電動車両のブレーキ制御装置
【課題】回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成すること。
【解決手段】ハイブリッド車のブレーキ制御装置は、マスターシリンダ13と、ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRと、VDCブレーキ液圧ユニット2と、モータコントローラ8と、統合コントローラ9と、を備える。統合コントローラ9は、ブレーキ操作時、目標減速度を基本液圧分と上乗せ制動分(回生分と加圧分)で達成する回生協調ブレーキ制御を行う。そして、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定する(図4)。
【解決手段】ハイブリッド車のブレーキ制御装置は、マスターシリンダ13と、ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRと、VDCブレーキ液圧ユニット2と、モータコントローラ8と、統合コントローラ9と、を備える。統合コントローラ9は、ブレーキ操作時、目標減速度を基本液圧分と上乗せ制動分(回生分と加圧分)で達成する回生協調ブレーキ制御を行う。そして、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定する(図4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車等に適用され、マップを用いて算出された制動目標値を、基本液圧分と上乗せ制動分(回生分と加圧分)の総和で達成する回生協調ブレーキ制御を行う電動車両のブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ブレーキ装置としては、ブレーキペダルストロークやマスターシリンダ圧等によりドライバー入力量を検知し、ドライバー入力量とドライバー要求減速度特性マップを用いてドライバー要求減速度を算出する。そして、算出したドライバー要求減速度を達成すべく、マスターシリンダからの負圧ブースタ出力(基本液圧分)に対し、フィードフォワード制御にて上乗せ制動分を発生させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来装置での上乗せ制動分とは、ドライバー要求減速度に対し、基本液圧分により確保される基本減速度で不足する分を上乗せ分担する減速度のことをいい、回生分と加圧分のうち少なくとも一方により得る。そして、上乗せ制動分の最大値を、最大回生量である回生ギャップにより決め、可能な限り基本液圧分と回生分の総和によりドライバー要求減速度を達成するようにし、基本液圧分と回生分の総和で不足が発生するとき、不足分を加圧分にて補償する制御が回生協調ブレーキ制御である。なお、加圧分は、マスターシリンダとホイールシリンダの間に介装したブレーキ液圧アクチュエータにおいて、差圧弁コントロールとポンプアップ昇圧により、マスターシリンダ圧(基本液圧)より高いホイールシリンダ圧を発生し、両者の差圧(基本液圧からの上乗せ液圧)により得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両用ブレーキ装置にあっては、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの設計値に基づいて、ドライバー入力量に対するドライバー要求減速度特性によるマップを予め設定しておき、このマップを用いてドライバー要求減速度を決めている。このため、車載状態におけるマスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの設計値に対してメカバラツキが発生した場合、予め設定されているドライバー要求減速度特性に違和感が出てしまう。
【0006】
例えば、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が設計値より遅れた場合、ブレーキペダルストロークが進み、制動目標値であるドライバー要求減速度が上昇しなければいけないにもかかわらず、ドライバー要求減速度が上昇しないシーンが生じる。逆に、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が設計値より早過ぎた場合、制動目標値であるドライバー要求減速度が低く抑えられることで、回生トルクが制限されてしまい、燃費や電費が悪化する、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成することができる電動車両のブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両のブレーキ制御装置は、マスターシリンダと、ホイールシリンダと、ブレーキ液圧アクチュエータと、回生制動力制御手段と、回生協調ブレーキ制御手段と、制動目標値特性マップ設定手段と、備える手段とした。
前記マスターシリンダは、ブレーキ操作に応じたマスターシリンダ圧を発生する。
前記ホイールシリンダは、前後輪の各輪に設けられ、ホイールシリンダ圧に応じて各輪に液圧制動力を与える。
前記ブレーキ液圧アクチュエータは、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダとの間に介装され、ポンプ用モータにより駆動する液圧ポンプと、前記ポンプ用モータの作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁と、を有する。
前記回生制動力制御手段は、駆動輪に連結された走行用電動モータに接続され、前記走行用電動モータにより発生する回生制動力を制御する。
前記回生協調ブレーキ制御手段は、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク検出値と制動目標値特性マップを用いて算出した制動目標値を、前記マスターシリンダ圧による基本液圧分と、前記回生制動力による回生分と前記ブレーキ液圧アクチュエータによる加圧分のうち少なくとも一方による上乗せ制動分と、の総和で達成する制御を行う。
前記制動目標値特性マップ設定手段は、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値が、前記上乗せ制動分の最大値になるように、または、前記上乗せ制動分の最大値とのずれが許容範囲内に収まる値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性を設定する。
【発明の効果】
【0009】
よって、制動目標値特性マップを設定するに際し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値が、基本液圧分に上乗せする上乗せ制動分の最大値域(最大値と最大値前後の許容範囲内の値を含む)の適切な値に設定されることになる。
すなわち、制動系構成要素の製造バラツキや組み付けバラツキ等のメカバラツキを原因として、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より遅れたり早過ぎたりすることがある。しかし、設計値からのズレがどちらの方向に生じていても、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの特性値を、上乗せ制動分の最大値域の値とし、ブレーキペダルストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性に設定される。
このため、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より遅れているとき、ブレーキペダルストロークが進むにもかかわらず、制動目標値の上昇が抑えられることがなく、良好なブレーキフィーリングが達成される。
一方、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より早過ぎるとき、制動目標値が低く抑えられることがなく、燃費性能や電費性能の向上に有効である回生エネルギーの確保が達成される。
この結果、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動によるハイブリッド車の構成を示すブレーキシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置におけるVDCブレーキ液圧ユニットを示すブレーキ液圧回路図である。
【図3】実施例1のブレーキ制御装置における回生協調ブレーキ制御系を示す制御ブロック図である。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラの目標減速度特性マップ設定部で実行される目標減速度特性マップ設定処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラの目標減速度算出部および回生協調ブレーキ制御部で実行される回生協調ブレーキ制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の回生協調ブレーキ制御処理で加圧分指令値を決めるときに用いる目標差圧に対する差圧弁への作動電流値の関係特性の一例を示す図である。
【図7】VDCを利用した回生協調ブレーキシステムにより目標減速度(=ドライバー要求減速度)を基本液圧分と回生分と加圧分の総和により達成する回生協調ブレーキ制御でのドライバー入力に対する減速度分担関係の一例を示す制御概念説明図である。
【図8】比較例のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車で実ロスストロークが設計値ロスストロークより大きい場合の基準目標減速度特性マップを用いた回生協調ブレーキ制御作用を示す課題説明図である。
【図9】比較例のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車で実ロスストロークが設計値ロスストロークより小さい場合の基準目標減速度特性マップを用いた回生協調ブレーキ制御作用を示す課題説明図である。
【図10】実施例1のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車がブレーキ操作により一定減速度を保って停車するときの回生協調ブレーキ制御作用の一例を示すタイムチャートである。
【図11】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより大きいメカバラツキでの目標減速度特性マップの設定効果を示すマップ設定効果説明図である。
【図12】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより小さいメカバラツキでの目標減速度特性マップの設定効果を示すマップ設定効果説明図である。
【図13】実施例1の目標減速度特性マップ設定時における(a)基準目標減速度特性と、(b)実ロスストローク>設計値ロスストローク時のオフセット補正による目標減速度特性と、(c)実ロスストローク<設計値ロスストローク時のオフセット補正による目標減速度特性を示すマップ設定作用説明図である。
【図14】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより大きいメカバラツキでのブレーキペダル踏み込み速度に応じた目標減速度特性マップの補正作用を示すマップ補正作用説明図である。
【図15】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより小さいメカバラツキでのブレーキペダル踏み込み速度に応じた目標減速度特性マップの補正作用を示すマップ補正作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電動車両のブレーキ制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動による電動車両の一例であるハイブリッド車の構成を示し、図2は、ブレーキ液圧アクチュエータの一例であるVDCブレーキ液圧ユニットを示す。以下、図1および図2に基づき、VDCを利用した回生協調ブレーキシステムの構成を説明する。
【0013】
実施例1のブレーキ制御装置のブレーキ減速度発生系は、図1に示すように、ブレーキ液圧発生装置1と、VDCブレーキ液圧ユニット2(ブレーキ液圧アクチュエータ)と、ストロークセンサ3と、左前輪ホイールシリンダ4FLと、右前輪ホイールシリンダ4FRと、左後輪ホイールシリンダ4RLと、右後輪ホイールシリンダ4RRと、走行用電動モータ5と、を備えている。
【0014】
すなわち、既存のVDCシステム(VDCは、「Vehicle Dynamics Control」の略)を利用した回生協調ブレーキシステムによる構成としている。VDCシステムとは、高速でのコーナー進入や急激なハンドル操作などによって車両姿勢が乱れた際、横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を発揮する車両挙動制御(=VDC制御)を行うシステムである。VDC制御では、例えば、旋回挙動がオーバーステア側であると感知すると、コーナー外側の前輪にブレーキをかけ、逆に、旋回挙動がアンダーステア側であると感知すると、駆動パワーを落とすとともに後輪のコーナー内側のタイヤにブレーキをかける。
【0015】
前記ブレーキ液圧発生装置1は、ドライバーによるブレーキ操作に応じた基本液圧分を発生する基本液圧発生手段である。このブレーキ液圧発生装置1は、図1および図2に示すように、ブレーキペダル11と、負圧ブースタ12と、マスターシリンダ13と、リザーブタンク14と、を有する。つまり、ブレーキペダル11に加えられたドライバーのブレーキ踏力を、負圧ブースタ12により倍力し、マスターシリンダ13でマスターシリンダ圧によるプライマリ液圧とセカンダリ液圧を作り出す。このとき、マスターシリンダ圧で発生する減速度が、目標減速度(=ドライバー要求減速度)より小さくなるように予め設計する。
【0016】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキ液圧発生装置1と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとの間に介装される。VDCブレーキ液圧ユニット2は、VDCモータ21(ポンプ用モータ)により駆動する液圧ポンプ22,22を有し、マスターシリンダ圧の増圧・保持・減圧を制御するブレーキ液圧アクチュエータである。そして、VDCブレーキ液圧ユニット2とブレーキ液圧発生装置1とは、プライマリ液圧管61とセカンダリ液圧管62により接続されている。VDCブレーキ液圧ユニット2と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとは、左前輪液圧管63と右前輪液圧管64と左後輪液圧管65と右後輪液圧管66により接続されている。つまり、ブレーキ操作時には、ブレーキ液圧発生装置1により発生したマスターシリンダ圧を、VDCブレーキ液圧ユニット2により加圧し、各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRに加えることで液圧制動力を得るようにしている。
【0017】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2の具体的構成は、図2に示すように、VDCモータ21と、VDCモータ21により駆動する液圧ポンプ22,22と、リザーバー23,23と、マスターシリンダ圧センサ24と、を有する。ソレノイドバルブ類として、第1M/Cカットソレノイドバルブ25(差圧弁)と、第2M/Cカットソレノイドバルブ26(差圧弁)と、保持ソレノイドバルブ27,27,27,27と、減圧ソレノイドバルブ28,28,28,28と、を有する。第1M/Cカットソレノイドバルブ25と第2M/Cカットソレノイドバルブ26は、VDCモータ21の作動時、ホイールシリンダ圧(下流圧)とマスターシリンダ圧(上流圧)の差圧を制御する。
【0018】
前記ストロークセンサ3は、ドライバーによるブレーキペダル操作量をポテンショメータ等により検出する手段である。このストロークセンサ3は、回生協調ブレーキ制御での必要情報である目標減速度(=ドライバー要求減速度)を検出する構成として、既存のVDCシステムに対して追加された部品である。
【0019】
前記各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRは、前後各輪のブレーキディスクに設定され、VDCブレーキ液圧ユニット2からの液圧が印加される。そして、各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧印加時、ブレーキパットによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0020】
前記走行用電動モータ5は、左右前輪(駆動輪)の走行用駆動源として設けられ、駆動モータ機能と発電ジェネレータ機能を持つ。この走行用電動モータ5は、力行時、バッテリ電力を消費しながらのモータ駆動により、左右前輪へ駆動力を伝達する。そして、回生時、左右前輪の回転駆動に負荷を与えることで電気エネルギーに変換し、発電分をバッテリへ充電する。つまり、左右前輪の回転駆動に与える負荷が、回生制動力となる。この走行用電動モータ5が設けられる左右前輪(駆動輪)の駆動系には、走行用電動モータ5以外に、走行用駆動源としてエンジン10が設けられ、変速機11を介して左右前輪へ駆動力を伝達する。
【0021】
実施例1のブレーキ制御装置のブレーキ減速度制御系は、図1に示すように、ブレーキコントローラ7と、モータコントローラ8(回生制動力制御手段)と、統合コントローラ9と、エンジンコントローラ12と、を備えている。
