説明

車両の挙動制御装置

【課題】自動操舵制御からドライバ操舵への切り替え時における違和感の発生を防止する。
【解決手段】ドライバの操舵から独立して車両状態量を変化させることが可能な少なくとも一つの装置を備えた車両において、車両の挙動制御装置は、前記少なくとも一つの装置のうちの少なくとも一つである対象装置を介して、前記車両状態量を目標状態量に収束させるための自動操舵制御を実行する自動操舵制御実行手段と、ハンドル角を検出するハンドル角検出手段と、前記自動操舵制御がドライバの操舵に応じたドライバ操舵へ切り替わる場合に、前記ドライバ操舵において前記ハンドル角と相関する一の前記車両状態量について、前記自動操舵制御により生じた第1状態量と、前記検出されたハンドル角に対し生じるべき第2状態量とが一致するように、前記少なくとも一つの装置を制御する状態量一致化手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバの操舵から独立して車両状態量を制御可能な車両における、挙動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、車線追従性を重視した第1制御と、ドライバの操舵操作が反映され易い第2制御とを実現するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された車線維持支援装置によれば、第1制御から第2制御に移行する場合に、第2制御において、所定期間、直前の第1制御で算出された付加トルクと等しい付加トルクを算出することにより、運転者のどのような操舵操作状態であっても、運転者にとって不快なトルク変動を防止することができ、運転者にとって違和感のない車線維持制御を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−195088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドライバの操舵意思を反映した通常の操舵制御下では、ドライバが操舵意思を車両挙動に反映させる手段としてのハンドル(尚、本明細書における「ハンドル」とは、代表的な形態としてステアリングホイールを含みつつ、ドライバによる操舵操作が可能な各種の操舵入力手段を包括する概念である)の操作角度たるハンドル角に対して、ある種の車両状態量の採り得る範囲は大きく制限される。例えば、この種の車両状態量としてヨーレートを例に採ると、車速や路面摩擦等といった各種パラメータの影響を除けば、ハンドル角に対するヨーレートは一義的である。
【0006】
これに対して、ドライバの意思から独立して車両状態量が制御される各種の自動操舵制御においては、例えば、ハンドル角を中立位置相当角に維持したまま前輪又は後輪或いはその両方の舵角を適宜変化させつつ、これらの車両状態量を所望の値に維持することも可能であり、この種の車両状態量は、ハンドル角に対して高い自由度を有し得る。この際、ドライバに積極的な操舵意思がなければ、ハンドル角に対する車両状態量が如何なるものであれ、ドライバ側にさしたる違和感は生じない。
【0007】
従って、自動操舵制御がドライバ操舵に切り替わるにあたり、ドライバに操舵主権が移譲された直後においては、車両状態量が、ドライバ操舵においてハンドル角に対し一義的となる車両状態量と乖離している場合がある。このように、車両状態量が、ハンドル角に対し本来生じるべき車両状態量から乖離していると、ドライバに違和感、不快感或いは不安感が生じることとなる。
【0008】
従来の装置(上記特許文献に開示されるものも含む)においては、このようなドライバ操舵開始直後の車両状態量の不整合に想到していないため、このような違和感、不快感或いは不安感が、ドライバビリティを低下させる要因となっていた。
【0009】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、自動操舵制御からドライバ操舵への切り替え時において、違和感、不快感或いは不安感を生じさせることなくドライバに操舵主権を移譲することが可能な車両の挙動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の挙動制御装置は、ドライバの操舵から独立して車両状態量を変化させることが可能な少なくとも一つの装置を備えた車両の挙動を制御する車両の挙動制御装置であって、前記少なくとも一つの装置のうちの少なくとも一つである対象装置を介して、前記車両状態量を目標状態量に収束させるための自動操舵制御を実行する自動操舵制御実行手段と、ハンドル角を検出するハンドル角検出手段と、前記自動操舵制御がドライバの操舵に応じたドライバ操舵へ切り替わる場合に、前記ドライバ操舵において前記ハンドル角と相関する一の前記車両状態量について、前記自動操舵制御により生じた第1状態量と、前記検出されたハンドル角に対し生じるべき第2状態量とが一致するように、前記少なくとも一つの装置を制御する状態量一致化手段とを具備することを特徴とする(請求項1)。
【0011】
本発明に係る車両状態量とは、車両の挙動に影響を与え得る状態量を包括する概念であり、好適には、例えば、ヨーレート、ヨーモーメント、車体スリップ角、横加速度又はセルフアライニングトルク等を意味する。本発明に係る車両には、このような車両状態量を変化させることが可能な装置が少なくとも一つ備わっており、各装置が、車両状態量を間接的に変化させる直接的制御対象としての状態制御量を少なくとも一つ有する構成となっている。
【0012】
例えば、当該装置は、前輪舵角を状態制御量とするVGRS(Variable Gear Ratio Steering)等の前輪舵角可変手段、後輪舵角を状態制御量とするARS(Active Rear Steering)等の後輪舵角可変手段、左右制動力差を状態制御量とするECB(Electronic Control Braking system)等の制動力可変手段、左右駆動力差を状態制御量とする駆動力分配デファレンシャル機構又はインホイールモータシステム等の駆動力可変手段或いはキングピン軸回りのトルク或いは操舵反力トルクを状態制御量とするEPS(Electronic control Power Steering)等の補助操舵トルク供給手段であってもよい。
【0013】
本発明に係る車両の挙動制御装置は、このような車両の挙動を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0014】
本発明に係る車両の挙動制御装置によれば、その動作時には、自動操舵制御実行手段により自動操舵制御が実行される。
【0015】
本発明に係る「自動操舵制御」とは、上述した少なくとも一つの装置のうち少なくとも一つである対象装置を介して、車両状態量を目標状態量に収束させる制御であり、ドライバの操舵から独立して(無論、自動操舵制御を開始すべきか否かに関してはドライバの意思が反映される)遂行される制御である。通常、一の装置には一の状態制御量が割り当てられており、且つ状態制御量の個数は車両運動の自由度に等しい。従って、通常、対象装置の数は、相互に独立に制御することが所望される車両状態量の数量と一義的となり得る。尚、概念上、本発明に係る「少なくとも一つの装置」の中から対象装置を選択するにあたっての選択基準に制限はない。また、敢えて「選択」の必要がない場合(例えば、予め決定されている場合)も当然ながら本願の範疇である。
【0016】
尚、このような自動操舵制御の実践的態様は一意に限定されないが、例えば、自動操舵制御は、LKA(Lane Keeping Assist)等の車線維持走行制御や、予め設定される目標走行路を追従させる目標走行路追従制御等であってもよい。これらの制御においては、例えば、複数の状態制御量(例えば、前輪舵角、後輪舵角、前輪左右制駆動力差及び後輪左右制駆動力差)の中から適宜選択された(選択基準の有無は問わない)、或いは予め自動操舵制御毎に定められた、二つの状態制御量の制御により、例えばヨーレートと車体スリップ角が相互いに独立に制御される。
【0017】
ここで、自動操舵制御は、ドライバの操舵から独立した制御であるから、制御対象となる車両状態量は、ハンドルを介したドライバの操舵に応じたドライバ操舵においてハンドル角に対し一義的或いはハンドル角に対して採り得る範囲が大きく制限される車両状態量についても、ハンドル角に対して高い自由度を保ち得る。例えば、ハンドルを中立位置(ハンドル角=0と判断されるハンドル位置)に維持した状態で前輪又は後輪或いはその両方に舵角変化を与え、車両にヨーレートやヨーモーメントを生じさせることも可能であり、逆に、ゼロでないハンドル角に対し、前輪又は後輪或いはその両方に舵角変化を与えることによって車両を直進(尚、「直進」とはヨー方向の車両状態量がゼロであること意味し、車両の進行方向は、車両の前後方向であってもよいし(即ち、車体スリップ角=0)、車両の前後方向に対し交わっていてもよい(即ち、車体スリップ角≠0))させることもできる。
【0018】
ところで、自動操舵制御からドライバ操舵への操舵形態の切り替え時において、ドライバに操舵主権が移譲された直後のハンドル角は、通常、自動操舵制御におけるハンドル角と等しいものとなる。従って、ドライバへの操舵主権移譲直後においては、この種の車両状態量について、実際に生じている車両状態量(第1状態量)と、本来その時点のハンドル角に対し生じるべき車両状態量(第2状態量)とが乖離して、ドライバが違和感、不快感又は不安感を覚える可能性がある。
【0019】
