説明

車両用制動発生システム

【課題】本発明は、車両用制動発生システムに係り、電動モータ及び電動ブレーキへの電力供給を簡素な構成で実現させつつ、車両に要求される制動トルクを確実に発生させることにある。
【解決手段】車体バネ下に配置され、電力供給により車輪を駆動する駆動トルクを発生すると共に、車輪の回転により回生電力を発生する電動モータと、車体バネ下に配置され、電力供給により車輪を制動する制動トルクを発生する電動ブレーキと、車体バネ上に配置されるバッテリと電動モータとの間で授受される電力が流通する第1電力線と、電動モータから電動ブレーキへ供給される電力が流通する第2電力線と、車両の制動が要求される場合、要求制動トルクを、電動モータの回生に伴う回生制動トルクと、該電動モータの発生する回生電力の全部又は一部の第2電力線を介した供給により電動ブレーキの発生する電気制動トルクと、で発生させる制動トルク制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動発生システムに係り、特に、車体バネ下に配置された駆動用のモータ及び制動用の電動ブレーキを用いて、車両を制動させる制動トルクを発生させるうえで好適な車両用制動発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体バネ下に車輪を駆動する駆動トルクを発生するモータ又は車輪を制動する制動トルクを発生する電動ブレーキが配置された車両用制動発生システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかるシステムにおいては、車体バネ上に配置されたバッテリと、車体バネ下に配置されたモータ又は電動ブレーキと、が電力線を介して電気接続されている。モータ又は電動ブレーキは、バッテリから電力線を介して電力供給されることで駆動トルクを発生し又は制動トルクを発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−219082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車体バネ下に上記のモータ及び上記の電動ブレーキの両方が配置される場合には、両方をそれぞれ別個の電力線を介してバッテリと電気接続させて、両方にそれぞれ別個独立に電力供給するシステムが考えられる。しかしながら、かかるシステムでは、車体バネ上と車体バネ下との間に二種類の電力線を配策することが必要であるので、構成が複雑になる不都合が生ずる。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、モータ及び電動ブレーキへの電力供給を簡素な構成で実現させつつ、車両に要求される制動トルクを確実に発生させることが可能な車両用制動発生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、車体バネ下に配置され、電力供給により車輪を駆動する駆動トルクを発生すると共に、車輪の回転により回生電力を発生するモータと、車体バネ下に配置され、電力供給により車輪を制動する制動トルクを発生する電動ブレーキと、車体バネ上に配置されるバッテリと前記モータとの間で授受される電力が流通する第1電力線と、前記モータから前記電動ブレーキへ供給される電力が流通する第2電力線と、車両の制動が要求される場合、要求制動トルクを、前記モータの回生に伴う回生制動トルクと、該モータの発生する回生電力の全部又は一部の前記第2電力線を介した供給により前記電動ブレーキの発生する電気制動トルクと、で発生させる制動トルク制御手段と、を備える車両用制動発生システムにより達成される。
【0007】
この態様の発明において、車体バネ下のモータは車体バネ上のバッテリと第1電力線を介して電気接続されると共に、車体バネ下の電動ブレーキは車体バネ下のモータと第2電力線を介して電気接続される。そして、車両の要求制動トルクは、モータの回生に伴う回生制動トルクと、そのモータの発生する回生電力の全部又は一部の第2電力線を介した供給により電動ブレーキの発生する電気制動トルクと、で発生される。かかる構成においては、電動ブレーキを作動させるための電力線を車体バネ上側から配策することは不要であり、車体バネ上側と車体バネ下側とを繋ぐ電力線の数を最小限に抑えることができるので、モータ及び電動ブレーキへの電力供給を簡素な構成で実現することが可能である。また、モータの発生する回生電力の全部又は一部が第2電力線を介して電動ブレーキへ供給されれば、モータの回生に伴う回生制動トルクのみでは要求制動トルクのすべてが満たされないときにも、電動ブレーキによる電気制動トルクでその要求制動トルクを補うことができるので、要求制動トルクを確実に発生させることが可能である。
