説明

エンジンのアイドリングストップ制御装置

【課題】 車両の減速走行中にアイドリングストップ制御を行う車両において、エンジンで駆動される第1オイルポンプを可能な限り作動させて変速機の制御を可能にする。
【解決手段】 車両の減速走行中に車速が所定車速以下になり、かつ変速機Tの変速比が所定変速比以上になるとエンジンEのアイドリングストップを許可する。またエンジンEのアイドリングストップが許可された状態でエンジン回転数が所定回転数以下になるとロックアップクラッチ22を係合解除するので、アイドリングストップが許可された後もロックアップクラッチ22の係合により駆動輪Wから逆伝達される駆動力でエンジンEを回転させ、エンジンEに接続された第1オイルポンプ47を駆動して変速機Tの制御を継続することができ、これにより車両の走行中からエンジンEのアイドリングストップを可能にして燃料消費量の節減に寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の減速走行中に車速が所定値以下になるとエンジンをアイドリングストップするエンジンのアイドリングストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中に運転者が減速を行うべくアクセルペダルから足を離してブレーキペダルを踏み、減速により車速が基準車速以下に低下するとエンジンを自動停止し、エンジンが停止した状態で運転者が車両を発進させるべくブレーキペダルから足を離してアクセルペダルを踏むとエンジンを再始動するものにおいて、エンジンおよび変速機間に配置されたトルクコンバータのロックアップクラッチが係合状態にある場合には、車両の減速度の増加に応じて前記基準車速を高くすることで、エンジンの回転が不安定になる前にエンジンを自動停止するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また走行用駆動源としてエンジンおよびモータ・ジェネレータを備え、エンジンおよびモータ・ジェネレータと変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを配置したハイブリッド車両において、エンジンを停止から運転に切り換える際に、あるいは運転から停止に切り換える際に、ロックアップクラッチを一時的に係合解除または半係合にすることでショックの発生を防止するものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4237132号公報
【特許文献2】特許第3927325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、変速機に油圧を供給するオイルポンプがエンジンに直接接続されて駆動される場合、上記特許文献1に記載されているように車両の減速走行中にエンジンを停止させてしまうと、エンジンに接続されたオイルポンプが油圧を発生することができなくなるため、車両が依然として走行しているにもかかわらずに変速機に油圧を供給できなくなる問題がある。例えば、変速機がベルト式無段変速機である場合には、オイルポンプの停止により油圧の供給が遮断されると、車両の走行中に変速比の制御ができなくなるだけでなく、プーリの側圧の減少により金属ベルトがスリップして耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
これを防止するには、エンジンにより駆動される第1オイルポンプ以外に、電動モータにより駆動される第2オイルポンプを設け、エンジンのアイドリングストップ後は電動モータで駆動される第2オイルポンプが発生する油圧で変速機の制御を継続することが考えられる。しかしながら、上述のようにすると大型で大容量の第2オイルポンプが必要になるだけでなく、第2オイルポンプが作動する時間が長くなって電動モータの消費電力が増加する問題がある。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたもので、車両の減速走行中にアイドリングストップ制御を行う車両において、エンジンで駆動される第1オイルポンプを可能な限り作動させて変速機の制御を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、走行用のエンジンと、前記エンジンの駆動力を変速して駆動輪に伝達する変速機と、前記エンジンおよび前記変速機間に配置されたトルクコンバータと、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチと、前記エンジンにより駆動されて前記変速機