説明

カーボンナノチューブの製造方法およびカーボンナノチューブ

【課題】 高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、および配向のカーボンナノチューブを製造することができるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】 触媒金属が導入された炭素線状構造体3の両端に直流電圧を印加することにより、エレクトロマイグレーションによって、触媒金属を析出させると共に移動させ、炭素線状構造体3のうちの触媒金属の移動軌跡に沿った領域を結晶化してグラファイトを形成することにより、カーボンナノチューブ6を製造する。移動して電極1に到達した触媒金属は、電極に含まれる金属と合金化し、オーミック接合部8を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法ならびにカーボンナノチューブの製造方法を利用したオーミック接合の形成方法、配線の形成方法、およびトランジスタの製造方法と、これら方法によって得られるカーボンナノチューブならびにオーミック接合、配線、およびトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その理想的な一次元構造に起因する様々な特異的性質、例えば、良伝導性、高電子・正孔移動度に加え、非弾性的な電子伝導性やスピン伝導性、力学的強度、光吸収や発光特性、熱伝導特性などによって、様々な工業的応用が期待されている物質である。
【0003】
カーボンナノチューブの製造方法としては、現在、レーザーアブレーション法、化学気相堆積法(CVD(Chemical Vapor Deposition)法)など様々な製法が知られている。
【0004】
しかし、こうした既存の製造方法では、カーボンナノチューブの直径や長さなどを制御することが困難である。また、トランジスタ類や各種センサ等の電子デバイスやその配線などの一部としてカーボンナノチューブを利用する場合には所望の位置に所望の方向でカーボンナノチューブを配置することが重要な技術的課題となるが、上記従来技術はこうした課題に対して有効な解を与えるものではない。
【0005】
これらの問題点は、既存のカーボンナノチューブ成長法が、自己組織化的に製造した金属微粒子から成る触媒を、気相中や基板上に任意に分散させて、それを成長核として使用することに由来する。カーボンナノチューブの直径や成長速度は、個々の触媒微粒子の大きさや形状などに依存して大きく変化する。その結果、任意に分散させた触媒微粒子では、必然的に成長条件に大きなばらつきが生じてしまい、生成されるカーボンナノチューブの形状、位置、配向にバラツキが生じる。
【0006】
これに対し、触媒微粒子を任意に分散させることなく、カーボンナノチューブを製造する方法が提案されている。この製造方法においては、リソグラフィ手法を用いて基板上に触媒微粒子をパターニングし、基板上に形成された触媒微粒子を炭化水素ガス等にさらすと共に熱処理している。しかし、この方法によっても、10nm以下の精度でカーボンナノチューブの大きさ、形状、配向について制御することは困難である。
【0007】
触媒微粒子を任意に分散させることなくカーボンナノチューブを製造する他の方法として、非特許文献1には、リソグラフィ手法を用いて、炭素および触媒金属を含む基盤上に直径10nm程度の炭素線状構造体を形成し、基盤に含まれる触媒金属を熱処理によって炭素線状構造体中に供給、移動させ、炭素線状構造体のうちの触媒金属の移動軌跡に沿った領域を結晶化することにより、カーボンナノチューブを製造する技術が開示されている。
【0008】
また、カーボンナノチューブを用いたオーミック電極やオーミック配線の形成に関する特許文献1には、リソグラフィ手法を用いて電極または配線となる基板上に触媒微粒子をパターニングし、基板上に形成された触媒微粒子を炭化水素ガス等にさらすと共に熱処理し、カーボンナノチューブ成長時の熱により、基板と触媒金属とを反応させ、合金化させることにより、オーミック接合を形成する技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−288833号公報
【非特許文献1】T. Ichihashi et al. Phys. Rev. Lett. 92,215702 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、非特許文献1および特許文献1のどちらに開示された技術においても、カーボンナノチューブを形成するためには、600℃以上という高温が必要である。これは、触媒金属の活性化および移動を起こさせるために、加熱処理が必要であるからである。
【0011】
このような600℃程度以上もの高温処理が必要な従来のカーボンナノチューブの製造方法により、カーボンナノチューブを用いた電子デバイスを製造する場合に、SiやGaAs等の半導体が高くとも500℃程度までしか耐えられないという実情にあるため、半導体の破壊、劣化を回避すべく、カーボンナノチューブを半導体よりも先に形成しなければならない。このため、設計上、製造工程上の制約が生じ、電子デバイスの集積化が困難であるという問題がある。
【0012】
