サスペンション制御装置
【目的】プレビュー制御が行われるサスペンション制御装置において、余裕時間が制御遅れで決まる設定時間より短い場合に、良好に上下方向の振動が抑制されるようにすることである。
【解決手段】前輪側に設けられたばね上加速度センサ196Fによる検出値と、車高センサ198Fによる検出値とに基づいて、ばね下絶対速度を取得し、ばね下絶対速度と、プレビューゲインとで決まる減衰力が発生させられるように後輪側の上下方向力発生装置24Rのアクチュエータ124Rを制御する場合に、その制御指令値が、車速VとホイールベースLWとで決まる余裕時間から制御遅れ時間を引いた待ち時間の経過後に出力される。この場合に、余裕時間が制御遅れ時間より短くなった場合には、車速が大きい場合は小さい場合よりプレビューゲインを小さい値とする。その結果、余裕時間が制御遅れ時間より短くなっても、乗り心地が悪くなることを回避し、後輪の上下挙動を良好に抑制することができる。
【解決手段】前輪側に設けられたばね上加速度センサ196Fによる検出値と、車高センサ198Fによる検出値とに基づいて、ばね下絶対速度を取得し、ばね下絶対速度と、プレビューゲインとで決まる減衰力が発生させられるように後輪側の上下方向力発生装置24Rのアクチュエータ124Rを制御する場合に、その制御指令値が、車速VとホイールベースLWとで決まる余裕時間から制御遅れ時間を引いた待ち時間の経過後に出力される。この場合に、余裕時間が制御遅れ時間より短くなった場合には、車速が大きい場合は小さい場合よりプレビューゲインを小さい値とする。その結果、余裕時間が制御遅れ時間より短くなっても、乗り心地が悪くなることを回避し、後輪の上下挙動を良好に抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションの、いわゆるプレビュー制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレビュー制御が行われるサスペンション制御装置の例が特許文献1〜4に記載されている。
特許文献1に記載のサスペンション制御装置においては、車両の前輪より前方に路面センサが設けられ、その路面センサによる検出値に基づいて前輪、後輪のショックアブソーバの減衰特性が制御される。制御指令は、(a)路面センサが設けられた位置と制御対象輪との間の距離と(b)車両の走行速度と(c)制御遅れ時間とで決まる遅延時間が経過した後に出力される。
特許文献2に記載のサスペンション制御装置においては、前輪について、上下挙動を検出する前輪上下挙動センサが設けられ、その前輪上下挙動センサによる検出値に基づいて後輪のショックアブソーバの減衰特性が制御される。後輪のショックアブソーバの減衰特性を制御する際の制御信号が、前輪上下挙動センサによる検出値に基づく制御信号と、その信号の位相を遅らせて得られた制御信号(プレビュー制御信号)との両方に基づいて作成されるのであるが、車両の走行速度が所定値より小さい場合には位相を遅らせた制御信号の比率が高く、所定値より大きくなると、位相を遅らせた制御信号の比率が走行速度の増加に伴って小さくされる。その結果、後輪の実際の上下挙動と同じ位相で変化する制御信号を作成することができ、後輪の上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。後輪の上下挙動は、前輪の実際の上下挙動が車速等で決まる時間だけ遅れた場合と同じ位相で生じるのではなく、車速等で決まる時間だけ遅らせた場合より進んだ位相で生じることが知られている。車体は剛体であるため、前輪側の上下挙動の影響が後輪の上下挙動に及ぶからである。一方、位相の進み量は車速が大きい場合は小さい場合より小さくなることが知られている。その結果、車速が大きい場合に車速が小さい場合より位相を遅らせた制御信号の比率を小さくすれば後輪の実際の上下挙動に近い位相で変化する制御信号を得ることができる。
特許文献3に記載のサスペンション制御装置においては、前輪側に設けられたばね上加速度センサによる検出値に基づいて後輪の制御信号が作成される。この場合に、ばね上加速度センサによる検出値をフィルタ処理して制御信号が作成されるのであるが、車両の走行速度に基づいて異なる位相特性のフィルタが使用される。その結果、車速の大小に関係なく、制御信号の位相を後輪の実際の上下挙動の位相に近づけることができる。
特許文献4に記載のサスペンション制御装置においては、プレビュートータルゲインが、車両の前後加速度、横加速度、走行速度で決まる。高速走行により制御応答遅れが生じる場合、旋回等により前後輪の走行軌跡が異なる場合等には、プレビューゲインを可変として、制御出力を下げるのである。
【特許文献1】特開平5−262118号公報
【特許文献2】特開平7−237419号公報
【特許文献3】特開平7−186660号公報
【特許文献4】特開平7−205629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、プレビュー制御が行われるサスペンション制御装置において、余裕時間が制御遅れで決まる設定時間より短い場合に、良好に上下方向の振動が抑制されるようにすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載のサスペンション制御装置は、車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むものとされる。
請求項12に記載のサスペンション制御装置は、前記車両の走行速度が、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と制御遅れ時間とで決まる第1設定速度より大きい場合に、前記第1設定速度以下の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むものとされる。
請求項1に記載のサスペンション制御装置において、車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションが制御されるのであり、いわゆる、プレビュー制御(予見制御と称することもできる)が行われる。プレビュー制御においては、制御対象輪のサスペンションについての制御指令値がセンサによる検出値に基づいて作成され、制御対象輪の実際の上下挙動がそのセンサによる検出値に応じた挙動となる時に、その制御指令値に応じた制御が実行されるように、すなわち、余裕時間から、その制御対象輪のサスペンション(例えば、減衰特性制御装置、上下方向力発生装置等、以下、制御対象装置と称することがある)の制御遅れ時間を引いた時間が待ち時間であり、検出時から待ち時間が経過した後に制御指令値が出力される。
しかし、車両の走行速度が非常に早い場合は、検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離と走行速度とで決まる余裕時間が非常に短くなり、制御指令値を出力すべき時点までに、制御指令値を出力することができない場合がある(例えば、出力すべき時点までに、制御指令値を作成することができない場合、検出値が得られない場合等がある)。この場合には、制御指令値に応じた制御が制御対象輪の実際の上下挙動に対して遅れて実行されることになるため、上下方向の振動を良好に抑制することができず、かえって、乗り心地が悪くなることがある。
そこで、本項に記載のサスペンション制御装置においては、余裕時間が第1設定時間より短い場合には、長い場合よりサスペンションの制御に使用されるゲインが小さくされる。その結果、プレビュー制御が行われることによって、乗り心地が悪くなることを回避することができる。本項に記載のサスペンション制御装置は、特に、制御遅れが大きいサスペンションを制御する場合に有効である。なお、ゲイン(サスペンションについてプレビュー制御が行われる場合に使用されるゲインであるため、以下、プレビューゲインと称することがある)は、後述するように、余裕時間の減少に伴って漸減させても、0としてもよい。
第1設定時間は、例えば、上述の待ち時間が0となる時間、換言すれば、出力すべき時点に制御指令値を出力可能な余裕時間の最小値とすることができる。第1設定時間は、制御遅れ時間と同じ時間としたり、制御遅れ時間より設定時間長い時間としたり、短い時間としたりすることができる。いずれにしても、第1設定時間は、制御遅れ時間が長い場合は短い場合より長くなる。
少なくとも1つのセンサは、路面の凹凸を検出する路面センサとしたり、制御対象輪が後輪である場合において、前輪側部分の上下挙動を検出するセンサとしたり、路面センサと前輪側部分(あるいは、路面センサが取り付けられた部分)の上下挙動を検出するセンサとの両方としたり、路面センサとその路面センサが取り付けられた部分の上下挙動を検出するセンサとの両方としたりすることができる。
センサが路面センサである場合には、検出対象部はそのセンサによって凹凸が検出される路面の部分である。その検出対象の路面の部分は、車両が停止状態にある場合において、そのセンサの取付け位置と車両の前後方向において同じ位置の部分である場合や、取付け位置より前方あるいは後方の位置の部分である場合がある。前者の場合には、センサの取り付け位置と制御対象輪(厳密にいえば、制御対象輪の車軸の中心線)との間の距離と車速とで余裕時間が決まり、後者の場合には、停止状態における検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離と車速とで余裕時間が決まる。路面センサが車両の前輪より前方に設けられた場合には、前輪を制御対象輪とすることもできる。また、路面センサは、車両の右側(検出対象部(路面)と右前輪、右後輪のタイヤとが車両の幅方向においてほぼ同じになる位置)と、左側(検出対象部と左前輪、左後輪のタイヤとが車両の幅方向においてほぼ同じになる位置)との両方に(左右一対)設けることが望ましい。さらに、1つの検出対象部(路面の同じ部分)の凹凸を検出するのに、2つ以上のセンサを設けることもできる。路面の一の部分の凹凸が2つ以上の路面センサによる検出値に基づいて取得されるようにすれば、1つの路面センサによる検出値に基づく場合より、凹凸の状態を、より精度よく検出することができる。
センサが前輪側部分の上下挙動を検出するセンサである場合には、検出対象部は前輪である。余裕時間が、前輪と後輪との間の距離(ホイールベース:左右前輪の車軸の中心線を通る線と、左右後輪の車軸の中心線を通る線との間の距離)と車速とで余裕時間が決まる。センサは、前輪のばね上部材の上下方向の挙動を検出するセンサ、ばね下部材の上下方向の挙動を検出するセンサ、ばね上ばね下間の上下方向の距離を検出するセンサの1つ以上とすることができる。前輪側部分の上下挙動を検出するセンサは、右前輪、左前輪の各々に設けることが望ましい。
なお、余裕時間が第1設定時間より短いことと、請求項12に記載のように、車両の走行速度が第1設定時間に対応する第1設定速度より早いこととは、互いに対応する。同じ型式の車両においては、センサによる検出対象部と制御対象輪との間の距離は予め定められた固定値となるため、走行速度と余裕時間とは1対1に対応し、走行速度が大きくなれば、余裕時間は短くなる関係が成立する。そのため、車両の走行速度が制御遅れ時間で決まる第1設定速度より大きい場合に第1設定速度以下の場合よりゲインが小さくされることと、余裕時間が第1設定時間より短い場合に第1設定時間以上の場合よりゲインが小さくされることとは、互いに対応することになる。
前述の特許文献2には、車両の走行速度が所定値以上の場合に、位相を遅らせた制御信号(プレビュー制御信号)の比率が小さくされることが記載されている。しかし、走行速度の所定値は、制御対象輪である後輪の上下挙動と制御信号とで位相を同じにするための速度であり、換言すれば、後輪の上下挙動を正確に推定可能な速度である。この所定値は、制御対象輪のサスペンションで決まる制御遅れ(制御指令値を出力してから実際に出力が出されるまでの間の時間)で決まる速度ではなく、制御遅れの大小とは関係なく決まる速度である。それに対して、本願請求項12に記載の第1設定速度、請求項1に記載の第1設定時間に対応する速度は、制御遅れが大きい場合は小さい場合より小さくなる速度である。このように、特許文献2に記載の所定値と本願請求項12に記載の第1設定速度、請求項1に記載の第1設定時間に対応する速度とは異なる速度である。また、特許文献2に記載の発明の課題は、制御信号の位相を後輪の実際の上下挙動の位相を同じにすること(後輪の実際の上下挙動を正確に推定可能とすること)であるのに対して、本願発明の課題は、車両の走行速度が大きくなった場合に、出力すべき時までに制御指令値を出力できなかった場合の問題を解決することであり、これらは異なる。
特許文献4には、高速走行時には、プレビューゲインを小さくすることが記載されている。しかし、プレビューゲインを、余裕時間が制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に第1設定時間以上の場合より小さくすることの記載も、走行速度が制御遅れ時間で決まる第1設定速度より大きい場合に第1設定速度以下である場合より小さくすることの記載もない。特許文献4には、プレビューゲインを決定する場合に、制御遅れ時間で決まるしきい値を設け、走行速度をしきい値より大きい場合と小さい場合とで分けて決定することを示唆する記載がないのである。
【特許請求可能な発明】
【0005】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0006】
(1)車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置(請求項1)。
(2)前記ゲイン決定部が、前記ゲインを前記余裕時間が前記第1設定時間以上である場合に予め定められた一定の値とする設定値決定部を含む(1)項に記載のサスペンション制御装置。
余裕時間が第1設定時間以上で、制御指令値を出力すべき時に出力することができる場合には、プレビュー制御により、良好に制御対象輪の上下方向の振動を抑制することができる。そのため、余裕時間が第1設定時間以上である場合に、ゲインを、例えば、1(最大値)とすることは妥当なことである。
余裕時間が第1設定時間より短い場合においては、余裕時間が長い場合は短い場合より、ゲインを小さい値とすることができる。その場合の具体的な態様については後述する。
(3)前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合に、前記ゲインを前記余裕時間が短くなるのに伴って減少する値とするゲイン漸減部を含む(1)項または(2)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項2)。
ゲインは、余裕時間が短くなるのに伴って連続的に小さくなる値としたり、段階的に小さくなる値としたりすることができる。連続的に小さくなる値とした場合には、直線的に小さくなる値としたり、曲線的に小さくなる値としたりすることができる。
(4)前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が、前記第1設定時間より短い第2設定時間以下である場合に、前記ゲインを0とする0決定部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項3)。
余裕時間が第1設定時間より短い場合には、制御指令値を直ちに出力しても、制御指令値に応じたサスペンション制御が、実際の制御対象輪の上下挙動に対して遅れて実行される。遅れの程度が大きい場合には、制御が行われても、上下方向の振動を良好に抑制することができないが、遅れの程度が小さい場合には、たとえ、遅れても、制振効果が得られる。そこで、本項に記載のサスペンション制御装置においては、サスペンション制御が遅れて行われても効果が得られる場合には、プレビュー制御が行われ、効果が得られない場合には、プレビュー制御が行われないようにされる。このことを考慮して、第2設定時間は、制御指令値を本来の出力すべき時までに出力できなくても、プレビュー制御による制振効果が得られる場合の余裕時間とされる。
一方、実車試験、あるいは、シミュレーションにより、サスペンション制御が、その上下方向の振動に対して1/8周期遅れても、制振効果が得られることが知られている。
このことに基づけば、制御指令値を直ちに出力すると、1/8周期遅れてサスペンション制御が行われる場合の余裕時間を第2設定時間とすることができる。余裕時間が第2設定時間以上である場合には、制御指令値に応じた制御は遅れるがプレビュー制御が実行され(プレビュー制御が有効であり)、余裕時間が第2設定時間より短い場合には、プレビュー制御が行われないことになる。なお、第2設定時間は、上述の時間より長い時間とすることもできる。
(5)前記ゲイン決定部が、前記ゲインを前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は0とする0決定部を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項4)。
本項に記載のサスペンション制御装置においては、余裕時間が第1設定時間より短い場合には、制御指令値に応じた制御が制御対象輪の振動に対して遅れるため、プレビュー制御が行われないようにされる。
(6)前記制御対象輪のサスペンションへの制御指令値を、前記余裕時間が前記第1設定時間以上の場合には、前記少なくとも1つのセンサによる検出値が取得された時点から、前記余裕時間から前記制御遅れ時間を引いた時間が経過した後に出力するプレビュー制御部を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項5)。
余裕時間から制御対象装置の制御遅れ時間を引いた待ち時間が経過した後に、制御指令値が出力されれば、それに応じてプレビュー制御が実行される時点と、制御対象輪について実際にセンサによる検出値に応じて上下挙動する時点とが一致するため、制御対象輪についての上下方向の振動を良好に抑制することができる。
(7)前記ゲイン決定部が、前記ゲインを、前記車両の操舵車輪の舵角の絶対値が小さい場合は大きい場合より小さい値に決定する旋回時決定部を含む(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
操舵車輪の舵角の絶対値が大きく、旋回半径が小さい場合には、前輪の軌跡と後輪の軌跡との差が大きく、前輪が通った路面と同じ路面を後輪が通らなかったり、前輪が通った路面と後輪が通る路面との重なりが少ないことがある。また、路面センサによって検出された路面の部分(検出対象部)を後輪が通らなかったり、検出対象部と後輪が通る路面との重なりが少ないことがある。これらの場合に、プレビュー制御が行われると、制御対象輪の上下方向の振動を良好に抑制することができなかったり、乗り心地が悪くなったりする。
そこで、本項に記載のサスペンション制御装置においては、舵角の絶対値が大きい場合は小さい場合よりゲインが小さくされるのであり、0とされることもある。その結果、プレビュー制御によって、乗り心地が悪くなることを回避し、制御対象輪の上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
なお、操舵車輪の舵角の絶対値が大きいこと、旋回半径が小さいこと、操舵部材の操舵量の絶対値が大きいこと(例えば、ステアリングホイールの操舵角の絶対値が大きいこと)、横加速度や横力の絶対値が大きいこと、ヨーレイトの絶対値が大きいことは、互いに対応することであり、ゲインを、これら旋回状態を表す物理量に基づいて決定することもできる。
(8)前記ゲイン決定部が、前記車両の直進状態において、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は長い場合より前記ゲインを小さい値に決定する余裕時間対応決定部と、前記車両の旋回状態において、前記ゲインを、前記車両の操舵車輪の舵角の絶対値が小さい場合は大きい場合より小さい値に決定する旋回時ゲイン決定部とを含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項6)。
車両の直進中においては、旋回時に生じるプレビュー制御の悪影響を考慮する必要性が低い。そのため、直進時には余裕時間に応じてゲインが決定される。それに対して、旋回時には、実施例に記載のように、旋回状態に基づいてゲインが決定されるが、旋回状態と余裕時間(または車速)との両方に基づいてゲインが決定されるようにすることもできる。
なお、操舵車輪の舵角の絶対値が直進しているとみなし得る設定値以下である場合を直進状態にあるとし、操舵車輪の舵角の絶対値が設定値より大きい場合を旋回状態にあるとすることができる。前述のように、操舵車輪の舵角、操舵部材の操舵量、横加速度、横力、ヨーレイト、旋回半径等のうちの1つ以上(旋回状態を表す物理量)に基づいて直進状態にあるか旋回状態にあるかを取得することもできる。
(9)前記制御対象輪のサスペンションが、その制御対象輪を保持するばね下部材とばね上部材との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、当該サスペンション制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値と前記ゲインとに基づいて、前記上下方向力発生装置を制御する上下方向力制御装置を含む(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項7)。
上下方向力発生装置は、ばね下部材とばね上部材との間に設けられ、上下方向の力を発生させるものである。上下方向の力とは、上下方向の成分を有する方向の力であり、車両の上下方向であっても、車両の上下方向に対して多少傾いた方向であってもよい。
上下方向力発生装置によって発生させられる上下方向力の向きは、ばね下部材の車体、車輪に対する連結部の構造、上下方向力発生装置とばね下部材との連結の状態等で決まる。ばね下部材が上下方向に回動可能に連結されており、前後方向、幅方向の移動(あるいは回動)が許容されていない場合には、発生させられる力は上下方向の力であると考えることができる。
上下方向力発生装置をセンサによる検出値とゲインとに基づいて制御すれば、制御対象輪の上下方向の振動を良好に抑制することができる。上下方向力は、後述するように、減衰力としたり、弾性力としたりすることができる。
(10)前記上下方向力発生装置が、減衰力を発生させる減衰力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の絶対速度と、前記制御対象輪を保持する前記ばね下部材の上下方向の絶対速度と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対速度とのうちの1つ以上の速度を推定するとともに、少なくとも、その推定した1つ以上の速度と前記ゲインとに基づいて決まる値を目標減衰力とする目標減衰力決定部と、前記減衰力発生装置を制御して、その目標減衰力決定部によって決定された目標減衰力を出力させる減衰力制御部とを含む(9)項に記載のサスペンション制御装置(請求項8)。
上下方向力発生装置の制御により減衰力が発生させられ、それによって上下方向の振動が抑制される。減衰力は、ばね上部材の上下方向の絶対速度に応じた大きさとしても、ばね上部材とばね下部材との相対速度に応じた大きさとしても、ばね下部材の絶対速度に応じた大きさとしてもよい。また、減衰力の大きさを決める際、あるいは、減衰係数を決める際には、これらのうちの2つ以上の速度が考慮されることもある。
また、上下方向力発生装置において発生させられる上下方向力は、これらの2つ以上の減衰力を含む大きさとすることができる。例えば、ばね上部材の絶対速度に応じた減衰力とばね下部材の絶対速度に応じた減衰力とを含む大きさに制御することができるのである。
センサによる検出値に基づいて、ばね上部材の絶対速度が取得される場合、ばね下部材の絶対速度が取得される場合、ばね上ばね下の相対速度が取得される場合等があるのであり、センサによる検出値と取得される速度とは同じであるとは限らない。
(11)前記上下方向力発生装置が、弾性力を発生させる弾性力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の変位と、前記制御対象輪を保持するばね下部材の上下方向の変位と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対変位とのうちの1つの変位を推定するとともに、少なくとも、その推定した1つの変位と前記ゲインとで決まる値を目標弾性力とする目標弾性力決定部と、前記弾性力発生装置を制御して、その目標弾性力決定部によって決定された目標弾性力を出力させる弾性力制御部とを含む(9)項または(10)項に記載のサスペンション制御装置(請求項9)。
上下方向力発生装置の制御により、弾性力が発生させられ、それによって、制御対象輪の上下方向の振動が抑制される。
また、上下方向力発生装置において発生させられる上下方向力は、これらの2つ以上の弾性力を含む大きさとすることができる。例えば、ばね上部材の変位に応じた弾性力とばね下部材の変位に応じた弾性力とを含む大きさに制御することができる。さらに、上下方向力が、減衰力と弾性力との和の大きさとなるように、制御することもできる。
(12)前記上下方向力発生装置が、前記ばね下部材と前記ばね上部材とのいずれか一方に一端部が連結され、他方に他端部が連結された弾性部材を含み、前記上下方向力制御装置が、前記弾性部材を復元力に抗して弾性変形させる駆動源を含み、前記弾性部材の弾性変形量を変化させて、前記上下方向力を制御する弾性変形量制御部を含む(9)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項10)。
(13)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とを含む概してL字形を成したバーであり、前記駆動源が、前記L字形のバーの第1バー部と第2バー部とのいずれか一方を、それの軸線回りに回転させる電動モータを含む(12)項に記載のサスペンション制御装置。
(14)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とのいずれか一方から成るロッドであり、前記駆動源が、前記ロッドに曲げモーメントを加える電動モータを含む(12)項または(13)に記載のサスペンション制御装置。
弾性部材は、上下方向から見た場合に、L字形を成した部材であっても、直線状に延びた部材であってもよい。換言すれば、上下方向に湾曲した形状であっても差し支えない。
(15)前記ばね下部材と前記ばね上部材との間に、前記上下方向力発生装置と並列に、その上下方向力発生装置に含まれる弾性部材とは別の弾性部材としてのサスペンションスプリングが設けられた(9)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
ばね下部材とばね上部材との間に、上下方向力発生装置の弾性部材と、その弾性部材とは別の弾性部材であるサスペンションスプリングとが設けられる。上下方向力発生装置に含まれる弾性部材は、前述のように、駆動源により弾性変形させられ、上下方向力が発生させられるが、サスペンションスプリングは、駆動源によって弾性変形させられるのではなく、車輪に加えられる荷重等により弾性変形させられる。
車輪に加えられる荷重は、サスペンションスプリングと弾性部材とが受ける。しかし、駆動源の非作動状態において、弾性部材が弾性変形していない状態においては、弾性部材には力が発生せず、荷重はサスペンションスプリングが受ける。この状態が上下方向力発生装置の駆動源の基準状態である。基準状態は、車輪に加えられる荷重で決まり、荷重が大きい場合は小さい場合よりばね上ばね下間の距離が短くなる。
基準状態から、例えば、駆動源の電動モータを一方向に回転させた場合には、ばね上部材とばね下部材との間の距離が大きくなる。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは同じである。ばね上ばね下間の距離が大きくなり、サスペンションスプリングの弾性力が小さくなると、弾性部材の弾性力が大きくなるのであり、これらの和は、荷重に応じた大きさに維持される。
基準状態から、電動モータを反対方向に回転させた場合には、ばね上部材とばね下部材との間の距離が小さくなる。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは逆となる。ばね上ばね下間の距離が小さくなり、サスペンションスプリングの弾性力が大きくなると、弾性部材のその逆向きの弾性力が大きくなる。
弾性部材がL字形のバーである場合には、第1バー部と第2バー部との一方(以下、シャフト部と称する)が軸線回りに回転させられると、他方(以下、アーム部と称する)が回動させられ、それによって、ばね上ばね下間の距離が変化する。また、シャフト部が捩られると、シャフト部に加えられる捩りモーメント(電動モータによって加えられたトルクと同じ)とアーム部に加えられる曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部材に加えられる。
弾性部材が直線状のロッドである場合には、ロッドに電動モータによって加えられたトルクと曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部材に加えられる。
弾性部材がL字形のバーである場合と直線状のロッドである場合とを比較すると、いずれにおいても、電動モータによって弾性部材に加えられるトルクと曲げモーメントとが等しくなる大きさに応じた上下方向力が発生させられる点については同じである(捩り応力と曲げ応力とが、同時に許容応力に達することが前提)。
また、弾性部材がL字形のバーである場合には、シャフト部の軸線回りの回転によりアーム部が回動させられるのに対して、直線状のロッドである場合には、直線状のロッドが直接電動モータによって回動させられる。そのため、直線状のロッドの長さとL字形のバーのアーム部の長さとが同じである場合には、L字形のバーとした方が、直線状のロッドとする場合に比較して、駆動源を、車体(ばね上部材)の車輪から離れた部分に設けることができるという利点がある。
(16)前記少なくとも1つのセンサが、前記前輪側ばね上部材の上下方向の加速度を検出する前輪ばね上加速度センサと、前記車両の前輪を保持する前輪側ばね下部材と前輪側ばね上部材との相対ストロークを検出するストロークセンサとを含み、前記上下方向力制御装置が、前記前輪ばね上加速度センサによる検出値、前記ストロークセンサによる検出値および前記ゲインに基づいて前記後輪側に設けられた前記上下方向力発生装置を制御するばね下依拠上下方向力制御部を含む(8)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項11)。
ばね下部材にセンサを設けると、検出値に大きな誤差が含まれるため、望ましくない。
それに対して、ばね上部材の挙動と、ばね上ばね下間のストロークとに基づけば、ばね下部材の上下方向の挙動を精度よく取得することが可能となる。
(17)前記少なくとも1つのセンサが、前記車両の停止状態において、前記車両の前輪側の車軸より前方の路面の凹凸を検出する路面センサを含み、前記上下方向力制御装置が、(a)前記路面センサによる検出値と前記ゲインとに基づいて前記前輪側に設けられた前記上下方向力発生装置を制御する路面凹凸対応前輪制御部と、(b)前記路面センサによる検出値と前記ゲインとに基づいて前記後輪側の前記上下方向力発生装置を制御する路面凹凸対応後輪制御部との少なくとも一方を含む(8)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
路面センサによって検出された路面の凹凸に基づけば、制御対象輪のばね下部材の変位、絶対速度等を取得することができる。
(18)車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記車両の走行速度が、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と制御遅れ時間とで決まる第1設定速度より大きい場合に、前記第1設定速度以下の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置(請求項12)。
本項に記載のサスペンション制御装置には、(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。例えば、検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離を制御遅れ時間で割った値が第1設定速度であり、第1設定時間に対応する。また、検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離を第2設定時間で割った値を第2設定速度とすることができる。走行速度が第2設定速度以上である場合にはゲインを0とすることができる。
(19)少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、車両の、その少なくとも1つのセンサが取り付けられた位置より後方にある制御対象輪に対応して設けられた制御対象装置を制御する車両制御装置であって、
前記センサの取付け位置と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記制御対象装置の制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とする車両制御装置。
本項に記載の車両制御装置には、前記(1)から(17)に記載の技術的特徴を採用することができる。
プレビュー制御は、サスペンションの制御に限らず、広く、車両に搭載された制御対象装置の制御に適用することができる。
(20)前記少なくとも1つのセンサが、前記車両の前輪に作用する横方向の力を検出する横方向力センサを含み、前記制御対象装置が、前記車両の後輪の舵角を自動で制御可能な後輪舵角制御装置であり、当該車両制御装置が、前記車両の運転者による操作部材の操舵量と、前記横方向力センサによる検出値とが、予め定められた設定範囲内にない場合に、前記後輪舵角制御装置を制御して、前記車両を、前記操舵状態に応じた走行状態を維持する走行状態制御装置を含み、前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記後輪舵角制御装置に使用されるゲインを小さくする制御舵角用ゲイン決定部を含む(19)に記載の車両制御装置。
例えば、轍路、またぎ路の走行中には、それに起因して、ステアリングホイール等の操舵部材の操舵状態が直進走行状態を指示しているにも係わらず前輪に横方向力が加えられる場合がある。この場合に、後輪がその路面を通る際に、その後輪の舵角を制御することができる。
