説明

電気機械変換装置

【課題】電気機械変換エレメントの可動領域以外の部分からの反射波を抑制する事で、測定対象から発生した音響波の検出性能を向上させる事が可能な電気機械変換装置を提供する。
【解決手段】静電容量型超音波変換装置などの電気機械変換装置は、被検体から放出される音響波を受信するための可動領域16を有する電気機械変換エレメント10と、エレメント10と電気的接続を取る電気配線基板13と、反射抑制層12を有する。反射抑制層12は、被検体側に面する面のうちの、可動領域以外の少なくとも一部に設けられ、可動領域以外に到達する音響波が音響波源側に反射する事を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型超音波変換装置などの電気機械変換装置、及びそれを用いた被検体診断装置などの装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エックス線、超音波、MRI(核磁気共鳴画像法)を用いたイメージング装置が医療分野で多く使われている。一方、レーザなどの光源から照射した光を被検体内に伝播させ、伝播光等を検知する事で生体内の情報を得る光イメージング装置の研究も医療分野で進められている。この様な光イメージング技術の1つとして、Photoacoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)がある。
【0003】
近年、マイクロマシンニング技術を用いた静電容量型超音波変換器(CMUT)が盛んに研究されている。このCMUTは、軽量の振動膜を用いて超音波を送信、受信し、液体中及び気体中でも、優れた広帯域特性が容易に得られる。このCMUTを利用する従来の医用診断モダリティより高精度な超音波診断が、有望な技術として注目されつつある。一般的なCMUTの素子(エレメント)はシリコンウェハ上に作製される為、入射した音響波の一部がシリコンウェハを透過し、シリコンウェハの裏側と空気との界面で反射した反射波がエレメントに戻ってくる場合がある。この反射波はノイズとなるので、反射波を防ぐ為に音響バッキング材を設ける事が提案されている(特許文献1参照)。なお、本明細書において、音響波とは、音波、超音波、光音響波と呼ばれるものを含む。例えば、測定対象内部に可視光線や赤外線等の光(電磁波)を照射して測定対象内部で発生する音響波や、測定対象内部に音響波を送信して測定対象内部で反射する反射音響波などを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6831394号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、被検体などから生じた音響波の伝わる方向が予測できない場合、従来の超音波変換装置をそのままの形態で用いると、CMUTのエレメント以外の部分(超音波変換器の外周など)で音響波が反射する。反射した音響波は、生体組織などの被検体側に到達し、所望の音響波を歪める可能性がある。また、被検体側で再び反射してCMUTに戻ってくる為、所望の音響波を検出する際にノイズとなる。また、音響波の入射角度により反射波の強度が異なる為、被検体から生じた音響波を一度に検出できる範囲が狭くなってしまう可能性もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明の静電容量型超音波変換装置などの電気機械変換装置は、被検体から放出される音響波を受信するための可動領域を有する電気機械変換エレメントと、前記電気機械変換エレメントと電気的接続を取る電気配線基板と、反射抑制層と、を有する。そして、前記反射抑制層が、前記被検体側に面する面のうちの、前記可動領域以外の少なくとも一部に設けられ、前記可動領域以外に到達する音響波が音響波源側に反射する事を抑制する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、電気機械変換エレメントの可動領域以外の部分からの反射波を抑制する事で、測定対象から発生した音響波の検出性能(S/N)を向上させる事が可能となる。また、音響波の検出範囲を広げる事が可能となり、検出時間の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の電気機械変換装置の電気機械変換エレメントの基本構造例を示す図。
【図2】本発明の電気機械変換装置の実施例1を示す図。
【図3】比較例1を説明する図。
【図4】実施例1の変形形態と比較例2を説明する図。