本発明の課題は、高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、および配向のカーボンナノチューブを製造することができるカーボンナノチューブの製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の課題は、高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、およびオーミック性能のオーミック接合を形成することができるオーミック接合の形成方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の課題は、高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、配向、およびオーミック性能の配線を形成することができる配線の形成方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の課題は、低コストに高集積化が可能なオーミック接合を有するトランジスタを製造することができるトランジスタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、少なくとも、以下に示す態様1〜15が得られる。
【0017】
(1)触媒金属が導入された炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加することによって、触媒金属を移動させ、炭素線状構造体のうちの触媒金属の移動軌跡に沿った領域を結晶化することにより、カーボンナノチューブを製造することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【0018】
(2)直流電圧の電圧を反転させることにより、触媒金属を往復移動させる態様1のカーボンナノチューブの製造方法。
【0019】
(3)イオンビーム励起化学気相堆積法によって、金属を含まない有機材料を用い、イオンビームに含まれる金属を含有する炭素線状構造体を、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体として形成する工程を有する態様1または2のカーボンナノチューブの製造方法。
【0020】
(4)電子ビーム励起化学気相堆積法によって、金属を含む有機材料を用い、金属を含有する炭素線状構造体を、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体として形成する工程を有する態様1または2のカーボンナノチューブの製造方法。
【0021】
(5)電子ビーム励起化学気相堆積法によって、金属を含まない有機材料および金属材料を用い、金属を含有しない炭素線状構造体の端部に金属粒子または金属塊が形成されたものを、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体として形成する工程を有する態様1または2のカーボンナノチューブの製造方法。
【0022】
(6)触媒となる金属を含むレジストを用い、リソグラフィ法によって、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を、所定のパターン状に形成する工程を有する態様1、2、または4のカーボンナノチューブの製造方法。
【0023】
(7)触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を、基板の表面上に、形成する態様1乃至6のいずれか1つのカーボンナノチューブの製造方法。
【0024】
(8)触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を、基板の表面上方に浮かせて、形成する態様1乃至6のいずれか1つのカーボンナノチューブの製造方法。
【0025】
(9)対の電極を形成する工程と、前記対の電極間に触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を形成する工程と、態様1乃至8のいずれか1つのカーボンナノチューブの製造方法を、前記対の電極を介して前記炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加して、行うことにより、対の電極のうちの少なくとも一方に含まれる金属と、該炭素線状構造体に沿って移動して電極に到達した触媒金属とを合金化させる工程とを有し、対の電極のうちの少なくとも一方と前記カーボンナノチューブとの間にオーミック接合部を形成するオーミック接合の形成方法。
【0026】
(10)第1および第2の配線接続対象としての対の電極を形成する工程と、前記対の電極間に触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を形成する工程と、態様1乃至8のいずれか1つのカーボンナノチューブの製造方法を、前記対の電極を介して前記炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加して、かつ、直流電圧の電圧を反転させることによって触媒金属を往復移動させて、行うことにより、対の電極に含まれる金属と、該炭素線状構造体に沿って移動して電極に到達した触媒金属とをそれぞれ合金化させる工程とを有し、前記第1および前記第2の配線接続対象間を該カーボンナノチューブによって接続する配線の形成方法。
【0027】
