説明

ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法

【課題】噛み合い型の二軸以上の押出機を用いる樹脂成形品の製造において、高い生産性を実現するため、短時間でモノフィラメントの集合体である、ガラスロービング、又はチョップドストランド等のガラス繊維束をモノフィラメントに解繊できる製造条件を提供する。
【解決手段】互いに回転して噛み合うスクリューを備えた二軸以上の押出機を用いて、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法であって、混合混練する際にガラス繊維束が受けるせん断応力の時間積分値の最小値(最小せん断応力履歴値Tmin)を制御して、製造条件を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂にガラス繊維を混合混練し、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法としては、押出機に熱可塑性樹脂を供給し、溶融させた後に、ガラス繊維を供給し、押出機内で熱可塑性樹脂とガラス繊維とを混合混練し、混合物を冷却、造粒する方法が一般的である。押出機は、単軸押出機と同方向完全噛み合い型二軸押出機(以下、二軸押出機という場合がある)が使用されるが、単軸押出機と比較して、二軸押出機は生産性と運転の自由度がより高いので、二軸押出機がより好ましく用いられる。
【0003】
上記ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造において、ガラス繊維は、直径が6μm〜20μmのモノフィラメントを300本〜3000本くらいをまとめてひとつの束にしてロービングに巻き取ったものか、ロービングを長さ1〜4mmにカットしたもの(以下、チョップドストランドという場合がある)を使用する。取り扱いは、チョップドガラスの方が便利であるため、工業的にガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する場合においては、二軸押出機に熱可塑性樹脂を供給し、熱可塑性樹脂の溶融後、二軸押出機の途中からチョップドガラスを供給し、溶融状態の熱可塑性樹脂とガラス繊維とを混合混練し、混合物を押し出して、冷却固化する方法が最も多く行われている。
【0004】
上記の二軸押出機を用いて行うガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの生産性は、二軸押出機の可塑化と混合混練の能力によって決定される。二軸押出機の可塑化能力は、スクリューデザインの他に、スクリューの溝深さ(スクリューの外径と谷径の差)とスクリューが発生するトルクと、回転数に依存する。特許文献1に示されるように、大きな溝深さと、高いトルク及び回転数とを有する二軸押出機が開発された。この開発により二軸押出機の可塑化能力は、飛躍的に向上した。一方、二軸押出機の混合混練能力は、スクリューデザインに依存する。二軸押出機の可塑化能力の向上に伴い、滞留時間が減少した為、短時間で効率のよい混練混合性能を持ったスクリューデザインの開発が求められている。
【0005】
ガラス繊維としては、前述のように、300本〜3000本のモノフィラメントが、束になったチョップドストランドを一般的に使用する。ガラス繊維をモノフィラメントの束にせずに二軸押出機に供給する方法では、モノフィラメントが綿状になり、流動性がなくなり、取り扱いが難しいためである。チョップドストランドは、二軸押出機内で、解繊されモノフィラメントになるまで混合混練される。同時に、モノフィラメントの長さが、300μm〜1000μmになるまでチョップドストランドは破断される。
【0006】
二軸押出機内での混合混練が不十分であると、モノフィラメントに解繊しないで、モノフィラメントの集合体の状態である、チョップドストランドの一部、もしくは全部が樹脂組成物ペレット中に残存する。ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットに、チョップドストランドの一部、もしくは全部が残存した場合、射出成形において、ゲートに上記チョップドストランドの一部又は全部が詰まり、射出成形ができなくなるか、射出成形ができたとしても、成形品に上記チョップドストランドの一部又は全部が存在し、外観不良又は機能低下の原因となる。
【0007】
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの生産性を改善し、経済的に生産するためには、特許文献1の高機能の二軸押出機を使用するようになってきているが、生産性が向上すると、短い滞留時間でチョップドストランドを完全にモノフィラメントに解繊することが一層難しくなり、高い生産性を維持しながらモノフィラメントに解繊する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11−51266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、噛み合い型の二軸以上の押出機を用いる樹脂成形品の製造において、高い生産性を実現するため、短時間でモノフィラメントの集合体である、ガラスロービング、又はチョップドストランド等のガラス繊維束をモノフィラメントに解繊できる製造条件を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、二軸押出機内で発生するせん断応力を解析し、吐出量Qとスクリュー回転数Nsとの比(Q/Ns)が一定の場合には、各ガラス繊維束が押出機に供給されてから押出機内で受けるせん断応力の時間積分を行い時間積分値の中で最も小さい値Tminを制御することで、未解繊ガラス繊維を含むペレット数Nを制御できることを見出し、さらに、上記比(Q/Ns)が一定でない場合に、未解繊ガラス繊維を含むペレット数Nは上記Tmin及び(Q/Ns)を用いて表すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 互いに回転して噛み合うスクリューを備えた二軸以上の押出機を用いて、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法であって、熱可塑性樹脂を前記押出機に供給して加熱、混練し可塑化する可塑化工程と、前記可塑化工程後に、一束以上のガラス繊維束を前記押出機に供給して、前記ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した前記熱可塑性樹脂とを混練する混練工程と、前記混練工程後に、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物を押出す押出工程と、押出された前記ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物をペレット化するペレット化工程と、を備え、前記混練工程において、各ガラス繊維束が押出機に供給されてから押出機内で受けるせん断応力の時間積分を行い時間積分値の中で最も小さい値を最小せん断応力履歴値Tmin、スクリュー回転数をNsとし、前記押出工程における、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物の吐出量をQとし、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造したときの単位量あたりの未解繊ガラス繊維を含むペレット数をNとし、下記関係式(I)を予め導出し、前記Nが所定の値未満になる条件で製造するガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【数1】

