車両制御装置
【課題】フューエルカットからの復帰時にショックが生じることを抑制することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、車両の走行中にエンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境(S21肯定)に基づいて、圧縮比の高圧縮側への変化を規制する(S23)。エンジンの回転数の低下に基づくフューエルカットからの復帰前に圧縮比を所定圧縮比から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行する場合、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、復帰前圧縮比制御による圧縮比の高圧縮側への変化を規制することが好ましい。
【解決手段】圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、車両の走行中にエンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境(S21肯定)に基づいて、圧縮比の高圧縮側への変化を規制する(S23)。エンジンの回転数の低下に基づくフューエルカットからの復帰前に圧縮比を所定圧縮比から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行する場合、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、復帰前圧縮比制御による圧縮比の高圧縮側への変化を規制することが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中にエンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットを実行する技術が公知である。例えば、特許文献1には、減速時にアクセルペダルおよびブレーキペダルの両方とも踏込が無い状態では、高圧縮比化速度を小さくすることで低圧縮比期間を長期化し、燃料カットが行われる慣性走行距離を伸ばして燃費を向上させる可変圧縮比内燃機関の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フューエルカットから復帰して燃料の供給が再開されるときに、車両にショックが発生することがある。例えば、アクセルオンによるフューエルカットからの復帰時にエンジンの圧縮比が適正でないと、大きなトルクが発生してショックが生じたり、運転者に違和感を与えたりする虞がある。
【0005】
本発明の目的は、フューエルカットからの復帰時にショックが生じることを抑制することができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、車両の走行中に前記エンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制することを特徴とする。
【0007】
上記車両制御装置において、前記フューエルカットにおいて前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比よりも低圧縮側の所定圧縮比とし、かつ前記エンジンの回転数の低下に基づく前記フューエルカットからの復帰前に前記圧縮比を前記所定圧縮比から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行し、前記アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制することが好ましい。
【0008】
上記車両制御装置において、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記圧縮比を低圧縮側に変化させることが好ましい。
【0009】
上記車両制御装置において、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始される前の値まで前記圧縮比を変化させることが好ましい。
【0010】
上記車両制御装置において、前記フューエルカットの実行中に前記エンジンのスロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度よりも大きな開度とし、かつ前記アクセルオンがなされると前記スロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度とすることが好ましい。
【0011】
上記車両制御装置において、前記アクセルオン後の前記スロットルバルブの開度が、前記アクセルオン前の前記スロットルバルブの開度よりも小さな開度である場合、前記アクセルオンがなされてから、前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下するまで、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制することが好ましい。
【0012】
上記車両制御装置において、前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下すると、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた値まで高圧縮側へ変化させ、かつ、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた値まで変化させる間に前記スロットルバルブの開度を増加させる制御を行うことが好ましい。
【0013】
上記車両制御装置において、前記アクセルオンが予測される走行環境は、前記車両と先行車両との車間距離の拡大、前記車両の前方の信号の変化、あるいは前記車両がコーナーの出口に接近することの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両制御装置は、圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、車両の走行中にエンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、圧縮比の高圧縮側への変化を規制する。これにより、高圧縮比の状態でフューエルカットから復帰することが抑制される。よって、本発明に係る車両制御装置によれば、フューエルカットからの復帰時にショックが生じることを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施形態の車両制御装置による制御に係るタイムチャートである。
【図2】図2は、実施形態に係る車両の概略構成図である。
【図3】図3は、実施形態に係る車両のエンジンを示す図である。
【図4】図4は、自然復帰に係るタイムチャートである。
【図5】図5は、実施形態のアクセルON復帰フラグの操作に係るフローチャートである。
【図6】図6は、実施形態の空気量大時間の判定に係るフローチャートである。
【図7】図7は、実施形態のアクセルON想定判定に係るフローチャートである。
【図8】図8は、実施形態のアクセルオン復帰制御に係るフローチャートである。
【図9】図9は、空気量大時間の算出方法の一例を示す図である。
【図10】図10は、実施形態の変形例に係るタイムチャートである。
【図11】図11は、フューエルカットからの復帰時に発生するショックを説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
[実施形態]
図1から図9を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、実施形態の車両制御装置による制御に係るタイムチャート、図2は、実施形態に係る車両の概略構成図、図3は、実施形態に係る車両のエンジンを示す図、図4は、自然復帰に係るタイムチャート、図5は、実施形態のアクセルオン復帰フラグの操作に係るフローチャート、図6は、実施形態の空気量大時間の判定に係るフローチャート、図7は、実施形態のアクセルオン想定判定に係るフローチャート、図8は、実施形態のアクセルオン復帰フラグON時の制御に係るフローチャート、図9は、空気量大時間の算出方法の一例を示す図である。
【0018】
本実施形態に係る車両は、可変圧縮比のエンジン(図2の符号11参照)と変速機(図2の符号15参照)とを備えている。車両制御装置(図2の符号1−1参照)は、アクセルオフ時にスロットルを開いてエンジンブレーキ力を弱め、フューエルカット時間を稼ぐ制御を行う。ここで、スロットルを開く制御を行うと、アクセルオンにてフューエルカットから復帰する際に大トルクによってショックが発生したり、違和感を与えたりする虞がある。
【0019】
本実施形態の車両制御装置1−1は、フューエルカット制御の実行時に、コーナー出口、前方の信号が赤→青に変更時など、アクセルオンが想定される場合、エンジン11の圧縮比εが低圧縮比から変化することを禁止する。これにより、アクセルオンの直後にエンジン11に対する吸気量が大となってトルクが大きくなることを抑制することができる。よって、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、アクセルオンによるフューエルカットからの復帰時のショックや違和感を抑制することが可能となる。
【0020】
図2に示すように、車両100は、エンジン11、トルクコンバータ12、無段変速機15およびECU30を備える。また、本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン11、およびECU30を備える。なお、車両制御装置1−1は、更に無段変速機15やオルタネータ21を備えてもよい。
【0021】
エンジン11は、車両100の動力源である。エンジン11の回転軸には、トルクコンバータ12が連結されている。トルクコンバータ12の駆動軸13は、前後進切替機構14を介して無段変速機15と連結されている。無段変速機15は、プロペラシャフト16、デファレンシャルギア17およびドライブシャフト18を介して駆動輪19と接続されている。
【0022】
図3に示すように、エンジン11は、気筒1を有する。気筒1には、吸気管2および排気管3が接続されている。また、気筒1内には、ピストン4が配置されている。気筒1内におけるピストン4よりも吸気管2および排気管3側には燃焼室5が形成されている。燃焼室5と吸気管2との接続部には、吸気バルブ6が配置され、燃焼室5と排気管3との接続部には、排気バルブ7が配置されている。また、吸気管2は、サージタンク8を有する。吸気管2におけるサージタンク8よりも吸気の流れ方向の上流側には、スロットルバルブ9が配置されている。
【0023】
図2に戻り、エンジン11が駆動すると、その動力が回転軸から出力され、トルクコンバータ12から前後進切替機構14を介して無段変速機15の入力軸に入力される。無段変速機15に入力された動力は、無段変速機15において設定された変速比で減速されて出力軸からプロペラシャフト16に出力される。プロペラシャフト16に入力された動力は、デファレンシャルギア17を介して左右のドライブシャフト18に伝達され、左右の駆動輪19を駆動して回転させることができる。
【0024】
エンジン11は、燃焼室5における圧縮比を変更することができる圧縮比可変機構20を有する。圧縮比可変機構20は、電磁力等によって作動して圧縮比を変更するアクチュエータ、例えば電動モータを有している。圧縮比可変機構20のアクチュエータは、例えば、エンジン11のシリンダブロックをクランクケースに対して気筒1の軸方向、すなわちピストン4が往復動する方向に相対移動させて燃焼室5の容積を変更することで圧縮比を変更する。なお、圧縮比可変機構20が圧縮比を変更する方法はこれに限定されるものではない。圧縮比可変機構20は、例えば、アクチュエータによって吸気バルブ6の閉じタイミングを変更したりすることによって圧縮比を変更するようにしてもよい。圧縮比可変機構20は、エンジン11の圧縮比εを予め定められた範囲の任意の圧縮比に変更することができる。
【0025】
エンジン11には、オルタネータ21が設けられている。オルタネータ21は、エンジン11と動力を伝達する発電機である。オルタネータ21は、例えば、エンジン11の回転軸とベルトを介して接続されており、エンジン11の回転と連動して回転する。オルタネータ21は、エンジン11の出力する動力、あるいはエンジン11を介して駆動輪19から伝達される動力などの動力によって回転駆動されることで発電を行う。オルタネータ21は、発電量を制御可能である。
