説明

電磁弁制御装置

【課題】 電磁コイルに必要以上の通電をすることを防止し、電磁コイルへの過通電による発熱をより抑制する電磁弁制御装置を提供する。
【解決手段】 車両用制動装置(電磁弁制御装置)は、電磁コイルへの通電開始時点から始まる初期作動時間T1内においては、電磁コイルに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間T2においては、作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁弁制御装置としては、電磁コイルへの非通電時に非作動状態に、通電時に作動状態に切替可能な2位置電磁弁を制御するものが知られている(特許文献1参照)。この特許文献1に示されている電磁弁制御装置においては、同特許文献1の図6に示されているフローチャートに沿ってブースタ切換弁SB(2位置電磁弁)が制御されており、そのタイムチャートが図11に示されている。このタイムチャートから明らかなように、ブースタ切換弁SBの駆動要求が有れば、まず所定時間T1の間、通電デューティ100%でブースタ切換弁SBのソレノイドSL(電磁コイル)が駆動される。その結果、ソレノイドSLへ急速に電流が供給され、ブースタ切換弁SBが即座に作動位置に切り変わる。所定時間T1経過後、電源電圧Vsに応じて設定された通電デューティDyでブースタ切換弁SBのソレノイドSLが駆動される。その結果、ソレノイドSLへの供給電流値が減少し、ソレノイドに連続通電する従来技術(点線で示す)に比べて小さい値に維持される。これにより、ソレノイドSLの温度上昇が抑制され、ソレノイドSLの抵抗値の上昇が抑制されている。
【特許文献1】特開平11−336935号公報(第9,10頁、図6,11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した電磁弁制御装置においては、通電によるソレノイドSLの温度上昇が抑制されているが、ソレノイドSLは必要以上に通電されており、通電量を削減する余地がある。
【0004】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、電磁コイルに必要以上の通電をすることを防止し、電磁コイルへの過通電による発熱をより抑制する電磁弁制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、電磁コイルへの非通電時に非作動状態に、通電時に作動状態に切替可能な2位置電磁弁を制御する電磁弁制御装置において、電磁コイルへの通電開始時点から始まる初期作動時間内においては、電磁コイルに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間においては、作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電するようにしたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、電磁コイルへの通電はPWM制御されることである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、通電の開始時点の印加電流の立ち上がりを徐々に増加させるようにPWM制御することである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、通電の終了時点の印加電流の立ち下がりを徐々に減少させるようにPWM制御することである。
【0010】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、電磁コイルへ印加する出力電圧を初期作動必要最低電流に応じた高電圧と作動状態維持必要最低電流に応じた低電圧に選択的に切り替える電圧切替回路を備え、この電圧切替回路からの出力電圧を切り替えることにより電磁コイルへの通電を制御することである。
【0011】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1から請求項6の何れか一項において、2位置電磁弁は、ブレーキペダルの踏込状態に応じた液圧のブレーキ油を生成するマスタシリンダと、液圧供給源から供給される液圧のブレーキ油によって車両の各車輪の回転をそれぞれ規制するホイールシリンダとを連通または遮断する常開型であるマスタシリンダカット弁、または、マスタシリンダと、このマスタシリンダに連通されてブレーキペダルの踏込状態に応じたブレーキペダルの反力を発生させるストロークシミュレータとを連通または遮断する常閉型であるシミュレータカット弁として使用されることである。
【0012】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項7において、2位置電磁弁がマスタシリンダカット弁である場合、作動状態維持必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることである。
【0013】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項7において、2位置電磁弁がシミュレータカット弁である場合、初期作動必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることである。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、電磁コイルへの通電開始時点から始まる初期作動時間内においては、電磁コイルに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間においては、作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電するようにしたことにより、いずれの作動時間においてもすなわち通電中全般に渡って電磁コイルに対して必要以上の通電が行われないので、電磁弁の過通電による発熱をより抑制することができ、また、電磁弁を小型化することができる。
