説明

電池加熱装置

【課題】蓄電池を加熱する能力の低下を抑制しつつ、電力変換手段や電力変換手段の周辺機器への負荷の低減を図る。
【解決手段】蓄電池4に対して直列接続され、通電により発熱する抵抗体101と、放電時に蓄電池4から電力が供給されると共に、充電時に蓄電池4に対して電力を供給可能に構成されたDC−DCコンバータ3と、充電時に蓄電池4で必要とされる充電必要電力を算出する充電必要電力算出手段S30と、抵抗体101の発熱に必要とされる抵抗必要電力を算出する抵抗必要電力算出手段S40と、充電時にDC−DCコンバータ3から蓄電池4に供給する充電時供給電力を設定する充電時供給電力設定手段S120、S130と、を備え、充電時供給電力設定手段S120、S130は、充電必要電力に対して抵抗必要電力を補正した充電時補正電力が予め設定された許容電力以上である場合に、許容電力を充電時供給電力に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な蓄電池を加熱する電池加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電手段である蓄電池は、温度の低下に伴って内部抵抗が増加するといった特性を有し、温度低下によって蓄電池の内部抵抗が増加すると、蓄電池の充放電性能が低下するといった問題がある。
【0003】
この問題の対策として、電気ヒータ(抵抗体)によって、蓄電池を加熱する電池加熱装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、特許文献1では、温度の上昇に伴って電気抵抗が小さくなる特性(負の温度抵抗特性)を有し、通電により発熱する抵抗体を蓄電池に熱的に接触させることで、抵抗体の熱によって蓄電池を加熱する構成としている。
【0005】
このような構成を備える電池加熱装置では、蓄電池や抵抗体の温度が低くなる条件(例えば、低温環境下)では、抵抗体の抵抗が増大して抵抗体での発熱量が上昇するので、蓄電池を充分に加熱することができる。また、通電を継続することで抵抗体の温度が高くなると、抵抗体の抵抗が減少して抵抗体での発熱量が低下するので、抵抗体の熱によって蓄電池が過剰に加熱されることもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−118729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の電池加熱装置では、蓄電池を加熱する能力の増大を図るために、抵抗体の抵抗値に基づいて抵抗体における最大発熱量に必要とされる電力量を算出し、算出した電力量を蓄電池へ供給する電力量に加算する構成している。
【0008】
しかし、このような構成を採用すると、蓄電池や抵抗体の温度が低下し、蓄電池と抵抗体の総抵抗が高くなっている場合、蓄電池に対して供給する電力変換手段(DC−DCコンバータ)で電圧を過剰に上昇させて、蓄電池および抵抗体に電力を供給する(電流を流す)必要がある。
【0009】
この場合、電力変換手段には、過剰な負荷が加わることとなり、電力変換手段や電力変換手段の周辺機器の劣化・寿命の低下を招くといった問題がある。
【0010】
これに対して、抵抗体の抵抗値を小さく設定することが考えられるが、抵抗体の抵抗値を小さく設定すると、蓄電池を加熱する能力の低下を招くといった背反がある。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、蓄電池を加熱する能力の低下を抑制しつつ、電力変換手段や電力変換手段の周辺機器への負荷の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、充放電可能な蓄電池(4)を加熱する電池加熱装置であって、蓄電池(4)に対して電気的に直列接続され、通電により発熱する抵抗体(101)と、蓄電池(4)の放電時に蓄電池(4)から電力が供給されると共に、蓄電池(4)の充電時に蓄電池(4)に対して電力を供給可能に構成された電力変換手段(3)と、蓄電池(4)の充電時に蓄電池(4)で必要とされる充電必要電力を算出する充電必要電力算出手段(S30)と、抵抗体(101)の発熱に必要とされる抵抗必要電力を算出する抵抗必要電力算出手段(S40)と、蓄電池(4)の充電時に電力変換手段(3)から蓄電池(4)に供給する充電時供給電力を設定する充電時供給電力設定手段(S120、S130)と、を備え、抵抗体(101)は、蓄電池(4)に熱的に接触するように配置され、充電時供給電力設定手段(S120、S130)は、充電必要電力に対して抵抗必要電力を補正した充電時補正電力が予め設定された許容電力以上である場合に、許容電力を充電時供給電力に設定し、充電時補正電力が許容電力よりも小さい場合に、充電時補正電力を充電時供給電力に設定することを特徴とする。