【0022】
前記ブレーキコントローラ7は、統合コントローラ9からの指令とVDCブレーキ液圧ユニット2のマスターシリンダ圧センサ24からの圧力情報を入力する。そして、所定の制御則にしたがって、VDCブレーキ液圧ユニット2のVDCモータ21とソレノイドバルブ類25,26,27,28に対し駆動指令を出力する。このブレーキコントローラ7では、回生協調ブレーキ制御時、統合コントローラ9から加圧分指令を入力すると、ホイールシリンダ圧(下流圧)とマスターシリンダ圧(上流圧)の差圧を制御する。差圧制御は、第1M/Cカットソレノイドバルブ25と第2M/Cカットソレノイドバルブ26への作動電流値による差圧コントロールと、VDCモータ21によるポンプアップ昇圧と、により行われる。なお、ブレーキコントローラ7では、回生協調ブレーキ制御以外に、上記VDC制御やTCS制御やABS制御、等を行う。
【0023】
前記モータコントローラ8は、駆動輪である左右前輪に連結された走行用電動モータ5にインバータ13を介して接続される。そして、回生協調ブレーキ制御時、統合コントローラ9から回生分指令を入力すると、走行用電動モータ5により発生する回生制動力を入力された回生分指令に応じて制御する回生制動力制御手段である。このモータコントローラ8は、走行時、走行状態や車両状態に応じて走行用電動モータ5により発生するモータトルクやモータ回転数を制御する機能も併せ持つ。
【0024】
前記統合コントローラ9は、ブレーキ操作時、目標減速度を、マスターシリンダ圧による基本液圧分と上乗せ制動分(回生制動力による回生分と、VDCブレーキ液圧ユニット2による加圧分と、の少なくとも一方)の総和で達成する回生協調ブレーキ制御を行う。このとき、目標減速度は、ストロークセンサ3からのペダルストロークセンサ値と、設定されている目標減速度特性マップと、に基づいて決める。この統合コントローラ9には、バッテリコントローラ91からのバッテリ充電容量情報、車速センサ92からの車速情報、ブレーキスイッチ93からのブレーキ操作情報、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストローク情報、マスターシリンダ圧センサ24からのマスターシリンダ圧情報、等が入力される。なお、車速センサ92としては、極低車速域までの車速検出が可能な車輪速回転数検出手段が用いられる。
【0025】
図3は、実施例1のブレーキ制御装置における回生協調ブレーキ制御系を示す。以下、図3に基づいて回生協調ブレーキ制御の基本構成を説明する。
実施例1の回生協調ブレーキ制御系は、図3に示すように、ブレーキコントローラ7と、モータコントローラ8と、統合コントローラ9と、を備えている。統合コントローラ9には、基準マップ設定部9a(基準制動目標値特性マップ設定手段)と、目標減速度特性マップ設定部9b(制動目標値特性マップ設定手段)と、目標減速度算出部9c(回生協調ブレーキ制御手段)と、回生協調ブレーキ制御部9d(回生協調ブレーキ制御手段)と、を有する。
【0026】
前記基準マップ設定部9aは、設計値ロスストロークに基づき、ブレーキペダルストローク位置の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントを決める。そして、設計値に基づく基準目標減速度特性によるマップ(基準制動目標値特性マップ)を、予め設定しておくマップ記憶設定部である。
【0027】
前記目標減速度特性マップ設定部9bは、ペダルストロークセンサ値とMC圧センサ値に基づき、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク位置の実マスターシリンダ圧発生開始ポイントを検出する。そして、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントで上乗せ制動分が最大値になるように、基準マップ設定部9aから読み込んだ基準目標減速度特性をストローク方向にずらすオフセット補正することにより作成された目標減速度特性を有する目標減速度特性マップを設定する。
【0028】
前記目標減速度算出部9cは、目標減速度特性マップ設定部9bにて設定された目標減速度特性マップによる目標減速度特性と、ストロークセンサ3からのペダルストロークセンサ値と、に基づき、目標減速度(=ドライバー要求減速度)を算出する。
【0029】
前記回生協調ブレーキ制御部9dは、目標減速度算出部9aにて算出された目標減速度と、マスターシリンダ圧センサ24からのMC圧センサ値と、車速センサ92からの車速センサ値を入力する。そして、MC圧センサ値に基づいて基本液圧分を決め、車速センサ値に基づいて回生分を決め、可能な限り目標減速度を基本液圧分+回生分の総和で達成するようにし、不足が生じたときその不足分を加圧分により補償する回生協調ブレーキ制御演算を行う。この演算結果にしたがって、回生分に対応する回生分指令をモータコントローラ8に出力し、加圧分に対応する加圧分指令をブレーキコントローラ7に出力する。
【0030】
図4は、実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラ8の目標減速度特性マップ設定部9bで実行される目標減速度特性マップ設定処理の構成および流れを示す(目標制動目標値特性マップ設定手段)。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0031】
ステップS1では、マスターシリンダ圧センサ24からのマスターシリンダ圧情報とストロークセンサ3からのペダルストローク量情報を読み込み、ステップS2へ進む。
【0032】
ステップS2では、ステップS1での必要情報の読み込みに続き、ブレーキスイッチ93からのスイッチ信号に基づき、ブレーキペダル操作の有無を判断する。YES(ブレーキペダル操作有り)の場合はステップS3へ進み、NO(ブレーキペダル操作無し)の場合はリターンへ進む。
【0033】
ステップS3では、ステップS2でのブレーキペダル操作有りとの判断に続き、ブレーキペダル操作に基づきマスターシリンダ圧が発生しているか否かを判断する。YES(マスターシリンダ圧発生有り)の場合はステップS4へ進み、NO(マスターシリンダ圧発生無し)の場合はリターンへ進む。
【0034】
ステップS4では、ステップS3でのマスターシリンダ圧発生有りとの判断に続き、マスターシリンダ圧の発生開始時のペダルストローク位置を実マスターシリンダ圧発生開始ポイントとして記憶し、ステップS5へ進む。
【0035】
ステップS5では、ステップS4でのペダルストローク記憶に続き、記憶ストローク時(=実マスターシリンダ圧発生開始ポイント)で上乗せ目標制動力(=上乗せ制動分)が最大値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を目標減速度特性マップとして設定し、リターンへ進む。
このストロークに対する目標減速度特性マップを設定するとき、ブレーキペダル踏み込み速度を算出し、踏み込み速度情報を有する目標減速度特性マップとして設定する。なお、ブレーキペダル踏み込み速度は、ストロークセンサ3からのペダルストロークセンサ値の前回値と今回値の制御周期による単位時間当たりの差分をとる微分演算処理により算出される。
【0036】
図5は、実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラ8の目標減速度算出部9cおよび回生協調ブレーキ制御部9dで実行される回生協調ブレーキ制御処理の構成および流れを示す(回生協調ブレーキ制御手段)。以下、図6の各ステップについて説明する。この回生協調ブレーキ制御処理は、ブレーキ操作開始が判断された時点からスタートする。
【0037】
ステップS21では、ブレーキ操作開始前に停止状態のVDCモータ21をモータ駆動状態にし、ステップS22へ進む。
【0038】
ステップS22では、ステップS21でのモータ駆動、あるいは、ステップS27での車両非停止状態であるとの判断に続き、マスターシリンダ圧センサ24からのマスターシリンダ圧情報と、ストロークセンサ3からのペダルストローク量情報と、車速センサ92からの車速情報と、図4のステップS5にて設定された目標減速度特性マップと、を読み込み、ステップS23へ進む。
【0039】
ステップS23では、ステップS22での必要情報と目標減速度特性マップを読み込みに続き、ブレーキペダル踏み込み速度を算出し、ペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正を行い、ステップS24へ進む。
ここで、目標減速度特性マップの補正は、設定されている目標減速度特性マップが有するペダル踏み込み速度情報と、ステップS23で算出されたペダル踏み込み速度と、が異なるときに行う。つまり、算出されたブレーキペダル踏み込み速度が、ペダル踏み込み速度情報より速くなっているほど、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントまでのロスストロークを短くするようにストローク方向にずらすオフセット補正を施す。なお、目標減速度特性マップが有するペダル踏み込み速度情報と算出されたペダル踏み込み速度が一致するとき、または、両速度差が許容範囲内であるときは、設定されている目標減速度特性マップの補正を要さない。
【0040】
ステップS24では、ステップS23でのペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正に続き、ブレーキペダルストロークセンサ値と、補正後の目標減速度特性マップに基づき、ドライバー入力によるブレーキペダルストローク位置に対応する目標減速度を算出し、ステップS25へ進む。
【0041】
ステップS25では、ステップS24での目標減速度の算出に続き、そのときのMC圧センサ値に基づいて基本液圧分を決め、そのときの車速センサ値やバッテリSOCに基づいて可能な限り最大となる回生分を決める。そして、目標減速度から基本液圧分と回生分を差し引いた残りの減速度分を加圧分により分担するように決める。つまり、目標減速度を基本液圧分+回生分+加圧分の総和で達成する回生協調ブレーキ制御演算を行い、ステップS26へ進む。
【0042】
ステップS26では、ステップS25での回生協調ブレーキ制御演算に続き、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、回生分に対応する回生分指令値を決定し、回生分指令(ゼロ指令を含む)をモータコントローラ8に出力する。同時に、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、加圧分に対応する加圧分指令値を決定し、加圧分指令(ゼロ指令を含む)をブレーキコントローラ7に出力し、ステップS27へ進む。
ここで、モータコントローラ8は、回生分指令を入力すると、回生分を目標回生制動力とし、走行用電動モータ5への回生電流値を決めるフィードフォワード制御により、回生トルク制御を行う。ブレーキコントローラ7は、加圧分指令を入力すると、加圧分を目標差圧とし、図6に示すような関係特性に基づき、両M/Cカットソレノイドバルブ25,26への作動電流値を決めるフィードフォワード制御により、差圧コントロールを行う。
【0043】
ステップS27では、ステップS26での回生分指令と加圧分指令の出力に続き、車速センサ92からの車速センサ値に基づき、車両が停止したか否かを判断する。YES(車両停止状態)の場合はステップS28へ進み、NO(車両非停止状態)の場合はステップS22へ戻る。
【0044】
ステップS28では、ステップS27での車両停止状態であるとの判断に続き、VDCモータ21のモータ駆動を停止し、エンドへ進む。
【0045】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の回生協調ブレーキ制御における課題」の説明を行う。続いて、実施例1のハイブリッド車のブレーキ制御装置における作用を、「回生協調ブレーキ制御作用」、「目標減速度特性マップ設定作用」、「目標減速度特性マップ補正作用」に分けて説明する。
【0046】
[比較例の回生協調ブレーキ制御における課題]
まず、VDCを利用した回生協調ブレーキ制御は、目標減速度に対し、基本液圧分と回生分だけでは補償しきれないシーンが発生すると、VDCブレーキ液圧ユニットによって補償しきれない分の液圧を加圧し、ドライバーの要求減速度を達成する制御である。この回生協調ブレーキ制御を行うためのVDCを利用した回生協調ブレーキシステムを、図7に基づいて説明する。
【0047】
既存のコンベンショナルVDCの場合、ブレーキ操作時に負圧ブースタによる基本液圧分でドライバー要求の目標減速度を得るようにしている。これに対し、ブレーキ操作時に負圧ブースタによる基本液圧分を、目標減速度に達しないように、ドライバー要求の目標減速度からオフセットし、目標減速度の回生ギャップを設定する。このように、最大回生トルクによる回生ギャップを設定することによって、目標減速度の回生ギャップ分が、ドライバー要求の目標減速度に対して不足することになる。よって、最大回生トルク発生時には、ドライバー要求の目標減速度を、負圧ブースタ(基本液圧分)と回生ブレーキ(回生分)により達成し、回生機能を最大限に発揮するようにしている。
【0048】
しかし、例えば、車速条件やバッテリ充電容量条件等により、ドライバー要求の目標減速度に対し、基本液圧分で不足する目標減速度を回生分だけで補償しようとしても、補償することができない場合がある。そこで、ドライバー要求の目標減速度を、図9に示すように、負圧ブースタ(基本液圧分)と回生ブレーキ(回生分)の総和により達成するようにし、不足分をVDCブレーキ液圧ユニット(加圧分)により補償するようにしたのがVDCを利用した回生協調ブレーキシステムである。
【0049】
したがって、既存のコンベンショナルVDCに対し、負圧ブースタの特性変更と、VDCブレーキ液圧ユニットの特性変更と、ストロークセンサの追加を行うだけで、VDCを利用した廉価な回生協調ブレーキシステムを構成することができる。つまり、コンベンショナルVDCの安全機能を拡張(安全機能+回生協調機能)することになる。
【0050】
上記回生協調ブレーキシステムにおいて、図8および図9の実線特性に示すように、設計値ロスストロークに達するストローク位置で目標減速度が回生ギャップの値に一致するように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定したものを比較例とする。
【0051】
ここで、「設計値ロスストロークに達するストローク位置」とは、図8および図9の点線によるMC圧による減速度特性に示すように、設計上のノミナルモデルにてマスターシリンダ圧の発生が開始する設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントの意味である。
また、「回生ギャップ」とは、目標減速度を達成するに際し、MC圧による減速度特性により示される基本液圧分に対して上乗せする上乗せ制動分の乖離量であり、基本液圧分からの乖離量を、回生トルクの最大値により与えているために回生ギャップと呼んでいる。
【0052】
この比較例の場合、車載状態の装置で実ロスストロークに達する実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントに対しずれるメカバラツキが発生した場合、下記に述べるように、目標減速度特性に違和感が出てしまう。
【0053】
(a) マスターシリンダ圧発生開始ポイントが遅れた場合(図8)
実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB(以下、「ポイントB」)が、図7に示すように、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントA(以下、「ポイントA」)より遅れた場合について説明する。
ポイントBに先行するポイントAでの特性値は、基本液圧分(ゼロ)に回生ギャップを加えた値とされ、回生ギャップに応じた目標減速度が得られる。これに対し、ポイントAより遅れて到達するポイントBでの特性値は、ポイントAでの値に基本液圧分の上昇予定分を加えた値とされる。しかし、ポイントAでは、マスターシリンダ圧の発生開始遅れにより、ポイントAと同様に基本液圧分がゼロであるため、ポイントAと同様に、回生ギャップに応じた目標減速度が得られる。すなわち、ブレーキペダルストロークがポイントAからポイントBまで進むときの目標減速度特性は、図8の矢印Dの枠領域内に示すように、回生ギャップに応じた目標減速度を維持する特性となる。言い換えると、ブレーキペダルストロークの進みに応じて目標減速度が上昇しなければいけないにもかかわらず、目標減速度が上昇しないシーンが生じる。
したがって、ポイントBがポイントAより遅い場合、基本液圧分の発生が遅れることで、ポイントA以降のブレーキペダルストローク域で目標減速度を達成することができない。加えて、ブレーキペダルストロークがポイントAとポイントBの間の領域を含んで進んだり戻ったりすると、ブレーキ操作に対し車両減速度が一定になる段付き感が発生し、ペダルフィーリングを損なう。
【0054】
(b) マスターシリンダ圧発生開始ポイントが早過ぎる場合(図9)
実マスターシリンダ圧発生開始ポイントC(以下、「ポイントC」)が、図8に示すように、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントであるポイントAより早過ぎた場合について説明する。
