説明

インダクタ素子、集積回路装置、及び、三次元実装回路装置

【課題】 インダクタ素子、集積回路装置、及び、三次元実装回路装置に関し、コイルの開口部にも配線を通して配線の利用効率を高める。
【解決手段】 互いに上下方向で隣接する層準において互いの主配線方向が異なる少なくとも2つの層準のそれぞれに各主配線方向に沿うコイル要素1,2を設け、各コイル要素1(2)を異なった層準に形成したコイル要素2(1)に接続することにより1つのコイルを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダクタ素子、集積回路装置、及び、三次元実装回路装置に関するものであり、特に、ICベアチップやプリント基板等の基板間の通信を磁気的に行うためのインダクタ素子を他の配線の配置に多大の影響を与えることなく形成するための構成に特徴のあるインダクタ素子、集積回路装置、及び、三次元実装回路装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器等の小型化に伴って半導体集積回路装置等の高密度実装が求められており、それに応えるために複数の半導体チップを三次元的に積層する三次元実装が試みられている。
【0003】
このような三次元実装半導体集積回路装置においては、各半導体チップ間で信号のやり取りを行うために、一般的には各半導体チップ間をマイクロバンプで接続することになる。しかし、3つ以上の半導体チップを積層させる場合には、中間に設ける半導体チップにチップを貫通するスルービアを形成する必要がある。このような半導体チップを貫通するスルービアを形成するためには、複雑な製造工程を必要とするとともに、高い加工精度が要求される。
【0004】
また、他の方法としては、半導体チップ間を容量性結合により電気的に接続することも提案されている。この場合も、半導体チップが2つの場合には問題はないものの、3つ以上になると信号の伝送効率が急激に低下する。それを補うためには出力を大きくする必要があるので、消費電力が増大するという問題がある。
【0005】
さらに、他の方法として、半導体チップにアンテナを搭載することによってチップ間通信を行うことも提案されている。しかし、この場合も半導体チップが3つ以上になると伝送効率が低下するという問題がある。
【0006】
即ち、半導体チップは、不純物ドープ領域を形成したシリコン基板上に、酸化膜や窒化膜等の層間絶縁膜を設けて多層配線構造を形成しているため、アンテナで発生した電界が半導体チップを通過する場合に、不純物ドープ領域、シリコン基板、酸化膜及び窒化膜等の互いに異なった誘電率を有する領域を通過することになる。電界が異なった誘電率を有する膜を通過する場合には、その界面で反射が生じるため伝送効率が低下することになる。
【0007】
そこで、本発明者らは、LSI(集積回路装置)チップのチップ上の配線により形成されるコイルを介して積層実装されたチップ間で誘導結合による磁界による通信を行うことを提案している(例えば、特許文献1乃至特許文献7、及び、非特許文献1乃至非特許文献8参照)。
【0008】
ここで、本発明者等の提案による磁界通信型三次元実装集積回路装置を説明する。
【0009】
図11は、本発明者等の提案による磁界通信のためのコイルの構成説明図であり(例えば、非特許文献2のFig.2参照)、図11(a)は概念的斜視図であり、図11(b)は概念的投影平面図である。
【0010】
図に示すように、中層と上層とに投影的にほぼ重なる2対ずつの矩形スパイラル状コイルパターンを金属配線を利用して形成し、ビアによって上下の矩形スパイラル状コイルパターンを交互に接続して一つのコイルを構成するものである。具体的には、A点からコイルの配線を辿ると、例えば、下層金属配線でA点から線を引き出し(一点鎖線)、ビア(菱形)で中層金属配線に接続し、中層金属配線を時計周りに1周巻いたのち(点線)、ビア(四角)で上層金属配線と接続する。上層金属配線を時計周りに2巻きしたのち(実線)、ビア(四角)で中層金属配線と接続して中層金属配線を時計周りに2巻きし(点線)、ビア(四角)で再び上層金属配線と接続し、上層金属配線を時計周りに1巻きして(実線)、B点に引出している。
【0011】
また、本発明者等はこの様なコイルを利用した磁界通信において、送信側コイルから信号が1:1に対向する受信側コイルだけではなく、この受信側コイルに隣接配置された受信側コイルにも入力されるクロストークに関しても検討を行っている。この検討によれば、隣接するコイルを間隔を所定の間隔に設定することにより、磁束密度Bを受信コイル内で積分した値が0になること、即ち、クロストークを防止することができることを見いだしている(例えば、特許文献4参照)。
【0012】
