説明

車両制御システム

【課題】フューエルカット制御を実行可能な車両において、燃費の向上を図ることができる車両制御システムを提供すること。
【解決手段】エンジンと、エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機とを備え、エンジンの回転数が所定回転数を上回る条件およびアクセルオフである条件を含むフューエルカット実行条件が成立するとエンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行し、かつ、車両の前方にアクセルオフがなされると推定される予め定められた所定の走行環境が存在する(S3−Y)場合、アクセルオフとなる前に、所定回転数を上回る回転数を維持できるように自動変速機の変速比を制御する(S4,S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行時にエンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御の技術が知られている。例えば、特許文献1には、ブレーキオンの判断がなされた場合に、検索された道路状態に応じてフューエルカットを効率よく行うように変速段を選択する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−166209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フューエルカット制御の実行を許可する条件として、フューエルカット制御が可能なエンジン回転数の範囲が決められている場合がある。この場合、エンジン回転数以外の条件が満たされたとしても、エンジン回転数をこの範囲内の回転数としない限りはフューエルカット制御を実行することができない。このため、フューエルカット制御の開始が遅れるなどして燃費の向上を十分に図れないことがある。
【0005】
本発明の目的は、フューエルカット制御を実行可能な車両において、燃費の向上を図ることができる車両制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御システムは、エンジンと、前記エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機とを備え、前記エンジンの回転数が所定回転数を上回る条件およびアクセルオフである条件を含むフューエルカット実行条件が成立すると前記エンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行し、かつ、前記車両の前方に前記アクセルオフがなされると推定される予め定められた所定の走行環境が存在する場合、前記アクセルオフとなる前に、前記所定回転数を上回る前記回転数を維持できるように前記自動変速機の変速比を制御することを特徴とする。
【0007】
上記車両制御システムにおいて、前記所定回転数を上回る前記回転数を維持できるように前記自動変速機においてダウンシフトさせる場合、前記ダウンシフト前の前記エンジンの吸気量よりも前記ダウンシフト後の前記吸気量を減少させることで前記ダウンシフトによる駆動力の変動を抑制することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる車両制御システムは、車両の前方にアクセルオフがなされると推定されるあらかじめ定められた所定の走行環境が存在する場合、アクセルオフとなる前に、所定回転数を上回るエンジンの回転数を維持できるように自動変速機の変速比を制御する。よって、本発明にかかる車両制御システムによれば、実際にアクセルオフがなされると速やかにフューエルカット制御を開始することができ、燃費の向上が可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態の車両制御システムに係る車両を示す図である。
【図3】図3は、現在車速と所定距離との関係の一例を示す図である。
【図4】図4は、車間距離と所定の走行環境との関係の一例を示す図である。
【図5】図5は、勾配とコーナーRと所定の走行環境との関係の一例を示す図である。
【図6】図6は、アイドルオンの確率が大であるかの勾配に基づく判定について説明するための図である。
【図7】図7は、アイドルオンの確率が大であるかのコーナーRに基づく判定について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる車両制御システムの一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
(実施形態)
