説明

車両の駆動力制御装置

【課題】ドライバーの加速期待をエンジン回転数の増加により検知し、これに応じた目標駆動力の増加補正により、ドライバーの加速期待に応え得る効果的な「伸び感」を演出可能な車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】ドライバーの要求に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段1に対し、アクセル操作量および車速に基づいて車速制御分目標駆動力を生成する車速制御分目標駆動力生成部1aと、エンジン回転数の増加に合わせて増加する値であるエンジン回転補正率を算出するエンジン回転補正率演算部1bと、上記車速制御分目標駆動力およびエンジン回転補正率との乗算により回転補正付き目標駆動力を求める目標駆動力合成部1cとを設ける。エンジン回転数の増加時、これに合わせて車速制御分目標駆動力が増加補正されるため、エンジン回転数の増加によりドライバーの加速期待を検知して、この加速期待に応え得る効果的な「伸び感」を演出可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバーの要求に応じた車両の目標駆動力を求め、この求められた目標駆動力を、エンジンから駆動輪に至る駆動系の実駆動力制御により実現する車両の駆動力制御装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動力制御装置としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られていて、この特許文献1には、アクセル操作量と車速によるマップ検索にて車速制御分目標駆動力を生成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−78620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この従来構成では、エンジン回転の変化とは無関係にアクセル操作量と車速に応じて目標駆動力が生成されるため、
エンジン回転の増加によりドライバーが加速感の期待を持っても、ドライバーの加速期待に応えられない。
すなわち、ドライバーは、アクセル操作による加速感の高まりを、エンジン回転の増加により感じる。
従って、このエンジン回転の増加に応じた加速度の変化を実現しなければ、ドライバーの期待する加速感は得られない。
【0005】
本発明の目的は、ドライバーの加速期待をエンジン回転数の増加により検知し、これに応答した目標駆動力の増加補正により効果的な「伸び感」の演出を行うことで、ドライバーの加速期待に応える発進加速性や追い越し加速性を得ることができる車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明による車両の駆動力制御装置は、
アクセル操作量と車速とに基づいて、ドライバーの要求に応じた車速制御分目標駆動力を生成する車速制御分目標駆動力生成部と、
エンジン回転数に基づき、エンジン回転数の増加に合わせて増加する値であるエンジン回転補正率を算出するエンジン回転補正率演算部と、
上記車速制御分目標駆動力と上記エンジン回転補正率とに基づいて回転補正付き目標駆動力を求める目標駆動力合成部とを具備した構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明にあっては、駆動力制御の最終的な目標駆動力を生成するにあたり、ドライバーの加速期待をエンジン回転数の増加により検知し、エンジン回転数の増加時には、目標駆動力を増加補正することとなり、効果的な「伸び感」の演出を行うことで、ドライバーの加速期待に応える発進加速性や追い越し加速性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施例の車両の駆動力制御装置を示す全体図である。
【図2】従来例の概念図である。
【図3】従来例における発進加速時の目標駆動力マップトレース線図である。
【図4】従来例において目標駆動力の設定により「伸び感」の演出を行った例を示す目標駆動力マップトレース線図である。
【図5】第1実施例の装置において、発進加速時のドライバーのアクセル操作量と、エンジン回転数と、エンジン回転補正率と、加速度との時系列波形を示す図である。
【図6】第1実施例装置において、追い越し加速時のドライバーのアクセル操作量と、エンジン回転数と、エンジン回転補正率と、加速度との時系列波形を示す図である。
【図7】第2実施例の装置に適用される目標駆動力演算手段を示すブロック図である。
【図8】第2実施例の装置において、追い越し加速時のドライバーのアクセル操作量と、エンジン回転数と、エンジン回転補正率と、加速度との時系列波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明による車両の駆動力制御装置を実現する実施の形態を、請求項1,2に記載された発明に対応する第1実施例と、請求項1,2,3に記載された発明に対応する第2実施例とに基づいて説明する。