【0013】
これによると、抵抗体(101)の抵抗値を小さく設定しなくとも、蓄電池(4)の充電時において、電力変換手段(3)における蓄電池(4)に供給する電力(充電時供給電力)を許容電力の範囲内に制限することができるので、蓄電池(4)を加熱する能力の低下を抑制しつつ、電力変換手段(3)や電力変換手段(3)の周辺機器への負荷の低減を図ることができる。
【0014】
ここで、蓄電池(4)の放電時において、蓄電池(4)から電力変換手段(3)に供給する電力(放電時供給電力)は、その一部(抵抗必要電力)が抵抗体(101)にて消費されるので、充電時のように、許容電力の範囲内に制限しなくても、電力変換手段(3)や電力変換手段(3)の周辺機器への負荷が増大することがない。
【0015】
このため、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の電池加熱装置において、蓄電池(4)の放電時に蓄電池(4)に必要とされる放電必要電力を算出する放電必要電力算出手段(S30)と、蓄電池(4)の放電時に蓄電池(4)から電力変換手段(3)に供給する放電時供給電力を設定する放電時供給電力設定手段(S70)と、を備え、放電時供給電力設定手段(S70)は、放電必要電力に対して抵抗必要電力を補正した放電時補正電力を放電時供給電力に設定する構成としてもよい。
【0016】
これによると、電力変換手段(3)に接続された電気機器へ供給する電力を充分に確保することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の電池加熱装置において、抵抗体(101)は、温度低下に伴って抵抗値が上昇する負の温度抵抗特性を有することを特徴とする。
【0018】
これによると、負の温度抵抗特性を有する抵抗体(101)によって、蓄電池(4)を加熱する構成としており、蓄電池(4)の温度が低くなる条件において、抵抗体(101)の抵抗値が上昇するので、蓄電池(4)を適切に加熱することができる。また、通電を継続することで抵抗体(101)の温度が高くなると、抵抗体(101)の抵抗が減少して抵抗体での発熱量が低下するので、抵抗体の熱によって蓄電池が過剰に加熱されることもない。
【0019】
ところで、負の温度抵抗特性を有する抵抗体(101)は、蓄電池(4)の放電時に蓄電池(4)および抵抗体(101)の温度が低下している場合、抵抗体(101)の抵抗値が高くなるので、抵抗体(101)で消費される電力が増加し、抵抗体(101)以外の電気機器へ供給する電力が減少してしまう虞がある。
【0020】
そこで、請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の電池加熱装置において、抵抗体(101)に電気的に並列に接続され、蓄電池(4)との導通を遮断可能な導通遮断手段(11、70)を備え、導通遮断手段(11、70)は、蓄電池(4)の充電時に導通遮断手段(11、70)に流れる電流を遮断し、蓄電池(4)の放電時に導通遮断手段(11、70)に流れる電流を許容するように構成されていることを特徴とする。
【0021】
これによると、蓄電池(4)の放電時に蓄電池(4)および抵抗体(101)の温度が低下している場合には、温度低下によって抵抗値が上昇した抵抗体(101)よりも蓄電池(4)と導通する導通遮断手段(11、70)側に電流が流れ易くなる。
【0022】
従って、蓄電池(4)の放電時に蓄電池(4)および抵抗体(101)の温度が低下している場合における抵抗体(101)以外の電気機器へ供給される電力の減少を抑制することが可能となる。
【0023】
具体的には、請求項5に記載の発明の如く、請求項4に記載の電池加熱装置において、蓄電池(4)の電池温度を検出する電池温度検出手段(71)を備え、導通遮断手段(11、70)を、蓄電池(4)との導通の許容および遮断を切替えるスイッチング素子(11)、スイッチング素子(11)の作動を制御するスイッチ切替制御手段(70)を含んで構成し、スイッチ切替制御手段(70)にて、蓄電池(4)の充電時において、蓄電池(4)の電池温度が予め設定された基準温度より低い場合には、スイッチング素子(11)側を通る電流が遮断されるようにスイッチング素子(11)を切替えるようにすることができる。
【0024】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態の電池加熱装置を適用した燃料電池システムの全体構成図である。
【図2】実施形態の電池加熱装置の斜視図である。
【図3】実施形態の電池加熱装置の分解斜視図である。
【図4】実施形態の抵抗体の温度抵抗特性を示す特性図である。
