説明

転がり軸受

【課題】外輪がハウジングの内周面端部に内嵌される転がり軸受を、軸受固定プレートなしで固定でき、ハウジングがアルミニウムダイキャスト製のものであっても、嵌合部に弛みやクリープが生じないようにすることである。
【解決手段】外輪3の両方の外周面コーナ端部に、他の部分よりも軟化させた軟化部3aを形成し、この軟化部3aを形成した外周面コーナ端部に、これよりも圧縮降伏強度が高いハウジングの内周面端部の材料を加締め込むことにより、外輪3がハウジングの内周面端部に内嵌される深溝玉軸受1を、軸受固定プレートなしで固定できるようにするとともに、嵌合部に弛みやクリープが生じないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪がハウジングの内周面端部に内嵌される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車を含む自動車のトランスミッションは、その歯車軸を支持する転がり軸受の外輪をハウジングとしてのトランスミッションケースの内周面端部に内嵌し、外輪をトランスミッションケースの端面に取り付けた軸受固定プレートで抜け止めしたものが多い(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このような自動車のトランスミッションでは、小型化と軽量化が進められており、特許文献1に記載されたものでは、軸受固定プレートを絞り加工で折り返し部を形成したものとして、この折り返し部を歯車の側面の逃がし部に配設することにより、トランスミッションの全長を短くするとともに、軸受固定プレートの剛性を高めて薄肉化し、トランスミッションを軽量化するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたものでは、軽量化のためにトランスミッションケースがアルミニウムダイキャストで形成されたものを対象として、転がり軸受の外輪が内嵌されるトランスミッションケースの内周部に、高力アルミニウム合金で形成した環状支持体を嵌入し、アルミニウムと鋼製の外輪の熱膨張差によって生じるクリープによる嵌合部の摩耗を防止するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−19109号公報
【特許文献2】実開平6−56554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたトランスミッションの軸受構造は、ある程度トランスミッションを小型化、軽量化できるが、軸受固定プレートをトランスミッションケースの端面にボルトで取り付けるために、軸受固定プレートと取り付けボルトのスペースを確保する必要があるので小型化に限界があり、これらの取り付け分だけ重量も増加する問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されたものは、アルミニウムダイキャスト製のトランスミッションケースを用いたときに生じるクリープによる嵌合部の摩耗は抑制することができるが、鋼製の外輪が内嵌される環状支持体を形成する高力アルミニウム合金の熱膨張率はアルミニウムとほぼ等しいので、外輪と環状支持体の嵌合部の弛みと、これらの間のクリープは防止できない問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、外輪がハウジングの内周面端部に内嵌される転がり軸受を、軸受固定プレートなしで固定でき、ハウジングがアルミニウムダイキャスト製のものであっても、嵌合部に弛みやクリープが生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、内輪と外輪の間に複数の転動体が配列され、前記外輪がハウジングの内周面端部に内嵌されて、ハウジング内の回転軸を回転自在に支持する転がり軸受において、前記外輪の少なくとも一方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させ、この軟化させた外周面コーナ端部に、これよりも圧縮降伏強度が高い前記ハウジングの内周面端部の材料を加締め込む構成を採用した。
【0010】
すなわち、外輪の少なくとも一方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させ、この軟化させた外周面コーナ端部に、これよりも圧縮降伏強度が高いハウジングの内周面端部の材料を加締め込むことにより、外輪がハウジングの内周面端部に内嵌される転がり軸受を、軸受固定プレートなしで固定できるようにした。また、加締め込みの締め込み量は、周方向で必ずしも均一とならないので、嵌合部に弛みやクリープが生じないようにすることもできる。
【0011】
前記外輪の両方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させることにより、軸受の取り付け方向に互換性を持たせることができる。
【0012】
前記外周面コーナ端部を軟化させる手段としては、部分焼きなまし処理を採用することができる。
【0013】
前記外周面コーナ端部を軟化させる手段としては、部分脱炭処理を採用することもできる。
【0014】
前記ハウジングがアルミニウムダイキャストで形成され、前記内周面端部の材料が高力アルミニウム合金とされた場合であっても、嵌合部に弛みやクリープが生じないようにすることができる。
【0015】
上述した転がり軸受は、転がり軸受が、自動二輪車を含む自動車のトランスミッションの前記回転軸としての歯車軸を支持し、前記ハウジングとしてのトランスミッションケースの内周面端部に内嵌されるものに好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の転がり軸受は、外輪の少なくとも一方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させ、この軟化させた外周面コーナ端部に、これよりも圧縮降伏強度が高いハウジングの内周面端部の材料を加締め込むようにしたので、外輪がハウジングの内周面端部に内嵌される転がり軸受を、軸受固定プレートなしで固定できるとともに、嵌合部に弛みやクリープが生じないようにすることができ、ハウジングに収納されるトランスミッション等の装置を、小型化、軽量化することができる。
【0017】
