説明

酸化物層の製造方法

【課題】Cu等の金属層の酸化が生じ難く、かつ、結晶性がよく、かつ、クラックの発生し難いBa及びTi含有酸化物層の製造方法を提供する。
【解決手段】Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20B,20Cを金属層14上に形成するアモルファス層形成工程と、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Cを結晶化する結晶化工程と、を備える。アモルファス層形成工程では、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層を形成すること、及び、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層に1パルスあたり1〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射することの組合わせを1回行う又は複数回繰り返し行うことにより厚みが300〜660nmのBa及びTi含有酸化物のアモルファス層20B,20Cを形成する。また、結晶化工程では、酸化物のアモルファス層20Cに1パルスあたり60〜400mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ba及びTi含有酸化物層を備える素子として、例えば、特許文献1に記載されているように、一対の銅電極間に結晶性の高いBa及びTi含有酸化物層を挟んだ誘電体素子が知られている。特許文献1の酸化物層は、金属アルコキシドや金属塩を主原料とする金属酸化物の前駆体層を電極上に形成し、この前駆体を熱処理して酸化物層を生成するとともに酸化物層を高温でアニーリングする事により形成される。
【0003】
また、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層から結晶性のよい酸化物層を形成する方法として、例えば、特許文献2〜5には、前駆体を高温でアニーリングすることに代えて、前駆体に紫外光を照射することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−39282号公報
【特許文献2】特開平9−157855号公報
【特許文献3】特開2000−256863号公報
【特許文献4】特開2000−247608号公報
【特許文献5】特開平11−035710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極がCu等の酸化されやすい金属である場合、前駆体の高温でのアニーリングにより金属が酸化するという問題がある。金属の酸化を抑制すべくアニーリング時の酸素分圧を低くすることも考えられるが、そうするとBa及びTi含有酸化物層における酸素原子の不足によって誘電損失が大きくなるなど電気特性に影響を及ぼす。更に高温アニーリング時のCu等の金属の再結晶化による結晶粒の肥大化及びCu等の金属材料が箔である場合の箔の軟化は後工程を著しく困難にさせる。また、熱処理に代えて紫外光の照射により酸化物層の生成及び結晶化を試みても、十分な結晶化が困難であり、クラック発生等の不良が多くなることが判明した。
【0005】
そこで本発明は、Cu等の金属層の酸化が生じ難く、かつ、結晶性がよく、かつ、クラックの発生し難いBa及びTi含有酸化物層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明の酸化物層の製造方法は、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層を金属層上に形成するアモルファス層形成工程と、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層を結晶化する結晶化工程と、を備え、アモルファス層形成工程では、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層を形成すること、及び、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層に1パルスあたり1〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射することの組合わせを1回行う又は複数回繰り返し行うことにより厚みが300〜660nmのBa及びTi含有酸化物のアモルファス層を形成し、結晶化工程では、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層に1パルスあたり60〜400mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射する。
【0007】
本発明によれば、Ba及びTi含有酸化物の前駆体のアモルファス化と、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層の結晶化とを、いずれも紫外線パルスレーザ光の照射により行っている。これにより、レーザ照射前にBa及びTi含有酸化物の前駆体層やアモルファス層を300℃以上の高温に維持する必要が無いので、金属層が高温に晒され難くなり、金属層の酸化が抑制される。従って、還元雰囲気中でアモルファス化や結晶化を行う必要が無くなり、大気中で処理することができる。さらに、Ba及びTi含有酸化物の前駆体をアモルファス化する際に必要なパルスレーザ光の照射フルエンス(単位面積当たりのパルスのエネルギー)は、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層を結晶化する際に必要なパルスレーザ光の照射フルエンスよりも低くてよく、これらを別工程で行うことにより、それぞれの工程において適切な照射フルエンスでの照射が可能となり、金属層の過度な温度上昇をより抑制できるとともに、アモルファス化及び結晶化が好適になされる。