【図5】実施形態の制御装置が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施形態の電池加熱装置の効果を確認した実験結果の説明図である。
【図7】実施形態の電池加熱装置の効果を確認する実験に用いた抵抗体の温度抵抗特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図7に基づいて説明する。図1は、本実施形態の電池加熱装置1を適用した燃料電池システムの全体構成図である。
【0027】
燃料電池システムは、燃料ガスとしての水素と酸化剤ガスとしての空気(酸素)とを電気化学反応を利用して電気エネルギを出力する燃料電池(FC)2を備えている。本実施形態の燃料電池システムは、電気自動車の一種である燃料電池車両に適用している。
【0028】
本実施形態の燃料電池2は、基本単位となる燃料電池セル(図示略)が複数枚積層されて構成されている。なお、本実施形態では、燃料電池2として固体高分子電解質型燃料電池を採用している。
【0029】
燃料電池2に水素および空気が供給されると、各燃料電池セルでは、以下に示すように、水素と酸素とを電気化学反応させて、電気エネルギを出力する。
【0030】
(負極側)H2→2H++2e−
(正極側)2H++1/2O2+2e−→H2O
そして、燃料電池2から出力された電気エネルギは、蓄電池4や走行用インバータ5等の各種電気負荷へ供給される。なお、燃料電池2への水素および空気の供給量は、後述する制御装置7によって制御される。
【0031】
燃料電池2には、DC−DCコンバータ3を介して蓄電池4に接続されている。DC−DCコンバータ3は、蓄電池4の放電時に蓄電池4から電力が供給されると共に、蓄電池4の充電時に蓄電池4に対して電力を供給可能とする電力変換手段を構成している。
【0032】
本実施形態のDC−DCコンバータ3は、昇降圧チョッパ回路で構成され、燃料電池2で発生した電力を蓄電池4に充電したり、蓄電池4に蓄えされた電力を燃料電池2や後述する走行用インバータ5に供給(放電)したりする装置である。なお、本実施形態のDC−DCコンバータ3は、電圧の大きさに関わらず双方向に電力のやり取りが可能に構成されている。
【0033】
蓄電池4は、充放電可能な二次電池であって、燃料電池2から供給された電力(電気エネルギ)や後述する走行用モータ6にて変換(回生)された電力(回生エネルギ)を蓄えると共に、蓄えた電力を車両用各種補機類等の電気負荷に供給する。蓄電池4としては、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池等を用いることができる。
【0034】
蓄電池4は、基本単位となる板状またはフィルム状の複数の電池セル40がバスバー41を介して電気的に直列接続されており、組電池として機能する。複数の電池セル40のうちいずれか1つの電池セルには、蓄電池4を加熱する電池加熱装置1の加熱部10が電気的に直列接続されている。具体的には、本実施形態の加熱部10は、蓄電池4における一端側に配置された電池セル40に直列に接続されている。本実施形態の電池加熱装置1の詳細については後述する。
【0035】
燃料電池2とDC−DCコンバータ3の間には、走行用インバータ5が接続されており、燃料電池2からの電力、或いは、蓄電池4からの電力が、DC−DCコンバータ3を介して走行用インバータ5に供給される。なお、走行用インバータ5は、DC−DCコンバータ3と蓄電池4との間に接続してもよい。
【0036】
走行用インバータ5は、走行用モータ6を駆動させたり、走行用モータ6の駆動力を電力に回生させたりする制御回路である。本実施形態の走行用インバータ5は、三相インバータを採用しており、三相の交流電流を走行用モータ6に供給して、走行用モータ6の駆動を制御する。
【0037】
走行用モータ6は、電気エネルギと機械エネルギを相互に変換するモータジェネレータMGであって、電気エネルギを出力軸の回転という機械エネルギに変換すると共に、出力軸の回転(機械エネルギ)を電気エネルギに変換する発電機としての機能を有する。
【0038】
ここで、本実施形態では、蓄電池4から走行用インバータ5に電力を供給することが可能な構成としている。このため、例えば、車両の急加速時等のように負荷変動が大きく、走行用モータ6で必要とされる電力が増大する状況において、燃料電池2および蓄電池4それぞれから走行用インバータ5への電力供給を行うことができる。
【0039】
次に、本実施形態の電池加熱装置1について図2〜図4に基づいて説明する。図2は、本実施形態の蓄電池4を含む電池加熱装置1の斜視図であり、図3は、本実施形態の電池加熱装置1の分解斜視図である。
【0040】
