説明

電子デバイス

【課題】改良されたプレーナデバイスを提供する。
【解決手段】電子デバイスは、移動電荷キャリアを支持する基板と、該基板面上に形成されてその両側に第1および第2の基板領域を定義し、該第1および第2の基板領域は該絶縁体によって定義される細長いチャネルによって接続され、該チャネルは該第1の領域から該第2の領域への基板内の電荷キャリア流路を提供し、該第1および該第2の基板領域間の伝導度は、この2つの領域間の電位差に依存する。該基板は有機材料とすることができる。移動電荷キャリアは、0.01cm/Vs〜100cm/Vsの範囲の移動度を有することができ、該電子デバイスはRFデバイスであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレーナデバイスを含む電子デバイスに関する。本発明は、限定されないが、特にナノ電子デバイスに適している。
【背景技術】
【0002】
本発明は、限定されないが、特にナノ電子デバイスに適している。ヨーロッパ特許第0,464,831号には、二次元電子ガス(2DEG)などの二次元電荷キャリア層を用いたトランジスタデバイスが記載されている。二次元電子ガスを形成するには、二次元電荷キャリア層の厚みを電荷キャリアの波長(すなわち、電子波長)よりも小さくし、電荷キャリアの動きを二次元層内に閉じ込めておかなくてはならない。トランジスタは、二次元電荷キャリア層内に横方向電位障壁を構築して形成される。
【0003】
国際公開番号第02/086973号には、ダイオードデバイス(例えば、セルフスイッチング用ダイオード(SSD))の製造方法が記載されており、また、同第06/008467号にはそのSSDは、電圧―電流特性において多少ヒステリシスを持つという意外な結果に基づいて、これを記憶素子として利用する方法が記載されている。図1AはそのようなSSDを形成する半導体層の構造を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1Aはウェハ120’を例示している。ウェハ120’は、変調ドープされたIn0.75Ga0.25As/InP量子井戸構造を有するウェハである。ウェハ120’は、SSDの基板120または記憶素子110の形成に用いられ、少なくとも4つの離散層(discrete layers)120a、120b、120c、120dから形成されるものと考えられる。この内、120a、120bの2層はドープされないInPであり、不純物(すなわちドーパント)によって分離される。
【0005】
第3層120cはドープされないGaInAsで形成される。この層の厚みは、通常、約9nm(すなわち電子波長未満)である。この第3層は、二次元電子ガスに対して量子井戸を提供する。
【0006】
第4層は、ドープされないInPのもう1つの層である。このように、量子井戸の形成に利用される層は、別の半導体である2つの層(120bおよび120d)の間にサンドイッチされている。上部の2層:120aおよび120bは、記憶素子基板面下の量子井戸の深さを定義する。120aおよび120bそれぞれの厚みは、通常20nmであり、従って、二次元電子ガスを含む量子井戸は、基板面下約40nmに形成される。
【0007】
図1Bおよび図1Cはそれぞれ、SSD120の平面図、図1BにおけるC−C断面図である。
【0008】
ウェハ120’が形成されると,次に絶縁体(例えば、絶縁溝)130、132、および134が基板上に形成され、デバイスに機能を提供する。溝130、132、および134は、ナノリソグラフィを用いて形成される。溝130、132、および134は、二次元電子ガス層142よりを通してエッチングされる。
【0009】
これらの溝によって、基板120の上面は2つの領域122および124に分けられる。2つの領域122および124は、溝132と134との間に延在し、かつ、この2つの溝で定義されるチャネル140で接続されている。溝130は、記憶素子120の上面端部まで延在し、上面を2つの離散領域122および124に分離し、チャネル140は、この2つの領域122と124との間に電流路を提供する。
【0010】
チャネル140の幅はWc、長さはLcである。溝すなわちトレンチの幅はWt、基板面下Dtの深さまで延在する。二次元電子ガスの深さは基板面下Dgである。DtはDgより大きい。代表的な大きさとしては、Dgは30nm〜50nmの範囲にある。二次元電子ガスの厚みは、5nm〜10nm(すなわち、電子波長未満)の範囲にある。チャネル幅Wは10nm〜50nmの範囲にある。溝幅Wは10nm〜300nmnの範囲にある。チャネル長さLcは、チャネル幅Wtの3〜4倍、つまり、30nm〜1.2μmの範囲にある。
【0011】
チャネルの伝導度は、領域122と124との間の電位差に依存している(すなわち、このデバイスはダイオードとして機能する)。伝導度が変化するのは、チャネル内の電荷キャリアの横方向空乏領域の変化およびまたは制御によるものである。
【0012】
チャネル140に隣接する第3の領域を定義するように、さらに溝を設けることによって、トランジスタが実現される。この領域に適切な電圧を印加することでも、チャネル側壁に隣接する横方向空乏領域を変更でき、従って、チャネルの導電性も変えられる。
【0013】
本発明の実施形態の目的は、改良されたプレーナデバイスを提供することである。特定の実施形態の目的は、製造の容易なプレーナデバイスと、そのようなデバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様では、本発明は、移動電荷キャリアを支持する基板と、該基板面上に形成されてその両側に第1および第2の基板領域を定義し、該第1および第2の基板領域は該絶縁体によって定義される細長いチャネルによって接続され、該チャネルは該第1の領域から第2の領域への基板内の電荷キャリア流路を提供し、該第1および該第2の基板領域間の伝導度は、この2つの領域間の電位差に依存する絶縁体と、を備え、該基板は有機材料を含むことを特徴とする電子デバイスを提供する。
【0015】
従来、このようなデバイスは無機半導体材料から形成し、チャネル側壁に近接して適切な横方向空乏領域を提供する必要がある、と広く考えられてきた。現在まで、有機材料では明らかな空乏領域の存在が報告されてないために、有機材料はプレーナデバイスの製造には適していないと考えられていた。しかしながら、本発明者は、空乏領域は必要ではなく、有機材料を用いてそのような電子デバイスを首尾よく作成できることを実験によって明らかにした。従来の無機電子デバイスに比較して、有機電子デバイスは低コストで製造でき、パッケージングも簡単であると共に、フレキシブル回路との互換性もある。
【0016】
第2の態様では、本発明は、移動電荷キャリアを支持する基板と、基板面上に形成されてその両側に第1および第2の基板領域を定義し、該第1および第2の基板領域は該絶縁体によって定義される細長いチャネルによって接続され、該チャネルは該第1の領域から第2の領域への基板内の電荷キャリア流路を提供し、該第1および該第2の基板領域間の伝導度は、この2つの領域間の電位差に依存する絶縁体と、を備え、該移動電荷キャリアは、0.01cm/Vs〜100cm/Vsの範囲の移動度を有することを特徴とする電子デバイスを提供する。
【0017】
従来、このような電子デバイスは、高電子移動材料で作る必要があると広く考えられていた。このことは、ナノデバイスを含めた多くの電子デバイスで真実であると考えられているが、本発明者は、上記のような構造を有する電子デバイス(例えば、プレーナナノトランジスタを含むプラーナデバイスなど)では、高電子移動材料を必要とせずに機能させることを実現した。
【0018】
移動電荷キャリアは、少なくとも0.1cm/Vsの移動度を有していてもよい。前記の細長いチャネルは所定の幅であってもよく、こうすることによって、前記細長いチャネルを通して前記移動電荷キャリアの流れを起こすために、前記第1および第2の基板領域間に電圧差を印加すると、該第2の基板領域の電圧は、前記絶縁体を通して、前記細長いチャネル内に存在する空乏領域の大きさに影響を与え、このために、チャネルの伝導度特性は、前記電圧差に依存することになる。
【0019】
このデバイスは、RF信号整流用のダイオードを備えていてもよい。RF信号は0.5MHz〜1GHzの範囲とすることができる。RF信号は0.5MHz〜400MHzの範囲であってもよい。
【0020】
前記移動電荷キャリアは電子であってもよい。
【0021】
前記移動電荷キャリアは正孔であってもよい。
【0022】
前記基板の厚みは20nmを超えてもよい。
【0023】
該デバイスはダイオードとして機能してもよい。
【0024】
該絶縁体は、該チャネルの伝導度を制御する電圧を印加するために、上記細長いチャネルに隣接して、さらに第3の基板領域を定義してもよい。
【0025】
該絶縁体は、該チャネルの伝導度を制御する電圧を印加するために、チャネルを挟んで上記第3の基板領域と反対側に、該細長いチャネルに隣接して、さらに第4の基板領域を定義してもよい。
【0026】
該デバイスはトランジスタとして機能してもよい。
【0027】
前記デバイスは、前記基板を単層内に配置したプレーナデバイスであってもよい。
【0028】
前記単層は、積層構造内の他材料からなる2つの追加層の間にサンドイッチされていなくてもよい。
【0029】
前記単層は該デバイスの外表面を定義してもよい。
【0030】
前記基板は、絶縁基板上に設けられた薄層として形成されてもよい。
【0031】
前記基板は、半導体ポリマ、ポリ(3−ヘキシル)チオフェン(P3HT)、有機低分子材料、ペンタセン、および溶液処理された半導体ナノ粒子およびまたは量子点材料のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。前記絶縁基板は、柔軟紙、ポエチレンテレフタレート(PET)、およびポリエチレンナフタレート(PEN)のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0032】
デバイスはさらに、電圧印加用電気端末を前記各領域にそれぞれ備えてもよい。
【0033】
電子回路は、上記の電子デバイスを少なくとも1つ備えてもよい。
【0034】
該電子回路は、所望のインピーダンスを提供するために、前記第1および第2の基板領域間に並列に配置された前記複数の電子デバイスを備えてもよい。
【0035】
上記電子回路は、RFIDタグを備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
次に本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら例示として説明する。
【0037】
【図1A】公知のセルフスイッチングダイオードの、チャネルエッチング前の層構造を示す斜視図である。
【図1B】チャネルエッチングを施した図1Aの平面図である。
【図1C】二次元電子ガスの位置を示す図1Bの断面図である。
【図2A】絶縁体形成前の本発明の実施形態による電子デバイスの層構造を示す斜視図である。
【図2B】絶縁体形成後の図2Aの平面図である。
【図2C】図2Bの構造断面図である。
【図3A】トランジスタとして構成された本発明の実施形態による電子デバイスの平面図である。
【図3B】本発明の実施形態によるナノトランジスタの原子間力顕微鏡像の斜視図である。
【図3C】図3Bのデバイスにおいて、ゲート電圧(V)を変えたときの、ドレイン−ソース電流(IDS)とドレイン−ソース電圧(VDS)との関係を示すグラフである。
【図4】電子デバイスの無線周波数応答計測実験装置の概略図である。
【図5】GaAs−InP基板上に、約100個の電子デバイスを取り付けたときの走査電子顕微鏡写真である。
【図6】室温中、バイアス電流0および6μAにおける、約100MHz〜110GHz間の電子デバイスの周波数応答を示す。
【図7】マイクロ波を全波整流するための4個のSSDリニアアレイを備えた電子回路を示す概略図である。
【図8】マイクロ波を全波整流するための4個のSSD折り返しアレイを備えた電子回路を示す概略図である。
【図9A】約40のP3HT SSDアレイの電圧−電流曲線を示す。
【図9B】VPP=20Vの正弦波入力電圧に対する、図9AのSSDの周波数応答を示す。
【図10A】PQT12SSDアレイの電圧−電流曲線を示す。
【図10B】VPP=20Vの正弦波入力電圧に対する、図10AのSSDの20MHzまでの周波数応答を示す。
【図10C】入力交流電圧の関数として出力直流電圧を示す。
【図11】(a)は、下部にフォトレジストが存在するホールバーパターンに囲まれた領域における、代表的なP3HT反応面を示す光学顕微鏡像を示し、(b)は、該P3HTの溶剤クロロホルムをキシレンに換えて成功したパターン化プロセスの結果を示す写真である。
【図12】(a)は、P3HTの1μm幅ゲートフィンガパターン列の光学顕微鏡像を示し、(b)は、該ゲートフィンガパターンの1つの拡大像である。
【図13】(a)は、幅10〜40μmのP3HTチャネルを有する代表的な有機薄層トランジスタの光学顕微鏡像を示し、(b)は、幅40μm、長さ9μmのチャネルを有するOTFTの電圧(V)を変化させたときの、ISDとVSDとの関係を示すグラフである。
【図14】ゲート電圧0Vでの、チャネル幅(60μm)で正規化し、チャネル長さの関数としてソース―ドレイン抵抗を表したグラフである。
【図15】P3HT層をパターン化する「サブトラクション」法リソグラフィプロセスを示し、(A)は、スピンコートによって基板上に形成したP3HTを、(B)は、90℃に加温後、P3HT上に形成したフォトレジストS1813を、(C)は、既知のフォトリソグラフィ法と同様の方で、フォトレジストを紫外線照射する状態を、(D)は、フォトレジストが生成した後の状態を、(E)は、キシレン中でのウエットエッチング(Ea)か、あるいは酸素プラズマアッシング(Eb)のいずれかの方法によって、P3HTを除去した状態を、(F)はアセトンまたはメタノールでフォトレジストを除去した後の状態を、それぞれ示す。
