説明

銅張積層板およびその製造方法並びにプリント配線板およびその製造方法

【課題】めっき層のサイドエッチングによって設計値よりも配線のトップ幅が狭くなってしまうことを防止でき、めっき層の厚さ方向に異なる位置のエッチング速度を制御して、従前では困難とされていたサブトラクティブ法による微細回路形成を可能にできる銅張積層板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材11の導電性を有する表面に、一層または複数層の銅めっき層16、17、18が形成され、かつ当該一層または複数層の銅めっき層は、少なくとも上記基材に接触している底部18が銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有している銅張積層板とした。好ましくは、上記エッチングレートの大きい金属を含有している銅合金部を、上記銅めっき層の表面から上記底部の方向に向けて上記エッチングレートの大きい金属を漸次または段階的に多く含有させて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、携帯電話やディスプレイ等に組み込まれている半導体チップが搭載さられたプリント配線板を製造するために用いられるフレキシブル銅張積層板(CCL)およびその製造方法並びにプリント配線板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このフレキシブル銅張積層板としては、特許文献1に示すように、ポリイミドフィルムに、ニッケルクロム合金スパッタ膜と、銅スパッタ膜とが順に成膜されるとともに、この銅スパッタ膜の上に銅めっき層が形成されたものが知られており、この銅張積層板は、これらの銅めっき層、銅スパッタ膜やニッケルクロム合金スパッタ膜をパターニングすることにより、銅配線の形成された上記プリント配線板を得るための中間加工品である。
【0003】
そして、これら銅めっき層などのパターニングは、銅めっき層の上にフォトレジストを塗布して、このフォトレジストによるパターンマスクをフォトリソグラフィー法によって形成し、このパターンマスクの上から塩化第2鉄等のエッチング液を吹き付けてパターンマスクの開口に露出している銅めっき層などを除去することにより行われる。
【0004】
しかしながら、この銅めっき層は、エッチング液による除去の際に表面側からエッチングされるため、ポリイミドフィルムに接触している底部までパターン形成しようとすると、表面側がサイドエッチングされてしまう。このため、銅めっき層のエッチングによってパターン形成された銅配線は、図8に示すように、そのトップ幅Tがサイドエッチングにより著しく狭くなってしまうことがある。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献2には、パターニングの際のサイドエッチを防止すべく、基材の上に易エッチング構造を有する銅箔と難エッチング構造を有する銅箔とを積層したプリント配線板などに用いられる銅箔の積層材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−303863号公報
【特許文献2】特開2004−190073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように結晶構造の異なる銅箔を積層させても、塩化第2鉄のエッチング反応は、Fe3+イオンのエッチング表面への拡散が律速段階となる。このため、結晶構造の異なる銅箔におけるエッチングレートの相違を利用しても、基材側の易エッチング構造を有する銅箔をエッチングによりパターン形成した際には、表面側の難エッチング構造を有する銅箔が完全にサイドエッチされてしまっている。それ故に、銅配線のトップ幅Tが狭くなってしまうため、この銅箔の積層材に半導体チップを搭載させる際には、銅配線と半導体チップとの位置合わせが難しくなるとの問題や銅配線と半導体チップとの接触面積の減少により抵抗値が大きくなるとの問題がある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、めっき層のサイドエッチングによって設計値よりも配線のトップ幅が狭くなってしまうことを防止でき、めっき層の厚さ方向に異なる位置のエッチング速度を制御して、従前では困難とされていたサブトラクティブ法による微細回路形成を可能にできる銅張積層板およびその製造方法並びにプリント配線板およびその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、銅めっき層が塩化第二鉄水溶液のエッチャントによってFe3+イオンにより酸化されてCu+として溶解する過程において、Fe3+がFe2+に還元される速度がエッチング速度の律速段階であって、ニッケルを銅に少量添加すると、Fe3+の還元が促進されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明に係る銅張積層板は、基材の導電性を有する表面に、一層または複数層の銅めっき層が形成され、かつ当該一層または複数層の銅めっき層は、少なくとも上記基材に接触している底部が銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有していることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明に係る銅張積層板は、請求項1に記載の銅張積層板において、上記基材はプラスチックフィルムであり、上記銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有している銅合金部は、上記銅めっき層の表面から上記底部の方向に向けて上記エッチングレートの大きい金属を漸次または段階的に多く含有して構成されていることを特徴としている。
