説明

サスペンションアーム

【課題】軽量化を十分図ることができるとともに構造を簡素化することができ、生産性を向上させることができるサスペンションアームを提供する。
【解決手段】閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、軸芯Oが車両前後方向に沿うマウントブッシュ40を介して両端部10A.10Bがサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、スプリングシート取り付け部21を長手方向中間部の上面に有し、両端部10A.10Bのマウントブッシュ40の軸芯Oを結ぶ仮想線Lよりもスプリングシート取り付け部21が下方に位置するように下方に湾曲している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部に有しているサスペンションアームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を図る目的でサスペンション装置のサスペンションアームをアルミニウム合金で形成する手段が採用されている。その一例として、サスペンションアームをアルミニウム鋳物材で形成する手段があるが、この手段では、複雑な形状に形成可能である反面、湯流れや鋳巣の対策を施す必要があるために、最大の狙いである軽量化の効果が小さくなってしまう。
そこで、閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とした冒頭に記載のサスペンションアームが提案されている。
従来、特許文献1に開示されているように、アルミニウム合金を素材として、左右一対の断面長方形状のフレーム部と、両フレーム部の下端部同士を連結する断面円弧状の下壁とから成る一直線状の押出材を押し出し成形した後、左右一対のフレーム部の長手方向中間部を幅方向外方側に膨出させて左右一対の互いに対向する円弧状部を加工し、両円弧状部の間の下壁をパンチで押圧してコイルスプリングの受け止め部を形成した技術があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号 WO2005/002890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構造によれば、左右一対の円弧状部の間の下壁をパンチで押圧してコイルスプリングの受け止め部を形成してあることから、長手方向両端部のマウントブッシュの軸芯を結ぶ仮想線よりもスプリングシート取り付け部を下方に配置することができて、コイルスプリングからの力を確実に受け止めることができる。
しかしながら、閉じ断面の長方形状のフレーム部を複数設けていたために、軽量化を十分図ることができず、その上、構造が複雑化していた。さらに、左右一対のフレーム部の長手方向中間部を幅方向外方側に膨出加工(拡幅)していたために、加工に手間がかかって生産性が低かった。
本発明の目的は、軽量化を十分図ることができるとともに構造を簡素化することができ、生産性を向上させることができるサスペンションアームを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部に有しているサスペンションアームであって、
前記スプリングシート取り付け部を前記長手方向中間部の上面に有し、
前記両端部のマウントブッシュの軸芯を結ぶ仮想線よりも前記スプリングシート取り付け部が下方に位置するように下方に湾曲している点にある。(請求項1)
【0006】
この構成によれば、スプリングシート取り付け部を前記長手方向中間部の上面に有しているから、例えば、左右一対のフレーム部を拡幅して円弧状部を加工し、両円弧状部の間の下壁を押圧加工してコイルスプリングの受け止め部を形成する手段に比べると、フレーム部を拡幅する必要がなくて生産性を向上させることができる。
しかも、両端部のマウントブッシュの軸芯を結ぶ仮想線よりもスプリングシート取り付け部が下方に位置するように下方に湾曲しているから、コイルスプリングからの力を確実に受け止めることができる。そして、マウントブッシュに無理な力(ねじり力)がかからず、マウントブッシュの耐久性を向上させることができ、車室内への振動の伝播を防止することができて、車両の静粛性を向上させることができる。
また、閉じ断面形状部を複数設けなくても済み、軽量化を十分図ることができるとともに構造を簡素化することができる。(請求項1)
【0007】
