説明

カメラキャリブレーション装置

【課題】車両の停車誤差の影響を排除できるキャリブレーションを簡易な設備で実施する。
【解決手段】自車12の形状に対応した2点と交わる線を含み、カメラ10の撮像範囲内に少なくとも2本配置される参照線RLと、この参照線RLの間に予め定められたパターン形状を有する校正用パターンPPとを有する測定領域MAと、画像処理部14とを備えている。そして、画像処理部14が、カメラ10で校正用パターンPP及び参照線RLが配置される測定領域MAを撮影することで前記測定用画像IMを生成する撮像処理18と、前記2本の前記参照線RLに基づいて前記自車12の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差として算出する停車誤差算出処理20と、当該停車誤差をキャンセルした状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラ10の取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する外部パラメータ算出処理22とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラのキャリブレーションをする技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラで自車の周辺環境を撮像し、必要な画像処理をし、運転者に各種の情報を提供することで、運転を支援する技術が開発されている。運転の支援としては、駐車時等の後方画像の表示や、自動操舵や、自車に接近する車両の検出や、車線逸脱の警報などがある。また、画像処理としては、座標系の変換や、白線認識や、パターンマッチングなどがある。座標系の変換としては、二次元画像の三次元化や、平面図に相当する俯瞰画像の座標系への変換や、距離の算出に適した座標系への変換などがある。
特に、カメラで撮像した画像を俯瞰処理し、運転者に提示すると、車両周辺環境の認識を容易にすることができる。このような座標系の変換をするには、カメラ画像の車両に対する位置を明確かつ正確に測定しておく必要がある。
【0003】
例えば、バックモニタの場合、画像の上下方向が、車両の進行方向に一致し、かつ、画像での上下方向を向く中心線が車両の中心軸に一致していることが望ましい。このような画像変換処理を行うためには、カメラのキャリブレーションが必要となる。このキャリブレーションでは、レンズ性能を含めたカメラに固有の内部パラメータと、ワールド座標系でのカメラの設置位置及び姿勢を示す外部パラメータとを算出する。カメラを用いるシステムは、内部パラメータを用いてカメラのレンズに起因する歪みを補正し、外部パラメータを用いてカメラの取付誤差(設置位置及び姿勢の誤差)を補正する。
カメラのキャリブレーションでは、例えば、大きさの分かっているパターンを路面に敷き、これを撮像し、画像上でのパターンの位置及び大きさとワールド座標系での実際の位置及び大きさとを対応させることで、ワールド座標系でのカメラの撮像面の座標を算出する手法が知られている(例えば、非特許文献1)。
外部パラメータは、ワールド座標系と、設計上の理想的な取付での位置及び姿勢(回転角度)でのカメラの座標系との対応関係を与えるパラメータ群である。カメラ10の組付けの位置や角度には、ばらつきが生じることがあり、そして使用中に位置がずれてしまう可能性もある。すると、カメラの外部パラメータは、理想的な設置位置による外部パラメータとは異なる値となる。この場合、カメラ10の取付誤差を外部パラメータに反映させるか、取付誤差に応じた補正値等を適用しなければ、カメラ座標系とワールド座標系との対応関係が不正確となってしまう。
座標系の対応関係が不正確となると、各種の画像処理がその性能を発揮できなくなる。すると、ドライバへの表示が不適切となり、また、画像の表示が見苦しくなってしまう。
【0004】
特許文献1には、車両の組立工場や修理工場等において、カメラ10のキャリブレーションを精度良く実行することを目的として、バックカメラを車両に設置した後、地面に描かれたターゲットを撮像し(段落0044,0048)、そして、撮像されたターゲットをディスプレイに表示しつつ目視による手動の操作を促すことで(段落0052から段落0065,図5及び図6)、カメラの外部パラメータを、カメラの実際の取付位置及び角度に対応した値へと補正する手法が開示されている(段落0065)。
そして、この特許文献1には、測定時の車両位置について、ターゲットに対して「所定の相対関係にある位置」に停車させる旨(段落0047)が開示されている。またこの文献1には、ターゲットとして、所定位置に停車した車両の車体中心を挟んで車幅方向に対向し(段落0045,図4)、ディスプレイ上では左右対称な位置関係(段落0049,図5)とする旨が開示されている。
【0005】
特許文献2には、カメラモジュールの取付誤差の影響を補正して、俯瞰画像を生成する手法が開示されている。具体的には、車両出荷検査時等に、白線が描かれた路面上の所定位置に車両を停車させて、自車に取付られた複数のカメラから当該白線を撮像し、取付誤差が無い場合のテンプレート画像と比較することで(段落0031,図6)、取付誤差を補正する。これにより、複数のカメラによる各画像の継ぎ目で白線がずれるという不都合の抑制を図っている(段落0062,図10)。
【0006】
特許文献3には、自車の後方を撮像するカメラのキャリブレーションを走行中にも実行可能とすることを目的として、後部バンパの輪郭を調整パターンとしてカメラの設置位置及び設置姿勢の誤差を求める手法(段落0025,0042)が開示されている。
【0007】
特許文献4には、大がかりな環境設備を必要とせずに複数台のカメラのキャリブレーションを実行することを目的として、路面上に複数のパターンを用意しておき、おおよその位置に車両を停止させてパターンを撮像し(段落0011,0012)、各画像を俯瞰画像に変換して(段落0035)、カメラ群のロール角と俯角とを最小二乗法により求めることで(段落0037,図7及び式3(図5))、パラメータを求めようとする手法が開示されている。この例では、複数の画像の合成に際して(段落0047)、各カメラの成す角を既知として(段落0060)、車両に対するカメラ方向を算出しようとしている(段落0061,図11,図12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-77107号公報
【特許文献2】特開2006-277738公報
【特許文献3】特開2007-256030号公報
【特許文献4】特開2009-288152号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. Y. Tsai, “A versatile camera calibration technique forhigh-accuracy 3D machine vision metrology using off-the-shelf tv cameras andlenses.” IEEE Journal of Robotics and Automation, 3(4):323 - 344, Aug. 1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1及び2記載の手法では、キャリブレーションによって車両の停車位置及び方向の誤差(停車誤差)を外部パラメータに反映させることができない。従って、目標とする精度で外部パラメータを測定するには、特許文献1及び2記載の手法では、車両の位置に対して校正用パターンの配置位置と角度を精密に合わせなければならない。すると、この作業が実施できる大規模な設備、熟練した技術者、及び多くの作業時間が必須となってしまう。