本実施形態の電池加熱装置1は、図2および図3に示すように、蓄電池4を加熱する加熱部10、加熱部10に電気的に並列接続されたスイッチング素子11を有して構成されている。
【0041】
本実施形態の加熱部10は、通電により発熱する板状の抵抗体101、抵抗体101における厚み方向に平行な両端面に接続される一対の電極102、103、抵抗体101の両面に配置された一対の絶縁部材104、105等を有して構成されている。
【0042】
抵抗体101は、蓄電池4における複数の電池セル40に跨って熱的に接触するように配置されている。具体的には、本実施形態の抵抗体101は、各電池セル40の外周面における底面側に対向する位置であって、各電池セル40の底面に沿って延びるように配置されている。この抵抗体101は、負の温度抵抗特性(温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する特性)を有すると共に、一対の電極102、103を介して通電されることで発熱する。
【0043】
抵抗体101としては、遷移金属酸化物により構成される半導体であって、例えば、図4(a)に示す温度抵抗特性を有するNTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient thermistor)や、図4(b)に示す温度抵抗特性を有するCTRサーミスタ(Critical Temperature Coefficient thermistor)を用いることができる。なお、図4は、本実施形態の抵抗体101の温度抵抗特性を示す特性図である。
【0044】
抵抗体101は、一対の電極102、103のうち第1電極102を介して、蓄電池4の電池セル40に直列に接続されると共に、他方の第2電極103を介してDC−DCコンバータ3に直列に接続されている。
【0045】
一対の電極102、103は、各電池セル40の並び方向に延びる棒形状とし、抵抗体101の面方向に電流が流れるように、抵抗体101をその厚み方向から見たとき、抵抗体101の長手方向に延びる互いに対向する外周縁部に接続されている。
【0046】
一対の絶縁部材104、105は、各電池セル40の底面と抵抗体101との間に配置される上部絶縁部材104と、抵抗体101の上部絶縁部材104と対向する面の反対側の面に対向して配置される下部絶縁部材105とで構成されている。各絶縁部材104、105それぞれは、抵抗体101と蓄電池4やその他の機器とを絶縁する部材であって、熱伝導率の高い材料(例えば、ポリイミド樹脂)で構成されている。
【0047】
抵抗体101は、通電した際に発生した熱(ジュール熱)が、一対の絶縁部材104、105のうち、蓄電池4と間に配置される上部絶縁部材104を介して、蓄電池4に伝わる(移動する)ように、蓄電池4と熱的に接触して配置されている。
【0048】
このように、負の温度抵抗特性を有する抵抗体101によって、蓄電池4を加熱することで、蓄電池4の温度が低くなる低温時に、抵抗体101の抵抗値が上昇するので、蓄電池4を充分に加熱することができる。
【0049】
また、電池加熱装置1のスイッチング素子11は、後述する制御装置7からの制御信号に基づいて、蓄電池4の充電時に、スイッチング素子11側を通る電流の許容および遮断を切替えるためのものである。例えば、蓄電池4の充電時には、スイッチング素子11側を通る電流が遮断されるようにスイッチング素子11がオフされて、図3の実線矢印に示すように、DC−DCコンバータ3に接続された第2電極103から抵抗体101の面方向へと電流が流れる。一方、蓄電池4の放電時には、スイッチング素子11側を通る電流が許容されるようにスイッチング素子11がオンされて、図3の破線矢印に示すように、蓄電池4に接続された第1電極102からスイッチング素子11を通って電流が流れる。このように、スイッチング素子11およびスイッチング素子11を制御する制御装置7は、スイッチング素子11側を通る電流を遮断可能な導通遮断手段として機能する。
【0050】
図1に戻り、本実施形態の電気制御部について説明する。制御装置7は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続される各種制御機器の作動を制御する。
【0051】
出力側に接続される各種制御機器としては、スイッチング素子11、DC−DCコンバータ3、走行用インバータ5、燃料電池2へ供給する水素流量を調整する水素流量調整手段(図示略)、燃料電池2へ供給する空気流量を調整する空気流量調整手段(図示略)を構成する各種アクチュエータ等がある。
【0052】
