説明

車両用伝達トルク制限装置

【課題】 車両の各動力伝達装置の大型化および重量化を招くことなく車両の急発進等で生じる過大トルクを回避することができる車両用伝達トルク制限装置を提供する。
【解決手段】 第1回転部材として機能するサイドギヤ40と、第2回転部材として機能するサイドギヤピース42およびサイドギヤシャフト44とが互いに噛み合う係合歯を備え、その係合歯に圧力角αを設けることで、所定以上の伝達トルクが付与されると圧力角αによって互いの噛み合いを外そうとするスラスト力が発生し皿バネ48の付勢力よりもスラスト力が大きくなると互いの噛み合いが外れるため、伝達トルクが遮断され各動力伝達装置への過大トルクの入力が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置に関するものであり、特に、車両の急発進等で生じる各動力伝達装置への過大トルクの入力を回避するためのものである。
【背景技術】
【0002】
車両用動力伝達装置は、エンジンによって発生した動力を駆動輪に伝達する装置のことをいい、通常、変速機、プロペラシャフト、終減速装置、およびドライブシャフト等によって構成されている。たとえば、非特許文献1では、一般的な終減速装置について開示されている。
【0003】
【非特許文献1】新型車解説書 トヨタセルシオ(89年11月発行)
【0004】
ところで、車両の動力性能の高性能化といった要求に対し、動力源出力、タイヤのグリップ力や懸架装置等を改善することによって対応している。しかしながら、たとえば車両の急発進時や凸凹の多い道などを走行時に瞬間的に車輪が地面から浮き、着地した瞬間に車輪から各動力伝達装置に非常に大きなトルクが入力される。これが原因となって、ドライブシャフト、プロペラシャフト等の回転軸や差動装置、自動変速機等の歯車の一時的な伝達容量の不足が生じて耐久性が低下する恐れがあった。この問題に対し、各回転軸および歯車等の伝達容量を向上させるために強度を増加させることが考えられるが、強度を上げることによって各装置の大型化、重量化を招き車両の性能が低下する問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の各動力伝達装置の大型化および重量化を招くことなく車両の急発進等で生じる過大トルクの入力を回避することができる車両用伝達トルク制限装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、車両の動力源から駆動輪に至る動力伝達経路に介装される車両用伝達トルク制限装置であって、(a)前記動力源によって回転駆動される第1回転部材と、(b)その第1回転部材に隣接し且つその第1回転部材と共通な軸心まわりに回転可能に設けられた第2回転部材と、(c)その第1および第2回転部材のうち軸心方向に相対移動可能な一方の回転部材を他方の回転部材に向かって付勢する付勢装置と、(d)その第1および第2回転部材にそれぞれ設けられて互いに噛み合う係合歯とを、含み、(e)その係合歯には、所定以上の伝達トルクが付与されたときに前記付勢装置の付勢力に抗して前記一方の回転部材を軸心方向に移動させて噛み合いを外す圧力角が設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明では、請求項1に記載の車両用伝達トルク制限装置において、前記互いに噛み合う係合歯の隣り合う歯面には、互いに異なる圧力角が設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明では、請求項1または2の何れかに記載の車両用伝達トルク制限装置において、前記付勢装置は、前記第1および第2回転部材の一方に当接すると共に、他方の回転部材に向かって軸心方向に付勢する皿バネまたはコイルスプリングであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明では、請求項1または2の何れかに記載の車両用伝達トルク制限装置において、前記付勢装置は、前記一方の回転部材に推力を付与するための油圧室を備え、その一方の回転部材を他方の回転部材に向かって付勢するように該油室内に油圧が作用されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明では、請求項3に記載の車両用伝達トルク制限装置において、(a)前記車両用伝達トルク制限装置は、サイドギヤ、サイドギヤピース、サイドギヤシャフト、および前記皿バネを備えるディファレンシャル装置であり、(b)前記第1回転部材は該サイドギヤによって構成されると共に、前記第2回転部材はそのサイドギヤピースおよびそのサイドギヤシャフトによって構成され、(c)そのサイドギヤは、前記サイドギヤシャフトの外周面に相対回転可能に嵌め入れられ、(d)そのサイドギヤピースは、そのサイドギヤシャフトの外周面にスプライン嵌合されることによって軸心方向の移動が可能な状態で一体的に回転させられ、(e)前記係合歯は、互いに隣接するそのサイドギヤおよびサイドギヤピースの当接面にそれぞれ設けられ、(f)前記付勢装置は、そのサイドギヤピースをそのサイドギヤに向かって付勢する皿バネにより構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6にかかる発明では、請求項3に記載の車両用伝達トルク制限装置において、(a)前記車両用伝達トルク制限装置は、サイドギヤ、サイドギヤピース、サイドギヤシャフト、および前記コイルスプリングを備えるディファレンシャル装置であり、(b)前記第1回転部材はそのサイドギヤおよびそのサイドギヤピースによって構成されると共に、前記第2回転部材はそのサイドギヤシャフトによって構成され、(c)そのサイドギヤピースはそのサイドギヤの内周面にスプライン嵌合されることによって軸心方向の移動が可能な状態で一体的に回転させられ、(d)前記係合歯は、互いに隣接するそのサイドギヤピースおよびそのサイドギヤシャフトの当接面にそれぞれ設けられ、(e)前記付勢装置は、そのサイドギヤピースをそのサイドギヤシャフトに向かって付勢する前記コイルスプリングから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にかかる発明によれば、たとえば車輪から動力伝達装置に非常に大きなトルクが付与されたとき、係合歯の圧力角によって前記軸心方向に相対移動可能な一方の回転部材を軸心方向に移動させて互いの回転部材の噛み合いを外そうとする付勢装置による付勢力よりも大きいスラスト力が発生するため、互いの回転部材の噛み合いが解除され、各動力伝達装置への過大トルクの入力が回避される。
【0013】
請求項2にかかる発明によれば、隣り合う歯面の圧力角を異なるようにすることで、前進時と後進時の噛み合いが解除される限界トルク値に差をつけることができ、前進および後進時にそれぞれ適した大きさの過大入力トルクの回避が可能となる。
【0014】
請求項3にかかる発明によれば、一方の回転部材に対して常に一定の付勢力を付与することができ、更に皿バネおよびコイルスプリングを取り変えることで車両の用途に応じた付勢力の調整を行うことができる。
【0015】
請求項4にかかる発明によれば、油圧を調整することによって、皿バネおよびコイルスプリングに比べ大きな付勢力を付与することが可能になるため、大きな差動制限力を必要とする特殊車輌等にも適用がすることができる。
【0016】
請求項5にかかる発明によれば、ディファレンシャル装置に非常に大きなトルクが付与されたとき、互いに隣接するサイドギヤおよびサイドギヤピースの係合歯に設けられている圧力角によって、互いの噛み合いを外そうとするスラスト力が発生し、このスラスト力が皿バネの付勢力よりも大きくなると、サイドギヤおよびサイドギヤピースの噛み合いが解除され、ディファレンシャル装置以後の動力伝達装置への過大トルクの入力が回避される。
【0017】
請求項6にかかる発明によれば、ディファレンシャル装置に非常に大きなトルクが付与されたとき、互いに隣接するサイドギヤピースおよびサイドギヤシャフトの係合歯に設けられている圧力角によって、互いの噛み合いを外そうとするスラスト力が発生し、このスラスト力がコイルスプリングの付勢力よりも大きくなると、サイドギヤピースおよびサイドギヤシャフトの噛み合いが解除され、各動力伝達装置への過大トルクの入力が回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例であるディファレンシャル装置10の断面図である。このデファレンシャル装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に好適に用いられるものである。
【0019】
ディファレンシャル装置10は、終減速装置12と差動装置14とが一体となって構成されており、図示しないエンジンからの回転が変速機によって変速された後、図示しないプロペラシャフトを介してディファレンシャル装置10に伝達される。
