説明

OHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタおよびOHVエンジン

【課題】OHVエンジンの動弁機構は消音効果も認められるカムリフタまたはこれを用いたOHVエンジンとすることでおけるカムリフタが、潤滑作用の不足状態にあっても摩耗を抑制できるものとすることである。
【解決手段】OHVエンジンAの動弁機構1におけるタイミングカム2にカムリフタ3、4を摺接させて揺動させ、この揺動にプッシュロッド5を連動させて軸方向に進退させ、この進退動作をロッカーアーム7、8に伝えてエンジンバルブの開閉動作を行なうOHVエンジンのカムリフタであり、そのタイミングカム2との摺接面を耐熱性合成樹脂成形体10からなる平滑な摺接面で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オーバーへッドバルブ(OHV:Over Head Valve )エンジンに用いられてタイミングカムに摺接するカムリフタに関し、さらにこのカムリフタを用いたOHVエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、発電機、ポンプ、刈払機などの汎用エンジンは、構造が単純で整備が容易であり、軽量、コンパクトなOHVエンジンが用いられている。特に、刈払機などの小型OHVエンジンでは、さらに軽量、コンパクト化が可能な揺動回転式カムリフタを備えたOHVエンジンが用いられている。
【0003】
上記のOHVエンジンは、燃焼室の上方に位置する吸・排気バルブと、クランクシャフトの近傍に位置し、クランクシャフトからの回転動力伝達によって回転するタイミングカムと、このタイミングカムに摺接される揺動回転式カムリフタと、このカムリフタと吸・排気バルブのそれぞれを連設するプッシュロッドとを備えている。
【0004】
この構成において、タイミングカムの回転により、これと摺接する揺動回転式カムリフタが揺動回転し、該カムリフタの揺動回転に伴う開閉動力がプッシュロッドを介して吸・排気バルブに伝達されて各バルブの開閉動作を行なう。
【0005】
従来、上記のような揺動回転式カムリフタを備えたOHVエンジンに関するものとして、カムリフタと単一のカムにより吸・排気バルブを作動でき、さらに構成部材の連接部のガタをなくしたエンジンの動弁装置(特許文献1参照)や、カムリフタと単一のカムを用いて吸・排気バルブの開弁速度を合目的的に異なったものとできる携帯型作業機用の弁駆動装置(特許文献2参照)などが開示されている。
【0006】
その他、同様の構成を有する直接レバー式オーバーへッドバルブ装置が開示されている(特許文献3参照)。これら従来のOHVエンジンの弁駆動装置では、揺動回転式カムリフタ(これに相当するものを含む)は金属製であり、金属製のタイミングカムと摺接されている。
【0007】
OHVエンジンにおける上記摺接部などに対する潤滑方式として、クランクシャフトの回転軸に設けたスクレーパによりオイルパンに貯留されているオイルを掻き上げて、クランク内およびバルブロッカ室をミスト状オイルで充満させる飛沫潤滑方式や、オイルを上記摺接部にオイルポンプにより圧送供給する強制潤滑方式などがある。また、キャブレタからシリンダへッドの吸気弁に至る吸気通路と、この吸気通路の底面から分岐された逆止弁を備えた通路とを有することで、混合燃料(オイルとガソリン)と空気との混合ガスが動弁機構部に流れ、該混合ガスに含有するオイルをシリンダやピストン、タイミングカムやカムリフタなどに付着させて潤滑させているものがある(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭51−123416号公報
【特許文献2】特開平4−209905号公報
【特許文献3】特表2003−522891号公報
【特許文献4】特開平11−223117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来の揺動回転式カムリフタを用いたOHVエンジンでは、エンジン初動時などのオイルが十分に供給されていない潤滑作用が不足している状態において、摺動部の摩耗が生じる場合があるという問題点がある。特に、金属製のカムリフタとタイミングカムとの摺接部の摩耗が著しい場合がある。
【0010】