【0015】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることにより、初期作動に必要な作動力または作動状態を維持するのに必要な作動力が正確かつ確実に決定され、ひいては初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流は正確かつ確実に決定される。
【0016】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、電磁コイルへの通電はPWM制御されることにより、初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流を電磁コイルに容易に通電制御することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項3に係る発明において、通電の開始時点の印加電流の立ち上がりを徐々に増加させるようにPWM制御することにより、電磁弁の切替作動を急激に行うことなく、比較的緩やかに行うことができるので、切替中の作動音を小さく抑えることができる。
【0018】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項3に係る発明において、通電の終了時点の印加電流の立ち下がりを徐々に減少させるようにPWM制御することにより、電磁弁の切替作動を急激に行うことなく、比較的緩やかに行うことができるので、切替中の作動音を小さく抑えることができる。
【0019】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、電磁コイルへ印加する出力電圧を初期作動必要最低電流に応じた高電圧と作動状態維持必要最低電流に応じた低電圧に選択的に切り替える電圧切替回路を備え、この電圧切替回路からの出力電圧を切り替えることにより電磁コイルへの通電を制御することにより、初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流を電磁コイルに容易に通電制御することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項7に係る発明によれば、2位置電磁弁は、ブレーキペダルの踏込状態に応じた液圧のブレーキ油を生成するマスタシリンダと、液圧供給源から供給される液圧のブレーキ油によって車両の各車輪の回転をそれぞれ規制するホイールシリンダとを連通または遮断する常開型であるマスタシリンダカット弁、または、マスタシリンダと、このマスタシリンダに連通されてブレーキペダルの踏込状態に応じたブレーキペダルの反力を発生させるストロークシミュレータとを連通または遮断する常閉型であるシミュレータカット弁として使用されることにより、2位置電磁弁はいわゆる液圧式の車両用制動装置のなかでもブレーキバイワイヤタイプに使用されることになり、電磁コイルの小型化に伴って車両用制動装置を小型化することができる。
【0021】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項7に係る発明において、2位置電磁弁がマスタシリンダカット弁である場合、作動状態維持必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることにより、作動状態を維持するのに必要な作動力が正確かつ確実に決定され、ひいては作動状態維持必要最低電流は正確かつ確実に決定される。
【0022】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項7に係る発明において、2位置電磁弁がシミュレータカット弁である場合、初期作動必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることにより、初期作動に必要な作動力が正確かつ確実に決定され、ひいては初期作動必要最低電流は正確かつ確実に決定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明による電磁弁制御装置を適用した車両用制動装置の一実施の形態について図面を参照して説明する。この車両用制動装置Aは、図1に示すように、いわゆるブレーキバイワイヤタイプのものであり、ブレーキペダル11の踏込状態に応じた液圧を生成するマスタシリンダ10と、このマスタシリンダ10とは別に設けられて車両の左右前後輪FL,FR,RL,RRの回転をそれぞれ規制する各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を供給する液圧供給源20とを具備している。この液圧供給源20の正常時においては液圧供給源20から車両の左右前後輪FL,FR,RL,RRの各ホイールシリンダWC1〜WC4へブレーキペダル踏力に対応した液圧を供給し、液圧供給源20の異常時においてはブレーキペダル11と作動的に連結したマスタシリンダ10から車両の左右前輪FL,FRの各ホイールシリンダWC1,WC2に必要な液圧を供給するように構成されている。そして、このように構成された車両用制動装置Aにおいては、液圧供給源20の正常時においてブレーキペダル11の操作状態に応じた大きさのストロークをブレーキペダル11に発生させるためのストロークシミュレータ30が設置されている。
【0024】
車両用制動装置Aは、ブレーキペダル11の踏込操作に応じて第1及び第2出力ポート10a,10bからほとんど同一の油圧(液圧)のブレーキ油(液体)を圧送するマスタシリンダ10を備えている。マスタシリンダ10の第1出力ポート10aは、常開型の2位置電磁弁である電磁弁41が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁41を介して左前輪FL用のホイールシリンダWC1に連通している。マスタシリンダ10の第2出力ポート10bは、常開型の2位置電磁弁であり、かつ電磁弁41と同様に構成された電磁弁42が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁42を介して右前輪FR用のホイールシリンダWC2に連通している。電磁弁41,42は、通電により開閉を切り換え制御されて、ホイールシリンダ1WC1,WC2に対してマスタシリンダ10をそれぞれ連通および遮断するものである。すなわちこれら電磁弁41,42は、液圧供給源20の正常時において通電されて閉じられマスタシリンダ10と両ホイールシリンダWC1,WC2との間を遮断し、異常時において非通電されて開かれマスタシリンダ10と両ホイールシリンダWC1,WC2とを連通するマスタシリンダカット弁として機能する。なお、車両用制動装置Aは、ブレーキペダル11に連結されてブレーキペダル11の移動量(ストローク量すなわちペダルストローク)を検出するペダルストロークセンサ11aを備えている。
【0025】
電磁弁41は、図2に示すように、図示しないバルブボディに固定されたスリーブ状に形成された固定子41a、固定子41aの一端(上端)に固定された有底筒状のケーシング41h、ケーシング41h内に摺動可能に収容された可動コア41b、固定子41aの他端(下端)に嵌着された弁座部材41c、固定子41aの軸穴内に摺動可能に収容されて可動コア41bと連動する可動子41d、弁座部材41cと可動子41dとの間に介装されたスプリング41e、可動子41dの下端に設けられて弁座部材41cの弁孔41c1に離脱可能に当接する弁体41f、および可動コア41bと固定子41aの上部を取り囲む電磁コイル41gから構成されている。固定子41aに形成されてブレーキ油が満たされている油室R2は、固定子41aに設けた第1ポート41a1を介してホイールシリンダWC1に連通している。また油室R2は、弁座部材41cに形成された弁孔41c1に連通する第2ポート41c2を介してマスタシリンダ10の第1ポート10aに連通している。
【0026】
この電磁弁41は、図2に示すとおり、電磁コイル41gが非通電時には可動子41dがスプリング43eによって上方に(固定子41bに向けて)付勢されており、これにより弁体41fが弁座部材41cから離間しており弁孔41c1を開放している。一方、電磁コイル41gが通電されると、励磁された固定子41aによって可動コア41bが吸引されて、スプリング41eの付勢力に抗して下方に(弁座部材41cに向けて)移動し、これにより可動子41dの下端に設けた弁体41fが弁座部材41cに押圧されて弁孔41c1を閉じる。なお、電磁弁42は電磁弁41と同一構造であるので、図2の41○を42○と置き換えてその説明を省略する。また、電磁弁42の油室R2は、第1ポート42a1を介してホイールシリンダWC2に連通している。また油室R2は、第2ポート42c2を介してマスタシリンダ10の第2ポート10bに連通している。
【0027】
マスタシリンダ10の第1出力ポート10aには、ストロークシミュレータ30が連通可能に接続されており、マスタシリンダ10とストロークシミュレータ30の間には常閉型の2位置電磁弁である電磁弁43が設けられている。ストロークシミュレータ30は、例えば特開2002−293229号公報に示されているような周知のメカ式のストロークシミュレータであり、マスタシリンダ10の第1出力ポート10aから供給された油圧(液圧)を吸収するものである。ストロークシミュレータ30内には、ピストン31が液密かつ摺動可能に配設されており、このピストン31によって区画された第1および第2油圧室32,33が形成されている。第1油圧室32には電磁弁43を介してマスタシリンダ10の第1出力ポート10aに連通する入力ポート30aが設けられており、この入力ポート30aを介してマスタシリンダ10からブレーキ油が供給される。第2油圧室33にはリザーバタンク12の入力ポート12aに連通する出力ポート30bが設けられており、第2油圧室33から溢れたブレーキ油が出力ポート30bを介してリザーバタンク12に戻るようになっている。また、第2油圧室33には、マスタシリンダ10と連通状態においてマスタシリンダ10から供給される油圧に対抗するようにピストン31を付勢するスプリング34が配設されている。なお、第2油圧室33は本実施の形態の場合、大気室としても差し支えない。
【0028】
電磁弁43は、図3に示すように、図示しないバルブボディに固定されたスリーブ43a、スリーブ43aの一端(上端)に設けられた固定子43b、スリーブ43aの他端(下端)に嵌着された弁座部材43c、スリーブ43aの軸穴内に摺動可能に収容された可動子43d、固定子43bの軸穴内に収容されて可動子43dとの間に介装されたスプリング43e、可動子43dの下端に設けられて弁座部材43cの弁孔43c1に離脱可能に当接する弁体43f、および固定子43bとスリーブ43aの上部を取り囲む電磁コイル43gから構成されている。スリーブ43aに形成されてブレーキ油が満たされている油室R1は、スリーブ43aに設けた第1ポート43a1を介してマスタシリンダの第1ポート10aに連通している。また油室R1は、弁座部材43cに形成された弁孔43c1に連通する第2ポート43c2を介してストロークシミュレータ30の入力ポート30aに連通している。