【0026】
無段変速機15は、自動変速機であり、変速比を無段階に変化させることができる。無段変速機15は、例えば、ベルト式無段変速機である。無段変速機15の入力側部材(例えば、プライマリプーリ)と出力側部材(例えば、セカンダリプーリ)とは、ベルトを介して接続されている。無段変速機15は、エンジン11からの駆動力をベルトを介して入力側部材から出力側部材に伝達できると共に、入力側部材と出力側部材との回転数比である変速比を無段階(連続的)に変化させることができる。無段変速機15は、変速機油圧制御部28から供給される油圧によって制御される。
【0027】
ECU30は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、エンジン11、無段変速機15、圧縮比可変機構20およびオルタネータ21を制御する機能を有する。ECU30には、アクセルポジションセンサ23、スロットルポジションセンサ24、エンジン回転数センサ25および車速センサ26が接続されており、各センサ23,24,25および26の検出結果を示す信号がECU30に出力される。アクセルポジションセンサ23は、アクセルペダルに対する踏込み量(アクセル開度)を検出する。スロットルポジションセンサ24は、電子スロットル装置におけるスロットルバルブ9の開度であるスロットル開度を検出する。エンジン回転数センサ25は、エンジン11の回転数を検出する。車速センサ26は、車両100の走行速度を検出する。
【0028】
ナビゲーション装置27は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としている。ナビゲーション装置27は、位置検出部、地図データベース、演算部等を有する公知のナビゲーションシステムとすることができる。ナビゲーション装置27は、入力された目的地に基づいて、目的地までの経路の検索や経路中の走行案内等を実行することができる。また、ナビゲーション装置27は、車車間通信や路車間通信等の通信機能を有していてもよい。ナビゲーション装置27は、ECU30と接続されており、ECU30と双方向の通信を行うことができる。
【0029】
車間距離検出装置29は、自車両と先行車両との車間距離を検出することができるものである。車間距離検出装置29は、例えば、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサまたはミリ波レーダーセンサなどのセンサとすることができる。車間距離検出装置29は、ECU30と接続されており、車間距離検出装置29の検出結果を示す信号はECU30に出力される。
【0030】
ECU30は、取得した各センサの検出結果に基づいてエンジン11を制御する。ECU30は、例えば、エンジン11のインジェクタによる燃料噴射量、燃料噴射タイミング、点火プラグによる点火時期などを制御することができる。
【0031】
また、ECU30は、車両100の運転状態に応じてエンジン11の圧縮比を変更することができる。ECU30は、例えば、エンジン11の負荷に応じて圧縮比を可変に制御する。エンジン11の負荷は、例えば、吸入空気量、アクセル開度、スロットル開度、エンジン回転数、燃料噴射量などである。ECU30は、例えば、アクセル開度と車速とに基づいてエンジン負荷を算出するようにしてもよい。本実施形態では、エンジン負荷が大きい場合のエンジン11の圧縮比εは、エンジン負荷が小さい場合の圧縮比εよりも低い圧縮比とされる。
【0032】
ECU30は、変速機油圧制御部28を制御して無段変速機15を油圧制御することによって、変速制御を実行することができる。ECU30は、車両100の運転状態(例えば、車速、アクセル開度、ブレーキペダルストロークなど)と、制御マップ(例えば、機関回転数、スロットル開度に基づく最適燃費曲線、等出力線など)とに基づいて、エンジン11の運転状態が最適となるように無段変速機15の変速比を制御する。
【0033】
また、ECU30は、車両100の走行中にエンジン11に対する燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行することができる。ECU30は、予め定められたフューエルカット実行条件が成立した場合にフューエルカット制御を実行する。フューエルカット実行条件は、例えば、アクセル開度が所定の開度以下(一例として、開度0)であるアクセルオフの状態であり、かつ車速が所定の車速以上であることを含むものである。
【0034】
本実施形態では、フューエルカット時に、スロットルバルブ9を開く制御が行われる。ECU30は、フューエルカット時に、アクセル開度に基づくスロットル開度やエンジン負荷に対応するスロットル開度よりもスロットルバルブ9の開度を大きな開度とする。これにより、ポンピングロスが抑制され、エンジンブレーキ力が低減することで、フューエルカットの継続時間の延長を図ることができる。
【0035】
また、ECU30は、フューエルカットにおいて、エンジン11の圧縮比εをエンジン負荷に対応する圧縮比よりも低い圧縮比とする。エンジン11の圧縮比εが低圧縮比化されてエンジン11のフリクションロスが抑制され、エンジンブレーキ力が低減することで、フューエルカットの継続時間の延長を図ることができる。
【0036】
また、ECU30は、フューエルカット時に、オルタネータ21の発電をOFFとする。これにより、オルタネータ21による負荷が軽減し、エンジン11のフリクションロスが低減することで、フューエルカットの継続時間の延長を図ることができる。
【0037】
ECU30は、フューエルカット中に予め定められたフューエルカット終了条件が成立すると、フューエルカットから復帰してエンジン11に対する燃料の供給を再開する。フューエルカット終了条件は、例えば、アクセルオン等の運転者による加速操作、エンジン回転数の低下や車速の低下などの車両100の走行状態の変化を含むことができる。本実施形態では、アクセルオンの操作がなされた場合、フューエルカットから復帰する。また、エンジン回転数が予め定められたフューエルカット終了回転数Ne1以下となると、フューエルカットから復帰する。本明細書では、エンジン回転数の低下に基づくフューエルカットからの復帰を「自然復帰」と記載する。なお、自然復帰は、エンジン回転数に限らず、車速等に基づいてなされてもよい。
【0038】
ここで、フューエルカット時にスロットルバルブ9を開く制御を行っていると、図11を参照して説明するように、フューエルカットから復帰してエンジン11に対する燃料の供給が再開されるときにショックが発生することがある。図11は、フューエルカットからの復帰時に発生するショックを説明するタイムチャートである。
【0039】
図11において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はフューエルカット(FC)実行フラグ、(d)はエンジントルク、(e)はドライブシャフトトルクを示す。図11には、フューエルカット実行中の時刻T11にアクセルオンとされたときの動作が示されている。
【0040】
ECU30は、時刻T11以前のフューエルカット実行中には、スロットルバルブ9を開く制御を行う。スロットルバルブ9を開く制御とは、例えば、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度よりも大きな所定開度θ1とする制御である。所定開度θ1は、一定値であっても、走行状態等に応じて可変とされてもよい。ECU30は、時刻T11においてアクセルが踏み込まれてアクセルオンがなされると、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度θ2に変更する。
【0041】
ここで、フューエルカット時にスロットルバルブ9を開く制御を行っていると、吸気管2内の負圧が小さく、吸気バルブ6とスロットルバルブ9との間(図3の矢印Y1参照)に多量の空気が存在する状態になる。この状態から、アクセルオンがなされると、吸気バルブ6とスロットルバルブ9との間にある多量の空気がまずシリンダ内に流入する。このため、エンジン11において一時的に大トルクが発生し、ドライブシャフトトルクが増加することで、ショックが発生する。
【0042】
また、フューエルカット中にアクセルオンしたとき、アクセルペダルを浅く踏み込んだ場合には、スロットルバルブ9が閉じ方向に動く場合がある。図11では、アクセルオン後のアクセル開度に基づくスロットル開度θ2がアクセルオン前の所定開度θ1よりも小さな開度となっている。この場合、スロットルバルブ9を閉じて空気量調整がなされているにもかかわらず、吸気バルブ6とスロットルバルブ9との間にある多量の空気がまずシリンダ内に流入する。このため、エンジン11において一時的に大トルクが発生し、ドライブシャフトトルクの増加によってショックが発生したり運転者に違和感を与えたりしやすい。
【0043】
本実施形態の車両制御装置1−1は、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときに、エンジン11の圧縮比εを低圧縮比とする。ECU30は、フューエルカットにおいて、エンジン11の圧縮比εをエンジン11の負荷に応じた圧縮比ε1よりも低圧縮側の所定圧縮比ε2とする。所定圧縮比ε2は、一定値であっても、エンジン11の負荷に応じて変化するものであってもよい。アクセルオンされたときに、エンジン11の圧縮比εが所定圧縮比ε2とされていることで、圧縮比εがエンジン11の負荷に応じた圧縮比ε1とされる場合よりも燃焼効率等が低下し、出力トルクが低下する。これにより、燃料の供給が再開されるときのショックや違和感が抑制される。
【0044】
しかしながら、フューエルカットから自然復帰する直前には、以下に図4を参照して説明するように、圧縮比εがエンジン11の負荷に応じた圧縮比ε1に変化する。これにより、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときのショックや違和感を十分に抑制できなくなる虞がある。
【0045】
図4において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はエンジン回転数、(d)はフューエルカットフラグ、(e)は圧縮比εを示す。ECU30は、フューエルカット中にエンジン回転数が低下して予め定められたフューエルカット終了回転数Ne1以下となるとフューエルカットを終了させてエンジン11に対する燃料の供給を再開する。図4では、時刻T6においてエンジン回転数がフューエルカット終了回転数Ne1以下の回転数となり、フューエルカットフラグがOFFとされてフューエルカットから復帰する。
【0046】
ECU30は、フューエルカット中にエンジン回転数が低下してフューエルカット終了回転数Ne1に近づくと、圧縮比εを所定圧縮比ε2から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行する。復帰前圧縮比制御は、例えば、エンジン回転数がフューエルカット終了回転数Ne1よりも大きな復帰準備回転数Ne2以下となったときに開始される。
【0047】
ECU30は、復帰前圧縮比制御において、圧縮比εを所定圧縮比ε2から負荷に応じた圧縮比ε1まで変化させる。時刻T6においてエンジン11に対する燃料の供給が再開されるときには、圧縮比εが負荷に応じた圧縮比ε1まで高められている。これにより、フューエルカットから低負荷で自然復帰するときの燃焼が確保される。また、ECU30は、フューエルカットフラグがOFFとなる前にスロットル開度を所定開度θ1からアクセル開度に基づく開度θ3に低下させる。これにより、自然復帰する前に吸気管2内の空気が減少し、自然復帰時のショックの発生が抑制される。
【0048】
ここで、復帰前圧縮比制御を実行中の時刻T5においてアクセルオンがなされたとすると、圧縮比εが高い状態でフューエルカットから復帰してエンジン11における燃焼が開始されることとなる。これにより、アクセルオンによってフューエルカットから復帰する時のトルクショックや違和感を十分に抑制できなくなる虞がある。
【0049】
本実施形態の車両制御装置1−1は、フューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制する。これにより、例えば、復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化が規制される。よって、アクセルオンされてフューエルカットから復帰するときのトルクショックや運転者に与える違和感を抑制することができる。なお、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制することには、高圧縮側への変化を禁止することだけでなく、アクセルオンが予測される走行環境が検出されていない場合よりも高圧縮側への変化量を低減すること、高圧縮側への変化速度を低減することが含まれてもよい。