また、金属製のカムリフタとタイミングカムとの接触により、騒音の発生する場合があるという問題点もある。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、OHVエンジンの動弁機構におけるカムリフタが、潤滑作用の不足状態にあっても摩耗を抑制できるものとし、さらには消音効果も認められるカムリフタまたはこれを用いたOHVエンジンとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明においては、OHVエンジンの動弁機構におけるタイミングカムにカムリフタを摺接させて揺動させ、この揺動にプッシュロッドを連動させて軸方向に進退させ、この進退動作をロッカーアームに伝えてエンジンバルブの開閉動作を行なうOHVエンジンのカムリフタにおいて、前記タイミングカムとの摺接面が、耐熱性合成樹脂成形体からなる平滑な摺接面であることを特徴とするOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタとしたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタは、カムリフタ本体のタイミングカム摺接面に、エンジンの高温に耐える耐熱性合成樹脂の成形体が接合された複合体であり、合成樹脂成形体からなる平滑な摺接面の潤滑特性によって、エンジンの初動時の潤滑油が不足する状態であってもカムリフタとタイミングカムとの摩擦トルクが上昇せず、カムリフタの摩擦による摩耗が抑制できる。また、タイミングカムとの接触による音響においても消音効果がある。
【0014】
上記合成樹脂の成形体として射出成形体であるものを採用すると、摺接面の平滑性、低コスト、製造容易性に優れたものになる。
上記カムリフタが、カムリフタ本体と耐熱性合成樹脂成形体とを一体化した複合体からなり、例えば成型用金型にカムリフタ本体を嵌め込んでインサート成形して一体化されたものであるので、耐熱性合成樹脂成形体は、カムリフタ本体との接合性、密着性、結合性に優れている。
【0015】
上記カムリフタは、カムリフタ本体と耐熱性合成樹脂成形体との接触面に凹部または凸部を設けて接触面積を増加させている。そのため、雰囲気温度の変化やエンジンオイルに接する使用状態においてもタイミングカムとの摺接面を構成する耐熱性合成樹脂成形体が、カムリフタ本体から剥がれず耐久性が良い。
【0016】
上記カムリフタ本体が、金属またはセラミックスからなるものであれば、特に優れた強度が確保できる。また上記カムリフタ本体が焼結体であれば、金型での成形が可能なので製造が容易になり、合成樹脂成形体との接合性、密着性、結合性にも優れる。上記焼結体がAl系焼結金属またはFe系焼結金属であれば、低コスト化にも有利である。
【0017】
上記耐熱性合成樹脂成形体が、エンジニアリングプラスチックスからなるものであれば、耐熱性に優れ、高温雰囲気となるエンジンに使用することに適したものになり、また低摩擦特性、耐油性にも優れたものになる。
【0018】
上記耐熱性合成樹脂成形体が、固体潤滑剤を含有して潤滑性を有するものである場合には、さらに低摩擦特性が向上する。特に、PTFE樹脂の焼成粉末とすることで、該合成樹脂の成形体の自己潤滑性、耐熱性、耐摩耗性に優れたものになる。
【0019】
上記耐熱性合成樹脂成形体が、繊維状補強材を含有するものであれば、合成樹脂成形体の耐摩耗性および機械強度が向上する。このようにすれば特に圧縮強度が高くなるため、タイミングカム摺接面に凹みが発生することがなくなる。繊維状補強材が炭素繊維である場合には、耐摩耗性、機械強度の向上に加えて摩擦特性も向上する。
上記合成樹脂がポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEKと略記する。)であれば、前述のような各種の所要特性について特に好ましいOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタになる。
【0020】
また、前記した課題を解決するために、OHVエンジンの動弁機構におけるタイミングカムにカムリフタを摺接させて揺動させ、この揺動にプッシュロッドを連動させて軸方向に進退させ、この進退動作をロッカーアームに伝えてエンジンバルブの開閉動作を行なうOHVエンジンにおいて、前記カムリフタが、前記したいずれかのカムリフタからなることを特徴とするOHVエンジンとすることができる。
【0021】
上記したように構成されるこの発明に係るOHVエンジンは、タイミングカムに摺接され、カムシャフトと平行な軸上で揺動する揺動回転式カムリフタを備えており、この揺動回転式カムリフタが、上記したこの発明に係るカムリフタであることにより、初動時などの潤滑条件の悪い状態であってもタイミングカムとカムリフタとが焼き付くことが防止されて長寿命化されるものになる。
【0022】
