説明

車両用駆動力制御装置

【課題】駆動要求操作に対する動力源の回転数変化を抑制することのできる車両用駆動力制御装置を提供すること。
【解決手段】動力源と動力伝達機構とを備え、駆動力を要求する駆動力要求操作の操作量が所定の変化幅の範囲内にある場合に、その操作量に対する動力源の回転数変化が抑制される車両用駆動力制御装置において、駆動力要求操作の操作量が増加から減少あるいは減少から増加に転じた時点の操作量を保持する操作量保持手段(ステップS10)と、一回前に保持された操作量を基準として駆動力要求操作の操作量に対する動力源の回転数変化を抑制する変化幅を算出する変化幅算出手段(ステップS5およびステップS6)とを備え、駆動力要求操作の操作量が変化幅の範囲内にある場合に、保持された操作量が動力源あるいは動力伝達機構に対して出力される(ステップS11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両における制動力および/または駆動力を制御するための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動力要求操作に対する動力源の回転数の変化を抑制させるものとして、特許文献1には、アクセルペダルの操作に対して予め設定したヒステリシス幅を付与して、このヒステリシス幅内におけるスロットル開度変化領域では、そのスロットルの開度転向前の無段変速機の変速比を保つように構成され、それによって一定速走行を容易におこなえるようにした発明が記載されている。また、車速が大きくなるほどヒステリシス幅を狭くするように構成されている。
【0003】
特許文献1に記載されたヒステリシス幅は、車両の一定速走行を容易にするために設定されるものであるから、走行抵抗の大きい路面ではヒステリシスの効果が得られない虞がある。そのため、特許文献2には、ヒステリシス幅を走行抵抗に応じて設定するように構成された発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−130441号公報
【特許文献2】特開2002−122220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1および2に記載された装置によれば、ヒステリシス幅の変化範囲内においてアクセルペダルの操作に対するエンジン回転数の変化を抑制できるが、その変化範囲内ではアクセルペダルを大きく戻した場合に、あるいは大きく踏み込んだ場合に、常にエンジン回転数が上昇あるいは下降し難くなる虞がある。また、微少なアクセル操作が要求される場合に、不感帯(ヒステリシス幅)の範囲においてアクセルペダルを操作することになり、ヒステリシスの効果を得られない虞がある。さらにまた、ヒステリシス幅の変化範囲外では、従来制御と同様に作用してしまう。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、駆動要求操作に対するエンジン1の回転数変化を抑制することのできる車両用駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両の駆動力を発生させる動力源とその動力源の発生させる駆動力を変速して伝達する動力伝達機構とを備え、前記動力源に対して駆動力を要求する駆動力要求操作の操作量が所定の変化幅の範囲内にある場合に、前記駆動力要求操作の操作量に対する前記動力源の回転数の変化が抑制されるように構成された車両用駆動力制御装置において、前記駆動力要求操作の操作量が増加から減少あるいは減少から増加に転じた時点における前記操作量を保持する操作量保持手段と、前記操作量保持手段によって保持される前記操作量の一回前に保持された操作量を基準として、前記駆動力要求操作の操作量に対する前記動力源の回転数の変化を抑制する前記変化幅を算出する変化幅算出手段とを備え、前記駆動力要求操作の操作量が前記変化幅算出手段によって設定された前記変化幅の範囲内にある場合には、前記保持された操作量が前記動力源あるいは前記動力伝達機構に対して出力されることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記駆動力要求操作の操作量が前記変化幅の範囲を超えて前記動力源あるいは前記動力伝達機構に対して出力される場合に、前記動力伝達機構の変速速度を変更する変速速度制御手段を更に備えていることを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記変化幅算出手段は、前記駆動力要求操作の操作量、車速、ナビゲーションシステムもしくは車両間通信システムによって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報のいずれかに基づいて前記変化幅を算出することを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記変速速度制御手段は、前記駆動力要求操作の操作量、車速、ナビゲーションシステムもしくは車両間通信システムによって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報のいずれかに基づいて前記動力伝達機構の変速速度を算出することを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2の発明において、前記変速速度制御手段は、前記駆動力要求操作の操作量が増加する場合と減少する場合とで前記変速速度が異ならせる手段を含むことを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、駆動力要求操作の操作量が増加から減少あるいは減少から増加に転じた時点における操作量が保持される。