(21)車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記車両が直進走行している場合には、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを、前記車両の走行速度が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定し、前記車両が旋回走行している場合には、前記ゲインを、前記車両の操舵輪の舵角の絶対値が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定するゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置。
本項に記載のサスペンション制御装置には、(1)項ないし(20)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の一実施例であるサスペンション制御装置を含むサスペンションシステムについて説明する。
図2,3において、車両の前後左右の各車輪12FR、FL、RL、RRとばね上部材としての車体14との間にサスペンション16が設けられる。
サスペンション16は、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング20FR、FL、RL、RR、ショックアブソーバ(以下、アブソーバと略称する場合がある)22FR、FL、RL、RR、上下方向力発生装置24FR、FL、RL、RR等を含む。以下、車輪の位置を表す添え字FR、FL、RL、RRはこれらを区別する必要がある場合に記載するが、区別する必要がない場合には記載しない。また、前輪側と後輪側とを区別する必要が場合に、添え字F、Rを付すことがある。さらに、前後左右の車輪のうちの任意の一輪を表す場合において、それが同じ車輪であること表す場合に、添え字ij(i=F、R j=R、L)を付すことがある。
また、図3に示すように、サスペンション16は、第1アッパアーム40,第2アッパアーム42,第1ロアアーム44,第2ロアアーム46,トーコントロールアーム48等の複数のサスペンションアームを含む。本実施例において、サスペンション16はマルチリンク式とされている。これら5本のサスペンションアーム40,42,44,46,48は、それぞれの一端部において、車体14に回動可能に連結され、他端部において、車輪12を相対回転可能に保持するアクスルキャリア50に回動可能に連結されている。アクスルキャリア50は、車体14に、それら5本のアーム40,42,44,46,48により予め定められた軌跡に沿って上下方向に相対移動可能とされる。
【0008】
ショックアブソーバ22は、図4に示すように、ばね上部材としての車体14と、ばね下部材としての第2ロアアーム46との間に、原則的に、上下方向に相対移動不能、かつ、揺動可能に連結されている。ショックアブソーバ22は、減衰特性制御装置56を含み、減衰特性が連続的に制御可能とされている。
ショックアブソーバ22は、ハウジング60とピストン62とを含み、ハウジング60において第2ロアアーム46に連結され、ピストン62のピストンロッド64において、マウント部54を介して車体14に連結される。ピストンロッド64は、中間部において、ハウジング60の蓋部66にシール68を介して摺接させられる。
ハウジング60は、図5に示すように、外筒71と内筒72とを含み、それらの間がバッファ室74とされる。上述のピストン62は、その内筒72の内側に液密かつ摺動可能に嵌合されているのであり、内筒72の内側が、上室75と下室76とに仕切られる。
ピストン62には、上室75と下室76とを接続する接続通路77、78が同心状に複数個ずつ設けられる(図5には、そのうちの2つずつが記載されている)。ピストン62の下面に配設された弁板79、上面に配設された弁板80、81は、それぞれ、ピストンロッド64に設けられた段部、ナットによって支持されている。
弁板79は、外周側にある接続通路78の開口は覆わないが、内周側にある接続通路77の開口を覆う大きさであり、上室75と下室76との液圧差が設定値以上となり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、上室75から下室76への作動液の流れを許容する。弁板79,接続通路77の開口部等によりリーフバルブ84が構成される。
弁板80、81は上下方向に重ねて設けられる。弁板80が接続通路78の開口を覆い、弁板80,81の接続通路77の開口に対応する部分には開口部が形成されている。下室76と上室75との液圧差が設定値以上になり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、下室76から上室75へ向かう作動液の流れを許容する。弁板80,81、接続通路78の開口部等によりリーフバルブ86が構成される。
下室76と上述のバッファ室74との間には、リーフバルブを備えたベースバルブ本体88が設けられる。
【0009】
減衰特性制御装置56は、図4に示すように、電動モータ90,電動モータ90の回転を直線運動に変換する運動変換機構91,調節ロッド92等を含む。ピストンロッド64の内部には、それの軸線方向に延びた貫通穴94が形成され、その貫通穴94に調節ロッド92が配設される。調節ロッド92は、上端部において運動変換機構91の出力部材に連結されており、電動モータ90の回転に伴ってピストンロッド64に対して直線的に相対移動させられる。電動モータ90の回転角度はモータ回転角センサ96によって検出される。
図5に示すように、貫通穴94は段付き形状を成しており、上部が大径部98、下部が小径部100とされる。小径部100において下室76に開口し、大径部98において接続通路102を介して上室75と連通させられる。上室75と下室76とは、貫通穴94,接続通路102によって互いに連通させられる。
一方、調整ロッド92の中間部の外径は大径部98の内径より小さく、かつ、小径部100の内径より大きくされており、下端部106の外径は下方にいくにつれて漸減させられる(例えば、下端部106の形状を円錐形状とすることができる)。調整ロッド92は、中間部が大径部98に位置し、下端部106が大径部98と小径部100との段差部付近に位置する状態で配設される。
調整ロッド92の下端部106の外周面と、大径部98と小径部100との段部の周縁107との間の隙間(開口面積)が、調節ロッド92(下端部106)のピストンロッド64に対する相対位置の変化に伴って、連続的に変化させられる。調整ロッド92の相対位置は、電動モータ90の回転角度からわかる。電動モータ90の制御により、可変絞り108の開口面積が制御されるのであり、調整ロッド76の下端部106、周縁107を含む貫通穴94の内周面等により流量制御弁(可変絞り)108が構成される。
なお、貫通穴94の接続通路102が接続された部分より上方にはシール部材109が設けられ、貫通穴94の内周面と調整ロッド92の外周面との間が液密に保たれる。
【0010】
例えば、ばね上部材14と第2ロアアーム46(車輪12)とを接近させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に下方へ移動させる向きの力が加えられた場合には、下室76の液圧が高くなる。
下室76の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って上室75へ流れる。また、弁板80(81)に加えられる液圧差に応じた力が開弁圧以上となり、リーフバルブ86が開状態に切り換えられると、接続通路78を経て作動液が上室75へ流れる。さらに、ベースバルブ体88のリーフバルブを経てバッファ室74へ流出する。ショックアブソーバ22の減衰特性は、主として、可変絞り108の開口面積で決まる。作動液が可変絞り108を流れる際に加えられる抵抗力は、流速が同じである場合には、可変絞り108の開口面積が小さくなるほど大きくなる。本実施例においては、ショックアブソーバ全体において、減衰係数が所望の大きさとなるように、電動モータ90の制御により、可変絞り108の開口面積が制御される。
【0011】
逆に、ばね上部材14と第2ロアアーム46(車輪12)とを離間させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に上方に移動させる向きの力が加えられた場合には、上室75の液圧が高くなる。
上室75内の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って下室76へ流れる。また、弁板79に加えられる力が開弁圧以上になるとリーフバルブ84が開状態に切り換えられて、接続通路77を経て下室76に作動液が流れる。また、バッファ室74の作動液の一部がベースバルブ体88のリーフバルブを経て流入する。減衰特性は、可変絞り108の開口面積の制御によって制御される。
なお、ピストン62の移動速度(作動液の流速)が同じ場合には、減衰特性(減衰係数)の制御により減衰力が制御されるため、減衰特性の制御を減衰力の制御であると考えることもできる。
【0012】
前記コイルスプリング20は、ショックアブソーバ22のハウジング60の中間部に設けられた下部リテーナ110と、マウント部54に防振ゴム112を介して設けられた上部リテーナ114との間に配設される。ハウジング60は第2ロアアーム46に支持され、マウント部54において車体14に取り付けられるため、コイルスプリング20は、第2ロアアーム46と車体14との間に、ショックアブソーバ22と並列に設けられることになる。
なお、ピストンロッド64のハウジング60の内部に位置する部分には、弾性部材116が設けられ、その弾性部材116の上面が蓋部66の下面に当接することによってリバウンド方向(車輪と車体との離間方向)の移動限度が規定される。また、ハウジング60の蓋部66の上面が防振ゴム112に当接することによってバウンド方向(車輪と車体との接近方向)の移動限度が規定される。弾性部材116,あるいは、弾性部材116および蓋部66の下面によってリバウンド側のストッパが構成され、防振ゴム112,あるいは、防振ゴム112および蓋部66の上面によってリバウンド側のストッパが構成される。
【0013】
上下方向力発生装置24は、図3,6に示すように、上下方向から見た場合に、概してL字形を成したバー122(弾性部材の一態様であり、以下、L字形バーと略称する)と、そのL字形バー122を軸線Ls回りに回転させるアクチュエータ(駆動源の一態様である)124とを含む。L字形バー122は、概ね車幅方向に延びるシャフト部130と、シャフト部130と交差して概ね車両の後方に延びるアーム部132とを含み、一体的に力を伝達可能に(例えば、1本のバーを曲げて)製造されたものである。アクチュエータ124は被取付部134において車体14に固定される。
L字形バー122は、それのシャフト部130のアーム部132が設けられた側とは反対側の端部において、アクチュエータ124に連結されることにより車体14に支持され、アーム部側の端部において、取付具136によって車体14に、シャフト部130の軸線Ls回りの回転を許容する状態で支持される。また、アーム部132のシャフト部130とは反対側の端部は、リンクロッド137を介して、第2ロアアーム46に連結されている。リンクロッド137は、一端部において、第2ロアアーム46に設けられたリンクロッド連結部138に揺動可能に連結され、他端部において、L字形バー122のアーム部132の端部に揺動可能に連結されている。
【0014】
図7に示すように、アクチュエータ124は、電動モータ140と減速機142とを含み、L字形バー122のシャフト部130が、減速機142を介して電動モータ140の出力軸に連結される。シャフト部130には、電動モータ140の回転が減速して伝達される。
ハウジング144には、電動モータ140と減速機142とが直列に設けられる。電動モータ140の出力軸146,減速機142の出力軸148は、それぞれ、ハウジング144にベアリング150,152を介して相対回転可能に保持される。また、これら出力軸146,148は中空とされており、これらの内側に、シャフト部130が挿入される。シャフト部130は、ブッシュ型軸受け153を介してハウジング144に相対回転可能に保持される。
電動モータ140は、ハウジング144の内周面に設けられた複数のコイル154と、出力軸146と、出力軸146に設けられた複数の永久磁石155(永久磁石155は出力軸146の外周面に設けても、埋め込んでもよい。)とを含む。電動モータ140は、3相のDCブラシレスモータとされており、電動モータ140の回転角度はモータ回転角センサ156により検出される。
減速機142は、ハーモニックギヤ機構として構成されるものであり、波動発生器(ウェーブジェネレータ)157,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)158およびリングギヤ(サーキュラスプライン)160を含む。波動発生器157は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含み、モータ出力軸146の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ158は、筒部が弾性変形可能なカップ形状をなすものであり、筒部の外周面に複数の歯(本減速機142では、400歯)が形成されており、底部に形成された孔にL字形バー122のシャフト部130が嵌合され、一体的に回転可能とされている。リングギヤ160は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機142においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング144に固定されている。フレキシブルギヤ158は、その筒部が波動発生器157の外周側に位置し、楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ160と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。
【0015】
波動発生器157が1回転(360度回転)、すなわち、電動モータ140の出力軸146が1回転させられると、フレキシブルギヤ158とリングギヤ160とが、2歯分だけ相対回転させられ、シャフト部130が回転させられる。本実施例においては、フレキシブルギヤ158のシャフト部130と一体的に回転可能な部分が減速機142の出力軸148とされる。
減速機142の減速比は、1/200であり、比較的大きい。電動モータ140の回転速度に対して減速機142の出力軸148の回転速度が小さく、その結果、アクチュエータ124の制御遅れが大きくなる(電動モータ140に制御指令値を出力してから、シャフト部130にトルクが加えられるまでの間の時間が長い)。
【0016】
一方、アクチュエータ124の正効率ηPを、ある外部入力に抗してL字形バー122のシャフト部130を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義し、逆効率ηNを、ある外部入力によってもアクチュエータ124が回転させられない最小のモータ力の、その外部入力に対する比率と定義した場合に、アクチュエータ力(アクチュエータ124に外部から加えられる力であり、アクチュエータトルクと考えてることもできる)をFa、電動モータ140が発生させる力であるモータ力(モータトルクと考えることができる。)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現できる。
ηP=Fa/Fm
ηN=Fm/Fa
正効率ηP、逆効率ηPは、同じ大きさのアクチュエータ力Faを発生させる場合であっても、正効率特性下において必要な電動モータ140のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとで異なる(FmP>FmN)。また、電動モータ140の正効率ηPと逆効率ηNとの積(正逆効率積ηP・ηNと称する)は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比(FmN/FmP)と考えることができる。
そして、正逆効率積ηP・ηNが小さい程、正効率特性下において必要な電動モータのモータ力FmPに対して、逆効率特性下において必要なモータ力FmNが小さくなるのであり、動かされ難いアクチュエータであると考えることができる。
本実施例においては、アクチュエータの正逆効率積ηP・ηNが小さいものとされているため、L字形バー122に加えられる力を保持するのに、小さい電流でよいという利点がある。
【0017】
前述のように、ばね下部材46とばね上部材14との間には、コイルスプリング20,ショックアブソーバ22,弾性部材としてのL字形バー122が互いに並列に設けられる。そのため、車輪12に加えられる荷重は、これらコイルスプリング20,ショックアブソーバ22,L字形のバー122が協働して受けることになる。電動モータ140に電流が供給されていない場合には、L字形バー122には力が発生させられていないため、荷重がコイルスプリング20とショックアブソーバ22とによって受けられる(主としてコイルスプリング20が受けるため、以下、コイルスプリング20が受けると記載する)。この状態を、本実施例においては、電動モータ140の回転角度が0の基準状態(アクチュエータ124の基準状態)とする。
【0018】
この基準状態から、電動モータ140が駆動させられると、電動モータ140のトルクがシャフト部130に加えられる。アーム部132が回動させられ、シャフト部130が捩られる。なお、電動モータ140の回転角度とアクチュエータ124の回転角度とは1対1に対応する。制御指令値は後述するように電動モータ140の回転角度の目標値である。
図8(a)に示すように(図8においては、電動モータ140の回転、アーム部132の回動、ばね下部材46の回動の関係を理解し易い状態で記載した。そのため、L字形バー122の実際の姿勢とは異なる)、アクチュエータ124がP方向に回転角θMA回転させられた場合において、アーム132部がθA回動させられた場合には、それによって、ばね上ばね下間のストロークが大きくなる。アーム部132がP方向に回動角θA回動させられると、ばね上ばね下間のストロークは、θA(sinθA)に応じた距離だけ大きくなり、サスペンションスプリング20の弾性力は、その分、小さくなる。
また、シャフト部130は、アクチュエータ124の回転角θMAからアーム部132の回動角θAを引いた角度で捩られる。シャフト部130に加えられる捩りモーメントTM(アクチュエータ124によって加えられるトルク)と、アーム部132に生じる曲げモーメントとは等しいため、式
TM=FB・L・・・(1)
が成立する。ここで、Lはアーム部132の長さであり、FBはアーム部132に加えられる力(第2ロアアーム46に加えられる力の反力)であり、FB・Lが、アーム部132に生じる曲げモーメントである。第2ロアアーム46には、下向きの力(下向きの成分を有する力)が加えられる。
一方、シャフト部130の捩りモーメントTMは、剪断弾性係数GS、断面2次極モーメントIPとした場合に、式
TM=GS・IP・(θMA−θA)・・・(2)
が成立する。
(1)式、(2)式から、
FB=GS・IP・(θMA−θA)/L・・・(3)
が成立し、第2ロアアーム46に加えられる力(上下方向力に対応し、アーム部132に加えられる力に対応する)は、捩り角(θMA−θA)に比例した大きさになることがわかる。
また、アクチュエータ124の回転角θMAとアーム部132の回転角θAとの間(車高の変化量)には、予め定められた関係がある。
以上の事情から、アクチュエータ124(電動モータ140)の回転角θMAが決まれば、ばね上ばね下間の距離の変化量および第2ロアアーム46に加えられる力FBが決まるのであり、本実施例においては、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力(L字形バー122によって加えられる上下方向力)が、所望の大きさとなるように、電動モータ140の回転角θMが制御される。
なお、前述のように、シャフト部130は、アーム部132の近傍において車体14に保持されているため、シャフト部130の曲げを考慮する必要はない。
また、弾性部材をL字形バー122としたため、直線状のロッドとする場合に比較して、アクチュエータ124を車体14の車輪12から離れた部分に設けることができ、車輪近傍の設計の自由度を向上させることができる。
【0019】
図8(b)に示すように、電動モータ140(アクチュエータ124)をQ方向に回転させた場合には、アーム部132は、矢印Q方向にθA回動させられる。ばね上ばね下間のストロークが小さくなり、コイルスプリング20によって発生させられる力が大きくなる。シャフト部130は、(θMA−θA)でQ方向に捩られ、第2ロアアーム46には、ばね上ばね下間のストロークが小さくなる向きの上下方向力が加えられる。L字形アーム122によって第2ロアアーム46に加えられる力の向きは、コイルスプリング20によって加えられる向きと逆向きとなる。
この場合においても、電動モータ140の回転角θMの制御により、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御される。
図8(a)、(b)から、電動モータ140の回転方向によって上下方向力の向きが決まり、電動モータ140の回転角θMの大きさ(回転角の絶対値と称することもある)によって上下方向力の大きさ、および、ばね上ばね下間の距離(あるいは距離の変化量)が決まる。
【0020】
本実施例において、ショックアブソーバ22,上下方向力発生装置24等は、図11に示すサスペンション制御ユニット168によって制御される。サスペンション制御ユニット168は、上下方向力発生装置制御ユニット(ECU)170と、アブソーバ制御ユニット(ECU)172とを含む。上下方向力発生装置制御ユニット170によって、L字形バー122によって第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御され、アブソーバ制御ユニット172によってショックアブソーバ22において発生させられる減衰力が制御される。
上下方向力発生装置制御ユニット170は、実行部173、入出力部174、記憶部175を備えたコンピュータを主体とするコントローラ176と、駆動回路としてのインバータ178とを含み、コントローラ176の入出力部174には、上記モータ回転角センサ156、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、左右前輪(操舵車輪)12FL、FRの舵角を検出する舵角センサ200、操舵部材の操舵量(本実施例においては図示しないステアリングホイールの操舵角)を検出する操舵角センサ204等が接続されるとともに、上述のインバータ178が接続される。ばね上加速度センサ196は、車体14のマウント部54に設けられ、ばね上部材14の上下方向の加速度を検出する。車高センサ198は、ばね上部材14のばね下部材46に対する上下方向の変位(ばね上ばね下間の距離)を検出する。ばね上加速度センサ196,車高センサ198は、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRに対応して設けられる。記憶部175には、複数のテーブル、プログラム等が記憶されている。
【0021】
アブソーバ制御ユニット172も、同様に、実行部210、入出力部211、記憶部212等を含むコンピュータを主体とするコントローラ220と、駆動回路としてのインバータ222とを含み、入出力部211には、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、舵角センサ200、操舵角センサ204、モータ回転角センサ96等が接続されるとともに、上述のインバータ222が接続される。
ブレーキ制御ユニット224も、同様に、コンピュータを主体とするコントローラを含む。ブレーキ制御ユニット224には、各輪12FR、FL、RR、RLの回転速度を検出する車輪速センサ226が接続され、これら車輪速センサ226による検出値に基づいて車両の走行速度やスリップ状態が取得される。
これら上下方向力発生装置制御ユニット170、アブソーバ制御ユニット172,ブレーキ制御ユニット224等は互いにCAN(Car Area Network)を介して接続され、ブレーキ制御ユニット224において取得された車両の走行速度を表す情報、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRのスリップ状態を表す情報等が上下方向力発生装置制御ユニット170,アブソーバ制御ユニット172等に供給される。
【0022】
なお、上下方向力発生装置ECU170のコントローラ176,アブソーバECU172のコントローラ220は、各輪毎に(各インバータ毎に)、それぞれ個別に設けることもできる。
【0023】
図9に示すように、電動モータ140は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子230u,230v,230w(以下、総称して「通電端子230」という場合がある)を有している。
インバータ178は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)ごとに、high(正)側,low(負)側に対応して、設けられた2つずつのスイッチング素子(UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLC)と、これらスイッチング素子を切り換えるスイッチング素子切換回路とを含む。スイッチング素子切換回路は、電動モータ140に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ178は、コンバータ232を介してバッテリ236に接続される。
このように、電動モータ140には、コンバータ232によって制御された一定の電圧が加えられるため、電動モータ140への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ178においてPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
上記のように構成されたインバータ178の作動状態を制御することにより、電動モータ140の作動モードが変更される。作動モードには、バッテリ236から電動モータ140への電力の供給が行われる制御通電モード、電力の供給が行われないスタンバイモード,ブレーキモード,フリーモードがある。
【0024】
制御通電モードにおいて、図9,10に示すように、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ140の回転角に応じて切り換えられる。この場合において、high側の各スイッチング素子UHC,VHC,WHCに対してはデューティ制御が実行されないが、low側の各スイッチング素子ULC,VLC,WLCに対してデューティ制御が実行される。そのデューティ比が変更されることにより、電動モータ140への供給電流量が変更される。図10における「1*」は、デューティ制御されることを示している。各スイッチング素子の切換形態は、電動モータ140の回転方向に応じて異なっており、便宜的に、時計回り方向(CW方向)と反時計回り(CCW方向)と称する。
制御通電モードにおいては、電動モータ140への供給電力が制御され、それによって、トルクの向きおよび大きさが制御される。
【0025】
スタンバイモードにおいては、各スイッチング素子の切り換えが実行されても、実際にはバッテリ236から電動モータ140への電力が供給されることがない。
図10に示すように、制御通電モードにおける場合と比較すると、high側に存在する各スイッチ素子WHC,VHC,UHCは、制御通電モータにおける場合と同様に切り換えられるが、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ比が0とされるのであり、low側のスイッチング素子ULC,VLC,WLCは、常時、OFF状態(開状態)とされる。その結果、本モードでは、電動モータ140に電力が供給されないことになる。図10における「0*」は、そのことを示している。
このように、本モードにおいて、各スイッチング素子UHC,VHC,WHC,ULC,VLC,WLCのうちの1つのスイッチング素子のみがON状態(閉状態)とされるため、3つの通電端子230のうちの1つとコンバータ232の高電位側の端子234Hとの導通が確保される。このため、本作動モードは、特定端子通電モードの一種と考えることができる。なお、スタンバイモードにおいても、スイッチング素子の切換形態に関してCW方向,CCW方向の2形態がある。
ブレーキモードにおいては、スイッチング素子のON/OFFにより、電動モータ140の各通電端子が相互に導通させられる。このモードは、全端子間導通モードの一種と考えることができる。電動モータ140の回転角に拘わらず、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方(本実施例においては、low側)に配置されたすべてのものが閉状態に維持され、high側,low側の他方(本実施例においては、high側)に配置されたすべてのものが開状態に維持される。ON状態とされたhigh側のスイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電動モータ140の各相は短絡させられた状態となる。本モードにおいては、短絡制動の効果が得られることになる。
フリーモードにおいては、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。本モードにおいては、電動モータ140はフリーの状態となる。
【0026】
以上のように、インバータ178におけるスイッチング素子の切換え制御により、電動モータ140(アクチュエータ124)の作動が制御され、それによって、L字形バー122によってばね下部材46に加えられる上下方向の力FBが制御される。本実施例においては、上下方向力FBの向きがばね下部材46の上下方向の移動方向と逆向きとなり、大きさがばね下部材46の絶対速度に応じた大きさとなるように制御される。上下方向力が減衰力として作用するように制御されるのである。
上下方向力FBの向きは基準位置からの電動モータ140の回転方向で決まり、上下方向力FBの大きさは、電動モータ140の回転角の大きさによって制御される。前述のように、電動モータ140の回転角θMと上下方向力FBの大きさとの間には予め定められた関係があるため、これらの間の関係に基づけば、上下方向力FBが所望の向きおよび大きさとなるように、目標回転角θM*(回転方向と大きさ)を決めることができる。
【0027】
電動モータ140への供給電流量は、電動モータ140の目標回転角θM*と、実際の回転角をθとのモータ回転角偏差Δθ(=θM*−θ)に応じた大きさとされる。本実施例においては、PI制御が行われるのであり、供給電流量が、式
i=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)
に従って決まる。KP,KIは、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインであり、Int(Δθ)は、モータ回転角偏差Δθの積分値に相当する。回転角偏差Δθの絶対値が大きい場合は、供給電流量を大きくして、実際の回転角θが速やかに目標回転角θM*に近づくように供給電流iが供給される。
本実施例においては、後述する上下方向力の目標値FB*の絶対値が増加させられる場合には、この供給電流iの大きさ(絶対値)に基づいて、電動モータ140を駆動するためのデューティ比が決定される。また、この供給電流iの符号が電動モータ140の所望のトルク(回転方向)の向きに対応する。それらデューティ比および回転方向についての制御指令がインバータ178に出力されると、インバータ178において、制御指令値に応じて、スイッチング素子の制御が行われる。この場合には、供給電流i*(符号を有する)が制御指令値に対応する。それに対して、目標値FB*の絶対値が保持または減少させられる場合には、デューティ比、回転方向についての制御指令値が出力されるのではなく、後述するように、ブレーキモード、フリーモードに切り換えることを表す制御指令値が出力される。
【0028】
なお、本実施例においては、PI制御則に従い供給電流iが決定されたが、PID制御則に従い供給電流iが決定されるようにすることも可能である。この場合、例えば、式
i=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)+KD・Δθ
に従って、供給電流iが決定される。KDは微分ゲインであり、第3項は、微分項成分を意味する。
【0029】
本実施例において、前輪側の上下方向力発生装置24Fについては通常制御が行われ、後輪側の上下方向力発生装置24Rについては、原則として、プレビュー制御が行われるが、プレビュー制御によって上下方向の振動を効果的に抑制できない場合には、通常制御が行われる場合もある。
通常制御は、センサ196,198によって上下挙動が検出される検出対象車輪と、上下方向力が制御される制御対象車輪とが同じである制御をいう。通常制御は、通常サスペンション制御と称することもある。
通常制御において、制御対象輪(検出対象輪でもある)12ijのばね下部材46の絶対速度(以下、ばね下絶対速度と称する)VLが取得され、ばね下絶対速度VLに応じた減衰力が得られるように、上下方向力発生装置24ijが制御される。
制御対象輪12ijに対応して設けられたばね上加速度センサ196による検出値GUを時間で積分することによりばね上部材14の絶対速度(以下、ばね上絶対速度と称する)VUが取得され、車高センサ198による検出値を時間で微分することによりばね上ばね下間の相対速度(ばね上ばね下の間のストロークの変化速度)VSが取得される。そして、ばね上絶対速度VUから相対速度VSを引くことにより、ばね下絶対速度VLが取得される。
VL=VU−VS=VU−(VU−VL)
上下方向力の目標値(目標減衰力)FB*は、ばね下絶対速度をVLとした場合に、式
FB*=−G0・C・VL
に従って求められ、電動モータ140の目標回転角θM*が、式
θM*=f(FB*)
に従って求められる。Cは、減衰係数であり、予め定められた固定値である。G0は通常制御のゲインであり、予め決められた固定値である。fは予め定められた関数であり、関数式に従って、目標回転角θM*が取得される。符号(−)は、目標減衰力FB*の向きがばね下絶対速度の向きと逆であることを表す。ばね下絶対速度が上向きである場合には、目標減衰力FB*は下向きである。
そして、上述のように、目標回転角度θM*と実際の回転角度θとから回転角偏差Δθが取得され、回転角偏差Δθに応じた供給電流iが求められ、供給電流i等に基づいて上述のように制御指令値が作成されて、出力される。通常制御においては、制御指令値は、作成されると直ちに出力される。
【0030】
一方、前述のように、アクチュエータ124は制御遅れが大きい(応答性が悪い)ものである。そのため、自車輪12ijの上下方向の挙動に基づいて同じ車輪12ijのアクチュエータ124ijが制御される場合には、振動を良好に抑制できなかったり、かえって、乗り心地が悪くなったりする場合がある。