上記タイミングカムが、合成樹脂成形体であるものは、揺動回転式カムリフタとの摺接が低摩擦化され、さらに軽量化される。特に、このタイミングカムをタイミングギヤと一体成形することで、より軽量化することができ、上記タイミングカムを形成する合成樹脂が、炭素繊維またはアラミド繊維を含有するものとすれば、耐摩耗性、機械強度の向上によってより長寿命化されたOHVエンジンになる。
【発明の効果】
【0023】
この発明のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタは、タイミングカムとの摺接面が、耐熱性合成樹脂成形体からなる平滑な摺接面であることにより、カムリフタが、潤滑作用の不足状態にあっても摩耗を抑制できるものとなり、さらには消音効果も認められるカムリフタとなる利点がある。
【0024】
また、カムリフタ本体と耐熱性合成樹脂成形体との接触面には凹部または凸部を設けて接触面積を増加させたOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタは、上記した利点に加えて雰囲気温度の変化やエンジンオイルに接する使用状態においても、タイミングカムとの摺接面を構成する耐熱性合成樹脂成形体が、カムリフタ本体から剥がれず耐久性が良いという利点もある。
【0025】
また、この発明に係るOHVエンジンは、カムリフタが、上記したこの発明に係るカムリフタであることにより、初動時などの潤滑条件の悪い状態であってもタイミングカムとカムリフタとが摩耗せず、焼き付くことも防止されて長寿命化され、さらには消音効果も認められるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態のOHVエンジンの断面図
【図2】実施形態のOHVエンジンの動弁機構の作動状態の説明図
【図3】図2のIII−III線断面図
【図4】実施形態のカムリフタを拡大して示す正面図
【図5】実施形態のカムリフタ本体の要部を拡大して示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタおよびこれを具備したOHVエンジンの実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1〜4に示すように、OHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタは、OHVエンジンAの周知の動弁機構1におけるタイミングカム2にカムリフタ3、4を摺接させて揺動させ、この揺動にプッシュロッド5、6を連動させて軸方向に進退させ、この進退動作をロッカーアーム7、8に伝えてエンジンバルブ9(他のエンジンバルブは図示省略)の開閉動作を行なうOHVエンジンのカムリフタであり、そのタイミングカム2との摺接面を耐熱性合成樹脂成形体10からなる平滑な摺接面で形成したものである。
【0028】
図示したOHVエンジンAは、後述するカムリフタ3、4の要部の構造以外については、周知の4サイクルエンジンであるOHVエンジンと同じ機構と形状を有し、その給排気および圧縮爆発機構を司るシリンダ、ピストン、吸気弁と排気弁を開閉駆動する動弁機構などのエンジンの作動機構については従来周知のOHVエンジンと異なるものではない。
【0029】
図2〜4に示すようにこの発明の特徴を有するOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ3、4は、円弧状の揺動アーム3aの端部をL字型に組み合わせた枠11で支持し、前記端部の一つをタイミングカム2のカムシャフト2aと平行するカムリフタ軸部3bに2個一組で重ね合わせて支持可能とされ、滑り軸受部3cが一体に設けられている。
【0030】
カムリフタ3の本体は、金属またはセラミックスなどの所要強度のある硬質部材で形成されており、タイミングカム2との摺接面には、耐熱性合成樹脂の成形体10が接合された複合体となるように一体に設けられている。
【0031】
耐熱性合成樹脂成形体10は、カムリフタ3の少なくとも摺接面に形成されていればよいが、必要な場合にはカムリフタ3の全体または全表面を形成するように成形することも可能である。
カムリフタ3の少なくとも摺接面を形成する材料である耐熱性合成樹脂は、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPSと略記する。)、PEEK、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを挙げることができるが、これらはエンジン駆動による被加熱の無潤滑条件でもタイミングカム2との摩擦係数が低い耐熱性があり、平滑な摺接面を具備できるものを採用する。
