説明

高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物

【課題】エポキシ樹脂、その硬化剤および高熱伝導性充填剤を含有してなる高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物であって、充填剤を多量に配合しながら比較的低粘度を保ち、比較的低温で短時間に硬化し、かつ一成分型組成物としての貯蔵安定性にもすぐれたものを提供する。
【解決手段】室温で液状であるエポキシ樹脂、潜在性硬化剤、高熱伝導性充填剤および非イオン性界面活性剤を含有する高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。好ましくは、潜在性硬化剤が室温で液状であるエポキシ樹脂と、その少なくとも一部を混合させてマスターバッチ化して用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物に関する。さらに詳しくは、貯蔵安定性や加熱時硬化性にすぐれた高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や高性能化が進むにつれて、半導体等が実装された回路基板や、各種のチップ、デバイス等が搭載された電子部品の放熱対策が重要となってきている。このため各種電子部品の接着や回路基板上にコートされるものにも、高熱伝導性の材料が用いられるようになってきている。
【0003】
これらの材料には、シート状に成形されたものやペースト状の接着剤等があるが、シート状のものは、クリップ、ボルト等の圧着部品を介在させるか、粘着剤等を介して所定の位置に密着・接着させなければならない等の問題があり、またペースト状接着剤の場合には、硬化に長時間を要する、高温を要するなどの問題に加えて、熱伝導性の充填剤が多量に配合されているために粘度が非常に高く、作業性が悪いなどの問題がみられる。
【0004】
フリップチップ実装による半導体装置の製造効率を改善するため、圧接工程において短時間で硬化し、ボイドレスのすぐれた接着性を備えた硬化樹脂を形成できるエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂および硬化剤を含有すると共に室温で液状であるエポキシ樹脂系組成物において、硬化剤として2-メチルイミダゾールと脂環式エポキシである3,4-エポキシシクロヘキサンカルボン酸-3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチルエステルとの付加反応物を用いることで、エポキシ樹脂組成物の低粘度化が実現できるとされている。
【特許文献1】特開2006−8854号公報
【0005】
このエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂としてビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、これらの水素添加型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が用いられ、これらのエポキシ樹脂と共に、エポキシ当量比で全エポキシ樹脂の5〜40%の割合で、ナフタン環含有4官能性エポキシ樹脂であるビス(3,6-ジグリシジルオキシナフチル)メタンを併用することができるとされており、また導電粒子、例えばポリスチレン系高分子粒子の核の表面を金メッキしたものを含有せしめることもできるとされている。そして、上記特許文献1においては、硬化速度を高めることは記載されているが、硬化温度の低温化ならびに貯蔵安定性の両立については何ら触れられていない。
【0006】
ところで、熱伝導率が0.5W/m・K以上というような高熱伝導性充填剤、例えばAl2O3、MgO、BN、AlN、Al(OH)3、Mg(OH)2、SiC等が、電子機器の小型化、高性能化に伴う高放熱材料用として用いられるようになってきており、すなわちこれらの高熱伝導性充填剤を多量にエポキシ樹脂に配合した高放熱材料が登場してきている。
【0007】
エポキシ樹脂に高熱伝導性充填剤を多量に配合するためには、通常分散剤も多量に用いられるが、これらの分散剤はエポキシ樹脂用の潜在性硬化剤と併用されると、エポキシ樹脂系組成物の硬化性を悪化させたり、貯蔵安定性を極端に悪くするなどの問題を生ずる。
【0008】
また(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、酸無水物またはアミン系化合物であるエポキシ樹脂用硬化剤、(C)エラストマーおよび(D)界面活性剤を含む、フリップチップボンディングと組合せて用いられる封止用樹脂組成物も提案されており、この組成物には、樹脂組成物の線膨張係数を調整するために、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、マイカ、ホワイトカーボン等の充填剤あるいはイミダゾール系化合物等の硬化促進剤を含有させてもよいとされ、界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤のいずれであってもよいが、必要量(エポキシ樹脂およびその硬化剤の合計量100重量部に対して0.01〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部)を配合しても封止剤や半導体の電気特性に影響を及ぼさないことから、特にノニオン界面活性剤であるポリオキシアルキレン変性ポリジメチルシロキサンが好ましいとされている。
【特許文献2】特開2004−75835号公報
【0009】
しかしながら、その効果は、鉛フリーハンダといった従来よりも高温のリフローを必要とするハンダとの組合せで使用した場合にも、アンダーフィルのクラックの発生や基板からの剥離を防止することができるというものであって、貯蔵安定性や加熱時硬化性については触れられていない。すなわち、本技術分野でのエポキシ樹脂系組成物は、良好な貯蔵安定性を有しながら、比較的短時間もしくは低温で硬化できることが望ましいため、貯蔵安定性と低温、短時間硬化性との両立が重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、エポキシ樹脂、その硬化剤および高熱伝導性充填剤を含有してなる高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物であって、充填剤を多量に配合しながら比較的低粘度を保ち、比較的低温で短時間に硬化し、かつ一成分型組成物としての貯蔵安定性にもすぐれたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、室温で液状であるエポキシ樹脂、潜在性硬化剤、高熱伝導性充填剤および非イオン性界面活性剤を含有する高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物によって達成され、好ましくは潜在性硬化剤が室温で液状であるエポキシ樹脂と、その少なくとも一部を混合させてマスターバッチ化して用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物は、20℃で1週間程度の貯蔵安定性と通常は硬化温度が100℃程度とされる潜在性硬化剤(後記実施例2、4で用いられたアミキュアーPN-40)であっても、80℃、1時間というより低温の硬化条件での硬化を可能とさせる。殊に、潜在性硬化剤を室温で液状のエポキシ樹脂とのマスターバッチとして用いた場合には、高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物の硬化性と一成分型組成物としての貯蔵安定性のなお一層の改善が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