それに対して、実車試験やシミュレーション等により、実際の振動に対して、制御が1/8位相遅れて開始されても、その振動を抑制し得ることが確かめられている。また、制御遅れ時間(制御指令値を出力してから、実際に電動モータ140のトルクがL字形バー122に加えられるまでの時間)は、アクチュエータ124の構造、インバータ178の性能等により予め決まる。
そこで、本実施例においては、サスペンション制御が、その実際の振動に対して遅れて開始されても、その遅れの時間が、その振動の1/8位相に相当する時間以下である場合には、アクチュエータ124ijの制御(通常制御)が行われるようにされている。
アクチュエータ124の制御遅れ時間がTDである場合に、その制御遅れ時間TDが1/8位相に相当する周波数fDは、式
fD=1/(8・TD)
で求められる。そのため、実際の車輪12ijの上下方向の振動の周波数fが、周波数(以下、遅れ対応周波数と称する)fDより高く(大きく)、より高周波の振動が生じている場合(f>fD)には、制御遅れ時間TDが1/8位相分より長くなるため、上下方向力発生装置24ijによる減衰力の制御は行われない。それに対して、実際の周波数fが遅れ対応周波数fD以下で、低周波の振動が生じている場合(f≦fD)には、制御遅れ時間TDが1/8位相分以下となるため、制振効果が得られる。そのため、この場合には、上下方向力発生装置24ijによる減衰力の制御が行われるのである。
【0031】
プレビュー制御において、制御対象車輪が後輪とされ、検出対象車輪が前輪とされる(センサによる検出対象部が前輪側部分とされる)。前輪12FL、FRの各々の上下方向の挙動が検出され、その検出された上下方向の挙動に基づいて、車両の幅方向の同じ側の後輪12RL、RRの上下方向力発生装置24RL、RRがそれぞれ制御される。
図1に示すように、前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を後輪12RL、RRが通ると仮定した場合には、前輪12FL、FRに加えられた路面入力と同じ入力を後輪12RL、RRも受け、前輪12FL、FRのばね下部材46FL、FRの上下方向の挙動と同じ挙動が所定の時間が経過した後に、後輪12RL、RRのばね下部材46RL、RRに生じる。このことを利用して、前輪12Fのばね下部材46Fの上下方向の挙動に基づいて後輪12Rの上下方向力発生装置24Rが制御されるようにすれば、上下方向力発生装置24Rの制御遅れを小さく、あるいは、0とすることができ、後輪12Rのばね下部材46Rの上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
本実施例においては、前輪12Fのばね下絶対速度VLが取得され、そのばね下絶対速度VLに応じた目標減衰力FB*が求められ、制御指令値が作成される。そして、所定の時間の経過後に、すなわち、後輪12Rのばね下部材46Rの、その上下方向の挙動に合わせて、制御指令値に応じた減衰力が後輪12Rに発生させられるように、上下方向力発生装置24Rが制御される。
【0032】
目標減衰力FB*は、ばね下絶対速度VLに基づいて決まり、式
FB*=−G・C・VL
に従って取得される。Gは、プレビューゲイン(プレビュー制御に使用されるゲイン)である。
そして、前述のように、目標回転角度θMが、式
θM*=f(FB*)
に従って求められ、前述のように、目標回転角度θM*と実際の回転角度θとから回転角偏差Δθが取得され、回転角偏差Δθに応じた供給電流iが求められ、それに基づいて制御指令値が作成される。
制御指令値は、原則として、前輪側部分の上下挙動が検出されてから、ホイールベースLWを車速Vで割って得られる余裕時間TPから遅れ時間TDを引いた時間TQ(以下、待ち時間と称する)が経過した後に出力される。
TP=LW/VS
TQ=TP−TD
【0033】
余裕時間TPは、同じ路面の凹凸を、前輪12Fが通過してから後輪12Rが通過するまでの時間であり、図12(a)に示すように、同じ車両について(ホイールベースLWが同じである場合)は、車速Vが大きい場合は小さい場合より短くなる。
余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合、すなわち、余裕時間TPから制御遅れ時間TD(本実施例においては、制御遅れ時間が第1設定時間に対応する)を引いた時間である待ち時間TQが0以上である場合には、プレビュー制御を有効に行うことができる。そのため、図12(b)に示すように、待ち時間TQが0以上である場合には、プレビューゲインを1とする。待ち時間が0以上の場合は、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合に対応し、車速Vが、ホイールベースLWを制御遅れ時間TDで割った大きさVD(VD=LW/TD)以下の場合(VS≦VD)に対応する。
それに対して、車速が大きくなり、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短くなると、たとえ、待ち時間TQなしで制御指令値が出力されても、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rに対する制御が、実際の後輪12Rのその上下方向の挙動に対して遅れるため、プレビュー制御によって、後輪12Rの上下方向の振動を良好に抑制できなかったり、かえって、乗り心地が悪くなったりすることがある。そこで、本実施例においては、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短くなると、図12(b)の実線が示すように、車速Vの増加に伴って(余裕時間が短くなるのに伴って)プレビューゲインGが直線的に漸減させられる。
【0034】
また、余裕時間TPが効果有り時間TLより短くなる(TP<TL)と、プレビューゲインGが0とされるのであり、プレビュー制御は行われない。
前述のように、実際のその振動に対して制御が遅れても、その遅れが、1/8位相相当時間以下である場合においては、制御の効果が得られることがわかっている。この事実に基づいて、図12(a)、(c)に示すように、待ち時間なしで、制御指令値を直ちに出力しても、後輪12Rの実際の上下方向の振動に対して1/8位相遅れる場合の余裕時間を効果有り時間TLとする。
効果有り時間TLは、ばね下部材46の振動の周波数がN(Hz)である場合に、制御遅れ時間TDから1/8位相遅れる時間TX{1/(8×N)sec}を引いた時間であり、本実施例においては、効果有り時間TLが第2設定時間に対応する。
制御遅れ時間TDが同じ場合(アクチュエータ124が同じ場合)において、周波数Nが小さい振動においては、1/8位相に相当する時間TXは長くなるため、効果有り時間TLが短くなり、周波数Nが大きい振動においては、効果有り時間TLが長くなる。本実施例においては、Nが3とされている。周波数3Hzは、通常生じる車両の振動において、比較的高い周波数であり、アクチュエータ124によって制御可能な最大周波数である。その結果、アクチュエータ124の制御可能な範囲において、最長の効果有り時間TLがしきい値として設定されることになる。
また、余裕時間TPが効果有り時間TLである場合の車速Vは、
VSMAx=LW/TL
となる。したがって、車速VがVSMAxより大きくなると、プレビュー制御が行われないことになる。
プレビューゲインGと余裕時間TPとの関係は、図12(b)に示すように、予めテーブル化されて記憶されている。
【0035】
なお、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合に、プレビューゲインGは、図12(b)の破線が示すように曲線的に漸減させるようにしても、二点鎖線が示すように0としてもよい。
また、テーブルは、プレビューゲインGと車速Vとの関係を表すものであってもよい。
さらに、第1設定時間は、制御遅れ時間TDより長い時間(設定値を加えた時間、1より大きい比率を掛けた時間)としたり、制御遅れ時間TDより短い時間(設定値を引いた時間、1より小さい比率を掛けた時間)としたりすることができる。
また、振動の周波数をその都度取得し、その都度、第2設定時間(効果有時間TL)あるいはプレビュー制御が行われる車速の上限値VSMAXを決めて、その都度、ゲインを決めることができる。例えば、プレビューゲインGを、実際の車速Vとした場合に、式
G=V/(VSMAX−VD)
に従って求めることができる。
【0036】
車両が旋回している場合には、前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を後輪12RL、RRが通るとは限らない。後輪12RL、RRが前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を全く通らない場合には、プレビュー制御を効果的に行うことができない場合がある。そこで、本実施例においては、図13(a)、(b)に示すように、軌道差ΔRとタイヤ幅WTとに基づいてラップ率Lapを取得し、ラップ率Lapが低い場合は高い場合より、プレビューゲインGを小さい値とする。また、図16(b)に示すように、ラップ率Lapが0以下の場合には、プレビューゲインを0として、プレビュー制御が行われないようにする。
ラップ率Lapは、前輪12FL、FRのタイヤWFが通った路面と後輪12RL、RRのタイヤWRが通ると予測される路面との重なり部分の車両の幅方向(旋回半径方向)の長さΔWTをタイヤの幅方向の寸法WTで割った値(ΔWT/WT)である。タイヤの幅方向の寸法(以下、タイヤの幅と略称する)WTは、前輪12Fと後輪12Rとで、タイヤの幅が同じである場合の、その寸法である。
【0037】
各輪12FL、FR、RL、RRの軌道(軌跡)は、それぞれ、連続した1本の線で表される。本実施例においては、車輪12(あるいはタイヤ)の幅方向の中央面の路面との接点の集合で表され、その接点の集合の旋回半径Rで表される。
また、左前輪12FLの軌跡、右前輪12FRの軌跡の中間の軌跡を前輪側の軌跡とすることができる。中間の軌跡は、左前輪12FLの旋回半径と右前輪12FRの旋回半径との平均値で表したり、図14に示すように、車両の前輪側の幅方向の中心点PFの軌跡(旋回半径)で表したりすることができる。中心点PFは、厳密に言うと、車両が水平な路面を直進走行している場合において、車両の重心Gを通る前後方向に延びる線LVを含む鉛直面と、左右前輪12FL、FRの車軸の軸線を通る線との交点である。この交点PFの軌跡は、交点PFを路面に投影した点の集合から成るものと考えることもできる。
同様に、軌道差(軌跡差)ΔRは、前輪12Fの旋回半径Rfから後輪12Rの旋回半径Rrを引いた値であるが、同じ側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径の差としても、前輪側の旋回半径と後輪側の旋回半径との差としてもよい。後輪側の軌跡は、前輪側の軌跡と同様に、中心線LVを含む鉛直面と、左右後輪12RL、RRの車軸の軸線を通る線(左右後輪12RL、RRの中心同士を通る線)との交点(中心点)PRの旋回半径Rrで表すことができる。
【0038】
図14に示すように、車輪12FL、FR、RL、RRのスリップが小さい場合には、旋回中心が、左右後輪12RL、RRの車軸の中心線を通る線の延長線上にあることが知られている。したがって、操舵輪(前輪)12Fの舵角の絶対値をδWとし、ホイールベースをLWとすれば、前輪側の中心点PF、後輪側の中心点PRの旋回半径は、式
Rf=LW/sinδW・10-3
Rr=LW/tanδW・10-3
に従って求めることができる。10-3は、ホイールベースLWの単位が(mm)であり、旋回半径Rf、Rrの単位が(m)であるため、これらの単位の換算のための値である。本実施例においては、旋回方向は関係がないため、舵角の絶対値が用いられる。
一方、旋回内側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径は、それぞれ、式
Rfin≒Rf−Tf/2
Rrin=Rr−Tr/2
で表すことができ、旋回外側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径は、それぞれ、
Rfout≒Rf+Tf/2
Rrout=Rr+Tr/2
で表すことができる。Tf、Trは、それぞれ、左右前輪12FL、FR、左右後輪12RL、RRのホイールトレッドである。
【0039】
その結果、旋回内側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径の差(軌道差)ΔRin、旋回外側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径の差ΔRoutは、それぞれ、式
ΔRin≒Rf−{Rr+(Tf−Tr)/2}
=(Rf−Rr)−(Tf−Tr)/2・・・(4)
ΔRout≒Rf−{Rr−(Tf−Tr)/2}
=(Rf−Rr)+(Tf−Tr)/2・・・(5)
で、表される大きさとなる。
一方、前輪側、後輪側の旋回半径の差は、式
ΔR=Rf−Rr
で表されるため、(4)式より、旋回内輪の前輪12F、後輪12Rの旋回半径差ΔRinは、前輪側、後輪側の旋回半径の差(Rf−Rr)よりトレッド差(Tf−Tr)の1/2だけ小さくなり、(5)式より、旋回外輪の前輪12F、後輪12Fの旋回半径差ΔRoutは、前輪側、後輪側の旋回半径の差(Rf−Rr)よりトレッド差(Tf−Tr)の1/2だけ大きくなることがわかる。
図15に示すように、上記式から、前輪側の旋回半径(中心点PFの旋回半径)Rf(前輪12の旋回半径はRfin、Rfout)は、後輪側の旋回半径(中心点PRの旋回半径)Rr(後輪の旋回半径Rrin、Rrout)より相対的に大きくなり、前輪舵角の絶対値δWが大きいほど旋回半径が小さくなることがわかる。また、旋回半径の差、すなわち、軌道差は、前輪舵角の絶対値δWが大きく、旋回半径Rが小さいほど大きくなることがわかる。
【0040】
なお、前輪側の旋回半径Rf、後輪側の旋回半径Rrは、図24に示すように、車両の重心Gの旋回半径Rgと、重心Gと前輪側の中心点PFとの間の距離LWf,重心Gと後輪側の中心点PRとの間の距離LWrとから、下式に従って取得することもできる。
Rf=√(Rg2+LWf2)
Rr=√(Rg2+LWr2)
LW=LWf+LWr
この場合、車両の重心Gの旋回半径Rgは、ステアリングホイールの操舵角度の絶対値δと、車両の走行速度Vとから、式
Rg=V/(dδ/dt)
に従って求めることができる。
また、旋回半径Rgは、式
Rg=LW・(1+K・V2)/(dδ/dt)
に従って求めることもできる。ここで、Kは、スタビリティファクタであり、前輪、後輪の等価コーナリングパワーをKf,Krとし、車両の質量をmとした場合に、式
K=m(LWr・Kr−LWf・Kf)/(2・LW2・Kf・Kr)
に従って求めることができる。
さらに、車両の重心Gの旋回半径Rgは、ナビゲーションシステムからの道路情報に基づいて取得することもできる。道路のコーナの曲率半径を表す情報に基づけば、車両の旋回半径を求めることができる。
【0041】
図13(b)に示すように、前輪12Fが通る路面と後輪12Rが通ると予測される路面とが重なる部分の幅方向の長さΔWTは、前輪側の旋回半径Rf、後輪側の旋回半径Rrを考えた場合に、式
ΔWT=(Rr+WT/2)−(Rf−WT/2)
=WT−(Rf−Rr)
=WT−ΔR・・・(6)
で表される長さとなる。後輪12Rのタイヤの外周側の縁の旋回半径から前輪12Fのタイヤの内周側の縁の旋回半径を引くことによって求めることができる。
(6)式から、重なり部の幅ΔWTは、タイヤ幅WTから前輪側、後輪側の旋回半径差(軌道差)ΔRを引いた値となることがわかる。この式から、軌道差がタイヤの幅より小さい場合には、重なり部分が存在するが、軌道差がタイヤの幅以上になると、重なり部分が存在しないことがわかる。
なお、旋回半径を、それぞれ、旋回内側、旋回外側のそれぞれについて求めた場合には、(6)式において、ΔRの代わりに、それぞれ、ΔRin、ΔRoutを代入すればよい。
したがって、ラップ率Lapは、式
Lap=(WT−ΔR)/WT=1−ΔR/WT
に従って求めることができる。
【0042】
ラップ率Lapは、図16(a)に示すように、軌道差ΔRが大きくなると小さくなる値である。軌道差ΔRが大きくなると、前輪12のタイヤWFが通る路面と後輪12のタイヤWRが通る路面との重なり部分ΔWTが少なくなるからである。また、前輪舵角の絶対値δWが設定値δW0に達すると、ラップ率Lapが0になり、その後、前輪舵角の絶対値δWの増加に伴ってラップ率は0より小さい値となる。ラップ率Lapが0以下であるということは、前輪12Fが通る路面と後輪12Rが通る路面との重なり部分が存在しないということである。前述のように、前輪側と後輪側の軌道差ΔRがタイヤの幅WT以上になると、重なり部分がなくなり、ラップ率は0以下となる。
また、プレビューゲインGは図16(b)の実線が示すように、ラップ率Lapが設定値Lapth以上である場合には1とされる。設定値Lapthは、重なりが多いため、旋回中であっても、有効にプレビュー制御が行われ得ると考えられる値であり、例えば、0.8近傍の値とすることができる。ラップ率Lapが、設定値Lapthより小さくなると、ラップ率Lapの減少に伴ってプレビューゲインも小さい値とされる。重なりが少なくなるのに伴ってプレビューゲインが小さくされるのである。そして、ラップ率Lapが0となると、プレビューゲインも0とされる。ラップ率Lapが0以下である場合には、プレビュー制御が行われることがない。このラップ率Lapとプレビューゲインとの関係は、予めテーブル化されて、記憶されている。
【0043】
なお、プレビューゲインは、図16(b)の破線が示すように、ラップ率Lapの低下に伴って漸減させられる値とすることもできる。
また、テーブルは、前輪舵角の絶対値δWとプレビューゲインとの関係を表すものとすることができる。
【0044】
通常制御は、図21のフローチャートで表される通常制御プログラムの実行に従って行われる。本プログラムは、左右前輪12FL、FRの各々について、予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ101(以下、単に、S101と略称する。他のステップについても同様とする)において、制御対象輪(例えば、左前輪12FLが制御対象輪である場合について説明する)のばね上加速度GUが検出され、S102において、車高(ばね上ばね下ストローク)Hが検出され、S103、104において、左前輪12FLの上下方向力発生装置24FLに対応する制御指令値が作成される。具体的には、ばね上加速度GUを積分することによりばね上絶対速度VUが求められ、車高Hを微分することによりばね上ばね下の相対速度(ストローク変化)ΔH(VS)が求められ、これらから、ばね下絶対速度VLが求められる。そして、ゲインG0、減衰係数C、ばね下絶対速度VLから目標減衰力FB*が求められ、目標回転角度θM*が取得され、実際の回転角度θと目標回転角度θM*との差である回転角偏差Δθから供給電流iが取得される。
そして、S105において、ばね下絶対速度VLに基づいて、ばね下部材46の上下振動の周波数fが取得される。絶対速度が0である場合には、ばね下部材46が振幅の絶対値が最大となる位置にあるのであり、このことに基づけば、周波数を取得することができる。S106において、周波数fが、予め定められた遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。左前輪12FLの実際の上下振動の周波数fが小さく、遅れ対応周波数fD以下である場合には、制御は有効であるため、S107において、制御指令値が出力される。
それに対して、実際の左前輪12FLの上下方向の振動の周波数fが遅れ対応周波数fDより高周波である場合には、制御が有効であると考えられないため、S106の判定がNOとなり、制御指令値が出力されることがない(上下方向力発生装置24FLの制御は行われない)。
【0045】
S107の制御指令値の出力は、図22のフローチャートに従って行われる。S121において、目標減衰力FB*の絶対値が増加しているか否かが判定される。増加している場合には、S122において、供給電流iを表す制御指令値がインバータ176FLに出力される。
それに対して、増加していない場合、すなわち、減少しているか、ほぼ一定である場合には、S123において、目標減衰力FB*の絶対値がしきい値Fth以上であるか否かが判定される。しきい値Fth以上である場合には、S124において、ブレーキモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。しきい値Fthより小さい場合には、S125において、フリーモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。
図23に示すように、減衰力の絶対値を大きくする場合には、電動モータ140が通電状態とされるが、減衰力の絶対値を小さくする場合には、電流が供給されない。車輪12に加えられる荷重により、ばね上ばね下の間を基準状態に戻そうとする力が、第2ロアアーム46、L字形バー120を介してアクチュエータ124に加えられるため、供給電流の制御を行わなくても、基準位置に戻される。また、アクチュエータ124は正逆効率積が小さく、外部入力の影響を受け難いものであるが、フリーモードが設定されれば、外部入力によって作動させられ基準位置に戻される。このように、減衰力の絶対値を小さくする場合に電流が供給されないようにすれば、消費電力の低減を図ることができる
また、目標減衰力FB*の絶対値が大きい場合には、ブレーキモードが設定されるため、外力によって、急激に減衰力の絶対値が小さくされることを回避することができる。
さらに、目標減衰力FB*の絶対値を小さくする場合には、エネルギ回生を行うことも可能であり、そのようにすれば、さらに、エネルギ効率を向上させることができる。
また、目標減衰力FB*の絶対値を小さくする場合に通電状態とされないため、アクチュエータ124の回転方向を、電流制御が行われる場合に比較して、速やかに逆向きにすることが可能となり、応答性の低下を抑制することができる。
【0046】
なお、制御対象輪の上下方向の振動の周波数は、ばね上絶対速度の変化に基づいて取得されるようにしたり、ばね上あるいはばね下の変位に基づいて取得されるようにしたりすることができる。また、フーリエ変換等を利用して取得されるようにすることもできる。
【0047】
プレビュー制御は、図17のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムの実行に従って行われる。左右後輪12RL、RR毎に、それぞれ、予め定められた設定時間毎に実行される。左後輪12RLの上下方向力発生装置24RLは、左前輪12FLの上下方向の挙動に基づいて制御され、右後輪12RRの上下方向力発生装置24RRは、右前輪12FRの上下方向の挙動に基づいて制御される。
S1において、制御対象輪(例えば、左後輪12RLが制御対象輪である場合について説明する)と同じ側の前輪(左前輪)12FLのばね上加速度GUが検出され、S2において、車高Hが検出される。S3において、前述のように、これらに基づいてばね下絶対速度VLが取得される。そして、S4において、プレビューゲインGが決定され、S5において、決定されたプレビューゲインGが0であるか否かが判定される。
プレビューゲインが0より大きい場合には、S6〜10においてプレビュー制御が行われる。S6において、プレビューゲインG、減衰係数C、ばね下絶対速度VLから目標減衰力FB*が取得され、目標減衰力FB*から目標回転角度θM*が取得され、回転角偏差Δθから供給電流iが取得される。S7において、S4において求められた余裕時間TPから待ち時間TQが求められる。S8において、余裕時間TPと制御遅れ時間TDとを比較して、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合は、S9において、供給電流量iが記憶される。制御指令値は待ち時間TQが経過した後に出力される。
それに対して、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合には、S10において、制御指令値が直ちに出力される。
プレビューゲインが0である場合には、S11において、前述の図21のフローチャートで表される通常制御と同様の制御が行われる。制御対象輪が左後輪12RLである場合には、左後輪12RLの上下方向の挙動に基づいて上下方向力発生装置24RLが制御されることになる。
また、S9,10の制御指令値の出力は、図22のフローチャートに従って、通常制御における場合と同様に行われる。目標減衰力FB*が減少傾向にある場合には、電動モータ140には通電されないため、通電される場合に比較して、消費電力の低減を図ることができる。
【0048】
なお、S9においては、待ち時間TQの経過後に、図22のフローチャートに従って、通常制御と同様の実行が行われるようにしても、予め制御指令値を作成し、制御指令値自体を記憶し、待ち時間TQの経過後に、その制御指令値が出力されるようにすることもできる。
【0049】
S4のプレビューゲインは、図18のフローチャートに従って決定される。
本実施例においては、車両が直進走行状態にある場合には、車速(余裕時間)に基づいて決定された車速対応ゲイン(余裕時間対応ゲインと称することもできる)GVがそのままプレビューゲインとして使用される。旋回状態にある場合には、旋回状態で決まる旋回時ゲインGRと車速対応ゲインGVとの相乗平均、すなわち、これらの積GR・GVを1/2乗した値{√(GR・GV)}がプレビューゲインGとされる。また、操舵車輪(前輪12F)の舵角の絶対値δWが設定値以下である場合には、直進走行状態にあるとされ、設定値より大きい場合には、旋回状態にあるとされる。設定値は、車両が直進走行中であるとみなし得る大きさである。
S21において、車速対応ゲインGVが決定され、S22において前輪12Fの舵角が検出され、S23において、舵角の絶対値δWが設定値δMIN以下であるか否かが判定される。設定値δMIN以下である場合には、旋回状態を考慮する必要がないため、S24において、車速対応ゲインGVがプレビューゲインとされる(G←GV)。
それに対して、前輪舵角の絶対値δWが設定値δMINより大きい場合には、S25において、前後左右の車輪12FL、FR、RL、RRのうちの少なくとも1輪のスリップ率が予め定められた設定スリップ率以上であるか否かが判定される。少なくとも1つの車輪の前後方向のスリップ率(制動スリップ、または、駆動スリップ)が予め定められた第1設定スリップ率以上であることと、横方向のスリップ率が予め定められた第2設定スリップ率以上であることとの少なくとも一方が満たされた場合には、判定がYESとなる。旋回時ゲインが決定されないで、S24において、車速対応ゲインGVがプレビューゲインGとされる。第1,第2設定スリップ率は、旋回半径の推定精度が低くなる大きさであり、予め設定された固定値である。判定がNOである場合には、S26において、旋回時ゲインGRが決定され、S27において、車速対応ゲインGV、旋回時ゲインGRの相乗平均がプレビューゲインGとして決定される。
【0050】
S21の車速対応ゲインの決定は、図19のフローチャートに従って実行される。
S51において、車速Vが取得され、S52において、車速VとホイールベースLWとから余裕時間TPが取得され、S53において、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上であるか否かが判定される。制御遅れ時間TD以上である場合には、S54において、車速対応ゲインGVが1とされる。
それに対して、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合には、さらに、効果有り時間TLより短いか否かが判定される。効果有り時間TLより短い場合には、S56において、車速対応ゲインGVが0とされる。余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短いが、効果有り時間TL以上である場合には、S57においてテーブル値に決定される。余裕時間TPの減少に伴って車速対応ゲインGVが小さくなる値に決定されるのである。車速対応ゲインGVは、左後輪12RLに対しても、右後輪12RRに対しても同じ大きさとなる。
【0051】
S25の旋回時ゲインの決定は、図20のフローチャートに従って実行される。
S71において、前輪側(点PF)の旋回半径、後輪側(点PR)の旋回半径が求められ、S72において旋回半径差(軌道差)が取得される。制御対象輪である左後輪12RLが旋回外輪である場合にはΔRoutが取得され、左後輪12RLが旋回内輪である場合にはΔRinが取得される。そして、S73において、ラップ率Lapが求められる。
S74〜78において、ラップ率Lapに基づいて旋回時ゲインが決定される。S74において、ラップ率Lapが設定値Lapth以上であるか否かが判定される。設定値Lapth以上である場合には、S75において、旋回時ゲインGRが1とされる。ラップ率Lapが設定値Lapthより小さい場合には、0より大きいか否かが判定され、0より大きい場合には、S77において、テーブル値が旋回時ゲインGRとされ、0以下である場合には、S78において、0とされる。
【0052】
なお、ラップ率Lapは、左後輪12RL、右後輪12RRの各々について取得し(旋回内輪、旋回外輪の各々について取得し)、その取得されたラップ率Lapを用いて旋回時ゲインGRを取得しても、旋回内輪のラップ率Lapinと旋回外輪のラップ率Lapoutとの平均値を用いて旋回ゲインGRを取得してもよい。前者の場合には、左右後輪についてそれぞれプレビューゲインの値が異なることもある。
【0053】
このように、本実施例においては、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rについてプレビュー制御が行われるため、アクチュエータ124Rの制御遅れが大きくても、遅れを0または小さくすることができ、後輪12RL、RRの上下方向の振動を良好に抑制することができる。
また、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合や、前輪12Fが通った路面と後輪12Rが通る路面との重なりが少ない場合にプレビュー制御が行われると、かえって、乗り心地が悪くなるおそれがあるが、プレビューゲインGが車速や旋回状態に基づいて1より小さい値に決定されるため、プレビュー制御が行われることにより、乗り心地が悪くなることを回避し、後輪12RL、RRの上下方向の振動を良好に抑制することができる。
さらに、通常制御は、アクチュエータ124の制御遅れ時間TDが1/8位相に相当する振動より低周波の振動が生じた場合に行われ、高周波の振動が生じた場合には行われないが、プレビュー制御は、アクチュエータ124の応答性で決まる制御可能な周波数以下の振動であれば、行われる。その結果、アクチュエータ124に対しては、プレビュー制御が行われるようにすれば、より高周波数の振動を抑制することが可能となる。
また、上下方向力発生装置24の作用状態においては、周波数の大きい振動等は、L字形バー122の弾性変形により吸収することが可能となる。
【0054】
以上のように、本実施例においては、ばね上加速度センサ196,車高センサ198,サスペンションECU168に含まれる上下方向力発生装置ECU170の図17のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラム、図21のフローチャートで表される通常制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により上下方向力制御装置が構成される。本実施例においては、上下方向力発生装置24は減衰力発生装置として機能し、上下方向力制御装置が減衰力制御部として機能する。減衰力制御部は、ばね下運動依拠上下方向力制御部でもある。
また、上下方向力制御装置のうち、図17のプレビュー制御プログラムのS4を記憶する部分、実行する部分、図12(b)のマップで表されるテーブル、図16(b)のマップで表されるテーブルを記憶する部分等によりゲイン決定部が構成される。そのうちの、図12(b)のの実線あるいは破線で表されるテーブルを記憶する部分、図19のフローチャートのS56,57を記憶する部分、実行する部分等によりゲイン減少部が構成され、そのうちの、図12(b)テーブルを記憶する部分、図19のフローチャートのS56を記憶する部分、実行する部分等により請求項3に記載の0決定部が構成される。さらに、図16(b)のテーブルを記憶する部分、図18のフローチャートのS26を記憶する部分、実行する部分等により旋回時ゲイン決定部が構成される。なお、請求項4に記載の0決定部は、図12(b)の一点鎖線で表されるテーブルを記憶する部分、S57を記憶する部分、実行する部分等によって構成される。
【0055】
さらに、図20のフローチャートのS71〜73を記憶する部分、実行する部分等により軌跡対応重なり取得部が構成される。軌跡対応重なり取得部はラップ率取得部でもある。そのうちのS71を記憶する部分、実行する部分等により旋回半径取得部が構成され、図6(b)のテーブルを記憶する部分、図20のフローチャートのS77を記憶する部分、実行する部分等によりゲイン減少部が構成される。
【0056】
なお、車速対応ゲインGVを取得する際に、余裕時間TPを求めることは不可欠ではなく、車速Vに基づいて取得することができる。前述のように、車速とゲインとの関係を表すテーブルを作成することができるのである。
旋回時ゲインGRを取得する際も同様に、ラップ率を求めることは不可欠ではなく、重なり部の幅ΔWTや軌道差(旋回半径差)に基づいて取得することもできる。
また、上記実施例においては、旋回中において、車速対応ゲインGVと旋回時ゲインGRとの相乗平均が、プレビューゲインGとされたが、そのようにすることは不可欠ではない。旋回中には、旋回時ゲインGRがプレビューゲイン(GR→G)とされ、直進中には、車速対応ゲインGVがプレビューゲインGとされる(GV→G)ようにすることもできる。この場合には、S26のステップが不要となる。
さらに、通常制御、プレビュー制御の少なくとも一方において、減衰力FB*が、スカイフック理論に基づいて制御されるようにすることもできる。
また、目標減衰力FB*を、ばね上絶対速度VUに応じた値としたり、ばね上ばね下相対速度VSに応じた値としたりすることもできる。それらの場合には、ばね下絶対速度VLに基づく制御が行われる場合と、目標減速度FB*を取得する際の規則を変更することもできる。
FB*=−G・C・VU
FB*=−G・C・VS
【0057】
さらに、上記実施例においては、上下方向力発生装置24の制御により減衰力が加えられる場合について説明したが、ばね下部材46の変位XLに応じた弾性力(上下方向力)が加えられるようにすることもできる。
上下方向力の目標値(目標弾性力)FB*は、式
FB*=G・K・XL
に従って求められる。