例えば、上述したようにハンドル角を中立点に維持したまま車両に適宜ヨー挙動を与える自動操舵制御が実行されている場合、ドライバは、ハンドル角が中立点であるにもかかわらず車両にヨー挙動が生じていることに少なからず違和感、不快感又は不安感を覚えることとなり、ドライバビリティの低下を招く。同様に、ゼロでないハンドル角で車両を直進走行させる自動操舵制御からドライバ操舵へ切り替わる場合には、ドライバは、ハンドル角が中立点でないにもかかわらず車両にヨー挙動が生じないことに少なからず違和感、不快感又は不安感を覚えることとなり、ドライバビリティの低下を招く。
【0020】
このような操舵形態切り替えに伴うドライバビリティの低下を抑制するため、本発明に係る車両の挙動制御装置は、ハンドル角検出手段及び状態量一致化手段を備える。
【0021】
状態量一致化手段は、自動操舵制御からドライバ操舵への操舵形態切り替え時において、ドライバ操舵においてハンドル角に相関するものとして定められた一の車両状態量について、自動操舵制御により生じた第1状態量と、ハンドル角検出手段により検出されたハンドル角に対して本来生じるべき第2状態量とが一致するように、先述した対象装置を含む少なくとも一つの装置を制御する。
【0022】
ここで、「一致するように」とは、第1状態量と第2状態量との偏差をゼロにすることのみを指すものでなく、当該偏差が減少する方向へ少なくとも一方の状態量を変化させることを広く包含する概念である。この際、好適な一形態として、この偏差を、ドライバに違和感、不快感或いは不安感を生じさせないものとして予め実験的に、経験的に又は理論的に設定された許容範囲に収束させる旨の措置が講じられてもよい。
【0023】
上述したように、ハンドル角に対して本来生じるべき車両状態量としての第2状態量は、その時点の車両の走行条件が定まれば一義に決定される(許容範囲として決定されてもよい)から、自動操舵制御における制御目標と実質的に等しい第1状態量と、この第2状態量との偏差は、操舵制御形態の切り替え時において既知となる。状態量一致化手段は、係る偏差に基づいて或いは係る偏差を参照しつつ、これらを一致させることができる。
【0024】
尚、第1状態量と第2状態量とを一致させるに際しての状態量一致化手段の実践的制御態様は、第1状態量と第2状態量とが乖離した状態で操舵主権がドライバに移譲されることによるこの種の違和感、不快感或いは不安感を抑制可能である限りにおいて、何ら限定されない。
【0025】
例えば、状態量一致化手段は、第2状態量を第1状態量に漸近させても(即ち、ハンドルを切り増す或いは切り戻すことによりハンドル角を変化させても)よい。また、第1状態量を第2状態量に漸近させても(即ち、自動操舵制御の実行期間終期において目標状態量をこのような目的から変化させても)よい。或いは、第1状態量及び第2状態量の双方を相互いに相手側へ漸近させてもよい。
【0026】
このように、本発明に係る車両の挙動制御装置によれば、自動操舵制御からドライバ操舵へと制御態様が切り替わる場合に、自動操舵制御により生じた第1状態量と、検出されたハンドル角に対し生じるべき第2状態量との一致が図られる。即ち、ハンドル角に応じた適切な車両状態量が得られている状態で、操舵主権がドライバに移譲されることになる。従って、係る制御態様の切り替え時においてドライバに違和感、不快感或いは不安感が生じることがなく、円滑且つ自然な操舵フィールが実現されるのである。
【0027】
本発明に係る車両の挙動制御装置の一の態様では、前記一の車両状態量はヨーレートである(請求項2)。
【0028】
ヨーレートは、ドライバ操舵においてハンドル角との相関が高く、本発明に係る「一の車両状態量」として適当である。
【0029】
本発明に係る車両の挙動制御装置の他の態様では、前記状態量一致化手段は、前記第2状態量を前記第1状態量に一致させる(請求項3)。
【0030】
この態様によれば、車両状態量を変化させ得る少なくとも一つの装置として、直接的又は間接的にハンドル角を変化させることが可能な装置が備わることを前提として、検出されたハンドル角に対し生じるべき第2状態量を、自動操舵制御により生じた第1状態量に一致させるべく少なくとも一つの装置が制御される。即ち、より具体的には、第1状態量に整合するハンドル角が得られるように、該当する装置(例えば、VGRS等の前輪舵角可変手段)を介してハンドル角が変化させられる。
【0031】
従って、この態様によれば、自動操舵制御による車両状態量を引き継ぐ形で操舵制御形態をドライバ操舵へ切り替えることができ、例えば、車線維持制御や目標走行路追従制御等を自然に且つ円滑に終了させることが可能となる。
【0032】
本発明に係る車両の挙動制御装置の他の態様では、前記状態量一致化手段は、前記第1状態量を前記第2状態量に一致させる(請求項4)。
【0033】
この態様によれば、検出されたハンドル角に対し生じるべき第2状態量に整合するように、自動操舵制御により生じた第1状態量が変化させられる。例えば、自動操舵制御終期における目標状態量が強制的に変更される。或いは、自動操舵制御終了直後の過渡期に特化した別の自動操舵制御が実行される。
【0034】
ここで、このように第1状態量を一致化に係る制御対象とする場合、少なくとも一つの装置としてハンドル角を変化させ得る装置が車両に備わっていなくても第1状態量と第2状態量とを一致させることができる。また、操舵制御形態の切り替え時においてハンドル角の維持が所望される場合、或いは第2状態量を第1状態量に一致させるべくハンドル角を変化させた結果、意図せぬ車両状態量の変化が生じた場合等についても、ドライバにおける違和感、不快感或いは不安感の発生を防止することができる。
【0035】
例えば、自動操舵制御に使用される対象装置の一部が異常状態(ここで言う「異常状態」とは、本来期待される状態としての正常状態でない状態を意味するものであって、その異常の程度は問わない趣旨である)に陥った場合において、フェールセーフの観点から、旋回挙動中における自動操舵制御の強制終了を回避して、車両が直進状態に移行するのを待って自動操舵制御を強制終了させる場合がある。
【0036】
ここで、この場合の車両の直進状態とは、ヨーレートやヨーモーメント等、ヨー挙動を規定する車両状態量がゼロ相当値であることを意味しており、必ずしもハンドル角はゼロ相当値でない。従って、第1状態量に第2状態量を整合させるべくハンドル角をゼロ相当値まで変化させると、ハンドル角の変化によりそれまで発生していなかったヨー挙動が発生することがある。
【0037】
本態様は、例えば、このような場合において顕著に効果的であり、第1状態量を第2状態量へ一致させることにより、ドライバにおける違和感、不快感或いは不安感の発生を防止することができる。
【0038】
本発明に係る車両の挙動制御装置の他の態様では、前記状態量一致化手段は、前記第1状態量と前記第2状態量との偏差に応じて、前記第1状態量と前記第2状態量とを一致させる度合いを変化させる(請求項5)。
【0039】
この態様によれば、第1状態量と第2状態量との偏差に応じて、二値的に、段階的に或いは連続的に、両者を一致させる度合いが変化させられる。従って、第1状態量と第2状態量との一致化が図られた場合に得られる利益の大小を考慮した、効率的な制御が可能となる。
【0040】
例えば、状態量一致化手段は、当該偏差が予め設定された基準値を超える場合に限って両者を一致させてもよい。この際、係る基準値が、予め実験的に、経験的に又は理論的に、それ未満(以下)の領域においてドライバに違和感、不快感或いは不安感が生じない旨が確定した値として設定すれば、第1状態量と第2状態量との不要な一致化が回避され顕著に効果的である。
【0041】
或いは、状態量一致化手段は、当該偏差の大小に応じて、当該偏差の収束目標を段階的に切り替えてもよい。より具体的には、当該偏差が大きい場合(小さい場合)に、一致化後に残存する偏差の許容値を大きく(小さく)してもよい。このようにすれば、状態量の一致化に供される装置に過剰な負荷が加わることを防止することができる。
【0042】
本発明に係る車両の挙動制御装置の他の態様では、前記第1状態量と前記第2状態量とを一致させていることをドライバに報知する報知手段を更に具備する(請求項6)。
【0043】
この態様によれば、状態量一致化手段により、第1状態量と第2状態量との一致化が図られている旨が、報知手段によりドライバに報知される。従って、ドライバの心理的負担を軽減することができ、車両の挙動制御上、より安全である。
【0044】
尚、報知手段の実践的態様は、最終的にドライバの五感に訴求し得るものであればどのようなものであってもよく、例えば、スピーカ等の音声出力手段や、ディスプレイ装置等の表示手段或いはこれらを制御する手段が好適である。例えば、報知手段とは、カーナビゲーション装置のディスプレイやスピーカを一時的に利用するものであってもよい。また、より簡素の形態としては、メータフード内やコンソールパネル等に配置された各種MIL(Multi Information Lamp)、インジケータ又はランプ等であってもよい。
【0045】
本発明に係る車両の挙動制御装置の他の態様では、前記自動操舵制御が前記ドライバ操舵へ切り替わる場合において前記対象装置の少なくとも一つが異常状態にある場合に、前記少なくとも一つの装置のうち前記対象装置を除く残余の装置の中から、前記異常状態にある少なくとも一つに代替させるべき代替装置として、前記第1状態量と前記第2状態量とを一致させる際に必要となる状態制御量が最小となる装置を選択する選択手段を更に具備し、前記自動操舵制御実行手段は、前記選択された代替装置を使用して前記自動操舵制御を継続する(請求項7)。
【0046】
この態様によれば、対象装置の少なくとも一つが異常状態に陥った場合に、残余の装置の中から代替装置が選択される。代替装置を選択するにあたって、選択手段は、第1状態量と第2状態量とを一致させる際に必要となる状態制御量が最も小さい装置を選択する。尚、状態制御量は、装置各々によって異なっている場合が多い。このような場合における「最小」とは、状態制御量の可制御範囲に対して規格化された比較用の指標値が最小であること等として定義されてもよい。