に油圧を供給する第1オイルポンプと、車両の減速走行中に車速が所定車速以下になり、かつ変速比が所定変速比以上になると前記エンジンのアイドリングストップを許可するアイドリングストップ制御手段とを備えるエンジンのアイドリングストップ制御装置において、前記アイドリングストップ制御手段は、前記エンジンのアイドリングストップが許可された状態でエンジン回転数が所定回転数以下になると前記ロックアップクラッチを係合解除することを特徴とするエンジンのアイドリングストップ制御装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記所定回転数は、アイドリング回転数以下であり、かつ前記第1オイルポンプが供給する油圧で前記変速機を制御可能な回転数以上であることを特徴とするエンジンのアイドリングストップ制御装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、電動モータで作動する第2オイルポンプを備え、前記アイドリングストップ制御手段は、エンジン回転数が所定回転数以下になって前記ロックアップクラッチが係合解除すると、前記第2オイルポンプを作動させて前記変速機に油圧を供給することを特徴とするエンジンのアイドリングストップ制御装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記アイドリングストップ制御手段は、前記エンジンの減速フュエルカット中のエンジン回転数が前記所定回転数よりも大きいフュエルカット下限回転数になっても、前記減速フュエルカットおよび前記ロックアップクラッチの係合を継続することを特徴とするエンジンのアイドリングストップ制御装置が提案される。
【0012】
尚、実施の形態のベルト式無段変速機Tは本発明の変速機に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明のアイドリングストップ制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、アイドリングストップ制御手段は、車両の減速走行中に車速が所定車速以下になり、かつ変速機の変速比が所定変速比以上になるとエンジンのアイドリングストップを許可する。またアイドリングストップ制御手段は、エンジンのアイドリングストップが許可された状態でエンジン回転数が所定回転数以下になるとロックアップクラッチを係合解除するので、アイドリングストップが許可された後もロックアップクラッチの係合により駆動輪から逆伝達される駆動力でエンジンを回転させ、エンジンに接続された第1オイルポンプを駆動して変速機の制御を継続することができ、これにより車両の走行中からエンジンのアイドリングストップを可能にして燃料消費量の節減に寄与することができる。しかもエンジンの再始動に続く車両の発進時にロックアップクラッチは係合解除しているため、車両の飛び出しを未然に回避することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、ロックアップクラッチを係合解除する所定回転数は、アイドリング回転数以下であり、かつ第1オイルポンプが供給する油圧で変速機を制御可能な回転数以上であるので、エンジン回転数がアイドリング回転数以下になっても、駆動輪からエンジンに逆伝達される駆動力でエンジンを回転させて第1オイルポンプの作動時間を最大限に延長し、変速機の制御を可能にすることができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、アイドリングストップ制御手段は、エンジン回転数が所定回転数以下になってロックアップクラッチが係合解除すると、電動モータで作動する第2オイルポンプを駆動して変速機に油圧を供給するので、エンジンが停止して第1オイルポンプが油圧を供給できなくなった後も第2オイルポンプで引き続き変速機に油圧を供給することができる。これにより、次にエンジンを始動して車両を発進させるとき、エンジンで駆動される第1オイルポンプが発生する油圧が立ち上がるのを待たずに、変速機を制御可能にして車両を速やかに発進させることができる。また第2オイルポンプはエンジンの停止中に必要最小限の油圧を発生すれば良いために小型軽量なもので済み、しかも第1オイルポンプの作動時間が最大限に延長されるために第2オイルポンプの作動時間が短くなって消費電力が節減される。
【0016】
また請求項4の構成によれば、エンジンの減速フュエルカット中のエンジン回転数がフュエルカット下限回転数になっても、燃料供給を再開することなく減速フュエルカットおよびロックアップクラッチの係合を継続するので、燃料消費量を節減しながら走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】自動車の駆動力伝達系のスケルトン図。