さらに、車両の走行により取付位置にずれが生ずる可能性もある。キャリブレーションに大規模な設備を必要とすると、車両の移動容易な近隣の比較的小規模な設備ではキャリブレーションの実施不能となってしまう。
すなわち、上記特許文献1及び2手法の記載では、車両の近隣で簡易にキャリブレーションを実行することができない、という不都合があった。
上記特許文献2及び4には、俯瞰画像を用いる手法が開示されているが、理想的な取付パラメータからの修正の方法であって、修正は処理画像のシフトまたは回転のみであり、そして、キャリブレーションの実施には大規模な設備が必要となってしまう。
上記特許文献3記載の手法では、画像中自車が撮像される部分に基づいてキャリブレーションを実行するため、画像の中心から上部など、画像処理及び運転者への情報提供で重要な領域をキャリブレーションの対象外としてしまう。すなわち、上記特許文献3記載の手法では、カメラ画像の下部周辺領域を使ってキャリブレーションを行うことになり、車両後方を監視する用途のカメラでは一般的な、歪の大きなカメラを用いた場合、歪パラメータのわずかなずれが、キャリブレーション精度に影響する。
また、上記特許文献4記載の手法では、車両をおおよその位置に停車させつつも(段落0029)、停車位置と設置パターンとの関係を測定していないため、設置パターンに対する車両の停車誤差が、カメラの設置誤差に混入してしまう。すなわち、特許文献4の図3に示されるフローチャートの各工程に示される処理をしても、設置パターンの座標系に対して、車両の停車位置が傾いているのか、車両に設置されたカメラが傾いているのかを区別することができず、車両の停車誤差がカメラの取付誤差に含まれてしまう。特に、本文献の図11に示されるθyawc2の測定法、算出法は何ら開示されていない。
そして、この特許文献4には、単一のカメラについて車両の停車誤差を除外してカメラの取付誤差を外部パラメータに反映させる手法は、なんら開示されていない。
【0011】
[課題1]このように、上記従来例では、精度の高いキャリブレーションを簡易に実施することができない、という不都合があった。
[課題2]さらに、上記従来例では、単一のカメラにて車両の停車誤差を除外して当該カメラの取付誤差のキャリブレーションをすることができない、という不都合があった。
【0012】
[発明の目的]本発明の目的は、車両の停車誤差の影響を排除できるキャリブレーションを簡易な設備で実施することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[着眼点]本発明の発明者は、車両の停車誤差を取り除きつつ、路面に設置するパターンでキャリブレーションをすることができれば、キャリブレーション時の作業負担を軽減し、小規模な設備で精度の高いキャリブレーションをすることができる、という点に着目した。そして、路面に設置するパターンの座標系と、車両を設置した座標系との関係をキャリブレーションに反映させる手法を工夫することで、上記課題を解決できるのではないか、との着想に至った。
【0014】
[課題解決手段1] 本発明は、車外環境を撮像するカメラを有する自車が所定方向に停車する測定領域と、前記カメラで撮影する測定用画像に基づいて前記カメラのキャリブレーションを実行する画像処理部とを備えている。
そして、前記測定領域は、前記自車の形状に対応した2点と交わる線を含み、当該カメラの撮像範囲内となる前記測定領域に少なくとも2本配置される参照線と、前記測定領域内で前記2本の前記参照線の間に予め定められたパターン形状を有する校正用パターンとを備えている。
さらに、本発明は、前記画像処理部が、前記カメラで前記校正用パターン及び前記参照線が配置される測定領域を撮影することで前記測定用画像を生成する撮像処理と、前記2本の前記参照線に基づいて前記自車の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差として算出する停車誤差算出処理と、当該停車誤差をキャンセルした状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラの取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する外部パラメータ算出処理とを備えた、という構成を採っている。
これにより、上記課題1及び2を解決した。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、本明細書の記載及び図面を考慮して各請求項記載の用語の意義を解釈し、各請求項に係る発明を認定すると、各請求項に係る発明は、上記背景技術等との関連において次の有利な効果を奏する。
【0016】
[発明の作用効果1] 課題解決手段1のカメラキャリブレーション装置は、予め定められたパターン形状を有する校正用パターンの両側に、少なくとも2本の参照線が配置され、この参照線は、自車の形状に対応した2点と交わる線である。このため、撮像処理が、前記校正用パターン及び前記参照線が配置される測定領域を撮影することで前記測定用画像を生成すると、この測定用画像中の参照線は、自車の形状に対応した2点と交わる線であり、従って、自車の停車方向と関係している。
画像処理部の停車誤差算出処理は、この関係を利用して、この2本の参照線に基づいて前記自車の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差として算出する。そして、外部パラメータ算出処理は、停車誤差をキャンセルした状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラの取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する。従って、校正用パターンを自車の停車方向に対して厳密に平行等の方向に設置しなくとも、逆に、校正用パターンに対して厳密な方向で停車しなくとも、停車誤差の影響を除外して外部パラメータを算出することができる。
従って、車両の停車誤差の影響を排除できるキャリブレーションを簡易な設備で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の構成例を示すブロック図である。
【図2】本実施例で使用する校正用パターンの一例を示す説明図である。
【図3】本実施例での自車の形状の一例を示す斜視図である。
【図4】図4(A)及び(B)は本実施例での各種座標系の一例を示す説明図である。
【図5】本実施例にて自車が測定領域に停車した状態の位置関係の一例を示す説明図である。
【図6】図5に示す例での停車角誤差及び停車位置誤差の一例を示す説明図である。
【図7】図5に示す例での俯瞰画像となる領域の一例を示す説明図である。
【図8】図7に示す例にて初期の外部パラメータにて撮像した画像を俯瞰画像とした一例を示す説明図である。