(11)ソース電極およびドレイン電極としての第1および第2の電極を形成する工程と、前記第1および前記第2の電極間に触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を形成する工程と、態様1乃至8のいずれか1つのカーボンナノチューブの製造方法を、前記第1および前記第2の電極を介して前記炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加して、かつ、直流電圧の電圧を反転させることによって触媒金属を往復移動させて、行うことにより、対の電極に含まれる金属と、該炭素線状構造体に沿って移動して電極に到達した触媒金属とをそれぞれ合金化させる工程と、前記カーボンナノチューブの周面にゲート電極としての第3の電極を形成する工程とを有するトランジスタの製造方法。
【0028】
(12)態様1乃至8のいずれか1つのカーボンナノチューブの製造方法によって製造されたカーボンナノチューブ。
【0029】
(13)態様9のオーミック接合の形成方法によって形成されたオーミック接合。
【0030】
(14)態様10の配線の形成方法によって形成された配線。
【0031】
(15)態様11のトランジスタの製造方法によって製造されたトランジスタ。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、および配向のカーボンナノチューブを製造することができる。
【0033】
本発明によればまた、高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、およびオーミック性能のオーミック接合を形成することができる。
【0034】
本発明によればさらに、高温の熱処理を用いることなく、所望の場所に、所望のサイズ、形状、配向、およびオーミック性能の配線を形成することができる。
【0035】
本発明によればまた、低コストに高集積化が可能なオーミック接合を有するトランジスタを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明によるカーボンナノチューブの製造方法においては、触媒金属が導入された炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加することによって、触媒金属を析出させると共に、炭素線状構造体の両端のうちの一方に向かって触媒金属を移動させ、炭素線状構造体のうちの触媒金属の移動軌跡に沿った領域を結晶化することにより、カーボンナノチューブを製造する。
【0037】
本発明によるカーボンナノチューブの製造方法においては、所望の場所に、所望のサイズ、形状、および配向で形成された炭素線状構造体を原型として固相成長させるため、所望の場所に、所望のサイズ、形状、および配向のカーボンナノチューブが製造される。そして、得られたカーボンナノチューブは、伝導性、移動度、非弾性電子およびスピン伝導性、力学的強度、熱伝導性、光吸収や発光などの特性に優れており、種々の機能素子への応用展開が可能である。
【0038】
本発明によるカーボンナノチューブの製造方法において、炭素線状構造体に直流電圧が印加されると、炭素線状構造体に導入されている触媒金属は、エレクトロマイグレーションまたはジュール熱によって析出すると共に、両端のうちの一方に向かってエレクトロマイグレーションによって移動する。ここで、触媒金属の析出に関しては、エレクトロマイグレーションとジュール熱との各寄与がどの程度か現在のところ明確には判明していないが、発明者等による実験によれば触媒金属は蒸発して無くなることはなかったため、炭素線状構造体の温度は上がったとしても500℃以下であることが分かる。また、各部材の熱容量からすれば、炭素線状構造体および製造時にその近傍に設けられる基板等の部材の温度の上昇は数十℃程度であると考えられる。つまり、本方法においては、従来のごとく例えば600℃程度以上もの高温処理を積極的に用いることなく、かつ、炭素線状構造体およびその近傍の部材の温度が製造工程中に例えば600℃程度以上もの高温になることなく、形成場所、サイズ、形状、および配向が高精度に制御されたカーボンナノチューブを製造することができる。
【0039】
また、本発明によるオーミック接合の形成方法においては、エレクトロマイグレーション等によって炭素線状構造体の両端のうちの一方に移動して堆積した触媒金属が、炭素線状構造体への直流電圧印加用の電極の材料金属と合金化し、オーミック接合が形成される。直流印加用電極またはその一部は、オーミック接合の形成後には、オーミック接合対象として用いる。換言すれば、オーミック接合対象を、オーミック接合の形成時には、直流印加用電極として用いる。
【0040】
さらに、本発明による配線の形成方法においては、触媒金属が炭素線状構造体の両端のうちの一方に移動して堆積し、オーミック接合が形成された後、炭素線状構造体へ印加する直流電圧の極性を反転させることにより、触媒金属は一塊の状態で炭素線状構造体の両端のうちの他方に移動し、そこで堆積した触媒金属が炭素線状構造体への直流電圧印加用の電極の材料金属と合金化し、オーミック接合を形成する。即ち、炭素線状構造体(カーボンナノチューブ)の両端においてオーミック接合が形成され、両オーミック接合間はカーボンナノチューブによって配線される。直流印加用電極対またはそれぞれの一部は、配線の形成後には、2つの配線対象として用いる。換言すれば、2つの配線対象を、配線の形成時には、直流印加用電極対として用いる。
【0041】
