説明

インホイールモータ車両の駆動装置

【課題】 小型化、軽量化、および低コスト化が可能なインホイールモータ車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】 このインホイールモータ車両の駆動装置は、複数の駆動輪2A〜2Dのうち少なくとも2つの駆動輪に配置した複数のインホイールモータ部3A〜3Dと、これらのインホイールモータ部3A〜3Dをそれぞれ制御する複数のモータ駆動装置4A〜4Dとを備える。モータ駆動装置4A〜4Dは、平滑回路、制御部、インバータ部、およびこのインバータ部を冷却する冷却器からなる。前記複数のモータ駆動装置4A〜4Dを1箇所に集めて同一ケース7内に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の駆動輪のうち少なくとも2つの駆動輪にインホイールモータを配置した電気自動車、燃料電池車、ハイブリッド車等のインホイールモータ車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の駆動輪のうち少なくとも2つの駆動輪にインホイールモータを配置した電気自動車,燃料電池車,ハイブリッド車等のインホイールモータ車両においては、インホイールモータを制御するために、インバータ部およびインバータ制御部からなるモータ駆動装置が必要である。図29に、前左右輪32A,32Bおよび後左右輪32C,32Dにそれぞれインホイールモータ部33A〜33Dを配置した4輪駆動のインホイールモータ車両31の従来例を示す。各インホイールモータ部33A〜33Dに対応するモータ駆動装置34A〜34Dは、各インホイールモータ部33A〜33Dの直近の位置に分離して配置されている。各モータ駆動装置34A〜34Dへは、バッテリ35からバッテリコントロールユニット36を経て直流電源が供給される。前記各モータ駆動装置34A〜34Dには、駆動効率向上のために、別途、昇圧回路を設けて、バッテリ35からの電源電圧を上昇させることもある。
【0003】
従来、車両のモータ駆動装置におけるインバータ部を冷却する冷却器として、衝突時にエネルギー吸収できるものを設けた構成例が提案されている(特許文献1)。この構成例では、前記冷却器の片側にモータ駆動装置が配置され、もう片側に、平滑コンデンサとDC/DCコンバータが配置される。
【0004】
また、車両のモータ駆動装置の他の従来例として、モータ駆動装置が備える複数の制御部を冷却器の両面に配置し、その冷却器として各制御部の発熱量の合計値よりも小さい能力のものを用いた構成例も提案されている(特許文献2)。この文献では、冷却器の両面に配置する制御部の具体例としてエアコンインバータとDC/DCコンバータが挙げられている。
【0005】
さらに他の従来例として、部品配置板の上面に、モータ駆動装置の構成部品である各種インバータ部やコンデンサや高圧コンバータを配置し、その部品配置板の下面に、前記インバータ部に対応する制御部、高圧コンバータ用リアクトル、DC/DCコンバータ、および低圧部品を配置した構成例が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−303704号公報
【特許文献2】特開平7−67213号公報
【特許文献3】特開2005−57928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図29の従来例のように、複数のモータ駆動装置34A〜34Dや昇圧回路を載せるにはスペースも必要であり、重量の増加、コストアップの原因となる。
特許文献1に開示の構成例は、モータ駆動装置が1つの場合についてのものであり、インホイールモータ車両のように複数のモータ駆動装置を搭載した場合を想定していない。
【0008】
特許文献2に開示の構成例では、冷却器の両面に複数の制御部を配置するが、制御部の具体例としてはエアコンインバータとDC/DCコンバータしか挙げられていない。複数の制御部の組み合わせ方によっては、もっと別の効果が得られることも期待できるが、この文献では、複数のモータ駆動装置や昇圧回路を持つインホイールモータ車両のような場合にまで言及されていない。
【0009】
特許文献3に開示の構成例では、駆動装置のトータルとしての体積が小さくなる可能性はあるが、車両にまとまった大きな平面スペースが必要であり、配置できるスペースも限られ配置の自由度も少ない。また、部品配置板の上面にインバータ部を配置し、下面に制御部を配置するので、構成が複雑になる。
【0010】
このように、インホイールモータ車両では、複数のモータ駆動装置や昇圧回路を搭載するので、そのためのスペースが必要であり、重量の増加、コストアップが懸念される。しかし、特許文献1〜3に開示の各構成例では、この問題を解決できない。
【0011】
この発明の目的は、小型化、軽量化、および低コスト化が可能なインホイールモータ車両の駆動装置を提供することである。
この発明の他の目的は、インホイールモータを駆動する装置の小型化、軽量化、および低コスト化が可能なインホイールモータ車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のインホイールモータ車両の駆動装置は、車両の複数の駆動輪のうち少なくとも2つの駆動輪にそれぞれ配置した複数のインホイールモータ部と、これら各インホイールモータ部をそれぞれ制御する複数のモータ駆動装置とを備え、前記モータ駆動装置が、平滑回路と、インバータ部と、このインバータ部を制御するインバータ制御部と、前記インバータ部を冷却する冷却器とを有するインホイールモータ車両の駆動装置において、前記複数のモータ駆動装置を同一ケース内に配置し、これら複数のモータ駆動装置の間で、これらモータ駆動装置の構成部品、およびこれらモータ駆動装置に付随する部品のいずれか一方または両方を互いに共有したことを特徴とする。
この構成によると、複数のモータ駆動装置を一箇所に集めて同一ケース内に配置したため、複数のモータ駆動装置の間で、構成部品や付随部品を互いに共有することが可能となる。例えば、平滑回路や冷却器を複数のモータ駆動装置で共有できる。また、複数のモータ駆動装置でインバータ制御部の演算部等を共有することも可能となる。このため、駆動装置の小型化、軽量化、および低コスト化が可能となる。
【0013】
この発明において、電源からの供給電圧を昇圧する昇圧部を有し、これら昇圧部が、昇圧用制御部、駆動素子、リアクトル、および整流器からなり、この昇圧部を前記同一ケース内に配置しても良い。昇圧部を同一ケース内に配置することで、その冷却部を共有することができて、より小型化、軽量化、および低コスト化が可能となる。
【0014】
前記同一ケース内に配置された複数のモータ駆動装置が、前記平滑回路として、1つの平滑回路を共有するものであっても良い。また、前記同一ケース内に配置された複数のモータ駆動装置が、前記冷却器として、1つの冷却器を共有するものであっても良い。同一ケース内に複数のモータ駆動装置が設けられているため、1つの平滑回路で複数のモータ駆動装置への電流の平滑化が行え、また1つの冷却器で複数のモータ駆動装置を冷却することができる。
【0015】
前記冷却器が水冷方式であっても良い。水冷方式であると、空冷方式に比べて冷却効率が良い。水冷方式の場合、冷媒の循環系が必要であるが、複数のモータ駆動装置が同一ケース内に配置されているため、循環系によるコスト増が抑えられる。
【0016】