(上記関係式(I)中のα、β、γは、ともに0以上の定数である。)
【0012】
(2) 前記熱可塑性樹脂と前記ガラス繊維とを混練するためのスクリューエレメントの外径を変更したとき、前記関係式(I)が下記関係式(II)である(1)に記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【数2】

(上記関係式(II)中のd1は変更前の前記外径、d2は変更後の前記外径、α、β、γ、δ、εは、全て0以上の定数である。)
【0013】
(3) 前記Nが所定の値未満を満たす製造条件は、以下のステップを含む方法で導出される(1)に記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。吐出量Qと前記最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を作成する近似曲線作成ステップと、前記ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した前記熱可塑性樹脂とを混練するためのニーディングディスクの長さを、スクリューエレメントの外径(D)の倍数で表現して、(L/D)とし、条件を少なくとも1回変更して、各(L/D)での前記吐出量Qと前記最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を作成する近似曲線作成ステップ2と、前記ペレット数Nが前記所定の値未満になる最小せん断応力履歴値Tminを決定する閾値Tmin決定ステップと、作成した各近似曲線から前記閾値Tminでの各吐出量(Qn)を算出する吐出量Qn算出ステップと、各近似曲線の前記L/Dと前記各吐出量(Qn)とから、前記L/Dと前記Qnとの関係を一次関数((Q)=f(L/D))によって近似する関係式導出ステップと、(Q)<f(L/D)を満たす条件の中から製造条件を決定する製造条件決定ステップ。
【0014】
(4) 前記スクリューは、フライト部に切り欠きを有するスクリューエレメントを、前記熱可塑性樹脂と前記ガラス繊維とを混練する混練部の少なくとも一部に備える(3)に記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【0015】
(5) 前記ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物がポリブチレンテレフタレート樹脂を含む(1)から(3)のいずれかに記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
二軸以上の押出機を用いた場合、ガラス繊維束が解繊せずに樹脂組成物ペレット中に残存することが問題となっているが、本発明によれば、混合混練する際にガラス繊維束が受けるせん断応力の時間積分値の最小値(最小せん断応力履歴値Tmin)を制御することで、ガラス繊維束がモノフィラメントに解繊され、ガラス繊維が均一に分散された樹脂組成物ペレットを、得ることができる。
【0017】
具体的には、押出機の押出条件(Q(吐出量)とNs(スクリュー回転数))とスクリューデザインの組み合わせの最適化を行い、最小せん断応力履歴値Tminを制御することで、モノフィラメントの集合体の状態であるガラス繊維束の一部、もしくは全部が樹脂組成物ペレットに残存しない。
【0018】
なお、生産効率に優れた高性能二軸押出機を用いた場合に、特に、ガラス繊維束が解繊せずに樹脂組成物ペレット中に残存することが問題となっている。本発明はこのような高性能な二軸押出機を用いても上記のガラス繊維の未解繊の問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、押出機のスクリュー構成の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明で用いる関係式(I)を表すグラフを示す図である。
【図3】図3は、各(L/D)での吐出量Qと最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を示す図である。
【図4】図4は、L/DとQnとの関係を表す一次関数((Q)=f(L/D))を示す図である。
【図5】図5は、実施例で使用した具体的なスクリューパターンを示す図である。
【図6】図6は、実施例で使用した具体的なスクリュー形状を示す図である。
【図7】図7は、実施例で使用した押出機のQ/Ns=1.0の条件で、最小せん断応力履歴値(Pa・sec)とガラス繊維束の一部又は全部が未解繊のペレット数(個/ペレット10kg)との関係を示す図である。
【図8】図8は、実施例で使用した押出機のQ/Ns=1.0、Q/Ns=0.8、Q/Ns=0.5の条件での、最小せん断応力履歴値(Pa・sec)とガラス繊維束の一部又は全部が未解繊のペレット数(個/ペレット10kg)との関係(相関線)を示す図である。
【図9】図9は、実施例で使用した押出機のQ/Nsにほとんど依存しない最小せん断応力履歴値(Pa・sec)とガラス繊維束の一部又は全部が未解繊のペレット数(個/ペレット10kg)との関係(相関線)を示す図である。
【図10】図10は、実施例で使用した押出機の吐出量と最小せん断応力履歴値との関係を示す図である。
【図11】図11は、実施例で使用した押出機の吐出量とL/Dとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0021】
本発明は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法であり、本発明の製造方法は、可塑化工程と、混練工程と、押出工程と、ペレット化工程とを備える。本発明は、最小せん断応力履歴値Tminの値が一定以上になるように、押出し工程における吐出量Q、混練工程におけるスクリュー回転数Nsを調整することで、ガラス繊維束が解繊せずに樹脂組成物ペレット中に残存することを抑える。
【0022】