また、その保持された操作量を基準として、駆動力要求操作の操作量が変化幅の範囲内にある場合には、その保持された操作量が動力源あるいは動力伝達機構に対して出力される。そして駆動力要求操作の操作量がその変化幅の範囲内にある場合には、保持された操作量が維持される。そのため、駆動力要求操作の操作量に対して動力源を過敏に反応させることを抑制することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、駆動力要求操作の操作量が変化幅を超えた場合は、その変化幅を超える操作量が動力源あるいは動力伝達機構に出力されるとともに、動力伝達機構の変速速度が変更されるようになっている。すなわち、保持(ホールド)された操作量から変化幅を超える駆動力要求操作の操作量が動力源あるいは動力伝達機構に出力される場合に、例えば変速速度を相対的に遅くすることにより、駆動力の急変が生じることを防止もしくは抑制することができる。その結果、動力源の回転数の急変を防止もしくは抑制することができ、滑らかな加速あるいは減速をおこなうことができる。また、動力伝達機構の変速速度は変更できるから、例えば変速速度を相対的に速めることにより、制御応答性の良いいわゆるメリハリのある運転特性を得ることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、駆動力要求操作の操作量、車速、ナビゲーションシステムもしくは車両間通信システムによって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報のいずれかによって変化幅が算出される。これにより、車両の状態に適した変化幅を算出することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、駆動力要求操作の操作量、車速、ナビゲーションシステムもしくは車両間通信システムによって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報のいずれかによって動力伝達機構の変速速度が変更される。これにより、車両の状態に適した動力伝達機構の変速速度を設定することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、駆動力要求操作の操作量が増大する場合と減少する場合とで、変速速度を異ならせるようになっている。すなわち、駆動力要求操作の操作量が増大する場合(加速する場合)、駆動力要求操作の操作量が減少する場合(減速する場合)、それぞれに適した変速速度を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係る制御を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明に係る制御を適用した場合のタイムチャートを模式的に示す図である。
【図3】この発明に係る他の制御を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明に係る他の制御を適用した場合のタイムチャートを模式的に示す図である。
【図5】この発明で制御の対象とする車両の駆動系統および制御系統の構成例を模式的に示す図である。
【図6】この発明に係る制御におけるエンジンの運転状態とベルト式無段変速機の変速比との制御の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎにこの発明を具体例を参照して説明する。図5は、この発明で制御の対象とする車両Veの駆動系統および制御系統の構成例を模式的に示す図である。この発明を適用できる車両Veは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、エンジンと記す)1や、エンジン1と図示しない電動機とを併用したハイブリッド車両などであって、エンジン1の出力側に、例えばトルクコンバータや前後進切替機構などの伝動機構2を介して自動変速機3が連結されている。そして、自動変速機3の出力側に、ドライブシャフト4を介して、駆動輪5が連結されている。
【0019】
エンジン1は、前述したように、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはLPGエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関1であって、そのエンジン1におけるスロットル開度などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。なお、エンジン1には、例えば、エアコン用コンプレッサやパワーステアリング用オイルポンプあるいはオルタネータなど、直接もしくは間接的にエンジン1の出力トルクにより駆動されて作動する補機(図示せず)が連結されている。
【0020】
エンジン1の出力トルクは、伝動機構2を介して自動変速機3に入力され、その自動変速機3において設定される変速比γに応じて変速されて、駆動トルクとして駆動輪5へ伝達されるようになっている。
【0021】