【図5】本発明の電気機械変換装置の実施例2を示す図。
【図6】本発明の電気機械変換装置の実施例3と比較例3を説明する図。
【図7】本発明の電気機械変換装置の実施例4及び5を示す図。
【図8】本発明の被検体診断装置に係る実施例6を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、使用時に音響波源側に面する装置の面のうちの、セルの可動領域以外の少なくとも一部に反射抑制層を設けて、可動領域以外に到達する音響波が音響波源側に反射する事を抑制する事を特徴とする。こうした面のうちの、何処に設けるかは場合に応じて設計すれば良い。後述の実施例では、電気配線基板やセンサ部やケースのこうした面に設けた例が示されている。反射抑制層は、反射を抑制すれば良いので、音響波を透過したり吸収したりすればよく、音響波透過層や音響波吸収層を単独で用いたり組み合わせて用いたりする事ができる。透過層は、例えば、完全透過する音響インピーダンスの値の±10%程度の誤差を許容値とする音響インピーダンスを有する層として定義する事ができ、その音響波減衰率は問わない。
【0010】
つまり、Z:透過層が接する1つ目の物体のインピーダンス、Z:透過層が接する2つ目の物体のインピーダンス、Z=(Z×Z0.5:完全透過する透過層のインピーダンスとして、次の様になる。0.9×Z<透過層とみなすインピーダンス<1.1×Z。吸収層は、例えば、接する物体との音響インピーダンスの差が20%程度以内であり、音響波減衰率が3[dB/cm]程度以上である層として定義する事ができる。後述の実施例では、電気配線基板やセンサ部の基板の裏側に音響波減衰材を設ける例が示されているが、減衰と吸収は同じ機能を表すものである。また、本発明の電気機械変換装置では、後述の実施例で説明する静電容量型電気機械変換装置だけでなく、従来の圧電型電気機械変換装置である圧電型超音波探触子などを用いる事もできる。
【0011】
以下、図を用いて本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
本発明の電気機械変換装置の実施例1である容量型超音波変換装置を説明する。この変換装置の超音波変換エレメントの基本構造の上面図を図1(a)に示し、図1(a)のA−A’断面図を図1(b)に示す。
【0012】
本実施例の容量型超音波変換装置のエレメント10においては、基板1の上に、第一電極(下部電極)2と第二電極(上部電極)3と間隙としてのキャビティ4を隔てて対向して設けられている。また、対向する第一電極2と第二電極3の間に絶縁膜5が配されている。第二電極3は、メンブレン6の上で配線されており、電圧を印加する為の第二電極パッド7に繋がっている。一方、第一電極2は、電圧を印加する為の第一電極パッド8を有している。図1では、容量型超音波変換装置の最小単位であるセル9が、第二電極3により4個繋がって1つのエレメント10を構成している。基板1は、シリコンウェハやガラス基板など、市販されている各種基板を用いる事ができる。第一電極2及び第二電極3は、Al、Cr、Ti、Au、Pt、Cuの内の少なくとも1つの材料により形成され得るが、その他の導電性の材料でも良い。キャビティ4は、空気またはガスを充填しても良く、製造方法により、大気圧よりも低い圧力になる様にしても良い。絶縁膜5は、SiNやSiO2により形成され得るが、その他の絶縁材料でも良い。メンブレン6は、SiやSiN、Alなどの金属等、所望の材料を用いる事ができる。
【0013】
この様なエレメント10の第一電極2と第二電極3の間にバイアス電圧を印加すると、バイアス電圧の印加量に応じて、第一電極2と第二電極3の間の距離が変化する。この状態で、外部から音響波がメンブレン6に入射すると、メンブレン6の可動領域16が振動膜として振動する。可動領域16の振動により、第一電極2と第二電極3の間の静電容量が変化する。この静電容量変化を電圧の変化として検出する事で、入射した音響波の検出が可能となる。また逆に、バイアス電圧を印加した状態で、第二電極3にパルス波形などの電気信号を印加すると、音響波を送信する事ができる。図1の様なエレメントは、サーフェスマイクロマシニングやバルクマイクロマシニングなどのマイクロマシンニングプロセスの様な公知の方法を用いて作製する事ができる。
【0014】