制御装置7の入力側には、燃料電池2、蓄電池4の電池温度Tbを検出する電池温度検出手段である電池温度センサ71、加熱部10の両端の電圧Vbを検出する電圧検出手段である電圧センサ72、加熱部10を流れる電流Ibを検出する電流検出手段である電流センサ73が接続されている。制御装置7には、燃料電池2の要求電力信号や、電池温度センサ71、電圧センサ72、電流センサ73の各検出信号が入力される。
【0053】
なお、本実施形態では、特に、制御装置7におけるスイッチング素子11を制御するハードウェアおよびソフトウェアをスイッチ切替制御手段70とする。
【0054】
次に、上記構成における本実施形態の電池加熱装置1の作動について図5に基づいて説明する。図5は、本実施形態の制御装置7が実行する電池加熱処理の流れを示すフローチャートである。なお、図5のフローチャートは、制御装置7が車両走行を行うためのメインルーチンのサブルーチンとして所定の制御周期毎に実行される。
【0055】
まず、燃料電池2の要求電力信号、走行用モータ6にて回生された電力信号および電池温度センサ71、電圧センサ72、電流センサ73等の検出信号を読み込む(S10)。続いて、電池温度センサ71で検出した蓄電池4の電池温度Tbが、予め設定された基準温度To以上であるか否かを判定する(S20)。ここで、基準温度Toは、蓄電池4の充放電性能が充分に発揮可能な状態であると推定される下限温度であり、予め実験やシミュレーション等により設定される。なお、本実施形態では、基準温度Toを0℃に設定している。
【0056】
S20の判定処理の結果、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度To以上であると判定された場合(S20:YES)には、蓄電池4の充放電性能が低下する状態ではなく、蓄電池4を加熱する必要がないと判断できる。このため、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度To以上であると判定された場合、蓄電池4を加熱することなく、メインルーチンに戻る。
【0057】
一方、S20の判定処理の結果、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度Toよりも低いと判定された場合(S20:NO)には、蓄電池4の充放電性能が低下する状態であり、蓄電池4を加熱する必要があると判断できる。このため、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度Toより低いと判定された場合、S30に移行して電池加熱装置1による蓄電池4を加熱する加熱処理を行う。
【0058】
S30の処理では、蓄電池4の電池容量SOC(State Of Charge)を算出し、算出した電池容量SOCに基づいて、蓄電池4の充電モード、放電モード、および休止モードのいずれかに決定して、決定したモードに対応する充放電パターンを設定する。また、S30の処理では、蓄電池4の電池容量SOC、燃料電池2の要求電力信号、走行用モータ6にて回生された電力信号等に基づいて、充電時に蓄電池4で必要とされる充電必要電力と、放電時に蓄電池4に必要とされる放電必要電力を算出する。なお、蓄電池4の電池容量SOCは、例えば、予め蓄電池4の状態(電池電圧、電流、および電池温度Tb)と、電池容量SOCとの関係を規定した制御マップを用いて算出することができる。
【0059】
次に、S10にて検出した各センサ71〜73の検出値に基づいて、加熱部10における抵抗体101の加熱に必要とされる必要電力(抵抗必要電力)を算出する(S40)。なお、加熱部10における抵抗必要電力は、電池温度センサ71の検出値(電池温度)、および電池容量SOCから、蓄電池4および加熱部10に流れ得る最大電流量を算出し、電圧センサ72、および電流センサ73の検出値から抵抗体101の抵抗値を算出する。そして、算出した最大電流量および抵抗体101の抵抗値から加熱部10における抵抗必要電力を算出する。
【0060】
次に、S30にて設定した充放電パターンのモードが放電モードであるか否かを判定する(S50)。この結果、放電モードであると判定された場合(S50:YES)には、蓄電池4の放電時に蓄電池4に必要とされる必要電力(放電必要電力)に対して、S40にて算出した抵抗必要電力を補正した補正電力(放電時補正電力)を算出する(S60)。なお、S60の処理では、例えば、放電必要電力に対して、抵抗必要電力を加算することで、放電時補正電力を算出する。
【0061】
そして、S60にて算出した放電時補正電力を今回の放電時供給電力に設定して、蓄電池4とDC−DCコンバータ3との間で、所定周期で放電と休止を繰り返すパルス放電を実行する(S70)。なお、蓄電池4の放電時において、導通遮断手段であるスイッチング素子11はオンされて、スイッチング素子11側を通る電流が許容される。これにより、抵抗体101よりもスイッチング素子11側へ電流が流れ易くなる。