図5に示す自動変速機3は、エンジン1の出力する動力を無段階に変速可能なベルト式無段変速機3であって例えば油圧を電気的に制御して変速比γを変更する変速制御をおこなういわゆる電子制御式の変速機構である。なお、ベルト式無段変速機3と同様にエンジン1の出力する動力を無段階に変速可能なトロイダル型無段変速機であってもよい。
【0022】
ベルト式無段変速機3は、駆動プーリ6と従動プーリ7とにベルト8を巻掛け、各プーリ6,7に対するベルト8の巻掛け半径(実効半径)を変化させることにより、変速比γを連続的に変化させるように構成されており、その駆動プーリ6は、互いに対向する面をテーパ面とした固定シーブ6aとその固定シーブに対して接近・離隔するように軸線方向に前後動する可動シーブ6bとを備え、それらのテーパ面によって、ベルト8を巻掛けるためのV字状の巻掛け溝が形成されている。また、可動シーブ6bをその軸線方向に移動させるための油圧アクチュエータ6cが設けられている。この油圧アクチュエータ6cは、可動シーブ6bをピストンとした油圧シリンダタイプのものであり、圧油が供給されることにより可動シーブ6bが固定シーブ6a側に移動し、溝幅が狭くなるように、すなわちベルト8の巻掛け半径が増大するように構成されている。
【0023】
一方、従動プーリ7は、上記の駆動プーリ6と同様に、互いに対向する面をテーパ面とした固定シーブ7aとその固定シーブ7aに対して接近・離隔するように軸線方向に前後動する可動シーブ7bとを備え、それらのテーパ面によって、ベルト8を巻掛けるためのV字状の巻掛け溝が形成されている。また、可動シーブ7bをその軸線方向に押圧するための油圧アクチュエータ7cが設けられている。この油圧アクチュエータ7cは、可動シーブ7bをピストンとした油圧シリンダタイプのものであり、油圧が供給されることにより可動シーブ7bが固定シーブ7a側に押されるように、すなわちベルト8を挟み付ける挟圧力が増大するように構成されている。
【0024】
そのベルト式無段変速機3を油圧によって制御する油圧制御装置9が設けられており、この油圧制御装置9を電気的に制御することにより、変速比γの切り換え・変更をおこなうように構成されている。
【0025】
ベルト式無段変速機3の油圧アクチュエータ7c,8cおよび伝動機構2を制御する油圧制御装置9が設けられている。この油圧制御装置9は電気的に制御されることにより、ベルト式無段変速機3の変速比γの切り換え・変更をおこなうように構成されている。そして、前述したエンジン1の運転状態、ベルト式無段変速機3の変速比γを変更する変速制御を実行させるための油圧制御装置9の動作状態を制御する電子制御装置(ECU)10が設けられている。
【0026】
このECU10は、一例として中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されていて、ECU10には、例えば、エンジン1の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ11、車速Vを検出する車輪速センサ12、車両Veの走行状態を推定するための車両Veの前後あるいは左右の加速度を検出する加速度センサ13、エンジン1に対する要求駆動量を検出するアクセル開度センサ14、ナビゲーションシステム15から取得される道路情報および道路勾配ならびに車両Veの現在の位置情報などの信号、自車両Veと前方の他車両との間で走行状態などの情報を相互に通信する車両間通信システム16を備えている場合には各車両からの信号などが制御データとして入力されるようになっている。
【0027】
そして、ECU10からは、エンジン1のスロットル開度および燃料噴射量などを変更する制御信号、油圧制御装置9の動作状態を制御してベルト式無段変速機3の変速比γを変更する制御信号、油圧制御装置9の動作状態を制御してトルクコンバータや前後進切換機構などの伝動機構2を制御する信号、車両間通信をおこなう他車両への信号などを出力するように構成されている。
【0028】
この発明に係る制御は、駆動力要求操作の操作量papと車速Vとに基づいてエンジン回転数Neを決定して、駆動力要求操作の操作量papに対してエンジン1の回転数が過敏に反応しないようにベルト式無段変速機3の変速比γを制御するように構成されている。
【0029】
図6は、この発明に係る制御におけるエンジン1の運転状態とベルト式無段変速機3の変速比γとの制御の一例を模式的に示す図であって、アクセル開度センサ14からの出力信号がECU10によって演算処理され、すなわち駆動力要求操作の操作量papから目標スロットル開度が算出されてエンジン出力が制御されるように構成されている。また、駆動力要求操作の操作量papが増加から減少もしくは減少から増加に転じた時点における駆動力要求操作の操作量(ホールド値)と車輪速センサ12からの出力信号とがECU10によって演算処理されて目標エンジン回転数Neが算出される。そして、その算出されたエンジン回転数Neになるようにベルト式無段変速機3の変速比γが制御されるように構成されている。言い換えれば、この発明に係る制御は、例えば駆動力要求操作の加速操作量に応じたスロットル開度になるようにスロットル開度を制御するものであって、駆動力要求操作の加速操作量が増加から減少(あるいは減少から増加)に転じた場合は、ベルト式無段変速機3の変速制御に用いる駆動力要求操作の加速操作量のみを保持し、スロットル開度の制御に用いる駆動力要求操作の加速操作量は保持しないように構成されている。
【0030】