図2(a)に、電気機械変換エレメントである上記の如きエレメントを含む本実施例の超音波変換装置の上面図を示し、図2(b)に図2(a)のB−B’断面図を示す。図1に示した様な超音波変換エレメント10が複数集まり、図2(a)のセンサ部11を形成している。センサ部11の周囲には、各エレメント10と電気的接続を取る為に、PCB基板などの電気配線基板13が配置されている。電気配線基板13は電気配線を有しており、各エレメント10が有する電極パッド7、8とワイヤーボンディングなどで繋ぐ事で、電気配線基板13を介して電気信号の送受信が可能となる。
【0015】
本実施例では、図2に示す様に、電気配線基板13の上には、第一の反射抑制層12が設けられている。また、センサ部11の基板1の反対側の裏面には、エレメント10を支持する第一の音響減衰材14が設けられている。更に、電気配線基板13を挟んで反射抑制層12と反対側(すなわち電気配線基板13の裏)には、第二の音響減衰材15が設けられている。図2(b)においては、第一の反射抑制層12の表面が、エレメント10の表面よりも外部に突出しているが、第一の反射抑制層12を設ける位置は、エレメント10の表面に表面を合わせても良いし、逆にエレメント10の表面が最前面となる様にしても良い。また、本実施例においては、音響波の受信時にエレメント10や第一の反射抑制層12の表面側に、音響インピーダンスマッチング材25が設けられている場合を想定している。音響インピーダンスマッチング材は、被検体とエレメント10との間や、被検体を保持する保持部材とエレメントとの間などの音響マッチングを得るための物質であり、一般的にはゲルや水のような液体である。
【0016】
ここで、第一の反射抑制層12が透過層であり、図2(b)の様に、電気配線基板13と音響インピーダンスマッチング材25の間に設けられる場合について考える。この時、透過層の音響インピーダンスは、マッチング材25よりも大きく、電気配線基板13よりも小さい事が好ましい。例えば、マッチング材25が水であり、水の音響インピーダンスがZ=1.5[MRayl]で、電気配線基板13がガラスエポキシ基板であり、ガラスエポキシ基板の音響インピーダンスがZ=5.8[MRayl]の場合は次の様になる。この場合、透過層12の音響インピーダンスZを、1.5〜5.8[MRayl]の範囲内にする事が好ましい。より好ましくは、Z≒2.95[MRayl]とする。この様な音響インピーダンスを有する材料としては、シリコーンゴムやシリコーンゲル、アクリル樹脂やアクリルゲル、エポキシ樹脂などが挙げられる。上記の場合、エポキシ系の接着剤が好ましいが、所望の音響インピーダンスが得られる材料であれば良い。上記透過層12を設ける位置は、入射した音響波を被検体側に反射する面に設ける事が好ましい。より好ましくは、入射した音響波を被検体側に反射する面のうちの、最表面に設ける。なお、本明細書において、音響インピーダンスのマッチングが取れている或いは音響インピーダンスが同等であるということは、2つの異なる物質の音響インピーダンスの値の差が20%程度以下であることを意味する。
【0017】
また、第一の反射抑制層12が吸収層であり、図2(b)の様な場合について考える。この時、吸収層の音響インピーダンスは、音響インピーダンスマッチング材25と同等である事が好ましい。例えば、マッチング材25が水であり、水の音響インピーダンスがZ=1.5[MRayl]の場合は次の様になる。好ましい材料としては、シリコーンゲルやポリブタジエンゲル、低硬度のシリコーンゴムやウレタンゴムなどが挙げられる。吸収層12は、音響波を吸収する機能を有さなければならない。上記材料に、高密度の微粒子を含有させると、音響インピーダンスの調整と音響波の吸収の向上が可能となる。微粒子としては、タングステンやアルミナ、銅もしくはその化合物、白金、鉄もしくはその化合物が挙げられる。上記の場合、ウレタンゴムにタングステンの微粒子を10wt%程度混合して硬化させる事で、音響インピーダンスを1.8[MRayl]程度に調整する事ができる。そのときの減衰率は、1MHzで約50[dB/cm]程度となる。いずれにせよ、所望の音響インピーダンスと所望の吸収が得られる材料を用いれば良い。上記吸収層12を設ける位置についても、入射した音響波を被検体側に反射する面に設ける事が好ましい。より好ましくは、入射した音響波を被検体側に反射する面の、最表面に設ける事が好ましい。
【0018】
第一の音響減衰材14は、基板1と音響インピーダンスの整合が取れている事が好ましい。例えば、基板1がシリコンであり、音響インピーダンスが19[MRayl]である場合、第一の音響減衰材14は、特許文献1に開示されている様な物(ポリ塩化ビニル(PVC)にタングステン粒子を含有させた物など)を用いれば良い。第一の音響減衰層14を設ける位置は、入射した音響波を受信する受信面の裏側の面に設ける事が好ましい。より好ましくは、基板1の裏側の領域のみに設ける事が好ましい。基板1の裏側の領域を越える場合には、越えた部分と基板1以外の部分との音響インピーダンスをマッチングする必要がある。
