説明

車両制御装置

【課題】各種の制御システムを兼ね備えて総合的な運動制御を行うとき、制御システム同士において干渉が生じることがないようにした車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、そのそれぞれが、車両の走行速度などの車両の運動状態を検出する車輪速センサ70などの複数個のセンサと、車両のブレーキの作動などを行うアクチュエータと、センサの出力を制御量として入力してアクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいてアクチュエータを駆動して車両の運動を制御する制御装置(ECU30)からなる車両制御装置において、複数個のセンサの出力を変数として入力し、制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90を備える如く構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両制御装置に関し、具体的には各種の車両挙動安定化制御を平行して実行する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、車両の挙動安定化を意図して各種の運動制御が提案されている。例えば、特許文献1記載の技術においては、車両の走行速度と、車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、車両の進行方向に直交する横方向に作用する横加速度とをそれぞれ検出する3個のセンサを備えると共に、ブレーキを作動させる油圧アクチュエータを備えたABS制御システムを搭載した車両において、非ブレーキ操作時に過剰スリップを生じる恐れがあるとき、前輪のブレーキを作動させるトラクション制御を実行する一方、旋回走行状態でオーバステアあるいはアンダステアが生じたとき、旋回外輪側あるいは内輪側の前輪のブレーキを作動させることで、方向安定性の向上を図る車両挙動安定化制御、いわゆるVSA制御(Vehicle Stability Assist制御)を実行している。
【0003】
また、特許文献2記載の技術にあっては、ステアリングホイールと操向車輪の間の機械的な連結が断たれ、その代わりに操作反力を与える電動モータで連結された操舵装置、いわゆるステア・バイ・ワイヤにおいて、同種のセンサ群に加えてステアリングホイールに入力される操作角などを検出するセンサを備え、操作角と車速に対する目標横加速度と目標ヨーレートとを設定すると共に、求めた目標横加速度と目標ヨーレートと検出値との偏差をそれぞれ求め、求めた偏差がそれぞれ減少するように操舵軸を駆動する操舵用アクチュエータ(電動モータ)を駆動することで、車両挙動の安定化を図っている。この明細書で、この制御をAFS(Active Front Steering制御)という。
【0004】
また、特許文献3記載の技術にあっては、同種のセンサ群に加えて舵角センサとブレーキ踏力センサを備えると共に、前輪を内燃機関、後輪を電動モータで駆動するハイブリッド型の4WD車両において、検出された車速と舵角とヨーレートとから電動モータに接続された左右の後輪への駆動力の配分を制御することで、車両旋回中の横滑りなどを防止する車両挙動の安定化を図っている。
【0005】
また、特許文献4記載の技術にあっては、ヨーレートフィードバック制御などによる四輪操舵制御とスロットル制御などによるトラクション制御(駆動力制御)からなる異種の車両挙動制御を協調して行うようにしている。
【特許文献1】特開平11−059368号公報
【特許文献2】特開2000−043747号公報
【特許文献3】特開2003−063265号公報
【特許文献4】特開2003−175749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1から3に記載するような各種の制御システムを兼ね備えて特許文献4に記載されるような協調あるいは総合的な運動制御を行うとき、それら制御システム同士において干渉が生じる恐れがあった。
【0007】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、各種の制御システムを兼ね備えて総合的な運動制御を行うとき、制御システム同士において干渉が生じることがないようにした車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を解決するために、請求項1にあっては、車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ、前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置からなる車両制御装置において、前記複数個のセンサの出力を変数として入力し、前記複数の制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワークを備える如く構成した。
【0009】
請求項2にあっては、車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ、前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置からなる車両制御装置において、前記複数個のセンサの出力と、前記複数の制御システムによってそれぞれ決定された前記アクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、前記操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク、および前記操作量を対応する前記補正係数で補正して前記アクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部を備える如く構成した。
【0010】
請求項3にあっては、車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ、前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置からなる車両制御装置において、前記複数個のセンサの出力と、前記複数の制御システムによってそれぞれ決定された前記アクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、前記操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する複数のニューラルネットワーク、および前記操作量を対応する前記補正係数で補正して前記アクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部を備える如く構成した。
【0011】
請求項4に係る車両制御装置にあっては、さらに、前記複数の制御システムの少なくともいずれかについて、その制御応答性および運転自由度の少なくともいずれかの変更指示を入力する変更指示入力手段を備える如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にあっては、センサ出力を変数として入力して複数種の制御システムのアクチュエータの操作量を出力するニューラルネットワークを備えるようにしたので、制御干渉を防止できることに加え、従来技術において制御装置が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0013】
