。M/G40は、動力源としても発電機としても機能する。
【0036】
切替機構50は、M/G40の出力軸A4の接続状態を切り替える機構である。切替機構50は、M/G40の出力軸A4と一体回転する連結ピース51と、ギヤg1と一体回転する連結ピース52と、ギヤg3と一体回転する連結ピース53と、スリーブ54と、切替アクチュエータ55とを備える。ギヤg1は、T/M20の入力軸A2と一体回転するギヤg2と常時歯合し、ギヤg3は、T/M20の出力軸A3と一体回転するギヤg4と常時歯合している。
【0037】
スリーブ54は、M/G40の出力軸A4の軸線方向に同軸的に移動可能に配設されていて、切替アクチュエータ55によりその軸線方向の位置が制御されるようになっている。スリーブ54は、連結ピース51,52,53とスプライン嵌合可能となっている。
【0038】
スリーブ54が図2(a)に示すIN接続位置に制御される場合、スリーブ54は、連結ピース51,52とスプライン嵌合する。これにより、ギヤg1,g2を介してT/M20の入力軸A2とM/G40の出力軸A4との間で動力伝達系統が形成される。この状態を「IN接続状態」と呼ぶ。
【0039】
IN接続状態において、T/M20の入力軸A2の回転速度に対するM/G40の出力軸A4の回転速度の割合を「第1減速比G1」と呼び、第1減速比G1と変速機減速比Gtmとの積(G1・Gtm)を「IN接続減速比Gin」と呼ぶ。本例では、G1=(g2の歯数)/(g1の歯数)であるから、Gin=(g2の歯数)/(g1の歯数)・Gtmとなる。即ち、Ginは、T/M20の変速段の変化に応じて変化する。
【0040】
また、スリーブ54が図2(b)に示すOUT接続位置に制御される場合、スリーブ54は、連結ピース51,53とスプライン嵌合する。これにより、ギヤg3、g4を介してT/M20の出力軸A3とM/G40の出力軸A4との間でT/M20を介することなく動力伝達系統が形成される。この状態を「OUT接続状態」と呼ぶ。
【0041】
OUT接続状態において、T/M20の出力軸A3の回転速度に対するM/G40の出力軸A4の回転速度の割合を「OUT接続減速比Gout」と呼ぶ。本例では、Goutは、(g4の歯数)/(g3の歯数)で一定となる。即ち、Goutは、T/M20の変速段の変化に応じて変化しない。
【0042】
また、スリーブ54が図2(c)に示す非接続位置に制御される場合、スリーブ54は、連結ピース51のみとスプライン嵌合する。これにより、T/M20の出力軸A3とM/G40の出力軸A4との間でもT/M20の入力軸A2とM/G40の出力軸A4との間でも動力伝達系統が形成されない。この状態を「ニュートラル状態」と呼ぶ。
【0043】
以上、切替機構50では、切替アクチュエータ55を制御する(従って、スリーブ54の位置を制御する)ことで、M/G40の出力軸A4の接続状態(以下、「M/G接続状態」とも称呼する。)を、「IN接続状態」、「OUT接続状態」、「ニュートラル状態」の何れかに選択的に切り替え可能となっている。
【0044】
T/M20の出力軸A3は、作動機構D/Fと連結されていて、作動機構D/Fは、左右一対の駆動輪と連結されている。なお、T/M20の出力軸A3と作動機構D/Fとの間に、所謂最終減速機構が介装されていてもよい。
【0045】
また、本装置は、駆動輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ61と、アクセルペダルAPの操作量を検出するアクセル開度センサ62と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサ63と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサ64と、E/G10の出力軸A1の回転速度を検出する回転速度センサ65と、T/M20の入力軸A2の回転速度を検出する回転速度センサ66と、を備えている。
【0046】
更に、本装置は、電子制御ユニットECU70を備えている。ECU70は、上述のセンサ61〜66、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータ21,31,55を制御することで、T/M20の変速段、C/T30の状態、及び切替機構50の状態を制御する。加えて、ECU70は、E/G10、及びM/G40のそれぞれの出力(出力軸の駆動トルク)を制御するようになっている。
【0047】