【図16】50nm厚のP3HT層に移入されたグリッド状パターンを示す光学顕微鏡像を示し、(A)は、該P3HT層上のパターン化されたフォトレジストを、(B)は10μmP3HTグリッドを、(C)は5μmP3HTグリッドを、(D)は2μmP3HTグリッドを、それぞれ示す。
【図17】(A)は、金抵抗接触を有する10μmP3HTホールバーの顕微鏡グラフを示し、(B)は、中心部の対応するP3HTバーの原子力間顕微鏡像を示す。
【図18】2つのP3HT有機薄層トランジスタ(OTFT)の概略図および伝達特性を示し、(A)は、パターン化されていないOTFTの概略図を示し、(B)は、(A)におけるOTFTの伝達特性を示し、(C)は、紫外線にてP3HT層をパターン化後の、それぞれのデバイスの略図を示し、(D)は、(C)におけるパターン化されたOTFTの伝達特性を、それぞれ示す。
【図19】2つのP3HT OTFTの出力特性を示し、(A)は、パターン化されていないP3HT層を有するOTFTの出力特性を、(B)は、パターン化されたP3HTチャネルを有するOTFTの出力特性を、それぞれ示す。
【図20A】P3HTプレーナトランジスタの電流−電圧特性(VDS=100VにおけるVGSとIDSとの関係)を示す。
【図20B】図20Aのトランジスタの原子間力顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ヨーロッパ特許第0,464,831号に記載されているナノトランジスタなどのプレーナデバイスを実現するには、二次元電子ガス(2DEG)などの二次元電荷キャリアが必要であることは、従来、広く知られていた。2DEGは電子の薄層であり、その電子は、
(i)該2DEG層に対して通常の方向に、単一の、明確に定義された、局在するモード(電子の量子波長の半分)を共有し、
(ii)該層の二次元領域内を自由に移動できる。
移動電荷キャリアが、電子に対抗して正孔の形を取るように、2DHG(二次元正孔ガス)も存在する。
【0039】
ヨーロッパ特許第0,464,831号が広く教示しているにも関らず、本発明では、該プレーナデバイスは、2DEGあるいは2DHGの機能を必要としないですむことを実現した。さらに、プレーナデバイス(例えばナノデバイス)の作動に関する従来の説明は、該チャネルの側壁に近接およびまたは隣接する横方向空乏領域の存在に言及していた。従来技術では、シリコンやGaAsなどの無機半導体の結晶構造が表面状態やトラップに通じてそこで終焉するために、そのような空乏領域が形成される。そのような表面状態やストラップのために、電荷キャリアは側壁に近接することができずに空乏領域が形成される。
【0040】
本発明者は、プレーナデバイスを形成する材料が、そのような自然の空乏領域を提供する必要がないことを実現した。さらに本発明は、プレーナデバイスの製造に適用できる他の材料およびまたは他の製造方法の可能性も開いた。例えば、本発明は、プレーナデバイスの製造に適した材料として、ここに記載するように、SOI(絶縁体上のシリコン)およびP3HT(ポリ(3−ヘキシル)チオフェン)やPQT12(ポリ(3、3’’’―ジアルキル−クォータチオフェン))
【0041】
2DEGや2DHGが必要であるとの考えは、従来技術によるデバイスを、そのようなガスの形成に適した材料の層を含むことに限定してきた。例えば、2DEGや2DHGは、GaAs/AlGaAs、InGaAs/InP、あるいはSi/SiOなどの、2つの異なった材料間の境界面で実現される。
【0042】
そのようなデバイスに関する従来の実験によって、二次元電荷ガスが必要であるとの考えが強化されたように思われる。
【0043】
本発明の実験では、ナノトランジスタなどのデバイスは、移動電荷キャリアを含む層に、明確に定義された狭小なチャネルが必要であることが示された。細長のチャネルの幅は、時には300nm未満であり、通常は、100nm未満である。図1A〜図1Cからわかるように、細長の伝導性チャネルは、溝などの2つの絶縁体(例えば線)の間に定義されている。そのために、エッチング法を用いてプレーナナノトランジスタを製造する場合、伝導性電荷キャリアを含む活性化層の厚みが厚いと、垂直に近い側壁には、明確に定義されたチャネル幅を包含することが要求される。
【0044】
例えば、V字型断面をした2つの平行なトレンチ間に定義されるチャネルは、資料表面に近づくほど幅が狭くなるが、底部では幅が広い。ウェットケミカルエッチング法では殆ど垂直に近い側壁を作ることは困難である。一方、ドライエッチングあるいは反応性イオンエッチング法では、通常、側壁に近接する領域に電子的損傷やキャリアトラップが発生し、デバイス性能に悪影響を与える。
【0045】
しかしながら、2DEGを含む材料が用いられれば、後は該2DEGの底部におけるチャネル幅だけを考慮すればよく、従って、明確に定義されほとんど垂直である側壁を、長い距離に及んで作る必要がなくなる。このように、先行技術による材料およびまたは製造技術から出発して、2DEGを含まないプレーナデバイスを作ろうとする試みは、実際面では多くの困難に遭遇してきた。
【0046】
同様に、先行技術による材料の選択においても、自然の横方向空乏領域はチャネル側壁に近接していなければならないとの考えから、制限されていた。現在までに報告されている有機材料においては、明らかな空乏領域が存在するものはなく、従って、材料選択はやはり、無機材料に限定されている。
【0047】
さらに、高電子移動性材料を含んでいなければ、ほとんどのナノデバイスが機能しないために、ナノデバイスにはそのような材料が必要であると、しばしば考えられてきた。
【0048】
しかしながら、少なくともプレーナデバイスに関しては、そのような表面上の限定は正しくないことを、本発明者は実現した。
【0049】
図3Aおよび図3Bに見られるように、本発明によるトランジスタ(そのサイズが小さいために、ナノトランジスタと呼ばれることがある)は、従来の電界効果トランジスタ(FET)と同じように、電界効果により実際に作動することを、本発明者は実現した。主な相違点は、通常のFETは垂直方向に多層構造をしているが、該プレーナトランジスタは、単一層のデバイスであることである。
【0050】
このようなプレーナデバイスの形成に、自然の空乏領域は必要でないことが実験で証明された。自然の空乏領域がない場合、電荷キャリアが占有するフェルミエネルギーあるいは該エネルギー範囲を、サイドゲート電圧によって調整することができ、従って、チャネル内部に存在するキャリアの数が調整される。こうして、ゲート電圧でチャネル伝導度を調整することによって、増幅あるいはスイッチ機能を提供できる。空乏層を持たないことの欠点の1つは、通常オフのトランジスタ(すなわち、ゲートに電圧が印加されていないときはチャネル伝導度が0であるトランジスタ)を作ることが難しいことである。しかしながら、そのようなデバイあるいは部品を含む有用な回路を作るにあたって、そのことは問題とする必要はない。例えば、GaAs/AlGaAsなどの化学組成半導体に基づく高電子移動性トランジスタ(HEMTs)は、高速通信分野で広範に利用されてきた。
【0051】
ゲート電圧−それは、トランジスタが作動している間、キャリア電荷と同じサインを示す(すなわち、移動電荷キャリアが電子であれば、負のゲート電圧が印加される)−が印加されると、該ゲート電圧は、チャネルの頂部、底部および側壁から、電荷キャリアを奪ってゆく(必ずしも完全にではないが)。電荷キャリアをこうして減らすことは電界効果である。この効果は、電荷キャリアが占有するフェルミエネルギーあるいはエネルギー範囲の減少という言い方でも理解することができ、この減少によって、ソース−ドレイン電流の減少に繋がる。トランジスタが作動する間、キャリア電荷と反対のサインでゲート電圧が印加されると、この電圧によって、フェルミエネルギーの上昇に応じて、チャネルの頂部、底部および側壁からのコンダクタンスは上昇する。
【0052】
図2A〜図3Bを参照しながら、プレーナデバイスの例について説明する。
【0053】
図2Aは、プレーナデバイスの形成に用いられる層構造を示しており、そのプレーナデバイスとは、図2Bおよび図2Cに例示されたSSD220や、図3Aや図3Bに例示されたトランジスタ320などである。
【0054】
図2Aはウェハ220’を示している。該ウェハは、図1Aに示されるウェハ構造と比較すると、比較的簡単な構造をしていることが理解されるであろう。ウェハ220’は、2つの層220aおよび220bの積層物を含んでいる。1つの層220aは移動電荷キャリアを支持する基板である。2番目の層は絶縁基板220bである。この移動電荷キャリアは、その動きを二次元領域に限定されていない(すなわち、移動電荷キャリアは、基板内の各3次元領域のそれぞれの少なくとも2つのモード内に存在できる)。このように、この移動電荷キャリアは二次元ガスを形成しない。
【0055】
図2Bおよび図2Cはそれぞれ,平面図,およびSSD220の図1BにおけるC−C断面図を示している。SSD220は、図1Bに示すSSD120と同じ構造を持つことが平面図よりわかる。実際、SSDを形成する領域の大きさ、チャネル、および溝は、図1Bに示す従来技術によるSSD120について引用される大きさのいずれか、あるいはそのすべてと同じにできる。
【0056】
ウェハ220’が形成されると、絶縁体(例えば、絶縁用の溝)230、232および234がこの基板上に形成されて、デバイスに機能が与えられる。溝230、232、および234は、ナノリソグラフィ法を用いて形成される。溝230、232、および234は、通常、絶縁基板層220bまでエッチングされる。
【0057】
これらの溝は、移動電荷キャリアの上面すなわち基板220を2つの領域222および224に分離する。この2つの領域222および224は、溝232および234との間に延在しこれらの溝によって定義されるチャネル240で接続されている。溝230は、デバイス220の上面の両端まで延在し、該上面を2つの離散領域222および224に分離し、チャネル240がこの2つの表面領域222および224間に電流路を提供している。
【0058】
チャネル240は幅Wc、長さLcである。溝すなわちトレンチは幅がWtであり、基板面下Tの深さまで延在している。通常の大きさとして、Tは1nm〜1μm(すなわち、10nm、20nm、あるいは50nmよりも大きい)、チャネル幅wcは10nm〜500nm、溝幅Wtは10nm〜500nmとすることができる。チャネル長さLcは通常、チャネル幅Wtの3〜4倍であり、30nm〜3μmとすることができる。
【0059】
チャネルの伝導性は、領域222および224の電位差に依存する(すなわち、このデバイスはダイオードとして機能する)。
【0060】
図3Aに示すように、絶縁体(例えば溝)260aを追加してチャネル140に隣接して第3の領域226aを定義することによってトランジスタが実現される。該領域226aに適当な電圧を印加することによって、チャネルの伝導性を変えることができる、すなわち、この領域はトランジスタゲート(ソースあるいはドレインのどちらかとして作用する領域222および224を有する)として作用する。必要であれば、図3Aに示すように、領域226aの反対側のチャネルに隣接して、第4の領域226bを(絶縁体260bによって)定義することができる。該領域に設けられたそれぞれの電極からそれぞれの領域にゲート電圧を印加することによって、該領域のいずれか、あるいは両方ともゲートとして利用される。
【0061】
図3Bは、ここに説明したように形成されて、マークされたゲート、ソース、およびドレイン領域を有するプレーナトランジスタを示しており、図2Bおよび図3Aで示した平行な辺を有する伝導性チャネルの替わりに、「狭小な」チャネルが形成されていることがこの図からわかる。このデバイスは、絶縁基板SiO上のP3HTから形成されており、表面処理は何も施されていない。デバイスを空気中に2日間放置しP3HT層をドープした。このチャネルの幅は約200nm、トレンチ幅(絶縁体の定義に用いられる)は約200nmである。図3Cは、図3Bに示すP3HTプレーナナノトランジスタにおいて、ゲート電圧(V:ボルト)を変えたときの出力特性を示す。この特殊な例において、このデバイスはピンチオフゲート電圧(約9ボルト)を有しており、本デバイスはこれ以下の電圧においてトランジスタとして機能する。
【0062】
ここに記載した該プレーナデバイスは、国際公開第02/086973号あるいは同第06/008467号に記載されている、いずれの特性(サイズを含めて)も備えることができ、あるいはいずれの構造で形成されることができ、あるいはいずれの回路を提供するように形成されることができる。さらに、本デバイスはそのようなデバイスとは違ったサイズとすることができる。例えばチャネル幅や溝幅を大きくするなど。国際公開第02/086973号および同第06/008467号の内容は参照によって本明細書に援用される。
【0063】
図2A〜図3Bに示した例などのプレーナデバイスは、広範な材料から種々の製造方法によって形成できる。例えば、移動電荷キャリア基板は、レジオレギュラーポリ(3−ヘキシチオフェン(P3HT)などの半導体ポリマから形成されて、ナノトランジスタなどのプレーナ有機ナノデバイスとして働く。
【0064】