本発明において、
前記閉じ断面は上壁と前側縦壁と後側縦壁と下壁で構成され、
前記上壁は、前記前側縦壁よりも車両前方側に突出する前側フランジと、前記後側縦壁よりも車両後方側に突出する後側フランジとを有し、
前記上壁の前側フランジ側から後側フランジ側にわたる上面に前記スプリングシート取り付け部が形成されていると、上壁の上面を幅方向に拡大することができて、スプリングシート取り付け部の取り付け面の面積を十分確保することができる。
従って、コイルスプリングの下端部を安定支持することができる。また、上壁が前記前側フランジと後側フランジを有していることから、サスペンションアームの剛性を向上させることができる。(請求項2)
【0008】
本発明において、
前記下壁の前端部と後端部は、前記下壁の車両前後方向中間部に対して下方に膨出していると、膨出部がサスペンションアームの長手方向に沿った膨出部となり、膨出部によってサスペンションアームの剛性を向上させることができる。また、コイルスプリングからの力に対して膨出部をより外側の曲げ剛性の向上に効果的な位置に配置することができ、サスペンションアームの曲げ剛性を効率よく向上させることができる。これにより、より軽量化を図ることができる。(請求項3)
【0009】
本発明において、
前記下壁の前端部の下面と後端部の下面は断面円弧状に形成され、
前記下壁の車両前後方向中間部の下面と滑らかに連なっていると、応力の集中する角部をなくすことができ、下壁部に加わる力を分散させることができて、より耐久性を向上させることができる。(請求項4)
【0010】
本発明において、
前記サスペンションフレーム側に位置する第1上壁部と第1下壁部に、長手方向外方側に開放する切り欠きが形成されるとともに、前記サスペンションフレーム側に位置する第1前側縦壁部と第1後側縦壁部がそれぞれクランク状に屈曲されて互いに接近配置され、
前記第1前側縦壁部のサスペンションフレーム側の端部と前記第1後側縦壁部のサスペンションフレーム側の端部とに形成された取り付け孔に前記マウントブッシュが圧入されていると、次の作用を奏することができる。(請求項5)
【0011】
前記第1前側縦壁部と第1後側縦壁部がそれぞれクランク状に屈曲されているので、衝撃荷重を受けたときにクランクの屈曲部が易変形部として働き、サスペンションアームの重大損傷(破断)が起こり難くすることができる。
つまり、側面衝突等でサスペンションアームに衝撃荷重が作用した時、押し出し形状のままでは、サスペンションアームの変形の起点となる個所がないが、本発明の上記構成によれば、クランクの屈曲部があるために、この部分が易変形部として働き、サスペンションアームの変形を容易にして衝撃荷重を吸収し、サスペンションアームの破断を防止することができる。(請求項5)
【0012】
本発明において、
前記マウントブッシュは、内筒と、外筒と、内外筒間に介在するゴム状弾性体とを有し、前記内筒の軸芯方向の端部が前記外筒の軸芯方向の端部よりも前記内外筒の軸芯方向外方側に突出し、
前記ナックル側に位置する第2上壁部と第2下壁部に、長手方向外方側に開放する切り欠きが形成されるとともに、前記ナックル側に位置する第2前側縦壁部と第2後側縦壁部の間隔が前記マウントブッシュの内筒の長さと略同一に設定され、
前記第2下壁部の切り欠きの幅は、前記外筒の長さよりも長く、かつ、前記内筒の長さよりも短く設定され、
前記ナックルへの組み付け工程において前記マウントブッシュの内筒が前記第2下壁部の切り欠きの周縁に仮り置き可能に構成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項6)
【0013】
前記ナックルへの組み付け工程において前記マウントブッシュの内筒が前記第2下壁部の切り欠きの周縁に仮り置き可能に構成されているから、比較的重量物であるナックルのサスペンションアームへの組み付けが容易となる。つまり、ナックルに組み付けられた内筒を第2下壁部の切り欠きの周縁に仮り置きすると、片手でナックルを支えることができて、他方の手で取り付けボルトを準備・操作することができる。これにより、作業性を向上させることができる。(請求項6)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、
軽量化を十分図ることができるとともに構造を簡素化することができ、生産性を向上させることができるサスペンションアームを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】サスペンション装置を車両後方側から見た図(後面図)
