静電型アクチュエータ、その製造方法、液滴吐出ヘッド、液滴吐出記録装置、マイクロポンプ及び光変調デバイス
【課題】 本発明は、ヤング率の変動にほとんど影響を与えず応力緩和できるため、構成膜の膜厚比を変えることなく内部応力のバランスを変更でき、高精度、高密度、高い信頼性、かつ高い量産性を持った静電型アクチュエータを得ることができ、比較的容易に低電圧でインク吐出効率が高く、高画質印字が可能となる。
【解決手段】 本発明の静電型アクチュエータは、静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向する下部電極とを有している。そして、本発明の静電型アクチュエータにおける振動板は、構成元素以外の元素をイオン注入され、残留応力が緩和されている応力調整膜を、少なくとも1層含む積層膜で構成されていることに特徴がある。
【解決手段】 本発明の静電型アクチュエータは、静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向する下部電極とを有している。そして、本発明の静電型アクチュエータにおける振動板は、構成元素以外の元素をイオン注入され、残留応力が緩和されている応力調整膜を、少なくとも1層含む積層膜で構成されていることに特徴がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電型アクチュエータ、その製造方法、液滴吐出ヘッド、液滴吐出記録装置、マイクロポンプ及び光変調デバイスに関し、詳細には積層構造の振動板における応力緩和膜の膜厚を薄くできる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置あるいは画像形成装置として用いるインクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドとしては、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する吐出室(加圧液室、圧力室、インク流路等とも称される。)と、吐出室内のインクを加圧する圧力を発生する圧力発生手段とを備えて、圧力発生手段で発生した圧力で吐出室内インクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させる。
【0003】
このような液滴吐出ヘッドとしては、圧力発生手段として圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型のもの、吐出内に配設した発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いてインクの膜沸騰でバブルを発生させてインク滴を吐出させるバブル型(サーマル型)のもの、吐出室の壁面を形成する振動板を静電力で変形させることでインク滴を吐出させる静電型のものなどがある。
【0004】
近年、環境問題から鉛フリーであるバブル型、静電型が注目を集め、鉛フリーに加え低消費電力の観点からも環境に影響が少ない静電型のものが多く提案されている。
【0005】
静電型インクジェットヘッドとしては、例えば特許文献1、特許文献2に記載されているように、一対の電極対が空隙を介して設けられており、片方の電極が振動板として働き、振動板の対向する電極と反対側にインクが充填されている形態のものである。電極対に電圧を印加することによって電極間に静電引力が働き、電極(振動板)が変形し、電圧を除去すると振動板が弾性力によって元の状態に戻り、その力を用いてインクを吐出するものである。
【0006】
ところで、静電型インクジェットヘッドでは、振動板と電極間隔、すなわち空隙の寸法精度がその性能に大きく影響を及ぼす。特に、インクジェットヘッドの場合、各アクチュエータの特性のバラツキが大きければ印字精度、画質の再現性が著しく低下することとなる。また、低電圧化を目指す場合、空隙間隔が0.1〜0.5μm程度と狭間隔となり、より寸法精度が求められる。そこで、特許文献1、2に記載されているように、犠牲層プロセスを適用して、振動板、空隙、電極を1つの基板で形成することにより、空隙寸法は、ほぼ犠牲層成膜工程のバラツキのみで決まるため、寸法バラツキを抑えることができ、高精度で信頼性の高いアクチュエータを得ることができる。
【特許文献1】特開2004−098506号公報
【特許文献2】特開2004−106089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、振動板はプロセス上、あるいは機能上の目的で積層膜となっている。例えば、振動板は、下部電極と振動板電極の電気的ショート防止、及び犠牲層エッチのエッチングストップ膜としてのシリコン酸化膜、振動板電極のポリシリコン膜、振動板剛性調整膜としてシリコン窒化膜、内部応力調整膜としてシリコン酸化膜、及び振動板がインクと触れる最上層には耐インク性を有するポリイミド樹脂膜などで構成されている。これら各々の膜は、圧縮、あるいは引張の内部応力を有している。従って、振動板全体として残留応力のバランスが悪いと、空隙を形成後、振動板が撓んだり、壊れるといった課題がある。また、振動板の幅、長さ、厚さなどの寸法設計において、振動板の各構成膜のヤング率やポワソン比などに加え、振動板全体の残留応力を考慮した設計を行なわなければならず、設計が難しくなる。
【0008】
また、上述した振動板の構成膜では、振動板剛性調整膜としてのシリコン窒化膜以外は数百MPa程度の圧縮応力を有するが、シリコン窒化膜はGPaオーダーの非常に大きな引張応力を有している。従って、振動板全体の内部応力の緩和目的のみにシリコン窒化膜厚のおよそ8〜10倍程度の圧縮応力膜厚が必要となり、プロセス負荷増大によるコスト増だけでなく、工程増による歩留まりへの影響や振動板膜厚のばらつきも相対的に大きくなることから、特性バラツキへの影響が懸念される。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解決するためのものであり、積層膜からなる振動板を有する静電型アクチュエータにおいて、振動板の構成膜における応力バランスを取るために、残留応力低減のためにイオンを注入することにより、ヤング率の変動にほとんど影響を与えず応力緩和できるため、構成膜の膜厚比を変えることなく内部応力のバランスを変更できる。
【0010】
従って、プロセスマージンが広がり、自由度の高い振動板設計、しいてはアクチュエータの設計が可能となり、従来技術では困難であった高精度、高密度、高い信頼性、かつ高い量産性を持った静電型アクチュエータを得ることができ、比較的容易に低電圧でインク吐出効率が高く、高画質印字が可能な液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドを一体化したインクカートリッジ、この液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出記録装置、及び本発明の静電型アクチュエータを用いて、マイクロポンプ、光変調デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記問題点を解決するために、本発明の静電型アクチュエータは、静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向する下部電極とを有している。そして、本発明の静電型アクチュエータにおける振動板は、構成元素以外の元素をイオン注入され、残留応力が緩和されている応力調整膜を、少なくとも1層含む積層膜で構成されていることに特徴がある。よって、応力緩和膜の付加、あるいは他の構成膜の膜厚制御を行う必要がなく、応力を緩和したい応力調整膜の内部応力を振動板剛性に大きく影響するヤング率の変動を抑えつつ、緩和できるため、構成膜の層数を減らすことができる、あるいは応力緩和膜の膜厚を従来より薄くできると共に、静電型アクチュエータの特性ばらつきが小さく、かつ精度良く形成でき信頼性を向上できる。また、工数削減による量産性向上、歩留向上が期待でき、低コストで量産性の高い静電型アクチュエータを提供できる。
【0012】
また、応力調整膜は、残留応力緩和率:[1−(元素導入後の残留応力値)/(元素導入前の残留応力値)]×100がヤング率の変化率の絶対値:|[1−(元素導入後のヤング率)/(元素導入前のヤング率)]|×100より大きいことにより、ヤング率の変動を抑えつつ応力緩和できるため、構成膜の膜厚比を変えることなく内部応力のバランスを変更できる。従って、プロセスマージンが広がり、自由度の高い振動板設計、しいてはアクチュエータ設計が可能となり、信頼性の高い静電型アクチュエータを提供することができる。
【0013】
更に、元素導入前の残留応力緩和率が30〜90%の範囲であり、かつヤング率の変化率の絶対値が0〜20%であることが好ましい。
【0014】
また、応力調整膜へイオン注入される元素の平均含有率が0.1%以上であることにより、応力緩和効果が得られるため、従来の方法に比べ量産性、歩留まり向上が期待でき、信頼性の高い静電型アクチュエータを提供できる。
【0015】
更に、応力調整膜はシリコン窒化膜であることにより、信頼性の高い静電型アクチュエータを実現することが可能となる。
【0016】
また、別の発明としての静電型アクチュエータの製造方法によれば、振動板は、残留応力が緩和されている応力調整膜を少なくとも1層含む積層され、応力調整膜に構成元素以外の元素をイオン注入する。よって、残留応力を緩和するためには、Si-N結合を切断することにより得られる。従って、イオン注入法によりシリコン窒化膜へ加速された元素を打ち込むことで、容易にかつ効果的にSi-N結合を切断することができる。また、イオン注入法では、イオンの加速エネルギーを容易に変えることができ、下層膜への影響がほとんどなく、応力緩和したい膜のみに選択的に元素を注入できる。従って、量産性に優れ、安定した信頼性の高い静電型アクチュエータが形成できる。
【0017】
更に、応力調整膜へイオン注入される元素のイオン注入量が1×1014ions/cm2以上1×1016ions/cm2以下であることにより、最もプロセス的に効率的な注入量であり、量産性に優れ、安定した信頼性の高い静電型アクチュエータが得られる。
【0018】
また、別の発明としての液滴吐出ヘッドは、吐出室内の液体を加圧する上記静電型アクチュエータと、吐出室を形成する基板と、ノズル孔を有する基板とを積層して構成する。よって、製造不良が減少し、低コスト化を図ることができる。
【0019】
更に、別の発明としてのインクカートリッジは、インク滴を吐出する上記液滴吐出ヘッドと、該液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクとを一体化したことに特徴がある。よって、製造不良が減少し、低コスト化を図ることができる。
【0020】
また、別の発明としての液滴吐出記録装置は、インク滴を吐出する上記液滴吐出ヘッドを搭載したことに特徴がある。よって、製造不良が減少し、低コスト化を図ることができる。
【0021】
更に、別の発明としてのマイクロポンプは、上記静電型アクチュエータの振動板を変形させて液体を輸送する。よって、小型であり、低消費電極のマイクロポンプが実現できる。
【0022】
