説明

金型加工装置

【課題】 主軸の高速回転が可能で、高回転精度、高静剛性・動剛性を有し、高能率で高精度な加工が行える金型加工装置を提供する。
【解決手段】 工具11を回転させるスピンドル装置1の主軸4を、静圧磁気複合軸受6〜9で支持し、次の手段を設ける。静圧磁気複合軸受6〜9の励磁電流を検出する電流検出手段15〜18と、その電流検出値から加工状態を把握する加工状態把握手段19を設ける。外部指令応答オンオフ手段20を設け、静圧磁気複合軸受6〜9は、外部の指令で静圧気体軸受部のみによる支持を可能とする。ハウジング5の温度を測定する手段76と、温度測定対応出力手段77とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形金型の切削加工や研削加工等に用いられる金型加工装置、特にそのスピンドル装置に静圧磁気複合軸受を備えた金型加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、金型加工において、高能率で高精度な加工が注目されている。このような加工を実現するためには、高速回転が可能で、高回転精度を有し、静剛性・動剛性の高いスピンドル装置が必要であり、さらに加工状態を検出しながら、最適な加工条件で加工することが要求される。
しかし、スピンドル装置に装備される軸受の機能の限界などから、このような要求を満足することができなかった。
一方、本出願人は、一般の高速切削加工に用いるスピンドル装置として、静圧気体軸受と磁気軸受とを複合化したハイブリッド型の非接触軸受を用いるものを提案した(特願平10−097505号など)。これによれば、静圧気体軸受の優れた動剛性および回転精度と、磁気軸受の優れた静剛性という両軸受の特長を生かした軸受とできる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、金型加工機において、このような静圧気体軸受と磁気軸受とを複合化した静圧磁気複合軸受で主軸を支持し、上記のような各種の要求に対応しようとするものである。加工状態の検出のための加工負荷の測定は、一般的には、主軸回転のためのモータ出力の測定値から、加工時の負荷を推測する方式が採られる。
しかし、このような静圧磁気複合軸受を用い、また加工条件を制御する金型加工装置においても、さらに、次のような未解決の課題がある。
1)モータ出力測定値から加工時の負荷を推測する方式では、加工状態検出のために専用の測定機器を必要とし、システムコストがかかる。
2)モータ出力測定値から加工状態を検出する方式では、主軸の回転周波数に関係する加工状態の検出が行えない。
3)静圧磁気複合軸受は、静圧気体軸受と磁気軸受の両方の特性を持つ。そのため、磁気軸受用センサの分解能が低い場合には、主軸の回転精度はこの分解能によって決まり、静圧気体軸受の持つ高回転精度を十分に生かすことができない。
4)静圧磁気複合軸受スピンドル装置を高速回転させると、静圧気体軸受部での損失(風損)によって、主軸およびハウジングの温度が上昇し、これらの温度上昇に伴う軸方向熱膨張量から、スピンドル装置先端の工具のアキシアル位置が変化する。このため、高精度な加工が困難になる。
【0004】
この発明の目的は、主軸の高速回転が可能で、高回転精度、高静剛性・動剛性を有し、高能率で高精度な加工が行える金型加工装置を提供することである。
この発明の他の目的は、加工中の加工状態の検出を可能としながら、高価な負荷測定用装置を設けることを不要とし、低コスト化を図ることである。
この発明のさらに他の目的は、主軸の静負荷の検出を可能とすることである。 この発明のさらに他の目的は、主軸の回転周波数に関係する加工状態の検出を簡単な構成で可能とすることである。
この発明のさらに他の目的は、所望の加工条件に応じた最適な軸受設定が随時行えて、静圧磁気複合軸受の機能を効果的に発揮させ、より一層の高回転精度が得られるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、加工の進行に伴って変化する加工条件に応じ、迅速に最適な軸受設定を可能とすることである。
この発明のさらに他の目的は、粗加工時には高能率化が図れ、仕上げ加工時には高精度化が図れて、高能率、高精度の加工を実現可能とすることである。
この発明のさらに他の目的は、静圧気体軸受での風損等によりハウジング等の温度が変化しても、高精度に加工可能とすることである。
この発明のさらに他の目的は、ハウジング温度の上昇等の異常時に、その異常が容易に認識できて、至急に対処が図れるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、遠隔地で加工状態の監視や制御を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の構成を、実施形態に対応する図1と共に説明する。この発明の金型加工装置は、工具(11)を回転させるスピンドル装置(1)を備えた金型加工装置において、前記スピンドル装置(1)を、静圧気体軸受(6A〜9A)と磁気軸受(6B〜9B)とが複合化された静圧磁気複合軸受(6〜9)で主軸(1)を支持した構成を基本とする。これによれば、静圧気体軸受(6A〜9A)の優れた動剛性および回転精度と、磁気軸受(6B〜9B)の優れた静剛性という両軸受の特長を生かした軸受構造となり、主軸(1)の高速回転が可能で、高回転精度、高静剛性・動剛性を有し、高能率で高精度な加工が行える。
この発明の展開発明である次の第1〜第4の発明は、上記構成を基本とし、かつ次のいずれかの事項を設けたものである。
この発明における第1の発明の金型加工装置は、前記磁気軸受(6B〜9B)の励磁電流を検出する電流検出手段(15〜18)と、この電流検出手段(15〜18)の電流検出値から前記工具(11)による加工状態を把握する加工状態把握手段(19)とを備えたものである。
この構成によると、静圧磁気複合軸受(6〜9)における磁気軸受(6B〜9B)の励磁電流の電流検出値から、加工状態把握手段(19)により加工状態が把握できる。すなわち、加工中に工具(11)に作用する負荷で、主軸(4)がラジアル方向などに変位しようとすると、この変位を復元させるように、磁気軸受(6B〜9B)の励磁電流が磁気軸受(6B〜9B)の持つ制御機能により変化する。そのため、励磁電流から、例えば工具摩耗,工具損傷や、加工不良等の加工状態が把握できる。このように加工状態把握手段(19)を設けたため、静圧磁気複合軸受(6〜9)の高機能、すなわち高速回転が可能で、高回転精度、高静剛性・動剛性を有するという機能と相まって、加工状態を検出しながら、最適な加工条件で加工することが可能となり、静圧磁気複合軸受(6〜9)の特長を生かした高能率でより一層高精度な加工が行える。しかも、検出器類は、磁気軸受(6B〜9B)の励磁電流の電流検出手段(15〜18)を設けるだけで良く、外部に負荷測定用装置を設けることが不要であり、またモータの電流を検出するものに比べて、簡単なもので済み、低コストにできる。