図1から図7を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、フューエルカット制御を実行可能な車両制御システムに関する。図1は、本発明にかかる車両制御システムの実施形態の動作を示すフローチャート、図2は、実施形態の車両制御システムに係る車両を示す図である。
【0012】
本実施形態の車両制御システムは、ナビゲーション装置等のIT情報を使い、コーナーや下り坂の手前のような将来アクセルオフ(アイドルオン)になる確率が高い走行シーンにおいては、アイドルオンになったら即時フューエルカットが実行できるように事前にダウンシフトしたりアップシフトを抑制したりしておく。フューエルカット制御を実行可能なエンジン回転数が維持されるように変速制御がなされることで、燃費の向上を図ることができる。
【0013】
本実施形態の車両制御システムは、以下の(1)から(5)を前提としている。
(1)燃料を供給する供給手段を備えた内燃機関(エンジン)を備えた車両。
(2)エンジンの燃料噴射量を自動で制御できるエンジン制御装置。
(3)動力発生源から複数のクラッチまたはブレーキを備え、クラッチまたはブレーキを制御することで動力の変換および結合/遮断する動力伝達機構。
(4)現在位置の測位と周辺道路情報が認知できるナビゲーション等を備えた車両。
(5)車両状態情報(回転、車速、油圧など)を検出できるセンサまたは推定装置を備えた動力伝達機構。
【0014】
本実施形態の車両制御システムは、以下の(A)から(F)に基づいて車両を制御する。
(A)ナビゲーションまたはGPS情報を用いて、現在走行中の道路の先が下り/コーナー/料金所等の減速する可能性がある地形であるかを検出する。
(B)車間距離センサー/車々間通信等により、先方の車と距離が狭まっているかを検出する。
(C)上記(A)および(B)から将来アクセルを戻す可能性(確率)が高いかを計算する。
(D)上記(C)でアクセルを戻す確率が高い場合、現在のエンジン回転がF/C復帰回転より大きいか判断する。
(E)上記(D)で現在のエンジン回転がF/C復帰回転より小さい場合、F/C復帰回転を超えるまでダウンシフトを実施する。
(F)駆動力コントロール制御構造である場合、ダウンシフトによる駆動力増加分に応じてスロットル開度を絞り、駆動力変動が生じないように制御する。
【0015】
本実施形態の車両制御システムによれば、将来アクセルを戻す確率が高い走行場面においてダウンシフトを事前に実施しておくことで、アイドルオンから即時F/Cができるので燃費が向上する。また、アクセル戻しの場合はドライバーの減速意思があるので、本実施形態の車両制御システムによれば、事前にダウンシフトしておくことで、エンジンブレーキの効き具合と応答性が向上する。また、最新のIT(ナビゲーション、車間距離センサ等)を用いて、将来アクセルを戻す確率が高い走行場面を正確に推定することができる。
【0016】
図2に示すように、車両1には、エンジン11が設けられている。エンジン11には、トルクコンバータ12を有する自動変速機13が連結されている。エンジン11の駆動力は、トルクコンバータ12を介して自動変速機13に入力され、デファレンシャルギヤ14及びドライブシャフト15を介して駆動輪16に伝達される。つまり、自動変速機13は、エンジン11の出力する動力を車両1の駆動輪16に伝達するものである。自動変速機13は、A/T油圧制御装置17により車両の運転状態に応じて変速比が自動的に制御される。ブレーキ装置18は、ブレーキ油圧制御装置19によって制御されて、車両を制動する。
【0017】
車両1には、エンジン11や自動変速機13やブレーキ装置18などを制御する電子制御ユニット(ECU)20が設けられている。ECU20は、エンジン11、自動変速機13(A/T油圧制御装置17)及びブレーキ装置18(ブレーキ油圧制御装置19)の総合的な制御を行う。また、エンジン11は、ECU20によって制御されて出力トルクが調節されることで、車両の加速度(駆動力)を変更する加速度変更手段として機能することができる。
【0018】
車両1には、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ21が設けられている。アクセルポジションセンサ21により検出されたアクセル開度を示す信号は、ECU20に出力される。エンジン11の吸気管22に設けられたスロットルコントロールバルブ23は、スロットルアクチュエータ24により開閉可能とされている。ECU20は、アクセル開度にかかわらずスロットルアクチュエータ24によりスロットルコントロールバルブ23のスロットル開度を制御することができる。
【0019】