また、別の発明としての光変調デバイスは、上記静電型アクチュエータの振動板を変形させてミラーを変形させ、光の反射方向を変化させる。よって、小型であり、低消費電極の光変調デバイスが実現できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、応力緩和膜の付加、あるいは他の構成膜の膜厚制御を行なう必要がなく、応力を緩和したい膜そのものの内部応力を振動板剛性に大きく影響するヤング率の変動を抑えつつ、緩和できるため、構成膜の層数を減らすことができる、あるいは応力緩和膜の膜厚を従来より薄くできる。従って、アクチュエータの特性ばらつきが小さく、かつ精度良く形成でき信頼性を向上できる。また、工数削減による量産性向上、歩留向上が期待でき、低コストで量産性の高いアクチュエータが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの分解斜視図、図2は図1の各基板を重ね合せた斜視図である。また、図3は図2のA−A’線断面図、図4は図2のB−B’線断面図である。図1〜図4に示す本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッド1は、インク液滴を基板の面部に設けたノズル孔から吐出させるサイドシュータタイプの例である。図1〜図4に示すように、本実施の形態例の液滴吐出ヘッド1は、3枚の基板を重ねた積層構造となっている。
【0025】
第1の基板10は、結晶面方位<100>のシリコン基板11上に積層膜により個別電極12と、空隙13を介して振動板14とが形成されている。また、空隙13と大気開放部15を連通するための通気管16が形成されている。更に、振動板14の下面には空隙13を介して個別電極12が形成されている。空隙13、大気開放部15及び通気管16は、後に除去することを前提とした犠牲層を個別電極材料や振動板材料と同様に積層膜として成膜しておき、後に図4に示す犠牲層除去孔17から犠牲層を除去することで形成する。また、第1の基板10の上面に接合される第2の基板20においては、結晶面方位<110>のシリコン基板21に、振動板14を底壁とする吐出室22と、各吐出室22にインクを供給するための共通液室23と、吐出室22と共通液室23を連通させる個別液室24と、流体抵抗25とが形成されている。更に、第2の基板20の上面に接合される第3の基板30においては、厚さ50ミクロンのニッケル基板31を用い、当該ニッケル基板31に吐出室22と連通するようにそれぞれノズル孔32が形成されている。また、第1の基板10には、共通液室23と連通するようにインク供給口18が設けられている。
【0026】
次に、このような構成を有する本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの動作について説明する。
吐出室22内にインクが満たされた状態で個別電極12に発振回路(図示せず)により40Vのパルス電位が印加される。電圧印加により個別電極12の表面がプラスに帯電すると、振動板14との間に静電気の吸引作用が働き振動板14が下方へ撓み、共通液室23より流体抵抗25を通じて吐出室22へインクが流入する。その後個別電極12へのパルス電圧を0Vにすると静電気力により下方へ撓んだ振動板14が自身の剛性により元に戻る。その結果、吐出室22内の圧力が急激に上昇し、ノズル孔32よりインク液滴を記録紙に向けて吐出する。これを繰り返すことによりインクを連続的に吐出することができる。
【0027】
電極間に働く力Fは下記の式(1)に示すように電極間距離dの2乗に反比例して大きくなる。低電圧で駆動するためには個別電極12と振動板14の空隙間隔を狭く形成することが重要となる。
【0028】
【数1】
【0029】
但し、Fは電極間に働く力、εは誘電率、Sは電極の対抗する面の面積、dは電極間距離、Vは印加電圧である。
【0030】
以上説明した本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドによれば、個別電極と振動板間の微小な空隙間隔を精度良く、かつ安定して製造することが可能であり、静電力による振動板の動作を最大となるよう設計できる。
【0031】
図5は本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける圧力発生機構の構成を示す平面図である。図6は図5のC−C’線断面図であり、図7は図5のD−D’線断面図である。
【0032】
図5に示すように、振動板領域41は、分離溝42で隔壁部43から分離されている。振動板の膜構成は、図6に示すように、下層から絶縁膜44、上部電極45、振動板膜剛性調整膜46、振動板応力調整膜47及び樹脂膜48を含んで構成された積層膜49で形成されている。ここで、振動板応力調整膜47は、GPaオーダーの引張応力を有するLP−CVDで成膜された窒化膜であり、この引張内部応力を緩和するためにイオン注入により、例えば硼素、リン、ヒ素、アルゴンなどの元素が窒化膜中に取り込まれている。分離溝42は、隔壁部43と振動板領域41で段差が生じないように設計されている。また、振動板領域41の短辺長a、長辺長bは、例えば短辺長a:60μm、長辺長b:1000μmであり、振動板領域41を静電気力で変位させるために、電圧を印加できるようになっており下部電極50がシリコン基板51上に絶縁膜52を介して所望のパターニングがされている。また、下部電極50上には、上部電極45と電気的ショートを防止するため、絶縁膜53が例えば0.10μm厚で形成されている。
【0033】
また、空隙54の形成には、犠牲層プロセスを適用し、積層膜49に犠牲層除去孔55が形成されている。犠牲層除去孔55は、振動板領域41の長辺方向に等間隔に振動板領域41の短辺長以下の間隔で配置されており、対向する辺の同位置に犠牲層除去孔55が形成されている。このように犠牲層除去孔55を複数配置することにより、空隙54を効率良く形成することができる。また、この空隙54の形成と同時に通気管56とこれに連通した大気開放部(図示しない)の空隙54も形成する。
【0034】
更に、静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの場合、液滴を吐出するアクチュエータは細長い長方形であり、この長辺側には隔壁部43を挟んで隣接するアクチュエータが並んでいるのが一般的である。犠牲層エッチングは、等方性のため、図示していないが振動板領域41中央に犠牲層除去孔55が並んでいる方が犠牲層の除去効率は高い。しかし、振動板の変位領域に犠牲層除去孔55があるとアクチュエータの振動特性に影響を及ぼす可能性があるため、犠牲層除去孔55は振動板領域外に配置することが好ましい。一方、大気開放部は、振動板領域41との面積比を考慮して、効率よく犠牲層がエッチングされるように犠牲層除去孔55を大気開放部内に配置してもよい。
【0035】
その後、犠牲層除去孔55を振動板応力調整膜47で完全封止する。その後図示していないが、外部電極への取り出しのため、配線層形成し、裏面貫通して、インク供給孔57を形成し、通気管56に連通した大気開放孔(図示しない)を形成後、振動板領域41の空隙54へのガス導入、あるいは大気開放を行う。このとき、大気開放孔(図示しない)は、例えば微細加工が可能なリソエッチ法で形成することにより、レーザ法や物理的開口に比べて大気開放部面積を小さくでき、またパーティクルの発生が抑えられるだけでなく、表面状態が平坦なため、次工程への影響がほとんど無い。次に、スプレーコート法、蒸着重合法などで液滴の接液膜として樹脂膜48を形成する。
【0036】
このように、従来技術に比べ高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドが実現できるため、後述するように、この静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを一体化したインクカートリッジ、この液滴吐出ヘッドを搭載したイ液滴吐出記録装置に提供することができる。また、従来技術では困難であった良好な生産性、及び生産効率を有する寸法制御に優れた高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った液滴吐出ヘッドの製造に適用できる製造方法が提供できる。
【0037】
次に、本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの製造工程を図8の工程断面図に従って説明する。
先ず、図8の(a)に示すように、厚さ400μmシリコン基板60上に絶縁膜(熱酸化膜)61を1.6μm形成する。次に、下部電極材としてPドープポリシリコンを0.3μm成膜する。そして、リソエッチ法で下部電極62、一部の隔壁部63、一部の通気管64との分離、及び裏面貫通のインク供給孔65となるポリシリコン層を除去する。その後、下部電極62と一部の隔壁部63の絶縁膜(CVD酸化膜)66を0.1μm堆積させる。この絶縁膜66は犠牲層プロセスでの下部電極62を保護するマスク材、かつ下部電極62と後述する上部電極70との短絡を防止する保護膜として作用する。
【0038】
次に、図8の(b)に示すように、犠牲層(ノンドープポリシリコン)を空隙間隔となる例えば0.2μmをCVD法で成膜し、リソエッチ法により空隙67となる領域と一部の隔壁部68を分離、及び裏面貫通のインク供給孔65となるポリシリコン層を除去する。その後、犠牲層プロセスでの後述する上部電極70を保護するマスク材、かつ下部電極62と上部電極70との短絡を防止する保護膜として作用する絶縁膜(CVD酸化膜)69を0.1μm堆積させる。
【0039】
次に、図8の(c)に示すように、Pドープドポリシリコンを0.1μm堆積させ、リソエッチ法で上部電極70と一部の隔壁部71を分離、及び裏面貫通のインク供給孔65となるポリシリコン層を除去する。この時同時に、犠牲層除去時犠牲層と同じ材質の上部電極70がエッチングされないように保護孔72を後に形成する犠牲層除去孔74より大きく開口する。また、同様に大気開放部(図示しない)では、大気開放孔を後に形成する大気開放孔より大きく開口する。次に、振動板の撓み防止層、及び剛性調整膜として窒化膜73をLP−CVD法で0.3μm堆積させる。その後、イオン注入法により、窒化膜73に元素を注入する。
【0040】
ここで、成膜直後GPaオーダーの引張応力を有するLP−CVD法で成膜した窒化膜(膜厚:0.15μm、0.3μm)への硼素イオン注入量と引張応力緩和の関係を図9、窒化膜中の硼素含有率と引張応力緩和の関係を図10、及び成膜直後に対する内部応力を基準とした硼素注入後の内部応力緩和率の硼素含有率依存を図11に示す。図9からイオン注入により内部応力が緩和されることがわかり、注入量が1×1015atom/cm−2までは急激に内部応力が低下するが、1×1016atom/cm−2以上では、ほぼ飽和傾向になる。また、図10のように窒化膜中に注入された硼素の窒化膜に対する含有量でみると、0.1%程度で成膜特後の半分程度となり、0.3%以上でほぼ飽和傾向になることがわかる。図11に示すように、硼素の含有率が0.3%以上でその応力緩和率は、最大で80〜90%程度になる。以上より、硼素イオン注入量1×1014atom/cm−2以上、硼素含有量で0.1%以上とすることで、内部応力の緩和率は30〜90%となり、内部応力の緩和効果が期待できる。よって、窒化膜へイオン注入されるイオン注入量が1×1014ions/cm-2以上1×1016ions/cm-2以下であることが好ましい。
【0041】
量産性、プロセスマージン、応力緩和の安定性を考慮すると注入量、あるいは含有量に対し、応力値が依存しない領域、例えば硼素イオン注入量1×1015atom/cm−2以上、硼素含有量0.3%以上で、かつこれ以上イオン注入量、あるいは硼素含有量を増やしても内部応力は低下せず応力緩和率は飽和するため、装置の負荷、量産性を考慮すると、イオン注入量で6×1015atom/cm−2以下、硼素含有量で1.8%以下がもっとも好ましいイオン注入量、あるいは硼素含有量である。
【0042】