ばね下部材46の変位(以下、ばね下変位と略称する)XLが基準位置より下方である場合には、目標弾性力FB*の向きも下方とされる。ばね上ばね下間の距離が大きくなると、コイルスプリング20の弾性力が小さくなる。そのコイルスプリング20の弾性力の減少分を、上下方向力発生装置24によって発生させることにより、ばね下部材46の変位に伴うばね上部材14の変位が抑制される。なお、電動モータ140の回転に伴うアーム部132の回動により、ばね上ばね下間の距離がばね下変位XLに応じた距離となる。
ばね下変位XLが基準位置より上方である場合には、目標弾性力FB*の向きは上方とされる。ばね上ばね下間の距離が小さくなると、コイルスプリング20の弾性力が増加するため、その増加分に応じた逆向きの力を、上下方向力発生装置24によって発生させて、ばね下部材46の上下方向の変位に伴うばね上部材の変位を抑制するのである。
【0058】
ばね下変位XLは、ばね下絶対速度VLを積分することによって求めたり、ばね上加速度GUを2回積分した値とばね上ばね下間のストロークHとから求めたりすることができる。KはL字形のバー122のばね定数であり、シャフト部130の剪断係数、断面二次モーメント、アーム部132の曲げ剛性等に基づいて決まる固定値である。
この場合の一制御例を図25、26のフローチャートに基づいて説明する。上記実施例における場合と同じ実行(図17、21のフローチャートで表されるプログラムと同じ実行)が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。
左前輪12FLが制御対象輪である場合において、通常制御は、図26のフローチャートで表される通常制御プログラムの実行に従って行われる。S103bにおいて、左後輪12RLのばね上加速度GUと車高Hから、上述のように、左後輪12RLのばね下変位XLが取得され、S104bにおいて、目標弾性力FB*が求められ、それに応じて目標回転角度θM*が求められ、供給電流iが求められる。そして、S105、106において、左前輪12FLのばね下部材46の実際の振動の周波数fが取得され、制御遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。周波数は、ばね下絶対速度に基づいて取得しても、ばね下変位に基づいて取得してもよい。実際の振動の周波数fが、制御遅れ対応周波数fD以下である場合には、S107において、供給電流i、目標弾性力FB*に基づいて決まる制御指令値が上記実施例における場合と同様に出力される。
【0059】
制御対象輪が左後輪12RLである場合において、プレビュー制御は、図25のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムの実行に従って行われる。S3bにおいて、左前輪12FLのばね上加速度センサ196による検出値と、車高Hとからばね下変位XLが取得される。そして、プレビューゲインが0より大きい場合には、S6bにおいて、ばね下変位XL、弾性係数K、プレビューゲインGから、目標弾性力(上下方向力の目標値)FB*が取得され、目標弾性力FB*が得られるように、目標回転角度θM*が求められ、供給電流iが求められる。そして、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合には、待ち時間TQの経過後に、制御指令値が後輪12FRの上下方向力発生装置24のインバータ178に出力され、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合には、制御指令値が直ちに出力される。
プレビューゲインが0である場合には、S11bにおいて、通常制御が行われる。
このように、プレビュー制御は、減衰力の制御に限らず、弾性力の制御にも適用することができる。
本実施例においては、上下方向力発生装置が弾性力発生装置として機能し、上下方向力制御装置が弾性力制御部として機能する。
【0060】
なお、目標弾性力FB*は、ばね上部材14の変位XUに応じた値としたり、ばね上ばね下の相対変位(車高)XSに応じた値としたりすることもでき、上記実施例における場合と同様のプレビュー制御が行われるようにすることができる。
FB*=G・K・XU
FB*=G・K・XS
【0061】
また、上記実施例においては、上下方向力発生装置24を制御することにより上下方向力が制御されるようにされていたが、ショックアブソーバ22の制御によって減衰力の制御が行われるようにすることもできる。本実施例においては、スカイフック理論に基づいて減衰力の制御が行われる場合について説明する。
その場合の制御例を図27,28のフローチャートに基づいて説明する。本実施例においては、上記実施例(図17,21のフローチャート)における場合と同じ実行が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。また、本実施例においては、ばね上部材14の振動の周波数が制御遅れ対応周波数以下であるか否かが判定される。
図28のフローチャートで表される通常制御において、制御対象輪が左前輪12FLである場合には、左前輪12FLのばね上加速度GU,ばね上ばね下間の距離Hが取得され、S105bにおいて、ばね上部材14の周波数fが取得され、S106bにおいて、取得された周波数fが制御遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。周波数fは、ばね上加速度に基づいて取得されるようにしたり、ばね上絶対速度に基づいて取得されるようにしたりすることができる。例えば、上記実施例における場合と同様に、絶対速度が0である場合に振幅の絶対値が最大の位置にあることを利用して取得したり、フーリエ変換を利用して取得したりすること等ができる。そして、制御遅れ対応周波数fD以下である場合には、S106bの判定がYESとなり、S103dにおいて、ばね上絶対速度VU、ばね上ばね下の相対速度VSが取得される。そして、S104d〜104fにおいて、目標減衰係数C*が求められる。S104dにおいて、ばね上絶対速度VUと、ばね上ばね下間の相対速度VSとの積の値が正であるか否かが判定される。正である場合(VU・VS>0)には、S104eにおいて、目標減衰係数C*が(G0・C・VU/VS)とされ、積の値が負である場合(VU・VS<0)には、S104fにおいて、目標減衰係数C*が小さい値CMINとされる。G0は通常制御のゲインであり、Cは定数である。そして、S104gにおいて、目標減衰係数C*が実現される供給電流iが求められ、S107において、制御指令値が出力される。
本実施例においては、減衰係数の増加・減少とは関係なく、電動モータ90に電流が供給される。そのため、供給電流iが制御指令値に対応し、制御指令値iがインバータ222に出力される。電動モータ90における消費電力は小さいからである。
【0062】
図27のフローチャートで表されるプレビュー制御において、制御対象輪が左後輪12RLである場合には、左前輪12FLのばね上加速度GU、ばね上ばね下ストロークHが取得され、S3dにおいて、ばね上絶対速度VU、相対速度VSが取得される。そして、S4において、上記実施例における場合と同様にプレビューゲインが決定される。決定されたプレビューゲインGが0でない場合には、上述の場合と同様に、S6d〜6hにおいて、目標減衰係数が決定される。ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値の符号が正である場合には、目標減衰係数がC*=G・C・VU/VSとされ、負である場合には、CMINとされるのである。そして、S6gにおいて、目標減衰係数C*に基づいて供給電流iが求められる。以下、上記実施例における場合と同様に、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合には、制御指令値iが待ち時間TQの経過後に出力され、制御遅れ時間TDより短い場合には、直ちに出力される。
それに対して、プレビューゲインGが0である場合には、S11dにおいて、図28のフローチャートに従って左後輪12RLの上下方向の挙動に基づいて左後輪12RLの減衰特性制御装置56が制御される。目標減衰特性C*は、左後輪12RLのばね上絶対速度VUとばね上ばね下相対速度VSとの積の値で決まる大きさに決定される。
【0063】
本実施例と上記実施例とを比較(制御対象が減衰特性制御装置56である場合と上下方向力発生装置24である場合とを比較)すると、制御対象が減衰特性制御装置56である場合の方が、制御遅れ時間が短く、制御可能な周波数が高い。そのため、制御遅れ対応周波数fDが大きく(より高周波側の値)なり、制御遅れ時間TDが短くなり、制御効果有り時間TLが短くなる。
したがって、上下方向力発生装置24の制御における場合より高周波数の振動が生じても、通常制御が行われることになる。通常制御において、効果的にサスペンション制御が行われる周波数領域が広くなるのである(図28のフローチャートのS106bの判定がYESとなる場合が多くなる)。また、上下方向力発生装置24の制御における場合より車速が大きくても、プレビューゲインが1とされる。プレビュー制御が有効に行われる車速の範囲が広くなるのである。さらに、上記実施例における場合より車速が大きくても、プレビュー制御が行われる(図27のフローチャートのS5の判定がYESとなる場合が少なくなる)。
【0064】
また、車速Vが大きい場合には、上下方向力発生装置24についてプレビュー制御が行われなくても、ショックアブソーバ22についてはプレビュー制御が行われることになり、ショックアブソーバ22の制御により、後輪12Rの上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
同様に、高周波数の振動が生じて、上下方向力発生装置24の制御が行われなくてもショックアブソーバ22の制御が行われるのであり、高周波数の振動が生じた場合においても、上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0065】
なお、ショックアブソーバの制御は、図29に概念的に示すように、車輪12を保持するばね下部材280とばね上部材282との間に、コイルスプリング284と、ショックアブソーバ286とが並列に設けられ、上下方向力発生装置24が設けられていないサスペンションに適用することができる。ショックアブソーバ286の減衰特性制御装置288は、サスペンション制御ユニット290の指令に基づいて上記実施例における場合と同様に制御される。
【0066】
また、本発明は、図30に示すサスペンションに適用することもできる。本実施例においては、ばね下部材300と、ばね上部材302との間に、コイルスプリング310と、液圧シリンダ装置312とが並列に設けられる。液圧シリンダ装置312は、液圧シリンダ314、ポンプ316、電動モータ318等を含む。液圧シリンダ314は、ハウジング320とハウジング320に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン322とを含み、ピストン322のピストンロッド324がばね下部材300に揺動可能に連結され、ハウジング320がばね上部材302に揺動可能に連結される。ハウジング320の内側のピストン322によって仕切られた2つの液室330,332の間には、ポンプ316が接続され、ポンプ316によって、2つの液室330,332の一方から作動液を汲み上げて他方に供給したり、他方から作動液を汲み上げて一方に供給したりすることができる。それによって、液室330,332の液圧およびピストン322のストロークが制御される。なお、液圧シリンダ314と並列に作動液補償装置340が設けられる。
【0067】
電動モータ318はコンピュータを主体とするサスペンションECU350からの指令に基づいて制御される。サスペンションECU350は、入出力部352,記憶部354,実行部356等を有するコンピュータを主体とするコントローラを含み、入出力部352には、左右前後輪12FL、FR、RL、RRに対応してそれぞれ設けられた車高センサ(上下ストロークセンサ)360,ばね上加速度センサ362等が接続されるとともに各輪毎に対応して設けられたポンプモータ318が図示しない駆動回路を介して接続される。
記憶部354には、複数のプログラム、テーブル等が記憶される。
【0068】
本実施例においては、液圧シリンダ装置312の電動モータ318の制御により、ばね下絶対速度に応じた弾性力と、スカイフック理論に基づく減衰力との和の上下方向力が発生させられる。上下方向力は、液圧シリンダ装置312の液圧に対応する。
また、上記実施例における場合と同様に、車輪に加えられる荷重は、スプリング310と液圧シリンダ装置312とが受けるために、基準位置からのストロークと液圧シリンダ装置312の液圧との間には一定の関係がある。そのため、上下方向力の目標値が決定されれば、それに応じたストロークが実現されるように、ポンプモータ318が作動させられる。本実施例においては、上下方向力の目標値FB*は、ばね下部材300の変位に応じた弾性力と、ばね上部材302の絶対速度に応じた減衰力との和とされる。
【0069】
その場合の制御例を図31,32のフローチャートに基づいて説明する。本実施例においては、上記実施例(図17,21のフローチャート、図27,28のフローチャート)における場合と同じ実行が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。
制御対象輪が左後輪12RLである場合には、図31のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムが実行される。左前輪12FLのばね上加速度GU、ばね上ばね下ストロークHが取得され、S3eにおいて、ばね上絶対速度VU、相対速度VS、ばね下絶対速度VLが取得される。そして、プレビューゲインGが上記実施例における場合と同様に決定され、プレビューゲインGが0でない場合には、S6dにおいて、ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値の符号が正であるか負であるかが判定され、正である場合には、S6hにおいて、減衰係数CがCMID(予め定められた値)とされ、負である場合には、S6fにおいて、減衰係数CがCMIN(予め定められた値)とされる。そして、S6iにおいて、式
FB*=(G・K・XL)+(−G・C・VU)
に従って上下方向力の目標値FB*が決定され、上下方向力の目標値FB*に応じて電動モータ318RLへの供給電流iが決定される。上式において、Kはスプリング310のばね定数Kである。
以下、上記実施例における場合と同様に、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合には、制御指令値iが待ち時間TQの経過後に出力され、制御遅れ時間TDより短い場合には、直ちに出力される。
本実施例においては、電動モータ318における消費電力が大きいため、上下方向力発生装置24の制御における場合と同様に、上下方向力の目標値FB*の絶対値が保持または減少させられる場合には、電動モータ318には電流が供給されないようにすることが望ましい。
【0070】
それに対して、プレビューゲインGが0である場合には、S11eにおいて、左後輪12RLの上下方向の挙動に基づいて左後輪12RLの電動モータ318RLが制御されるのであり、図32のフローチャートに従って通常制御が行われる。
S103eにおいて、ばね上加速度、車高に基づいてばね下変位XL、ばね上絶対速度VUが取得され、S104d、104f、104hにおいて、同様に、減衰係数が決定され、S104iにおいて上下方向力の目標値FB*が、式、
FB*=(−G0・K・XL)+(−G0・C・VU)
に従って決定され、目標値FB*で決まる供給電流iが決定される。G0は、通常制御のゲインであり、固定値である。
そして、S105c,106cにおいて、左後輪12RLのばね下絶対速度VLに基づいて取得された周波数と、ばね上絶対速度VUに基づいて取得された周波数との大きい方が、制御遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。制御遅れ対応周波数以下である場合には、制御指令値が直ちに出力される。
なお、S105c,106cにおいて、周波数は、ばね下絶対速度に基づいて取得しても、ばね上絶対速度に基づいて取得してもよい。
【0071】
このように、本実施例においては、ばね下変位に応じた弾性力とばね上絶対速度に応じた減衰力との両方合わせた大きさの上下方向力が加えられる。ばね下の振動の抑制制御とスカイフック制御との両方を実現することが可能となり、車輪12の上下方向の振動を良好に抑制することができ、乗り心地の向上を図ることができる。
また、後輪12Rの液圧シリンダ装置312Rにおいては、プレビュー制御が行われるため、制御遅れを小さく、あるいは、0とすることができ、後輪12Rの上下方向の振動を良好に抑制することができる。
【0072】
なお、上下方向力の目標値FB*は、上述の弾性力と減衰力との和とする必要は必ずしもなく、下式のいずれか一方で決まる大きさとすることもできる。
FB*=G・K・XL
FB*=−G・C・VU
また、その他、目標値FB*を、式
FB*=−G・C・VL
FB*=G・K・XU
FB*=−G・C・VS
に従って決まる値等とすることもでき、これらの2つ以上の和の値を目標値とすることもできる。
【0073】
さらに、本発明は、図33に示すサスペンションの制御にも適用することができる。
本実施例においては、上下方向力発生装置370がL字形バーの代わりに直線状のロッド372を含む。直線状のロッド372の一端部がアクチュエータ374に連結され、他端部がリンク部材378を介してばね下部材380に連結される。アクチュエータ374はばね上部材としての車体382に取り付けられており、ばね上部材382とばね下部材380との間に、直線状のロッド372が配設されることになる。ばね上部材382とばね下部材380との間には、コイルスプリング384が設けられ、コイルスプリング384と弾性部材としての直線状のロッド372とが並列に設けられることになる。
アクチュエータ374は、電動モータと減速機とを含み、直線状のロッド372が、減速機を介して電動モータの出力軸に連結され、電動モータの駆動によりモータトルクTMが加えられる。また、直線状のロッド372において、モータトルクTMと曲げモーメントL・FB*とが等しくなるため、反力FB*は、式
FB*=TM/L
で求められる大きさとなる。反力FB*は、上下方向力発生装置370によって、ばね下部材380に加えられる力FB*の反力である。
アクチュエータ374は、インバータ390を介して、コンピュータを主体とするコントローラ392に接続される。コントローラ392には、上記実施例における場合と同様に、ばね上加速度センサ、車高センサ、舵角センサ、操舵角センサ、ブレーキECU等が接続されており、コントローラ392の指令に基づいてインバータ390が制御され、電動モータ374の出力トルクが制御される。本実施例においては、コントローラ392とインバータ390とによって、サスペンション制御ユニットが構成される。
上下方向力の目標値FB*は、上記各実施例における場合と同様に適宜決定することができ、電動モータ374のトルクTMを制御することにより、上下方向力を制御することができる。
【0074】
なお、上記各実施例においては、前輪側部分の上下方向の挙動を検出するセンサ196F,198Fによる検出値に基づいて後輪12Rのサスペンションに対してプレビュー制御が行われる場合について説明したが、本発明は、図34に示すように、フロントバンパ400に設けられた路面センサ402による検出値に基づいて前輪12Fのサスペンション、後輪12Rのサスペンションに対してプレビュー制御が行われる場合にも同様に適用することができる。
路面センサ402は、例えば、超音波により、路面の凹凸を検出するものとすることができる。送信した超音波を受信し、その超音波を受信するまでの間の時間(路面によって反射して戻るまでの時間)に基づいて路面までの距離を取得し、路面の凹凸を取得する。路面センサ402は、図35に示すように、バンパ400の右前輪12FRの前方と、左前輪12FLの前方との両方にそれぞれ設けられる(402R、402L)。路面センサ402R、Lによって検出される路面の部分(路面の検出対象部)は、車両の停止中において、路面センサ402R、Lが設けられた位置のほぼ真下に対応する部分である。
したがって、プレビューゲインを取得する際には、車両の路面センサ402が設けられた位置から制御対象輪までの距離{制御対象輪が前輪である場合には、距離LP、制御対象輪が後輪である場合には距離(LP+LW)}と車両の走行速度とで決まる余裕時間やその路面の検出対象部と制御対象輪が通る路面との重なりが問題となる。
【0075】
制御対象輪が前輪12Fである場合において、路面センサ402R、Lと左右前輪12FL、FRとの間の前後方向の距離は、車両の直進状態において、一対の路面センサ402を通る線(車両の幅方向に延びる線)と左右前輪12FL、FRの車軸の中心線が通る線との間の前後方向の距離LPとなる。したがって、この距離LPを車速で割った値が余裕時間TPである。
TP=LP/V
制御対象輪が後輪である場合においては、上述の距離LPとホイールベールLWとの和が、路面センサ402R、Lと左右後輪12RL、RRとの間の前後方向の距離に対応する。その結果、余裕時間TPは、式
TP=(LP+LW)/V
で表される時間となる。
以下、上記実施例における場合と同様に、車速対応ゲインGVを取得することができる。
【0076】
前輪側の旋回半径、後輪側の旋回半径および旋回内側、旋回外側の前輪、後輪の旋回半径は、上記実施例における場合と同様に求めることができる。
また、検出対象部の軌跡は、路面センサ402R、Lの軌跡と同じであると考えることができる。路面センサ402の軌跡は、路面センサ402R、L各々における予め定められた点の軌跡として取得したり、路面センサ402R、Lの軌跡の中間の軌跡として取得したり、車両の前部の中心点Pfvの軌跡として取得したりすることもできる。中心点Pfvは、車両が水平な路面に停止している場合において、重心Gを通る前後方向に延びる線を含む鉛直面と一対の路面センサ402R、Lを通る線との交点Pfvである。軌跡を路面上の点の集合と考えた場合には、中心点Pfvの路面への投影点の集合を軌跡となる。中心点Pfvの軌跡(旋回半径)は、センサ側の軌跡(旋回半径)と称する。
センサ側の旋回半径は、図35に示すように、式
Rfv=(LP+LW)/sinδW・10-3
に従って求めることができる。
距離LPは旋回半径Rfvに対して小さいため、中心角(Pfv−0−PR)は、操舵輪の舵角の絶対値δWと同じであるとみなすことができる。
【0077】
制御対象輪が前輪12Fである場合において、旋回内側における路面センサ402と前輪との旋回半径の差(軌道差)は、式
ΔRfin =(Rfv−Ts/2)−(Rf−Tf/2)=Rfv−Rf
に、従って求めることができ、旋回外側における路面センサ402と前輪との旋回半径の差は、式
ΔRfout =(Rfv+Ts/2)−(Rf+Tf/2)=Rfv−Rf
に従って求めることができる。Tsは一対の路面センサ402の間隔であるが、本実施例においては、前輪のホイールトレッドTfと等しい。
路面センサ402による検出対象部が直径Dの円で囲まれた部分である場合には、図36に示すように、重なり部分の幅方向の長さΔWTは、式
ΔWT=(Rf+WT/2)−(Rfv−D/2)=(WT/2+D/2)−ΔR・・・(7)
に従って求めることができ、ラップ率Lapは、式
Lap=ΔWT/WT
に従って求めることができる。
【0078】
制御対象輪が後輪である場合において、旋回内側における路面センサ402と後輪との旋回半径の差、旋回外側における路面センサ402と後輪との旋回半径の差は、それぞれ、式
ΔRrin =(Rfv−Ts/2)−(Rr−Tr/2)=Rfv−{Rr+(Ts−Tr)/2}
ΔRrout =(Rfv+Ts/2)−(Rr+Tr/2)=Rfv−{Rr−(Ts−Tr)/2}
で表すことができる。
重なり部分の幅方向の長さΔWTは、式
ΔWT=(Rr+WT/2)−(Rfv−D/2)=(WT/2+D/2)−ΔR・・・(8)
に従って求めることができ、ラップ率Lapは、式
Lap=ΔWT/WT
に従って求めることができる。
以下、上記実施例における場合と同様に、ラップ率Lapに基づいて旋回時ゲインGRが取得されるのであり、プレビューゲインGが取得される。
【0079】
それに対して、検出対象部の領域が非常に小さく、殆ど「点」と見なし得る場合には、(7)式、(8)式において直径Dを0とすればよい。
その場合には、(7)式、(8)式から、軌道差ΔRがタイヤ幅の1/2(WT/2)より大きい場合には、重なりが存在せず、タイヤ幅の1/2以下である場合には、重なりが存在することがわかる。また、長さΔWTは、検出対象部のタイヤが通る路面に対する相対位置(タイヤが通る路面のタイヤの外周側の縁からの長さ)を表す。長さΔWTがタイヤの幅の1/2(WT/2)である場合(ΔWT=WT/2)には、旋回半径の差ΔR=0であり、タイヤの中央部が検出対象部を通る。長さΔWTが0に近い場合(ΔWT≒0)には、旋回半径の差ΔR=WT/2であり、タイヤの外周側の縁部が検出対象部を通る。長さΔWTがタイヤの幅WTに近い場合(ΔWT≒WT)には、旋回半径の差ΔR=−WT/2であり、タイヤの内周側の縁部が検出対象部を通ることがわかる。換言すれば、タイヤの中央部が検出対象部を通る場合は縁部が通る場合より、その路面センサ402によって検出された検出対象部周辺の路面の凹凸との重なり部が多いと考えることができる。そのように考えれば、上述の長さΔWTをタイヤ幅WTで割ることによって得られるラップ率を、上記実施例における場合と同様に採用することが可能となり、ラップ率が大きい場合は小さい場合よりゲインを大きくすることは妥当なことである。
【0080】
これらの各値に基づいて、プレビューゲインが上記実施例における場合と同様に求められる。また、路面センサ402によって検出された路面の凹凸は、制御対象輪のばね下部材の変位であると考えることができる。それらに基づいて、前輪12Fの上下方向力発生装置24F、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rがそれぞれ制御される。それによって、後輪12Rのみならず、前輪12Fにおいてもプレビュー制御が可能となるため、制御遅れを小さくして、前輪12Fの上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0081】
なお、上記実施例においては、路面センサ402がほぼ鉛直下方の路面の凹凸を検出するものであったが、前方、後方の路面の凹凸を検出するものとすることができる。その場合には、その制御対象路面の部分と制御対象輪の車軸の中心線との間の距離と、車速とによって余裕時間が取得されることになる。
また、モデルを考え、路面の凹凸(ばね下変位)に基づいてばね上変位XU、ばね上絶対速度VU、ばね上ばね下相対速度VS等を取得して、それに基づいてプレビュー制御が行われるようにすることもできる。
さらに、本実施例は、図29,図30,図33に記載のサスペンションと組み合わせて適用することもできる。
【0082】
以上、複数の態様について記載したが、サスペンションの構造、サスペンション制御の内容は上記実施例には限らない等、本発明は、前記に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施例であるサスペンション制御装置を備えた車両全体を概念的に示す図である。
【図2】上記サスペンション制御装置を含むサスペンションシステム全体を概念的に示す図である。
【図3】上記サスペンションシステムに含まれる上下方向力発生装置の側面図である。
【図4】上記サスペンションシステムに含まれるショックアブソーバの断面図である。
【図5】上記ショックアブソーバの詳細な断面図である。
【図6】上記サスペンションに含まれる上下方向力発生装置の平面図である。
【図7】上記上下方向力発生装置のアクチュエータの断面図である。
【図8】上記上下方向力発生装置の作動を表す図である。
【図9】上記アクチュエータの電動モータを制御するインバータの回路図である。
【図10】上記インバータの作動状態を示す図である。
【図11】上記サスペンションシステムに含まれるサスペンション制御ユニットの周辺を概念的に示す回路図である。
【図12】(a)車速と余裕時間との関係を示す図である。(b)上記制御ユニットの記憶部に記憶された車速対応プレビューゲイン決定テーブルを概念的に示すマップである。(c)余裕時間、制御遅れ時間、効果有り時間の関係を概念的に示す図である。
【図13】(a)車両の旋回中における車輪の軌道を示す図である。(b)前輪が通った路面と後輪が通ると予想される路面との重なりを表す図である。
【図14】車両の旋回中の各輪の旋回半径と前輪舵角との関係を示す図である。
【図15】前輪、後輪の旋回半径と軌道差との関係を示す図である。
【図16】(a)前輪舵角の絶対値とラップ率との関係を示す図である。(b)上記制御ユニットの記憶部に記憶された旋回時プレビューゲイン決定テーブルを概念的に示すマップである。
【図17】上記サスペンションシステムに含まれる上下方向力発生装置制御ユニットの記憶部に記憶されたプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図18】上記プレビュー制御プログラムの一部を示すフローチャートである(プレビューゲイン決定)。
【図19】上記プレビュー制御プログラムの別の一部を示すフローチャートである(車速対応ゲイン決定)。
【図20】上記プレビュー制御プログラムのさらに別の一部を示すフローチャートである(旋回時ゲイン決定)。
【図21】上記上下方向力発生装置の記憶部に記憶された通常制御プログラムを表すフローチャートである。なお、プレビュー制御プログラムの一部でもある。
【図22】上記通常制御プログラムの一部を示すフローチャートである(制御指令値の出力)。
【図23】上記サスペンションシステムにおける制御の一例を示す図である。
【図24】別の、旋回半径と前輪舵角との関係を示す図である。
【図25】上記上下方向力発生装置制御ユニットの記憶部に記憶された別のプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図26】上記上下方向力発生装置の記憶部に記憶された別の通常制御プログラムを表すフローチャートである。
【図27】上記サスペンションシステムに含まれるアブソーバ制御ユニットの記憶部に記憶されたプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図28】上記アブソーバ制御ユニットの記憶部に記憶された通常制御プログラムを表すフローチャートである。
【図29】上記サスペンションシステムに含まれる別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【図30】上記サスペンションシステムに含まれるさらに別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【図31】上記サスペンションシステムに含まれるサスペンション制御ユニットの記憶部に記憶されたさらに別のプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図32】上記記憶部に記憶されたさらに別の通常制御プログラムを表すフローチャートである。
【図33】上記サスペンションシステムに含まれる別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【図34】本発明の別の一実施例であるサスペンション制御装置を含む車両全体を概念的に示す図である。
【図35】上記車両の旋回半径、前輪舵角、ホイールベースの間の関係を示す図である。
【図36】(a)車両の旋回中における検出対象部の軌跡、車輪の軌跡を示す図である。(b)検出対象部(路面の部分)の軌跡と制御対象輪が通ると予想される路面との重なりを表す図である。
【符号の説明】
【0084】
12:車輪 14:車体 20:コイルスプリング 22:ショックアブソーバ 24:上下方向力発生装置 46:第2ロアアーム 56:減衰特性制御装置 90:電動モータ 122:L字形バー 124:アクチュエータ 130:シャフト部 132:アーム部 140:電動モータ 168:サスペンションECU 170:上下方向力発生装置ECU 172ショックアブソーバECU 178:インバータ 222:インバータ 196:ばね上加速度センサ 198:車高センサ 200:舵角センサ 284:コイルスプリング 286:ショックアブソーバ 288:減衰特性制御装置 312:液圧シリンダ装置 316:ポンプ 318;電動モータ 350:サスペンションECU 360:ストロークセンサ 362:ばね上加速度センサ 370:上下方向力発生装置 372:直線状のロッド 374:アクチュエータ 390:インバータ 392:サスペンションECU 402:路面センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションの、いわゆるプレビュー制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレビュー制御が行われるサスペンション制御装置の例が特許文献1〜4に記載されている。
特許文献1に記載のサスペンション制御装置においては、車両の前輪より前方に路面センサが設けられ、その路面センサによる検出値に基づいて前輪、後輪のショックアブソーバの減衰特性が制御される。制御指令は、(a)路面センサが設けられた位置と制御対象輪との間の距離と(b)車両の走行速度と(c)制御遅れ時間とで決まる遅延時間が経過した後に出力される。
特許文献2に記載のサスペンション制御装置においては、前輪について、上下挙動を検出する前輪上下挙動センサが設けられ、その前輪上下挙動センサによる検出値に基づいて後輪のショックアブソーバの減衰特性が制御される。後輪のショックアブソーバの減衰特性を制御する際の制御信号が、前輪上下挙動センサによる検出値に基づく制御信号と、その信号の位相を遅らせて得られた制御信号(プレビュー制御信号)との両方に基づいて作成されるのであるが、車両の走行速度が所定値より小さい場合には位相を遅らせた制御信号の比率が高く、所定値より大きくなると、位相を遅らせた制御信号の比率が走行速度の増加に伴って小さくされる。その結果、後輪の実際の上下挙動と同じ位相で変化する制御信号を作成することができ、後輪の上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。後輪の上下挙動は、前輪の実際の上下挙動が車速等で決まる時間だけ遅れた場合と同じ位相で生じるのではなく、車速等で決まる時間だけ遅らせた場合より進んだ位相で生じることが知られている。車体は剛体であるため、前輪側の上下挙動の影響が後輪の上下挙動に及ぶからである。一方、位相の進み量は車速が大きい場合は小さい場合より小さくなることが知られている。その結果、車速が大きい場合に車速が小さい場合より位相を遅らせた制御信号の比率を小さくすれば後輪の実際の上下挙動に近い位相で変化する制御信号を得ることができる。