以下、これらの各工程について説明する。また、図1に記載の二軸押出機を例にして説明する。この押出機は樹脂可塑化部と混練部とを備える。樹脂可塑化部は供給部、可塑化部、輸送部を備える。混練部は混練部1、混練部2を備える。
【0023】
<可塑化工程>
可塑化工程では、ホッパから供給された熱可塑性樹脂を移送・溶融して、均質な溶融体を作る。先ず、熱可塑性樹脂について説明し、次いで、ホッパから供給された熱可塑性樹脂が均質な溶融体になるまで(可塑化工程の詳細)を説明する。
【0024】
[熱可塑性樹脂]
本発明の製造方法において、使用する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリアセタール、液晶性樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ナイロン66等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも特に、粘性の低いものほど、上記ガラス繊維束の未解繊の問題は生じやすい。粘性が低いと溶融状態ではせん断応力が発生し難くなり、モノフィラメントを収束したガラス繊維束は、解繊し難くなるからである。粘性の低い樹脂としては、例えば、液晶性樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン66等が挙げられる。
【0025】
[可塑化工程の詳細]
熱可塑性樹脂の可塑化は図1に記載の二軸押出機の樹脂可塑化部で行われる。樹脂可塑化部は、供給部、可塑化部、輸送部を有する。供給部及び輸送部で使用するスクリューエレメントとしては、例えば順フライトからなる搬送用のエレメント等が挙げられる。可塑化部に使用するスクリューエレメントとしては、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメントの組み合わせ等が挙げられる。以下、供給部、可塑化部、輸送部について簡単に説明する。
【0026】
供給部では樹脂ペレットを移送する。供給部は、一般に樹脂ペレットが溶融しないような温度設定で、樹脂ペレットをホッパ側からダイ方向側に移送する働きをする。このように樹脂ペレットが溶融しないような低温で行われるが、溶融の準備段階として外部ヒータによる予熱が行われる場合がある。また、樹脂ペレットは、回転するスクリューとシリンダーに挟まれるため、樹脂ペレットには摩擦力が加わり、摩擦熱が発生する。上記予熱や摩擦熱によって溶融し始める場合もある。
【0027】
場合によっては、供給部では、樹脂ペレットの移送がスムーズに進むように、スクリューの溝深さの調整、予熱の温度調製を従来公知の方法で行う必要がある。
【0028】
可塑化部では、供給部から移送された樹脂ペレットに圧力を加えて樹脂ペレットを溶融する。可塑化部では、樹脂ペレットにせん断応力が加わる結果、樹脂ペレットが溶融しながら、さらに前方(ホッパからダイの方向)へと移送される。
【0029】
輸送部では、可塑化部で溶融された熱可塑性樹脂(以下、溶融樹脂という場合がある)を移送する。輸送部は、可塑化部で均質な溶融状態になった熱可塑性樹脂を混練部まで移送する。
【0030】
<混練工程>
混練工程では、可塑化工程後に、一束以上のガラス繊維束を押出機に供給して、上記ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した熱可塑性樹脂とを混練する。
【0031】
混練工程は図1に示す二軸押出機の混練部で行われる。混練部は、混練部1、混練部2からなり、混練部2は混練部21、混練部22からなる。混練部1で使用するスクリューエレメントとしては、例えば順フライトからなる搬送用のエレメントが挙げられる。混連部21及び22に使用するスクリューエレメントとしては、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメントの組み合わせが挙げられる。例えば、混練部21に順ニーディングディスクを用いて、混練部22に逆フライトを用いる等の組み合わせが挙げられる。また、後述する通り、本発明の製造方法においては、フライト部に切り欠きを有する逆送りのスクリューエレメントを混練部21に用いることが好ましい。
【0032】
[混練部1]
混練部1では副原料フィード口から投入されたガラス繊維束と溶融樹脂とを混練部2まで搬送する。
【0033】
ガラス繊維束は、特に限定されないが、300本から3000本のモノフィラメントが束になったチョップドストランド、1100本か2200本が束になったチョップドストランドが好ましく使用できる。また、モノフィラメントの径は、特に限定されないが、6μmから20μmの範囲のものが好ましく、6μm、10μm、13μmのものが物性上特に好ましい。なお、ロービングのままモノフィラメントの束を連続的に二軸押出機に供給することもできる。しかし、ロービングをカットしたチョップドストランドは、輸送、二軸押出機への供給において、取り扱いが容易である。このため、チョップドストランドの使用が好ましい。
【0034】
[混練部2]
混練部2では、ガラス繊維束及び溶融樹脂にせん断応力がかかる。せん断応力がかかることでガラス繊維束の解繊及びモノフィラメントと溶融樹脂との混練が進む。本願発明の製造方法の特徴は、混練部2でのガラス繊維束と溶融樹脂との混練後に、未解繊のガラス繊維束がほとんど残存しないことにある。このような効果を得るためには、最小せん断応力履歴値Tminの値が一定以上になるように、押出し工程における吐出量Q、混練工程におけるスクリュー回転数Ns等を調整する必要がある。以下、製造条件の決定法について説明する。
[製造条件の決定]
先ず、各ガラス繊維束が押出機に供給されてから押出機内で受けるせん断応力の時間積分を行い、得られた時間積分値の中で最も小さい値(最小せん断応力履歴値(Tmin))、スクリュー回転数(Ns)、吐出量(Q)を用いて、単位量あたりの未解繊のペレット数Nを表す。具体的には下記式(I)の形式で表す。
【数3】