T/M20の変速段は、車輪速度センサ61から得られる車速Vと、アクセル開度センサ62から得られる運転者によるアクセルペダルAPの操作量に基づいて算出される要求トルクTr(T/M20の出力軸A3についてのトルク)と、シフト位置センサ63から得られるシフトレバーSFの位置に基づいて制御される。シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、T/M20の変速段が、シフトレバーSFの操作により運転者により選択された変速段に原則的に設定される。一方、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、T/M20の変速段が、車速Vと要求トルクTrとの組み合わせに基づいて、シフトレバーSFが操作されることなく自動的に制御される。以下、T/M20の変速段が変更される際の作動を「変速作動」と称呼する。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。
【0048】
C/T30は、通常、接合状態(特に、完全接合状態)に維持され、T/M20の変速作動中、及び、シフトレバーSFの位置が「ニュートラル」位置にある場合等において、遮断状態に維持される。また、C/T30は、接合状態(特に、半接合状態)において、C/Tアクチュエータ31により調整されるクラッチストロークに応じて、伝達し得るトルクの最大値(以下、「クラッチトルクTc」と称呼する。)を調整可能となっている。
【0049】
E/G10の出力軸A1の駆動トルク(Te0)よりもクラッチトルクTcの方がより緻密に調整され得る。従って、E/G10の出力軸A1の駆動トルク(Te0)がクラッチトルクTcよりも大きい状態を維持しつつクラッチトルクTcを制御することで、E/G10の出力軸A1のトルクに基づくT/M20の入力軸A2(従って、出力軸A3)に伝達されるトルクをより緻密に調整できる。
【0050】
M/G40は、E/G10と協働又は単独で、車両を駆動する駆動トルクを発生する動力源として、或いは、E/G10を始動するための動力源として使用される。また、M/G40は、車両を制動する回生トルクを発生する発電機として、或いは、車両のバッテリ(図示せず)に供給・貯留される電気エネルギを発生する発電機としても使用される。
【0051】
切替機構50では、スリーブ54が移動することで、M/G接続状態が切り替えられる。以下、このスリーブ54の移動を「切り替え作動」と称呼する。切り替え作動の開始は、スリーブ54の移動の開始に対応し、切り替え作動の終了は、スリーブ54の移動の終了に対応する。M/G接続状態の切り替えは、例えば、車速Vと要求トルクTrとの組み合わせに基づいてなされ得る。
【0052】
以下、E/G10の出力軸A1の駆動トルクを「E/GトルクTe0」と、M/G40の出力軸A4の駆動トルクを「M/GトルクTm0」と称呼する。E/G10の出力軸A1の回転速度を「E/G回転速度Ne」と、M/G40の出力軸A4の回転速度を「M/G回転速度Nm」と、T/M20の入力軸A2の回転速度を「T/M入力回転速度Ni」称呼する。また、E/GトルクTe0に基づくT/M20の出力軸A3に伝達されるトルクを「E/G側駆動トルクTe」と称呼し、M/GトルクTm0に基づくT/M20の出力軸A3に伝達されるトルクを「M/G側駆動トルクTm」と称呼する。
【0053】
E/G側駆動トルクTeは、(C/T30が完全接合状態にある場合において)E/GトルクTe0に変速機減速比Gtmを乗じた値である(Te=Te0・Gtm)。M/G側駆動トルクTmは、IN接続状態では、M/GトルクTm0にIN接続減速比Ginを乗じた値であり(Tm=Tm0・Gin)、OUT接続状態では、M/GトルクにOUT接続減速比Goutを乗じた値である(Tm=Tm0・Gout)。M/G側駆動トルクTmは、M/GトルクTm0の調整により調整され得、E/G側駆動トルクTeは、E/GトルクTe0、或いは(特に、半接合状態では)クラッチトルクTcの調整により調整され得る。また、TmとTeとの和を「合計トルクTs」と呼ぶ。以下、「トルク」について、軸の加速方向(回転速度が増大する方向、車両加速方向)のトルクの値を正とし、軸の減速方向(回転速度が減少する方向、車両減速方向)のトルクの値を負とする。
【0054】
本装置では、通常、周知の手法の1つに従って、E/G側駆動トルクTeとM/G側駆動トルクTmの和が要求トルクTrと一致するように、E/GトルクTe0とM/GトルクTm0との配分が調整される。具体的には、例えば、TeとTmとは予め作製された定常マップに基づいて調整される。定常マップとは、要求トルクTr及び車速V等(の組み合わせ)と、要求トルクTr及び車速V等が(その組み合わせで)一定の場合において適合されたE/G側駆動トルクの定常適合値及びM/G側駆動トルクの定常適合値と、の関係を規定するマップ(テーブル)である。この定常マップは、要求トルクTr及び車速V(の組み合わせ)が一定に維持された定常状態で車両全体としての総合的なエネルギ効率(燃費)を最適とする等の観点に基づいてE/G側駆動トルクTe及びM/G側駆動トルクTmを適合する(定常適合値を決定する)実験を、要求トルクTr及び車速Vの組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことで得られる。