さらに、本発明者等は、このような一対の対向するコイル間に周辺配線を配置した場合に、信号の伝送効率に与える周辺配線の影響も検討している(例えば、非特許文献8参照)。この検討結果によれば、通常のバスラインのように一方向に延在する周辺配線は伝送効率に殆ど影響を与えないことを確認している。但し、閉回路を構成するような配線パターンの場合には、コイルからの磁界により周辺配線に渦電流が発生して、この渦電流が伝送効率を妨げる原因となる。
【特許文献1】特開2005−228981号公報
【特許文献2】特開2005−348264号公報
【特許文献3】特開2006−050354号公報
【特許文献4】特開2006−066454号公報
【特許文献5】特開2006−105630号公報
【特許文献6】特開2006−173986号公報
【特許文献7】特開2006−173415号公報
【非特許文献1】D.Mizoguchi et al,”A 1.2Gb/s/pin Wireless Superconnect based on Inductive Inter−chip Signaling(IIS)”,IEEE International Solid−State Circuits Conference(ISSCC’04),Dig.Tech.Papers,pp.142−143,517,Feb.2004
【非特許文献2】N.Miura et al,”Analysis and Design of Transceiver Circuit and Inductor Layout for Inductive Inter−chip Wireless Superconnect”, Symposium on VLSI Circuits,Dig.Tech.Papers,pp.246−249,Jun.2004
【非特許文献3】N.Miura et al,”Cross Talk Countermeasures in Inductive Inter−Chip Wireless Superconnect”,in Proc.IEEE Custom Integrated Circuits Conference(CICC’04),pp.99−102,Oct.2004
【非特許文献4】N.Miura,D.Mizoguchi,M.Inoue,H.Tsuji,T.Sakurai,and T.Kuroda,”A 195Gb/s 1.2W 3D−Stacked Inductive Inter−Chip Wireless Superconnect with Transmit Power Control Scheme”,IEEE International Solid−State Circuits Conference(ISSCC’05),Dig.Tech.Papers,pp.264−265,Feb.2005
【非特許文献5】N.Miura,D.Mizoguchi,M.Inoue,K.Niitsu,Y.Nakagawa,M.Tago,M.Fukaishi,T.Sakurai,and T.Kuroda,”A 1Tb/s 3W Inductive−Coupling Transceiver for Inter−Chip Clock and Data Link”,IEEE International Solid−State Circuits Conference(ISSCC’06),Dig.Tech.Papers,pp.424−425,Feb.2006
【非特許文献6】N.Miura,H.Ishikuro,T.Sakurai, and T.Kuroda,”A 0.14pJ/b Inductive−Coupling Inter−Chip Data Transceiver with Digitally−Controlled Precise Pulse Shaping”,IEEE International Solid−State Circuits Conference(ISSCC’07),Dig.Tech.Papers,pp.264−265,Feb.2007
【非特許文献7】N.Miura,Y.Kohama,Y.Sugimori,H.Ishikuro,T.Sakurai,and T.Kuroda,”An 11Gb/s Inductive−Coupling Link with Burst Transmission”,IEEE International Solid−State Circuits Conference(ISSCC08),Dig.Tech.Papers,pp.298−299,Feb.2008