【0012】
ここで、本明細書中においてプラスチックフィルムとは、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびポリエーテルエーテルケトン樹脂のうちの少なくとも一種以上の樹脂によって形成されたフィルムを意味するものである。
【0013】
請求項3に記載の発明に係る銅張積層板は、請求項1または2に記載の銅張積層板において、上記エッチングレートの大きい金属は、銅よりも還元性の高いイリジウム、白金、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、金、炭素から選ばれる少なくとも一種以上の金属であることを特徴としている。
【0014】
ここで、上記エッチングレートの大きい金属として、上記イリジウム、白金、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、金、炭素から複数種の金属を選択する場合には、好ましくは銅めっき層の表面から底部の方向に向けてエッチングレートが大きくなるように合金部に含有される。
【0015】
請求項4に記載の発明に係るフレキシブル銅張積層板は、請求項3に記載の発明において、上記エッチングレートの大きい金属がニッケルであり、上記銅合金部は上記ニッケルの含有率が5wt%以下であることを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載の発明に係る銅張積層板の製造方法は、プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、繰り返し銅めっき液による電解銅めっき処理を施して、複数の銅めっき層を積層する際に、上記プラスチックフィルムを、銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有する銅めっき液に浸漬させて、銅合金めっき層を形成した後に、銅めっき液に浸漬させて銅めっき層を形成することを特徴としている。
【0017】
請求項6に記載の発明に係るフレキシブル銅張積層板の製造方法は、請求項5に記載の銅張積層板の製造方法において、上記銅合金めっき層を形成する際に、上記プラスチックフィルムを段階的に上記エッチングレートの大きい金属の含有率の低い銅めっき液に浸漬させることにより、上記プラスチックフィルムの表面に厚さ方向に向けて段階的にエッチングレートの小さい銅合金めっき層を積層することを特徴としている。
【0018】
次いで、請求項7に記載のプリント配線板は、請求項1ないし4のいずれかに記載の銅張積層板または請求項5または6に記載の銅張積層板の製造方法によって製造された銅張積層板の上記銅めっき層がエッチングされることにより、銅配線がパターン形成されてなることを特徴としている。
【0019】
さらに、請求項8に記載のプリント配線板の製造方法は、請求項1ないし4のいずれかに記載の銅張積層板または請求項5または6に記載の銅張積層板の製造方法によって製造された銅張積層板の上記銅めっき層にパターンマスクを形成し、次いで上記銅めっき層をエッチングすることにより、銅配線をパターン形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜4に記載の銅張積層板によれば、基材の導電性を有する表面に一層または複数層の銅めっき層を形成し、かつ少なくとも基材に接触している底部が銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有しているため、また、請求項5〜6に記載の銅張積層板の製造方法によれば、銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有する銅めっき液に浸漬させて銅合金めっき層を形成した後に、銅めっき層を形成しているため、底部がエッチングされやすく、底部までパターン形成した際に表面がサイドエッチングされてしまうことを防止できる。
【0021】
このため、半導体チップとの位置合わせが難しくなるなどの作業性悪化の問題や抵抗値増大などの問題を解消できるだけでなく、上述のように厚さ方向に異なる位置のエッチング速度のエッチングファクターを制御して、従前では困難とされていた半導体チップを搭載する精密部品などに形成される微細回路のサブトラクティブ法による形成を可能にすることができる。
【0022】
特に、請求項2に記載の銅張積層板によれば、銅合金部が銅めっき層の表面から底部の方向に向けてエッチングレートの大きい金属を漸次または段階的に多く含有しているため、また、請求項6に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法によれば、厚さ方向に向けて段階的にエッチングレートの小さい銅合金めっき層を積層したため、よりパターニング精度の高い微細回路の形成を可能にすることができる。