(上記関係式(I)中のα、β、γは、ともに0以上の定数である。)
【0035】
次いで、N<0.1になるような条件(吐出量Q、スクリュー回転数Ns)を導出する(ここでは、Nが所定の値未満を、1kgあたり0.1個未満として説明する。Nは、単位量あたりの樹脂組成物中に、未解繊ガラス繊維を含むペレット数で、0.1未満とすれば未解繊ガラス繊維がペレット中に含まれる可能性が非常に低くなるからである。また、ペレット数の測定精度を上げる為に単位量を10kgとしている。)未解繊のまま残るガラス繊維束の個数がペレット10kgあたり1未満であるため、ガラス繊維束が未解繊の状態で樹脂組成物ペレット中に残存することを充分に抑えることができる。
【0036】
製造条件を決定する際に必要になる式(I)の導出過程の一例について、具体的に説明する。
【0037】
先ず、定数α、βの導出について説明する。(Q/Ns)が一定の条件(例えば、Q/Ns=1)で、所定の最小せん断応力履歴値Tminでの未解繊ペレット数N(個/10kg)を複数のTminで求め、以下の関係式(III)を導出する。
【数4】

(上記関係式(I)中のα、βは、0以上の定数である。)
【0038】
最小せん断応力履歴値Tminは、シミュレーションにより導出することができる。シミュレーション方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。従来公知の方法としては、実施例に記載するような、粒子追跡解析が挙げられる。最小せん断応力履歴値Tminはせん断応力の時間積分を行うことで得られる時間積分値であるが、積分区間は、溶融樹脂及びガラス繊維束にせん断応力がかかる区間であり、図1に示す押出機の場合には、混練部2の区間である。
【0039】
最小せん断応力履歴値の導出方法は、特に限定されない。シミュレーションを用いて導出する方法、実験により導出する方法等が挙げられる。
【0040】
上記のようにして得られた、最小せん断応力履歴値Tmin、未解繊ペレット数Nをグラフ上にプロットし、従来公知の方法で近似関数を求めることで関係式(I)中の定数であるα、βを決めることができる。なお、近似関数を求める具体的な方法としては最小二乗法、ガウスニュートン法、シンプレックス法という方法等が挙げられる。
【0041】
次いで、γの導出について説明する。(Q/Ns)を異なる値に変更し(例えば、Q/NsからQ/Nsに変更)、同様の方法で、最小せん断応力履歴値Tminと未解繊ペレット数Nとの関係式を求める。このように複数の(Q/Ns)の値での最小せん断応力履歴値Tminと未解繊ペレット数Nとの関係式を導出する。
【0042】
複数の(Q/Ns)の値での最小せん断応力履歴値Tminと未解繊ペレット数Nとの関係式に基づいて、従来公知の近似関数導出方法を用いることで、γを決めることができる。なお、従来公知の近似関数導出方法としては、最小二乗法、ガウスニュートン法、シンプレックス方という方法等が挙げられる。
【0043】
最後に、上述のようにして式(I)が得られたら、Nが10kgあたり1未満になるような吐出量Q、スクリュー回転数Nsを導出する。導出された条件で、樹脂組成物ペレットの製造を行うことで、混練部でガラス繊維束が十分に解繊し、未解繊部分がペレット中に残存することを抑えることができる。図2は、関係式(I)を表すグラフである。グラフの縦軸は未解繊ペレット数(ペレット10kgあたりの未解繊ペレット数を例に示す)、横軸は最小せん断応力履歴値である。Nが1未満になる条件を図2中に斜線で示した。
【0044】
Nが10kgあたり1未満になるような吐出量Q、スクリュー回転数Nsの導出にあたっては、Nが1未満の条件が導出されるまで、様々な条件で計算を繰り返す必要がある。具体的には、数式(I)に、Q、Ns、Tminを代入し、Nが1未満になるまで、様々な条件で計算を行なうことになる。ところで、この導出方法の場合にはTminは検討する条件ごとにシミュレーションで導出する必要があるが、シミュレーションによるTminの導出には時間がかかることから、後述する簡便な製造条件の決定方法により製造条件を求める方法が好ましい。
なお、リード長とは、ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した熱可塑性樹脂とを混練するためのエレメントで、切り欠きのある逆送りのフライトのリード長を指す(混練部21)。
【0045】
[押出機サイズを変更した場合の製造条件の決定]
一般的に、小型の試作機を用いて製造条件の検討を行い、大型の量産機で樹脂組成物ペレットの製造を行う。この量産機による製造を行う場合、小型の試作機を用いて導出した関係式(I)を用いると、未解繊ペレット数が所定の値未満になるような製造条件を正確に選択することができない。同じ吐出量及び同じスクリュー回転数の条件であっても、小型の試作機と大型の量産機とでは、バレルからの伝熱量が異なり、溶融樹脂にかかる熱エネルギーが異なるからである。
【0046】
小型の試作機ではなく大型の量産機でシミュレーション、実験等を行い、上記関係式(I)を導出することも可能ではあるが、時間と費用と手間がかかる。以下に説明する方法を行うことで、小型の試作機で導出した関係式(I)から大型の量産機で用いることができる関係式(II)を導出することができる。
【0047】
スクリューエレメントの外径Dが、d1からd2に変更になる場合、試作機での吐出量Qと量産機での吐出量Qとの間には下記関係式(IV)が成立し、試作機でのスクリュー回転数Nsと量産機でのスクリュー回転数Nsとの間には下記関係式(V)が成立する。
【数5】