また、前述した0.3μm膜厚の窒化膜の成膜直後、硼素を窒化膜下地層に突き抜けないように80keV、2×1015atom/cm−2で注入後、及び熱履歴800℃、6時間処理後の引張応力、及びヤング率を図12、成膜直後に対する内部応力とヤング率の各処理における変化割合を図13に示す。
【0043】
図12より、窒化膜の内部応力は、硼素をイオン注入すると大幅に低下し、その後の熱履歴で若干増加する。しかし、ヤング率は、成膜直後、イオン注入後、及び熱履歴後とも大きな変動は見られない。また、各処理における内部応力は成膜直後の値に対しては、20〜40%程度まで緩和されている。
【0044】
以上によりここでは、図9〜図13より、窒化膜73の応力をプロセスマージン、プロセス工数を考慮し、硼素を80keV、2×1015atom/cm−2(含有率:0.5%)でイオン注入する。
【0045】
今回は、応力緩和に硼素を窒化膜73中にイオン注入したが、ヤング率の変動がほとんど無く、内部応力のみ緩和できるのであれば、硼素以外の元素を窒化膜73中にイオン注入してもよい。
【0046】
次に、図8の(d)に示すように、リソエッチ法で開口径2μmの犠牲層除去孔74と裏面貫通のインク供給孔となる箇所の絶縁膜を除去し、加工孔75を形成する。そして、犠牲層エッチング、例えばSF6プラズマ処理やXeF2ガスによるドライエッチングで空隙となる領域67と通気管76となる領域のポリシリコンを完全に除去し、空隙77と通気管76を形成する。ここで、犠牲層エッチングをドライエッチングで行っているが、TMAH溶液、KOH溶液のウェットエッチングでもかまわない。
【0047】
次に、図8の(e)に示すように、犠牲層除去孔74の封止膜78を、犠牲層除去孔74が封止される膜厚、例えば0.6μm厚を減圧CVD法でシリコン基板60の表面に形成する。この工程により、空隙77は、外気と完全に遮断され封止される。ここでは図示していないが、空隙77が大気圧に比べ負圧になっているため、振動板が凹に撓む。その後、図示していないが電極配線を形成する。
【0048】
次に、図8の(f)に示すように、リソエッチ法で裏面貫通のインク供給孔79となる箇所の封止膜78と絶縁膜61を除去し、異方性エッチング、例えばICPエッチャーでシリコン基板60の表面からエッチングし、裏面貫通のインク供給孔79を形成する。このように、異方性エッチングで裏面貫通のインク供給孔79を形成することにより、加工形状制御性、微細加工性、加工精度の面、及び高密度化の面でも効果が大きい。また、大気開放部(図示しない)では、大気開放孔(図示しない)をリソエッチ法で形成することにより、アクチュエータ部の負圧になった空隙を大気に戻す。また、必要であれば、空隙にガス導入を行なう。このとき、振動板の信頼性を向上させるため、例えば、疎水性を示すHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を空隙77内へ通気管76を介して導入する。
【0049】
そして、図8の(g)に示すように、接液膜として樹脂膜80を被覆性の優れた蒸着重合法でシリコン基板全面に1μm厚成膜する。取りだしパッド部(図示せず)のみリソエッチ法で開口する。この樹脂膜80により、大気開放孔(図示しない)は、封止され外部からの異物や水分の混入を防ぐことができる。この時、樹脂膜80は、アクチュエータ空隙へ侵入せず、大気開放部で止まっている。ここで樹脂膜80としては、例えばPBO膜(ポリベンゾオキサゾール)、ポリイミド膜、ポリパラキシリレンなどのように液滴に対して耐腐食性が有り、蒸着重合法で形成できる材料であれば何れでもよい。ここでは、大気開放孔(図示しない)の封止を接液膜形成と同時に行ったが、例えば接液膜形成前に封止剤、例えばエポキシ系接着剤等で封止してもよい。
【0050】
以上で、図1及び図2に示す第1の基板1のアクチュエータ部が完成する。この第1の基板1に図1及び図2の第2の基板2、第3の基板3を組み合わせ液滴吐出ヘッドが完成する。
【0051】
よって、従来技術では困難であった良好な生産性、及び生産効率を有する高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った圧力発生機構を備えた基板が実現できる。
【0052】
図14は本発明の第1の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。図15は本発明の第2の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。図14及び図15において、図6と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。
【0053】
図14において、振動板の膜構成は、下層から絶縁膜44、上部電極膜45、振動板膜剛性調整膜46、振動板応力調整膜47及び樹脂膜48から構成された積層膜49で形成されている。振動板剛性調整膜46の残留応力を緩和するため、膜中にイオン注入により、例えば硼素を取り込んでいるが、イオン注入時、あるいはその後の熱履歴により下層の上部電極膜45へイオン注入種が拡散する可能性がある。イオン注入種が上部電極膜45へ拡散すると、電気的特性、例えば抵抗値のバラツキを生ずる可能性があり、アクチュエータ駆動特性のバラツキ要因となる。そこで、図15に示す第2の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部において、振動板の膜構成は、下層から絶縁膜44、上部電極膜45、イオン注入種バリア層81、振動板膜剛性調整膜46、振動板応力調整膜47及び樹脂膜48から構成された積層膜82で形成されている。イオン注入種バリア層81は、例えばCVD法によるシリコン酸化膜を0.1μmとすることにより、実施例1で懸念される上部電極膜45へのイオン種拡散が確実に防止でき、第1の実施の形態例に比べ、高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った圧力発生機構を備えた基板が実現できる。
【0054】
次に、本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載した別の発明のインクカートリッジについて図16を参照して説明する。
図16に示す別の発明のインクカートリッジ90は、ノズル91等を有する上記各実施の形態例の液滴吐出ヘッド92と、当該液滴吐出ヘッド92に対してインクを供給するインクタンク93とを一体化したものである。このように、液滴吐出ヘッドとインクタンクの一体型のインクカートリッジの場合、アクチュエータ部を高信頼性化することで、インクカートリッジの歩留まり、信頼性が向上し、インクタンク・液滴吐出ヘッド一体型のインクカートリッジの低コスト化が図れる。
【0055】
次に、本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載した別の発明の液滴吐出記録装置の一例について図17及び図18を参照して説明する。なお、図17は別の発明の液滴吐出記録装置の機構部を示す概略断面図であり、図18は別の発明の液滴吐出記録装置の要部を示す概略斜視図である。
【0056】
図17及び図18に示す別の発明の液滴吐出記録装置は、装置本体101の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ102、キャリッジ102に搭載した本発明の液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド103、記録ヘッド103へインクを供給するインクカートリッジ104等で構成される印字機構部105等を収納し、装置本体101の下方部には前方側から多数枚の用紙106を積載可能な給紙カセット(あるいは給紙トレイでもよい。)107を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙106を手差しで給紙するための手差しトレイ108を開倒することができ、給紙カセット107或いは手差しトレイ108から給送される用紙106を取り込み、印字機構部105によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ109に排紙する。
【0057】
印字機構部105は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド110と従ガイドロッド111とでキャリッジ102を主走査方向(図17で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ102にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド103を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ102には記録ヘッド103に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ104を交換可能に装着している。
【0058】
インクカートリッジ104は上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド103へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド103へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色の記録ヘッド103を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0059】
ここで、キャリッジ102は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド110に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド111に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ102を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ112で回転駆動される駆動プーリ113と従動プーリ114との間にタイミングベルト115を張装し、このタイミングベルト115をキャリッジ102に固定しており、主走査モータ112の正逆回転によりキャリッジ102が往復駆動される。
【0060】
一方、給紙カセット107にセットした用紙106を記録ヘッド103の下方側に搬送するために、給紙カセット107から用紙106を分離給装する給紙ローラ116及びフリクションパッド117と、用紙106を案内するガイド部材118と、給紙された用紙106を反転させて搬送する搬送ローラ119と、この搬送ローラ119の周面に押し付けられる搬送コロ120及び搬送ローラ119からの用紙106の送り出し角度を規定する先端コロ121とを設けている。搬送ローラ119は副走査モータ122によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0061】
そして、キャリッジ102の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ119から送り出された用紙106を記録ヘッド103の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材123を設けている。この印写受け部材123の用紙搬送方向下流側には、用紙106を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ124及び拍車125を設け、更に用紙106を排紙トレイ109に送り出す排紙ローラ126及び拍車127と、排紙経路を形成するガイド部材128,129とを配設している。
