説明

エピタキシャルウェハの製造方法、欠陥除去方法およびエピタキシャルウェハ

【課題】膜厚分布が均一なエピタキシャル膜を有するとともに、平坦度に優れたエピタキシャルウェハを簡単な工程で製造することのできるエピタキシャルウェハの製造方法およびエピタキシャルウェハを提供すること。
【解決手段】CZ法により得られたシリコン単結晶インゴットを薄円板状に切り出してウェハを得る(ステップS1)。次に、ウェハの表面を研削(ラッピング)して平面化する(ステップS2)。次に、エッチングによる化学研磨を行った(ステップS3)後、ウェハの両面を粗研磨する(ステップS4)。粗研磨終了後、気相エッチングを行い(ステップS5)、その後、エピタキシャル膜を形成する(ステップS6)。そして、エピタキシャル膜が形成されたウェハに対して仕上げ研磨を行い(ステップS7)、最終洗浄を行った(ステップS8)後、終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェハの製造方法、欠陥除去方法およびエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶を切り出して得られるウェハの成膜面にエピタキシャル膜を気相成長させたエピタキシャルウェハが知られている。このようなエピタキシャルウェハを製造する際、エピタキシャル膜を積層する前のウェハに加工歪みやパーティクル等が存在すると、エピタキシャル膜を積層する際に転位欠陥が導入され、正常に単結晶成長させることが困難となる場合がある。
【0003】
そこで、基板に発生した加工歪みやパーティクルを除去するために、エピタキシャル膜を形成する前に仕上げ研磨を行う方法が知られている。この場合の製造工程は、シリコン単結晶インゴットをスライスして薄円板状のウェハを得るスライス工程と、ウェハを平面化する研削(ラッピング)工程と、ウェハに生じた加工変質部および加工歪部を除去する化学エッチング工程と、さらにウェハを平面化する粗研磨工程と、ウェハの表面を鏡面加工する仕上げ研磨工程と、エピタキシャル膜形成工程の順で行われる(以下、従来技術Aと記載することもある)。しかしながら、このような製造工程で製造されると、エピタキシャル膜形成工程後のシリコンウェハの表面にはマイクロラフネスという微小な凹凸が発生し、ヘイズが悪化する場合がある。
【0004】
そこで、エピタキシャル膜を形成した後に仕上げ研磨工程を行う製造工程が知られている(例えば、特許文献1)。この場合の製造工程は、スライス工程と、研削工程と、化学エッチング工程と、粗研磨工程と、エピタキシャル膜形成工程と、仕上げ研磨工程、の順で行われる(以下、従来技術Bと記載することもある)。しかしながら、この製造工程では、粗研磨工程後のウェハには、傷や加工ダメージが発生する場合があり、エピタキシャル膜形成工程でこれらの傷が異常成長して積層欠陥(SF)が発生してしまう。具体的に図9を用いて説明する。図9(A)では、粗研磨工程後のウェハ311に凹状の加工変質部312が発生している。ここで、加工変質部312の深さD1は100〜1000nmである。次に、図9(B)に示すように、エピタキシャル膜321を形成すると、加工変質部312は正常な結晶状態ではないために、異常成長したエピタキシャル膜が形成され、転移が発生し、積層欠陥部322となる。そして、図9(C)に示すように、仕上げ研磨工程を行うと、積層欠陥部322がそのまま残留してしまう。
【0005】
このような積層欠陥部322が発生しないようにするために、エピタキシャル膜形成の前後に仕上げ研磨工程を行う製造工程が知られている。この場合の製造工程は、スライス工程と、研削工程と、化学エッチング工程と、粗研磨工程と、仕上げ研磨工程と、エピタキシャル膜形成工程と、仕上げ研磨工程と、の順で行われる(以下、従来技術Cと記載することもある)。
また、粗研磨工程後に、フッ酸や硝酸を用いた液相処理による化学エッチングにて加工変質部を除去する方法が知られている。この場合の製造工程は、スライス工程と、研削工程と、化学エッチング工程と、粗研磨工程と、液相エッチング工程と、エピタキシャル膜形成工程と、仕上げ研磨工程と、の順で行われる(以下、従来技術Dと記載することもある)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−305202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術Cでは、仕上げ研磨工程を2回実施する必要があり、これにより製造工程が長くなってしまい、製造コストが増大するという問題がある。