【図9】図8に示す俯瞰画像に対して校正用パターンを基準として補正した一例を示す説明図である。
【図10】図9に示す俯瞰画像を参照線に基づいて補正することで停車角誤差を求める一例を示す説明図である。
【図11】図5に示す例にてカメラ設置ズレ角がある場合の一例を示す説明図である。
【図12】図11に示す例にて初期の外部パラメータにて撮像した画像を俯瞰画像とした一例を示す説明図である。
【図13】図12に示す俯瞰画像に対して校正用パターンを基準に補正した一例を示す説明図である。
【図14】図13に示す俯瞰画像を参照線に基づいて補正することで停車角誤差を求める一例を示す説明図である。
【図15】図15に示す停車角誤差をキャンセルしてカメラ設置角誤差を外部パラメータに反映させる俯瞰画像の一例を示す説明図である。
【図16】本実施例でのキャリブレーション方法の工程例を示すフローチャートである。
【図17】図17(A)及び(B)は参照線の対称性を利用して停車誤差を算出する一例を示す説明図である。
【図18】本実施例での測定用画像を取得する処理例を示すフローチャートである。
【図19】本実施例にて停車誤差を算出する処理例を示すフローチャートである。
【図20】図20(A)及び(B)は本実施例にて参照線の対称性となる相関係数が小さい一例を示す説明図である。
【図21】図21(A)及び(B)は本実施例にて参照線の対称性となる相関係数が大きい一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明を実施するための形態として、1つの実施例を開示する。
【実施例】
【0019】
<1 キャリブレーション方法及び装置>
<1.1 車両側方の参照線>
ここで、本実施形態の実施例を開示する。本実施例は、カメラ10のキャリブレーションを簡易な設備で簡易に実施するために、自車12の停車位置を厳密とすることなく外部パラメータを測定可能なキャリブレーションの技術に関する。
【0020】
カメラキャリブレーション装置は、その主要な要素として、画像処理部14と、測定領域MAとを備えている。測定領域MAは、校正用パターンPPと、少なくとも2本の参照線RLとを有する。そして、画像処理部14は、撮像処理18と、停車誤差算出処理20と、外部パラメータ算出処理22とを備えている。
【0021】
図1を参照すると、自車12は、車外環境を撮像するカメラ10を有し、測定領域MAにて所定方向に停車する。本実施例では、この停車に際して、予め定められた方向に対して同一方向に精密に停車をする必要はない。
【0022】
校正用パターンPPは、前記測定領域MA内で参照線RLの間に配置される。パターン形状としては、例えば、図2に示す同一の大きさの矩形パターンを白黒で交互に並べた市松模様を採用することができる。この市松模様の矩形の一辺の長さを定めておくと、測定用画像IM中にワールド座標系(x, y, z)での実際の長さの情報を得ることができるため、カメラ10の内部パラメータ及び外部パラメータの算出基準とすることができる。その他、本実施例では、キャリブレーションの方式に応じて、市松模様以外の様々なパターン形状も採用することができる。
そして、校正用パターンPP(パターンマット)の原点(パターン座標原点OP)を中心とする二次元の直交座標をパターンマット座標系(xp, yp)とする。
【0023】
参照線RLは、前記自車12の形状に対応した2点と交わる線を含み、当該カメラ10の撮像範囲内に少なくとも2本配置する。図1に示す例では、参照線RLとして、自車12の左右の側面形状に対応した左右に2本の直線としている。この参照線RLは、自車12の外周形状16にて予め定められた2点の位置に応じた線であり、自車12の外周形状16に対応しつつ、自車12の中心軸で対称ではあるが、平行ではない関係となっている。
すなわち、図示する例では、カメラ10の撮像方向は図中上下方向の上向きとなっており、参照線RLは、この上向き方向より若干図中左右の外側に広がっている。すなわち、2本の参照線RLは、平行としても良いが、平行とする必要はない。
【0024】
カメラ10が後方を撮像する例では、撮像方向は自車12の後方であり、自車12の外周形状16は自車12の左右側面で、参照線RLは車長方向に延びる。
カメラ10が側方を撮像する例では、撮像方向は自車12の側方であり、自車12の外周形状16は自車12の前後となり、参照線RLは車幅方向に延びる。
【0025】
そして、図1に示す例では参照線RLを直線としているが、全体を曲線としても良いし、一部を直線とすることもできる。全体又は一部を直線とすると画像処理による自動化を図りやすく、一方測定用画像IMが左右に広い場合などは曲線とすることで撮像範囲の全体を使った補正をすることができる。
参照線RLは、画像処理により停車誤差24を決定するものであるため、カメラ10で撮像される測定用画像IMで明瞭に認識できるものであることが望ましい。画像処理に際して2値化する場合は、路面(背景)に対して反対の輝度をもつ材料で直線を引くと良く、光線、テープ、又は棒など路面との輝度差が生ずるものであれば、様々な部材を採用することができる。また、カメラ10の解像度に対して細すぎる線ではカメラ10に写らなくなるため、ある程度の太さが必要となる。
【0026】
この参照線RLを車両前後方向に引く場合、自車12の側面の外周形状16は車両中心軸に対して対称になっているため、車体側面の外周形状16,例えばフェンダー16a,16bを基準として直線を引くと良い。
図3を参照すると、参照線RLとして、自車12の前後フェンダー16a,16bを基準として、これを延長する直線を採用することができる。フェンダー16a,16bは、車両の最大幅となっていることが多く、平面部分があり測定容易である。また、フェンダー16a,16bではなく、タイヤ、ホイールとしても良いが、その場合、ステアリングを直進方向としておく必要がある。
【0027】
測定に際しては、例えば、建築用のレーザー墨出し器などを活用し、測定した位置の真下地面に印をつけ、前後のフェンダー16a,16b等で測定し決定した印を何らかの部材で結び、自車12の後方へ引き伸ばすと良い。直線とする引き伸ばしには、長い棒を使うか、レーザー墨出し器で直線を延ばし、それに沿ってテープ、棒、ロープなどを設置すると良い。
レーザー墨出し器は、地面に垂直な平面方向にレーザー光を出力するため、これと車体側面がちょうど当たるように墨出し器の位置を調整し、その地墨点に印をする。
【0028】
このようなレーザー墨出し器でなくとも、車体側面測定位置の真下の地面に印がつけられる道具であれば活用できる。例えば、糸におもりを吊り下げて鉛直真下を計る道具(大工道具の下げ振)や、地面が水平で平らであれば、地面から垂直上向きに棒を立てて、側面に当たる場所を測定することもできる。
また、前後方向の測定位置は左右でほぼ同じにする必要があるところ、フェンダー16a,16bのような平らな面がある場所を使うと、それほど精密な測定とせずに一定の精度を確保することができる。
【0029】
そして、画像処理部14は、前記カメラ10で撮影する測定用画像IMに基づいて前記カメラ10のキャリブレーションを実行する。画像処理部14では、まず、撮像処理18が、前記カメラ10で前記校正用パターンPP及び前記参照線RLが配置される測定領域MAを撮影することで、前記測定用画像IMを生成する。
【0030】