また、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、複数種の制御システムの協調制御を簡便に行うことができる。
【0014】
また、ニューラルネットワークにおいて、結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤの摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術において制御装置が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両の横滑りを防止すべく、複数の制御システム、具体的にはVSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構が前輪の外輪側のブレーキを作動させているとき、AFS制御システムにおいて電動モータの作動量を増加させた場合など、前、後輪に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0015】
また、ニューラルネットワークが学習機能を備えるとき、アクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【0016】
請求項2にあっては、複数個のセンサの出力と、複数の制御システムによってそれぞれ決定されたアクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク、および操作量を対応する補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部を備える如く構成したので、同様に、制御干渉を防止できることに加え、従来技術において制御装置が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0017】
また、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、複数種の制御システムを有効に使用することができる。
【0018】
また、ニューラルネットワークにおいて、結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤの摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術において制御装置が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両の横滑りを防止すべく、VSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構が前輪の外輪側のブレーキを作動させているとき、AFS制御システムにおいて電動モータの作動量を増加させた場合など、前、後輪に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0019】
また、ニューラルネットワークが学習機能を備えるとき、アクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【0020】
請求項3にあっては、複数個のセンサの出力と、複数の制御システムによってそれぞれ決定されたアクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する複数のニューラルネットワーク、および操作量を対応する補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部を備える如く構成したので、同様に、制御干渉を防止できることに加え、従来技術において制御装置が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0021】
また、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、複数種の制御システムの協調制御を簡便に行うことができると共に、各制御システムの開発を単独に推進することができ、さらに各制御システムのニューラルネットワーク間を結合するだけで協調制御を行うことができる。
【0022】
また、ニューラルネットワークにおいて、結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤの摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術において制御装置が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両の横滑りを防止すべく、VSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構が前輪の外輪側のブレーキを作動させているとき、AFS制御システムにおいて電動モータの作動量を増加させた場合など、前、後輪に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0023】
また、ニューラルネットワークが学習機能を備えるとき、アクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【0024】
請求項4に係る車両制御装置にあっては、さらに、複数の制御システムの少なくともいずれかについて、その制御応答性および運転自由度の少なくともいずれかの変更指示を入力する変更指示入力手段を備える如く構成したので、上記した効果に加え、運転者が変更指示を入力する場合、制御応答性などを運転者の好みに応じて変更できると共に、開発者が入力するとき、セッティングが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面に即してこの発明に係る車両制御装置を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、この発明の第1実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0027】
図1において、符号10は車両を示し、その前部には4気筒の内燃機関(以下「エンジン」という)12が搭載される。エンジン12は自動変速機14に接続され、そこでエンジン出力は適宜変速される。自動変速機14の出力はフロントディファレンシャル14aから取り出され、フロントアクスル16を介して左右の前輪20に伝えられ、左右の前輪20を回転させる。
【0028】
また自動変速機14の出力はプロペラシャフト22を介し、より具体的には、ベベルギヤ(図示せず)とユニバーサルジョイント22aを介してプロペラシャフト22に伝えられ、さらにリアディファレンシャル24へと伝えられる。リアディファレンシャル24は左右の電磁クラッチ24a,24b(アクチュエータ)を備え、左の電磁クラッチ24aを介して左側のリアアクスルハーフ26aに接続されると共に、右の電磁クラッチ24bを介して右のリアアクスルハーフ26bに接続される。
【0029】