さらにまた、本発明によるトランジスタの製造方法においては、触媒金属が炭素線状構造体の両端のうちの一方に移動して堆積し、オーミック接合が形成された後、炭素線状構造体へ印加する直流電圧の極性を反転させることにより、触媒金属は一塊の状態で炭素線状構造体の両端のうちの他方に移動し、そこで堆積した触媒金属が炭素線状構造体への直流電圧印加用の電極の材料金属と合金化し、オーミック接合を形成する。さらに、カーボンナノチューブの周面に、第3の電極を形成する。即ち、カーボンナノチューブによる配線をチャネルとし、直流印加用電極対をソース電極およびドレイン電極とすると共に、第3の電極をゲート電極とした電界効果トランジスタが製造される。
【0042】
尚、本発明によるカーボンナノチューブの製造方法においては、成長させるべきカーボンナノチューブの原型となる炭素構造体として、100nm以下程度の径もしくは幅を持つ、一次元的な形状、換言すれば、線状を呈する炭素線状構造体を用いることが好ましい。
【0043】
また、触媒金属としては、炭素線状構造体中に原子状あるいはクラスタ状に分散したもの、あるいは、炭素線状構造体の端部に接していて、かつ目的の大きさに調整した触媒微粒子を用いることが好ましい。
【0044】
炭素線状構造体から均質なカーボンナノチューブを製造する上で問題となる点は多結晶化である。この問題点を解決するには、まず結晶成長サイトの数を制限することが必要である。理想的には、既存のカーボンナノチューブの製造方法と同様に、一つの触媒微粒子を用いて一本のカーボンナノチューブを製造することが重要である。
【0045】
これには、炭素線状構造体の大きさと、触媒微粒子の大きさの関係を最適に保つことが重要である。つまり、触媒微粒子の大きさが小さ過ぎる場合には、炭素線状構造体の中を移動する際の直線性が悪く、欠陥も多いナノチューブが形成されてしまう。また、結晶化されない領域も生じ易くなる。一方、触媒微粒子が大き過ぎる場合には、炭素線状構造体中に触媒微粒子が効率的には入らない現象が生じ易くなる。
【0046】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0047】
本発明の実施例1によるカーボンナノチューブの製造方法と、当該製造方法により製造されるカーボンナノチューブと、当該製造方法を利用したオーミック接合の形成方法ならびに配線の形成方法と、当該形成方法により形成されるオーミック接合ならびに配線とについて説明する。
【0048】
まず、カーボンナノチューブを成長させるべき基板に、電極を配置する。基板の材料に特に制限はなく、シリコン等、目的に応じて種々の材料を選択することができる。電極としては、目的に応じた数を、かつ、自由に配置でき、また、電極となる材料には、Nb、Ni−Cr、Co−Niなどの金属が選択できる。
【0049】
本発明において、炭素線状構造体の形成法として、集束イオンビーム励起化学気相堆積法や、電子ビーム励起化学気相堆積法を用いることができる。本実施例においては、集束イオンビーム励起化学気相堆積法を採用した。
【0050】
化学気相堆積法の原料としては、触媒金属となる金属を含むメタロセンなどを用いる。ただし、励起ビームとしてGa+イオンビームを用いる場合には、炭素線状構造体に取り込まれたGa原子が炭素線状構造体中に析出、移動する際にグラファイト化の触媒作用をなすため、メタロセンではなく、フェナントレン、ピレンといった芳香族炭化水素でよい。あるいは、触媒金属が導入された炭素線状構造体として、金属を含まない炭素線状構造体と、その端部に形成された金属粒子または金属塊とを形成する場合には、触媒金属となる金属を含まない有機材料と、触媒金属となる金属材料との二材料を用いる。
【0051】
まず、酸化シリコン基板の全表面上に基板全面にNbを0.1μm蒸着した後、図1(a)に示すように、酸化シリコン基板(図示せず)上のカーボンナノチューブを成長させるべき位置の両端に、ポジ型レジストによるパターニングにより、幅0.1μm、長さ0.5μmのNb電極1および2を、0.5μm間隔で平行に形成する。
【0052】
次に、フェナントレンを用いたGa+イオンビーム励起気相堆積により、図1(b)に示すように、Nb電極1および2間に、太さ100nmのアモルファスカーボン線状構造体3を形成する。用いたGa+イオンビームの電流は、1pA、加速電圧30KeVであった。分析電子顕微鏡を用いた評価を用い、アモルファスカーボン線状構造体3中にはGa原子が堆積していることが確認できた。
【0053】
次に、真空中、室温下で、図1(c)に示すように、Nb電極1および2に直流電源4を繋いでスイッチ5により30Vの電圧を印加したところ、0.2μAの電流が流れ、エレクトロマイグレーションおよびジュール熱により、アモルファスカーボン線状構造体3に含まれていたGa原子が析出、移動し、その軌跡にカーボンナノチューブ6が形成された。形成されたカーボンナノチューブ6を透過電子顕微鏡により評価したところ、直径は100nm、層数4〜5層の多層カーボンナノチューブであった。
【0054】
また、エレクトロマイグレーションにより、陽極(Nb電極1)側にGa堆積物7が形成される。この際に、堆積したGaの一部は、Nb電極1と合金化し、オーミック接合部8が形成される。Nb電極1またはその一部は、オーミック接合の形成後には、オーミック接合対象として用いることができる。換言すれば、オーミック接合対象を、オーミック接合の形成時には、直流印加用電極として用いる。
【0055】
さらに、図1(d)に示すように、スイッチ5を切り換えて、印加電圧の極性を反転することにより、Nb電極1側へのGa堆積物7が、一塊の状態で新たな陽極(Nb電極2)側に移動し、Ga堆積物9およびオーミック接合10を形成する。即ち、カーボンナノチューブ6の両端においてオーミック接合が形成され、両オーミック接合間はカーボンナノチューブ6によって配線される。Nb電極1および2またはそれぞれの一部は、この配線の形成後には、2つの配線対象として用いることができる。換言すれば、2つの配線対象を、配線の形成時には、直流印加用電極対として用いる。