【0006】
第1の発明において、加工状態把握手段(19)は、電流検出手段(15〜18)の電流検出値を平滑化する電流平滑部と、この電流平滑部の平滑値出力から主軸の静負荷を換算し、その静負荷換算結果から加工状態を把握する加工状態把握部とを有するものとしても良い。
このように、静負荷換算結果から加工状態を把握することで、微小時間に生じる負荷変動や外乱に左右されずに、制御に必要な加工状態の把握が、簡単に精度良く行える。
【0007】
この発明の第2の発明の金型加工装置は、主軸(4)の変位を検出する変位検出手段(28,38)と、この変位検出手段(28,38)の変位検出値から工具(11)による加工状態を把握する加工状態把握手段(19)とを備えたものである。
加工中に工具(11)に作用する負荷で主軸(4)が変位を生じると、変位検出手段(28,38)でその変位が検出される。そのため、この変位検出値から加工状態が把握できる。したがって、上記の加工状態把握手段(19)を設けることで、静圧磁気複合軸受(6〜9)における、高速回転が可能で、高回転精度、高静剛性・動剛性を有するという機能と相まって、加工状態を検出しながら、最適な加工条件で加工することが可能となり、静圧磁気複合軸受(6〜9)の特長を生かした高能率でより一層高精度な加工が行える。しかも変位検出手段(28,38)は、磁気軸受(6B〜9B)の制御のために磁気軸受(6B〜9B)に一般に設けられる検出手段であるため、専用の検出手段を設けることなく、加工状態の把握が行え、低コストで加工精度の向上が図れる。
【0008】
上記第1,第2の発明において、加工状態把握手段(19)は、電流検出手段(15〜18)または変位検出手段(28,38)の出力を周波数分析する周波数分析部と、この周波数分析部から出力される加工時の各周波数成分の振幅から加工状態を把握する加工状態把握部とを有するものとしても良い。
工具や、ワーク、加工装置の固有振動、あるいは主軸回転数などから、工具に作用する負荷は工具の振動として表れ、工具損傷等の加工状態は、その工具損傷,加工不良の種類等によって振動周波数に特有の傾向を示す。そのため、周波数分析部を設け、加工時の各周波数成分の振幅から加工状態を把握する加工状態把握部を設けることで、各周波数成分の平均化された負荷の検出では観測できない精度の良い加工状態の検出ができる。また、周波数分析を行うため、周波数フィルタに比べて簡単な構成で多数の周波数帯の分析が可能となる。
【0009】
この発明における第3の発明の金型加工装置は、前記静圧磁気複合軸受(6〜9)を制御するスピンドルコントローラ(3)を備え、このスピンドルコントローラ(3)の外部の指令によって磁気軸受(6B〜9B)の励磁をオンオフする外部指令応答オンオフ手段(20)を設けたものである。
磁気軸受(6B〜9B)をオフした場合は、静圧磁気複合軸受(6〜9)における静圧気体軸受(6A〜9A)のみで主軸(4)が支持され、磁気軸受(6B〜9B)をオンした場合は、静圧気体軸受(6A〜9A)と磁気軸受(6B〜9B)との両方で主軸(4)が支持される。両軸受(6A〜9A,6B〜9B)による支持と、静圧気体軸受(6A〜9A)のみによる支持は、スピンドルコントローラ(3)の外部からの指令で切換られる。そのため、所望の加工条件に応じた最適な軸受設定が随時行えて、静圧磁気複合軸受(6〜9)の機能を効果的に発揮させ、より一層の高回転精度が得られる。
【0010】
励磁オンオフの外部の指令は、金型加工装置機械部(13a)を制御する数値制御装置(14)から与えられる指令であっても良い。このように数値制御装置(14)から励磁オンオフ指令を与えるようにすることで、加工の進行に伴って変化する加工条件に応じ、迅速に最適な軸受設定が可能になる。
【0011】
励磁オンオフの外部の指令は、粗加工時に磁気軸受をオンとし、仕上げ加工時に磁気軸受をオフとする指令であっても良い。
これにより、粗加工時には高能率化が図れ、仕上げ加工時には高精度化が図れて、高能率、高精度の加工を実現できる。すなわち、一般に、高能率で高精度な加工は、粗加工と仕上げ加工の2段階で行われる。粗加工では、単位時間当たりの被削材除去量を大きくして高能率化を狙い、仕上げ加工では逆にこの除去量を小さくして高精度を狙う。そのため、粗加工時には主軸への負荷が大きくなり、主軸性能として剛性・負荷容量が必要であり、仕上げ加工では高回転精度が必要である。上記のように励磁のオンオフを行うことで、このような加工種類による要求に応じることができる。
【0012】
この発明における第4の発明の金型加工装置は、スピンドルハウジング(5)の温度測定手段(76)と、この温度測定手段(76)の温度測定値から所定の出力を求める温度測定対応出力手段(77)と、この手段(77)の出力から所定の処理を行う温度対応処理手段(100)とを設けたものである。
温度測定対応出力手段(77)の前記所定の出力は、
次の1)〜3)、すなわち、
1).前記温度測定手段(76)の出力(つまり温度測定値)、
2).前記温度測定手段(76)の温度測定値を、所定の熱変位演算により主軸先端若しくは工具(11)の先端のアキシアル位置に換算した換算値、および
3).前記温度測定値若しくは前記換算値を設定値と比較して求められた異常信号、
のうちの少なくとも一つである。
前記換算値は、位置データとして取扱可能な値であれば良く、実際の位置データに対して比例した値や、基準位置からの変位量を示す値であっても良い。
この構成の場合、静圧気体軸受の損失(風損)等による発熱でスピンドル装置(1)の温度が上昇しても、温度測定対応出力手段(77)から出力される温度測定値や、熱変位演算されたアキシアル位置の換算値により、送り量を補正することができ、高精度にワークを加工することができる。温度測定対応出力手段(77)の出力が異常信号である場合は、ハウジング温度の過度の上昇などのスピンドル異常時に、その異常信号を外部で検出してスピンドル装置(1)を停止するなどの適宜の処理が迅速に行える。
【0013】
この発明において、前記主軸(4)の設置されたハウジング(5)を冷却する冷却手段(71)を設け、前記温度測定対応出力手段(77)の出力に応答して前記冷却手段(71)(実施形態に対応する図16参照)の冷却動作を制御する冷却制御手段(82)を設けても良い。
このように温度測定結果に応じた出力で冷却手段(71)を制御することで、ハウジング(5)の適正な冷却が簡単に行える。
【0014】
この発明において、前記主軸(4)の設置されたハウジング(5)を主軸(4)の軸方向に移動させるスピンドル位置決め機構(75)を設け、前記温度測定対応出力手段(77)から出力される温度測定値または前記換算値に応じて前記スピンドル位置決め機構を制御する温度補正手段(83)を設けても良い。
このようにスピンドル位置決め機構(75)を設けた場合に、温度測定値やその換算値で主軸位置を温度補正制御することにより、高精度にワークを加工することができる。