例えば、P3HTは、空気暴露(光酸化)あるいは既知量の酸素を意図的に導入する方法などで、酸素ドープすることができる。P3HTを化学的にドープする(n-型半導体あるいはp−型半導体のどちらかになる)ことも可能である。P3HTのドーピングの方法および、例えばポリアルキルチオフェンやポリアリルアミンなど、他の多くの有機半導体材料が知られている。適切な絶縁基板としては、酸化シリコンやマイカなどがある。例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)、紙あるいはガラスなどの、フレキシブル絶縁基板も利用される。該絶縁基板の表面は、自己組織化単分子膜(例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)あるいはオクタデシルトリクロロシラン(OTS)から成る層で処理、あるいは、パーフルオロオクチルトリクロロシランなどのフルオロアルキルシラン(FAS)などで処理することができる。しかしながら、機能性デバイスの製造のために、絶縁基板の表面を処理する必要はない。
【0065】
P3HTの正孔伝達モードで、正のゲート電圧を印加するとソース−ドレイン電流は減少し、負のデート電圧を印加するとソース−ドレイン電流は上昇する。電子が移動電荷キャリアとして作用するように基板をドープすると、逆になる。
【0066】
移動電子キャリアを含む層およびまたは基板を形成する伝導性ポリマ層の厚みさは、通常、5nm〜100nmの範囲である。
【0067】
電荷キャリア基板層を形成するこの層は、限定されないが、スピンコート法あるいはスクリーン印刷法を含む広範な溶液処理法で形成される。溶液処理法に適した材料としては、ポリアルキルチオフェンやポリアリルアミン、あるいは置換ポリアルキルチオフェン、置換ポリアリルアミン、置換チエノチオフェン、あるいはオリゴチオフェンなどのオリゴマなどのポリマがある。
【0068】
さらに、電荷キャリア基板の形成に適した伝導性層も、真空蒸着あるいは蒸着で形成される。真空蒸着あるいは蒸着に適した材料は、ペンタセンや、オリゴチオフェンあるいは置換オリゴチオフェンなどのオリゴマなど、低分子材料を用いることができる。
【0069】
こうした層は、厚みを比較的薄くできる(移動電荷キャリア波長に比較して)としても、3次元キャリアシステムを形成することを理解しなければならない。該層の通常の方向には明確に定義された閉じ込めモードがないため、例え層の厚みが5nm未満であっても、2DEGは存在しない。多くの無機半導体に比較して、有機材料ではキャリア移動性が非常に小さく、これはキャリアが頻繁に分散し、あらゆる方向へのキャリア伝達がかなりランダムであることを意味する。さらに、有機材料における電荷キャリア波長は、無機材料(例えば、GaAsでは電子波長は30nmあるいは40nm)と比べると比較的短い(例えば1nm未満)である。
【0070】
2つの絶縁用領域およびまたは絶縁体間に形成された細長のチャネルは、広範な構造で形成される。例えば、この細長のチャネルは、所望するトランジスタの特性に応じて、図3Aに示すように、均一の幅を持つようにもでき、あるいは点接触タイプ(図3B参照)にもできる。
【0071】
移動電荷キャリア基板(例えば該層)は、製造過程で通常カプセル化されず、これは、2DEGおよびまたは2DHGが多層構造内に埋め込まれる2DEGおよびまたは2DHG材料とは異なる。従って、無機半導体を用いる従来ケースよりもリソグラフィは容易である。例えば、図3Bに示すように、層内に機械的にカットされた絶縁トレンチを設けることによって絶縁体を形成できる。
【0072】
図2A〜図2CのSSDに関して、トランジスタ内の絶縁用物質およびまたは絶縁体は、トレンチとして形成する必要はない。他の化学的、熱的、光化学的、あるいは電子化学的方法によって、絶縁体を絶縁性にできる。例えば、該層の選択された領域を、強紫外線、あるいは過度の熱、あるいは伝導性に悪影響を及ぼす特別の化学品などに暴露して、伝導性を破壊または減少させることによって、絶縁ラインを作ることができる。あるいは、トレンチを他の材料、例えば誘電体などで充填することも可能である。
【0073】
先行技術における有機電子が直面する問題の1つは、操作速度が比較的遅い(通常KHあるいはそれ以下)ことであるが、これはキャリア移動性によって基本的に制限されている。小型化がシリコンICの速度を上げるための手段だとしても、標準的な有機薄層トランジスタ(OTFT)は、通常、最小サイズが2〜3μであり、それ以下になると、金属の接点抵抗が優勢となり、垂直の多層OFTF構造を、インクジェット印刷法あるいは他の溶液処理方法を用いて、低コストでまた高スループットも有するように作ることは困難である(インクジェット印刷法では分解限界のために)。
【0074】
複数モールドの調整に限界があるために、そのようなOTFTをナノインプリント技術で製造することも困難である。ここでナノインプリント技術とは、正確に模写されたnm単位の大きさの堅牢なモールドをポリマ薄層にプレスして、ミクロあるいはナノ構造を形成する技術である。ナノインプリント技術に関しては、オースチン(Austin)TX78758−3605の分子インプリントによって発展したものも含めて、種々の異なった技術がある。ナノインプリント技術は、非常に高スループットなプロセスであり、新聞紙印刷などのロール・トゥ・ロールプリントにも応用できる。
【0075】
無線周波数識別すなわちRFIDは、無線を利用して自動的に人あるいは物を識別する技術に対する一般的な用語である。識別にはいくつかの方法があるが、最も一般的なものは、人または物を識別するシリアル番号あるいは恐らくは他の情報を、アンテナに付けられたマイクロチップ(このチップとアンテナを一緒にしてRFIDトランスポンダあるいはRFIDタグと呼ぶ)に記憶する方法である。このアンテナによって、該チップは識別情報を読み手に送信できる。読み手は、RFIDタグから反射された無線電波をコンピュータで処理されるデジタル情報に変換する。
【0076】
RFIDシステムは、アンテナを備えたチップから成るタグと、アンテナを備えたリーダで構成される。リーダは電磁波を送信する。タグアンテナはこの電波を受信するように向きを変える。受動のRFIDタグは、リーダによって作られる場から電力を受けてマイクロチップ回路に電力を供給する。チップはタグから送信された電波を変調してリーダに戻し、リーダはこれをデジタルデータに変換する。RFIDシステムは多くの異なった周波数を利用するが、所謂高周波数(13.56MHz)タグは、金属製の対象物に対しては良く作動し、また、含水量の高い物の周囲で作動可能である。従って、13.56MHzRFIDは、コストが許容可能なレベルまで下がれば大きな市場性を持つと予測される。
【0077】
本発明では、本明細書および国際公開第02/086973号で開示されたような一般的な構成のセルフスイッチングダイオード(SSD)を用いて、有機電子素子における処理速度を、KHzからMHzへと大きく向上させることができた。この処理速度の向上によって、RFIDや、リアルタイム有機ディスプレイあるいはリアルタイムフレキシブルディスプレイ、および有機ベースのメモリなどの、有機電子素子の応用性は大きく向上するであろう。
【0078】
周波数応答あるいはナノデバイスに共通的に影響を与える問題の1つは、端子間に発生する高インピーダンスであり、このために、印加電位の大部分(通常、特徴的なインピーダンス50Ωの終端RFソースによってもたらされる)が反射される。さらに、高インピーダンスによって、寄生キャパシタンスに対して大きな影響を受けやすくなり、通常は、RC応答の長時間化につながる。
【0079】
これとは違って、本発明による2つのターミナルセルフスイッチングダイオードは、プレーナ構造をしているために本来的に、高周波での作動が可能であり、これは、電気接点が表面や背面側(基板側)にはなく、横方向に分離されていることを意味している。このことにより、同じ大きさの従来品と比較して、接点間の寄生キャパシタンスが実質的に小さくなっている。さらに、そのようなSSDの動作メカニズムは、少数キャリア拡散には依存せず、しかも電流方向に沿ったバリア構造は利用されない。通常、従来の半導体ダイオードの処理速度を決めている上記の要因に著しく制限を受けずに、このSSDは非常に高周波で機能する。この周波数は基板依存性が強いが、ここで取り上げる移動性が低い基板に対しては、MHzレベルの動作が可能である(実際に実現された)。
【0080】
本明細書の目的のために、「RFデバイス」とは、少なくともその一部が0.5MHz〜400MHzで作動し、好ましくは0.5MHz〜1GHzで作動するデバイスを指す。
【0081】
多くのナノ構造と同様に、SSDは非常に高いインピーダンス、つまり通常MΩ〜GΩオーダのインピーダンスを有する。SSDが他のナノデバイスと異なる点は、二端子を有するので、多くのSSDを接続するための余計なリソグラフィ工程がいらず、多数のSSDを並列に集積すること、またアレイを形成することが簡単に行えることである。すべてのナノワイヤを1本の線に沿って配置するリニアアレイとすることが可能であるだけではなく、もっとはるかに複雑な構造とすることも可能である。
【0082】
インピーダンスは、材料の移動性とキャリア濃度、および並列に集積されるデバイスの数に依存する。従って、インピーダンスは、被駆動回路に必要な電流に応じて所望の値を選択できる。インピーダンスはスケーラブルであるので、さらに電流が必要な場合には、さらにSSDを単に並列に追加するだけでよい。
【0083】
例えば、200μm×200μmの領域内に−従来のRFIDに比べると非常に小さい領域であるが−少なくとも10,000個のSSDを並列に配置可能である。SSDアレイは十分な電流を生成できるものでなければならない(SSD数に比例して)。必要ならば、1平方mm内に1,000,000個のSSDを、RF特性に重大な影響を与えることなく並列に配置できる。
【0084】
13.56MHzで動作する受動RFIDにおいて、処理速度の点で最も要求される部分は整流素子であり、リーダで生成された場からDC電力を直ちにもらって、マイクロチップ回路に電力を供給する。整流素子は、特に好都合にSSDで構成することができ、さらに重要なことは、以下に示す通り、十分な高速処理が達成されることである。
【0085】
SSDは、RFID中で最も高速処理を要求される部品、従って現在、実現が最も困難であるRFID用の整流素子の製造に単独で用いられるが、有機RFIDの他の電子回路は、従来の垂直構造トランジスタとダイオードを用いるか、あるいはSSDおよびSSDと同様の方法で形成されたトランジスタとを用いてもよく、これらについては、例えば、上記の図3A〜図3C、あるいは国際公開第02/086973号を参照のこと。本発明によって、これらのトランジスタは有機半導体薄層で実現されることが示された。
【0086】
そのようなSSDアレイは、RF整流素子として単独では用いることができないが、RFID中で同様に、重要で高速処理が要求される要素であるRFミキサおよびモジュレータとして用いられる。同じSSDアレイを、信号をリーダに戻すための整流およびRF変調の両方に用いることができる。この応用においては、このSSDは、I−V特性の非直線性および高速処理をベースにして、RF変調素子としても用いられる。
【0087】
材料に関しては、ナノリソグラフィを行うために表面粗さが十分に低く、所望の処理速度を得るために十分移動性が高く、セルフスイッチング効果をバイアスゼロで機能させるために、ある程度のn型あるいはp型ドーピングされている半導体層であれば、セルフスイッチングデバイスは、有機半導体薄層あるいは無機半導体薄層の何れにも形成できる。必要であれば、周囲環境をコントロールしたりカプセル化することで、材料(例えばP3HT)寿命を延ばすことができる。
【0088】
適切な無機材料は、溶液処理された半導体ナノ微粒子(あるいは量子ドット)材料であり、これらはスピンコートあるいはドロップキャストにより層形成される。これらの無機材料は有機材料と同様に容易に用いることができるが、寿命が長く、移動性が良好であり、コントロールし易いことはほとんど間違いない。化学的方法で合成するのでコストも非常に安い。
【0089】
有機半導体には基本的なタイプが2つある。通常、ポリアリルアミンあるいはポリアルキルチオフェン(例えば、ポリ(3−ヘキシチオフェン、P3HT)で代表される半導体ポリマ、および最も研究されしかも最良の、ペンタセンを有する低分子の2つである。P3HTの引例としては、A. Tsumura, H. Koezuka, and T. Ando, Appl. Phys. Lett. Vol. 49, 1210 (1986); H. Sirringhaus, N. Tessler, and R. H. Friend, Science, VoI 280, 1741 (1998)がある。ペンタセンとしては、H. Klauk, M. Halik, U. Zschieschang, G. Schmid, W. Radlik, and W. Weber, J. Appl. Phys. 92, 5259 (2002);D. J. Gundlach, C−C. Kuo, S. F. Nelson, and T. N. Jackson, 57th Annual Device Research Conference (1999), pp. 164−165. J. Collet, O. Tharaud, A. Chapoton, and D. Vuillaume, Appl. Phys. Lett. 76, 1941 (2000). Y. Zhang, J. R. Patta, S. Ambily, Y. Shen, D. C. Ralph, and G. G. Malliaras, Adv. Mater. (Weinheim, Ger.) 15, 1632 (2003)がある。
【0090】
