説明

車両用サービス提示装置

【課題】運転者の運転負荷が大きな状態であっても、運転者の注意力を妨げてしまうことなくサービスを提示することができる車両用サービス提示装置を提供する。
【解決手段】処理部は、乗員の置かれた場面及びその場面での欲求を推定し、センシング情報に基づいて運転者負荷レベルを判定し、運転負荷レベルが高い場合は、情報を提示せずに保留する。また、運転者負荷が低い場合、或いは情報の保留状態で運転者負荷が低下した場合は、運転者負荷の高低に応じて適切な提示デバイス及び提示方法でもって情報を提示する。これにより、運転者の注意を妨げてしまうことなく情報を提示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者に有益なサービスを提示する車両用サービス提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の運転負荷に応じて、情報の提示を調停したり、提示内容を変更したりするものが提案されている。例えば特許文献1には、運転者の運転負荷が所定値よりも小さいときは、提示形態を標準提示とし、運転負荷が所定値よりも大きいときは、提示形態を簡素化提示することが記載されている。また、特許文献2には、運転者の運転負荷に応じて表示内容を変更することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−322528号公報
【特許文献2】特開2004−125572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1、2のものでは、運転者の運転負荷に応じて情報の提示を調停したり、提示内容を変更したりするだけであるから、運転者の運転負荷が大きな状態で情報が提示されることがある。このため、運転負荷が大きく運転に集中している運転者の注意を情報の提示により妨げてしまう虞がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、運転者の運転負荷が大きな状態であっても、運転者の注意を妨げてしまうことなくサービスを提示することができる車両用サービス提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に発明によれば、運転者の運転負荷が高い状態では運転者にサービスが提示されないので、運転者の注意を妨げてしまうことはない。また、運転者の運転負荷が低下したときは、保留したサービスを提示するので、運転者にサービスを確実に提示することができる。
【0006】
請求項2の発明によれば、乗員の置かれた場面またはその場面での乗員の欲求に応じた適切なサービスを提示することができる。
請求項3の発明によれば、車両の周辺サービス、運転者の生体サービス、運転者による操作サービスの何れか、或いは組合わせにより運転者の運転負荷状態を判断するので、運転者の運転負荷の判断精度を高めることができる。
【0007】
請求項4の発明によれば、サービスの有効期限が経過したサービスが提示されても、そのサービスは運転者にとって無意味であることから、サービスの有効期限が終了したサービスを提示しないことにより、無意味なサービスを運転者に提示してしまうことを未然に回避できる。
【0008】
請求項5の発明によれば、重要度或いは緊急度の高いサービスに関しては、有効期限が経過した場合は代替案が提示されるので、重要度或いは緊急度の高いサービスを運転者に確実に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
図1は、全体構成を概略的に示すブロック図である。この図1において、ステアリングセンサ1は、ステアリング操舵角を処理部(推定手段に相当)2へ通知する。車速センサ3は、車速を処理部2へ通知する。ブレーキペダル4は、ペダル踏み込み量を処理部2へ通知する。アクセルペダル5は、ペダル踏み込み量を処理部2へ通知する。燃料センサ6は、燃料タンク内の燃料残量を処理部2へ通知する。ナビゲーション装置7は、現在時刻、自車位置、周辺施設情報、道路属性、道路形状などを処理部2へ通知する。
【0010】
視線監視カメラ8は、運転者の視線方向を検出することにより視線を示す視線情報を処理部に通知する。
個人特定装置9は、運転者を識別するための個人情報、例えばシートポジションメモリに対する識別コード、個人情報が記憶されたICチップ内蔵免許証、カメラによる人物識別、個人識別情報を有したワイヤレスキーなどから取得した個人情報を処理部2へ通知する。
【0011】
周辺監視センサ10は、周辺監視カメラ、コーナーソナー、ミリ波レーダなどにより検出した他車、二輪車、歩行者などを示す自車周辺情報を処理部2へ通知する。
情報端末11は、情報センタ、路側機或いは他車などの情報提供装置12から送信される進行方向の渋滞情報、自車周辺情報などを取得して処理部2へ通知する。
【0012】
サービス選択/操作スイッチ13は、ステアリングスイッチ、センターコンソールに設けられた遠隔操作スイッチ、インストルメントパネルに設けられた表示部のタッチスイッチ、リモコンスイッチなどからなり、操作されたことを示すスイッチ入力情報を処理部2へ通知する。
【0013】
提示装置(提示手段に相当)14は、ディスプレイ、スピーカからなり、処理部2からの映像信号、スイッチ操作/編集画面情報を受けて表示したり、音声案内したりする。
車載機器としてはエアコン、パワーウインドなどがあり、処理部2からの制御信号に応じてエアコンECU15、パワーウインドECU16、ドアロックECU17がエアコン、パワーウインド、ドアロックをそれぞれ制御する。
【0014】