【0010】
(第1実施例)
まず、構成を説明する。
第1実施例の駆動力制御装置は、図1の全体図に示すように、ドライバーの要求に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段1を有し、求められた最終的な回転補正付き目標駆動力を実現する装置である。
【0011】
この車両の駆動力制御装置において、前記目標駆動力演算手段1の入力情報を得る手段として、アクセル操作量検出手段2と、車速検出手段3と、エンジン回転数検出手段4と、変速比検出手段5とを設けている。
【0012】
ここで駆動力制御は、エンジンやモータ等の駆動源の駆動出力制御や、駆動源に連結して設けられた変速機の変速比制御や、駆動源出力制御と変速比制御との併用など、駆動輪に入力される駆動力を制御することにより行われる。
【0013】
前記目標駆動力演算手段1は、例えば、車載のマイクロコンピュータによるエンジンコントローラに目標駆動力演算プログラムとして組み込まれたり、トラクションコントローラに目標駆動力演算プログラムとして組み込まれる。
【0014】
前記アクセル操作量検出手段2としては、アクセルペダルへの操作量を検出するアクセル操作量センサ等が用いられる。
【0015】
前記車速検出手段3としては、変速機出力軸回転センサや車輪速センサ等が用いられる。
【0016】
前記エンジン回転数検出手段4としては、クランク角センサやエンジン回転数センサ等が用いられる。
【0017】
前記変速比検出手段5としては、自動変速機の場合、タービン回転センサと変速機出力回転センサからのセンサ信号とに基づき、変速機の入出力回転数比を演算により求める変速比演算手段等が用いられる。
【0018】
前記目標駆動力演算手段1は、図1に示すように、車速制御分目標駆動力生成部1aと、エンジン回転補正率演算部1bと、目標駆動力合成部1cと、を有して構成されている。
【0019】
前記車速制御分目標駆動力生成部1aは、従来の目標駆動力生成と同様に、アクセル操作量の絶対値と、車速とに基づき、主に車速に関連して定められる定速走行状態での走行抵抗から決まるアクセル操作量−収束車速特性によって、車速制御分目標駆動力(=定常分目標駆動力)を生成する。
【0020】
前記エンジン回転補正率演算部1bは、エンジン回転数と変速比とに基づき、エンジン回転数の増加に合わせて増加する値であると共に、変速比が大きい(変速比がLow側)ほど増加する値のエンジン回転補正率を算出する。
【0021】
前記目標駆動力合成部1cは、車速制御分目標駆動力生成部1aからの車速制御分目標駆動力と、エンジン回転補正率演算部1bからのエンジン回転補正率とを掛け合わせることにより、最終的な回転補正付き目標駆動力を求める。
【0022】
次に、作用を説明する。
【0023】
[従来例の駆動力制御作用]
図2に従来例の駆動力制御装置の概念図を示す。
この従来例は、アクセル操作量と車速によるマップ検索にて車速制御分目標駆動力を生成する。
【0024】
この従来例にて発進加速時のドライバーのアクセル操作方法と目標駆動力の関係を考えてみる。
加速シーンにおいては、アクセル踏み込み操作を行い、その後、アクセル操作量を一定に保つ。
このときの目標駆動力の軌跡は、図3の太実線特性に示すように、最初のアクセル踏み込み操作により目標駆動力が増加し、次にアクセル操作量が一定に保たれたところで、加速による車速の増加に伴って、目標駆動力は徐々に減少していくことになる。
【0025】
一般に、エンジン回転数の増加に伴って、駆動力は減少させずに、駆動力を一定に保つか、駆動力をやや増加するぐらいの方が、良好な加速フィーリングが得られる。
【0026】
しかし、これを実現するため、アクセル操作量に対する目標駆動力特性を、図4のa線のように作ることはあり得ない。
なぜならば、アクセル操作量に対する目標駆動力特性は、ある車速の走行抵抗に相当する駆動力に収束するように作らなければならない。
もし、そうでなければ、走行抵抗と拮抗することなく、アクセルの戻し操作無しでは、何処までも加速してゆく車両特性となるため、車速の維持するための制御のし易さ、定速走行性が悪化するし、また、加速フィーリングの面からも、変速機のアップシフト等により、エンジン回転数の増加が収まると共に、ドライバーはやがて加速が落ち着いてくることを期待しているので、必ずしも加速感が良い、という評価はされない。
【0027】
この矛盾を解決するために、ドライバーの加速要求を検知して、「伸び感」演出の有り無しを切り分け、それぞれに適用な目標駆動力特性を与える、という検討は多くなされている。
【0028】
しかし、この方法では、ドライバーの加速要求を厳密に捉える必要があるが、このことは非常に困難である。
また、間違ったときのリスクを考えると、十分な補正ができない。
したがって、でき得るならば、何らかのトリガをもって、切り替えの発生することの無いシステムであることが望ましい。
【0029】
以上説明したように、エンジン回転数の増加に応じて加速度が変化しない従来例では、エンジン回転数の増加によりドライバーが加速感の期待を持っても、ドライバーの加速期待に応えられない。