【0047】
このような、第1状態量と第2状態量とを一致させるにあたって必要となる状態制御量が最小となる装置は、自動操舵制御の制御対象となる車両状態量と、装置が異常状態に陥る以前に実行されていた自動操舵制御において使用されていた装置とをパラメータとして、予め実験的に、経験的に又は理論的に決定しておくことができる。
【0048】
第1状態量と第2状態量とを一致させるにあたっての制御量が最小であれば、ドライバに操舵主権が移譲された後、自動操舵制御によってドライバの操舵から独立して変化していた状態制御量をドライバ操舵に準じた値に復帰させ、操舵形態を自動操舵制御からドライバ操舵へ完全に切り替えるに際して状態制御量の変化量が最小で済むため、ドライバに操舵主権が移譲された後の暫時の期間における、ドライバの違和感、不快感或いは不安感を緩和することが可能となる。
【0049】
本発明に係る車両の挙動制御装置の他の態様では、前記少なくとも一つの装置は、前輪舵角を変化させることが可能な前輪舵角可変手段、後輪舵角を変化させることが可能な後輪舵角可変手段、ドライバの操舵トルクを補助する補助操舵トルクを供給可能な補助操舵トルク供給手段及び左右輪の制駆動力を変化させることが可能な制駆動力差可変手段のうち少なくとも一つを含む(請求項8)。
【0050】
前輪舵角可変手段とは、前輪舵角を、これらの変化を促すドライバの操舵操作から独立して変化させることが可能な手段である。このドライバの操舵操作とは、好適には、ハンドル等の各種操舵入力手段の操作を意味する。従って、前輪舵角可変手段によれば、ドライバがハンドルから手を放していても、或いはハンドルを保舵しているのみであっても、前輪舵角を所望の値に変化させることが可能である。前輪舵角可変手段は、好適な一形態として、VGRS等を含み得る。
【0051】
後輪舵角可変手段とは、後輪舵角を、これらの変化を促すドライバの操舵操作から独立して変化させることが可能な手段である。このドライバの操舵操作とは、好適には、ハンドル等の各種操舵入力手段の操作を意味する。従って、後輪舵角可変手段によれば、ドライバがハンドルから手を放していても、或いはハンドルを保舵しているのみであっても、後輪舵角を所望の値に変化させることが可能である。後輪舵角可変手段は、好適な一形態として、ARS等を含み得る。
【0052】
これら各舵角可変手段によれば、舵角の制御対象となる車輪について、舵角が少なくとも一定の範囲で可変であるから、理論的には車両の進行方向或いは車両挙動をドライバからの操舵入力から独立して制御することが可能となる。
【0053】
制駆動力差可変手段とは、車両全体の左右制駆動力差を変化させることが可能な手段である。通常、制駆動力の付与対象となる車輪が左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の四輪である点に鑑みれば、制駆動力差可変手段とは、好適な一形態として、前輪の左右制駆動力差を変化させることが可能な装置及び後輪の左右制駆動力差を変化させることが可能な装置のうち少なくとも一方を含むものである。
【0054】
また、制動力とは負の駆動力であるから、両者は同一の次元で加減算可能な車両状態量である。従って、前輪或いは後輪の左右制駆動力差を変化させることが可能な装置とは、好適な一形態として、各輪の制動力及び駆動力のうち少なくとも一方を変化させることが可能な装置を意味する。
【0055】
本発明に係る制駆動力差可変手段とは、例えば、駆動力分配デファレンシャル機構若しくはインホイールモータシステム等を含む各種の駆動力可変装置、又は各種ECB等を含む各種の制動力可変装置、或いはその両方等の実践的態様を採り得る。
【0056】
いずれにせよ車両の左側と右側とで制駆動力差が生じると、車両は、駆動力の相対的に小さい車輪(即ち、制動力の相対的に大きい車輪である)の側(即ち、右側車輪の駆動力(制動力)が小さければ(大きければ)、右側である)へ旋回する。従って、制駆動力差可変手段によれば、理論的には車両の進行方向をドライバの操舵操作から独立して変化させることが可能となる。
【0057】
補助操舵トルク供給手段とは、ドライバがハンドルを介して与えるドライバ操舵トルクを補助する補助操舵トルクを供給可能な手段であり、好適には、EPS等を含み得る。
【0058】
補助操舵トルク供給手段は、その構成上、ドライバの操舵から独立して補助操舵トルクを供給することも可能であり、例えばキングピン軸周りにこの補助操舵トルクを作用させることにより、操舵輪に操舵方向と逆方向に作用するセルフアライニングトルクを打ち消すことも可能である。セルフアライニングトルクは、ドライバがハンドルを保舵しない状況においてハンドルを本来の操舵方向と逆方向に回転させる操舵反力トルクとして作用するから、補助操舵トルクもまた、車両状態量を制御する上で有効な状態制御量となり得る。
【0059】
尚、このように補助操舵トルク供給手段が備わる場合、前輪舵角、後輪舵角、前輪左右制駆動力差及び後輪左右制駆動力差のうち二つの状態制御量に、この補助操舵トルクをあわせた三個の状態制御量を使用して、例えばヨーレート、車体スリップ角及び操舵反力トルク(セルフアライニングトルク)の三個の車両状態量を独立に制御する三自由度の運動制御を実現することも可能である。
【0060】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】車両運動モデルに基づいた車両運動制御に係るECUの制御ブロック図である。
【図3】車両運動モデルのモデル変数の定義に係る模式図である。
【図4】車両運動モデルの他のモデル変数の定義に係る模式図である。
【図5】車両運動モデルの更に他のモデル変数の定義に係る模式図である。
【図6】図1の車両においてなされる自動操舵制御のフローチャートである。
【図7】図6の自動操舵制御における移譲準備処理のフローチャートである。
【図8】図7の移譲準備処理の効果に係り、車両の運動状態を概念的に表した図である。
【図9】図7の移譲準備処理の効果に係り、車両の他の運動状態を概念的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、適宜図面を参照して本発明の車両の挙動制御装置に係る実施形態について説明する。
<発明の実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10の基本的な構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0063】
図1において、車両10は、操舵輪(後述するハンドル12に連結される車輪という意味である)である前輪として左前輪FL及び右前輪FRを備え、また後輪として左後輪RL及び右後輪RRを備え、これら前後輪の舵角変化によって所望の方向に進行することが可能な構成となっている。
【0064】
車両10は、ECU100、エンジン200、TRC(TRaction Control system;駆動力分配装置)300、VGRSアクチュエータ400、EPSアクチュエータ500、ECB600、カーナビゲーション装置700及びARSアクチュエータ800を備える。
【0065】
ECU100は、夫々不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備え、車両10の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の挙動制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する車両挙動制御を実行可能に構成されている。
【0066】
尚、ECU100は、本発明に係る「自動操舵制御実行手段」、「ハンドル角検出手段」、「状態量一致化手段」、「報知手段」及び「選択手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0067】
エンジン200は、車両10の動力源である。
【0068】
尚、本発明に係る車両の動力源は、燃料の燃焼に伴う熱エネルギを機械的動力(運動エネルギ)に変換して取り出し得る機関を包括する概念として各種実践的態様を有する内燃機関(エンジン200もその一例である)に限定されず、モータ等の回転電機であってもよい。或いは、車両は、これらが協調制御される所謂ハイブリッド車両であってもよい。エンジン200の駆動力出力軸たるクランク軸は、TRC300の一構成要素たるセンターデファレンシャル装置310に接続されている。尚、エンジン200の詳細な構成は、本発明の要旨との相関が薄いため、ここではその詳細を割愛する。
【0069】
TRC300は、エンジン200から前述のクランク軸を介して伝達されるエンジントルクTeを、前輪及び後輪に所定の比率で分配可能に構成されると共に、更に前輪及び後輪の各々において左右輪の駆動力配分を変化させることが可能に構成された、本発明に係る「制駆動力差可変手段」の一例たる駆動力分配装置である。
【0070】
TRC300は、センターデファレンシャル装置310(以下、適宜「センターデフ310」と略称する)、フロントデファレンシャル装置320(以下、適宜「フロントデフ320」と略称する)及びリアデファレンシャル装置330(以下、適宜「リアデフ330」と称する)を備える。
【0071】
センターデフ310は、エンジン200から供給されるエンジントルクTeを、フロントデフ320及びリアデフ330に分配するLSD(Limited Slip Differential:差動制限機能付き差動機構)である。