【非特許文献8】K.Niitu,Y.Sugimori,Y.Kohama,K.Osada,N.Irei,H.Ishikuro,and T.Kuroda,”Interference from Power/Signal Lines and to Sram Circuirs in 65nm CMOS Inductive−Coupling Link”,IEEE Asian Solid−State Circuits Conference,Dig.Tech.Papers,pp.131−134,Nov.2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、こうした従来の構成のコイルでは、同一平面で巻回するスパイラルパターンを形成しているので、同じ層の他の金属配線がコイルを横断できない。したがって、コイルの中央に配線が使われていない領域(開口部)が存在しても、この領域を活用できず、配線はコイルの回りを迂回しなければならないという問題がある。
【0014】
図12は、コイルと周辺配線との関係を示す概念的投影平面図であり、この場合には、上層金属配線と中層金属配線とを交互に接続することによって迂回パターンを形成した例を示している。このように、従来の構成のコイルを用いると、集積回路の配線の利用効率が低下するという問題があった。
【0015】
したがって、本発明は、コイルの開口部にも配線を通して配線の利用効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。なお、図における符号3はコイル要素を接続する接続ビアである
【0017】
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、インダクタ素子であって、互いに上下方向で隣接する層準において互いの主配線方向が異なる少なくとも2つの層準のそれぞれに各主配線方向に沿うコイル要素1,2を設け、各コイル要素1(2)を異なった層準に設けたコイル要素2(1)に接続することにより1つのコイルを構成する。なお、本願明細書において「層準」とは、同じ階層の配線層が存在する層を意味する。
【0018】
このように、各層準のそれぞれに各主配線方向に沿うコイル要素1,2を設けることによって、各層準においてコイルの中央部においてコイル要素1,2の延在方向と異なる方向が開放された平面を構成するので、コイル要素1,2の延在方向に沿って開口部を通過するように周辺配線を配置することが可能になる。特に、各コイル要素1(2)としては、中央部を挟んで対向する少なくとも主要部が直線状のコイル要素1,2が典型的なものである。
【0019】
この1つのコイルは、互いの主配線方向が直交する2つの層準のコイル要素1,2により構成しても良い。この場合、各コイル要素1,2を全て直線状の配線パターンから構成しても良いし、或いは、コイル要素1,2の少なくとも一部を、直線状の主配線パターンと折線状の副配線パターンにより構成しても良い。
【0020】
さらには、各コイル要素1,2を、直線状の主配線パターンと直線状の主配線パターンの両端に接続されるとともに、中央部に向かって45°折れ曲がった折れ曲がりパターンとにより構成しても良く、投影平面パターンが八角形状のスパイラルパターンからなる一つのコイルを構成することができる。このように、円形パターンに近づけることによって、コイルの性能を向上することができる。
【0021】
また、1つのコイルを互いの主配線方向が直交する2つの層準のコイル要素1,2により構成されるサブコイルを2つ積層して構成しても良い。この場合、サブコイルの内の第1のサブコイルが内側に向かって巻回し、サブコイルの内の第2のサブコイルが外側に向かって巻回するようにすれば良く、同じ専有面積で2倍のインダクタンスを得ることができる。
【0022】
さらに、1つのコイルを、互いの主配線方向が順次45°傾斜する4つの層準に設けた少なくとも主要部が直線状のコイル要素1,2を、4つの層準間を隣接する層準を上下方向の一つの方向に沿って順次接続して構成しても良い。この場合も八角形状のスパイラルパターンからなる一つのコイルを構成することができるので、コイルの性能を向上することができる。
【0023】
上述の各1つのコイルの中央部には、各層準の主配線方向に沿った周辺配線が配置することが望ましく、それによって、配線密度を向上することができるので、集積度向上に寄与することができる。
【0024】
上述の構成のインダクタ素子の典型的形態は、半導体集積回路装置となる半導体チップに搭載されたインダクタ素子であるが、プリント基板等の実装基板に搭載して集積回路装置を構成しても良い。
【0025】