【0030】
[本発明における目標駆動力の補正の考え方]
そこで、目標駆動力を補正することを考えると、まず、ドライバーは、エンジン回転数の増加に対して加速期待を持つ。
よって、これを実現するために、エンジン回転数をトリガとし、エンジン回転数の増加に伴って、ベースとなる車速制御分目標駆動力を増大補正させればよい。
【0031】
また、「伸び感」の演出に最も効果的なエンジン回転数は、
(1)加速期待が小さい領域では、「伸び感」は必要ない、
(2)エンジン出力の限界領域では、補正をすることができない、
ことを考えると、特定の領域に限られる。
【0032】
したがって、あらゆる車速条件で、「伸び感」を適切に演出するためには、このエンジン回転補正率特性に対して、車速条件、或いは、車速とエンジン回転数の関係で決まるもの、例えば、変速比に対する条件を設定する必要がある。
【0033】
よって、図1に示すように、エンジン回転数と変速比をパラメータとし、このエンジン回転数に対するエンジン回転補正率を設定するとき、エンジン回転数が高く、かつ、変速比がLow側にあるときには、加速期待が強いと考えられるから、エンジン回転補正率演算部1bにて算出されるエンジン回転補正率は大きくなる。
【0034】
また、エンジン回転数が低く、かつ、変速比がHigh側にあるときは、加速期待が弱いと考えられるから、エンジン回転補正率演算部1bにて算出されるエンジン回転補正率は小さくなる。
【0035】
[発進加速時]
発進加速時、ドライバーがステップ的なアクセル踏み込み操作を行うと(図5のアクセル操作量特性)、少し遅れて車両の加速度が急勾配で上昇し(図5の加速度特性)、この加速度上昇とほぼ符合してエンジン回転数が上昇し始める(図5のエンジン回転数特性)。
【0036】
その後、ドライバーがアクセル踏み込み操作量を一定に保つと、発進加速の場合、エンジン回転数はゆっくりと時間を掛けて増加する(図5のエンジン回転数特性)。
【0037】
エンジン回転数が増加すると、エンジン回転数の増加に合わせてエンジン回転補正率演算部1bにて上昇するエンジン回転補正率が設定され(図5のエンジン回転補正率特性)、目標駆動力を高める補正が行われることにより「伸び感」の演出が行われる。
【0038】
ちなみに、目標駆動力を補正することなく、車速制御分目標駆動力生成部1aのみで目標駆動力を生成するようにした場合、
加速するにしたがって、徐々にベースの目標駆動力が減少するため、車両の加速が鈍る(図5の点線による加速度特性)。
【0039】
車両の加速が十分に行われ、変速機により、変速比がよりHigh側に設定されると、エンジンの回転数は急激に低下し、これに伴ってエンジン回転補正率演算部1bにて設定されるエンジン回転補正率は小さくなり、「伸び感」の演出が行われないようになる。
【0040】
このように、発進加速時は、エンジン回転数が上昇する領域において、エンジン回転補正率演算部1bでの補正分により車両の加速度が高められ、図5の点線特性に示す補正のない目標駆動力による車両の加速度特性と、図5の実線特性に示す補正を加えた目標駆動力による車両の加速度特性との間のハッチングで示す領域により表される「伸び感」が演出され、ドライバーの加速期待に応えた良好な発進加速フィーリングを得ることができる。
【0041】
[追い越し加速時]
追い越し加速に際し、定車速走行状態からドライバーがステップ的なアクセル踏み込み操作を行うと(図6のアクセル操作量特性)、アクセル踏み込み操作に対応し、変速機が変速比をLow側に設定する、いわゆるダウン変速を伴う。
【0042】
このダウン変速に伴いエンジン回転数が急激に増加し(図6のエンジン回転数特性)、このエンジン回転数の急増に合わせてエンジン回転補正率演算部1bにて急増するエンジン回転補正率が設定され(図6のエンジン回転補正率特性)、目標駆動力を高める補正が行われる。
【0043】
このように、追い越し加速時は、ダウン変速によるエンジン回転数の急上昇に伴い、エンジン回転補正率演算部1bでの補正分により車両の加速度が大きく高められることになり、追い越し加速初期に大きな加速感を得たいドライバーにとっては、加速要求を満足する高い初期加速性を得ることができる。
【0044】
次に、効果を説明する。
第1実施例の車両の駆動力制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0045】
(1) ドライバーの要求に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段1を有する車両の駆動力制御装置において、
前記目標駆動力演算手段1は、
アクセル操作量および車速に基づいて車速制御分目標駆動力を生成する車速制御分目標駆動力生成部1aと、
エンジン回転数に基づき、エンジン回転数の増加に合わせて増加する値であるエンジン回転補正率を算出するエンジン回転補正率演算部1bと、
前記車速制御分目標駆動力と前記エンジン回転補正率とを掛け合わせて回転補正付き目標駆動力を求める目標駆動力合成部1cとを具備するため、