【0072】
センターデフ310は、前後輪に作用する負荷が略一定な条件下では、前後輪に対し分配比50:50(一例であり特に限定されない)でエンジントルクTeを分配する。また、前後輪のうち一方の回転速度が他方に対し所定以上高くなると、当該一方に対し差動制限トルクが作用し、当該他方へトルクが移譲される差動制限が行われる構成となっている。即ち、センターデフ310は、所謂回転速度感応式(ビスカスカップリング式)の差動機構である。
【0073】
尚、センターデフ310は、このような回転速度感応式に限らず、入力トルクに比例して差動制限作用が大きくなるトルク感応式の差動機構であってもよい。また、遊星歯車機構により差動作用をなし、電磁クラッチの断続制御により差動制限トルクを連続的に変化させ、所定の調整範囲内で所望の分配比率を実現可能な分配比率可変型の差動機構であってもよい。いずれにせよ、センターデフ310は、前輪及び後輪に対しエンジントルクTeを分配可能な限り、公知非公知を問わず各種の実践的態様を採ってよい。
【0074】
フロントデフ320は、センターデフ310によりフロントアクスル(前輪車軸)側に分配されたエンジントルクTeを、更に、左右輪に所定の調整範囲内で設定される所望の分配比率で分配可能な分配比率可変型のLSDである。
【0075】
フロントデフ320は、リングギア、サンギア及びピニオンキャリアからなる遊星歯車機構と、差動制限トルクを与える電磁クラッチを備え、この遊星歯車機構のリングギアにデフケースが、サンギア及びキャリアに夫々左右の車軸が連結された構成を採る。また、差動制限トルクは、電磁クラッチに対する通電制御により連続的に制御され、フロントデフ320の物理的電気的構成上定まる所定の調整範囲内で、トルクの分配比率が連続的に可変に制御される構成となっている。
【0076】
フロントデフ320は、ECU100と電気的に接続されており、電磁クラッチへの通電制御もECU100により制御される構成となっている。従って、ECU100は、フロントデフ320の駆動制御を介して、所望の前輪左右制駆動力差(ここでは、駆動力差である)Fを生じさせることが可能である。
【0077】
尚、フロントデフ320の構成は、左右輪に所望の分配比率で駆動力(尚、トルクと駆動力とは一義的な関係にある)を分配可能な限りにおいて、ここに例示されるものに限定されず、公知非公知を問わず各種の態様を有し得る。いずれにせよ、このような左右駆動力配分作用は公知であり、ここでは、説明の煩雑化を防ぐ目的からここではその詳細については触れないこととする。
【0078】
リアデフ330は、センターデフ310によりプロペラシャフト11を介してリアアクスル(後輪車軸)側に分配されたエンジントルクTeを、更に、左右輪に所定の調整範囲内で設定される所望の分配比率で分配可能な分配比率可変型のLSDである。
【0079】
リアデフ330は、リングギア、サンギア及びピニオンキャリアからなる遊星歯車機構と、差動制限トルクを与える電磁クラッチを備え、この遊星歯車機構のリングギアにデフケースが、サンギア及びキャリアに夫々左右の車軸が連結された構成を採る。また、差動制限トルクは、電磁クラッチに対する通電制御により連続的に制御され、リアデフ330の物理的電気的構成上定まる所定の調整範囲内で、トルクの分配比率が連続的に可変に制御される構成となっている。
【0080】
リアデフ330は、ECU100と電気的に接続されており、電磁クラッチへの通電制御もECU100により制御される構成となっている。従って、ECU100は、リアデフ330の駆動制御を介して、所望の後輪左右制駆動力差(ここでは、駆動力差である)Fを生じさせることが可能である。
【0081】
尚、リアデフ330の構成は、左右輪に所望の分配比率で駆動力(尚、トルクと駆動力とは一義的な関係にある)を分配可能な限りにおいて、ここに例示されるものに限定されず、公知非公知を問わず各種の態様を有し得る。いずれにせよ、このような左右駆動力配分作用は公知であり、ここでは、説明の煩雑化を防ぐ目的からここではその詳細については触れないこととする。
【0082】
VGRSアクチュエータ400は、ハウジング、VGRSモータ、減速機構及びロック機構(いずれも不図示)等を備えた操舵伝達比可変装置であり、本発明に係る「前輪舵角可変手段」の一例である。
【0083】
VGRSアクチュエータ400において、VGRSモータ、減速機構及びロック機構は、ハウジングに収容されている。このハウジングは、操舵入力手段としてのハンドル12に連結されたアッパーステアリングシャフト13の下流側の端部と固定されており、アッパーステアリングシャフト13と略一体に回転可能に構成されている。
【0084】
VGRSモータは、回転子たるロータ、固定子たるステータ及び駆動力の出力軸たる回転軸を有するDCブラシレスモータである。ステータは、ハウジング内部に固定されており、ロータは、ハウジング内部で回転可能に保持されている。回転軸は、ロータと同軸回転可能に固定されており、その下流側の端部が減速機構に連結されている。このステータには、不図示の電気駆動回路から駆動電圧が供給される構成となっている。
【0085】
減速機構は、差動回転可能な複数の回転要素を有する遊星歯車機構である。この複数の回転要素の一回転要素は、VGRSモータの回転軸に連結されており、また、他の回転要素の一は、前述のハウジングに連結されている。そして残余の回転要素が、ロアステアリングシャフト14に連結されている。
【0086】
このような構成を有する減速機構によれば、ハンドル12の操作量に応じたアッパーステアリングシャフト13の回転速度(即ち、ハウジングの回転速度)と、VGRSモータの回転速度(即ち、回転軸の回転速度)とにより、残余の一回転要素に連結されたロアステアリングシャフト14の回転速度が一義的に決定される。この際、回転要素相互間の差動作用により、VGRSモータの回転速度を増減制御することによって、ロアステアリングシャフト14の回転速度を増減制御することが可能となる。即ち、VGRSモータ及び減速機構の作用により、アッパーステアリングシャフト13とロアステアリングシャフト14とは相対回転可能である。尚、減速機構における各回転要素の構成上、VGRSモータの回転速度は、各回転要素相互間のギア比に応じて定まる所定の減速比に従って減速された状態でロアステアリングシャフト14に伝達される。
【0087】
このように、車両10では、アッパーステアリングシャフト13とロアステアリングシャフト14とが相対回転可能であることによって、アッパーステアリングシャフト13の回転量たるハンドル角δと、ロアステアリングシャフト14の回転量に応じて一義的に定まる(後述するラックアンドピニオン機構のギア比も関係する)操舵輪たる前輪舵角δとの比たる操舵伝達比が、予め定められた範囲で連続的に可変となる。
【0088】
尚、ロック機構は、VGRSモータ側のクラッチ要素とハウジング側のクラッチ要素とを備えたクラッチ機構である。両クラッチ要素が相互に係合した状態においては、アッパーステアリングシャフト13とVGRSモータの回転軸との回転速度が一致するため、必然的にロアステアリングシャフト14との回転速度もこれらと一致する。即ち、アッパーステアリングシャフト13とロアステアリングシャフト14とが直結状態となる。但し、ロック機構の詳細については、本発明との相関が薄いためここでは割愛する。
【0089】
尚、VGRSアクチュエータ400は、ECU100と電気的に接続されており、その動作はECU100により制御される構成となっている。
【0090】
車両10において、ロアステアリングシャフト14の回転は、ラックアンドピニオン機構に伝達される。ラックアンドピニオン機構は、ロアステアリングシャフト14の下流側端部に接続された不図示のピニオンギア及び当該ピニオンギアのギア歯と噛合するギア歯が形成されたラックバー15を含む操舵伝達機構であり、ピニオンギアの回転がラックバー15の図中左右方向の運動に変換されることにより、ラックバー15の両端部に連結されたタイロッド及びナックル(符号省略)を介して操舵力が各操舵輪に伝達される構成となっている。
【0091】
EPSアクチュエータ500は、永久磁石が付設されてなる回転子たる不図示のロータと、当該ロータを取り囲む固定子であるステータとを含むDCブラシレスモータとしてのEPSモータを備えた、本発明に係る「補助操舵トルク供給手段」の一例たる電子制御式パワーステアリング装置である。
【0092】
このEPSモータは、不図示の電気駆動装置を介した当該ステータへの通電によりEPSモータ内に形成される回転磁界の作用によってロータが回転することにより、その回転方向にEPSトルクTepsを発生可能に構成されている。
【0093】
一方、EPSモータの回転軸たるモータ軸には、不図示の減速ギアが固定されており、この減速ギアはまた、ロアステアリングシャフト14に設けられた減速ギアと直接的に又は間接的に噛合している。このため、本実施形態において、EPSモータから発せられるEPSトルクTepsは、ロアステアリングシャフト14の回転をアシストするトルクとして機能する。このため、EPSトルクTepsが、ハンドル12を介してアッパーステアリングシャフト13に与えられるドライバ操舵トルクMTと同一方向に付与された場合には、ドライバの操舵負担は、EPSトルクTepsの分だけ軽減される。
【0094】
尚、EPSアクチュエータ500は、ECU100と電気的に接続され、その動作がECU100により制御される、所謂電子制御式パワーステアリング装置であるが、車両10に備わるパワーステアリング装置は、油圧パワーステアリング装置であってもよい。
【0095】
車両10には、ハンドル角センサ16及び操舵トルクセンサ17が備わる。
【0096】
