説明

エンジンの制御装置及びその制御方法

【課題】 エンジンの燃費を向上させ、しかも、作業機の最大速度が必要とされる場合には、必要とされる作業機の最大速度を低下させずに与えられるエンジンの制御装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】 指令手段による指令値に応じて第1目標回転数Nhと高速制御の領域F1とを設定する。第1目標回転数Nhに基づいて低回転側に第2目標回転数N2と高速制御の領域F2とを設定する。高速制御の領域F2での制御中は、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiとし、エンジン負荷とエンジン出力トルクとのマッチング点が最大トルク線で規制されるトルク値より低い所定のトルク値のところに到達したら、目標回転数を第2目標回転数N2から第1目標回転数Nhに変更制御するとともに、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定したエンジンの目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行うエンジンの制御装置及びその制御方法に関し、特に、エンジンの燃費消費量の改善を図ったエンジンの制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業車輌では、エンジン負荷がエンジンの定格トルク以下の場合には、トルク線図における高速制御の領域でエンジン出力トルクとのマッチングが行われている。例えば、燃料ダイアルでの設定に対応して目標回転数が設定され、設定された目標回転数に対応した高速制御の領域が定められる。あるいは、燃料ダイアルでの設定に対応して高速制御の領域が定められ、定められた高速制御の領域に対応してエンジンの目標回転数が設定される。そして、定められた高速制御の領域で、エンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせる制御が行われる。
【0003】
一般的に多くの作業者は作業量を上げるため、目標回転数をエンジンの定格回転数またはその近傍の回転数となるように設定することが多い。ところで、エンジンの燃料消費量が少ない領域、即ち、燃費の良い領域は、通常、エンジンのトルク線図上では中速回転数領域や高トルク領域に存在している。このため、無負荷ハイアイドル回転から定格回転の間で定められる高速制御の領域は、燃費の面からみると効率の良い領域とはなっていない。
【0004】
従来、エンジンを燃費の良い領域で駆動させるため、作業モード毎にエンジンの目標回転数の値とエンジンの目標出力トルクの値とを予め対応付けて設定し、複数の作業モードを選択できるようにした制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この種の制御装置では、作業者が、例えば、第2の作業モードを選択した場合には、第1の作業モードに比べてエンジンの回転数を低く設定することができ、燃費を改善することができる。
【0005】
しかしながら、上述したような作業モード切換方式を用いた場合には、作業者がモード切換手段を一々操作していかなければ燃費の改善を行うことができない。また、第2の作業モードを選択したときのエンジン回転数を、第1の作業モードを選択したときのエンジン回転数に対して一律に下げた回転数の値として設定しておいたときに、第2の作業モードが選択されると、次のような問題が起きてしまう。即ち、作業車輌の作業装置(以下、作業機という。)における最大速度は、第1の作業モードを選択した場合に比べて低下してしまう。この結果、第1の作業モードを選択したときの作業量に比べて、第2の作業モードを選択したときの作業量は少なくなってしまう。
【特許文献1】特開平10−273919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、上述したような従来技術の有していた課題を解決すべく、エンジン出力トルクが低い状態のときには、油圧ポンプの最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiとして、設定した第1目標回転数よりも低回転域側にある第2目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行い、エンジン出力トルクが高い状態でエンジンを使用するときには、油圧ポンプの最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loとして、第1目標回転数側にシフトしてエンジンの駆動制御を行うことができるエンジンの制御装置及びその制御方法を提供する。特に、エンジンの燃費を向上させることができ、しかも、作業機の最大速度が必要とされる場合での、必要とされる作業機の最大速度を低下させずに与えることのできるエンジンの制御装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は請求項1〜4に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願第1発明では、エンジンによって駆動される少なくとも1つの可変容量型油圧ポンプと、前記可変容量型油圧ポンプからの吐出圧油により駆動される少なくとも1つの油圧アクチュエータと、前記可変容量型油圧ポンプから吐出した圧油を制御して前記油圧アクチュエータに給排する制御弁と、を備えたエンジンの制御装置において、
可変に指令できる指令値の中から一つの指令値を選択して指令する指令手段と、前記指令手段で指令された指令値に応じて第1目標回転数を設定し、設定した前記第1目標回転数に基づいて、前記第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数を設定する設定手段と、前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量を、ローのポンプ容量Loとハイのポンプ容量Hiとの2段階に切換えるポンプリミッタと、を有し、
前記第2目標回転数に基づく前記エンジンの駆動制御時に、前記ポンプリミッタを制御して前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiに切換えておき、また、エンジン出力トルクが最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったときに、エンジンの目標回転数を前記第2目標回転数から前記第1目標回転数に変更するとともに、前記ポンプリミッタを制御して前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loに切換えてなることを最も主要な特徴となしている。
【0008】