また、この様な積回路装置を複数個積み重ねて三次元実装回路装置を構成することによって、各集積回路装置間の通信をインダクタ素子を用いて磁気的に行うことができる。 それによって、高度な加工精度等を要することなく、大きな伝送効率で基板間通信を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の集積回路によれば、コイルの開口部の配線資源を利用してコイルを横断する配線を作れるので、より小さな面積と少ない配線やビアでコイルとその他の回路の配線を集積することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、隣接する層準において互いの主配線方向が異なる少なくとも2つの層準のそれぞれに各主配線方向に沿うコイル要素を設け、各コイル要素を異なった層準に形成したコイル要素に接続することにより1つのコイルを構成するものである。典型的には、互いの主配線方向が異なる少なくとも2つの層準のそれぞれに各主配線方向に沿うとともに中央部を挟んで対向する少なくとも主要部が直線状のコイル要素を設け、各コイル要素の両端を異なった層準に設けたコイル要素に接続することにより1つのコイルを構成するものである。この場合の1つのコイルのインダクタンスは、現在の典型値として1〜10nHとなるように構成するものであり、この程度のインダクタンスにより基板間通信は可能となる。
【0028】
この場合のコイル要素は全て直線状の配線パターンから構成しても良いし、或いは、コイル要素の少なくとも一部を、直線状の主配線パターンと折線状の副配線パターンにより構成しても良い。さらには、コイル要素を、直線状の主配線パターンと直線状の主配線パターンの両端に接続されるとともに、中央部に向かって45°折れ曲がった折れ曲がりパターンとにより構成しても良い。
【0029】
また、この1つのコイルは、互いの主配線方向が直交する2つの層準のコイル要素により構成しても良い。この場合、1つのコイルを互いの主配線方向が直交する2つの層準のコイル要素により構成されるサブコイルを2つ積層して構成しても良い。
【0030】
或いは、1つのコイルを、互いの主配線方向が順次45°傾斜する4つの層準に設けた少なくとも主要部が直線状のコイル要素を、4つの層準間を隣接する層準を第1の層準から第4の層準に順に向かうように順次接続して構成しても良い。即ち、層準1 →層準2 →層準3 →層準4 →層準1 →層準2 →層準3 →層準4 →層準1 →層準3 ・・・・となるように接続する。
【0031】
また、典型的には、1つのコイルの中央部には、各層準の主配線方向に沿った周辺配線が配置される。
【0032】
また、このようなインダクタ素子を搭載した半導体チップ或いは実装基板を複数個積み重ねて三次元実装回路装置を構成することによって、各集積回路装置間の通信をインダクタ素子を用いて磁気的に行う。
【実施例1】
【0033】
以上を前提として、次に、図2乃至図5を参照して、本発明の実施例1のインダクタ素子を説明する。図2は、本発明の実施例1のインダクタ素子の構成説明図であり、図2(a)は概念的斜視図であり、図2(b)は、概念的投影平面図である。図に示すように、第1層金属配線で直線状の第1コイル要素10を形成し、第2層金属配線で第1コイル要素10と直交する方向に延在する第2コイル要素30を形成し、第1コイル要素10と第2コイル要素30を交互に巻回するように接続ビア20で接続して時計回りで巻回する一つのコイルを構成する。この場合のコイル要素の配線方向は、各層における主配線、例えば、バスラインの配線方向に沿った方向に形成する。ここでは、コイル要素10,30を例えば1μmルールのラインアンドスペースパターンにより構成し、最外周のコイル要素10,30の長さは、例えば、100μmとする。なお、図2(b)において、第2コイル要素30を実線で表し、第1コイル要素10を点線で表している。
【0034】
A点からコイルの配線を辿ると、A点から線を引き出して第2コイル要素301 とし、この第2コイル要素301 の他端を接続ビア201 で第1コイル要素101 と接続し、この第1コイル要素101 の他端を接続ビア202 で第2コイル要素302 と接続する。次いで、この第2コイル要素302 の他端を接続ビア203 で第1コイル要素102 と接続し、この第1コイル要素102 の他端を接続ビア204 で第2コイル要素303 と接続する。次いで、この第2コイル要素303 の他端を接続ビア205 で第1コイル要素103 と接続し、この第1コイル要素103 の他端を接続ビア206 で第2コイル要素304 と接続する。次いで、この第2コイル要素304 の他端を接続ビア207 で第1コイル要素104 と接続し、この第1コイル要素104 の他端を接続ビア208 で第2コイル要素305 と接続する。次いで、この第2コイル要素305 の他端を接続ビア209 で第1コイル要素105 と接続し、この第1コイル要素105 の他端を接続ビア2010で第2コイル要素306 と接続する。次いで、この第2コイル要素306 の他端を接続ビア2011で第1コイル要素106 と接続し、最後にこの第1コイル要素106 の他端を接続ビア2012でB点に引出している。
【0035】
