説明

軸受測定装置

【課題】軸受のアキシアル隙間を測定すること。
【解決手段】外輪32を支持する外輪受108と、外輪受108に支持された外輪32に、ばね122の弾性力を荷重として印加するプレッシャリング118と、エアシリンダ126のロッド132に固定されたボビン134と、ボビン134に固定された内輪押し板138と、ボビン134に装着されて、弾性力を内輪押し板138を介して内輪30に付与するばね136と、内輪30上に配置されて、内輪30の浮き上がりに応答して、上方に移動する検出軸142と、検出軸142の移動に伴う浮き上がり量を外輪32のアキシアル隙間として検出する検出器146を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの軸受を測定するために用いられる軸受測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ装置に用いられる電動モータとしては、回転軸に固定されたロータと、ロータと間隙を保って配置されてハウジングに固定されたステータと、ハウジングに固定されてロータを回転自在に支持する軸受とを備えたものが知られている。この種の電動モータにおいては、軸受として、クロスローラ軸受などの転がり軸受が多く採用されている。クロスローラ軸受は、軌道輪としての内輪および外輪を備え、内輪と外輪との間に転動体としての円筒コロが介装されている。外輪は軸方向に分割された一対の分割輪で構成されている。そして、外輪をロータに連結するに際しては、ロータフランジあるいはロータ用ハウジングに予圧付与機構としての軸受押さえを連結し、この軸受押さえで外輪を軸方向に押圧し、外輪に対して予圧を付与することが行われている。外輪に付与される予圧が変動すると、クロスローラ軸受の軌道摩擦トルクが変動し、電動モータが円滑に回転できなくなる。
【0003】
そして、外輪をロータに連結するに際しては、ロータフランジあるいはロータ用ハウジングに予圧付与機構としての軸受押さえを連結し、この軸受押さえで外輪を軸方向に押圧し、外輪に対して予圧を付与することが行われている。しかし、外輪に付与される予圧が変動すると、クロスローラ軸受の起動摩擦トルクが変動し、電動モータが円滑に回転できなくなる。
【0004】
このため、電動モータにクロスローラ軸受などの転がり軸受を用いる場合、軸受への軸力をコントロールする予圧調整機構として、外輪押さえ具を備えるとともに、ハウジングに固定ボルトを介して外輪押さえ具を締め付け固定するときに、外輪押さえ具に軸方向に進退可能で且つ外輪押さえとハウジングとの間に突出可能にねじ込まれ、締め付け時に突出端がハウジングに当接するねじ部材を備え、軸受に一定以上の予圧をかけないようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、外輪に予圧を付与する軸受押さえをハウジングに固定ボルトを介して締結するとともに、ハウジングに固定ボルトの挿入部分に所定の深さの座ぐりを形成し、ハウジングに、固定ボルトの座ぐりの部分と螺合しない非接触領域を形成し、軸受押さえおよび固定ボルトを軸受の材料と同じ材料で構成し、軸受回りに熱膨張を考慮した逃げを設けたものが提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−303385号公報
【特許文献2】特開2003−83324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電動モータで負荷、例えば、フロッグレッグ式の真空搬送アームを駆動する場合、2台の電動モータが用いられるが、各電動モータの起動摩擦トルクが異なると、各電動モータの回転開始動作に差が生じ、アームが真っ直ぐに動かなかったり、あるいは停止時にアームに振動を生じさせたりすることがある。
【0008】
すなわち、軸受に対する予圧量を示すアキシアル隙間にばらつきが生じると、起動摩擦トルクが安定しなくなる。一般に、軸受にかかる荷重(予圧を含む)によって起動摩擦トルクが決定されるので、外輪の反りの影響などによってアキシアル隙間にばらつきが生じると、各電動モータにおける起動摩擦トルクに差が生じることがある。
【0009】
本発明の目的は、軸受のアキシアル隙間を測定することができる軸受測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配設された転動体を備え、前記外輪は、複数の分割輪で構成された転がり軸受を測定対象として、前記外輪を支持する外輪支持機構と、前記外輪支持機構に支持された外輪に荷重を印加する荷重印加機構と、前記外輪に印加された荷重とは逆方向の力を前記内輪に印加する内輪駆動機構と、前記内輪の移動量を検出する移動量検出器とを備えなる軸受測定装置を構成したものである。