【0029】
この電磁弁43は、図3に示すとおり、電磁コイル43gが非通電時には可動子43dがスプリング43eによって下方に(弁座部材43cに向けて)付勢されており、これにより可動子43dの下端に設けた弁体43fが弁座部材43cに押圧されて弁孔43c1を閉じる。一方、電磁コイル43gが通電されると、励磁された固定子43bによって可動子43dが吸引されて、スプリング43eの付勢力に抗して上方に(固定子43bに向けて)移動し、これにより弁体43fが弁座部材43cから離間して弁孔43c1を開放する。すなわち、電磁弁43は、非通電状態(図示状態)にあるときマスタシリンダ10の第1出力ポート10aとストロークシミュレータ30の入力ポート30aとを遮断し、通電状態にあるとき両ポート10a,30aを連通するものである。そして、この電磁弁43は、液圧供給源20の正常時において通電されて開かれマスタシリンダ10とストロークシミュレータ30を連通し、異常時において非通電されて閉じられマスタシリンダ10とストロークシミュレータ30との間を遮断するストロークシミュレータカット弁として機能する。
【0030】
液圧供給源20は、電動モータ21、ポンプ22およびアキュムレータ23から構成されている。ポンプ22は、電動モータ21によって駆動されて、リザーバタンク12の入力ポート12aに連通する吸入ポート22aから吸い込んだリザーバタンク12のブレーキ油を吐出ポート22bから圧送する。アキュムレータ23は、ポンプ22の吐出ポート22bに連通しており、ポンプ22から供給される高圧のブレーキ油を常に一定の油圧に保って貯蔵し必要に応じて各ホイールシリンダWC1〜WC4に供給するようになっている。ポンプ22の吸入および吐出ポート22a,22bの間にはリリーフ弁24が介装されており、このリリーフ弁24はポンプ22から吐出されるブレーキ油の圧力が所定値未満である場合には閉じられ、所定値以上となった場合には開かれるものである。これにより、液圧供給源20は、各ホイールシリンダWC1〜WC4に所定の高圧ブレーキ液を供給する。
【0031】
液圧供給源20は、電磁弁45が通電状態にあるとき電磁弁45を介して左前輪FL用のホイールシリンダWC1に連通している。電磁弁45は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWC1に対して液圧供給源20を遮断する。また、ホイールシリンダWC1は、電磁弁46が通電状態にあるとき電磁弁46を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁46は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、非通電状態(図示状態)にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWC1を遮断する。
【0032】
さらに液圧供給源20は、電磁弁47が通電状態にあるとき電磁弁47を介して右前輪FR用のホイールシリンダWC2に連通している。電磁弁47は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWC2に対して液圧供給源20を遮断する。また、ホイールシリンダWC2は、電磁弁48が通電状態にあるとき電磁弁48を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁48は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、非通電状態(図示状態)にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWC2を遮断する。
【0033】
さらに液圧供給源20は、電磁弁51が通電状態にあるとき電磁弁51を介して左後輪RL用のホイールシリンダWC3に連通している。電磁弁51は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWC3に対して液圧供給源20を遮断する。また、ホイールシリンダWC3は、電磁弁52が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁52を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁52は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、通電状態にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWC3を遮断する。
【0034】
さらに液圧供給源20は、電磁弁53が通電状態にあるとき電磁弁53を介して右後輪RR用のホイールシリンダWC4に連通している。電磁弁53は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWC4に対して液圧供給源20を遮断する。また、ホイールシリンダWC4は、電磁弁54が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁54を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁54は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、通電状態にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWC4を遮断する。上記の電磁弁45〜48,51〜54を電磁弁43と同様に電磁力に比例した差圧を発生させる電磁弁とすればより有利である。