図3は、周辺配線を加えたインダクタ素子の概念的投影平面図であり、ここでは、インダクタ素子を構成するコイル要素と周辺配線の区別を容易にするために、周辺配線を細線で図示している。なお、ここでも、第2層金属配線で構成される周辺配線35を実線で表し、第1層金属配線で構成される周辺配線15を点線で示している。図に示すように、周辺配線15,35はそれぞれコイルの中央の開口部を通過するように形成されており、コイルの開口部の配線資源を利用しながらコイルを横断するように配線を配置している。
【0036】
次に、図4を参照して、本発明の実施例1のこのようなインダクタ素子の製造方法を説明する。なお、説明を簡単にするために各層間絶縁膜を1層構造で説明するが、実際には研磨ストッパー層を設けた多層構造膜で構成されている。まず、図4(a)に示すように、厚さが、例えば、0.8μmの第1層間絶縁膜11に深さが0.4μmの溝12を形成したのち、TaN膜13を介してCu膜14を堆積し、CMP(化学機械研磨)法により平坦化することによって埋込配線構造の第1コイル要素10を形成する。
【0037】
次いで、図4(b)に示すように、厚さが、例えば、0.4μmの第2層間絶縁膜21を設けたのち、各第1コイル要素10の両端部に接する位置にビアホール22を形成し、次いで、このビアホール22をTaN膜23を介してW膜24で埋め込んだのち、再び、CMP法により平坦化することによって接続ビア20を形成する。
【0038】
次いで、図4(c)に示すように、厚さが、例えば、0.4μmの第3層間絶縁膜31にその両端が接続ビア20に接するとともに、対向する1対の第1コイル要素10を接続する深さが、例えば、0.4μmの溝32を形成したのち、TaN膜33を介してCu膜34を堆積し、再び、CMP法により平坦化することによって埋込配線構造の第1コイル要素10を形成することによって、上述の図2(a)に示したインダクタ素子が形成される。
【0039】
このように、本発明の実施例1においては、直線状パターンのコイル要素を交互に組み合わせて一つのコイルを構成しているので、パターン形成工程が容易になるともに、中央の開口部を周辺配線形成領域として有効に活用することができる。
【0040】
図5は、本発明の実施例1のインダクタ素子を備えた半導体チップを積層した三次元半導体集積回路装置の概念的構成図であり、各半導体チップ101〜103に設けたインダクタ素子111〜113を用いてチップ間通信を行う。
【0041】
但し、この場合のインダクタ素子111〜113は、受信用コイル1111 〜1131 と送信用コイル1112 〜1132 の対で構成するものである。なお、受信用コイル1111 〜1131 と送信用コイル1112 〜1132 とは隣接して設けても良いし、投影的に重なるように上下に分けて設けても良い。
【0042】
この場合、インダクタ素子111〜113を上記の特許文献4で開示したように、クロストークが生じない間隔で配置すれば良い。また、各コイルの中央の開口部を横断するように周辺配線を配置しても、上記の非特許文献8で確認したように、周辺配線が基板間通信の伝送効率に影響を与えることはない。
【実施例2】
【0043】
次に、図6を参照して、本発明の実施例2のインダクタ素子を説明するが、平面パターンが異なるだけで、基本的製造工程は上記の実施例1と全く同様であるので、概念的投影平面図のみ説明する。図6は、本発明の実施例2のインダクタ素子の概念的投影平面図であり、上述の図10に示した従来のインダクタ素子の投影平面パターンと同じになるようにパターン形成したものであり、この場合には、第2層金属配線層を用いて2本の引き出し線を取ったものである。
【0044】
この実施例2においては、接続ビアを矩形のコーナー部に形成するようにしているため、上述の実施例1と比較して、第1層金属配線層で構成される第1コイル要素108 ,1010が折れ曲がっているが、コイルを横断する周辺配線も実施例1と同様に形成することができる。
【0045】
このように、レイアウトの都合でコイルの辺の一部を少し曲げることがあるが、そのことによってコイルを横断通過できなくなる他の周辺配線の数が比較的少ない場合は、特に問題は発生しない。
【実施例3】
【0046】
次に、図7を参照して、本発明の実施例3のインダクタ素子を説明するが、この実施例3は、上述の実施例1のインダクタ素子を2つ重ねて接続したものである。図7(a)は、本発明の実施例3のインダクタ素子の概念的投影平面図であり、図7(b)は、コーナー部の概略的斜視図であり、また、図7(c)はB点の引出部の概略的斜視図であり、図7(d)は2つのサブコイルの接続部の概念的斜視図である。ここでも、コイル要素10,30,50,70を例えば1μmルールのラインアンドスペースパターンで形成する。なお、図において、第1コイル要素10は点線で、第2コイル要素30は実線で、第3コイル要素50は一点鎖線で、第4コイル要素70は二点鎖線で示している。