ポイントAに先行するポイントCでの特性値は、基本液圧分(ゼロ)に回生ギャップより小さい値を加えた値とされ、回生ギャップより小さい値に応じた目標減速度が得られる。これに対し、ポイントCから遅れて到達するポイントAでの特性値は、ポイントCでの値から徐々に上昇し、基本液圧分に回生ギャップを加えた値とされ、回生ギャップに応じた目標減速度が得られる。しかし、マスターシリンダ圧の発生開始が早過ぎることにより、ポイントCでは上乗せ制動分が回生ギャップより小さい値となり、ポイントAでは既に基本液圧分の減速度発生があるため、上乗せ制動分が回生ギャップより小さい値となる。すなわち、目標減速度特性は、基本液圧分の早期発生に応じて上乗せ制動分が回生ギャップより小さい値のままで推移する特性となる。言い換えると、基本液圧分の早期発生により上乗せ制動分が低く抑えられることで、図9の矢印Eのハッチング領域が、回生トルクの制限領域になってしまう。
したがって、ポイントCがポイントAより早過ぎる場合、滑らかな変化による目標減速度を達成する制御にはなるものの、全ブレーキペダルストローク域で回生トルクが制限されることで、ハイブリッド車の場合には、燃費が悪化する。なお、電気自動車の場合には、電費が悪化する。
【0055】
[回生協調ブレーキ制御作用]
ハイブリッド車の場合、制動時において、エンジン車のように制動エネルギーを熱エネルギーとして全て消費するのではなく、制動エネルギーのうちできる限り多くのエネルギーを回生エネルギーとしてバッテリ回収することが燃費向上を図る上で重要である。以下、これを反映する回生協調ブレーキ制御作用を説明する。
【0056】
ブレーキ操作すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25→ステップS26→ステップS27へと進む。そして、ステップS27にて車両非停止状態であると判断されている間は、ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25→ステップS26→ステップS27へと進む流れが繰り返され、回生協調ブレーキ制御を実行する。そして、ステップS27にて車両停止状態であると判断されると、ステップS27からステップS28→エンドへ進み、回生協調ブレーキ制御を終了する。
【0057】
すなわち、ステップS24では、ブレーキペダルストロークセンサ値と、設定あるいは補正された目標減速度特性マップに基づき、ドライバー入力によるブレーキペダルストローク位置に対応する目標減速度が算出される。ステップS25では、そのときのMC圧センサ値に基づいて基本液圧分が決められ、そのときの車速センサ値やバッテリSOCに基づいて可能な限り最大となる回生分が決められる。そして、目標減速度から基本液圧分と回生分を差し引いた残りの減速度分を加圧分により分担するように決められる。ステップS26では、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、回生分に対応する回生分指令値が決定され、回生分指令(ゼロ指令を含む)がモータコントローラ8に出力される。同時に、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、加圧分に対応する加圧分指令値が決定され、加圧分指令(ゼロ指令を含む)がブレーキコントローラ7に出力される。
【0058】
したがって、回生協調ブレーキ制御時には、回生分指令を入力するモータコントローラ8において、回生分を目標回生制動力とし、走行用電動モータ5への回生電流値を決めるフィードフォワード制御により、回生トルク制御が行われる。そして、加圧分指令を入力するブレーキコントローラ7において、加圧分を目標差圧とし、VDCモータ21への回転上昇指令と、両M/Cカットソレノイドバルブ25,26への作動電流値を決めるフィードフォワード制御により、差圧コントロールを行う(図6)。
【0059】
実施例1のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車がブレーキ操作により一定減速度を保って停車するときの回生協調ブレーキ制御作用の一例を、図10のタイムチャートに基づいて説明する。
【0060】
時刻t0から時刻t1までは一定の車速を保ち、ブレーキ操作が開始される時刻t1からマスターシリンダ圧の発生が開始される時刻t2までは、目標減速度が0GからaGまで上昇する。これに対し、目標減速度を、上昇する回生分と、ホイールシリンダ圧の上昇特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。なお、マスターシリンダ圧が発生しないロスストローク(ロッドストローク0mm〜bmm)の領域であるため、基本液圧分の発生は無い。
【0061】
そして、時刻t2にてロスストロークが終了し、マスターシリンダ圧の発生が開始されると、この時刻t2から目標減速度が一定値cGになる時刻t3までは、目標減速度がaGからcGまで上昇する。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の上昇特性による基本液圧分と、上昇する回生分と、ホイールシリンダ圧の低下特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。
【0062】
そして、時刻t3にてロッドストロークがdmmに固定されると、この時刻t3から回生分の制限が開始される車速になる時刻t4までは、目標減速度がcGのまま維持される。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の一定特性による基本液圧分と、そのときの条件で許される最大限の回生分と、ホイールシリンダ圧の一定特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。
【0063】
そして、時刻t4にて回生分の制限が開始されると、この時刻t4から回生分をゼロとする車速になる時刻t5までは、目標減速度がcGのまま維持される。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の一定特性による基本液圧分と、低下特性による回生分と、ホイールシリンダ圧の上昇特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。
【0064】
そして、時刻t5にて回生分がゼロになると、この時刻t5から車両が停止する時刻t6までは、目標減速度がcGのまま維持される。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の一定特性による基本液圧分と、ホイールシリンダ圧の一定特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。なお、この時刻t5〜時刻t6の領域は、回生分がゼロになるため、加圧分(VDC_P/U)による減速度依存が大きくなる。
【0065】
したがって、ブレーキ操作時に実行される回生協調ブレーキ制御では、図10の最上部に目標減速度特性に示すように、全体領域であらわされる制動エネルギーのうち、回生分としての占有領域を回生エネルギー分とし、車載バッテリに回収することができる。
【0066】
[目標減速度特性マップ設定作用]
上記比較例の課題で述べたように、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値は、メカバラツキを原因として設計値からずれてしまうことが避けられない。このため、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値を確認し、目標減速度特性を適切に設定することが必要である。以下、これを反映する目標減速度特性マップ設定作用を説明する。
【0067】
ブレーキペダル11への操作が無いときは、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ブレーキペダル11への操作が開始されるがマスターシリンダ圧の発生が無いロスストローク域の間は、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ロスストローク域を脱してマスターシリンダ圧の発生が開始されると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む。ステップS4では、マスターシリンダ圧の発生開始時のペダルストローク位置が実マスターシリンダ圧発生開始ポイントとして記憶される。次のステップS5では、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントで上乗せ目標制動力が最大値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性が目標減速度特性マップとして設定される。
よって、目標減速度特性マップを設定するに際し、マスターシリンダ圧の発生開始時のペダルストローク位置を検出することで実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが確認される。そして、確認された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、基本液圧分に上乗せする上乗せ目標制動力の最大値(=回生ギャップ)による適切な値に設定されることになる。
【0068】
上記比較例の課題で説明したように、制動系構成要素の製造バラツキや組み付けバラツキ等のメカバラツキを原因として、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より遅れたり早過ぎたりすることがある。しかし、設計値からのズレがどちらの方向に生じていても、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの特性値が、上乗せ目標制動力の最大値(=回生ギャップ)とされる。そして、図11および図12に示すように、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cで上乗せ目標制動力の最大値である回生ギャップだけオフセットした値を特性線上の値とし、ブレーキペダルストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性に設定される。
【0069】
例えば、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBが設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより遅れているときには、図11の対策後目標減速度特性に示すように、ブレーキペダルストロークの全域変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性に設定されることになる。つまり、ゼロストロークからポイントBまでは、回生ギャップまで徐々に立ち上がる曲線を描く特性とされ、ポイントB以降のストローク域は、MC圧による減速度特性に沿って回生ギャップ分の間隔を保ちながら曲線を描く特性とされる。
したがって、図11の対策前目標減速度特性に示すように、ポイントAからポイントBまでのストローク域にてブレーキペダルストロークが進むにもかかわらず、制動目標値の上昇が抑えられることがない。つまり、図11の対策後目標減速度特性に示すように、ポイントAからポイントBまでのストローク域にてブレーキペダルストロークの進みに対し目標減速度が滑らかに上昇し、良好なブレーキフィーリングが達成される。
【0070】
一方、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCが設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより早過ぎるときには、図12の対策後目標減速度特性に示すように、ブレーキペダルストロークの全域変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性に設定されることになる。つまり、ゼロストロークからポイントCまでは、回生ギャップまで徐々に立ち上がる曲線を描く特性とされ、ポイントC以降のストローク域は、MC圧による減速度特性に沿って回生ギャップ分の間隔を保ちながら曲線を描く特性とされる。
したがって、図12の対策前目標減速度特性に示すように、全ストローク域において目標減速度が低く抑えられることがない。つまり、図12の対策後目標減速度特性に示すように、ポイントC以前のストローク域において上乗せ制動力を拡大し、ポイントC以降のストローク域において上乗せ制動力として回生ギャップによる制動力分を残した高い目標減速度とされる。これにより、燃費性能の向上に有効である回生エネルギーの確保が達成される。
【0071】
上記のように、実施例1では、ブレーキ操作時に検出した実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cにおいて回生ギャップによる値を特性線上の値とし、ブレーキペダルストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性に設定する構成を採用した。
この構成により、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値がメカバラツキにより設計値からずれることによる目標減速度の誤差影響が排除される。
したがって、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した目標減速度を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保が達成される。
【0072】
次に、実施例1でのオフセット補正による目標減速度特性の設定手法を説明する。
まず、基準マップ設定部9aにおいて、図13(a)に示すように、設計値ロスストロークに基づき、ブレーキペダルストローク位置の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAを決める。そして、設計値ポイントAにて上乗せ目標制動力の最大値(=回生ギャップ)になるように設定した基準目標減速度特性Gaによる基準マップを、予め設定しておく。そして、目標減速度特性マップ設定部9bにおいて、ペダルストロークセンサ値とMC圧センサ値に基づき、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク位置の実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cを検出する。
【0073】
この検出した実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBが、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより遅いときには、図13(b)に示すように、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように、基準マップ設定部9aから読み込んだ基準目標減速度特性Gaをストローク増大方向にずらすオフセット補正により目標減速度特性Gbを設定する。
【0074】
一方、検出した実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCが、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより早過ぎるときには、図13(c)に示すように、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように、基準マップ設定部9aから読み込んだ基準目標減速度特性Gaをストローク減少方向にずらすオフセット補正により目標減速度特性Gcを設定する。
【0075】
上記のように、実施例1では、基準目標減速度特性Gaを予め記憶設定しておき、基準目標減速度特性Gaをストローク方向にずらすオフセット補正により目標減速度特性Gbや目標減速度特性Gcを設定する構成を採用した。
この構成により、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントにて上乗せ制動分が最大値となるように決めた後、この決めた点を通る特性曲線を実マスターシリンダ圧発生開始ポイント毎に作成したり、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが変化する毎に作成したりというような面倒な処理を要しない。
したがって、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除する目標減速度特性の設定を、基準目標減速度特性Gaのオフセット補正という簡単な処理により行える。
【0076】
[目標減速度特性マップ補正作用]
マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が設計値からずれてしまう原因としては、上記目標減速度特性マップ設定作用で述べたメカバラツキ以外にブレーキ踏み速度の違いがある。このため、目標減速度特性の適切な設定を追求する場合、ブレーキ踏み速度の違いによる影響を排除することが必要である。以下、これを反映する目標減速度特性マップ補正作用を説明する。
【0077】
ブレーキ操作すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23へと進み、ステップS23では、ブレーキペダル踏み込み速度が算出され、ペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正が行われる。この目標減速度特性マップの補正は、設定された目標減速度特性マップが有するペダル踏み込み速度情報と、ステップS23で算出されたペダル踏み込み速度と、が異なるときに行われる。