停車誤差算出処理20は、前記2本の前記参照線RLに基づいて前記自車12の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差24として算出する。すなわち、停車誤差算出処理20は、校正用パターンPPの方向や位置を基準とした際の理想的な方向及び位置で自車12を停車させなくとも、校正用パターンPPのパターン形状に対する自車12の停車方向及び位置についての誤差(停車誤差24)を算出することができる。
【0031】
外部パラメータ算出処理22は、当該停車誤差24をキャンセルした状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラ10の取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する。すなわち、外部パラメータ算出処理22は、停車誤差24の影響を排除しつつ、パターン形状を基準としてカメラ10の取付姿勢をキャリブレーションし、その結果を外部パラメータとして算出する。
【0032】
この外部パラメータを用いると、カメラ10の取付姿勢の理想状態からの誤差の影響を排除した画像を生成すると共に、当該画像に撮像された対象物等の例えばワールド座標系(x, y, z)での実際の座標値などを精度良く算出することができる。
そして、本実施例では、このキャリブレーションを実行するに際して、自車12を校正用パターンPPに対して精密な位置に停車させる必要がないため、大規模な設備を使用することなく、参照線RLを配置可能な通常の駐車スペースを使用して外部パラメータを算出することができる。また、複数のカメラ10を使用せず、単一のカメラ10について停車誤差24を除外して取付誤差を算出することができる。
【0033】
このように、本実施例では、自車12の形状に対応した2点と交わる参照線RLと校正用パターンPPとを比較することで画像処理により停車誤差24を算出した後に、この停車誤差24の影響を除去した状態で取付誤差のキャリブレーションを実行することにより、精度の高いキャリブレーションを簡易に実行することができる。
【0034】
これを詳細に説明する。
本実施例では、まず、車載するカメラ10について、別途、内部パラメータと歪パラメータを測定しておく。内部パラメータはカメラ10のレンズ系等の影響を補正するものでカメラ10に固有のパラメータであり、カメラ10の取付姿勢とは無関係である。歪みパラメータは、例えば、広角レンズなど非線形の状態を表すパラメータであり、内部パラメータと一体化しても良い。
【0035】
そして、図1に示すように、カメラ10が撮影可能な自車12の周囲に校正用パターンPPを配置する。校正用パターンPPの配置は、本実施例では、車両の進行方向などの基準に対して精密とする必要はないが、ある程度揃えておくことが望ましい。
図2に示すように、校正用パターンPPは、市松模様とすることができ、市松模様の白黒の交点(格子点)の位置及び格子点間の距離はパターンマット座標系(xp, yp)で表される。
図3に示すように、自車12の外周形状16として、フェンダー16a,16bを採用することで、簡易に参照線RLを設置することができる。
【0036】
図4にカメラ10がバックカメラである場合の座標系の関係例を説明する。
図4(A)に示すように、ワールド座標系(x, y, z)は、地面上にxy平面をとり、車両軸後方をy軸、鉛直上向きをz軸、y-z面に垂直な車両横幅方向にx軸をとる。ワールド座標系(x, y, z)の原点は、車両後端中心とする。
図4(B)に示すように、カメラ10の画像素子上に俯瞰画像座標系(u, v)を定義する。カメラ座標系(xc, yc, zc)は焦点位置fを原点として光軸方向がzc軸となるようにとる。座標系としては、図4に示す他、図2に示すパターンマット座標系(xp, yp)がある。
【0037】
図5に示すように、本実施例では、パターン座標原点OPと車両特徴点FP(例えば、バックカメラであれば自車12の最後端等)との水平距離を停車誤差24(停車位置誤差L, X)として測定する。この測定は、画像処理により測定しても良いが、人手による測定が簡易である。なお、パターンの座標原点OPと車両特徴点FPの水平位置とを一致させて配置させた場合、停車位置誤差L(水平距離)はゼロとなる。
なお、Lはワールド座標原点を車体後端中央に設定するために使用するパラメータであるので、画像処理からLを算出する場合、パターンマット座標系におけるカメラ位置(x,y)のyに、車体後端中央とカメラ取り付け位置の水平距離のy軸成分を加えたものをLとして設定する。
【0038】
さらに、自車12の形状と関連する少なくとも2本の参照線RLを床に描くなどして、カメラ10から撮影できるようにする。例えば、車体の側面の前後2箇所を結ぶ直線を床に引く。上述のように、この2本の参照線RLとなる直線は、平行である必要はないが、自車12の中心軸に対して対称とするなど、自車12の前後方向との関係を維持する方向で配置すると良い。また、直線ではなく、曲線としても良い。
【0039】
そして、カメラ10で、校正用パターンPPと、2本の参照線RLを撮影する。校正用パターンPPと参照線RLは同時に撮影する必要はなく、別々に撮影しても良い。
本実施例では、校正用パターンPPを撮像した測定用画像IMから、カメラ10の外部パラメータを計算する。
【0040】
また、参照線RLを対称とする例では、停車誤差算出処理20は、前記測定用画像IM中の前記カメラ10の撮像方向を中心とした前記少なくとも2本の前記参照線RLの対称性に基づいて前記停車誤差24を算出する処理を備えると良い。この処理により、測定用画像IM中の2本の参照線RLが対称となるまで画像処理による変換を繰り返し、対称となった際のそれまでの変換量から、停車誤差24を求めることができる。
【0041】
次に、停車誤差24を、停車角誤差θzと、停車位置誤差L,Xとに分けて、停車角誤差θzを参照線RLから求める手法を図6から図15を参照して説明する。この例では、この停車角誤差θzを除去する補正をした上で、カメラ10の取付誤差であるカメラ設置角誤差θcの影響を反映させた外部パラメータを算出する。
【0042】
図6から図10はカメラ設置角誤差θcを0とした説明用の例で、図11から図15はカメラ設置角誤差θcがある場合の例である。
【0043】
図6を参照すると、停車誤差24は、パターンマット座標系(xp, yp)とワールド座標系(x, y, z)との間の誤差であり、停車誤差24のうち停車角誤差θzは、パターンマット座標系のyp軸(xp軸)とワールド座標系のy軸(x軸)との成す角である。
図6から図15に示す例では、説明を簡易とするために、参照線RLをワールド座標系(x, y, z)のy軸と平行とした。停止基準線SLはパターンマット座標系(xp, yp)のyp軸と平行であり、自車12の理想的な停止位置の基準となる線である。図6に示す例では、参照線RLをy軸と平行としたため、参照線RLと停止基準線SLとの成す角は停止角誤差θzとなる。
また、測定用画像IMを対象とする画像処理により停車誤差24等を算出することもできるが、ここでは、本実施例の利点を簡易に説明するために俯瞰画像BIを対象とする画像処理例を説明する。
【0044】