左右の電磁クラッチ24a,24bはマイクロコンピュータからなるECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)30に駆動回路(図示せず)を介して接続され、ECU30によって励磁されて締結されるとき、プロペラシャフト22を介して伝えられた自動変速機14の出力をリアアクスル26から左右の後輪32に伝え、左右の後輪32を回転させる。
【0030】
リアディファレンシャル24において、左右の電磁クラッチ24a,24bが締結されないとき、車両10はエンジン12で前輪20のみが駆動される、FF駆動となる。他方、左右の電磁クラッチ24a,24bが締結されるとき、その締結状態に応じてエンジン12の駆動力が前輪20と後輪32とで配分される4WD駆動となると共に、左右の電磁クラッチ24a,24bの締結状態に応じて左右の後輪32の駆動力は相違させられる。
【0031】
車両10において、運転席(図示せず)に配置されたステアリングホイール34は、操舵軸36との機械的な連結が断たれ、シャフト40を介して第1の電動モータ42に連結される。第1の電動モータ42はECU30に駆動回路(図示せず)を介して接続され、駆動されるとき、運転者に適宜な操作反力を与える。このようにこの実施例において操舵系はいわゆるステア・バイ・ワイヤとして構成される。前述した通り、このステア・バイ・ワイヤからなる操舵系を「AFS」(Active Front Steering)と略称する。
【0032】
操舵軸36は、タイロッド44およびナックルアーム46を介して前輪20に接続される。操舵軸36には第2の電動モータ(アクチュエータ)50が同軸に配置される。第2の電動モータ50はECU30に駆動回路(図示せず)を介して接続され、通電されるとき、操舵軸36を左右に駆動し、後述するように、運転者によって操作されたステアリングホイール34の回転に応じて、あるいはステアリングホイール34の回転と独立して前輪20を操舵(転舵)させる。
【0033】
第2の電動モータ50が駆動されないとき、前輪20はセルフアライニングトルクによって直進操舵位置に復帰させられる。またシャフト40を介してステアリングホイール34に接続される第1電動モータ42は、バネなどからなる中立位置復帰機構52に接続され、第1の電動モータ42が駆動されていないとき、ステアリングホイール34を中立位置(直進操舵位置)に復帰させる。
【0034】
運転席床面に配置されたブレーキペダル60は、マスタシリンダ62およびブレーキ油圧機構(アクチュエータ)64を介して左右の前、後輪20,32のそれぞれに装着されたブレーキ(ディスクブレーキ)66に接続され、運転者によって操作されたブレーキペダル60の踏み込み量(踏力)に応じて4個のブレーキ66を動作させ、車両10を減速させる(制動する)。
【0035】
ブレーキ油圧機構64はリザーバに接続される油路に介挿された電磁ソレノイドバルブ群、油圧ポンプ、その油圧ポンプを駆動する電動モータ(全て図示せず)などを備える。電磁ソレノイドバルブ群はECU30に駆動回路(図示せず)を介して接続され、ブレーキペダル60の操作とは別に、4個のブレーキ66を独立に作動させる。
【0036】
左右の前、後輪20,32の付近には車輪速センサ70がそれぞれ配置され、各車輪の所定回転角度ごとにパルス信号を出力する。車両10の重心位置の付近にはヨーレートセンサ72が配置され、車両10の重心位置に鉛直軸(ヨー軸)回りに作用するヨーレート(ヨー軸回りの回転角速度)に比例する出力を生じると共に、車両10の適宜位置には横加速度センサ74が配置され、車両10の進行方向(長手方向)に直交する横方向から車両10に作用する横加速度(横G)に比例する出力を生じる。
【0037】
また、ステアリングホイール34の付近には操舵角センサ76が配置されて運転者によって操作されたステアリングホイール34の回転量、即ち、操舵角に比例する出力を生じると共に、シャフト40にはトルクセンサ78が配置され、シャフト40に作用するトルクに比例する出力を生じる。さらに、操舵軸36に配置された第2の電動モータ50にはロータリエンコーダ80が配置され、第2の電動モータ50の回転量を通じて前輪20の切れ角(操向舵角)に比例する出力を生じる。
【0038】
また、エンジン12の適宜位置にはクランク角センサ82が配置されてクランク角度信号などのパルス信号を出力すると共に、絶対圧センサ84が配置され、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)に応じた信号を出力する。さらに、エンジン12の適宜位置には外気温センサ86が配置され、エンジン12に吸入される外気温TAに応じた信号を出力する。
【0039】
これらセンサ群の出力は、ECU30に送出される。ECU30は4個の車輪速センサ70の出力をカウントして車両10の走行速度を示す車速を検出すると共に、クランク角センサ82の出力をカウントしてエンジン回転数を検出する。
【0040】
このように、ブレーキ66を作動させるブレーキ油圧機構(油圧アクチュエータ)64を備えた車両10において、ECU30は、検出された車速、横G(横方向加速度)、ヨーレートおよび前輪舵角に基づき、非ブレーキ操作時に過剰スリップを生じる恐れがあるとき、前輪20のブレーキ66を作動させるトラクション制御を実行する一方、旋回走行状態でオーバステアあるいはアンダステアが生じたとき、旋回外輪側あるいは内輪側の前輪20のブレーキ66を作動させ、よって車両10の方向安定性を向上させる車両挙動安定化制御(VSA制御)を実行する制御装置として機能する。また、ブレーキ操作時に車輪のロック傾向を感知し、その車輪のブレーキ圧を緩和するABS制御も行う。
【0041】
即ち、ECU30は、前記したセンサ群の出力を制御量として入力し、ブレーキ油圧機構(アクチュエータ)64の操作量を決定し、決定した操作量に基づいてブレーキ油圧機構64を駆動する制御装置として機能する。このように、車両10にはVSA制御システムが搭載される。
【0042】
また、ECU30は、検出された操舵角とトルクとから第1の電動モータ42を駆動して運転者に適宜な操作反力を与えるように制御すると共に、前輪20が検出された操舵角に対応する切れ角となるように第2の電動モータ50を駆動する。さらに、ECU30は、検出された車速、横G、ヨーレートなどに基づき、車速がある値以上のとき所定以上の横Gやヨーレートが検出された場合、車両の挙動の安定化制御を図るAFS制御を実行する制御装置として機能する。
【0043】
即ち、ECU30は、前記したセンサ群の出力を制御量として入力し、第1、第2の電動モータ42,50の操作量を決定し、決定した操作量に基づいて第1、第2の電動モータ42,50、特に第2の電動モータ(アクチュエータ)50を駆動する制御装置として機能する。具体的には、ECU30は、検出された操舵角に応じて目標となる切れ角を決定し、検出された操舵角がその目標切れ角に一致するように制御すると共に、車速が低いほど、少ない操舵角で大きな切れ角を得られるように制御する。また、横風などを受けて運転者が意図しないヨーレートが検出されたとき、そのヨーレートを打ち消すように目標切れ角を補正する。このように、車両10にはAFS制御システムが搭載される。尚、AFS制御システムにおいて、横加速度に関しては、制御に直接使用しないが、その値からカウンタステアの判定や故障検知を行う。
【0044】