この発明において、前記冷却器は互いに背向きとなる両面が冷却面であり、これら両面に前記モータ駆動装置の前記インバータ部およびインバータ制御部で構成される部分であるモータ駆動装置本体を配置して前記冷却器の両側にインバータ部を位置させても良い。 このように、各モータ駆動装置本体部を冷却器の両側に分けて配置する場合には、冷却器の小型化が可能となり、さらには冷却器の冷却効率も向上させることができる。その結果、駆動装置の小型化、軽量化、低コスト化が可能となる。
【0017】
前記冷却器の一方の面側に、前記モータ駆動装置における前記冷却器を除く部分であるモータ駆動装置本体を配置して前記冷却器の一方の面側にインバータ部を位置させてもよい。
この場合に、前記各モータ駆動装置が、電源からの供給電圧を昇圧する昇圧部を有し、これら昇圧部が、昇圧用制御部、駆動素子、リアクトル、および整流器からなり、前記冷却器は互いに背向きとなる両面が冷却面であり、前記冷却器の前記インバータ部が配置された面の他方の面側に前記昇圧部を配置し、この昇圧部の駆動素子を前記他方の面側に位置させても良い。
これにより、冷却器の両側の冷却面を利用し、インバータと昇圧部の駆動素子の両方を効率的に冷却することができる。
【0018】
この発明において、前記複数のモータ駆動装置の前記インバータ制御部を、互いに少なくとも一部が共有されるように一体化しても良い。例えば、前記インバータ制御部は第1の演算部を有し、第1の演算部を、前記複数のインバータ制御部が共有しても良い。
インバータ制御部を一体化することで、それらの通信用ケーブル、ハーネス類、コネクタ類を共通化して、コンパクト化、低コスト化が図れる。
【0019】
また、前記各モータ駆動装置が、電源からの供給電圧を昇圧する昇圧部を有し、これら昇圧部が、昇圧用制御部、駆動素子、リアクトル、および整流器からなり、前記複数のモータ駆動装置は、前記インバータ制御部と、前記昇圧部の前記昇圧用制御部を、それぞれ複数のモータ駆動装置の間で少なくとも一部が共有されるように一体化しても良い。この場合に、前記昇圧用制御部は、第2の演算部を有し、前記インバータ制御部の第1の演算部と、前記昇圧用制御部の第2の演算部とを共有することで、前記インバータ制御部および前記昇圧用制御部をそれぞれ一体化させても良い。演算部を共有することで、モータ、モータ駆動装置の状態(回転数、電流値、温度等の状態)等の情報を、長い通信経路を使用せずに簡単に共有することができ、構成が簡素化される。
【0020】
前記のように複数のモータ駆動装置の前記インバータ制御部を、互いに少なくとも一部が共有されるように一体化した場合に、前記複数のモータ駆動装置の前記インバータ制御部は、前記インバータ部の駆動素子をPWM(パルス幅変調)方式で駆動させる制御方式であり、前記複数のモータ駆動装置は、互いにPWMの周期が等しく、かつ駆動素子のオン・オフタイミングを互いにずらすものとしても良い。
複数のモータ駆動装置のインバータ制御部を一体化した場合、駆動素子のオン・オフタイミングをずらすことで、平滑回路へのリップル電流を低減することが可能となる。演算部を共有化することで、複数のモータ駆動装置の駆動素子オンタイミングを容易に制御できるため、このようにタイミングをずらすことが出来る。
【0021】
オン・オフタイミングをずらす場合に、前記複数のモータ駆動装置は、各モータ駆動装置のインバータ部の駆動素子のオンタイミングの中心が、PWM周期をモータ駆動装置の個数で分割して等間隔になるようにずらしても良い。
また、前記複数のモータ駆動装置は、各モータ駆動装置のインバータ部の駆動素子オンタイミングの開始が、PWM周期をモータ駆動装置の個数で分割して等間隔になるようにずらしても良い。
上記のように等間隔でずらすことにより、共有化した平滑コンデンサからのリップル電流のピーク値を低減させることが出来、平滑コンデンサの小型化が可能となる。
【0022】
オン・オフタイミングをずらす場合に、2輪駆動では、前記モータ駆動装置は、インバータ部の駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で180度ずらすのが良い。4輪駆動では、前記モータ駆動装置は、インバータ部の駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で90度ずらすが良い。8輪駆動では、前記モータ駆動装置は、インバータ部の駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で45度ずらすのが良い。
このように、4輪駆動では、PWM制御の1周期を4分割し、90度の間隔に各駆動装置のオン動作時間の中心が来るように制御する場合、低負荷時にはバッテリーから瞬間的に大電流を供給しなくてもよく、電流が平滑化される。上記と同様に、2輪駆動では180度、8輪駆動では45度ずらせることで、低負荷時にはバッテリーから瞬間的に大電流を供給しなくてもよく、電流が平滑化される。
なお、上記2輪駆動、4輪駆動、8輪駆動は、車両として、インホイールモータ部を有する車輪の数がそれぞれ2輪、4輪、8輪である場合に限らず、駆動する車輪を切替え可能である場合には、2輪駆動、4輪駆動、および8輪駆動に切り替えた状態で、上記のずらし角度となるように制御するものであっても良い。
【0023】
前記のようにインバータ制御部の第1の演算部と、昇圧用制御部の第2の演算部とを一体化させた場合に、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子をPWM方式で駆動し、これら複数の駆動素子のPWMの周期を等しくし、各駆動素子のオン・オフタイミングをずらすものようにしても良い。
このように演算部を一体化させた場合に、昇圧部の複数の駆動素子のオン・オフタイミングをずらせても、平滑回路へのリップル電流を低減することが可能となる。
【0024】
昇圧部の複数の駆動素子のオン・オフタイミングをずらせる場合に、前記昇圧部の昇圧用制御部は、各駆動素子のオン・オフタイミングの中心が、PWM周期を駆動素子の個数で分割して等間隔になるようにずらすようにしても良い。
オン・オフタイミングの中心ではなく、オン・オフタイミングの開始をずらせるようにしても良い。すなわち、前記昇圧部の昇圧用制御部は、各駆動素子のオン・オフタイミングの開始が、PWM周期を駆動素子の個数で分割して等間隔になるようにずらすものとしても良い。
【0025】
昇圧部の複数の駆動素子のオン・オフタイミングをずらせる場合に、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子の全てのオンタイミングが重畳しないように制御しても良い。
【0026】
前記インバータ制御部と、前記昇圧部の前記昇圧用制御部を、それぞれ複数のモータ駆動装置の間で少なくとも一部が共有されるように一体化した場合に、前記昇圧部の昇圧用制御部は、駆動素子をPWM方式で駆動し、複数の駆動素子のPWMの周期を可変としても良い。
この場合に、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子を全て同じ周期で駆動するようにしても良い。
【0027】
また、前記昇圧部の昇圧用制御部は、PWMのオンとオフの割合を固定にして、PWMの周期を可変としても良い。
この場合に、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子のPWMのオンの割合が、PWM周期を複数の駆動素子の個数で分割した間隔になるように固定し、各駆動素子のオンタイミングが重ならないようにずらすものであっても良い。