【0019】
第二の音響減衰材15についても、電気配線基板13と音響インピーダンスの整合が取れている事が好ましい。例えば、電気配線基板13がガラスエポキシ基板であり、音響インピーダンスがZ=5.8[MRayl]の場合について考える。好ましい材料としては、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂などの粘弾性体が挙げられる。これらの物質に、高密度の微粒子を含有させると、音響インピーダンスの調整と音響波の吸収の向上を実現できる。微粒子はタングステンやアルミナ、銅もしくはその化合物、白金、鉄もしくはその化合物が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂(例えば、LOCTITE#3036/ヘンケル社製の商品名)にアルミナ粒子(30μm〜40μm)を1wt%程度混合して硬化させる事で、音響インピーダンスを5.8[MRayl]程度に調整できる。そのときの減衰率は、1MHzで約9[dB/cm]程度となる。いずれにせよ、所望の音響インピーダンスと所望の吸収が得られる材料を用いれば良い。第二の音響減衰材15を設ける位置は、入射した音響波を被検体側に反射する面の裏側に設ける事が好ましい。より好ましくは、電気配線基板13の裏側の領域のみに設ける事が好ましい。電気配線基板13の裏側の領域を越える場合には、超えた部分と電気配線基板13以外の部分との音響インピーダンスをマッチングする必要がある。
【0020】
次に、図3を用いて、比較例1を説明する。図3は、本発明の電気機械変換装置を用いないで、一般的な超音波変換装置で光音響効果により発生した音響波を受信した時の比較例1を説明する。
【0021】
図3(a)の超音波変換装置は、基板1上に超音波変換エレメント10が形成され、その裏側に第一の音響減衰材14が設けられている。エレメント10の周囲には電気配線基板13が配置され、電気的接続を取っている。例えば、測定対象である被検体17の内部に、腫瘍等の光吸収体18、19、20が存在しているとし、この被検体の外部から、光吸収体が吸収する波長の照射光24を照射する。すると、光吸収体18、19、20は照射光24を吸収し、各々の音響波21、22、23を放出する。各音響波は各光吸収体の周り360度の方向に広がり、超音波変換装置のエレメント10に到達する音響波が検出される。これにより、被検体17の内部に存在する光吸収体18、19、20の位置や大きさを検出する事ができる。超音波変換装置と被検体17の間には、被検体17との界面での音響波の反射を抑える為に、液体やゲル等の音響インピーダンスマッチング材25を設けても良い。
【0022】
図3(a)の様な構成で被検体17から音響波を取得する場合、光吸収体から放出された音響波の一部が、ノイズとなり得る事がある。例えば、光吸収体18から放出された音響波の一部26が、電気配線基板13の表面で反射して被検体17の内部へ戻った場合、この反射波が光吸収体19から放出された音響波22の一部を打ち消し歪める可能性がある。また、電気配線基板13の表面で反射した反射波27が吸収体19で反射し、吸収体23の音響波の一部28と重なり合う可能性がある。これにより、各吸収体の位置や大きさを正確に検出する事が困難になってしまう。電気配線基板13からの反射波27は、電気配線基板13と外界(例えば、音響インピーダンスマッチング材25)の音響インピーダンス差が大きいほど強度が増す。また、電気配線基板13への入射角度の違いにより、反射波27の強度が変動する。図3(a)の様な構成で正確に音響波を取得する為には、反射波27を低減するか、光照射範囲29を狭くし、電気配線基板13へ到達する音響波が反射しても影響がない様にする必要がある。
【0023】
図3(b)を用いて、電気配線基板13と外界(例えば、音響インピーダンスマッチング材25)との界面で生じる反射波と透過波について説明する。一般に、2つの物質の界面30において、溶液やゲル等の液体側から音響波が入射し、電気配線基板13などの固体界面で生じる音響波の反射強度と透過強度は以下の式1〜式3で表す事ができる。ただし、φi:入射波、φr:反射波、θi:入射角度=反射角度、θ:透過角度(縦波)、θ:透過角度(横波)、φ:透過波(横波)、φ:透過波(縦波)、R:反射強度、Rφ:反射波の速度ポテンシャル、Z:液体側の音響インピーダンス、Z:透過波の音響インピーダンス(縦波)、Z:透過波の音響インピーダンス(横波)、Tw:横波透過波の透過強度、Tφ:横波透過波の速度ポテンシャル、T:縦波透過波の透過強度、Tφ:縦波透過波の速度ポテンシャル、ρ:液体の密度、ρ2:個体の密度である。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