また、ECU30は、検出されたエンジン12の運転状態に基づいてエンジン12の駆動力を推定し、エンジン12の出力を前輪20と後輪32に適宜に配分する4WD制御を実行する制御装置として機能すると共に、検出された車速、横G、ヨーレートおよび前輪舵角に基づき、旋回時には後輪32の回転数を前輪20のそれに比して増速させ、よって旋回時の前後輪20,32の軌跡の相違による駆動力伝達ロスを低減して車両10の運動性能を向上させる制御装置としても機能する。
【0045】
即ち、ECU30は、前記したセンサ群の出力を制御量として入力し、電磁クラッチ(アクチュエータ)24a,24bの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて電磁クラッチ24a,24bを駆動する制御装置として機能する。このように、車両10には4WD制御システムが搭載される。
【0046】
このように、車両10はVSA制御システム,AFS制御システム,4WD制御システムからなる3種の制御システムを搭載されて協調あるいは総合的な運動制御を行うように構成されると共に、ECU30はそれらの制御装置として機能するように構成される。しかしながら、課題欄でも述べたように、かく構成すると、制御システム同士において干渉が生じる恐れがある。
【0047】
従って、この実施例に係る車両制御装置にあっては、図2に示す如く、前記した車輪速センサ70などの複数個のセンサの出力を変数として入力し、VSA制御システム,AFS制御システム,4WD制御システムからなる3種の制御システムのブレーキ油圧機構64、第2の電動モータ50および電磁クラッチ24などのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90を備えるように構成した。
【0048】
ニューラルネットワーク90は、入力層、1層の中間層(隠れ層)および出力層からなる3層の階層型からなる。
【0049】
図3は、図2に示すニューラルネットワーク90の構造を示す説明図である。中間層と出力層の出力値はそれぞれ同図の右に示すように表わされると共に、入力層と中間層間の結合重みおよび中間層と出力層間の結合重みならびにそれらのしきい値も同図の右のように示される。図示の構造において、ニューラルネットワーク90を伝わる信号は、入力層から中間層、中間層から出力層へと単一の方向に進む。
【0050】
図3に示す式(3−1式、3−2式)は、それらの間の信号の伝播を示す。また、活性化関数としては、図4に示すような非線形なシグモイド関数を使用する。尚、図示のニューラルネットワーク90は、学習機能を備えるものとする。
【0051】
図2の構成を図3を参照しつつ説明すると、車速などのパラメータはX1からX6として入力層に入力され、3−1式、3−2式により、ブレーキ油圧機構64、第2の電動モータ50および電磁クラッチ24のそれぞれの操作量として出力される。図示のようなシグモイド関数を使用すると共に、結合重みやしきい値は、そのままでは線形分離不可能な入出力関係を表現できるように設定される。
【0052】
図2に示す車速などのパラメータは例示であって、これ以外にも追加することは可能である。尚、外気温を用いるのは車両10が走行する路面の摩擦程度を判断するためである。
【0053】
ECU30は前記したマイクロコンピュータからなり、上記したニューラルネットワーク90の構成はその大部分がROMに格納される一方、一部はフラッシュメモリなどの不揮発性のメモリに格納される。上記した如く、ニューラルネットワーク90は学習機能を備え、上市されてユーザに渡った後も、学習を通じて結合重みやしきい値などを適宜変更するように設定される。
【0054】
図5から図8に、この実施例に係る車両制御装置のシミュレーション結果を示す。
【0055】
運転条件として全て、切れ角は0度保持(即ち、中立位置)とし、10sec間、車両10の挙動をシミュレートするようにした。具体的には、ヨーモーメントが外乱として加わった場合の挙動を検証するため、車速Vが90{km/h}、外乱ヨーモーメント1000{N・m}が1secから7secの間、発生した場合を例に取る。
【0056】
図5は、協調制御(即ち、ニューラルネットワーク90を用いた制御)の前後の補正切れ角の変化を、図6は同様に協調制御の前後の補正ヨーモーメントの変化を示す。
【0057】
また、図7はAFSの単独制御、AFSとVSAの個別制御(ニューラルネットワーク90を用いない制御)、およびそれらの協調制御(ニューラルネットワーク90を用いた制御)を行った場合の補正切れ角の比較を、図8は単独制御の対象をVSAに変えつつ同様に3種の制御を行った場合の補正ヨーレートの比較を示す。
【0058】
図5と図6から、ニューラルネットワーク90は全体的として補正切れ角の働きを強め、補正ヨーモーメントの働きを弱めるように作用する傾向があることが読み取れる。即ち、VSA制御システムを補助的に使用した上でのAFS制御システム中心の制御と考えられる。
【0059】
また、外乱の発生時間は1secから7secであるが、外乱が終了すると、協調制御前は0ではない制御入力が、協調制御後は約0となっている。このことは、与えられた入力から外乱の有無をある程度判断し、必要のない制御入力を使用しないようにしているものと理解される。
【0060】
この結果を受け、次に図7および図8に示す如く、1種の制御を単独に行った場合および2種の制御を個別に制御あるいは協調制御した場合を検討すると、協調制御した場合、然らざる場合に比し、速やかに0に収束しているのが見て取れる。このように、ニューラルネットワーク90を用いることで、互いに車両10に影響を与え過ぎることなく、制御されていることが理解できよう。
【0061】
この実施例に係る車両制御装置にあっては、上記の如く、センサ出力を変数として入力して3種の制御システムのアクチュエータの操作量を出力するニューラルネットワーク90を備えるようにしたので、制御干渉を防止できることに加え、従来技術においてECU30が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0062】
また、ニューラルネットワーク90を介して各アクチュエータの操作量を決定することで、3種の制御システムの協調制御を簡便に行うことができる。
【0063】
また、ニューラルネットワーク90において、上記した結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤ(前、後輪20,32)の摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術においてECU30が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両10の横滑りを防止すべく、VSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構64が前輪20の外輪側のブレーキ66を作動させているとき、AFS制御システムにおいて第2の電動モータ50の作動量を増加させた場合など、前、後輪20に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワーク90を介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0064】
また、ブレーキ油圧機構64、第2の電動モータ50などのアクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【実施例2】