また、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子のPWMのオフの割合が、PWM周期を複数の駆動素子の個数で分割した間隔になるように固定し、各駆動素子のオンタイミングが重ならないようにずらすものであっても良い。
【0028】
また、前記昇圧部は1つの昇圧用制御部に対して、複数の駆動素子および複数のリアクトルを有するものであっても良い。前記昇圧部は、複数の駆動素子の作動開始時間および作動停止時間がそれぞれ異なるように駆動させても良い。
昇圧部が複数のリアクトルを持ち、各リアクトルへの電流印加のタイミングをずらすことにより、平滑回路のリップル電流を低減でき、平滑回路のコンデンサを小型化できる。リアクトルを複数にすることで、リアクトルの小型化も可能である。これらにより、より一層、インホイールモータ車両の駆動装置を小型化、軽量化、低コスト化できる。
【0029】
前記昇圧部は複数の駆動素子の作動開始時間の間隔を一定としても良い。前記昇圧部は複数の駆動素子の作動時間が重畳しないようにしても良い。これによってもリップル電流を低減できる。
【0030】
また、前記のように、昇圧部は1つの昇圧用制御部に対して、複数の駆動素子および複数のリアクトルを有する場合に、前記リアクトルを介さずに電流を供給するバイパス経路を有するようにしても良い。昇圧部では、インホイールモータ部の回転数に応じて昇圧電圧が決定される。つまり、回転数が予め定めた値より低い場合には、昇圧動作をしない。昇圧部にバイパス経路がなければ、昇圧動作をしない場合でも、電源からリアクトルを介して電流が供給されるので、リアクトルの抵抗による損失を無視できない。そこで、昇圧部にバイパス経路を設けることにより、低回転運転時の損失を低減することができる。
【0031】
この発明において、前記車両が、前左右車輪および後左右車輪のいずれか一方を前記インホイールモータ部で駆動する電気自動車または燃料電池車であっても良い。また、前記車両が、前左右車輪および後左右車輪のいずれか一方を前記インホイールモータ部で駆動し、他方を内燃機関で駆動するハイブリット車であっても良い。前記車両が、前左右車輪および後左右車輪の両方を前記インホイールモータ部で駆動する電気自動車または燃料電池車であっても良い。
この発明のインホイールモータ車両は、この発明のインホイールモータ車両の駆動装置を搭載したものであるため、インホイールモータを駆動する装置の小型化、軽量化、および低コスト化が可能となる。
【発明の効果】
【0032】
この発明のインホイールモータ車両の駆動装置は、車両の複数の駆動輪のうち少なくとも2つの駆動輪にそれぞれ配置した複数のインホイールモータ部と、これら各インホイールモータ部をそれぞれ制御する複数のモータ駆動装置とを備え、前記モータ駆動装置が、平滑回路と、インバータ部と、このインバータ部を制御するインバータ制御部と、前記インバータ部を冷却する冷却器とを有するインホイールモータ車両の駆動装置において、前記複数のモータ駆動装置を同一ケース内に配置し、これら複数のモータ駆動装置の間で、これらモータ駆動装置の構成部品、およびこれらモータ駆動装置に付随する部品のいずれか一方または両方を互いに共有したため、小型化、軽量化、および低コスト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の一実施形態にかかる駆動装置を搭載したインホイールモータ車両における構成部品の配置構成を示す概略図である。
【図2】同駆動装置におけるモータ駆動装置の回路構成例を示す概略図である。
【図3】同駆動装置におけるモータ駆動装置の他の回路構成例を示す概略図である。
【図4】同駆動装置における同一ケース内での複数のモータ駆動装置本体部と冷却器の配置構成の一例を示す正面図である。
【図5】同駆動装置における同一ケース内での複数のモータ駆動装置本体部と冷却器の配置構成の他の例を示す正面図である。
【図6】複数のモータ駆動装置の制御部を一体化した配置構成例を示すブロック図である。
【図7】複数のモータ駆動装置の制御部の演算部を1つのもので共有化した構成例を示すブロック図である。
【図8】同モータ駆動装置のモータ駆動時の電圧電流波形を示す波形図である。
【図9】(A)は同モータ駆動装置のオンタイミングの一例、(B)はオンタイミングの他の例、(B)はオンタイミングのさらに他の例の波形図である。
【図10】この発明の他の実施形態にかかる駆動装置を搭載したインホイールモータ車両における構成部品の配置構成を示す概略図である。
【図11】同駆動装置におけるモータ駆動装置に昇圧部を加えた回路構成を示す概略図である。
【図12】同駆動装置における同一ケース内での各モータ駆動装置本体部と冷却器と昇圧部の配置構成の一例を示す正面図である。
【図13】同駆動装置における各モータ駆動装置の制御部を一体化した例を示す正面図である。
【図14】同駆動装置における昇圧部の回路構成の一例を示す概略図である。
【図15】(A)は同昇圧部のオン動作のタイミング例の波形図、(B)はその整流器電流の波形図、(C)はそのコンデンサリップル電流の波形図である。
【図16】(A)は同昇圧部オン動作のオン時間を広げた場合のタイミング例の波形図、(B)はその整流器電流の波形図、(C)はそのコンデンサリップル電流の波形図である。
【図17】同昇圧部のオン動作の他のタイミング例の波形図である。
【図18】同昇圧部のオン動作のさらに他のタイミング例の波形図である。
【図19】(A)は同昇圧部のオン動作のさらに他のタイミング例の波形図、(B)はその整流器電流の波形図、(C)はそのコンデンサリップル電流の波形図である。
【図20】(A)は同昇圧部のオン動作のさらに他のタイミング例の波形図、(B)はその整流器電流の波形図、(C)はそのコンデンサリップル電流の波形図である。
【図21】(A)は同昇圧部のオン動作のさらに他のタイミング例の波形図、(B)はその整流器電流の波形図、(C)はそのコンデンサリップル電流の波形図である。
【図22】同駆動装置における昇圧部の回路構成の他の例を示す概略図である。
【図23】この発明が適用されるインホイールモータ車両の一例における構成部品の配置構成を示す概略図である。
【図24】この発明が適用されるインホイールモータ車両の他の例における構成部品の配置構成を示す概略図である。
【図25】この発明が適用されるインホイールモータ車両のさらに他の例における構成部品の配置構成を示す概略図である。
【図26】モータ駆動装置の一般的な回路構成を示す概略図である。
【図27】昇圧部の一般的な回路構成を示す概略図である。
【図28】同昇圧部でのコンデンサリップル電流を示す波形図である。
【図29】従来の駆動装置を搭載したインホイールモータ車両における構成部品の配置構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。図1は、この実施形態の駆動装置を搭載したインホイールモータ車両における構成部品の配置構成の概略図を示す。このインホイールモータ車両1は、駆動輪となる前左右輪2A,2Bおよび後左右輪2C,2Dのそれぞれにインホイールモータ部3A,3B,3C,3Dを配置し、これらのインホイールモータ部3A〜3Dで全車輪を駆動するようにしたものであり、例えば電気自動車または燃料電池車である。インホイールモータ部3A〜3Dは、例えば、モータと、このモータの回転を減速する減速機と、車輪用軸受とで構成され、一部または全体が車輪2A〜2D内に配置される。各インホイールモータ部3A〜3Dに対応付けて4つのモータ駆動装置4A,4B,4C,4Dが設けられ、これらのモータ駆動装置4A〜4Dによって各インホイールモータ部3A〜3Dの回転制御が行なわれる。各モータ駆動装置4A〜4Dへは、バッテリ5からバッテリコントロールユニット6を介して電源供給が行なわれる。