【0015】
この発明において、主軸(4)を回転させる回転駆動源(10)を、主軸(1)の設置されたハウジング(5)に内蔵したモータとしても良い。
【0016】
この発明において、加工状態把握手段(19)の把握内容を通信回線(87)で遠隔地に送信する通信手段(86)を設けても良い。
このように通信回線(87)による通信機能を持たせることで、遠隔地で工具の負荷や加工状態を把握することができ、遠隔地で多数の金型加工装置のスピンドル装置を集中管理することが可能になる。
また、この発明において、温度測定対応出力手段(77)の出力を通信回線(87)で遠隔地に送信する通信手段(86)を設けても良い。
これにより、遠隔地でハウジング(5)の温度やその温度変化に伴う熱変位状態を把握することができ、遠隔地での集中管理が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の金型加工装置は、主軸の支持に静圧磁気複合軸受を用いたものであるため、主軸の高速回転が可能で、高回転精度、高静剛性・動剛性を有し、高能率で高精度な加工が行える。
静圧磁気複合軸受を用いると共に、上記の各手段を設けた場合は、より一層高能率で高精度な加工が行える。
静圧磁気複合軸受の磁気軸受の励磁電流を検出する電流検出手段と、この電流検出手段の電流検出値から工具による加工状態を把握する加工状態把握手段とを設けた場合は、外部に負荷測定用装置を設けることなく加工状態の把握が行え、最適な加工条件でより一層高精度な加工を行うことができる。
電流検出手段の電流検出値を平滑化する電流平滑部を設けた場合は、主軸の静負荷の検出が可能となる。
主軸の変位を検出する変位検出手段と、この変位検出手段の変位検出値から前記工具による加工状態を把握する加工状態把握手段とを設けた場合は、専用のセンサ類を設けることなく、加工状態の把握が可能となり、一層の低コスト化が図れる。
電流検出手段または変位検出手段の出力を周波数分析する周波数分析部を設けた場合は、主軸の回転周波数に関係する加工状態の検出が、簡単な構成で可能になる。
スピンドルコントローラの外部の指令によって磁気軸受の励磁をオンオフする外部指令応答オンオフ手段を設けた場合は、所望の加工条件に応じた最適な軸受設定が随時行えて、静圧磁気複合軸受の機能を効果的に発揮させ、より一層の高回転精度が得られる。
特に、励磁オンオフの指令を数値制御装置から与える場合は、加工の進行に伴って変化する加工条件に応じ、迅速に最適な軸受設定が可能になる。特に、粗加工時に磁気軸受をオンとし、仕上げ加工時に磁気軸受をオフとする場合は、粗加工時には高能率化が図れ、仕上げ加工時には高精度化が図れて、一層高能率、高精度の加工を実現できる。
スピンドルハウジングの温度測定手段と、その度測定値から所定の出力を求める温度測定対応出力手段とを設けた場合は、ハウジング等の温度が変化しても、高精度に金型を加工することができる。
温度測定値やその寸法換算値を設定値と比較して異常信号を求めるようにした場合は、ハウジング温度の異常上昇時等に、至急に対処することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。図18は、この金型加工装置の全体を示す概念図である。この金型加工装置は、工具11を回転させるスピンドル装置1と、金型に加工されるワークWを移動させるテーブル装置51とを備える。スピンドル装置1は、機構部分からなるスピンドル装置本体2と、これを制御するスピンドルコントローラ3とで構成される。スピンドル装置本体2とテーブル装置51とで、加工装置本体13aが構成され、加工装置本体13aは数値制御装置14により制御される。
スピンドル装置本体2は、テーブル装置51の対向位置で、基台52にガイド53およびスピンドル設置台74を介して進退自在に設置され、スピンドル位置決め機構75によりスピンドル軸方向(Z軸方向)に進退駆動される。テーブル装置51は、図19に示すようにワークWを載置するテーブル55を、スピンドル軸方向(Z軸)に対して垂直な直交する2軸方向(X,Y方向)に移動自在に設けたものであり、各方向のテーブル駆動装置56,57の駆動によって進退移動する。テーブル55は、Y軸方向に移動可能な下段側テーブル55a上に、X軸方向に移動可能に上段側テーブル55bを設置した2段構造とされている。各軸のテーブル駆動装置56,57およびスピンドル位置決め機構75は、各々ボールねじおよびサーボモータで構成されている。この例では、スピンドル軸方向(Z軸)が鉛直方向に、テーブル装置51の移動方向(X,Y方向)が水平とされている。なお、スピンドル軸方向(Z軸)を水平方向や傾斜方向とし、これに対応してテーブル移動方向(X,Y方向)を鉛直面内の各方向としても良い。
【0019】
スピンドル装置1につき、まず、その本体2およびコントローラ3の概略を説明する。図1はスピンドル装置1の概念構成を示すブロック図である。
スピンドル装置本体2は、主軸4を、ハウジング5に設置された複数のラジアル型の静圧磁気複合軸受6,7とアキシアルの静圧磁気複合軸受8,9で支持し、スピンドル駆動源10を設けたものである。各々の静圧磁気複合軸受6〜9は、静圧気体軸受6A〜9Aと、磁気軸受6B〜9Bを複合させたものであり、スピンドルコントローラ3で制御される。主軸4は、先端に工具11を把持するチャック12を有している。
スピンドルコントローラ3は、静圧磁気複合軸受6〜9を構成する磁気軸受6B〜9Bの励磁電流を検出する電流検出手段15〜18と、この電流検出手段15〜18の電流検出値から工具11による加工状態を把握する加工状態把握手段19とを備える。また、スピンドルコントローラ3には、数値制御装置14等から送られる外部の指令によって磁気軸受6B〜9Bの励磁をオンオフする外部指令応答オンオフ手段20が設けられている。さらに、スピンドルコントローラ3には、ハウジング5に設けられた温度測定手段76の出力から所定の出力を求める温度測定対応出力手段77が設けられている。
【0020】
スピンドル装置本体2につき、図2〜図5と共に説明する。このスピンドル装置1は、加工装置13のビルトインモータ形式のスピンドル装置であって、スピンドル駆動源10は、各軸受6〜9の設置されたハウジング5内に設置されている。このモータからなるスピンドル駆動源10は、主軸4に一体に設けたられたロータ21と、ハウジング5に設置されたステータ22とで構成される。ハウジング5は略円筒状に形成されている。スピンドル駆動源10は、ビルトイン型とせずに、ハウジング5の外部に設けて伝達機構を介して主軸4に回転伝達するものであっても良い。
各軸受6〜9とスピンドル駆動源10の配置は、この例では、主軸4の前部(工具側部)および後部をラジアル型の静圧磁気複合軸受6,7で支持し、その中間をアキシアル型の静圧磁気複合軸受8,9で支持し、後端にスピンドル駆動源10を配置した構成としてある。上記配置に代えて、両ラジアル型軸受6,7の中間にスピンドル駆動源10を配置し、アキシアル型軸受8,9を主軸4の任意位置に配置しても良い。また、アキシアル型軸受8,9は、非接触軸受であれば良く、静圧磁気複合軸受に代えて、単独の磁気軸受または静圧気体軸受を用いても良い。