【0020】
終減速装置12は、プロペラシャフトの後端に連結されているドライブピニオン16およびリングギヤ18によって構成されている。ドライブピニオン16およびリングギヤ18は互いに噛み合っており、終減速装置12によってドライブピニオン16の回転が減速され差動装置14に伝達される。
【0021】
ドライブピニオン16は、非回転部材であるハウジング20にベアリング22およびベアリング24を介して回転可能に支持され、ドライブピニオン16にスプライン嵌合されているフランジ26に図示しないプロペラシャフトがボルトによって接続されることにより回転駆動させられる。
【0022】
リングギヤ18は後述する差動装置14のディファレンシャルケース28(以下はデフケース28と記載する)にボルト30によって接続されている。
【0023】
差動装置14は、回転体としてたとえば鋳鉄製のデフケース28を有しており、このデフケース28は、ハウジング20にベアリング32およびベアリング34を介して回転可能に支持されており、リングギヤ18に接続されることによって軸心Cを中心に回転駆動させられる。
【0024】
図2は、図1の差動装置14を拡大した要部断面図である。差動装置14は、デフケース28内にピニオンシャフト36、一対のピニオンギヤ38、一対のサイドギヤ40、一対のサイドギヤピース42、一対のサイドギヤシャフト44、および一対の皿バネ48を備えている。なお、差動装置14は、軸心Cおよび軸心Dに対して略対称に構成されている。
【0025】
デフケース28には、軸心Cと同一軸心上に一対の筒部28aが設けられており、それら一対の筒部28aにはサイドギヤシャフト44がそれぞれデフケース28に対して相対回転可能に嵌め入れられている。さらに、一対のサイドギヤシャフト44の外周面にはそれぞれサイドギヤ40がサイドギヤシャフト44に対して相対回転可能に嵌め入れられている。このサイドギヤ40のピニオンシャフト36に接近する側の端面には、後述するサイドギヤピース42を収容するための陥没面56が設けられている。なお、本実施例では、サイドギヤ40が第1回転部材に対応する。
【0026】
また、デフケース28には軸心Cに垂直にピニオンシャフト36が挿通されている。このピニオンシャフト36は、デフケース28を貫通するピン穴50に挿入されている固定ピン52に貫通させられることによって軸方向への移動が阻止させられている。これにより、ピニオンシャフト36はデフケース28と軸心Cを中心に一体的に回転させられる。
【0027】
ピニオンシャフト36の両端部には一対のピニオンギヤ38が回転可能に嵌め入れられており、それぞれサイドギヤ40の歯車40aと噛み合っている。
【0028】
また、ピニオンシャフト36の外周面には角柱形状を有する位置決め部材54が嵌め付けられており、サイドギヤシャフト44の端面に接近する側の面にはそれぞれ円柱状の位置決め突起54aが設けられている。
【0029】
サイドギヤシャフト44の端部は軸径が小径となった小径軸部44aが設けられており、この小径軸部44aの外周面にはサイドギヤピース42がスプライン嵌合されている。これより、サイドギヤピース42はサイドギヤシャフト44と一体的に回転させられると共に、サイドギヤシャフト44に対して軸心方向に移動可能とされている。なお、本実施例では、サイドギヤピース42とサイドギヤシャフト44とが第2回転部材に対応しており、第1回転部材として機能するサイドギヤ40と共通の軸心まわりに回転可能に設けられている。
【0030】
サイドギヤピース42は環状部材であり、径方向外側に伸びる鍔部42aが環状に設けられている。この鍔部42aのピニオンシャフト36に接近する側の一端部には皿バネ48の一端が当接させられており、皿バネ48の他端は位置決め突起54aの外周面に嵌め入れられている。これにより、皿バネ48は、サイドギヤピース42をサイドギヤ40に向かって付勢している。なお、本実施例では、皿バネ48が本発明の付勢装置に対応する。
【0031】
一方、サイドギヤピース42の鍔部42aの他端部は、サイドギヤ40の陥没面56に当接させられている。また、サイドギヤ40の陥没面56の反対側の面では、デフケース28に支持されているスラスト座金57に当接させられているため、軸心方向への移動が禁止されている。
【0032】