図1は、前述した制御を説明するためのフローチャートであって、先ず、駆動力要求操作の操作量の前回値pap(n−1)、すなわちこのルーチンの一回前におこなった駆動力要求操作の操作量pap(n−1)が、このルーチンの一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)に設定され、また、駆動力要求操作の操作量の現在値pap(n)と一回前の値pap(n−1)とを判定する判定フラグJFの一回前の判定値JF(n−1)が、判定フラグJFの現在値JF(n)になるように設定される(ステップS1)。言い換えれば、このステップS1は、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)と一回前の判定フラグJF(n−1)とをゼロリセットすることに相当する。
【0031】
ステップS1の制御に続けて、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)よりも大きいか否かが判断される(ステップS2)。ここで、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)は、前述したステップS1において一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)に設定されている。したがって、このステップS2では、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)が一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)よりも大きいか否かが判断される。
【0032】
そして、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)、すなわち、ステップS1で一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)に設定された一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)よりも大きいことによりステップS2で肯定的に判断された場合は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)と一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)とを判定する判定フラグJF(n)が1に設定される(ステップS3)。言い換えれば、駆動力要求操作の操作量papを踏み増している場合に判定フラグJF(n)が1に設定される。
【0033】
これとは反対に、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)よりも小さいことによりステップS2で否定的に判断された場合は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)と一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)とを判定する判定フラグJF(n)が0(零)に設定される(ステップS4)。
【0034】
ステップS3あるいはステップS4の制御に続けて、ステップS1で一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)に設定された一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)を基準にして、その駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)を減少に転じた(戻した)場合のホールド閾値paphldupおよび増加に転じた(踏み増した)場合のホールド閾値paphlddwnが、例えば現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)および/または車速V、あるいは車速Vの他、ナビゲーションシステム15もしくは車両間通信システム16によって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報などに基づいて算出(補正)される(ステップS5)。すなわち、車両Veの走行状態に基づいて、駆動力要求操作の増大側と減少側とに閾値が設定される。
【0035】
ステップS5の制御に続けて、ステップS1で一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)に設定された一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)を基準にして、駆動力要求操作の操作量を増加から減少に転じた場合における駆動力要求操作の操作量(戻し時ホールド値)papjdgupと駆動力要求操作の操作量を減少から増加に転じた場合における駆動力要求操作の操作量(踏み増し時ホールド値)papjdgdwnとが算出される(ステップS6)。戻し時ホールド値papjdgupは、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)から前述したステップS5で算出された戻し時ホールド閾値paphldupが減じられて算出される。また、踏み増し時ホールド値papjdgdwnは、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)に踏み増し時ホールド閾値paphlddwnが加算されて算出される。このホールド値の範囲がこの発明における変化幅に相当する。
【0036】