【数6】

【0048】
溶融樹脂にかかる比エネルギーが同等になるように上記関係式(IV)、(V)のδ及びεを決定する。δ及びεの決定方法としては、理論的に決定する方法、実験的に決定する方法のいずれでもよい。理論的に決定する方法としては、一般的には、断熱状態と仮定して、目的関数を比エネルギー、あるいは総せん断量、滞留時間等が、小型機と大型機で一致するように、パラメーターδ及びεが導出される。小型機と大型機の伝熱量の差を仮定して、目的関数としての比エネルギーが、小型機と大型機で一致するように、パラメーターδ及びεを導出することもできる。実験的に決定する方法としては、目的関数を、比エネルギーとするか、もしくは、物性を示すパラメーターを採用し、目的関数が、小型機と大型機とで一致するように、統計的にパラメーターδ及びεを算出するような方法が挙げられる。
【0049】
小型の試作機と大型の量産機との間に成立する上記関係式(IV)、(V)を導出することで、大型機に成立する未解繊ペレット数Nと最小せん断応力履歴値Tminとの間の下記関係式(II)を容易に導出することができる。
【数7】

【0050】
製造条件は、Nが所定の値未満を満たすように調整する。具体的には、例えば、上述の通り、押出機サイズ(スクリューエレメントの外径D)、吐出量Q、スクリュー回転数Nsを決めて、最小せん断応力履歴値Tminのシミュレーションを行い、Nが所定の値未満になるまで、L/D、吐出量Q、スクリュー回転数Nsの条件を変更して検討を行う。
【0051】
[簡便な製造条件の決定方法]
上記のような関係式(I)、(II)を用いることで、未解繊のガラス繊維束を含む樹脂組成物ペレットが製造されないような製造条件を決定することができる。しかしながら、製造条件の検討の都度、数式(I)又は(II)にNs、Q、Tminを代入する方法の場合、非常に時間がかかる(特に、シミュレーションによるTminの導出に時間がかかる。)。そこで、以下の方法で、ガラス混練部の長さL/Dと、許容される中で最大の吐出量(最大吐出量)との関係を導出することで、容易に製造条件を決定できる。その結果、Nが所定の値未満の条件を満たす製造条件を決定することができる。
【0052】
以下に説明するガラス混練部の長さL/Dと最大吐出量との関係を導出する方法は、近似曲線作成ステップと、近似曲線閾値Tmin決定ステップと、吐出量Qn算出ステップと、関係式導出ステップと、を備える。以下に各ステップについて詳細に説明する。
【0053】
(近似曲線作成ステップ)
近似曲線作成ステップでは、Q/Ns=一定とし、吐出量Qと前記最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を作成する。
【0054】
具体的には、例えば、押出機サイズ(D)、混練部の長さ(L/D)、吐出量Q、スクリュー回転数Ns、最小せん断応力履歴値Tminに基づいて近似曲線を作成することができる。なお、押出機サイズ(L/D)、吐出量Q、スクリュー回転数Ns、最小せん断応力履歴値Tminについては、数式(I)の算出で用いたもの使用すればよい。
【0055】
例えば、(Q、TminA)、(Q、TminB)、(Q、TminC)から近似曲線を作成する方法は、特に限定されないが、例えば最小二乗法、ガウスニュートン法、シンプレックス法という方法等という方法で作成することができる。なお、図3(a)に近似曲線F1を示した。
【0056】
(近似曲線作成ステップ2)
近似曲線作成ステップ2は、混練部の長さ(L)、スクリューエレメントの外径(D)として、混練部(L/D)の条件を少なくとも1回変更して、各(L/D)での吐出量Qと最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を、上記近似曲線作成ステップと同様の方法で作成するステップである。
【0057】
近似曲線作成ステップ2では、近似曲線を少なくとも一つ導出すればよいが、ここでは近似曲線F2、F3を導出したとする。図3(b)に近似曲線F1、F2、F3を示した。
【0058】
(閾値Tmin決定ステップ)