ハンドル角センサ16は、アッパーステアリングシャフト13の回転量を表すハンドル角δを検出可能に構成された角度センサである。ハンドル角センサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたハンドル角δは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0097】
操舵トルクセンサ17は、ドライバからハンドル12を介して与えられるドライバ操舵トルクMTを検出可能に構成されたセンサである。より具体的に説明すると、アッパーステアリングシャフト13は、上流部と下流部とに分割されており、図示せぬトーションバーにより相互に連結された構成を有している。係るトーションバーの上流側及び下流側の両端部には、回転位相差検出用のリングが固定されている。このトーションバーは、車両10のドライバがハンドル12を操作した際にアッパーステアリングシャフト13の上流部を介して伝達される操舵トルク(即ち、ドライバ操舵トルクMT)に応じてその回転方向に捩れる構成となっており、係る捩れを生じさせつつ下流部に操舵トルクを伝達可能に構成されている。従って、操舵トルクの伝達に際して、先に述べた回転位相差検出用のリング相互間には回転位相差が発生する。操舵トルクセンサ17は、係る回転位相差を検出すると共に、係る回転位相差を操舵トルクに換算してドライバ操舵トルクMTに対応する電気信号として出力可能に構成されている。操舵トルクセンサ17は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたドライバ操舵トルクMTは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0098】
尚、操舵トルクの検出方式は、この種のトーションバー方式に限定されず、他の方式が採用されてもよい。
【0099】
ECB600は、車両10の前後左右各輪に個別に制動力を付与可能に構成された、本発明に係る「制駆動力差可変手段」の他の一例たる電子制御式制動装置である。ECB600は、ブレーキアクチュエータ610並びに左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRに夫々対応する制動装置620FL、620FR、620RL及び620RRを備える。
【0100】
ブレーキアクチュエータ610は、制動装置620FL、620FR、620RL及び620RRに対し、夫々個別に作動油を供給可能に構成された油圧制御用のアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ610は、マスタシリンダ、電動オイルポンプ、複数の油圧伝達通路及び当該油圧伝達通路の各々に設置された電磁弁等から構成されており、電磁弁の開閉状態を制御することにより、各制動装置に備わるホイルシリンダに供給される作動油の油圧を制動装置各々について個別に制御可能に構成されている。作動油の油圧は、各制動装置に備わるブレーキパッドの押圧力と一対一の関係にあり、作動油の油圧の高低が、各制動装置における制動力の大小に夫々対応する構成となっている。
【0101】
ブレーキアクチュエータ610は、ECU100と電気的に接続されており、各制動装置から各車輪に付与される制動力は、ECU100により制御される構成となっている。
【0102】
車両10は更に、車載カメラ18及び車速センサ19を備える。
【0103】
車載カメラ18は、車両10のフロントノーズに設置され、車両前方の所定領域を撮像可能に構成された撮像装置である。車載カメラ18は、ECU100と電気的に接続されており、撮像された前方領域は、画像データとしてECU100に一定又は不定の周期で送出される構成となっている。ECU100は、この画像データを解析し、後述するLKA制御に必要な各種データを取得可能である。
【0104】
車速センサ19は、車両10の速度たる車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ19は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0105】
尚、車速センサ19に替えて、各車輪に付帯する車輪速センサからECU100が車速を算出する構成としてもよい。
【0106】
カーナビゲーション装置700は、車両10に設置されたGPSアンテナ及びVICSアンテナを介して取得される信号に基づいて、車両10の位置情報、車両10の周辺の道路情報(道路種別、道路幅、車線数、制限速度及び道路形状等)、信号機情報、車両10の周囲に設置された各種施設の情報、渋滞情報及び環境情報等を含む各種ナビゲーション情報を提供可能な装置である。カーナビゲーション装置700は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその動作状態が制御される構成となっている。
【0107】
ARSアクチュエータ800は、左後輪RL及び右後輪RRの舵角である後輪舵角δを、ハンドル12を介してドライバが与える操舵入力とは独立して変化させることが可能な、本発明に係る「後輪舵角可変手段」の一例たる後輪操舵用アクチュエータである。
【0108】
ARSアクチュエータ800は、ARSモータと減速ギア機構とを内蔵しており、このARSモータの駆動回路は、ECU100と電気的に接続されている。従って、ECU100は、この駆動回路の制御により、ARSモータの出力トルクであるARSトルクTarsを制御することが可能である。
【0109】
一方、減速ギアは、このARSモータのトルクを、減速を伴ってリアステアロッド20に伝達可能に構成されている。
【0110】
リアステアロッド20は、左後輪RL及び右後輪RRと、夫々ジョイント部材21RL及び21RRを介して連結されており、ARSトルクTarsによりリアステアロッド20が図示左右一方向に駆動されると、各後輪が一方向に転舵する構成となっている。
【0111】
尚、ARSアクチュエータ800は、回転運動をストローク運動に変換可能な直動機構を備えていてもよい。この種の直動機構が備わる場合、リアステアロッド20は、この直動機構の左右方向のストローク運動に応じて後輪の舵角を変化させてもよい。
【0112】
尚、後輪操舵装置の実践的態様は、後輪舵角δを所定の範囲で可変とし得る限りにおいて、図示ARSアクチュエータ800のものに限定されない。
【0113】
尚、本実施形態に係る車両10は、本発明に係る「少なくとも一つの装置」として、TRC300、VGRSアクチュエータ400、EPSアクチュエータ500、ECB600及びARSアクチュエータ800を備えるが、このような車両構成は、本発明に係る車両が採り得る構成の一例に過ぎない。例えば、車両は、これらのうち一部を備えるのみであってもよい。
<実施形態の動作>
次に、本実施形態の動作について説明する。
【0114】
<車両運動モデルに基づいた自動操舵制御の概要>
始めに、図2を参照して、車両運動モデルに基づいた自動操舵制御について説明する。ここに、図2は、自動操舵制御に係るECU100の制御ブロック図である。尚、自動操舵制御とは、後述する車両挙動制御において実行される、車両運動モデルに基づいた車両運動制御の一つであり、本発明に係る「自動操舵制御」の一例である。
【0115】
図2において、目標状態量演算部110、状態制御量演算部120及び異常検出部130は、夫々ECU100の一構成要素である。
【0116】
後述する自動操舵制御を含む、車両運動モデルに基づいた車両運動制御においては、目標状態量演算部110により、車両10の目標状態量が演算される。目標状態量とは、車両状態量の目標値である。自動操舵制御においては、車両状態量としての車体スリップ角β及びヨーレートγの独立制御によって、目標走行路への追従走行が実現され、また操舵反力トルクTsatがこれらと独立して制御される。
【0117】
ここで、ECU100は、先ず、車載カメラ18から送出される画像データや、カーナビゲーション装置700等から送出される路面データや位置データ等に基づいて、公知の各種手法の下に目標状態量を演算するための基礎情報を算出する。例えば、この際、目標体(例えば、白線)と車両10との横方向の偏差たる横方向偏差Y及び目標体と車両10とのヨー角偏差φ等が算出される。
【0118】
目標状態量演算部110は、これら基礎情報に基づいて、車両10を目標走行路へ追従させるために必要となる車両状態量の目標値として、目標ヨーレートγtg、目標車体スリップ角βtg及び目標操舵反力トルクTsattgを算出する。
【0119】
尚、これら目標状態量のうち、目標車体スリップ角βtg及び目標ヨーレートγtgは、夫々予めROM等の然るべき記憶手段に、上記基礎情報(ここでは、横方向偏差Y及びヨー角偏差φ)に対応付けられる形でマップ化されて格納されている。また、目標操舵反力トルクTsattgは、基本的にゼロに設定される。
【0120】
尚、目標操舵反力トルクTsattgがゼロであるとは、即ち、ハンドル12に操舵反力が一切戻って来ないことを意味し、手放し走行が可能となることを意味する。但し、目標操舵反力トルクTsattgは必ずしもゼロでなくてよく、ドライバに適切な操舵反力を擬似的に与えるべく適宜設定されていてもよい。
【0121】
目標状態量演算部110により設定された各目標状態量は、状態制御量演算部120に送出される。状態制御量演算部120は、設定された各目標状態量を、各車両状態量制御デバイスに対応する実際の状態制御量の目標値に置換する演算処理装置である。
【0122】