【0008】
尚、上記した車両用制動発生システムにおいて、前記制動トルク制御手段は、車両の制動が要求される場合、予め最大制動トルクに対して定められている前記回生制動トルクと前記電気制動トルクとの配分に基づいて、要求制動トルクに対して前記回生制動トルクを優先して発生させることとしてもよい。
【0009】
また、上記した車両用制動発生システムにおいて、前記制動トルク制御手段は、要求制動トルクが予め最大制動トルクに対して配分が定められている前記回生制動トルクよりも大きいときは、余りの要求制動トルクを前記電気制動トルクで発生させることとしてもよい。
【0010】
また、上記した車両用制動発生システムにおいて、前記制動トルク制御手段は、車両の制動が要求される場合、要求制動トルクに対して前記回生制動トルクと前記電気制動トルクとを予め定められている所定比率で発生させることとしてもよい。
【0011】
更に、上記した車両用制動発生システムにおいて、前記配分又は前記所定比率は、車速に応じて変更される値であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータ及び電動ブレーキへの電力供給を簡素な構成で実現させつつ、車両に要求される制動トルクを確実に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例である車両用制動発生システムの構成図である。
【図2】本実施例において、最大制動トルクに対してモータで発生させるべき回生制動トルクと電動ブレーキで発生させるべき電気制動トルクとの配分を規定したマップの一例を示す図である。
【図3】本実施例の車両用制動発生システムにおいて実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図4】本発明の変形例において、最大制動トルクに対してモータで発生させるべき回生制動トルクと電動ブレーキで発生させるべき電気制動トルクとの配分を規定したマップの一例を示す図である。
【図5】本発明の変形例において、要求制動トルクに対してモータで発生させるべき回生制動トルクと電動ブレーキで発生させるべき電気制動トルクとの配分を設定する手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明に係る車両用制動発生システムの具体的な実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例である車両用制動発生システム10の構成図を示す。本実施例の車両用制動発生システム10は、車両に適用される制動トルクを発生させるシステムである。
【0016】
車両用制動発生システム10を搭載する車両は、各車輪それぞれに対応して車輪を駆動する駆動トルクを発生するモータ12を備えている。モータ12は、車輪タイヤが装着されたホイール14内に設けられて車体バネ下に配置されたインホイールモータである。モータ12は、車体バネ上に配置されたバッテリ16と第1電力線18を介して電気接続された、例えば三相交流の同期モータや誘導モータである。第1電力線18は、車体バネ上のバッテリ16と車体バネ下のモータ12とを繋ぐように配策されており、バッテリ16とモータ12との間で授受される電力を流通させる。
【0017】
モータ12は、バッテリ16から第1電力線18を介して電力が供給されることにより駆動トルクを発生してホイール14を回転させる電動モータである。第1電力線18上には、コンバータ20及び第1インバータ22が設けられている。これらのコンバータ20及び第1インバータ22には、モータ用電子制御ユニット(モータECU)24が電気接続されている。これらのコンバータ20、第1インバータ22、及びモータECU24は車体バネ上に配置されている。
【0018】
第1電力線18上のコンバータ20は、バッテリ16の電圧を昇圧して第1インバータ22側へ出力する昇圧コンバータである。第1インバータ22は、モータECU24からの指令によりPWM駆動されることで、バッテリ16側からの直流電流を交流電流に変換してモータ12側へ供給する機能を有する。モータECU24は、車輪の駆動が要求される場合、その要求に応じた駆動トルクをモータ12が発生するように第1インバータ22をPWM駆動する。モータ12は、第1インバータ22のPWM駆動に従った電力がバッテリ16側から第1電力線18を介して供給されることで、車輪を駆動する駆動トルクを発生する。
【0019】