【0065】
図9は、この発明の第2実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0066】
第2実施例に係る車両制御装置にあっては、図示の如く、ECU30は従来技術と同様に車輪速センサ70などの出力からVSA制御システム、AFS制御システムおよび4WD制御システムのアクチュエータの操作量を決定すると共に、決定された操作量と車輪速センサ70など複数個のセンサの出力とを変数としてニューラルネットワーク90に入力し、決定された操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力させると共に、それら操作量を対応する補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定するようにした。
【0067】
即ち、複数個のセンサの出力と、複数の制御システムによってそれぞれ決定されたアクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、それらの操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90と、それら操作量を対応する前記した補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部92を備える如く構成した。
【0068】
補正部92は具体的には乗算段からなり、そこで操作量に補正係数(乗算項)が乗じられて操作量が補正され、最終操作量が決定される。尚、補正係数を加減算項とし、乗算段に代えて加減算段を設けるようにしても良い。
【0069】
尚、図9では簡略化のため、VSA制御システムおよびAFS制御システムからなる2種の制御システムのみ示すが、4WD制御システムについても同様である。
【0070】
第2実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く、ECU30は、車輪速センサ70などの複数個のセンサの出力と、VSA制御システムとAFS制御システムからなる複数の制御システムによってそれぞれ決定されたアクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90、および操作量を対応する補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部92を備える如く構成したので、同様に、制御干渉を防止できることに加え、従来技術において制御装置が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0071】
また、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、複数種の制御システムを有効に使用することができる。
【0072】
また、ニューラルネットワークにおいて、結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤの摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術において制御装置が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両の横滑りを防止すべく、VSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構が前輪の外輪側のブレーキを作動させているとき、AFS制御システムにおいて電動モータの作動量を増加させた場合など、前、後輪に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0073】
また、ニューラルネットワークが学習機能を備えるとき、アクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【実施例3】
【0074】
図10は、この発明の第3実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0075】
第3実施例に係る車両制御装置は第2実施例の変形であって、図示の如く、ニューラルネットワーク90として、90a、90bの2つを備えるようにした。即ち複数個のセンサの出力と、複数の制御システムによってそれぞれ決定されたアクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する複数の(2つの)ニューラルネットワーク90a,90bと、それら操作量を対応する前記した補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部92を備える如く構成した。
【0076】
尚、簡略化のため、VSA制御システムおよびAFS制御システムからなる2種の制御システムのみ示すが、4WD制御システムについても同様であることは第2実施例と同様である。
【0077】
第3実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く、ECU30は、車輪速センサ70などの複数個のセンサの出力と、VSA制御システムとAFS制御システムからなる複数の制御システムによってそれぞれ決定されたアクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する複数のニューラルネットワーク90a,90b、および操作量を対応する補正係数で補正してアクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部92を備える如く構成したので、同様に、制御干渉を防止できることに加え、従来技術において制御装置が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0078】
また、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、複数種の制御システムの協調制御を簡便に行うことができると共に、各制御システムの開発を単独に推進することができ、さらに各制御システムのニューラルネットワーク間を結合するだけで協調制御を行うことができる。
【0079】
また、ニューラルネットワークにおいて、結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤの摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術において制御装置が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両の横滑りを防止すべく、VSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構が前輪の外輪側のブレーキを作動させているとき、AFS制御システムにおいて電動モータの作動量を増加させた場合など、前、後輪に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0080】
また、ニューラルネットワークが学習機能を備えるとき、アクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【実施例4】
【0081】