【0023】
その際、請求項3に記載の銅張積層板のように、エッチングレートの大きい金属として銅よりも還元性の高いイリジウム、白金、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、金、炭素から選ばれる少なくとも一種以上の金属を用いることによって、エッチャントとして塩化第2鉄を用いた場合にはFe3+の還元を促進させて、効果的に塩化第2鉄による銅合金部のエッチングを行うことができる。
【0024】
特に、請求項4に記載の銅張積層板のように、エッチングレートの大きい金属としてニッケルを用いて銅合金部のニッケル含有率を5wt%以下とした場合には、著しく効果的に塩化第2鉄によるエッチングを行うことができる。
【0025】
したがって、請求項7に記載のプリント配線板および請求項8に記載のプリント配線板の製造方法によれば、上記めっき層をエッチングすることにより、銅配線をパターン形成してプリント配線板を製造する場合に、上記銅配線のトップ幅が設計値よりも狭くなってしまうことを効果的に防止でき、よって半導体チップの位置合わせや抵抗増加の問題が生じることを確実に防止できるとともに、厚さ方向に異なる位置のめっき層のエッチング速度を制御することにより、従前では困難とされていた微細回路のサブトラクティブ法による形成も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るフレキシブル銅張積層板1を示す縦断面模式図である。
【図2】図1の銅張積層板1を製造するめっき装置2の説明図である。
【図3】図1の銅張積層板1のスパッタ膜12、13およびめっき層16、17、18をパターニングして銅配線を形成したプリント配線板の縦断面模式図である。
【図4】実施例におけるNi含有率3wt%のNo.1のプリント配線板を走査型電子顕微鏡により撮影した写真であって、(a)がライン長の側面、(b)がライン幅の側面をそれぞれ撮影した写真である。
【図5】実施例におけるNi含有率7wt%のNo.2のプリント配線板を走査型電子顕微鏡により撮影した写真であって、(a)がライン長の側面、(b)がライン幅の側面をそれぞれ撮影した写真である。
【図6】実施例におけるNi含有率14wt%のNo.3のプリント配線板を走査型電子顕微鏡により撮影した写真であって、(a)がライン長の側面、(b)がライン幅の側面をそれぞれ撮影した写真である。
【図7】実施例におけるNi添加なしのNo.4のプリント配線板を走査型電子顕微鏡により撮影した写真であって、(a)がライン長の側面、(b)がライン幅の側面をそれぞれ撮影した写真である。
【図8】従来のプリント配線板の縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るフレキシブル銅張積層板の一実施形態について図1を用いて説明した後に、このフレキシブル基材の製造方法について図2を用いて説明する。
【0028】
まず、本実施形態のフレキシブル銅張積層板1は、厚さ20〜50μmの帯状のポリイミドフィルム(プラスチックフィルム)11の表面全体に、ニッケルクロム合金スパッタ膜12と、この合金スパッタ膜12の上に銅スパッタ膜13とが成膜されている。これにより、フレキシブル銅張積層板1は、その表面にスパッタ膜12、13による膜厚5〜200nmの導電性膜が成膜されている。
【0029】
さらに、フレキシブル銅張積層板1は、銅スパッタ膜13の上に複数(本実施形態においては3層)の銅めっき層16、17、18が総厚5μm〜15μmになるように積層されており、銅めっき層16、17が銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有する銅合金めっき層(銅合金部)であって、ポリイミドフィルム11に接触している底部の銅合金めっき層16が表面側の銅合金めっき層17よりもエッチングレートの大きい金属の含有率が高くなっている。また、表面の銅めっき層18は、ニッケルなどを含有しない純銅からなるめっき層である。
【0030】
ここで、このエッチングレートの大きい金属としては、塩化第2鉄のエッチング溶液中にて銅よりも還元性の高い金属、すなわち、イリジウム、白金、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、金、炭素から選ばれる少なくとも一種以上の金属、好ましくは、これらの金属の中でも触媒活性の高い金属、すなわち、ニッケルが用いられる。
特に、このエッチングレートの大きい金属としてニッケルを用いた場合の銅メッキ層16、17のニッケルの含有率は、5wt%以下、好ましくは0.1wt%以上であって3wt%以下とされる。
【0031】
これは、ニッケルの含有率が5wt%を超えると、エッチングレートが大きくなるどころか逆に小さくなってしまう恐れがあり、さらに3wt%を超えると場合によっては5wt%を超えた場合と同様にエッチングレートが小さくなる可能性があるためである。他方、0.1wt%以上としたのは、Ni含有率0.1wt%でエッチングレートを大きく出来る効果を実験的に確認出来たためである。
【0032】