ここで、ペダル踏み込み速度による補正の考え方は、ペダル踏み込み速度が速いほどマスターシリンダ圧の発生開始タイミングが早期となり、マスターシリンダ圧発生開始ポイントがペダルストロークの低い側に移行する。このため、ペダル踏み込み速度によるストロークの移行量を補正量とする。
【0078】
例えば、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように目標減速度特性Gbが設定されたときには、下記のようにペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正が行われる。
設定された目標減速度特性Gbが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が大であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBまでのロスストロークを短くするようにストローク方向(図14の左方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gb'とされる。逆に、設定された目標減速度特性Gbが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が小であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBまでのロスストロークを長くするようにストローク方向(図14の右方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gb"とされる。
【0079】
例えば、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように目標減速度特性Gcが設定されたときには、下記のようにペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正が行われる。
設定された目標減速度特性Gcが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が大であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCまでのロスストロークを短くするようにストローク方向(図15の左方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gc'とされる。逆に、設定された目標減速度特性Gcが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が小であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCまでのロスストロークを長くするようにストローク方向(図15の右方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gc"とされる。
【0080】
なお、設定された目標減速度特性マップGb,Gcが有するペダル踏み込み速度情報と、ステップS23で算出されたペダル踏み込み速度が一致する、または、両速度差が許容範囲内であるときは、設定された目標減速度特性マップGb,Gcの補正を要さない。
【0081】
上記のように、実施例1では、ブレーキ操作による実マスターシリンダ圧発生開始ポイントを検出する際、そのときのブレーキペダル踏み込み速度を算出し、踏み込み速度情報を有する目標減速度特性マップとして設定する。そして、回生協調ブレーキ制御時、踏み込み速度情報とブレーキペダル踏み込み速度の検出値が異なるとき、目標減速度特性に対し、踏み速度が大であるほど、ロスストロークを短くするようにストローク方向にずらすオフセット補正を行う構成を採用した。
この構成により、メカバラツキの影響を除外した目標減速度特性マップに有する踏み込み速度情報が、ペダル踏み込み速度による影響を除外する目標減速度特性マップの補正に利用されることになる。
したがって、回生協調ブレーキ制御時、メカバラツキの影響を除外した目標減速度特性マップに対する簡単なオフセット補正処理により、メカバラツキの影響とペダル踏み込み速度による影響を共に除外した精度の高い目標減速度特性マップに補正される。
【0082】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車のブレーキ制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0083】
(1) ブレーキ操作に応じたマスターシリンダ圧を発生するマスターシリンダ13と、
前後輪の各輪に設けられ、ホイールシリンダ圧に応じて各輪に液圧制動力を与えるホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRと、
前記マスターシリンダ13と前記ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとの間に介装され、ポンプ用モータ(VDCモータ21)により駆動する液圧ポンプ22,22と、前記ポンプ用モータ(VDCモータ21)の作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁(第1M/Cカットソレノイドバルブ25、第2M/Cカットソレノイドバルブ26)と、を有するブレーキ液圧アクチュエータ(VDCブレーキ液圧ユニット2)と、
駆動輪に連結された走行用電動モータ5に接続され、前記走行用電動モータ5により発生する回生制動力を制御する回生制動力制御手段(モータコントローラ8)と、
ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク検出値と制動目標値特性マップを用いて算出した制動目標値(目標減速度)を、前記マスターシリンダ圧による基本液圧分と、前記回生制動力による回生分と前記ブレーキ液圧アクチュエータ(VDCブレーキ液圧ユニット2)による加圧分のうち少なくとも一方による上乗せ制動分と、の総和で達成する制御を行う回生協調ブレーキ制御手段(回生協調ブレーキ制御部9d、図5)と、
ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値(目標減速度)が、前記上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性(目標減速度特性)を設定する制動目標値特性マップ設定手段(目標減速度特性マップ設定部9b、図4)と、
を備える。
このため、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値(目標減速度)を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成することができる。
【0084】
(2) ブレーキペダルストローク量が設計値ロスストロークに達するストローク位置を設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAとし、該設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAでの制動目標値(目標減速度)を前記上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)とし、ストローク変化に対して滑らかに変化する基準制動目標値特性(基準目標減速度特性)を予め設定しておく基準制動目標値特性マップ設定手段(基準マップ設定部9a)と、を備え、
前記制動目標値特性マップ設定手段(目標減速度特性マップ設定部9b、図4)は、ブレーキペダルストローク量が実ロスストロークに達するストローク位置を実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cとし、前記実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cと前記設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAに位置ずれがあるとき、前記基準制動目標値特性(基準目標減速度特性Ga)の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAをストローク方向にずらして実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cに一致させるオフセット補正により、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性(目標減速度特性Gb,Gc)を設定する(図4のステップS5)。
このため、上記(1)の効果に加え、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除する制動目標値特性(目標減速度特性Gb,Gc)の設定を、基準制動目標値特性(基準目標減速度特性Ga)のオフセット補正という簡単な処理により行えることができる。
【0085】
(3) 前記制動目標値特性マップ設定手段(目標減速度特性マップ設定部9b、図4)は、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出する際、そのときのブレーキペダル踏み込み速度を算出し(図4のステップS5)、踏み込み速度に応じた制動目標値特性マップの補正を行う(図5のステップS23)。
このため、上記(1)または(2)の効果に加え、回生協調ブレーキ制御時、メカバラツキの影響とペダル踏み込み速度による影響を共に除外した精度の高い目標制動値特性マップ(目標減速度特性マップ)に補正することができる。
【0086】
以上、本発明の電動車両のブレーキ制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0087】
実施例1では、制動目標値特性マップ設定手段として、ストロークに対する目標減速度マップを用いる例を示した。しかし、ストロークに対する目標制動力マップ、ストロークに対するドライバー要求減速度マップ、ストロークに対するドライバー要求制動力マップ、等を用いるようにしても良い。さらに、ストロークに対する目標減速度特性を演算式により設定し、逐次、演算値により目標減速度を求めるようにする例としても良い。つまり、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストロークにあらわれるドライバー要求の制動性能を反映する制動目標値特性を設定する手段であれば、特性線によるマップを使う例に限らず、制動目標値特性演算式によるマップを用いた特性設定や特性演算式の補正方法を適用する例としても良い。
【0088】
実施例1では、制動目標値特性マップ設定手段として、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定する例を示した。しかし、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)とのずれが許容範囲内に収まる値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定するようにしても良い。
【0089】
実施例1では、目標減速度特性マップを設定する際、ストロークに対する基準目標減速度特性マップをオフセット補正により設定する例を示した。しかし、ストロークに対する基準目標減速度特性マップの勾配のみを変更して目標減速度特性マップを設定する例としてもよい。また、基準目標減速度特性マップを設定することなく、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度を、上乗せ制動分の最大値域として目標減速度特性を作成するような例としても良い。さらに、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントをブレーキ制動経験により得られた複数のデータに基づき学習補正し、経年変化やブレーキ液温度によるバラツキに対応するようにしても良い。なお、目標減速度特性マップの設定タイミングは、製造オフラインチェック時でも良いし、また、イグニッションキースイッチがオンとなった直後のブレーキ操作時でも良い。
【0090】
実施例1では、ブレーキペダル踏み込み速度に対するマップ補正手法として、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントの検出時における踏み込み速度情報を有する目標減速度特性マップを設定しておく。そして、回生協調ブレーキ制御側での踏み込み速度比較に基づき、設定されている目標減速度特性マップをオフセット補正する例を示した。しかし、目標減速度特性マップ設定部にメモリ容量に余裕がある場合には、複数に分けた踏み込み速度領域毎にそれぞれ目標減速度特性マップを設定しておく例としても良い。この場合、回生協調ブレーキ制御側において、そのときのブレーキ踏み込み速度に応じ、設定されている複数の目標減速度特性マップの中から最適なマップを選択して読み込む。
【0091】
実施例1では、ブレーキ液圧アクチュエータとして、図2に示すVDCブレーキ液圧ユニット2を利用する例を示した。しかし、ブレーキ液圧アクチュエータとしては、VDCモータにより駆動する液圧ポンプと、ポンプ用モータの作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁と、を有するものであれば良い。
【0092】
実施例1では、本発明のブレーキ制御装置を、前輪駆動のハイブリッド車へ適用した例を示した。しかし、後輪駆動のハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、等の電動車両であり、液圧制動力と回生制動力による回生協調ブレーキ制御を行うものであれば、本発明のブレーキ制御装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 ブレーキ液圧発生装置
2 VDCブレーキ液圧ユニット(ブレーキ液圧アクチュエータ)
21 VDCモータ(ポンプ用モータ)
22 液圧ポンプ
25 第1M/Cカットソレノイドバルブ(差圧弁)
26 第2M/Cカットソレノイドバルブ(差圧弁)
3 ストロークセンサ
4FL 左前輪ホイールシリンダ
4FR 右前輪ホイールシリンダ
4RL 左後輪ホイールシリンダ
4RR 右後輪ホイールシリンダ
5 走行用電動モータ
61 プライマリ液圧管
62 セカンダリ液圧管
63 左前輪液圧管
64 右前輪液圧管
65 左後輪液圧管
66 右後輪液圧管
7 ブレーキコントローラ
8 モータコントローラ(回生制動力制御手段)
9 統合コントローラ
9a 基準マップ設定部(基準制動目標値特性マップ設定手段)
9b 目標減速度特性マップ設定部(制動目標値特性マップ設定手段)
9c 目標減速度算出部(回生協調ブレーキ制御手段)
9d 回生協調ブレーキ制御部(回生協調ブレーキ制御手段)
91 バッテリコントローラ
92 車速センサ
93 ブレーキスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車等に適用され、マップを用いて算出された制動目標値を、基本液圧分と上乗せ制動分(回生分と加圧分)の総和で達成する回生協調ブレーキ制御を行う電動車両のブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ブレーキ装置としては、ブレーキペダルストロークやマスターシリンダ圧等によりドライバー入力量を検知し、ドライバー入力量とドライバー要求減速度特性マップを用いてドライバー要求減速度を算出する。そして、算出したドライバー要求減速度を達成すべく、マスターシリンダからの負圧ブースタ出力(基本液圧分)に対し、フィードフォワード制御にて上乗せ制動分を発生させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来装置での上乗せ制動分とは、ドライバー要求減速度に対し、基本液圧分により確保される基本減速度で不足する分を上乗せ分担する減速度のことをいい、回生分と加圧分のうち少なくとも一方により得る。そして、上乗せ制動分の最大値を、最大回生量である回生ギャップにより決め、可能な限り基本液圧分と回生分の総和によりドライバー要求減速度を達成するようにし、基本液圧分と回生分の総和で不足が発生するとき、不足分を加圧分にて補償する制御が回生協調ブレーキ制御である。なお、加圧分は、マスターシリンダとホイールシリンダの間に介装したブレーキ液圧アクチュエータにおいて、差圧弁コントロールとポンプアップ昇圧により、マスターシリンダ圧(基本液圧)より高いホイールシリンダ圧を発生し、両者の差圧(基本液圧からの上乗せ液圧)により得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両用ブレーキ装置にあっては、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの設計値に基づいて、ドライバー入力量に対するドライバー要求減速度特性によるマップを予め設定しておき、このマップを用いてドライバー要求減速度を決めている。このため、車載状態におけるマスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの設計値に対してメカバラツキが発生した場合、予め設定されているドライバー要求減速度特性に違和感が出てしまう。
【0006】