【0062】
記録時には、キャリッジ102を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド103を駆動することにより、停止している用紙106にインクを吐出して1行分又は複数行一括分を記録し、用紙106を所定量搬送後次の行分又は次の複数行一括分の記録を行う。記録終了信号または、用紙106の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙106を排紙する。
【0063】
また、キャリッジ102の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド103の吐出不良を回復するための維持回復装置130を配置している。この維持回復装置130はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ102は印字待機中にはこの維持回復装置130側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド103をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0064】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド103の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0065】
このように、別の発明の液滴吐出記録装置においては本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。また低電圧で駆動できる液滴吐出ヘッドを搭載するので、液滴吐出記録装置全体の消費電力も低減できる。
【0066】
なお、上記実施の形態例においては、インク以外の液滴、例えばパターニング用の液体レジストを吐出する液滴吐出ヘッドにも適用することできる。
【0067】
図19は本発明の静電型アクチュエータを用いたマイクロポンプを示す断面図である。同図に示すマイクロポンプは、上述した静電型アクチュエータを複数、振動板領域の長手方向の側壁部が隣接するように適当数並設し、その上に流路板を積層した構造である。マイクロポンプの動作原理を図19に基づいて説明すると、基板上に形成された電極141と空隙を介して設けられた振動板142が、隣接する振動板との間に一定の時間差をもって順次駆動され、振動板142と流路板143との間に形成される流路144の中を流体が流れる構造となっている。振動板142を図中右側から順次駆動することによって流路144内の流体は矢印方向へ流れが生じ、流体の輸送が可能となる。図19のマイクロポンプでは静電型アクチュエータを複数設けた例を示したが、静電型アクチュエータは1つでも良く、また輸送効率を上げるために弁などを設けても良い。
【0068】
図20は本発明の静電型アクチュエータを用いた光変調デバイスを示す断面図である。同図に示す光変調デバイスは、基板上に形成された電極151と空隙を介して設けられた振動板152が複数配列され、振動板152はミラーを兼ねている。振動板152の表面は反射率を増加させるため誘電体多層膜や金属膜を形成すると良い。光源153からの光はレンズ154を介してミラーとしての振動板152の表面に照射される。ミラーとしての振動板152を駆動しない場合、光は入射角と同じ角度で反射する。ミラーとしての振動板152を駆動した場合は凹面ミラーとなるので反射光は発散光となる。このように本発明により光変調デバイスが実現できる。
【0069】
図21は図20に示す光変調デバイスの応用例を示す斜視図である。同図に示す光変調デバイスの応用例は、例えば図5に示すような静電型アクチュエータがX、Y方向に密接して配設され、振動板の表面が鏡面に仕上げられた構成である。図20の光源153からの光はレンズ154を介してミラーとしての振動板152の鏡面仕上げの表面に照射され、振動板を駆動していないところに入射した光は、投影用レンズ155へ入射する。一方、電極151に電圧を印加して振動板152を変形させているところは凹面ミラーとなるので、光は発散し投影用レンズ155にほとんど入射しない。投影用レンズ155に入射した光はスクリーン(図示しない)などに投影される。この構造を図21のように2次元に配列し、それぞれのミラーを独立に駆動することによって、スクリーンに画像を表示できる。なお、図21では例として4×4の配列を示したがもっと多数配列することも可能でありこの限りではない。
【0070】
図19に示すマイクロポンプや図20及び図21の光変調デバイスでは動作原理を簡単に述べたが、図19に示すマイクロポンプや図20及び図21の光変調デバイスに上述した製造方法や構成も適用することもできる。
【0071】
なお、本発明の静電型アクチュエータの応用例として、液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ、マイクロポンプ、光変調デバイスを例として挙げたが、これ以外の光学デバイス、マイクロアクチュエータなどにも適用可能である。
【0072】
また、本発明は上記実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1の各基板を重ね合せた斜視図である。
【図3】図2のA−A’線断面図である。
【図4】図2のB−B’線断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける圧力発生機構の構成を示す平面図である。
【図6】図5のC−C’線断面図である。
【図7】図5のD−D’線断面図である。
【図8】本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図である。
【図9】窒化膜への硼素イオン注入量と引張応力緩和の関係を示す特性図である。
【図10】窒化膜中の硼素含有率と引張応力緩和の関係を示す特性図である。
【図11】成膜直後に対する内部応力を基準とした硼素注入後の内部応力緩和率の硼素含有率依存を示す特性図である。
【図12】引張応力とヤング率の関係を示す特性図である。
【図13】成膜直後に対する内部応力とヤング率の各処理における変化割合を示す特性図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。
【図16】本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載した別の発明のインクカートリッジの構成を示す斜視図である。
【図17】図17は別の発明のインクジェット記録装置の機構部を示す概略断面図である。
【図18】別の発明のインクジェット記録装置の要部を示す概略斜視図である。
【図19】本発明の静電型アクチュエータを用いたマイクロポンプを示す断面図である。
【図20】本発明の静電型アクチュエータを用いた光変調デバイスを示す断面図である。
【図21】図20に示す光変調デバイスの応用例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
1;液滴吐出ヘッド、10;第1の基板、
11,21,51,60;シリコン基板、12;個別電極、
13,54,67,77;空隙、14,142,152;振動板、
15;大気開放部、16,56,64,76;通気管、
17,55,74;犠牲層除去孔、18;インク供給口、
20;第2の基板、22;吐出室、23;共通液室、24;個別液室、
25;流体抵抗、30;第3の基板、31;ニッケル基板、
32;ノズル孔、41;振動板領域、42;分離溝、
43,63,68,71;隔壁部、
44,52,53,61,66,69;絶縁膜、
45,70;上部電極、46;振動板膜剛性調整膜、
47;振動板応力調整膜、48;樹脂膜、49;積層膜、
50,62;下部電極、57,65,79;インク供給孔、
72;保護孔、73;窒化膜、75;加工孔、78;封止膜、
80;樹脂膜、81;イオン注入種バリア層81、
90,104;インクカートリッジ、91;ノズル、
92;液滴吐出ヘッド、93;インクタンク、101;装置本体、
102;キャリッジ、103;記録ヘッド、105;印字機構部、
106;用紙、107;給紙カセット、108;手差しトレイ、
109;排紙トレイ、110;主ガイドロッド、
111;従ガイドロッド、112;主走査モータ、
113;駆動プーリ、114;従動プーリ、
115;タイミングベルト、116;給紙ローラ、
117;フリクションパッド、118,128,129;ガイド部材、
119;搬送ローラ、120;搬送コロ、121;先端コロ、
122;副走査モータ、123;印写受け部材、124;搬送コロ、
125,127;拍車、126;排紙ローラ、130;維持回復装置、
141,151;電極、143;流路板、144;流路、
153;光源、154;レンズ、155;投影用レンズ。
【技術分野】
【0001】
本発明は静電型アクチュエータ、その製造方法、液滴吐出ヘッド、液滴吐出記録装置、マイクロポンプ及び光変調デバイスに関し、詳細には積層構造の振動板における応力緩和膜の膜厚を薄くできる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置あるいは画像形成装置として用いるインクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドとしては、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する吐出室(加圧液室、圧力室、インク流路等とも称される。)と、吐出室内のインクを加圧する圧力を発生する圧力発生手段とを備えて、圧力発生手段で発生した圧力で吐出室内インクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させる。
【0003】
このような液滴吐出ヘッドとしては、圧力発生手段として圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型のもの、吐出内に配設した発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いてインクの膜沸騰でバブルを発生させてインク滴を吐出させるバブル型(サーマル型)のもの、吐出室の壁面を形成する振動板を静電力で変形させることでインク滴を吐出させる静電型のものなどがある。
【0004】
近年、環境問題から鉛フリーであるバブル型、静電型が注目を集め、鉛フリーに加え低消費電力の観点からも環境に影響が少ない静電型のものが多く提案されている。
【0005】
静電型インクジェットヘッドとしては、例えば特許文献1、特許文献2に記載されているように、一対の電極対が空隙を介して設けられており、片方の電極が振動板として働き、振動板の対向する電極と反対側にインクが充填されている形態のものである。電極対に電圧を印加することによって電極間に静電引力が働き、電極(振動板)が変形し、電圧を除去すると振動板が弾性力によって元の状態に戻り、その力を用いてインクを吐出するものである。
【0006】
ところで、静電型インクジェットヘッドでは、振動板と電極間隔、すなわち空隙の寸法精度がその性能に大きく影響を及ぼす。特に、インクジェットヘッドの場合、各アクチュエータの特性のバラツキが大きければ印字精度、画質の再現性が著しく低下することとなる。また、低電圧化を目指す場合、空隙間隔が0.1〜0.5μm程度と狭間隔となり、より寸法精度が求められる。そこで、特許文献1、2に記載されているように、犠牲層プロセスを適用して、振動板、空隙、電極を1つの基板で形成することにより、空隙寸法は、ほぼ犠牲層成膜工程のバラツキのみで決まるため、寸法バラツキを抑えることができ、高精度で信頼性の高いアクチュエータを得ることができる。