この時の音響インピーダンスは、液体側は以下の式4で、固体側は式5で表す事ができる。また屈折の定義から、式6が導かれ、C>C、C>Cの場合、或る入射角で屈折角θ、θ=90度になる時がある。この時の入射角度を臨界角θicL、θicTと呼び、式7、8で示される。この臨界角を境に、反射強度は大きく変動する。ただし、C:液体の音速、C:個体の音速(横波)、C:個体の音速(縦波)である。
(式4)Z=Cρ/cosθi
(式5)Z=Cρ2/cosθ、Z=Cρ2/cosθ
(式6)cosθi/C=cosθ/C=cosθ/C
(式7)θicL=sin−1(C/C
(式8)θicT=sin−1(C/C
【0028】
例えば、電気配線基板13が、多層プリント配線板用FR-4材料などの基板であり、音響インピーダンスマッチング材25が水の場合には、界面で生じる反射波と透過波は図3(c)の様になる。図3(c)の縦軸は強度の比を示している。R=1であれば、完全反射を示す。横軸は、音響波の入射角度を示している。C=1500[m/s]、C=3521[m/s]、C=2240[m/s]、ρ=1000[kg/m3]、ρ2=2148[kg/m3]である事から、上記臨界角はθicL≒25°、θicT≒42°となり、臨界角近辺で反射波の強度が大きくばらつく。また反射強度比は、最小でも0.34と高い。安定して所望の音響波の信号を得る為には、入射角度を25°以下とする必要があり、一度に光を照射できる範囲が限られる事で、広範囲の被検体を検査したい場合に検査効率が低下することが分かる。
【0029】
比較例1に対する本実施例などを含む本発明の効果を、図4を用いて説明する。ただし、図4(a)では、本実施例の変形形態である第二の音響減衰材15を欠いた超音波変換装置を用いている。まず、図4を用いて、この変形形態の超音波変換装置を用いた音響波の取得の様子及びその効果を説明する。例えば、電気配線基板13が、多層プリント配線板用FR-4材料などの基板であり、その上に整合層(反射抑制層)12としてエポキシ樹脂(ヤング率=3[GPa]、ポアソン比=0.3)が配置されているとする。音響インピーダンスマッチング材25を水とした場合、整合層12との界面で生じる反射波と透過波は図4(b)の様になる。図4(b)の縦軸も強度の比を示している。横軸は、音響波の入射角度を示している。ここでは、C=1500[m/s]、C=2010[m/s]、C=1002[m/s]、ρ=1000[kg/m3]、ρ2=1150[kg/m3]である事から、臨界角はθicL≒48°のみとなり、上記比較例1よりも臨界角が広がる。また反射強度比は、臨界角以下で、最大でも0.052と低い。これにより、入射角度が48°までは、表面反射波の影響が大きく抑制され安定した受信信号(エレメントで音響波を受信し、変換された電気信号)を得る事ができる。また、一度に光を照射できる範囲が比較例1よりも広がる事で、広範囲の被検体を検査したい場合にも検査効率を向上する事ができる。
【0030】
次に、反射抑制層12と第二の音響減衰材15を設けない場合の比較例2を、図4(c)を用いて説明する。上記比較例1において、整合層12を設けない場合の超音波変換装置の最表面で生じる反射強度と透過強度を図3(c)に示した。図3(c)において、透過した音響波Twt、Twlは、図4(c)に示す様に、電気配線基板13の内部を通り抜け、裏側の界面33で反射する。このとき、例えば、音響インピーダンスがZ1の電気配線基板13の裏側が、音響インピーダンスがZ2の空気の場合、反射強度Ri、透過強度Tiは次の式9、式10となる。
(式9)Ri=(Z2−Z1/(Z2+Z1
(式10)Ti=4Z12/(Z2+Z1
【0031】
空気の音響インピーダンスをZ2=0.00041[MRayl]、電気配線基板13の音響インピーダンスをZ1=5.8[MRayl]とすると、上記式9の反射強度Ri=0.999[Watts/m2]より、ほぼ全反射となる。また、裏側の界面33で反射した反射波32は、上記式10の透過強度Ti=2.83×10-4[Watts/m2]より、強度を保ったまま被検体側へ戻っていく。この事から、界面30からの反射波27(図3(a)参照)だけでなく、界面33からの反射波32も抑制する必要がある。