ステップS6の制御に続けて、前述したステップS6で算出された戻し時ホールド値papjdgupが0(零)より小さいか否かが判断される(ステップS7)。戻し時ホールド値papjdgupが0(零)より小さい場合は、肯定的に判断され、戻し時ホールド値papjdgupが0(零)より大きい場合は否定的に判断される。
【0037】
戻し時ホールド値papjdgupが0(零)より小さいことにより、ステップS7で肯定的に判断された場合は、戻し時ホールド値papjdgupが0(零)に設定される(ステップS8)。
【0038】
これは、戻し時ホールド値papjdgupは、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)および/または車速Vによって任意に算出される値であり、その戻し時ホールド閾値paphldupを一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)から減じることによって戻し時ホールド値papjdgupが算出される。そのため、駆動力要求操作の操作量が0(零)より小さくなる場合がある。しかしながら、駆動力要求操作の操作量が0(零)より小さい場合とは、言い換えればエンジン1に対して要求駆動力がない場合であるから、そのような場合には、戻し時ホールド値papjdgupを0(零)に設定する。
【0039】
ステップS8の制御に続けて、また、戻し時ホールド値papjdgupが0(零)より大きいことにより、ステップS7で否定的に判断された場合は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)と一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)とを判定する判定フラグの現在値JF(n)が1に設定され、また、一回前の判定フラグJF(n−1)が0(零)に設定されているかが判断される(ステップS9)。すなわち、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)よりも大きいことにより、保持(ホールド)される駆動力要求操作の操作量papが一回前の値pap(n−1)から現在の値pap(n)に更新されていれば肯定的に判断され、これとは反対に保持(ホールド)される駆動力要求操作の操作量papが更新されていなければ否定的に判断される。
【0040】
前述したステップS9で肯定的に判断された場合は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)を保持させるホールドフラグHF(n)が1に設定され、図示しない別ルーチンによって現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が保持(ホールド)される(ステップS10)。
【0041】
ステップS10の制御に続けて、また前述したステップS9で否定的に判断された場合は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が踏み増し時ホールド値papjdgdwnよりも大きく、またあるいは、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が戻し時ホールド値paphldupよりも小さいか否かが判断される(ステップS11)。より具体的には、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が変化幅Δpapの範囲内に入っていないか否かが判断され、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が変化幅Δpapの範囲内に入っていない場合は肯定的に判断される。これとは反対に、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が変化幅Δpapの範囲内に入っている場合は否定的に判断される。
【0042】
現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が変化幅Δpapの範囲内に入っていないことにより、ステップS11で肯定的に判断された場合は、駆動力要求操作の操作量pap(n)を保持させるホールドフラグHF(n)が0(零)に設定される(ステップS12)。すなわち、駆動力要求操作の操作量papの保持(ホールド)が中止される。
【0043】
ステップS12の制御に続けて、また前述したステップS11で否定的に判断された場合は、ホールドフラグHF(n)が0(零)に設定されているか否かが判断される(ステップS13)。ホールドフラグHF(n)が0(零)に設定されていれば肯定的に判断され、これとは反対に、0(零)に設定されていなければ否定的に判断される。
【0044】
ホールドフラグHF(n)が0(零)に設定されていることによりステップS13で肯定的に判断された場合には、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)が現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)に設定される(ステップS14)。すなわち、前述したホールドされる一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)が現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)に更新される。