【0050】
以下に、図1、および図5から図9を参照して、本実施形態の車両制御装置1−1による制御について説明する。図1において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はエンジン回転数、(d)はフューエルカットフラグ、(e)は圧縮比ε、(f)はエンジントルク、(g)はドライブシャフトトルク、(h)はアクセルON復帰フラグをそれぞれ示す。また、図1において、一点鎖線は、本実施形態の車両制御装置1−1による制御がなされない場合の各値の推移の一例を示し、実線は、本実施形態の車両制御装置1−1による制御がなされる場合の各値の推移を示す。時刻T0は、復帰前圧縮比制御が開始されるタイミング、時刻T1は、アクセルオンの予測判定がなされるタイミング、時刻T2は、アクセルオンがなされるタイミングをそれぞれ示す。
【0051】
図5から図8の各制御フローは、それぞれ車両100の走行中に実行されるものであり、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。これらの各制御フローは、図番の順序(図5→図6→図7→図8)で実行されてもよく、図番の順序とは異なる順序で実行されてもよい。
【0052】
図5のステップS1では、ECU30により、アクセル開度、スロットル開度、フューエルカット実行有無が読み込まれる。ECU30は、アクセルポジションセンサ23およびスロットルポジションセンサ24の検出結果に基づいて、アクセル開度およびスロットル開度を取得することができる。また、ECU30は、フューエルカットフラグに基づいて、フューエルカット実行の有無を取得することができる。なお、フューエルカットフラグは、フューエルカット実行条件が成立している場合にONとされる。ステップS1が実行されると、ステップS2に進む。
【0053】
ステップS2では、ECU30により、エンジンブレーキ制御の実行中であるか否かが判定される。エンジンブレーキ制御は、フューエルカット中にエンジンブレーキ力を抑制する制御であり、本実施形態では、スロットルバルブ9を開く制御、およびエンジン11の圧縮比εを所定圧縮比ε2とする制御がエンジンブレーキ制御に含まれる。なお、オルタネータ21の発電をOFFとする制御がエンジンブレーキ制御に含まれてもよい。ECU30は、例えば、エンジンブレーキ制御に含まれる制御のいずれかが実行されている場合にステップS2で肯定判定を行うようにしても、エンジンブレーキ制御に含まれる全ての制御が実行されている場合に肯定判定を行うようにしてもよい。ステップS2の判定の結果、エンジンブレーキ制御の実行中であると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)にはステップS4に進む。
【0054】
ステップS3では、ECU30により、エンジンブレーキ制御実行フラグがONとされる。ステップS3が実行されると、本制御フローは終了する。
【0055】
ステップS4では、ECU30により、エンジンブレーキ制御実行フラグがOFFとされる。ステップS4が実行されると、ステップS5に進む。
【0056】
ステップS5では、ECU30により、先回エンジンブレーキ制御実行フラグがONであるか否かが判定される。ステップS5では、エンジンブレーキ制御実行フラグがONからOFFに変化したか否かが判定される。先回エンジンブレーキ制御実行フラグは、例えば、先回本制御フローが終了してリターンするときのエンジンブレーキ制御実行フラグの値である。ステップS5の判定の結果、先回エンジンブレーキ制御実行フラグがONであると判定された場合(ステップS5−Y)にはステップS6に進み、そうでない場合(ステップS5−N)には本制御フローは終了する。
【0057】
ステップS6では、ECU30により、アクセルオンであるか否かが判定される。ECU30は、アクセルポジションセンサ23の検出結果に基づいてステップS6の判定を行うことができる。ECU30は、例えば、アクセルポジションセンサ23によって検出されたアクセル開度が予め定められた閾値よりも大きな開度である場合にアクセルオンと判定する。ステップS6の判定の結果、アクセルオンと判定された場合(ステップS6−Y)にはステップS7に進み、そうでない場合(ステップS6−N)には本制御フローは終了する。
【0058】
ステップS7では、ECU30により、今回スロットル開度指示値が先回スロットル開度よりも小であるか否かが判定される。ステップS7では、アクセルオン後のスロットル開度が、アクセルオン前のスロットル開度よりも小さな開度であるか否かが判定される。先回スロットル開度とは、例えば、先回本制御フローが実行されたときにステップS1で読み込まれたスロットル開度である。ECU30は、ステップS1で読み込まれた今回スロットル開度指示値と、先回スロットル開度との比較結果に基づいてステップS7の判定を行う。ステップS7の判定の結果、今回スロットル開度指示値が先回スロットル開度よりも小であると判定された場合(ステップS7−Y)にはステップS8に進み、そうでない場合(ステップS7−N)には本制御フローは終了する。
【0059】
ステップS8では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがONとされる。アクセルON復帰フラグは、アクセルオンがなされ、かつアクセルオン後のアクセル開度に基づくスロットル開度θ2が、アクセルオン前のスロットル開度よりも小さな開度である場合にONとされる。
【0060】
本実施形態では、アクセルON復帰フラグがONであると、アクセルオン復帰制御が実行される。アクセルオン復帰制御は、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときのトルクショック等を抑制する制御である。アクセルオン復帰制御は、フューエルカットからの復帰時に吸気管2内の空気量がスロットルバルブ9の開度に応じたものとなるまで圧縮比εを低圧縮比に維持する制御(図8参照)を含むものである。ステップS8が実行されると、本制御フローは終了する。
【0061】
図6のステップS11では、ECU30により、先回アクセルON復帰フラグがOFFであるか否かが判定される。先回アクセルON復帰フラグは、先回本制御フローが実行されたときのアクセルON復帰フラグの値である。ステップS11の判定の結果、先回アクセルON復帰フラグがOFFであると判定された場合(ステップS11−Y)にはステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)にはステップS15に進む。
【0062】
ステップS12では、ECU30により、今回アクセルON復帰フラグがONであるか否かが判定される。ステップS12では、アクセルON復帰フラグがOFFからONに切り替わったか否かが判定される。ステップS12の判定の結果、今回アクセルON復帰フラグがONであると判定された場合(ステップS12−Y)にはステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)には本制御フローは終了する。
【0063】
ステップS13では、ECU30により、エンジン回転数が読み込まれる。ステップS13が実行されると、ステップS14に進む。
【0064】
ステップS14では、ECU30により、空気量大時間が算出される。空気量大時間とは、燃焼室5に対する吸気量がスロットル開度に応じた吸気量を上回っている時間のことである。アクセルオンされたときのアクセル開度に基づく開度θ2が、所定開度θ1よりも小さな開度であると、吸気管2内に残された多量の空気が燃焼室5に流入することで、一時的に燃焼室5に対する吸気量がスロットル開度に応じた吸気量よりも大となる。空気量大時間は、フューエルカット中にアクセルオンされてから、燃焼室5に対する吸気量がスロットル開度に応じた吸気量に収束(低下)するまでに要する時間である。ECU30は、例えば、図9に示す対応関係に基づいて空気量大時間を算出する。
【0065】
図9において、横軸はエンジン回転数、縦軸は空気量大時間を示す。エンジン回転数が小さい場合の空気量大時間は、エンジン回転数が大きい場合の空気量大時間よりも長い時間として算出される。空気量大時間は、エンジン回転数の増加に応じて直線的に減少するように定められてもよい。本実施形態のECU30は、予め記憶された図9に示す対応関係を参照し、ステップS13で読み込んだエンジン回転数に基づいて空気量大時間を算出する。ECU30は、空気量大時間を算出すると、算出された空気量大時間が経過したか否かをタイマーによってカウントし始める。ステップS14が実行されると、本制御フローは終了する。
【0066】
ステップS15では、ECU30により、空気量大時間の経過後であるか否かが判定される。ECU30は、タイマーによってカウントされた経過時間がステップS14で算出された空気量大時間に達したか否かを判定する。ステップS15の判定の結果、空気量大時間の経過後であると判定された場合(ステップS15−Y)にはステップS16に進み、そうでない場合(ステップS15−N)には本制御フローは終了する。図1では、時刻T3において空気量大時間が経過したと判定される。
【0067】
ステップS16では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがOFFとされる。ステップS16が実行されると、本制御フローは終了する。
【0068】
図7のステップS21では、ECU30により、アクセルオンが想定される走行環境が検出されているか否かが判定される。アクセルオンが想定される走行環境、言い換えるとアクセルオンが予測される走行環境は、例えば、車両100がコーナー出口付近にあること、車両100の前方の信号の変化(例えば、赤から青に変わったこと)、車両100と先行車両との車間距離が拡大したことを含む。なお、アクセルオンが予測される走行環境は、例示したものには限定されない。
【0069】
車両100がコーナー出口付近を走行し、コーナー出口に接近していることは、例えば、ナビゲーション装置27から取得した情報に基づいて検出することができる。一例として、ECU30は、ナビゲーション装置27から取得した車両100の現在位置情報と地図情報とに基づいて車両100がコーナーにおける出口側を走行中である場合にコーナー出口付近を走行していると判断することが可能である。
【0070】
車両100の前方の信号が赤信号から青信号に変わったことは、例えば、通信により取得することができる。ECU30は、例えば、路車間通信や車車間通信等によって前方の信号の状態を取得することによって、アクセルオンが想定される信号の状態変化が生じたか否かを判断することが可能である。通信機能は、例えば、ナビゲーション装置27が有する機能の一部であってもよい。
【0071】
先行車両との車間距離は、車間距離検出装置29によって検出可能である。フューエルカット中に車両100と先行車両との車間距離が拡大した場合、アクセルオンが予測される走行環境にあると判断することが可能である。
【0072】
なお、ECU30は、車両100の前方を撮像した画像の画像処理結果に基づいてアクセルオンが予測される走行環境を検出するようにしてもよい。
【0073】
ECU30は、例えば、アクセルオンが予測される走行環境の少なくとも一つが検出されている場合にステップS21において肯定判定を行う。ステップS21の判定の結果、アクセルオンが予測される走行環境が検出されていると判定された場合(ステップS21−Y)にはステップS22に進み、そうでない場合(ステップS21−N)にはステップS25に進む。
【0074】
ステップS22では、ECU30により、アクセルON想定判定がONとされる。ステップS22が実行されるとステップS23に進む。
【0075】
ステップS23では、ECU30により、圧縮比εが低くされる。ECU30は、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制し、低圧縮側の値に変化させる。例えば、復帰前圧縮比制御がなされているとしても、復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化を禁止して、低圧縮側の値に変化させる。この場合に、所定圧縮比ε2、すなわち復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化が開始される前の値まで圧縮比εを変化させることが好ましい。なお、アクセルON想定判定がONとされた場合、復帰前圧縮比制御を中止あるいはアクセルON想定判定がOFFとなるまで停止するようにしてもよい。