また、本願第2発明では第1発明の構成に加えて、エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更した後の所定時間の間は、第1目標回転数を更に変更することを禁止した構成を主要な特徴となしている。
【0009】
本願の第3発明では第1発明を用いた制御方法を最も主要な特徴となしている。
また、本願第4発明では第3発明の構成に加えて、エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更した後の所定時間の間は、第1目標回転数を更に変更することを禁止したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係わるエンジンの制御装置及び同制御装置を用いた制御方法では、第2目標回転数に基づいてエンジンを駆動させているので、第1目標回転数に基づいてエンジンを駆動させた場合に比べて、エンジンの燃費効率を大幅に向上させることができる。しかも、可変容量型油圧ポンプのポンプ容量を制御する上において、最小のポンプ容量からローのポンプ容量Loの間で制御を行うよりも、最小のポンプ容量からハイのポンプ容量Hiの間で制御を行った方が、エンジンの燃費効率の良い範囲を使って制御を行うことができる。
【0011】
しかしながら、第2目標回転数に基づいてエンジンを駆動させていると、最大馬力を吸収することができなくなる。このため本発明では、第2目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行っているときに、エンジン出力トルクがトルク線図における最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったときには、エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更して、可変容量型油圧ポンプがエンジンの最大馬力を吸収することができるように構成している。
【0012】
あわせて、エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更するときには、可変容量型油圧ポンプの最大油圧容量をハイのポンプ容量Hiからローのポンプ容量Loに切換えている。このとき、エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更するときに、可変容量型油圧ポンプの最大油圧容量がハイのポンプ容量Hiの状態のままだと、可変容量型油圧ポンプからの吐出流量が増大して、アクチュエータの作動速度が増速してしまうことになる。
【0013】
このため、可変容量型油圧ポンプの最大油圧容量を、ハイのポンプ容量Hiの状態からローのポンプ容量Loに切換えることによって、可変容量型油圧ポンプから吐出する流量の増大を抑えて、アクチュエータの作動速度の目立った増速を抑えている。
【0014】
このように本発明によって、エンジン回転数と可変容量型油圧ポンプのポンプ容量としては、それぞれ効率の良いところを使用することができる。即ち、エンジンを燃費効率の良い領域にシフトして使用することが可能となるので、エンジンの燃料消費量を低減させることができる。
【0015】
また、アクチュエータの作動速度としては、従来の第1目標回転数を使用してエンジンの駆動制御を行なった場合と比べても、作業者に違和感を感じさせることがない。しかも、第2目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行なっているときに、エンジンの出力トルクが所定のトルク値に達すると、エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更してエンジンの回転数を上昇させている。これによって、可変容量型油圧ポンプは、エンジンの最大馬力を吸収することができるようになる。
【0016】
この様に構成することができるので、重掘削作業等においてエンジンの最大出力を必要とする作業においては、従来と同じ作業性能を発揮させることができる。即ち、作業機の最大速度が必要とされるエンジン出力トルクの範囲では、第1目標回転数に基づくエンジンの駆動制御を行いながら、作業機を操作することができる。
【0017】
ローのポンプ容量Loとしては、従来から第1目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行っているときに用いられる可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量と、同一のポンプ容量として設定しておくことができる。このため、ハイのポンプ容量Hiとしては、上述した従来の可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量よりも、大きな値として設定しておくことができる。
【0018】
そして、(ハイのポンプ容量Hi)×第2目標回転数=(ローのポンプ容量Lo)×第1目標回転数、という静的な関係式が成り立つように設定しておくことができる。
このようにハイのポンプ容量Hi及びローのポンプ容量Loを設定しておくことによって、第2目標回転数においてエンジンの駆動制御を行っても、従来の第1目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行ったときと同等のアクチュエータの最大作業速度を確保することができる。
【0019】
エンジンの目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に変更するときのエンジン出力トルクとしては、トルク線図における最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値として設定しておくことができる。このときの所定のトルク値としては、エンジンの回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に加速していくときに、必要なトルクを確保しておくことができるトルク値として、予め実験等により求めておくことができる。
【0020】
また、このときの所定のトルク値を特定するパラメータとしては、トルクの値を用いることも、エンジンが前記所定の値のトルクを出力している時のポンプ容量の値、あるいはそのときのエンジンの回転数の値を用いることもできる。
【0021】
従って、本願発明において上述した所定のトルク値を特定するために用いることのできるパラメータとしては、トルク値のほかにもポンプ容量の値、エンジンの回転数の値も包含されているものである。
【0022】
また、第1目標回転数、第2目標回転数に基づいて、エンジンのT−N線図(エンジン出力トルク軸とエンジン回転数軸とからなるトルク線図)において、それぞれに対応した高速制御の領域を設定することができ、各高速制御の領域でのエンジンの駆動制御を行うことができる。このため、これらの高速制御の領域におけるエンジンの駆動制御も本願発明では、第1目標回転数、第2目標回転数に基づいた各制御に包含されているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本発明のエンジンの制御装置及びエンジンの制御方法は、油圧ショベル、ブルドーザ、ホイールローダなどの作業車輌に搭載されるディーゼルエンジンを制御する制御装置及び制御方法として好適に適用することができるものである。