【0011】
係る構成によれば、外輪支持機構で外輪を支持し、外輪支持機構に支持された外輪に荷重印加機構から荷重を印加し、この状態で、外輪に印加された荷重とは逆方向の力を内輪駆動機構から内輪に印加する。このとき、外輪が支持された状態で内輪が移動したときには、その移動量を移動量検出器で検出することで、内輪の移動量を軸受のアキシアル隙間として検出することができる。
【0012】
軸受測定装置を構成するに際しては、以下の要素を付加することができる。好適には、前記移動量検出器は、前記内輪の移動量を前記分割輪間のアキシアル隙間として検出してなる。
【0013】
係る構成によれば、移動量検出器の検出による内輪の移動量を、外輪の分割輪間のアキシアル隙間として検出することができる。
【0014】
好適には、前記荷重印加機構は、前記外輪の反りを矯正する一定力を荷重として前記外輪に印加してなる。
【0015】
係る構成によれば、荷重印加機構により、外輪の反りを矯正する一定力を荷重として外輪に印加することで、外輪に反りがあっても、外輪の反りを矯正した状態で、外輪の分割輪間のアキシアル隙間を正確に検出することができる。
【0016】
好適には、前記移動量検出器の検出結果から前記測定対象に関する起動摩擦トルクの良否を判定する判定器を備えてなる。
【0017】
係る構成によれば、移動量検出器の検出結果を判定器で判定することで、軸受に関する起動摩擦トルクの良否を判定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軸受のアキシアル隙間を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、モータ装置の要部断面を示す構成図である。図1において、モータ装置10は、ハウジング12と、ハウジング12に固定された電動モータ14と、電動モータ14の回転速度(回転位置)を検出する回転検出器16を備えて構成されている。
【0020】
電動モータ14は、モータロータ18と、モータステータ20と、軸受22を備えて構成されている。モータロータ18は、円環状に形成されて、モータステータ20と間隙保って回転自在に配置されている。モータステータ20は、永久磁石やコイルを備え、電力の供給を受けてモータロータ18に対する回転磁界を形成するようになっており、六角穴付ボルト24により、円環状のハウジングインナ26に固定されている。モータロータ18に隣接して、円環状のロータフランジ28が配置されており、ロータフランジ28は、六角穴付ボルト29により、モータロータ18の端部に連結されている。ロータフランジ28の内周側には溝28aが形成され、この溝28aに相対向して、ハウジングインナ26外周側には溝26aが形成されており、各溝26a、28a内には軸受22が装着されている。
【0021】
軸受22は、例えば、クロスローラ軸受などの転がり軸受として、外周面に内輪軌道を有する内輪30と、外周面に外輪軌道を有する外輪32と、内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に配置された転動体としての円筒コロ34を備えて構成されており、外輪32は、軸方向に分割された一対の分割輪32a、32bで構成されている。内輪30は、ハウジングインナ26の溝26aに装着されているとともに、内輪押さえ36に支持された状態でハウジングインナ26に固定されている。内輪押さえ36は、六角穴付ボルト38でハウジングインナ26に固定されている。一方、外輪32は、ロータフランジ28の溝28aに装着されているとともに、外輪押さえ40により、軸方向に押圧されて予圧が付与されている。
【0022】
外輪押さえ40は、ほぼ円環状に形成され、ロータフランジ28に隣接して配置されている。この外輪押さえ40は、外輪押さえ40の穴40a内に挿入されたボルト42により、ロータフランジ28に締結固定されている。すなわち、ボルト42をロータフランジ28に締結固定することにより、外輪32に対して軸方向の予圧が付与されるようになっている。この場合、外輪押さえ40は、ロータフランジ28及びモータロータ18とともに、モータ出力軸となる回転軸を構成するようになっている。
【0023】
一方、回転検出器16は、例えば、レゾルバとして、インクリメンタル側のレゾルバステータ44、インクリメンタル側のレゾルバロータ46、アブソリュート側のレゾルバステータ48、アブソリュート側のレゾルバロータ50を備えて構成されている。レゾルバステータ44、48はそれぞれボルト52、54により、ハウジングインナ26に固定されており、レゾルバステータ44とレゾルバステータ48との間には、両者の磁気的干渉を抑制するための遮蔽円板56が配置されている。