このように、銅合金めっき層16、17は、ニッケルなどを含有することにより、下記式のようにエッチング溶液中の鉄の還元とともに銅の酸化が促進されるため、溶解速度が速くなる。
Cu+Fe3+→Cu++Fe2+
【0033】
従って、フレキシブル銅張積層板1は、表面から底部に向けてニッケルの含有率が段階的に高くなるように銅めっき層16、17、18が積層されて構成されており、これによって、銅めっき層16、17、18は、表面から底部に向けて段階的に塩化第2鉄エッチング液に対する溶解速度が高くなるように形成されている。
【0034】
次ぎに、このフレキシブル銅張積層板1の製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態のフレキシブル銅張積層板1の製造方法は、まず帯状のポリイミドフィルム11の表面をアルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄することにより、親水性が向上したポリイミドフィルム11の上記表面に、真空雰囲気下のスパッタ装置にて、ニッケルクロム合金スパッタ膜12と、このニッケルクロム合金スパッタ膜12の上に銅スパッタ膜13とを連続的に成膜する。
【0035】
次いで、このニッケルクロム合金スパッタ膜12と銅スパッタ膜13とが成膜されたポリイミドフィルム11をロール状に巻き取った後、この巻きロール19を、その軸方向を上下方向に向けてめっき装置2に付属する巻き出し部材(図示を略す)に設置する。
【0036】
ここで、めっき装置2は、図2に示すように、巻き出し部材によって巻きロール19から巻き出されるポリイミドフィルム11の下流側に設置された複数(本実施形態においては3槽)の電解銅めっき槽21、22、23によって概略構成されている。そして、これらの電解銅めっき槽21、22、23は、ポリイミドフィルム11の搬送方向に沿って一列に配設されている。さらに、めっき装置2には、これら電解銅めっき槽21、22、23間ならびに電解銅めっき槽21の上流側および電解銅めっき槽23の下流側にそれぞれ給電水洗槽31、32、33、34が備えられている。
【0037】
電解銅めっき槽21〜23には、硫酸銅めっき液が貯留されており、1槽目および2槽目の電解銅めっき槽21、22は、硫酸銅めっき液にニッケルが含有されるとともに、1槽目の電解銅めっき槽21が下流側の2槽目の電解銅めっき槽22よりも硫酸銅めっき液中のニッケルの含有率が高くなっている。加えて、各給電水洗槽31、32、33、34には、それぞれポリイミドフィルム11の表面に接触して、ポリイミドフィルム11を安定的に搬送させる回転ローラ41とともに銅スパッタ膜13に電気を供給する回転自在な給電ローラ44が内蔵されている。
【0038】
さらに、電解銅めっき槽21の上流側に設置された給電水洗槽31と、上記巻き出し部材との間には、銅スパッタ膜13の表面に付着している無機汚染物を分解除去する硫酸が収容された酸洗槽51が設置されている。他方、電解銅めっき槽22の下流側に設置された給電水洗槽34の後段に下流側に向けて、順に防錆槽53、水洗槽54、乾燥装置55および巻き取りローラ91が配設されている。
【0039】
これにより、巻きロール19から巻き出されたポリイミドフィルム11は、その銅スパッタ膜13の表面が酸洗槽51によって洗浄された後に、電解銅めっき槽21、22、23内において硫酸銅めっき液に浸漬されて銅スパッタ膜13の表面に高ニッケル含有率の銅合金めっき層16が施される。
その際、ポリイミドフィルム11には、給電水洗槽31、32によってスパッタ膜12、13に電気が流れることにより、電解銅めっき槽21において銅スパッタ膜13の表面に銅合金めっき層16が形成される。
【0040】
次いで、給電水洗槽32、33によってスパッタ膜12、13および銅合金めっき層16に電気が流れることにより、電解銅めっき槽22において銅めっき層16の表面に低ニッケル含有率の銅合金めっき層17が形成される。
そして、給電水洗槽33、34によって銅合金めっき層17等に電気が流れることにより、電解銅めっき槽23において銅合金めっき層17の表面に銅めっき層18が形成される。
【0041】
これにより、ポリイミドフィルム11の銅スパッタ膜13の表面に厚さ方向に向けて、段階的にエッチングレートの小さい銅めっき層16、17、18が積層される。
次いで、めっき層16、17、18が形成されたポリイミドフィルム11は、防錆槽53にて防錆液に浸漬され、次いで、水洗槽54にて水洗されて、乾燥装置55内にて乾燥した後に、巻き取りローラ91に巻き取られる。これにより、フレキシブル銅張積層板1が得られる。
【0042】
上述のフレキシブル銅張積層板及びその製造方法によれば、ポリイミドフィルム11のスパッタ膜13の表面に、高ニッケル含有率の銅合金めっき層16と低ニッケル含有率の銅合金めっき層17と銅めっき層18とが順次積層されることから、ポリイミドフィルム11に接触している底部の銅合金めっき層16から表面の銅めっき層18に向けて段階的にニッケルの含有率が低くなって、エッチングレートが小さくなるめっき層16、17、18の積層構造を有している。
【0043】
このため、図3に示すように、銅スパッタ膜13およびめっき層16、17、18を塩化第2鉄エッチング液にてエッチングした後に、ニッケルクロム合金スパッタ膜12をエッチングすることにより、銅配線をパターン形成してプリント配線板10を製造する場合に、めっき層16、17、18は、表面から底部に向けて段階的にエッチングレートが大きくなることから、底部までパターン形成した際に表面がサイドエッチングされてしまうことを防止できる。