【0055】
この定常マップと、要求トルクTrの現在値及び車速Vの現在値とから(即ち、定常マップの検索結果から)、現在の走行状態(即ち、要求トルクTrの現在値及び車速Vの現在値)に対応するE/G側駆動トルクの定常適合値(E/G側適合値)、及びM/G側駆動トルクの定常適合値(M/G側適合値)が得られる。E/G側駆動トルクTe及びM/G側駆動トルクTmはそれぞれ、E/G側適合値及びM/G側適合値に一致するように調整される。この結果、E/G側駆動トルクTe及びM/G側駆動トルクTmが、車両全体としての総合的なエネルギ効率(燃費)を最適とする等の所望の目的が達成されるように、且つ合計トルクTsが要求トルクTrと一致するように、調整・配分される。
【0056】
(OUT接続状態での変速作動の実行)
以下、変速(変速段の変更、変速機減速比Gtmの変更)がなされる場合について説明する。本装置では、OUT接続状態以外の接続状態(即ち、IN接続状態、又はニュートラル状態)にて変速条件が成立した場合、先ず、切替機構50を制御してM/G接続状態をOUT接続状態に切り替える切り替え作動が行われる。次いで、その切り替え作動の終了後、OUT接続状態にてT/M20を制御して変速機減速比Gtm(変速段)を変更する変速作動が行われる。一方、OUT接続状態にて変速条件が成立した場合、OUT接続状態に維持した状態でT/M20を制御して変速作動が行われる。
【0057】
このように、本装置では、OUT接続状態にて変速作動が行われる。従って、変速作動中においてM/G側駆動トルクTm(>0)を発生させることで、変速作動中においてもM/GトルクTm0(>0)をT/M20の出力軸A3(従って、駆動輪)へ連続して出力し続けることができる。これにより、上述した「OUT接続状態での変速ショック低減効果」が発揮され得る。
【0058】
ここで、変速条件が成立したか否かは、例えば、駆動トルクTrと車速Vとの組み合わせから決定される予め作製された変速パターン(マップ)に基づいて、或いは、M/G側駆動トルクTmが所定値を超えたか否か、E/G側駆動トルクTeが所定値を超えたか否か、E/G回転速度Neが所定値を超えたか否か等に基づいて判定され得る。
【0059】
本装置では、変速作動中にてC/T30が遮断状態に維持され、変速作動の終了後、C/T30が接合状態に切り替えられる。ここで、E/G回転速度NeとT/M入力回転速度Niとの回転速度差が生じている状態でC/T30が接合状態へ切り替えられた場合、C/T30が半接合状態となる期間が発生する。本装置では、この半接合状態の期間にて、T/M20の入力軸A2が受ける「E/G10の出力軸A1の回転に関する慣性トルク」(以下、「慣性トルクTini」と呼ぶ。)を考慮して、M/G側駆動トルクTmが調整される。以下、この点について図3に示すタイムチャートを参照しながら説明する。
【0060】
(変速作動後の半接合状態の期間におけるM/G側駆動トルクTmの調整)
図3は、M/G接続状態がOUT接続状態にあり、C/T30が完全接合状態にあり、且つ、T/M20の変速段が「2速」にある状態で、合計トルクTs(=Te+Tm)が要求トルクTrに一致するようにTe及びTmがE/G側適合値及びM/G側適合値にそれぞれ調整されて車両が走行中において、時刻t1にて、「2速」から「3速」への変速条件が成立した場合の作動の一例を示す。この例では、OUT接続減速比Goutが「2速」に対応するGtmと等しい場合が想定されている。従って、OUT接続状態、且つT/M20の変速段が「2速」である場合、M/G回転速度NmがE/G回転速度Ne(=T/M入力回転速度Ni)と一致する。
【0061】
図3に示すように、変速条件が成立すると(時刻t1)、合計トルクTsが要求トルクTrに一致する状態を維持しながら、E/G側駆動トルクTeがE/G側適合値からゼロに向けて減少させられ、且つ、M/G側駆動トルクTmがM/G側適合値から要求トルクTrに向けて増大させられる(時刻t1〜t2)。ここで、時刻t1〜t2においてTeの調整は、クラッチトルクTcがE/GトルクTe0よりも大きい状態(従って、完全接合状態)を維持しつつTe0を減少させることで達成されてもよいし(Te=Te0・Gtm)、E/GトルクTe0がクラッチトルクTcよりも大きい状態(従って、半接合状態)を維持しつつTcを減少させることで達成されてもよい(Te=Tc・Gtm)。
【0062】
Teがゼロに達すると(及び、TmがTrに達すると)(時刻t2)、「2速」から「3速」への変速作動が開始される。この変速作動は時刻t3にて終了している。これに伴い、変速作動中(時刻t2〜t3)に亘って、C/T30が遮断状態に維持されるとともに、Teがゼロに維持される。一方、Tmは、変速作動中(時刻t2〜t3)に亘って、要求トルクTrに一致するように調整される。これにより、変速作動中(時刻t2〜t3)においても、合計トルクTsが要求トルクTrに一致するように調整される。