【0062】
次に、再び、電池温度センサ71にて蓄電池4の電池温度Tbを検出して、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度To以上であるか否かを判定する(S80)。この判定処理の結果、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度To以上であると判定された場合(S80:YES)には、パルス充放電を終了してメインルーチンに戻る。一方、蓄電池4の電池温度Tbが基準温度Toより低いと判定された場合(S80:NO)には、S40に戻る。
【0063】
S50の判定処理の結果、S30にて設定した充放電パターンのモードが放電モードでないと判定された場合(S50:NO)には、S30にて設定した充放電パターンのモードが充電モードであるか否かを判定する(S90)。この結果、充電モードであると判定された場合(S90:YES)には、S100の処理に移行し、充電モードでない(休止モード)と判定された場合(S90:NO)には、S80の処理に移行する。
【0064】
S100の処理では、蓄電池4の充電時に蓄電池4に必要とされる必要電力(充電必要電力)に対して、S40にて算出した抵抗必要電力を補正した補正電力(充電時補正電力)を算出する。なお、S100の処理では、例えば、充電必要電力に対して、抵抗必要電力を加算することで、充電時補正電力を算出する。
【0065】
次に、S100にて算出した充電時補正電力が、予め設定された許容電力以下であるか否かを判定する(S110)。ここで、許容電力(許容電圧)は、DC−DCコンバータ3およびDC−DCコンバータ3の周辺機器の安全、加熱部10等における損失や効率を考慮して設定された設計値である。
【0066】
S110の判定処理の結果、S100にて算出した充電時補正電力が許容電力以下であると判定された場合(S110:YES)には、S100にて算出した充電時補正電力を今回の放電時供給電力に設定して、蓄電池4とDC−DCコンバータ3との間で、所定周期で充電と休止を繰り返すパルス充電を実行する(S120)。なお、蓄電池4の充電時において、蓄電池4の温度が基準温度Toよりも低い場合には、導通遮断手段であるスイッチング素子11がオフされて、スイッチング素子11側を通る電流が遮断される。これにより、抵抗体101へ電流が流れる。
【0067】
ここで、充電必要電力に対して抵抗必要電力を加算して算出した充電時補正電力が、許容電力を上回っている場合に、充電時補正電力に基づいて、パルス充電を行うと、電力変換手段であるDC−DCコンバータ3に、過剰な負荷が加わることとなり、DC−DCコンバータ3やDC−DCコンバータ3の周辺機器の劣化・寿命の低下を招くといった問題がある。
【0068】
そこで、本実施形態では、S100にて算出した充電時補正電力が許容電力を上回っていると判定された場合(S110:NO)には、許容電力を今回の放電時供給電力に設定して、蓄電池4とDC−DCコンバータ3との間でパルス充電を実行する(S130)。そして、S120およびS130にてパルス充電を行った後、S80に移行する。
【0069】
なお、上述したS30の処理が本発明の充電必要電力算出手段、および放電必要電力算出手段に相当し、S40の処理が本発明の抵抗必要電力算出手段に相当し、S70の処理が本発明の放電時供給電力設定手段に相当し、S120およびS130の処理が本発明の充電時供給電力設定手段に相当している。
【0070】
以上説明した本実施形態によると、抵抗体101の抵抗値を小さく設定することなく、蓄電池4の充電時において、DC−DCコンバータ3から蓄電池4に供給する電力(充電時補正電力)を許容電力の範囲内に制限することができる。このため、蓄電池4を加熱する能力の低下を抑制しつつ、DC−DCコンバータ3やDC−DCコンバータ3の周辺機器への負荷の低減を図ることができる。
【0071】
ここで、本実施形態の構成の効果を確認するために、同様の負荷条件において、本実施形態のように蓄電池4の充電時における充電時補正電力を許容電力の範囲内に制限する構成、許容電力の制限を設けていない構成、他の比べて低い抵抗値となる抵抗体101を採用する構成にて比較実験を行ったところ、図6に示す結果が得られた。
【0072】