閾値Tmin決定ステップとは、上記式(I)においてペレット数Nが1未満になる最小せん断応力履歴値Tminを決定するステップである。上記式(I)を、縦軸が未解繊ペレット数N、横軸が最小せん断応力履歴値Tminのグラフで表すことで、導出することができる。
【0059】
(吐出量Qn算出ステップ)
吐出量Qn算出ステップとは、作成した各近似曲線から閾値Tminでの各吐出量(Qn)を算出するステップである。
【0060】
近似曲線F1に閾値Tminを代入して算出される吐出量をQ1、近似曲線F2に閾値Tminを代入して算出される吐出量をQ2、近似曲線F3に閾値Tminを代入して算出される吐出量をQ3とする。Q1,Q2、Q3を図3(c)に示した。
【0061】
(関係式導出ステップ)
関係式導出ステップとは、各近似曲線でのL/Dと上記各吐出量(Qn)とから、上記L/DとQnとの関係を一次関数((Q)=f(L/D))によって近似するステップである。
【0062】
吐出量Q1を導出したときの、L/DをL1/D1とし、吐出量Q2を導出したときの上記L/DをL2/D2とし、吐出量Q3を導出したときの上記L/DをL3/D3とする。横軸に混練部L/D、縦軸に吐出量Qとし、(Q1、L1/D1)、(Q2、L2/D2)、(Q3、L3/D3)から一次関数((Q)=f(L/D))を導出する。導出結果を図4(a)に示す。なお、導出方法については特に限定されないが、例えば最小二乗法等の方法で導出することができる。なお、リード長(L)とは、ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した熱可塑性樹脂とを混練するためのニーディングディスクのリード長を指す(混練部21)。
【0063】
以上のようにして、L/Dと最大吐出量との関係が導出される。この関係に基づいて、以下の製造条件決定ステップを行なうことで、容易に押出条件を決定できる。
【0064】
製造条件決定ステップとは、未解繊ガラス繊維束を含むペレット数が所定の値未満になる製造条件を決定するステップである。具体的には(Q)<f(L/D)を満たす領域を決定する。この領域から製造条件を選択すれば、最小せん断応力履歴値Tminは閾値Tmin以上になり、未解繊ガラス繊維束を含むペレット数は所定の値未満になる。
【0065】
また、押出機内の樹脂温度を、樹脂が劣化する温度以下に維持する必要がある。図4(a)の点線Zは、樹脂の劣化限界の温度を示す線である。これと(Q)=f(L/D)の交点まで吐出量を上げることができる。
【0066】
なお、関係式(I)の代わりに関係式(II)を用いれば、大型の量産機の場合にも上記の簡便な製造条件の決定を行うことができる。
【0067】
また、混練部2に、特開2002−120271に記載されているような切り欠きのあるスクリューエレメントを使用した場合の(Q)BMS=f(L/D)BMSを図4(b)に示した。切り欠きのあるスクリューエレメントを用いることで製造条件の選択の幅が広がるため好ましい。
<押出工程、ペレット化工程>
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物がどのように押出され、どのようにペレット化されるかは特に限定されないが、例えば、棒状に押出されたガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物を切断してペレット化することができる。なお、切断方法は特に限定されず、従来公知の方法を利用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例においては以下の材料を用いた。
熱可塑性樹脂:ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)(メルトインデックス(MI)=70g/10分)
カーボンマスターバッチ
ガラス繊維束:直径が13μmのモノフィラメントを2200本束ねた長さ3mmのチョップドストランド
また、組成は以下の通りである。
PBTが67.5質量%、カーボンマスターバッチが2.5質量%、ガラス繊維束が30質量%
押出条件は以下の通りである。
押出機:同方向完全噛み合い型二軸押出機TEX44αII(日本製鋼所製)スクリューエレメントの外径(D)が0.047m
押出条件;
【表1】