【0032】
図2(b)、(c)に示す様に整合層12を設けた本実施例の場合にも、界面33からの反射波32が被検体側へ戻っていくが、この反射波32を抑制できる事を以下に説明する。図2(c)の構成において、整合層である第一の反射抑制層12の透過層を透過する音響波について説明する。音響波は、電気配線基板13との界面34で、約0.11[Watts/m2]の強度で反射波35を生じるが、残りの約0.89[Watts/m2]は透過する。電気配線基板13を透過した透過波31は、界面33に到達する。第二の音響減衰材15は、音響インピーダンスを電気配線基板13にほぼ一致させた物である。材料としては、上述した様なものがある。これを2cmの厚さの第二の音響減衰材15として、電気配線基板13の裏側にエポキシ樹脂で接着させると、界面33からの反射波32はほぼ0になる。また、第二の音響減衰材15の裏側が空気の場合、界面36で完全反射が生じる。界面36からの反射波が、被検体側に戻ってきた時の反射強度は、減衰率と上記式9、10から求められ、透過波31の強度の約1.2%となる。この事から、図2(b)、(c)に示した本実施例の超音波変換装置により、比較例2よりも反射波の強度を大幅に抑制できる事が分かる。
【0033】
(実施例2)
図5に、本発明の実施例2を示す。図5では、電気配線基板13の上部に、第三の反射抑制層37を設けている。第三の反射抑制層37は、音響減衰材である。音響減衰材の音響インピーダンスは、外界(例えば、音響インピーダンスマッチング材25)の音響インピーダンスとほぼ一致させた物である。
【0034】
材料としては、ウレタン樹脂などの粘弾性体に、高密度の微粒子を含有させた物である。微粒子はタングステンやアルミナ、銅もしくはその化合物、白金、鉄もしくはその化合物が挙げられる。具体的には、特殊ウレタンゴム(例えば、Flexane94L/DEVCON社製の商品名)に、タングステン粒子(例えば、2.1〜2.5μm/株式会社アライドマテリアル社製の粒子)を10wt%程度混合して硬化させる。これにより、音響インピーダンスを1.8[MRayl]程度に調整する事ができる。そのときの減衰率は、1MHzで約50[dB/cm]程度となった。これを0.5cmの厚さの第三の反射抑制層37として、電気配線基板13の表面にエポキシ樹脂で接着させると、液体固体界面からの反射波39は、約1%程度になる。
【0035】
外界と音響インピーダンスがほぼ一致するのであれば、市販されている超音波音響吸収タイルなどを、第三の反射抑制層37として用いても良い。更に、上記実施例1(最表面に整合層を設けた例、及び最表面に整合層を設けると共に電気配線基板裏面に音響減衰材を設けた例)と本実施例を組み合わせる事も可能である。
【0036】
(実施例3)
図6を用いて、本発明の実施例3を説明する。図6(a)は、本実施例の超音波変換装置断面の中央部を拡大した図であり、センサ部内側の一部に、反射抑制層44を設けている。センサ部を構成している超音波変換エレメント10の間40は、基板1と同じ材料であったり、基板1上にSiO2、SiNなどの薄膜を成膜した状態であったりして構成されている。超音波変換エレメント10の間40は、外界(例えば、音響インピーダンスマッチング材25)との音響インピーダンスが不一致な為、入射した音響波41の一部を反射して反射波42を生じさせてしまう。また、入射した音響波41の一部は透過し、透過波43として基板1を通り抜けて音響減衰材14に到達し、吸収される。このときの反射波42は、上記比較例1と同様に被検体側へ戻ると、受信信号のノイズとなる。そこで、超音波変換エレメント10の間40の上部に、反射抑制層44を設ける。すなわち、反射抑制層44を、可動領域以外にあって電気機械変換エレメント間の使用時に音響波源側に面する面に設ける。これにより、実施例1、2と同様の効果を得る事ができる。
【0037】
これに対する比較例3として、反射抑制層44の無い部分で生じる反射波42について以下に述べる。具体的には、超音波変換エレメント10の間40がSi(ヤング率=169[Gpa]、ポアソン比=0.3)である場合の反射と透過について図6(b)に示す。図6(b)の縦軸も強度の比を示している。横軸は、音響波の入射角度を示している。外界(例えば、水)とSiの界面において、C=1500[m/s]、C=9881[m/s]、C=5339[m/s]、ρ=1000[kg/m3]、ρ2=2330[kg/m3]である。この事から、上記臨界角はθicL≒8.7°、θicT≒16.3°となる。この様に、臨界角近辺で反射波の強度が大きくばらつく。また反射強度比は、最小でも0.7と高い。安定した受信信号を得る為には、入射角度を8.7°以下とする必要があり、一度に光を照射できる範囲が限られる事で、広範囲の被検体を検査したい場合に検査効率が低下する。