【0021】
ラジアル型の各静圧磁気複合軸受6,7は、互いに同じ構成のものであり、片方の軸受6につき、図3に横断面を示すと共に、図4に縦断面を拡大して示す。静圧磁気複合軸受6,7は、各々静圧気体軸受6A,7Aと磁気軸受6B,7Bとを複合化させたものである。この明細書で言う複合化とは、静圧および磁気の両形式の軸受を共通部分が生じるように組み合わせることを意味し、例えば、静圧気体軸受面と磁気軸受面とに共通部分(ラジアル軸受では軸方向の重なり部分)を生じさせるか、あるいは両形式の軸受に少なくとも一部の部品が共通化されるものであれば良い。
【0022】
この実施形態では、図4に示すように、磁気軸受6B,7Bの電磁石のコア23に、静圧気体軸受6A,7Aの絞り24aを設けることで、軸受構成部品の共通化と共に、軸受面の一部が軸方向に重なるようにしてある。コア23は、軸方向に離れた一対の主コア部23a,23aと、これら主コア部23a,23aを連結した連結コア部23bと、両主コア部23a,23aのスピンドル側端から対向して延びる延出部23c,23cとで、縦断面がC字状に形成されている。主コア部23aと延出部23cの内径側面は、主軸4と所定の磁気ギャップを形成する円筒面とされている。磁気軸受6B,7Bは、このコア23の連結コア部23bにコイル25を巻装したものである。コイル25は、樹脂材等の非磁性体26に埋め込まれている。
【0023】
静圧気体軸受6A,7Aは、コア23および非磁性体26の内径側面で形成されて主軸4との間に軸受隙間dを形成する静圧軸受面6Aa,7Aaと、コア23の各主コア部23a,23aに設けられて静圧軸受面6Aa,7Aaに開口する絞り24aとで構成される。絞り24aは、各主コア部23aの外径側面に開口した給気孔24の先端に設けられている。
図3に階段断面を示すように、コア23は、主軸4の回りの円周方向複数箇所(同図の例では4箇所)に配置されてハウジング5に固定されている。円周方向に隣合うコア23間の隙間は、樹脂材等の非磁性体27で埋められている。この非磁性体27は、コイル25の周囲の非磁性体26(図4)と一体のものであっても良い。
【0024】
磁気軸受6B,7Bは、主軸4とコア23との磁気ギャップの変位を検出する変位検出手段28を有している。この変位検出手段28は、変位量を直接に検出するものであっても良いが、この例では、静圧軸受隙間dの静圧を検出することで、その圧力検出値を変位量に換算して磁気ギャップの変位を検出するものとしてある。具体的には、変位検出手段28は、静圧軸受隙間dに先端が開口した圧力検出用の通気路28aと、この通気路28aに連通したセンサ28bとで構成される。センサ28bは、図2のようにコア23から軸方向に離れた位置に配置されている。通気路28aは、細孔またはパイプで形成されていて、静圧軸受隙間dにはコア23の延出部23c,23c間における非磁性体26の部分で開口している。図2は、図面を見易くするために絞り24aと通気路28aの開口位置を周方向にずらせて図示してあるが、実際は互いに周方向の同じ位置とされている。
【0025】
図5は、アキシアル型の静圧磁気複合軸受8,9の拡大図である。この一対の軸受8,9は、主軸4に設けられた鍔部4aの両面に対向してハウジング5内に設置されたものであり、互いに一つの両面式アキシアル型静圧気体軸受30を構成する。両側の静圧磁気複合軸受8,9は、互いに同じ構成のものである。これら静圧磁気複合軸受8,9は、各々静圧気体軸受8A,9Aと磁気軸受8B,9Bとを複合化させたものである。
この実施形態では、磁気軸受8B,9Bの電磁石のコア33に、静圧気体軸受8A,9Aの絞り34aを設けることで、軸受構成部品の共通化と共に、軸受面の一部が軸方向に重なるようにしてある。コア33は、スピンドル鍔部4aの対向面に開き部33dが生じるように、縦断面形状がC字状に形成され、その内部にコイル35が収められている。開き部33dは非磁性体で埋められている。コア33は、図示の例では断面L字状の内周コア部33aと外周コア部33bとの組立構成としてあるが、一体物であっても良い。コア33には軸方向に間座29が隣接している。
【0026】
アキシアル型の静圧気体軸受8A,9Aは、コア33の側面で形成されてスピンドル鍔部4aとの間に軸受隙間d2を形成する静圧軸受面8Aa,9Aaと、コア33に設けられて静圧軸受面8Aa,9Aaに開口する絞り34aとで構成される。絞り34aは、コア33の外径側面に開口した給気孔34の先端に設けられている。
【0027】
アキシアル型の磁気軸受8B,9Bは、スピンドル鍔部4aとコア33との磁気ギャップの変位を検出する変位検出手段38を有している。この変位検出手段38も、変位量を直接に検出するものであっても良いが、この例では、静圧軸受隙間d2の静圧を検出することで、その圧力検出値を変位量に換算して磁気ギャップの変位を検出するものとしてある。具体的には、変位検出手段38は、静圧軸受隙間d2に先端が開口した圧力検出用の通気路38aと、この通気路38aに連通したセンサ38b(図2)とで構成される。
【0028】
各静圧磁気複合軸受6〜9における静圧気体軸受6A〜9Aの給気孔24,24には、ハウジング5内に設けられた給気孔40の給気入口40aから、圧縮空気またはその他の圧縮気体が供給される。
【0029】
制御系につき説明する。図1に示すように、スピンドルコントローラ3は、そのコントローラ基本部3aに、電源41、電磁石用パワー回路42、および制御手段43を有する。電磁石用パワー回路42は、電源41から供給された電流を、制御手段43の制御に従って、各静圧磁気複合軸受6〜9の磁気軸受6B〜9Bに励磁電流として与える手段であり、電流増幅回路等で構成される。制御手段43は、各静圧磁気複合軸受6〜9における変位検出手段28,38の検出値に応じて、主軸4の変位が復元するように、各磁気軸受6B〜9Bの励磁電流を制御する手段である。制御手段43は、具体的には、例えば、変位検出手段28,38の検出値を積分回路または比例積分回路で演算した結果に応じて励磁電流の制御指令を与えるものとされる。
【0030】
この実施形態では、この基本構成のスピンドルコントローラ3に、前記の電流検出手段15〜18、加工状態把握手段19、外部指令応答オンオフ手段20、および温度測定対応出力手段77を設けると共に、外部出力手段44を設け、かつ数値制御装置14に励磁オンオフ指令生成手段45、加工状態対応処理手段46、および温度対応処理手段100を設けている。電流検出手段15〜18には、例えば電流検出器が用いられる。