バレル温度;220℃
スクリューデザイン;
(1)概略
押出機のスクリューは図1のように表すことができ、図1に示すスクリューパターンの概略は以下の通りである。
C1:ホッパ
C2〜C5:供給部
C5〜C6:可塑化部
C6〜C8:輸送部
C9:副原料フィード口
C10:混練部1
C11:混練部2(混練部21、混練部22からなる)
(2)実施例で使用した具体的なスクリューパターンは、図5に示す通りである。なお、ニーディングディスクで、各ディスクが送り方向に45°位相がずれているものをFKとし、逆送りの1条のフライトで切り欠きのあるエレメントをBMSとする。
図5(a)に示すスクリューパターンをFK1.0D(L/D=1)、
図5(b)に示すスクリューパターンをFK2.0D(L/D=2)、
図5(c)に示すスクリューパターンをBMS1.0D(L/D=1)、
図5(d)に示すスクリューパターンをBMS2.0D(L/D=2)、
図5(e)に示すスクリューパターンをBMS2.5D(L/D=2.5)、
とする。L/Dは、混練部21の長さ(L)とスクリューエレメントの外径(D)との比(L/D)である。
(3)スクリューの形状
図5に示すスクリューパターンはそれぞれC11の混練部2のみ異なる。C11の混練部2のスクリューの形状を図6に示す。図5(a)のパターンのスクリュー形状を図6(a)に示し、図5(b)のパターンのスクリュー形状を図6(b)に示し、図5(c)のパターンのスクリュー形状を図6(c)に示し、図5(d)のパターンのスクリュー形状を図6(d)に示し、図5(e)のパターンのスクリュー形状を図6(e)に示した。
図6(a)に示すスクリューは混練部21が長さ1.0Dの順ニーディングディスク、混練部22が長さ0.5Dの逆フライト
図6(b)に示すスクリューは混練部21が長さ2.0Dの順ニーディングディスク、混練部22が長さ0.5Dの逆フライト
図6(c)に示すスクリューは混練部21が長さ1.0Dの切り欠き含有の1条の逆ニーディングディスク、混練部22が長さ0.5Dの逆フライト
図6(d)に示すスクリューは混練部21が長さ2.0Dの切り欠き含有の1条の逆ニーディングディスク、混練部22が長さ0.5Dの逆フライト
図6(e)に示すスクリューは混練部21が長さ2.5Dの切り欠き含有の1条の逆ニーディングディスク、混練部22が長さ0.5Dの逆フライト
【0070】
[製造条件の決定]
Q/Ns=1.0の条件で、図7に示すような最小せん断応力履歴値(Pa・sec)とガラス繊維束の一部又は全部が未解繊のペレット数(個/ペレット10kg)との関係を求めた。最小せん断応力履歴値(Pa・sec)はシミュレーションにより求めた。未解繊ペレット数は実験により求めた。具体的には以下のようにして求めた。
【0071】
先ず、シミュレーションによる最小せん断応力履歴値(Pa・sec)の導出について説明する。
二軸押出機内3次元流動解析ソフト(アールフロー社製ScrewFlow−Multi)を用いて同方向完全噛み合い型二軸押出機内の樹脂挙動を解析した。
解析の際に用いた支配方程式は、連続式(A)、ナビエ−ストークス式(B)、温度バランス式(C)である。
【数8】

【数9】

【数10】

【0072】
解析仮定として、非圧縮性流体で、完全溶融・完全充満とした。また、粘度近似式はアレニウス近似及びWLF近似を使用した。解析手法は、有限体積法、SOR法、SIMPLEアルゴリズムであり、計算としては、まず定常解析を行い、これを初期値として、非定常解析を行った。非定常解析の後、トレーサー粒子を配置(約5000個)して、トレーサー粒子にかかる局所情報を収集した(粒子追跡解析)。せん断応力の時間積分値の最小値Tminは、トレーサー粒子にかかる局所情報のせん断応力を時間積分し、全粒子の最小値を求めたものである。
【0073】
次いで、実験による未解繊ペレット数の導出について説明する。
PBTを二軸押出機に供給した後、上記押出条件で、ガラスのチョップドストランドを供給し、混練混合した後、ダイから樹脂組成物を押出し、溶融した樹脂組成をダイから引取りストランドにして、水槽でストランドを冷却固化して、カッターで、ストランドを3mmの長さに切断してペレットを作成した。ペレットを10kg採取し、黒色のペレットの中のガラス未解繊(銀色の凝集塊)を目視にて探し、ガラス未解繊を含んだペレットの個数を数えた。
【0074】
未解繊ペレット数と最小せん断応力履歴値と間の関係を表す近似曲線(相関線)を、最小二乗方法で求めた。Q/Ns=1.0で、混練部2に前述のように図6(a)から(e)の異なるエレメントを入れ、かつ、異なるQで実験とシミュレーションを行った結果、以下のようなひとつの近似曲線が得られた。近似曲線については図7に示した。
【数11】

【0075】
上記関係式(III)のαが11.5042、βが−2.200となった。
【0076】
Q/Ns=0.8、Q/Ns=0.5の条件でも、上記と同様にして、図8に示すように最小せん断応力履歴値(Pa・sec)とガラス繊維束の一部又は全部が未解繊のペレット数(個/ペレット10kg)との関係(相関線)を求めた。なお、図8にはQ/Ns=1.0の場合の相関線についても示した。
【0077】
図8に示すように、Q/Nsごとに相関線が異なる。そこで、上記関係式(I)の形式の関数に最小二乗法で近似した。近似曲線を図9に示した。図9に示すように、Q/Nsにほとんど依存しない一つの相関線で近似できた。なお、γは3.0であった。
【0078】
図9に示すように、所定の最小せん断応力履歴値以上であれば、未解繊ペレット数が10kgあたり1未満になることが確認できた。
【0079】
[押出機サイズを変更した場合の製造条件の決定]
スクリューエレメントの外径(D)の条件を0.047mから0.069mに変更した。溶融樹脂にかかる比エネルギーが同等になるように上記関係式(IV)、(V)のδ及びεを上述の方法で検討し、成形加工(第11巻、第11号、1999年、910頁から913頁に記載)の方法で補正して決定した。δが2.5、εが0.5であった。
【0080】
最終的に量産機では、以下の関係式になる。
【数12】