情報提示方法データベース18には、後述するように本発明に関連して運転負荷に応じた情報提示方法定義テーブルが記憶されている。
図2は、処理部2による提示処理を示すフローチャートである。この図2において、処理部2は、センシング情報を取込むことにより(A1)、現在の場面を推定し(A2)、提示できるサービスがある場面かを判断する(A3)。この場合のセンシング情報とは、乗員(運転者)が置かれた場面を推定するための情報のことであり、車載機器が有している情報に基づく情報であったり、外部から提供された情報であったりする。提示できるサービスとは、その場面における乗員(運転者)の欲求のことで、周辺の店舗或いは施設情報、進行方向の天気、渋滞情報、工事情報、クイズ情報、音楽提供情報、オペレータからの問い掛け情報などであり、種々のサービスが対象となる。提示できるサービスがある場面であるときは(A3:YES)、起動する車載機器とその動作条件を決定する(A4)。
【0015】
次に、センシング情報を取込んでから(A5)、運転負荷レベルを判定し(A6)、運転負荷が高いか(A7)、サービスの有効期限内かを判断する(A9)。この場合のセンシング情報とは、運転者の運転負荷を判断するのに必要となる各種情報のことである。運転負荷が高い場合は(A7:YES)、情報提示を保留してから(A8)、ステップA5に移行する。
【0016】
一方、運転者の運転負荷が低い場合、或いは情報提示の保留状態で運転負荷が低下した場合において(A7:NO)、サービスの有効期限内のときは(A9:YES)、運転負荷に応じた情報提示方法で運転者にサービスを提案する(A10)。
【0017】
以上のような動作により、運転者の運転負荷が高い状態では情報提示が保留され、運転負荷が低下したところで、サービス有効期限内であることを条件として、運転者にサービスが提案されることになる。従って、運転負荷が高い状態では情報提示が行われないので、運転者の注意を妨げてしまうことはなくサービスを提示することができる。
【0018】
このようなサービスの提示の具体例として、車両の燃料が少なくなった場合に、交差点左折直後のガソリンスタンド(GS)での給油を案内するような場面を説明する。
図3及び図4は、ガソリンスタンドでの給油を案内する場面を想定したフローチャートであり、処理部2が実行するプログラムの一部を構成する。これらの図3及び図4において、燃料残量を含むセンシング情報を取り込み(B1)、場面を推定し(B2)、燃料残量が規定未満となった状態で給油案内を提示するような場面となった場合かを判断する(B3)。つまり、図5に示すように、ナビゲーション装置7からの自車位置と周辺施設情報とに基づいて進行方向となる左折直後にガソリンスタンドが位置していることが分ることから、このような場合にガソリンスタンドで給油を促す場面となったと判断できる(B3:YES)。
【0019】
次に、センシング情報を取り込む(B4)。この場合のセンシング情報としては、周辺監視センサ10による他車、二輪車との距離、及び視線監視カメラ8により運転者の視線方向である。他車、二輪車との距離に基づいて、他車との接近度が規定値以上か(B5)、二輪車との接近度は規定値以上か(B6)を判断する。他車との接近度が規定値以上(B5:YES)、或いは二輪車の接近度が規定値以上の場合は(B6:YES)、運転者の視線方向に基づいて他車または二輪車に注意を払っているかを判断し(B7)、注意を払っている場合は(B7:YES)、運転者の運転負荷が高いと判定し(B9)、情報提示を保留してから(B10)、ステップB4に移行する。つまり、図7に示すように、運転者が前方車両との距離及び左後方の二輪車に注意しながら左折するような場面では、運転者の意識は、先行する他車或いは後続の二輪車にあるから、このような場合にガソリンスタンドを案内することは運転者の注意を妨げてしまうと判断でき、このような理由から情報提示を保留するのである。
【0020】
一方、他車或いは二輪車との接近度が規定値未満である場合(B6:NO)、或いは他車或いは二輪車との接近度が規定値以上であっても、運転者がそれらに注意を払っていない場合は(B7:NO)、他車または二輪車の接近を警告する(B8)。このサービスの有効期限とは、運転者に提示するサービスが有効な期限で、この期限が過ぎた場合は、サービスが無意味であることを示している。具体的には、図6に示す例では、ガソリンスタンドでの給油案内を促す場合を想定しており、有効期限として、ガソリンスタンドの手前に運転者への情報が有効となる情報提示領域が設定されている。この情報提示領域とは、運転者が情報を受けてからガソリンスタンドに入るまでの「認知・判断・行動」に要する時間を考慮して設定されたもので、対象のガソリンスタンドを通過していなくとも、情報提示領域を通過した場合は、その情報は有効期限切れとなる。この有効期限は、図6に示すように情報がガソリンスタンドでの給油を想定した場合は領域となるものの、情報の種別によっては時間が設定される場合もある。
処理部2は、サービスの有効期限内の場合は(B11:YES)、情報提供方法データベースに記憶されている運転負荷に応じた情報提示方法定義テーブルに基づいて運転者にサービスを提示する(B17)。
【0021】
図9は、情報提示方法定義テーブルの一例を示している。この図9は特定の個人用として定義されたもので、センシング情報として、ステアリング操舵角、車速、ブレーキペダル踏み込み量、アクセルペダル踏み込み量、時刻、自車位置、周辺施設情報、道路属性、道路形状、他車接近度、歩行者接近度、二輪車接近度、渋滞状況、運転者視線などの判定条件の組み合わせにより運転負荷レベルを判定する。運転者の運転負荷が高いと判断する方法としては、他車、二輪車と自車との距離関係(接近度)と運転者の視線(対象に注意を払っているか)を検出して、上記の運転者の状態を推定する。また、他車、或いは二輪車を確認したかを判定するには、視線が任意の箇所に一定時間固定されたかを判定する。つまり、一般に物体を認識する場合には200m程度視線が固定される傾向にあるからである。