例えば、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が設計値より遅れた場合、ブレーキペダルストロークが進み、制動目標値であるドライバー要求減速度が上昇しなければいけないにもかかわらず、ドライバー要求減速度が上昇しないシーンが生じる。逆に、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が設計値より早過ぎた場合、制動目標値であるドライバー要求減速度が低く抑えられることで、回生トルクが制限されてしまい、燃費や電費が悪化する、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成することができる電動車両のブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両のブレーキ制御装置は、マスターシリンダと、ホイールシリンダと、ブレーキ液圧アクチュエータと、回生制動力制御手段と、回生協調ブレーキ制御手段と、制動目標値特性マップ設定手段と、備える手段とした。
前記マスターシリンダは、ブレーキ操作に応じたマスターシリンダ圧を発生する。
前記ホイールシリンダは、前後輪の各輪に設けられ、ホイールシリンダ圧に応じて各輪に液圧制動力を与える。
前記ブレーキ液圧アクチュエータは、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダとの間に介装され、ポンプ用モータにより駆動する液圧ポンプと、前記ポンプ用モータの作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁と、を有する。
前記回生制動力制御手段は、駆動輪に連結された走行用電動モータに接続され、前記走行用電動モータにより発生する回生制動力を制御する。
前記回生協調ブレーキ制御手段は、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク検出値と制動目標値特性マップを用いて算出した制動目標値を、前記マスターシリンダ圧による基本液圧分と、前記回生制動力による回生分と前記ブレーキ液圧アクチュエータによる加圧分のうち少なくとも一方による上乗せ制動分と、の総和で達成する制御を行う。
前記制動目標値特性マップ設定手段は、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値が、前記上乗せ制動分の最大値になるように、または、前記上乗せ制動分の最大値とのずれが許容範囲内に収まる値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性を設定する。
【発明の効果】
【0009】
よって、制動目標値特性マップを設定するに際し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値が、基本液圧分に上乗せする上乗せ制動分の最大値域(最大値と最大値前後の許容範囲内の値を含む)の適切な値に設定されることになる。
すなわち、制動系構成要素の製造バラツキや組み付けバラツキ等のメカバラツキを原因として、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より遅れたり早過ぎたりすることがある。しかし、設計値からのズレがどちらの方向に生じていても、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの特性値を、上乗せ制動分の最大値域の値とし、ブレーキペダルストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性に設定される。
このため、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より遅れているとき、ブレーキペダルストロークが進むにもかかわらず、制動目標値の上昇が抑えられることがなく、良好なブレーキフィーリングが達成される。
一方、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より早過ぎるとき、制動目標値が低く抑えられることがなく、燃費性能や電費性能の向上に有効である回生エネルギーの確保が達成される。
この結果、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動によるハイブリッド車の構成を示すブレーキシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置におけるVDCブレーキ液圧ユニットを示すブレーキ液圧回路図である。
【図3】実施例1のブレーキ制御装置における回生協調ブレーキ制御系を示す制御ブロック図である。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラの目標減速度特性マップ設定部で実行される目標減速度特性マップ設定処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラの目標減速度算出部および回生協調ブレーキ制御部で実行される回生協調ブレーキ制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の回生協調ブレーキ制御処理で加圧分指令値を決めるときに用いる目標差圧に対する差圧弁への作動電流値の関係特性の一例を示す図である。
【図7】VDCを利用した回生協調ブレーキシステムにより目標減速度(=ドライバー要求減速度)を基本液圧分と回生分と加圧分の総和により達成する回生協調ブレーキ制御でのドライバー入力に対する減速度分担関係の一例を示す制御概念説明図である。
【図8】比較例のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車で実ロスストロークが設計値ロスストロークより大きい場合の基準目標減速度特性マップを用いた回生協調ブレーキ制御作用を示す課題説明図である。
【図9】比較例のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車で実ロスストロークが設計値ロスストロークより小さい場合の基準目標減速度特性マップを用いた回生協調ブレーキ制御作用を示す課題説明図である。
【図10】実施例1のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車がブレーキ操作により一定減速度を保って停車するときの回生協調ブレーキ制御作用の一例を示すタイムチャートである。
【図11】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより大きいメカバラツキでの目標減速度特性マップの設定効果を示すマップ設定効果説明図である。
【図12】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより小さいメカバラツキでの目標減速度特性マップの設定効果を示すマップ設定効果説明図である。
【図13】実施例1の目標減速度特性マップ設定時における(a)基準目標減速度特性と、(b)実ロスストローク>設計値ロスストローク時のオフセット補正による目標減速度特性と、(c)実ロスストローク<設計値ロスストローク時のオフセット補正による目標減速度特性を示すマップ設定作用説明図である。
【図14】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより大きいメカバラツキでのブレーキペダル踏み込み速度に応じた目標減速度特性マップの補正作用を示すマップ補正作用説明図である。
【図15】実施例1のブレーキ制御装置において実ロスストロークが設計値ロスストロークより小さいメカバラツキでのブレーキペダル踏み込み速度に応じた目標減速度特性マップの補正作用を示すマップ補正作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電動車両のブレーキ制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動による電動車両の一例であるハイブリッド車の構成を示し、図2は、ブレーキ液圧アクチュエータの一例であるVDCブレーキ液圧ユニットを示す。以下、図1および図2に基づき、VDCを利用した回生協調ブレーキシステムの構成を説明する。
【0013】
実施例1のブレーキ制御装置のブレーキ減速度発生系は、図1に示すように、ブレーキ液圧発生装置1と、VDCブレーキ液圧ユニット2(ブレーキ液圧アクチュエータ)と、ストロークセンサ3と、左前輪ホイールシリンダ4FLと、右前輪ホイールシリンダ4FRと、左後輪ホイールシリンダ4RLと、右後輪ホイールシリンダ4RRと、走行用電動モータ5と、を備えている。
【0014】
すなわち、既存のVDCシステム(VDCは、「Vehicle Dynamics Control」の略)を利用した回生協調ブレーキシステムによる構成としている。VDCシステムとは、高速でのコーナー進入や急激なハンドル操作などによって車両姿勢が乱れた際、横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を発揮する車両挙動制御(=VDC制御)を行うシステムである。VDC制御では、例えば、旋回挙動がオーバーステア側であると感知すると、コーナー外側の前輪にブレーキをかけ、逆に、旋回挙動がアンダーステア側であると感知すると、駆動パワーを落とすとともに後輪のコーナー内側のタイヤにブレーキをかける。
【0015】
前記ブレーキ液圧発生装置1は、ドライバーによるブレーキ操作に応じた基本液圧分を発生する基本液圧発生手段である。このブレーキ液圧発生装置1は、図1および図2に示すように、ブレーキペダル11と、負圧ブースタ12と、マスターシリンダ13と、リザーブタンク14と、を有する。つまり、ブレーキペダル11に加えられたドライバーのブレーキ踏力を、負圧ブースタ12により倍力し、マスターシリンダ13でマスターシリンダ圧によるプライマリ液圧とセカンダリ液圧を作り出す。このとき、マスターシリンダ圧で発生する減速度が、目標減速度(=ドライバー要求減速度)より小さくなるように予め設計する。
【0016】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキ液圧発生装置1と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとの間に介装される。VDCブレーキ液圧ユニット2は、VDCモータ21(ポンプ用モータ)により駆動する液圧ポンプ22,22を有し、マスターシリンダ圧の増圧・保持・減圧を制御するブレーキ液圧アクチュエータである。そして、VDCブレーキ液圧ユニット2とブレーキ液圧発生装置1とは、プライマリ液圧管61とセカンダリ液圧管62により接続されている。VDCブレーキ液圧ユニット2と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとは、左前輪液圧管63と右前輪液圧管64と左後輪液圧管65と右後輪液圧管66により接続されている。つまり、ブレーキ操作時には、ブレーキ液圧発生装置1により発生したマスターシリンダ圧を、VDCブレーキ液圧ユニット2により加圧し、各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRに加えることで液圧制動力を得るようにしている。
【0017】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2の具体的構成は、図2に示すように、VDCモータ21と、VDCモータ21により駆動する液圧ポンプ22,22と、リザーバー23,23と、マスターシリンダ圧センサ24と、を有する。ソレノイドバルブ類として、第1M/Cカットソレノイドバルブ25(差圧弁)と、第2M/Cカットソレノイドバルブ26(差圧弁)と、保持ソレノイドバルブ27,27,27,27と、減圧ソレノイドバルブ28,28,28,28と、を有する。第1M/Cカットソレノイドバルブ25と第2M/Cカットソレノイドバルブ26は、VDCモータ21の作動時、ホイールシリンダ圧(下流圧)とマスターシリンダ圧(上流圧)の差圧を制御する。
【0018】
前記ストロークセンサ3は、ドライバーによるブレーキペダル操作量をポテンショメータ等により検出する手段である。このストロークセンサ3は、回生協調ブレーキ制御での必要情報である目標減速度(=ドライバー要求減速度)を検出する構成として、既存のVDCシステムに対して追加された部品である。
【0019】
前記各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRは、前後各輪のブレーキディスクに設定され、VDCブレーキ液圧ユニット2からの液圧が印加される。そして、各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧印加時、ブレーキパットによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0020】
前記走行用電動モータ5は、左右前輪(駆動輪)の走行用駆動源として設けられ、駆動モータ機能と発電ジェネレータ機能を持つ。この走行用電動モータ5は、力行時、バッテリ電力を消費しながらのモータ駆動により、左右前輪へ駆動力を伝達する。そして、回生時、左右前輪の回転駆動に負荷を与えることで電気エネルギーに変換し、発電分をバッテリへ充電する。つまり、左右前輪の回転駆動に与える負荷が、回生制動力となる。この走行用電動モータ5が設けられる左右前輪(駆動輪)の駆動系には、走行用電動モータ5以外に、走行用駆動源としてエンジン10が設けられ、変速機11を介して左右前輪へ駆動力を伝達する。
【0021】
実施例1のブレーキ制御装置のブレーキ減速度制御系は、図1に示すように、ブレーキコントローラ7と、モータコントローラ8(回生制動力制御手段)と、統合コントローラ9と、エンジンコントローラ12と、を備えている。
【0022】
前記ブレーキコントローラ7は、統合コントローラ9からの指令とVDCブレーキ液圧ユニット2のマスターシリンダ圧センサ24からの圧力情報を入力する。そして、所定の制御則にしたがって、VDCブレーキ液圧ユニット2のVDCモータ21とソレノイドバルブ類25,26,27,28に対し駆動指令を出力する。このブレーキコントローラ7では、回生協調ブレーキ制御時、統合コントローラ9から加圧分指令を入力すると、ホイールシリンダ圧(下流圧)とマスターシリンダ圧(上流圧)の差圧を制御する。差圧制御は、第1M/Cカットソレノイドバルブ25と第2M/Cカットソレノイドバルブ26への作動電流値による差圧コントロールと、VDCモータ21によるポンプアップ昇圧と、により行われる。なお、ブレーキコントローラ7では、回生協調ブレーキ制御以外に、上記VDC制御やTCS制御やABS制御、等を行う。
【0023】
前記モータコントローラ8は、駆動輪である左右前輪に連結された走行用電動モータ5にインバータ13を介して接続される。そして、回生協調ブレーキ制御時、統合コントローラ9から回生分指令を入力すると、走行用電動モータ5により発生する回生制動力を入力された回生分指令に応じて制御する回生制動力制御手段である。このモータコントローラ8は、走行時、走行状態や車両状態に応じて走行用電動モータ5により発生するモータトルクやモータ回転数を制御する機能も併せ持つ。
【0024】
前記統合コントローラ9は、ブレーキ操作時、目標減速度を、マスターシリンダ圧による基本液圧分と上乗せ制動分(回生制動力による回生分と、VDCブレーキ液圧ユニット2による加圧分と、の少なくとも一方)の総和で達成する回生協調ブレーキ制御を行う。このとき、目標減速度は、ストロークセンサ3からのペダルストロークセンサ値と、設定されている目標減速度特性マップと、に基づいて決める。この統合コントローラ9には、バッテリコントローラ91からのバッテリ充電容量情報、車速センサ92からの車速情報、ブレーキスイッチ93からのブレーキ操作情報、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストローク情報、マスターシリンダ圧センサ24からのマスターシリンダ圧情報、等が入力される。なお、車速センサ92としては、極低車速域までの車速検出が可能な車輪速回転数検出手段が用いられる。
【0025】
図3は、実施例1のブレーキ制御装置における回生協調ブレーキ制御系を示す。以下、図3に基づいて回生協調ブレーキ制御の基本構成を説明する。
実施例1の回生協調ブレーキ制御系は、図3に示すように、ブレーキコントローラ7と、モータコントローラ8と、統合コントローラ9と、を備えている。統合コントローラ9には、基準マップ設定部9a(基準制動目標値特性マップ設定手段)と、目標減速度特性マップ設定部9b(制動目標値特性マップ設定手段)と、目標減速度算出部9c(回生協調ブレーキ制御手段)と、回生協調ブレーキ制御部9d(回生協調ブレーキ制御手段)と、を有する。
【0026】
前記基準マップ設定部9aは、設計値ロスストロークに基づき、ブレーキペダルストローク位置の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントを決める。そして、設計値に基づく基準目標減速度特性によるマップ(基準制動目標値特性マップ)を、予め設定しておくマップ記憶設定部である。
【0027】
前記目標減速度特性マップ設定部9bは、ペダルストロークセンサ値とMC圧センサ値に基づき、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク位置の実マスターシリンダ圧発生開始ポイントを検出する。そして、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントで上乗せ制動分が最大値になるように、基準マップ設定部9aから読み込んだ基準目標減速度特性をストローク方向にずらすオフセット補正することにより作成された目標減速度特性を有する目標減速度特性マップを設定する。
【0028】