特許文献3に記載のサスペンション制御装置においては、前輪側に設けられたばね上加速度センサによる検出値に基づいて後輪の制御信号が作成される。この場合に、ばね上加速度センサによる検出値をフィルタ処理して制御信号が作成されるのであるが、車両の走行速度に基づいて異なる位相特性のフィルタが使用される。その結果、車速の大小に関係なく、制御信号の位相を後輪の実際の上下挙動の位相に近づけることができる。
特許文献4に記載のサスペンション制御装置においては、プレビュートータルゲインが、車両の前後加速度、横加速度、走行速度で決まる。高速走行により制御応答遅れが生じる場合、旋回等により前後輪の走行軌跡が異なる場合等には、プレビューゲインを可変として、制御出力を下げるのである。
【特許文献1】特開平5−262118号公報
【特許文献2】特開平7−237419号公報
【特許文献3】特開平7−186660号公報
【特許文献4】特開平7−205629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、プレビュー制御が行われるサスペンション制御装置において、余裕時間が制御遅れで決まる設定時間より短い場合に、良好に上下方向の振動が抑制されるようにすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載のサスペンション制御装置は、車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むものとされる。
請求項12に記載のサスペンション制御装置は、前記車両の走行速度が、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と制御遅れ時間とで決まる第1設定速度より大きい場合に、前記第1設定速度以下の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むものとされる。
請求項1に記載のサスペンション制御装置において、車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションが制御されるのであり、いわゆる、プレビュー制御(予見制御と称することもできる)が行われる。プレビュー制御においては、制御対象輪のサスペンションについての制御指令値がセンサによる検出値に基づいて作成され、制御対象輪の実際の上下挙動がそのセンサによる検出値に応じた挙動となる時に、その制御指令値に応じた制御が実行されるように、すなわち、余裕時間から、その制御対象輪のサスペンション(例えば、減衰特性制御装置、上下方向力発生装置等、以下、制御対象装置と称することがある)の制御遅れ時間を引いた時間が待ち時間であり、検出時から待ち時間が経過した後に制御指令値が出力される。
しかし、車両の走行速度が非常に早い場合は、検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離と走行速度とで決まる余裕時間が非常に短くなり、制御指令値を出力すべき時点までに、制御指令値を出力することができない場合がある(例えば、出力すべき時点までに、制御指令値を作成することができない場合、検出値が得られない場合等がある)。この場合には、制御指令値に応じた制御が制御対象輪の実際の上下挙動に対して遅れて実行されることになるため、上下方向の振動を良好に抑制することができず、かえって、乗り心地が悪くなることがある。
そこで、本項に記載のサスペンション制御装置においては、余裕時間が第1設定時間より短い場合には、長い場合よりサスペンションの制御に使用されるゲインが小さくされる。その結果、プレビュー制御が行われることによって、乗り心地が悪くなることを回避することができる。本項に記載のサスペンション制御装置は、特に、制御遅れが大きいサスペンションを制御する場合に有効である。なお、ゲイン(サスペンションについてプレビュー制御が行われる場合に使用されるゲインであるため、以下、プレビューゲインと称することがある)は、後述するように、余裕時間の減少に伴って漸減させても、0としてもよい。
第1設定時間は、例えば、上述の待ち時間が0となる時間、換言すれば、出力すべき時点に制御指令値を出力可能な余裕時間の最小値とすることができる。第1設定時間は、制御遅れ時間と同じ時間としたり、制御遅れ時間より設定時間長い時間としたり、短い時間としたりすることができる。いずれにしても、第1設定時間は、制御遅れ時間が長い場合は短い場合より長くなる。
少なくとも1つのセンサは、路面の凹凸を検出する路面センサとしたり、制御対象輪が後輪である場合において、前輪側部分の上下挙動を検出するセンサとしたり、路面センサと前輪側部分(あるいは、路面センサが取り付けられた部分)の上下挙動を検出するセンサとの両方としたり、路面センサとその路面センサが取り付けられた部分の上下挙動を検出するセンサとの両方としたりすることができる。
センサが路面センサである場合には、検出対象部はそのセンサによって凹凸が検出される路面の部分である。その検出対象の路面の部分は、車両が停止状態にある場合において、そのセンサの取付け位置と車両の前後方向において同じ位置の部分である場合や、取付け位置より前方あるいは後方の位置の部分である場合がある。前者の場合には、センサの取り付け位置と制御対象輪(厳密にいえば、制御対象輪の車軸の中心線)との間の距離と車速とで余裕時間が決まり、後者の場合には、停止状態における検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離と車速とで余裕時間が決まる。路面センサが車両の前輪より前方に設けられた場合には、前輪を制御対象輪とすることもできる。また、路面センサは、車両の右側(検出対象部(路面)と右前輪、右後輪のタイヤとが車両の幅方向においてほぼ同じになる位置)と、左側(検出対象部と左前輪、左後輪のタイヤとが車両の幅方向においてほぼ同じになる位置)との両方に(左右一対)設けることが望ましい。さらに、1つの検出対象部(路面の同じ部分)の凹凸を検出するのに、2つ以上のセンサを設けることもできる。路面の一の部分の凹凸が2つ以上の路面センサによる検出値に基づいて取得されるようにすれば、1つの路面センサによる検出値に基づく場合より、凹凸の状態を、より精度よく検出することができる。
センサが前輪側部分の上下挙動を検出するセンサである場合には、検出対象部は前輪である。余裕時間が、前輪と後輪との間の距離(ホイールベース:左右前輪の車軸の中心線を通る線と、左右後輪の車軸の中心線を通る線との間の距離)と車速とで余裕時間が決まる。センサは、前輪のばね上部材の上下方向の挙動を検出するセンサ、ばね下部材の上下方向の挙動を検出するセンサ、ばね上ばね下間の上下方向の距離を検出するセンサの1つ以上とすることができる。前輪側部分の上下挙動を検出するセンサは、右前輪、左前輪の各々に設けることが望ましい。
なお、余裕時間が第1設定時間より短いことと、請求項12に記載のように、車両の走行速度が第1設定時間に対応する第1設定速度より早いこととは、互いに対応する。同じ型式の車両においては、センサによる検出対象部と制御対象輪との間の距離は予め定められた固定値となるため、走行速度と余裕時間とは1対1に対応し、走行速度が大きくなれば、余裕時間は短くなる関係が成立する。そのため、車両の走行速度が制御遅れ時間で決まる第1設定速度より大きい場合に第1設定速度以下の場合よりゲインが小さくされることと、余裕時間が第1設定時間より短い場合に第1設定時間以上の場合よりゲインが小さくされることとは、互いに対応することになる。
前述の特許文献2には、車両の走行速度が所定値以上の場合に、位相を遅らせた制御信号(プレビュー制御信号)の比率が小さくされることが記載されている。しかし、走行速度の所定値は、制御対象輪である後輪の上下挙動と制御信号とで位相を同じにするための速度であり、換言すれば、後輪の上下挙動を正確に推定可能な速度である。この所定値は、制御対象輪のサスペンションで決まる制御遅れ(制御指令値を出力してから実際に出力が出されるまでの間の時間)で決まる速度ではなく、制御遅れの大小とは関係なく決まる速度である。それに対して、本願請求項12に記載の第1設定速度、請求項1に記載の第1設定時間に対応する速度は、制御遅れが大きい場合は小さい場合より小さくなる速度である。このように、特許文献2に記載の所定値と本願請求項12に記載の第1設定速度、請求項1に記載の第1設定時間に対応する速度とは異なる速度である。また、特許文献2に記載の発明の課題は、制御信号の位相を後輪の実際の上下挙動の位相を同じにすること(後輪の実際の上下挙動を正確に推定可能とすること)であるのに対して、本願発明の課題は、車両の走行速度が大きくなった場合に、出力すべき時までに制御指令値を出力できなかった場合の問題を解決することであり、これらは異なる。
特許文献4には、高速走行時には、プレビューゲインを小さくすることが記載されている。しかし、プレビューゲインを、余裕時間が制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に第1設定時間以上の場合より小さくすることの記載も、走行速度が制御遅れ時間で決まる第1設定速度より大きい場合に第1設定速度以下である場合より小さくすることの記載もない。特許文献4には、プレビューゲインを決定する場合に、制御遅れ時間で決まるしきい値を設け、走行速度をしきい値より大きい場合と小さい場合とで分けて決定することを示唆する記載がないのである。
【特許請求可能な発明】
【0005】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0006】
(1)車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置(請求項1)。
(2)前記ゲイン決定部が、前記ゲインを前記余裕時間が前記第1設定時間以上である場合に予め定められた一定の値とする設定値決定部を含む(1)項に記載のサスペンション制御装置。
余裕時間が第1設定時間以上で、制御指令値を出力すべき時に出力することができる場合には、プレビュー制御により、良好に制御対象輪の上下方向の振動を抑制することができる。そのため、余裕時間が第1設定時間以上である場合に、ゲインを、例えば、1(最大値)とすることは妥当なことである。
余裕時間が第1設定時間より短い場合においては、余裕時間が長い場合は短い場合より、ゲインを小さい値とすることができる。その場合の具体的な態様については後述する。
(3)前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合に、前記ゲインを前記余裕時間が短くなるのに伴って減少する値とするゲイン漸減部を含む(1)項または(2)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項2)。
ゲインは、余裕時間が短くなるのに伴って連続的に小さくなる値としたり、段階的に小さくなる値としたりすることができる。連続的に小さくなる値とした場合には、直線的に小さくなる値としたり、曲線的に小さくなる値としたりすることができる。
(4)前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が、前記第1設定時間より短い第2設定時間以下である場合に、前記ゲインを0とする0決定部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項3)。
余裕時間が第1設定時間より短い場合には、制御指令値を直ちに出力しても、制御指令値に応じたサスペンション制御が、実際の制御対象輪の上下挙動に対して遅れて実行される。遅れの程度が大きい場合には、制御が行われても、上下方向の振動を良好に抑制することができないが、遅れの程度が小さい場合には、たとえ、遅れても、制振効果が得られる。そこで、本項に記載のサスペンション制御装置においては、サスペンション制御が遅れて行われても効果が得られる場合には、プレビュー制御が行われ、効果が得られない場合には、プレビュー制御が行われないようにされる。このことを考慮して、第2設定時間は、制御指令値を本来の出力すべき時までに出力できなくても、プレビュー制御による制振効果が得られる場合の余裕時間とされる。
一方、実車試験、あるいは、シミュレーションにより、サスペンション制御が、その上下方向の振動に対して1/8周期遅れても、制振効果が得られることが知られている。
このことに基づけば、制御指令値を直ちに出力すると、1/8周期遅れてサスペンション制御が行われる場合の余裕時間を第2設定時間とすることができる。余裕時間が第2設定時間以上である場合には、制御指令値に応じた制御は遅れるがプレビュー制御が実行され(プレビュー制御が有効であり)、余裕時間が第2設定時間より短い場合には、プレビュー制御が行われないことになる。なお、第2設定時間は、上述の時間より長い時間とすることもできる。
(5)前記ゲイン決定部が、前記ゲインを前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は0とする0決定部を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項4)。
本項に記載のサスペンション制御装置においては、余裕時間が第1設定時間より短い場合には、制御指令値に応じた制御が制御対象輪の振動に対して遅れるため、プレビュー制御が行われないようにされる。
(6)前記制御対象輪のサスペンションへの制御指令値を、前記余裕時間が前記第1設定時間以上の場合には、前記少なくとも1つのセンサによる検出値が取得された時点から、前記余裕時間から前記制御遅れ時間を引いた時間が経過した後に出力するプレビュー制御部を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項5)。
余裕時間から制御対象装置の制御遅れ時間を引いた待ち時間が経過した後に、制御指令値が出力されれば、それに応じてプレビュー制御が実行される時点と、制御対象輪について実際にセンサによる検出値に応じて上下挙動する時点とが一致するため、制御対象輪についての上下方向の振動を良好に抑制することができる。
(7)前記ゲイン決定部が、前記ゲインを、前記車両の操舵車輪の舵角の絶対値が小さい場合は大きい場合より小さい値に決定する旋回時決定部を含む(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
操舵車輪の舵角の絶対値が大きく、旋回半径が小さい場合には、前輪の軌跡と後輪の軌跡との差が大きく、前輪が通った路面と同じ路面を後輪が通らなかったり、前輪が通った路面と後輪が通る路面との重なりが少ないことがある。また、路面センサによって検出された路面の部分(検出対象部)を後輪が通らなかったり、検出対象部と後輪が通る路面との重なりが少ないことがある。これらの場合に、プレビュー制御が行われると、制御対象輪の上下方向の振動を良好に抑制することができなかったり、乗り心地が悪くなったりする。
そこで、本項に記載のサスペンション制御装置においては、舵角の絶対値が大きい場合は小さい場合よりゲインが小さくされるのであり、0とされることもある。その結果、プレビュー制御によって、乗り心地が悪くなることを回避し、制御対象輪の上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
なお、操舵車輪の舵角の絶対値が大きいこと、旋回半径が小さいこと、操舵部材の操舵量の絶対値が大きいこと(例えば、ステアリングホイールの操舵角の絶対値が大きいこと)、横加速度や横力の絶対値が大きいこと、ヨーレイトの絶対値が大きいことは、互いに対応することであり、ゲインを、これら旋回状態を表す物理量に基づいて決定することもできる。
(8)前記ゲイン決定部が、前記車両の直進状態において、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は長い場合より前記ゲインを小さい値に決定する余裕時間対応決定部と、前記車両の旋回状態において、前記ゲインを、前記車両の操舵車輪の舵角の絶対値が小さい場合は大きい場合より小さい値に決定する旋回時ゲイン決定部とを含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項6)。
車両の直進中においては、旋回時に生じるプレビュー制御の悪影響を考慮する必要性が低い。そのため、直進時には余裕時間に応じてゲインが決定される。それに対して、旋回時には、実施例に記載のように、旋回状態に基づいてゲインが決定されるが、旋回状態と余裕時間(または車速)との両方に基づいてゲインが決定されるようにすることもできる。
なお、操舵車輪の舵角の絶対値が直進しているとみなし得る設定値以下である場合を直進状態にあるとし、操舵車輪の舵角の絶対値が設定値より大きい場合を旋回状態にあるとすることができる。前述のように、操舵車輪の舵角、操舵部材の操舵量、横加速度、横力、ヨーレイト、旋回半径等のうちの1つ以上(旋回状態を表す物理量)に基づいて直進状態にあるか旋回状態にあるかを取得することもできる。
(9)前記制御対象輪のサスペンションが、その制御対象輪を保持するばね下部材とばね上部材との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、当該サスペンション制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値と前記ゲインとに基づいて、前記上下方向力発生装置を制御する上下方向力制御装置を含む(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項7)。
上下方向力発生装置は、ばね下部材とばね上部材との間に設けられ、上下方向の力を発生させるものである。上下方向の力とは、上下方向の成分を有する方向の力であり、車両の上下方向であっても、車両の上下方向に対して多少傾いた方向であってもよい。
上下方向力発生装置によって発生させられる上下方向力の向きは、ばね下部材の車体、車輪に対する連結部の構造、上下方向力発生装置とばね下部材との連結の状態等で決まる。ばね下部材が上下方向に回動可能に連結されており、前後方向、幅方向の移動(あるいは回動)が許容されていない場合には、発生させられる力は上下方向の力であると考えることができる。
上下方向力発生装置をセンサによる検出値とゲインとに基づいて制御すれば、制御対象輪の上下方向の振動を良好に抑制することができる。上下方向力は、後述するように、減衰力としたり、弾性力としたりすることができる。
(10)前記上下方向力発生装置が、減衰力を発生させる減衰力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の絶対速度と、前記制御対象輪を保持する前記ばね下部材の上下方向の絶対速度と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対速度とのうちの1つ以上の速度を推定するとともに、少なくとも、その推定した1つ以上の速度と前記ゲインとに基づいて決まる値を目標減衰力とする目標減衰力決定部と、前記減衰力発生装置を制御して、その目標減衰力決定部によって決定された目標減衰力を出力させる減衰力制御部とを含む(9)項に記載のサスペンション制御装置(請求項8)。
上下方向力発生装置の制御により減衰力が発生させられ、それによって上下方向の振動が抑制される。減衰力は、ばね上部材の上下方向の絶対速度に応じた大きさとしても、ばね上部材とばね下部材との相対速度に応じた大きさとしても、ばね下部材の絶対速度に応じた大きさとしてもよい。また、減衰力の大きさを決める際、あるいは、減衰係数を決める際には、これらのうちの2つ以上の速度が考慮されることもある。
また、上下方向力発生装置において発生させられる上下方向力は、これらの2つ以上の減衰力を含む大きさとすることができる。例えば、ばね上部材の絶対速度に応じた減衰力とばね下部材の絶対速度に応じた減衰力とを含む大きさに制御することができるのである。
センサによる検出値に基づいて、ばね上部材の絶対速度が取得される場合、ばね下部材の絶対速度が取得される場合、ばね上ばね下の相対速度が取得される場合等があるのであり、センサによる検出値と取得される速度とは同じであるとは限らない。
(11)前記上下方向力発生装置が、弾性力を発生させる弾性力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の変位と、前記制御対象輪を保持するばね下部材の上下方向の変位と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対変位とのうちの1つの変位を推定するとともに、少なくとも、その推定した1つの変位と前記ゲインとで決まる値を目標弾性力とする目標弾性力決定部と、前記弾性力発生装置を制御して、その目標弾性力決定部によって決定された目標弾性力を出力させる弾性力制御部とを含む(9)項または(10)項に記載のサスペンション制御装置(請求項9)。
上下方向力発生装置の制御により、弾性力が発生させられ、それによって、制御対象輪の上下方向の振動が抑制される。
また、上下方向力発生装置において発生させられる上下方向力は、これらの2つ以上の弾性力を含む大きさとすることができる。例えば、ばね上部材の変位に応じた弾性力とばね下部材の変位に応じた弾性力とを含む大きさに制御することができる。さらに、上下方向力が、減衰力と弾性力との和の大きさとなるように、制御することもできる。
(12)前記上下方向力発生装置が、前記ばね下部材と前記ばね上部材とのいずれか一方に一端部が連結され、他方に他端部が連結された弾性部材を含み、前記上下方向力制御装置が、前記弾性部材を復元力に抗して弾性変形させる駆動源を含み、前記弾性部材の弾性変形量を変化させて、前記上下方向力を制御する弾性変形量制御部を含む(9)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項10)。
(13)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とを含む概してL字形を成したバーであり、前記駆動源が、前記L字形のバーの第1バー部と第2バー部とのいずれか一方を、それの軸線回りに回転させる電動モータを含む(12)項に記載のサスペンション制御装置。
(14)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とのいずれか一方から成るロッドであり、前記駆動源が、前記ロッドに曲げモーメントを加える電動モータを含む(12)項または(13)に記載のサスペンション制御装置。
弾性部材は、上下方向から見た場合に、L字形を成した部材であっても、直線状に延びた部材であってもよい。換言すれば、上下方向に湾曲した形状であっても差し支えない。
(15)前記ばね下部材と前記ばね上部材との間に、前記上下方向力発生装置と並列に、その上下方向力発生装置に含まれる弾性部材とは別の弾性部材としてのサスペンションスプリングが設けられた(9)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
ばね下部材とばね上部材との間に、上下方向力発生装置の弾性部材と、その弾性部材とは別の弾性部材であるサスペンションスプリングとが設けられる。上下方向力発生装置に含まれる弾性部材は、前述のように、駆動源により弾性変形させられ、上下方向力が発生させられるが、サスペンションスプリングは、駆動源によって弾性変形させられるのではなく、車輪に加えられる荷重等により弾性変形させられる。
車輪に加えられる荷重は、サスペンションスプリングと弾性部材とが受ける。しかし、駆動源の非作動状態において、弾性部材が弾性変形していない状態においては、弾性部材には力が発生せず、荷重はサスペンションスプリングが受ける。この状態が上下方向力発生装置の駆動源の基準状態である。基準状態は、車輪に加えられる荷重で決まり、荷重が大きい場合は小さい場合よりばね上ばね下間の距離が短くなる。
基準状態から、例えば、駆動源の電動モータを一方向に回転させた場合には、ばね上部材とばね下部材との間の距離が大きくなる。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは同じである。ばね上ばね下間の距離が大きくなり、サスペンションスプリングの弾性力が小さくなると、弾性部材の弾性力が大きくなるのであり、これらの和は、荷重に応じた大きさに維持される。
基準状態から、電動モータを反対方向に回転させた場合には、ばね上部材とばね下部材との間の距離が小さくなる。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは逆となる。ばね上ばね下間の距離が小さくなり、サスペンションスプリングの弾性力が大きくなると、弾性部材のその逆向きの弾性力が大きくなる。
弾性部材がL字形のバーである場合には、第1バー部と第2バー部との一方(以下、シャフト部と称する)が軸線回りに回転させられると、他方(以下、アーム部と称する)が回動させられ、それによって、ばね上ばね下間の距離が変化する。また、シャフト部が捩られると、シャフト部に加えられる捩りモーメント(電動モータによって加えられたトルクと同じ)とアーム部に加えられる曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部材に加えられる。
弾性部材が直線状のロッドである場合には、ロッドに電動モータによって加えられたトルクと曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部材に加えられる。
弾性部材がL字形のバーである場合と直線状のロッドである場合とを比較すると、いずれにおいても、電動モータによって弾性部材に加えられるトルクと曲げモーメントとが等しくなる大きさに応じた上下方向力が発生させられる点については同じである(捩り応力と曲げ応力とが、同時に許容応力に達することが前提)。
また、弾性部材がL字形のバーである場合には、シャフト部の軸線回りの回転によりアーム部が回動させられるのに対して、直線状のロッドである場合には、直線状のロッドが直接電動モータによって回動させられる。そのため、直線状のロッドの長さとL字形のバーのアーム部の長さとが同じである場合には、L字形のバーとした方が、直線状のロッドとする場合に比較して、駆動源を、車体(ばね上部材)の車輪から離れた部分に設けることができるという利点がある。
(16)前記少なくとも1つのセンサが、前記前輪側ばね上部材の上下方向の加速度を検出する前輪ばね上加速度センサと、前記車両の前輪を保持する前輪側ばね下部材と前輪側ばね上部材との相対ストロークを検出するストロークセンサとを含み、前記上下方向力制御装置が、前記前輪ばね上加速度センサによる検出値、前記ストロークセンサによる検出値および前記ゲインに基づいて前記後輪側に設けられた前記上下方向力発生装置を制御するばね下依拠上下方向力制御部を含む(8)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置(請求項11)。
ばね下部材にセンサを設けると、検出値に大きな誤差が含まれるため、望ましくない。
それに対して、ばね上部材の挙動と、ばね上ばね下間のストロークとに基づけば、ばね下部材の上下方向の挙動を精度よく取得することが可能となる。
(17)前記少なくとも1つのセンサが、前記車両の停止状態において、前記車両の前輪側の車軸より前方の路面の凹凸を検出する路面センサを含み、前記上下方向力制御装置が、(a)前記路面センサによる検出値と前記ゲインとに基づいて前記前輪側に設けられた前記上下方向力発生装置を制御する路面凹凸対応前輪制御部と、(b)前記路面センサによる検出値と前記ゲインとに基づいて前記後輪側の前記上下方向力発生装置を制御する路面凹凸対応後輪制御部との少なくとも一方を含む(8)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
路面センサによって検出された路面の凹凸に基づけば、制御対象輪のばね下部材の変位、絶対速度等を取得することができる。
(18)車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記車両の走行速度が、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と制御遅れ時間とで決まる第1設定速度より大きい場合に、前記第1設定速度以下の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置(請求項12)。
本項に記載のサスペンション制御装置には、(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。例えば、検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離を制御遅れ時間で割った値が第1設定速度であり、第1設定時間に対応する。また、検出対象部と制御対象輪との間の前後方向の距離を第2設定時間で割った値を第2設定速度とすることができる。走行速度が第2設定速度以上である場合にはゲインを0とすることができる。
(19)少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、車両の、その少なくとも1つのセンサが取り付けられた位置より後方にある制御対象輪に対応して設けられた制御対象装置を制御する車両制御装置であって、
前記センサの取付け位置と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記制御対象装置の制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とする車両制御装置。
本項に記載の車両制御装置には、前記(1)から(17)に記載の技術的特徴を採用することができる。
プレビュー制御は、サスペンションの制御に限らず、広く、車両に搭載された制御対象装置の制御に適用することができる。
(20)前記少なくとも1つのセンサが、前記車両の前輪に作用する横方向の力を検出する横方向力センサを含み、前記制御対象装置が、前記車両の後輪の舵角を自動で制御可能な後輪舵角制御装置であり、当該車両制御装置が、前記車両の運転者による操作部材の操舵量と、前記横方向力センサによる検出値とが、予め定められた設定範囲内にない場合に、前記後輪舵角制御装置を制御して、前記車両を、前記操舵状態に応じた走行状態を維持する走行状態制御装置を含み、前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記後輪舵角制御装置に使用されるゲインを小さくする制御舵角用ゲイン決定部を含む(19)に記載の車両制御装置。
例えば、轍路、またぎ路の走行中には、それに起因して、ステアリングホイール等の操舵部材の操舵状態が直進走行状態を指示しているにも係わらず前輪に横方向力が加えられる場合がある。この場合に、後輪がその路面を通る際に、その後輪の舵角を制御することができる。
(21)車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記車両が直進走行している場合には、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを、前記車両の走行速度が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定し、前記車両が旋回走行している場合には、前記ゲインを、前記車両の操舵輪の舵角の絶対値が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定するゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置。
本項に記載のサスペンション制御装置には、(1)項ないし(20)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の一実施例であるサスペンション制御装置を含むサスペンションシステムについて説明する。
図2,3において、車両の前後左右の各車輪12FR、FL、RL、RRとばね上部材としての車体14との間にサスペンション16が設けられる。
サスペンション16は、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング20FR、FL、RL、RR、ショックアブソーバ(以下、アブソーバと略称する場合がある)22FR、FL、RL、RR、上下方向力発生装置24FR、FL、RL、RR等を含む。以下、車輪の位置を表す添え字FR、FL、RL、RRはこれらを区別する必要がある場合に記載するが、区別する必要がない場合には記載しない。また、前輪側と後輪側とを区別する必要が場合に、添え字F、Rを付すことがある。さらに、前後左右の車輪のうちの任意の一輪を表す場合において、それが同じ車輪であること表す場合に、添え字ij(i=F、R j=R、L)を付すことがある。
また、図3に示すように、サスペンション16は、第1アッパアーム40,第2アッパアーム42,第1ロアアーム44,第2ロアアーム46,トーコントロールアーム48等の複数のサスペンションアームを含む。本実施例において、サスペンション16はマルチリンク式とされている。これら5本のサスペンションアーム40,42,44,46,48は、それぞれの一端部において、車体14に回動可能に連結され、他端部において、車輪12を相対回転可能に保持するアクスルキャリア50に回動可能に連結されている。アクスルキャリア50は、車体14に、それら5本のアーム40,42,44,46,48により予め定められた軌跡に沿って上下方向に相対移動可能とされる。
【0008】
ショックアブソーバ22は、図4に示すように、ばね上部材としての車体14と、ばね下部材としての第2ロアアーム46との間に、原則的に、上下方向に相対移動不能、かつ、揺動可能に連結されている。ショックアブソーバ22は、減衰特性制御装置56を含み、減衰特性が連続的に制御可能とされている。
ショックアブソーバ22は、ハウジング60とピストン62とを含み、ハウジング60において第2ロアアーム46に連結され、ピストン62のピストンロッド64において、マウント部54を介して車体14に連結される。ピストンロッド64は、中間部において、ハウジング60の蓋部66にシール68を介して摺接させられる。
ハウジング60は、図5に示すように、外筒71と内筒72とを含み、それらの間がバッファ室74とされる。上述のピストン62は、その内筒72の内側に液密かつ摺動可能に嵌合されているのであり、内筒72の内側が、上室75と下室76とに仕切られる。
ピストン62には、上室75と下室76とを接続する接続通路77、78が同心状に複数個ずつ設けられる(図5には、そのうちの2つずつが記載されている)。ピストン62の下面に配設された弁板79、上面に配設された弁板80、81は、それぞれ、ピストンロッド64に設けられた段部、ナットによって支持されている。
弁板79は、外周側にある接続通路78の開口は覆わないが、内周側にある接続通路77の開口を覆う大きさであり、上室75と下室76との液圧差が設定値以上となり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、上室75から下室76への作動液の流れを許容する。弁板79,接続通路77の開口部等によりリーフバルブ84が構成される。