【0045】
ステップS14の制御に続けて、また、ホールドフラグHF(n)が0(零)に設定されていないことによりステップS13で否定的に判断された場合は、一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)が一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)に設定され、また、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が一回前に保持(ホールド)された駆動力要求操作の操作量paphold(n−1)に設定される(ステップS15)。すなわち、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)を現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)として設定する。したがって、駆動力要求操作の操作量papが前述した変化幅Δpapの範囲内にある場合に、保持(ホールド)された操作量papが維持される。
【0046】
図2は、この発明に係る制御を適用した場合のタイムチャートを模式的に示す図であって、特に車両Veが加速している場合を示している。t1時点において、前述したホールドフラグHF(n)が1に設定されると、別ルーチン(図示せず)によって現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が保持(ホールド)される。この保持される操作量pap(n)は、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)を基準にして変化幅Δpapが設定され、その変化幅Δpapの範囲内に駆動力要求操作の操作量papがある場合には、その値pap(n)が保持(維持)され、また、その値pap(n)に応じてエンジン回転数を制御するようにベルト式無段変速機3の変速比γが制御される。また、t2時点において現在の駆動力要求操作の操作量が変化幅Δpapを上回ったあるいは下回った場合には、ホールドフラグHF(n)が0に設定され、この発明に係る駆動力要求操作の操作量papを保持(ホールド)する制御が解除される。
【0047】
したがって、この発明に係る制御によれば、駆動力要求操作の操作量papの出力値を保持(ホールド)することによって、ベルト式無段変速機3の変速比γが保持(ホールド)され、エンジン1の出力変化が抑制できるように構成されている。そのため、駆動力要求操作の操作量papに対してエンジン1が過敏に反応することを抑制することができる。また、この発明に係る制御は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が変化幅Δpapを上回ったあるいは下回った場合に、その制御が一旦解除され、再び駆動力要求操作の操作量papが保持(ホールド)されるように構成されている。そのため、この発明に係る制御が実行されている場合には、常に駆動力要求操作の操作量papに対してエンジン1が過敏に反応することを抑制することができる。
【0048】
ところで、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が変化幅Δpapを上回ったあるいは下回った場合は、保持された駆動力要求操作の操作量pap(n)と変化幅Δpapを上回ったあるいは下回った時点における駆動力要求操作の操作量pap(例えば、pap(n+1)と記す。)との間に駆動力要求操作の操作量の差が生じているから、この操作量の差によってエンジン1の出力が急変して、ショックが発生する虞がある。そのため、エンジン1の出力変化の急変を抑え、ショックの発生を抑制することが好ましい。図3は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであって、図3に示す制御例は、図1に示す制御例を一部変更したものであるから、図3において図1と同じ制御ステップについては、図1と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0049】
前述した図1におけるステップS10の制御に続けて、踏み増し時ホールド値papjdgdwnよりも現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が大きいか否かが判断される(ステップS16)。現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が踏み増し時ホールド値papjdgdwnよりも大きく、すなわち変化幅Δpapの上限を超えている場合には肯定的に判断される。これとは反対に、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が踏み増し時ホールド値papjdgdwnよりも小さく、変化幅Δpapの上限を超えていない場合は、否定的に判断される。
【0050】
現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が踏み増し時ホールド値papjdgdwnよりも大きいことにより、ステップS16で肯定的に判断された場合は、ホールドフラグHF(n)が0(零)に設定される(ステップS17)。すなわち、この発明に係る駆動力要求操作の操作量papを保持(ホールド)する制御が解除される。
【0051】