【0035】
また、車両用制動装置Aは油圧計61〜67を備えている。油圧計61,62は、マスタシリンダ10の第1および第2出力ポート10a,10bから供給されるブレーキ油の油圧をそれぞれ検出するものである。油圧計63は、液圧供給源20から供給されるブレーキ油の油圧を検出するものである。そして、油圧計64〜67は、各ホイールシリンダWC1〜WC4に給排されるブレーキ油の油圧をそれぞれ検出するものである。
【0036】
そして、車両用制動装置Aは、上述したペダルストロークセンサ11a、電動モータ21、各電磁弁41,42,43,45〜48,51〜54、および油圧計61〜67に接続されたECU(電子制御ユニット)70を備えている。ECU70には、車両の車体速度を検出する車速センサ、車両の操舵角を検出するステアリングセンサ、シフトレバーに組み付けられて車両のシフト位置を検出するシフトスイッチ、図示しないアクセルペダルに組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセルセンサ、および車両の実際のヨーレートYを検出するヨーレートセンサも接続されている(いずれも図示省略)。ECU70は、これら各センサによる検出及びシフトスイッチの状態に基づき、車両用制動装置Aの各電磁弁41,42,43,45〜48,51〜54の開閉を切り換え制御しホイールシリンダWC1〜WC4に付与する油圧すなわち各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を制御する。
【0037】
次に、上記のように構成した車両用制動装置の全般的な動作を簡単に説明する。液圧供給源20の正常時においては、ブレーキペダル11が踏まれると、開状態であった電磁弁41,42が閉じられてマスタシリンダ10から各ホイールシリンダWC1,WC2へのブレーキ油の供給が遮断される。このとき、閉状態であった電磁弁43が開かれてマスタシリンダ10からのブレーキ油はストロークシミュレータ30に供給される。これにより、ブレーキペダル11には適当な反力が生じる。また、各ホイールシリンダWC1〜WC4には、ペダルストロークセンサ11aによって検出されたペダルストロークに応じた油圧のブレーキ油が供給される。具体的には、電磁弁52,54が閉じられ電磁弁46,48の閉状態が維持されるとともに電磁弁45,47,51,53が開かれて液圧供給源20からの高圧のブレーキ油が各ホイールシリンダWC1〜WC4に供給される。
【0038】
一方、踏み込まれていたブレーキペダル11が戻る際には、閉状態である電磁弁41,42が開かれてマスタシリンダ10から各ホイールシリンダWC1,WC2へのブレーキ油の供給が連通され、また開状態であった電磁弁43が閉じられる。
【0039】
また、液圧供給源20の異常時においては、電磁弁41〜43,45〜48,51〜54はすべて非通電状態に制御される。すなわち、電磁弁43はマスタシリンダ10とストロークシミュレータ30を遮断し、電磁弁41,42はマスタシリンダ10の第1および第2出力ポート10a,10bとホイールシリンダWC1,WC2をそれぞれ連通し、電磁弁45〜48は閉じたままである。これにより、ブレーキペダル11が踏まれると、マスタシリンダ10内のブレーキ油は、電磁弁41,42を通ってホイールシリンダWC1,WC2に供給される。一方、踏み込まれていたブレーキペダル11が戻る際には、ホイールシリンダWC1,WC2内のブレーキ油は、電磁弁41,42を通ってマスタシリンダ10に圧送される。
【0040】
さらに、上記のように作動する車両用制動装置Aに設けた電磁弁41,42,43の動作について図4を参照して詳述する。まず常開型の2位置電磁弁である電磁弁41,42の動作について説明するが、電磁弁41、42は同一の動作をするので、ここでは電磁弁41の動作について説明する。電磁コイル41gへの通電開始時点から始まる初期作動時間T1内においては、電磁コイル41gに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間T2においては、作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電している。この通電開始から終了までの間、電磁コイル41gへの通電はPWM制御されるようになっており、初期作動時間T1においては初期作動必要最低電流となるようにデューティ比が設定され、作動状態維持時間T2においては作動状態維持必要最低電流となるようにデューティ比が設定されている。
【0041】
電磁弁41の通電開始時点においては、電磁弁41は開状態であり、弁を閉じるためには少なくともスプリング41eの付勢力以上の作動力を付与する必要がある。したがって、初期作動に必要な作動力はスプリング41eの付勢力となるので、初期作動必要最低電流はスプリング41eの付勢力に相当する電流となる。また、電磁弁41が閉状態となると、この閉状態を維持するための作動力すなわち吸引力としては電磁弁41の上下流の差圧とスプリング41eの付勢力との総力を少なくとも付与する必要がある。電磁弁41の上下流の差圧は、マスタシリンダ圧からホイールシリンダ圧を引いた値であり、マスタシリンダ圧およびホイールシリンダ圧は圧力計61および64によって検出されている。作動状態維持必要最低電流は電磁弁41の上下流の差圧とスプリング41eの付勢力との総力に相当する電流となる。
【0042】