モータ12は、また、車両減速時に車輪から伝達される動力により発電し、車輪の回転により回生電力を発生する発電機である。第1インバータ22は、また、モータECU24からの指令によりPWM駆動されることで、モータ12で発電された交流電流を直流電流に変換してバッテリ16側へ供給する機能を有する。モータECU24は、車輪の制動が要求される場合、その要求に応じた回生制動トルクをモータ12が発生するように第1インバータ22をPWM駆動する。コンバータ20は、また、第1インバータ22からの電圧を降圧してバッテリ16側へ出力する降圧コンバータである。バッテリ16は、モータ12側から第1インバータ22のPWM駆動に従った回生電力が第1電力線18を介して供給されることで、充電される。
【0020】
車両用制動発生システム10は、回生に伴って回生制動トルクを発生する上記のモータ12と共に、車輪を機械的に摩擦で制動させる制動トルクを発生するブレーキ30を備えている。ブレーキ30は、各車輪それぞれに対応して設けられており、車体バネ下に配置されている。ブレーキ30は、ホイール14に取り付け固定されたブレーキロータと、ブレーキパッドと、キャリパと、から構成された機械式ブレーキである。ブレーキ30は、また、キャリアが供給電力により作動して車輪を制動させる制動トルクを発生する電動ブレーキである。
【0021】
ブレーキ30は、第2電力線32を介して上記のモータ12に電気接続されている。第2電力線32は、車体バネ下で配策されており、モータ12からブレーキ30へ供給される電力を流通させる。第2電力線32上には、第2インバータ34及びコンバータ36が設けられている。これらの第2インバータ34及びコンバータ36には、電動ブレーキ用電子制御ユニット(EMB−ECU)38が電気接続されている。これらの第2インバータ34、コンバータ36、及びEMB−ECU38は車体バネ下に配置されている。
【0022】
第2インバータ34は、EMB−ECU38からの指令によりPWM駆動されることで、モータ12で発電された交流電流を直流電流に変換してブレーキ30側へ供給する機能を有する。EMB−ECU38は、車輪の制動が要求される場合、その制動要求に対してブレーキ30で発生させるべき分の制動トルクをブレーキ30が発生するように第2インバータ34をPWM駆動する。また、コンバータ36は、第2インバータ34側からの電圧を降圧してブレーキ30側へ出力する降圧コンバータである。ブレーキ30は、モータ12側から第2インバータ34のPWM駆動に従った回生電力が第2電力線32を介して供給されることで作動して、車輪を制動させる制動トルクを発生する。
【0023】
上記した車体バネ上のモータECU24、及び、上記した車体バネ下のEMB−ECU38には、車体バネ上に配置された制動コントロールユニット40が電気接続されている。制動コントロールユニット40は、EMB−ECU38と制御信号線42を介して電気接続されている。制御信号線42は、車体バネ上の制動コントロールユニット40と車体バネ下のEMB−ECU38とを繋ぐように配策されており、制動コントロールユニット40からEMB−ECU38へ供給される制御信号を流通させる。制動コントロールユニット40は、ブレーキ操作量などに基づいて車両に要求される要求制動トルクを算出すると共に、車輪速などに基づいて車両の車速を検出する。
【0024】
制動コントロールユニット40は、予め、最大制動トルクに対して、モータ12で発生させるべき回生制動トルクとブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクとの配分を規定したマップを記憶している。このマップにおいて、モータ12で発生させるべき回生制動トルクとブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクとの配分は、図2(A)に示す如く、車速に応じて変化される。例えば、車速が低いときは、モータ12で発生させるべき回生制動トルクの比率を比較的大きい値としかつブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクの比率を比較的小さい値とし、一方、車速が高いときは、モータ12で発生させるべき回生制動トルクの比率を比較的小さい値としかつブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクの比率を比較的大きい値とする。
【0025】
次に、図3を参照して、本実施例の車両用制動発生システム10の制御動作について説明する。図3は、本実施例の車両用制動発生システム10において制動コントロールユニット40が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。
【0026】