【図2】サスペンション装置を下方から見た図(下面図)
【図3】サスペンションアームの平面図
【図4】サスペンションアームを車両後方側から見た図(後面図)
【図5】サスペンションアームを下方から見た図(下面図)
【図6】スプリングシートを取り付けた状態のサスペンションアームの平面図
【図7】スプリングシートを取り付けた状態のサスペンションアームを車両後方側から見た図
【図8】車幅方向内側から見たサスペンションアームを示す図
【図9】図6のD−D断面図
【図10】図4のA−A断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1,図2に、サスペンションフレーム1とトレーリングアーム30とショックアブソーバ31等を備えた自動車の後部のサスペンション装置100を示してある。前記サスペンションフレーム1は、車幅方向に長い井げた状に形成されており、サスペンションフレーム1の前側フレーム2と後側フレーム3が左右一対の車体フレームのサイドメンバ(図示せず)に架設されている。
【0017】
前側フレーム2と後側フレーム3はいずれも金属製の円筒状のパイプ材で形成されている。また、前側フレーム2と後側フレーム3を連結する左右一対の連結フレーム4は車幅方向に幅広に形成され、車両前後方向の両端部が車両前後方向中央部よりも幅広に設定されている。
【0018】
前側フレーム2の左右両端部と後側フレーム3の左右両端部には縦筒5の外周面をそれぞれ溶接固着してある。そして、縦筒5にゴムブッシュを圧入し、取り付けボルトBをゴムブッシュの内筒とサイドメンバに挿通させ、取り付けボルトBの端部にナットを螺合して縦筒5をサイドメンバに連結してある。
【0019】
図2にも示すように、前記サスペンションフレーム1は、平面視で車両の左右方向(車幅方向)に沿うそれぞれ複数のアッパーアーム9・前側ロアアーム80・後側ロアアーム10(サスペンションアームに相当)を介してナックル7を車両前後方向に沿う軸芯O周りに上下揺動自在に支持している。
【0020】
後側ロアアーム10(以下、ロアアーム10と称する)の一端部10Aはサスペンションフレーム1の後側フレーム3に連結され、他端部10Bはナックル7の後端部に連結されている。
【0021】
ロアアーム10とサイドメンバの下面との間にはコイルスプリング8が介在している。また、ロアアーム10の長手方向中間部の上壁22に、サスペンション装置100のコイルスプリング8の下端部を受け止めるスプリングシート11を取り付けてある。
【0022】
[スプリングシート11の構造]
図6,図7,図9に示すように、コイルスプリング8の下端部に対する受け止め部13を備えた円盤状のスプリングシート本体12と、スプリングシート本体12から受け止め部13とは反対側(下方)に突出する左右一対の係止突起14とをゴム状弾性体で一体に形成し、スプリングシート本体12と左右一対の係止突起14にゴム状弾性体よりも硬い金属板状の芯材(図示せず)を内蔵させてスプリングシート11を構成してある。左右一対の係止突起14はロアアーム10の後述の左右一対の係止孔15(図3参照)に各別に挿通係止する。
【0023】
前記スプリングシート本体12の径方向中央部に、上方に膨出する円錐台状の膨出部16を形成し、膨出部16の付け根の周りに縦断面円弧状のコイルスプリング受け入れ凹部を形成して前記受け止め部13を構成してある。前記膨出部16はコイルスプリング8の下端部の素線で囲まれた空間に下側から入り込み、コイルスプリング受け入れ凹部はコイルスプリング8の下端部を下側から受け止める。
【0024】
[ロアアーム10の構造]
図1,図2に示すように、前記ロアアーム10は、閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、軸芯Oが車両前後方向に沿うゴムブッシュ40(マウントブッシュに相当)を介して両端部がサスペンションフレーム1とナックル7に各別に取り付けられ、図3〜図7に示すように、スプリングシート取り付け部21を長手方向中間部の上面に有している。
【0025】
ロアアーム10の一端部10A(車幅方向内側W1の端部)とサスペンションフレーム1の後側フレーム3の間に介在するゴムブッシュ40と、ロアアーム10の他端部10B(車幅方向外側W2の端部)とナックル7の間に介在するゴムブッシュ40とは同一形状であり、図6,図7に示すように、内筒41と、外筒42と、内外筒41,42を連結するゴム状弾性体43とから成る。