(K=1.03823×10−4[m]、D=0.3285[m])
【0081】
比エネルギーが同等になるように調整した上記の式を用いれば、未解繊ペレット数が単位量あたりに所定の値未満になる条件をシミュレーションで最小せん断応力履歴値を導出することにより確認することができる。
【0082】
[簡便な製造条件の決定方法]
(関係式導出ステップ)
上記関係式(VII)を用いる。
【0083】
(近似曲線作成ステップ、近似曲線作成ステップ2)
関係式(VII)を導出する際に得たデータに基づいて、吐出量と最小せん断応力履歴値との関係を導出した。導出結果を図10(a)に示した。なお、図10(a)には近似曲線も併せて示している。
【0084】
Q/Ns=0.8の場合についても同様の方法で、近似曲線を作成した。結果を図10(b)に示した。
【0085】
(閾値Tmin決定ステップ)
未解繊ペレット数N(個/ペレット1kg)が0.4未満になるよう設定した場合、図9から求めると最小せん断応力履歴値は78000Pa・secであった。
【0086】
(吐出量Qn算出ステップ)
78000Pa・secを図10中に点線で示した。Q/Ns=1.0と0.8の場合に各近似曲線で最小せん断応力履歴値が78000Pa・secになる吐出量を表2にまとめた。
【表2】

【0087】
(関係式導出ステップ2、製造条件決定ステップ)
表2の結果を図11にまとめた。図11に示す各直線は、L/Dごとに未解繊ペレットが所定の値になる最大の吐出量を示すことから、容易に製造条件を決定することができる。また、図11には、樹脂の劣化限界の温度を示す線(劣化限界線)も併せて示した。劣化限界線との交点までの吐出量から製造条件を選択する必要がある。
【0088】
また、フライト部に切り欠きを有するスクリューエレメントを混練部21に用いることで、製造条件の選択の幅が広がることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに回転して噛み合うスクリューを備えた二軸以上の押出機を用いて、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法であって、
熱可塑性樹脂を前記押出機に供給して加熱、混練し可塑化する可塑化工程と、
前記可塑化工程後に、一束以上のガラス繊維束を前記押出機に供給して、前記ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した前記熱可塑性樹脂とを混練する混練工程と、
前記混練工程後に、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物を押出す押出工程と、
押出された前記ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物をペレット化するペレット化工程と、を備え、
前記混練工程において、各ガラス繊維束が押出機に供給されてから押出機内で受けるせん断応力の時間積分を行い時間積分値の中で最も小さい値を最小せん断応力履歴値Tmin、スクリュー回転数をNsとし、前記押出工程における、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物の吐出量をQとし、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造したときの単位量あたりの未解繊ガラス繊維を含むペレット数をNとし、下記関係式(I)を予め導出し、前記Nが所定の値未満になる条件で製造するガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【数1】

(上記関係式(I)中のα、β、γは、ともに0以上の定数である。)
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と前記ガラス繊維とを混練するためのスクリューエレメントの外径を変更したとき、前記関係式(I)が下記関係式(II)である請求項1に記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【数2】

(上記関係式(II)中のd1は変更前の前記外径、d2は変更後の前記外径、α、β、γ、δ、εは、全て0以上の定数である。)
【請求項3】
前記Nが所定の値未満を満たす製造条件は、以下のステップを含む方法で導出される請求項1に記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
吐出量Qと前記最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を作成する近似曲線作成ステップと、
前記ガラス繊維束を解繊しながら、解繊されたガラス繊維と可塑化した前記熱可塑性樹脂とを混練するためのニーディングディスクの長さを、スクリューエレメントの外径(D)の倍数で表現して、(L/D)とし、条件を少なくとも1回変更して、各(L/D)での前記吐出量Qと前記最小せん断応力履歴値Tminとの関係を表す近似曲線を作成する近似曲線作成ステップ2と、
前記ペレット数Nが前記所定の値未満になる最小せん断応力履歴値Tminを決定する閾値Tmin決定ステップと、
作成した各近似曲線から前記閾値Tminでの各吐出量(Qn)を算出する吐出量Qn算出ステップと、
各近似曲線の前記L/Dと前記各吐出量(Qn)とから、前記L/Dと前記Qnとの関係を一次関数((Q)=f(L/D))によって近似する関係式導出ステップと、
(Q)<f(L/D)を満たす条件の中から製造条件を決定する製造条件決定ステップ。
【請求項4】
前記スクリューは、フライト部に切り欠きを有する逆送りのスクリューエレメントを、前記熱可塑性樹脂と前記ガラス繊維とを混練する混練部の少なくとも一部に備える請求項3に記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物がポリブチレンテレフタレート樹脂を含む請求項1から3のいずれかに記載のガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−45865(P2012−45865A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191484(P2010−191484)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】