【図2】制御系のブロック図。
【図3】アイドリングストップ制御を説明するタイムチャート。
【図4】アイドリングストップ制御を説明するフローチャート。
【図5】ロックアップクラッチ係合解除回転数の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1に示すように、エンジンEの駆動力は、トルクコンバータ11、前後進切換機構12、ベルト式無段変速機T、減速機13、ディファレンシャルギヤDおよび左右の足軸14,14を介して左右の駆動輪W,Wに伝達される。
【0020】
トルクコンバータ11は、エンジンEのクランクシャフト15に接続されたフロントカバー16に固定されたポンプインペラ17と、出力軸18に固定されたタービンランナ19と、ポンプインペラ17およびタービンランナ19間に配置されてケーシング20に固定されたステータ21と、フロントカバー16およびタービンランナ19を直結可能なロックアップクラッチ22とを備える。ロックアップクラッチ22が係合解除した状態では、クランクシャフト15の駆動力がポンプインペラ17、タービンランナ19およびステータ21間を循環する作動流体によりトルク増幅されて出力軸18に伝達され、ロックアップクラッチ22が係合した状態では、クランクシャフト15の駆動力が直接出力軸18に伝達される。
【0021】
前後進切換機構12は、遊星歯車機構23と、フォワードクラッチ24と、リバースブレーキ25とで構成される。遊星歯車機構23は、サンギヤ26と、リングギヤ27と、キャリヤ28と、キャリヤ28に回転自在に支持されてサンギヤ26およびリングギヤ27に同時に噛合する複数のピニオン29…とを備える。ベルト式無段変速機Tのメインシャフト31に固定されたサンギヤ26とトルクコンバータ11の出力軸18とがフォワードクラッチ24により結合可能であり、キャリヤ28とケーシング30とがリバースブレーキ25により結合可能である。
【0022】
従って、前後進切換機構12のフォワードクラッチ24を係合すると、トルクコンバータ11の出力軸18の回転がベルト式無段変速機Tのメインシャフト31に直接伝達されて前進変速段が確立する。また前後進切換機構12のリバースブレーキ25を係合してキャリヤ28をケーシング30に固定すると、トルクコンバータ11の出力軸18の回転が減速され、かつ逆回転となってベルト式無段変速機Tのメインシャフト31に伝達されて後進変速段が確立する。
【0023】
ベルト式無段変速機Tは、メインシャフト31に設けられたドライブプーリ33と、カウンタシャフト32に設けられたドリブンプーリ34と、ドライブプーリ33およびドリブンプーリ34に巻き掛けられた金属ベルト35とで構成される。ドライブプーリ33は固定側プーリ半体36および可動側プーリ半体37を備え、プーリ油室38に供給される油圧を制御することで溝幅を制御可能である。またドリブンプーリ34は固定側プーリ半体39および可動側プーリ半体40を備え、プーリ油室41に供給される油圧を制御することで溝幅を制御可能である。従って、ドライブプーリ33およびドリブンプーリ34のプーリ油室38,41に供給する油圧を変化させることで、変速比を無段階に制御するとともに、ドライブプーリ33およびドリブンプーリ34と金属ベルト35との間のスリップを防止することができる。
【0024】
減速機13は、ベルト式無段変速機Tのカウンタシャフト32に固設された第1減速ギヤ42と、減速軸44に固設されて第1減速ギヤ42に噛合する第2減速ギヤ43と、減速軸44に固設されたファイナルドライブギヤ45とを備え、ファイナルドライブギヤ45はディファレンシャルギヤDのケースに固設したファイナルドリブンギヤ46に噛合する。
【0025】
エンジンEのクランクシャフト15と第1オイルポンプ(メカオイルポンプ)47とが、ドライブスプロケット48、無端チェーン49およびドリブンスプロケット50を介して接続され、第1オイルポンプ47が吐出するオイルは、トルクコンバータ11、前後進切換機構12、ベルト式無段変速機T、減速機13等に作動油あるいは潤滑油として供給される。また電動モータ51で駆動される第2オイルポンプ(電動オイルポンプ)52が設けられており、この第2オイルポンプ52はエンジンEが停止して第1オイルポンプ47が作動不能になったときに作動する。
【0026】