上記の層は絶縁基板上に形成されるが、この絶縁基板としては上記の半導体薄層を受け入れるものであれば何れであってもよい。この中には、ポリ(エチレン)テレフタレート(PET)およびポリ(エチレン)ナフタレート(PEN)などの柔軟な基材が含まれる。しかしながら、本発明はこの材料に限定されない。基板としては、シリコン[A. R. Brown, A. Pomp, C. M. Hart, and D. M. de Leeuw, Science 270, 972 (1995); Y. Y. Lin, A. Dodabalapur, R. Sarpeshkar Z. Bao,W. Li, K. Baldwin, V. R. Raju, and H. E. Katz, Appl. Phys. Lett. 74, 2714 (1999); B. K. Crone, A. Dodabalapur, R. Sarpeshkar, R. W. Filas, Y. Y. Lin, Z. Bao J. H. O’Neill, W. Li, and H. E. Katz, J. Appl. Phys. 89, 5125 (2001],) glass [H. Klauk, D. J. Gundlach, and T. N. Jackson, IEEE Electron Device Lett. 20, 289 (1999); H. Sirringhaus, T. Kawase, R. H. Friend, T. Shimoda, M. Inbasekaran, W. Wu, and E. P. Woo, Science 290, 2123 (2000); H. E. A. Huitema, G. H. Gelinck, J. B. P. H. van der Putten, K. E. Kuijk, K. M. Hart, E. Cantatore, and D. M. de Leeuw, Adv. Mater (Weinheim, Ger.) 14, 1201 (2002)]; polyimide [C. J. Drury, C. M. J. Mutsaers, C. M. Hart, M. Matters, and D. M. de Leeuw, Appl. Phys. Lett. 73, 108 (1998) ; G. H Gelinck, T. C. T. Geuns, and D. M. de Leeuw, Appl. Phys. Lett. 77, 1487 (2000); F. J. Touwslager, N. P. Willard, and D. M. de Leeuw, Appl. Phys. Lett. 81, 4556 (2002)]などがあり、ポリエチレンナフタレート(PEN)としては、[M. G. Kane, J. Campi, M. S. Hammond, F. P. Cuomo, B. Greening, C. D. Sheraw, J. A. Nichols, D. J. Gundlach, J. R. Huang, C. C. Kuo, L. Jia, H. Klauk, and T. N. Jackson, IEEE Electron Device Lett. 21, 534 (2000);C. D. Sheraw, L. Zhou, J. R. Huang, D. J. Gundlach, T. N. Jackson, M. G. Kane, I. G Hill, M. S. Hammond, J. Campi, B. K. Greening, J. Francl, and J. West, Appl. Phys. Lett. 80, 1088 (2002)]などがあり、ポリエチレンテレフタレート(PET)としては、[J. A. Rogers, Z. Bao, A. Dodabalapur, and A. Makhija, IEEE Electron Device Lett. 21, 100 (2000); P. Mach, S. J. Rodriguez, R. Nortrup, P. Wiltzius, and J. A. Rogers, Appl. Phys. Lett. 78, 3592 (2001); J. A. Rogers, Z. Bao, K. Baldwin, A. Dodabalapur, B. Crone, V. R. Raju, V. Kuck, H. Katz, K. Amundson, J. Ewing, and P. Drzaic, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98, 4835 (2001); W. Fix, A. Ullmann, J. Ficker, and W. Clemens, Appl. Phys. Lett. 81, 1735 (2002)]などがあり、ポリカーボネートとしては、[S. K. Park, Y. H. Kim, J. I. Han, D. G. Moon, and W. K. Kim, IEEE Trans. Electron Devices 49, 2008 (2002)]などがあり、柔軟紙としては、[F. Eder, H. Klauk, M. Halik, U. Zschieschang, G. Schmid, and C. Dehm, Appl. Phys. Lett. 84, 2673 (2004)]などがある。
【0091】
本明細書に記載した新規のRFデバイス材料の移動度は、一般的には0.1cm/Vより大きく、現時点ですぐにでも工業的に実現可能である。キャリア濃度が高ければ低移動度でも適しているが、0.01cm/Vより大きい方が好ましい。最大移動度に関しては、現在入手可能な材料をベースにすると100cm/Vとなるのであろうが、将来、よりよい材料が入手できるようになればこの値は上がる。移動度が高くなればなるほど動作速度は速くなる。上記のすべての材料(半導体ポリマ、半導体低分子、および溶液処理無機半導体)に共通の特長は、従来の半導体材料(III−V族シリコン)とは違って、加工、特にスピンコート法、ドロップキャスト法およびシンプルな加熱蒸発法が利用できるために、加工が容易でしかも低コストなことである。このことによって、非常に大面積での大量生産が可能となり低コスト化が図れる。他の特長としては機械的に弾性であること等がある。
【0092】
SSDが従来の有機薄層デバイス(OTFD)と大きく異なる点は、プレーナデバイス構造であるために、製造に必要となるものは、シンプルで複写可能なナノリソグラフィ工程だけである。ただちの効果としては、(a)高精細で多層配列を必要とせず、ナノインプリント技術を用いた高スループット生産が可能であること、(b)ほとんどの配線が有機半導体自身の面内で行われ、金属配線(ゲートコンタクトおよびオーミックコンタクト)がほとんどなしで済む(詳細は後述)ために、接点抵抗の問題によるデバイスの小型化への制限(従って処理速度の制限)がなくなる。
【0093】
上記のとおり、このセルフスイッチングダイオードは、ナノチャネル、つまり代表的には、意図的に不完全とした幾何学対象性を持つ、幅が10’s〜100’s nm程度の、かなり小型のチャネルをベースにしている。従来のダイオードと違って、このSSDは、単にチャネル幅を調整するだけで実質的に0Vから10V以上のまでの所定しきい値電圧を有すことができる。このナノチャネルは通常、半導体薄層を形成する2つの食刻(従って絶縁用)トレンチ間に定義される。トレンチのL字形状によって、ナノチャネルの幾何学的対象性は壊れて、電流がナノチャネだけを流れるようになされている。ワイヤ間に電圧が印加されないときは、トレンチ側壁の表面状態のために、ナノチャネルは大部分が枯渇状態になっている。負電圧を印加すると、ナノチャネル周囲の負電荷によってワイヤ自身をさらに枯渇させ、電流は流れにくくなる。一方、正電圧を印加すると、ナノチャネル周囲の正電荷によってナノチャネル内に電子が誘引されて、電流が流れる伝導性チャネルとなる。このセルフスイッチング機構によってダイオードのように働く。
【0094】
このセルフスイッチングデバイスは、高周波数でも作動する。これはデバイスのプレーナ構造によるものであり、このことは、電気接点が表面や背面側(基板側)にはなく、横方向に分離されていることを意味している。このことによって、同じサイズの従来品垂直デバイスよりも、接点間の寄生キャパシタンスが実質的に小さくなっている。さらに、この新しい動作メカニズムは、少数キャリア拡散には何の依存もせず、しかも電流方向に沿ったバリア構造は利用されない。通常、従来の半導体ダイオードの処理速度を決めている上記の要因に著しく制限を受けずに、このSSDは非常に高周波で機能する。
【0095】
SSDの処理速度をテストするために、最初にInGaAsベースのSSDを用いて実験を行った。この実験で110GHzまでのマイクロ波を検出できたが、これは実験構成で得られる最高周波数であった。1300mV/mwの検出精度を実現したが、これは市販されている通常のマイクロ波ダイオード検出器(1個あたりおよそ1000ポンド)の約3倍である。周波数を100MHzから110GHzへと3桁以上増大させても、マイクロ波検出精度の明らかな低下は見られなかった。これは、今日までに種々のタイプの新規な電子ナノデバイスで報告されている中で最高速度だと思われる。キャリア移動スピードの評価を行った結果、有機半導体を用いてMHzでの作動が実現されることが示され(移動度:0.1cm2/Vs以上)、従って、有機半導体の応用範囲の拡大に際し最も大きな障害となっていたものに対し解決策が提供される。
【0096】
図4は、マイクロ波実験に用いた実験装置の概略図を示す。周波数源および変調器410、コンデンサC、およびコイルLは、バイアスネットワークとして作動し、電圧源Vbiasおよび隣接の10MΩ抵抗器によってDCバイアスが与えられている。
【0097】
図4の右手の原子間力電子顕微鏡像412は、並列接続されたこのSSDの直線配列を示す。多くのナノ構造と同様に、単独のSSDは、通常はMΩオーダの非常に高いインピーダンスを持つこのSSDと、例えばバリスチック整流器や3端子バリスチック接合などの他の新規なナノデバイスとの違いは、SSDが2端子であることであり、このためにSSDは、配線のための余分なリソグラフィを必要とせずに、並列に多数集積したり、アレイ形成が容易に行える。すべてのSSDを一本の線に沿って配置するリニアアレイが可能であるばかりではなく、はるかに複雑な構造とすることもできる。図4は、U字トレンチ(それぞれ2つのL字からなっている)によって、多数のSSDを並列に定義する状況を示している。さらに、図5に示すように、こうしたアレイを必要に応じて折り返すことも可能であり、図5では約100個のSSDが並列に接続されている。このように、大きな面積を、ウェハ全体であっても、作動材料とすることができる。従来のダイオードと異なってプレーナ構造であるために、アレイに対して垂直に入射する自由空間放射に対しても直接結合できる。このような特長は、RFIDなどの実際的な応用におけるマイクロ波整流に非常に有用である。
【0098】
この110GHz実験に用いたSSDは、有機金属気相エピタキシャル成長法(MOVPE)による、変調ドープしたInP/InGaAs/InP量子井戸層のウェハから製造した。量子井戸内の2次元電子ガスは、表面下41nmであった。SSDは、電子ビームリソグラフィと、その後のHBrベースのL字あるいはU字トレンチのウェットエッチングで定義した。SSDのシンプルなプレーナ構造によって、多数の素子からなるアレイの製作も図4の原子間力電子顕微鏡像に示すように、配線層を必要とせずに、簡単な高精細リソグラフィ工程で済む。
【0099】
図6には、検出出力電圧Voutを周波数の関数として示した。第1の曲線は,バイアス電流Ibias=6μAで計測、第2の曲線はバイアス電流なしのものである。計測中、電力は絶えず約280μWに維持した。ここからわかるとおり、周波数依存性において両方の曲線とも同じ形を持っている。これは、実際のデバイスすなわちノイズではなく、計測装置上および基板レイアウト上(すなわちメサ構造およびメタライゼーション)からくるものと考えられる。
【0100】
実験で、周波数が100MHzから110GHz(実験上最大の周波数)へと3オーダ上昇に応じて、SSDによる整流は安定した周波数応答を示した。
【0101】
整流回路は、図4(シンプルなリニアアレイ)あるいは図5(折り返しアレイ)のものとすることができ、必要であれば、半波整流だけでも可能である。全波整流2つのデザインを図7と図8に示す。
【0102】
図7は、SSDの4列アレイに基づくマイクロ波全波整流の概略図を示す。その機能はブリッジ整流器と同じだが、新規の動作原理によってプレーナ構造が可能となり、各アレイ列のSSDは、何の相互配線もなく、接続されている。
【0103】
図8は、4つの折り返しSSDアレイから、マイクロ波の全波整流用整流器を構築する方法を概略的に示している。折り返しSSDアレイによって、多数のSSDを集積して、マイクロ波整流をより効果的に行うことが可能である。この機能はブリッジ整流器と同じであるが、この新規の動作原理によって、プレーナ構造にすることができ、各折り返しアレイのSSDは、何らの相互配線がなく接続可能である。このように、有機半導体層の面積を整流器に変えることができ、RFIDの他の回路を駆動するマイクロ波パワーコンバータとして機能する。このデバイスは、表面の通常の方向から入ってくるマイクロ波を整流できる。また、リーダに返信するマイクロ波を変調するRFIDの非線形部品としても使え、リーダは変調波をデジタルデータに変換する。
【0104】
プレーナ構造によって、SSDアレイの製造にナノインプリント技術を用いることが可能となり、高スループットおよび高精細の効果が得られている。さらにいくつかの大きな部品、電極、およびその他接点などは、正確な配向を必要としないために、レベルを変えたナノインプリント技術あるいは、インクジェットプリントなどの他の標準的な方法のいずれかで製造できる。
【0105】