図7に示すように、ワールド座標系(x, y, z)に俯瞰領域BAを定める。そして、画像処理部14は、測定用画像IMの座標値を変換することで俯瞰画像BIを生成することができる。画像処理部14は、例えば、測定用画像IMに撮像されている校正用パターンPP等のワールド座標系(x, y, z)での高さ(y軸の値)を0と仮定しつつ、x, yの座標を俯瞰座標系(u, v)の座標に対応させて、対応させた測定用画像IMの座標値(濃淡値)を俯瞰画像BIの座標値とする。すると、図8に示すような俯瞰画像BIを得ることができる。ここでは、停車誤差24の算出又は除去を、俯瞰画像BIに対する画像処理として説明するが、座標値の対応関係を用いて測定用画像IMに対して直接に処理することもできる。
【0045】
図8に示す俯瞰画像BIでは、カメラ10の光軸zcと平行なワールド座標系のy軸に対して、校正用パターンPPのyp軸が傾いている。校正用パターンPPの配置位置及び角度を基準とすると、自車12の停車方向が理想値から傾いてしまっている。自車12の停車位置を基準とすると、校正用パターンPPを傾けて配置してしまっている。
この停車誤差24のうち停車角誤差θzは、カメラ10の取付角度の誤差に起因するものではない。一方、この停車誤差24を取り除かずにカメラ10の取付誤差に関するキャリブレーションを実行すると、この停車誤差24に起因する画像の回転及び並進の誤差をもカメラ10の取付誤差に含めてしまうことになる。すなわち、停車誤差24があると、カメラ10の取付誤差についてのキャリブレーションを正確に実行することができなくなる。すなわち、停車誤差24の影響を排除できないままのキャリブレーションでは、カメラ10の外部パラメータを正確に算出することができない。
【0046】
図9に、校正用パターンPPを基準として俯瞰画像BIを補正した例を示す。俯瞰画像BIは、反時計回りに回転する。この補正により、u軸とyp軸とが平行となる。図示するように、自車12の前後方向と平行な参照線RLと、yp軸と平行な停止基準線SLとの成す角は停止角誤差θzと等しい。
【0047】
図10に、俯瞰画像BIを参照線RLに基づいて補正した一例を示す。校正用パターンPPで補正した俯瞰画像BIを基準として、参照線RLが俯瞰座標系(u, v)のu軸と平行となるまで回転させると、その回転角は停車角誤差θzとなる。参照線RLが自車12の前後方向と平行でなくとも、自車12の前後方向の軸を中心に対象であれば、俯瞰画像BI上で対称となるまで回転させることで、停車角誤差θzを求めることができる。
このように、停車誤差算出処理20は、前記2本の前記参照線RLに基づいて前記自車12の停車位置とパターン形状との座標関係を停車角誤差θzとして算出することができる。
【0048】
それでは、図11から図15を参照して、カメラ設置ズレ角θcのある通常の場合を例として、参照線RLを使用した画像処理の内容を説明する。
カメラ設置ズレ角θcは、バックカメラの場合、自車12の中心軸(ワールド座標系のy軸)に平行な線とカメラ10の光軸zcとの成す角である。
【0049】
図11を参照すると、カメラ設置ズレ角θcがある際には、カメラ10の光軸zcはワールド座標系のy軸に対して傾くため、その角度分、自車12に対して測定領域MAが傾く。この状態で測定用画像IMを撮像すると図12に示す角度関係の俯瞰画像BIとなる。
図中、直線ya及び直線xaはカメラ座標系(zc, yc, zc)の原点を通り、それぞれワールド座標系のy軸及びx軸と平行な直線である。従って、光軸zcと直線yaとの成す角はカメラ設置ズレ角θcである。
【0050】
図12を参照すると、俯瞰画像BIのu軸とカメラ10の光軸zcとが平行である。ワールド座標系のy軸は、u軸に対してカメラ設置ズレ角θcのマイナス分傾き、パターンマット座標系のyp軸はさらに停車角誤差θz分傾く。結局、カメラ設置ズレ角θcが逆向きになることを考慮すると、u軸に対してパターンマット座標系のyp軸は-(θz-θc)分傾く。
図12に示す例では、y軸と参照線RLとが平行であるため、参照線RLとu軸に平行な線との成す角はカメラ設置ズレ角θcと等しい。
図12中、直線ULaはカメラ座標系の光軸zcと平行な直線で、図12に示す状態ではu軸と平行であり、参照線RLとの成す角がカメラ設置ズレ角θcである。
【0051】
図13に示すように、図12に示す俯瞰画像BIに対して、校正用パターンPPに基づいた補正をすると、u軸とyp軸とが平行となる。直線ULbはyp軸と平行な直線で、図13に示す例ではu軸と平行であり、参照線RLとの成す角は停車角誤差θzである。
そして、図13に示す俯瞰画像BIを対象として、参照線RLに基づいた補正をすると、図14に示すように、u軸とy軸とが平行となる。この参照線RLに基づいた補正の補正角度(回転角)は、停車角誤差θzとなる(停車誤差算出処理20)。
【0052】
図15に示すように、求めた停車角誤差θzを俯瞰画像BIからキャンセルすると、カメラ10の光軸zcとy軸とが平行となる。そして、yp軸とy軸との成す角はカメラ設置ズレ角θcとなる。このため、外部パラメータ算出処理22が、図15に示す俯瞰画像BIを対象として、校正用パターンPPに基づいて外部パラメータDを算出すると、その外部パラメータDは、停車角誤差θzに影響されず、一方、カメラ設置ズレ角θcの影響を反映させたパラメータとなる。
【0053】
続いて、図16を参照して本実施例のキャリブレーションの方法を説明する。
まず、車外環境を撮像するカメラ10が取付られた自車12を予め定められた測定領域MAにて所定方向に停車させる(ステップS1,停車工程)。例えば、図11に示す状態で自車12を停車させる。
次に、前記自車12の形状に対応した2点と交わる線を、参照線RLとして、前記カメラ10の撮像範囲内となる前記測定領域MAに少なくとも2本配置する(ステップS2,参照線配置工程)。図11に示す例では、参照線RLは自車12の外周形状16と関係し、前後方向の中心を中心軸として対称となっている。
そして、前記測定領域MA内で前記2本の前記参照線RLの間に予め定められたパターン形状を有する校正用パターンPPを設置すると共に当該校正用パターンPPと前記参照線RLとを撮影することで測定用画像IMを生成する(ステップS3,撮像工程)。図12に示す例では俯瞰画像BIとしているが、測定用画像IMは図12に示す角度の関係を有する画像となる。
さらに、前記測定用画像IMに基づいて前記カメラ10のキャリブレーションを実行する(ステップS4からS6,画像処理工程)。
この画像処理工程は、まず、前記2本の前記参照線RLに基づいて前記自車12の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差24として算出する(ステップS4)。例えば、図13に示すような校正用パターンPPを基準として補正を測定用画像IM(図示せず)に対して行い、これを基準としてさらに図14に示すような参照線RLに基づく補正をすることで、校正用パターンPPと参照線RLとの間の誤差(回転角や並進量)を停車誤差24とすることができる。
この停車誤差24の算出では、校正用パターンPPで補正をした図17(A)に示す参照線RLが画像中心線CLを基準に非対称の状態から、図17(B)に示すように対象となるまでの回転角を停車角誤差θzとすることができる。