【0076】
図1では、時刻T1においてアクセルON想定判定がONとされ、実線の圧縮比εが低圧縮側の値に変化し始める。つまり、ECU30は、復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化が開始された後の時刻T1において、アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、圧縮比εを低圧縮側に変化させる。
【0077】
これにより、本実施形態(実線)では、実際にアクセルオンがなされる時刻T2には圧縮比εが低下している。よって、フューエルカットから復帰するときのエンジントルクおよびドライブシャフトトルクの増加が抑制される。一方、本実施形態のようにアクセルオンの予測を行わない場合(一点鎖線)、燃焼再開時のトルク抑制のために圧縮比εを低圧縮側の値に変化させるとしても、アクセルオンがなされた時刻T2から開始することとなる。したがって、フューエルカットから復帰するときのエンジントルクおよびドライブシャフトトルクの増加を十分に抑制することは困難である。ステップS23が実行されると、ステップS24に進む。
【0078】
ステップS24では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがONであるか否かが判定される。その判定の結果、アクセルON復帰フラグがONであると判定された場合(ステップS24−Y)にはステップS25に進み、そうでない場合(ステップS24−N)には本制御フローは終了する。
【0079】
ステップS25では、ECU30により、アクセルON想定判定がOFFとされる。ステップS25が実行されると、本制御フローは終了する。
【0080】
図8のステップS31では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがONであるか否かが判定される。その判定の結果、アクセルON復帰フラグがONであると判定された場合(ステップS31−Y)にはステップS32に進み、そうでない場合(ステップS31−N)にはステップS33に進む。
【0081】
ステップS32では、ECU30により、圧縮比εが低くされる。ECU30は、アクセルON復帰フラグがONである間、言い換えると、アクセルオンがなされてからエンジン11の吸気量がスロットル開度に応じた量に低下するまで、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制する。ECU30は、エンジン11の圧縮比εをアクセルオン時の圧縮比よりも低圧縮側の圧縮比、好ましくは所定圧縮比ε2とする。ステップS32が実行されると、本制御フローは終了する。
【0082】
ステップS33では、ECU30により、従来制御に戻される。ここで、ステップS33の従来制御とは、エンジン11の圧縮比εを負荷に応じた圧縮比ε1とする制御である。つまり、ECU30は、空気量大時間が経過し、エンジン11の吸気量がスロットル開度に応じた量に低下すると、エンジン11の圧縮比εを所定圧縮比ε2から負荷に応じた圧縮比ε1に移行させる。ステップS33が実行されると、ステップS34に進む。
【0083】
ステップS34では、ECU30により、スロットルが開き側に補正される。圧縮比εを所定圧縮比ε2から負荷に応じた圧縮比ε1に変化させるためには、所定の時間を要する。この間、実際の圧縮比εが負荷に応じた圧縮比ε1よりも低圧縮側の値となるため、トルクが落ち込む虞がある。例えば、空気量大時間が経過した時刻T3の直後は、狙いとする圧縮比ε1と実際の圧縮比εとの乖離が大きく、トルクの落ち込みが生じやすい。
【0084】
これに対して、ECU30は、圧縮比εが狙いの圧縮比ε1となる時刻T4までの間、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度θ2よりも大きな開度とする。言い換えると、ECU30は、圧縮比εを負荷に応じた圧縮比ε1まで変化させる間にスロットル開度を増加させる制御を行う。スロットル開度の補正量は、例えば、負荷に応じた圧縮比ε1と実際の圧縮比εとの乖離の大きさに基づいて定めることができる。ステップS34が実行されると、本制御フローは終了する。
【0085】
このように、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、フューエルカットの実行中にアクセルオンが予測される場合、圧縮比εを高圧縮側に変化させることが規制される。よって、アクセルオンがなされたときにエンジン11が高圧縮比の状態でフューエルカットから復帰することが抑制される。また、アクセルオンが予測されると、圧縮比εが低圧縮側に変化させられる。よって、アクセルオンがなされてフューエルカットから復帰するときのエンジントルクの増加が抑制される。
【0086】
また、アクセルオンがなされてから、空気量大時間が経過するまで、圧縮比εの増加が規制される。よって、予期せぬエンジントルクの増加が抑制される。また、空気量大時間が経過した後、圧縮比εが負荷に応じた圧縮比ε1に移行するまで、スロットル開度が開き側の開度に補正される。よって、トルクの落ち込みが抑制される。従って、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときのドライブシャフトトルクの増減が抑制され、ショックや違和感が効果的に抑制される。
【0087】
[実施形態の第1変形例]
実施形態の第1変形例について説明する。車両制御装置1−1は、上記実施形態の制御に加えて、アクセルオンが予測・想定される走行環境が検出された場合、スロットルバルブ9を閉じるタイミングを早める制御、あるいはフューエルカットからの復帰タイミングを遅らせる制御の少なくともいずれか一方を実行するようにしてもよい。これにより、エンジン11において大トルクが発生することを未然に抑制し、ショックや違和感を抑制することができる。図10は、本変形例に係るタイムチャートである。
【0088】
図10において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はエンジン回転数、(d)はフューエルカットフラグ、(e)はエンジントルク、(f)はドライブシャフトトルクを示す。図10において、一点鎖線は、本変形例の制御がなされない場合の各値の推移を示し、実線は、本変形例の制御がなされる場合の各値の推移を示す。
【0089】
ECU30は、時刻T7においてアクセルON想定判定がONとされると、スロットル開度を所定開度θ1から閉じ方向に変化させる。ECU30は、例えば、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度θ4とする。これにより、吸気管2の負圧が増加し、吸気管2内の空気量が減少する。よって、その後の時刻T8において実際にアクセルオンがなされた場合に、シリンダ内に供給される空気量が過大となることが抑制される。従って、アクセルオンと同時にフューエルカットから復帰してエンジン11に対する燃料の供給を再開したとしても、大トルクの発生が抑制される。
【0090】
また、本変形例では、アクセルオンのタイミングに対して、フューエルカットからの復帰タイミングに遅れが設けられる。ECU30は、アクセルオンがなされてから所定時間が経過した時刻T9にフューエルカットフラグをOFFとし、フューエルカットから復帰させる。これにより、フューエルカットから復帰するときのエンジントルクおよびドライブシャフトトルクの上昇が抑制される。よって、本変形例によれば、フューエルカットから復帰するときのショックや違和感が効果的に抑制されるという利点がある。上記所定時間は、例えば、空気量大時間に基づいて定められる。空気量大時間は、上記実施形態と同様に算出することができる。
【0091】
なお、本変形例のスロットルバルブ9を閉じるタイミングを早める制御、およびフューエルカットからの復帰タイミングを遅らせる制御は、圧縮比可変機構20を搭載しない車両に対して適用可能である。
【0092】
[実施形態の第2変形例]
実施形態の第2変形例について説明する。上記実施形態の制御に加えて、オルタネータ21の発電制御、あるいは無段変速機15の変速制御の少なくともいずれか一方によってトルクショックの発生を抑制するようにしてもよい。
【0093】
例えば、ECU30は、フューエルカットからの復帰時に、それまで停止していたオルタネータ21の発電を開始させることができる。オルタネータ21による発電をONとすることにより、発電負荷による負荷トルクを発生させ、エンジン11で発生するトルクを打ち消す向きのトルクを作用させることができる。
【0094】
また、ECU30は、フューエルカットからの復帰時に、無段変速機15の変速比を低速側の変速比、すなわち大きな変速比に変速させることができる。無段変速機15をダウンシフトさせることによって、ドライブシャフトトルクの増加が抑制され、ショックや違和感が抑制される。なお、有段変速機が搭載された車両においてダウンシフトさせることにより、ドライブシャフトトルクの増加を抑制するようにしてもよい。
【0095】
オルタネータ21の発電制御や無段変速機15の変速制御によるトルクショックの抑制を行うか否かは、例えば、吸気管2内の負圧や空気量の推定値に基づいて決定されてもよい。吸気管2内の負圧が小さいと推定される場合や空気量が多いと推定される場合に、上記の発電制御や変速制御によりショックを抑制するトルクの発生をアシストさせるようにしてもよい。
【0096】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0097】
1−1 車両制御装置
5 燃焼室
9 スロットルバルブ
11 エンジン
15 無段変速機
20 圧縮比可変機構
21 オルタネータ
30 ECU
100 車両
θ1 所定開度
θ2 アクセル開度に基づく開度
ε1 負荷に応じた圧縮比
ε2 所定圧縮比
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中にエンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットを実行する技術が公知である。例えば、特許文献1には、減速時にアクセルペダルおよびブレーキペダルの両方とも踏込が無い状態では、高圧縮比化速度を小さくすることで低圧縮比期間を長期化し、燃料カットが行われる慣性走行距離を伸ばして燃費を向上させる可変圧縮比内燃機関の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フューエルカットから復帰して燃料の供給が再開されるときに、車両にショックが発生することがある。例えば、アクセルオンによるフューエルカットからの復帰時にエンジンの圧縮比が適正でないと、大きなトルクが発生してショックが生じたり、運転者に違和感を与えたりする虞がある。
【0005】
本発明の目的は、フューエルカットからの復帰時にショックが生じることを抑制することができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、車両の走行中に前記エンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制することを特徴とする。
【0007】
上記車両制御装置において、前記フューエルカットにおいて前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比よりも低圧縮側の所定圧縮比とし、かつ前記エンジンの回転数の低下に基づく前記フューエルカットからの復帰前に前記圧縮比を前記所定圧縮比から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行し、前記アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制することが好ましい。
【0008】
上記車両制御装置において、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記圧縮比を低圧縮側に変化させることが好ましい。
【0009】