数値制御装置14は、図6に示すように、数値制御機能部14aとプログラマブルコントローラ機能部14bとを有し、数値制御機能部14aは、加工プログラム50を解読して加工装置本体13aの各軸の数値制御を行うと共に、加工プログラム50に記述されているシーケンス指令をプログラマブルコントローラ機能部14bに転送する。プログラマブルコントローラ機能部14bは、所定のシーケンスプログラムに従って加工装置本体13aのシーケンス制御を行う手段であり、このプログラマブルコントローラ機能部14bに上記の励磁オンオフ指令生成手段45と加工状態対応処理手段46が設けられている。同図において、温度対応処理手段100にはついては図示を省略してある。
【0031】
図8は、加工状態把握手段19の基本的な概念構成を示す。加工状態把握手段19は、前述のように電流検出手段15〜18の電流検出値から工具11による加工状態を把握する手段であり、把握結果は、数値制御装置14の加工状態対応処理手段46に送られる。この把握結果は、電流検出値そのままであっても良く、また電流検出値を設定値と比較した比較結果であっても良く、さらに電流検出値から所定の演算処理をした値であっても良く、さらにその演算処理を設定値と比較した結果であっても良い。制御手段43が、前記のように変位検出手段28,38の検出値を積分回路または比例積分回路で演算した値に従って励磁電流の制御を行うものである場合は、加工状態把握手段19は、電流検出値そのものから主軸4の静負荷を換算するものとされる。
また、加工状態把握手段19は、各電流検出手段15〜18の検出電流値に対して個々に加工状態の把握結果を出力するものとしてあるが、複数の電流検出手段15〜18の検出電流値を総合的に判断した加工状態の把握結果を出力するものであっても、各電流検出手段15〜18のうちの特定の一つまたは複数の検出電流値のみで加工状態を把握するものであっても良い。
【0032】
図9は、加工状態把握手段19の具体例の一つを示す。この例では、加工状態把握手段19は、前記電流検出手段15〜18の個々の電流検出値につき、各々平滑化する電流平滑部19aと、この電流平滑部19aの平滑値出力からスピンドルの静負荷を換算し、その静負荷換算結果から加工状態を把握する加工状態把握部19bとを有するものとしてある。加工状態把握部19bは、具体的には、例えば、換算されたスピンドル静負荷を設定値と比較し、設定値を超えた場合に異常の出力を行うものとされる。
図12は加工状態把握部19bで行う処理の一例を示す。主軸4aの静負荷は、一定の加工を続ける場合、曲線aで示すように一定の値となる。工具摩耗が進んだり、工具の損傷が生じた場合は、曲線bや曲線cに示すように変化する。そこで、設定値として、適正な負荷として許容できる上限値と下限値とを定め、その範囲(斜線部分)にあるときは、工具が正常であり、この範囲から曲線b,cのように外れた場合に、工具異常の異常信号を、加工状態の把握結果として出力する。なお、この明細書で「平滑値出力をスピンドル静負荷に換算する」とは、負荷の単位に換算する場合と、負荷として設定値と比較し易い値に平滑値出力を電流値等のままで換算する場合との両方を含む。
【0033】
図10は、加工状態把握手段19の他の具体例を示す。この例では、加工状態把握手段19は、前記電流検出手段15〜18の個々の電流検出値につき、周波数分析する周波数分析部19cと、この周波数分析部19cから出力される加工時の各周波数成分の振幅から加工状態を把握する加工状態把握部19dとを有するものとしてある。
図13は加工状態把握部19cで行う処理の一例を示す。一定の加工を続ける場合、電流検出値の周波数分析結果は、曲線dで示すように、各周波数成分の振幅が異なった略一定の波形となる。そこで、所定の周波数帯毎に許容できる振幅の設定値m1,m2…を設定しておき、いずれかの周波数成分の振幅値が、例えば破線で示す曲線部分eのように、対応する周波数帯の設定値m2を超えると、工具異常であると判定する。
【0034】
なお、加工状態把握手段19は、前記各具体例では、電流検出手段15〜18の電流検出値から加工状態を把握するものとしたが、加工状態把握手段19は、変位検出手段28,38の検出値から加工状態を把握するものとしても良い。
例えば、加工状態把握手段19は、図11に示すように、変位検出手段28,38の変位センサアンプの出力を周波数分析する周波数分析部19eと、この周波数分析部19eから出力される加工時の各周波数成分の振幅から加工状態を把握する加工状態把握部19fとを有するものとしても良い。
【0035】
図1に示すように、前記各構成の加工状態把握手段19は、設定部19gを有しており、設定値と比較して加工状態の把握結果を出力するものである場合に設定部19gが用いられる。この設定部19gは、数値制御装置14や他の手段の指令により、各種の設定値が変更可能に設定され、または予め複数設定された各設定値が選択可能とされる。例えば、スピンドル装置の運転中に粗加工や仕上げ加工など、負荷の異なる加工が行われる場合は、工具の良否判断は負荷に応じた設定値で行う必要がある。設定部19gは、このような設定値の変更が可能とされていて、数値制御装置14の加工の変更に伴う信号を検出して設定値を変更する。
【0036】
外部出力手段44は、電流検出手段15〜18の電流検出値や、加工状態把握手段で把握された経過や結果、例えば電流平滑部19a(図9)の平滑値出力、周波数分析部19c,19eで出力された各周波数成分の振幅値等を、スピンドルコントローラ3の外部に出力する手段である。外部出力手段44は、後に説明するように、温度測定対応出力77の出力を外部に出力する手段を兼用している。数値制御装置14は、この外部出力手段44を介して加工状態が入力されるものとしても良く、また外部出力手段44の出力は、数値制御装置14とは別の情報処理手段、例えば加工状態の統計処理用の情報処理手段に入力されるようにしても良い。
数値制御装置14に設けられる加工状態対応処理手段46は、加工状態把握手段19の把握結果の出力に従い、警報の発生や加工装置の強制停止など、工具不良等に対する所定の処理を加工装置13に行わせるものである。
【0037】
外部指令応答オンオフ手段20は、スピンドルコントローラ3の外部の指令によって、静圧磁気複合軸受6〜9における磁気軸受6B〜9Bの励磁をオンオフする手段である。外部指令応答オンオフ手段20による励磁のオンオフは、磁気軸受6B〜9Bの全てにつき行うようにしても、また特定のものだけにつき行うようにしても良い。図1の例では、外部指令応答オンオフ手段20は、電磁石用パワー回路42から磁気軸受6B〜9Bに接続された各電気回路部分に、制御信号で応答するスイッチを介在させたものとしてある。
外部指令応答オンオフ手段20は、図14に示すように、電源41と電磁石用パワー回路42との間に設けても良く、また図15に示すように制御手段43と電磁石用パワー回路42との間に設け、電磁石用パワー回路42に対して電流が零となる指令を与えるようにしても良い。
【0038】