前記目標減速度算出部9cは、目標減速度特性マップ設定部9bにて設定された目標減速度特性マップによる目標減速度特性と、ストロークセンサ3からのペダルストロークセンサ値と、に基づき、目標減速度(=ドライバー要求減速度)を算出する。
【0029】
前記回生協調ブレーキ制御部9dは、目標減速度算出部9aにて算出された目標減速度と、マスターシリンダ圧センサ24からのMC圧センサ値と、車速センサ92からの車速センサ値を入力する。そして、MC圧センサ値に基づいて基本液圧分を決め、車速センサ値に基づいて回生分を決め、可能な限り目標減速度を基本液圧分+回生分の総和で達成するようにし、不足が生じたときその不足分を加圧分により補償する回生協調ブレーキ制御演算を行う。この演算結果にしたがって、回生分に対応する回生分指令をモータコントローラ8に出力し、加圧分に対応する加圧分指令をブレーキコントローラ7に出力する。
【0030】
図4は、実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラ8の目標減速度特性マップ設定部9bで実行される目標減速度特性マップ設定処理の構成および流れを示す(目標制動目標値特性マップ設定手段)。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0031】
ステップS1では、マスターシリンダ圧センサ24からのマスターシリンダ圧情報とストロークセンサ3からのペダルストローク量情報を読み込み、ステップS2へ進む。
【0032】
ステップS2では、ステップS1での必要情報の読み込みに続き、ブレーキスイッチ93からのスイッチ信号に基づき、ブレーキペダル操作の有無を判断する。YES(ブレーキペダル操作有り)の場合はステップS3へ進み、NO(ブレーキペダル操作無し)の場合はリターンへ進む。
【0033】
ステップS3では、ステップS2でのブレーキペダル操作有りとの判断に続き、ブレーキペダル操作に基づきマスターシリンダ圧が発生しているか否かを判断する。YES(マスターシリンダ圧発生有り)の場合はステップS4へ進み、NO(マスターシリンダ圧発生無し)の場合はリターンへ進む。
【0034】
ステップS4では、ステップS3でのマスターシリンダ圧発生有りとの判断に続き、マスターシリンダ圧の発生開始時のペダルストローク位置を実マスターシリンダ圧発生開始ポイントとして記憶し、ステップS5へ進む。
【0035】
ステップS5では、ステップS4でのペダルストローク記憶に続き、記憶ストローク時(=実マスターシリンダ圧発生開始ポイント)で上乗せ目標制動力(=上乗せ制動分)が最大値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を目標減速度特性マップとして設定し、リターンへ進む。
このストロークに対する目標減速度特性マップを設定するとき、ブレーキペダル踏み込み速度を算出し、踏み込み速度情報を有する目標減速度特性マップとして設定する。なお、ブレーキペダル踏み込み速度は、ストロークセンサ3からのペダルストロークセンサ値の前回値と今回値の制御周期による単位時間当たりの差分をとる微分演算処理により算出される。
【0036】
図5は、実施例1のブレーキ制御装置における統合コントローラ8の目標減速度算出部9cおよび回生協調ブレーキ制御部9dで実行される回生協調ブレーキ制御処理の構成および流れを示す(回生協調ブレーキ制御手段)。以下、図6の各ステップについて説明する。この回生協調ブレーキ制御処理は、ブレーキ操作開始が判断された時点からスタートする。
【0037】
ステップS21では、ブレーキ操作開始前に停止状態のVDCモータ21をモータ駆動状態にし、ステップS22へ進む。
【0038】
ステップS22では、ステップS21でのモータ駆動、あるいは、ステップS27での車両非停止状態であるとの判断に続き、マスターシリンダ圧センサ24からのマスターシリンダ圧情報と、ストロークセンサ3からのペダルストローク量情報と、車速センサ92からの車速情報と、図4のステップS5にて設定された目標減速度特性マップと、を読み込み、ステップS23へ進む。
【0039】
ステップS23では、ステップS22での必要情報と目標減速度特性マップを読み込みに続き、ブレーキペダル踏み込み速度を算出し、ペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正を行い、ステップS24へ進む。
ここで、目標減速度特性マップの補正は、設定されている目標減速度特性マップが有するペダル踏み込み速度情報と、ステップS23で算出されたペダル踏み込み速度と、が異なるときに行う。つまり、算出されたブレーキペダル踏み込み速度が、ペダル踏み込み速度情報より速くなっているほど、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントまでのロスストロークを短くするようにストローク方向にずらすオフセット補正を施す。なお、目標減速度特性マップが有するペダル踏み込み速度情報と算出されたペダル踏み込み速度が一致するとき、または、両速度差が許容範囲内であるときは、設定されている目標減速度特性マップの補正を要さない。
【0040】
ステップS24では、ステップS23でのペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正に続き、ブレーキペダルストロークセンサ値と、補正後の目標減速度特性マップに基づき、ドライバー入力によるブレーキペダルストローク位置に対応する目標減速度を算出し、ステップS25へ進む。
【0041】
ステップS25では、ステップS24での目標減速度の算出に続き、そのときのMC圧センサ値に基づいて基本液圧分を決め、そのときの車速センサ値やバッテリSOCに基づいて可能な限り最大となる回生分を決める。そして、目標減速度から基本液圧分と回生分を差し引いた残りの減速度分を加圧分により分担するように決める。つまり、目標減速度を基本液圧分+回生分+加圧分の総和で達成する回生協調ブレーキ制御演算を行い、ステップS26へ進む。
【0042】
ステップS26では、ステップS25での回生協調ブレーキ制御演算に続き、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、回生分に対応する回生分指令値を決定し、回生分指令(ゼロ指令を含む)をモータコントローラ8に出力する。同時に、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、加圧分に対応する加圧分指令値を決定し、加圧分指令(ゼロ指令を含む)をブレーキコントローラ7に出力し、ステップS27へ進む。
ここで、モータコントローラ8は、回生分指令を入力すると、回生分を目標回生制動力とし、走行用電動モータ5への回生電流値を決めるフィードフォワード制御により、回生トルク制御を行う。ブレーキコントローラ7は、加圧分指令を入力すると、加圧分を目標差圧とし、図6に示すような関係特性に基づき、両M/Cカットソレノイドバルブ25,26への作動電流値を決めるフィードフォワード制御により、差圧コントロールを行う。
【0043】
ステップS27では、ステップS26での回生分指令と加圧分指令の出力に続き、車速センサ92からの車速センサ値に基づき、車両が停止したか否かを判断する。YES(車両停止状態)の場合はステップS28へ進み、NO(車両非停止状態)の場合はステップS22へ戻る。
【0044】
ステップS28では、ステップS27での車両停止状態であるとの判断に続き、VDCモータ21のモータ駆動を停止し、エンドへ進む。
【0045】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の回生協調ブレーキ制御における課題」の説明を行う。続いて、実施例1のハイブリッド車のブレーキ制御装置における作用を、「回生協調ブレーキ制御作用」、「目標減速度特性マップ設定作用」、「目標減速度特性マップ補正作用」に分けて説明する。
【0046】
[比較例の回生協調ブレーキ制御における課題]
まず、VDCを利用した回生協調ブレーキ制御は、目標減速度に対し、基本液圧分と回生分だけでは補償しきれないシーンが発生すると、VDCブレーキ液圧ユニットによって補償しきれない分の液圧を加圧し、ドライバーの要求減速度を達成する制御である。この回生協調ブレーキ制御を行うためのVDCを利用した回生協調ブレーキシステムを、図7に基づいて説明する。
【0047】
既存のコンベンショナルVDCの場合、ブレーキ操作時に負圧ブースタによる基本液圧分でドライバー要求の目標減速度を得るようにしている。これに対し、ブレーキ操作時に負圧ブースタによる基本液圧分を、目標減速度に達しないように、ドライバー要求の目標減速度からオフセットし、目標減速度の回生ギャップを設定する。このように、最大回生トルクによる回生ギャップを設定することによって、目標減速度の回生ギャップ分が、ドライバー要求の目標減速度に対して不足することになる。よって、最大回生トルク発生時には、ドライバー要求の目標減速度を、負圧ブースタ(基本液圧分)と回生ブレーキ(回生分)により達成し、回生機能を最大限に発揮するようにしている。
【0048】
しかし、例えば、車速条件やバッテリ充電容量条件等により、ドライバー要求の目標減速度に対し、基本液圧分で不足する目標減速度を回生分だけで補償しようとしても、補償することができない場合がある。そこで、ドライバー要求の目標減速度を、図9に示すように、負圧ブースタ(基本液圧分)と回生ブレーキ(回生分)の総和により達成するようにし、不足分をVDCブレーキ液圧ユニット(加圧分)により補償するようにしたのがVDCを利用した回生協調ブレーキシステムである。
【0049】
したがって、既存のコンベンショナルVDCに対し、負圧ブースタの特性変更と、VDCブレーキ液圧ユニットの特性変更と、ストロークセンサの追加を行うだけで、VDCを利用した廉価な回生協調ブレーキシステムを構成することができる。つまり、コンベンショナルVDCの安全機能を拡張(安全機能+回生協調機能)することになる。
【0050】
上記回生協調ブレーキシステムにおいて、図8および図9の実線特性に示すように、設計値ロスストロークに達するストローク位置で目標減速度が回生ギャップの値に一致するように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定したものを比較例とする。
【0051】
ここで、「設計値ロスストロークに達するストローク位置」とは、図8および図9の点線によるMC圧による減速度特性に示すように、設計上のノミナルモデルにてマスターシリンダ圧の発生が開始する設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントの意味である。
また、「回生ギャップ」とは、目標減速度を達成するに際し、MC圧による減速度特性により示される基本液圧分に対して上乗せする上乗せ制動分の乖離量であり、基本液圧分からの乖離量を、回生トルクの最大値により与えているために回生ギャップと呼んでいる。
【0052】
この比較例の場合、車載状態の装置で実ロスストロークに達する実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントに対しずれるメカバラツキが発生した場合、下記に述べるように、目標減速度特性に違和感が出てしまう。
【0053】
(a) マスターシリンダ圧発生開始ポイントが遅れた場合(図8)
実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB(以下、「ポイントB」)が、図7に示すように、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントA(以下、「ポイントA」)より遅れた場合について説明する。
ポイントBに先行するポイントAでの特性値は、基本液圧分(ゼロ)に回生ギャップを加えた値とされ、回生ギャップに応じた目標減速度が得られる。これに対し、ポイントAより遅れて到達するポイントBでの特性値は、ポイントAでの値に基本液圧分の上昇予定分を加えた値とされる。しかし、ポイントAでは、マスターシリンダ圧の発生開始遅れにより、ポイントAと同様に基本液圧分がゼロであるため、ポイントAと同様に、回生ギャップに応じた目標減速度が得られる。すなわち、ブレーキペダルストロークがポイントAからポイントBまで進むときの目標減速度特性は、図8の矢印Dの枠領域内に示すように、回生ギャップに応じた目標減速度を維持する特性となる。言い換えると、ブレーキペダルストロークの進みに応じて目標減速度が上昇しなければいけないにもかかわらず、目標減速度が上昇しないシーンが生じる。
したがって、ポイントBがポイントAより遅い場合、基本液圧分の発生が遅れることで、ポイントA以降のブレーキペダルストローク域で目標減速度を達成することができない。加えて、ブレーキペダルストロークがポイントAとポイントBの間の領域を含んで進んだり戻ったりすると、ブレーキ操作に対し車両減速度が一定になる段付き感が発生し、ペダルフィーリングを損なう。
【0054】
(b) マスターシリンダ圧発生開始ポイントが早過ぎる場合(図9)
実マスターシリンダ圧発生開始ポイントC(以下、「ポイントC」)が、図8に示すように、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントであるポイントAより早過ぎた場合について説明する。
ポイントAに先行するポイントCでの特性値は、基本液圧分(ゼロ)に回生ギャップより小さい値を加えた値とされ、回生ギャップより小さい値に応じた目標減速度が得られる。これに対し、ポイントCから遅れて到達するポイントAでの特性値は、ポイントCでの値から徐々に上昇し、基本液圧分に回生ギャップを加えた値とされ、回生ギャップに応じた目標減速度が得られる。しかし、マスターシリンダ圧の発生開始が早過ぎることにより、ポイントCでは上乗せ制動分が回生ギャップより小さい値となり、ポイントAでは既に基本液圧分の減速度発生があるため、上乗せ制動分が回生ギャップより小さい値となる。すなわち、目標減速度特性は、基本液圧分の早期発生に応じて上乗せ制動分が回生ギャップより小さい値のままで推移する特性となる。言い換えると、基本液圧分の早期発生により上乗せ制動分が低く抑えられることで、図9の矢印Eのハッチング領域が、回生トルクの制限領域になってしまう。
したがって、ポイントCがポイントAより早過ぎる場合、滑らかな変化による目標減速度を達成する制御にはなるものの、全ブレーキペダルストローク域で回生トルクが制限されることで、ハイブリッド車の場合には、燃費が悪化する。なお、電気自動車の場合には、電費が悪化する。
【0055】
[回生協調ブレーキ制御作用]
ハイブリッド車の場合、制動時において、エンジン車のように制動エネルギーを熱エネルギーとして全て消費するのではなく、制動エネルギーのうちできる限り多くのエネルギーを回生エネルギーとしてバッテリ回収することが燃費向上を図る上で重要である。以下、これを反映する回生協調ブレーキ制御作用を説明する。
【0056】
ブレーキ操作すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25→ステップS26→ステップS27へと進む。そして、ステップS27にて車両非停止状態であると判断されている間は、ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25→ステップS26→ステップS27へと進む流れが繰り返され、回生協調ブレーキ制御を実行する。そして、ステップS27にて車両停止状態であると判断されると、ステップS27からステップS28→エンドへ進み、回生協調ブレーキ制御を終了する。
【0057】
すなわち、ステップS24では、ブレーキペダルストロークセンサ値と、設定あるいは補正された目標減速度特性マップに基づき、ドライバー入力によるブレーキペダルストローク位置に対応する目標減速度が算出される。ステップS25では、そのときのMC圧センサ値に基づいて基本液圧分が決められ、そのときの車速センサ値やバッテリSOCに基づいて可能な限り最大となる回生分が決められる。そして、目標減速度から基本液圧分と回生分を差し引いた残りの減速度分を加圧分により分担するように決められる。ステップS26では、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、回生分に対応する回生分指令値が決定され、回生分指令(ゼロ指令を含む)がモータコントローラ8に出力される。同時に、基本液圧分に対する上乗せ目標制動力のうち、加圧分に対応する加圧分指令値が決定され、加圧分指令(ゼロ指令を含む)がブレーキコントローラ7に出力される。
【0058】
したがって、回生協調ブレーキ制御時には、回生分指令を入力するモータコントローラ8において、回生分を目標回生制動力とし、走行用電動モータ5への回生電流値を決めるフィードフォワード制御により、回生トルク制御が行われる。そして、加圧分指令を入力するブレーキコントローラ7において、加圧分を目標差圧とし、VDCモータ21への回転上昇指令と、両M/Cカットソレノイドバルブ25,26への作動電流値を決めるフィードフォワード制御により、差圧コントロールを行う(図6)。
【0059】
実施例1のブレーキ制御装置を搭載したハイブリッド車がブレーキ操作により一定減速度を保って停車するときの回生協調ブレーキ制御作用の一例を、図10のタイムチャートに基づいて説明する。
【0060】
時刻t0から時刻t1までは一定の車速を保ち、ブレーキ操作が開始される時刻t1からマスターシリンダ圧の発生が開始される時刻t2までは、目標減速度が0GからaGまで上昇する。これに対し、目標減速度を、上昇する回生分と、ホイールシリンダ圧の上昇特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。なお、マスターシリンダ圧が発生しないロスストローク(ロッドストローク0mm〜bmm)の領域であるため、基本液圧分の発生は無い。