【0044】
従って、表面の銅めっき層18のサイドエッチによって、銅配線のトップ幅Tが設計値よりも狭くなってしまうことを効果的に防止でき、よって得られたプリント配線板10においては、半導体チップの位置合わせや抵抗増加の問題が生じることを確実に防止できる。それだけでなく、上述のように厚さ方向に異なる位置のめっき層16、17、18のエッチング速度を制御して、従前では困難とされていた微細回路のサブトラクティブ法による形成を可能にすることができる。
【0045】
なお、本発明は、上述の実施形態に何ら限定されるものでなく、銅めっき層16〜18がすべて銅合金めっき層であってもよく、少なくともポリイミドフィルム11に接触している銅めっき層16が銅よりもエッチングレートの大きいニッケルなどの金属を含有していれば足りる。この場合好ましくは銅合金めっき層16〜18がニッケルなどのエッチングレートの大きい金属を表面から底部に向けて段階的に多く含有している。
【0046】
さらに、複数の銅めっき層16〜18でなく、単層の銅めっき層であってもよく、少なくともポリイミドフィルム11に接触している底部が銅よりもエッチングレートの大きいニッケルなどの金属を含有していれば足りる。この場合にも好ましくは表面から底部に向けてエッチングレートの大きい金属を漸次多く含有して構成されている。
加えて、ポリイミドフィルム11の片方の表面だけでなく、両表面が導電性を有して、両表面に銅めっき層が形成されていてもよく、また、フレキシブル銅張積層板1でなく、例えば、リジッド基板用の銅張積層板であってもよい。
【実施例】
【0047】
次ぎに、ニッケル含有率による銅めっき層のエッチングレートについて検証すべく、以下のような実験を行った。
まず、実験の事前準備として、めっき装置2から3槽目のめっき槽23とその下流側の給電水洗槽34を取り外して、めっき槽21にNi含有の硫酸銅めっき液に代えて下記表1の組成の液温55℃の2Lの硫酸銅めっき液を、めっき槽22に下記表2の組成の液温55℃の2Lの硫酸銅めっき液をそれぞれ貯留した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
次ぎに、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン製 カプトンEN)11の表面をアルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄した後に、このポリイミドフィルム11の表面に膜厚25nmのニッケルクロム合金スパッタ膜12と膜厚0.2μmの銅スパッタ膜13とを成膜した。次いで、これらのスパッタ膜12、13を成膜したポリイミドフィルム11をロール状に巻き取った巻きロール19を、めっき装置2に付属する巻き出し部材に、軸方向を上下方向に向けて設置する。
【0051】
次いで、巻きロール19から巻き出されたポリイミドフィルム11のスパッタ膜12、13に、給電水洗槽31、32によって電流密度0.5〜2A/dm2の条件で20分間通電させて、めっき槽21の硫酸銅めっき液によって厚さ8μmの銅めっき層を形成する。
【0052】
次ぎに、このポリイミドフィルム11の銅めっき層およびスパッタ膜12、13に、給電水洗槽32、33によって電流密度1A/dm2の条件で25分間通電させて、めっき槽22のニッケル含有の硫酸銅めっき液よってニッケルを3wt%含有する厚さ4μmの銅合金めっき層を形成することにより、No.1のフレキシブル銅張積層板を得た。
【0053】
次いで、このNo.1のフレキシブル銅張積層板の銅合金めっき層の表面にレジストを塗布して、フォトリソグラフィー法によってレジストによる縞状のパターンマスクをライン幅とスペース幅とがともに12.5μmになるように形成した。次いで、このパターンマスクが形成されたフレキシブル銅張積層板に向けて塩化第2鉄エッチング液をスプレー噴射して、銅合金めっき層、銅めっき層および銅スパッタ膜13をエッチングした後に、再度、塩化第2鉄エッチング液のスプレー噴射によってニッケルクロム合金スパッタ膜12をエッチングすることにより、図4に示す銅配線が形成されたNo.1のプリント配線板を得た。
【0054】
次ぎに、上述のめっき槽22中の表2の組成の液温55℃の2Lの硫酸銅めっき液におけるNiSO46H2Oの量を調整して、銅合金めっき層のNiの含有率が7wt%、14wt%、0wt%になるように変更した他はNo.1のフレキシブル銅張積層板と同様にしてNo.2〜4のフレキシブル銅張積層板を得た。
【0055】
次いで、これらNo.2〜4の銅張積層板の銅合金めっき層の表面にそれぞれレジストを塗布して、フォトリソグラフィー法によってレジストによる縞状のパターンマスクをライン幅とスペース幅とがともに12.5μmになるように形成した。次いで、このパターンマスクが形成されたフレキシブル銅張積層板に向けて塩化第2鉄エッチング液をスプレー噴射して、銅合金めっき層、銅めっき層および銅スパッタ膜13をエッチングした後に、再度、塩化第2鉄エッチング液のスプレー噴射によってニッケルクロム合金スパッタ膜12をエッチングすることにより、図5〜図7に示す銅配線が形成されたNo.2〜4のプリント配線板を得た。