【0056】
この工程により、従来100MΩ以上あった接触抵抗が、1MΩ以下に減少したことが確認された。また、この工程において、先の工程で形成されたカーボンナノチューブ6の欠陥、特に内部の欠陥が減少することが、透過電子顕微鏡観察により確認された。
【0057】
尚、以上の工程で形成されたカーボンナノチューブ6の表面には欠陥や汚れが付着しているが、電圧印加の工程を大気中で行うことにより、これらの欠陥や汚れを酸化、除去できることが、透過電子顕微鏡観察により確認された。
【0058】
また、励起ビームにイオンビームの代わりに電子ビームを用いることにより、太さ5nmのアモルファスカーボン線状構造体の製造が可能である。
【0059】
尚、本実施例においては、触媒金属としてのGaが導入されたアモルファスカーボン線状構造体3を基板の表面上に密着して形成したが、本発明においては、触媒金属が導入された炭素線状構造体を基板の表面上方に浮かせて形成してもよい。ただし、基板の表面上に炭素線状構造体を密着して形成した方が、カーボンナノチューブを基板上の所望の位置に好適に形成することができる。
【実施例2】
【0060】
本発明の実施例2は、リソグラフィ法を用いたカーボンナノチューブの製造方法と、当該製造方法により製造されるカーボンナノチューブと、当該製造方法を利用したオーミック接合の形成方法ならびに配線の形成方法と、当該形成方法により形成されるオーミック接合ならびに配線とについてである。
【0061】
本実施例においては、カーボンナノチューブを成長させるためのベースとしてのアモルファスカーボンの形成において、リソグラフィ手法によるパターニングを行う。このため、カーボンナノチューブおよびそれを含む電子デバイスの大量生産に、より適する方法である。
【0062】
まず、酸化シリコン基板上のカーボンナノチューブを形成すべき場所に、対の電極を形成する。次に、電極が形成された酸化シリコン基板上に、ネガ型レジスト膜を塗布する。レジストには、触媒金属となる金属微粒子や金属を含む有機分子を混入させておく。
【0063】
次いで、カリックスアレンを用いた電子ビーム露光により、高さ5nm、幅10nm、長さ200nm(電極の間隔)のアモルファスカーボンワイヤを製造する。さらに、対の電極間に直流電圧を印加して、以後、実施例1と同様の方法で、カーボンナノチューブを製造する(オーミック接合、配線の形成を行う)。
【0064】
以上のようにして、カーボンナノチューブによる所望のパターン状の配線が形成される。
【実施例3】
【0065】
本発明の実施例3は、実施例1または2によるカーボンナノチューブの製造方法を利用したトランジスタの製造方法と、当該製造方法により形成されるトランジスタとについてである。
【0066】
本実施例においては、実施例1または2と同様の製造方法により製造したカーボンナノチューブに、さらに、ゲート電極を形成することで、カーボンナノチューブをチャネルに用いた電界効果トランジスタを製造する。
【0067】
実施例1または2と同様の製造方法により製造したカーボンナノチューブの両端の対の電極を、ソース電極およびドレイン電極とする。
【0068】
製造されたカーボンナノチューブ上に形成するゲート電極は、カーボンナノチューブの周面上に直接形成するか、あるいは、薄い絶縁膜を介して形成してもよい。もしくは、ゲート電極の材料は導体であればよいため、カーボンナノチューブ自体によってゲート電極を構成してもよい。
【0069】
本実施例によるトランジスタにおいては、設計どおりの位置、サイズ、配向にてカーボンナノチューブが形成される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明した実施例に限定されることなく、本発明は、当該特許請求の範囲に記載された技術範囲内であれば、種々の変形が可能であることは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の実施例1によるカーボンナノチューブの製造方法(オーミック接合の形成方法、配線の形成方法)を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0072】
1、2 Nb電極
3 アモルファスカーボン線状構造体
4 直流電源
5 スイッチ
6 カーボンナノチューブ
7、9 Ga堆積物
8、10 オーミック接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属が導入された炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加することによって、触媒金属を移動させ、炭素線状構造体のうちの触媒金属の移動軌跡に沿った領域を結晶化することにより、カーボンナノチューブを製造することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
直流電圧の電圧を反転させることにより、触媒金属を往復移動させることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