次に、図15に示すように、当該停車誤差24をキャンセルし(ステップS5)、この状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラ10の取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する(ステップS6)。
画像処理工程は、測定用画像IMを直接の対象として停車誤差24の算出をする他、停車誤差24の算出をし易い座標系への変換をしてから、停車誤差24を求めるようにしても良い。
【0054】
・1.1 車両側方の参照線の効果
上述のように、本実施例では、少なくとも2本の参照線RLからカメラ座標の外部パラメータDを求めるため、車体と校正用パターンPPの正確な位置合わせが不要となり小規模の設備で迅速に校正することができる。すなわち、校正用パターンPPと2本の参照線RLを用いると、校正用パターンPPの精密な配置を不要とすることができる。
そして、2本の参照線RLを自車12の車体中心軸に対して対称とすると、車体軸を使用した校正と同じ効果を得ることができる。
また、参照線RLを撮像した測定用画像IMを俯瞰処理し、画面中心に対称とすると、画像処理により外部パラメータDを決定することができる。
さらに、車両特徴点FPと校正用パターンPPのパターン座標原点OPの距離を測定することで、校正用パターンPPの精密な配置を不要とすることができる。
このように、参照線RLを用いて停車誤差24を求めるため、小規模な設備でも精度の良いキャリブレーションを実行することができる。
【0055】
<1.2 俯瞰画像で補正処理>
次に、俯瞰画像BIでの参照線RLの対称性に基づいて停車誤差24を算出する例を説明する。この例では、パターンマット座標系(xp, yp)をワールド座標系(x, y, z)に変換する座標系変換行列に、停車誤差24である停車角誤差θzと停車位置誤差L, Xの値を反映させることで、停車誤差24をキャンセルしつつ外部パラメータDを求める。
【0056】
この例では、前記停車誤差算出処理20は、前記測定用画像IMを俯瞰画像BIに変換すると共に、当該俯瞰画像BI中の前記少なくとも2本の前記参照線RLの対称性に基づいて前記停車誤差24を算出する処理を備えている。この停車誤差算出処理20は、例えば、俯瞰画像BIにて参照線RLが対称となるまで回転や移動などの画像処理を繰り返し、対称となった際にそれまでの回転量や移動量を俯瞰画像BIの座標系での停車誤差24とすることができる。
停車誤差算出処理20のこの処理は、図16に示す例では、ステップS4にて実行すると良い。
【0057】
座標系を関連させるために従来から多用されるピンホールカメラモデルでは、カメラ座標系(xc, yc, zc)と俯瞰画像座標系(u, v)との関係は、次式(1a)で表される。
【0058】
【数1】

【0059】
但し、sは任意のスケールファクターである。
ここで、式(1b)に示す行列Aが個別のカメラ10に固有のパラメータとなっており、内部パラメータAと呼ぶ。
実際のカメラ10には、歪が存在するため、歪のない俯瞰画像座標系(u, v)と現実に得られる歪のある画像座標(ud, vd)の関係式を導入する。例えば、放射歪曲で4次の項まで考慮した場合は、原点(u0, v0)からの距離をr、各次数の計数をk1, k2とすると、次式(2)となる。
【0060】
【数2】

【0061】
そして、基準となるワールド座標系(x, y, z)とカメラ座標系(xc, yc, zc)の関係式は、次式(3a)となる。ここで次式(3b)に示す行列Dは、座標系の位置関係によって決まるパラメータであり、外部パラメータDと呼ぶ。
【0062】
【数3】

【0063】
続いて、停車位置誤差X, Lと、停車角誤差θzとが0でない場合に適用すべき、パターンマット座標系からワールド座標系への変換行列Pは、次式(4a)となる。
具体的には、図15に示す停車角誤差θzを次式(4b)に与え、図6に示す停車位置誤差X, Lを次式(4c)及び次式(4d)に与えて、パターンマット座標系からワールド座標系への変換行列Pを得る。
但し、Rz, Tx, Tyはそれぞれz軸周りの回転行列、x軸方向の並進行列、y軸方向の並進行列である。
【0064】
【数4】

【0065】
なお、式4、図6等に示す停車位置誤差X,L及び停車角誤差θzからパターンマット座標系からワールド座標系への変換行列Pの算出について、並進と回転の順序を逆にするなど算出の手順を変えても良い。その際は、式4のパターンマット座標系からワールド座標系への変換行列Pの算出手順においてもその変更に合わせて回転と並進行列の順序を適切に入れ替えれば同じ結果を得ることができる。
たとえば、車両特徴点FPとの水平距離Lの計測について、図6に示したように車両特徴点FPから車両軸に沿った距離を計測する代わりに、x軸との距離を計測した場合は、停車位置誤差X, Lを決定する際の俯瞰パラメータでy=0としていたのを、y=-Lとして、X,θzのパラメータ停車位置誤差X, Lを決定し、パターンマット座標系からワールド座標系への変換行列の算出は、x,y軸の並進→回転の順に変更すれば同じ結果を得ることができる。
【0066】
カメラキャリブレーションの手順は次の通りとなる。
図18を参照すると、まず、自車12を測定領域MAに停車する(ステップS11)。そして、自車12の車両後方に図2に示す市松模様の校正用パターンPP(パターンマット)を敷く。市松模様のパターンはひとつ50 [cm] 四方で、4 x 4 個程度となる。そして、外部パラメータDを算出するため、校正用パターンPPと自車12の後端との水平距離Lを人手により測定する(ステップS12)。続いて、カメラ10で校正用パターンPPが設置された測定領域MAを撮影し、第1の測定用画像IMaとする。さらに、この測定用画像IMaの広角歪みを補正する(ステップS13)。
【0067】
そして、カメラ10のキャリブレーション(ステップS21,S22)に前後して、参照線RLを配置して撮影する(ステップS14)。参照線RLは、自車12の車両両側面で前後2箇所の位置を計測し、その2点を結んだ直線を車両後方へ延ばし、テープ、ロープなどで撮影可能なものとする。2本の参照線RLは、車両軸に対して左右対称なものとなる。
この測定用領域を撮影して第2の測定用画像IMbとし、広角歪みを補正する(ステップS15)。
【0068】
図19を参照すると、まず、測定用画像IMaに基づいてカメラ10のキャリブレーションを実行する(ステップS21)。このキャリブレーションでは、まず、校正用パターンPPの格子点の位置を抽出する。各格子点の位置とそれに対応するパターンマット座標系(xp, yp)での座標値、およびカメラ10の内部パラメータAから、カメラ外部パラメータDを仮に算出する(ステップS22)。ここでは、停車誤差24の影響を排除しない状態で、外部パラメータDを仮に算出している。
そして、求まった仮の外部パラメータD (Rx, Ry, Rz, Tx, Ty, Tz)からパターンマット座標系(xp, yp)に対応する俯瞰画像BIを得ることができる(ステップS23)。
【0069】
次に、参照線RLを撮像した測定用画像IMbに対して、ステップS22で求めた外部パラメータDを用いて、俯瞰画像処理を加える。俯瞰画像処理のパラメータは、パターンマット座標系(xp, yp)に対して、x=0、y=0、θx=-180度、θy=0度、 θz=0度、 zの位置は参照線RLが画面内に写るところとする。つまり、俯瞰画像用の仮想カメラを、パターンマット座標系(xp, yp)のxp-yp面に直行するのzp軸上に鉛直下向きに置く。これにより、車両後端中心の鉛直上方に鉛直下向きに仮想カメラを置いた画像が得られるようになる。