さらに、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層の結晶化において、厚みが300〜660nmとされたアモルファス層に対して紫外線パルスレーザ光を照射して結晶化を行っているので、結晶性を十分に向上しやすく、かつ、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層へのクラックも生じ難い。ここで、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層の結晶化において、300nm未満とされたアモルファス層に対して紫外線パルスレーザ光により結晶化を行うと、結晶化が十分でない。この理由は必ずしも明らかではないが、アモルファス層が薄いと、レーザ光により与えられる熱が、熱伝導性の高い(例えば、300Kにおいて100W/K・m以上である)Cu等の金属層へ容易に伝導されてしまい、加熱されたBa及びTi含有酸化物の膜が急冷されることによりアモルファス化してしまうと考えられる。一方、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層の結晶化において、600nm超とされたアモルファス層を形成してこれに対して紫外線パルスレーザ光を照射しようとすると、アモルファス層自体にクラックが高確率で生じる。この理由は明らかではないが、アモルファス層が厚くなると、アモルファス化の際の膜厚減少に伴う面内応力発生によって、クラックが生じやすくなると考えられる。
【0008】
ここで、アモルファス層形成工程における上記紫外線パルスレーザ光の照射を、1パルスあたり1〜40mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射した後に、1パルスあたり40〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射することにより行うことが好ましい。
【0009】
Ba及びTi含有酸化物の前駆体をアモルファス化する際において、1パルスあたりのレーザ光の照射フルエンスを段階的に増加させると、アモルファス層形成初期において与えるエネルギーを低くでき、熱分解時のガスの大量発生による層の損傷等を抑制しやすくなる一方、アモルファス層形成後期において与えるエネルギーを高くでき、未分解の前駆体成分を少なくすることができる。
【0010】
また、結晶化されたBa及びTi含有酸化物は、高い誘電特性をもつとされるAサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブスカイト構造酸化物であることが好ましい。
【0011】
これにより、優れた誘電特性を有するチタン酸バリウム又はチタン酸バリウムストロンチウムが電極としての金属層上に直接形成された誘電体素子を製造することができる。
【0012】
また、金属層はCu層であることが好ましい。
【0013】
これにより、酸化されやすい金属であるCu層上に直接形成された誘電体素子を製造することができる。
【0014】
さらに、アモルファス層形成工程における上記紫外線パルスレーザ光の照射は、基板を0〜150℃に維持した状態で行われ、結晶化工程における上記紫外線パルスレーザ光の照射は、基板を0〜150℃に維持した状態で行われることが好ましい。
【0015】
アモルファス層形成工程における紫外線パルスレーザ光の照射を、0〜150℃とされたBa及びTi含有酸化物の前駆体層に対して行い、結晶化工程における紫外線パルスレーザ光の照射を0〜150℃とされたBa及びTi含有酸化物のアモルファス層に対して行うことにより、より確実にアモルファス化や結晶化ができる。
【0016】
結晶化工程の後、さらに、レーザ照射処理工程、又は、金属層が酸化しない程度の温度での加熱処理工程をおこなってもよい。これにより、誘電体素子の電気特性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化雰囲気中でアモルファス化や結晶化を実施しても、金属層の酸化が生じ難く、かつ、結晶性がよく、かつ、クラックの発生し難いBa及びTi含有酸化物層の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図1〜図4を参照しつつ、本実施形態に係るBa及びTi含有酸化物層の製造方法について説明する。
【0019】
(基板)
まず、Cu層(金属層)14を表面に有する基板10を用意する。基板10としては、例えば下地層のないCu層14の単層でもよいが、Cu層の結晶配向性を確保すべく下地基材15の表面にCu層14が形成された多層構造であることが好ましい。下地基材15は特に限定されないが、例えば、Si,GaAs,GaP,InP,SiC等の半導体基板、SiO,Al,MgO,SrTiO等の酸化物基板、Cu,Ni,Fe等の金属基板、又はそれらを主とする合金、LTCC(Low Temperature Co−fired Ceramics)、アルミナ等のセラミックス基板、ガラスエポキシ樹脂基板(例えば、FR4)等の有機基板、PETフィルム等が挙げられる。
【0020】
また、このような基板に、MgO,ITO,ZnO,SnO等の金属酸化物層、Au,Pt,Ag,Ir,Ru,Co,Ni,Fe,Cr,Al等の金属層等の下地層を1層
又は複数層形成した下地基材15も使用できる。これらの下地基材は、基板自体の酸化や、スパッタ法等により容易に形成できる。
【0021】
特に、下地基材15としては、例えば、図1に示すように、例えば0.1〜5mm程度のSi等の半導体基板11上に、バッファ層として、例えば5〜2000nm程度のSiO等の金属酸化物層12及び1〜100nm程度のCr等の金属層13をこの順に積層したものが好ましい。これにより、さらにその上に形成されるCu層14と、金属酸化物層12との密着性を向上させることができる。
【0022】
SiO層は、Si基板を酸化性雰囲気中で高温にすることにより形成できる。また、Cr層はスパッタ等により形成できる。
【0023】
続いて、下地基材15の表面に、Cu層14を形成する。例えば、上述の下地基材15の表面に、スパッタ法等により、例えば0.01〜30μm程度のCu層を形成する。