【0032】
カムリフタ3は、エンジン内部の高温条件下で使用され、また添加剤を含む潤滑油と接触する環境で使用されるため、上記合成樹脂の中でも特に耐熱性や、潤滑油に対して耐油性を有するエンジニアリングプラスチックで形成することが好ましい。また、製造容易性に優れる射出成形可能なエンジニアリングプラスチックを採用することが特に好ましい。
【0033】
さらに射出成形可能なエンジニアリングプラスチックの中でも、耐熱性、耐油性、低摩擦特性、耐摩耗性および硬質材からなるカムリフタ本体を成型用金型に嵌め込んでインサート成形して一体化できる結合性の高いPEEKが特に好ましい。
【0034】
合成樹脂の成形体には、摩擦特性を十分に低減させるため固体潤滑剤を配合することが好ましい。固体潤滑剤としては公知のものが使用でき、例えば二硫化モリブデン、黒鉛、PTFE等がある。
【0035】
上記のPTFEは、未焼成のPTFEよりもPTFEをその融点以上で加熱焼成したPTFE焼成粉末を用いることが好ましい。PTFE焼成粉末は、加熱焼成されていないPTFE(モールディングパウダー、ファインパウダー)と比較して、均一分散性や耐摩耗性に優れる。
【0036】
このようなPTFE焼成粉末は、上記PTFEの粉末を加熱焼成したものでもよく、また加熱焼成されていないPTFEを成形体とし、これを融点以上で加熱焼成して焼結体とした後に、粉砕して粉末にしたもののいずれであってもよい。ただし、後者のもののほうが、樹脂組成物中での分散性に優れ、合成樹脂成形体の耐摩耗性と自己潤滑性が優れるため好ましい。
【0037】
上記PTFE焼成粉末は、アスペクト比が3以下の粉末であることが好ましい。アスペクト比が3をこえる場合では、樹脂組成物中での分散性に劣り、合成樹脂成形体の耐摩耗性等が低下するおそれがある。
【0038】
また、上記PTFE焼成粉末は、その粒子径が150μm以下の微粒子を採用することが好ましい。粒子径が150μmを超えると、合成樹脂成形体の耐摩耗性が低下するおそれがある。また、その50%粒子径が、50μm以下の微粒子であることが好ましい。50%粒子径が50μmをこえると、上記同様、合成樹脂成形体の耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0039】
50%粒子径(メディアン径)は、レーザー解析粒度分布測定装置により、粒子径と固体粒子量との粒度分布曲線を求めた場合において、全体固体粒子量に対する積算固体粒子量が50%となる粒子径である。なお、レーザー解析粒度分布測定装置としては、リーズ・アンド・ノースラップ社製マイクロトラックHRAがある。
【0040】
上記PTFE焼成粉末は、加熱焼成した粉末に、さらにγ線または電子線などを照射した粉末であってもよい。この処理により、均一分散性がいっそう優れるものになる。
【0041】
この発明で使用することが好ましいPTFE焼成粉末の市販品の例は、喜多村社製:KT300M、KT400M、KTL610、KTL450、KTL8N、KTL10N、旭硝子社製:フルオンL169J、L170J、L172J、L173J、住友3M社製:ホスタフロンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、加熱焼成後にγ線または電子線等を照射した粉末としては、喜多村社製:KTL610、KTL450、KTL8N、KTL10Nなどが挙げられる。
【0042】
合成樹脂の成形体には、機械強度、特に圧縮強度を高めるために繊維状補強材を配合することが好ましい。繊維状補強材としては公知のものを使用でき、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、酸化チタンウィスカ、硫酸カルシウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ等各種ウィスカが挙げられる。これらの中では、特に炭素繊維、アラミド繊維が低摩擦特性を低下させず、相手材に対する摩耗特性に優れるために好ましいものである。また炭素繊維は、コストも低く抑えられるためにより好ましいものである。
【0043】
カムリフタ3の本体は、金属またはセラミックスの焼結体からなるものが好ましい。焼結体であれば複雑な形状のカムリフタ本体を製造するのが容易であり、また合成樹脂成形体との結合性に優れるものになるからである。
【0044】
図5に示すように、カムリフタ3の本体の耐熱性合成樹脂成形体10との接合面には、凹部または凸部を形成して密着強度を高めることが好ましい。