エンジン11には、エンジン回転数(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転数センサ28が設けられている。車速センサ29は、車両の車速を検出する。シフトポジションセンサ30は、運転者が操作するシフトレバーの位置(シフトポジション)を検出する。ブレーキ操作量センサ32は、ブレーキ装置18の操作量を検出する。車間距離センサ33は、先行車両との車間距離を検出する。車間距離センサ33は、例えば、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサとすることができる。各センサ28,29,30,32,33の検出結果を示す信号は、ECU20に出力される。
【0020】
ECU20は、変速マップを有しており、スロットル開度、車速などに基づいて、自動変速機13の変速段を決定し、この決定された変速段を成立させるようにA/T油圧制御装置17を制御することができる。
【0021】
ナビゲーション装置50は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、ECU60と、操作部51と、表示部52と、スピーカ53と、位置検出部54と、地図データベース55と、運転履歴記録部56とを備えている。ナビゲーション装置50のECU60は、ECU20と双方向の通信が可能である。
【0022】
ECU60のCPU61は、入力された情報に基づいて、ナビゲーション処理等の各種演算処理を行う。ECU60のROM62には、目的地までの経路の検索、経路中の走行案内、特定区間の決定等を行うための各種プログラムが格納されている。RAM63は、読み書き可能なメモリである。
【0023】
位置検出部54は、GPSレシーバ、地磁気センサ、距離センサ、ビーコンセンサ、及びジャイロセンサを備えている。位置検出部54は、自車の位置を検出(測位)し、その検出した自車の位置を示すデータをECU60に出力する。
【0024】
地図データベース55には、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶されている。地図データベース55は、地図データファイル、交差点データファイル、ノードデータファイル、道路データファイルを備えている。ECU60は、地図データベース55を参照して、必要な情報を読み出す。本実施形態の車両制御システム1−1は、ECU20、エンジン11、自動変速機13およびナビゲーション装置50を備えている。
【0025】
ECU20は、予め定められたフューエルカット実行条件が成立する場合にエンジン11への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行する。フューエルカット制御実行条件は、アクセルオフである条件およびエンジン回転数Neが予め定められた所定回転数を上回る条件を含む。ここで、アクセルオフとは、アクセル開度が所定開度以下、例えば全閉に対応する開度であることを示す。また、アクセルオンとは、アクセル開度が所定開度よりも大きな開度であることを示す。ECU20は、例えばアクセルポジションセンサ21の検出結果に基づいて、アクセルオフおよびアクセルオンを検出する。
【0026】
所定回転数は、フューエルカット制御を実行可能なエンジン回転数の閾値として設定されている。フューエルカット制御の実行中にエンジン回転数Neが所定回転数以下となると、フューエルカット制御が終了される。つまり、所定回転数は、フューエルカット制御からの復帰回転数である。
【0027】
フューエルカット制御を積極的に実行し、燃費を向上させるためには、アクセルオフとなった場合に即時フューエルカット制御を実行できることが望ましい。特許文献1には、ブレーキオンの判断がなされた場合に、フューエルカット用の変速パターンに従うように変速段を選択する技術が開示されている。しかしながら、変速段が選択されて変速が完了し、フューエルカット制御を実行可能となるまでにはある程度の時間を要する。また、アクセルオフとなってからブレーキオンとされるまでにも時間が経過しており、フューエルカット制御の開始が遅れてしまうこととなる。
【0028】
本実施形態のECU20は、車両1の前方にアクセルオフがなされると推定される予め定められた所定の走行環境が存在する場合、アクセルオフとなる前に、所定回転数を上回るエンジン回転数Neを維持できるように、自動変速機13の変速比を制御する。アクセルオフがなされる可能性が高い場面において、予めアクセルオフに備えてエンジン回転数Neを所定回転数よりも低下させないようにしておくことで、実際にアクセルオフされた場合には、即時フューエルカット制御を開始することができる。これにより、アクセルオフされてからエンジン回転数Neを調節してフューエルカット制御を実行可能とする場合と比較して、フューエルカット制御を実行可能な時間が増加し、燃費の向上が可能となる。
【0029】