上記車両制御装置において、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始される前の値まで前記圧縮比を変化させることが好ましい。
【0010】
上記車両制御装置において、前記フューエルカットの実行中に前記エンジンのスロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度よりも大きな開度とし、かつ前記アクセルオンがなされると前記スロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度とすることが好ましい。
【0011】
上記車両制御装置において、前記アクセルオン後の前記スロットルバルブの開度が、前記アクセルオン前の前記スロットルバルブの開度よりも小さな開度である場合、前記アクセルオンがなされてから、前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下するまで、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制することが好ましい。
【0012】
上記車両制御装置において、前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下すると、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた値まで高圧縮側へ変化させ、かつ、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた値まで変化させる間に前記スロットルバルブの開度を増加させる制御を行うことが好ましい。
【0013】
上記車両制御装置において、前記アクセルオンが予測される走行環境は、前記車両と先行車両との車間距離の拡大、前記車両の前方の信号の変化、あるいは前記車両がコーナーの出口に接近することの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両制御装置は、圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、車両の走行中にエンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、圧縮比の高圧縮側への変化を規制する。これにより、高圧縮比の状態でフューエルカットから復帰することが抑制される。よって、本発明に係る車両制御装置によれば、フューエルカットからの復帰時にショックが生じることを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施形態の車両制御装置による制御に係るタイムチャートである。
【図2】図2は、実施形態に係る車両の概略構成図である。
【図3】図3は、実施形態に係る車両のエンジンを示す図である。
【図4】図4は、自然復帰に係るタイムチャートである。
【図5】図5は、実施形態のアクセルON復帰フラグの操作に係るフローチャートである。
【図6】図6は、実施形態の空気量大時間の判定に係るフローチャートである。
【図7】図7は、実施形態のアクセルON想定判定に係るフローチャートである。
【図8】図8は、実施形態のアクセルオン復帰制御に係るフローチャートである。
【図9】図9は、空気量大時間の算出方法の一例を示す図である。
【図10】図10は、実施形態の変形例に係るタイムチャートである。
【図11】図11は、フューエルカットからの復帰時に発生するショックを説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
[実施形態]
図1から図9を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、実施形態の車両制御装置による制御に係るタイムチャート、図2は、実施形態に係る車両の概略構成図、図3は、実施形態に係る車両のエンジンを示す図、図4は、自然復帰に係るタイムチャート、図5は、実施形態のアクセルオン復帰フラグの操作に係るフローチャート、図6は、実施形態の空気量大時間の判定に係るフローチャート、図7は、実施形態のアクセルオン想定判定に係るフローチャート、図8は、実施形態のアクセルオン復帰フラグON時の制御に係るフローチャート、図9は、空気量大時間の算出方法の一例を示す図である。
【0018】
本実施形態に係る車両は、可変圧縮比のエンジン(図2の符号11参照)と変速機(図2の符号15参照)とを備えている。車両制御装置(図2の符号1−1参照)は、アクセルオフ時にスロットルを開いてエンジンブレーキ力を弱め、フューエルカット時間を稼ぐ制御を行う。ここで、スロットルを開く制御を行うと、アクセルオンにてフューエルカットから復帰する際に大トルクによってショックが発生したり、違和感を与えたりする虞がある。
【0019】
本実施形態の車両制御装置1−1は、フューエルカット制御の実行時に、コーナー出口、前方の信号が赤→青に変更時など、アクセルオンが想定される場合、エンジン11の圧縮比εが低圧縮比から変化することを禁止する。これにより、アクセルオンの直後にエンジン11に対する吸気量が大となってトルクが大きくなることを抑制することができる。よって、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、アクセルオンによるフューエルカットからの復帰時のショックや違和感を抑制することが可能となる。
【0020】
図2に示すように、車両100は、エンジン11、トルクコンバータ12、無段変速機15およびECU30を備える。また、本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン11、およびECU30を備える。なお、車両制御装置1−1は、更に無段変速機15やオルタネータ21を備えてもよい。
【0021】
エンジン11は、車両100の動力源である。エンジン11の回転軸には、トルクコンバータ12が連結されている。トルクコンバータ12の駆動軸13は、前後進切替機構14を介して無段変速機15と連結されている。無段変速機15は、プロペラシャフト16、デファレンシャルギア17およびドライブシャフト18を介して駆動輪19と接続されている。
【0022】
図3に示すように、エンジン11は、気筒1を有する。気筒1には、吸気管2および排気管3が接続されている。また、気筒1内には、ピストン4が配置されている。気筒1内におけるピストン4よりも吸気管2および排気管3側には燃焼室5が形成されている。燃焼室5と吸気管2との接続部には、吸気バルブ6が配置され、燃焼室5と排気管3との接続部には、排気バルブ7が配置されている。また、吸気管2は、サージタンク8を有する。吸気管2におけるサージタンク8よりも吸気の流れ方向の上流側には、スロットルバルブ9が配置されている。
【0023】
図2に戻り、エンジン11が駆動すると、その動力が回転軸から出力され、トルクコンバータ12から前後進切替機構14を介して無段変速機15の入力軸に入力される。無段変速機15に入力された動力は、無段変速機15において設定された変速比で減速されて出力軸からプロペラシャフト16に出力される。プロペラシャフト16に入力された動力は、デファレンシャルギア17を介して左右のドライブシャフト18に伝達され、左右の駆動輪19を駆動して回転させることができる。
【0024】
エンジン11は、燃焼室5における圧縮比を変更することができる圧縮比可変機構20を有する。圧縮比可変機構20は、電磁力等によって作動して圧縮比を変更するアクチュエータ、例えば電動モータを有している。圧縮比可変機構20のアクチュエータは、例えば、エンジン11のシリンダブロックをクランクケースに対して気筒1の軸方向、すなわちピストン4が往復動する方向に相対移動させて燃焼室5の容積を変更することで圧縮比を変更する。なお、圧縮比可変機構20が圧縮比を変更する方法はこれに限定されるものではない。圧縮比可変機構20は、例えば、アクチュエータによって吸気バルブ6の閉じタイミングを変更したりすることによって圧縮比を変更するようにしてもよい。圧縮比可変機構20は、エンジン11の圧縮比εを予め定められた範囲の任意の圧縮比に変更することができる。
【0025】
エンジン11には、オルタネータ21が設けられている。オルタネータ21は、エンジン11と動力を伝達する発電機である。オルタネータ21は、例えば、エンジン11の回転軸とベルトを介して接続されており、エンジン11の回転と連動して回転する。オルタネータ21は、エンジン11の出力する動力、あるいはエンジン11を介して駆動輪19から伝達される動力などの動力によって回転駆動されることで発電を行う。オルタネータ21は、発電量を制御可能である。
【0026】
無段変速機15は、自動変速機であり、変速比を無段階に変化させることができる。無段変速機15は、例えば、ベルト式無段変速機である。無段変速機15の入力側部材(例えば、プライマリプーリ)と出力側部材(例えば、セカンダリプーリ)とは、ベルトを介して接続されている。無段変速機15は、エンジン11からの駆動力をベルトを介して入力側部材から出力側部材に伝達できると共に、入力側部材と出力側部材との回転数比である変速比を無段階(連続的)に変化させることができる。無段変速機15は、変速機油圧制御部28から供給される油圧によって制御される。
【0027】
ECU30は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、エンジン11、無段変速機15、圧縮比可変機構20およびオルタネータ21を制御する機能を有する。ECU30には、アクセルポジションセンサ23、スロットルポジションセンサ24、エンジン回転数センサ25および車速センサ26が接続されており、各センサ23,24,25および26の検出結果を示す信号がECU30に出力される。アクセルポジションセンサ23は、アクセルペダルに対する踏込み量(アクセル開度)を検出する。スロットルポジションセンサ24は、電子スロットル装置におけるスロットルバルブ9の開度であるスロットル開度を検出する。エンジン回転数センサ25は、エンジン11の回転数を検出する。車速センサ26は、車両100の走行速度を検出する。
【0028】
ナビゲーション装置27は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としている。ナビゲーション装置27は、位置検出部、地図データベース、演算部等を有する公知のナビゲーションシステムとすることができる。ナビゲーション装置27は、入力された目的地に基づいて、目的地までの経路の検索や経路中の走行案内等を実行することができる。また、ナビゲーション装置27は、車車間通信や路車間通信等の通信機能を有していてもよい。ナビゲーション装置27は、ECU30と接続されており、ECU30と双方向の通信を行うことができる。
【0029】
車間距離検出装置29は、自車両と先行車両との車間距離を検出することができるものである。車間距離検出装置29は、例えば、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサまたはミリ波レーダーセンサなどのセンサとすることができる。車間距離検出装置29は、ECU30と接続されており、車間距離検出装置29の検出結果を示す信号はECU30に出力される。
【0030】
ECU30は、取得した各センサの検出結果に基づいてエンジン11を制御する。ECU30は、例えば、エンジン11のインジェクタによる燃料噴射量、燃料噴射タイミング、点火プラグによる点火時期などを制御することができる。
【0031】
また、ECU30は、車両100の運転状態に応じてエンジン11の圧縮比を変更することができる。ECU30は、例えば、エンジン11の負荷に応じて圧縮比を可変に制御する。エンジン11の負荷は、例えば、吸入空気量、アクセル開度、スロットル開度、エンジン回転数、燃料噴射量などである。ECU30は、例えば、アクセル開度と車速とに基づいてエンジン負荷を算出するようにしてもよい。本実施形態では、エンジン負荷が大きい場合のエンジン11の圧縮比εは、エンジン負荷が小さい場合の圧縮比εよりも低い圧縮比とされる。
【0032】
ECU30は、変速機油圧制御部28を制御して無段変速機15を油圧制御することによって、変速制御を実行することができる。ECU30は、車両100の運転状態(例えば、車速、アクセル開度、ブレーキペダルストロークなど)と、制御マップ(例えば、機関回転数、スロットル開度に基づく最適燃費曲線、等出力線など)とに基づいて、エンジン11の運転状態が最適となるように無段変速機15の変速比を制御する。
【0033】