ナノインプリントは別にして、この分野で標準的に用いられているUVリソグラフィ法も適用できる。シリコン産業で用いられるリソグラフィでは、既に90nmが製造可能照り、SSDの製造に十分である。こうした大量生産への取り組みの利点は、これがCMOSと互換性があることである。しかしながら、生産時に、半導体ポリマ材料を紫外線に暴露させないようにすることも重要になる場合がある。
【0106】
SSDのパターンは、均一な層の上に絶縁トレンチを設けることで形成されるが、他にも絶縁ラインを形成する多くの手段がありえる。例えば、UV照射、熱、機械的あるいは化学的処理などであるが、所望の場所(マスキング)に作動材料を選択的に堆積する方法などもある。
【0107】
無機SSDアレイの処理速度は、少なくとも100GHzのオーダであることが確認されている。キャリア移動における周波数を評価することによって、図7および図8の有機SSDアレイをベースにした整流器は、実験によって証明されたように、適切な有機半導体材料が用いられていれば、MHz周波数で機能する。
【0108】
例えば、P3HTのSSDアレイが1MHzに接近していることは実験で確認された。図9Aおよび9Bはそれぞれ、アレイの電流−電圧曲線と、正弦波ピーク−ピーク入力電圧(Vpp)が20Vの時の、SSD周波数応答を示す。3dB点における周波数応答は約1MHzであることがわかる。このアレイは、約40個のSSDが並列に配置されて(例えば、図4の右側参照)成る。移動電荷を運ぶ基板は、OTS処理された絶縁基板上の、約20nm厚のP3HT層である。これらのSSDは、絶縁体として約50nm幅のトレンチを用いて形成されている。チャネル幅は約850nm、長さは850nmである。デバイスは、空気中に2日間放置した後P3HT層をドーピングした。
【0109】
PQT12のSSDのアレイではもっと良好な性能を示し、少なくとも20MHzに達した。図10A〜図10Cはそれぞれ、アレイの電圧−電流曲線、正弦波ピーク−ピーク入力電圧(Vpp)が20Vの時のSSD周波数応答、および入力電圧ACの関数とした出力電圧DCを、示す。3dBにおける周波数応答は約30MHzであるが、実験における計測はわずか20KHzまで行わなかった。アレイは、並列に配置した10個のSSDから成る。移動電荷キャリアを運ぶ基板は、OTS処理を行った絶縁基板上の、約20nm厚のPQT12の層である。これらのSSDは、絶縁体として約200nm幅のトレンチを用いて形成されている。チャネル幅は約500nm、長さは1μmである。デバイスは、空気中に7日間放置した後PQT12層をドーピングした。
【0110】
このような有機プレーナダイオード(例えばSSD)および上記のトランジスタは、ここに教示した技術を基に、同業者には明らかな、種々の技術を用いて製造できる。本発明では代表的に、3ステッププロセスを用いて上記のデバイスを形成した。
【0111】
最初に、有機半導体材料(移動電荷キャリアを保持する)の層あるいは層を絶縁基板(通常、この第1のステップで電極領域も形成する)上に形成する。次に、有機層をパターン化し(例えば、UVリソグラフィを用いて)、最終リソグラフィステップのための適切なサイズを定義する。これによって、デバイスあるいは領域を、ミクロンオーダにするか、数十ミクロンオーダにするか、ナノリソグラフィに適する大きさで形成する。最後に、AFM(原子間電子顕微鏡)を用いてナノリソグラフィを行い、個々のデバイスの構造を定義する、すなわち、絶縁トレンチを形成して伝導性チャネルを定義する。
【0112】
このデバイスを形成する3ステップの例を詳細に説明する。これらの中で取り上げた材料は単に例示であり、本明細書の他の場所で取り上げた他材料、あるいは、この明細書で教示したこをベースに当業者には明らかとなるような材料も使用可能であることに留意いただきたい。
【0113】
通常、有機半導体材料の最初の層あるいは層を形成する第1の工程について説明する。
【0114】
Atomically flat mica slides (Agar Scientific Ltd.,UK)は、絶縁基板として広く用いられている。試料をアセトンおよびメタノール(試薬グレード、Aldrich)で脱脂後、超純水(Millipore、Q、Rs>18MΩcm)で数回洗浄し、最後に純水窒素下で乾燥させる。次に、50〜75nm厚の金層(99.99%、Goodfellow)アレイをフォトリソグラフィと用いて定義し電極形成用に隆起させる。通常、電極間のチャネル長さは通常、L=8μm,チャネル幅W=80μmである。
【0115】
次に、例えば、5重量%の1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(HMDS、99.9%、Aldrich社)のトルエン(HPLC(高速液体クロマトグラフィ)グレード、Aldrich社)溶液中に、70℃、3時間、上記の洗浄基板上を浸漬して、あるいは、1mMオクタデシルトリクロロシラン(OTS、90+%、Aldrich社)のシクロヘキサン(HPLCグレード、Aldrich社)溶液中に上記の洗浄基板上を浸漬して、それぞれHMDSやOTSなどの自己組織化単分子膜(SAMs)を形成する。SAMsは、安定で、整然とした、強固な層を形成する[L. Houssiau, P. Bertrand, Applied Surface Science, 203−204, 580 (2003)]。OTS処理は、SAM形成のしきい値温度Tc(OTSのTcはほぼ28℃)以下で行うことが重要である。Tc以下の時のみ整然としたモノレイヤが形成される[J. Duchet, B. Chabert, J. P. Chapel, J. F. Gerard, J. M. Chovelon, N. Jaffrezic−Renault, Langmuir, 13, 2271 (1997)]。従って、非常に緻密なモノレイヤを、SAMの堆積時間をある程度短縮させて調整するには、5度に冷却したシラン化溶液中に60分間浸漬する。次に、SAM処理に応じて改質した基板を、新鮮なトルエン中(HMDS改質サンプル)、あるいはシクロヘキサン中(OTS改質サンプル)で洗浄し、純水窒素下で乾燥後100℃ホットプレーと上で20分間ベーキングし、シラン化反応を完了させる。
【0116】
次に、所望の有機半導体層、すなわちレジオレギュラポリ(3−ヘキシルチオフェン)−2,5−ジイル(P3HT、Aldrich社)、あるいはレジオレギュラ(3、3’’’−ジアルキル−クアテルチオフェン)3(PQT)層を形成する[BENG S. ONG, YILIANG WU, AND PING LIU, PROCEEDINGS OF THE IEEE, VOL. 93, NO. 8, AUGUST 2005]。P3HTでは、1,2,4―トリクロロベンゼン(TCB、無水グレード、Aldrich社)の10g/L溶液を、空気中で、2000rpm、120秒間にてスピンコートする。TCBからポリマを処理すれば、フォトリソグラフィや材料の隆起およびまたはエッチング処理を行っても、活性層の電気特性には影響を与えず、半導体はダメージを受けずにパターン化できることがわかった。最後に、P3HT層を、窒素でわずか加圧下、100℃で1時間アニール処理する。
【0117】
移動電荷キャリアの伝達に適切な層が形成されると、次にフォトリソグラフィ(すなわち第2のステップ)を用いて、ミクロンオーダ、数十ミクロンオーダの領域を定義する。従来のフォトリソグラフィを使用できるが、デバイス性能の向上および処理中における有機半導体へのダメージを避けるためには、本発明によるフォトリソグラフィの新規な2つの方法が用いられる。その内の1つは、本明細書で「リフトオフ技術」と呼ぶもので、他方は「サブトラクト技術」と呼ぶものである。どちらも第2ステップとして用いることができる。
【0118】
最初に「リフトオフ技術」、次に「サブトラクト技術」について説明を行う。このようなフォトリソグラフィ技術は、上記のプレーナ技術の製造に用いられるばかりでなく、通常のOTFTの製造にも使えることは理解されるであろう。これらの技術が広範に応用されることを示すために、リフトオフ技術およびサブトラクト技術の両方について、OTFTの製造を参照にして説明する。
【0119】
実際に応用するためには、トランジスタチャネルを設け、OTFTへの要求速度を上げるために(現在はわずかKHzレベルあるいはそれ以下)ゲートサイズを小さくし、クロストークを防ぐために個々のデバイスを分離し、またオンオフ比を向上させることが重要である。参照: S. Holdcroft, Adv. Mater. {13}, 1753 (2001); I. Kymissis, C. D. Dimitrakopoulos, and S Purushothaman, J. Vac. Sci. Technol. B {20}, 956 (2002)この要件を満たすために、有機半導体のパターン化について、スクリーン印刷やインクジェット、ソフトリソグラフィスタンプ、および光化学架橋法などのいくつかの方法が開発されている。参照:Z. Bao, Y. Feng, A. Dodabalapur, V. R. Raju, and A. J. Lovinger, Chem. Mater. {9}, 1299 (1997); S. C. Chang, Y. Bharathan, Y. Yang, R. Helgeson, F. Wudl, M. B. Ramey, and J. R. Reynolds, Appl. Phys. Lett., 2561 (1998); T. R. Hebner, C. C. Wu, D. Marcy, M. H. Lu, and J. C. Sturm, Appl. Phys. Lett., 519 (1998); J. A. Rogers, Z. Bao, A. Makhijia, and P. Braun, Adv. Mater. {11}, 741 (1999); F. J. Touwslager, N. P. Willard, and D. M. de Leeuw, Appl. Phys. Lett., 4556 (2002)
【0120】
これらの方法にもかかわらず、今日までに報告されているOTFTの伝導性ポリマは、パターン化できないときがあり、この原因としては、適用可能な、標準化されていない装置や方法がないことによるものが多い。将来の有機半導体に対しては、ジェット印刷が最も有望なものの1つではあるがそれでも、達成可能な形状サイズは液滴サイズで制限されており、通常は数十ミクロンである。参照: J. R. Sheats, J. Mater. Res. {19}, 1974 (2004)
【0121】
UVフォトリソグラフィは十分に確立されたCMOS技術であり、現代シリコンチップに関して、GHz範囲のクロック速度で作動する膨大な数のトタンジスタの生産に用いられてきた。十分に研究されているポリ(3−ヘキシルチオフェン)(3PHT)などの共役ポリマのパターン化に、この高スループット技術を利用する研究は、今日までほとんど報告されていない。参照:A. Tsumura, H. Koezuka, and T. Ando, Appl. Phys. Lett., 1210 (1986); H. Sirringhaus, N. Tessler, and R. H. Friend, Science, 1741 (1998)それは両立できないか、あるいは非常に困難であると考えられてきた。参照:Z. L. Li, S. C. Yang, H. F. Meng, Y. S. Chen, Y. Z. Yang, C. H. Liu, S. F. Horng, C. S. Hsu, L. C. Chan, J. P. Hu, and R. H. Lee, Appl. Phys. Lett., 3558 (2004)共役ポリマは結合が弱いために、UV照射によって材料の電子的特性が著しく損なわれる。参照:J. Ficker, H. von Seggern, H. Rost, W. Fix, W. Clemens, and I. McCulloch, Appl. Phys. Lett. {85}, 1377 (2004)伝導性ポリマと溶剤、あるいはフォトリソグラフィに用いられる他の物質との化学反応も起こる可能性がある。参照:M. Halik, H. Klauk, U. Zschieschang, T. Kriem, G. Schmid, and W. Radlik, Appl. Phys. Lett. {81}, 289 (2002)最近、AustinとChouが、P3HT層をパターン化する間接的な方法を開発した。SiOの層をP3HTの層に直接蒸着し、フォトリソグラフィでこのSiO層をパターン化してエッチマスクを作る。所望の領域のSiOとP3HTを、CFHによる化学エッチングによって除去するとパターン転写が終了する。参照:M. D. Austin and S. Y. Chou, Appl. Phys. Lett. {81}, 4431 (2002)
【0122】
以下に説明する新規な技術では、P3HT層と他の伝導性ポリマ層をフォトリソグラフィを用いて直接にパターン化する方法を提供する。この有機層のパターン化方法は、(a)基板(すなわち絶縁基板)を提供し該基板上にフォトレジスト材料層を形成するステップと、(b)フォトリソグラフィ処理を用いて、該フォトレジスト材料に所望のパターンを形成するステップと、(c)該パターン化されたフォトレジスト材料上に有機材料の層を形成するステップと、(d)選択的に該有機材料を除去するリフトオフ処理を行って、該有機材料をフォトレジスト材料のパターンに一致させるステップと、を含む。通常、該有機材料は基板のように作用し、正孔や電子などの移動電荷キャリアを伝達する。
【0123】
パターン化された有機材料の形状はリフトオフ後も維持されて、該材料の電気的特性が影響を受けないようにされる。