室温(25℃)で液状であるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAFジグリシジルエーテルおよびこれらの部分縮合により得られる鎖状オリゴマー混合物等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、1核体フェノール類(ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、ピロガロール等)のグリシジルエーテル化物、フタル酸や水添フタル酸等のグリシジルエステル化物、ポリエーテル変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂のような他のポリマーとの共重合体などの1種または2種以上の混合物を用いることができる。これらの内では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(粘度130ps)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(粘度20ps)、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂(粘度1000ps)等が安価で入手しやすいなどの点から好ましい。
【0014】
なお、本発明の効果を損わない範囲でエポキシ樹脂の一部、たとえば30重量%以下を1官能性のエポキシ化合物に置きかえて使用してもよい。1官能性のエポキシ化合物の例としては、例えば第3ブチルフェニルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、イソブチルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のモノグリシジル化合物等があげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
これらの室温で液状のエポキシ樹脂は、そこに潜在性硬化剤を単独で配合して用いるか、あるいはこれと硬化促進剤との併用で、一液型エポキシ樹脂系組成物を形成させる。潜在性硬化剤は、密閉状態、すなわち湿気遮断状態では硬化剤として機能しないが、密閉状態を開封し、湿気の存在する条件下で加水分解して硬化剤として機能する加水分解型潜在性硬化剤、常温では硬化剤として機能しないが、ある一定以上の熱を加えると溶融、相溶または活性化して硬化剤として機能する熱潜在性硬化剤、あるいは光照射によりカチオンを発生させ、エポキシ基の反応を開始させるUV硬化開始剤等が挙げられる。加水分解型潜在性硬化剤としては、ケチミン化合物等が、熱潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジン類、アミン類のエポキシアダクト型、酸無水物、液状フェノール、芳香族アミン類等が、また光硬化開始剤としては、芳香族のジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨドニウム塩等が、それぞれ挙げられる。
【0016】
上記ケチミン化合物としては、ケチミン結合(N=C)を有する化合物であれば特に限定されないが、ケトンとアミンとを反応させて得られるケチミン化合物が挙げられる。
【0017】
ケトンとしては、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル第3ブチルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。
【0018】
アミンは、特に限定されず、例えばo-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン:エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、デュポン・ジャパン社製品MPMD等の脂肪族ポリアミン:N-アミノエチルピペラジン、3-ブトキシイソプロピルアミン等の主鎖にエーテル結合を有するモノアミンやサンテクノケミカル社製品ジェファーミンEDR148によって代表されるポリエーテル骨格のジアミン:イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、1-シクロヘキシルアミノ-3-アミノプロパン、3-アミノメチル-3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアミン等の脂環式ポリアミン:三井化学製品NBDAに代表されるノルボルナン骨格のジアミン:ポリアミドの分子末端にアミノ基を有するポリアミドアミン:2,5-ジメチル-2,5-ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミン、1,4-ビス(2-アミノ-2-メチルプロピル)ピペラジン、ポリプロピレングリコール(PPG)を骨格に持つサンテクノケミカル社製品ジェファーミンD230、ジェファーミンD400等が、具体例として挙げられる。
【0019】
前記イミダゾール類としては、例えば2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールあるいは前記特許文献1に記載される如き、これらのイミダゾール化合物等が挙げられ、これらとエポキシ化合物との付加反応生成物(エポキシアダクト)としても用いられる。
【0020】
前記ヒドラジン類としては、例えばアジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等が挙げられ、これらはエポキシ化合物との付加反応化合物(エポキシアダクト)としても用いられる。
【0021】
前記アミン類としては、例えば2-ジメチルアミノエチルアミン、3-ジメチルアミノ-N-プロピルアミン等が挙げられる。これらのアミン類は、エポキシ化合物との付加反応生成物(エポキシアダクト)としても用いられる。
【0022】
前記酸無水物としては、例えばトリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物(DSA)等が挙げられる。これらの内では、DSAが液状で蒸気圧が低い点から好ましい。
【0023】
