説明

電動過給機の制御装置

【課題】モータの温度を推定することでモータの過熱による故障を防ぐ電動過給機の制御装置を得る。
【解決手段】エンジン1の吸気通路上に配置されるコンプレッサ21と共に排気通路上にタービン23があり、必要に応じてコンプレッサ21をモータ22により回転させる電動過給機20において、モータ22を冷却するモータ冷却部25があり、モータ冷却部25の入出力温度からモータ冷却熱量を演算し、モータ供給電力とモータ冷却熱量からモータ温度を推定するモータ温度推定部31を備え、モータ温度推定部31の出力に応じてモータ22への供給電力もしくは界磁電流を制御することで電動過給機20を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吸気通路上に設けられた、電動機で駆動される電動過給機を制御する電動過給機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低燃費を目的とし、内燃機関の出力を増加させるために吸気通路上に電動機で駆動する過給機を設ける技術が知られている。この電動機は、タービンとコンプレッサ軸上に配置され、低回転域では電動機、高回転域では排気ガスにより回転するという特徴をもつ。
【0003】
電動過給機で使用される電動機は、10万rpmを超える超高速で回転することに加え、コンプレッサとタービン軸上に配設されることから排気ガスの影響を受けて高温となるため、高温下における電動機の超高速回転により電動機の温度がさらに上昇し、電動機が過熱されることにより故障することを回避することができない。
【0004】
このような電動機の過熱による故障対策として、電動機の供給電力を時間的に積分した値を検出する積算電力検出手段を備え、積算電力検出手段の出力に応じて電動機への供給電力を制御することで電動機の過熱を防ぐ電動過給機の制御システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、電動コンプレッサの回転数を取得するコンプレッサ回転数検出手段と電動コンプレッサの回転数をフィルタ処理することで電動コンプレッサの温度を推定する温度推定手段を備え、温度推定手段から出力された温度が所定の値を超えると電動機の出力を所定量低減することで電動機の過熱を防ぐ電動過給機の制御装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−226155号公報
【特許文献2】特開2007−270766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。特許文献1記載の従来装置に関しては、電動機の供給電力を時間的に積算した値を使用するため、ある時間の供給電力が異常値となった場合、その異常値を使って電動機の温度推定が行われて正しいモータ温度推定ができないという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2記載の従来装置に関しては、電動コンプレッサの回転数を正確に取得しなければ温度推定を行うことができないため、コンプレッサ回転数検出手段が故障すると温度推定ができなくなるという問題点があった。
【0009】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、モータ冷却手段の入出力温度に基づいてモータ冷却熱量を演算し、モータ供給電力と演算したモータ冷却熱量からモータ温度を推定し、モータ温度に応じた電動機の出力制御を行うことで電動機の過熱を防ぐことができる電動過給機の制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電動過給機の制御装置は、吸入空気を圧縮するコンプレッサと、排気ガスにより駆動され前記コンプレッサを回転させる排気タービンと、前記コンプレッサを回転させるモータと、前記モータを駆動するインバータと、前記モータへ冷却媒体を送って前記モータを冷却するモータ冷却部と、前記冷却媒体を前記モータ冷却部から前記モータへ送る第1の通路と、前記冷却媒体を前記モータから前記モータ冷却部へ送る第2の通路とを備えた電動過給機の制御装置において、前記モータの温度を推定するモータ温度推定部と、前記モータ温度推定手段によって推定されたモータ温度に応じた供給電力を前記インバータへ出力するモータ出力制御部とをさらに備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電動過給機の制御装置によれば、モータ冷却手段の入出力温度に基づいてモータ冷却熱量を演算し、モータ供給電力値とモータ冷却熱量からモータ温度を推定し、モータ温度に応じた電動機の出力制御を行うことにより、電動機の過熱を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る内燃機関全体の概略構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置のモータ温度推定部の動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置の別の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の電動過給機の制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0014】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置について図1から図4までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関全体の概略構成を示す図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0015】
図1において、エンジン(内燃機関)1と、エンジンECU(エンジン制御装置)2と、吸入管3と、エアクリーナ4と、後述する電動過給機の上流通路5と、インタークーラ6と、スロットルバルブ7と、インテークマニホールド8と、エキゾーストマニホールド9と、排気浄化装置10と、電動過給機20と、モータ冷却部25と、モータ冷却前オイル導通路(第1の通路)26と、モータ冷却後オイル導通路(第2の通路)27と、モータ温度推定部31と、モータ出力制御部32と、モータ22を駆動するインバータ33とが描かれている。