なお、上記各符号2A〜2D,3A〜3D,4A〜4D等において、特に区別が必要でない場合は、数字に続くA〜Dの文字は、省略する場合がある。後に記載の各符号についても、特に区別が必要でない場合は数字に続くA〜Dの文字は、省略する場合がある。
【0035】
4つのモータ駆動装置4A〜4Dは1箇所に集められて、同一ケース7内に配置される。図2はモータ駆動装置4A〜4Dの回路構成の概略図を示す。なお、同図において、前記バッテリ5およびバッテリコントロールユニット6は、簡略のためにバッテリ部として1つのブロックで示している。インホイールモータ部3A〜3Dのモータ17は、例えばUVWの3相のコイルを有するステータ17aと、永久磁石で構成されるロータ17bとでなる同期モータである。モータ駆動装置4A〜4Dは、平滑回路11、インバータ制御部12、およびインバータ部13からなる本体部10と、前記インバータ部13を冷却する冷却器14とを備える。ここでは、冷却器14として水冷方式のものが用いられ、前記ケース7の外部には、冷媒を循環させるポンプや、冷媒を冷却するための冷却部(いずれも図示せず)が配置される。バッテリ部から供給されてくる直流電力は平滑回路11で平滑化されて、インバータ部13に入力される。モータ駆動装置4A〜4Dでは、インホイールモータ部3A〜3Dの駆動の際に大電流を制御するため、入力段にコンデンサからなる平滑回路11が必要となる。インバータ部13は、スイッチングトランジスタ等の複数の駆動素子15からなり、平滑回路11を経て入力されて来る直流電力を、インバータ制御部12による前記駆動素子15の断続制御で三相交流電力に変換してインホイールモータ部3A〜3Dに供給する。インバータ制御部12では、インホイールモータ部3A〜3Dにおいて位相検出器16で検出されるモータロータ17の回転位相に基づき、インバータ部13の駆動素子15の断続制御のタイミングが決められる。また、インバータ制御部12は、各モータ駆動装置4A〜4D同士の通信、もしくは車両に配置され車両の各電装機器を統轄して制御する上位コントローラと通信する機能も有する。
【0036】
図2では、各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10の入力側にそれぞれ別々のコンデンサを設けて平滑回路11としているが、図3のように、これらのモータ駆動装置4A〜4Dの入力側にコンデンサを設けることで、各モータ駆動装置4A〜4Dに共用される1つの平滑回路11を設けても良い。
【0037】
図4は、前記ケース7内における各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10と冷却器14の配置構成の一例を正面図で示す。冷却器14は、板状ないし薄箱状であり、互いに背向きとなる両面が冷却面14aとなる。この配置構成例では、モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10の全てを、それらのインバータ部13が冷却器14の冷却面に近接した位置となるように、1つの冷却器14の片側に配置することで、1つの冷却器14を各モータ駆動装置4A〜4Dに共用している。各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10と平滑回路11を構成するコンデンサCとは、銅バー18を介して接続される。
【0038】
図4では、モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10の全てを、冷却器14の片側に配置しているが、図5のように、それぞれのインバータ部13が冷却器14の冷却面に近接した位置となるように、1つの冷却器14の両側に2個ずつ分けて各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10を配置しても良い。
【0039】
なお、従来のインホイールモータ車両の駆動装置では、図29のように、各インホイールモータ部33A〜33Dに対応するモータ駆動装置34A〜34Dを、各インホイールモータ部33A〜33Dごとに、その直近の位置または直近の車内に互いに分離して配置しているので、図26のようにモータ駆動装置34A〜34Dごとに個別に平滑回路41を設ける必要があった。
これに対して、この実施形態のインホイールモータ車両1の駆動装置では、全てのモータ駆動装置4A〜4Dを一箇所に集めて同一ケース7内に配置したため、1つの平滑回路11を全てのモータ駆動装置4A〜4Dに共用する構成が可能となる。また、図4や図5の配置構成例のように、全てのモータ駆動装置4A〜4Dの本体部10を1つの冷却器14に搭載することが可能となるので、1つの冷却器14を共用して各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ部13を冷却することができる。図5のように、モータ駆動装置4A〜4Dの各本体部10を冷却器14の両側に分けて配置する場合には、冷却器14の小型化が可能となり、さらには冷却器14の冷却効率も向上させることができる。その結果、駆動装置の小型化、軽量化、低コスト化が可能となる。
【0040】
図6は、各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10を1つの冷却器14の片側に配置した図4の配置構成例において、各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ制御部12A〜12Dを一体化した例をブロック図で示す。インバータ制御部12A〜12Dは、マイクロコンピュータや電子回路等からなる。各インバータ制御部12A〜12Dは、それぞれ第1の演算部22、センサ回路23、駆動素子用プリドライバ回路24からなる。演算部22は、インバータ部13における駆動素子15のオン・オフタイミングを決定し、対応するインホイールモータ部3A〜3Dでのモータトルクもしくは回転数を制御する機能、フェールセーフ機能、通信機構、温度監視機能等を担当する。センサ回路23は、対応するインホイールモータ部3A〜3Dに取付けられたレゾルバ等の位相検出器16の信号から回転角を演算する。駆動素子用プリドライバ回路24は、演算部22からの指令に応じてインバータ部13における駆動素子15のオン・オフを制御する。
【0041】
各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ制御部12A〜12Dは、先述したように各モータ駆動装置4A〜4D同士の通信、もしくは車両に配置され車両の各電装機器を統轄して制御する上位コントローラと通信する機能を有する。図6のように、各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ制御部12A〜12Dを一体化すると、各モータ駆動装置4A〜4D同士の間や前記上位コントローラとの間の通信用ケーブル、ハーネス類、コネクタを共通化できるので、駆動装置のコンパクト化、低コスト化が可能となる。