【特許文献1】特開2004−098506号公報
【特許文献2】特開2004−106089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、振動板はプロセス上、あるいは機能上の目的で積層膜となっている。例えば、振動板は、下部電極と振動板電極の電気的ショート防止、及び犠牲層エッチのエッチングストップ膜としてのシリコン酸化膜、振動板電極のポリシリコン膜、振動板剛性調整膜としてシリコン窒化膜、内部応力調整膜としてシリコン酸化膜、及び振動板がインクと触れる最上層には耐インク性を有するポリイミド樹脂膜などで構成されている。これら各々の膜は、圧縮、あるいは引張の内部応力を有している。従って、振動板全体として残留応力のバランスが悪いと、空隙を形成後、振動板が撓んだり、壊れるといった課題がある。また、振動板の幅、長さ、厚さなどの寸法設計において、振動板の各構成膜のヤング率やポワソン比などに加え、振動板全体の残留応力を考慮した設計を行なわなければならず、設計が難しくなる。
【0008】
また、上述した振動板の構成膜では、振動板剛性調整膜としてのシリコン窒化膜以外は数百MPa程度の圧縮応力を有するが、シリコン窒化膜はGPaオーダーの非常に大きな引張応力を有している。従って、振動板全体の内部応力の緩和目的のみにシリコン窒化膜厚のおよそ8〜10倍程度の圧縮応力膜厚が必要となり、プロセス負荷増大によるコスト増だけでなく、工程増による歩留まりへの影響や振動板膜厚のばらつきも相対的に大きくなることから、特性バラツキへの影響が懸念される。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解決するためのものであり、積層膜からなる振動板を有する静電型アクチュエータにおいて、振動板の構成膜における応力バランスを取るために、残留応力低減のためにイオンを注入することにより、ヤング率の変動にほとんど影響を与えず応力緩和できるため、構成膜の膜厚比を変えることなく内部応力のバランスを変更できる。
【0010】
従って、プロセスマージンが広がり、自由度の高い振動板設計、しいてはアクチュエータの設計が可能となり、従来技術では困難であった高精度、高密度、高い信頼性、かつ高い量産性を持った静電型アクチュエータを得ることができ、比較的容易に低電圧でインク吐出効率が高く、高画質印字が可能な液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドを一体化したインクカートリッジ、この液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出記録装置、及び本発明の静電型アクチュエータを用いて、マイクロポンプ、光変調デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記問題点を解決するために、本発明の静電型アクチュエータは、静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向する下部電極とを有している。そして、本発明の静電型アクチュエータにおける振動板は、構成元素以外の元素をイオン注入され、残留応力が緩和されている応力調整膜を、少なくとも1層含む積層膜で構成されていることに特徴がある。よって、応力緩和膜の付加、あるいは他の構成膜の膜厚制御を行う必要がなく、応力を緩和したい応力調整膜の内部応力を振動板剛性に大きく影響するヤング率の変動を抑えつつ、緩和できるため、構成膜の層数を減らすことができる、あるいは応力緩和膜の膜厚を従来より薄くできると共に、静電型アクチュエータの特性ばらつきが小さく、かつ精度良く形成でき信頼性を向上できる。また、工数削減による量産性向上、歩留向上が期待でき、低コストで量産性の高い静電型アクチュエータを提供できる。
【0012】
また、応力調整膜は、残留応力緩和率:[1−(元素導入後の残留応力値)/(元素導入前の残留応力値)]×100がヤング率の変化率の絶対値:|[1−(元素導入後のヤング率)/(元素導入前のヤング率)]|×100より大きいことにより、ヤング率の変動を抑えつつ応力緩和できるため、構成膜の膜厚比を変えることなく内部応力のバランスを変更できる。従って、プロセスマージンが広がり、自由度の高い振動板設計、しいてはアクチュエータ設計が可能となり、信頼性の高い静電型アクチュエータを提供することができる。
【0013】
更に、元素導入前の残留応力緩和率が30〜90%の範囲であり、かつヤング率の変化率の絶対値が0〜20%であることが好ましい。
【0014】
また、応力調整膜へイオン注入される元素の平均含有率が0.1%以上であることにより、応力緩和効果が得られるため、従来の方法に比べ量産性、歩留まり向上が期待でき、信頼性の高い静電型アクチュエータを提供できる。
【0015】
更に、応力調整膜はシリコン窒化膜であることにより、信頼性の高い静電型アクチュエータを実現することが可能となる。
【0016】
また、別の発明としての静電型アクチュエータの製造方法によれば、振動板は、残留応力が緩和されている応力調整膜を少なくとも1層含む積層され、応力調整膜に構成元素以外の元素をイオン注入する。よって、残留応力を緩和するためには、Si-N結合を切断することにより得られる。従って、イオン注入法によりシリコン窒化膜へ加速された元素を打ち込むことで、容易にかつ効果的にSi-N結合を切断することができる。また、イオン注入法では、イオンの加速エネルギーを容易に変えることができ、下層膜への影響がほとんどなく、応力緩和したい膜のみに選択的に元素を注入できる。従って、量産性に優れ、安定した信頼性の高い静電型アクチュエータが形成できる。
【0017】
更に、応力調整膜へイオン注入される元素のイオン注入量が1×1014ions/cm2以上1×1016ions/cm2以下であることにより、最もプロセス的に効率的な注入量であり、量産性に優れ、安定した信頼性の高い静電型アクチュエータが得られる。
【0018】
また、別の発明としての液滴吐出ヘッドは、吐出室内の液体を加圧する上記静電型アクチュエータと、吐出室を形成する基板と、ノズル孔を有する基板とを積層して構成する。よって、製造不良が減少し、低コスト化を図ることができる。
【0019】
更に、別の発明としてのインクカートリッジは、インク滴を吐出する上記液滴吐出ヘッドと、該液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクとを一体化したことに特徴がある。よって、製造不良が減少し、低コスト化を図ることができる。
【0020】
また、別の発明としての液滴吐出記録装置は、インク滴を吐出する上記液滴吐出ヘッドを搭載したことに特徴がある。よって、製造不良が減少し、低コスト化を図ることができる。
【0021】
更に、別の発明としてのマイクロポンプは、上記静電型アクチュエータの振動板を変形させて液体を輸送する。よって、小型であり、低消費電極のマイクロポンプが実現できる。
【0022】
また、別の発明としての光変調デバイスは、上記静電型アクチュエータの振動板を変形させてミラーを変形させ、光の反射方向を変化させる。よって、小型であり、低消費電極の光変調デバイスが実現できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、応力緩和膜の付加、あるいは他の構成膜の膜厚制御を行なう必要がなく、応力を緩和したい膜そのものの内部応力を振動板剛性に大きく影響するヤング率の変動を抑えつつ、緩和できるため、構成膜の層数を減らすことができる、あるいは応力緩和膜の膜厚を従来より薄くできる。従って、アクチュエータの特性ばらつきが小さく、かつ精度良く形成でき信頼性を向上できる。また、工数削減による量産性向上、歩留向上が期待でき、低コストで量産性の高いアクチュエータが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの分解斜視図、図2は図1の各基板を重ね合せた斜視図である。また、図3は図2のA−A’線断面図、図4は図2のB−B’線断面図である。図1〜図4に示す本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッド1は、インク液滴を基板の面部に設けたノズル孔から吐出させるサイドシュータタイプの例である。図1〜図4に示すように、本実施の形態例の液滴吐出ヘッド1は、3枚の基板を重ねた積層構造となっている。
【0025】
第1の基板10は、結晶面方位<100>のシリコン基板11上に積層膜により個別電極12と、空隙13を介して振動板14とが形成されている。また、空隙13と大気開放部15を連通するための通気管16が形成されている。更に、振動板14の下面には空隙13を介して個別電極12が形成されている。空隙13、大気開放部15及び通気管16は、後に除去することを前提とした犠牲層を個別電極材料や振動板材料と同様に積層膜として成膜しておき、後に図4に示す犠牲層除去孔17から犠牲層を除去することで形成する。また、第1の基板10の上面に接合される第2の基板20においては、結晶面方位<110>のシリコン基板21に、振動板14を底壁とする吐出室22と、各吐出室22にインクを供給するための共通液室23と、吐出室22と共通液室23を連通させる個別液室24と、流体抵抗25とが形成されている。更に、第2の基板20の上面に接合される第3の基板30においては、厚さ50ミクロンのニッケル基板31を用い、当該ニッケル基板31に吐出室22と連通するようにそれぞれノズル孔32が形成されている。また、第1の基板10には、共通液室23と連通するようにインク供給口18が設けられている。
【0026】
次に、このような構成を有する本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの動作について説明する。
吐出室22内にインクが満たされた状態で個別電極12に発振回路(図示せず)により40Vのパルス電位が印加される。電圧印加により個別電極12の表面がプラスに帯電すると、振動板14との間に静電気の吸引作用が働き振動板14が下方へ撓み、共通液室23より流体抵抗25を通じて吐出室22へインクが流入する。その後個別電極12へのパルス電圧を0Vにすると静電気力により下方へ撓んだ振動板14が自身の剛性により元に戻る。その結果、吐出室22内の圧力が急激に上昇し、ノズル孔32よりインク液滴を記録紙に向けて吐出する。これを繰り返すことによりインクを連続的に吐出することができる。
【0027】
電極間に働く力Fは下記の式(1)に示すように電極間距離dの2乗に反比例して大きくなる。低電圧で駆動するためには個別電極12と振動板14の空隙間隔を狭く形成することが重要となる。
【0028】
【数1】
【0029】
但し、Fは電極間に働く力、εは誘電率、Sは電極の対抗する面の面積、dは電極間距離、Vは印加電圧である。
【0030】
以上説明した本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドによれば、個別電極と振動板間の微小な空隙間隔を精度良く、かつ安定して製造することが可能であり、静電力による振動板の動作を最大となるよう設計できる。
【0031】
図5は本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける圧力発生機構の構成を示す平面図である。図6は図5のC−C’線断面図であり、図7は図5のD−D’線断面図である。
【0032】