前記液状フェノールとしては、例えばジアリルビスフェノールA、ジアリルビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック樹脂、アリル化ジヒドロナフタレン、ジアリルレゾルシン等が挙げられる。これらの内では、ジアリルビスフェノールFが低粘度であり、好ましい。
【0024】
前記芳香族アミンとしては、例えばm-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、モノメチルジエチル-m-フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの内では、モノメチルジエチルメタフェニレンジアミンが低粘度、高安定性の点から好ましい。
【0025】
また、前記の光硬化剤について、芳香族ジアゾニウム塩としては、例えばp-メトキシベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。芳香族スルホニウム塩としては、例えばトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。芳香族ヨードニウム塩としては、例えばジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。その他の光硬化剤としては、芳香族ヨードシル塩、芳香族スルホキソニウム塩、メタロセン化合物等を用いることもできる。
【0026】
実際には、潜在性硬化剤として市販されている味の素ファインテクノ製品アミキュアーシリーズであるアミンアダクト系のものなどを使用することができるが、好ましくはその硬化温度が100℃以下のものが用いられる。
【0027】
これらの潜在性硬化剤は、用いられるエポキシ樹脂のエポキシ当量などから、それぞれの潜在性硬化剤の所望の割合で配合して用いられる。一般には、加水分解型潜在性硬化剤にあっては、室温で液状であるエポキシ樹脂のエポキシ基に対し、加水分解型潜在性硬化剤が加水分解して発生するアミン等の硬化剤が0.5〜2当量となるように用いられる。熱潜在性硬化剤にあっては、全エポキシ樹脂100重量部に対して、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジン類、アミン類等の硬化剤成分として0.1〜35重量部が用いられる。光硬化開始剤にあっては、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が用いられる。なお、硬化剤成分量に関し、マスターバッチ化(エポキシアダクト化)する際に用いられるエポキシ化合物量は、全エポキシ樹脂量の中に含めて考えることができる。熱潜在性硬化剤の場合には、エポキシ樹脂の一部と予めマスターバッチを形成させて用いることもでき、マスターバッチの形成は、それぞれの熱潜在性硬化剤の使用条件以下の温度でエポキシ樹脂と混合することにより調製され、好ましくは20〜50℃の範囲内で混合するのがよく、その後1〜24時間程度その温度で熟成させてもよい。
【0028】
高熱伝導性充填剤としては、前記した如く熱伝導率が0.5W/m・K以上というような高熱伝導性充填剤、例えばAl2O3、MgO、BN、AlN、Al(OH)3、Mg(OH)2、SiC等が、好ましくはAl2O3またはAl(OH)3が、エポキシ樹脂100重量部当り約300〜1300重量部、好ましくは約500〜1200重量部の割合で用いられる。高熱伝導性充填剤の充填割合がこれよりも少ないと、高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物として十分な高熱伝導性が発揮されず、一方これ以上の割合で用いると、混合が困難となる。
【0029】
また、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシプロピレンを親油性基とするブロックポリマーおよびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のポリオキシアルキレン鎖含有非イオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等のシロキサン含有非イオン性界面活性剤;グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステル等のエステル型非イオン性界面活性剤;脂肪酸アルカノールアミド等の含窒素型非イオン性界面活性剤、フッ素系非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0030】
非イオン性界面活性剤は、室温で液状であるエポキシ樹脂100重量部当り約1〜50重量部、好ましくは約5〜40重量部の割合で用いられる。非イオン性界面活性剤の使用割合がこれよりも少ないと、高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物の分散性に劣り、また粘度が異常に高くなるなどの不都合が生じ、一方これよりも多い割合で用いられると、貯蔵安定性に問題が生じたり、エポキシ樹脂の硬化物が所望の物性を発現しないなどの問題を生ずる可能性がある。なお、非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤や高分子分散剤を用いると、高熱伝導性エポキシ樹脂組成物の粘度が増加したり、貯蔵安定性と硬化性とのバランスが悪くなるので好ましくない。
【0031】
高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物の調製は、エポキシ樹脂および界面活性剤の混合物に、高熱伝導性充填剤の添加による発熱を50℃以下に抑えながら充填剤を添加し、次いで潜在性硬化剤またはそのマスターバッチを添加することによって行われる。
【0032】
なお、高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物中には、必要に応じてシリカ、炭酸カルシウム等の他の充填剤や可塑剤などを、粘度調整やチクソ性調整のためなどに、本発明の目的を阻害しない範囲内において添加することもできる。
【0033】
本発明に係る高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物の硬化は、例えば80℃、1時間といったより低温度での硬化を可能とし、高放熱性が要求される様々な電子部品、電装用品の接着・実装などの用途に用いられる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0035】
実施例1
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ADEKA製品アデカレジンEP4901) 50重量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製品828) 50 〃
非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル; 30 〃