また、陥没面56のサイドギヤピース42とサイドギヤ40とが互いに当接する当接面58は、それぞれ後述する互いに噛み合う係合歯60aおよび60bが設けられている。図3は、図2のサイドギヤ40を軸心Cと平行に矢印A方向から見た概略図である。図3において、外周側の噛み合い歯はサイドギヤ40の歯車40aを表しており、内周側の噛み合い歯はサイドギヤ40の係合歯60aを表している。このサイドギヤ40の歯車40aにはピニオンギヤ38が噛み合わされ、内周側の係合歯60aにはサイドギヤピース42の係合歯60bが噛み合わされる。
【0033】
図4は、図3の係合歯60aを矢印Bの方向から見た断面図である。なお、図4では、噛合い状態を表すため、サイドギヤピース42の係合歯60bも同様に示されている。
【0034】
サイドギヤ40およびサイドギヤピース42の一方の歯面62には圧力角αが設けられており、他方の歯面64には圧力角βが設けられており、互いに異なる圧力角となっている。
【0035】
このように構成される差動装置14において、たとえばサイドギヤ40にトルクが付与されると、サイドギヤ40とサイドギヤピース42の係合歯60a、60bが互いに噛み合い、図4の矢印(ベクトル表記)に示されるように歯面62に対して垂直な力Fが発生する。この力Fは、圧力角αによって、互いの噛み合いを外そうとする軸心方向の方向成分であるスラスト力F1並びにサイドギヤピースに回転を伝達する方向の方向成分である駆動力F2に分解される。ここで、図4に示されるSは皿バネ48による付勢力の方向を表しており、スラスト力F1が付勢力Sよりも大きくなると互いの噛み合いが外れる構造となっている。また、互いの噛み合いが外れる限界トルク値は圧力角αおよび皿バネ48の付勢力を変えることによって自由に変更が可能となっている。
【0036】
また、係合歯60aの歯面62と隣り合う歯面64には異なる圧力角βが設けられている。これより、たとえば後進時においては歯面64が接触し、圧力角βによって前進時のスラスト力F1とは異なるスラスト力f1が決定される。これより、圧力角を変えることで前進時と後進時での限界トルク値を変えることができ、それぞれに要求される強度に応じて調節することができる。
【0037】
上述のように、本実施例によれば、第1回転部材として機能するサイドギヤ40と、第2回転部材として機能するサイドギヤピース42およびサイドギヤシャフト44とが互いに噛み合う係合歯60aおよび60bを備え、その係合歯60a、60bに圧力角αを設けることで、所定以上の伝達トルクが付与されると圧力角αによって互いの噛み合いを外そうとするスラスト力F1が発生し皿バネ48の付勢力Sよりもスラスト力F1が大きくなると互いの噛み合いが外れるため、伝達トルクが遮断されディファレンシャル装置以後の動力伝達装置への過大トルクの入力が回避される。
【0038】
また、本実施例によれば、係合歯60aおよび60bの隣り合う歯面62および64には異なる圧力角を設けることによって前進時および後進時の噛み合いが解除される限界トルク値を変えることができ、前進時および後進時にそれぞれ適した大きさの過大入力トルクの回避が可能となる。
【0039】
また、本実施例によれば、サイドギヤピース42とサイドギヤ40とが当接するように付勢する部材として、皿バネ48を使用することによって、常に一定の付勢力を付与することができ、皿バネ48を取り変えることで部品公差等に適合した付勢力の調整をすることができる。
【0040】
また、本実施例によれば、皿バネ48は、サイドギヤピース42を介してサイドギヤ40がスラスト座金57部よりデフケース28を押圧するため、皿バネ48がLSD(差動制限装置)として機能させることができる。
【0041】
また、本実施例によれば、ピニオンシャフト36に設けられている位置決め部材54の位置決め突起54aによって皿バネ48の位置が固定され、衝撃等による皿バネ48の脱落が防止される。
【0042】
また、本実施例によれば、サイドギヤ40に陥没面56が設けられることによって、サイドギヤ40とサイドギヤピース42とが径方向において重複されるさめ、軸心C方向の軸長を抑えることができる。
【0043】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図5は、本発明の他の実施例である差動装置80の要部断面図である。差動装置80は、差動装置14と比較するとサイドギヤ82、サイドギヤピース84、およびサイドギヤシャフト86の構成が異なり、付勢装置が本実施例ではコイルスプリング88となっている。