また、ECU30は、車両100の走行中にエンジン11に対する燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行することができる。ECU30は、予め定められたフューエルカット実行条件が成立した場合にフューエルカット制御を実行する。フューエルカット実行条件は、例えば、アクセル開度が所定の開度以下(一例として、開度0)であるアクセルオフの状態であり、かつ車速が所定の車速以上であることを含むものである。
【0034】
本実施形態では、フューエルカット時に、スロットルバルブ9を開く制御が行われる。ECU30は、フューエルカット時に、アクセル開度に基づくスロットル開度やエンジン負荷に対応するスロットル開度よりもスロットルバルブ9の開度を大きな開度とする。これにより、ポンピングロスが抑制され、エンジンブレーキ力が低減することで、フューエルカットの継続時間の延長を図ることができる。
【0035】
また、ECU30は、フューエルカットにおいて、エンジン11の圧縮比εをエンジン負荷に対応する圧縮比よりも低い圧縮比とする。エンジン11の圧縮比εが低圧縮比化されてエンジン11のフリクションロスが抑制され、エンジンブレーキ力が低減することで、フューエルカットの継続時間の延長を図ることができる。
【0036】
また、ECU30は、フューエルカット時に、オルタネータ21の発電をOFFとする。これにより、オルタネータ21による負荷が軽減し、エンジン11のフリクションロスが低減することで、フューエルカットの継続時間の延長を図ることができる。
【0037】
ECU30は、フューエルカット中に予め定められたフューエルカット終了条件が成立すると、フューエルカットから復帰してエンジン11に対する燃料の供給を再開する。フューエルカット終了条件は、例えば、アクセルオン等の運転者による加速操作、エンジン回転数の低下や車速の低下などの車両100の走行状態の変化を含むことができる。本実施形態では、アクセルオンの操作がなされた場合、フューエルカットから復帰する。また、エンジン回転数が予め定められたフューエルカット終了回転数Ne1以下となると、フューエルカットから復帰する。本明細書では、エンジン回転数の低下に基づくフューエルカットからの復帰を「自然復帰」と記載する。なお、自然復帰は、エンジン回転数に限らず、車速等に基づいてなされてもよい。
【0038】
ここで、フューエルカット時にスロットルバルブ9を開く制御を行っていると、図11を参照して説明するように、フューエルカットから復帰してエンジン11に対する燃料の供給が再開されるときにショックが発生することがある。図11は、フューエルカットからの復帰時に発生するショックを説明するタイムチャートである。
【0039】
図11において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はフューエルカット(FC)実行フラグ、(d)はエンジントルク、(e)はドライブシャフトトルクを示す。図11には、フューエルカット実行中の時刻T11にアクセルオンとされたときの動作が示されている。
【0040】
ECU30は、時刻T11以前のフューエルカット実行中には、スロットルバルブ9を開く制御を行う。スロットルバルブ9を開く制御とは、例えば、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度よりも大きな所定開度θ1とする制御である。所定開度θ1は、一定値であっても、走行状態等に応じて可変とされてもよい。ECU30は、時刻T11においてアクセルが踏み込まれてアクセルオンがなされると、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度θ2に変更する。
【0041】
ここで、フューエルカット時にスロットルバルブ9を開く制御を行っていると、吸気管2内の負圧が小さく、吸気バルブ6とスロットルバルブ9との間(図3の矢印Y1参照)に多量の空気が存在する状態になる。この状態から、アクセルオンがなされると、吸気バルブ6とスロットルバルブ9との間にある多量の空気がまずシリンダ内に流入する。このため、エンジン11において一時的に大トルクが発生し、ドライブシャフトトルクが増加することで、ショックが発生する。
【0042】
また、フューエルカット中にアクセルオンしたとき、アクセルペダルを浅く踏み込んだ場合には、スロットルバルブ9が閉じ方向に動く場合がある。図11では、アクセルオン後のアクセル開度に基づくスロットル開度θ2がアクセルオン前の所定開度θ1よりも小さな開度となっている。この場合、スロットルバルブ9を閉じて空気量調整がなされているにもかかわらず、吸気バルブ6とスロットルバルブ9との間にある多量の空気がまずシリンダ内に流入する。このため、エンジン11において一時的に大トルクが発生し、ドライブシャフトトルクの増加によってショックが発生したり運転者に違和感を与えたりしやすい。
【0043】
本実施形態の車両制御装置1−1は、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときに、エンジン11の圧縮比εを低圧縮比とする。ECU30は、フューエルカットにおいて、エンジン11の圧縮比εをエンジン11の負荷に応じた圧縮比ε1よりも低圧縮側の所定圧縮比ε2とする。所定圧縮比ε2は、一定値であっても、エンジン11の負荷に応じて変化するものであってもよい。アクセルオンされたときに、エンジン11の圧縮比εが所定圧縮比ε2とされていることで、圧縮比εがエンジン11の負荷に応じた圧縮比ε1とされる場合よりも燃焼効率等が低下し、出力トルクが低下する。これにより、燃料の供給が再開されるときのショックや違和感が抑制される。
【0044】
しかしながら、フューエルカットから自然復帰する直前には、以下に図4を参照して説明するように、圧縮比εがエンジン11の負荷に応じた圧縮比ε1に変化する。これにより、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときのショックや違和感を十分に抑制できなくなる虞がある。
【0045】
図4において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はエンジン回転数、(d)はフューエルカットフラグ、(e)は圧縮比εを示す。ECU30は、フューエルカット中にエンジン回転数が低下して予め定められたフューエルカット終了回転数Ne1以下となるとフューエルカットを終了させてエンジン11に対する燃料の供給を再開する。図4では、時刻T6においてエンジン回転数がフューエルカット終了回転数Ne1以下の回転数となり、フューエルカットフラグがOFFとされてフューエルカットから復帰する。
【0046】
ECU30は、フューエルカット中にエンジン回転数が低下してフューエルカット終了回転数Ne1に近づくと、圧縮比εを所定圧縮比ε2から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行する。復帰前圧縮比制御は、例えば、エンジン回転数がフューエルカット終了回転数Ne1よりも大きな復帰準備回転数Ne2以下となったときに開始される。
【0047】
ECU30は、復帰前圧縮比制御において、圧縮比εを所定圧縮比ε2から負荷に応じた圧縮比ε1まで変化させる。時刻T6においてエンジン11に対する燃料の供給が再開されるときには、圧縮比εが負荷に応じた圧縮比ε1まで高められている。これにより、フューエルカットから低負荷で自然復帰するときの燃焼が確保される。また、ECU30は、フューエルカットフラグがOFFとなる前にスロットル開度を所定開度θ1からアクセル開度に基づく開度θ3に低下させる。これにより、自然復帰する前に吸気管2内の空気が減少し、自然復帰時のショックの発生が抑制される。
【0048】
ここで、復帰前圧縮比制御を実行中の時刻T5においてアクセルオンがなされたとすると、圧縮比εが高い状態でフューエルカットから復帰してエンジン11における燃焼が開始されることとなる。これにより、アクセルオンによってフューエルカットから復帰する時のトルクショックや違和感を十分に抑制できなくなる虞がある。
【0049】
本実施形態の車両制御装置1−1は、フューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制する。これにより、例えば、復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化が規制される。よって、アクセルオンされてフューエルカットから復帰するときのトルクショックや運転者に与える違和感を抑制することができる。なお、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制することには、高圧縮側への変化を禁止することだけでなく、アクセルオンが予測される走行環境が検出されていない場合よりも高圧縮側への変化量を低減すること、高圧縮側への変化速度を低減することが含まれてもよい。
【0050】
以下に、図1、および図5から図9を参照して、本実施形態の車両制御装置1−1による制御について説明する。図1において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はエンジン回転数、(d)はフューエルカットフラグ、(e)は圧縮比ε、(f)はエンジントルク、(g)はドライブシャフトトルク、(h)はアクセルON復帰フラグをそれぞれ示す。また、図1において、一点鎖線は、本実施形態の車両制御装置1−1による制御がなされない場合の各値の推移の一例を示し、実線は、本実施形態の車両制御装置1−1による制御がなされる場合の各値の推移を示す。時刻T0は、復帰前圧縮比制御が開始されるタイミング、時刻T1は、アクセルオンの予測判定がなされるタイミング、時刻T2は、アクセルオンがなされるタイミングをそれぞれ示す。
【0051】
図5から図8の各制御フローは、それぞれ車両100の走行中に実行されるものであり、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。これらの各制御フローは、図番の順序(図5→図6→図7→図8)で実行されてもよく、図番の順序とは異なる順序で実行されてもよい。
【0052】
図5のステップS1では、ECU30により、アクセル開度、スロットル開度、フューエルカット実行有無が読み込まれる。ECU30は、アクセルポジションセンサ23およびスロットルポジションセンサ24の検出結果に基づいて、アクセル開度およびスロットル開度を取得することができる。また、ECU30は、フューエルカットフラグに基づいて、フューエルカット実行の有無を取得することができる。なお、フューエルカットフラグは、フューエルカット実行条件が成立している場合にONとされる。ステップS1が実行されると、ステップS2に進む。
【0053】
ステップS2では、ECU30により、エンジンブレーキ制御の実行中であるか否かが判定される。エンジンブレーキ制御は、フューエルカット中にエンジンブレーキ力を抑制する制御であり、本実施形態では、スロットルバルブ9を開く制御、およびエンジン11の圧縮比εを所定圧縮比ε2とする制御がエンジンブレーキ制御に含まれる。なお、オルタネータ21の発電をOFFとする制御がエンジンブレーキ制御に含まれてもよい。ECU30は、例えば、エンジンブレーキ制御に含まれる制御のいずれかが実行されている場合にステップS2で肯定判定を行うようにしても、エンジンブレーキ制御に含まれる全ての制御が実行されている場合に肯定判定を行うようにしてもよい。ステップS2の判定の結果、エンジンブレーキ制御の実行中であると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)にはステップS4に進む。
【0054】
ステップS3では、ECU30により、エンジンブレーキ制御実行フラグがONとされる。ステップS3が実行されると、本制御フローは終了する。
【0055】
ステップS4では、ECU30により、エンジンブレーキ制御実行フラグがOFFとされる。ステップS4が実行されると、ステップS5に進む。
【0056】
ステップS5では、ECU30により、先回エンジンブレーキ制御実行フラグがONであるか否かが判定される。ステップS5では、エンジンブレーキ制御実行フラグがONからOFFに変化したか否かが判定される。先回エンジンブレーキ制御実行フラグは、例えば、先回本制御フローが終了してリターンするときのエンジンブレーキ制御実行フラグの値である。ステップS5の判定の結果、先回エンジンブレーキ制御実行フラグがONであると判定された場合(ステップS5−Y)にはステップS6に進み、そうでない場合(ステップS5−N)には本制御フローは終了する。