弁板80、81は上下方向に重ねて設けられる。弁板80が接続通路78の開口を覆い、弁板80,81の接続通路77の開口に対応する部分には開口部が形成されている。下室76と上室75との液圧差が設定値以上になり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、下室76から上室75へ向かう作動液の流れを許容する。弁板80,81、接続通路78の開口部等によりリーフバルブ86が構成される。
下室76と上述のバッファ室74との間には、リーフバルブを備えたベースバルブ本体88が設けられる。
【0009】
減衰特性制御装置56は、図4に示すように、電動モータ90,電動モータ90の回転を直線運動に変換する運動変換機構91,調節ロッド92等を含む。ピストンロッド64の内部には、それの軸線方向に延びた貫通穴94が形成され、その貫通穴94に調節ロッド92が配設される。調節ロッド92は、上端部において運動変換機構91の出力部材に連結されており、電動モータ90の回転に伴ってピストンロッド64に対して直線的に相対移動させられる。電動モータ90の回転角度はモータ回転角センサ96によって検出される。
図5に示すように、貫通穴94は段付き形状を成しており、上部が大径部98、下部が小径部100とされる。小径部100において下室76に開口し、大径部98において接続通路102を介して上室75と連通させられる。上室75と下室76とは、貫通穴94,接続通路102によって互いに連通させられる。
一方、調整ロッド92の中間部の外径は大径部98の内径より小さく、かつ、小径部100の内径より大きくされており、下端部106の外径は下方にいくにつれて漸減させられる(例えば、下端部106の形状を円錐形状とすることができる)。調整ロッド92は、中間部が大径部98に位置し、下端部106が大径部98と小径部100との段差部付近に位置する状態で配設される。
調整ロッド92の下端部106の外周面と、大径部98と小径部100との段部の周縁107との間の隙間(開口面積)が、調節ロッド92(下端部106)のピストンロッド64に対する相対位置の変化に伴って、連続的に変化させられる。調整ロッド92の相対位置は、電動モータ90の回転角度からわかる。電動モータ90の制御により、可変絞り108の開口面積が制御されるのであり、調整ロッド76の下端部106、周縁107を含む貫通穴94の内周面等により流量制御弁(可変絞り)108が構成される。
なお、貫通穴94の接続通路102が接続された部分より上方にはシール部材109が設けられ、貫通穴94の内周面と調整ロッド92の外周面との間が液密に保たれる。
【0010】
例えば、ばね上部材14と第2ロアアーム46(車輪12)とを接近させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に下方へ移動させる向きの力が加えられた場合には、下室76の液圧が高くなる。
下室76の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って上室75へ流れる。また、弁板80(81)に加えられる液圧差に応じた力が開弁圧以上となり、リーフバルブ86が開状態に切り換えられると、接続通路78を経て作動液が上室75へ流れる。さらに、ベースバルブ体88のリーフバルブを経てバッファ室74へ流出する。ショックアブソーバ22の減衰特性は、主として、可変絞り108の開口面積で決まる。作動液が可変絞り108を流れる際に加えられる抵抗力は、流速が同じである場合には、可変絞り108の開口面積が小さくなるほど大きくなる。本実施例においては、ショックアブソーバ全体において、減衰係数が所望の大きさとなるように、電動モータ90の制御により、可変絞り108の開口面積が制御される。
【0011】
逆に、ばね上部材14と第2ロアアーム46(車輪12)とを離間させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に上方に移動させる向きの力が加えられた場合には、上室75の液圧が高くなる。
上室75内の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って下室76へ流れる。また、弁板79に加えられる力が開弁圧以上になるとリーフバルブ84が開状態に切り換えられて、接続通路77を経て下室76に作動液が流れる。また、バッファ室74の作動液の一部がベースバルブ体88のリーフバルブを経て流入する。減衰特性は、可変絞り108の開口面積の制御によって制御される。
なお、ピストン62の移動速度(作動液の流速)が同じ場合には、減衰特性(減衰係数)の制御により減衰力が制御されるため、減衰特性の制御を減衰力の制御であると考えることもできる。
【0012】
前記コイルスプリング20は、ショックアブソーバ22のハウジング60の中間部に設けられた下部リテーナ110と、マウント部54に防振ゴム112を介して設けられた上部リテーナ114との間に配設される。ハウジング60は第2ロアアーム46に支持され、マウント部54において車体14に取り付けられるため、コイルスプリング20は、第2ロアアーム46と車体14との間に、ショックアブソーバ22と並列に設けられることになる。
なお、ピストンロッド64のハウジング60の内部に位置する部分には、弾性部材116が設けられ、その弾性部材116の上面が蓋部66の下面に当接することによってリバウンド方向(車輪と車体との離間方向)の移動限度が規定される。また、ハウジング60の蓋部66の上面が防振ゴム112に当接することによってバウンド方向(車輪と車体との接近方向)の移動限度が規定される。弾性部材116,あるいは、弾性部材116および蓋部66の下面によってリバウンド側のストッパが構成され、防振ゴム112,あるいは、防振ゴム112および蓋部66の上面によってリバウンド側のストッパが構成される。
【0013】
上下方向力発生装置24は、図3,6に示すように、上下方向から見た場合に、概してL字形を成したバー122(弾性部材の一態様であり、以下、L字形バーと略称する)と、そのL字形バー122を軸線Ls回りに回転させるアクチュエータ(駆動源の一態様である)124とを含む。L字形バー122は、概ね車幅方向に延びるシャフト部130と、シャフト部130と交差して概ね車両の後方に延びるアーム部132とを含み、一体的に力を伝達可能に(例えば、1本のバーを曲げて)製造されたものである。アクチュエータ124は被取付部134において車体14に固定される。
L字形バー122は、それのシャフト部130のアーム部132が設けられた側とは反対側の端部において、アクチュエータ124に連結されることにより車体14に支持され、アーム部側の端部において、取付具136によって車体14に、シャフト部130の軸線Ls回りの回転を許容する状態で支持される。また、アーム部132のシャフト部130とは反対側の端部は、リンクロッド137を介して、第2ロアアーム46に連結されている。リンクロッド137は、一端部において、第2ロアアーム46に設けられたリンクロッド連結部138に揺動可能に連結され、他端部において、L字形バー122のアーム部132の端部に揺動可能に連結されている。
【0014】
図7に示すように、アクチュエータ124は、電動モータ140と減速機142とを含み、L字形バー122のシャフト部130が、減速機142を介して電動モータ140の出力軸に連結される。シャフト部130には、電動モータ140の回転が減速して伝達される。
ハウジング144には、電動モータ140と減速機142とが直列に設けられる。電動モータ140の出力軸146,減速機142の出力軸148は、それぞれ、ハウジング144にベアリング150,152を介して相対回転可能に保持される。また、これら出力軸146,148は中空とされており、これらの内側に、シャフト部130が挿入される。シャフト部130は、ブッシュ型軸受け153を介してハウジング144に相対回転可能に保持される。
電動モータ140は、ハウジング144の内周面に設けられた複数のコイル154と、出力軸146と、出力軸146に設けられた複数の永久磁石155(永久磁石155は出力軸146の外周面に設けても、埋め込んでもよい。)とを含む。電動モータ140は、3相のDCブラシレスモータとされており、電動モータ140の回転角度はモータ回転角センサ156により検出される。
減速機142は、ハーモニックギヤ機構として構成されるものであり、波動発生器(ウェーブジェネレータ)157,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)158およびリングギヤ(サーキュラスプライン)160を含む。波動発生器157は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含み、モータ出力軸146の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ158は、筒部が弾性変形可能なカップ形状をなすものであり、筒部の外周面に複数の歯(本減速機142では、400歯)が形成されており、底部に形成された孔にL字形バー122のシャフト部130が嵌合され、一体的に回転可能とされている。リングギヤ160は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機142においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング144に固定されている。フレキシブルギヤ158は、その筒部が波動発生器157の外周側に位置し、楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ160と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。
【0015】
波動発生器157が1回転(360度回転)、すなわち、電動モータ140の出力軸146が1回転させられると、フレキシブルギヤ158とリングギヤ160とが、2歯分だけ相対回転させられ、シャフト部130が回転させられる。本実施例においては、フレキシブルギヤ158のシャフト部130と一体的に回転可能な部分が減速機142の出力軸148とされる。
減速機142の減速比は、1/200であり、比較的大きい。電動モータ140の回転速度に対して減速機142の出力軸148の回転速度が小さく、その結果、アクチュエータ124の制御遅れが大きくなる(電動モータ140に制御指令値を出力してから、シャフト部130にトルクが加えられるまでの間の時間が長い)。
【0016】
一方、アクチュエータ124の正効率ηPを、ある外部入力に抗してL字形バー122のシャフト部130を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義し、逆効率ηNを、ある外部入力によってもアクチュエータ124が回転させられない最小のモータ力の、その外部入力に対する比率と定義した場合に、アクチュエータ力(アクチュエータ124に外部から加えられる力であり、アクチュエータトルクと考えてることもできる)をFa、電動モータ140が発生させる力であるモータ力(モータトルクと考えることができる。)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現できる。
ηP=Fa/Fm
ηN=Fm/Fa
正効率ηP、逆効率ηPは、同じ大きさのアクチュエータ力Faを発生させる場合であっても、正効率特性下において必要な電動モータ140のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとで異なる(FmP>FmN)。また、電動モータ140の正効率ηPと逆効率ηNとの積(正逆効率積ηP・ηNと称する)は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比(FmN/FmP)と考えることができる。
そして、正逆効率積ηP・ηNが小さい程、正効率特性下において必要な電動モータのモータ力FmPに対して、逆効率特性下において必要なモータ力FmNが小さくなるのであり、動かされ難いアクチュエータであると考えることができる。
本実施例においては、アクチュエータの正逆効率積ηP・ηNが小さいものとされているため、L字形バー122に加えられる力を保持するのに、小さい電流でよいという利点がある。
【0017】
前述のように、ばね下部材46とばね上部材14との間には、コイルスプリング20,ショックアブソーバ22,弾性部材としてのL字形バー122が互いに並列に設けられる。そのため、車輪12に加えられる荷重は、これらコイルスプリング20,ショックアブソーバ22,L字形のバー122が協働して受けることになる。電動モータ140に電流が供給されていない場合には、L字形バー122には力が発生させられていないため、荷重がコイルスプリング20とショックアブソーバ22とによって受けられる(主としてコイルスプリング20が受けるため、以下、コイルスプリング20が受けると記載する)。この状態を、本実施例においては、電動モータ140の回転角度が0の基準状態(アクチュエータ124の基準状態)とする。
【0018】
この基準状態から、電動モータ140が駆動させられると、電動モータ140のトルクがシャフト部130に加えられる。アーム部132が回動させられ、シャフト部130が捩られる。なお、電動モータ140の回転角度とアクチュエータ124の回転角度とは1対1に対応する。制御指令値は後述するように電動モータ140の回転角度の目標値である。
図8(a)に示すように(図8においては、電動モータ140の回転、アーム部132の回動、ばね下部材46の回動の関係を理解し易い状態で記載した。そのため、L字形バー122の実際の姿勢とは異なる)、アクチュエータ124がP方向に回転角θMA回転させられた場合において、アーム132部がθA回動させられた場合には、それによって、ばね上ばね下間のストロークが大きくなる。アーム部132がP方向に回動角θA回動させられると、ばね上ばね下間のストロークは、θA(sinθA)に応じた距離だけ大きくなり、サスペンションスプリング20の弾性力は、その分、小さくなる。
また、シャフト部130は、アクチュエータ124の回転角θMAからアーム部132の回動角θAを引いた角度で捩られる。シャフト部130に加えられる捩りモーメントTM(アクチュエータ124によって加えられるトルク)と、アーム部132に生じる曲げモーメントとは等しいため、式
TM=FB・L・・・(1)
が成立する。ここで、Lはアーム部132の長さであり、FBはアーム部132に加えられる力(第2ロアアーム46に加えられる力の反力)であり、FB・Lが、アーム部132に生じる曲げモーメントである。第2ロアアーム46には、下向きの力(下向きの成分を有する力)が加えられる。
一方、シャフト部130の捩りモーメントTMは、剪断弾性係数GS、断面2次極モーメントIPとした場合に、式
TM=GS・IP・(θMA−θA)・・・(2)
が成立する。
(1)式、(2)式から、
FB=GS・IP・(θMA−θA)/L・・・(3)
が成立し、第2ロアアーム46に加えられる力(上下方向力に対応し、アーム部132に加えられる力に対応する)は、捩り角(θMA−θA)に比例した大きさになることがわかる。
また、アクチュエータ124の回転角θMAとアーム部132の回転角θAとの間(車高の変化量)には、予め定められた関係がある。
以上の事情から、アクチュエータ124(電動モータ140)の回転角θMAが決まれば、ばね上ばね下間の距離の変化量および第2ロアアーム46に加えられる力FBが決まるのであり、本実施例においては、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力(L字形バー122によって加えられる上下方向力)が、所望の大きさとなるように、電動モータ140の回転角θMが制御される。
なお、前述のように、シャフト部130は、アーム部132の近傍において車体14に保持されているため、シャフト部130の曲げを考慮する必要はない。
また、弾性部材をL字形バー122としたため、直線状のロッドとする場合に比較して、アクチュエータ124を車体14の車輪12から離れた部分に設けることができ、車輪近傍の設計の自由度を向上させることができる。
【0019】
図8(b)に示すように、電動モータ140(アクチュエータ124)をQ方向に回転させた場合には、アーム部132は、矢印Q方向にθA回動させられる。ばね上ばね下間のストロークが小さくなり、コイルスプリング20によって発生させられる力が大きくなる。シャフト部130は、(θMA−θA)でQ方向に捩られ、第2ロアアーム46には、ばね上ばね下間のストロークが小さくなる向きの上下方向力が加えられる。L字形アーム122によって第2ロアアーム46に加えられる力の向きは、コイルスプリング20によって加えられる向きと逆向きとなる。
この場合においても、電動モータ140の回転角θMの制御により、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御される。
図8(a)、(b)から、電動モータ140の回転方向によって上下方向力の向きが決まり、電動モータ140の回転角θMの大きさ(回転角の絶対値と称することもある)によって上下方向力の大きさ、および、ばね上ばね下間の距離(あるいは距離の変化量)が決まる。
【0020】
本実施例において、ショックアブソーバ22,上下方向力発生装置24等は、図11に示すサスペンション制御ユニット168によって制御される。サスペンション制御ユニット168は、上下方向力発生装置制御ユニット(ECU)170と、アブソーバ制御ユニット(ECU)172とを含む。上下方向力発生装置制御ユニット170によって、L字形バー122によって第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御され、アブソーバ制御ユニット172によってショックアブソーバ22において発生させられる減衰力が制御される。
上下方向力発生装置制御ユニット170は、実行部173、入出力部174、記憶部175を備えたコンピュータを主体とするコントローラ176と、駆動回路としてのインバータ178とを含み、コントローラ176の入出力部174には、上記モータ回転角センサ156、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、左右前輪(操舵車輪)12FL、FRの舵角を検出する舵角センサ200、操舵部材の操舵量(本実施例においては図示しないステアリングホイールの操舵角)を検出する操舵角センサ204等が接続されるとともに、上述のインバータ178が接続される。ばね上加速度センサ196は、車体14のマウント部54に設けられ、ばね上部材14の上下方向の加速度を検出する。車高センサ198は、ばね上部材14のばね下部材46に対する上下方向の変位(ばね上ばね下間の距離)を検出する。ばね上加速度センサ196,車高センサ198は、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRに対応して設けられる。記憶部175には、複数のテーブル、プログラム等が記憶されている。
【0021】
アブソーバ制御ユニット172も、同様に、実行部210、入出力部211、記憶部212等を含むコンピュータを主体とするコントローラ220と、駆動回路としてのインバータ222とを含み、入出力部211には、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、舵角センサ200、操舵角センサ204、モータ回転角センサ96等が接続されるとともに、上述のインバータ222が接続される。
ブレーキ制御ユニット224も、同様に、コンピュータを主体とするコントローラを含む。ブレーキ制御ユニット224には、各輪12FR、FL、RR、RLの回転速度を検出する車輪速センサ226が接続され、これら車輪速センサ226による検出値に基づいて車両の走行速度やスリップ状態が取得される。
これら上下方向力発生装置制御ユニット170、アブソーバ制御ユニット172,ブレーキ制御ユニット224等は互いにCAN(Car Area Network)を介して接続され、ブレーキ制御ユニット224において取得された車両の走行速度を表す情報、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRのスリップ状態を表す情報等が上下方向力発生装置制御ユニット170,アブソーバ制御ユニット172等に供給される。
【0022】
なお、上下方向力発生装置ECU170のコントローラ176,アブソーバECU172のコントローラ220は、各輪毎に(各インバータ毎に)、それぞれ個別に設けることもできる。
【0023】
図9に示すように、電動モータ140は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子230u,230v,230w(以下、総称して「通電端子230」という場合がある)を有している。
インバータ178は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)ごとに、high(正)側,low(負)側に対応して、設けられた2つずつのスイッチング素子(UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLC)と、これらスイッチング素子を切り換えるスイッチング素子切換回路とを含む。スイッチング素子切換回路は、電動モータ140に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ178は、コンバータ232を介してバッテリ236に接続される。
このように、電動モータ140には、コンバータ232によって制御された一定の電圧が加えられるため、電動モータ140への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ178においてPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
上記のように構成されたインバータ178の作動状態を制御することにより、電動モータ140の作動モードが変更される。作動モードには、バッテリ236から電動モータ140への電力の供給が行われる制御通電モード、電力の供給が行われないスタンバイモード,ブレーキモード,フリーモードがある。
【0024】
制御通電モードにおいて、図9,10に示すように、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ140の回転角に応じて切り換えられる。この場合において、high側の各スイッチング素子UHC,VHC,WHCに対してはデューティ制御が実行されないが、low側の各スイッチング素子ULC,VLC,WLCに対してデューティ制御が実行される。そのデューティ比が変更されることにより、電動モータ140への供給電流量が変更される。図10における「1*」は、デューティ制御されることを示している。各スイッチング素子の切換形態は、電動モータ140の回転方向に応じて異なっており、便宜的に、時計回り方向(CW方向)と反時計回り(CCW方向)と称する。
制御通電モードにおいては、電動モータ140への供給電力が制御され、それによって、トルクの向きおよび大きさが制御される。
【0025】
スタンバイモードにおいては、各スイッチング素子の切り換えが実行されても、実際にはバッテリ236から電動モータ140への電力が供給されることがない。
図10に示すように、制御通電モードにおける場合と比較すると、high側に存在する各スイッチ素子WHC,VHC,UHCは、制御通電モータにおける場合と同様に切り換えられるが、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ比が0とされるのであり、low側のスイッチング素子ULC,VLC,WLCは、常時、OFF状態(開状態)とされる。その結果、本モードでは、電動モータ140に電力が供給されないことになる。図10における「0*」は、そのことを示している。
このように、本モードにおいて、各スイッチング素子UHC,VHC,WHC,ULC,VLC,WLCのうちの1つのスイッチング素子のみがON状態(閉状態)とされるため、3つの通電端子230のうちの1つとコンバータ232の高電位側の端子234Hとの導通が確保される。このため、本作動モードは、特定端子通電モードの一種と考えることができる。なお、スタンバイモードにおいても、スイッチング素子の切換形態に関してCW方向,CCW方向の2形態がある。
ブレーキモードにおいては、スイッチング素子のON/OFFにより、電動モータ140の各通電端子が相互に導通させられる。このモードは、全端子間導通モードの一種と考えることができる。電動モータ140の回転角に拘わらず、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方(本実施例においては、low側)に配置されたすべてのものが閉状態に維持され、high側,low側の他方(本実施例においては、high側)に配置されたすべてのものが開状態に維持される。ON状態とされたhigh側のスイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電動モータ140の各相は短絡させられた状態となる。本モードにおいては、短絡制動の効果が得られることになる。
フリーモードにおいては、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。本モードにおいては、電動モータ140はフリーの状態となる。
【0026】
以上のように、インバータ178におけるスイッチング素子の切換え制御により、電動モータ140(アクチュエータ124)の作動が制御され、それによって、L字形バー122によってばね下部材46に加えられる上下方向の力FBが制御される。本実施例においては、上下方向力FBの向きがばね下部材46の上下方向の移動方向と逆向きとなり、大きさがばね下部材46の絶対速度に応じた大きさとなるように制御される。上下方向力が減衰力として作用するように制御されるのである。
上下方向力FBの向きは基準位置からの電動モータ140の回転方向で決まり、上下方向力FBの大きさは、電動モータ140の回転角の大きさによって制御される。前述のように、電動モータ140の回転角θMと上下方向力FBの大きさとの間には予め定められた関係があるため、これらの間の関係に基づけば、上下方向力FBが所望の向きおよび大きさとなるように、目標回転角θM*(回転方向と大きさ)を決めることができる。
【0027】
電動モータ140への供給電流量は、電動モータ140の目標回転角θM*と、実際の回転角をθとのモータ回転角偏差Δθ(=θM*−θ)に応じた大きさとされる。本実施例においては、PI制御が行われるのであり、供給電流量が、式
i=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)
に従って決まる。KP,KIは、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインであり、Int(Δθ)は、モータ回転角偏差Δθの積分値に相当する。回転角偏差Δθの絶対値が大きい場合は、供給電流量を大きくして、実際の回転角θが速やかに目標回転角θM*に近づくように供給電流iが供給される。
本実施例においては、後述する上下方向力の目標値FB*の絶対値が増加させられる場合には、この供給電流iの大きさ(絶対値)に基づいて、電動モータ140を駆動するためのデューティ比が決定される。また、この供給電流iの符号が電動モータ140の所望のトルク(回転方向)の向きに対応する。それらデューティ比および回転方向についての制御指令がインバータ178に出力されると、インバータ178において、制御指令値に応じて、スイッチング素子の制御が行われる。この場合には、供給電流i*(符号を有する)が制御指令値に対応する。それに対して、目標値FB*の絶対値が保持または減少させられる場合には、デューティ比、回転方向についての制御指令値が出力されるのではなく、後述するように、ブレーキモード、フリーモードに切り換えることを表す制御指令値が出力される。
【0028】
なお、本実施例においては、PI制御則に従い供給電流iが決定されたが、PID制御則に従い供給電流iが決定されるようにすることも可能である。この場合、例えば、式
i=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)+KD・Δθ
に従って、供給電流iが決定される。KDは微分ゲインであり、第3項は、微分項成分を意味する。
【0029】
本実施例において、前輪側の上下方向力発生装置24Fについては通常制御が行われ、後輪側の上下方向力発生装置24Rについては、原則として、プレビュー制御が行われるが、プレビュー制御によって上下方向の振動を効果的に抑制できない場合には、通常制御が行われる場合もある。
通常制御は、センサ196,198によって上下挙動が検出される検出対象車輪と、上下方向力が制御される制御対象車輪とが同じである制御をいう。通常制御は、通常サスペンション制御と称することもある。
通常制御において、制御対象輪(検出対象輪でもある)12ijのばね下部材46の絶対速度(以下、ばね下絶対速度と称する)VLが取得され、ばね下絶対速度VLに応じた減衰力が得られるように、上下方向力発生装置24ijが制御される。
制御対象輪12ijに対応して設けられたばね上加速度センサ196による検出値GUを時間で積分することによりばね上部材14の絶対速度(以下、ばね上絶対速度と称する)VUが取得され、車高センサ198による検出値を時間で微分することによりばね上ばね下間の相対速度(ばね上ばね下の間のストロークの変化速度)VSが取得される。そして、ばね上絶対速度VUから相対速度VSを引くことにより、ばね下絶対速度VLが取得される。
VL=VU−VS=VU−(VU−VL)
上下方向力の目標値(目標減衰力)FB*は、ばね下絶対速度をVLとした場合に、式
FB*=−G0・C・VL
に従って求められ、電動モータ140の目標回転角θM*が、式
θM*=f(FB*)
に従って求められる。Cは、減衰係数であり、予め定められた固定値である。G0は通常制御のゲインであり、予め決められた固定値である。fは予め定められた関数であり、関数式に従って、目標回転角θM*が取得される。符号(−)は、目標減衰力FB*の向きがばね下絶対速度の向きと逆であることを表す。ばね下絶対速度が上向きである場合には、目標減衰力FB*は下向きである。
そして、上述のように、目標回転角度θM*と実際の回転角度θとから回転角偏差Δθが取得され、回転角偏差Δθに応じた供給電流iが求められ、供給電流i等に基づいて上述のように制御指令値が作成されて、出力される。通常制御においては、制御指令値は、作成されると直ちに出力される。
【0030】
一方、前述のように、アクチュエータ124は制御遅れが大きい(応答性が悪い)ものである。そのため、自車輪12ijの上下方向の挙動に基づいて同じ車輪12ijのアクチュエータ124ijが制御される場合には、振動を良好に抑制できなかったり、かえって、乗り心地が悪くなったりする場合がある。
それに対して、実車試験やシミュレーション等により、実際の振動に対して、制御が1/8位相遅れて開始されても、その振動を抑制し得ることが確かめられている。また、制御遅れ時間(制御指令値を出力してから、実際に電動モータ140のトルクがL字形バー122に加えられるまでの時間)は、アクチュエータ124の構造、インバータ178の性能等により予め決まる。
そこで、本実施例においては、サスペンション制御が、その実際の振動に対して遅れて開始されても、その遅れの時間が、その振動の1/8位相に相当する時間以下である場合には、アクチュエータ124ijの制御(通常制御)が行われるようにされている。
アクチュエータ124の制御遅れ時間がTDである場合に、その制御遅れ時間TDが1/8位相に相当する周波数fDは、式
fD=1/(8・TD)
で求められる。そのため、実際の車輪12ijの上下方向の振動の周波数fが、周波数(以下、遅れ対応周波数と称する)fDより高く(大きく)、より高周波の振動が生じている場合(f>fD)には、制御遅れ時間TDが1/8位相分より長くなるため、上下方向力発生装置24ijによる減衰力の制御は行われない。それに対して、実際の周波数fが遅れ対応周波数fD以下で、低周波の振動が生じている場合(f≦fD)には、制御遅れ時間TDが1/8位相分以下となるため、制振効果が得られる。そのため、この場合には、上下方向力発生装置24ijによる減衰力の制御が行われるのである。
【0031】
プレビュー制御において、制御対象車輪が後輪とされ、検出対象車輪が前輪とされる(センサによる検出対象部が前輪側部分とされる)。前輪12FL、FRの各々の上下方向の挙動が検出され、その検出された上下方向の挙動に基づいて、車両の幅方向の同じ側の後輪12RL、RRの上下方向力発生装置24RL、RRがそれぞれ制御される。
図1に示すように、前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を後輪12RL、RRが通ると仮定した場合には、前輪12FL、FRに加えられた路面入力と同じ入力を後輪12RL、RRも受け、前輪12FL、FRのばね下部材46FL、FRの上下方向の挙動と同じ挙動が所定の時間が経過した後に、後輪12RL、RRのばね下部材46RL、RRに生じる。このことを利用して、前輪12Fのばね下部材46Fの上下方向の挙動に基づいて後輪12Rの上下方向力発生装置24Rが制御されるようにすれば、上下方向力発生装置24Rの制御遅れを小さく、あるいは、0とすることができ、後輪12Rのばね下部材46Rの上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
本実施例においては、前輪12Fのばね下絶対速度VLが取得され、そのばね下絶対速度VLに応じた目標減衰力FB*が求められ、制御指令値が作成される。そして、所定の時間の経過後に、すなわち、後輪12Rのばね下部材46Rの、その上下方向の挙動に合わせて、制御指令値に応じた減衰力が後輪12Rに発生させられるように、上下方向力発生装置24Rが制御される。
【0032】
目標減衰力FB*は、ばね下絶対速度VLに基づいて決まり、式
FB*=−G・C・VL
に従って取得される。Gは、プレビューゲイン(プレビュー制御に使用されるゲイン)である。
そして、前述のように、目標回転角度θMが、式
θM*=f(FB*)
に従って求められ、前述のように、目標回転角度θM*と実際の回転角度θとから回転角偏差Δθが取得され、回転角偏差Δθに応じた供給電流iが求められ、それに基づいて制御指令値が作成される。
制御指令値は、原則として、前輪側部分の上下挙動が検出されてから、ホイールベースLWを車速Vで割って得られる余裕時間TPから遅れ時間TDを引いた時間TQ(以下、待ち時間と称する)が経過した後に出力される。
TP=LW/VS
TQ=TP−TD
【0033】