図5に示すように、振動板領域41は、分離溝42で隔壁部43から分離されている。振動板の膜構成は、図6に示すように、下層から絶縁膜44、上部電極45、振動板膜剛性調整膜46、振動板応力調整膜47及び樹脂膜48を含んで構成された積層膜49で形成されている。ここで、振動板応力調整膜47は、GPaオーダーの引張応力を有するLP−CVDで成膜された窒化膜であり、この引張内部応力を緩和するためにイオン注入により、例えば硼素、リン、ヒ素、アルゴンなどの元素が窒化膜中に取り込まれている。分離溝42は、隔壁部43と振動板領域41で段差が生じないように設計されている。また、振動板領域41の短辺長a、長辺長bは、例えば短辺長a:60μm、長辺長b:1000μmであり、振動板領域41を静電気力で変位させるために、電圧を印加できるようになっており下部電極50がシリコン基板51上に絶縁膜52を介して所望のパターニングがされている。また、下部電極50上には、上部電極45と電気的ショートを防止するため、絶縁膜53が例えば0.10μm厚で形成されている。
【0033】
また、空隙54の形成には、犠牲層プロセスを適用し、積層膜49に犠牲層除去孔55が形成されている。犠牲層除去孔55は、振動板領域41の長辺方向に等間隔に振動板領域41の短辺長以下の間隔で配置されており、対向する辺の同位置に犠牲層除去孔55が形成されている。このように犠牲層除去孔55を複数配置することにより、空隙54を効率良く形成することができる。また、この空隙54の形成と同時に通気管56とこれに連通した大気開放部(図示しない)の空隙54も形成する。
【0034】
更に、静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの場合、液滴を吐出するアクチュエータは細長い長方形であり、この長辺側には隔壁部43を挟んで隣接するアクチュエータが並んでいるのが一般的である。犠牲層エッチングは、等方性のため、図示していないが振動板領域41中央に犠牲層除去孔55が並んでいる方が犠牲層の除去効率は高い。しかし、振動板の変位領域に犠牲層除去孔55があるとアクチュエータの振動特性に影響を及ぼす可能性があるため、犠牲層除去孔55は振動板領域外に配置することが好ましい。一方、大気開放部は、振動板領域41との面積比を考慮して、効率よく犠牲層がエッチングされるように犠牲層除去孔55を大気開放部内に配置してもよい。
【0035】
その後、犠牲層除去孔55を振動板応力調整膜47で完全封止する。その後図示していないが、外部電極への取り出しのため、配線層形成し、裏面貫通して、インク供給孔57を形成し、通気管56に連通した大気開放孔(図示しない)を形成後、振動板領域41の空隙54へのガス導入、あるいは大気開放を行う。このとき、大気開放孔(図示しない)は、例えば微細加工が可能なリソエッチ法で形成することにより、レーザ法や物理的開口に比べて大気開放部面積を小さくでき、またパーティクルの発生が抑えられるだけでなく、表面状態が平坦なため、次工程への影響がほとんど無い。次に、スプレーコート法、蒸着重合法などで液滴の接液膜として樹脂膜48を形成する。
【0036】
このように、従来技術に比べ高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドが実現できるため、後述するように、この静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを一体化したインクカートリッジ、この液滴吐出ヘッドを搭載したイ液滴吐出記録装置に提供することができる。また、従来技術では困難であった良好な生産性、及び生産効率を有する寸法制御に優れた高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った液滴吐出ヘッドの製造に適用できる製造方法が提供できる。
【0037】
次に、本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの製造工程を図8の工程断面図に従って説明する。
先ず、図8の(a)に示すように、厚さ400μmシリコン基板60上に絶縁膜(熱酸化膜)61を1.6μm形成する。次に、下部電極材としてPドープポリシリコンを0.3μm成膜する。そして、リソエッチ法で下部電極62、一部の隔壁部63、一部の通気管64との分離、及び裏面貫通のインク供給孔65となるポリシリコン層を除去する。その後、下部電極62と一部の隔壁部63の絶縁膜(CVD酸化膜)66を0.1μm堆積させる。この絶縁膜66は犠牲層プロセスでの下部電極62を保護するマスク材、かつ下部電極62と後述する上部電極70との短絡を防止する保護膜として作用する。
【0038】
次に、図8の(b)に示すように、犠牲層(ノンドープポリシリコン)を空隙間隔となる例えば0.2μmをCVD法で成膜し、リソエッチ法により空隙67となる領域と一部の隔壁部68を分離、及び裏面貫通のインク供給孔65となるポリシリコン層を除去する。その後、犠牲層プロセスでの後述する上部電極70を保護するマスク材、かつ下部電極62と上部電極70との短絡を防止する保護膜として作用する絶縁膜(CVD酸化膜)69を0.1μm堆積させる。
【0039】
次に、図8の(c)に示すように、Pドープドポリシリコンを0.1μm堆積させ、リソエッチ法で上部電極70と一部の隔壁部71を分離、及び裏面貫通のインク供給孔65となるポリシリコン層を除去する。この時同時に、犠牲層除去時犠牲層と同じ材質の上部電極70がエッチングされないように保護孔72を後に形成する犠牲層除去孔74より大きく開口する。また、同様に大気開放部(図示しない)では、大気開放孔を後に形成する大気開放孔より大きく開口する。次に、振動板の撓み防止層、及び剛性調整膜として窒化膜73をLP−CVD法で0.3μm堆積させる。その後、イオン注入法により、窒化膜73に元素を注入する。
【0040】
ここで、成膜直後GPaオーダーの引張応力を有するLP−CVD法で成膜した窒化膜(膜厚:0.15μm、0.3μm)への硼素イオン注入量と引張応力緩和の関係を図9、窒化膜中の硼素含有率と引張応力緩和の関係を図10、及び成膜直後に対する内部応力を基準とした硼素注入後の内部応力緩和率の硼素含有率依存を図11に示す。図9からイオン注入により内部応力が緩和されることがわかり、注入量が1×1015atom/cm−2までは急激に内部応力が低下するが、1×1016atom/cm−2以上では、ほぼ飽和傾向になる。また、図10のように窒化膜中に注入された硼素の窒化膜に対する含有量でみると、0.1%程度で成膜特後の半分程度となり、0.3%以上でほぼ飽和傾向になることがわかる。図11に示すように、硼素の含有率が0.3%以上でその応力緩和率は、最大で80〜90%程度になる。以上より、硼素イオン注入量1×1014atom/cm−2以上、硼素含有量で0.1%以上とすることで、内部応力の緩和率は30〜90%となり、内部応力の緩和効果が期待できる。よって、窒化膜へイオン注入されるイオン注入量が1×1014ions/cm-2以上1×1016ions/cm-2以下であることが好ましい。
【0041】
量産性、プロセスマージン、応力緩和の安定性を考慮すると注入量、あるいは含有量に対し、応力値が依存しない領域、例えば硼素イオン注入量1×1015atom/cm−2以上、硼素含有量0.3%以上で、かつこれ以上イオン注入量、あるいは硼素含有量を増やしても内部応力は低下せず応力緩和率は飽和するため、装置の負荷、量産性を考慮すると、イオン注入量で6×1015atom/cm−2以下、硼素含有量で1.8%以下がもっとも好ましいイオン注入量、あるいは硼素含有量である。
【0042】
また、前述した0.3μm膜厚の窒化膜の成膜直後、硼素を窒化膜下地層に突き抜けないように80keV、2×1015atom/cm−2で注入後、及び熱履歴800℃、6時間処理後の引張応力、及びヤング率を図12、成膜直後に対する内部応力とヤング率の各処理における変化割合を図13に示す。
【0043】
図12より、窒化膜の内部応力は、硼素をイオン注入すると大幅に低下し、その後の熱履歴で若干増加する。しかし、ヤング率は、成膜直後、イオン注入後、及び熱履歴後とも大きな変動は見られない。また、各処理における内部応力は成膜直後の値に対しては、20〜40%程度まで緩和されている。
【0044】
以上によりここでは、図9〜図13より、窒化膜73の応力をプロセスマージン、プロセス工数を考慮し、硼素を80keV、2×1015atom/cm−2(含有率:0.5%)でイオン注入する。
【0045】
今回は、応力緩和に硼素を窒化膜73中にイオン注入したが、ヤング率の変動がほとんど無く、内部応力のみ緩和できるのであれば、硼素以外の元素を窒化膜73中にイオン注入してもよい。
【0046】
次に、図8の(d)に示すように、リソエッチ法で開口径2μmの犠牲層除去孔74と裏面貫通のインク供給孔となる箇所の絶縁膜を除去し、加工孔75を形成する。そして、犠牲層エッチング、例えばSF6プラズマ処理やXeF2ガスによるドライエッチングで空隙となる領域67と通気管76となる領域のポリシリコンを完全に除去し、空隙77と通気管76を形成する。ここで、犠牲層エッチングをドライエッチングで行っているが、TMAH溶液、KOH溶液のウェットエッチングでもかまわない。
【0047】
次に、図8の(e)に示すように、犠牲層除去孔74の封止膜78を、犠牲層除去孔74が封止される膜厚、例えば0.6μm厚を減圧CVD法でシリコン基板60の表面に形成する。この工程により、空隙77は、外気と完全に遮断され封止される。ここでは図示していないが、空隙77が大気圧に比べ負圧になっているため、振動板が凹に撓む。その後、図示していないが電極配線を形成する。
【0048】
次に、図8の(f)に示すように、リソエッチ法で裏面貫通のインク供給孔79となる箇所の封止膜78と絶縁膜61を除去し、異方性エッチング、例えばICPエッチャーでシリコン基板60の表面からエッチングし、裏面貫通のインク供給孔79を形成する。このように、異方性エッチングで裏面貫通のインク供給孔79を形成することにより、加工形状制御性、微細加工性、加工精度の面、及び高密度化の面でも効果が大きい。また、大気開放部(図示しない)では、大気開放孔(図示しない)をリソエッチ法で形成することにより、アクチュエータ部の負圧になった空隙を大気に戻す。また、必要であれば、空隙にガス導入を行なう。このとき、振動板の信頼性を向上させるため、例えば、疎水性を示すHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を空隙77内へ通気管76を介して導入する。
【0049】
そして、図8の(g)に示すように、接液膜として樹脂膜80を被覆性の優れた蒸着重合法でシリコン基板全面に1μm厚成膜する。取りだしパッド部(図示せず)のみリソエッチ法で開口する。この樹脂膜80により、大気開放孔(図示しない)は、封止され外部からの異物や水分の混入を防ぐことができる。この時、樹脂膜80は、アクチュエータ空隙へ侵入せず、大気開放部で止まっている。ここで樹脂膜80としては、例えばPBO膜(ポリベンゾオキサゾール)、ポリイミド膜、ポリパラキシリレンなどのように液滴に対して耐腐食性が有り、蒸着重合法で形成できる材料であれば何れでもよい。ここでは、大気開放孔(図示しない)の封止を接液膜形成と同時に行ったが、例えば接液膜形成前に封止剤、例えばエポキシ系接着剤等で封止してもよい。
【0050】
以上で、図1及び図2に示す第1の基板1のアクチュエータ部が完成する。この第1の基板1に図1及び図2の第2の基板2、第3の基板3を組み合わせ液滴吐出ヘッドが完成する。
【0051】
よって、従来技術では困難であった良好な生産性、及び生産効率を有する高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った圧力発生機構を備えた基板が実現できる。
【0052】