【0024】
レゾルバロータ46、50は、間座となる、外輪押さえ40の凸部58に、ボルト60で固定されている。この回転検出器16は、例えば、レゾルバステータ44、48がU、V、W相に対応して設けられており、レゾルバロータ46、50がモータロータ18とともに回転したときに、レゾルバロータ46、50の磁極変化に応答して、レゾルバロータ46、50の回転位置を検出するようになっている。
【0025】
電動モータ14を用いてフロッグレッグ式の真空搬送アームなどの負荷を回転駆動するに際しては、軸受22のアキシアル隙間、すなわち分割輪32a、32b間の隙間にばらつきがあると、電動モータ14の起動摩擦トルクが安定せず、負荷を円滑に回転できなくなる。
【0026】
そこで、電動モータ14に軸受22を組み付けるに際しては、軸受測定装置を用いて軸受22のアキシアル隙間を測定し、測定結果から良品となったもののみを電動モータ14に組み付けることとしている。
【0027】
次に、軸受測定装置の具体的構成を図2および図3に基づいて説明する。軸受測定装置100は、ほぼ長方形形状に形成された鉄製ベースプレート(石定盤)102を備えており、ベースプレート102上には一対の支柱104、106が一体となって固定されている。支柱104、106は、ベーブプレート102の長手方向両端部に分かれて配置されており、支柱104と支柱106との間にはほぼ円筒状に形成された外輪受108が配置されている。外輪受108は、ボルト110によりベースプレート102に固定されている。外輪受108上部内周側には、円環状の段部108aが形成されており、段部108a上には、軸受22の外輪32が載置されている。
【0028】
一方、支柱104、106の頂部にはプレッシャプレート112がボルト114によって固定されている。プレッシャプレート112は、ほぼ菱形形状に形成されて、その中央部に円孔116が形成されている。プレッシャプレート112の底面側には、円孔116に沿ってプレッシャリング118が配置されており、プレッシャリング118は、ボルト120によってプレッシャプレート112に固定されている。プレッシャプレート112の底部側の一部には穴112aが形成されており、この穴112aに相対向して、プレッシャリング118の内周側には段部118aが形成されている。穴112aと段部118aとの間にはばね(コイルスプリング)122が装着されている。
【0029】
プレッシャプレート112に固定されたプレッシャリング118は、その底面が外輪32の頂面に当接されており、外輪受108の段部108aに装着された外輪32に対して、プレッシャプリング118が下方に押圧するようになっている。この際、ばね122の弾性力が外輪32の反りを矯正する荷重として外輪32に印加されるようになっている。この場合、外輪受108は、外輪32を支持する外輪支持機構として機能し、プレッシャプレート112、プレッシャリング118、ばね122は、外輪受108に支持された外輪32に対して、外輪32の反りを矯正する一定力を荷重として印加する荷重印加機構として機能するようになっている。
【0030】
また、ベースプレート102のほぼ中央部には支持台124、エアシリンダ126が配置されている。支持台124は、ベースプレート102の底部側にボルト128で固定されており、支持台124上にはエアシリンダ126が配置されている。エアシリンダ126は、ボルト130で支持台124に固定されている。このエアシリンダ126には、エア配管(図示せず)を介してエア源が接続されている。
【0031】
エアシリンダ126上部に配置されたロッド132の外周には、筒状のボビン134が固定されている。ボビン134の外周側にはばね(コイルスプリング)136が装着され、ボビン134の上端部には、ほぼ円盤状に形成された内輪押し板138が固定されている。内輪押し板138の中央部底部側には、円形の穴138aが形成されており、穴138aとボビン134のフランジ140との間に、ばね136が装着されている。内輪押し板138は、その上面外周側が軸受22の内輪30に当接するように配置されている。エアシリンダ126は、ロッド132を介して内輪押し板138に連結されており、エアの圧力に応じて内輪押し板138を上下方向(鉛直方向)に沿って昇降駆動するようになっている。
【0032】
そして、エアシリンダ126の上昇駆動により、内輪押し板138が内輪30底部側に当接したときには、ばね136の弾性力により、内輪30に対して一定の力、すなわち、プレッシャリング118から外輪32に作用する荷重とは逆方向の力(鉛直上方への力)が印加されるようになっている。この場合、エアシリンダ126、ロッド132、ボビン134、ばね136、内輪押し板138は内輪駆動機構として機能することになる。