【0038】
これに対して反射抑制層44を設けた本実施例の場合に、その部分で生じる反射波について述べる。例えば、反射抑制層44として整合層を設ける場合には、ガラスエポキシなどの材料を用いる事ができる。このとき、C=1500[m/s]、C=3521[m/s]、C=2240[m/s]、ρ=1000[kg/m3]、ρ2=2148[kg/m3]である。この事から、臨界角はθicL≒25°、θicT≒42°となり、反射抑制層44の無い状態よりも臨界角を広げる事ができる。つまり、図3(c)とほぼ同じ結果を得る事ができる。更に、ガラスエポキシの整合層の上部に、エポキシ樹脂(ヤング率=3[GPa]、ポアソン比=0.3)を別個の整合層として設ける事で、図4(b)の様に更に臨界角を広げる事ができる。こうして、反射抑制層44の無い状態よりも安定した受信信号を得る事ができる。
【0039】
透過波43は、基板1の裏側に存在する第一の音響減衰材14で透過・吸収される。第一の音響吸収材14は、上述した様な物を用いれば良い。これらの音響吸収材14や反射抑制層44は、マイクロマシニング加工や転写など公知の手法を用いて設ける事ができる。また、反射抑制層44は、超音波変換エレメント10を構成する最小単位のセル9の可動領域16以外の部分(図1参照)に設けても同様の効果を発揮できる。更に、上記実施例1〜3と本実施例を組み合わせる事も可能である。
【0040】
上記構成において、反射抑制層44を音響減衰材としても良い。その場合、実施例2と同様の材料を超音波変換エレメント10の間40に設ける事で、実施例2と同様の効果が得られる。また、反射抑制層44を音響減衰材とした場合にも、エレメント10を構成する最小単位のセル9の可動領域16以外の部分に設けても、同様の効果を発揮できる。更に、上記実施例1〜3と本変形形態を組み合わせる事も可能である。
【0041】
(実施例4)
図7(a)に、本発明の実施例4を示す。図7(a)では、電気配線基板13が超音波変換エレメント10の音響波の受信面に対して、或る角度をもって配置されている。典型的には、エレメント10が音響波を受信する受信面に対して垂直な方向と、90度より大きい角度で設置される。電気配線基板13の上部には反射抑制層12が配置され、電気配線基板13の裏側には第二の音響減衰材15が配置されている。超音波変換エレメント10の裏側には、第一の音響減衰材14が配置されている。エレメント10と電気配線基板13は、フレキシブル配線45を介して接続されている。フレキシブル配線45は、反射抑制層12で覆われている。この様な構成の場合、入射した音響波の一部46の反射波47を、被検体以外の方向へ反射する事ができる。これにより、被検体側への反射を抑制する事が可能となる。電気配線基板13とエレメント10の受信面との角度αを調整する事で、所望の照射範囲を得る事ができ、所望の検査効率を達成する事が可能となる。
【0042】
図7(a)では、反射抑制層12と第二の音響減衰材15を設けているが、どちらか片方を設けるだけでも、被検体側への反射を抑制する効果が得られる。また、上記実施例1〜3と本実施例を組み合わせる事も可能である。
【0043】
(実施例5)
図7(b)に、本発明の実施例5を示す。図7(b)では、超音波変換装置がケース48内に収納された構成である。ケース48の中は、空洞でも良いし、樹脂などと一体化した成型物でも良い。この場合、ケース表面と外界との界面で反射波が生じる可能性がある。その為、ケース表面に、反射抑制層49を設けたり、実施例1〜4に記載の構成と組み合わせたりする事で、被検体側への反射波を抑制する事ができる。また、音響波が入射してくるケース表面の素材を、外界との界面で反射波が生じない物を用いる事で、反射波を抑制する事も可能である。
【0044】
(実施例6)
図8に、本発明の実施例6である被検体診断装置ないし光音響測定装置を示す。光源50は、例えば、レーザ光を発生する光源であり、光24は例えばパルス状のレーザ光である。
【0045】