【0008】
また、従来技術Dのような液相によるエッチングは、液表面張力により加工変質している部分の細部にまでエッチング液が侵入できないため、加工変質部の深さに相当する厚みをエッチングする必要がある。具体的に図10を用いて説明する。図10(A)では、粗研磨工程後のウェハ411に加工変質部412が発生し、液相エッチングにより深さD2(100〜1000nm)のエッチングを行うことで、加工変質部412に対応して開口が大きく浅い凹状の凹部413が形成されるとともに、ウェハ411の成膜面がエッチングされる。次に、図10(B)に示すように、エピタキシャル膜421を形成すると、ウェハ411の成膜面の形状に応じてエピタキシャル膜421の表面にエピ凹部422が形成される。そして、図10(C)に示すように、仕上げ研磨工程を行うと、平坦な面に形成されたエピタキシャル膜421が得られる。このように、液相エッチングを用いれば、マイクロラフネスに優れ、高精度な平坦度を有するウェハを製造することができるものの、エッチング量が多いため、材料コストや製造コストが増大するという問題がある。
【0009】
さらに、エピタキシャルウェハを製造するための各工程を実施すると、ウェハの平坦度が悪化したり、エピタキシャル膜の膜厚を均一にすることができないという問題がある。具体的には、粗研磨工程後のウェハは表面が平坦となり、仕上げ研磨工程後はウェハの外周縁部ほど厚みが小さくなるダレ形状となり、エピタキシャル膜形成工程後はウェハの外周縁部ほど結晶が成長しやすいため、エピタキシャル膜は外周ほど膜厚が大きくなる切り立ち形状となる。したがって、エピタキシャル膜の膜厚が均一かつ平坦な表面を有するウェハを安定して得ることができないという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、膜厚分布が均一かつ積層欠陥のない高品質なエピタキシャル膜を有するとともに、平坦度に優れたエピタキシャルウェハを簡単かつ安価な工程フローで製造することのできるエピタキシャルウェハの製造方法、欠陥除去方法およびエピタキシャルウェハを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエピタキシャルウェハの製造方法は、ウェハの成膜面上にエピタキシャル膜を気相成長させたエピタキシャルウェハの製造方法であって、前記ウェハの成膜面に粗研磨を施す粗研磨工程と、前記粗研磨したウェハの成膜面に気相エッチング処理を施すことで、前記粗研磨時に前記成膜面に作用する応力により形成された欠陥と前記成膜面とをエッチングする気相エッチング工程と、前記気相エッチング処理したウェハの成膜面にエピタキシャル膜を気相成長させるエピタキシャル膜形成工程と、前記エピタキシャル膜が形成されたウェハに仕上げ研磨を施す仕上げ研磨工程と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
ウェハに粗研磨を施すと、該表面に傷や歪みなどの凹状の欠陥が発生する場合がある。
この発明では、粗研磨工程の後に、ウェハの表面に気相エッチングを施す。これにより、ウェハの表面に生じた凹部の加工変質部自身が溶解除去されるので、エピタキシャル膜の形成において粗研磨工程で発生した欠陥の影響を受けることがない。したがって、エピタキシャル膜形成後における積層欠陥の発生を抑制することができる。
特に、気相エッチングによれば、ウェハの凹状の欠陥の細孔部にまでエッチャントの供給が可能となるため、少ないエッチング量で確実に欠陥を除去することができる。また、気相エッチングによれば、ウェハへのパーティクル汚染が少ないため、気相エッチング後における洗浄工程を省略することができるので、製造工程をより簡素化することができる。
以上のように、ウェハに生じた欠陥を除去するので、その後にエピタキシャル膜を形成する際に正常に単結晶成長させることができる。そして、最後に仕上げ研磨を行うことにより、エピタキシャル膜のマイクロラフネスが解消され、平坦度に優れたエピタキシャルウェハを製造することができる。