余裕時間TPは、同じ路面の凹凸を、前輪12Fが通過してから後輪12Rが通過するまでの時間であり、図12(a)に示すように、同じ車両について(ホイールベースLWが同じである場合)は、車速Vが大きい場合は小さい場合より短くなる。
余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合、すなわち、余裕時間TPから制御遅れ時間TD(本実施例においては、制御遅れ時間が第1設定時間に対応する)を引いた時間である待ち時間TQが0以上である場合には、プレビュー制御を有効に行うことができる。そのため、図12(b)に示すように、待ち時間TQが0以上である場合には、プレビューゲインを1とする。待ち時間が0以上の場合は、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合に対応し、車速Vが、ホイールベースLWを制御遅れ時間TDで割った大きさVD(VD=LW/TD)以下の場合(VS≦VD)に対応する。
それに対して、車速が大きくなり、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短くなると、たとえ、待ち時間TQなしで制御指令値が出力されても、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rに対する制御が、実際の後輪12Rのその上下方向の挙動に対して遅れるため、プレビュー制御によって、後輪12Rの上下方向の振動を良好に抑制できなかったり、かえって、乗り心地が悪くなったりすることがある。そこで、本実施例においては、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短くなると、図12(b)の実線が示すように、車速Vの増加に伴って(余裕時間が短くなるのに伴って)プレビューゲインGが直線的に漸減させられる。
【0034】
また、余裕時間TPが効果有り時間TLより短くなる(TP<TL)と、プレビューゲインGが0とされるのであり、プレビュー制御は行われない。
前述のように、実際のその振動に対して制御が遅れても、その遅れが、1/8位相相当時間以下である場合においては、制御の効果が得られることがわかっている。この事実に基づいて、図12(a)、(c)に示すように、待ち時間なしで、制御指令値を直ちに出力しても、後輪12Rの実際の上下方向の振動に対して1/8位相遅れる場合の余裕時間を効果有り時間TLとする。
効果有り時間TLは、ばね下部材46の振動の周波数がN(Hz)である場合に、制御遅れ時間TDから1/8位相遅れる時間TX{1/(8×N)sec}を引いた時間であり、本実施例においては、効果有り時間TLが第2設定時間に対応する。
制御遅れ時間TDが同じ場合(アクチュエータ124が同じ場合)において、周波数Nが小さい振動においては、1/8位相に相当する時間TXは長くなるため、効果有り時間TLが短くなり、周波数Nが大きい振動においては、効果有り時間TLが長くなる。本実施例においては、Nが3とされている。周波数3Hzは、通常生じる車両の振動において、比較的高い周波数であり、アクチュエータ124によって制御可能な最大周波数である。その結果、アクチュエータ124の制御可能な範囲において、最長の効果有り時間TLがしきい値として設定されることになる。
また、余裕時間TPが効果有り時間TLである場合の車速Vは、
VSMAx=LW/TL
となる。したがって、車速VがVSMAxより大きくなると、プレビュー制御が行われないことになる。
プレビューゲインGと余裕時間TPとの関係は、図12(b)に示すように、予めテーブル化されて記憶されている。
【0035】
なお、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合に、プレビューゲインGは、図12(b)の破線が示すように曲線的に漸減させるようにしても、二点鎖線が示すように0としてもよい。
また、テーブルは、プレビューゲインGと車速Vとの関係を表すものであってもよい。
さらに、第1設定時間は、制御遅れ時間TDより長い時間(設定値を加えた時間、1より大きい比率を掛けた時間)としたり、制御遅れ時間TDより短い時間(設定値を引いた時間、1より小さい比率を掛けた時間)としたりすることができる。
また、振動の周波数をその都度取得し、その都度、第2設定時間(効果有時間TL)あるいはプレビュー制御が行われる車速の上限値VSMAXを決めて、その都度、ゲインを決めることができる。例えば、プレビューゲインGを、実際の車速Vとした場合に、式
G=V/(VSMAX−VD)
に従って求めることができる。
【0036】
車両が旋回している場合には、前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を後輪12RL、RRが通るとは限らない。後輪12RL、RRが前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を全く通らない場合には、プレビュー制御を効果的に行うことができない場合がある。そこで、本実施例においては、図13(a)、(b)に示すように、軌道差ΔRとタイヤ幅WTとに基づいてラップ率Lapを取得し、ラップ率Lapが低い場合は高い場合より、プレビューゲインGを小さい値とする。また、図16(b)に示すように、ラップ率Lapが0以下の場合には、プレビューゲインを0として、プレビュー制御が行われないようにする。
ラップ率Lapは、前輪12FL、FRのタイヤWFが通った路面と後輪12RL、RRのタイヤWRが通ると予測される路面との重なり部分の車両の幅方向(旋回半径方向)の長さΔWTをタイヤの幅方向の寸法WTで割った値(ΔWT/WT)である。タイヤの幅方向の寸法(以下、タイヤの幅と略称する)WTは、前輪12Fと後輪12Rとで、タイヤの幅が同じである場合の、その寸法である。
【0037】
各輪12FL、FR、RL、RRの軌道(軌跡)は、それぞれ、連続した1本の線で表される。本実施例においては、車輪12(あるいはタイヤ)の幅方向の中央面の路面との接点の集合で表され、その接点の集合の旋回半径Rで表される。
また、左前輪12FLの軌跡、右前輪12FRの軌跡の中間の軌跡を前輪側の軌跡とすることができる。中間の軌跡は、左前輪12FLの旋回半径と右前輪12FRの旋回半径との平均値で表したり、図14に示すように、車両の前輪側の幅方向の中心点PFの軌跡(旋回半径)で表したりすることができる。中心点PFは、厳密に言うと、車両が水平な路面を直進走行している場合において、車両の重心Gを通る前後方向に延びる線LVを含む鉛直面と、左右前輪12FL、FRの車軸の軸線を通る線との交点である。この交点PFの軌跡は、交点PFを路面に投影した点の集合から成るものと考えることもできる。
同様に、軌道差(軌跡差)ΔRは、前輪12Fの旋回半径Rfから後輪12Rの旋回半径Rrを引いた値であるが、同じ側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径の差としても、前輪側の旋回半径と後輪側の旋回半径との差としてもよい。後輪側の軌跡は、前輪側の軌跡と同様に、中心線LVを含む鉛直面と、左右後輪12RL、RRの車軸の軸線を通る線(左右後輪12RL、RRの中心同士を通る線)との交点(中心点)PRの旋回半径Rrで表すことができる。
【0038】
図14に示すように、車輪12FL、FR、RL、RRのスリップが小さい場合には、旋回中心が、左右後輪12RL、RRの車軸の中心線を通る線の延長線上にあることが知られている。したがって、操舵輪(前輪)12Fの舵角の絶対値をδWとし、ホイールベースをLWとすれば、前輪側の中心点PF、後輪側の中心点PRの旋回半径は、式
Rf=LW/sinδW・10-3
Rr=LW/tanδW・10-3
に従って求めることができる。10-3は、ホイールベースLWの単位が(mm)であり、旋回半径Rf、Rrの単位が(m)であるため、これらの単位の換算のための値である。本実施例においては、旋回方向は関係がないため、舵角の絶対値が用いられる。
一方、旋回内側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径は、それぞれ、式
Rfin≒Rf−Tf/2
Rrin=Rr−Tr/2
で表すことができ、旋回外側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径は、それぞれ、
Rfout≒Rf+Tf/2
Rrout=Rr+Tr/2
で表すことができる。Tf、Trは、それぞれ、左右前輪12FL、FR、左右後輪12RL、RRのホイールトレッドである。
【0039】
その結果、旋回内側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径の差(軌道差)ΔRin、旋回外側の前輪12F、後輪12Rの旋回半径の差ΔRoutは、それぞれ、式
ΔRin≒Rf−{Rr+(Tf−Tr)/2}
=(Rf−Rr)−(Tf−Tr)/2・・・(4)
ΔRout≒Rf−{Rr−(Tf−Tr)/2}
=(Rf−Rr)+(Tf−Tr)/2・・・(5)
で、表される大きさとなる。
一方、前輪側、後輪側の旋回半径の差は、式
ΔR=Rf−Rr
で表されるため、(4)式より、旋回内輪の前輪12F、後輪12Rの旋回半径差ΔRinは、前輪側、後輪側の旋回半径の差(Rf−Rr)よりトレッド差(Tf−Tr)の1/2だけ小さくなり、(5)式より、旋回外輪の前輪12F、後輪12Fの旋回半径差ΔRoutは、前輪側、後輪側の旋回半径の差(Rf−Rr)よりトレッド差(Tf−Tr)の1/2だけ大きくなることがわかる。
図15に示すように、上記式から、前輪側の旋回半径(中心点PFの旋回半径)Rf(前輪12の旋回半径はRfin、Rfout)は、後輪側の旋回半径(中心点PRの旋回半径)Rr(後輪の旋回半径Rrin、Rrout)より相対的に大きくなり、前輪舵角の絶対値δWが大きいほど旋回半径が小さくなることがわかる。また、旋回半径の差、すなわち、軌道差は、前輪舵角の絶対値δWが大きく、旋回半径Rが小さいほど大きくなることがわかる。
【0040】
なお、前輪側の旋回半径Rf、後輪側の旋回半径Rrは、図24に示すように、車両の重心Gの旋回半径Rgと、重心Gと前輪側の中心点PFとの間の距離LWf,重心Gと後輪側の中心点PRとの間の距離LWrとから、下式に従って取得することもできる。
Rf=√(Rg2+LWf2)
Rr=√(Rg2+LWr2)
LW=LWf+LWr
この場合、車両の重心Gの旋回半径Rgは、ステアリングホイールの操舵角度の絶対値δと、車両の走行速度Vとから、式
Rg=V/(dδ/dt)
に従って求めることができる。
また、旋回半径Rgは、式
Rg=LW・(1+K・V2)/(dδ/dt)
に従って求めることもできる。ここで、Kは、スタビリティファクタであり、前輪、後輪の等価コーナリングパワーをKf,Krとし、車両の質量をmとした場合に、式
K=m(LWr・Kr−LWf・Kf)/(2・LW2・Kf・Kr)
に従って求めることができる。
さらに、車両の重心Gの旋回半径Rgは、ナビゲーションシステムからの道路情報に基づいて取得することもできる。道路のコーナの曲率半径を表す情報に基づけば、車両の旋回半径を求めることができる。
【0041】
図13(b)に示すように、前輪12Fが通る路面と後輪12Rが通ると予測される路面とが重なる部分の幅方向の長さΔWTは、前輪側の旋回半径Rf、後輪側の旋回半径Rrを考えた場合に、式
ΔWT=(Rr+WT/2)−(Rf−WT/2)
=WT−(Rf−Rr)
=WT−ΔR・・・(6)
で表される長さとなる。後輪12Rのタイヤの外周側の縁の旋回半径から前輪12Fのタイヤの内周側の縁の旋回半径を引くことによって求めることができる。
(6)式から、重なり部の幅ΔWTは、タイヤ幅WTから前輪側、後輪側の旋回半径差(軌道差)ΔRを引いた値となることがわかる。この式から、軌道差がタイヤの幅より小さい場合には、重なり部分が存在するが、軌道差がタイヤの幅以上になると、重なり部分が存在しないことがわかる。
なお、旋回半径を、それぞれ、旋回内側、旋回外側のそれぞれについて求めた場合には、(6)式において、ΔRの代わりに、それぞれ、ΔRin、ΔRoutを代入すればよい。
したがって、ラップ率Lapは、式
Lap=(WT−ΔR)/WT=1−ΔR/WT
に従って求めることができる。
【0042】
ラップ率Lapは、図16(a)に示すように、軌道差ΔRが大きくなると小さくなる値である。軌道差ΔRが大きくなると、前輪12のタイヤWFが通る路面と後輪12のタイヤWRが通る路面との重なり部分ΔWTが少なくなるからである。また、前輪舵角の絶対値δWが設定値δW0に達すると、ラップ率Lapが0になり、その後、前輪舵角の絶対値δWの増加に伴ってラップ率は0より小さい値となる。ラップ率Lapが0以下であるということは、前輪12Fが通る路面と後輪12Rが通る路面との重なり部分が存在しないということである。前述のように、前輪側と後輪側の軌道差ΔRがタイヤの幅WT以上になると、重なり部分がなくなり、ラップ率は0以下となる。
また、プレビューゲインGは図16(b)の実線が示すように、ラップ率Lapが設定値Lapth以上である場合には1とされる。設定値Lapthは、重なりが多いため、旋回中であっても、有効にプレビュー制御が行われ得ると考えられる値であり、例えば、0.8近傍の値とすることができる。ラップ率Lapが、設定値Lapthより小さくなると、ラップ率Lapの減少に伴ってプレビューゲインも小さい値とされる。重なりが少なくなるのに伴ってプレビューゲインが小さくされるのである。そして、ラップ率Lapが0となると、プレビューゲインも0とされる。ラップ率Lapが0以下である場合には、プレビュー制御が行われることがない。このラップ率Lapとプレビューゲインとの関係は、予めテーブル化されて、記憶されている。
【0043】
なお、プレビューゲインは、図16(b)の破線が示すように、ラップ率Lapの低下に伴って漸減させられる値とすることもできる。
また、テーブルは、前輪舵角の絶対値δWとプレビューゲインとの関係を表すものとすることができる。
【0044】
通常制御は、図21のフローチャートで表される通常制御プログラムの実行に従って行われる。本プログラムは、左右前輪12FL、FRの各々について、予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ101(以下、単に、S101と略称する。他のステップについても同様とする)において、制御対象輪(例えば、左前輪12FLが制御対象輪である場合について説明する)のばね上加速度GUが検出され、S102において、車高(ばね上ばね下ストローク)Hが検出され、S103、104において、左前輪12FLの上下方向力発生装置24FLに対応する制御指令値が作成される。具体的には、ばね上加速度GUを積分することによりばね上絶対速度VUが求められ、車高Hを微分することによりばね上ばね下の相対速度(ストローク変化)ΔH(VS)が求められ、これらから、ばね下絶対速度VLが求められる。そして、ゲインG0、減衰係数C、ばね下絶対速度VLから目標減衰力FB*が求められ、目標回転角度θM*が取得され、実際の回転角度θと目標回転角度θM*との差である回転角偏差Δθから供給電流iが取得される。
そして、S105において、ばね下絶対速度VLに基づいて、ばね下部材46の上下振動の周波数fが取得される。絶対速度が0である場合には、ばね下部材46が振幅の絶対値が最大となる位置にあるのであり、このことに基づけば、周波数を取得することができる。S106において、周波数fが、予め定められた遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。左前輪12FLの実際の上下振動の周波数fが小さく、遅れ対応周波数fD以下である場合には、制御は有効であるため、S107において、制御指令値が出力される。
それに対して、実際の左前輪12FLの上下方向の振動の周波数fが遅れ対応周波数fDより高周波である場合には、制御が有効であると考えられないため、S106の判定がNOとなり、制御指令値が出力されることがない(上下方向力発生装置24FLの制御は行われない)。
【0045】
S107の制御指令値の出力は、図22のフローチャートに従って行われる。S121において、目標減衰力FB*の絶対値が増加しているか否かが判定される。増加している場合には、S122において、供給電流iを表す制御指令値がインバータ176FLに出力される。
それに対して、増加していない場合、すなわち、減少しているか、ほぼ一定である場合には、S123において、目標減衰力FB*の絶対値がしきい値Fth以上であるか否かが判定される。しきい値Fth以上である場合には、S124において、ブレーキモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。しきい値Fthより小さい場合には、S125において、フリーモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。
図23に示すように、減衰力の絶対値を大きくする場合には、電動モータ140が通電状態とされるが、減衰力の絶対値を小さくする場合には、電流が供給されない。車輪12に加えられる荷重により、ばね上ばね下の間を基準状態に戻そうとする力が、第2ロアアーム46、L字形バー120を介してアクチュエータ124に加えられるため、供給電流の制御を行わなくても、基準位置に戻される。また、アクチュエータ124は正逆効率積が小さく、外部入力の影響を受け難いものであるが、フリーモードが設定されれば、外部入力によって作動させられ基準位置に戻される。このように、減衰力の絶対値を小さくする場合に電流が供給されないようにすれば、消費電力の低減を図ることができる
また、目標減衰力FB*の絶対値が大きい場合には、ブレーキモードが設定されるため、外力によって、急激に減衰力の絶対値が小さくされることを回避することができる。
さらに、目標減衰力FB*の絶対値を小さくする場合には、エネルギ回生を行うことも可能であり、そのようにすれば、さらに、エネルギ効率を向上させることができる。
また、目標減衰力FB*の絶対値を小さくする場合に通電状態とされないため、アクチュエータ124の回転方向を、電流制御が行われる場合に比較して、速やかに逆向きにすることが可能となり、応答性の低下を抑制することができる。
【0046】
なお、制御対象輪の上下方向の振動の周波数は、ばね上絶対速度の変化に基づいて取得されるようにしたり、ばね上あるいはばね下の変位に基づいて取得されるようにしたりすることができる。また、フーリエ変換等を利用して取得されるようにすることもできる。
【0047】
プレビュー制御は、図17のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムの実行に従って行われる。左右後輪12RL、RR毎に、それぞれ、予め定められた設定時間毎に実行される。左後輪12RLの上下方向力発生装置24RLは、左前輪12FLの上下方向の挙動に基づいて制御され、右後輪12RRの上下方向力発生装置24RRは、右前輪12FRの上下方向の挙動に基づいて制御される。
S1において、制御対象輪(例えば、左後輪12RLが制御対象輪である場合について説明する)と同じ側の前輪(左前輪)12FLのばね上加速度GUが検出され、S2において、車高Hが検出される。S3において、前述のように、これらに基づいてばね下絶対速度VLが取得される。そして、S4において、プレビューゲインGが決定され、S5において、決定されたプレビューゲインGが0であるか否かが判定される。
プレビューゲインが0より大きい場合には、S6〜10においてプレビュー制御が行われる。S6において、プレビューゲインG、減衰係数C、ばね下絶対速度VLから目標減衰力FB*が取得され、目標減衰力FB*から目標回転角度θM*が取得され、回転角偏差Δθから供給電流iが取得される。S7において、S4において求められた余裕時間TPから待ち時間TQが求められる。S8において、余裕時間TPと制御遅れ時間TDとを比較して、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合は、S9において、供給電流量iが記憶される。制御指令値は待ち時間TQが経過した後に出力される。
それに対して、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合には、S10において、制御指令値が直ちに出力される。
プレビューゲインが0である場合には、S11において、前述の図21のフローチャートで表される通常制御と同様の制御が行われる。制御対象輪が左後輪12RLである場合には、左後輪12RLの上下方向の挙動に基づいて上下方向力発生装置24RLが制御されることになる。
また、S9,10の制御指令値の出力は、図22のフローチャートに従って、通常制御における場合と同様に行われる。目標減衰力FB*が減少傾向にある場合には、電動モータ140には通電されないため、通電される場合に比較して、消費電力の低減を図ることができる。
【0048】
なお、S9においては、待ち時間TQの経過後に、図22のフローチャートに従って、通常制御と同様の実行が行われるようにしても、予め制御指令値を作成し、制御指令値自体を記憶し、待ち時間TQの経過後に、その制御指令値が出力されるようにすることもできる。
【0049】
S4のプレビューゲインは、図18のフローチャートに従って決定される。
本実施例においては、車両が直進走行状態にある場合には、車速(余裕時間)に基づいて決定された車速対応ゲイン(余裕時間対応ゲインと称することもできる)GVがそのままプレビューゲインとして使用される。旋回状態にある場合には、旋回状態で決まる旋回時ゲインGRと車速対応ゲインGVとの相乗平均、すなわち、これらの積GR・GVを1/2乗した値{√(GR・GV)}がプレビューゲインGとされる。また、操舵車輪(前輪12F)の舵角の絶対値δWが設定値以下である場合には、直進走行状態にあるとされ、設定値より大きい場合には、旋回状態にあるとされる。設定値は、車両が直進走行中であるとみなし得る大きさである。
S21において、車速対応ゲインGVが決定され、S22において前輪12Fの舵角が検出され、S23において、舵角の絶対値δWが設定値δMIN以下であるか否かが判定される。設定値δMIN以下である場合には、旋回状態を考慮する必要がないため、S24において、車速対応ゲインGVがプレビューゲインとされる(G←GV)。
それに対して、前輪舵角の絶対値δWが設定値δMINより大きい場合には、S25において、前後左右の車輪12FL、FR、RL、RRのうちの少なくとも1輪のスリップ率が予め定められた設定スリップ率以上であるか否かが判定される。少なくとも1つの車輪の前後方向のスリップ率(制動スリップ、または、駆動スリップ)が予め定められた第1設定スリップ率以上であることと、横方向のスリップ率が予め定められた第2設定スリップ率以上であることとの少なくとも一方が満たされた場合には、判定がYESとなる。旋回時ゲインが決定されないで、S24において、車速対応ゲインGVがプレビューゲインGとされる。第1,第2設定スリップ率は、旋回半径の推定精度が低くなる大きさであり、予め設定された固定値である。判定がNOである場合には、S26において、旋回時ゲインGRが決定され、S27において、車速対応ゲインGV、旋回時ゲインGRの相乗平均がプレビューゲインGとして決定される。
【0050】
S21の車速対応ゲインの決定は、図19のフローチャートに従って実行される。
S51において、車速Vが取得され、S52において、車速VとホイールベースLWとから余裕時間TPが取得され、S53において、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上であるか否かが判定される。制御遅れ時間TD以上である場合には、S54において、車速対応ゲインGVが1とされる。
それに対して、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合には、さらに、効果有り時間TLより短いか否かが判定される。効果有り時間TLより短い場合には、S56において、車速対応ゲインGVが0とされる。余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短いが、効果有り時間TL以上である場合には、S57においてテーブル値に決定される。余裕時間TPの減少に伴って車速対応ゲインGVが小さくなる値に決定されるのである。車速対応ゲインGVは、左後輪12RLに対しても、右後輪12RRに対しても同じ大きさとなる。
【0051】
S25の旋回時ゲインの決定は、図20のフローチャートに従って実行される。
S71において、前輪側(点PF)の旋回半径、後輪側(点PR)の旋回半径が求められ、S72において旋回半径差(軌道差)が取得される。制御対象輪である左後輪12RLが旋回外輪である場合にはΔRoutが取得され、左後輪12RLが旋回内輪である場合にはΔRinが取得される。そして、S73において、ラップ率Lapが求められる。
S74〜78において、ラップ率Lapに基づいて旋回時ゲインが決定される。S74において、ラップ率Lapが設定値Lapth以上であるか否かが判定される。設定値Lapth以上である場合には、S75において、旋回時ゲインGRが1とされる。ラップ率Lapが設定値Lapthより小さい場合には、0より大きいか否かが判定され、0より大きい場合には、S77において、テーブル値が旋回時ゲインGRとされ、0以下である場合には、S78において、0とされる。
【0052】
なお、ラップ率Lapは、左後輪12RL、右後輪12RRの各々について取得し(旋回内輪、旋回外輪の各々について取得し)、その取得されたラップ率Lapを用いて旋回時ゲインGRを取得しても、旋回内輪のラップ率Lapinと旋回外輪のラップ率Lapoutとの平均値を用いて旋回ゲインGRを取得してもよい。前者の場合には、左右後輪についてそれぞれプレビューゲインの値が異なることもある。
【0053】
このように、本実施例においては、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rについてプレビュー制御が行われるため、アクチュエータ124Rの制御遅れが大きくても、遅れを0または小さくすることができ、後輪12RL、RRの上下方向の振動を良好に抑制することができる。
また、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合や、前輪12Fが通った路面と後輪12Rが通る路面との重なりが少ない場合にプレビュー制御が行われると、かえって、乗り心地が悪くなるおそれがあるが、プレビューゲインGが車速や旋回状態に基づいて1より小さい値に決定されるため、プレビュー制御が行われることにより、乗り心地が悪くなることを回避し、後輪12RL、RRの上下方向の振動を良好に抑制することができる。
さらに、通常制御は、アクチュエータ124の制御遅れ時間TDが1/8位相に相当する振動より低周波の振動が生じた場合に行われ、高周波の振動が生じた場合には行われないが、プレビュー制御は、アクチュエータ124の応答性で決まる制御可能な周波数以下の振動であれば、行われる。その結果、アクチュエータ124に対しては、プレビュー制御が行われるようにすれば、より高周波数の振動を抑制することが可能となる。
また、上下方向力発生装置24の作用状態においては、周波数の大きい振動等は、L字形バー122の弾性変形により吸収することが可能となる。
【0054】
以上のように、本実施例においては、ばね上加速度センサ196,車高センサ198,サスペンションECU168に含まれる上下方向力発生装置ECU170の図17のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラム、図21のフローチャートで表される通常制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により上下方向力制御装置が構成される。本実施例においては、上下方向力発生装置24は減衰力発生装置として機能し、上下方向力制御装置が減衰力制御部として機能する。減衰力制御部は、ばね下運動依拠上下方向力制御部でもある。
また、上下方向力制御装置のうち、図17のプレビュー制御プログラムのS4を記憶する部分、実行する部分、図12(b)のマップで表されるテーブル、図16(b)のマップで表されるテーブルを記憶する部分等によりゲイン決定部が構成される。そのうちの、図12(b)のの実線あるいは破線で表されるテーブルを記憶する部分、図19のフローチャートのS56,57を記憶する部分、実行する部分等によりゲイン減少部が構成され、そのうちの、図12(b)テーブルを記憶する部分、図19のフローチャートのS56を記憶する部分、実行する部分等により請求項3に記載の0決定部が構成される。さらに、図16(b)のテーブルを記憶する部分、図18のフローチャートのS26を記憶する部分、実行する部分等により旋回時ゲイン決定部が構成される。なお、請求項4に記載の0決定部は、図12(b)の一点鎖線で表されるテーブルを記憶する部分、S57を記憶する部分、実行する部分等によって構成される。
【0055】
さらに、図20のフローチャートのS71〜73を記憶する部分、実行する部分等により軌跡対応重なり取得部が構成される。軌跡対応重なり取得部はラップ率取得部でもある。そのうちのS71を記憶する部分、実行する部分等により旋回半径取得部が構成され、図6(b)のテーブルを記憶する部分、図20のフローチャートのS77を記憶する部分、実行する部分等によりゲイン減少部が構成される。
【0056】
なお、車速対応ゲインGVを取得する際に、余裕時間TPを求めることは不可欠ではなく、車速Vに基づいて取得することができる。前述のように、車速とゲインとの関係を表すテーブルを作成することができるのである。
旋回時ゲインGRを取得する際も同様に、ラップ率を求めることは不可欠ではなく、重なり部の幅ΔWTや軌道差(旋回半径差)に基づいて取得することもできる。
また、上記実施例においては、旋回中において、車速対応ゲインGVと旋回時ゲインGRとの相乗平均が、プレビューゲインGとされたが、そのようにすることは不可欠ではない。旋回中には、旋回時ゲインGRがプレビューゲイン(GR→G)とされ、直進中には、車速対応ゲインGVがプレビューゲインGとされる(GV→G)ようにすることもできる。この場合には、S26のステップが不要となる。
さらに、通常制御、プレビュー制御の少なくとも一方において、減衰力FB*が、スカイフック理論に基づいて制御されるようにすることもできる。
また、目標減衰力FB*を、ばね上絶対速度VUに応じた値としたり、ばね上ばね下相対速度VSに応じた値としたりすることもできる。それらの場合には、ばね下絶対速度VLに基づく制御が行われる場合と、目標減速度FB*を取得する際の規則を変更することもできる。
FB*=−G・C・VU
FB*=−G・C・VS
【0057】
さらに、上記実施例においては、上下方向力発生装置24の制御により減衰力が加えられる場合について説明したが、ばね下部材46の変位XLに応じた弾性力(上下方向力)が加えられるようにすることもできる。
上下方向力の目標値(目標弾性力)FB*は、式
FB*=G・K・XL
に従って求められる。
ばね下部材46の変位(以下、ばね下変位と略称する)XLが基準位置より下方である場合には、目標弾性力FB*の向きも下方とされる。ばね上ばね下間の距離が大きくなると、コイルスプリング20の弾性力が小さくなる。そのコイルスプリング20の弾性力の減少分を、上下方向力発生装置24によって発生させることにより、ばね下部材46の変位に伴うばね上部材14の変位が抑制される。なお、電動モータ140の回転に伴うアーム部132の回動により、ばね上ばね下間の距離がばね下変位XLに応じた距離となる。
ばね下変位XLが基準位置より上方である場合には、目標弾性力FB*の向きは上方とされる。ばね上ばね下間の距離が小さくなると、コイルスプリング20の弾性力が増加するため、その増加分に応じた逆向きの力を、上下方向力発生装置24によって発生させて、ばね下部材46の上下方向の変位に伴うばね上部材の変位を抑制するのである。
【0058】
ばね下変位XLは、ばね下絶対速度VLを積分することによって求めたり、ばね上加速度GUを2回積分した値とばね上ばね下間のストロークHとから求めたりすることができる。KはL字形のバー122のばね定数であり、シャフト部130の剪断係数、断面二次モーメント、アーム部132の曲げ剛性等に基づいて決まる固定値である。
この場合の一制御例を図25、26のフローチャートに基づいて説明する。上記実施例における場合と同じ実行(図17、21のフローチャートで表されるプログラムと同じ実行)が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。
左前輪12FLが制御対象輪である場合において、通常制御は、図26のフローチャートで表される通常制御プログラムの実行に従って行われる。S103bにおいて、左後輪12RLのばね上加速度GUと車高Hから、上述のように、左後輪12RLのばね下変位XLが取得され、S104bにおいて、目標弾性力FB*が求められ、それに応じて目標回転角度θM*が求められ、供給電流iが求められる。そして、S105、106において、左前輪12FLのばね下部材46の実際の振動の周波数fが取得され、制御遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。周波数は、ばね下絶対速度に基づいて取得しても、ばね下変位に基づいて取得してもよい。実際の振動の周波数fが、制御遅れ対応周波数fD以下である場合には、S107において、供給電流i、目標弾性力FB*に基づいて決まる制御指令値が上記実施例における場合と同様に出力される。
【0059】
制御対象輪が左後輪12RLである場合において、プレビュー制御は、図25のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムの実行に従って行われる。S3bにおいて、左前輪12FLのばね上加速度センサ196による検出値と、車高Hとからばね下変位XLが取得される。そして、プレビューゲインが0より大きい場合には、S6bにおいて、ばね下変位XL、弾性係数K、プレビューゲインGから、目標弾性力(上下方向力の目標値)FB*が取得され、目標弾性力FB*が得られるように、目標回転角度θM*が求められ、供給電流iが求められる。そして、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合には、待ち時間TQの経過後に、制御指令値が後輪12FRの上下方向力発生装置24のインバータ178に出力され、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短い場合には、制御指令値が直ちに出力される。
プレビューゲインが0である場合には、S11bにおいて、通常制御が行われる。
このように、プレビュー制御は、減衰力の制御に限らず、弾性力の制御にも適用することができる。
本実施例においては、上下方向力発生装置が弾性力発生装置として機能し、上下方向力制御装置が弾性力制御部として機能する。
【0060】
なお、目標弾性力FB*は、ばね上部材14の変位XUに応じた値としたり、ばね上ばね下の相対変位(車高)XSに応じた値としたりすることもでき、上記実施例における場合と同様のプレビュー制御が行われるようにすることができる。