【0033】
また、内輪30上には検出軸142が載置されており、検出軸142の中心部には針144を介して検出器146に接続されている。検出器146は、検出軸142の移動量(鉛直方向の移動量)を針144を介して取り込み、内輪30の浮き上がり量をアキシアル隙間(分割輪32a、32b間の隙間)として検出し、検出結果を測定器148に出力する移動量検出器として構成されている。
【0034】
例えば、軸受22の外輪32がばね122の弾性力を受けて下方に押圧されているときに、ばね136の弾性力が内輪押し板138を介して内輪30に付与され、内輪30が基準位置よりも上方に浮き上がったときには、その浮き上がり量がアキシアル隙間として検出器146によって検出されるようになっている。検出器146の検出結果が測定器148に転送されると、測定器148は、判定器として、軸受22に関する起動摩擦トルクの良否を判定し、判定結果を表示器(図示せず)に表示するようになっている。
【0035】
測定器148の測定結果から良品と判定された軸受22のみを電動モータ14に組み付けることで、電動モータ14におけるアキシアル隙間のばらつきを無くすことができ、電動モータ14の起動摩擦トルクを安定化することができる。
【0036】
本実施例によれば、外輪受108に支持された外輪32に対して、ばね122の弾性力をプレッシャリング118を介して付与した状態で、ばね136の弾性力を内輪押し板138を介して内輪30に付与し、内輪30が基準位置よりも上方に浮き上がったときには、その浮き上がり量をアキシアル隙間として検出器146によって検出するようにしたため、軸受22のアキシアル隙間(分割輪32a、32b間の隙間)を確実に検出することができる。
【0037】
また、本実施例によれば、外輪受108に支持された外輪32に対して、ばね122の弾性力をプレッシャリング118を介して印加するに際して、ばね122の弾性力を、外輪32の反りを矯正する荷重として外輪32に印加するようにしたため、外輪32に反りがあっても、外輪32の反りを矯正した状態で、外輪32の分割輪32a、32b間のアキシアル隙間を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例を示すモータ装置の要部断面を含む構成図である。
【図2】軸受測定装置の平面図である。
【図3】軸受測定装置の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 モータ装置、12 ハウジング、14 電動モータ、16 回転検出器、18 ロータ、20 ステータ、22 軸受、26 ハウジングインナ、28 ロータフランジ、30 内輪、32 外輪、32a、32b 分割輪、38 内輪押さえ、40 外輪押さえ、44 レゾルバステータ、46 レゾルバロータ、48 レゾルバステータ、50 レゾルバロータ、100 軸受測定装置、102 ベースプレート、108 外輪受、112 プレッシャプレート、118 プレッシャリング、122 ばね、126 エアシリンダ、136 ばね、138 内輪押し板、142 検出軸、146 検出器、148 測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配設された転動体を備え、前記外輪は、複数の分割輪で構成された転がり軸受を測定対象として、前記外輪を支持する外輪支持機構と、前記外輪支持機構に支持された外輪に荷重を印加する荷重印加機構と、前記外輪に印加された荷重とは逆方向の力を前記内輪に印加する内輪駆動機構と、前記内輪の移動量を検出する移動量検出器とを備えなる軸受測定装置。
【請求項2】
前記移動量検出器は、前記内輪の移動量を前記分割輪間のアキシアル隙間として検出してなる、請求項1に記載の軸受測定装置。
【請求項3】
前記荷重印加機構は、前記外輪の反りを矯正する一定力を荷重として前記外輪に印加してなる、請求項1または2に記載の軸受測定装置。
【請求項4】
前記移動量検出器の検出結果から前記測定対象に関する起動摩擦トルクの良否を判定する判定器を備えてなる、請求項1、2または3のうちいずれか1項に記載の軸受測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−63515(P2009−63515A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233317(P2007−233317)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】