【0026】
内筒41と外筒42は金属製の円筒から成り、内筒41の軸芯方向の端部が外筒42の軸芯方向の端部よりも内外筒41,42の軸芯方向外方側に突出している。ゴム状弾性体43には、ゴムブッシュ40の軸直角方向の一方向におけるばね特性を柔らかく(ばね定数を小さく)するためにすぐり部(窪んだすぐり穴と、ゴムブッシュ40の軸芯方向に貫通したすぐり孔とのいずれであってもよい)が設けられている。
【0027】
そして、図7に示すように、前記両端部のゴムブッシュ40の軸芯Oを結ぶ仮想線Lとスプリングシート取り付け部21がほぼ同じ位置なるように下方に弓形に湾曲している。さらに効果をあげる為に、前記両端部のゴムブッシュ40の軸芯Oを結ぶ仮想線Lよりもスプリングシート取り付け部21が下方に位置するように下方に弓形に湾曲してもよい。図7の実施形態では、コイルスプリング8からの力を受けると前記両端部のゴムブッシュ40が弾性変形して、前記仮想線Lよりもスプリングシート取り付け部21が下方に位置する。これにより、ロアアーム10がコイルスプリング8の力を確実に受け止めることができる。
【0028】
図10に示すように、前記閉じ断面は上壁22と前側縦壁23と後側縦壁24と下壁25で概略四角形の中空断面に構成され、上壁22は、前側縦壁23よりも車両前方側Frに突出する前側フランジ22F1と、後側縦壁24よりも車両後方側Rrに突出する後側フランジ22F2とを有し、上壁22の前側フランジ22F1側から後側フランジ22F2側にわたる扁平な上面に前記スプリングシート取り付け部21が形成されている(図6参照)。前記閉じ断面が概略四角形の中空断面に構成されていることで軽量化と剛性の向上を両立させることができる。
【0029】
スプリングシート取り付け部21は、前記扁平な上面(上壁22の上面)に左右一対の互いに径が異なる係止孔15を貫通形成して構成されている。前記スプリングシート取り付け部21の取り付け面21Mは曲がりのない扁平面に形成されている。つまり、ロアアーム10は前記取り付け面21Mの両側(ロアアーム10の長手方向の両側)で上記のように湾曲している。
【0030】
上壁22は前記前側フランジ22F1と後側フランジ22F2を有しているので、上壁22の上面を車両前後方向で拡大することができて、スプリングシート取り付け部21の取り付け面21Mを十分確保することができる。
【0031】
前記取り付け面21Mを上壁22の上面に形成したことで、例えば、ロアアーム10内(ロアアーム10の上下方向中間部)にスプリングシート取り付け部21を形成した構造のように、コイルスプリング8を受け入れる手段としてロアアーム10を拡幅する必要がなく、生産性を向上させることができる。そして、比較的細い基本断面形状のロアアーム10を使用することが可能になり軽量化が可能となる。
【0032】
本実施形態では、スプリングシート11のスプリングシート本体12の直径と上壁22の幅とが同一に設定されている(図6参照)。
【0033】
図10に示すように、下壁25の前端部25Aと後端部25Bは、下壁25の車両前後方向中間部25Cに対して下方に膨出してロアアーム10の長手方向に沿った膨出部となっている。膨出部は、前側縦壁23、後側縦壁24に連続するように形成されている。そして、下壁25の前端部25Aの下面25A1と後端部25Bの下面25B1は断面円弧状に形成され、下壁25の車両前後方向中間部25Cの下面25C1と滑らかに連なっている。
【0034】
下壁25の前端部25Aの下面25A1は前側縦壁部23の下端に接続し、下壁25の後端部25Bの下面25B1は後側縦壁24の下端に接続している。(下面25A1,25B1は前側縦壁23の下端と後側縦壁24の下端を連結している。)
【0035】
また、図3〜図8に示すように、サスペンションフレーム1の後側フレーム3側に位置する第1上壁部32と第1下壁部35に、長手方向外方側に開放する(ロアアーム10の長手方向の端縁に開口する)切り欠き32K,35Kが形成されるとともに、前記後側フレーム3側に位置する第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34がそれぞれクランク状に屈曲されて互いに車両前後方向で接近配置されている。第1上壁部32・第1下壁部35・第1前側縦壁部33・第1後側縦壁部34は前記スプリングシート取り付け部21よりも後側フレーム3側に位置する。