この装置において、被検体17に向かって光源50から発せられた照射光24が被検体内部の光吸収体51にあたる事によって、光音響効果により光音響波とよばれる音響波52が発せられる。この音響波52の周波数は、光吸収体51を構成する物質や個体の大きさによって異なるが300kHz乃至10MHz程度である。音響波52は、その伝搬の良好な音響インピーダンスマッチング材25を通り、超音波変換装置53で検出される。電流電圧増幅された信号は、信号線54を介して信号処理部55に送られる。検出された信号は、信号処理部55で信号処理され、被検体の物理情報が抽出される。信号処理部55は主に計算機であるが、一部は集積回路になっていてもよく、2次元や3次元のイメージの再構成が可能なものである。超音波変換装置53は、上記実施例1〜5のものを用いる事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の電気機械変換装置は、生体などの測定対象内の情報を得る光イメージング装置や、従来の超音波診断装置などに適用する事ができる。更に、超音波探傷機など、他の用途にも適応する事ができる。
【符号の説明】
【0047】
1…基板、9…セル、10…電気機械変換エレメント、12、37、44、49…反射抑制層、13…電気配線基板、14、15、37…音響減衰材、16…可動領域、25…音響インピーダンスマッチング材、48…ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から放出される音響波を受信するための可動領域を有する電気機械変換エレメントと、
前記電気機械変換エレメントと電気的接続を取る電気配線基板と、
前記被検体側に面する面のうちの、前記可動領域以外の少なくとも一部に設けられ、前記可動領域以外に到達する音響波が音響波源側に反射する事を抑制する反射抑制層と、
を有する事を特徴とする電気機械変換装置。
【請求項2】
前記電気配線基板は、前記電気機械変換エレメントの周囲に配置され、
前記反射抑制層は、前記電気配線基板の前記被検体側に面する面に設けられる事を特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置。
【請求項3】
前記電気配線基板を挟んで前記反射抑制層と反対側に音響減衰材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気機械変換装置。
【請求項4】
複数の前記電気機械変換エレメントを備え、
前記反射抑制層は、前記可動領域以外にあって前記被検体側に面する面に設けられる事を特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項5】
前記音響減衰材の音響インピーダンスは、前記電気配線基板または前記基板が有する音響インピーダンスと同等である事を特徴とする請求項3に記載の電気機械変換装置。
【請求項6】
前記反射抑制層は、音響波透過層と音響波吸収層のうちの少なくとも1つの層を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項7】
前記透過層の音響インピーダンスは、前記透過層が接する2つの界面のうち、被検体側が有する音響インピーダンスより大きく、その反対側が有する音響インピーダンスより小さく、前記吸収層の音響インピーダンスは、前記吸収層が接する2つの界面のうち、被検体側が有する音響インピーダンスと同等である事を特徴とする請求項6に記載の電気機械変換装置。
【請求項8】
前記電気配線基板は、前記電気機械変換エレメントが音響波を受信する受信面に対して垂直な方向と、90度より大きい角度で設置されている事を特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項9】
前記電気機械変換エレメントと前記電気配線基板は、ケースに収納され、
前記反射抑制層は、前記被検体側に面する前記ケースの面に設けられる事を特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の電気機械変換装置と、
パルス状に光を発生する光源と、
前記電気機械変換装置から出力される信号を処理する信号処理部と、
を有し、
該光源から発せられて被検体にあてられた前記光によって生じる光音響波を前記電気機械変換装置で検出し、変換された信号を前記信号処理部で処理することで被検体内部の情報を取得する事を特徴とする被検体診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−100123(P2012−100123A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246912(P2010−246912)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】