次に常閉型の2位置電磁弁である電磁弁43の動作について説明すると、電磁コイル43gへの通電開始時点から始まる初期作動時間T1内においては、電磁コイル43gに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間T2においては、作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電している。この通電開始から終了までの間、電磁コイル43gへの通電はPWM制御されるようになっており、初期作動時間T1においては初期作動必要最低電流となるようにデューティ比が設定され、作動状態維持時間T2においては作動状態維持必要最低電流となるようにデューティ比が設定されている。
【0043】
電磁弁43の通電開始時点においては、電磁弁43は閉状態であり、弁を開くための作動力すなわち吸引力としては電磁弁43の上下流の差圧とスプリング43eの付勢力との総力を少なくとも付与する必要がある。電磁弁43の上下流の差圧は、マスタシリンダ圧から電磁弁43とストロークシミュレータ30との間の圧力(反力が発生していないので0)を引いた値であり、マスタシリンダ圧は圧力計61によって検出されている。初期作動必要最低電流は電磁弁43の上下流の差圧とスプリング43eの付勢力との総力に相当する電流となる。また、電磁弁43が開状態となると、この開状態を維持するための作動力はスプリング43eの付勢力に対抗する力となるので、作動状態維持必要最低電流はスプリング43eの付勢力に相当する電流となる。
【0044】
上述した説明から理解できるように、この実施の形態においては、2位置電磁弁である電磁弁41,42,43の各電磁コイル41g,42g,43gへの通電開始時点から始まる初期作動時間T1内においては、電磁コイル41g,42g,43gに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間T2においては、作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電するようにしたことにより、いずれの作動時間においてもすなわち通電中全般に渡って電磁コイル41g,42g,43gに対して必要以上の通電が行われないので、電磁弁41,42,43の過通電による発熱をより抑制することができ、また、電磁弁41,42,43を小型化することができる。さらに、2位置電磁弁である電磁弁41,42,43をいわゆる液圧式の車両用制動装置のなかでもブレーキバイワイヤタイプに使用することにより、電磁コイルの小型化に伴って車両用制動装置を小型化することができる。
【0045】
また、初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることにより、初期作動に必要な作動力または作動状態を維持するのに必要な作動力が正確かつ確実に決定され、ひいては初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流は正確かつ確実に決定される。
【0046】
また、電磁コイル1g,42g,43gへの通電はPWM制御されることにより、初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流を電磁コイルに容易に通電制御することができる。
【0047】
また、2位置電磁弁である電磁弁41,42がマスタシリンダカット弁である場合、作動状態維持必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることにより、作動状態を維持するのに必要な作動力が正確かつ確実に決定され、ひいては作動状態維持必要最低電流は正確かつ確実に決定される。
【0048】
また、2位置電磁弁である電磁弁43がシミュレータカット弁である場合、初期作動必要最低電流は2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることにより、初期作動に必要な作動力が正確かつ確実に決定され、ひいては初期作動必要最低電流は正確かつ確実に決定される。
【0049】
なお、上述した実施の形態においては、通電開始時点および通電終了時点において印加電流を急激に立ち上げおよび立ち下げるように制御しているが、図5に示すように、通電の開始時点の印加電流の立ち上がりを徐々に増加させるようにPWM制御し、通電の終了時点の印加電流の立ち下がりを徐々に減少させるようにPWM制御するようにしてもよい。これによれば、電磁弁の切替作動を急激に行うことなく、比較的緩やかに行うことができるので、切替中の作動音を小さく抑えることができる。
【0050】
また、上述した実施の形態においては、電磁コイル41g,42g,43gへの通電はPWM制御されることにより行われていたが、電磁コイルへ印加する出力電圧を初期作動必要最低電流に応じた高電圧と作動状態維持必要最低電流に応じた低電圧に選択的に切り替える電圧切替回路を備え、この電圧切替回路からの出力電圧を切り替えることにより電磁コイルへの通電を制御するようにしてもよい。ここでは、2つの2位置電磁弁(電磁弁41,42)によって構成される電圧切替回路を、図6を参照して説明する。電圧切替回路は車両用制動装置Aに設けられており、電源+Vとグランドとの間に直列に接続された電磁弁41およびスイッチSW1、電源+Vとグランドとの間に直列に接続されたスイッチSW4、電磁弁42およびスイッチSW2、ならびに電磁弁41とスイッチSW1との間とスイッチSW4と電磁弁42との間に接続されたスイッチSW3から構成されている。
【0051】