【0070】
そして、図17に示すように、俯瞰画像BIで、停車位置誤差X, Lと停車角誤差θzの値を変化させて、2本の参照線RLが俯瞰画像BI上で左右対称になるようにする(ステップS24)。俯瞰画像BIで2本の参照線RLが左右対称となるということは、自車12の中心軸を俯瞰画像座標系のu軸と平行で、俯瞰画像BIでの中心を通る直線とほぼ一致させたと判断できる。この参照線RLが左右対称となった際の停車位置誤差X,
Lと停車角誤差θzは、自車12の停車方向を基準とするワールド座標系(x, y, z)のy軸と、パターンマット座標系(xp, yp)のyp軸との俯瞰画像BI上での成す角で、自車12の校正用パターンPPに対する停車誤差24から導かれる値である。
【0071】
次に、求まった停車位置誤差X, Lのうち垂直距離Xを-1倍した値と、先に測定しておいた水平距離Lと、停車角誤差θzとをパラメータとして、パターンマット座標系からワールド座標系への変換行列P(式(4))を算出する(ステップS25)。
このパターンマット座標系からワールド座標系への変換行列Pをパターンマット座標系(xp, yp)の格子点座標データに掛けると、各格子点のワールド座標系(x, y, z)での座標値が求まる(ステップS26)。
パターンマットの格子点の俯瞰画像BI上での位置データと、ワールド座標系で対応する格子点の座標値データとを用いて、再度キャリブレーションを行う(ステップS27)。ここで算出される外部パラメータDが求めるべき外部パラメータDとなる。このステップS27で算出される外部パラメータDは、パターンマット座標系からワールド座標系への変換行列Pに与えられた停車位角誤差θz等の値に応じて停車誤差24の影響がキャンセルせれ、一方、カメラ10の取付誤差の影響を補正できるパラメータ値となる。
【0072】
このように、本実施例では、まず、カメラ10で、校正用パターンPP(第1の測定用画像IMa)及び、2本の参照線RLを撮影する(第2の測定用画像IMb),(図18)。校正用パターンPPと参照線RLは同時に撮影する必要はなく、複数回に分けて撮影しても良い。第1の測定用画像IMaから、カメラ10の外部パラメータDを仮に計算する。この外部パラメータDを基に、第2の測定用画像IMbに俯瞰処理を行う。俯瞰カメラ位置はy = 0, θx = -180度, θy = 0度, z位置は参照線RLが見える所とする。
【0073】
そして、俯瞰画像BIを対象として、x軸の停車位置誤差Xと、z軸まわりの回転のパラメータである停車角誤差θzとを増減し、2本の参照線RLが画面上で左右対称な位置に来るように調整する(図19ステップS23,S24)。
求まった停車角誤差θz と、停車位置誤差Xを−1倍した値と、校正用パターンPPの座標原点と車両特徴点FPの水平距離Lをパラメータとするパターンマット座標系からワールド座標系への変換行列P(式4)を算出し、その行列を用いて校正用パターンPPの座標を新たな座標系での値に変換する。
さらに、校正用パターンPPを写した画像を用い、変換した座標位置を適用し、再度カメラキャリブレーションを行い、外部パラメータDを算出する。これが求めるべき外部パラメータDとなる。
上述のように、本実施例では、校正用パターンPPを用いた最初のキャリブレーションでは外部パラメータDのうち、z、θx, θyのみを決定するのに使用し、yは、実測から与え、x、θzは2本の参照線RLから決定する手法とした。
【0074】
・1.2 俯瞰画像で補正処理の効果
上述のように、本実施例では、停車誤差算出処理20が、俯瞰画像BI中の参照線RLの対称性に基づいて、停車誤差24(例えば、停車角誤差θz及び停車位置誤差X)を算出する。このため、停車誤差算出処理20は、俯瞰画像BIにて参照線RLが対称となるまで回転及び並進の画像処理を繰り返し、参照線RLが対称となった際にそれまでの回転量及び移動量を俯瞰画像BIの座標系での停車誤差24とすることができる。
このため、参照線RLを撮像した画像から、画像処理により自動的に停車誤差24を算出することができる。そして、校正用パターンPPに対する停車誤差24の算出を他の様々な誤差等の影響から独立させて算出することができる。
このように、校正用パターンPPを精密に配置する必要があった問題に対して、本実施例では、校正用パターンPPを正確に配置しなくとも、精度良くキャリブレーションを実施することができる。校正用パターンPPを正確に配置しなくとも良いという利点は、すなわち、自車12を予め定められた測定領域MAに正確に停車しなくても良いという利点と等しい。
そして、車両の位置を正確に計測する、もしくは車両を正確に所定の位置に配置する必要があった問題に対して、本実施例では、車両の中心軸に対称な参照線RLの測定だけで済む。
【0075】
<1.3 対称性の自動算出>
次に、参照線RLの対称性を画像処理により自動的に評価する手法を説明する。この例では、前記停車誤差算出処理20が、直線の抽出、重ね合わせ、この重ね合わせた形状についてマッチング度を算出する等の情報処理により、参照線RLの対称性を自動的に判定する。
停車誤差算出処理20は、具体的には、まず、前記俯瞰画像BI中の直線を抽出する(抽出処理)。続いて、俯瞰画像BI中の前記カメラ10の撮像方向を中心として前記抽出した最長2本の前記直線を反転させて重ね合わせる(重ね合わせ処理)。さらに、前記俯瞰画像BIを繰り返し回転させてマッチング度を繰り返し算出する(算出処理)。この算出したマッチング度は回転角と対応させつつ一時的に記憶する。そして前記マッチング度が最大となった前記回転角に基づいて前記停車誤差24を算出する(比較処理)。
これにより、参照線RLを撮像した画像から、x軸停車位置誤差Xと、z 軸まわりの回転のパラメータθzを算出する。
【0076】
この停車誤差算出処理20が有する抽出処理、重ね合わせ処理、算出処理及び比較処理は、本実施例を方法としてとらえる際には、停車誤差算出工程が有する工程となる。すなわち、停車誤差算出工程は、抽出処理、重ね合わせ処理、算出処理及び比較処理を備えると良い。この例では、停車誤差算出処理20についての開示は、停車誤差算出工程についての開示ともなる。
【0077】
図20を参照すると、この停車誤差算出処理20による画像処理の手順は次の通りとなる。
図20(A)に示すように、俯瞰画像BIに2本の参照線RLが撮影されており、図中左の参照線RLaと右の参照線RLbとがある。停車誤差算出処理20の抽出処理は、画像を2値化するなどして、この直線を抽出する。直線の抽出は、例えば俯瞰画像BIをハフ変換すると直線である参照線RLを探し出すことができる。ハフ変換は、画像中から直線を探索するよく知られた画像処理の手法である。直線を抽出したら、参照線RL付近以外の領域を以降の画像処理から除外すると良い。
【0078】
そして、重ね合わせ処理は、俯瞰画像BI中の前記カメラ10の撮像方向を中心として前記抽出した最長2本の前記直線を反転させて重ね合わせる。例えば、図中左右方向の画像中央の画像中心線CLを基準としてで俯瞰画像BIを二分して一方を左右反転させた後に重ね合わせる。すると、図20(B)に示すように、左右の参照線RLa,RLbが近づく。