【0063】
なお、変速作動中(時刻t2〜t3)において、T/M入力回転速度Niが「2速」における「車速に対応する回転速度」から「3速」における「車速に対応する回転速度」まで(強制的に)減少させられる。また、変速作動中(時刻t2〜t3)では、C/T30が遮断状態に維持された状態で、E/G10の出力軸A1が空回りしながらE/G回転速度Neが減少していく。この例では、変速作動の終了時点(時刻t3)においてもなお、E/G回転速度Neが「3速」における「車速に対応する回転速度」よりも大きい値に維持されている。即ち、変速作動の終了時点(時刻t3)にて、E/G回転速度NeとT/M入力回転速度Niとの回転速度差(Ne>Ni)が生じている。
【0064】
「2速」から「3速」への変速作動が終了すると(時刻t3)、E/GトルクTe0が増大させられることで、Te0・GtmがゼロからE/G側適合値に向けて増大させられる(時刻t3〜t5)。加えて、時刻t3にて、C/T30が接合状態に切り替えられる。即ち、この例では、E/G回転速度NeとT/M入力回転速度Niとの回転速度差(Ne>Ni)が生じている状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる。なお、時刻t3以降、クラッチトルクTcは、E/GトルクTe0と後述する慣性トルクTiniとの和(Te0+Tini)よりも大きい値で推移するように調整されていくものとする。
【0065】
この場合、時刻t3以降、NeとNiとの差が生じている期間(図3にて斜線で示した領域を参照)、即ち、C/T30が半接合状態となる期間が発生する(時刻t3〜t4)。この半接合状態の期間を経て、C/T30が完全接合状態に移行する(時刻t4以降)。なお、NeとNiとが一致している状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる場合、半接合状態の期間を経ることなく、C/T30が直ちに完全接合状態に移行する。
【0066】
半接合状態の期間(時刻t3〜t4)では、E/G10の出力軸A1が、回転速度差が減少する方向のトルクを受ける。この例の場合、NeがNiよりも大きいことで、E/G10の出力軸A1が減速方向のトルクを受ける。このトルクに起因して、時刻t3以降、E/G回転速度Neが減少する。このE/G回転速度Neの減少に起因して、T/M20の入力軸A2は、C/T30を介して、E/GトルクTe0のみならず、E/G10の出力軸A1の回転に関する慣性トルク(以下、単に「慣性トルクTini」と呼ぶ。)を受ける。
【0067】
この慣性トルクは、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、下記(1)式に基づいて決定される値で推移する。ここにおいて、Ieは、E/G10の出力軸A1の回転に関する慣性モーメントである。Ieは、E/G10の出力軸A1の回転に伴って作動する(移動する、回転する)部材(ピストン、カムシャフト等)が全て考慮された状態での慣性モーメント(外部から出力軸A1にトルクを付与したことで出力軸A1の角加速度が発生する場合における、角加速度の大きさに対するトルクの大きさの割合)である。Ieの値は、実験等を通して予め取得され得る。また、値(dNe/dt)は、出力軸A1の角加速度(E/G回転速度Neの時間微分値)である。値(dNe/dt)は、回転速度センサ65の検出結果に基づいて算出され得る。
【0068】
Tini=−(Ie・(dNe/dt)) …(1)
【0069】
上述したように、Tiniについても、加速方向(減速方向)が正(負)とされる。この例では、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、E/G回転速度Neが減少することで、値(dNe/dt)が負となり、慣性トルクTiniの値は正(加速方向のトルク)となる。従って、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、E/G側駆動トルクTeは、(Te0・Gtm)に対して(Tini・Gtm)だけ大きい値で推移していく。即ち、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)について、Teは、下記(2)式に基づいて決定される値で推移する。
【0070】
Te=(Te0+Tini)・Gtm …(2)
【0071】
従って、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、Teにおける(Te0・Gtm)に対する増大分(Tini・Gtm)を考慮せずに、合計トルクTsが要求トルクTrと一致するようにM/G側駆動トルクTmが決定されると(Tm=Tr−(Te0・Gtm))、合計トルクTsが要求トルクTrに対してこの増大分(Tini・Gtm)だけ大きくなり、この結果、車両において加速方向のショックが発生し、ドライバビリティが悪化する。