また、粗研磨工程、気相エッチング工程、エピタキシャル膜形成工程、仕上げ研磨工程の順で処理を施すことにより、エピタキシャル膜の膜厚分布が均一で、ウェハ全体の平坦度に優れた製品を製造することができる。
【0013】
本発明のエピタキシャルウェハの欠陥除去方法は、ウェハの成膜面に施した粗研磨により発生した欠陥を除去するエピタキシャルウェハの欠陥除去方法であって、前記成膜面に気相エッチング処理を施すことで、前記欠陥と前記成膜面とをエッチングすることを特徴とする。
【0014】
通常、ウェハの成膜面にエピタキシャル膜を形成する前に粗研磨処理が実施される。
この発明では、この粗研磨により生じた欠陥を除去するために気相エッチング処理を施す。これにより、エピタキシャル膜を正常に単結晶成長させることができ、高品質なエピタキシャルウェハを製造することができる。
【0015】
本発明のエピタキシャルウェハは、前述のエピタキシャルウェハの製造方法によって製造されたエピタキシャルウェハであって、前記エピタキシャル膜に、前記欠陥に起因して生じる積層欠陥が2個以下であることを特徴とする。
また、本発明のエピタキシャルウェハは、前記エピタキシャル膜に、前記欠陥に起因して生じる積層欠陥が0個であることが好ましい。
【0016】
この発明では、エピタキシャル膜に生じる積層欠陥が2個以下、さらには0個であるので、高品質なエピタキシャルウェハを提供することができる。
なお、積層欠陥は、例えば、共焦点顕微鏡を用いてエピタキシャルウェハの表面全体を走査し、これらのデータをコンピュータ上で合成して得られる画像から判断することができる。
この発明では、エピタキシャルウェハの積層欠陥が2個以下、より好ましくは0個であるので、高品質なエピタキシャルウェハを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるエピタキシャルウェハの製造方法を示すフローチャートである。図2は、前記実施形態における気相エッチングにより積層欠陥部を除去する工程を示す図で、(A)は気相エッチング後の状態、(B)はエピタキシャル膜積層後の状態、(C)は仕上げ研磨後の状態を示す。図3は、前記実施形態における各工程後のウェハの状態を示す図で、(A)は気相エッチング工程後の状態、(B)はエピタキシャル膜形成後の状態、(C)は仕上げ研磨工程後の状態を示す。
【0018】
(エピタキシャルウェハの製造方法)
本実施形態におけるエピタキシャルウェハは、単結晶インゴットを薄円板状にスライスして得られるウェハに、エピタキシャル膜が形成される。このようなエピタキシャルウェハを製造する工程フローが図1に示されている。
【0019】
図1において、まず、チョクラルスキー(CZ)法により得られたシリコン単結晶インゴットを、マルチワイヤソー等によって薄円板状に切り出してウェハを得る(ステップS1)。次に、ウェハの表面を研削して平面化する(ステップS2)。次に、エッチングによる化学研磨を行った(ステップS3)後、ウェハの両面を粗研磨する(ステップS4)。粗研磨終了後、気相エッチング処理を行い(ステップS5)、その後、エピタキシャル膜を形成する(ステップS6)。そして、エピタキシャル膜が形成されたウェハに対して仕上げ研磨を行い(ステップS7)、最終洗浄を行った(ステップS8)後、終了する。
【0020】
上記の各工程について詳述する。なお、シリコン単結晶インゴットをCZ法で引き上げ、シリコン単結晶インゴットを切断してウェハを切り出す工程(ステップS1)、機械研磨によりウェハの凹凸を除去して平行度を高める研削工程(ステップS2)、粗研磨工程(ステップS4)および仕上げ研磨工程(ステップS7)は周知技術であるため、説明を省略する。
【0021】
化学研磨工程(ステップS3)は、スライス工程(ステップS1)および研削工程(ステップS2)により生じた加工歪みを除去するために化学エッチングを用いる工程である。化学エッチングのエッチング液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなおのアルカリを含む混合液を水で希釈して用いる。
【0022】
気相エッチング工程(ステップS5)は、粗研磨工程(ステップS4)で生じた加工歪みや加工ダメージ等の欠陥を除去する工程であり、枚葉式の気相エッチング装置で行われる。