図2に示すように、エンジンEのアイドリングストップを制御する電子制御ユニットUには、車速を検出する車速検出手段Saと、アクセルペダル開度を検出するアクセルペダル開度検出手段Sbと、ベルト式無段変速機Tの変速比を検出する変速比検出手段Scと、ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキ操作検出手段Sdと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段Seと、エンジンEの燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段53と、ロックアップクラッチ22の係合を制御する油圧制御手段54と、第2オイルポンプ52の電動モータ51の作動を制御する電動モータ制御手段55とが接続される。
【0027】
次に、電子制御ユニットUにより実行されるアイドリングストップ制御に関連する作用を、図3のタイムチャートおよび図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0028】
運転者が車両を減速すべくアクセルペダルから足を離し(図3のa点参照)、アクセルペダル開度検出手段Sbがアクセルペダル開度がゼロになったことを検出すると、電子制御ユニットUからの指令で燃料噴射量制御手段53が燃料消費量を節減すべくフュエルカットを実行するとともに(図3のm点参照)、電子制御ユニットUからの指令で油圧制御手段54がトルクコンバータ11のロックアップクラッチ22に供給する油圧をLC圧CMDに制御することで、ロックアップクラッチ22が所定の係合力に制御される(図3のb点参照)。ロックアップクラッチ22の係合力を変化させる理由は、ロックアップクラッチ22は車両のクルージング中に既に係合しているが、車両が減速状態に移行するとロックアップクラッチ22の必要な係合力が小さくなるためである。
【0029】
運転者がアクセルペダルから足を離し、続いてブレーキペダルを踏み込むと(図3のc点参照)、車速検出手段Saで検出される車速は次第に減少し、それに応じて変速機ECUがドライブプーリ33の可動側プーリ半体37のプーリ油室38に供給するDR圧と、ドリブンプーリ34の可動側プーリ半体40のプーリ油室41に供給するDN圧とを制御することで、ベルト式無段変速機Tの両プーリ33,34および金属ベルト35間のスリップを抑制しながら、変速比をLOWに向かって増加させる。その間、電動モータ51は駆動されずに第2オイルポンプ52は停止しているが、運転中のエンジンEのクランクシャフト15によって駆動される第1オイルポンプ47がベルト式無段変速機Tやロックアップクラッチ22に必要な油圧を供給する。
【0030】
通常のアイドリングストップ制御では、減速フュエルカットの状態から変速比がLOW側に戻ってエンジン回転数がロックアップクラッチ係合解除回転数になるとロックアップクラッチが係合解除し、ロックアップクラッチの係合解除によりエンジン回転数が更に低下してフュエルカット下限回転数になると、エンジンEのストールを防止すべく燃料供給を再開してアイドリング運転に移行させ、続いて車両が停止して車速がゼロになったときにエンジンEを停止させるようになっている。
【0031】
それに対して本実施の形態では、減速フュエルカットの状態で車速検出手段Saで検出される車速が所定値(例えば、10km/h)以下になり(図3のd点参照)、変速比検出手段Scで検出される変速比がLOWに近い所定値以上になると(図3のe点参照)、電子制御ユニットUは車両の走行中のアイドリングストップを許可する(図3のf点および図4のステップS1参照)。しかしながら、エンジンEがアイドリングストップ制御されても、ロックアップクラッチ22が依然として係合しているため、駆動輪W,Wから逆伝達される駆動力でエンジンEのクランクシャフト15は回転し続け、クランクシャフト15に接続された第1オイルポンプ47が駆動されるため(図4のステップS2参照)、第2オイルポンプ52を電動モータ51で駆動せずとも、ベルト式無段変速機Tやロックアップクラッチ22に必要な油圧を供給することができる。またエンジンEの減速フュエルカット中のエンジン回転数がフュエルカット下限回転数になっても、燃料供給を再開することなく減速フュエルカットおよびロックアップクラッチ22の係合を継続するので、燃料消費量を節減しながら走行することができる。
【0032】
図3におけるNTWはトルクコンバータ11のタービンランナ19の回転数(つまり出力軸18)の回転数であり、NEはエンジン回転数である。ロックアップクラッチ22が係合しているとき、NTWはNEに一致する。
【0033】