【0047】
図に示すように、まず、第1層金属配線で直線状の第1コイル要素10を形成し、第2層金属配線で第1コイル要素10と直交する方向に延在する第2コイル要素30を形成し、第1コイル要素10と第2コイル要素30を交互に巻回するように接続ビア20で接続して時計回りで巻回する第1のサブコイルを構成する。なお、この場合には、実施例1のコイルとは逆に時計回りで内側に巻き込むように巻回する。
【0048】
次いで、第3層金属配線で直線状の第3コイル要素50を形成し、第4層金属配線でコイル要素50と直交する方向に延在する第4コイル要素70を形成し、第2コイル要素50と第4コイル要素70を交互に巻回するように接続ビア60で接続して時計回りで巻回する第2のサブコイルを構成する。なお、この場合には、実施例1のコイルと全く同等になる。
【0049】
なお、第1のサブコイルと第2のサブコイルは、図7(d)に示すように、接続ビア40で接続されている。また、B点の引出部は図7(c)に示すように、接続ビア20−接続ビア40−接続ビア60と順に接続されて、最後に第4層金属配線層で引き出される。
【0050】
なお、接続ビア20と接続ビア40との間は第2層金属配線層を利用して形成した接続導体36を介して接続され、また、接続ビア40と接続ビア60との間は第3層金属配線層を利用して形成した接続導体56を介して接続される。
【0051】
この本発明の実施例3の場合には、同じ平面面積で2倍のインダクタンスを有するコイルを実現することができる。
【実施例4】
【0052】
次に、図8を参照して、本発明の実施例4のインダクタ素子を説明するが、この実施例4は、上述の実施例1のインダクタ素子と同じ投影平面形状のものを、上記の実施例3と同様に4つの層準に設けたコイル要素により構成するものである。
【0053】
図8は、本発明の実施例4のインダクタ素子の概念的投影平面図であり、ここでも、コイル要素10,30,50,70を例えば1μmルールのラインアンドスペースパターンで形成する。なお、図において、第1コイル要素10は点線で、第2コイル要素30は実線で、第3コイル要素50は一点鎖線で、第4コイル要素70は二点鎖線で示している。
【0054】
図に示すように、第1層金属配線で直線状の第1コイル要素10を形成し、第2層金属配線で第1コイル要素10と直交する方向に延在する第2コイル要素30を形成し、第3層金属配線で第1コイル要素10とコイルの開口部を介して投影平面図として対向する直線状の第3コイル要素50を形成し、第4層金属配線で第2コイル要素30とコイルの開口部を介して投影平面図として対向する第4コイル要素70を形成する。
【0055】
この時、第1コイル要素10の一端を接続ビア20を介して第2コイル要素30の一端と接続し、第2コイル要素30の他端を接続ビア40を介して第3コイル要素50の一端と接続し、第3コイル要素50の他端を接続ビア60を介して第4コイル要素70の一端と接続し、第4コイル要素70の他端を接続部80を介して他の第1コイル要素10の一端と接続する。このような接続を必要とする回数繰り返すことにより実施例4のコイルとなる。なお、接続部80は、上記の図7(c)に示した構造と同様に、接続ビア20−接続導体−接続ビア40−接続導体−接続ビア60と順に積層した構成となる。
【0056】
この本発明の実施例4の場合には、一つの層準に設けるコイル要素はコイルの開口部に対して一方の方向のみであるので、各層準における周辺配線の配置自由度が増すことになる。
【実施例5】
【0057】
次に、図9を参照して、本発明の実施例5のインダクタ素子を説明するが、平面パターンが異なるだけで、基本的製造工程は上記の実施例1と全く同様であるので、概念的投影平面図のみ説明する。図9は、本発明の実施例5のインダクタ素子の概念的投影平面図であり、投影平面パターンが八角形状になるようコイル要素の形状を変更したものである。
この場合、第1コイル要素1011〜1016を第1層金属配線層の主配線方向に沿った直線部と、その両端に設けた45°中央よりに傾斜した傾斜部により構成する。また、第2コイル要素3011〜3016も第2層金属配線層の主配線方向に沿った直線部と、その両端に設けた45°中央よりに傾斜した傾斜部により構成する。
【0058】
そして、これらの第1コイル要素1011〜1016と第2コイル要素3011〜3016を接続ビア2021〜2032によって交互に順次接続する。この場合も、上記の実施例1と同様に、コイルの中央の開口を横断するように周辺配線を配置することができる。
【0059】
本発明の実施例5においては、投影平面パターンを八角形状にして円形に近づけているので、実施例1の矩形状コイルに比べてコイルの性能を向上することができる。
【実施例6】