【0016】
また、電動過給機20は、コンプレッサ21と、モータ22と、排気タービン23とから構成されている。
【0017】
つぎに、この実施の形態1に係る電動過給機の制御装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置の構成を示すブロック図である。図3は、この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置のモータ温度推定部の動作を示すフローチャートである。さらに、図4は、この発明の実施の形態1に係る電動過給機の制御装置の別の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1において、エンジン1は電動過給機20により多くの吸入空気を過給することで、高出力化および低燃費化も実現している。なお、適用されるエンジンは、気筒数の制限はない。また、エンジンの燃焼方式についても制限はなく、シリンダ内に燃料を噴射する直噴エンジンや、スロットルバルブ7の後のインテークマニホールド8内に燃料を噴射するポート噴射エンジンに適用することも可能である。
【0020】
モータ22は、排気ガスにより駆動される排気タービン23とコンプレッサ21の軸上にある。なお、このモータ22は、界磁電流により磁束を発生させて回転する同期電動機である。詳しい動作については後述する。
【0021】
エンジン1において、吸入空気はエアクリーナ4でゴミや塵などを取り除いた後、電動過給機20のコンプレッサ21で吸入空気が圧縮される。その後、圧縮された空気はインタークーラ6に入り、スロットルバルブ7の開度に応じてインテークマニホールド8よりエンジン1内に吸入される。インタークーラ6は、吸入空気が圧縮されることで上昇した温度を下げて充填効率を向上させる目的で配置される。
【0022】
スロットルバルブ7の開度は、エンジンECU2の指令により行われる。エンジンECU2は、エンジン回転数、車速、アクセルペダルの踏込量などの車両運転情報に基づいてエンジン1の制御を行う以外に、モータ22の駆動信号をインバータ33に出力している。なお、エンジンECU2は、図で示されていないが、CPU、ROM、RAMなどの算術論理演算可能な回路で構成される。
【0023】
エンジン1で燃焼後の排気ガスは、エキゾーストマニホールド9を通じて排気タービン23を駆動する。その後、排気ガスを浄化する排気浄化装置10を通じて大気中に排出される。
【0024】
排気タービン23の回転が十分でない、つまり排気タービン23が低速回転の時は、モータ22を駆動させることでコンプレッサ21を回転させ過給圧を上昇させる。一方、排気タービン23が高速回転の時は、排気タービン23の回転のみでコンプレッサ21を回転させる。なお、排気ガスにより十分な回転数が得られる場合は、排気エネルギーを利用した発電による電力回生を行ってもよい。
【0025】
モータ22は、排気タービン23とコンプレッサ21の軸上にあり、高温となる場所に配置されるため、モータ22を冷却するモータ冷却部25がある。このモータ冷却部25は、モータ冷却前オイル導通路26を通じて送ったオイルでモータ22を冷却し、オイルはモータ22を冷却後、モータ冷却後オイル導通路27を通じてモータ冷却部25へ戻され、ここで冷却された後、再びモータ冷却部25から出力される。
【0026】
つづいて、図2を参照しながらモータ温度推定部31及びモータ出力制御部32の動作について説明する。
【0027】
モータ温度推定部31は、モータ冷却前オイル導通路26の温度であるモータ冷却前オイル温度と、モータ冷却後オイル導通路27の温度となるモータ冷却後オイル温度を取得してモータ冷却熱量を演算する。さらに、モータ温度推定マップ31Mを使用してモータ供給電力値と演算したモータ冷却熱量からモータ温度推定を行う。なお、モータ温度推定部31は、CPU、ROM、RAMなどの算術論理演算可能な回路で構成される。
【0028】
モータ出力制御部32は、モータ温度とモータ最大供給電力値の関数から、モータ温度が入力されると、その値に応じたモータ最大供給電力値を演算し、その結果をインバータ33へ出力する。モータ最大供給電力値を設定することで、モータ22の過熱を防ぐ電動過給機20の制御を行うことが可能となる。なお、モータ出力制御部32は、CPU、ROM、RAMなどの算術論理演算可能な回路で構成される。
【0029】
ここで、図3のフローチャートを参照しながら、モータ温度推定部31の具体的な動作に関して説明する。図3は、スタートからエンドまでステップ101からステップ105までを含んでいる。
【0030】
まず、ステップ101において、モータ温度推定部31は、電動過給機20が動作しているか否かを判断する。動作している場合(YES)は、次のステップ102へ進む。一方、動作していない場合(NO)は、電動機制御が不要と判断して制御を終了する。
【0031】
次に、ステップ102において、モータ冷却前オイル導通路26内に設けた温度検出器からモータ冷却前オイル温度を取得するとともに、モータ冷却後オイル導通路27に設けた温度検出器からモータ冷却後オイル温度を取得する。
【0032】
次に、ステップ103において、モータ供給電力値をインバータ33から取得する。
【0033】
次に、ステップ104において、ステップ102で取得したモータ冷却前後のオイル温度から、モータ冷却により得られたモータ冷却熱量を演算する。
【0034】
そして、ステップ105において、モータ温度推定部31は、ステップ103で取得したモータ22への供給電力値と、ステップ104で演算したモータ冷却熱量値からモータ温度推定マップ31Mを使用してモータ温度を演算する。
【0035】
以上のように、モータ冷却部25における冷却前後のオイルの温度からモータ冷却熱量を演算して、モータ供給電力値及び演算したモータ冷却熱量からモータ温度を推定し、モータ温度に応じたモータ出力制御を行うことで、モータ22の過熱による故障を防ぐ電動過給機20の制御装置を実現することが可能となる。
【0036】