【0079】
算出処理は、この状態で、マッチング度を算出する。マッチング度は、左の参照線RLaと右の参照線RLbとがどの程度一致しているかである。
停車誤差算出処理20は、このマッチング度の算出を繰り返す。具体的には、俯瞰画像BIを回転又は並進させて、再度、直線を抽出し、重ね合わせをし、マッチング度を算出する。停車誤差算出処理20は、予め定められた条件が満たされるまで回転又は並進させてマッチング度を算出し、このマッチング度が最大となるパラメータ(停車誤差24に相当)を探す。
【0080】
予め定められた条件が満たされるまで回転又は並進が終了すると、比較処理は、繰り返し算出したマッチング度のうち当該マッチング度が最大となった前記回転角に基づいて前記停車誤差24を算出する。2本の参照線RLが左右対称な位置にくるとき、重なり度合い=マッチング度が最大になる。
【0081】
また、マッチング度は、様々な手法で算出できる。本実施例では、例えば相関係数に基づいて判定する手法を適用することができる。マッチング度を相関係数として表すと、理想的な相関係数の最大値は1となるが、2本の参照線RL、地面模様の微妙な違い、ノイズ等の影響を受け、実際には1より小さな値となる。
【0082】
この相関係数は、例えば、図20及び図21に示すように、俯瞰画像BI中に直線形状に応じたウインドウWD(緑枠)を与え、このウインドウWD内の参照線RLを構成する画素値の数に基づいて算出することができる。
ウインドウWDの大きさが、Mt x Ntピクセルであるとき、相関係数Rは、次式(5)で表される。
但し、左右画像の画素値をそれぞれT(i,j), I(i,j)とし、i,jはウインドウWD内での座標値(俯瞰画像BIのuvと平行な座標値)である。また、平均値I, Tを次式(6a, 6b)とする。
【0083】
【数5】

【0084】
図20に示す例では、参照線RL同士の重なりがないため、相関係数は最小になり、図21の場合だと、重なりが最大となり、相関係数が最大となる。
【0085】
・1.3 対称性の自動算出の効果
上述したように対称性を自動算出する例では、停車誤差算出処理20が、重ね合わせやマッチング度(例えば相関係数)の算出により自動的に停車誤差24に相当する回転角及び並進量を求めるため、測定負荷を大幅に軽減することができる。
また、この重ね合わせた際のマッチング度を比較する手法では、参照線RLが平行でも平行でなくても同一の精度で処理することができる。
参照線RLを平行に置くためには、平行になっていることが保証されている場所を使うか、平行であることを別途の測定により確認する必要があるが、それでは簡易なキャリブレーションを実現できなくなってしまう。この点、本実施例では、今回は平行条件を満たさなくとも一定の精度を確保することができるため、車種に限定されず精度を確保することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 カメラ
12 自車
14 画像処理部
16 外周形状
16a、16b フェンダー
18 撮像処理
20 停車誤差算出処理
22 外部パラメータ算出処理
24 停車誤差
MA 測定領域
IM、IMa、IMb 測定用画像
RL、RLa、RLb 参照線
PP 校正用パターン
BA 俯瞰領域
BI 俯瞰画像
FP 車両特徴点
OP パターン座標原点
SL 停止基準線
zc 光軸
f 焦点位置
L、X 停車位置誤差
θz 停車角誤差
θc カメラ設置ズレ角
WD ウインドウ
CL 画像中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外環境を撮像するカメラが取付られた自車を予め定められた測定領域にて所定方向に停車させる停車工程と、
前記自車の形状に対応した2点と交わる線を、参照線として、前記カメラの撮像範囲内となる前記測定領域に少なくとも2本配置する参照線配置工程と、
前記測定領域内で前記2本の前記参照線の間に予め定められたパターン形状を有する校正用パターンを設置すると共に当該校正用パターンと前記参照線とを撮影することで測定用画像を生成する撮像工程と、
前記測定用画像に基づいて前記カメラのキャリブレーションを実行する画像処理工程とを備え、
この画像処理工程は、
前記2本の前記参照線に基づいて前記自車の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差として算出する工程と、
当該停車誤差をキャンセルした状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラの取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する工程と、
を備えたことを特徴とするカメラキャリブレーション方法。
【請求項2】
車外環境を撮像するカメラを有する自車が所定方向に停車する測定領域と、
前記カメラで撮影する測定用画像に基づいて前記カメラのキャリブレーションを実行する画像処理部とを備え、
前記測定領域が、
前記自車の形状に対応した2点と交わる線を含み、当該カメラの撮像範囲内となる前記測定領域に少なくとも2本配置される参照線と、
前記測定領域内で前記2本の前記参照線の間に予め定められたパターン形状を有する校正用パターンとを備え、
前記画像処理部が、
前記カメラで前記校正用パターン及び前記参照線が配置される測定領域を撮影することで前記測定用画像を生成する撮像処理と、
前記2本の前記参照線に基づいて前記自車の停車位置と前記パターン形状との座標関係を停車誤差として算出する停車誤差算出処理と
当該停車誤差をキャンセルした状態で前記パターン形状に基づいて前記カメラの取付姿勢に対応する外部パラメータを算出する外部パラメータ算出処理と、
を備えたことを特徴とするカメラキャリブレーション装置。
【請求項3】
前記停車誤差算出処理は、
前記測定用画像中の前記カメラの撮像方向を中心とした前記少なくとも2本の前記参照線の対称性に基づいて前記停車誤差を算出する処理、
を備えたことを特徴とする請求項2記載のカメラキャリブレーション装置。
【請求項4】
前記停車誤差算出処理は、
前記測定用画像を俯瞰画像に変換すると共に、当該俯瞰画像中の前記少なくとも2本の前記参照線の対称性に基づいて前記停車誤差を算出する処理、
を備えたことを特徴とする請求項2記載のカメラキャリブレーション装置。
【請求項5】
前記停車誤差算出処理は、
前記俯瞰画像中の直線を抽出する処理と、
前記俯瞰画像中の前記カメラの撮像方向を中心として前記抽出した最長2本の前記直線を反転させて重ね合わせる処理と、
前記俯瞰画像を繰り返し回転させてマッチング度を繰り返し算出する処理と、
前記マッチング度が最大となった回転角に基づいて前記停車誤差を算出する処理と、
を備えたことを特徴とする請求項4記載のカメラキャリブレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−2820(P2013−2820A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130745(P2011−130745)
【出願日】平成23年6月11日(2011.6.11)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】