【0024】
(前駆体形成)
続いて、基板10のCu層14上にBa及びTi含有酸化物の前駆体層20Aをいわゆる化学溶液法によって形成する。化学溶液法は、金属アルコキシド、有機酸金属塩や無機金属塩等を含む溶液、すなわちBa及びTi含有酸化物の前駆体の原料となる金属化合物を含む溶液を、例えば、スピンコート法等によってCu層14上に塗布し、例えば100℃以下のオーブン等により乾燥して溶媒を蒸発させ、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aを形成する。
【0025】
前駆体の原料となる金属化合物としては、金属アルコキシド(例えば、Ti(OC、Ba(OC、Zr(OC、Sr(OC等)、有機酸金属塩(例えば、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸ジルコニル、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム等、ラウリン酸塩、アセチルアセトナート等)等が挙げられ、無機金属塩としては、金属硝酸塩(例えば、Ba(NO)、Sr(NO))、金属酢酸塩(例えば、Ba(CHCOO)・HO)、金属炭酸塩(BaCO、SrCO)等が挙げられる。
【0026】
これらの金属化合物を、溶媒に混合して溶液を形成し、形成したいBa及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物の組成に応じて各溶液を混合し、その混合溶液を、例えばCu層上に塗布すればよい。溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコール、トルエン、キシレン等が挙げられる。そして、Cu層上に塗布した混合溶液を乾燥させ、加水分解や縮合等を行わせることにより、前駆体層を形成する。Ba及びTiを含むペロブスカイト構造酸化物としては、BaTiO,BaSr1−xTiO,(Ba,Zr)TiO,Ba(Ti,Zr)O,Ba(Ti,Sn)O等のAサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブスカイト構造酸化物が挙げられるが、特に、Ba及びTiを含む金属化合物を用い、BaTiO,BaSr1−xTiO、およびそれらを主成分とする金属酸化物を形成することが好ましい。
【0027】
Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの厚みは特に限定されないが、100〜5000nmとすることが好ましい。
【0028】
(アモルファス化)
続いて、図2に示すように、このBa及びTi含有酸化物の前駆体層20Aに対して、紫外線パルスレーザ光を照射する。これにより、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aが分解され、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bが形成する。紫外線パルスレーザ光の波長は、例えば、100〜500nm、好ましくは、100〜400nmである。具体的には、紫外線パルスレーザ光として、ArF(193nm)、XeCl(308nm)、KrF(248nm)等を媒質として用いるエキシマレーザ光を用いることが好ましい。また、アモルファス化工程において、紫外線パルスレーザ光の1パルスあたりの照射フルエンスを、1〜100mJ/cmとする。紫外線パルスレーザ光の1パルスあたりの照射フルエンスは、10〜90mJ/cmであることがより好ましい。1パルスあたりの照射フルエンスが、1mJ/cmよりも小さい場合、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aを分解して酸化物にすることが難しく、100mJ/cmよりも大きい場合、アモルファス層を形成するにはエネルギーが大きすぎて、層が損傷する傾向がある。また、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの各場所に対して照射する総パルス数は例えば、5〜50000とすることができる。
【0029】
特に、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aに対して行なう紫外線パルスレーザ光の照射は、1パルスあたり1〜40mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射した後、1パルスあたり40〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射すること組み合わせて行うことが好ましい。Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層の形成工程において、1パルスあたりのレーザ光の照射フルエンスを段階的に変化させることにより、アモルファス層形成初期において与えるエネルギーを低くでき、熱分解時のガスの大量発生による層の損傷等を抑制しやすくなる一方、アモルファス層形成後期において与えるエネルギーを高くでき、未分解の前駆体成分を少なくすることができる。
【0030】
特に、1パルスあたり1〜30mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射した後、1パルスあたり20〜40mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射し、さらにその後、1パルスあたり40〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射することが好ましい。また、このように1パルスあたりの紫外線パルスレーザ光の照射フルエンスを段階的に変化させて照射する代わりに、紫外線パルスレーザ光の1パルスあたりの照射フルエンスを連続的に増加させてもよい。
【0031】