図11は、この発明の第4実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0082】
第4実施例に係る車両制御装置は第3実施例の変形であって、補正部を第2のECU(統合ECU)94から構成した。第2のECU94は、前記したECU30と同様、マイクロコンピュータからなる。
【0083】
第4実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第3実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0084】
図12は、この発明の第5実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0085】
第5実施例に係る車両制御装置は第1実施例と第4実施例の組み合わせであって、図示の如く、車輪速センサ70など複数個のセンサの出力を変数として入力し、VSA制御システムおよびAFS制御システムからなる2種の制御システムのブレーキ油圧機構64および第2の電動モータ50からなるアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する2つのニューラルネットワーク90a,90bを備えると共に、それらによって決定された操作量を統合する第2のECU(統合ECU)94を備えるように構成した。
【0086】
尚、簡略化のため、VSA制御システムおよびAFS制御システムからなる2種の制御システムのみ示すが、4WD制御システムについても同様であることは従前の実施例と同様である。
【0087】
第5実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第1実施例で述べた効果に加え、第4実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例6】
【0088】
図13は、この発明の第6実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0089】
第6実施例に係る車両制御装置は第1実施例の変形であって、前記した3種の制御システムの少なくともいずれかについて、その制御応答性の変更指示を入力するマニュアル調整スイッチ(マニュアル調整SW。変更指示入力手段)100を備え、その出力を入力パラメータとして追加するようにした。
【0090】
図14は、そのマニュアル調整スイッチ100を示す説明図である。スイッチ100は図示の如く、安定化において強、中、弱を指示する3種のノブ100aを備えた切り替えスイッチからなる。ここで「安定化」は車両10の挙動の安定度、換言すれば3種の制御システムの制御応答性における強弱を示す。尚、それらに代え、運転自由度などが変更できるようにしても良い。
【0091】
スイッチ100は車両10の運転席に設置され、運転者によって操作自在とされる。尚、装置の開発段階によって開発者によって操作できるようにしても良い。
【0092】
第6実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第1実施例で述べた効果に加え、運転者が変更指示を入力する場合、制御応答性などを運転者の好みに応じて変更できると共に、装置の開発段階において開発者が入力するとき、セッティングが容易となる。
【実施例7】
【0093】
図15は、この発明の第7実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0094】
第7実施例に係る車両制御装置は第2実施例と第6実施例の組み合わせであって、第2実施例の構成にマニュアル調整スイッチ(変更指示入力手段)100を加え、その出力を入力パラメータとして追加するようにした。
【0095】
第7実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第2実施例で述べた効果に加え、第6実施例で述べたのと同様の効果を得ることができる。
【実施例8】
【0096】
図16は、この発明の第8実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0097】
第8実施例に係る車両制御装置は第3実施例と第6実施例の組み合わせであって、第3実施例の構成にマニュアル調整スイッチ(変更指示入力手段)100を加え、その出力を入力パラメータとして追加するようにした。
【0098】
第8実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第3実施例で述べた効果に加え、第6実施例で述べたのと同様の効果を得ることができる。
【実施例9】
【0099】
図17は、この発明の第9実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0100】
第9実施例に係る車両制御装置にあっては、図示の如く、ヨーレートセンサ72を通じて検出された実ヨーレートと、予め設定された規範ヨーレートとのヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出部102と、ヨーレートセンサ72などの複数個のセンサ(およびマニュアル調整スイッチ100)の出力と算出されたヨーレート偏差を変数として入力し、3種(複数)の制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90を備える如く構成した。
【0101】
尚、規範ヨーレートは操舵角と車速に基づいて適宜算出される。
【0102】
第9実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く検出されたヨーレートと、予め設定された規範ヨーレートとのヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出部102、および複数個のセンサの出力と算出されたヨーレート偏差を変数として入力し、複数の制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90を備える如く構成したので、制御干渉を防止できることに加え、従来技術において制御装置が個々の制御システムとして機能する場合に予めそれぞれのアクチュエータへの操作量を実験により求めてそれぞれプログラム化しておく必要があったのに対し、各アクチュエータに対する操作量を統合的に決定することができるので、プログラムを一極集中させることができる。
【0103】
また、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、複数種の制御システムの協調制御を簡便に行うことができる。
【0104】
また、ニューラルネットワークにおいて、結合重みやしきい値を適宜設定することで、タイヤの摩擦円を有効に利用することができる。即ち、従来技術において制御装置が独立の制御システムとして機能して前記した種々のアクチュエータの操作量を決定しようとすると、例えば車両の横滑りを防止すべく、VSA制御システムにおいてブレーキ油圧機構が前輪の外輪側のブレーキを作動させているとき、AFS制御システムにおいて電動モータの作動量を増加させた場合など、前、後輪に作用する横力が摩擦円の範囲を超える場合も生じ得るが、ニューラルネットワークを介して各アクチュエータの操作量を決定することで、そのような不都合を回避することができる。