【0124】
有機材料には2つの主要なタイプがありいずれも、半導体低分子材料であって、純粋な状態で伝導性だが、通常は不溶性であって、このために、真空蒸着される。通常使用されるその材料の1つは、ペンタセンである。
【0125】
2番目のタイプは、炭素原子の長鎖から成る。これらは自然の状態では非常に伝導性が低いために、伝導性を飛躍的に向上させる塩素やヨウ素などのドーピング剤が添加される。この材料は通常、有機溶剤などに非常に良く溶けるので、前述の低分子有機材料よりも取り扱いが容易である。このことは、インクジェットやその他の従来の印刷方法を用いて印刷できることを意味し、従って、電子部品を、低コストで、簡単に、大量生産することが可能である。大部分の作業が溶液処理された材料に対して行われる。良く用いられる材料はP3HTである。
【0126】
好適な形態では、1μmにまでの形状サイズを高収量で製造することを実現し、P3HTベースのOFTFを製造した。また、フォトリソグラフィの利用範囲が広いことから、この方法によって、材料とデバイス研究に対して、事前定義され、しかも良好に管理された構造を提供できる。本新規方法においては、スピンコート、UV照射、およびフォトレジスト成長によるフォトレジスト処理後に、伝導性ポリマを適用した。エッチング方法に比較すると、伝導性ポリマに対するUV照射を完全になくして、伝導性ポリマが空気中の酸素や水分と反応する時間を短縮できるが、これは共役ポリマのほとんどのタイプに対して重要なポイントである。参照:G. Wang, J. Swensen, D. Moses, and A. J. Heeger, J. Appl. Phys. {93}, 6137 (2003); G. Wang, D. Moses, A. J. Heeger, H. M. Zhang, M. Narasimhan, and R. E. Demaray, J. Appl. Phys. {95}, 316 (2004). S. Hoshino, M. Yoshida, S. Uemura, T. Kodzasa, N. Takada, T. Kamata, and K. Yase, J. Appl. Phys. {95}, 5088 (2004). C. Vaterlein, B. Ziegler, W. Gebauer, H. Neureiter. M. Stoldt, M. S. Weaver, P. Bauerle, M. Sokolowski, D. D. C. Bradley, and E. Umbach, Synth. Met. {76}, 133 (1996). G. Horowitz, F. Deloffre, F. Garnier, R. Hajlaoui. M. Hmyene, and A. Yassar, Synth. Met. {54}, 435 (1993). M. S. A. Abdou, F. P. Orfmo, Y. Son, and S. Holdcroft, J. Am. Chem. Soc. {119}, 4518 (1997). D. M. Taylor, H. L. Gomes, A. E. Underhill, S. Edge, and P. I. Clemenson, J. Phys. D {24}, 2032 (1991)この方法は、可溶性ペンタセンなどの低分子材料のパターン化にも適用できる。参照:J. E. Anthony, D. L. Eaton, S. R. Parkin, Org. Lett. {4}, 15 (2002)
【0127】
「リフトオフ」方法について次に詳細に説明を行う。P3HTベースのOTFTを以下のステップを用いて製造した。標準フォトリソグラフィを用いてTi―Auのソースおよびドレインに対するオーミック接点を作り、次に、n+シリコン基板上に熱的に成長させた200nm厚のSiO層上にTi-Auパッドを設ける。次にフォトレジストをスピンコートした後、フォトリソグラフィを用いてパターン化し、その後P3HT層をスピンコートあるいはドロップキャスティングにより形成した。最後に、フォトレジスト溶液にサンプルを浸漬してP3HTのリフトオフを行って、パターン化されたフォトレジストの上部の半導体ポリマをリフトオフし、所望のP3HTパターンを得た。
【0128】
これらの処理ステップは、Ti―Auのオーミック接点やボンドパッドなど、金属薄層のパターン化に用いられる方法に似ているが、P3HT層をパターンするために多くの点で変更を行った。これは伝導性ポリマの物理的、化学的特性が非常に異なっているためである。
【0129】
最初に、P3HTの最も一般的な溶剤であるクロロホルムは、標準のポジレジストであるShipley S1813と急速に反応することがわかった。S1813にP3HTをスピンコートあるいはドロップキャスティングすると、その反応によって、P3HT層の表面は見た目に明らかに粗くなり、さらに図11(a)に示すように、フォトレジストパターンの端部が歪んでくる。クロロベンゼンのキュアリングによってできる、望ましいS1813のアンダーカットも壊れ、次に行うリフトオフが不完全なものとなる。実験ではさらに、P3HT層を乾燥させた後、直ちにリフトオフ処理を行っても、得られたP3HTパターンの端部の定義づけが悪くなることが示された。
【0130】
この問題を解決するために、違った溶剤、キシレンを用いたが、この場合には、S1813との明らかな反応は見られなかった。得られたP3HTパターンの端部は、図11(b)の光学顕微鏡像に示すように、非常に良好に定義づけされた。
【0131】
このパターン化方法がうまく行くかどうかは、リフトオフ処理の仕方にも強く依存する。それは、予めパターン化されたフォトレジストに、通常の方向から蒸着やスパッタを行うオーミックコンタクトやボンドパッド形成とは異なる。パターン化されたフォトレジスト端部がアンダーカット形状をしていれば、金属層はフォトレジスト端部で切断され(この金属層が十分に厚くなければ)、このために、フォトレジスト溶媒中のリフトオフと金属パターンの生成はうまく行く。これは真空蒸着有機金属の場合にもあてはまる。参照:P. F. Tian, P. E. Burrows, and S. R. Forrest, Appl. Phys. Lett. {71}, 3197 (1997)
【0132】
しかしながら、P3HTなどのスピンコートあるいはドロップキャストでは、層は一版的に、予め定義されたフォトレジストパターンの端部間で連続である。このために一方では、フォトレジスト端部におけるポリマ層を切断するために、パターン化されたフォトレジストをポリマ層下部で分解させる力が必要であり、他方、このポリマ層は通常わずか数十nmと非常に薄く、金属層の従来リフトオフよりももっと細心にリフトオフ処理を行う必要があるために、この力は限界値以下でなければならない。
【0133】
アセトンは、ポジレジストを除去するリフトオフ処理に一般的に用いられる溶剤であるが、しかしながら、時にはP3HT全体をリフトオフしてしまうことが確認できた。従って、リフトオフ力を低減させるために、違った比率で希釈した。アセトン1部をメタノール4部に希釈したものが、最も良好な結果を得た。
【0134】
図12(a)は、本発明者がこの方法を用いて製作を試みた最も小さな形状である、1μm幅のゲートパターンアレイの光学顕微鏡像である。図12(b)の拡大像で、良好に定義されたパターンが見られる。P3HT層とは違って、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDO/PSS)などの他の可溶伝導性ポリマを用いても、良好なフォトリソグラフィを行うことができた。
【0135】
予めパターン化されたオーミックコンタクトおよびボンドパッドを用いて、違った大きさのOTFTを製作した。n+型シリコン基板は、バックゲートのように動作した。レジオレギュラP3HT(全体の98.5%以上がカップリング)はAldrich社から購入しそれ以上の精製を行わずに用いた。キシレンにP3HTを0.8重量%溶解させた液を0.2μmPTFEシリンジフィルタでろ過し溶液中の粒子および不純物を除去した。SiO表面とP3HT間の境界面改良のために、P3HTコーティング前に、ヘキサメチレンジシラザン(HMDS)層をスピンコートにより形成した。参照:A. Salleo, M. L. Chabinyc, M. S. Yang, and R. A. Street, Appl. Phys. Lett. {81}, 4383 (2002)リフトオフ後のP3HTパターン表面の原子間力顕微鏡像から、その形状は今までに報告されているものと同様であることがわかった。参照:T. A. Skotheim, R. L. Elsenbaumer, and J. R. Reynolds, Handbook of Conducting Polymers, Second ed. (Marcek Dekker, Inc, New York, 1998), p. 245アセトンが、P3HTの移動度を明らかに低下させることはないように見えた。実際、この技術によって、アセトン感受性ポリマが、カプセル化と次にポリマとカプセル層とが同時にリフトオフされることによって、パターン化されるようになることを期待している。
【0136】
図13(a)は2つのパターン化されたP3HTトランジスタの光学顕微鏡像を示す。矩形P3HTパターンによって、ソースおよびドレインオーミック抵抗はカバーされて、大きなボンドパッドに接続されている。優に90%以上の収率を達成した。図13(b)は、9μm長、40μm幅のP3HTチャネルを備えたOTFTの特性として、代表的なソースードレイン電流ISDとソース−ドレイン電圧VSDを示す。リソグラフィ処理を空気中で行ったために、この半導体ポリマはわずか酸素でドーピングされている。電界効果移動度は約5×10−4cm/Vであり、P3HTの溶剤としてクロロホルムではなくキシレンが用いられた場合の、今までに報告された代表的な値と整合している。参照:Z. Bao, A. Dodabalapur, and A. J. Lovinger, Appl. Phys. Lett. {69}, 4108 (1996)半導体ポリマを脱ドープするために、P3HT OTFTを真空中で約1時間、140℃に加熱した結果、オンオフ比は10以上を達成した。
【0137】
OTFTでは、有機チャネルでの抵抗よりはるかに大きい、ソース電極およびドレイン電極でのコンタクト抵抗が問題になることがある。参照:see P. V. Necliudov, M. S. Shur, D. J. Gundlach, and T. N. Jackson, J. Appl. Phys. {88}, 6594 (2000). K. Seshadri and CD. Frisbie, Appl. Phys. Lett., 993 (2001). H. Klauk, G. Schmid, W. Radlik, W. Weber,L. Zhou, C. D. Sheraw, J. A. Nichols, and T. N.Jackson, Solid State Electronics, 297 (2003). N. Yoneya, M. Noda, N. Hirai, K. Nomoto, M. Wada, and J. Kasahara, Appl. Phys. Lett. {85}, 4663 (2004)一般に、ボトムコンタクト(BC)OTFTは、トップコンタクト(TC)OTFTより、高濃度電気回路に応用され易いが、通常、高コンタクト抵抗を示す。リフトオフ処理の間に、フォトレジストパターン端部におけるP3HT層を切断する力によって、P3HT層と金属パッド間のコンタクトが弱められるかどうか調べるために、異なるチャネル長さのBC OFTFを同時に作った。図14に示すように、チャネル長さの関数として全ソースードレイン(S−D)抵抗をプロットして、コンタクト抵抗を求めた。点は、チャネル長さが3、6、9、12、15、18、21、および24μmのときのOTFTの実験値を表す。直線外挿(点線)は原点を通っており、我々のデバイスのコンタクト抵抗は、3μm長のOTFTにおいてでさえ、チャネル抵抗より実質的に小さいことを示している。
【0138】
要約すれば、P3HTを直接パターン化する方法では、高収率の、標準高スループットフォトリソグラフィ技術が用いられることが示された。この方法は、低分子材料および伝導性ポリマ材料の両方に広く適用できる。この技術は、100nm大きさまでに小型化された構造を作る光位相マスクの利用にまで拡大でき、プラスチック電子デバイスおよび回路の操作速度を、実際の応用において重要なMHzの範囲へと著しく上昇させることができる。
【0139】
このリフトオフ技術は,ミクロンサイズの伝導性ポリマ構造を作るUVフォトリソグラフィを利用した非破壊性の方法を提供する。パターン化されたフォトレジストにポリマ層をコーティングし、次にリフトオフを行うことによって、リソグラフィ処理中の伝導性ポリマ層へのUV照射を防ぐことができた。この方法は、1μmまで小型化した形状を高収率で作る方法として用いられる。このようなCMOS互換性の小型品の製造方法は、種々の有機層に広範に応用され、有機電子製品の操作速度を高めることができる。見てわかるように、このリフトオフ技術を用いて、活性材料としてポリ(3−ヘキシルチオフェン)を用いた有機薄膜トランジスタ(OTFT)を作ることに成功し、代表的なOTFTの特性が得られた。
【0140】
次の、代替となるフォトリソグラフィ技術(「サブトラクト」法))について詳細を説明する。
【0141】