図6は、本実施形態の電池加熱装置の効果を確認するシミュレーション結果の説明図である。ここで、図6(a)は、車両のシミュレーション走行時の負荷条件を示す図であり、シミュレーション走行開始からの車両の走行時間と車両速度(負荷)との関係を示している。図6(b)〜図6(d)それぞれは、車両の走行時間と蓄電池4の電池温度(図中破線)およびDC−DCコンバータ3の電圧Vc(図中実線)との関係を示すもので、図6(b)は充電時補正電力を許容電力の範囲内(例えば、DC−DCコンバータ3の許容電圧の範囲を650V以下の範囲内)に制限した場合を示し、図6(c)は充電時補正電力を許容電力の範囲内に制限しない場合を示し、図6(d)は低い抵抗値の抵抗体101を採用した場合を示している。なお、図6(d)では、図7に示すように、図6(b)および図6(c)で用いる抵抗体(CTRサーミスタA)よりも抵抗値の低い抵抗体(CTRサーミスタB)を採用している。
【0073】
図6に示すように、本実施形態の如く、充電時補正電力を許容電力の範囲内(DC−DCコンバータ3の許容電圧の範囲内)に制限した場合、許容電圧を上回ることなく、蓄電池4を充分に昇温させることができる(図6(b)参照)。
【0074】
これに対して、充電時補正電力を許容電力の範囲内(DC−DCコンバータ3の許容電圧の範囲内)に制限しない場合、蓄電池4を充分に昇温させることができるものの、許容電圧を上回ってしまう(図6(c)参照)。また、低い抵抗値の抵抗体101を採用した場合、許容電圧を上回ることはないものの、蓄電池4を充分に昇温させることができない(図6(d)参照)。
【0075】
なお、本実施形態では、蓄電池4の放電時において、蓄電池4からDC−DCコンバータ3に供給する電力(放電時供給電力)は、その一部(抵抗必要電力)が抵抗体101にて消費されるので、充電時のように、許容電力以下となるような制限を加えない。これにより、DC−DCコンバータ3に接続された電気機器へ供給する電力を充分に確保することができる。
【0076】
さらに、本実施形態では、蓄電池4の充電時において、蓄電池4の電池温度が基準温度Toよりも低い場合には、スイッチング素子11がオフされて、スイッチング素子11側を通る電流が遮断される。このため、抵抗体101へと電流が流れるので、蓄電池4の充電時に蓄電池4を充分に昇温させることができる。
【0077】
一方、蓄電池4の放電時において、蓄電池4の電池温度が基準温度Toよりも低い場合には、スイッチング素子11がオンされて、スイッチング素子11側を通る電流が許容される。このため、蓄電池4および抵抗体101の温度が低下している場合には、温度低下によって抵抗値が上昇した抵抗体101よりも蓄電池4と導通するスイッチング素子11側に電流が流れ易くなる。従って、蓄電池4の放電時に蓄電池4および抵抗体101の温度が低下している場合における抵抗体101以外の電気機器へ供給される電力の減少を抑制することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態では、負の温度抵抗特性を有する抵抗体101によって、蓄電池4を加熱する構成としており、蓄電池4の温度が低くなる条件において、抵抗体101の抵抗値が上昇するので、蓄電池4を適切に加熱することができる。
【0079】
なお、本実施形態では、蓄電池4の充電時において、DC−DCコンバータ3における蓄電池4への供給電力を制限する構成としているので、DC−DCコンバータ3を双方向に昇降圧可能な構成ではなく、一方向(例えば、蓄電池4→DC−DCコンバータ3)に昇降圧可能な構成としてもよい。これにより、DC−DCコンバータ3の構成を簡素化することができるので、電池加熱装置1のコスト低減を図ることが可能となる。
【0080】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0081】
(1)上述の実施形態では、抵抗体101として、CTRサーミスタやNTCサーミスタ等のように、遷移金属酸化物により構成される半導体を採用しているが、これに限定されない。抵抗体101は、負の温度抵抗特性を有するものであれば、例えば、導電物質と絶縁物質とで構成される複合材料等で構成されていてもよい。
【0082】
(2)上述の実施形態では、抵抗体101を蓄電池4における複数の電池セル40の下面側に配置しているが、抵抗体101は、複数の電池セル40に跨って配置する構成であれば、例えば、電池セル40の上面側や側面側に配置してもよい。
【0083】
また、抵抗体101は、蓄電池4に直列に接続される構成であれば、複数の電池セル40に跨って配置する構成に限らず、抵抗体101を蓄電池4における複数の電池セル40それぞれに対応して配置する構成としてもよい。
【0084】
(3)上述の実施形態では、蓄電池4における複数の電池セル40のうち、並び方向の端部に設けた電池セル40に加熱部10を直列に接続する構成としているが、これに限定されない。加熱部10は、複数の電池セル40それぞれに直列に接続した抵抗体101で構成してもよい。
【0085】