より具体的には、状態制御量演算部120は、EPSトルクTeps、前輪舵角δ及び後輪舵角δに夫々対応する目標EPSトルクTepstg、目標前輪舵角δftg及び目標後輪舵角δrtgを設定する。状態制御量演算部120は、公知の車両運動モデルに基づいて、状態制御量の目標値を設定する。
【0123】
ここで、自動操舵制御の制御対象となる車両状態量は三個であるから、車両運動モデルを成立させるために必要となる状態制御量もまた三個である。従って、本実施形態においては、通常、左右制駆動力差F(F=F+F)の目標値たる目標左右制駆動力差Fxtgはゼロに設定される。即ち、自動操舵制御においては通常、前後輪の舵角制御により車体スリップ角β及びヨーレートγが制御される。但し、これら前後輪の舵角のうち一方に替えて、前後輪いずれか一方の左右制駆動力差が使用されてもよい。
【0124】
状態制御量演算部120により各状態制御量の目標値が算出されると、各状態制御量に対応する車両状態量制御デバイスに各目標値に対応する制御信号が供給される。即ち、目標EPSトルクTepstgであればEPSアクチュエータ500、目標前輪舵角δftgであればVGRSアクチュエータ400、目標後輪舵角δrtgであればARSアクチュエータ800、左右制駆動力差F(或いは前輪左右制駆動力差F又は後輪左右制駆動力差F)であればECB600又はTRC300に制御信号が供給される。その結果、状態制御量の実変化により車両状態量(β、γ及びTsat)が目標値に維持され、車両挙動が目標挙動に維持される。
【0125】
一方、異常検出部130は、自動操舵制御の実行期間中において、一定の周期でVGRSアクチュエータ400及びARSアクチュエータ800が異常状態にあるか否かの判定処理を実行する。
【0126】
この際、異常検出部130は、各アクチュエータを駆動するにあたっての制御量(駆動電圧及び駆動電流)をモニタしており、それらが予め実験的に与えられた正常範囲にない場合に、異常状態にあることを示す異常判定フラグを設定する構成となっている。また、異常検出部130は、各アクチュエータのモータ温度を、各モータに付帯する温度センサから取得しており、取得した各アクチュエータのモータ温度に基づいて、これらが異常状態にあるか否かの判定を行う構成となっている。より具体的には、各モータに係るモータ温度が、予め実験的に与えられた基準温度を超えている場合、熱負荷が高いものとして、先の異常判定フラグが設定される構成となっている。
【0127】
<車両運動モデルの詳細>
ここで、車両運動モデルの詳細について説明する。尚、本実施形態に係る車両運動モデルにおいて使用される各モデル変数については、下記の通りである。
【0128】
s・・・ラプラス演算子
δ・・・前輪舵角
δ・・・後輪舵角
β・・・車体スリップ角
γ・・・ヨーレート
sat・・・操舵反力トルク(本実施形態では、セルフアライニングトルク)
τeps・・・キングピン軸回りEPSトルク
m・・・車両重量
I・・・ヨー慣性モーメント
l・・・ホイールベース
・・・車両重心から前軸までの前後方向距離
・・・車両重心から後軸までの前後方向距離
・・・前輪コーナリングフォース
・・・後輪コーナリングフォース
・・・フロントトレッド
・・・リアトレッド
・・・キャスタートレール+ニューマチックトレール
・・・キングピンオフセット
・・・前輪横力
・・・後輪横力
fl・・・左前輪駆動力
fr・・・右前輪駆動力
rl・・・左後輪駆動力
rr・・・右後輪駆動力
・・・前輪左右制駆動力差
・・・後輪左右制駆動力差
ここで、図3、図4及び図5を参照し、上記の各モデル変数を視覚的に説明する。ここに、図3は、車両運動モデルのモデル変数の定義に係る模式図である。また、図4は、車両運動モデルの他のモデル変数の定義に係る模式図である。更に、図5は、車両運動モデルの更に他のモデル変数の定義に係る模式図である。
【0129】
図3において、車両前後方向接線と、前輪の前後方向接線とのなす角度が、前輪舵角δである。同様に、車両前後方向接線と、後輪の前後方向接線とのなす角度が、後輪舵角δである。
【0130】
一方、車両10の速度方向(図示車速Vの方向)と車両前後方向接線とのなす角度が、車体スリップ角βである。この車体スリップ角βは、前後輪の舵角変化により重心G回りに生じたヨーモーメントIにより車両10が旋回することによって生じる角度である。
【0131】
図4には、左前輪FLにおけるキングピン軸回りのトルクの釣り合いが示される。
【0132】
タイヤ接地点Cに横力Y及び前輪駆動力差Fが作用している場合、左前輪FLには、舵角変化を相殺する方向にセルフアライニングトルクが発生する。このセルフアライニングトルクが、ハンドル12を操舵方向と反対方向に動かそうとする操舵反力トルクTsatとなる。
【0133】
この操舵反力トルクTsatを打ち消すためのトルクが、EPSトルクをキングピン軸(アッパーポールジョイントとロアポールジョイントとを結ぶ仮想の操舵軸線である)の仮想接地点KP回りのトルクに換算したキングピン軸周りEPSトルクτepsであり、このキングピン軸回りEPSトルクτepsを図示するようにキングピン軸回りに作用させることによって、操舵反力トルクTsatは相殺される。
【0134】
図5には、左前輪FLに左前輪駆動力Ffl、右前輪FRに右前輪駆動力Ffr、左後輪RLに左後輪駆動力Frl、右後輪RRに右後輪駆動力Frrが夫々作用している様子が示される。尚、ここでは、駆動力を例示したが、制動力についても作用方向が逆(図中下方)になるだけで同様である。
【0135】
この場合、前輪に作用する各駆動力と前輪左右制駆動力差Fとの間には、F=Ffr−Fflなる関係が成立する。同様に、後輪に作用する各駆動力と後輪左右制駆動力差Fとの間には、F=Frr−Frlなる関係が成立する。
【0136】
また、左右前輪の接地点間距離が前輪トレッドtであり、左右後輪の接地点間距離が後輪トレッドtである。
【0137】
次に、これらモデル変数を使用した車両運動モデルの実際の運用について説明する。
【0138】
車体スリップ角β、ヨーレートγ及び操舵反力トルクTsatと、前輪舵角δf、後輪舵角δr及びキングピン軸回りEPSトルクτepsとの関係は、公知の車両運動方程式から、下記(1)式の如くに規定される。
【0139】
【数1】

【0140】
ここで、上記(1)式におけるAは、下記(2)式により規定される行列であり、同じくBは、下記(3)式により規定される行列である。
【0141】
【数2】

【0142】
【数3】

【0143】
上記(1)式から、車体スリップ角β、ヨーレートγ及び操舵反力トルクTsatを実現するための前輪舵角δ、後輪舵角δ及びキングピン軸回りEPSトルクτepsは、最終的に、下記(4)式により表される。尚、B−1は、行列Bの逆行列である。
【0144】
【数4】

【0145】
自動操舵制御では、状態制御量演算部120が、目標状態量演算部110により算出された目標状態量(βtg、γtg及びTsattg)に対して、上記(4)式に基づいて状態制御量の目標値(δftg、δrtg及びτepstg)を算出する構成となっている。尚、キングピン軸回りEPSトルクτepsをEPSトルクTepsに換算するための演算ロジックは、状態制御量演算部120が予め保持しているものとする。
<車両挙動制御の詳細>
次に、図6を参照し、車両挙動制御の詳細について説明する。ここに、図6は、車両挙動制御のフローチャートである。
【0146】
図6において、ECU100は、車両10に備わる各種スイッチ類の操作信号、各種フラグ及び上記各種センサに係るセンサ信号等を含む各種信号を読み込み、予め車両10の車室内に設置された自動操舵制御選択用の操作ボタンがドライバにより操作される等した結果として自動操舵制御の実行が要求されているか否かを判別する(ステップS101)。自動操舵制御が要求されていない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
【0147】
自動操舵制御が選択されている場合(ステップS101:YES)、ECU100は、上述した車両運動モデルに基づいた自動操舵制御を開始する(ステップS102)。自動操舵制御が開始されると、ECU100は、自動操舵制御の終了条件が満たされるか否かを判定し(ステップS103)、終了条件が満たされない限り(ステップS103:NO)、自動操舵制御を継続する。
【0148】
尚、自動操舵制御の終了条件が様々であり、一意に限定されない。例えば、自動操舵制御は、ドライバが自動操舵制御の終了を要求する旨の操作を上述した操作ボタンを介して行った場合に終了される。また、ドライバがハンドル12に然るべきドライバ操舵トルクを加えた場合(即ち、オーバーライド操作がなされた場合)に終了される。或いは、先述した異常検出部130が、自動操舵制御に使用されるVGRSアクチュエータ400或いはARSアクチュエータ800の異常を検出した場合に終了される。
【0149】
自動操舵制御の終了条件が満たされる場合(ステップS103:YES)、ECU100は、移譲準備処理を実行する(ステップS200)。
【0150】
ここで、移譲準備処理とは、自動操舵制御からドライバ操舵への操舵形態切り替え過渡期において、ドライバに操舵主権が移譲された直後に発生するドライバの違和感を緩和する処理であり、より具体的には、自動操舵制御の制御対象であり且つハンドル角δに相関する一の車両状態量(ここでは、ヨーレートγであるとする)について、自動操舵制御により生じた第1ヨーレート(即ち、本発明に係る「第1状態量」の一例)と、実際のハンドル角δに対して生じるべき第2ヨーレート(即ち、本発明に係る「第2状態量」の一例)とを一致させる処理である。
【0151】
ここで、図7を参照し、移譲準備処理の詳細について説明する。ここに、図7は、移譲準備処理のフローチャートである。
【0152】