また、パルス周波数(1秒間に照射するパルスの数)は1〜400Hz程度とすることが好ましく、10〜300Hz程度とすることがより好ましい。なお、1パルスの照射時間は、例えば、1〜100nsとすることができる。
【0032】
また、ここで、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの温度を0〜150℃にした状態で紫外線パルスレーザ光を照射することが好ましい。150℃よりも十分に高い温度にBa及びTi含有酸化物の前駆体層20Aを維持すると、紫外線パルスレーザ光の照射フルエンスの程度に関わらず、Cu層14の酸化を生じ易い傾向がある。一方、0℃未満では、熱分解が起こり難い傾向がある。
【0033】
このような温度にするためには、具体的には、例えば、図2のような装置を用いてアモルファス化をすることができる。すなわち、加熱ステージ110上に基板10及びBa及びTi含有酸化物の前駆体層20Aを載せ、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aを0〜150℃にし、このBa及びTi含有酸化物の前駆体層20Aに対してレーザ光源200からレーザ光を照射すればよい。
【0034】
また、アモルファス化工程における雰囲気は特に限定されず、還元雰囲気、不活性雰囲気、酸化雰囲気のいずれであってもよいが、酸素原子の不足による誘電損失の増大等の酸化物層の電気特性への影響を抑制すべく、酸化雰囲気で行うことが好ましく、特に、大気等の酸素を含有する雰囲気で行うことが好ましい。
【0035】
このようにして、所定の厚みのBa及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bが形成する。通常、このような、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの形成、及び、当該前駆体層20Aへの紫外線パルスレーザの照射の組合わせによるBa及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bの形成を複数回繰り返すことにより、図3に示すように、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bの複数の積層体からなり、全体厚みが300〜660nmであるBa及びTi含有酸化物のアモルファス層20CをCu層上に形成する。なお、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの形成及びレーザ照射の組合わせの繰り返し回数は、主として、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの形成厚みに依存し、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの形成厚みが小さくなるほど多くなるが、1〜8回程度が好ましい。なお、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの形成厚みが十分厚い場合には、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aの形成及びレーザ照射の組合わせを1回のみ行っても良い。
【0036】
(結晶化)
続いて、この厚みが300〜660nmとされたBa及びTi含有酸化物のアモルファス層20Cに対して、図4に示すように、さらに照射フルエンスの高い紫外線パルスレーザ光を照射し、Ba及びTi含有酸化物の結晶化層20Dを形成する。紫外線パルスレーザ光の波長は、上述のアモルファス層形成工程で用いたレーザ光と同様であり、エキシマレーザが好ましい。1パルスあたりの照射フルエンスは、60〜400mJ/cmとし、特に、75〜300mJ/cmであることが好ましい。1パルスあたりの照射フルエンスが、60mJ/cmよりも小さい場合、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Cの結晶化を行なうのに十分なエネルギーが得られないため、アモルファス相から結晶相へと転移させることが難しい傾向にあり、400mJ/cmよりも十分大きい場合、熱エネルギーが大きすぎて、過剰な熱がCu層へ伝導されるため、Cuが酸化され易い傾向にある。
【0037】
また、パルス周波数(1秒間に照射するパルスの数)は1〜400Hz程度とすることが好ましく、10〜300Hz程度とすることがより好ましい。なお、1パルスの照射時間は、例えば、1〜100nsとすることができる。また、Ba及びTi含有酸化物層の各場所に対して照射する総パルス数は例えば、1〜5000とすることができる。
【0038】
また、上述したアモルファス層の形成工程と同様に、レーザを照射する際のBa及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bの温度を0〜150℃にした状態で紫外線パルスレーザ光を照射することが好ましい。
【0039】
また、結晶化工程における雰囲気は特に限定されず、還元雰囲気、不活性雰囲気、酸化雰囲気のいずれであってもよいが、酸素原子の不足による誘電損失の増大等の酸化物層の電気特性への影響を抑制すべく、酸化雰囲気で行うことが好ましく、特に、大気等の酸素を含有する雰囲気で行うことが好ましい。
【0040】
なお、十分に厚いBa及びTi含有酸化物の結晶化層を得る場合には、上述の前駆体形成、アモルファス化、及び、結晶化工程を更に複数回繰り返すことにより、より厚いBa及びTi含有酸化物の結晶層をCu上に得ることもできる。
【0041】
さらに、Ba及びTi含有酸化物の結晶化層に対して、レーザ照射処理、あるいは、Cu層が酸化しない程度の温度での加熱処理を行ってもよい。レーザ照射処理としては、エキシマレーザによる照射処理を用いるのが好ましい。これにより、誘電体素子の電気特性をより向上させることができる。
【0042】