【0105】
また、ニューラルネットワークが学習機能を備えるとき、アクチュエータのいずれかが故障したときも、従来技術においてはアクチュエータごとに予めその対応を設定しておく必要があったのに対し、学習によって自動的に補完することができる。また、アクチュエータが追加されたときも、簡単に対応することができる。
【0106】
また、ヨーレート偏差でニューラルネットワークの調整を行うことができ、最適の設定を容易に行なうことができる。さらに、システムの故障や経年変化を生じても、ヨーレート偏差に応じて重み付けを変更することが可能となり、その影響を低減することができる。
【0107】
さらに、複数の制御システムの少なくともいずれかについて、その制御応答性および運転自由度の少なくともいずれかの変更指示を入力する変更指示入力手段を備える如く構成したので、上記した効果に加え、運転者が変更指示を入力する場合、制御応答性などを運転者の好みに応じて変更できると共に、開発者が入力するとき、セッティングが容易となる。
【実施例10】
【0108】
図18は、この発明の第10実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0109】
第10実施例に係る車両制御装置は第2実施例と第9実施例の組み合わせであって、第2実施例の構成に、第9実施例のヨーレート偏差算出部102などの構成を追加するようにした。
【0110】
第10実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第2実施例で述べた効果に加え、第9実施例で述べたのと同様の効果を得ることができる。
【実施例11】
【0111】
図19は、この発明の第11実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【0112】
第11実施例に係る車両制御装置は第3実施例と第9実施例の組み合わせであって、第3実施例の構成に、第9実施例のヨーレート偏差算出部102などの構成を追加するようにした。
【0113】
第11実施例に係る車両制御装置においては、上記の如く構成したので、第3実施例で述べた効果に加え、第9実施例で述べたのと同様の効果を得ることができる。
【0114】
上記の如く、第1から第11実施例においては、車両10の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ(車輪速センサ70など)、前記車両のブレーキ66の作動と、前記車両の前輪20の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ(ブレーキ油圧機構64、第2の電動モータ50、電磁クラッチ24a,24b)、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置(ECU30)からなる車両制御装置において、前記複数個のセンサの出力を変数として入力し、前記複数の制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90を備える如く構成した。
【0115】
また、車両10の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ(車輪速センサ70など)、前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪20の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ(ブレーキ油圧機構64、第2の電動モータ50、電磁クラッチ24a,24b)、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置(ECU30)からなる車両制御装置において、前記複数個のセンサの出力と、前記複数の制御システムによってそれぞれ決定された前記アクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、前記操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90、および前記操作量を対応する前記補正係数で補正して前記アクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部92(統合ECU94)を備える如く構成した。
【0116】
また、車両10の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ(車輪速センサ70など)、前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪20の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ(ブレーキ油圧機構64、第2の電動モータ50、電磁クラッチ24a,24b)、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置(ECU30)からなる車両制御装置において、前記複数個のセンサの出力と、前記複数の制御システムによってそれぞれ決定された前記アクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、前記操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する複数のニューラルネットワーク90a,90b、および前記操作量を対応する前記補正係数で補正して前記アクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部92(統合ECU94)を備える如く構成した。
【0117】
また、車両10の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ(車輪速センサ70など)、前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪20の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ(ブレーキ油圧機構64、第1、第2の電動モータ50、電磁クラッチ24a,24b)、および前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置(ECU30)からなる車両制御装置において、前記検出されたヨーレートと、予め設定された規範ヨーレートとのヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出部102、および前記複数個のセンサの出力と前記算出されたヨーレート偏差を変数として入力し、前記複数の制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク90を備える如く構成した。
【0118】
さらに、前記複数の制御システムの少なくともいずれかについて、その制御応答性および運転自由度の少なくともいずれかの変更指示を入力する変更指示入力手段(マニュアル調整スイッチ100)を備える如く構成した。
【0119】
尚、上記において、ニューラルネットワークを3層の階層型から構成したが、それに限定されるものではなく、どのようなものでも良い。また、その個数も図示例に限定されるものではない。