数値制御装置14の励磁オンオフ指令生成手段45は、数値制御による加工の進行に伴って、加工プログラム50の指令に応じて外部指令応答オンオフ手段20にオンオフ指令を与えるものとしてある。この場合に、励磁オンオフ指令生成手段45は、例えば、加工プログラム50の所定の指令が数値制装置14で解読されたとき、または実行されるときに数値制御装置14内で発生する所定の指令によって、励磁オンオフ指令を生成するものとされる。なお、外部指令応答オンオフ手段20へのオンオフ指令は、数値制御装置14とは別のコンピュータ等の情報処理手段等から行うようにしても良い。
【0039】
図7は、外部指令応答オンオフ手段20をオンオフさせて加工するときの制御の一例を示す。この例は、図6に示す加工プログラム50のように、粗加工指令の後で仕上加工指令がある場合に適用される例である。まず、粗加工指令(S1)により励磁をオン(S2)にした後、主軸4を起動する(S3)。この状態で、静圧磁気複合軸受6〜9は、静圧および磁力の両方で主軸4を支持する。
仕上加工指令があるまでは、このまま励磁オンを維持する(S4)。仕上加工指令があると、励磁をオフにし(S5)、静圧磁気複合軸受6〜9は静圧気体軸受6A〜9Aのみで支持する。加工の終了や、別部位の粗加工等の所定の指令があると(S6)、励磁をオンにし(S7)、静圧および磁力の両方で主軸4を支持する。
【0040】
このように、粗加工時に磁気軸受6B〜9Bをオフとし、仕上げ加工時に磁気軸受6B〜9Bとすることにより、粗加工時には高能率化が図れ、仕上げ加工時には高精度化が図れて、高能率、高精度の加工を実現できる。
【0041】
図16と共に、ハウジング5等の熱膨張への対処を主に説明する。スピンドル装置1は、冷却手段71を有しており、この冷却手段71は、ハウジング5に設けたウォータージャッケット等の冷却媒体路72と、この冷却媒体路72に冷却水等の冷却媒体を循環させる冷却ユニット73とで構成される。主軸4には、低熱膨張材料、例えばインバー材等の低熱膨張軟磁性材などが用いられている。
ハウジング5には温度測定手段76が設けられ、スピンドルコントローラ3に温度測定対応出力手段77、外部出力手段44、記憶手段79、書き込み手段80、および読み出し手段81が設けられている。また、数値制御装置14に、温度対応処理手段100として、冷却制御手段82、温度補正手段83、強制停止手段88、および警報手段89が設けられている。
温度測定手段76は、主軸4の鍔部4aよりも先端側のハウジング温度を検出するものであり、白金抵抗素子や熱電対等の感温素子が用いられている。温度測定手段76は、磁気軸受6の電磁石コイル25(図4)の抵抗の測定値を利用するものであっても良い。
【0042】
温度測定対応出力手段77は、この例では比較手段84とディジタル変換手段85で構成されている。比較手段84は、温度測定手段76の出力である温度測定値を、しきい値となる設定値と比較し、設定値を超える場合に異常信号を出力するものであり、例えば、電子回路素子の比較器が用いられる。比較手段84は、複数の設定値に対応していて、複数段階の異常信号を出力するものであっても良い。ディジタル変換手段85は、温度測定手段76のアナログ信号の出力をディジタル値に変換する手段であり、比較手段84の出力が単なる二値信号である場合に、比較手段84の出力を複数桁で示されるディジタル値に変換する手段を兼ねる。温度測定対応出力手段77は、これらディジタル変換手段85から出力される温度測定値や、ディジタル値による異常信号を出力とする。なお、比較手段84の異常信号は、そのまま温度測定対応出力手段77の出力としても良い。
【0043】
書き込み手段80は、温度測定対応出力手段77の出力であるディジタル値の温度測定値および異常信号を記憶手段79に記憶させる手段である。記憶手段79は、次々と出力されるこれら温度測定値および異常信号を、蓄積して記憶可能なものである。記憶手段79は、メモリ素子の他、磁気ディスク装置やその他の大容量記憶装置等で構成される。
【0044】
外部出力手段44は、温度測定対応出力手段77の各出力をスピンドルコントローラ3の外部に出力する手段であり、単なる出力ポートからなるインタフェースであっても良いが、この例ではさらに通信手段86と読み出し手段81を有するものとしてある。通信手段86は、電話回線網,データ通信回線網等の通信回線87を介して遠隔地に通信を行う手段である。読み出し手段81は、スピンドルコントローラ3の外部からの指令に応じて記憶手段79から記憶データを出力させる手段であり、外部指令に応じて、記憶手段81に記憶された任意のスピンドル運転時の温度測定値および異常信号を出力可能としてある。
なお、外部出力手段44は、この例では図1の加工状態把握手段19の出力を外部に行う手段と兼用させているが、加工状態把握手段19および温度測定対応出力手段77に対して、各々別の外部出力手段を設けても良い。また、書き込み手段80は、加工状態把握手段19の出力を記憶手段79に記憶させる手段を兼用するものであっても良く、その場合、読み出し手段81も外部からの指令に応じて記憶手段79の加工状態把握結果に関する記憶内容を出力可能とする。
【0045】
数値制御装置14に設けられた温度対応処理手段100の手段を説明する。
強制停止手段88は、温度測定対応出力手段77から外部出力手段44を介して出力された異常信号に応答して、加工装置13を強制停止させる手段である。 警報手段89は、温度測定対応出力手段77から外部出力手段44を介して出力された異常信号に応答して警報を発生する手段であり、警報として、警報音の発生、警報ランプの点灯、表示装置画面における警報の表示等を行う。
【0046】
冷却制御手段82は、温度測定対応出力手段77から外部出力手段44を介して出力された異常信号に応答して冷却手段71を制御する手段であり、例えば、冷却ユニット73に冷却強度を強める指令を与える。
【0047】
温度補正手段83は、温度測定対応出力手段77から外部出力手段44を介して出力された温度測定値に応じて、スピンドル位置決め機構75を制御する手段である。すなわち、スピンドル位置決め機構75の移動量は、基本的には加工プログラムの指令値に従って制御されるが、温度補正手段83は、この送り量を所定の温度補正演算式に従い、温度測定値に応じて変更する。
この温度補正演算では、例えば、スピンドル装置取付位置Pから工具先端までの寸法(C寸法)の温度変化に伴う変化量を、スピンドル送り量の補正値として加える演算を行う。この工具先端のアキシアル位置を示すC寸法は、工具11の先端からスピンドル鍔部4aまでの主軸4の寸法(A寸法)と、スピンドル装置取付位置Pからスピンドル鍔部4aまでのハウジング5の寸法(B寸法)との差である。したがって、B寸法のハウジング熱膨張量と、A寸法のスピンドル熱膨張量との差によって、C寸法の熱膨張量が演算される。ハウジング5と主軸4とは、非接触であり、温度や温度変化に差があるため、ハウジング5の温度測定手段76では主軸4の温度は測定できない。また、スピンドル5は高速回転するため、別にセンサを設けて温度測定することも難しい。そのため、主軸4の熱膨張量は、温度測定手段76の検出温度から推定演算した温度で演算するようにしても良く、また主軸熱膨張量を無視しても良い。このため、主軸4に低熱膨張材料を使用した場合は、熱膨張補正の誤差が小さくて済む。