【0024】
また、本発明のエンジンの制御装置及びエンジンの制御方法としては、以下で説明する形状、構成以外にも本発明の課題を解決することができる形状、構成であれば、それらの形状、構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係わるエンジンの制御装置及びエンジンの制御方法における油圧回路図である。エンジン2はディーゼルエンジンであり、そのエンジン出力トルクの制御は、エンジン2のシリンダ内に噴射する燃料の量を調整することによって行われる。この燃料の調整は、従来から公知の燃料噴射装置3によって行うことができる。
【0026】
エンジン2の出力軸5には可変容量型の油圧ポンプ6(以下、油圧ポンプ6という。)が連結されており、出力軸5が回転することにより油圧ポンプ6が駆動される。油圧ポンプ6の斜板6aの傾転角は、ポンプ制御装置8によって制御され、斜板6aの傾転角が変化することで油圧ポンプ6のポンプ容量D(cc/rev)が変化する。
【0027】
油圧ポンプ6から吐出した圧油は、吐出油路25を通って制御弁9に供給される。制御弁9は、5ポート3位置に切換えることのできる切換弁として構成されている。制御弁9から出力される圧油を、油路26a、26bに対して選択的に供給することで、アクチュエータ10を伸縮作動させることができる。
【0028】
尚、アクチュエータとしては、例示した油圧シリンダ型のアクチュエータに限定されて解釈されるものではなく、油圧モータでもよく、また、ロータリー型のアクチュエータとして構成することもできる。また、制御弁9とアクチュエータ10との組を1組だけ例示しているが、制御弁9とアクチュエータ10との組を複数組構成しておくことも、1つの制御弁で複数のアクチュエータを操作するように構成しておくこともできる。
【0029】
即ち、例えば作業車輌として油圧ショベルを例に挙げてアクチュエータを説明すれば、ブーム用油圧シリンダ、アーム用油圧シリンダ、バケット用油圧シリンダ、左走行用油圧モータ、右走行用油圧モータ及び旋回モータ等が、アクチュエータとして用いられることになる。図1ではこれらの各アクチュエータのうちで、例えば、ブーム用油圧シリンダを代表させて示していることになる。
【0030】
操作レバー11aを中立位置から操作したとき、操作レバー11aの操作方向及び操作量に応じて、操作レバー装置11からはパイロット圧が出力される。出力されたパイロット圧は、制御弁9の左右のパイロットポートのいずれかに加えられることになる。これにより、制御弁9は、中立位置である(II)位置から左右の(I)位置又は(III)位置に切換えられる。
【0031】
制御弁9が(II)位置から(I)位置に切換えられると、油圧ポンプ6からの吐出圧油を、油路26bからアクチュエータ10のボトム側に供給することができ、アクチュエータ10のピストンを伸長させることができる。このとき、アクチュエータ10のヘッド側における圧油は、油路26aから制御弁9を通ってタンク22に排出されることになる。
【0032】
同様に、制御弁9が(III)位置に切換えられると、油圧ポンプ6からの吐出圧油は油路26aからアクチュエータ10のヘッド側に供給することができ、アクチュエータ10のピストンを縮小させることができる。このとき、アクチュエータ10のボトム側における圧油は、油路26bから制御弁9を通ってタンク22に排出されることになる。
【0033】
また、油路26bには、アクチュエータ10をブーム用油圧シリンダとしたときに、ブームが自然降下することを防止するロック弁43が配設されている。ロック弁43は、アクチュエータ10の構成によっては、配設しなくてもよい構成とすることができる。図1では、ロック弁43を簡略化して記載しているが、アクチュエータ10が伸長するときには、制御弁9から油路26bに出力される圧油によってロック弁43内のチェック弁が開弁して、圧油をアクチュエータ10のボトム側に流入させることができる。
【0034】
そして、アクチュエータ10が縮小するときには、操作レバー装置11からの図示しないパイロット圧に応じて前記チェック弁の開度が制御されて、アクチュエータ10のボトム側の圧油を、制御弁9を介してタンク22に排出することができる。
アクチュエータ10の負荷圧は、パイロット油路28を介して取り出され、取り出された負荷圧と油圧ポンプ6の吐出圧との差圧に応じて、ポンプ制御装置8が制御される。
【0035】
ポンプ制御装置8は、斜板6aの傾転角を制御するサーボシリンダ12とアクチュエータ10の負荷圧に応じて制御されるロードセンシング弁17(以下、LS弁17とする。)と、サーボピストン2位置切換弁16とから構成されている。サーボシリンダ12は、斜板6aに作用するサーボピストン14とサーボピストン14の最大作動位置を2段階に規制する切換ピストン13とを備えた構成となっている。
【0036】
吐出油路25の途中からは、油路27aと油路27bとが分岐している。油路27aは、LS弁17に作用するパイロット圧及びLS弁17に圧油を供給する油路として配設されている。また、油路27bは、サーボシリンダ12のポート23dに接続しており、油路27bからの圧油によって、サーボピストン14をサーボシリンダ12内に没入させる方向に押圧することができる。サーボピストン14をサーボシリンダ12内に没入させることによって、斜板6aの傾転角を大きくすることができる。
【0037】
サーボピストン14は、油路32の油圧と油路27bからの油圧との差圧によって、斜板6aの傾転角を最小にする位置と傾転角を最大にする位置との間で摺動することになる。また、最大となる斜板6aの傾転角、即ち、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量としては、切換ピストン13をA位置15aにしておくのか、B位置15bにしておくのかによって、ハイのポンプ容量Hiとローのポンプ容量Loとの2段階に調整することができる。
【0038】
図1において向かって左側にある切換ピストン13の端面が、サーボシリンダ12に当接した状態をA位置15aとしており、図1において向かって右側にある切換ピストン13の大径部の端面が、サーボシリンダ12に当接した状態をB位置15bとしている。サーボピストン2位置切換弁16は、2位置4ポートの切換弁として構成され、コントローラ7からの制御信号により、(a)位置と(b)位置との2位置に切換えられる。
【0039】