エンジン回転数検出手段Seで検出されるエンジン回転数NEが更に低下して所定回転数以下になると(図3のg点参照)、電子制御ユニットUからの指令で油圧制御手段54がLC圧CMDを低下させてロックアップクラッチ22を係合解除する(図3のh点および図4のステップS3参照)。前記所定回転数は、エンジンEのアイドリング回転数以下であって、エンジンEおよびベルト式無段変速機Tからなるパワープラントが共振し、マウントを介して車体に不快な振動が発生する回転数よりも僅かに高い回転数である。
【0034】
ロックアップクラッチ22の係合解除によりクランクシャフト15が駆動輪W,Wから切り離されるため、エンジン回転数NEは車速(つまりトルクコンバータ11の出力軸18の回転数NTW)よりも速やかに低下してゼロになり(図3のk点参照)、またクランクシャフト15の回転に連動して回転する第1オイルポンプ47も回転を停止し、ベルト式無段変速機Tやロックアップクラッチ22に油圧を供給することができなくなる。しかしながら、ロックアップクラッチ22の係合解除と同時に、電子制御ユニットUからの指令で電動モータ51が駆動され、第2オイルポンプ52が作動して油圧を発生する。その結果、第2オイルポンプ52が発生する油圧でドライブプーリ33のDR圧およびドリブンプーリ34のDN圧が立ち上がり(図3のi点およびj点参照)、必要最小限の油圧を供給することでベルト式無段変速機Tの制御を継続することができる。
【0035】
やがて車速がゼロになって車両が完全に停止するが、車両が停止している間にも第2オイルポンプ52が作動してベルト式無段変速機Tおよびフォワードクラッチ24に必要最小限の油圧を供給し続ける(図4のステップS5参照)。よって、運転者がブレーキペダルから足を離し、アクセルペダルを踏み込んでエンジンEが再始動したとき、クランクシャフト15により駆動される第1オイルポンプ47が発生する油圧が立ち上がるのを待たずに、ベルト式無段変速機Tを遅滞なく作動させて車両の速やかな発進を可能にすることができる。エンジンEが再始動して第1オイルポンプ47が作動すると、電動モータ51による第2オイルポンプ52の作動は直ちに停止される。
【0036】
図5は、減速フュエルカット制御に続くアイドリングストップ制御においてロックアップクラッチ22を係合解除するエンジン回転数を説明するものである。
【0037】
エンジン回転数が高い側から、N1はフュエルカット下限回転数であり、減速フュエルカット中にアイドリングストップの許可条件が成立しない場合には、エンジンEのストールを防止するためにフュエルカット下限回転数N1でフュエルカットを中止して燃料供給を再開する必要がある。N2はエンジンの無負荷状態でのアイドリング回転数であり、一般的に750rpm程度の回転数である。
【0038】
N4は例えば400rpmの不快振動発生回転数であり、エンジン回転数が不快振動発生回転数N4からゼロになるまでの間、エンジンEおよびベルト式無段変速機Tよりなるパワープラントが共振し、マウントを介して車体に不快な振動を伝達する。本実施の形態では、不快振動発生回転数N4よりも僅かに高いロックアップクラッチ係合解除回転数N3でロックアップクラッチ22を係合解除してエンジン回転数を速やかにゼロに落とすので(図3のk点参照)、不快振動発生回転数N4を速やかに通過させて不快振動を最小限に抑えることができる。
【0039】
N5は例えば300rpmのポンプ吐出圧確保回転数であり、クランクシャフト15により駆動される第1オイルポンプ47が、ベルト式無段変速機Tやトルクコンバータ11を作動させる最小限の油圧を発生し得る回転数である。N3は不快振動発生回転数N4よりも僅かに高いロックアップクラッチ係合解除回転数であり、このロックアップクラッチ係合解除回転数N3でロックアップクラッチ22が係合解除してエンジン回転数がゼロまで低下する。
【0040】
ロックアップクラッチ係合解除回転数N3はエンジンEが自力で回転可能な最小回転数であるアイドリング回転数N2よりも低いため、アイドリング回転数N2からロックアップクラッチ係合解除回転数N3までの領域で、ロックアップクラッチ22の係合によりエンジンEは駆動輪W,Wにから逆伝達される駆動力で外部から駆動される。
【0041】
以上のように、本実施の形態によれば、エンジンEのアイドリングストップが許可されるとトルクコンバータ11のロックアップクラッチ22を係合し、不快振動発生回転数N4よりも僅かに高いロックアップクラッチ係合解除回転数N3以下になるとロックアップクラッチ22を係合解除するので、アイドリングストップ制御によりエンジンEへの燃料供給を停止した後も、ロックアップクラッチ22の係合により駆動輪W,Wから逆伝達される駆動力でエンジンEを回転させ、エンジンEに接続された第1オイルポンプ47を駆動してベルト式無段変速機Tの制御を継続し、変速比の制御や金属ベルト35のスリップ防止を可能にすることができる。これにより、車両の減速走行中からエンジンEのアイドリングストップを可能にして燃料消費量の節減に寄与することができる。