まず、気相エッチング装置のチャンバー内にウェハをセットし、エッチャントとして、オゾンとフッ化水素の混合ガスをチャンバー内に充填させる。オゾンの濃度は10g/m以上かつ1000g/m以下の範囲であることが好ましい。なお、オゾンの濃度が高いほどウェハのダメージを除去することができる。また、フッ化水素の濃度は5g/m以上かつ50g/m以下であることが好ましい。フッ化水素の濃度が5g/m未満であると、エッチングの処理に時間がかかりすぎてしまうため好ましくない。一方、50g/mを超えると、安全性の観点から好ましくない。
なお、この混合ガスには、NやArなどの不活性ガスをバインダとして混合させる。
ここで、エッチャントとして使用されるガスとしては、上述のオゾンやフッ化水素のほか、C、CF、HClなどを使用することができる。
気相エッチングは、常温常圧、エッチングレート50nm/minの条件で行われ、所望のエッチング量となったときに終了する。
【0023】
エピタキシャル膜形成工程(ステップS6)は、まず、水素存在下で熱処理を行った後、通常のエピタキシャル膜成長装置を用いてエピタキシャル膜を形成する。エピタキシャル膜の形成方法は、特に限定されず、水素還元法、熱分解法、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシャル法(MBE法)等種々の方法を採用することができる。
【0024】
ここで、上述の製造方法では、粗研磨工程(ステップS4)によりウェハの表面に発生した欠陥を除去することができる。本実施形態では、欠陥を加工変質部として説明する。加工変質部の除去の工程を、図2を用いて説明する。図2(A)において、粗研磨工程後のウェハ11に加工変質部111が発生している。気相エッチングにより加工変質部111が除去されるとともに、成膜面がエッチングされることで、開口が大きくなったエッチング凹部112が形成される。ここで、気相エッチング処理の前後のウェハ11の成膜面の差分はDであり、このDはエッチング量を示す。深さDは10nm以上かつ50nm以下の範囲内の微小なエッチング量となる。これは、気相であるエッチャントが加工変質部111の細部にまで入り込みやすいため、エッチング量を少なくすることができるものである。
【0025】
次に、図2(B)に示すように、エピタキシャル膜21を形成すると、ウェハ11の成膜面の形状に応じてエピタキシャル成長し、エッチング凹部112の細部にまでエピタキシャル膜が形成される。このとき、エピタキシャル膜21の表面がエッチング凹部112の形状に応じて開口が大きく浅いエピ凹部211が形成される。そして、図2(C)に示すように、仕上げ研磨工程によりエピタキシャル膜21の表面が平坦に形成される。
【0026】
また、各工程におけるエピタキシャルウェハの状態を図3に基づいて説明する。
図3(A)に示すように、気相エッチング工程後のウェハ11は、全体的に均一な厚みを有して形成されるとともに、その表面に微小の凹凸が形成される。次に、図3(B)に示すように、ウェハ11にエピタキシャル膜21が形成されると、エピタキシャル膜21は、エピタキシャルウェハの外周縁部11Aに近づくほど膜厚が大きくなる。これは、エピタキシャルの単結晶がウェハの外周側ほど成長しやすいことによる。そして、図3(C)に示すように、仕上げ研磨工程が行われると、エピタキシャル膜21の表面が研磨され、膜厚分布が均一になるとともに、エピタキシャルウェハの表面が平坦に形成される。
【0027】
以上のような本実施形態では、以下の作用効果を奏することができる。
気相エッチングを用いることにより、粗研磨工程(ステップS4)で生じた加工変質部111を除去することができるため、積層欠陥が2個以下の高品質なエピタキシャルウェハを製造することができる。なお、積層欠陥は0個であることがより好ましい。
また、積層欠陥の個数が少ないエピタキシャルウェハは、マイクロラフネスに優れ、平坦度に優れている。
さらに、気相エッチングを用いると、エッチング量が少量であるため、材料コストや製造コストを大幅に低減させることができる。
そして、上述の順番で各工程を実施することにより、全体的に膜厚分布が均一なエピタキシャル膜21を形成することができる。