【0045】
サイドギヤ82の内周面にはサイドギヤピース84がスプライン嵌合されており、サイドギヤ82とサイドギヤピース84とは一体的に回転させられる。また、サイドギヤピース84は軸心方向に移動可能とされている。このサイドギヤピース84のピニオンシャフト36に接近する側の一端部には円柱状の位置決め突起90が設けられ、この位置決め突起90の外周面にコイルスプリング88の一端が嵌め付けられている。一方、コイルスプリング88の他端は、ピニオンシャフト36側に設けられている位置決め突起54aの外周面に嵌め付けられている。これにより、サイドギヤピース84が、サイドギヤシャフト86に向かって付勢させられている。なお、本実施例ではサイドギヤ82およびサイドギヤピース84が第1回転部材に対応し、サイドギヤシャフト86が第2回転部材に対応しており、互いの回転部材は共通な軸心回りに回転可能に設けられている。また、コイルスプリング88が付勢装置に対応している。
【0046】
また、サイドギヤピース84の他端部には、サイドギヤシャフト86に当接する当接面91が設けられている。この当接面91には、後述する係合歯92bが設けられており、この係合歯92bは、サイドギヤシャフト86に同様に設けられている係合歯92aと互いに噛み合っている。図6は、サイドギヤ82およびサイドギヤシャフト86を矢印Eの方向から見た概略図である。図3と同様に外周側の噛み合い歯はサイドギヤ82のピニオンギヤ38と噛み合う歯車を表しており、内周側の噛み合い歯はサイドギヤシャフト86の係合歯92aを表している。図6より係合歯92は、軸の中心から径方向外側に向かって放射状に歯が設けられている。
【0047】
図7は、図6の係合歯92aを矢印Gの方向から見た断面図である。なお、図7には噛み合いの状態を表すためサイドギヤピース84の係合歯92bも同様に示されている。
【0048】
サイドギヤシャフト86およびサイドギヤピース84の一方の歯面94には圧力角αが設けられており、他方の歯面96には圧力角βが設けられており、互いに異なる圧力角となっている。
【0049】
このように構成される差動装置80において、サイドギヤ82にトルクが付与されると、サイドギヤピース84に伝達され、サイドギヤピース84とサイドギヤシャフト86の係合歯92a、92bが互いに噛み合い、図7の矢印(ベクトル表記)に示されるように歯面94に対して垂直な力Fが発生する。この力Fは、圧力角αによって、互いの噛み合いを外そうとする軸心方向の方向成分であるスラスト力F1並びにサイドギヤシャフト86に回転を伝達する方向の方向成分である駆動力F2に分解される。ここでSはコイルスプリング88による付勢力の方向を表しており、スラスト力F1が付勢力Sよりも大きくなると互いの噛み合いが外れる構造となっている。また、互いの噛み合いが外れる限界トルク値は圧力角αおよびコイルスプリング88を変えることによって自由に変更が可能となっている。
【0050】
また、係合歯92aの歯面94と隣り合う歯面96には異なる圧力角βが設けられているため、たとえば後進時においては歯面96が接触し、圧力角βによってスラスト力f1が決定される。これより、前進時と後進時での限界トルク値を変えることができ、それぞれに要求される強度に応じて調節することができる。
【0051】
上述のように、本実施例によれば、第1回転部材として機能するサイドギヤ82およびサイドギヤピース84と、第2回転部材として機能するサイドギヤシャフト86とが互いに噛み合う係合歯92aおよび92bを備え、その係合歯92a、92bに圧力角αを設けることで、所定以上の伝達トルクが付与されると圧力角αによって互いの噛み合いを外そうとするスラスト力F1が発生しコイルスプリング88の付勢力Sよりもスラスト力F1が大きくなると互いの噛み合いが外れるため、伝達トルクが遮断され各動力伝達装置への過大トルクの入力が回避される。
【0052】
また、本実施例によれば、係合歯92aおよび92bの隣り合う歯面94および96には異なる圧力角を設けることによって前進時および後進時の噛み合いが解除される限界トルク値を変えることができ、前進時および後進時にそれぞれ適した大きさの過大入力トルクの回避が可能となる。
【0053】