アクセルオフがなされると推定される所定の走行環境は、例えば、コーナー半径、走路の勾配、車間距離等に基づいて予め設定されている。車両1の前方のコーナー半径が小さい場合や前方の降坂路の勾配(傾斜度合い)が大きい場合、先行車両との車間距離が小さい場合には、将来アクセルを戻す確率が高いと推定できる。ECU20は、車両1の前方にこうした走行環境がある場合、ダウンシフトし、あるいはシフトアップを抑制して所定回転数を上回るエンジン回転数Neを維持できるように、変速制御を行う。以下の説明において、所定回転数を上回るエンジン回転数Neを維持できるように自動変速機13の変速比を制御する変速制御を「回転数維持制御」とも記載する。
【0030】
ECU20は、所定距離前方(あるいは所定時間後に到達する位置)に所定の走行環境が存在すると、回転数維持制御を実行する。所定距離や所定時間は、変速指令から変速終了までの遅れ時間を考慮し、また、長時間のロー側変速比での走行による燃費の低下にならないように決定される。例えば、所定時間は、2秒から10秒までのいずれかの時間、所定距離は、現在車速で所定時間走行するときの走行距離とされる。
【0031】
図3は、現在車速と所定距離との関係の一例を示す図である。例えば、所定時間を2秒とした場合、100km/hで走行しているときの所定距離は、55mと決定される。この場合、ECU20は、高速道路等において車速100km/hで走行中に、前方55mの位置(前方55m以内としてもよい)に先行車両が存在すると、回転数維持制御を実行(開始)する。これにより、例えば、運転者が先行車両との車間距離が少ないと感じてアクセルオフした場合には、即時フューエルカット制御が実行され、エンジンブレーキの効き具合と応答性が向上する。また、減速時に可能な限り長い時間フューエルカット制御が実行されることで、燃費が向上する。
【0032】
図4は、車間距離と所定の走行環境との関係の一例を示す図である。図4において、横軸は車速、縦軸は先行車両との車間距離を示す。符号Z1は、アクセルを戻す確率が高いと推定されるゾーンを示す。図4に示すように、先行車両との車間距離は同じであっても、低車速ではアクセルを戻す確率が高いとは推定されず、高車速の場合にはアクセルを戻す確率が高いと推定される。また、車速が大きくなるほど、アクセルを戻す確率が高いと推定されるゾーンZ1は、車間距離の増加方向に拡大する。車速と車間距離との組合せで決定される点が、符号Z1で示す領域内にある場合、車両1の前方に所定の走行環境が存在すると判定される。
【0033】
図5は、勾配とコーナーRと所定の走行環境との関係の一例を示す図である。図5において、横軸はコーナー曲率(1/m)の絶対値、縦軸は勾配を示す。勾配において、正は上り勾配を、負は下り勾配を示している。符号Z2は、アクセルを戻す確率が高いと推定されるゾーンを示す。ECU20は、前方の所定距離にコーナーがある(あるいは、所定時間で到達する位置がコーナーである)と、図5に示す対応関係に基づいて、そのコーナーが所定の走行環境に相当するか否かを判断する。
【0034】
図5に示すように、勾配が同じ場合、コーナー曲率が大きいとアクセルを戻す確率が高いと推定される。例えば、勾配が0%(平坦路)である場合、前方のコーナーR(コーナー半径)が80m以下であると、そのコーナーでアクセルが戻される確率が高く、車両1の前方に所定の走行環境が存在すると判定される。また、コーナーRが同じ場合、勾配が小さい場合にアクセルが戻される確率が高いと判定される。例えば、コーナーRが80mである場合、勾配が0%以下であると、車両1の前方に所定の走行環境が存在すると判定される。また、勾配が所定勾配以下の降坂路、すなわち傾斜の度合いが一定以上の降坂路では、コーナーであるか否かにかかわらずアクセルを戻す確率が高いと推定される。この所定勾配は、例えば、−4.5%とされる。また、コーナー半径が所定半径以下であるコーナーでは、上り勾配であってもアクセルを戻す確率が高いと推定される。この所定半径は、例えば、80mとされる。
【0035】
なお、アクセルを戻す確率が高いか否かは、コーナーRと勾配との組み合わせで判定されなくともよく、独立して判定がなされてもよい。例えば、勾配にかかわらず所定半径を一定とし、コーナーRが所定半径以下であるか否かでアクセルを戻す確率が高いかが判定されてもよく、コーナーRにかかわらず所定勾配を一定とし、勾配が所定勾配以下であるか否かでアクセルを戻す確率が高いかが判定されてもよい。
【0036】
図1を参照して、本実施形態の車両制御システム1−1の動作について説明する。図1に示す制御フローは、車両1の走行中に、例えば所定の間隔で繰り返し実行される。
【0037】
まず、ステップS1では、ECU20により、情報が取得される。ECU20は、エンジン回転数センサ28により検出されたエンジン回転数Ne、車速センサ29により検出された現在車速およびナビゲーション装置50により測位された車両1の現在位置をそれぞれ取得する。
【0038】