前記外輪の両方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させることにより、軸受の取り付け方向に互換性を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この転がり軸受は、図1に示すように、内輪2と外輪3の間に複数の転動体としてのボール4が保持器5に保持されて配列された深溝玉軸受1であり、高炭素クロム軸受鋼SUJ2で形成された外輪3の両方の外周面コーナ端部に、部分焼きなまし処理によって、他の部分よりも軟化させた軟化部3aが形成されている。軟化部3aの圧縮降伏強度は約450MPaとされている。
【0019】
図2は、前記深溝玉軸受1を用いた自動二輪車のトランスミッションを示す。このトランスミッションは、ハウジングとしてのトランスミッションケース11が、それぞれアルミニウムダイキャストで形成されたフロントケース11a、センタケース11bおよびエクステンションケース11cに3分割され、これらの内部に歯車軸としての入力軸12、出力軸13およびカウンタ軸14が、それぞれの歯車の噛み合わせを変更できるように配設されている。入力軸12とカウンタ軸14は、それぞれフロントケース11aとセンタケース11bの内周面端部に深溝玉軸受1a、1cで回転自在に支持され、出力軸13はエクステンションケース11cの内周面端部に深溝玉軸受1bで回転自在に支持されている。
【0020】
図3は、代表例として、前記入力軸12のフロント側をフロントケース11aの内周面端部に支持する深溝玉軸受1aを拡大して示す。フロントケース11aの内周面には拡径段差部15が設けられ、この拡径段差部15にAl−Zn−Mg−Cu系で、圧縮降伏強度が約550MPaの高力アルミニウム合金で形成された環状支持体16が回り止めされて内嵌され、この環状支持体16の内周面端部の外側に加締め用の余肉部16aが形成されている。深溝玉軸受1aの外輪3は、環状支持体16に内嵌されて、一端側を拡径段差部15の奥に押し当てられ、一方の外周面コーナ端部の軟化部3aに余肉部16aを加締め込まれて、抜け止めされている。図示は省略するが、他の深溝玉軸受1a、1b、1cの外輪3も、同様の加締め込みによって抜け止めされている。
【0021】
上述した実施形態では、焼きなまし処理によって外輪の両方の外周面コーナ端部に軟化部を形成したが、この軟化部は脱炭処理や脱炭処理と焼きなまし処理の組み合わせによって形成することもでき、一方のみの外周面コーナ端部に形成することもできる。
【0022】
上述した実施形態では、外輪が内嵌されるトランスミッションケースを、アルミニウムダイキャスト製で、内周部にAl−Zn−Mg−Cu系の高力アルミニウム合金製の環状支持体を内嵌したものとしたが、環状支持体はAl−Cu−Mg系、Al−Mg−Si系等の他の高力アルミニウム合金で形成することもでき、トランスミッションケース全体を高力アルミニウム合金で形成することもできる。また、外輪が内嵌されるハウジングは、アルミニウムダイキャスト製のトランスミッションケースに限定されることはなく、鉄鋼製のトランスミッションケースや他の装置のハウジングとすることもできる。
【0023】
さらに、上述した実施形態では、転がり軸受を深溝玉軸受としたが、本発明に係る転がり軸受は、深溝玉軸受に限定されることはなく、他の玉軸受やころ軸受等とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】転がり軸受の実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の転がり軸受を用いたトランスミッションを示す縦断面図
【図3】図2の要部を拡大して示す縦断面図
【符号の説明】
【0025】
1、1a、1b、1c 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
3a 軟化部
4 ボール
5 保持器
11 トランスミッションケース
11a フロントケース
11b センタケース
11c エクステンションケース
12 入力軸
13 出力軸
14 カウンタ軸
15 拡径段差部
16 環状支持体
16a 余肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間に複数の転動体が配列され、前記外輪がハウジングの内周面端部に内嵌されて、ハウジング内の回転軸を回転自在に支持する転がり軸受において、前記外輪の少なくとも一方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させ、この軟化させた外周面コーナ端部に、これよりも圧縮降伏強度が高い前記ハウジングの内周面端部の材料を加締め込むようにしたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記外輪の両方の外周面コーナ端部を、他の部分よりも軟化させた請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記外周面コーナ端部を軟化させる手段を部分焼きなまし処理とした請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記外周面コーナ端部を軟化させる手段を部分脱炭処理とした請求項1乃至3のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記ハウジングがアルミニウムダイキャストで形成され、前記内周面端部の材料が高力アルミニウム合金とされた請求項1乃至4のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記転がり軸受が、自動二輪車を含む自動車のトランスミッションの前記回転軸としての歯車軸を支持し、前記ハウジングとしてのトランスミッションケースの内周面端部に内嵌されるものである請求項1乃至5のいずれかに記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−191869(P2009−191869A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30650(P2008−30650)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】