サーボピストン2位置切換弁16を(a)位置に切換えることによって、切換ピストン13をA位置15aに切換えることができ、このとき油圧ポンプ6における最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiとすることができる。また、(b)位置に切換えることによって、切換ピストン13をB位置15bに切換えることができ、このとき油圧ポンプ6における最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loとすることができる。
【0040】
即ち、サーボピストン2位置切換弁16を切換えることにより、切換ピストン13に当接するサーボピストン14の作動位置を2段階に切換えることができる。そして、ハイのポンプ容量Hiを規定するA位置15aと、ローのポンプ容量Loを規定するB位置15bとは、切換ピストン13をサーボシリンダ12内で機械的に当接させることによって得ることができる位置となっている。
【0041】
このため、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量を規定するハイのポンプ容量Hiとローのポンプ容量Loとは、変動しない固定されたポンプ容量として設定することができる。従って、ハイのポンプ容量Hiとローのポンプ容量Loとが変動して、不安定状態となってしまうことが防止できる。
【0042】
このように、油圧ポンプ6における斜板6aの傾転角の最大角は、サーボピストン2位置切換弁16を切換えることによって2段階に規制することができる。従って、サーボピストン2位置切換弁16は、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量を規制するポンプリミッタとして機能している。
【0043】
LS弁17は、2位置3ポートの切換弁として構成され、油路32をタンク22に接続する位置と油路27aに接続する位置とに切換えることができる。油路32は、サーボシリンダ12のポート23cに接続しており、油路27aは吐出油路25に連通している。油路32と油路27aとを接続する位置への切換えは、油路27aのポンプ圧とパイロット油路28の負荷圧との差圧によって行われる。また、油路32をタンク22に接続する位置への切換えは、パイロット油路28によるアクチュエータ10の負荷圧と、バネ24の押圧力とが作用する。バネ24の押圧力は、サーボピストン14の摺動に連動して移動する連動部材18の動きに応じて調整され、位置のフィードバック制御が行われる。
【0044】
LS弁17は、一端に作用する油圧ポンプ6の吐出圧と、他端に作用するアクチュエータ10の負荷圧及び連動部材18を介してのバネ24の付勢力とがバランスする位置に切換えられることになる。
【0045】
これにより、アクチュエータ10の負荷圧と油圧ポンプ6の吐出圧との差圧に応じて、LS弁17が制御され、LS弁17が制御されることによってサーボシリンダ12を制御することができる。また、サーボシリンダ12が制御されることで油圧ポンプ6の斜板角を制御することができる。従って、アクチュエータ10の負荷圧と油圧ポンプ6の吐出圧との差圧に応じて、油圧ポンプ6を制御することができる。
【0046】
作業者が指令手段としての燃料ダイアル4を操作することで、燃料ダイアル4で可変に指令できる指令値の中から一つの指令値を選択することができ、選択した指令値に対応した目標回転数を設定することができる。このようにして設定した目標回転数に応じて、エンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせる高速制御の領域を設定することができる。
【0047】
図2で示すように、燃料ダイアル4の操作に応じて第1目標回転数である目標回転数Nb(N´b)が設定されると、目標回転数Nb(N´b)に応じた高速制御の領域Fbが選択されることになる。このとき、エンジンの目標回転数は、回転数Nb(N´b)となる。
【0048】
尚、エンジンの目標回転数N´bは、エンジンの目標回転数を回転数Nbに制御するときにおける、無負荷時のエンジンの摩擦トルクと油圧系のロストルクとの合計値とエンジン出力トルクとがマッチングする点として定まることになる。そして、実際のエンジン制御においては、目標回転数N´bとマッチング点Psとを結んだ線を、高速制御の領域Fbとして設定することになる。
【0049】
以下では、目標回転数N´bが目標回転数Nbよりも高回転側にある例を用いて説明を行うが、目標回転数N´bと目標回転数Nbとを一致させることも、目標回転数N´bを目標回転数Nbよりも低回転側に持ってくるように構成することもできる。また、以下の説明において、例えば目標回転数Nc(N´c)のように、ダッシュ付きの回転数N´cを記載するが、ダッシュ付きの回転数N´cは、上述した説明によるところのものである。
【0050】
ここで、作業者が燃料ダイアル4を操作して、最初に選択した目標回転数Nb(N´b)とは異なる低い目標回転数Nc(N´c)を設定すると、高速制御の領域としては低回転域側における高速制御の領域Fcが設定されることになる。このとき設定された目標回転数Nc(N´c)が第1目標回転数となる。
【0051】
このように、燃料ダイアル4で指令値が設定されることにより、選択した指令値に対応した目標回転数を設定することができる。そして、設定した目標回転数に対応して1つの高速制御の領域を設定することができる。即ち、燃料ダイアル4を選択することによって、例えば、図2で示すように定格点K1を通る高速制御の領域Faと同高速制御の領域Faから低回転域側における複数の高速制御の領域Fb、Fc、・・・の中から任意の高速制御の領域、あるいは、これらの高速制御の領域の中間にある任意の高速制御の領域を設定することができる。
【0052】
図3のトルク線図において最大トルク線Rで規定される領域が、エンジン2が出し得る性能を示している。最大トルク線R上の定格点K1でエンジン2の出力(馬力)が最大になる。Mはエンジン2の等燃費曲線を示しており、等燃費曲線の中心側が燃費最小領域となっている。
【0053】
以下では、燃料ダイアル4の指令値に対応してエンジンの最大目標回転数である目標回転数Nh(N´h)が設定され、目標回転数Nh(N´h)に対応して定格点K1を通る高速制御の領域F1が設定された場合を例に挙げて説明する。即ち、第1目標回転数として、目標回転数Nh(N´h)が設定された場合について説明を行っていく。このとき、エンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせながら高速制御の領域F1上を移動させる制御フローについては、主に図1、図3及び図4を参照しながら図5の制御フロー図及び図6のコントローラのブロック図を用いて説明を行うことにする。
【0054】
尚、以下では、燃料ダイアル4の指令値に対応して、エンジン回転数としての最大目標回転数Nh(N´h)、定格点K1を通る高速制御の領域F1が第1目標回転数として設定された場合についての説明を行うが、本発明は定格点K1を通る高速制御の領域F1が設定された場合に限定されるものではない。例えば、設定された第1目標回転数に応じて、図2における複数の高速制御の領域Fb、Fc、・・・等の中から任意の高速制御の領域を設定した場合であったとしても、設定した各高速制御の領域に対して本発明を好適に適用することができる。