【0042】
図7は、各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ制御部12A〜12Dを一体化した図6の構成において、さらに各インバータ制御部12A〜12Dの演算部22を1つのもので共有化した例をブロック図で示す。このように各インバータ制御部12A〜12Dの演算部22を1つのもので共有化することにより、インホイールモータ部3A〜3D、モータ駆動装置4A〜4Dの状態(回転数、電流値、温度等)の情報を、通信を使用せずに簡単に共有化することができる。
【0043】
このように各インバータ制御部12A〜12Dの演算部22を1つのもので共有化して一体化した場合に、複数のモータ駆動装置4A〜4Dのインバータ制御部12A〜12Dは、インバータ部13の駆動素子15をPWM方式で駆動させる制御方式とし、前記複数のモータ駆動装置4A〜4Dは、互いにPWMの周期が等しく、かつ駆動素子15のオン・オフタイミングを互いにずらすのが良い。
例えば、各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ部13の駆動素子15のオンタイミングの中心が、PWM周期をモータ駆動装置4A〜4Dの個数で分割して等間隔になるようにずらすのが良い。オンタイミングの中心の代わりに、オンタイミングの開始が、PWM周期をモータ駆動装置4A〜4Dの個数で分割して等間隔になるようにずらしても良い。
【0044】
具体的には、2輪駆動の場合に、モータ駆動装置4は、インバータ部13の駆動素子15のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で180度ずらすのが良い。
4輪駆動の場合は、モータ駆動装置4A〜4Dは、インバータ部12A〜12Dの駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で90度ずらすのが良い。
8輪駆動の場合は、モータ駆動装置4は、インバータ部12の駆動素子15のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で45度ずらすのが良い。
【0045】
図8にはモータ駆動時の電圧電流波形を示す。図2,図3,図6,図7のインバータ制御部12,12A〜12Dは、PWM制御によりインバータ部13の駆動素子15をオンオフさせて正弦波状の電流を、インホイールモータ部3A〜3Dのモータ17におけるステータ17aのコイルに流す。
図9にはモータ駆動装置4Aとモータ駆動装置4Bの駆動素子15のオン(ON)タイミングを示す。図9(A)は、モータ駆動装置4Aとモータ駆動装置4Bの各オン動作時間の中心を基準に等間隔になるようにタイミングを決定している。図9(B)は、各オン動作の開始を基準にして等間隔になるようにタイミングを決定している。図7のように演算部22を共有化することで、複数のモータ駆動装置4A〜4Dの駆動素子オンタイミングを容易に制御できるため、このようにタイミングをずらすことが出来る。また、図9(A),(B)のようにモータ駆動装置4Aとモータ駆動装置4Bを等間隔でずらすことにより、共有化した平滑コンデンサCからのリップル電流のピーク値を低減させることが出来、平滑コンデンサの小型化が可能となる。
【0046】
図9(C)は、例えば4輪駆動の場合、4つのインホイールモータ部3A〜3Dを独立に駆動するために4つのモータ駆動装置4A〜4Dが設置された場合を示している。この例では、PWM制御の1周期を4分割し、90度の間隔に各駆動装置のオン動作時間の中心が来るように制御している。このため、低負荷時にはバッテリーから瞬間的に大電流を供給しなくてもよく、電流が平滑化される。4輪駆動に限ったことではなく、駆動モータの個数によってタイミングは決定される。
【0047】
図10〜図12は、この発明の他の実施形態を示す。インホイールモータ駆動には、効率向上のため昇圧回路を用いて、バッテリの電源電圧を上昇させる場合がある。この実施形態では、図1に示した先の実施形態におけるインホイールモータ車両の駆動装置において、図10に概略図で示す構成部品の配置構成例のように、同一ケース7内に、4つのモータ駆動装置4A〜4Dに加えて昇圧部25を配置している。図11は、モータ駆動装置4A〜4Dに昇圧部25を加えた回路構成の概略図を示す。この場合、モータ駆動装置本体部10の平滑回路11は、昇圧部25の出力側に配置する。この昇圧部23は、図14にその回路構成を概略図で示すように、複数の駆動素子27、リアクトル28、および整流器29からなる並列接続した複数(ここでは4つ)の昇圧回路と、これらの各昇圧回路をオン・オフ制御する1つの昇圧用制御部26とで構成され、バッテリ部から供給されて来る電源電圧を上昇させる。なお、図14においては、簡略化のために、図11におけるバッテリ部(バッテリ5とバッテリコントローラユニット6)を直流電源の符号で表し、図11における各モータ駆動装置4A〜4Dと各インホイールモータ部3A〜3Dの部分をコンデンサと負荷とで表している。その他の構成は、図1に示した先の実施形態の場合と同様である。
【0048】
図12は、前記ケース7内における各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10と、冷却器14と、昇圧部25の配置構成の一例を正面図で示す。この配置構成例では、モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10の全てを、それらのインバータ部13が各モータ駆動装置4A〜4Dに共用される1つの冷却器14の冷却面に近接した位置となるように、冷却器14の片側に配置し、昇圧部25を前記冷却器14のモータ駆動装置本体部配置側とは反対の片側の冷却面に配置している。
【0049】
このほか、各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10の被冷却部(主としてインバータ部13)を冷却器14の冷却面に効率良く配置できるのであれば、各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10のうちのいくつかを、冷却器14の昇圧部25が配置される片側の冷却面に配置しても良い。
【0050】
図13は、各モータ駆動装置4A〜4Dの本体部10の全てを1つの冷却器14の片側に配置した図12の配置構成例において、各モータ駆動装置4A〜4Dのインバータ制御部12A〜12Dを一体化した例を正面図で示す。この場合にも、先の実施形態において図7で示したように、各インバータ制御部12A〜12Dの演算部22を共有化しても良い。また、昇圧部25の昇圧用制御部26(図14)を、各モータ駆動装置4A〜4Dの制御部10と共に一体化しても良い。さらには、昇圧用制御部26が備える第2の演算部46と、各モータ駆動装置4A〜4Dの制御部10の演算部22とを、1つの演算部で共用するようにしても良い。
【0051】
図14に示す昇圧部25の回路構成例では、昇圧回路を4回路並列接続した場合を示しているが、昇圧回路は2回路以上であれば良い。このように、昇圧部25を、並列接続された複数の昇圧回路と、各昇圧回路を構成する複数の駆動素子27をオン・オフ制御する1つの昇圧用制御部26で構成することで、図15(A)に示すように、昇圧用制御部26における各駆動素子27に対応する出力部26a〜26dからのオン・オフタイミング信号を互いにずらすことができ、これによりモータ駆動装置4A〜4Dの入力側の平滑回路11を構成するコンデンサへ流れるリップル電流を同図(C)のように低減できる。リップル電流を低減できることから、平滑回路11を構成するコンデンサのサイズを低減できる。また、リアクトル28を複数にすることで、リアクトル28の小型化も可能になる。その結果、駆動装置の小型化、低コスト化が可能となる。