車両用制動発生システム10において、制動コントロールユニット40は、要求制動トルクTreを算出すると共に、その時点での車速を検出する(ステップ100)。そして、検出した車速に基づいて、上記のマップを参照することにより、その検出車速において実現すべき最大制動トルクに対する回生制動トルクTskと電気制動トルクTsdとの配分を設定する(ステップ102)。
【0027】
制動コントロールユニット40は、上記の如く設定された配分での最大制動トルクに対する回生制動トルクの値Tskと、上記の如く算出した要求制動トルクTreと、を比較して、モータ12で発生させるべき回生制動トルクTkを設定すると共に、ブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクTdを設定する(ステップ104)。具体的には、要求制動トルクTreに対してモータ12による回生制動トルクが優先して発生されるように、発生させるべき回生制動トルクTk及び電気制動トルクTdを設定する。
【0028】
例えば図2(B)に示す如く、要求制動トルクTreが最大制動トルクに対する回生制動トルクTsk分以下であるときは、モータ12による回生制動トルクだけでその要求制動トルクTreが発生されるように、発生させるべき回生制動トルクTkを設定する(Tre=Tk)。また、要求制動トルクTreが最大制動トルクに対する回生制動トルクTsk分を超えるときは、モータ12による回生制動トルクとブレーキ30による電気制動トルクとでその要求制動トルクTreが発生されるように、具体的には、最大制動トルクに対する回生制動トルクTsk分をモータ12による回生制動トルクで発生し、かつ、要求制動トルクTreのうち余りのトルク(=Tre−Tsk)をブレーキ30による電気制動トルクで発生するように、発生させるべき回生制動トルクTk(=Tsk)及び電気制動トルクTdを設定する(Tre=Tk+Td)。
【0029】
制動コントロールユニット40は、制動要求時、上記の如く設定された回生制動トルクTkをモータ12に発生させる指令信号をモータECU24へ供給すると共に、上記の如く設定された電気制動トルクTdをブレーキ30に発生させる指令信号を制御信号線42を介してEMB−ECU38へ供給する(ステップ106)。
【0030】
モータECU24は、制動コントロールユニット40からの指令を受けた場合、その指令に従った回生制動トルクTkが発生するように第1インバータ22をPWM駆動する。この場合には、第1インバータ22がPWM駆動されることでモータ12が車輪の回転により回生されるので、モータ12で回生電力が発生しつつ車輪を制動させる回生制動トルクTkが発生する。
【0031】
EMB−ECU38は、制動コントロールユニット40からの指令を受けた場合、その指令に従った電気制動トルクTdが発生するように第2インバータ34をPWM駆動する。この場合には、第2インバータ34がPWM駆動されることで、モータ12で発生した回生電力が第2電力線32を介してブレーキ30へ供給されるのが許容されるので、ブレーキ30で車輪を制動させる電気制動トルクTdが発生する。
【0032】
尚、モータ12で発生した回生電力は、第2インバータ34のPWM駆動に応じた量だけ第2電力線32を介してブレーキ30へ供給される。すなわち、ブレーキ30には、モータ12で発生した回生電力の全部又は一部が第2電力線32を介して供給される。このため、モータ12で発生した回生電力のうち、ブレーキ30で電気制動トルクTdを発生させるのに必要な電力が第2電力線32を介してブレーキ30側へ供給される一方、余りの回生電力が第1電力線18を介してバッテリ16へ供給される。
【0033】
また、ブレーキ30は、比較的小さい電力で大きな電気制動トルクを発生させることが可能であり、モータ12で発生する回生電力が小さいときにも大きな電気制動トルクを発生させることが可能である。
【0034】
このように、本実施例の車両用制動発生システム10において、車両の要求制動トルクは、モータ12の回生に伴う回生制動トルクと、そのモータ12の発生する回生電力の全部又は一部が第2電力線32を介して供給されることによりブレーキ30の発生する電気制動トルクと、で発生される。
【0035】
かかる構成において、車体バネ下のブレーキ30は、車体バネ下のモータ12から第2電力線32を介してその回生電力を受け取ることで作動するので、ブレーキ30を作動させるための電力線を車体バネ下のみで配策すれば十分であって、その電力線を車体バネ上側から配策することは不要である。この点、車体バネ上側と車体バネ下側とを繋ぐ電力線を、バッテリ16とモータ12との間の一つだけ設けることとすればよく、その数を最小限に抑えることができるので、モータ12及びブレーキ30への電力供給を簡素な構成で実現することが可能である。