ステップS17の制御に続けて、ダウンシフト変速速度の変更を要求するフラグDSSFが1に設定されて、ベルト式無段変速機3のダウンシフト変速速度の変更が要求される(ステップS18)。
【0052】
前述した現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が踏み増し時ホールド値papjdgdwnよりも小さいことにより、ステップS16で否定的に判断された場合は、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が戻し時ホールド値papjdgupよりも小さいか否かが判断される(ステップS19)。現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が戻し時ホールド値papjdgupよりも小さく、すなわち変化幅Δpapの下限を下回っている(超えている)場合には肯定的に判断される。これとは反対に、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が戻し時ホールド値papjdgupよりも大きく、変化幅Δpapの下限を下回っていない(超えていない)場合は、否定的に判断される。
【0053】
現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が戻し時ホールド値papjdgupよりも小さく、ステップS19で肯定的に判断された場合は、ホールドフラグHF(n)が0(零)に設定される(ステップS20)。すなわち、この発明に係る駆動力要求操作の操作量papを保持(ホールド)する制御が解除される。
【0054】
ステップS20の制御に続けて、アップシフト変速速度の変更を要求するフラグUSSFが1に設定されて、ベルト式無段変速機3のアップシフト変速速度の変更が要求される(ステップS21)。
【0055】
前述したステップS18あるいはステップS21の制御に続けて、または、現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が戻し時ホールド値papjdgupよりも大きく、ステップS19で否定的に判断された場合は、前述した図2に示すステップS13に進み、前述したステップS13からステップS15の各制御が実行される。
【0056】
したがって、前述した図3に示す制御によれば、この発明に係る駆動力要求操作の操作量を保持(ホールド)する制御が解除された場合に、ベルト式無段変速機3の変速速度を変更するように構成されており、それによってエンジン出力の急変を抑制できるように構成されている。また、この変速速度を変更する制御は、図示しない別ルーチンによって制御される。そして、その変速速度は車両Veの走行状態によって設定されるように構成されることが好ましい。すなわち、例えばナビゲーションシステム15あるいは車両間通信システム16から得られる道路勾配および路面摩擦係数ならびにコーナー情報などの情報さらには自車両Veと他車両との距離などに基づいて最適な変速速度を設定することが好ましい。
【0057】
より具体的には、自車両Veと他車両との間隔が狭まっており、急加減速が要求される場合には、例えばベルト式無段変速機3の変速速度を速めに設定することにより、例えば有段変速機のようにステップ的にエンジン回転数Neを変化させて、いわゆるメリハリのある運転特性が得られるように制御することができる。
【0058】
これとは反対に、特に駆動力要求操作の操作量を踏み増す場合には、ベルト式無段変速機3の変速速度を遅く設定することにより、目標エンジン回転数Neの急変を抑え、エンジン回転数Neの急上昇に伴うイナーシャトルクによって車両Veの駆動力が低下して滑らかな加速感を損なうことを抑制することができる。また、コーナーを旋回する場合や登坂路を走行する場合に、また道路の路面摩擦係数が低い場合には、ベルト式無段変速機3の変速速度を遅く設定することにより、目標エンジン回転数Neの急変を抑えることができるから、エンジン回転数の急変に伴う駆動力の急変を抑制することができ、車両Veの制御性を向上させることができる。
【0059】
図4は、前述した図3に示す制御を適用した場合のタイムチャートを模式的に示す図であって、特に車両Veが加速している場合を示している。t3時点において、前述したホールドフラグHF(n)が1に設定されると、別ルーチン(図示せず)によって現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が保持(ホールド)される。この保持される操作量pap(n)は、前述した図1に示す制御と同様に、一回前の駆動力要求操作の操作量pap(n−1)を基準にして変化幅Δpapが設定され、その変化幅Δpapの範囲内において駆動力要求操作の操作量papが変化する場合には、その操作量pap(n)が保持あるいは維持され、また、その操作量pap(n)に応じたエンジン出力になるようにベルト式無段変速機3の変速比γが制御される。また、t4時点において現在の駆動力要求操作の操作量pap(n)が設定された変化幅Δpapを上回ったあるいは下回った場合には、ホールドフラグHF(n)が0に設定され、駆動力要求操作の操作量pap(n)を保持(ホールド)する制御が解除される。そして、車両Veの走行状態に応じてベルト式無段変速機3の変速比γを変更する速度を変更する要求(信号)が出力される。
【0060】