【0072】
これに対し、本装置では、この増大分(Tini・Gtm)が考慮されて、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、Tmが下記(3)式に基づいて決定される値に調整されていく。即ち、Tmが、(Tr−(Te0・Gtm))に対して増大分(Tini・Gtm)だけ小さい値で推移する。これにより、増大分(Tini・Gtm)が相殺される。この結果、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持され得る。即ち、上述した車両の加速方向のショックの発生が抑制されて、ドライバビリティの悪化が抑制され得る。なお、半接合状態の期間(即ち、(3)式が適用される期間)であることは、回転速度センサ65,66の検出結果の比較から認識され得る。
【0073】
Tm=Tr−(Te0+Tini)・Gtm …(3)
【0074】
C/T30が半接合状態から完全接合状態に移行すると(時刻t4)、以降、T/M20の入力軸A2は、C/T30を介して、E/GトルクTe0のみを受けるようになる。従って、E/G側駆動トルクTeは、下記(4)式に基づいて決定される値で推移するようになる。これに伴い、M/G側駆動トルクTmは、下記(5)式に基づいて決定される値に調整されていく。これにより、時刻t4以降も、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持されていく。
【0075】
Te=Te0・Gtm …(4)
Tm=Tr−(Te0・Gtm) …(5)
【0076】
E/G側駆動トルクTeがE/G側適合値に達すると(時刻t5)、以降、時刻t1以前と同様、TeがE/G側適合値に一致するように調整され、且つ、TmがM/G側適合値に一致するように調整されていく。従って、時刻t5以降も、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持されていく。
【0077】
以上のように、時刻t1〜t5において、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持される。即ち、上述した「OUT接続状態での変速ショック低減効果」が発揮されている。加えて、半接合状態の期間(時刻t3〜t4)において、慣性トルクTiniが考慮されてM/G側駆動トルクTmが調整されることで、慣性トルクTiniが相殺され得る。この結果、慣性トルクTiniに起因する車両のショックの発生が抑制されて、ドライバビリティの悪化が抑制され得る。
【0078】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態(図3に示す例)では、E/G回転速度NeがT/M入力回転速度Niよりも大きい状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる(時刻t3を参照)。これに対し、NeがNiよりも小さい状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる場合、NeがNiよりも小さいことで、E/G10の出力軸A1が加速方向のトルクを受ける。このトルクに起因して、E/G回転速度Neが増大する。この結果、半接合状態の期間において、値(dNe/dt)が正となり、慣性トルクTiniの値が負(減速方向のトルク)となる。
【0079】
従って、半接合状態の期間において、上記(2)式で表わされるE/G側駆動トルクTeは、(Te0・Gtm)に対して|Tini・Gtm|だけ小さい値で推移していく。これに伴い、上記(3)式で表わされるM/G側駆動トルクTmは、(Tr−(Te0・Gtm))に対して減少分|Tini・Gtm|だけ大きい値で推移する。これにより、減少分|Tini・Gtm|が相殺される。この結果、半接合状態の期間において、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持され得る。即ち、減少分|Tini・Gtm|に起因する車両の減速方向のショックの発生が抑制されて、ドライバビリティの悪化が抑制され得る。
【0080】
また、上記実施形態(図3に示す例)では、変速作動として、減速機減速比Gtmが減少する方向の変速作動(シフトアップ)がなされているが、変速作動として、減速機減速比Gtmが増大する方向の変速作動(シフトダウン)がなされてもよい。シフトアップとシフトダウンの区別なく、NeがNiよりも大きい状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる場合、上記(3)式で表わされるM/G側駆動トルクTmが、(Tr−(Te0・Gtm))に対してTeの増大分(Tini・Gtm)だけ小さい値で推移し、NeがNiよりも小さい状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる場合、上記(3)式で表わされるM/G側駆動トルクTmが、(Tr−(Te0・Gtm))に対してTeの減少分|Tini・Gtm|だけ大きい値で推移する。