【0028】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
例えば、上記実施形態では、シリコン単結晶インゴットをCZ法により引き上げたが、MCZ法(Magnetic Field Applied Czochralski process)またはFZ法(Floating Zone process)等で引き上げてもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、気相エッチングにおいてオゾンおよびフッ化水素の混合ガスを用いたが、これに限られず、前述のC、CF、HClなどを使用してもよい。これらに用いられるガスの選択および濃度によって、温度、圧力、エッチングレートおよび時間等を適宜調整することができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制約されるものではない。
以下の実施例および比較例に示す製造方法でエピタキシャルウェハを製造した。
【0031】
[実施例1]
前述の実施形態の製造方法によってエピタキシャルウェハを製造した。すなわち、CZ法によって引き上げられたシリコン単結晶インゴットをスライスして、研削工程、化学エッチング工程の後、粗研磨工程(DSP)、気相エッチング工程、エピタキシャル形成工程(EPI)、仕上げ研磨工程(SMP)を実施した。
気相エッチング工程における処理条件は以下の通りである。
エッチャント:オゾンとフッ加水素の混合ガス(常温・常圧で、オゾンガス濃度:120g/m、フッ化水素ガス濃度:23g/m
圧力:106kPa
温度:26℃
エッチングレート:50nm/min
【0032】
[比較例1]
前述の従来技術Aの製造方法によってエピタキシャルウェハを製造した。すなわち、化学エッチング工程の後、DSP、SMP、EPIの順で実施した。
【0033】
[比較例2]
前述の従来技術Bの製造方法によってエピタキシャルウェハを製造した。すなわち、化学エッチング工程の後、DSP、EPI、SMPの順で実施した。
【0034】
[比較例3]
前述の従来技術Cの製造方法によってエピタキシャルウェハを製造した。すなわち、化学エッチング工程の後、DSP、SMP、EPI、SMPの順で実施した。
【0035】
[比較例4]
前述の従来技術Dの製造方法によってエピタキシャルウェハを製造した。すなわち、化学エッチング工程の後、DSP、液相エッチング、EPI、SMPの順で実施した。
液相エッチング工程では、エッチングレート50〜5000nm/minでエッチングを行った。
【0036】
上述の実施例および比較例について、製造コスト、エピタキシャルウェハの平坦度、エピタキシャル膜の膜厚分布、ヘイズおよび積層欠陥(SF)を評価した。評価基準は以下の通りである。
【0037】
(製造コストの評価)
○:材料コストおよび製造コストが廉価
△:材料コストおよび製造コストがやや高価
×:材料コストおよび製造コストが高価
【0038】
(平坦度の評価)
平坦度を表すために標準化されたパラメータであるGBIR(Global flatness back reference ideal range)値を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:平坦に形成されている(GBIR値<0.2μm)
△:一部凹凸が形成されている(0.2μm<GBIR値<0.3μm)
×:凹凸が形成されている(GBIR値>0.3μm)
【0039】
(エピタキシャル膜の膜厚分布の評価)
ACCENT社製QS−3000(FTIR)を用いて、エピタキシャル膜の膜厚分布を測定した。
○:全体的に均一である
△:一部が不均一である
×:全体的に不均一である
【0040】
(ヘイズの評価基準)
ヘイズとは、シリコンウェハの仕上げ研磨面における極めて微細な凹凸である。KLA社製SurfscanSP2(DWO)を用いてヘイズを測定した。評価基準は以下の通りである。
○:ヘイズ良好(ヘイズ<0.01ppm)
△:ヘイズレベル通常(0.01ppm<ヘイズ<0.05ppm)
×:ヘイズレベル悪化(ヘイズ>0.05ppm)
【0041】
(積層欠陥(SF)の個数の評価基準)
共焦点顕微鏡によりシリコンウェハの表面を走査して、積層欠陥(SF)の個数を確認した。
○:SFが0個
△:SFが1〜2個