【0036】
そして、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとが車両前後方向で重ね合わされて(微小隙間が空くように対向されていてもよい)、第1上壁部32の後側フレーム3側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)、及び、第1下壁部35の後側フレーム3側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)が互いに溶接接合されている。図5の符号WEは溶接部である。ゴムブッシュ40は第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとに同芯状に形成された取り付け孔Hに圧入されている。
【0037】
ロアアーム10の一端部10A(車幅方向内側W1の端部)とサスペンションフレーム1の後側フレーム3との連結構造について説明すると、前記取り付け孔Hにゴムブッシュ40を軽圧入し、ゴムブッシュ40の外筒42を軸方向に圧縮変形させることでかしめ固定してある。そして図2に示すように、後側フレーム3に取り付けられたブラケットの一対の挟持壁85でゴムブッシュ40の内筒41を挟み込み、前記一対の挟持壁85に形成されたボルト挿通孔とゴムブッシュ40の内筒41とに車両前後方向に沿った取り付けボルトを挿通させ、取り付けボルトにナットを螺合締結してロアアーム10の一端部10Aとサスペンションフレーム1の後側フレーム3を連結してある。
【0038】
この構造において、後側フレーム3に対する前記取り付けボルトの位置を調整・変更可能に構成され、ロアアーム10の軸支位置を変更してサスペンション装置100のジオメトリを調整するようになっている。この調整を行う場合、取り付けボルト(軸)を移動させる方が調整構造が容易になることから、ゴムブッシュ40(内筒41)をロアアーム10側に取り付けてある。
【0039】
上記のように、前記第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34がそれぞれクランク状に屈曲されているので(図3,図6参照)、サスペンション装置100が衝撃荷重を受けたときにクランクの屈曲部Kが易変形部として働き、ロアアーム10の重大損傷(破断)が起こり難くなっている。つまり、側面衝突等でロアアーム10に衝撃荷重が作用した時、押し出し形状のままでは、ロアアーム10の変形の起点となる個所がないが、本発明の上記構成によれば、クランクの屈曲部Kがあるために、この部分が易変形部として働き、ロアアーム10の変形を容易にして衝撃荷重を吸収し、ロアアーム10の破断を防止している。
【0040】
第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34を屈曲加工する前の状態で、前記第1上壁部32の切り欠き32Kは平面視U字状に形成され、第1下壁部35の切り欠き35Kは平面視V字状に形成されている。つまり、第1上壁部32に形成される切り欠き32Kと第1下壁部35に形成される切り欠き35Kとの形状が異なっている。詳述すると、第1上壁部32の長手方向の端縁から上壁22の長手方向中央部側に向かって前記長手方向に沿った一定幅の溝(スリット)が形成され、前記長手方向中央部側の溝の端部が半円形状に形成されている。
【0041】
また、第1下壁部35の長手方向の端縁から下壁25の長手方向中央部側に向かって前記長手方向に沿った一定幅の溝(スリット)が形成されている。ゴムブッシュ40を圧入する取り付け孔Hの下方を含む範囲の第1下壁部35の溝幅は、上側の第1上壁部32の溝幅と同一の一定幅に形成されている。そして、長手方向中央部側の溝の端部が第1上壁部32側の半円形状よりも小さい半円形状に形成され、この半円形に滑らかに接続するように、前記第1下壁部35の溝が長手方向中央部側ほど幅狭に形成されている。
【0042】
図3,図6に示すように、上壁22の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1上壁部32の溝の端縁32Tと、下壁25の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1下壁部35の溝の端縁35Tとは同一位置に位置している。そして、上記のように、上壁22の長手方向中央部側に位置する第1上壁部32の切り欠き部分の溝幅が、下壁25の長手方向中央部側に位置する第1下壁部35の切り欠き部分の溝幅よりも幅広になっている。これは、ロアアーム10を屈曲させる際や、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲させる際に、耐久性に影響する亀裂等を溝周縁に発生しないようにするためである。