【0081】
また、上記実施形態では、切替機構50として、IN接続状態、OUT接続状態、及びニュートラル状態の何れにも切り替え可能なものが使用されているが、切替機構50として、OUT接続状態、及びニュートラル状態のみに切り替え可能なものが使用されてもよい。また、切替機構50そのものが省略されて、OUT接続状態(即ち、T/M20の出力軸A3とM/G40の出力軸A4との間で動力伝達系統が形成された状態)が常時達成されていてもよい。
【0082】
また、上記実施形態(図3に示す例)では、OUT接続状態で変速作動がなされているが、IN接続状態で変速作動がなされてもよい。この場合、変速作動中において合計トルクTs=0(Tm=Te=0)に維持され、変速作動の終了後において、合計トルクTsが要求トルクTrに向けて増大していくように、Tm及びTeが決定されていく。この場合も、シフトアップとシフトダウンの区別なく、NeがNiよりも大きい状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる場合、半接合状態の期間において、Tmが、(Ts−(Te0・Gtm))に対してTeの増大分(Tini・Gtm)だけ小さい値で推移するように調整され、NeがNiよりも小さい状態でC/T30が接合状態へ切り替えられる場合、半接合状態の期間において、Tmが、(Ts−(Te0・Gtm))に対してTeの減少分|Tini・Gtm|だけ大きい値で推移するように調整される。
【0083】
このように、IN接続状態で変速作動がなされる場合、切替機構50として、IN接続状態、及びニュートラル状態のみに切り替え可能なものが使用されてもよい。また、切替機構50そのものが省略されて、IN接続状態(即ち、T/M20の入力軸A2とM/G40の出力軸A4との間で動力伝達系統が形成された状態)が常時達成されていてもよい。
【0084】
加えて、上記実施形態では、変速機としてトルクコンバータを備えない多段変速機を使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッションが使用されているが、変速機として、トルクコンバータを備えるとともに車両の走行状態に応じて変速作動が自動的に実行される多段変速機又は無段変速機(所謂オートマチックトランスミッション(AT))が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…エンジン、20…変速機、30…クラッチ、40…モータジェネレータ、50…切替機構、54…スリーブ、61…車輪速度センサ、62…アクセル開度センサ、63…シフト位置センサ、64…ブレーキセンサ、65…回転速度センサ、66…回転速度センサ、70…ECU、AP…アクセルペダル、BP…アクセルペダル、SF…シフトレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、
前記内燃機関の出力軸との間で動力伝達系統が形成される入力軸と、前記車両の駆動輪との間で動力伝達系統が形成される出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である変速機減速比を調整可能な変速機であって、前記変速機の入力軸と前記電動機の出力軸との間で動力伝達系統が形成された又は前記変速機の出力軸と前記電動機の出力軸との間で前記変速機を介することなく動力伝達系統が形成された変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装され、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達する接合状態と、前記動力を伝達しない遮断状態とに調整可能なクラッチ機構と、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関、前記電動機、前記変速機、及び前記クラッチ機構を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記内燃機関及び前記電動機を制御して前記内燃機関の出力軸の駆動トルクに基づく前記変速機の出力軸に伝達されるトルクである内燃機関側駆動トルクと前記電動機の出力軸の駆動トルクに基づく前記変速機の出力軸に伝達されるトルクである電動機側駆動トルクとを調整し、
前記変速機を制御して前記変速機減速比を変更する変速作動を行い、
前記クラッチ機構を制御して前記変速作動中にて前記クラッチ機構を前記遮断状態に維持するとともに、前記変速作動の終了後にて前記クラッチ機構を前記接合状態に切り替えるように構成されていて、