【0036】
また、モータ12の回生に伴って発生する回生電力の全部又は一部は、第2電力線32を介してブレーキ30へ供給されるので、車両に要求される制動トルクがモータ12の回生に伴う回生制動トルクのみでは満たされないときにも、その余りの要求制動トルクをブレーキ30による電気制動トルクで補うことができる。この点、車両の要求制動トルクを確実に発生させることが可能である。
【0037】
従って、本実施例の車両用制動発生システム10によれば、モータ12及びブレーキ30への電力供給を簡素な構成で実現させつつ、車両に要求される制動トルクを確実に発生させることができる。
【0038】
また、本実施例においては、車両の要求制動トルクに対して、モータ12による回生制動トルクが優先して発生されるように、発生させるべき回生制動トルクTk及び電気制動トルクTdが設定されるので、要求制動トルクに対してモータ12による回生制動トルクが優先して発生される。このため、本実施例によれば、モータ12による回生制動トルクをバッテリ16へ回収する量を比較的多くすることができるので、バッテリ16の充電効率を向上させることが可能である。
【0039】
尚、上記の実施例においては、制動コントロールユニット40、モータECU24、及びEMB−ECU38が特許請求の範囲に記載した「制動トルク制御手段」に相当している。
【0040】
ところで、上記の実施例においては、車体バネ下にブレーキ30の発生する電気制動トルクを制御するEMB−ECU38を配置し、そのEMB−ECU38と車体バネ上の制動コントロールユニット40とを制御信号線42を介して電気接続させると共に、予め最大制動トルクに対して定められている回生制動トルクと電気制動トルクとの配分比率を、車速に応じて変更される値としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、その配分比率を図4に示す如く車速に関係なく固定値としてもよい。
【0041】
また、かかる変形例においては、発生させるべき回生制動トルクTk及び電気制動トルクTdを、上記の実施例と同様に、車両の要求制動トルクに対してモータ12による回生制動トルクが優先して発生されるように設定することとしてもよく、また、車両の要求制動トルクが何れの値であっても要求制動トルクに対して回生制動トルクと電気制動トルクとの配分比率が常に固定されるように設定することとしてもよい。尚、要求制動トルクに対して回生制動トルクと電気制動トルクとの配分比率が常に固定されるものである場合は、モータ12とブレーキ30とを繋ぐ第2電力線32上に配置されるインバータが、モータ12の発生する回生電力の大きさに比例した回生電流がモータ12側から第2電力線32を介してブレーキ30側へ流通されるように駆動されるものであればよく、また、この場合は、ブレーキ30で発生させるべき分の電気制動トルクを設定してその設定に応じたインバータ駆動を行うことは不要であるので、車体バネ下側にブレーキ30に発生させる電気制動トルクを制御するEMB−ECU38を配置する必要はなく、車体バネ下側の構成を簡素化することが可能である。
【0042】
また、上記の実施例においては、要求制動トルクに対して回生制動トルクを優先して発生させることとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、予め最大制動トルクに対して車速に応じて定められている回生制動トルクと電気制動トルクとの配分比率(=Ksk:Ksd)をそのまま、発生させるべき回生制動トルクと電気制動トルクとの配分比率に適用し(図5(A)及び(B)参照)、要求制動トルクの大きさに関係なく、車速に応じた回生制動トルクと電気制動トルクとの配分比率(=Ksk:Ksd)自体を固定することとしてもよい。
【0043】
また、上記の実施例においては、車体バネ上の制動コントロールユニット40から制御信号線42を介して車体バネ下のEMB−ECU38へ、制動コントロールユニット40が設定した電気制動トルクTdをブレーキ30に発生させるための指令信号を供給して、EMB−ECU38に制動コントロールユニット40からの指令に従った電気制動トルクTdが発生するように第2インバータ34のPWM駆動を行わせることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車体バネ下のEMB−ECU38に、最大制動トルクに対してブレーキ30で発生させるべき車速に応じた電気制動トルクを規定したマップを予め記憶させると共に、車体バネ上の車速センサから車速信号を入力させることとしたうえで、EMB−ECU38に、その記憶マップに従った車速に応じた電気制動トルクTdが発生するように第2インバータ34のPWM駆動を行わせることとしてもよい。尚、この場合は、制動コントロールユニット40に、最大制動トルクに対してモータ12で発生させるべき車速に応じた回生制動トルクを規定したマップを予め記憶させることとすればよい。