【0057】
ステップS6では、ECU30により、アクセルオンであるか否かが判定される。ECU30は、アクセルポジションセンサ23の検出結果に基づいてステップS6の判定を行うことができる。ECU30は、例えば、アクセルポジションセンサ23によって検出されたアクセル開度が予め定められた閾値よりも大きな開度である場合にアクセルオンと判定する。ステップS6の判定の結果、アクセルオンと判定された場合(ステップS6−Y)にはステップS7に進み、そうでない場合(ステップS6−N)には本制御フローは終了する。
【0058】
ステップS7では、ECU30により、今回スロットル開度指示値が先回スロットル開度よりも小であるか否かが判定される。ステップS7では、アクセルオン後のスロットル開度が、アクセルオン前のスロットル開度よりも小さな開度であるか否かが判定される。先回スロットル開度とは、例えば、先回本制御フローが実行されたときにステップS1で読み込まれたスロットル開度である。ECU30は、ステップS1で読み込まれた今回スロットル開度指示値と、先回スロットル開度との比較結果に基づいてステップS7の判定を行う。ステップS7の判定の結果、今回スロットル開度指示値が先回スロットル開度よりも小であると判定された場合(ステップS7−Y)にはステップS8に進み、そうでない場合(ステップS7−N)には本制御フローは終了する。
【0059】
ステップS8では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがONとされる。アクセルON復帰フラグは、アクセルオンがなされ、かつアクセルオン後のアクセル開度に基づくスロットル開度θ2が、アクセルオン前のスロットル開度よりも小さな開度である場合にONとされる。
【0060】
本実施形態では、アクセルON復帰フラグがONであると、アクセルオン復帰制御が実行される。アクセルオン復帰制御は、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときのトルクショック等を抑制する制御である。アクセルオン復帰制御は、フューエルカットからの復帰時に吸気管2内の空気量がスロットルバルブ9の開度に応じたものとなるまで圧縮比εを低圧縮比に維持する制御(図8参照)を含むものである。ステップS8が実行されると、本制御フローは終了する。
【0061】
図6のステップS11では、ECU30により、先回アクセルON復帰フラグがOFFであるか否かが判定される。先回アクセルON復帰フラグは、先回本制御フローが実行されたときのアクセルON復帰フラグの値である。ステップS11の判定の結果、先回アクセルON復帰フラグがOFFであると判定された場合(ステップS11−Y)にはステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)にはステップS15に進む。
【0062】
ステップS12では、ECU30により、今回アクセルON復帰フラグがONであるか否かが判定される。ステップS12では、アクセルON復帰フラグがOFFからONに切り替わったか否かが判定される。ステップS12の判定の結果、今回アクセルON復帰フラグがONであると判定された場合(ステップS12−Y)にはステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)には本制御フローは終了する。
【0063】
ステップS13では、ECU30により、エンジン回転数が読み込まれる。ステップS13が実行されると、ステップS14に進む。
【0064】
ステップS14では、ECU30により、空気量大時間が算出される。空気量大時間とは、燃焼室5に対する吸気量がスロットル開度に応じた吸気量を上回っている時間のことである。アクセルオンされたときのアクセル開度に基づく開度θ2が、所定開度θ1よりも小さな開度であると、吸気管2内に残された多量の空気が燃焼室5に流入することで、一時的に燃焼室5に対する吸気量がスロットル開度に応じた吸気量よりも大となる。空気量大時間は、フューエルカット中にアクセルオンされてから、燃焼室5に対する吸気量がスロットル開度に応じた吸気量に収束(低下)するまでに要する時間である。ECU30は、例えば、図9に示す対応関係に基づいて空気量大時間を算出する。
【0065】
図9において、横軸はエンジン回転数、縦軸は空気量大時間を示す。エンジン回転数が小さい場合の空気量大時間は、エンジン回転数が大きい場合の空気量大時間よりも長い時間として算出される。空気量大時間は、エンジン回転数の増加に応じて直線的に減少するように定められてもよい。本実施形態のECU30は、予め記憶された図9に示す対応関係を参照し、ステップS13で読み込んだエンジン回転数に基づいて空気量大時間を算出する。ECU30は、空気量大時間を算出すると、算出された空気量大時間が経過したか否かをタイマーによってカウントし始める。ステップS14が実行されると、本制御フローは終了する。
【0066】
ステップS15では、ECU30により、空気量大時間の経過後であるか否かが判定される。ECU30は、タイマーによってカウントされた経過時間がステップS14で算出された空気量大時間に達したか否かを判定する。ステップS15の判定の結果、空気量大時間の経過後であると判定された場合(ステップS15−Y)にはステップS16に進み、そうでない場合(ステップS15−N)には本制御フローは終了する。図1では、時刻T3において空気量大時間が経過したと判定される。
【0067】
ステップS16では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがOFFとされる。ステップS16が実行されると、本制御フローは終了する。
【0068】
図7のステップS21では、ECU30により、アクセルオンが想定される走行環境が検出されているか否かが判定される。アクセルオンが想定される走行環境、言い換えるとアクセルオンが予測される走行環境は、例えば、車両100がコーナー出口付近にあること、車両100の前方の信号の変化(例えば、赤から青に変わったこと)、車両100と先行車両との車間距離が拡大したことを含む。なお、アクセルオンが予測される走行環境は、例示したものには限定されない。
【0069】
車両100がコーナー出口付近を走行し、コーナー出口に接近していることは、例えば、ナビゲーション装置27から取得した情報に基づいて検出することができる。一例として、ECU30は、ナビゲーション装置27から取得した車両100の現在位置情報と地図情報とに基づいて車両100がコーナーにおける出口側を走行中である場合にコーナー出口付近を走行していると判断することが可能である。
【0070】
車両100の前方の信号が赤信号から青信号に変わったことは、例えば、通信により取得することができる。ECU30は、例えば、路車間通信や車車間通信等によって前方の信号の状態を取得することによって、アクセルオンが想定される信号の状態変化が生じたか否かを判断することが可能である。通信機能は、例えば、ナビゲーション装置27が有する機能の一部であってもよい。
【0071】
先行車両との車間距離は、車間距離検出装置29によって検出可能である。フューエルカット中に車両100と先行車両との車間距離が拡大した場合、アクセルオンが予測される走行環境にあると判断することが可能である。
【0072】
なお、ECU30は、車両100の前方を撮像した画像の画像処理結果に基づいてアクセルオンが予測される走行環境を検出するようにしてもよい。
【0073】
ECU30は、例えば、アクセルオンが予測される走行環境の少なくとも一つが検出されている場合にステップS21において肯定判定を行う。ステップS21の判定の結果、アクセルオンが予測される走行環境が検出されていると判定された場合(ステップS21−Y)にはステップS22に進み、そうでない場合(ステップS21−N)にはステップS25に進む。
【0074】
ステップS22では、ECU30により、アクセルON想定判定がONとされる。ステップS22が実行されるとステップS23に進む。
【0075】
ステップS23では、ECU30により、圧縮比εが低くされる。ECU30は、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制し、低圧縮側の値に変化させる。例えば、復帰前圧縮比制御がなされているとしても、復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化を禁止して、低圧縮側の値に変化させる。この場合に、所定圧縮比ε2、すなわち復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化が開始される前の値まで圧縮比εを変化させることが好ましい。なお、アクセルON想定判定がONとされた場合、復帰前圧縮比制御を中止あるいはアクセルON想定判定がOFFとなるまで停止するようにしてもよい。
【0076】
図1では、時刻T1においてアクセルON想定判定がONとされ、実線の圧縮比εが低圧縮側の値に変化し始める。つまり、ECU30は、復帰前圧縮比制御による圧縮比εの高圧縮側への変化が開始された後の時刻T1において、アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、圧縮比εを低圧縮側に変化させる。
【0077】
これにより、本実施形態(実線)では、実際にアクセルオンがなされる時刻T2には圧縮比εが低下している。よって、フューエルカットから復帰するときのエンジントルクおよびドライブシャフトトルクの増加が抑制される。一方、本実施形態のようにアクセルオンの予測を行わない場合(一点鎖線)、燃焼再開時のトルク抑制のために圧縮比εを低圧縮側の値に変化させるとしても、アクセルオンがなされた時刻T2から開始することとなる。したがって、フューエルカットから復帰するときのエンジントルクおよびドライブシャフトトルクの増加を十分に抑制することは困難である。ステップS23が実行されると、ステップS24に進む。
【0078】
ステップS24では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがONであるか否かが判定される。その判定の結果、アクセルON復帰フラグがONであると判定された場合(ステップS24−Y)にはステップS25に進み、そうでない場合(ステップS24−N)には本制御フローは終了する。
【0079】
ステップS25では、ECU30により、アクセルON想定判定がOFFとされる。ステップS25が実行されると、本制御フローは終了する。
【0080】
図8のステップS31では、ECU30により、アクセルON復帰フラグがONであるか否かが判定される。その判定の結果、アクセルON復帰フラグがONであると判定された場合(ステップS31−Y)にはステップS32に進み、そうでない場合(ステップS31−N)にはステップS33に進む。
【0081】
ステップS32では、ECU30により、圧縮比εが低くされる。ECU30は、アクセルON復帰フラグがONである間、言い換えると、アクセルオンがなされてからエンジン11の吸気量がスロットル開度に応じた量に低下するまで、圧縮比εの高圧縮側への変化を規制する。ECU30は、エンジン11の圧縮比εをアクセルオン時の圧縮比よりも低圧縮側の圧縮比、好ましくは所定圧縮比ε2とする。ステップS32が実行されると、本制御フローは終了する。
【0082】
ステップS33では、ECU30により、従来制御に戻される。ここで、ステップS33の従来制御とは、エンジン11の圧縮比εを負荷に応じた圧縮比ε1とする制御である。つまり、ECU30は、空気量大時間が経過し、エンジン11の吸気量がスロットル開度に応じた量に低下すると、エンジン11の圧縮比εを所定圧縮比ε2から負荷に応じた圧縮比ε1に移行させる。ステップS33が実行されると、ステップS34に進む。
【0083】
ステップS34では、ECU30により、スロットルが開き側に補正される。圧縮比εを所定圧縮比ε2から負荷に応じた圧縮比ε1に変化させるためには、所定の時間を要する。この間、実際の圧縮比εが負荷に応じた圧縮比ε1よりも低圧縮側の値となるため、トルクが落ち込む虞がある。例えば、空気量大時間が経過した時刻T3の直後は、狙いとする圧縮比ε1と実際の圧縮比εとの乖離が大きく、トルクの落ち込みが生じやすい。
【0084】