前記制御手段は、
前記クラッチ機構の前記接合状態への切り替え後において、前記クラッチ機構が前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との回転速度差が生じている半接合状態を経て前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との回転速度が一致している完全接合状態に移行する場合、前記クラッチ機構が前記半接合状態にある期間において、前記内燃機関の出力軸が前記回転速度差が減少する方向のトルクを受けることによる前記内燃機関の出力軸の回転速度の変化に起因して前記変速機の入力軸が受ける前記内燃機関の出力軸の回転に関する慣性トルクを考慮して、前記電動機側駆動トルクを調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記クラッチ機構が前記半接合状態にある期間において、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも大きい場合には、前記慣性トルクに相当する分だけ前記電動機側駆動トルクを小さくし、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも小さい場合には、前記慣性トルクに相当する分だけ前記電動機側駆動トルクを大きくするように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記変速機の出力軸と前記電動機の出力軸との間で前記変速機を介することなく動力伝達系統が形成されていて、
前記制御手段は、
前記車両の運転者による加速操作部材の操作に基づいて得られる前記運転者が要求する駆動トルクである要求トルクを算出する算出手段を備え、
前記制御手段は、
前記変速作動中にて、前記電動機側駆動トルクを前記要求トルクと等しい値に調整するとともに、
前記クラッチ機構が前記半接合状態にある期間において、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも大きい場合には、前記電動機側駆動トルクを、前記要求トルクから、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクに前記慣性トルクを加えた値に前記減速機減速比を乗じた値を減じて得られる値に調整し、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記変速機の入力軸の回転速度よりも小さい場合には、前記電動機側駆動トルクを、前記要求トルクから、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクから前記慣性トルクを減じた値に前記減速機減速比を乗じた値を減じて得られる値に調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の動力伝達制御装置であって、
前記電動機の出力軸の接続状態を、前記電動機の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力伝達系統が形成される入力側接続状態と、前記電動機の出力軸と前記変速機の出力軸との間で前記変速機を介することなく動力伝達系統が形成される出力側接続状態と、前記電動機の出力軸と前記変速機の入力軸との間も前記電動機の出力軸と前記変速機の出力軸との間も動力伝達系統が形成されない非接続状態と、のうちで少なくとも前記出力側接続状態を含む2以上の状態に切り替え可能な切替機構を備え、
前記制御手段は、
前記切替機構により前記電動機の出力軸の接続状態が前記出力側接続状態に維持された状態で、前記変速作動を行うように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記内燃機関の出力軸の角加速度を取得する取得手段を備え、
前記クラッチ機構が前記半接合状態にある期間において、
前記電動機側駆動トルクの調整に利用される前記慣性トルクとして、前記内燃機関の出力軸の回転に関する慣性モーメントに前記角加速度を乗じて得られる値を使用するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記変速機は、
トルクコンバータを備えておらず、且つ、前記変速機減速比として予め定められた異なる複数の減速比を設定可能な多段変速機である車両の動力伝達制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−260373(P2010−260373A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110319(P2009−110319)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】