【0055】
図3は、エンジン出力トルクが増大していくときの様子を示しており、図4は、エンジン出力トルクが減少していくときの様子を示している。また、図5は、制御フローを示している。また、図6において一点鎖線で囲んだところがコントローラ7を示している。
【0056】
図5のステップ1において、コントローラ7は燃料ダイアル4の指令値を読み取る。コントローラ7が燃料ダイアル4の指令値を読み取ると、ステップ2に移る。
ステップ2では、コントローラ7は読み取った燃料ダイアル4の指令値に応じて、第1目標回転数としてエンジン2の目標回転数Nh(N´h)を設定し、設定した目標回転数Nh(N´h)に基づいて高速制御の領域F1を設定する。
【0057】
尚、読み取った燃料ダイアル4の指令値に応じて、エンジン2の目標回転数Nh(N´h)を最初に設定する旨の説明を行っているが、最初に高速制御の領域F1を設定して、設定した高速制御の領域F1に対応して目標回転数Nh(N´h)を設定することもできる。あるいは、読み取った燃料ダイアル4の指令値に応じて、目標回転数Nh(N´h)と高速制御の領域F1とを同時に設定することもできる。
【0058】
図3で示すように、第1目標回転数としての目標回転数Nh(N´h)及び高速制御の領域F1が設定されると、ステップ3に移る。
尚、図3において、最大目標回転数Nhのハイアイドル点N´hと定格点K1とを結ぶ線を高速制御の領域F1として示している。このハイアイドル点N´hは、図2を用いた高速制御の領域Fbの説明において既に説明したように、エンジンの目標回転数を最大目標回転数Nhに制御するときにおける、無負荷時のエンジンの摩擦トルクと油圧系のロストルクとの合計値とエンジン出力トルクとがマッチングする点として定めることができる。
【0059】
ステップ3では、コントローラ7は設定手段を用いて、第1目標回転数、高速制御の領域F1に対応して予め設定してある低回転域側にある第2目標回転数としての目標回転数N2(N´2)、目標回転数N2(N´2)に対応した高速制御の領域F2を決定する。また、ポンプリミッタであるサーボピストン2位置切換弁16を制御して、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiにする。
【0060】
高速制御の領域F2としては、例えば、油圧ショベルの作業機レバー11aを操作したときに、高速制御の領域F1で制御した場合に比べても、ロードセンシング制御によって操作速度が殆ど低下することのない高速制御の領域として予め設定しておくことができる。
【0061】
このような条件を満足するものであれば、燃料ダイアル4で設定できる各指令値に対応した高速制御の領域F1毎に、それぞれ高速制御の領域F2を設定しておくことができる。また、高速制御の領域F2に応じた第2目標回転数N2を、高速制御の領域F1に応じた第1目標回転数Nhに対して、例えば10%低くなるように設定することができる。第2目標回転数を第1目標回転数Nhに対して10%低くなるように設定した場合を例に挙げたが、ここで挙げている数値は、例示であって、本発明はこの数値に限定されるものではない。
【0062】
このようにして、燃料ダイアル4で設定できる各高速制御の領域F1に対応して、同高速制御の領域F1よりも低回転域側にある高速制御の領域F2を、予めそれぞれの高速制御の領域F1に対応した高速制御の領域として設定しておくことができる。
【0063】
尚、サーボピストン2位置切換弁16で規制される油圧ポンプ6の最大ポンプ容量となるローのポンプ容量Lo又はハイのポンプ容量Hiは、次のようにして決めておくことができる。
即ち、ローのポンプ容量Loでエンジン回転数を第1目標回転数としたときにおける油圧ポンプ6の吐出流量と、ハイのポンプ容量Hiでエンジン回転数を第2目標回転数としたときにおける油圧ポンプ6の吐出流量と、が略等しい吐出流量となる条件を満たすものとしてローのポンプ容量Lo及びハイのポンプ容量Hiを求めておくことができる。式で表すと、(ハイのポンプ容量Hi)×第2目標回転数=(ローのポンプ容量Lo)×第1目標回転数、という静的な関係式が成り立つように設定しておくことができる。
【0064】
即ち、ローのポンプ容量Loとしては、従来から第1目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行っているときに用いられる可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量と、同一のポンプ容量として設定しておくことができる。そして、ハイのポンプ容量Hiとしては、上述した従来の可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量よりも、大きな値として設定しておくことができる。高速制御の領域F2がコントローラ7によって決定され、油圧ポンプ6のポンプ容量を最大容量Hi状態にまで増大できるようにすると、ステップ4に移る。
ステップ4では、操作レバー11aが操作されると、図3の細かい点線で示すように、コントローラ7はエンジン負荷とエンジン出力トルクとのマッチングが高速制御の領域F2上で行われるように、燃料噴射装置3の制御を行う。
【0065】
操作レバー11aの操作状況は、操作レバー装置11内における圧油の圧力変動を圧力センサ23で検出することで検知することができるが、制御弁9に作用するそれぞれのパイロット圧の圧力変動を圧力センサで検出することによっても検知することもできる。また、操作レバー11aの操作量及び操作方向を電気的に検出することによっても検知することができる。
【0066】
このように、操作レバー11aの操作量及び操作方向を検出することができる各種検出手段を用いることによって、操作レバー11aの操作状況を検知することができる。
作業者が操作レバー11aを操作して、油圧ショベルの作業機速度を増速させる制御が開始されると、ステップ5に移る。
【0067】
ステップ5では、エンジン回転数を第2目標回転数N2に向かって上昇させながら、予め定めた所定値まで上昇したのか否かの判断を行う。エンジン出力トルクに注目すると、エンジン出力トルクが高速制御の領域F2上で最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったのか否かの判断を、ステップ5で行うことになる。
【0068】