次に、ステップS2では、ECU20により、数秒/数十m先のコーナーR、勾配、車間距離が算出される。ECU20は、ステップS1で取得した現在位置に基づき、前方における所定距離先もしくは所定時間後に到達できる位置のコーナーRや勾配、先行車両との車間距離を算出する。ここでは、現在位置よりも所定距離先の位置の各情報を取得する場合について説明する。ECU20は、ステップS1で取得した現在位置に基づき、ナビゲーション装置50の地図データベース55から所定距離前方の走路のコーナーRおよび勾配を取得する。また、ECU20は、車間距離センサ33により検出された先行車両との車間距離を取得する。
【0039】
次に、ステップS3では、ECU20により、アイドルオンの確率が大であるか否かが判定される。ECU20は、ステップS2で取得した情報に基づいてステップS3の判定を行う。図6は、アイドルオンの確率が大であるかの勾配に基づく判定について説明するための図である。図6には、車両1が前方の下り坂に向けて走行している場合が示されている。ECU20は、車両1の走行中に定期的に所定距離先の勾配を取得する。P1地点では、取得される所定距離先(P2地点)の勾配が所定勾配以下となる。このとき、アクセルを戻す確率が高いと推定される条件が成立した状態、すなわち車両1の前方にアクセルオフがなされると推定される所定の走行環境が存在する状態となり、ECU20はステップS3において肯定判定を行う。
【0040】
図7は、アイドルオンの確率が大であるかのコーナーRに基づく判定について説明するための図である。図7には、平坦路において先方のコーナーに向けて走行している場合が示されている。ECU20は、車両1の走行中に定期的に所定距離先のコーナーRを取得する。P3地点では、所定距離先(P4地点)のコーナーRの値は所定コーナーR(所定半径)以下となる。このとき、車両1の前方にアクセルオフがなされると推定される所定の走行環境が存在する状態となり、ECU20はステップS3において肯定判定を行う。
【0041】
車間距離に基づいてアイドルオンの確率が大であるかを判定する場合、ECU20は、ステップS2で取得した車間距離が、所定距離(または所定距離以下)であるか否かを判定する。車間距離が所定距離である場合の先行車両は、アイドルオンの確率が高い所定の走行環境である。つまり、車両1の前方にアクセルオフがなされると推定される所定の走行環境が存在する状態となり、ステップS3において肯定判定が行われる。
【0042】
ステップS3の判定の結果、アイドルオンの確率が大であると判定された場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)には本制御フローはリターンする。
【0043】
ステップS4では、ECU20により、エンジン回転がフューエルカット復帰回転以下であるか否かが判定される。ECU20は、ステップS1で取得したエンジン回転数Neをあらかじめ定められたフューエルカット制御からの復帰回転数と比較してステップS4の判定を行う。その判定の結果、エンジン回転がフューエルカット復帰回転以下であると判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)には本制御フローはリターンする。
【0044】
ステップS5では、ECU20により、ダウンシフト指令がなされる。ECU20は、現在の変速段よりも1段低速側の変速段を目標変速段として、この目標変速段を成立させるようにA/T油圧制御装置17を制御する。ダウンシフトが実行されると、ステップS4の判定が再度行われ、エンジン回転数Neが復帰回転数を超えるまで1段ずつダウンシフトが繰り返される。従って、ECU20は、エンジン回転数Neが復帰回転数を超える範囲で最も高速側の変速段で車両1を走行させることができる。これにより、必要以上にエンジン回転数Neを上げることなく車両1を走行させることができるため、過度なエンジンブレーキが発生して車速が低下することが抑制される。ここで、回転数維持制御によってエンジン回転数Neが常に復帰回転数を上回ることが望ましいが、車両の走行状態等によっては、一時的にエンジン回転数Neが復帰回転数以下となる可能性がある。しかしながら、復帰回転数を上回るエンジン回転数Neを維持できるように変速制御がなされていることで、このような変速制御がなされない場合よりも、アイドルオン後に速やかにフューエルカット制御を開始できる。
【0045】
なお、一度ステップS3において肯定判定がなされて回転数維持制御が開始されると、以下に示すような回転数維持制御の終了条件が成立するまで回転数維持制御が継続して実行される。
(a)アイドルオンとなってフューエルカット制御が実行された場合。
(b)車両の前方に所定の走行環境が存在しなくなった場合。
【0046】