例えば図5(a)に示すように、カムリフタ3の本体は、耐熱性合成樹脂成形体10との接触部分に、揺動アーム3aの軸方向に延びる所定長さであり、かつ表面から軸心に向かって一定の深さの(かまぼこ型の)切り欠きを形成し、切り欠かれた部分の底面に軸方向に長い台形状の凸部12を形成している。
【0045】
また、図5(b)に示すカムリフタ13は、図5(a)における長い台形状の凸部12に代えて、軸方向へ不連続に配置される複数の立方体状の凸部14を形成したものである。
図5(c)に示すカムリフタ15は、図5(b)における不連続の凸部14に代えて、不連続の立方体状の凹部16を形成したものである。
また図5(d)に示すカムリフタ17は、図5(a)における切り欠かれた部分の底面に連続する鋸歯状の凹凸部18を波型状に設けたものである。
【0046】
この発明の揺動回転式カムリフタを備えたOHVエンジン実施形態を図1、2に基づいて説明する。
図1、2に示すように、OHVエンジンは、そのバルブ駆動装置を一個のタイミングカム2と、このタイミングカム2に当接した一対の揺動回転式のカムリフタ3、4で構成している。
【0047】
一対の揺動回転式のカムリフタ3、4は、いずれもリフタ軸部3bを中心として揺動回転するようにリフタ軸部3bを重ね合わせた状態に組み合わせて用いる。タイミングカム2とタイミングギヤ19は、カムシャフト2aで同軸に回転自在に支持される。
【0048】
このカムシャフト2aと上記したカムリフタ軸部3bのシャフトとは平行に配置されている。タイミングカム2のタイミングギヤ19は、図外のクランクにおけるクランクギヤ20と噛み合うように配置される。また、一つの揺動回転式のカムリフタ3は、排気バルブ用のプッシュロッド5に、他方の揺動回転式のカムリフタ4は吸気バルブ用のプッシュロッド6にそれぞれ連接されている。
【0049】
上記OHVエンジンのバルブ駆動装置の使用状態について説明する。図外のシリンダ内のクランクのクランクシャフトを回転させることにより、クランクギヤと噛み合うタイミングギヤ19を回転させる。
【0050】
これにより、タイミングカム2を回転させ、タイミングカム2に当接する一対の揺動回転式のカムリフタ3、4の一方を、カムリフタ軸部3bを中心として回転させ、排気バルブ用のプッシュロッド5を介して排気用のエンジンバルブ9を開かせる。次に、さらにタイミングカム2を回転させると、タイミングカム2に当接する他の一方の揺動回転式のカムリフタ4が、リフタ軸部3bを中心として回転し、吸気バルブ用のプッシュロッド6を介して吸気バルブを開かせる。
【0051】
このようにして所定の時期に排気用のエンジンバルブ9を閉じ、さらに吸気バルブを閉じることによってバルブの作動を完了する。この構成では、一個のタイミングカム2により、一対の揺動回転式のカムリフタ3、4を回転させるので、タイミングカム2の軸方向の長さを小さくすることができ、単一のタイミングカムで作動するので、動弁機構1およびOHVエンジンの重量も軽量となる。
【0052】
この発明のOHVエンジンにおける潤滑方式としては、従来の任意の形式を採用できる。この発明では揺動回転式のカムリフタ3、4に、硬質材からなるカムリフタ本体のタイミングカム2の摺接面に、合成樹脂の成形体10が接合された複合体であるので、様々な潤滑形式を採用しても前記摺接面における摩耗を防止できる。
【0053】
この発明のOHVエンジンにおいては、タイミングカム2を合成樹脂の成形体とすることもできる。タイミングカム2が合成樹脂製であれば、さらに軽量化が図れるために例えば刈払機などのように携帯使用されるOHVエンジンには特に好適である。
【0054】
タイミングカム2を形成する合成樹脂としては、例えば、PPS、PEEK、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。また、タイミングカム2を上記合成樹脂製とする場合、該タイミングカムとタイミングギヤとを一体成形することが好ましく、この場合には、より軽量化を図ることができる。
【0055】
タイミングカムなどを合成樹脂製とする場合、機械的強度を向上させるために、上記合成樹脂に、カーボン繊維、アラミド繊維などの繊維状強化材を配合することが好ましい。繊維状強化材としてガラス繊維の使用は、カムリフタの合成樹脂成形体を攻撃するおそれがある場合には避けることが好ましい。
【0056】