【0022】
運転負荷レベルの判定は、「低」、「中」、「高」に判定され、その判定結果に応じて提示デバイスと提示方法が決定される。つまり、上述したように負荷レベルが高い場合は、情報を提示しない。また、運転負荷が高くなるにつれて、運転者に提示する情報量を制限し、運転者に運転以外の余分な負荷を与えないようにしている。
従って、情報の有効期限内においては、運転者に対して運転者の負荷に応じた適切な提示方法で情報が提示されるので、運転者の注意を妨げてしまうことなく情報を提示することができる。
【0023】
ところで、ガソリンスタンドの案内時においては、燃料補給は緊急度・重要度が高いことから、サービスの有効期限が経過した場合であっても、燃料補給を提示することは重要である。そこで、処理部2は、ガソリンスタンドの案内時の場合において、サービスの有効期限が経過したときは、図4に示すように燃料残量を測定すると共に(B12)、走行可能距離を推定し(B13)、走行可能距離内でガソリンスタンドを検索する(B14)。ガソリンスタンドがある場合は(B15:YES)、そのまま終了し、ガソリンスタンドがない場合は(B15:NO)、図8に示すように迂回ルートを提示することにより通り過ぎ去ったガソリンスタンドでの給油を促す(B16)。このように、サービスの有効期限が過ぎても、緊急度・重要度が高い情報については、その代替案を提示することは極めて有効である。
【0024】
このような実施例によれば、運転者に情報を提案する場合に運転者の運転負荷が高いときは情報の提示を保留するようにしたので、運転者の運転負荷にかかわらず情報を提示する従来例のものに比較して、運転者の注意を妨げてしまうことを防止できる。また、運転者の運転負荷が低下したときは、保留した情報を提示するので、運転者に情報を確実に提示することができる。
【0025】
また、複数のセンシング情報を組合わせることにより運転者の運転負荷状態を判断するようにしたので、運転者の運転負荷の判断精度を高めることができる。
また、提示するサービスの有効期限が経過したときは、情報を提示しないようにしたので、無意味な情報を提示してしまうことを回避することができる。
さらに、有効期限が経過した場合であっても、提示する情報の緊急度或いは重要度が高いときは代替案を提示するようにしたので、緊急度或いは重要度が高い情報を運転者に確実に提供することができる。
【0026】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、次のように変形または拡張できる。
運転者の緊張度を運転者の呼吸回数、心拍数、手の発汗量などにより判断するようにしてもよい。
サービスとしてエンターテーメント情報を提示する場合、例えばクイズに対して所定時間内に回答することが要求されるものについては、有効期限が経過した場合は、その情報を再度提示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例における全体構成を概略的に示すブロック図
【図2】処理部の動作を示すフローチャート
【図3】ガソリンスタンドを案内する場面を想定した図2相当図(その1)
【図4】ガソリンスタンドを案内する場面を想定した図2相当図(その2)
【図5】ガソリンスタンドを案内する場面を想定した道路の平面図
【図6】情報提示領域を説明するための図
【図7】自車が情報提示領域に位置した状態を示す図6相当図
【図8】サービス有効期限が過ぎた場合のサービス提案を示す図6相当図
【図9】センシング情報の組合せと運転者負荷レベル判定との対応関係を示す図
【符号の説明】
【0028】
図面中、2は処理部(推定手段)、14は提示装置(提示手段)、18は情報提示方法データベースである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者にサービスを提示する提示手段と、
運転者の運転負荷を推定する推定手段とを備え、
前記提示手段は、運転者にサービスを提示するタイミングで前記推定手段が推定した運転者の運転負荷が高いときは前記サービスの提示を保留し、運転者の運転負荷が低下したところで前記サービスを提示することを特徴とする車両用サービス提示装置。
【請求項2】
前記提示手段は、乗員の置かれた場面またはその場面での乗員の欲求を推定することにより運転者に提示するサービスを決定することを特徴とする請求項1記載の車両用サービス提示装置。
【請求項3】
前記推定手段は、車両の周辺情報、運転者の生体情報、運転者による操作情報の何れか、或いは組合わせにより運転者の運転負荷状態を判断することを特徴とする請求項1または2記載の車両用サービス提示装置。
【請求項4】
前記提示手段は、前記サービスの有効期限が経過したときは、前記サービスを提示しないことを特徴する請求項1ないし3の何れかに記載の車両用サービス提示装置。
【請求項5】
前記提示手段は、緊急度或いは重要度が高いサービスの場合に有効期限が経過したときは、代替案を提示することを特徴とする請求項4記載の車両用サービス提示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−241309(P2008−241309A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78953(P2007−78953)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】