【0120】
また、上記において、車両の運動制御の例としてサスペンション制御などを加えても良い。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】この発明の第1実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示すECUの構成を入出力も含めて機能的に示すブロック図である。
【図3】図2に示すニューラルネットワークの構造を示す説明図である。
【図4】図3の構成で使用される活性化関数の例を示す説明図である。
【図5】第1実施例に係る車両制御装置のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図6】同様に、第1実施例に係る車両制御装置のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図7】同様に、第1実施例に係る車両制御装置のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図8】同様に、第1実施例に係る車両制御装置のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図9】この発明の第2実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図10】この発明の第3実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図11】この発明の第4実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図12】この発明の第5実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図13】この発明の第6実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図14】図13で使用するマニュアル調整スイッチ(変更指示入力手段)を示す説明図である。
【図15】この発明の第7実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図16】この発明の第8実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図17】この発明の第9実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図18】この発明の第10実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【図19】この発明の第11実施例に係る車両制御装置を全体的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0122】
10 車両
12 エンジン(内燃機関)
20 前輪
24 リアディファレンシャル
24a,24b 電磁クラッチ(アクチュエータ)
30 ECU(電子制御ユニット)
42 第1の電動モータ
50 第2の電動モータ(アクチュエータ)
64 ブレーキ油圧機構(アクチュエータ)
70 車輪速センサ
72 ヨーレートセンサ
74 横加速度センサ
76 操舵角センサ
80 ロータリエンコーダ
90 ニューラルネットワーク
92 補正部
94 第2のECU(統合ECU)
100 マニュアル調整スイッチ(変更指示入力手段)
102 ヨーレート偏差算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、
a.前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ、
b.前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ、
および
c.前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置、
からなる車両制御装置において、
d.前記複数個のセンサの出力を変数として入力し、前記複数の制御システムのアクチュエータのそれぞれの操作量を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、
a.前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ、
b.前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ、
および
c.前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置、
からなる車両制御装置において、
d.前記複数個のセンサの出力と、前記複数の制御システムによってそれぞれ決定された前記アクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、前記操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する少なくとも1つのニューラルネットワーク、
および
e.前記操作量を対応する前記補正係数で補正して前記アクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
車両の運動を制御する複数の制御システムを備え、前記複数の制御システムのそれぞれが、
a.前記車両の走行速度と、前記車両の重心位置に鉛直軸回りに作用するヨーレートと、前記車両の進行方向に直交する横方向から前記車両に作用する横加速度とを少なくとも含む、前記車両の運動状態を検出する複数個のセンサ、
b.前記車両のブレーキの作動と、前記車両の前輪の操舵と、前記車両の前後輪の駆動力の配分の中の少なくともいずれかを行うアクチュエータ、
および
c.前記複数個のセンサの出力を制御量として入力して前記アクチュエータの操作量を決定し、決定した操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動して前記車両の運動を制御する制御装置、
からなる車両制御装置において、
d.前記複数個のセンサの出力と、前記複数の制御システムによってそれぞれ決定された前記アクチュエータのそれぞれの操作量を変数として入力し、前記操作量をそれぞれ補正する補正係数を出力する複数のニューラルネットワーク、
および
e.前記操作量を対応する前記補正係数で補正して前記アクチュエータの最終操作量をそれぞれ決定して出力する補正部、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
さらに、
f.前記複数の制御システムの少なくともいずれかについて、その制御応答性および運転自由度の少なくともいずれかの変更指示を入力する変更指示入力手段、
を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−7823(P2006−7823A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184076(P2004−184076)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】