×:SFが3個以上
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、実施例1は、全ての項目において良好な結果が得られている。一方、比較例1は、エピタキシャル膜の膜厚が不均一であるとともに、表面のマクロラフネスによりヘイズに問題がある。比較例2は、SFが多く発生している。比較例3は、製造コストが高額になっている。比較例4は、製造コスト、平坦度、およびエピタキシャル膜の膜厚に問題がある。
【0044】
ここで、比較例1〜4の各工程後のウェハの状態を、図4〜7を用いて具体的に説明する。
図4は、比較例1の各工程後のウェハを示している。図4(A)に示すように、粗研磨工程後のウェハ411は平坦かつ均一の厚みに形成される。次に、図4(B)に示すように、仕上げ研磨工程が行われると、ウェハ411の外周縁部411Aに近づくほど厚みが小さくなり、平坦に形成されない。そして、図4(C)に示すように、エピタキシャル膜421を形成すると、エピタキシャルウェハの表面は平坦に形成されるものの、エピタキシャル膜421の膜厚分布が不均一となる。
【0045】
図5は、比較例2の各工程後のウェハを示している。図5(A)に示すように、粗研磨工程後のウェハ311の表面は平坦かつ均一の厚みに形成される。次に、図5(B)に示すように、エピタキシャル膜321が形成されると、積層欠陥部322が形成されるとともに、エピタキシャル膜321の外周縁部321Aに近づくほど膜厚が大きくなる。そして、図5(C)に示すように、仕上げ研磨工程を行うと、エピタキシャル膜321の表面が研磨されてエピタキシャル膜321の膜厚分布が均一となり、エピタキシャルウェハの表面は平坦となるものの、前述したように、積層欠陥部322は残留する。
【0046】
図6は、比較例3の各工程後のウェハを示している。図6(A)に示すように、仕上げ研磨工程後のウェハ511は、その外周縁部511Aに近づくほど膜厚が小さくなる。次に、図6(B)に示すように、エピタキシャル膜521が形成されると、エピタキシャル膜521の表面は平坦に形成されるものの、エピタキシャル膜521の膜厚分布が不均一となる。そして、図6(C)に示すように、再度仕上げ研磨工程が行われると、エピタキシャル膜521が研磨されて膜厚分布が均一となるが、エピタキシャルウェハ全体としては膜厚が不均一であり、平坦な表面を得ることができない。
【0047】
図7は、比較例4の各工程後のウェハを示している。図7(A)に示すように、液相エッチング工程後のウェハ411は、その外周縁部411Aに近づくほど膜厚が小さくなるとともに、その表面に実施例1と比べると大きな凹凸が形成される。次に、図7(B)に示すように、エピタキシャル膜421が形成されると、エピタキシャル膜421の表面は平坦に形成されるものの、エピタキシャル膜421の膜厚分布が不均一となる。そして、図7(C)に示すように、仕上げ研磨工程が行われると、エピタキシャル膜421の表面が研磨されて膜厚分布が均一となるが、エピタキシャルウェハ全体としては外周縁部411Aに近づくほど厚みが小さくなり、平坦な表面を得ることができない。
【0048】
以上より、比較例1から比較例4では、エピタキシャル膜の膜厚分布が不均一であったり、また、シリコンウェハの外周縁部の膜厚が小さくなって平坦に形成されなかったり、高品質なシリコンウェハを得ることが困難である。しかしながら、本発明である実施例1では、エピタキシャル膜の膜厚分布が均一であるとともに、シリコンウェハの表面が平坦に形成されるので、高品質なシリコンウェハを提供することができる。
【0049】
次に、実施例1、比較例3および比較例4について、ウェハ表面における取りしろと積層欠陥(SF)の個数との関係を示すグラフを図8に示す。
図8に示されるように、実施例1は、気相エッチング時の少ない取りしろ(エッチング量)でSFの個数を抑えることができる。比較例3は、仕上げ研磨を2回実施するため、研磨量が増大していることがわかる。比較例4は、液相エッチングを用いているので、気相エッチングを用いた実施例1よりも取りしろ(エッチング量)が多く必要であることがわかる。