【0048】
図17は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、温度測定対応出力手段77Aは、換算手段90を有し、その後段に比較手段84Aを有するものとしてある。また、温度測定対応出力手段77Aは、入力部にディジタル変換手段85Aを有し、温度測定値をディジタル値に変換した信号が換算手段90に入力される。換算手段90は、温度測定手段76の温度測定値を、所定の熱変位演算により主軸4の先端のアキシアル位置、または主軸先端に取付けられた部材である工具11の先端のアキシアル位置(C寸法)に換算する。比較手段84Aは、この換算手段90から出力される換算値を設定値と比較し、換算値が設定値を超える場合に異常信号を出力する。温度測定対応出力手段77Aは、このようなディジタル変換手段85Aの温度測定値出力、換算手段90の出力、および比較手段84Aの異常信号を出力する。
外部出力手段44は、温度測定対応出力手段77Aの上記各出力をスピンドルコントローラ3の外部に出力する。また、書き込み手段80は、温度測定対応出力手段77Aの上記各出力を記憶手段79に記憶させる。
温度補正手段83Aは、換算手段90で出力される換算値を用いて温度補正演算を行うものとされる。
【0049】
この実施形態におけるその他の構成,機能は、図1の実施形態と同じである。なお、この実施形態において、比較手段84Aは、換算値を比較する代わりに、図1の実施形態と同じく温度測定手段76の温度測定値を設定値と比較して異常信号を出力するものとしても良く、また温度測定手段76のディジタル変換手段85Aで変換されたディジタル値による温度測定値を設定値と比較して異常信号を出力するものとしても良い。
例えば、異常信号は、温度測定手段76の温度測定値(またはそのディジタル変換値)を比較手段84Aで比較して発生させ、換算手段90の換算値出力は、温度補正手段83Aによる温度補正演算に用いる。
【0050】
これら図16,図17の実施形態のスピンドル装置1によると、スピンドル装置1の温度が変化しても、スピンドル位置決め量を温度補正することができ、高精度にワークWを加工することができる。また、ハウジング温度の過度の上昇によるスピンドル装置異常時に、外部に信号を出し、スピンドル装置1を停止させたり、警報を出す等の処置が行える。
【0051】
つぎに、通信系を説明する。図1に示すように、このスピンドル装置1は、スピンドルコントローラ3内、またはスピンドルコントローラ3とは別に、遠隔地の情報処理手段121と電話回線網等の通信回線87で通信する通信手段86を有している。通信手段86は、外部出力手段44を兼ねるものや、外部出力手段44の一部として設けられたものであっても良く、また数値制御装置14や、この数値制御装置14の上位制御コンピュータとなる情報処理手段(図示せず)等に設けられてものであっても良い。
この通信手段86は、スピンドル装置1の加工状態把握手段19の出力、電流検出手段15〜18の電流検出値、電流平滑部19a(図9)の平滑値出力、および周波数分析部19c,19e(図10,図11)で出力された各周波数成分の振幅値のいずかを通信可能なものとしてある。また、遠隔地の情報処理手段91は、前記通信手段86から通信された情報に所定の処理を施す機能を備えている。この所定の処理は、例えば加工状態の統計的処理や、スピンドルコントローラ3または数値制御装置14を制御する指令の生成等である。
また、この遠隔地の情報処理手段121は、スピンドルコントローラ3の外部指令応答オンオフ手段20にオンオフ指令を与える機能を持つものとしてある。情報処理手段121から外部指令応答オンオフ手段20へのオンオフ指令の送信は、数値制御装置14やこの数値制御装置14の上位制御コンピュータとなる情報処理手段(図示せず)を介して行うようにしても良い。
さらに、通信手段86は、温度測定対応出力手段77の出力や記憶手段79(図16)の記憶内容を、通信回線87を介して送信可能としてある。遠隔地の情報処理手段121は、通信された温度測定対応出力手段77の出力に所定の処理を施して、この金型加工装置に指令を与えるものとしても良い。例えば、情報処理手段121に、温度対応処理手段100の機能を持たせても良い。
【0052】
図20は通信系の展開例を示す。この金型加工装置13を設置した事業所101には、他の加工装置102が複数設置されており、これら加工装置13,102は、各々単独で、または複数台が共通の情報処理手段103,104に接続されている。これら情報処理手段103,104は、ウェブサーバ110、ファイバウォール111、およびルータ112等のネットワーク構成機器と共にローカルエリアネットワーク119を構成する。このローカルエリアネットワーク119は、通信回線87によりインターネット120を介して、各々別の事業所113,114のローカルエリアネットワークに設置された遠隔地の情報処理手段121に通信機器116を介して接続されている。
金型加工装置13は、基本的にはその数値制御装置14が、情報処理手段103に接続され、この情報処理手段103を介してローカルエリアネットワーク119内の通信線に接続された構成とされているが、これと併用して、あるいはこれとは別に、数値制御装置14やスピンドルコントローラ3に設けられた通信手段86から直接にローカルエリアネットワーク119内の通信線に接続された通信系統を備えるものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明の一実施形態にかかる金型加工装置におけるスピンドル装置の概念構成を示すブロック図である。
【図2】そのスピンドル装置本体の縦断面側面図である。
【図3】同スピンドル装置本体の横断正面図である。
【図4】ラジアル型の静圧磁気複合軸受の拡大断面図である。
【図5】アキシアル型の静圧磁気複合軸受の拡大断面図である。
【図6】数値制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【図7】静圧磁気複合軸受における磁気軸受の励磁オンオフ制御例を示す流れ図である。
【図8】加工状態把握手段の基本構成を示すブロック図である。
【図9】加工状態把握手段の変形例を示すブロック図である。
【図10】加工状態把握手段の他の変形例を示すブロック図である。
【図11】加工状態把握手段のさらに他の変形例を示すブロック図である。
【図12】電流平滑による加工状態把握の例を示すグラフである。
【図13】周波数分析による加工状態把握の例を示すグラフである。
【図14】外部指令応答オンオフ手段の配置を異ならせたスピンドルコントローラのブロックである。