このフォトリソグラフ法は、十分に確立されたシリコン技術での標準設備を備えたUVリソグラフィをベースに、有機半導体デバイスを作るための、非破壊性で、高スループット、かつ高精細なリソグラフィパターン化方法を提供する。ここに記載される方法は、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)ベースの有機薄膜トランジスタ(OTFT)の製作に適用され、2μmまでに小型化された特徴品が高収率で生産される。P3HT層にフォトレジストをスピンコートし、自己組織化単分子膜で処理された基板上のP3HT残留物を完全に除去するためには、処理工程におけるいくつかの改良が必要である。P3HTチャネルがパターン化されていないOTFTと比較して、パターン化されたデバイスのオンオフ比は、約70から10と約4桁以上改善される。これは、ゲートリーク電流が極端に低減するためである。抽出されたキャリア移動度は、リソグラフィ処理の後で実際上変化しないだけでなく、0.027cm/Vまで上がっており、これは周囲条件で作られたP3HTベースのOTFTでは最も良い報告値に入る。
【0142】
OTFTを発展させる上で必要になるステップの1つは、活性半導体材料のパターン化である。これはリーク電流や個々のデバイス間のクロストーク、望ましくない寄生キャパシタンスを低減し、大いに求められる操作速度を向上(現在のデバイスはKHz周波数程度あるいはそれ以下がほとんど)させるために必要になってくる。現在までに開発された最も一般的なパターン化技術には、スクリーン印刷、インクジェット印刷、リソグラフィスタンプリング、光化学架橋法、ナノプリントである。これらの方法にかかわらず、今日までに報告されたOFTFの伝導性ポリマはパターン化されていないものがあり、それは非標準的な設備と方法がなかったことがことが大きな原因である。インクジェット印刷が、将来の有機電子にとって最も見込みのある方法の1つであるとしても、それは一連のプロセスであり、到達可能な大きさは液滴の大きさよって限定されており、それは代表的には約数十μmである。
【0143】
UVフォトリソグラフィは、シリコン電子産業で非常に確立された技術であり、100nmサイズの構造を非常に高収率、高スループットに製作するのに用いられている。産業界および大学研究室における標準設備の利用可能性と確立されたリソグラフィプロセスからして、この技術をプラスチック電子にまで拡大することは望ましい。UVリソグラフィが低分子半導体のパターン化に用いられてきたとしても(J. E. Anthony, D. L. Eaton, S. R. Parkin, Org. Lett. 4 (2002) 15)、アセトンなど用いられたいくつかの一般的な化学品がキャリア移動度に影響を与えることが報告されていた。しかしながら、よく研究されてきたレジオレギュラポリ(3−ヘキシルチオフェン)(rr−P3HT)などの共役ポリマのパターン化にUVリソグラフィを応用することはほとんど報告されていない。
【0144】
上記の「リフトオフ」法を用いて、1μmまで微細なP3HT構造を高収率で作った。しかしながら、P3HT溶液は、溶剤とフォトレジストとの反応を避けるために、クロロホルムや1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)などの一般的な溶剤ではなく、通常ではない溶剤、キシレンを用いて作らなければならない。このために、P3HTのホール移動度が5×10−4cm/Vと予想したよりも低かった。これは、P3HTのキャリア移動度は溶剤の選択に敏感に依存するためである。
【0145】
ここに説明するサブトラクチブアプローチは、UVリソグラフィに基づく新規な方法である。フォトレジストは、有機材料(例えばP3HT層)を完全に乾燥させた後に用いるので、任意の溶剤(例えばP3HT)を用いることができる。その結果、作らせたOTFT内の抽出されたキャリア移動度は、0.027cm/Vにまで達し、周囲条件で製作されるP3HT−ベースのOTFTでは最良の値に入る。このサブトラクティブプロセスの他の重要な利点は、基板をどの化学品にも暴露させる必要なしに有機層にパターン化ができることであり、これは、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)またはn−オクタデシトリクロロシラン(OTS)などの、自己組織化単分子膜(SAM)をOTFT性能向上のために採用する場合に、重要なものとなる。
【0146】
この方法はさらに、不要なP3HT領域の除去を、機械的引き裂き−この場合通常、端部がシャープな形状で上方に曲がる−ではなく、エッチング(分解)によって行なうために、良好に定義されたパターン端部を提供することである。ほとんどの有機デバイスにとっては粗い端部は重要ではないが、ミクロンあるいはナノサイズの構造体にとっては問題となりえる。パターンは2μmまでの微小サイズが高収率で作られる。このサブトラクションフォトリソグラフィ技術は、ボトムコンタクトP3HT OTFTの製造と一緒に説明し、この技術がプレーナデバイスの製造に限定される必要がないことを説明する。このサブトラクティブ技術を用いて、P3HTチャネルがパターン化されていないOTFT間のオンオフ比とゲートリーク電流が4桁以上の上昇が確認された。飽和領域の移動度は、P3HTのパターン化前後で実質的に変化なかったが、このことから、処理の間に明らかに材料の品質劣化はもたらされなかったことが確認された。実験結果はさらに、空気中で作成したパターン化されていないP3HTベースのOTFTのオンオフ比性能が悪いことについては主に、P3HT層内の(面内)スプリアス電流ではなく、(垂直)ゲートリーク電流の結果であることを示した。
【0147】
従来のボトムコンタクトOTFTを、パターン化前後の電界効果キャリア移動度をテストするために、従って、リソグラフィ処理中のP3HTの劣化を特定するために製作した。別のキャパシタンス測定で決定された61nm厚の、熱成長したSiOの高ドープシリコンウェハを基板として用いた。次に、50nm厚の金のソース電極と金のドレイン電極とを蒸着し、標準リソグラフィとリフトオフにより定義した。SiOとP3HT境界面の改良として自己組織化単分子膜OTSを、基板のいくつかの領域に用いた。基板を10−3MのOTSシクロヘキサン溶液中に、5℃、1時間浸漬させてOTS層を堆積し、その後200℃、10分間ベーキングして水分を除去し、OTS重合反応を完成させた。レジオレギュラP3HT(全体で98.5%以上カップリング)は、Aldrich社から購入しヒドラジンで減量した。1重量%のP3HTのp−キシレン溶液あるいは1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)溶液を、基板上で4000rpm、120秒間スピンさせて、SiO上に約20um厚、およびOTS処理したSiO上では約50nm厚の層を形成した。この厚みの違いはSiO表面の撥水性の違いによるものである。このOTFTを窒素流下、100℃、1時間アニール処理し、P3HT層の結晶度、ならびにキャリア移動度(例えば、参照:A. Zen, J. Pflaum, S. Hirschmann, W. Zhuang, F. Jaiser, U. Asawapirom, J. P. Rabe, U. Scherf, and D. Neher, Adv. Funct. Mater. 14 (2004) 757)を向上させた。高沸点溶剤であるTCBでは高移動度につながることを見出したので、TCBベースのP3HT溶液を提示する。キシレンベースのP3HT溶液はキャリア移動度は小さいが、パターン定義の点では非常に似た結果が得られた。いくつかの実験は、SiO基板ではなくマイカで行ったが、この場合も非常に似たパターン定義を示した。
【0148】
パターン化処理は主に、図15に示すように、H3PT層上へのフォトレジストスピンコート、フォトレジストの形成し、未カバー領域のP3HTの除去からなる。フォトレジストS1813は、Shipley社から購入したMicroposit S 1800シリーズから選択したが、それは最も一般に入手可能なフォトレジストであり、非常に確立された方法で処理可能である。しかしながら、フォトレジストは親水性表面をコートするように設計されているため、高度に撥水性であるP3HT表面に直接にS1813をスピンコートすることはできない。従って我々は、90℃のホットプレート上の密閉容器でS1813を加温した後直ちに、P3HT上に4000rpm,60秒間スピンコートした[図15(B)]。液温度の上昇によりフォトレジスト溶液の表面張力が減少し、このことは濡れ性が明らかに向上したことにより証明され、P3HT層表面の被覆は非常に良好に行えた。得られたフォトレジスト層の厚みは、Tallystepのprofilometerで測定し1.5μm、であった。比較として、フォトレジストの厚みは、通常のSiO基板上に同じスピンコート条件でコートすれば約1.3μmであり、これらのことは表面の撥水性の違いを反映しているといえる。
【0149】
フォトレジストスピンコート後にサンプルを40℃ホットプレート上にて10分間、ゆるやかにベーキングした。P3HTをS1813で被覆したものを90℃以上でベーキングすると、P3HT層に亀裂が入ることが確認され、これは、熱膨張の差によるもの、およびまたはP3HTの乾燥が十分ではなく残存するP3HT溶剤が層から蒸発していて、この発散による可能性が考えられた。このフォトレジストを次にマスクを通してUV照射して[図15(C)]、その後、同じくShipley社より購入したMicroposit developerと純粋との1:1溶液中で発展させた[図15(D)]。UV照射の間、マスクでカバーされている領域のP3HTは、UV光による損傷は受けない。
【0150】
高強度のUV照射によってP3HT分子が架橋し層が不溶性になるとの報告があるが(T. K. S. Wong, S. Gao, X. Hu, H. Liu, Y. C. Chan, Y. L. Lam, Mat. Sci. Eng. B 55 (1998) 71)、基板上にOTS表面処理がなされていなければ、照射される領域のP3HTは、依然として除去されることが確認された。これは、通常の照射(約150mJ/cm)では深刻な架橋を起こさないことが示唆された。さらに、P3HT層の上面のフォトレジストはUV光の大部分を吸収すてしているかもしれない。形成中にフォトレジストが除去された領域のP3HT層は次に、キシレン中で5秒間でエッチング(分解)される[図15(Ea)]、その後アセトン洗浄されて、キシレンエッチングを終了し、フォトレジストから除去される[図15(F)]。サンプルを次にメタノール洗浄し無水窒素でブロー乾燥すると、基板上にパターン化されたP3HT構造だけが残る。
【0151】
沸点が高いために、キシレンをエッチング溶剤として選択した。蒸発速度が低いために、P3HTの残留物形成が多くないことが保証させる。他の高沸点溶剤、すなわち、TCB、クロロベンゼンについて検討したが、おそらくはフォトレジストの膨張と層間の溶剤拡散のために、それらの場合は通常、P3HT層が著しくアンダーカットとなり、我々が提案する方法による解決が達成されなかった。しかしながら、これらの高沸点溶剤は、エッチング処理には適さないとしても、P3HT溶液の調整に用いることができる。
【0152】
基板をOTSと反応させていなければ、P3HT層はキシレンでは完全には除去されないことがわかった。この場合、不要な領域のP3HT層は、フォトレジストの形成後に急速酸素プラズマアッシングによって除去された[図15(Eb)]。アッシング処理中のチャンバ内圧力は、酸素流量50sccmで60mTorrに維持されている。サンプルは電力30Wで30秒間炭化した。このフォトレジストを次にアセトンで除去し、図15(F)に示すようにメタノールで洗浄した。
【0153】
図16は、P3HT層に転写されたグリッド状パターンのマイクロ写真である。ホール(明るい領域)の大きさは、図2(B)で10μm、図2(C)で5μm、および図(D)で2μmである。2μmグリッドは正方形ではなく点で示され、処理中の問題ではなく、リソグラフィ装置の限界のためである。なぜなら、それは図16(A)の、パターン化されたフォトレジストS1813にも見られるからである。パターン化されたP3HTとパターン化されたS1813との違いは、P3HTの層厚み約が50nm、フォトレジスの層厚みが1.5nmと、厚みが大きく異なるためである。
【0154】
マイカ基板に形成された10μm幅のホールバー構造からなるテスト装置の1つを図17に示す。図17(A)の金オーミックコンタクトは、従来のフォトリソグラフィで定義された後リフトオフされて、20nm厚みのP3HTの活性層が上記のリソグラフィ法を用いてパターン化される。図17(B)はP3HTバーの原子間力顕微鏡(AFM)像であり、得られたP3HT構造が平滑な端部を有することがわかる。これは、リフトオフ(追加)リソグラフィ法(上記の通り、および、伝導性ポリマ構造の非破壊フォトリソグラフィ、J. Chan, X. Q. Huang, and A.M. Song, Journal of Applied Physics, Vol. 99, 023710 (2006))で作られたP3HT構造とは著し異なっており、その場合は、不要なP3HT領域はエッチング(分解)ではなく、機械的引き裂きよって行われるので、通常、端部がシャープな形状で上方に曲がることになる。
【0155】
図18は、1つはP3HTパターンなし、他方はP3HTパターンありの、2つのOTFTのスケッチ図(A、C)と移動特性(B、D)と示す。大型のデバイスでは、完全なOTFT像の光学顕微鏡撮影が困難であった。レイアウトからわかるように、マスク配列を簡単にするために、OTFTチャネル幅を2.3mm(A)から2.0mm(C)へとわずか低減した。2つのオーミックコンタクト間の距離で定義されるように、チャネル長さは両方のOTFTで75μmとした。OTFTが我々の所有する顕微鏡に比べてはるかに大きいため、デバイスの写真は撮れなかった。P3HT層のパターン化なしでは、オンオフ比は、図18(B)の移動特性でわかるように、わずか70程度であった。このデバイスの出力特性は図19(A)にプロットされているが、明らかにゲートリーク電流に支配されている。リーク電流は、実験における負ゲートとソースードレイン電圧の範囲内のμAオーダであった。これは、図18(B)における低オンオフ比が主にはゲートリーク電流によるものであることを意味しており、基板上のP3HT層全体に亘って集積されていることからもこのことは理解される。大きなリーク電流はまた、未パターンのOTFTのしきい値電圧が必ずしも約−7Vではないことも意味している。