これに対して、ECU30は、圧縮比εが狙いの圧縮比ε1となる時刻T4までの間、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度θ2よりも大きな開度とする。言い換えると、ECU30は、圧縮比εを負荷に応じた圧縮比ε1まで変化させる間にスロットル開度を増加させる制御を行う。スロットル開度の補正量は、例えば、負荷に応じた圧縮比ε1と実際の圧縮比εとの乖離の大きさに基づいて定めることができる。ステップS34が実行されると、本制御フローは終了する。
【0085】
このように、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、フューエルカットの実行中にアクセルオンが予測される場合、圧縮比εを高圧縮側に変化させることが規制される。よって、アクセルオンがなされたときにエンジン11が高圧縮比の状態でフューエルカットから復帰することが抑制される。また、アクセルオンが予測されると、圧縮比εが低圧縮側に変化させられる。よって、アクセルオンがなされてフューエルカットから復帰するときのエンジントルクの増加が抑制される。
【0086】
また、アクセルオンがなされてから、空気量大時間が経過するまで、圧縮比εの増加が規制される。よって、予期せぬエンジントルクの増加が抑制される。また、空気量大時間が経過した後、圧縮比εが負荷に応じた圧縮比ε1に移行するまで、スロットル開度が開き側の開度に補正される。よって、トルクの落ち込みが抑制される。従って、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、アクセルオンによってフューエルカットから復帰するときのドライブシャフトトルクの増減が抑制され、ショックや違和感が効果的に抑制される。
【0087】
[実施形態の第1変形例]
実施形態の第1変形例について説明する。車両制御装置1−1は、上記実施形態の制御に加えて、アクセルオンが予測・想定される走行環境が検出された場合、スロットルバルブ9を閉じるタイミングを早める制御、あるいはフューエルカットからの復帰タイミングを遅らせる制御の少なくともいずれか一方を実行するようにしてもよい。これにより、エンジン11において大トルクが発生することを未然に抑制し、ショックや違和感を抑制することができる。図10は、本変形例に係るタイムチャートである。
【0088】
図10において、(a)はアクセル開度、(b)はスロットル開度、(c)はエンジン回転数、(d)はフューエルカットフラグ、(e)はエンジントルク、(f)はドライブシャフトトルクを示す。図10において、一点鎖線は、本変形例の制御がなされない場合の各値の推移を示し、実線は、本変形例の制御がなされる場合の各値の推移を示す。
【0089】
ECU30は、時刻T7においてアクセルON想定判定がONとされると、スロットル開度を所定開度θ1から閉じ方向に変化させる。ECU30は、例えば、スロットル開度をアクセル開度に基づく開度θ4とする。これにより、吸気管2の負圧が増加し、吸気管2内の空気量が減少する。よって、その後の時刻T8において実際にアクセルオンがなされた場合に、シリンダ内に供給される空気量が過大となることが抑制される。従って、アクセルオンと同時にフューエルカットから復帰してエンジン11に対する燃料の供給を再開したとしても、大トルクの発生が抑制される。
【0090】
また、本変形例では、アクセルオンのタイミングに対して、フューエルカットからの復帰タイミングに遅れが設けられる。ECU30は、アクセルオンがなされてから所定時間が経過した時刻T9にフューエルカットフラグをOFFとし、フューエルカットから復帰させる。これにより、フューエルカットから復帰するときのエンジントルクおよびドライブシャフトトルクの上昇が抑制される。よって、本変形例によれば、フューエルカットから復帰するときのショックや違和感が効果的に抑制されるという利点がある。上記所定時間は、例えば、空気量大時間に基づいて定められる。空気量大時間は、上記実施形態と同様に算出することができる。
【0091】
なお、本変形例のスロットルバルブ9を閉じるタイミングを早める制御、およびフューエルカットからの復帰タイミングを遅らせる制御は、圧縮比可変機構20を搭載しない車両に対して適用可能である。
【0092】
[実施形態の第2変形例]
実施形態の第2変形例について説明する。上記実施形態の制御に加えて、オルタネータ21の発電制御、あるいは無段変速機15の変速制御の少なくともいずれか一方によってトルクショックの発生を抑制するようにしてもよい。
【0093】
例えば、ECU30は、フューエルカットからの復帰時に、それまで停止していたオルタネータ21の発電を開始させることができる。オルタネータ21による発電をONとすることにより、発電負荷による負荷トルクを発生させ、エンジン11で発生するトルクを打ち消す向きのトルクを作用させることができる。
【0094】
また、ECU30は、フューエルカットからの復帰時に、無段変速機15の変速比を低速側の変速比、すなわち大きな変速比に変速させることができる。無段変速機15をダウンシフトさせることによって、ドライブシャフトトルクの増加が抑制され、ショックや違和感が抑制される。なお、有段変速機が搭載された車両においてダウンシフトさせることにより、ドライブシャフトトルクの増加を抑制するようにしてもよい。
【0095】
オルタネータ21の発電制御や無段変速機15の変速制御によるトルクショックの抑制を行うか否かは、例えば、吸気管2内の負圧や空気量の推定値に基づいて決定されてもよい。吸気管2内の負圧が小さいと推定される場合や空気量が多いと推定される場合に、上記の発電制御や変速制御によりショックを抑制するトルクの発生をアシストさせるようにしてもよい。
【0096】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0097】
1−1 車両制御装置
5 燃焼室
9 スロットルバルブ
11 エンジン
15 無段変速機
20 圧縮比可変機構
21 オルタネータ
30 ECU
100 車両
θ1 所定開度
θ2 アクセル開度に基づく開度
ε1 負荷に応じた圧縮比
ε2 所定圧縮比
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、
車両の走行中に前記エンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記フューエルカットにおいて前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比よりも低圧縮側の所定圧縮比とし、かつ前記エンジンの回転数の低下に基づく前記フューエルカットからの復帰前に前記圧縮比を前記所定圧縮比から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行し、
前記アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記圧縮比を低圧縮側に変化させる
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始される前の値まで前記圧縮比を変化させる
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記フューエルカットの実行中に前記エンジンのスロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度よりも大きな開度とし、かつ前記アクセルオンがなされると前記スロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度とする
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記アクセルオン後の前記スロットルバルブの開度が、前記アクセルオン前の前記スロットルバルブの開度よりも小さな開度である場合、前記アクセルオンがなされてから、前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下するまで、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制する
請求項5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下すると、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比まで高圧縮側へ変化させ、かつ、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比まで変化させる間に前記スロットルバルブの開度を増加させる制御を行う
請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記アクセルオンが予測される走行環境は、前記車両と先行車両との車間距離の拡大、前記車両の前方の信号の変化、あるいは前記車両がコーナーの出口に接近することの少なくとも一つを含む
請求項1から7のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項1】
圧縮比を可変に制御可能なエンジンを備え、
車両の走行中に前記エンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットの実行中に、アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記フューエルカットにおいて前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比よりも低圧縮側の所定圧縮比とし、かつ前記エンジンの回転数の低下に基づく前記フューエルカットからの復帰前に前記圧縮比を前記所定圧縮比から高圧縮側に変化させる復帰前圧縮比制御を実行し、
前記アクセルオンが予測される走行環境に基づいて、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記圧縮比を低圧縮側に変化させる
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始された後に前記アクセルオンが予測される走行環境が検出された場合、前記復帰前圧縮比制御による前記圧縮比の高圧縮側への変化が開始される前の値まで前記圧縮比を変化させる
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記フューエルカットの実行中に前記エンジンのスロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度よりも大きな開度とし、かつ前記アクセルオンがなされると前記スロットルバルブの開度をアクセル開度に基づく開度とする
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記アクセルオン後の前記スロットルバルブの開度が、前記アクセルオン前の前記スロットルバルブの開度よりも小さな開度である場合、前記アクセルオンがなされてから、前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下するまで、前記圧縮比の高圧縮側への変化を規制する
請求項5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記エンジンの吸気量が前記スロットルバルブの開度に応じた量に低下すると、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比まで高圧縮側へ変化させ、かつ、前記圧縮比を前記エンジンの負荷に応じた圧縮比まで変化させる間に前記スロットルバルブの開度を増加させる制御を行う
請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記アクセルオンが予測される走行環境は、前記車両と先行車両との車間距離の拡大、前記車両の前方の信号の変化、あるいは前記車両がコーナーの出口に接近することの少なくとも一つを含む
請求項1から7のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−219761(P2012−219761A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88596(P2011−88596)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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