花王製品エマルゲン106、HLB 10.5)
酸化アルミニウム(昭和電工製品AS-50) 750 〃
アミンアダクト系潜在性硬化剤(味の素ファインテクノ製品 15 〃
アミキュアーPN-23)
アミンアダクト系潜在性硬化剤(味の素ファインテクノ製品 10 〃
アミキュアーPN-40)
以上の各成分の内、2種のエポキシ樹脂および界面活性剤の混合物に、酸化アルミニウムの添加による発熱を50℃以下に抑えながら充填剤を添加し、次いで2種の潜在性硬化剤を加えてエポキシ樹脂系組成物を調製した。
【0036】
この組成物について、次の各項目の測定を行った。
貯蔵安定性:20℃で1週間貯蔵したときの安定性を目視で判定
若干流動性を保持しているものを○、粘度上昇がみられたものを△、固 まっているものを×と評価
加熱時硬化性:80℃で1時間加熱したもの(硬化物の熱伝導率はすべて2.3W/m°K)に ついて、硬化性を目視または指触によって判定
完全に硬化しているものを○、指触でべと付きのあるものを△、固ま らないものを×と評価
【0037】
実施例2
実施例1において、非イオン性界面活性剤として、花王製品エマルゲン123P(ポリオキシエチレンラウリルエーテル;HLB 16.9)が同量用いられた。
【0038】
実施例3
実施例1において、ビスフェノールF型エポキシ樹脂量が25重量部に変更され、減量された25重量部の内、15重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-23 15重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとして、また10重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-40 10重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとしてそれぞれ用いられた。
【0039】
実施例4
実施例2において、ビスフェノールF型エポキシ樹脂量が25重量部に変更され、減量された25重量部の内、15重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-23 15重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとして、また10重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-40 10重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとしてそれぞれ用いられた。
【0040】
比較例1
実施例1において、非イオン性界面活性剤の代りに、同量の高分子量分散剤(楠本化成製品DA325;ポリエーテルリン酸エステルのアミン塩、酸価14、アミン価20)が用いられた。
【0041】
比較例2
実施例1において、非イオン性界面活性剤の代りに、同量の湿潤分散剤(ビックケミー・ジャパン製品W996;酸性基を有するコポリマー溶液、酸価71mgKOH/g)が用いられた。
【0042】
比較例3
実施例1において、非イオン性界面活性剤の代りに、同量の湿潤分散剤(ビックケミー・ジャパン製品W9010;酸性基を有するコポリマー溶液、酸価129mgKOH/g)が用いられた。
【0043】
比較例4
実施例1において、非イオン性界面活性剤の代りに、同量のメタクリル酸誘導体(共栄社化学製品ライトエステルM;機能性モノマー・オリゴマー)が用いられた。
【0044】
比較例5
比較例1において、ビスフェノールF型エポキシ樹脂量が25重量部に変更され、減量された25重量部の内、15重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-23 15重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとして、また10重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-40 10重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとしてそれぞれ用いられた。
【0045】
比較例6
比較例2において、ビスフェノールF型エポキシ樹脂量が25重量部に変更され、減量された25重量部の内、15重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-23 15重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとして、また10重量部は潜在性硬化剤アミキュアーPN-40 10重量部と混合し、40℃で1日以上放置した潜在性硬化剤マスターバッチとしてそれぞれ用いられた。
【0046】
以上の各実施例および各比較例で得られた結果は、次の表に示される。

貯蔵安定性 加熱時硬化性
実施例1 △ ○
〃 2 △ ○
〃 3 ○ ○
〃 4 ○ ○
比較例1 × △
〃 2 × ×
〃 3 × ×
〃 4 × ×
〃 5 × △
〃 6 × △

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温で液状であるエポキシ樹脂、潜在性硬化剤、高熱伝導性充填剤および非イオン性界面活性剤を含有してなる高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。
【請求項2】
潜在性硬化剤が加水分解型潜在性硬化剤、熱潜在性硬化剤または光硬化開始剤である請求項1記載の高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。
【請求項3】
潜在性硬化剤が室温で液状であるエポキシ樹脂とのマスターバッチとして用いられた請求項1または2記載の高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンラウリルエーテルである請求項1記載の高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。
【請求項5】
コーティング剤として用いられる請求項1記載の高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。
【請求項6】
接着剤として用いられる請求項1記載の高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物。
【請求項7】
請求項1記載の高熱伝導性エポキシ樹脂系組成物を硬化せしめて得られる高放熱性部品。

【公開番号】特開2009−292881(P2009−292881A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145379(P2008−145379)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】