所定のトルク値としては、エンジンの回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に加速していくときに、必要なトルクを確保しておくことができるトルク値として、予め実験等により求めておくことができ、例えば、最大トルク線R上のトルク値の90%の値として定めておくことができる。そして、エンジン出力トルクが、最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったか否かの判断は、油圧ポンプ6のポンプ容量やエンジン出力トルク等の各種パラメータの値を用いて検出することができる。
【0069】
エンジン出力トルクが最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったときには、エンジンの駆動制御を高速制御の領域F2での制御から高速制御の領域F1での制御に変更する。
【0070】
このときに行われているコントローラ7の制御について、図6を用いて説明する。図6において、コントローラ7内の燃料ダイアル指令値演算部42には、燃料ダイアル4の指令値47が入力されるとともに、油圧ポンプ6のポンプ容量を演算するポンプ容量演算部43から出力されたポンプ容量が入力される。また、ポンプ圧とアクチュエータ10の負荷圧との差圧を検出する差圧センサ46からの検出信号、又はポンプ容量センサ49(共に図1では不図示)からの検出信号を、燃料ダイアル指令値演算部42に入力させることもできる。
【0071】
図6では、差圧センサ46から燃料ダイアル指令値演算部42に出力される検出信号、及び油圧ポンプ6からポンプ容量センサ49への検出信号とポンプ容量センサ49から燃料ダイアル指令値演算部42に出力される検出信号を、それぞれ点線を用いて示している。これは、これらの検出手段は、以下で説明するようにポンプ容量演算部43の代替手段として用いることができるのを示すため、点線を用いて示している。また、差圧センサ46とポンプ容量センサ49とは、独立して用いることができる。
【0072】
ポンプ容量演算部43は、ポンプ圧力センサ48により検出した油圧ポンプ6のポンプ圧力と、例えば、高速制御の領域におけるエンジン回転数とを用いてエンジンのトルク線図から求めたエンジントルク44が、ポンプ容量演算部43に入力されている。ポンプ容量演算部33ではこれらの入力された値から、ポンプ容量を演算して燃料ダイアル指令値演算部42に出力することになる。ポンプ圧力センサ48は、例えば、図1の吐出油路25におけるポンプ圧力を検出できるように配設しておくことができる。
【0073】
尚、ポンプ容量演算部43から出力されるポンプ容量を用いる代りに、ポンプ容量センサ49からの検出信号を、燃料ダイアル指令値演算部42に入力する構成としておくこともできる。ポンプ容量センサ49は、油圧ポンプ6の斜板角を検出するセンサ等として構成しておくことができる。
【0074】
燃料ダイアル指令値演算部42は、次のような条件が満たされていることを判断すると、高速制御の領域F2から高速制御の領域F1へのシフト制御を行わせるべく、新燃料ダイアル指令値45を設定する。そして、設定した新燃料ダイアル指令値45をエンジン2の燃料噴射装置3に指令する。
【0075】
高速制御の領域F2から高速制御の領域F1側に向けてシフトする制御を行わせる条件としては、エンジンの出力トルクが所定のトルク値となったときである。この所定のトルク値となったときは、エンジンの出力トルクが所定のトルク値となったときの油圧ポンプ6のポンプ容量、そのときのエンジン回転数、ポンプ吐出圧とアクチュエータ10の負荷圧との差圧等を用いて検出することができる。
【0076】
図5の制御フローに戻って、所定のトルク値を求めるパラメータとして、最初にエンジン出力トルクの値を用いた場合について説明する。
【0077】
コントローラ7は、コントローラ7に記憶されているトルク線図に基づいて、回転センサ20により検出されているエンジン回転数から、同エンジン回転数に対応した高速制御の領域F2上の位置を特定することができる。特定された高速制御の領域F2上の位置に基づいて、そのときのエンジン出力トルクの値を求めることができる。
【0078】
また、油圧ポンプ6のポンプ容量をパラメータの値として用いた場合には、油圧ポンプ6の吐出圧Pと吐出容量D(即ち、ポンプ容量D)とエンジン出力トルクTとの関係は、T=P・D/200πとして表せることができる。この関係式を用いたD=200π・T/Pの式から、そのときの油圧ポンプ6のポンプ容量を求めることができる。あるいは、油圧ポンプ6に斜板角センサ(図示せず)を装着して、油圧ポンプ6のポンプ容量を直接計測することによって、油圧ポンプ6のポンプ容量を求めることもできる。
【0079】
高速制御の領域F2上に沿って移動するように制御されているエンジン負荷とエンジン出力トルクとのマッチング点が、最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったことが判断されると、ステップ6に移り、未だ到達していないことが判断されると、ステップ11に移る。
【0080】
ステップ6では、エンジン回転数を第2目標回転数から第1目標回転数に上昇させ、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量を、ハイのポンプ容量Hiからローのポンプ容量Loに変更する制御が行われる。
【0081】
図3において、細かい点線の矢印で示した状態が、本発明に基づいてマッチング点が高速制御の領域F2から高速制御の領域F1に変更して移動する様子を示しており、太い点線の矢印で示した状態が、従来から行われているマッチング点を高速制御の領域F1上で移動させる様子を示している。
【0082】
操作レバー11aが深く操作されていた状態から戻されると、油圧ポンプ6の斜板角は小さくなり、コントローラ7は、燃料噴射装置3を制御して燃料噴射量を下げる。このように、高速制御の領域F1では、エンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせながら油圧ポンプ6のポンプ容量を最大状態から減少させ、エンジン出力トルクを減少させる制御を行うことになる。
ステップ6での制御が行われると、ステップ7に移ることになる。
【0083】
ステップ7では、エンジン2の目標回転数を第2目標回転数から第1目標回転数にシフトさせた制御を行ってから所定時間が経過したのか否かの判断を行う。所定時間が経過するまでの間は、コントローラ7は第1目標回転数に対応する高速制御の領域F1から別の高速制御の領域側へのシフトが行わないように制御する。
【0084】
所定時間が経過するまでの間に更に高回転域側にある高速制御の領域へのシフトが行われると、高回転域側にある高速制御の領域へのシフトが頻繁に起きてしまうことになる。高回転域側にある高速制御の領域へのシフトが頻繁に行われると、エンジンの回転数に変動を来たし、エンジン音の変動が作業者に違和感を与えてしまう恐れもある。
そのため、ステップ7では、所定時間が経過するまでは、ステップ7での制御を繰り返し、所定時間が経過した後にはステップ8に移ることになる。所定時間としては、必要に応じて任意の時間を設定しておくことができる。
【0085】