【0061】
そして、時刻t2にてロスストロークが終了し、マスターシリンダ圧の発生が開始されると、この時刻t2から目標減速度が一定値cGになる時刻t3までは、目標減速度がaGからcGまで上昇する。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の上昇特性による基本液圧分と、上昇する回生分と、ホイールシリンダ圧の低下特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。
【0062】
そして、時刻t3にてロッドストロークがdmmに固定されると、この時刻t3から回生分の制限が開始される車速になる時刻t4までは、目標減速度がcGのまま維持される。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の一定特性による基本液圧分と、そのときの条件で許される最大限の回生分と、ホイールシリンダ圧の一定特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。
【0063】
そして、時刻t4にて回生分の制限が開始されると、この時刻t4から回生分をゼロとする車速になる時刻t5までは、目標減速度がcGのまま維持される。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の一定特性による基本液圧分と、低下特性による回生分と、ホイールシリンダ圧の上昇特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。
【0064】
そして、時刻t5にて回生分がゼロになると、この時刻t5から車両が停止する時刻t6までは、目標減速度がcGのまま維持される。これに対し、目標減速度を、マスターシリンダ圧の一定特性による基本液圧分と、ホイールシリンダ圧の一定特性による加圧分(VDC_P/U)と、により達成する。なお、この時刻t5〜時刻t6の領域は、回生分がゼロになるため、加圧分(VDC_P/U)による減速度依存が大きくなる。
【0065】
したがって、ブレーキ操作時に実行される回生協調ブレーキ制御では、図10の最上部に目標減速度特性に示すように、全体領域であらわされる制動エネルギーのうち、回生分としての占有領域を回生エネルギー分とし、車載バッテリに回収することができる。
【0066】
[目標減速度特性マップ設定作用]
上記比較例の課題で述べたように、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値は、メカバラツキを原因として設計値からずれてしまうことが避けられない。このため、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値を確認し、目標減速度特性を適切に設定することが必要である。以下、これを反映する目標減速度特性マップ設定作用を説明する。
【0067】
ブレーキペダル11への操作が無いときは、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ブレーキペダル11への操作が開始されるがマスターシリンダ圧の発生が無いロスストローク域の間は、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ロスストローク域を脱してマスターシリンダ圧の発生が開始されると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む。ステップS4では、マスターシリンダ圧の発生開始時のペダルストローク位置が実マスターシリンダ圧発生開始ポイントとして記憶される。次のステップS5では、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントで上乗せ目標制動力が最大値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性が目標減速度特性マップとして設定される。
よって、目標減速度特性マップを設定するに際し、マスターシリンダ圧の発生開始時のペダルストローク位置を検出することで実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが確認される。そして、確認された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、基本液圧分に上乗せする上乗せ目標制動力の最大値(=回生ギャップ)による適切な値に設定されることになる。
【0068】
上記比較例の課題で説明したように、制動系構成要素の製造バラツキや組み付けバラツキ等のメカバラツキを原因として、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが設計値より遅れたり早過ぎたりすることがある。しかし、設計値からのズレがどちらの方向に生じていても、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの特性値が、上乗せ目標制動力の最大値(=回生ギャップ)とされる。そして、図11および図12に示すように、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cで上乗せ目標制動力の最大値である回生ギャップだけオフセットした値を特性線上の値とし、ブレーキペダルストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性に設定される。
【0069】
例えば、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBが設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより遅れているときには、図11の対策後目標減速度特性に示すように、ブレーキペダルストロークの全域変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性に設定されることになる。つまり、ゼロストロークからポイントBまでは、回生ギャップまで徐々に立ち上がる曲線を描く特性とされ、ポイントB以降のストローク域は、MC圧による減速度特性に沿って回生ギャップ分の間隔を保ちながら曲線を描く特性とされる。
したがって、図11の対策前目標減速度特性に示すように、ポイントAからポイントBまでのストローク域にてブレーキペダルストロークが進むにもかかわらず、制動目標値の上昇が抑えられることがない。つまり、図11の対策後目標減速度特性に示すように、ポイントAからポイントBまでのストローク域にてブレーキペダルストロークの進みに対し目標減速度が滑らかに上昇し、良好なブレーキフィーリングが達成される。
【0070】
一方、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCが設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより早過ぎるときには、図12の対策後目標減速度特性に示すように、ブレーキペダルストロークの全域変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性に設定されることになる。つまり、ゼロストロークからポイントCまでは、回生ギャップまで徐々に立ち上がる曲線を描く特性とされ、ポイントC以降のストローク域は、MC圧による減速度特性に沿って回生ギャップ分の間隔を保ちながら曲線を描く特性とされる。
したがって、図12の対策前目標減速度特性に示すように、全ストローク域において目標減速度が低く抑えられることがない。つまり、図12の対策後目標減速度特性に示すように、ポイントC以前のストローク域において上乗せ制動力を拡大し、ポイントC以降のストローク域において上乗せ制動力として回生ギャップによる制動力分を残した高い目標減速度とされる。これにより、燃費性能の向上に有効である回生エネルギーの確保が達成される。
【0071】
上記のように、実施例1では、ブレーキ操作時に検出した実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cにおいて回生ギャップによる値を特性線上の値とし、ブレーキペダルストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性に設定する構成を採用した。
この構成により、マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値がメカバラツキにより設計値からずれることによる目標減速度の誤差影響が排除される。
したがって、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した目標減速度を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保が達成される。
【0072】
次に、実施例1でのオフセット補正による目標減速度特性の設定手法を説明する。
まず、基準マップ設定部9aにおいて、図13(a)に示すように、設計値ロスストロークに基づき、ブレーキペダルストローク位置の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAを決める。そして、設計値ポイントAにて上乗せ目標制動力の最大値(=回生ギャップ)になるように設定した基準目標減速度特性Gaによる基準マップを、予め設定しておく。そして、目標減速度特性マップ設定部9bにおいて、ペダルストロークセンサ値とMC圧センサ値に基づき、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク位置の実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cを検出する。
【0073】
この検出した実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBが、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより遅いときには、図13(b)に示すように、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように、基準マップ設定部9aから読み込んだ基準目標減速度特性Gaをストローク増大方向にずらすオフセット補正により目標減速度特性Gbを設定する。
【0074】
一方、検出した実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCが、設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAより早過ぎるときには、図13(c)に示すように、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように、基準マップ設定部9aから読み込んだ基準目標減速度特性Gaをストローク減少方向にずらすオフセット補正により目標減速度特性Gcを設定する。
【0075】
上記のように、実施例1では、基準目標減速度特性Gaを予め記憶設定しておき、基準目標減速度特性Gaをストローク方向にずらすオフセット補正により目標減速度特性Gbや目標減速度特性Gcを設定する構成を採用した。
この構成により、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントにて上乗せ制動分が最大値となるように決めた後、この決めた点を通る特性曲線を実マスターシリンダ圧発生開始ポイント毎に作成したり、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントが変化する毎に作成したりというような面倒な処理を要しない。
したがって、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除する目標減速度特性の設定を、基準目標減速度特性Gaのオフセット補正という簡単な処理により行える。
【0076】
[目標減速度特性マップ補正作用]
マスターシリンダ圧発生開始ポイントの実際値が設計値からずれてしまう原因としては、上記目標減速度特性マップ設定作用で述べたメカバラツキ以外にブレーキ踏み速度の違いがある。このため、目標減速度特性の適切な設定を追求する場合、ブレーキ踏み速度の違いによる影響を排除することが必要である。以下、これを反映する目標減速度特性マップ補正作用を説明する。
【0077】
ブレーキ操作すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23へと進み、ステップS23では、ブレーキペダル踏み込み速度が算出され、ペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正が行われる。この目標減速度特性マップの補正は、設定された目標減速度特性マップが有するペダル踏み込み速度情報と、ステップS23で算出されたペダル踏み込み速度と、が異なるときに行われる。
ここで、ペダル踏み込み速度による補正の考え方は、ペダル踏み込み速度が速いほどマスターシリンダ圧の発生開始タイミングが早期となり、マスターシリンダ圧発生開始ポイントがペダルストロークの低い側に移行する。このため、ペダル踏み込み速度によるストロークの移行量を補正量とする。
【0078】
例えば、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように目標減速度特性Gbが設定されたときには、下記のようにペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正が行われる。
設定された目標減速度特性Gbが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が大であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBまでのロスストロークを短くするようにストローク方向(図14の左方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gb'とされる。逆に、設定された目標減速度特性Gbが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が小であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントBまでのロスストロークを長くするようにストローク方向(図14の右方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gb"とされる。
【0079】
例えば、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCにて上乗せ制動分が最大値の回生ギャップになるように目標減速度特性Gcが設定されたときには、下記のようにペダル踏み込み速度による目標減速度特性マップの補正が行われる。
設定された目標減速度特性Gcが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が大であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCまでのロスストロークを短くするようにストローク方向(図15の左方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gc'とされる。逆に、設定された目標減速度特性Gcが有するペダル踏み込み速度情報よりブレーキペダル踏み込み速度が小であるとき、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントCまでのロスストロークを長くするようにストローク方向(図15の右方向)にずらすオフセット補正をし、目標減速度特性Gc"とされる。
【0080】
なお、設定された目標減速度特性マップGb,Gcが有するペダル踏み込み速度情報と、ステップS23で算出されたペダル踏み込み速度が一致する、または、両速度差が許容範囲内であるときは、設定された目標減速度特性マップGb,Gcの補正を要さない。
【0081】
上記のように、実施例1では、ブレーキ操作による実マスターシリンダ圧発生開始ポイントを検出する際、そのときのブレーキペダル踏み込み速度を算出し、踏み込み速度情報を有する目標減速度特性マップとして設定する。そして、回生協調ブレーキ制御時、踏み込み速度情報とブレーキペダル踏み込み速度の検出値が異なるとき、目標減速度特性に対し、踏み速度が大であるほど、ロスストロークを短くするようにストローク方向にずらすオフセット補正を行う構成を採用した。
この構成により、メカバラツキの影響を除外した目標減速度特性マップに有する踏み込み速度情報が、ペダル踏み込み速度による影響を除外する目標減速度特性マップの補正に利用されることになる。
したがって、回生協調ブレーキ制御時、メカバラツキの影響を除外した目標減速度特性マップに対する簡単なオフセット補正処理により、メカバラツキの影響とペダル踏み込み速度による影響を共に除外した精度の高い目標減速度特性マップに補正される。
【0082】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車のブレーキ制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0083】
(1) ブレーキ操作に応じたマスターシリンダ圧を発生するマスターシリンダ13と、