【0052】
この実施形態の前記昇圧部25と比較するために、一般的な昇圧部の回路構成を図27に示す。この従来の昇圧部45では、各1つの駆動素子37、リアクトル38、および整流器39により昇圧回路が1回路構成されている。この回路構成では、駆動素子37のオン・オフタイミングによって、駆動素子37に流れる電流と整流器39に流れる電流とが切り換わるため、モータ駆動装置の入力側の平滑回路41を構成するコンデンサに流れる電流は、図28に示すように断続的な電流波形となる。
【0053】
この実施形態では、前記のようにインバータ制御部12の第1の演算部22と、昇圧用制御部26の第2の演算部46とを一体化させてあり、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、複数の駆動素子27をPWM方式で駆動し、これら複数の駆動素子27のPWMの周期を等しくし、各駆動素子27のオン・オフタイミングをずらす。
このように演算部を一体化させた場合に、昇圧部の複数の駆動素子のオン・オフタイミングをずらせても、平滑回路へのリップル電流を低減することが可能となる。
【0054】
昇圧部25の複数の駆動素子27のオン・オフタイミングをずらせる場合に、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、各駆動素子27のオン・オフタイミングの中心が、PWM周期を駆動素子27の個数で分割して等間隔になるようにずらすようにしても良い。
オン・オフタイミングの中心ではなく、オン・オフタイミングの開始をずらせるようにしても良い。すなわち、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、各駆動素子27のオン・オフタイミングの開始が、PWM周期を駆動素子27の個数で分割して等間隔になるようにずらすものとしても良い。
【0055】
昇圧部25の複数の駆動素子27のオン・オフタイミングをずらせる場合に、前記昇圧部27の昇圧用制御部26は、複数の駆動素子27の全てのオンタイミングが重畳しないように制御しても良い。
【0056】
前記インバータ制御部12と、前記昇圧部25の前記昇圧用制御部26を、それぞれ複数のモータ駆動装置4A〜4Dの間で少なくとも一部が共有されるように一体化した場合に、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、駆動素子27をPWM方式で駆動し、複数の駆動素子27のPWMの周期を可変としても良い。
この場合に、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、複数の駆動素子27を全て同じ周期で駆動するようにしても良い。
【0057】
また、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、PWMのオンとオフの割合を固定にして、PWMの周期を可変としても良い。
この場合に、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、複数の駆動素子27のPWMのオンの割合が、PWM周期を複数の駆動素子27の個数で分割した間隔になるように固定し、各駆動素子27のオンタイミングが重ならないようにずらすものであっても良い。
また、前記昇圧部25の昇圧用制御部26は、複数の駆動素子27のPWMのオフの割合が、PWM周期を複数の駆動素子27の個数で分割した間隔になるように固定し、各駆動素子27のオンタイミングが重ならないようにずらすものであっても良い。
【0058】
また、前記昇圧部25は1つの昇圧用制御部26に対して、複数の駆動素子27および複数のリアクトル28を有するものであっても良い。前記昇圧部25は、複数の駆動素子27の作動開始時間および作動停止時間がそれぞれ異なるように駆動させても良い。
昇圧部25が複数のリアクトル28を持ち、各リアクトル28への電流印加のタイミングをずらすことにより、平滑回路のリップル電流を低減でき、平滑回路のコンデンサを小型化できる。リアクトル28を複数にすることで、リアクトル28の小型化も可能である。これらにより、より一層、インホイールモータ車両の駆動装置を小型化、軽量化、低コスト化できる。
【0059】
前記昇圧部25は複数の駆動素子27の作動開始時間の間隔を一定としても良い。前記昇圧部25は複数の駆動素子の作動時間が重畳しないようにしても良い。これによってもリップル電流を低減できる。
【0060】
図16では各駆動素子27のオン時間D1を広げた場合を示しており、供給電流を可変することができる。昇圧部25では図示しないが、図14の負荷の両端にかかる電圧を監視し、PWMのオン時間(デューティ)を可変させることで、負荷に応じて出力電圧が決定される。
複数の駆動素子27の出力電流のタイミングがずれることによって、リップル電流を低減できるため、各駆動素子27のオン作動タイミングを等間隔にすることが効率がよい。 図17では、各オン動作時間の中心を基準に等間隔になるようにタイミングを決定している。図18では、各オン動作時間の開始を基準に等間隔になるようにタイミングを決定している。
【0061】
また、複数の駆動素子27が全て同時にONしないように制御する。全ての駆動素子27が同時にオンすると、オフ時間が重ならなくなってしまうために、昇圧部25の出力電流が断続的になりリップル電流が増大してしまう。
【0062】
図19では駆動素子27のオンタイミングと電流波形を示している。図19は複数の駆動素子27の内、常に1つがオンした状態となった場合である。この場合、回路の入力電流が連続的になるため、バッテリーから供給される電流の脈動を低減することができる。また、図15,図16に見られるような出力電流のひずみも低減される。
図20は、駆動素子27のオフタイミングが重ならずかつ断続的な電流にならないように、駆動素子27の内常に1つがオフした状態となった場合である。この場合、図からもわかるように出力電流のリップルが最も小さくなる。
また、リップル電流の小さい図19もしくは図20のオン・オフの割合でタイミングを固定し、PWMの周期を可変することで、出力電流を制御することができる。
【0063】
図21は、図20の周期を2分の1にしたものである。1回のパルス幅が短くなるため周期を短くすると出力電流が低下する。逆に周期を長くすると出力電流が増加する。
ここで、周期を可変する場合、オン・オフの割合は図19もしくは図20に限定したものではない。周期の可変とオン・オフの割合の可変を組み合わせることも可能である。例えば、周期可変範囲を可聴帯域以上に設定し、周期の上限値から更に出力を上げる場合は、オン動作時間の割合を増やす、または周期設定の最小値において出力が大きい場合は、オン動作時間の割合を下げるといった動作である。
【0064】