なお、本実施の形態では、モータ22の冷却媒体として、冷却オイルを用いたが、この冷却オイルの代わりに、モータ冷却水を使用しても同様の効果を得ることが可能となる。
【0037】
また、本実施の形態では、モータ温度推定部31は、モータ供給電力及びモータ冷却部25の入出力温度に基づいて演算されるモータ冷却熱量を使用したモータ温度推定マップ31Mを使用してモータ温度を出力しているが、各時間におけるモータ冷却熱量からモータ温度上昇率を演算してモータ温度上昇率に応じてモータ出力制御部32を制御しても同様の効果を得ることが可能となる。
【0038】
また、本実施の形態では、モータ出力制御部32は、モータ温度推定部31によって推定されたモータ温度に基づいて一定時間、モータ供給電力を制限するか、もしくはモータ供給電力を段階的に出力しても同様の効果を得ることが可能となる。
【0039】
また、本実施の形態では、モータ出力制御部32は、モータ温度に応じたモータ供給電力を演算して出力しているが、モータ界磁電流を演算して出力しても同様の効果を得ることが可能となる。
【0040】
また、本実施の形態では、モータ出力制御部32は、モータ温度推定部31の出力となるモータ温度に応じてモータ供給電力を演算しているが、モータ温度がある所定の値以上となるとモータ供給電力を停止しても同様の効果を得ることが可能となる。
【0041】
さらに、本実施の形態では、モータ出力制御部32は、図4に示すように、モータ温度推定部31の出力に応じたモータ最大供給電力値をマップ化したモータ最大供給電力マップ32Mを用いてモータ22への供給電力を制御しても同様の効果を得ることが可能となる。
【0042】
この他にも、排気タービン23を除いて、吸気通路上にモータ22とコンプレッサ21のみを配設し、電気エネルギーのみで過給される、いわゆる電動コンプレッサでも良い。
【0043】
以上、本発明をいくつかの実施の形態に関して説明したが、本発明はこれらの実施の形態のみに限られるものではなく、本発明の範囲内においては他に種々の実施の形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0044】
1 エンジン、2 エンジンECU、3 吸入管、4 エアクリーナ、6 インタークーラ、7 スロットルバルブ、8 インテークマニホールド、9 エキゾーストマニホールド、10 排気浄化装置、20 電動過給機、21 コンプレッサ、22 モータ、23 排気タービン、25 モータ冷却部、26 モータ冷却前オイル導通路、27 モータ冷却後オイル導通路、31 モータ温度推定部、32 モータ出力制御部、33 インバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入空気を圧縮するコンプレッサと、
排気ガスにより駆動され前記コンプレッサを回転させる排気タービンと、
前記コンプレッサを回転させるモータと、
前記モータを駆動するインバータと、
前記モータへ冷却媒体を送って前記モータを冷却するモータ冷却部と、
前記冷却媒体を前記モータ冷却部から前記モータへ送る第1の通路と、
前記冷却媒体を前記モータから前記モータ冷却部へ送る第2の通路とを備えた電動過給機の制御装置において、
前記モータの温度を推定するモータ温度推定部と、
前記モータ温度推定手段によって推定されたモータ温度に応じた供給電力を前記インバータへ出力するモータ出力制御部と
をさらに備えたことを特徴とする電動過給機の制御装置。
【請求項2】
前記モータ温度推定部は、前記モータ冷却部の入出力温度に基づいてモータ冷却熱量を演算し、前記モータへの供給電力と前記モータ冷却熱量とからモータ温度を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の制御装置。
【請求項3】
前記モータ温度推定部は、前記モータ冷却熱量に対するモータ温度上昇率を演算し、前記モータ温度上昇率に基づいて前記モータ出力制御部の出力を可変にする
ことを特徴とする請求項2記載の電動過給機の制御装置。
【請求項4】
前記モータ出力制御部は、前記モータ温度推定部によって推定されたモータ温度に基づいて一定時間、モータ供給電力を制限するか、もしくはモータ供給電力を段階的に出力する
ことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の制御装置。
【請求項5】
前記モータ出力制御部は、前記モータ温度推定部のモータ温度推定値に対するモータ最大供給電力をマップ化したモータ最大供給電力マップを有する
ことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の制御装置。
【請求項6】
前記モータ出力制御部は、前記モータ温度推定部のモータ温度推定値が予め定められた所定値を超えた場合には、前記モータへの供給電力を停止させる
ことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の制御装置。
【請求項7】
前記冷却媒体がオイルであり、
前記モータ温度推定部は、前記第1及び第2の通路のオイルの温度差からモータ冷却熱量を演算し、前記モータへの供給電力と前記モータ冷却熱量からモータ温度を推定する
ことを特徴とする請求項2記載の電動過給機の制御装置。
【請求項8】
前記モータが同期電動機であり、
前記モータ出力制御部は、前記モータ温度推定手段によって推定されたモータ温度に応じた界磁電流を前記インバータへ出力する
ことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の制御装置。
【請求項9】
前記モータ出力制御部は、前記モータ温度推定部のモータ温度推定値が予め定められた所定値を超えた場合には、界磁電流の通電を停止させる
ことを特徴とする請求項8記載の電動過給機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−281217(P2010−281217A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132923(P2009−132923)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】