【0043】
前記切り欠き32K,35K(前記溝及び半円形状の部分)はプレス機により打抜き加工されている。これにより加工費を軽減している。このように切り欠き32K,35Kが打抜き加工されているために、切り欠き32K,35Kの端面(内周面)は破断面となり、その表面は比較的荒れた面になっている。
【0044】
図3〜図8に示すように、前記ナックル7側に位置する第2上壁部52と第2下壁部55に、長手方向外方側に開放する(ロアアーム10の長手方向の端縁に開口する)互いに同一形状の切り欠き52K,55Kが形成されるとともに、ナックル7側に位置する第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54の間隔がゴムブッシュ40の内筒41の長さと略同一に設定されている。第2上壁部52・第2下壁部55・第2前側縦壁部53・第2後側縦壁部54は前記スプリングシート取り付け部21よりもナックル7側に位置する。
【0045】
後述のように、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54は組み付け状態で前記内筒41を挟み込んでいる。本発明の構造では、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54の間隔がゴムブッシュ40の内筒41の長さと略同一に設定されているから、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54が前記内筒41を挟み込みできるように、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54を屈曲加工する必要がなく、加工工数の削減、加工費の低減が可能になる。
【0046】
図3に示すように、上記の切り欠き52K,55Kは、ロアアーム10の長手方向でナックル7側の第1切り欠き部52K1,55K1(ナックル7に近い側の切り欠き部分)の内周面同士が互いに平行に形成され、ナックル7とは反対側の第2切り欠き部52K2,55K2(ロアアーム10の長手方向中心に近い側の切り欠き部分)の内周面がロアアーム10の長手方向中心側ほど幅狭の台形状に形成されている。第1切り欠き部52K1,55K1と第2切り欠き部52K2,55K2の内周面同士は滑らかに連なっている。前記切り欠き52K,55Kは、走行時のサスペンション装置100の働き(ロアアーム10とナックル7の相対変位)でナックル7の動きを許容して、ナックル7とロアアーム10との干渉を回避する役割を果たしている。
【0047】
前記第2下壁部55の第1切り欠き部55K1の幅は、ゴムブッシュ40の外筒42の長さよりも長く、かつ、内筒41の長さよりも短く設定されて、ナックル7への組み付け工程において、ナックル7への組み付け状態のゴムブッシュ40の内筒41が第1切り欠き部55K1の周縁に仮り置き可能に構成されている。
【0048】
すなわち、少なくともゴムブッシュ40が取り付けられる範囲で第1切り欠き部55K1の両側に第2下壁部55の一部分を残して上記のように内筒41を仮り置き可能(内筒41の両端部を第1切り欠き部55K1の両周縁に各別に一時的に載置すること)を可能に構成してある。これにより、比較的重量物であるナックル7のロアアーム10への組み付けが容易となる。
つまり、仮置きすると、片手でナックル7を支えることができて、他方の手で取り付けボルトを準備することができる。(ただし、仮り置き状態では内筒41の位置決め(芯合わせ)はできない)また、ナックル7側のロアアーム10の他端部10Bが開放した中空形状になっているから、ロアアーム10に対するナックル7の組み付け性を向上させることができる。
また、切り欠き52K,55Kの両側となる第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54に、第2上壁部52の一部分と第2下壁部55の一部分とを残すことで剛性の低下を少なくしている。
【0049】