図7において、ECU100は、先ず、自動操舵制御の制御対象となる車両状態量の目標値、即ち、目標車体スリップ角βtgと、目標ヨーレートγtgとを読み込む(ステップS201)。各目標値を読み込むと、ECU100は、読み込んだ目標ヨーレートγtgに基づいて、移譲時必要ハンドル角δhtgを算出する(ステップS202)。
【0153】
移譲時必要ハンドル角δhtgとは、ドライバの操舵意思を反映した通常の操舵形態であるドライバ操舵において、その時点の自動操舵制御の目標ヨーレートγtg(第1ヨーレート)を発生させるために必要となるハンドル角である。
【0154】
ハンドル角を第1ヨーレートに対応する移譲時必要ハンドル角δhtgに制御すれば、ハンドル角に応じて生じるべき第2ヨーレートは必然的に第1ヨーレートと一致する。即ち、移譲時必要ハンドル角δhtgを実現するための制御は、本発明に係る「第2状態量を第1状態量に一致させる」旨の制御の一例である。
【0155】
移譲時必要ハンドル角δhtgを算出すると、ECU100は、異常検出部130によりVGRSアクチュエータ400又はARSアクチュエータ800の異常が検出されているか否かを判定する(ステップS203)。
【0156】
自動操舵制御に使用されるこれらアクチュエータのうち少なくとも一方が異常状態にある場合(ステップS203:YES)、ECU100は、車両状態量制御に供し得る装置のうち、その時点で使用されていない残余の装置(即ち、ここでは、TRC300又はECB600)の中から代替装置を選択する(ステップS204)。
【0157】
尚、TRC300とECB600は、いずれも前輪左右制駆動力差F及び後輪左右制駆動力Fを生じさせ得る装置であるから、一方のアクチュエータが異常状態にある場合、いずれが選択されてもよい。但し、前輪左右制駆動力差Fと後輪左右制駆動力差Fとのうちいずれを代替的状態制御量として使用するかについては、後述する車両状態量一致化に要する状態制御量が最小となる一方が選択される。このような、車両状態量一致化に要する状態制御量が最小となる装置の情報は、自動操舵制御の制御対象となる状態制御量の種類と、使用される装置の組み合わせとに応じて、予め実験的に、経験的に又は理論的に決定されており、ROMに制御情報として格納されている。
【0158】
代替装置が選択されるか、或いはステップS203において、いずれのアクチュエータも異常状態にないと判定された場合(ステップS203:NO)、ECU100は、自動操舵制御に係る目標車両状態量(βtg、γtg及びTsattg)と移譲時必要ハンドル角δhtgとを実現するための制御量を演算する(ステップS205)。
【0159】
制御量の演算が行われると、車両状態量(ここでは、ヨーレートγ)の一致化が行われる(ステップS206)。即ち、ハンドル角δが、目標値である移譲時必要ハンドル角δhtgへ向けて制御される。尚、車両状態量の一致化については、後に図8及び図9を参照する形で視覚効果を交えて詳述する。
【0160】
車両状態量の一致化が開始されると、ECU100は、車両状態量の一致化が開始された旨をドライバに報知する(ステップS207)。ドライバへの報知がなされると、移譲準備処理は終了する。
【0161】
尚、この報知は、例えば、カーナビゲーション装置700に備わるインフォメーションディスプレイに、例えば「自動操舵制御を終了させるためハンドル角を調整中です」等の文字情報が表示され、同様に音声スピーカから「ハンドル操作の準備をして下さい」等の音声情報が出力されること等によってなされてもよい。或いは、この報知は、メータパネル等に付設されたMIL(Multi Information Lamp)等を単に点灯させるのみであってもよい。
【0162】
図6に戻り、移譲準備処理が終了すると、ECU100は、ハンドル角偏差Δδの絶対値が、予め設定された基準値A未満であるか否かを判定する(ステップS104)。尚、ハンドル角偏差Δδとは、移譲時必要ハンドル角δhtgと実際のハンドル角δhとの偏差である。
【0163】
ハンドル角偏差Δδの絶対値が基準値A以上である場合(ステップS104:NO)、ECU100は、移譲準備処理を再度実行し、ハンドル角偏差Δδが基準値A未満となるまで、移譲準備処理を繰り返す。
【0164】
一方、ハンドル角偏差Δδが基準値A未満にまで縮小すると(ステップS104:YES)、ECU100は、自動操舵制御を終了し、操舵主権(ハンドルの操作権)をドライバに移譲する(ステップS105)。操舵主権がドライバに移譲されると、操舵形態はドライバ操舵に切り替わり、処理はステップS101に戻される。車両挙動制御はこのように実行される。
【0165】
尚、基準値Aは、第1ヨーレートと第2ヨーレートとの差が、ドライバの感覚上大きな違和感として現れないものとして事前に決定された適合値である。ハンドル角偏差Δδの絶対値が基準値A以上である場合に限ってステップS206に係る車両状態量の一致化が図られることにより、操舵主権移譲時における違和感、不快感或いは不安感の発生を確実に回避しつつ、エネルギ資源の無駄な消費が防止される。
【0166】
ここで、図8及び図9を参照し、移譲準備処理の効果について説明する。ここに、図8は、移譲準備処理の効果に係り、車両10の運動状態を概念的に表した図である。また、図9は、移譲準備処理の効果に係り、車両10の他の運動状態を概念的に表した図である。尚、これら各図において、既出の図面と重複する箇所には相互に同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0167】
図8は、移譲準備処理の効果を分かり易くするため、自動操舵制御として、VGRSアクチュエータ400を使用した前輪舵角δの制御を介して車両10のヨーレートγのみを目標値に維持する旨の制御が実行されている場合が示される。
【0168】
尚、VGRSアクチュエータ400は、先述したようにアッパーステアリングシャフト13とロアステアリングシャフト14とを相対回転させるアクチュエータであり、元より操舵反力トルクTsatに抗し得る程度に大きいトルクの供給を前提としていない。従って、前輪舵角δを目標値へ向けて変化させようとすると、現実的には操舵反力トルクTsatによりハンドル12が逆方向へ操舵されるといった現象が生じ得る。この点に鑑み、ヨーレートγのみの制御とは言え、キングピン軸回りEPSトルクτepsによる操舵反力トルク相殺に係る制御は実行されている。即ち、厳密に言えば、図8は、ヨーレートγと操舵反力トルクTsatとを独立に制御する二自由度の自動操舵制御に関する運動状態を表したものである。
【0169】
図8(a)は、ハンドル角δ=0の状態で、ゼロでない前輪舵角δが与えられている状態を表している。この状態では、車両10には図示矢線方向にヨーレートγが生じている。自動操舵制御は、元よりドライバの操舵意思から独立した制御であるから、このようにハンドル角δ=0の状態でヨーレートγが生じていてもドライバの感覚上何らの問題もない。
【0170】
ところが、図8(a)の状態でドライバに操舵主権を移譲してしまうと、ドライバが自身の意思で保舵するハンドル12のハンドル角δがゼロであるにもかかわらず、車両10がヨー運動を行っていることとなるため、ドライバの感覚としては、著しい違和感、不快感或いは不安感を生じることとなる。
【0171】
この違和感は、ドライバ操舵制御において、この時点のハンドル角δ(δ=0)に対し生じるべき第2ヨーレート(即ち、ゼロ)と、自動操舵制御によりこの時点で生じている第1ヨーレート(図示矢線に相当するゼロでないヨーレート)とが一致していないことに起因する。
【0172】
そこで、移譲準備処理におけるステップS205(制御量演算)においては、この図示矢線に相当するヨーレートに対応する移譲時必要ハンドル角δhtgが算出され、また、ハンドル角δをこの算出された移譲時必要ハンドル角δhtgに収束させつつ、目標状態量としての図示矢線相当のヨーレートを維持する前輪舵角δが算出される。
【0173】
続いて、ステップS206(状態量一致化)において、この算出された制御量に基づいて、然るべき装置が駆動制御され、ハンドル角δが、移譲時必要ハンドル角δhtgと基準値Aとにより規定される許容範囲内に収束せしめられるのである。この状態が、図8(b)に示される。
【0174】
図8(b)には、ハンドル12が右旋回方向に操舵され、車両10に右旋回方向のヨーレートが生じている状態が示される。この状態でドライバに操舵主権が移譲された場合には、ドライバに違和感、不快感或いは不安感が生じることはない。即ち、ドライバビリティの低下が防止されるのである。
【0175】
尚、図8の車両運動においては、図8(a)の状態から図8(b)の状態へ車両状態を移行させるにあたって、VGRSアクチュエータ400において、自動操舵制御に必要な制御量(ハンドル角δに足し込まれるロアステアリングシャフトの相対回転量)がゼロとされる。そのため、ハンドル12は、その時点の前輪舵角δに対応する通常のハンドル角まで回転し、状態量の一致化が終了する。
【0176】
尚、その時点で自動操舵制御により生じているヨーレートに対応する、的確なハンドル角δは、予め実験的に、経験的に又は理論的に、車速Vや路面摩擦μ等との関係をパラメータとして制御マップ化されており、ROMに格納されている。
【0177】
図8では、移譲準備処理の効果を分かり易くするために、先に説明した車体スリップ角βを含む三自由度の車両運動制御ではなく車体スリップ角βを含まない二自由度の車両運動制御とした。しかしながら、車体スリップ角βが含まれる場合であっても、ARSアクチュエータ800を介した後輪舵角δの制御を介在させれば、既に述べた車両運動モデルに従って、状態量の一致化を何ら変わり無く実行することができる。
【0178】