【0044】
また、かかる変形例においては、EMB−ECU38に入力される車速信号として、車体バネ上に設けられた車速センサから出力されるものに代えて、車体バネ下のモータ12に取り付けられる車輪速を検出するためのレゾルバセンサから出力されるレゾルバ信号を用いることとしてもよい。この場合は、車体バネ上側と車体バネ下側とを繋ぐ制御信号線を削減することができるので、車両用制動発生システムとしての構成の簡素化が可能である。
【0045】
また、上記の実施例においては、最大制動トルクに対してモータ12で発生させるべき回生制動トルクとブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクとの配分を、図2(A)に示す如く低車速領域で回生制動トルクが比較的大きい一定値でありかつ高車速領域で電気制動トルクが高速ほど大きくなるように規定したマップを用いることとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のマップを用いることとしてもよい。
【0046】
更に、上記の実施例においては、最大制動トルクに対してモータ12で発生させるべき回生制動トルクとブレーキ30で発生させるべき電気制動トルクとの配分を、車速に応じて変化させるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、車速と共に或いは車速に代えて、モータ12やブレーキ30の温度に応じて変化させることとしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 車両用制動発生システム
12 モータ
16 バッテリ
18 第1電力線
24 モータ用電子制御ユニット(モータECU)
30 ブレーキ
32 第2電力線
38 電動ブレーキ用電子制御ユニット(EMB−ECU)
40 制動コントロールユニット
42 制御信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体バネ下に配置され、電力供給により車輪を駆動する駆動トルクを発生すると共に、車輪の回転により回生電力を発生する電動モータと、
車体バネ下に配置され、電力供給により車輪を制動する制動トルクを発生する電動ブレーキと、
車体バネ上に配置されるバッテリと前記電動モータとの間で授受される電力が流通する第1電力線と、
前記電動モータから前記電動ブレーキへ供給される電力が流通する第2電力線と、
車両の制動が要求される場合、要求制動トルクを、前記電動モータの回生に伴う回生制動トルクと、該電動モータの発生する回生電力の全部又は一部の前記第2電力線を介した供給により前記電動ブレーキの発生する電気制動トルクと、で発生させる制動トルク制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用制動発生システム。
【請求項2】
前記制動トルク制御手段は、車両の制動が要求される場合、予め最大制動トルクに対して定められている前記回生制動トルクと前記電気制動トルクとの配分に基づいて、要求制動トルクに対して前記回生制動トルクを優先して発生させることを特徴とする請求項1記載の車両用制動発生システム。
【請求項3】
前記制動トルク制御手段は、要求制動トルクが予め最大制動トルクに対して配分が定められている前記回生制動トルクよりも大きいときは、余りの要求制動トルクを前記電気制動トルクで発生させることを特徴とする請求項2記載の車両用制動発生システム。
【請求項4】
前記制動トルク制御手段は、車両の制動が要求される場合、要求制動トルクに対して前記回生制動トルクと前記電気制動トルクとを予め定められている所定比率で発生させることを特徴とする請求項1記載の車両用制動発生システム。
【請求項5】
前記配分又は前記所定比率は、車速に応じて変更される値であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項記載の車両用制動発生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−189759(P2011−189759A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54905(P2010−54905)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】