図14は本発明の第1の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。図15は本発明の第2の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。図14及び図15において、図6と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。
【0053】
図14において、振動板の膜構成は、下層から絶縁膜44、上部電極膜45、振動板膜剛性調整膜46、振動板応力調整膜47及び樹脂膜48から構成された積層膜49で形成されている。振動板剛性調整膜46の残留応力を緩和するため、膜中にイオン注入により、例えば硼素を取り込んでいるが、イオン注入時、あるいはその後の熱履歴により下層の上部電極膜45へイオン注入種が拡散する可能性がある。イオン注入種が上部電極膜45へ拡散すると、電気的特性、例えば抵抗値のバラツキを生ずる可能性があり、アクチュエータ駆動特性のバラツキ要因となる。そこで、図15に示す第2の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部において、振動板の膜構成は、下層から絶縁膜44、上部電極膜45、イオン注入種バリア層81、振動板膜剛性調整膜46、振動板応力調整膜47及び樹脂膜48から構成された積層膜82で形成されている。イオン注入種バリア層81は、例えばCVD法によるシリコン酸化膜を0.1μmとすることにより、実施例1で懸念される上部電極膜45へのイオン種拡散が確実に防止でき、第1の実施の形態例に比べ、高精度、高密度、かつ高い信頼性を持った圧力発生機構を備えた基板が実現できる。
【0054】
次に、本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載した別の発明のインクカートリッジについて図16を参照して説明する。
図16に示す別の発明のインクカートリッジ90は、ノズル91等を有する上記各実施の形態例の液滴吐出ヘッド92と、当該液滴吐出ヘッド92に対してインクを供給するインクタンク93とを一体化したものである。このように、液滴吐出ヘッドとインクタンクの一体型のインクカートリッジの場合、アクチュエータ部を高信頼性化することで、インクカートリッジの歩留まり、信頼性が向上し、インクタンク・液滴吐出ヘッド一体型のインクカートリッジの低コスト化が図れる。
【0055】
次に、本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載した別の発明の液滴吐出記録装置の一例について図17及び図18を参照して説明する。なお、図17は別の発明の液滴吐出記録装置の機構部を示す概略断面図であり、図18は別の発明の液滴吐出記録装置の要部を示す概略斜視図である。
【0056】
図17及び図18に示す別の発明の液滴吐出記録装置は、装置本体101の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ102、キャリッジ102に搭載した本発明の液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド103、記録ヘッド103へインクを供給するインクカートリッジ104等で構成される印字機構部105等を収納し、装置本体101の下方部には前方側から多数枚の用紙106を積載可能な給紙カセット(あるいは給紙トレイでもよい。)107を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙106を手差しで給紙するための手差しトレイ108を開倒することができ、給紙カセット107或いは手差しトレイ108から給送される用紙106を取り込み、印字機構部105によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ109に排紙する。
【0057】
印字機構部105は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド110と従ガイドロッド111とでキャリッジ102を主走査方向(図17で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ102にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド103を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ102には記録ヘッド103に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ104を交換可能に装着している。
【0058】
インクカートリッジ104は上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド103へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド103へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色の記録ヘッド103を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0059】
ここで、キャリッジ102は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド110に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド111に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ102を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ112で回転駆動される駆動プーリ113と従動プーリ114との間にタイミングベルト115を張装し、このタイミングベルト115をキャリッジ102に固定しており、主走査モータ112の正逆回転によりキャリッジ102が往復駆動される。
【0060】
一方、給紙カセット107にセットした用紙106を記録ヘッド103の下方側に搬送するために、給紙カセット107から用紙106を分離給装する給紙ローラ116及びフリクションパッド117と、用紙106を案内するガイド部材118と、給紙された用紙106を反転させて搬送する搬送ローラ119と、この搬送ローラ119の周面に押し付けられる搬送コロ120及び搬送ローラ119からの用紙106の送り出し角度を規定する先端コロ121とを設けている。搬送ローラ119は副走査モータ122によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0061】
そして、キャリッジ102の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ119から送り出された用紙106を記録ヘッド103の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材123を設けている。この印写受け部材123の用紙搬送方向下流側には、用紙106を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ124及び拍車125を設け、更に用紙106を排紙トレイ109に送り出す排紙ローラ126及び拍車127と、排紙経路を形成するガイド部材128,129とを配設している。
【0062】
記録時には、キャリッジ102を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド103を駆動することにより、停止している用紙106にインクを吐出して1行分又は複数行一括分を記録し、用紙106を所定量搬送後次の行分又は次の複数行一括分の記録を行う。記録終了信号または、用紙106の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙106を排紙する。
【0063】
また、キャリッジ102の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド103の吐出不良を回復するための維持回復装置130を配置している。この維持回復装置130はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ102は印字待機中にはこの維持回復装置130側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド103をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0064】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド103の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0065】
このように、別の発明の液滴吐出記録装置においては本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。また低電圧で駆動できる液滴吐出ヘッドを搭載するので、液滴吐出記録装置全体の消費電力も低減できる。
【0066】
なお、上記実施の形態例においては、インク以外の液滴、例えばパターニング用の液体レジストを吐出する液滴吐出ヘッドにも適用することできる。
【0067】
図19は本発明の静電型アクチュエータを用いたマイクロポンプを示す断面図である。同図に示すマイクロポンプは、上述した静電型アクチュエータを複数、振動板領域の長手方向の側壁部が隣接するように適当数並設し、その上に流路板を積層した構造である。マイクロポンプの動作原理を図19に基づいて説明すると、基板上に形成された電極141と空隙を介して設けられた振動板142が、隣接する振動板との間に一定の時間差をもって順次駆動され、振動板142と流路板143との間に形成される流路144の中を流体が流れる構造となっている。振動板142を図中右側から順次駆動することによって流路144内の流体は矢印方向へ流れが生じ、流体の輸送が可能となる。図19のマイクロポンプでは静電型アクチュエータを複数設けた例を示したが、静電型アクチュエータは1つでも良く、また輸送効率を上げるために弁などを設けても良い。
【0068】
図20は本発明の静電型アクチュエータを用いた光変調デバイスを示す断面図である。同図に示す光変調デバイスは、基板上に形成された電極151と空隙を介して設けられた振動板152が複数配列され、振動板152はミラーを兼ねている。振動板152の表面は反射率を増加させるため誘電体多層膜や金属膜を形成すると良い。光源153からの光はレンズ154を介してミラーとしての振動板152の表面に照射される。ミラーとしての振動板152を駆動しない場合、光は入射角と同じ角度で反射する。ミラーとしての振動板152を駆動した場合は凹面ミラーとなるので反射光は発散光となる。このように本発明により光変調デバイスが実現できる。
【0069】
図21は図20に示す光変調デバイスの応用例を示す斜視図である。同図に示す光変調デバイスの応用例は、例えば図5に示すような静電型アクチュエータがX、Y方向に密接して配設され、振動板の表面が鏡面に仕上げられた構成である。図20の光源153からの光はレンズ154を介してミラーとしての振動板152の鏡面仕上げの表面に照射され、振動板を駆動していないところに入射した光は、投影用レンズ155へ入射する。一方、電極151に電圧を印加して振動板152を変形させているところは凹面ミラーとなるので、光は発散し投影用レンズ155にほとんど入射しない。投影用レンズ155に入射した光はスクリーン(図示しない)などに投影される。この構造を図21のように2次元に配列し、それぞれのミラーを独立に駆動することによって、スクリーンに画像を表示できる。なお、図21では例として4×4の配列を示したがもっと多数配列することも可能でありこの限りではない。