ステップ8では、コントローラ7が、第1目標回転数に対応する高速制御の領域F1でエンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせながらエンジン出力トルクを減少させる制御を行っているときに、油圧ポンプ6が所定のポンプ容量、例えば、最大ポンプ容量Loから減少して、更に、油圧ポンプ6のポンプ容量が減少傾向にあるとき、このときの高速制御の領域F1上の点を設定位置C(即ち、所定ポンプ容量)として設定しておくことができる。
【0086】
設定位置Cが検出されたときには、高速制御の領域F1から高速制御の領域F2へのシフトが行われる。設定位置Cとしては、油圧ポンプ6のポンプ容量が最大容量から減少して、更に、油圧ポンプ6のポンプ容量が減少傾向にあるときの位置として設定しておくこと以外にも、次のようにして設定しておくことができる。即ち、油圧ポンプ6の吐出圧とアクチュエータ10の負荷圧との差圧が、ポンプ制御装置8で設定されているロードセンシング差圧よりも上回ったときにおける高速制御の領域F1上の点を、設定位置Cとして設定しておくこともできる。
【0087】
また、例えば、高速制御の領域F1で制御を行ったときに得られるアクチュエータ10の作動速度と、高速制御の領域F1からシフトダウンした高速制御の領域F2において制御を行ったときに得られるアクチュエータ10の作動速度とが、略遜色のない状態として得ることのできる位置として、設定位置Cを設定しておくこともできる。
【0088】
即ち、エンジン出力トルクを減少させながら、エンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせながら高速制御の領域F1上を移動させた場合におけるアクチュエータ10の作業機速度の減少割合と、高速制御の領域F2にシフトさせて行ったときのアクチュエータ10の作業機速度の減少割合とが、どのような条件を満たせば滑らかな接続として実現することができるのかを実験的に求めておき、滑らかな接続ができる位置を設定位置Cとして設定しておくこともできる。
【0089】
設定位置Cを特定するためのパラメータの値としては、高速制御の領域F2から高速制御の領域F1にシフトするときの条件となる所定のトルク値を求める場合に用いた、各種パラメータを用いることができる。
設定位置Cが検出されるまでは、ステップ8での制御が繰り返されることになり、設定位置Cが検出されるとステップ9に移る。
【0090】
ステップ9では、コントローラ7は油圧ポンプ6最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiまで増大させることができるようにするとともに、エンジン回転数を減少させて、高速制御の領域F1を低回転域側である高速制御の領域F2側へシフトさせる制御を行う。
【0091】
高速制御の領域F2で制御される様子は、図4における細かい点線の矢印で示すような制御が行われることになり、従来から行われている高速制御の領域F1の状態のままで制御が行われている場合には、太い点線の矢印で示したような制御が行われることになる。
【0092】
これにより、高速制御の領域F1から高速制御の領域F2にシフトして、エンジン負荷とエンジン出力トルクとをマッチングさせる制御を行うことができるようになる。従って、エンジン2を低回転域側で回転させることができるようになり、エンジン2の燃費向上を図ることができる。
【0093】
また、設定位置Cは、エンジン出力トルクTの変化率、または、油圧ポンプ6のポンプ容量の変化率に応じてその位置を変更させることもできる。即ち、これらの変化率の減少する度合いが高いときには、設定位置Cの位置としてエンジン出力トルクの高い位置側に設定し、早めに高速制御の領域F2側へのシフトを行わせることもできる。
【0094】
ステップ9での制御が行われると、ステップ10に移ることになる。
ステップ10では、高速制御の領域F1を、低回転域側の高速制御の領域F2にシフトさせた制御を行ってから所定時間が経過したか否かの判断を行う。所定時間が経過するまでは、コントローラ7は高速制御の領域F2から更に別の高速制御の領域へのシフトが行わないように制御する。
【0095】
所定時間が経過するまでの間に更に高回転域側にある高速制御の領域へのシフトが行われると、高速制御の領域間でのシフトが頻繁に起きてしまうことになる。異なる高速制御の領域間でのシフトが頻繁に行われると、エンジンの回転数に変動を来たし、アクチュエータの作動速度に変調を起させてしまうことになる。
そのため、ステップ10では、所定時間が経過するまでは、ステップ10での制御を繰り返し、所定時間が経過した後にはステップ11に移ることになる。所定時間としては、必要に応じて任意の時間を設定しておくことができる。
【0096】
ステップ11では、コントローラ7は、燃料ダイアル4での指令値に対応する第1目標回転数を確認し、確認が終わるとステップ12に移る。
ステップ12では、燃料ダイアル4での指令値に対応する第1目標回転数の値が、他の目標回転数の値に変更されているか否かの判断を行う。第1目標回転数の値が変更されているときには、ステップ2に戻り、ステップ2以降の制御が行われることになる。また、第1目標回転数の値が変更されていないときには、ステップ5に戻り、ステップ5以降の制御が順次行われることになる。
尚、ステップ11及びステップ12の制御は必ずしも必要な制御ステップではないので、これらのステップを省略して制御フローを構成することもできる。
【0097】
本発明によって、エンジンの燃費効率を高めて、作業者が燃料ダイアル4での指令値に対応して設定した第1目標回転数に応じて高速制御の領域F1を設定し、設定した第1目標回転数、高速制御の領域F1に応じて予め設定した低回転域側の第2目標回転数及び高速制御の領域F2を設定し、第2目標回転数または高速制御の領域F2に基づいて、エンジンの駆動制御を開始することができる。しかも、高速制御の領域F2での制御のときは、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiとしておくことができ、高速制御の領域F1での制御のときは、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loとしておくことができる。
【0098】
これにより、高いエンジン出力トルクを必要としない領域では、低回転域側の第2目標回転数に基づいてエンジンの回転を制御することができ、エンジンの燃費効率を高めることができる。また、高いエンジン出力トルクを必要とする領域では、高回転域側の高速制御の領域にシフトしてエンジンの駆動制御を行わせることができ、作業機を操作する上で必要とする作業速度を充分に得ることができる。
【0099】
また、エンジンの高出力状態からエンジン出力トルクを減少させていくときには、低回転域側の第2目標回転数(高速制御の領域F2)にシフトしてエンジンの駆動制御を行うことができるので、燃費の向上を図ることができる。