すなわち、気相エッチングを用いた実施例1では、エッチング量を少なくすることができるので、材料コストおよび製造コストを低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、エピタキシャルウェハの製造方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態におけるエピタキシャルウェハの製造方法を示すフローチャート。
【図2】前記実施形態における気相エッチングにより積層欠陥部を除去する工程を示す図で、(A)は気相エッチング後の状態、(B)はエピタキシャル膜積層後の状態、(C)は仕上げ研磨後の状態を示している。
【図3】前記実施形態における各工程後のウェハの状態を示す図で、(A)は気相エッチング工程後の状態、(B)はエピタキシャル膜形成後の状態、(C)は仕上げ研磨工程後の状態を示している。
【図4】従来技術における各工程後のウェハの状態を示す図で、(A)は粗研磨工程後の状態、(B)は仕上げ研磨工程後の状態、(C)はエピタキシャル膜形成後の状態を示している。
【図5】従来技術における各工程後のウェハの状態を示す図で、(A)は粗研磨工程後の状態、(B)はエピタキシャル膜形成後の状態、(C)は仕上げ研磨工程後の状態を示している。
【図6】従来技術における各工程後のウェハの状態を示す図で、(A)は仕上げ研磨工程後の状態、(B)はエピタキシャル膜形成後の状態、(C)は仕上げ研磨工程後の状態を示している。
【図7】従来技術における各工程後のウェハの状態を示す図で、(A)は液相エッチング工程後の状態、(B)はエピタキシャル膜形成後の状態、(C)は仕上げ研磨工程後の状態を示している。
【図8】本実施例におけるウェハの取りしろとSFの個数との関係を示すグラフ。
【図9】従来技術においてウェハの表面に積層欠陥が形成される工程を示す図で、(A)は粗研磨後の状態、(B)はエピタキシャル膜形成後の状態、(C)は仕上げ研磨工程後の状態を示している。
【図10】従来技術において液相エッチングにより積層欠陥部を除去する工程を示す図で、(A)は液相エッチング後の状態、(B)はエピタキシャル膜積層後の状態、(C)は仕上げ研磨後の状態を示している。
【符号の説明】
【0052】
11…ウェハ
111…加工変質部
112…エッチング凹部
21…エピタキシャル膜
211…エピ凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハの成膜面上にエピタキシャル膜を気相成長させたエピタキシャルウェハの製造方法であって、
前記ウェハの成膜面に粗研磨を施す粗研磨工程と、
前記粗研磨したウェハの成膜面に気相エッチング処理を施すことで、前記粗研磨時に前記成膜面に作用する応力により形成された欠陥と前記成膜面とをエッチングする気相エッチング工程と、
前記気相エッチング処理したウェハの成膜面にエピタキシャル膜を気相成長させるエピタキシャル膜形成工程と、
前記エピタキシャル膜が形成されたウェハに仕上げ研磨を施す仕上げ研磨工程と、を備えた
ことを特徴とするエピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項2】
ウェハの成膜面に施した粗研磨により発生した欠陥を除去するエピタキシャルウェハの欠陥除去方法であって、
前記成膜面に気相エッチング処理を施すことで、前記欠陥と前記成膜面とをエッチングする
ことを特徴とするエピタキシャルウェハの欠陥除去方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエピタキシャルウェハの製造方法によって製造されたエピタキシャルウェハであって、
前記エピタキシャル膜に、前記欠陥に起因して生じる積層欠陥が2個以下である
ことを特徴とするエピタキシャルウェハ。
【請求項4】
請求項3に記載のエピタキシャルウェハにおいて、
前記エピタキシャル膜に、前記欠陥に起因して生じる積層欠陥が0個である
ことを特徴とするエピタキシャルウェハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−171330(P2010−171330A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14364(P2009−14364)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】