【0060】
次に、図10を参照して、本発明の実施例6のインダクタ素子を説明する。図10は、本発明の実施例6のインダクタ素子の概念的投影平面図であり、この場合、第1コイル要素1031〜1036を第1層金属配線層の主配線方向に沿った直線部で形成し、第2のコイル要素3031〜3036を第1層金属層の主配線方向に対して45°傾斜した第2層金属配線層の主配線方向に沿った直線部で形成する。また、第3のコイル要素5031〜5036を第2層金属層の主配線方向に対して45°傾斜した第3層金属配線層の主配線方向に沿った直線部で形成し、第4のコイル要素7031〜7036を第3層金属層の主配線方向に対して45°傾斜した第4層金属配線層の主配線方向に沿った直線部で形成する。
【0061】
これらの第1コイル要素1031〜1036、第2のコイル要素3031〜3036、第3のコイル要素5031〜5036、第4のコイル要素7031〜7036を接続ビア2041〜2046、接続ビア4031〜4036、接続ビア6031〜6036、で順次巻回するように接続していく。
なお、この場合、第1コイル要素1031〜1036から第4のコイル要素7031〜7036への接続部8031〜8036においては、上記の図7(c)に示したように、3つのビアが2つの接続導体を介して積層した構造になっている。
【0062】
本発明の実施例6においても、投影平面パターンを八角形状にして円形に近づけているので、実施例1の矩形状コイルに比べてコイルの性能を向上することができる。また、この場合には、全てのコイル要素を直線要素のみで構成しているので、上記の実施例4のように同じ層準において45°傾斜したパターンを利用する必要がないので、回路パターンの設計が容易になる。
【0063】
以上、本発明の各実施例を説明したが、本発明は各実施例に記載した構成及び条件に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、6層構造或いは8層構造でコイルを構成しても良いものである。
【0064】
また、上記の実施例4においては4つの層準に設けたコイル要素を順次接続することによってコイルを構成しているが、層準は4つに限られるものではなく任意である。例えば、3つの層準でコイルを構成する場合には、中間の層準に形成するコイル要素をコイルの開口部を介して対向するように形成し、コイル要素10−コイル要素30−コイル要素50−コイル要素30−コイル要素10−コイル要素30・・・というように順次接続すれば良い。
【0065】
また、上記の各実施例においては、シングルダマシン法を用いてコイル要素と接続ビアを別工程で形成しているが、デュアルダマシン法を用いて上層のコイル要素と接続ビアとを同時に形成しても良い。なお、この場合には、接続ビアもCuで構成されることになる。
【0066】
また、上記の実施例2においては、2つの層準で折線状の副配線パターンを有するコイルを構成しているが、上記の実施例3と同様に、4つの層準を利用して2つの層準毎に折線状の副配線パターンを有するサブコイルを構成し、この2つのサブコイルを接続して1つのコイルを構成しても良い。
【0067】
また、上記の実施例5においては、2つの層準で八角形状のコイルを構成しているが、上記の実施例3と同様に、4つの層準を利用して2つの層準毎に八角形状のサブコイルを構成し、この2つのサブコイルを接続して1つのコイルを構成しても良い。
【0068】
また、上記の各実施例においては、ダマシン法を用いて埋込配線構造でコイルを形成しているが、Al等の金属を用いて通常の配線構造として形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の活用例としては、複数の半導体チップを積層した三次元半導体集積回路装置における基板間通信用のインダクタ素子が典型的なものであるが、一般的な回路要素のLとして用いても良く、また、コイルの中央の開口部に周辺配線を配置するか否かは任意である。
【0070】
また、三次元集積回路装置の場合にも、半導体チップではなく、半導体チップ等をディスクリートに集積化した実装基板を三次元的に積層した三次元実装回路装置にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1のインダクタ素子の構成説明図である。
【図3】周辺配線を加えたインダクタ素子の概念的投影平面図である。
【図4】本発明の実施例1のインダクタ素子の製造工程の説明図である。
【図5】本発明の実施例1のインダクタ素子を備えた半導体チップを積層した三次元半導体集積回路装置の概念的構成図である。
【図6】本発明の実施例2のインダクタ素子の概念的投影平面図である。
【図7】本発明の実施例3のインダクタ素子の構成説明図である。
【図8】本発明の実施例4のインダクタ素子の概念的投影平面図である。