本実施形態によれば、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aのアモルファス化と、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bの結晶化とを、いずれも紫外線パルスレーザ光の照射により行っている。これにより、レーザ照射前にBa及びTi含有酸化物層の前駆体層20Aやアモルファス層20Bを300℃以上の高温に維持する必要は無いので、Cu層14が高温に晒され難くなり、Cu層14の酸化が抑制される。従って、還元雰囲気中でアモルファス化や結晶化を行う必要が無くなり、酸化雰囲気中で処理することができる。さらに、Ba及びTi含有酸化物の前駆体層20Aをアモルファス化する際に必要なパルスレーザ光の照射フルエンス(単位面積当たりのエネルギー)は、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bを結晶化する際に必要なパルスレーザ光の照射フルエンスよりも低くてよく、これらを別工程で行うことにより、それぞれの工程において適切な照射フルエンスでの照射が可能となり、Cu層14の過度な温度上昇をより抑制できるとともに、アモルファス化及び結晶化が好適になされる。さらに、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Bの結晶化において、300〜660nmとされたアモルファス層20Cに対して紫外線パルスレーザ光を照射して結晶化を行っているので、結晶性を十分に向上しやすく、かつ、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Cへのクラックも生じ難い。
【0043】
ここで、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Cの結晶化において、厚みが300nm未満とされたアモルファス層20Cに対して紫外線パルスレーザ光により結晶化を行うと、結晶化が十分でない。この理由は必ずしも明らかではないが、アモルファス層20Cが薄いと、レーザ光により与えられる熱が、熱伝導性の高いCu層14へ容易に伝導されてしまい、アモルファス層20Cの温度が急上昇した後に急冷されてアモルファス化する一方、Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層20Cの結晶化において、600nm超とされたアモルファス層20Cを形成してこれに対して紫外線パルスレーザ光を照射しようとすると、アモルファス層20C自体にクラックが高確率で生じる。この理由は明らかではないが、アモルファス層20Cが厚くなると、アモルファス層20Cに種々の応力が働きやすくなり、クラックが生じやすくなると考えられる。
【0044】
上述のような製造方法によって得られたBa及びTi含有酸化物の結晶化層20Dは、高い結晶性を有するので、例えば、薄膜コンデンサ素子等に好適に用いることができる。特に、このようなBa及びTi含有酸化物の結晶化層20Dの上にさらにCu層等の導電層を形成し、Ba及びTi含有酸化物の結晶化層20Dを一対のCu層(電極層)14で挟んだ構造の積層体を有する電子デバイスは、薄膜コンデンサに限られず、FeRAM、チューナブルフィルタ等のデバイスにも使用可能である。
【実施例】
【0045】
次に、具体的な実施例を示し更に詳細に本願発明について説明する。なお、本願発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
まず、表面に酸化層が500nm形成された多結晶のSi基板上にスパッタ法により、Cr層を5nm形成し、さらに、Cr層上にスパッタ法によりCu層を100nm形成することにより、基板10を製造した。続いて、チタン及びバリウムをそれぞれ含有し、BT相当にして7wt%含むチタン酸バリウム層形成用の原料溶液(三菱マテリアル社製BST薄膜形成剤)を、スピンコータ(3000rpm、15sec)でCu層上に塗布し、ホットプレート上で100℃5分間乾燥させた。
【0047】
続いて、ホットプレート上で基板10の温度を100℃に維持しながら、KrとFガスを媒質とする波長248nmのエキシマレーザ源から、1パルスあたりの照射フルエンスが20mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を、合計パルス数が5000、パルス周波数(1秒間に照射されるパルスの数)が30Hzとなるように各場所に照射した。その後、さらに、1パルスあたりの照射フルエンスが30mJ/cm、合計パルス数が5000、パルス周波数が30Hzとなるように紫外線パルスレーザを各場所に照射した。さらに、その後、1パルスあたりの照射フルエンスが50mJ/cm、合計パルス数が5000、パルス周波数が30Hzとなるように紫外線パルスレーザを各場所に照射した。これにより、厚み120nm程度のチタン酸バリウムのアモルファス層20BをCu層上に形成した。
【0048】
さらに、同様のチタン酸バリウムの前駆体層の形成、及び、レーザ照射の組合わせによるアモルファス化の工程をさらに2回追加して合計3回行い、厚み120nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20Bを3層積層してなる厚み360nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20CをCu層上に形成した。
【0049】
続いて、ホットプレート上で基板10の温度を100℃に維持しながら、アモルファス化工程と同じレーザ光源を用い、1パルスあたりの照射フルエンスが110mJ/cm、合計パルス数が1000、パルス周波数が5Hzとなるように紫外線パルスレーザをチタン酸バリウムのアモルファス層の各場所に照射して、結晶化を行い、その後チタン酸バリウムの結晶化層20Dを常温に戻した。なお、この工程は、常温常圧の大気中にて行った。
【0050】
(実施例2)
チタン酸バリウムの前駆体層の形成、及び、レーザ照射によるアモルファス化の工程を合計5回行い、厚み120nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20Bを5層積層してなる厚み600nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20CをCu層上に形成した以外は実施例1と同様にした。