タイミングカムを形成する合成樹脂に配合する繊維状強化材は、合成樹脂100質量部に対して5〜40質量部とすることが好ましい。なぜなら、繊維状強化材が5質量部より少ないと、タイミングカムの強度向上効果が少なく、一方、繊維状強化材が40質量部を超える多量では、表面平滑性が低下することから、カムリフタとの摺接に対して合成樹脂成形体を攻撃し摩耗等のおそれがあるからである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明の揺動回転式カムリフタは、潤滑不足の状態であってもカムリフタとタイミングカムとの摩擦トルクが上昇せずカムリフタの摩擦による摩耗が抑制できるので、発電機、ポンプ、刈払機などにも使用されることが好ましく、また軽量、コンパクトなOHVエンジンの揺動回転式カムリフタとして好適に利用できるものである。
【符号の説明】
【0058】
1 動弁機構
2 タイミングカム
3、4、13、15、17 カムリフタ
2a カムシャフト
3a 揺動アーム
3b カムリフタ軸部
3c 滑り軸受部
5、6 プッシュロッド
7、8 ロッカーアーム
9 エンジンバルブ
10 耐熱性合成樹脂成形体
11 枠
12、14 凸部
16 凹部
18 凹凸部
19 タイミングギヤ
20 クランクギヤ
A OHVエンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OHVエンジンの動弁機構におけるタイミングカムにカムリフタを摺接させて揺動させ、この揺動にプッシュロッドを連動させて軸方向に進退させ、この進退動作をロッカーアームに伝えてエンジンバルブの開閉動作を行なうOHVエンジンのカムリフタにおいて、
前記タイミングカムとの摺接面が、耐熱性合成樹脂成形体からなる平滑な摺接面であることを特徴とするOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項2】
上記カムリフタは、カムリフタ本体と耐熱性合成樹脂成形体とを一体化した複合体からなり、前記カムリフタ本体と耐熱性合成樹脂成形体との接触面には凹部または凸部を設けて接触面積を増加させた請求項1に記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項3】
上記耐熱性合成樹脂成形体が、成型用金型にカムリフタ本体を嵌め込んでインサート成形して一体化されたものである請求項1または2に記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項4】
上記カムリフタ本体が、金属またはセラミックスからなるものである請求項2または3に記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項5】
上記カムリフタ本体が、焼結体からなるものである請求項2〜4のいずれかに記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項6】
上記耐熱性合成樹脂成形体が、固体潤滑剤を含有して潤滑性を有するものである請求項1〜5のいずれかに記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項7】
上記固体潤滑剤が、PTFEの焼成粉末である請求項6に記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項8】
上記耐熱性合成樹脂成形体が、繊維状補強材を含有するものである請求項1〜7のいずれかに記載のOHVエンジンのバルブ開閉用カムリフタ。
【請求項9】
OHVエンジンの動弁機構におけるタイミングカムにカムリフタを摺接させて揺動させ、この揺動にプッシュロッドを連動させて軸方向に進退させ、この進退動作をロッカーアームに伝えてエンジンバルブの開閉動作を行なうOHVエンジンにおいて、
前記カムリフタが、請求項1〜8のいずれかに記載のカムリフタからなることを特徴とするOHVエンジン。
【請求項10】
上記タイミングカムが、合成樹脂成形体であることを特徴とする請求項9に記載のOHVエンジン。
【請求項11】
上記タイミングカムを形成する合成樹脂が、炭素繊維またはアラミド繊維を含有する請求項10に記載のOHVエンジン。
【請求項12】
上記タイミングカムが、タイミングギヤと一体に成形されたものである請求項10または11に記載のOHVエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31780(P2012−31780A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171680(P2010−171680)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】