図7に示すように、初期作動時間T1においてはスイッチSW1、スイッチSW2およびスイッチSW4をオンするとともにスイッチSW3をオフすることにより、電磁弁41および電磁弁42が電源+Vとグランド間に並列接続されるので、電磁弁41および電磁弁42にはそれぞれ高電圧である+Vが印加される。また、作動状態維持時間T2においてはスイッチSW2およびスイッチSW3をオンするとともにスイッチSW1およびスイッチSW4をオフすることにより、電磁弁41および電磁弁42が電源+Vとグランド間に直列接続されるので、電磁弁41および電磁弁42にはそれぞれ低電圧である+1/2Vが印加される。なお、電磁弁41および電磁弁42が同一抵抗値であるとする。これによっても、上述した実施の形態と同様な作用および効果を得ることができる。
【0052】
なお、前述した電圧切替回路は2つの2位置電磁弁(電磁弁41,42)によって構成するようにしたが、3つの2位置電磁弁(電磁弁41,42,43)によって構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による電磁弁制御装置を適用した車両用制動装置の一実施の形態の概要を示す図である。
【図2】図1に示すマスタシリンダカット弁を示す断面図である。
【図3】図1に示すシミュレータカット弁を示す断面図である。
【図4】図1に示すマスタシリンダカット弁およびシミュレータカット弁の作動を説明するためのタイムチャートである。
【図5】図1に示すマスタシリンダカット弁およびシミュレータカット弁の作動を説明するためのタイムチャートである。
【図6】電圧切替回路を示す回路図である。
【図7】図6に示す電圧切替回路を用いた場合のマスタシリンダカット弁およびシミュレータカット弁の作動を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0054】
10…マスタシリンダ、10a…第1出力ポート、10b…第2出力ポート、11…ブレーキペダル、11a…ペダルストロークセンサ、12…リザーバタンク、12a…入力ポート、20…液圧供給源、21…電動モータ、22…ポンプ、22a…吸入ポート、22b…吐出ポート、23…アキュムレータ、24…リリーフ弁、30…ストロークシミュレータ、30a…入力ポート、30b…出力ポート、31…ピストン、32…第1油圧室、33…第2油圧室、34…スプリング、41,42,43,45〜48,51〜54…電磁弁、61〜67…油圧計、70…ECU、A…車両用制動装置、WC1〜WC4…ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルへの非通電時に非作動状態に、通電時に作動状態に切替可能な2位置電磁弁を制御する電磁弁制御装置において、
前記電磁コイルへの通電開始時点から始まる初期作動時間内においては、前記電磁コイルに、初期作動に必要な作動力に相当する初期作動必要最低電流を通電し、その後の作動状態維持時間においては、前記作動状態を維持するのに必要な作動力に相当する作動状態維持必要最低電流を通電するようにしたことを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記初期作動必要最低電流または作動状態維持必要最低電流は前記2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記電磁コイルへの通電はPWM制御されることを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項4】
請求項3において、前記通電の開始時点の印加電流の立ち上がりを徐々に増加させるようにPWM制御することを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項5】
請求項3において、前記通電の終了時点の印加電流の立ち下がりを徐々に減少させるようにPWM制御することを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、前記電磁コイルへ印加する出力電圧を前記初期作動必要最低電流に応じた高電圧と前記作動状態維持必要最低電流に応じた低電圧に選択的に切り替える電圧切替回路を備え、
該電圧切替回路からの出力電圧を切り替えることにより前記電磁コイルへの通電を制御することを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一項において、
前記2位置電磁弁は、
ブレーキペダルの踏込状態に応じた液圧のブレーキ油を生成するマスタシリンダと、液圧供給源から供給される液圧のブレーキ油によって車両の各車輪の回転をそれぞれ規制するホイールシリンダとを連通または遮断する常開型であるマスタシリンダカット弁、
または、前記マスタシリンダと、該マスタシリンダに連通されてブレーキペダルの踏込状態に応じたブレーキペダルの反力を発生させるストロークシミュレータとを連通または遮断する常閉型であるシミュレータカット弁として使用されることを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項8】
請求項7において、前記2位置電磁弁がマスタシリンダカット弁である場合、前記作動状態維持必要最低電流は前記2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることを特徴とする電磁弁制御装置。
【請求項9】
請求項7において、前記2位置電磁弁がシミュレータカット弁である場合、前記初期作動必要最低電流は前記2位置電磁弁の上下流の差圧に基づいて決定されることを特徴とする電磁弁制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−17181(P2006−17181A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193915(P2004−193915)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】