【0070】
図19に示すマイクロポンプや図20及び図21の光変調デバイスでは動作原理を簡単に述べたが、図19に示すマイクロポンプや図20及び図21の光変調デバイスに上述した製造方法や構成も適用することもできる。
【0071】
なお、本発明の静電型アクチュエータの応用例として、液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ、マイクロポンプ、光変調デバイスを例として挙げたが、これ以外の光学デバイス、マイクロアクチュエータなどにも適用可能である。
【0072】
また、本発明は上記実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1の各基板を重ね合せた斜視図である。
【図3】図2のA−A’線断面図である。
【図4】図2のB−B’線断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける圧力発生機構の構成を示す平面図である。
【図6】図5のC−C’線断面図である。
【図7】図5のD−D’線断面図である。
【図8】本実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図である。
【図9】窒化膜への硼素イオン注入量と引張応力緩和の関係を示す特性図である。
【図10】窒化膜中の硼素含有率と引張応力緩和の関係を示す特性図である。
【図11】成膜直後に対する内部応力を基準とした硼素注入後の内部応力緩和率の硼素含有率依存を示す特性図である。
【図12】引張応力とヤング率の関係を示す特性図である。
【図13】成膜直後に対する内部応力とヤング率の各処理における変化割合を示す特性図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態例の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドにおける振動板部を示す拡大断面図である。
【図16】本発明の静電型アクチュエータを有する液滴吐出ヘッドを搭載した別の発明のインクカートリッジの構成を示す斜視図である。
【図17】図17は別の発明のインクジェット記録装置の機構部を示す概略断面図である。
【図18】別の発明のインクジェット記録装置の要部を示す概略斜視図である。
【図19】本発明の静電型アクチュエータを用いたマイクロポンプを示す断面図である。
【図20】本発明の静電型アクチュエータを用いた光変調デバイスを示す断面図である。
【図21】図20に示す光変調デバイスの応用例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
1;液滴吐出ヘッド、10;第1の基板、
11,21,51,60;シリコン基板、12;個別電極、
13,54,67,77;空隙、14,142,152;振動板、
15;大気開放部、16,56,64,76;通気管、
17,55,74;犠牲層除去孔、18;インク供給口、
20;第2の基板、22;吐出室、23;共通液室、24;個別液室、
25;流体抵抗、30;第3の基板、31;ニッケル基板、
32;ノズル孔、41;振動板領域、42;分離溝、
43,63,68,71;隔壁部、
44,52,53,61,66,69;絶縁膜、
45,70;上部電極、46;振動板膜剛性調整膜、
47;振動板応力調整膜、48;樹脂膜、49;積層膜、
50,62;下部電極、57,65,79;インク供給孔、
72;保護孔、73;窒化膜、75;加工孔、78;封止膜、
80;樹脂膜、81;イオン注入種バリア層81、
90,104;インクカートリッジ、91;ノズル、
92;液滴吐出ヘッド、93;インクタンク、101;装置本体、
102;キャリッジ、103;記録ヘッド、105;印字機構部、
106;用紙、107;給紙カセット、108;手差しトレイ、
109;排紙トレイ、110;主ガイドロッド、
111;従ガイドロッド、112;主走査モータ、
113;駆動プーリ、114;従動プーリ、
115;タイミングベルト、116;給紙ローラ、
117;フリクションパッド、118,128,129;ガイド部材、
119;搬送ローラ、120;搬送コロ、121;先端コロ、
122;副走査モータ、123;印写受け部材、124;搬送コロ、
125,127;拍車、126;排紙ローラ、130;維持回復装置、
141,151;電極、143;流路板、144;流路、
153;光源、154;レンズ、155;投影用レンズ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向する下部電極とを有する静電型アクチュエータにおいて、
前記振動板は、構成元素以外の元素をイオン注入され、残留応力が緩和されている応力調整膜を、少なくとも1層含む積層膜で構成されていることを特徴とする静電型アクチュエータ。
【請求項2】
前記応力調整膜は、残留応力緩和率:[1−(前記元素導入後の残留応力値)/(前記元素導入前の残留応力値)]×100がヤング率の変化率の絶対値:|[1−(前記元素導入後のヤング率)/(前記元素導入前のヤング率)]|×100より大きい請求項1記載の静電型アクチュエータ。
【請求項3】
前記元素導入前の前記残留応力緩和率が30〜90%の範囲であり、かつ前記ヤング率の変化率の絶対値が0〜20%である請求項1又は2に記載の静電型アクチュエータ。
【請求項4】
前記応力調整膜へイオン注入される前記元素の平均含有率が0.1%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記応力調整膜は、シリコン窒化膜である請求項1〜4のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向して形成された下部電極とを有する静電型アクチュエータの製造方法において、
前記振動板は、残留応力が緩和されている応力調整膜を少なくとも1層含む積層され、前記応力調整膜に構成元素以外の元素をイオン注入することを特徴とする静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記応力調整膜へイオン注入される前記元素のイオン注入量が1×1014ions/cm-2以上1×1016ions/cm-2以下である請求項6記載の静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
吐出室内の液体を加圧する請求項1〜5のいずれかに記載の静電型アクチュエータと、前記吐出室を形成する基板と、ノズル孔を有する基板とを積層して構成することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
インク滴を吐出する請求項8記載の液滴吐出ヘッドと、該液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクとを一体化したことを特徴とするヘッドカートリッジ。
【請求項10】
インク滴を吐出する請求項8記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出記録装置。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の静電型アクチュエータの振動板を変形させて液体を輸送することを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の静電型アクチュエータの振動板を変形させてミラーを変形させ、光の反射方向を変化させることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項1】
静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向する下部電極とを有する静電型アクチュエータにおいて、
前記振動板は、構成元素以外の元素をイオン注入され、残留応力が緩和されている応力調整膜を、少なくとも1層含む積層膜で構成されていることを特徴とする静電型アクチュエータ。
【請求項2】
前記応力調整膜は、残留応力緩和率:[1−(前記元素導入後の残留応力値)/(前記元素導入前の残留応力値)]×100がヤング率の変化率の絶対値:|[1−(前記元素導入後のヤング率)/(前記元素導入前のヤング率)]|×100より大きい請求項1記載の静電型アクチュエータ。
【請求項3】
前記元素導入前の前記残留応力緩和率が30〜90%の範囲であり、かつ前記ヤング率の変化率の絶対値が0〜20%である請求項1又は2に記載の静電型アクチュエータ。
【請求項4】
前記応力調整膜へイオン注入される前記元素の平均含有率が0.1%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記応力調整膜は、シリコン窒化膜である請求項1〜4のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
静電力で変位する振動板と、該振動板に犠牲層除去孔を用いて犠牲層プロセスで形成された空隙を介して対向して形成された下部電極とを有する静電型アクチュエータの製造方法において、
前記振動板は、残留応力が緩和されている応力調整膜を少なくとも1層含む積層され、前記応力調整膜に構成元素以外の元素をイオン注入することを特徴とする静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記応力調整膜へイオン注入される前記元素のイオン注入量が1×1014ions/cm-2以上1×1016ions/cm-2以下である請求項6記載の静電型アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
吐出室内の液体を加圧する請求項1〜5のいずれかに記載の静電型アクチュエータと、前記吐出室を形成する基板と、ノズル孔を有する基板とを積層して構成することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
インク滴を吐出する請求項8記載の液滴吐出ヘッドと、該液滴吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクとを一体化したことを特徴とするヘッドカートリッジ。
【請求項10】
インク滴を吐出する請求項8記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出記録装置。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の静電型アクチュエータの振動板を変形させて液体を輸送することを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の静電型アクチュエータの振動板を変形させてミラーを変形させ、光の反射方向を変化させることを特徴とする光変調デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2007−318845(P2007−318845A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143530(P2006−143530)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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