前後輪の各輪に設けられ、ホイールシリンダ圧に応じて各輪に液圧制動力を与えるホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRと、
前記マスターシリンダ13と前記ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとの間に介装され、ポンプ用モータ(VDCモータ21)により駆動する液圧ポンプ22,22と、前記ポンプ用モータ(VDCモータ21)の作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁(第1M/Cカットソレノイドバルブ25、第2M/Cカットソレノイドバルブ26)と、を有するブレーキ液圧アクチュエータ(VDCブレーキ液圧ユニット2)と、
駆動輪に連結された走行用電動モータ5に接続され、前記走行用電動モータ5により発生する回生制動力を制御する回生制動力制御手段(モータコントローラ8)と、
ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク検出値と制動目標値特性マップを用いて算出した制動目標値(目標減速度)を、前記マスターシリンダ圧による基本液圧分と、前記回生制動力による回生分と前記ブレーキ液圧アクチュエータ(VDCブレーキ液圧ユニット2)による加圧分のうち少なくとも一方による上乗せ制動分と、の総和で達成する制御を行う回生協調ブレーキ制御手段(回生協調ブレーキ制御部9d、図5)と、
ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値(目標減速度)が、前記上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性(目標減速度特性)を設定する制動目標値特性マップ設定手段(目標減速度特性マップ設定部9b、図4)と、
を備える。
このため、回生協調ブレーキ制御時、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除した制動目標値(目標減速度)を設定することにより、良好なブレーキフィーリングと回生エネルギーの確保を達成することができる。
【0084】
(2) ブレーキペダルストローク量が設計値ロスストロークに達するストローク位置を設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAとし、該設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAでの制動目標値(目標減速度)を前記上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)とし、ストローク変化に対して滑らかに変化する基準制動目標値特性(基準目標減速度特性)を予め設定しておく基準制動目標値特性マップ設定手段(基準マップ設定部9a)と、を備え、
前記制動目標値特性マップ設定手段(目標減速度特性マップ設定部9b、図4)は、ブレーキペダルストローク量が実ロスストロークに達するストローク位置を実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cとし、前記実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cと前記設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAに位置ずれがあるとき、前記基準制動目標値特性(基準目標減速度特性Ga)の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントAをストローク方向にずらして実マスターシリンダ圧発生開始ポイントB,Cに一致させるオフセット補正により、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性(目標減速度特性Gb,Gc)を設定する(図4のステップS5)。
このため、上記(1)の効果に加え、マスターシリンダ圧発生開始ポイントのメカバラツキ影響を排除する制動目標値特性(目標減速度特性Gb,Gc)の設定を、基準制動目標値特性(基準目標減速度特性Ga)のオフセット補正という簡単な処理により行えることができる。
【0085】
(3) 前記制動目標値特性マップ設定手段(目標減速度特性マップ設定部9b、図4)は、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出する際、そのときのブレーキペダル踏み込み速度を算出し(図4のステップS5)、踏み込み速度に応じた制動目標値特性マップの補正を行う(図5のステップS23)。
このため、上記(1)または(2)の効果に加え、回生協調ブレーキ制御時、メカバラツキの影響とペダル踏み込み速度による影響を共に除外した精度の高い目標制動値特性マップ(目標減速度特性マップ)に補正することができる。
【0086】
以上、本発明の電動車両のブレーキ制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0087】
実施例1では、制動目標値特性マップ設定手段として、ストロークに対する目標減速度マップを用いる例を示した。しかし、ストロークに対する目標制動力マップ、ストロークに対するドライバー要求減速度マップ、ストロークに対するドライバー要求制動力マップ、等を用いるようにしても良い。さらに、ストロークに対する目標減速度特性を演算式により設定し、逐次、演算値により目標減速度を求めるようにする例としても良い。つまり、ブレーキ操作時、ブレーキペダルストロークにあらわれるドライバー要求の制動性能を反映する制動目標値特性を設定する手段であれば、特性線によるマップを使う例に限らず、制動目標値特性演算式によるマップを用いた特性設定や特性演算式の補正方法を適用する例としても良い。
【0088】
実施例1では、制動目標値特性マップ設定手段として、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定する例を示した。しかし、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度が、上乗せ制動分の最大値(回生ギャップ)とのずれが許容範囲内に収まる値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する目標減速度特性を設定するようにしても良い。
【0089】
実施例1では、目標減速度特性マップを設定する際、ストロークに対する基準目標減速度特性マップをオフセット補正により設定する例を示した。しかし、ストロークに対する基準目標減速度特性マップの勾配のみを変更して目標減速度特性マップを設定する例としてもよい。また、基準目標減速度特性マップを設定することなく、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの目標減速度を、上乗せ制動分の最大値域として目標減速度特性を作成するような例としても良い。さらに、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントをブレーキ制動経験により得られた複数のデータに基づき学習補正し、経年変化やブレーキ液温度によるバラツキに対応するようにしても良い。なお、目標減速度特性マップの設定タイミングは、製造オフラインチェック時でも良いし、また、イグニッションキースイッチがオンとなった直後のブレーキ操作時でも良い。
【0090】
実施例1では、ブレーキペダル踏み込み速度に対するマップ補正手法として、実マスターシリンダ圧発生開始ポイントの検出時における踏み込み速度情報を有する目標減速度特性マップを設定しておく。そして、回生協調ブレーキ制御側での踏み込み速度比較に基づき、設定されている目標減速度特性マップをオフセット補正する例を示した。しかし、目標減速度特性マップ設定部にメモリ容量に余裕がある場合には、複数に分けた踏み込み速度領域毎にそれぞれ目標減速度特性マップを設定しておく例としても良い。この場合、回生協調ブレーキ制御側において、そのときのブレーキ踏み込み速度に応じ、設定されている複数の目標減速度特性マップの中から最適なマップを選択して読み込む。
【0091】
実施例1では、ブレーキ液圧アクチュエータとして、図2に示すVDCブレーキ液圧ユニット2を利用する例を示した。しかし、ブレーキ液圧アクチュエータとしては、VDCモータにより駆動する液圧ポンプと、ポンプ用モータの作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁と、を有するものであれば良い。
【0092】
実施例1では、本発明のブレーキ制御装置を、前輪駆動のハイブリッド車へ適用した例を示した。しかし、後輪駆動のハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、等の電動車両であり、液圧制動力と回生制動力による回生協調ブレーキ制御を行うものであれば、本発明のブレーキ制御装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 ブレーキ液圧発生装置
2 VDCブレーキ液圧ユニット(ブレーキ液圧アクチュエータ)
21 VDCモータ(ポンプ用モータ)
22 液圧ポンプ
25 第1M/Cカットソレノイドバルブ(差圧弁)
26 第2M/Cカットソレノイドバルブ(差圧弁)
3 ストロークセンサ
4FL 左前輪ホイールシリンダ
4FR 右前輪ホイールシリンダ
4RL 左後輪ホイールシリンダ
4RR 右後輪ホイールシリンダ
5 走行用電動モータ
61 プライマリ液圧管
62 セカンダリ液圧管
63 左前輪液圧管
64 右前輪液圧管
65 左後輪液圧管
66 右後輪液圧管
7 ブレーキコントローラ
8 モータコントローラ(回生制動力制御手段)
9 統合コントローラ
9a 基準マップ設定部(基準制動目標値特性マップ設定手段)
9b 目標減速度特性マップ設定部(制動目標値特性マップ設定手段)
9c 目標減速度算出部(回生協調ブレーキ制御手段)
9d 回生協調ブレーキ制御部(回生協調ブレーキ制御手段)
91 バッテリコントローラ
92 車速センサ
93 ブレーキスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じたマスターシリンダ圧を発生するマスターシリンダと、
前後輪の各輪に設けられ、ホイールシリンダ圧に応じて各輪に液圧制動力を与えるホイールシリンダと、
前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダとの間に介装され、ポンプ用モータにより駆動する液圧ポンプと、前記ポンプ用モータの作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁と、を有するブレーキ液圧アクチュエータと、
駆動輪に連結された走行用電動モータに接続され、前記走行用電動モータにより発生する回生制動力を制御する回生制動力制御手段と、
ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク検出値と制動目標値特性マップを用いて算出した制動目標値を、前記マスターシリンダ圧による基本液圧分と、前記回生制動力による回生分と前記ブレーキ液圧アクチュエータによる加圧分のうち少なくとも一方による上乗せ制動分と、の総和で達成する制御を行う回生協調ブレーキ制御手段と、
ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値が、前記上乗せ制動分の最大値になるように、または、前記上乗せ制動分の最大値とのずれが許容範囲内に収まる値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性を設定する制動目標値特性マップ設定手段と、
を備えることを特徴とする電動車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両のブレーキ制御装置において、
ブレーキペダルストローク量が設計値ロスストロークに達するストローク位置を設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントとし、該設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値を前記上乗せ制動分の最大値とし、ストローク変化に対して滑らかに変化する基準制動目標値特性を予め設定しておく基準制動目標値特性マップ設定手段と、を備え、
前記制動目標値特性マップ設定手段は、ブレーキペダルストローク量が実ロスストロークに達するストローク位置を実マスターシリンダ圧発生開始ポイントとし、前記実マスターシリンダ圧発生開始ポイントと前記設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントに位置ずれがあるとき、前記基準制動目標値特性の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントをストローク方向にずらして実マスターシリンダ圧発生開始ポイントに一致させるオフセット補正により、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性を設定することを特徴とする電動車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車両のブレーキ制御装置において、
前記制動目標値特性マップ設定手段は、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出する際、そのときのブレーキペダル踏み込み速度を算出し、踏み込み速度に応じた制動目標値特性マップの補正を行うことを特徴とする電動車両のブレーキ制御装置。
【請求項1】
ブレーキ操作に応じたマスターシリンダ圧を発生するマスターシリンダと、
前後輪の各輪に設けられ、ホイールシリンダ圧に応じて各輪に液圧制動力を与えるホイールシリンダと、
前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダとの間に介装され、ポンプ用モータにより駆動する液圧ポンプと、前記ポンプ用モータの作動時、ホイールシリンダ圧とマスターシリンダ圧の差圧を制御する差圧弁と、を有するブレーキ液圧アクチュエータと、
駆動輪に連結された走行用電動モータに接続され、前記走行用電動モータにより発生する回生制動力を制御する回生制動力制御手段と、
ブレーキ操作時、ブレーキペダルストローク検出値と制動目標値特性マップを用いて算出した制動目標値を、前記マスターシリンダ圧による基本液圧分と、前記回生制動力による回生分と前記ブレーキ液圧アクチュエータによる加圧分のうち少なくとも一方による上乗せ制動分と、の総和で達成する制御を行う回生協調ブレーキ制御手段と、
ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出し、検出された実マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値が、前記上乗せ制動分の最大値になるように、または、前記上乗せ制動分の最大値とのずれが許容範囲内に収まる値になるように、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性を設定する制動目標値特性マップ設定手段と、
を備えることを特徴とする電動車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両のブレーキ制御装置において、
ブレーキペダルストローク量が設計値ロスストロークに達するストローク位置を設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントとし、該設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントでの制動目標値を前記上乗せ制動分の最大値とし、ストローク変化に対して滑らかに変化する基準制動目標値特性を予め設定しておく基準制動目標値特性マップ設定手段と、を備え、
前記制動目標値特性マップ設定手段は、ブレーキペダルストローク量が実ロスストロークに達するストローク位置を実マスターシリンダ圧発生開始ポイントとし、前記実マスターシリンダ圧発生開始ポイントと前記設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントに位置ずれがあるとき、前記基準制動目標値特性の設計値マスターシリンダ圧発生開始ポイントをストローク方向にずらして実マスターシリンダ圧発生開始ポイントに一致させるオフセット補正により、ストローク変化に対して滑らかに変化する制動目標値特性を設定することを特徴とする電動車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車両のブレーキ制御装置において、
前記制動目標値特性マップ設定手段は、ブレーキ操作によりマスターシリンダ圧の発生が開始されるブレーキペダルストローク位置を検出する際、そのときのブレーキペダル踏み込み速度を算出し、踏み込み速度に応じた制動目標値特性マップの補正を行うことを特徴とする電動車両のブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−116425(P2012−116425A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270185(P2010−270185)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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