また、昇圧回路25に使用される整流器29(図14参照)は、駆動素子27のオフ時に順方向(図14で左から右)に通電している状態から駆動素子27がオン状態になり、瞬時に逆電圧が印加されると、逆回復電流(整流器の右から左)が流れる。この逆回復電流はノイズ発生源であるため、防止するためには、駆動素子27がオンするタイミングに整流器の順方向の通電がなければよい。図15と図16の整流器電流波形で説明する。図15は駆動素子27がONする前にリアクトルのエネルギーが消費され整流器29は通電していない。図16は整流器29に通電中に駆動素子27がオンしている。駆動素子27のオンのタイミングで整流器電流が瞬時にゼロになっている。ここでは図示していないが、図16では駆動素子27のオンのタイミングで、瞬時逆向きの電流が流れる。つまり、駆動素子7をオンするタイミングで順方向の通電が終了するようにオン・オフのタイミングを制御しておき、周期を可変することで出力電圧を制御する設定でも良い。
【0065】
図22は、前記昇圧部25の他の回路構成例を示す。この回路構成例では、リアクトル28と整流器29とでなり互いに並列接続された複数の昇圧回路に対して並列に、これらのリアクトル28を介さずに電源からの電流をモータ駆動装置4A〜4Dへ供給するバイパス経路30を接続している。このバイパス経路30は整流器からなる。
【0066】
昇圧部25では、インホイールモータの回転数に応じて昇圧電圧が決定される。つまり、回転数が予め定めた値より低い場合には、昇圧動作をしない。図23に示したように、従来の昇圧部の回路構成では、昇圧動作をしない場合でも、電源からリアクトル38を介して電流が供給される。リアクトル38は数十〜数百mΩ程度の抵抗値を持ち、インホイールモータのように駆動電流が100A以上になる駆動条件では、この抵抗による損失も無視できない。そこで、図22のようにバイパス経路30を設けた場合、低回転運転時の損失を低減することができる。
【0067】
なお、上記各実施形態では、図23のように、インホイールモータ車両1が前左右輪および後左右輪にそれぞれインホイールモータ部3A〜3Dを配置した4輪駆動の電気自動車または燃料電池車である場合(図1および図8と同じ)を例示し、各インホイールモータ部3A〜3Dに対応する4つのモータ駆動装置4A〜4Dを一箇所に集めて配置した。しかし、同じ4輪駆動の電気自動車や燃料電池車において、図24のように、例えば前左右輪のインホイールモータ部3A,3Bに対応する2つのモータ駆動装置4A,4Bを車両前部の1箇所に集めて配置し、後左右輪のインホイールモータ部3C,3Dに対応する2つのモータ駆動装置4C,4Dを車両後部の一箇所に集めて配置しても良い。また、この発明は、インホイールモータ車両1が、図25のような2輪駆動車、あるいは前左右輪および後左右輪のいずれか一方が内燃機関で駆動されるハイブリット車である場合(図25では後左右輪にインホイールモータ部3C,3Dを配置した例を示す)にも、2つのインホイールモータ部3C,3Dに対応する2つのモータ駆動装置4C,4Dを一箇所に集めて配置することで適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1…インホイールモータ車両
2A〜2D…車輪
3A〜3D…インホイールモータ部
4A〜4D…モータ駆動装置
7…ケース
10…モータ駆動装置の本体部
11…平滑回路
12,12A〜12D…インバータ制御部
13…インバータ部
14…冷却器
15…駆動素子
22…演算部
25…昇圧部
26…昇圧用制御部
27…駆動素子
28…リアクトル
29…整流器
30…バイパス経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の駆動輪のうち少なくとも2つの駆動輪にそれぞれ配置した複数のインホイールモータ部と、これら各インホイールモータ部をそれぞれ制御する複数のモータ駆動装置とを備え、前記モータ駆動装置が、平滑回路と、インバータ部と、このインバータ部を制御するインバータ制御部と、前記インバータ部を冷却する冷却器とを有するインホイールモータ車両の駆動装置において、
前記複数のモータ駆動装置を同一ケース内に配置し、これら複数のモータ駆動装置の間で、これらモータ駆動装置の構成部品、およびこれらモータ駆動装置に付随する部品のいずれか一方または両方を互いに共有したことを特徴とするインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、電源からの供給電圧を昇圧する昇圧部を有し、これら昇圧部が、昇圧用制御部、駆動素子、リアクトル、および整流器からなり、この昇圧部を前記同一ケース内に配置したインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記同一ケース内に配置された複数のモータ駆動装置が、前記平滑回路として、1つの平滑回路を共有するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記同一ケース内に配置された複数のモータ駆動装置が、前記冷却器として、1つの冷却器を共有するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項5】
請求項4において、前記冷却器が水冷方式であるインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記冷却器は互いに背向きとなる両面が冷却面であり、これら両面に前記モータ駆動装置の前記インバータ部およびインバータ制御部で構成される部分であるモータ駆動装置本体を配置して前記冷却器の両側にインバータ部を位置させたインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記冷却器の一方の面側に、前記モータ駆動装置における前記冷却器を除く部分であるモータ駆動装置本体を配置して前記冷却器の一方の面側にインバータ部を位置させたインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項8】
請求項7において、前記各モータ駆動装置が、電源からの供給電圧を昇圧する昇圧部を有し、これら昇圧部が、昇圧用制御部、駆動素子、リアクトル、および整流器からなり、前記冷却器は互いに背向きとなる両面が冷却面であり、前記冷却器の前記インバータ部が配置された面の他方の面側に前記昇圧部を配置し、この昇圧部の駆動素子を前記他方の面側に位置させたインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記複数のモータ駆動装置の前記インバータ制御部を、互いに少なくとも一部が共有されるように一体化したインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項10】
請求項9において、前記インバータ制御部は第1の演算部を有し、第1の演算部を、前記複数のインバータ制御部が共有するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10において、前記各モータ駆動装置が、電源からの供給電圧を昇圧する昇圧部を有し、これら昇圧部が、昇圧用制御部、駆動素子、リアクトル、および整流器からなり、前記複数のモータ駆動装置は、前記インバータ制御部と、前記昇圧部の前記昇圧用制御部を、それぞれ複数のモータ駆動装置の間で少なくとも一部が共有されるように一体化したインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項12】