【0156】
パターン化後のOFTF移動特性は、図18(D)にプロットしている。オンオフ比は、P3HT層被覆が減少したために、70から約10と劇的に向上しており、ソース電極とドレイン電極間のみに限られている。ドレイン電圧は、OFTFの状態を保障するために2回の測定を行ったが、両方の測定で25Vであった。点線はドレイン電圧の関数としてのドレイン電流平方根の直線近似であり、キャリア移動度の抽出に用いられる。
【0157】
パターン化の有無によるOTFTの出力特性をそれぞれ図19(A)および19(B)に示す。図19(A)では、ゲートリーク電流は、負ゲート電圧に対し、V=0の点で80μA以上であるかもしれない。測定は周囲条件および暗所、室温で行った。未パターン化デバイスでは、低ドレイン電圧における飽和ドレイン電流よりも非常に大きな、非常に強いゲートリーク電流を示した。ゲートリーク電流は、主にオフ電流とそれに続くオンオフ比も決めるが、パターン化P3HTを有するOFTFでは、このゲートリーク電流が劇的に低減しており、従って、このことが明らかになった。
【0158】
従来、空気中で作られて計測されていた未パターン化P3HTベースのOFTFは、図18(B)と同様、一般的に性能が悪かった。周囲環境下でのドーピングがその主な理由であると考えられたこともあった。しかしながら、実験結果からは、主な原因は、デバイスがパターン化されていなければ高いゲートリーク電流にある可能性を示唆している。P3HTチャネルの定義づけに適当なフォトリソグラフィを用いることによって、高性能のOTFTを周囲環境で作ることができまた計測できることを示した。
【0159】
ホール移動度μを抽出するために、標準OTFT移動理論が、ドレイン電流Iとゲート電圧Vは次の式で与えられる。
【数1】

【0160】
ここで、VTHはゲート電圧しきい値、Cはゲート誘電体の単位面積当たりのキャパシタンス、W、Lはトランジスタチャネルの幅と長さを、それぞれ表す。ドレイン電流の平方根直線近似とゲート電圧との関係を示す曲線から決定される移動度は、未パターンのOTFT(0.025cm/V)およびパターン化されたデバイス(0.027cm/V)と事実上、同じである。これは、プロセス全体でP3HT層の電気的特性には明らかな劣化は起こっていないことを示している。アセトンおよびメタノールの使用はこのように、TCBおよびOTSをベースとした伝導性ポリマP3HTのキャリア移動度には影響を与えないように思われ、それは、ペンタセンなどの低分子半導体などへの報告されている影響とは異なっている(J. E. Anthony, D. L. Eaton, S. R. Parkin, Org. Lett. 4 (2002) 15)。パターン化されたデバイスにおける移動度のわずかな上昇は、わずかな空気のドーピングによるものと考えられ、得られる追加のキャリアはP3HT層内のトラップ電荷を阻止およびまたは中性化している可能性がある。(X. Jiang, Y. Harima, K. Yamashita, Y. Tada, J. Ohshita, A. Kunai, Chem. Phys. Lett. 364 (2002) 616)。
【0161】
このサブトラクティブ法は、UVリソグラフィをベースとしたP3HT薄膜をパターン化する非破壊方法を提供する。この方法は、P3HT OFTFのパターン化に適用でき、しかもSSDやトランジスタなどのプレーナデバイスの製作に用いることができる。オンオフ比は、約70から10へと4桁以上、劇的に向上することが電気的計測によって示された。飽和領域における抽出された移動度は、約0.027cm/Vsと実質的に変化せず、周囲環境で製作されたOTFTベースのP3HTでは最も高いホール移動度に入っている。P3HT層内のスプリアス電流ではなく、ゲートリーク電流が未パターンOTFTの性能低下をもたらしている。
【0162】
第2の(フォトリソグラフィ)ステップを用いて、おおよそサイズ決めされた領域を形成されると、ナノリソグラフィ(デバイス製作法の第3のステップ)を用いて、最終デバイス、すなわち、SSDやトランジスタなどのプレーナデバイスを作る。用いられるナノリソグラフィステップについて説明を行う。サンプルは原子間力顕微鏡(AFM)に移される。VEECO CP−R Research AFMを実験に用いた。Siチップをタッピングモードおよびナノインデンテーション(すなわちトレンチ製作)を用いた両方のイメージングを採用した。チップの半径は約20nm、角度は約30°、代表的な力定数は14N/mであった。半径が5nm以上の、ultra−sharp STINGプローブなどの違ったタイプのチップも用いたが、製作したトレンチの幅によって明らかな差は認められなかった。代表的なチップ変位(チップが有機半導体内の層に進入する名目上の変位)は0.1μmから0.5μmであった。チップの切断スピードは名目上、1μm/sから100μm/sであった。トレンチは一般的にフラットボトムを有するように示される。得られたトレンチは、代表的には、AFMチップ直径よりははるかに大きものであったが、恐らく、層内の歪みによるものと思われた。
【0163】
トレンチ形成前に、最初に、非接触モードでのチャネルのクイックイメージを撮影した。次に、装置付属の標準ナノリソグラフィソフトウェアと、ユーザ事前定義の形状を用いて、SSDアレイ、あるいはプレーナトランジスタを製作し、すなわち、AMFチップで半導体を切断して、デバイスのチャネルとその他の領域とを定義する絶縁トレンチを形成した。デバイスをテストステーションに移して、電気的に評価した、例えば、1(V)と周波数応答を記録した。
【0164】
図20Aは、上記の方法を用いて、製作したナノトランジスタの電流ー電圧(移動)特性曲線を示す。図20BはナノトランジスタのAMF像を示す。このナノトランジスタは、P3HTのキシレン溶液を用いてマイカ絶縁基板上に形成したものである。このトランジスタはチャネル長さが1μm、チャネル幅が250nmである。トレンチは約250nm幅であった。
【0165】
デート電圧の範囲が大きいのは、高度にドープしたP3HTを使用したためである。よりドープの少ない材料およびまたはより狭小なトレンチを用いればもっとゲート電圧範囲は狭くなる。有機プレーナナノトランジスタのこの移動特性曲線は、約1000という、良好なオンオフ比を示している。このトランジスタは、エンハンスメントモード(負ゲート電圧、電流上昇)およびデプレションモードで作動可能であることを示す。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動電荷キャリアを支持する基板と、
前記基板面上に形成されてその両側に第1および第2の基板領域を定義し、前記第1および第2の基板領域は絶縁体によって定義される細長いチャネルによって接続され、前記チャネルは前記第1の領域から第2の領域への基板内の電荷キャリア流路を提供し、前記第1および前記第2の基板領域間の伝導度は、この2つの領域間の電位差に依存する絶縁体と、を備え、
前記基板は有機材料を含むことを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
移動電荷キャリアを支持する基板と、
前記基板面上に形成されてその両側に第1および第2の基板領域を定義し、前記第1および第2の基板領域は該絶縁体によって定義される細長いチャネルによって接続され、前記チャネルは前記第1の領域から第2の領域への基板内の電荷キャリア流路を提供し、前記第1および前記第2の基板領域間の伝導度は、この2つの領域間の電位差に依存する絶縁体と、を備え、
前記移動電荷キャリアは、0.01cm/Vs〜100cm/Vsの範囲の移動度を有することを特徴とする電子デバイス。
【請求項3】
前記移動電荷キャリアは、少なくとも0.1cm/Vsの移動度を有することを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記の細長いチャネルは所定の幅であり、こうすることによって、前記細長いチャネルを通して前記移動電荷キャリアの流れを起こすために、前記第1および第2の基板領域間に電圧差を印加すると、前記第2の基板領域の電圧は、前記絶縁体を通して、前記細長いチャネル内に存在する空乏領域の大きさに影響を与え、このために、前記チャネルの伝導度特性は、前記電圧差に依存することを特徴とする請求項2または3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスは、例えば、0.5MHz〜1GHzの範囲のRF信号整流用のダイオードを備えることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記移動電荷キャリアは、電子であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記移動電荷キャリアは、正孔であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記基板は、その厚みが20nmより大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスは、ダイオードとして機能することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記絶縁体は、前記チャネルの伝導度を制御する電圧を印加するために、前記細長いチャネルに隣接して、さらに第3の基板領域を定義することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記絶縁体は、前記チャネルの伝導度を制御する電圧を印加するために、前記チャネルを挟んで前記第3の基板領域と反対側に、前記細長いチャネルに隣接して、さらに第4の基板領域を定義することを特徴とする請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記デバイスは、トランジスタとして機能することを特徴とする請求項10または請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスは、前記基板を単層内に配置したプレーナデバイスであることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記単層は、積層構造内の他材料からなる2つの追加層の間にサンドイッチされていないことを特徴とする請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記単層は、前記デバイスの外表面を定義することを特徴とする請求項13または請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記基板は、絶縁基板上に設けられた薄層として形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項15のいずれかに記載のデバイス。
【請求項17】
前記基板は、半導体ポリマ、ポリ(3−ヘキシル)チオフェン(P3HT)、有機低分子材料、ペンタセン、および、溶液処理された半導体ナノ粒子およびまたは量子点材料のうちの少なくとも1つを含み、
前記絶縁基板は、柔軟紙、ポエチレンテレフタレート(PET)、および、ポリエチレンナフタレート(PEN)材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項16のいずれかに記載のデバイス。
【請求項18】
さらに、電圧印加用電気端末を各領域にそれぞれ備えることを特徴とする請求項1乃至請求項17のいずれかに記載のデバイス。
【請求項19】
請求項1乃至請求項18で請求された電子デバイスを少なくとも1つ含むことを特徴とする電子回路。
【請求項20】
所望のインピーダンスを提供するために、前記第1および前記第2の基板領域間に、前記複数の電子デバイスを並列に配置することを特徴とする請求項19に記載の電子回路。
【請求項21】
RFIDタグを含むことを特徴とする請求項19または請求項20に記載の電子回路。

【図3A】
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【図3C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図14】
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【図16】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−34028(P2013−34028A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251693(P2012−251693)
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【分割の表示】特願2008−510630(P2008−510630)の分割
【原出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(507372659)ナノ イープリント リミテッド (2)
【Fターム(参考)】