【0056】
図5は、Ni含有率7wt%のNo.2のプリント配線板、図6はNi含有率14wt%のNo.3のプリント配線板、図7はNi添加なしのNo.4のプリント配線板をそれぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
なお、上記No.1〜4のプリント配線板を得るためのエッチング条件およびエッチングレートは、各々下記表3、表4に示す通りである。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
図4からわかるように、Ni含有率3wt%のNo.1のプリント配線板は、図7の純銅のプリント配線板における銅配線の上部が下部よりも幅広であって削られていないのに対して、銅配線の上部が下部と同様に削られている。従って、Ni含有率3wt%ではエッチング速度が高くなっている。
【0060】
これと比較して、図5のNi含有率7wt%のNo.2のプリント配線板は銅配線の上部が下部よりも幅広であり、さらに図6のNi含有率14wt%のNo.3のプリント配線板は銅配線の上部が下部よりも幅広になっている。
従って、Ni含有率5wt%以下とした場合には、著しく効果的に塩化第2鉄によるエッチングを行うことができる。
【符号の説明】
【0061】
1 フレキシブル銅張積層板
10 プリント配線板
11 ポリイミドフィルム(プラスチックフィルム、基材)
12 ニッケルクロム合金スパッタ膜
13 銅スパッタ膜
16 銅合金めっき層(合金部、底部)
17 銅合金めっき層(合金部)
18 銅めっき層(表面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の導電性を有する表面に、一層または複数層の銅めっき層が形成され、かつ
当該一層または複数層の銅めっき層は、少なくとも上記基材に接触している底部が銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有していることを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
上記基材はプラスチックフィルムであり、
上記銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有している銅合金部は、上記銅めっき層の表面から上記底部の方向に向けて上記エッチングレートの大きい金属を漸次または段階的に多く含有して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の銅張積層板。
【請求項3】
上記エッチングレートの大きい金属は、銅よりも還元性の高いイリジウム、白金、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、金、炭素から選ばれる少なくとも一種以上の金属であることを特徴とする請求項1または2に記載の銅張積層板。
【請求項4】
上記エッチングレートの大きい金属は、ニッケルであり、
上記銅合金部は、上記ニッケルの含有率が5wt%以下であることを特徴とする請求項3に記載の銅張積層板。
【請求項5】
プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、繰り返し銅めっき液による電解銅めっき処理を施して、複数の銅めっき層を積層する際に、
上記プラスチックフィルムを、銅よりもエッチングレートの大きい金属を含有する銅めっき液に浸漬させて、銅合金めっき層を形成した後に、銅めっき液に浸漬させて銅めっき層を形成することを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項6】
上記銅合金めっき層を形成する際に、上記プラスチックフィルムを段階的に上記エッチングレートの大きい金属の含有率の低い銅めっき液に浸漬させることにより、上記プラスチックフィルムの表面に厚さ方向に向けて段階的にエッチングレートの小さい銅合金めっき層を積層することを特徴とする請求項5に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の銅張積層板または請求項5または6に記載の銅張積層板の製造方法によって製造された銅張積層板の上記銅めっき層がエッチングされることにより、銅配線がパターン形成されてなることを特徴とするプリント配線板。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載の銅張積層板または請求項5または6に記載の銅張積層板の製造方法によって製造された銅張積層板の上記銅めっき層にパターンマスクを形成し、次いで上記銅めっき層をエッチングすることにより、銅配線をパターン形成することを特徴とするプリント配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−70850(P2010−70850A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185642(P2009−185642)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】