請求項11において、前記昇圧用制御部は、第2の演算部を有し、前記インバータ制御部の第1の演算部と、前記昇圧用制御部の第2の演算部とを共有することで、前記インバータ制御部および前記昇圧用制御部をそれぞれ一体化させたインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項13】
請求項9ないし請求項12のいずれか1項において、前記複数のモータ駆動装置の前記インバータ制御部は、前記インバータ部の駆動素子をPWM方式で駆動させる制御方式であり、前記複数のモータ駆動装置は、互いにPWMの周期が等しく、かつ駆動素子のオン・オフタイミングを互いにずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項14】
請求項13において、前記複数のモータ駆動装置は、各モータ駆動装置のインバータ部の駆動素子のオンタイミングの中心が、PWM周期をモータ駆動装置の個数で分割して等間隔になるようにずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項15】
請求項13において、前記複数のモータ駆動装置は、各モータ駆動装置のインバータ部の駆動素子オンタイミングの開始が、PWM周期をモータ駆動装置の個数で分割して等間隔になるようにずらすことを特徴とする車両の駆動装置
【請求項16】
請求項13ないし請求項15のいずれか1項において、2輪駆動の場合に、前記モータ駆動装置は、インバータ部の駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で180度ずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項17】
請求項13ないし請求項15のいずれ1項において、4輪駆動の場合に、前記モータ駆動装置は、インバータ部の駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で90度ずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項18】
請求項13ないし請求項15のいずれ1項において、8輪駆動の場合に、前記モータ駆動装置は、インバータ部の駆動素子のオン・オフタイミングを、互いにPWM周期で45度ずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項19】
請求項12において、前記昇圧部は1つの昇圧用制御部に対して、複数の駆動素子および複数のリアクトルを有するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項20】
請求項19において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子をPWM方式で駆動し、これら複数の駆動素子のPWMの周期を等しくし、各駆動素子のオン・オフタイミングをずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項21】
請求項20において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、各駆動素子のオン・オフタイミングの中心が、PWM周期を駆動素子の個数で分割して等間隔になるようにずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項22】
請求項20において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、各駆動素子のオン・オフタイミングの開始が、PWM周期を駆動素子の個数で分割して等間隔になるようにずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項23】
請求項19ないし請求項22のいずれか1項において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子の全てのオンタイミングが重畳しないように制御するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項24】
請求項20ないし請求項23のいずれか1項において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子のPWMの周期を可変としたインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項25】
請求項24において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子を全て同じ周期で駆動するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項26】
請求項24または請求項25において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、PWMのオンとオフの割合を固定にして、PWMの周期を可変としたインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項27】
請求項26において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子のPWMのオンの割合が、PWM周期を複数の駆動素子の個数で分割した間隔になるように固定し、各駆動素子のオンタイミングが重ならないようにずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項28】
請求項26において、前記昇圧部の昇圧用制御部は、複数の駆動素子のPWMのオフの割合が、PWM周期を複数の駆動素子の個数で分割した間隔になるように固定し、各駆動素子のオンタイミングが重ならないようにずらすインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項29】
請求項19ないし請求項28のいずれか1項において、前記リアクトルを介さずに電流を供給するバイパス経路を有するインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項30】
請求項1ないし請求項29のいずれか1項において、前記車両が、前左右車輪および後左右車輪のいずれか一方を前記インホイールモータ部で駆動する電気自動車または燃料電池車であるインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項31】
請求項1ないし請求項29のいずれか1項において、前記車両が、前左右車輪および後左右車輪のいずれか一方を前記インホイールモータ部で駆動し、他方を内燃機関で駆動するハイブリット車であるインホイールモータ車両の駆動装置。
【請求項32】
請求項1ないし請求項29のいずれか1項において、前記車両が、前左右車輪および後左右車輪の両方を前記インホイールモータ部で駆動する電気自動車または燃料電池車であるインホイールモータ車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−176634(P2012−176634A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39231(P2011−39231)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】