【図9】本発明の実施例5のインダクタ素子の概念的投影平面図である。
【図10】本発明の実施例6のインダクタ素子の概念的投影平面図である。
【図11】本発明者等の提案による磁界通信のためのコイルの構成説明図である。
【図12】コイルと周辺配線との関係を示す概念的投影平面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 コイル要素
2 コイル要素
3 接続ビア
10,101 〜106 ,108 ,1010,1011〜1016,1031〜1036 第1コイル要素
11 第1層間絶縁膜
12 溝
13 TaN膜
14 Cu膜
15 周辺配線
20,201 〜2012,2021〜2032 ,2041〜2046 接続ビア
21 第2層間絶縁膜
22 ビアホール
23 TaN膜
24 W膜
30,301 〜306 ,3011〜3016,3031〜3036 第2コイル要素
31 第3層間絶縁膜
32 溝
33 TaN膜
34 Cu膜
35 周辺配線
36 接続導体
40,4031〜4036 接続ビア
50,5031〜5036 第3コイル要素
56 接続導体
60,6031〜6036 接続ビア
70,7031〜7036 第4コイル要素
8031〜8036 接続部
101〜103 半導体チップ
111〜113 インダクタ素子
1111 〜1131 受信用コイル
1112 〜1132 送信用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向で隣接する層準において互いの主配線方向が異なる少なくとも2つの層準のそれぞれに各主配線方向に沿うコイル要素を設け、前記各コイル要素を異なった層準に設けたコイル要素と接続することにより1つのコイルを構成するインダクタ素子。
【請求項2】
前記各層準に設けるコイル要素が、中央部を挟んで対向する少なくとも主要部が直線状のコイル要素からなり、前記各コイル要素の両端を異なった層準に設けたコイル要素に接続することにより1つのコイルを構成する請求項1記載のインダクタ素子。
【請求項3】
前記1つのコイルが、互いの主配線方向が直交する2つの層準のコイル要素により構成される請求項1または2に記載のインダクタ素子。
【請求項4】
前記各コイル要素が、全て直線状の配線パターンからなる請求項3記載のインダクタ素子。
【請求項5】
前記コイル要素の少なくとも一部が、直線状の主配線パターンと折線状の副配線パターンにより構成される請求項3記載のインダクタ素子。
【請求項6】
前記各コイル要素が、直線状の主配線パターンと前記直線状の主配線パ
ターンの両端に接続されるとともに、前記中央部に向かって45°折れ曲がった折れ曲がりパターンからなり、前記1つのコイルの投影平面パターンが八角形状のスパイラルパターンを構成する請求項3記載のインダクタ素子。
【請求項7】
前記1つのコイルが、互いの主配線方向が直交する2つの層準のコイル要素により構成されるサブコイルを2つ積層して構成されるとともに、前記サブコイルの内の第1のサブコイルが内側に向かって巻回し、前記サブコイルの内の第2のサブコイルが外側に向かって巻回する請求項1または2に記載のインダクタ素子。
【請求項8】
前記1つのコイルが、互いの主配線方向が順次45°傾斜する4つの層準に設けた少なくとも主要部が直線状のコイル要素を、前記4つの層準間を隣接する層準を第1の層準から第4の層準に向かって順次繰り返して接続して構成される請求項1または2に記載のインダクタ素子。
【請求項9】
前記1つのコイルの中央部に、前記各層準の主配線方向に沿った周辺配線が配置されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインダクタ素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインダクタ素子を半導体チップに設けた集積回路装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインダクタ素子を実装基板に設けた集積回路装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の積回路装置を複数個積み重ねるとともに、前記各集積回路装置間の通信を前記インダクタ素子を用いて磁気的に行う三次元実装回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−277842(P2009−277842A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126934(P2008−126934)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】