【0042】
またロックアップクラッチ22を係合解除するロックアップクラッチ係合解除回転数N3は、アイドリング回転数N2以下であり、かつ不快振動発生回転数N4以上であるので、エンジン回転数がアイドリング回転数N2以下になっても、駆動輪W,WからエンジンEに逆伝達される駆動力で第1オイルポンプ47の作動時間を最大限に延長し、電動モータ51により駆動される第2オイルポンプ52の作動時間を最小限に抑えて消費電力を節減することができる。また第2オイルポンプ52が作動するのは車速がゼロになる直前であるため、ベルト式無段変速機Tの制御を継続するために必要な油圧は小さくて済み、しかも車両の停止中に必要な油圧は次回の発進に備えるだけの必要最小限の油圧で済むため、第2オイルポンプ52を小型軽量化できるだけでなく、その消費電力を小さく抑えることができる。更に、エンジンEの再始動に続く車両の発進時にロックアップクラッチ22は係合解除しているため、車両の飛び出しを未然に回避することができる。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0044】
例えば、本発明の変速機は実施の形態のベルト式無段変速機Tに限定されず、他の無段変速機や有段式の自動変速機であっても良い。
【符号の説明】
【0045】
11 トルクコンバータ
22 ロックアップクラッチ
47 第1オイルポンプ
51 電動モータ
52 第2オイルポンプ
E エンジン
T ベルト式無段変速機(変速機)
U 電子制御ユニット(アイドリングストップ制御手段)
W 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のエンジン(E)と、前記エンジン(E)の駆動力を変速して駆動輪(W)に伝達する変速機(T)と、前記エンジン(E)および前記変速機(T)間に配置されたトルクコンバータ(11)と、前記トルクコンバータ(11)に設けられたロックアップクラッチ(22)と、前記エンジン(E)により駆動されて前記変速機(T)に油圧を供給する第1オイルポンプ(47)と、車両の減速走行中に車速が所定車速以下になり、かつ変速比が所定変速比以上になると前記エンジン(E)のアイドリングストップを許可するアイドリングストップ制御手段(U)とを備えるエンジンのアイドリングストップ制御装置において、
前記アイドリングストップ制御手段(U)は、前記エンジン(E)のアイドリングストップが許可された状態でエンジン回転数が所定回転数以下になると前記ロックアップクラッチ(22)を係合解除することを特徴とするエンジンのアイドリングストップ制御装置。
【請求項2】
前記所定回転数は、アイドリング回転数以下であり、かつ前記第1オイルポンプ(47)が供給する油圧で前記変速機(T)を制御可能な回転数以上であることを特徴とする、請求項1に記載のエンジンのアイドリングストップ制御装置。
【請求項3】
電動モータ(51)で作動する第2オイルポンプ(52)を備え、前記アイドリングストップ制御手段(U)は、エンジン回転数が所定回転数以下になって前記ロックアップクラッチ(22)が係合解除すると、前記第2オイルポンプ(52)を作動させて前記変速機(T)に油圧を供給することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のエンジンのアイドリングストップ制御装置。
【請求項4】
前記アイドリングストップ制御手段(U)は、前記エンジン(E)の減速フュエルカット中のエンジン回転数が前記所定回転数よりも大きいフュエルカット下限回転数になっても、前記減速フュエルカットおよび前記ロックアップクラッチ(22)の係合を継続することを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のエンジンのアイドリングストップ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−64453(P2013−64453A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203914(P2011−203914)
【出願日】平成23年9月19日(2011.9.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】