(4)上述の実施形態では、蓄電池4との導通を遮断する導通遮断手段をスイッチング素子11およびスイッチ切替制御手段70にて構成したが、これに限らず、特定の一方向への電流の流れを許容する整流作用を有する整流素子であるダイオードで構成してもよい。この場合、ダイオードは、蓄電池4の充電時に蓄電池4との導通を遮断し、蓄電池4の放電時に蓄電池4との導通を許容するように加熱部10に対して電気的に並列に接続すればよい。
【0086】
(5)上述の実施形態では、電池加熱装置1を車両に搭載された蓄電池4を加熱する手段とした例を説明したが、電池加熱装置1は、車両に搭載された蓄電池4に限らず、他に用いられる蓄電池4を加熱する手段としてもよい。
【符号の説明】
【0087】
101 抵抗体
11 スイッチング素子(スイッチ切替制御手段)
3 DC−DCコンバータ(電力変換手段)
4 蓄電池
70 制御装置(スイッチ切替制御手段)
S30 充電必要電力算出手段
S40 抵抗必要電力算出手段
S70 放電時供給電力設定手段
S120 充電時供給電力設定手段
S130 充電時供給電力設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な蓄電池(4)を加熱する電池加熱装置であって、
前記蓄電池(4)に対して電気的に直列接続され、通電により発熱する抵抗体(101)と、
前記蓄電池(4)の放電時に前記蓄電池(4)から電力が供給されると共に、前記蓄電池(4)の充電時に前記蓄電池(4)に対して電力を供給可能に構成された電力変換手段(3)と、
前記蓄電池(4)の充電時に前記蓄電池(4)で必要とされる充電必要電力を算出する充電必要電力算出手段(S30)と、
前記抵抗体(101)の発熱に必要とされる抵抗必要電力を算出する抵抗必要電力算出手段(S40)と、
前記蓄電池(4)の充電時に前記電力変換手段(3)から前記蓄電池(4)に供給する充電時供給電力を設定する充電時供給電力設定手段(S120、S130)と、を備え、
前記抵抗体(101)は、前記蓄電池(4)に熱的に接触するように配置され、
前記充電時供給電力設定手段(S120、S130)は、
前記充電必要電力に対して前記抵抗必要電力を補正した充電時補正電力が予め設定された許容電力を上回っている場合に、前記許容電力を前記充電時供給電力に設定し、
前記充電時補正電力が前記許容電力以下である場合に、前記充電時補正電力を前記充電時供給電力に設定することを特徴とする電池加熱装置。
【請求項2】
前記蓄電池(4)の放電時に前記蓄電池(4)に必要とされる放電必要電力を算出する放電必要電力算出手段(S30)と、
前記蓄電池(4)の放電時に前記蓄電池(4)から前記電力変換手段(3)に供給する放電時供給電力を設定する放電時供給電力設定手段(S70)と、を備え、
前記放電時供給電力設定手段(S70)は、前記放電必要電力に対して前記抵抗必要電力を補正した放電時補正電力を前記放電時供給電力に設定することを特徴とする請求項1に記載の電池加熱装置。
【請求項3】
前記抵抗体(101)は、温度低下に伴って抵抗値が上昇する負の温度抵抗特性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電池加熱装置。
【請求項4】
前記抵抗体(101)に電気的に並列に接続され、前記蓄電池(4)との導通を遮断可能な導通遮断手段(11、70)を備え、
前記導通遮断手段(11、70)は、前記蓄電池(4)の充電時に導通遮断手段(11、70)に流れる電流を遮断し、前記蓄電池(4)の放電時に導通遮断手段(11、70)に流れる電流を許容するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の電池加熱装置。
【請求項5】
前記蓄電池(4)の電池温度を検出する電池温度検出手段(71)を備え、
前記導通遮断手段(11、70)は、前記蓄電池(4)との導通の許容および遮断を切替えるスイッチング素子(11)、前記スイッチング素子(11)の作動を制御するスイッチ切替制御手段(70)を含んで構成されており、
前記スイッチ切替制御手段(70)は、前記蓄電池(4)の充電時において、前記蓄電池(4)の電池温度が予め設定された基準温度より低い場合には、スイッチング素子(11)側に流れる電流が遮断されるように前記スイッチング素子(11)を切替えることを特徴とする請求項4に記載の電池加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−69496(P2012−69496A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215687(P2010−215687)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】