また、本実施例によれば、サイドギヤピース84とサイドギヤシャフト86とが当接するように付勢する部材として、コイルスプリング88を使用することによって、常に一定の付勢力を付与することができ、コイルスプリング88を取り変えることで車両の用途に応じた付勢力の調整を行うことができる。
【0054】
また、本実施例によれば、ピニオンシャフト36に設けられている位置決め部材54の位置決め突起54aおよびサイドギヤピース84の位置決め突起90にコイルスプリング88が嵌め付けられるため、衝撃等によるコイルスプリング88の脱落が防止される。
【0055】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図8は、本発明の他の実施例である差動装置100の要部断面図である。差動装置100は、差動装置80と比較するとサイドギヤピース102、ピニオンシャフト104、デフケース106の構成が異なり、付勢装置が本実施例では油圧によって付勢されている。
【0057】
ピニオンシャフト104には軸に垂直に伸びる円柱形状の一対の作動油供給軸108が設けられている。この一対の作動油供給軸108は、サイドギヤピース102の一端部に設けられている油穴110にオイルシール112を介して嵌め入れられ、作動油供給軸108の端面と油穴110との間に油室114が形成される。なお、油室114はオイルシール112によって油密とされており、サイドギヤピース102は作動油供給軸108に対して相対回転可能となっている。
【0058】
また、ピニオンシャフト104内には、油路116が設けられており、ピニオンシャフト104の固定ピン52が貫通させられている側と反対側の外周面に形成されている作動油供給口118から軸心内を通り、作動油供給軸108の軸心内を経由して油室114に連通させられている。
【0059】
この作動油供給口118は、デフケース106内に設けられている油路120に連通しており、油路120はデファレンシャル装置のハウジング20に設けられている図示しない作動油供給口に連通されている。
【0060】
このように構成されている差動装置100は、ハウジング20の図示しない作動油供給口から作動油が供給され、デフケース106の油路120およびピニオンシャフト104の油路116を経由して油室114に供給される。この作動油によって油室114には油圧が発生して、サイドギヤピース102が油圧による付勢力でサイドギヤシャフト86に向かって付勢される。また、本実施例では付勢装置が油圧であること以外は前述の実施例と構成が同じであるため、差動装置80と同様の効果がえられる。
【0061】
上述のように、本実施例によれば、差動装置100は前述の実施例と同様の効果が得られると共に、付勢装置として油圧を使用し、その油圧を調整することで皿バネおよびコイルスプリングに比べ大きな付勢力を付与することが可能となるため、大きな差動制限力を必要とする特殊車両等にも適用することができる。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0063】
たとえば、本発明は、デファレンシャル装置に限られるものではなく、プロペラシャフトや変速機等の動力伝達装置にも適用することができる。
【0064】
また、本実施例では、FR型車両に適用されているがFF型車輌等の他の駆動方式に適用することもできる。
【0065】
また、差動装置100の油圧による付勢装置を最初の実施例である差動装置10に適用することもできる。
【0066】
また、本実施例では、位置決め突起54aはピニオンシャフト36側に設けられているが、サイドギヤピース42側に突起を設けて皿バネ48を固定することもできる。
【0067】
また、本実施例では、付勢装置はコイルスプリングおよび油圧によって付勢力を発生させているが、電子制御によるカム等、他の様々な手段によって付勢力を発生させるように構成してもよい。
【0068】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明が適用されたデファレンシャル装置の全体構成を説明する断面図である。
【図2】図1のデファレンシャル装置の差動装置を拡大した要部断面図である。
【図3】図2を矢印Aから見たサイドギヤを示す図である。
【図4】図3を矢印Bからみた断面図である。
【図5】本発明の他の実施例である差動装置の断面図である。
【図6】図5を矢印Eから見たサイドギヤおよびサイドギヤシャフトを示す図である。
【図7】図6を矢印Gからみた断面図である。