【0051】
(比較例1)
チタン酸バリウムの前駆体層の形成、及び、レーザ照射によるアモルファス化の工程を合計1回のみ行い、厚み120nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20Bを1層積層してなる厚み120nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20CをCu層上に形成した以外は実施例1と同様にした。
【0052】
(比較例2)
チタン酸バリウムの前駆体層の形成、及び、レーザ照射によるアモルファス化の工程を合計7回行い、厚み120nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20Bを7層積層してなる厚み840nmのチタン酸バリウムのアモルファス層20CをCu層上に形成した以外は実施例1と同様にした。
【0053】
(比較例3)
結晶化をするための照射フルエンスが110mJ/cmのレーザ照射を行わない以外は比較例1と同様にした。
【0054】
これらの条件と得られたチタン酸バリウム層のXRD結果とを、表1に示す。また、実施例1、2、比較例1、3のチタン酸バリウムのXRDパターンを図5に示す。
【0055】
実施例1及び2では、XRDパターンにBaTiOのピークが見られ、結晶化が良好に行われた。一方、比較例1、3では、XRDパターンにBaTiOのピークが見られなかった。また、比較例2では、チタン酸バリウムの7層目の前駆体にレーザ光を照射してアモルファス化した後、クラックが生じた。
【0056】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るBa及びTi含有酸化物層の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るBa及びTi含有酸化物層の製造方法を説明するための図1に続く概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係るBa及びTi含有酸化物層の製造方法を説明するための図2に続く概略断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係るBa及びTi含有酸化物層の製造方法を説明するための図3に続く概略断面図である。
【図5】図5は、実施例1〜4におけるチタン酸バリウムのX線回折チャートである。
【符号の説明】
【0058】
10…基板、20A…Ba及びTi含有酸化物の前駆体層、20B、C…Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層、20D…Ba及びTi含有酸化物の結晶化層、14…Cu層(金属層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層を金属層上に形成するアモルファス層形成工程と、
前記Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層を結晶化する結晶化工程と、
を備え、
前記アモルファス層形成工程では、前記Ba及びTi含有酸化物の前駆体層を形成すること、及び、前記Ba及びTi含有酸化物の前駆体層に1パルスあたり1〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射することの組合わせを1回行う又は複数回繰り返し行うことにより厚みが300〜660nmの前記Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層を形成し、
前記結晶化工程では、前記Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層に1パルスあたり60〜400mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射する酸化物層の製造方法。
【請求項2】
前記アモルファス層形成工程における前記紫外線パルスレーザ光の照射を、1パルスあたり1〜40mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射した後に、1パルスあたり40〜100mJ/cmの紫外線パルスレーザ光を照射することにより行う請求項1記載の酸化物層の製造方法。
【請求項3】
結晶化された前記Ba及びTi含有酸化物はAサイトにBa、BサイトにTiを含むABO型ペロブスカイト構造酸化物である請求項1又は2に記載の酸化物層の製造方法。
【請求項4】
前記金属層はCu層である請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物層の製造方法。
【請求項5】
前記アモルファス層形成工程における前記紫外線パルスレーザ光の照射を、0〜150℃とされた前記Ba及びTi含有酸化物の前駆体層に対して行い、
前記結晶化工程における前記紫外線パルスレーザ光の照射を、0〜150℃とされた前記Ba及びTi含有酸化物のアモルファス層に対して行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化物層の製造方法。
【請求項6】
前記結晶化工程の後、さらに、レーザ照射処理工程、又は、前記金属層が酸化しない温度での加熱処理工程を備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化物層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−242900(P2009−242900A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92685(P2008−92685)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】