また、ハンドル角δと最も相関が高い車両状態量は、ヨーレートγを始めとするヨー挙動状態量であり、車体スリップ角βは、ヨーレートγ程には、ハンドル角δとの関係が違和感の原因とはならない。
【0179】
次に、図9について説明する。
【0180】
図9は、図8よりも複雑な車両運動下における移譲準備処理の効果を説明するものである。図9では、自動操舵制御として、本実施形態において説明した、前輪舵角δ、後輪舵角δ及びキングピン軸周りEPSトルクτepsを状態制御量として車体スリップ角β、ヨーレートγ及び操舵反力トルクTsatを独立に制御する三自由度の車両運動制御が行われている状態が示される。
【0181】
ここで特に、図9では、ARSアクチュエータ800が異常状態であるとする。即ち、ARSアクチュエータ800により本来可制御であるはずの後輪舵角δは、ある時点の目標後輪舵角のまま固定されている。尚、ARSアクチュエータ800が異常状態に陥ったことにより、自動操舵制御の終了条件が満たされたものとする。
【0182】
図9(a)には、ゼロでない車体スリップ角β及びハンドル角δにおいて、車両10が直進している状態(即ち、γ=0の状態)が示される。
【0183】
ここで、自動操舵制御により生じている第1ヨーレート(第1状態量)がゼロであることに鑑みれば、移譲時必要ハンドル角δhtgもまたゼロであり、図8と同様の過程を辿れば、ハンドル角δを図中右旋回方向に切り戻して、ハンドル角δ=0を実現する必要がある。
【0184】
ところが、ハンドル角δ=0とすべくVGRSアクチュエータ400をハンドル切り戻し側に駆動制御すると(図9(b))、後輪舵角δrが可制御性を失っていることから、車両10に図示矢線方向のヨーレートが生じてしまう。その結果、結局、図示矢線に相当する第1ヨーレートと、ハンドル角δhに対応する第2ヨーレート(即ち、ゼロ)とが乖離して、操舵主権移譲時における違和感を払拭することができない。
【0185】
そこで、移譲準備処理における代替装置選択プロセス(ステップS204)により、ARSアクチュエータ400に代替すべき代替装置が選択される。
【0186】
代替装置としてVGRSアクチュエータ400が使用された状態が図9(c)に例示され、TRC300又はECB600が使用された状態が図9(d)に例示される。
【0187】
図9(c)において、VGRSアクチュエータ400が使用される場合、ハンドル12が中立点に戻された後に、ヨーレートγ=0を実現するための制御量に従って、前輪舵角δfのみが図示破線方向に転舵される。その結果、自動操舵制御に係る第1ヨーレートと、ハンドル角δh(δh=0)により生じるべき第2ヨーレートとがγ=0で一致化され、操舵主権移譲時における違和感、不快感及び不安感の発生が防止される。
【0188】
図9(d)において、TRC300又はECB600が使用される場合、ハンドル12が中立点に戻された後に、ヨーレートγ=0を実現するための制御量に従って、前輪左右制駆動力差Ffが図示破線の如くに与えられる。その結果、図9(b)の矢線相当のヨーレートが、この前輪左右制駆動力差Fによる図中左旋回方向のヨーモーメントにより打ち消され、車両10は、図示実線方向へ直進する。その結果、自動操舵制御に係る第1ヨーレートと、ハンドル角δ(δ=0)により生じるべき第2ヨーレートとがγ=0で一致化され、操舵主権移譲時における違和感、不快感及び不安感の発生が防止される。
【0189】
図9(c)及び図9(d)に例示した移譲準備処理は、最終的に、自動操舵制御により生じるヨーレートをハンドル角により生じるべきヨーレートに一致させる処理であり、本発明に係る「第1状態量を第2状態量に一致させる」旨の制御の一例である。
【0190】
尚、図9(c)及び図9(d)は、いずれも車両10が直進する様子を表すものであるが、車両10の進行方向(即ち、車体スリップ角β)は異なっている。ハンドル角δ=0に真に対応する直進状態は、図9(d)であり、これは、前輪舵角δと前輪左右制駆動力差Fとの二種類の状態制御量に可制御性が付与された結果である。一方、図9(c)では、可制御な状態制御量は結局前輪舵角δのみとなるため、第1ヨーレートと第2ヨーレートとの一致を図るべくヨーレートγを制御対象としてしまうと、車体スリップ角βを独立して制御することができないのである。但し、ハンドル角δと車体スリップ角βとの関係は、ドライバに与える心理的負担の面からは重要でなく、図9(c)及び図9(d)のいずれであっても、ドライバへの操舵主権移譲時における違和感、不快感或いは不安感の発生は好適に防止される。
【0191】
尚、前輪左右制駆動力差F或いは後輪左右制駆動力差Fにより車両状態量を制御するにあたっての車両運動モデルに関しては、説明されていないが、前輪舵角δ、後輪舵角δ、前輪左右制駆動力差F、後輪左右制駆動力差F及びキングピン軸回りEPSトルクτepsを状態制御量と、車体スリップ角β、ヨーレートγ及び操舵反力トルクTsatからなる車両状態量との関係は、下記(5)式に示す車両運動モデルの基本式から、適宜導出可能である。
【0192】
【数5】

【0193】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の挙動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明は、車両状態量をドライバ操舵と独立に制御可能な車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0195】
FL、FR、RL、RR…車輪、10…車両、11…プロペラシャフト、12…ハンドル、13…アッパーステアリングシャフト、14…ロアステアリングシャフト、15…ラックバー、16…操舵角センサ、17…操舵トルクセンサ、100…ECU、200…エンジン、300…TRC、310…センターデファレンシャル機構、320…フロントデファレンシャル機構、330…リアデファレンシャル機構、400…VGRSアクチュエータ、500…EPSアクチュエータ、600…ECB、610…ブレーキアクチュエータ、620FL、620FR、620RL、620RR…制動装置、800…ARSアクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの操舵から独立して車両状態量を変化させることが可能な少なくとも一つの装置を備えた車両の挙動を制御する車両の挙動制御装置であって、
前記少なくとも一つの装置のうちの少なくとも一つである対象装置を介して、前記車両状態量を目標状態量に収束させるための自動操舵制御を実行する自動操舵制御実行手段と、
ハンドル角を検出するハンドル角検出手段と、
前記自動操舵制御がドライバの操舵に応じたドライバ操舵へ切り替わる場合に、前記ドライバ操舵において前記ハンドル角と相関する一の前記車両状態量について、前記自動操舵制御により生じた第1状態量と、前記検出されたハンドル角に対し生じるべき第2状態量とが一致するように、前記少なくとも一つの装置を制御する状態量一致化手段と
を具備することを特徴とする車両の挙動制御装置。
【請求項2】
前記一の車両状態量はヨーレートである
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項3】
前記状態量一致化手段は、前記第2状態量を前記第1状態量に一致させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項4】
前記状態量一致化手段は、前記第1状態量を前記第2状態量に一致させる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項5】
前記状態量一致化手段は、前記第1状態量と前記第2状態量との偏差に応じて、前記第1状態量と前記第2状態量とを一致させる度合いを変化させる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項6】
前記第1状態量と前記第2状態量とを一致させていることをドライバに報知する報知手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項7】
前記自動操舵制御が前記ドライバ操舵へ切り替わる場合において前記対象装置の少なくとも一つが異常状態にある場合に、前記少なくとも一つの装置のうち前記対象装置を除く残余の装置の中から、前記異常状態にある少なくとも一つに代替させるべき代替装置として、前記第1状態量と前記第2状態量とを一致させる際に必要となる状態制御量が最小となる装置を選択する選択手段を更に具備し、
前記自動操舵制御実行手段は、前記選択された代替装置を使用して前記自動操舵制御を継続する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項8】
前記少なくとも一つの装置は、前輪舵角を変化させることが可能な前輪舵角可変手段、後輪舵角を変化させることが可能な後輪舵角可変手段、ドライバの操舵トルクを補助する補助操舵トルクを供給可能な補助操舵トルク供給手段及び左右輪の制駆動力を変化させることが可能な制駆動力差可変手段のうち少なくとも一つを含む
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の車両の挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−232676(P2012−232676A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102866(P2011−102866)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】