【図8】本発明の他の実施例である差動装置の断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10:デファレンシャル装置 14、80、100:差動装置 40、82:サイドギヤ 42、84、102:サイドギヤピース 44、86:サイドギアシャフト 48:皿バネ 58、91:当接面 60、92:係合歯 62、64、94、96:歯面 88:コイルスプリング 114:油室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源から駆動輪に至る動力伝達経路に介装される車両用伝達トルク制限装置であって、
前記動力源によって回転駆動される第1回転部材と、
該第1回転部材に隣接し且つ該第1回転部材と共通な軸心まわりに回転可能に設けられた第2回転部材と、
該第1および第2回転部材のうち軸心方向に相対移動可能な一方の回転部材を他方の回転部材に向かって付勢する付勢装置と、
該第1および第2回転部材にそれぞれ設けられて互いに噛み合う係合歯とを、含み、
該係合歯には、所定以上の伝達トルクが付与されたときに前記付勢装置の付勢力に抗して前記一方の回転部材を軸心方向に移動させて噛み合いを外す圧力角が設けられていることを特徴とする車両用伝達トルク制限装置。
【請求項2】
前記互いに噛み合う係合歯の隣り合う歯面には、互いに異なる圧力角が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用伝達トルク制限装置。
【請求項3】
前記付勢装置は、前記第1および第2回転部材の一方に当接すると共に、他方の回転部材に向かって軸心方向に付勢する皿バネまたはコイルスプリングであることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の車両用伝達トルク制限装置。
【請求項4】
前記付勢装置は、前記一方の回転部材に推力を付与するための油圧室を備え、該一方の回転部材を他方の回転部材に向かって付勢するように該油室内に油圧が作用されることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の車両用伝達トルク制限装置。
【請求項5】
前記車両用伝達トルク制限装置は、サイドギヤ、サイドギヤピース、サイドギヤシャフト、および前記皿バネを備えるディファレンシャル装置であり、
前記第1回転部材は該サイドギヤによって構成されると共に、前記第2回転部材は該サイドギヤピースおよび該サイドギヤシャフトによって構成され、
該サイドギヤは、前記サイドギヤシャフトの外周面に相対回転可能に嵌め入れられ、
該サイドギヤピースは、該サイドギヤシャフトの外周面にスプライン嵌合されることによって軸心方向の移動が可能な状態で一体的に回転させられ、
前記係合歯は、互いに隣接する該サイドギヤおよびサイドギヤピースの当接面にそれぞれ設けられ、
前記付勢装置は、該サイドギヤピースを該サイドギヤに向かって付勢する皿バネにより構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用伝達トルク制限装置。
【請求項6】
前記車両用伝達トルク制限装置は、サイドギヤ、サイドギヤピース、サイドギヤシャフト、および前記コイルスプリングを備えるディファレンシャル装置であり、
前記第1回転部材は該サイドギヤおよび該サイドギヤピースによって構成されると共に、前記第2回転部材は該サイドギヤシャフトによって構成され、
該サイドギヤピースは該サイドギヤの内周面にスプライン嵌合されることによって軸心方向の移動が可能な状態で一体的に回転させられ、
前記係合歯は、互いに隣接する該サイドギヤピースおよび該サイドギヤシャフトの当接面にそれぞれ設けられ、
前記付勢装置は、該サイドギヤピースを該サイドギヤシャフトに向かって付勢する前記コイルスプリングから構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用伝達トルク制限装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−78128(P2007−78128A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269079(P2005−269079)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】