例えばベルト式無段変速機3の変速速度を遅くなるように設定された場合には、目標エンジン回転数Neは図4に点線で示すように変化して、すなわちエンジン回転数Neの急変を抑えるように制御される。そのため、例えばt4時点において変速が終了するから、エンジン回転数Neの急上昇に伴うイナーシャトルクによって車両Veの駆動力が低下して滑らかな加速感を損なうことを抑制することができ、滑らかな加速感を得ることができる。またこれと反対に、急加減速時においては、ベルト式無段変速機3の変速比γを変更する速度が速くなるように変更する要求(信号)が出力される。そして例えば、駆動力要求操作の操作量pap(n)を保持(ホールド)する制御が解除されるt3時点近傍において変速するように制御される。
【0061】
したがって、この発明に係る他の制御によれば、駆動力要求操作の操作量papを保持(ホールド)する制御が解除された場合に、ベルト式無段変速機3の変速比γを変更する速度を車両Veの走行状態に応じて変更するように構成されており、そのため、例えば変速速度が遅くなるように変更することによって、エンジン回転数Neの急変を抑制することができる。その結果、エンジン回転数Neの急上昇に伴うイナーシャトルクによって車両Veの駆動力が低下して滑らかな加速感を損なうことを抑制することができ、滑らかな加速感を得ることができる。また、例えば変速速度が速くなるように変更することによって、変速比γを有段変速機のようにステップ的に変化させることができ、いわゆるメリハリのある運転特性を得ることができる。また、この発明に係る他の制御は前述した制御と同様に、この発明に係る制御が実行されている場合は、常に駆動力要求操作の操作量に対して動力源が過敏に反応することを抑制することができる。
【0062】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図に示すステップS10およびステップS11を実行する機能的手段が、この発明における操作量保持手段に相当し、ステップS5およびステップS6を実行する機能的手段が、この発明における変化幅Δpap設定手段に相当し、ステップS18およびステップS19を実行する機能的手段が、この発明における変速速度制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0063】
1…エンジン、 3…自動変速機、 11…エンジン回転数センサ、 12…車輪速センサ、 13…加速度センサ、 14…アクセル開度センサ、 15…ナビゲーションシステム、 16…車両間通信システム、 Ve…車両、 pap…駆動力要求操作の操作量、 Δpap…変化幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を発生させる動力源とその動力源の発生させる駆動力を変速して伝達する動力伝達機構とを備え、前記動力源に対して駆動力を要求する駆動力要求操作の操作量が所定の変化幅の範囲内にある場合に、前記駆動力要求操作の操作量に対する前記動力源の回転数の変化が抑制されるように構成された車両用駆動力制御装置において、
前記駆動力要求操作の操作量が増加から減少あるいは減少から増加に転じた時点における前記操作量を保持する操作量保持手段と、
前記操作量保持手段によって保持される前記操作量の一回前に保持された操作量を基準として、前記駆動力要求操作の操作量に対する前記動力源の回転数の変化を抑制する前記変化幅を算出する変化幅算出手段とを備え、
前記駆動力要求操作の操作量が前記変化幅算出手段によって設定された前記変化幅の範囲内にある場合には、前記保持された操作量が前記動力源あるいは前記動力伝達機構に対して出力されることを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
前記駆動力要求操作の操作量が前記変化幅の範囲を超えて前記動力源あるいは前記動力伝達機構に対して出力される場合に、前記動力伝達機構の変速速度を変更する変速速度制御手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
前記変化幅算出手段は、前記駆動力要求操作の操作量、車速、ナビゲーションシステムもしくは車両間通信システムによって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報のいずれかに基づいて前記変化幅を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
前記変速速度制御手段は、前記駆動力要求操作の操作量、車速、ナビゲーションシステムもしくは車両間通信システムによって得られた道路勾配、路面摩擦係数、渋滞情報、コーナーの有無情報のいずれかに基づいて前記動力伝達機構の変速速度を算出することを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
前記変速速度制御手段は、前記駆動力要求操作の操作量が増加する場合と減少する場合とで前記変速速度が異ならせる手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動力制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−255718(P2010−255718A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105320(P2009−105320)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】