ロアアーム10の他端部10B(車幅方向外側W2の端部)とナックル7の連結構造について説明すると、図2に示すように、前記第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54でゴムブッシュ40を挟み込み、第2前側縦壁部53に形成されたボルト挿通孔と、ゴムブッシュ40の内筒41と、第2後側縦壁部54に形成されたボルト挿通孔とに車両前後方向に沿った取り付けボルトを挿通させ、取り付けボルトにナットを螺合締結してロアアーム10の他端部10Bとナックル7を連結してある。
【符号の説明】
【0050】
1 サスペンションフレーム
7 ナックル
10A,10B 両端部
21 スプリングシート取り付け部
22 上壁
22F1 前側フランジ
22F2 後側フランジ
23 前側縦壁
24 後側縦壁
25 下壁
25A 下壁の前端部
25B 下壁の後端部
25C 下壁の車両前後方向中間部
25A1 下壁の前端部の下面
25B1 下壁の後端部の下面
25C1 下壁の車両前後方向中間部の下面
32 第1上壁部
32K 切り欠き
33 第1前側縦壁部
33A 第1前側縦壁部のサスペンションフレーム側の端部
34 第1後側縦壁部
34A 第1後側縦壁部のサスペンションフレーム側の端部
35 第1下壁部
35K 切り欠き
40 マウントブッシュ(ゴムブッシュ)
41 内筒
42 外筒
43 ゴム状弾性体
52 第2上壁部
52K 切り欠き
53 第2前側縦壁部
54 第2後側縦壁部
55 第2下壁部
55K 切り欠き
Fr 車両前方側
H 取り付け孔
L 仮想線
O 軸芯(マウントブッシュの軸芯)
Rr 車両後方側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部に有しているサスペンションアームであって、
前記スプリングシート取り付け部を前記長手方向中間部の上面に有し、
前記両端部のマウントブッシュの軸芯を結ぶ仮想線よりも前記スプリングシート取り付け部が下方に位置するように下方に湾曲しているサスペンションアーム。
【請求項2】
前記閉じ断面は上壁と前側縦壁と後側縦壁と下壁で構成され、
前記上壁は、前記前側縦壁よりも車両前方側に突出する前側フランジと、前記後側縦壁よりも車両後方側に突出する後側フランジとを有し、
前記上壁の前側フランジ側から後側フランジ側にわたる上面に前記スプリングシート取り付け部が形成されている請求項1記載のサスペンションアーム。
【請求項3】
前記下壁の前端部と後端部は、前記下壁の車両前後方向中間部に対して下方に膨出している請求項2記載のサスペンションアーム。
【請求項4】
前記下壁の前端部の下面と後端部の下面は断面円弧状に形成され、
前記下壁の車両前後方向中間部の下面と滑らかに連なっている請求項3記載のサスペンションアーム。
【請求項5】
前記サスペンションフレーム側に位置する第1上壁部と第1下壁部に、長手方向外方側に開放する切り欠きが形成されるとともに、前記サスペンションフレーム側に位置する第1前側縦壁部と第1後側縦壁部がそれぞれクランク状に屈曲されて互いに接近配置され、
前記第1前側縦壁部のサスペンションフレーム側の端部と前記第1後側縦壁部のサスペンションフレーム側の端部とに形成された取り付け孔に前記マウントブッシュが圧入されている請求項2〜4のいずれか一つに記載のサスペンションフレーム。
【請求項6】
前記マウントブッシュは、内筒と、外筒と、内外筒間に介在するゴム状弾性体とを有し、前記内筒の軸芯方向の端部が前記外筒の軸芯方向の端部よりも前記内外筒の軸芯方向外方側に突出し、
前記ナックル側に位置する第2上壁部と第2下壁部に、長手方向外方側に開放する切り欠きが形成されるとともに、前記ナックル側に位置する第2前側縦壁部と第2後側縦壁部の間隔が前記マウントブッシュの内筒の長さと略同一に設定され、
前記第2下壁部の切り欠きの幅は、前記外筒の長さよりも長く、かつ、前記内筒の長さよりも短く設定され、
前記ナックルへの組み付け工程において前記マウントブッシュの内筒が前記第2下壁部の切り欠きの周縁に仮り置き可能に構成されている請求項1〜5のいずれか一つに記載のサスペンションアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−241379(P2010−241379A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95108(P2009−95108)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】