ドライバーの加速期待をエンジン回転数の増加により検知し、車速制御分目標駆動力の増加補正により効果的な「伸び感」の演出を行うことで、ドライバーの加速期待に応える発進加速性や追い越し加速性を得ることができる。
なお、目標駆動力に代え、目標駆動力を実現するためのエンジンの目標出力をエンジン回転数等の増加に合わせて補正するようにしても良い。
【0046】
(2)アクセル操作による加速感の高まりをエンジン回転数の増加により感じるドライバーの加速期待が反映された駆動力制御を行うことができる。
なお、電気自動車の場合、エンジン回転数に代え、車両駆動用モータ回転数を用いる。
また、これらの回転数に、補機駆動用モータ回転数を加えても良い。
【0047】
(3) 目標駆動力の増加補正に際し、生成されている車速制御分目標駆動力に掛け合わせるためのエンジン回転補正率をエンジン回転補正率演算部1bで算出してこれを用いるため、
ベースとなる車速制御分目標駆動力の大きさに対する比率により、増加する目標駆動力補正量が算出され、ベースとなる車速制御分目標駆動力の大きさにかかわらず最適な目標駆動力補正量の算出を行うことができる。
ちなみに、算出された一定の補正量を加算することにより目標駆動力を増加するようにした場合、
ベースとなる車速制御分目標駆動力が低い場合には補正量が過大になったり、また、ベースとなる車速制御分目標駆動力が高い場合には補正量が過小となってしまうことがある。
【0048】
(4) エンジン回転補正率演算部1bは、補正情報として、エンジン回転数に加え、変速比を用い、変速比が大きいほどエンジン回転補正率を大きくするようにしたため、
あらゆる車速条件で「伸び感」を適切に演出することができる。
なお、変速比に代え、車速を用い、車速が低いほどエンジン回転補正率を大きくするようにしても同様に効果を得ることができる。
【0049】
(第2実施例)
第2実施例は、上記した第1実施例の構成をベースとし、エンジン回転補正率演算部1bにより算出されるエンジン回転補正率の時間変化に対して制限を与える構成を追加した例である。
【0050】
図7は第2実施例の駆動力制御装置に適用された目標駆動力演算手段を示すブロック図であり、基本構成は第1実施例と同様に、車速制御分目標駆動力生成部1aと、エンジン回転補正率演算部1bと、目標駆動力合成部1cと、を有する。
【0051】
そして、前記エンジン回転補正率演算部1bと目標駆動力合成部1cの間に、エンジン回転数微分器1dと、閾値設定器1eと、補正率微分器1fと、比較切替器1gと、加算器1hとを設けている。
【0052】
前記エンジン回転数微分器1dは、エンジン回転数検出手段4からのエンジン回転数を入力し、これを単位時間当たりでのエンジン回転数差を求める微分処理によりエンジン回転数時間変化量を得る。
【0053】
前記閾値設定器1eは、エンジン回転数微分器1dからのエンジン回転数時間変化量を入力し、枠内に示す特性にしたがって、エンジン回転補正率の変化速度閾値であるエンジン回転補正率時間変化量上限値を決める。
なお、エンジン回転補正率時間変化量上限値は、エンジン回転数時間変化量が△Naまでは二次曲線的に上昇する値で与え、エンジン回転数時間変化量が△Naを越えると一定値で与える。
【0054】
前記補正率微分器1fは、エンジン回転補正率演算部1bからのエンジン回転補正率を入力し、
これを単位時間当たりでのエンジン回転補正率差を求める微分処理によりエンジン回転補正率時間変化量を得ると共に、1制御周期前のエンジン回転補正率を得る。
【0055】
前記比較切替器1gは、補正率微分器1fからのエンジン回転補正率時間変化量と、閾値設定器1eからのエンジン回転補正率時間変化量上限値との大小を比較する。
そして、エンジン回転補正率時間変化量<エンジン回転補正率時間変化量上限値という大小関係の場合は実線で図示する切替位置とし、エンジン回転補正率時間変化量≧エンジン回転補正率時間変化量上限値という大小関係の場合は点線で図示する切替位置とする。
【0056】
前記加算器1hは、補正率微分器1fからの1制御周期前のエンジン回転補正率に、比較切替器1gからの制限付き補正率時間変化量を加えた値を制限付き補正率として、目標駆動力合成部1cに出力する。
すなわち、エンジン回転補正率時間変化量<エンジン回転補正率時間変化量上限値の場合は、エンジン回転補正率時間変化量が制限付き補正率時間変化量となる。
また、エンジン回転補正率時間変化量≧エンジン回転補正率時間変化量上限値の場合は、エンジン回転補正率時間変化量上限値が制限付き補正率時間変化量となる。
【0057】
次に、作用を説明する。
【0058】
[ダウン変速時]
定車速走行状態からドライバーがアクセル踏み込み操作を行うと、アクセル踏み込み操作に対応し、変速機が変速比をLow側に設定する、いわゆるダウン変速を伴う。
【0059】
このダウン変速により、エンジン回転数は高くなり、かつ、変速比はLow側に設定されるし、この変化が、ダウン変速の性格上、急激に起こるため、エンジン回転数の急上昇によりエンジン回転補正率が図8に点線で示すごとく短い時間に急増する。