【図15】外部指令応答オンオフ手段の配置をさらに異ならせたスピンドルコントローラのブロックである。
【図16】同金型加工装置におけるスピンドル装置の温度測定対応出力手段を主に示すブロック図である。
【図17】温度測定対応出力手段の変形例を主に示すスピンドル装置の概念構成のブロック図である。
【図18】この発明の一実施形態にかかる金型加工装置の全体の正面図とその制御系の概略ブロック図とを併せて示す説明図である。
【図19】同金型加工装置のテーブル部分の平面図である。
【図20】同金型加工装置の通信系の展開例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1…スピンドル装置
2…スピンドル装置本体
3…スピンドルコントローラ
4…主軸
5…ハウジング
6〜9…静圧磁気複合軸受
6A〜9A…静圧気体軸受
6B〜9B…磁気軸受
10…スピンドル駆動源
11…工具
14…数値制御装置
15〜18…電流検出手段
19…加工状態把握手段
19a…電流平滑部
19b,19d,19f…加工状態把握部
19c,19e…周波数分析部
20…外部指令応答オンオフ手段
28,38…変位検出手段
44…外部出力手段
45…励磁オンオフ指令生成手段
46…加工状態対応処理手段
51…テーブル装置
71…冷却手段
75…スピンドル位置決め装置
76…温度測定手段
77,77A…温度測定対応出力手段
78…外部出力手段
79…記憶手段
80…書き込み手段
82…冷却制御手段
83…温度補正手段
86…通信手段
87…通信回線
100…温度対応処理手段
121…遠隔地の情報処理手段
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を回転させるスピンドル装置を備えた金型加工装置において、前記スピンドル装置は、静圧気体軸受と磁気軸受とが複合化された静圧磁気複合軸受で主軸を支持した金型加工装置。
【請求項2】
工具を回転させるスピンドル装置を備えた金型加工装置において、前記スピンドル装置は、静圧気体軸受と磁気軸受とが複合化された静圧磁気複合軸受で主軸を支持したものとし、前記磁気軸受の励磁電流を検出する電流検出手段と、この電流検出手段の電流検出値から前記工具による加工状態を把握する加工状態把握手段とを設けた金型加工装置。
【請求項3】
前記加工状態把握手段は、前記電流検出手段の電流検出値を平滑化する電流平滑部と、この電流平滑部の平滑値出力から主軸の静負荷を換算し、その静負荷換算結果から加工状態を把握する加工状態把握部とを有するものとした請求項2記載の金型加工装置。
【請求項4】
工具を回転させるスピンドル装置を備えた金型加工装置において、前記スピンドル装置は、主軸を、静圧気体軸受と磁気軸受とが複合化された静圧磁気複合軸受で支持したものとし、前記主軸の変位を検出する変位検出手段と、この変位検出手段の変位検出値から前記工具による加工状態を把握する加工状態把握手段とを設けた金型加工装置。
【請求項5】
前記加工状態把握手段は、前記電流検出手段または前記変位検出手段の出力を周波数分析する周波数分析部と、この周波数分析部から出力される加工時の各周波数成分の振幅から加工状態を把握する加工状態把握部とを有するものとした請求項2または請求項4記載の金型加工装置。
【請求項6】
工具を回転させるスピンドル装置を備えた金型加工装置において、前記スピンドル装置は、静圧気体軸受と磁気軸受とが複合化された静圧磁気複合軸受で主軸を支持し、前記静圧磁気複合軸受を制御するスピンドルコントローラとを備えたものとし、前記スピンドルコントローラの外部の指令によって前記磁気軸受の励磁をオンオフする外部指令応答オンオフ手段を設けた金型加工装置。
【請求項7】
前記励磁オンオフの外部の指令は、金型加工装置機械部を制御する数値制御装置から与えられる指令である請求項6記載の金型加工装置。
【請求項8】
前記励磁オンオフの外部の指令は、粗加工時に磁気軸受をオンとし、仕上げ加工時に磁気軸受をオフとする指令である請求項7記載の金型加工装置。
【請求項9】
工具を回転させるスピンドル装置を備えた金型加工装置において、前記スピンドル装置は、静圧気体軸受と磁気軸受とが複合化された静圧磁気複合軸受を介して主軸をハウジングに支持したものとし、前記ハウジングの温度測定手段と、この温度測定手段の温度測定値から所定の出力を求める温度測定対応出力手段と、この手段の出力から所定の処理を行う温度対応処理手段とを設け、前記温度測定対応出力手段の所定の出力は、
次の1)〜3)、すなわち、
1).前記温度測定手段の出力、
2).前記温度測定手段の温度測定値を、所定の熱変位演算により主軸先端若しくは工具先端のアキシアル位置に換算した換算値、および
3).前記温度測定値若しくは前記換算値を設定値と比較して求められた異常信号、
のうちの少なくとも一つとした金型加工装置。
【請求項10】
前記主軸の設置されたハウジングを冷却する冷却手段を設け、前記温度対応処理手段として、前記温度測定対応出力手段の出力に応答して前記冷却手段の冷却動作を制御する冷却制御手段を設けた請求項9記載の金型加工装置。
【請求項11】
前記主軸の設置されたハウジングを主軸の軸方向に移動させるスピンドル位置決め機構を設け、前記温度測定対応出力手段から出力される温度測定値または前記換算値に応じて前記スピンドル位置決め機構を制御する温度補正手段を設けた請求項9または請求項10記載の金型加工装置。
【請求項12】
前記主軸を回転させるスピンドル駆動源を、前記主軸の設置されたハウジングに内蔵したモータとした請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の金型加工装置。
【請求項13】
前記加工状態把握手段の把握内容を通信回線で遠隔地に送信する通信手段を設けた請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の金型加工装置。
【請求項14】
前記温度測定対応出力手段の出力を通信回線で遠隔地に送信する通信手段を設けた請求項9ないし請求項12のいずれかに記載の金型加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−62081(P2006−62081A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295404(P2005−295404)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【分割の表示】特願平11−71504の分割
【原出願日】平成11年3月17日(1999.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1998年10月16日発行の日刊工業新聞に掲載
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】