イオンビーム励起化学気相堆積法によって、金属を含まない有機材料を用い、イオンビームに含まれる金属を含有する炭素線状構造体を、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体として形成する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
電子ビーム励起化学気相堆積法によって、金属を含む有機材料を用い、金属を含有する炭素線状構造体を、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体として形成する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
電子ビーム励起化学気相堆積法によって、金属を含まない有機材料および金属材料を用い、金属を含有しない炭素線状構造体の端部に金属粒子または金属塊が形成されたものを、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体として形成する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
触媒となる金属を含むレジストを用い、リソグラフィ法によって、触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を、所定のパターン状に形成する工程を有することを特徴とする請求項1、2、または4に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を、基板の表面上に、形成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を、基板の表面上方に浮かせて、形成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
対の電極を形成する工程と、
前記対の電極間に触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を形成する工程と、
請求項1乃至8のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブの製造方法を、前記対の電極を介して前記炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加して、行うことにより、対の電極のうちの少なくとも一方に含まれる金属と、該炭素線状構造体に沿って移動して電極に到達した触媒金属とを合金化させる工程とを有し、
対の電極のうちの少なくとも一方と前記カーボンナノチューブとの間にオーミック接合部を形成することを特徴とするオーミック接合の形成方法。
【請求項10】
第1および第2の配線接続対象としての対の電極を形成する工程と、
前記対の電極間に触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を形成する工程と、
請求項1乃至8のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブの製造方法を、前記対の電極を介して前記炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加して、かつ、直流電圧の電圧を反転させることによって触媒金属を往復移動させて、行うことにより、対の電極に含まれる金属と、該炭素線状構造体に沿って移動して電極に到達した触媒金属とをそれぞれ合金化させる工程とを有し、
前記第1および前記第2の配線接続対象間を該カーボンナノチューブによって接続することを特徴とする配線の形成方法。
【請求項11】
ソース電極およびドレイン電極としての第1および第2の電極を形成する工程と、
前記第1および前記第2の電極間に触媒金属が導入された前記炭素線状構造体を形成する工程と、
請求項1乃至8のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブの製造方法を、前記第1および前記第2の電極を介して前記炭素線状構造体の両端に直流電圧を印加して、かつ、直流電圧の電圧を反転させることによって触媒金属を往復移動させて、行うことにより、対の電極に含まれる金属と、該炭素線状構造体に沿って移動して電極に到達した触媒金属とをそれぞれ合金化させる工程と、
前記カーボンナノチューブの周面にゲート電極としての第3の電極を形成する工程とを有することを特徴とするトランジスタの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブの製造方法によって製造されたことを特徴とするカーボンナノチューブ。
【請求項13】
請求項9に記載のオーミック接合の形成方法によって形成されたことを特徴とするオーミック接合。
【請求項14】
請求項10に記載の配線の形成方法によって形成されたことを特徴とする配線。
【請求項15】
請求項11に記載のトランジスタの製造方法によって製造されたことを特徴とするトランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−112662(P2007−112662A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305757(P2005−305757)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人科学技術振興機構「ナノ立体構造デバイスの研究」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】