ここで、(b)の車両の前方に所定の走行環境が存在しなくなった場合とは、例えば、所定の走行環境であるコーナーや下り坂を通過した場合、先行車両との車間距離が十分に拡大した場合や先行車両が存在しなくなった場合などである。この他、アイドルオンの確率が大である走行環境が前方に存在しなくなった場合に、回転数維持制御が終了されるようにすればよい。
【0047】
なお、本実施形態の回転数維持制御は、車両1の前方に所定の走行環境が存在することで実行されるものであり、アクセルオンの加速中においても実行される。加速中に復帰回転数を上回るエンジン回転数Neを維持できるように低速側の変速比が選択され、アップシフトが抑制されることで、運転者がアクセルを戻してアイドルオンとなるといつでも即フューエルカットができる。例えば、降坂路のアイドルオン加速シーンでもフューエルカット制御に入りやすくなる。また、車速変動に対してアップシフトが抑制されることで、変速頻度が少なくなり、ドライバビリティの向上も実現される。
【0048】
ECU20は、回転数維持制御において、復帰回転数を上回るエンジン回転数を維持できるように自動変速機13においてダウンシフトさせる場合、ダウンシフトによる駆動力の変動を抑制できるように制御を行う。例えば、ECU20は、ダウンシフト前のエンジン11の吸気量よりもダウンシフト後の吸気量を減少させることで、駆動力の変動を抑制する。ダウンシフトによる駆動力増加分をスロットル開度の絞り制御により打ち消すようにして、ダウンシフトの前後で同パワーとなるように制御する。このように同パワー変速をして駆動力の変動を抑制するようにすれば、回転数維持制御の自動ダウンシフトによる飛び出し感が抑制される。また、スロットルコントロールバルブ23が絞られるため、燃料消費が抑制され、燃費の向上が可能となる。こうした駆動力の変動を抑制するパワー制御は、例えば、駆動力コントロール制御構造(運転者のアクセル操作に基づいて目標駆動力が決定されるもの等)において実行するようにしてもよい。
【0049】
本実施形態では、エンジン回転数Neが復帰回転数を上回るまでダウンシフトされる(S4,S5)ことでアイドルオン時に確実にフューエルカット制御を実施可能となる。なお、ダウンシフト時に、エンジン回転数Neが復帰回転数を上回るまで1段ずつ変速することに代えて、復帰回転数を上回るエンジン回転数Neとさせることができる目標変速段をまず決定し、この目標変速段を成立させるようにA/T油圧制御装置17を制御するようにしてもよい。
【0050】
本実施形態では、自動変速機13が有段式のものであったが、これには限定されず、例えば、無段式の自動変速機であってもよい。また、アイドルオンの確率が高いか否かを判定する走行環境は、車間距離、勾配、コーナーRに限らず、他の走行環境、例えば料金所や一時停止、踏切等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明にかかる車両制御システムは、フューエルカット制御を実行可能な車両に有用であり、特に、燃費の向上を図るのに適している。
【符号の説明】
【0052】
1−1 車両制御システム
1 車両
11 エンジン
13 自動変速機
16 駆動輪
17 A/T油圧制御装置
20 ECU
21 アクセルポジションセンサ
33 車間距離センサ
50 ナビゲーション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力する動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機とを備え、
前記エンジンの回転数が所定回転数を上回る条件およびアクセルオフである条件を含むフューエルカット実行条件が成立すると前記エンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行し、かつ、前記車両の前方に前記アクセルオフがなされると推定される予め定められた所定の走行環境が存在する場合、前記アクセルオフとなる前に、前記所定回転数を上回る前記回転数を維持できるように前記自動変速機の変速比を制御する
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記所定回転数を上回る前記回転数を維持できるように前記自動変速機においてダウンシフトさせる場合、前記ダウンシフト前の前記エンジンの吸気量よりも前記ダウンシフト後の前記吸気量を減少させることで前記ダウンシフトによる駆動力の変動を抑制する
請求項1に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−185377(P2011−185377A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52349(P2010−52349)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】