【0100】
高速制御の領域F2から高速制御の領域F1への変更時には、エンジンの回転数は増大するが、油圧ポンプ6の最大ポンプ容量がハイのポンプ容量Hiからローのポンプ容量Loに制御されているので、油圧ポンプ6の吐出流量は略一定の吐出流量に保つことができる。このため、高速制御の領域の変更に伴ってアクチュエータの作動速度は増速したり減速したりせず、しかも、作業者のアクチュエータに対する操作の応答性を維持することができる。
【0101】
しかも、ハイのポンプ容量Hi及びローのポンプ容量Loは、機械的に固定されたポンプ容量として設定することができるので、油圧ポンプ6を最高ポンプ容量とした状態を安定させておくことができる。
【0102】
上述の実施例では、油圧回路としてロードセンシング制御装置を備えた油圧回路を用いて説明を行った。しかし、油圧ポンプ9の容量をエンジン回転数の実測値とエンジンのトルク線図から求める方法や、ポンプ斜板角センサで直接ポンプ容量を求める方法においては、図7で示すような油圧回路がオープンセンタタイプとして構成されていた場合であっても、同様に行うことができる。この場合においても、ポンプ制御装置8としては、上述したポンプ制御装置と同様に、可変容量型油圧ポンプ6の斜板角を2段階に規制することができる構成にしておくことが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、本発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施形態に係わる油圧回路図である。(実施例)
【図2】エンジンのトルク線図である。(実施例)
【図3】エンジン出力トルクを増加させるときのトルク線図である。(実施例)
【図4】エンジン出力トルクを減少させるときのトルク線図である。(実施例)
【図5】本発明に係わる制御フロー図である。(実施例)
【図6】コントローラのブロック図である。(実施例)
【図7】オープンセンタタイプとして構成された油圧回路図である。(実施例)
【符号の説明】
【0105】
2・・・エンジン、3・・・燃料噴射装置、4・・・燃料ダイアル、6・・・油圧ポンプ、7・・・コントローラ、8・・・ポンプ制御装置、9・・・制御弁、11・・・操作レバー装置、12・・・サーボシリンダ、13・・・切換ピストン、14・・・サーボピストン、16・・・サーボピストン2位置切換弁、17・・・LS弁、18・・・連動部材、23a〜23d・・・ポート、F1・・・高速制御の領域、F2・・・高速制御の領域、C・・・第1設定位置、Nh・・・定格回転数(高速制御の領域F1における目標回転数)、K1・・・定格点、R・・・最大トルク線、M・・・等燃費曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動される少なくとも1つの可変容量型油圧ポンプと、
前記可変容量型油圧ポンプからの吐出圧油により駆動される少なくとも1つの油圧アクチュエータと、
前記可変容量型油圧ポンプから吐出した圧油を制御して前記油圧アクチュエータに給排する制御弁と、
を備えたエンジンの制御装置において、
可変に指令できる指令値の中から一つの指令値を選択して指令する指令手段と、
前記指令手段で指令された指令値に応じて第1目標回転数を設定し、設定した前記第1目標回転数に基づいて、前記第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数を設定する設定手段と、
前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量を、ローのポンプ容量Loとハイのポンプ容量Hiとの2段階に切換えるポンプリミッタと、
を有し、
前記第2目標回転数に基づく前記エンジンの駆動制御時に、前記ポンプリミッタを制御して前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiに切換えておき、また、エンジン出力トルクがトルク線図における最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったときに、エンジンの目標回転数を前記第2目標回転数から前記第1目標回転数に変更するとともに、前記ポンプリミッタを制御して前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loに切換えてなることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの目標回転数が、前記第2目標回転数から前記第1目標回転数に変更された後の所定時間の間は、前記1目標回転数を更に変更することが禁止されてなることを特徴とする請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
エンジンによって駆動される少なくとも1つの可変容量型油圧ポンプと、
前記可変容量型油圧ポンプからの吐出圧油により駆動される少なくとも1つの油圧アクチュエータと、
前記可変容量型油圧ポンプから吐出した圧油を制御して前記油圧アクチュエータに給排する制御弁と、
を備えた制御装置におけるエンジンの制御方法において、
前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量を、ローのポンプ容量Loとハイのポンプ容量Hiとの2段階に切換え可能とすること、
可変に指令できる指令値の中から一つの指令値を選択し、選択した指令値に応じて第1目標回転数を設定すること、
設定した前記第1目標回転数に基づいて、前記第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数を設定すること、
前記第2目標回転数に基づく前記エンジンの駆動制御時に、前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量をハイのポンプ容量Hiに切換えること、また、エンジン出力トルクがトルク線図における最大トルク線R上でのトルク値より低い所定のトルク値になったときに、エンジンの目標回転数を前記第2目標回転数から前記第1目標回転数に変更すること、かつ前記可変容量型油圧ポンプの最大ポンプ容量をローのポンプ容量Loに切換えること、
を特徴とするエンジンの制御方法。
【請求項4】
前記エンジンの目標回転数を前記第2目標回転数から前記第1目標回転数に変更した後の所定時間の間は、前記1目標回転数の更なる変更を禁止すること、を特徴とする請求項3記載のエンジンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−190506(P2008−190506A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28347(P2007−28347)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】