したがって車両の加速度は、図8に点線特性で示すように、いったん大きく増加するものの、加速による車速増に伴って、ベースとなる車速制御分目標駆動力が減少するため、車両の加速度はその後、時間経過と共に減少してゆく波形となる。
これでは、いったん加速した後に減速感が残るというように、「伸び感」をドライバーに感じさせるような目標駆動力の変化は生じない。
【0060】
これを回避するために、第2実施例では、エンジン回転補正率の時間変化に制限をかけた。
すなわち、たとえダウン変速が行われ、エンジン回転数や変速比が急激に変化しても、エンジン回転補正率は図8に実線特性で示すごとく、エンジン回転補正率の時間変化量にリミッタを掛けていることから、エンジン回転数が急増しても急増することなく、ゆっくりと増加する。
つまり、発進加速と同様な速度でエンジン回転補正率が増加するように制限が掛けられることになる。
かようにエンジン回転補正率がゆっくり増加するので、車両の加速度は、図8の加速度の実線特性に示すように、減少する期間を生ずることなく緩やかに増加し続けることとなり、「伸び感」をドライバーに感じさせるような目標駆動力の変化を実現することができる。
【0061】
このとき、この時間変化の上限値を、エンジン回転数の時間変化量に対して設定することにより、ダウン変速のように急激にエンジン回転数が増加する場合も、発進加速時等のようにエンジン回転数が緩やかに増加する場合と同様に、「伸び感」を適切に演出することができる。
【0062】
次に、効果を説明する。
第2実施例の車両の駆動力制御装置にあっては、第1実施例の前記した(1)〜(4)の効果に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0063】
(5) 目標駆動力演算手段1は、エンジン回転補正率演算部1bにより算出されるエンジン回転補正率の時間変化に対し制限を与える補正率微分器1fと、比較切替器1gと、加算器1hとを設けたため、
定車速走行状態からアクセル踏み込み操作を行った場合などのように、ダウン変速によって急激にエンジン回転数の増加がある場合にも、「伸び感」を適切に演出することができる。
【0064】
(6) エンジン回転補正率演算部1bにより算出されるエンジン回転補正率の時間変化に対し制限を与えるに際し、エンジン回転補正率の時間変化に対する制限の上限値(閾値)を、エンジン回転数の時間変化により決めるエンジン回転数微分器1dと、閾値設定器1eとを設けたため、
エンジン回転数が緩やかに増加する発進加速時も、エンジン回転数が急激に増加する追い越し加速時も、同様に、エンジン回転数の増加に対する適切な「伸び感」を演出することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 目標駆動力演算手段
1a 車速制御分目標駆動力生成部
1b エンジン回転補正率演算部
1c 目標駆動力合成部
1d エンジン回転数微分器
1e 閾値設定器
1f 補正率微分器
1g 比較切替器
1h 加算器
2 アクセル操作量検出手段
3 車速検出手段
4 エンジン回転数検出手段
5 変速比検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作量と車速とに基づいて車速制御分目標駆動力を生成する車速制御分目標駆動力生成部と、
エンジン回転数に基づき、エンジン回転数の増加に合わせて増加する値であるエンジン回転補正率を算出するエンジン回転補正率演算部と、
前記車速制御分目標駆動力と前記エンジン回転補正率とに基づいて回転補正付き目標駆動力を求める目標駆動力合成部と、
を備えることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の駆動力制御装置において、
前記エンジン回転補正率演算部は、エンジン回転数と変速比に基づき、エンジン回転数の増加に合わせて増加する値であると共に、変速比が大きいほど増加する値であるエンジン回転補正率を算出することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された車両の駆動力制御装置において、
前記エンジン回転補正率演算部により算出される前記エンジン回転補正率の時間変化に対して制限を与えることを特徴とする車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−23835(P2010−23835A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242193(P2009−242193)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【分割の表示】特願2002−123890(P2002−123890)の分割
【原出願日】平成14年4月25日(2002.4.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】