FB*=G・K・XU
FB*=G・K・XS
【0061】
また、上記実施例においては、上下方向力発生装置24を制御することにより上下方向力が制御されるようにされていたが、ショックアブソーバ22の制御によって減衰力の制御が行われるようにすることもできる。本実施例においては、スカイフック理論に基づいて減衰力の制御が行われる場合について説明する。
その場合の制御例を図27,28のフローチャートに基づいて説明する。本実施例においては、上記実施例(図17,21のフローチャート)における場合と同じ実行が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。また、本実施例においては、ばね上部材14の振動の周波数が制御遅れ対応周波数以下であるか否かが判定される。
図28のフローチャートで表される通常制御において、制御対象輪が左前輪12FLである場合には、左前輪12FLのばね上加速度GU,ばね上ばね下間の距離Hが取得され、S105bにおいて、ばね上部材14の周波数fが取得され、S106bにおいて、取得された周波数fが制御遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。周波数fは、ばね上加速度に基づいて取得されるようにしたり、ばね上絶対速度に基づいて取得されるようにしたりすることができる。例えば、上記実施例における場合と同様に、絶対速度が0である場合に振幅の絶対値が最大の位置にあることを利用して取得したり、フーリエ変換を利用して取得したりすること等ができる。そして、制御遅れ対応周波数fD以下である場合には、S106bの判定がYESとなり、S103dにおいて、ばね上絶対速度VU、ばね上ばね下の相対速度VSが取得される。そして、S104d〜104fにおいて、目標減衰係数C*が求められる。S104dにおいて、ばね上絶対速度VUと、ばね上ばね下間の相対速度VSとの積の値が正であるか否かが判定される。正である場合(VU・VS>0)には、S104eにおいて、目標減衰係数C*が(G0・C・VU/VS)とされ、積の値が負である場合(VU・VS<0)には、S104fにおいて、目標減衰係数C*が小さい値CMINとされる。G0は通常制御のゲインであり、Cは定数である。そして、S104gにおいて、目標減衰係数C*が実現される供給電流iが求められ、S107において、制御指令値が出力される。
本実施例においては、減衰係数の増加・減少とは関係なく、電動モータ90に電流が供給される。そのため、供給電流iが制御指令値に対応し、制御指令値iがインバータ222に出力される。電動モータ90における消費電力は小さいからである。
【0062】
図27のフローチャートで表されるプレビュー制御において、制御対象輪が左後輪12RLである場合には、左前輪12FLのばね上加速度GU、ばね上ばね下ストロークHが取得され、S3dにおいて、ばね上絶対速度VU、相対速度VSが取得される。そして、S4において、上記実施例における場合と同様にプレビューゲインが決定される。決定されたプレビューゲインGが0でない場合には、上述の場合と同様に、S6d〜6hにおいて、目標減衰係数が決定される。ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値の符号が正である場合には、目標減衰係数がC*=G・C・VU/VSとされ、負である場合には、CMINとされるのである。そして、S6gにおいて、目標減衰係数C*に基づいて供給電流iが求められる。以下、上記実施例における場合と同様に、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合には、制御指令値iが待ち時間TQの経過後に出力され、制御遅れ時間TDより短い場合には、直ちに出力される。
それに対して、プレビューゲインGが0である場合には、S11dにおいて、図28のフローチャートに従って左後輪12RLの上下方向の挙動に基づいて左後輪12RLの減衰特性制御装置56が制御される。目標減衰特性C*は、左後輪12RLのばね上絶対速度VUとばね上ばね下相対速度VSとの積の値で決まる大きさに決定される。
【0063】
本実施例と上記実施例とを比較(制御対象が減衰特性制御装置56である場合と上下方向力発生装置24である場合とを比較)すると、制御対象が減衰特性制御装置56である場合の方が、制御遅れ時間が短く、制御可能な周波数が高い。そのため、制御遅れ対応周波数fDが大きく(より高周波側の値)なり、制御遅れ時間TDが短くなり、制御効果有り時間TLが短くなる。
したがって、上下方向力発生装置24の制御における場合より高周波数の振動が生じても、通常制御が行われることになる。通常制御において、効果的にサスペンション制御が行われる周波数領域が広くなるのである(図28のフローチャートのS106bの判定がYESとなる場合が多くなる)。また、上下方向力発生装置24の制御における場合より車速が大きくても、プレビューゲインが1とされる。プレビュー制御が有効に行われる車速の範囲が広くなるのである。さらに、上記実施例における場合より車速が大きくても、プレビュー制御が行われる(図27のフローチャートのS5の判定がYESとなる場合が少なくなる)。
【0064】
また、車速Vが大きい場合には、上下方向力発生装置24についてプレビュー制御が行われなくても、ショックアブソーバ22についてはプレビュー制御が行われることになり、ショックアブソーバ22の制御により、後輪12Rの上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
同様に、高周波数の振動が生じて、上下方向力発生装置24の制御が行われなくてもショックアブソーバ22の制御が行われるのであり、高周波数の振動が生じた場合においても、上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0065】
なお、ショックアブソーバの制御は、図29に概念的に示すように、車輪12を保持するばね下部材280とばね上部材282との間に、コイルスプリング284と、ショックアブソーバ286とが並列に設けられ、上下方向力発生装置24が設けられていないサスペンションに適用することができる。ショックアブソーバ286の減衰特性制御装置288は、サスペンション制御ユニット290の指令に基づいて上記実施例における場合と同様に制御される。
【0066】
また、本発明は、図30に示すサスペンションに適用することもできる。本実施例においては、ばね下部材300と、ばね上部材302との間に、コイルスプリング310と、液圧シリンダ装置312とが並列に設けられる。液圧シリンダ装置312は、液圧シリンダ314、ポンプ316、電動モータ318等を含む。液圧シリンダ314は、ハウジング320とハウジング320に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン322とを含み、ピストン322のピストンロッド324がばね下部材300に揺動可能に連結され、ハウジング320がばね上部材302に揺動可能に連結される。ハウジング320の内側のピストン322によって仕切られた2つの液室330,332の間には、ポンプ316が接続され、ポンプ316によって、2つの液室330,332の一方から作動液を汲み上げて他方に供給したり、他方から作動液を汲み上げて一方に供給したりすることができる。それによって、液室330,332の液圧およびピストン322のストロークが制御される。なお、液圧シリンダ314と並列に作動液補償装置340が設けられる。
【0067】
電動モータ318はコンピュータを主体とするサスペンションECU350からの指令に基づいて制御される。サスペンションECU350は、入出力部352,記憶部354,実行部356等を有するコンピュータを主体とするコントローラを含み、入出力部352には、左右前後輪12FL、FR、RL、RRに対応してそれぞれ設けられた車高センサ(上下ストロークセンサ)360,ばね上加速度センサ362等が接続されるとともに各輪毎に対応して設けられたポンプモータ318が図示しない駆動回路を介して接続される。
記憶部354には、複数のプログラム、テーブル等が記憶される。
【0068】
本実施例においては、液圧シリンダ装置312の電動モータ318の制御により、ばね下絶対速度に応じた弾性力と、スカイフック理論に基づく減衰力との和の上下方向力が発生させられる。上下方向力は、液圧シリンダ装置312の液圧に対応する。
また、上記実施例における場合と同様に、車輪に加えられる荷重は、スプリング310と液圧シリンダ装置312とが受けるために、基準位置からのストロークと液圧シリンダ装置312の液圧との間には一定の関係がある。そのため、上下方向力の目標値が決定されれば、それに応じたストロークが実現されるように、ポンプモータ318が作動させられる。本実施例においては、上下方向力の目標値FB*は、ばね下部材300の変位に応じた弾性力と、ばね上部材302の絶対速度に応じた減衰力との和とされる。
【0069】
その場合の制御例を図31,32のフローチャートに基づいて説明する。本実施例においては、上記実施例(図17,21のフローチャート、図27,28のフローチャート)における場合と同じ実行が行われるステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。
制御対象輪が左後輪12RLである場合には、図31のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムが実行される。左前輪12FLのばね上加速度GU、ばね上ばね下ストロークHが取得され、S3eにおいて、ばね上絶対速度VU、相対速度VS、ばね下絶対速度VLが取得される。そして、プレビューゲインGが上記実施例における場合と同様に決定され、プレビューゲインGが0でない場合には、S6dにおいて、ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値の符号が正であるか負であるかが判定され、正である場合には、S6hにおいて、減衰係数CがCMID(予め定められた値)とされ、負である場合には、S6fにおいて、減衰係数CがCMIN(予め定められた値)とされる。そして、S6iにおいて、式
FB*=(G・K・XL)+(−G・C・VU)
に従って上下方向力の目標値FB*が決定され、上下方向力の目標値FB*に応じて電動モータ318RLへの供給電流iが決定される。上式において、Kはスプリング310のばね定数Kである。
以下、上記実施例における場合と同様に、余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合には、制御指令値iが待ち時間TQの経過後に出力され、制御遅れ時間TDより短い場合には、直ちに出力される。
本実施例においては、電動モータ318における消費電力が大きいため、上下方向力発生装置24の制御における場合と同様に、上下方向力の目標値FB*の絶対値が保持または減少させられる場合には、電動モータ318には電流が供給されないようにすることが望ましい。
【0070】
それに対して、プレビューゲインGが0である場合には、S11eにおいて、左後輪12RLの上下方向の挙動に基づいて左後輪12RLの電動モータ318RLが制御されるのであり、図32のフローチャートに従って通常制御が行われる。
S103eにおいて、ばね上加速度、車高に基づいてばね下変位XL、ばね上絶対速度VUが取得され、S104d、104f、104hにおいて、同様に、減衰係数が決定され、S104iにおいて上下方向力の目標値FB*が、式、
FB*=(−G0・K・XL)+(−G0・C・VU)
に従って決定され、目標値FB*で決まる供給電流iが決定される。G0は、通常制御のゲインであり、固定値である。
そして、S105c,106cにおいて、左後輪12RLのばね下絶対速度VLに基づいて取得された周波数と、ばね上絶対速度VUに基づいて取得された周波数との大きい方が、制御遅れ対応周波数fD以下であるか否かが判定される。制御遅れ対応周波数以下である場合には、制御指令値が直ちに出力される。
なお、S105c,106cにおいて、周波数は、ばね下絶対速度に基づいて取得しても、ばね上絶対速度に基づいて取得してもよい。
【0071】
このように、本実施例においては、ばね下変位に応じた弾性力とばね上絶対速度に応じた減衰力との両方合わせた大きさの上下方向力が加えられる。ばね下の振動の抑制制御とスカイフック制御との両方を実現することが可能となり、車輪12の上下方向の振動を良好に抑制することができ、乗り心地の向上を図ることができる。
また、後輪12Rの液圧シリンダ装置312Rにおいては、プレビュー制御が行われるため、制御遅れを小さく、あるいは、0とすることができ、後輪12Rの上下方向の振動を良好に抑制することができる。
【0072】
なお、上下方向力の目標値FB*は、上述の弾性力と減衰力との和とする必要は必ずしもなく、下式のいずれか一方で決まる大きさとすることもできる。
FB*=G・K・XL
FB*=−G・C・VU
また、その他、目標値FB*を、式
FB*=−G・C・VL
FB*=G・K・XU
FB*=−G・C・VS
に従って決まる値等とすることもでき、これらの2つ以上の和の値を目標値とすることもできる。
【0073】
さらに、本発明は、図33に示すサスペンションの制御にも適用することができる。
本実施例においては、上下方向力発生装置370がL字形バーの代わりに直線状のロッド372を含む。直線状のロッド372の一端部がアクチュエータ374に連結され、他端部がリンク部材378を介してばね下部材380に連結される。アクチュエータ374はばね上部材としての車体382に取り付けられており、ばね上部材382とばね下部材380との間に、直線状のロッド372が配設されることになる。ばね上部材382とばね下部材380との間には、コイルスプリング384が設けられ、コイルスプリング384と弾性部材としての直線状のロッド372とが並列に設けられることになる。
アクチュエータ374は、電動モータと減速機とを含み、直線状のロッド372が、減速機を介して電動モータの出力軸に連結され、電動モータの駆動によりモータトルクTMが加えられる。また、直線状のロッド372において、モータトルクTMと曲げモーメントL・FB*とが等しくなるため、反力FB*は、式
FB*=TM/L
で求められる大きさとなる。反力FB*は、上下方向力発生装置370によって、ばね下部材380に加えられる力FB*の反力である。
アクチュエータ374は、インバータ390を介して、コンピュータを主体とするコントローラ392に接続される。コントローラ392には、上記実施例における場合と同様に、ばね上加速度センサ、車高センサ、舵角センサ、操舵角センサ、ブレーキECU等が接続されており、コントローラ392の指令に基づいてインバータ390が制御され、電動モータ374の出力トルクが制御される。本実施例においては、コントローラ392とインバータ390とによって、サスペンション制御ユニットが構成される。
上下方向力の目標値FB*は、上記各実施例における場合と同様に適宜決定することができ、電動モータ374のトルクTMを制御することにより、上下方向力を制御することができる。
【0074】
なお、上記各実施例においては、前輪側部分の上下方向の挙動を検出するセンサ196F,198Fによる検出値に基づいて後輪12Rのサスペンションに対してプレビュー制御が行われる場合について説明したが、本発明は、図34に示すように、フロントバンパ400に設けられた路面センサ402による検出値に基づいて前輪12Fのサスペンション、後輪12Rのサスペンションに対してプレビュー制御が行われる場合にも同様に適用することができる。
路面センサ402は、例えば、超音波により、路面の凹凸を検出するものとすることができる。送信した超音波を受信し、その超音波を受信するまでの間の時間(路面によって反射して戻るまでの時間)に基づいて路面までの距離を取得し、路面の凹凸を取得する。路面センサ402は、図35に示すように、バンパ400の右前輪12FRの前方と、左前輪12FLの前方との両方にそれぞれ設けられる(402R、402L)。路面センサ402R、Lによって検出される路面の部分(路面の検出対象部)は、車両の停止中において、路面センサ402R、Lが設けられた位置のほぼ真下に対応する部分である。
したがって、プレビューゲインを取得する際には、車両の路面センサ402が設けられた位置から制御対象輪までの距離{制御対象輪が前輪である場合には、距離LP、制御対象輪が後輪である場合には距離(LP+LW)}と車両の走行速度とで決まる余裕時間やその路面の検出対象部と制御対象輪が通る路面との重なりが問題となる。
【0075】
制御対象輪が前輪12Fである場合において、路面センサ402R、Lと左右前輪12FL、FRとの間の前後方向の距離は、車両の直進状態において、一対の路面センサ402を通る線(車両の幅方向に延びる線)と左右前輪12FL、FRの車軸の中心線が通る線との間の前後方向の距離LPとなる。したがって、この距離LPを車速で割った値が余裕時間TPである。
TP=LP/V
制御対象輪が後輪である場合においては、上述の距離LPとホイールベールLWとの和が、路面センサ402R、Lと左右後輪12RL、RRとの間の前後方向の距離に対応する。その結果、余裕時間TPは、式
TP=(LP+LW)/V
で表される時間となる。
以下、上記実施例における場合と同様に、車速対応ゲインGVを取得することができる。
【0076】
前輪側の旋回半径、後輪側の旋回半径および旋回内側、旋回外側の前輪、後輪の旋回半径は、上記実施例における場合と同様に求めることができる。
また、検出対象部の軌跡は、路面センサ402R、Lの軌跡と同じであると考えることができる。路面センサ402の軌跡は、路面センサ402R、L各々における予め定められた点の軌跡として取得したり、路面センサ402R、Lの軌跡の中間の軌跡として取得したり、車両の前部の中心点Pfvの軌跡として取得したりすることもできる。中心点Pfvは、車両が水平な路面に停止している場合において、重心Gを通る前後方向に延びる線を含む鉛直面と一対の路面センサ402R、Lを通る線との交点Pfvである。軌跡を路面上の点の集合と考えた場合には、中心点Pfvの路面への投影点の集合を軌跡となる。中心点Pfvの軌跡(旋回半径)は、センサ側の軌跡(旋回半径)と称する。
センサ側の旋回半径は、図35に示すように、式
Rfv=(LP+LW)/sinδW・10-3
に従って求めることができる。
距離LPは旋回半径Rfvに対して小さいため、中心角(Pfv−0−PR)は、操舵輪の舵角の絶対値δWと同じであるとみなすことができる。
【0077】
制御対象輪が前輪12Fである場合において、旋回内側における路面センサ402と前輪との旋回半径の差(軌道差)は、式
ΔRfin =(Rfv−Ts/2)−(Rf−Tf/2)=Rfv−Rf
に、従って求めることができ、旋回外側における路面センサ402と前輪との旋回半径の差は、式
ΔRfout =(Rfv+Ts/2)−(Rf+Tf/2)=Rfv−Rf
に従って求めることができる。Tsは一対の路面センサ402の間隔であるが、本実施例においては、前輪のホイールトレッドTfと等しい。
路面センサ402による検出対象部が直径Dの円で囲まれた部分である場合には、図36に示すように、重なり部分の幅方向の長さΔWTは、式
ΔWT=(Rf+WT/2)−(Rfv−D/2)=(WT/2+D/2)−ΔR・・・(7)
に従って求めることができ、ラップ率Lapは、式
Lap=ΔWT/WT
に従って求めることができる。
【0078】
制御対象輪が後輪である場合において、旋回内側における路面センサ402と後輪との旋回半径の差、旋回外側における路面センサ402と後輪との旋回半径の差は、それぞれ、式
ΔRrin =(Rfv−Ts/2)−(Rr−Tr/2)=Rfv−{Rr+(Ts−Tr)/2}
ΔRrout =(Rfv+Ts/2)−(Rr+Tr/2)=Rfv−{Rr−(Ts−Tr)/2}
で表すことができる。
重なり部分の幅方向の長さΔWTは、式
ΔWT=(Rr+WT/2)−(Rfv−D/2)=(WT/2+D/2)−ΔR・・・(8)
に従って求めることができ、ラップ率Lapは、式
Lap=ΔWT/WT
に従って求めることができる。
以下、上記実施例における場合と同様に、ラップ率Lapに基づいて旋回時ゲインGRが取得されるのであり、プレビューゲインGが取得される。
【0079】
それに対して、検出対象部の領域が非常に小さく、殆ど「点」と見なし得る場合には、(7)式、(8)式において直径Dを0とすればよい。
その場合には、(7)式、(8)式から、軌道差ΔRがタイヤ幅の1/2(WT/2)より大きい場合には、重なりが存在せず、タイヤ幅の1/2以下である場合には、重なりが存在することがわかる。また、長さΔWTは、検出対象部のタイヤが通る路面に対する相対位置(タイヤが通る路面のタイヤの外周側の縁からの長さ)を表す。長さΔWTがタイヤの幅の1/2(WT/2)である場合(ΔWT=WT/2)には、旋回半径の差ΔR=0であり、タイヤの中央部が検出対象部を通る。長さΔWTが0に近い場合(ΔWT≒0)には、旋回半径の差ΔR=WT/2であり、タイヤの外周側の縁部が検出対象部を通る。長さΔWTがタイヤの幅WTに近い場合(ΔWT≒WT)には、旋回半径の差ΔR=−WT/2であり、タイヤの内周側の縁部が検出対象部を通ることがわかる。換言すれば、タイヤの中央部が検出対象部を通る場合は縁部が通る場合より、その路面センサ402によって検出された検出対象部周辺の路面の凹凸との重なり部が多いと考えることができる。そのように考えれば、上述の長さΔWTをタイヤ幅WTで割ることによって得られるラップ率を、上記実施例における場合と同様に採用することが可能となり、ラップ率が大きい場合は小さい場合よりゲインを大きくすることは妥当なことである。
【0080】
これらの各値に基づいて、プレビューゲインが上記実施例における場合と同様に求められる。また、路面センサ402によって検出された路面の凹凸は、制御対象輪のばね下部材の変位であると考えることができる。それらに基づいて、前輪12Fの上下方向力発生装置24F、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rがそれぞれ制御される。それによって、後輪12Rのみならず、前輪12Fにおいてもプレビュー制御が可能となるため、制御遅れを小さくして、前輪12Fの上下方向の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0081】
なお、上記実施例においては、路面センサ402がほぼ鉛直下方の路面の凹凸を検出するものであったが、前方、後方の路面の凹凸を検出するものとすることができる。その場合には、その制御対象路面の部分と制御対象輪の車軸の中心線との間の距離と、車速とによって余裕時間が取得されることになる。
また、モデルを考え、路面の凹凸(ばね下変位)に基づいてばね上変位XU、ばね上絶対速度VU、ばね上ばね下相対速度VS等を取得して、それに基づいてプレビュー制御が行われるようにすることもできる。
さらに、本実施例は、図29,図30,図33に記載のサスペンションと組み合わせて適用することもできる。
【0082】
以上、複数の態様について記載したが、サスペンションの構造、サスペンション制御の内容は上記実施例には限らない等、本発明は、前記に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施例であるサスペンション制御装置を備えた車両全体を概念的に示す図である。
【図2】上記サスペンション制御装置を含むサスペンションシステム全体を概念的に示す図である。
【図3】上記サスペンションシステムに含まれる上下方向力発生装置の側面図である。
【図4】上記サスペンションシステムに含まれるショックアブソーバの断面図である。
【図5】上記ショックアブソーバの詳細な断面図である。
【図6】上記サスペンションに含まれる上下方向力発生装置の平面図である。
【図7】上記上下方向力発生装置のアクチュエータの断面図である。
【図8】上記上下方向力発生装置の作動を表す図である。
【図9】上記アクチュエータの電動モータを制御するインバータの回路図である。
【図10】上記インバータの作動状態を示す図である。
【図11】上記サスペンションシステムに含まれるサスペンション制御ユニットの周辺を概念的に示す回路図である。
【図12】(a)車速と余裕時間との関係を示す図である。(b)上記制御ユニットの記憶部に記憶された車速対応プレビューゲイン決定テーブルを概念的に示すマップである。(c)余裕時間、制御遅れ時間、効果有り時間の関係を概念的に示す図である。
【図13】(a)車両の旋回中における車輪の軌道を示す図である。(b)前輪が通った路面と後輪が通ると予想される路面との重なりを表す図である。
【図14】車両の旋回中の各輪の旋回半径と前輪舵角との関係を示す図である。
【図15】前輪、後輪の旋回半径と軌道差との関係を示す図である。
【図16】(a)前輪舵角の絶対値とラップ率との関係を示す図である。(b)上記制御ユニットの記憶部に記憶された旋回時プレビューゲイン決定テーブルを概念的に示すマップである。
【図17】上記サスペンションシステムに含まれる上下方向力発生装置制御ユニットの記憶部に記憶されたプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図18】上記プレビュー制御プログラムの一部を示すフローチャートである(プレビューゲイン決定)。
【図19】上記プレビュー制御プログラムの別の一部を示すフローチャートである(車速対応ゲイン決定)。
【図20】上記プレビュー制御プログラムのさらに別の一部を示すフローチャートである(旋回時ゲイン決定)。
【図21】上記上下方向力発生装置の記憶部に記憶された通常制御プログラムを表すフローチャートである。なお、プレビュー制御プログラムの一部でもある。
【図22】上記通常制御プログラムの一部を示すフローチャートである(制御指令値の出力)。
【図23】上記サスペンションシステムにおける制御の一例を示す図である。
【図24】別の、旋回半径と前輪舵角との関係を示す図である。
【図25】上記上下方向力発生装置制御ユニットの記憶部に記憶された別のプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図26】上記上下方向力発生装置の記憶部に記憶された別の通常制御プログラムを表すフローチャートである。
【図27】上記サスペンションシステムに含まれるアブソーバ制御ユニットの記憶部に記憶されたプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図28】上記アブソーバ制御ユニットの記憶部に記憶された通常制御プログラムを表すフローチャートである。
【図29】上記サスペンションシステムに含まれる別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【図30】上記サスペンションシステムに含まれるさらに別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【図31】上記サスペンションシステムに含まれるサスペンション制御ユニットの記憶部に記憶されたさらに別のプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図32】上記記憶部に記憶されたさらに別の通常制御プログラムを表すフローチャートである。
【図33】上記サスペンションシステムに含まれる別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【図34】本発明の別の一実施例であるサスペンション制御装置を含む車両全体を概念的に示す図である。
【図35】上記車両の旋回半径、前輪舵角、ホイールベースの間の関係を示す図である。
【図36】(a)車両の旋回中における検出対象部の軌跡、車輪の軌跡を示す図である。(b)検出対象部(路面の部分)の軌跡と制御対象輪が通ると予想される路面との重なりを表す図である。
【符号の説明】
【0084】
12:車輪 14:車体 20:コイルスプリング 22:ショックアブソーバ 24:上下方向力発生装置 46:第2ロアアーム 56:減衰特性制御装置 90:電動モータ 122:L字形バー 124:アクチュエータ 130:シャフト部 132:アーム部 140:電動モータ 168:サスペンションECU 170:上下方向力発生装置ECU 172ショックアブソーバECU 178:インバータ 222:インバータ 196:ばね上加速度センサ 198:車高センサ 200:舵角センサ 284:コイルスプリング 286:ショックアブソーバ 288:減衰特性制御装置 312:液圧シリンダ装置 316:ポンプ 318;電動モータ 350:サスペンションECU 360:ストロークセンサ 362:ばね上加速度センサ 370:上下方向力発生装置 372:直線状のロッド 374:アクチュエータ 390:インバータ 392:サスペンションECU 402:路面センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン決定部が、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間以上である場合に予め定められた一定の値とし、前記第1設定時間より短い場合に、前記余裕時間が短くなるのに伴って減少する値とするゲイン漸減部を含む請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が、前記第1設定時間より短い第2設定時間以下である場合に、前記ゲインを0とする0決定部を含む請求項1または2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記ゲイン決定部が、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は0とする0決定部を含む請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記制御対象輪のサスペンションへの制御指令値を、前記余裕時間が前記第1設定時間以上の場合には、前記少なくとも1つのセンサによる検出値が取得された時点から、前記余裕時間から前記制御遅れ時間を引いた時間が経過した後に出力するプレビュー制御部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項6】
前記ゲイン決定部が、前記車両の直進状態において、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は長い場合より前記ゲインを小さい値に決定する余裕時間対応決定部と、前記車両の旋回状態において、前記ゲインを、操舵車輪の舵角の絶対値が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定する旋回時ゲイン決定部とを含む請求項1ないし5のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項7】
前記制御対象輪のサスペンションが、その制御対象輪を保持するばね下部材とばね上部材との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、当該サスペンション制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値と前記ゲインとに基づいて、前記上下方向力発生装置を制御する上下方向力制御装置を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項8】
前記上下方向力発生装置が、減衰力を発生させる減衰力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の絶対速度と、前記制御対象輪を保持する前記ばね下部材の上下方向の絶対速度と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対速度とのうちの1つ以上の速度を取得するとともに、少なくとも、その取得した1つ以上の速度と前記ゲインとに基づいて決まる値を目標減衰力とする目標減衰力決定部と、前記減衰力発生装置を制御して、その目標減衰力決定部によって決定された目標減衰力を出力させる減衰力制御部とを含む請求項7に記載のサスペンション制御装置。
【請求項9】
前記上下方向力発生装置が、弾性力を発生させる弾性力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の変位と、前記制御対象輪を保持するばね下部材の上下方向の変位と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対変位とのうちの1つの変位を取得するとともに、少なくとも、その取得した1つの変位と前記ゲインとで決まる値を目標弾性力とする目標弾性力決定部と、前記弾性力発生装置を制御して、その目標弾性力決定部によって決定された目標弾性力を出力させる弾性力制御部とを含む請求項7または8に記載のサスペンション制御装置。
【請求項10】
前記上下方向力発生装置が、前記ばね下部材と前記ばね上部材とのいずれか一方に一端部が連結され、他方に他端部が連結された弾性部材を含み、前記上下方向力制御装置が、前記弾性部材を復元力に抗して弾性変形させる駆動源を含み、前記弾性部材の弾性変形量を変化させて、前記上下方向力を制御する弾性変形量制御部を含む請求項7ないし9のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つのセンサが、前記前輪側ばね上部材の上下方向の加速度を検出する前輪ばね上加速度センサと、前記車両の前輪を保持する前輪側ばね下部材と前輪側ばね上部材との相対ストロークを検出するストロークセンサとを含み、前記上下方向力制御装置が、前記前輪ばね上加速度センサによる検出値、前記ストロークセンサによる検出値および前記ゲインに基づいて前記後輪側に設けられた前記上下方向力発生装置を制御するばね下運動依拠上下方向力制御部を含む請求項7ないし10のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項12】
車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記車両の走行速度が、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と制御遅れ時間とで決まる第1設定速度より大きい場合に、前記第1設定速度以下の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項1】
車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と、前記車両の走行速度とで決まる余裕時間が、制御遅れ時間で決まる第1設定時間より短い場合に、前記第1設定時間以上の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン決定部が、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間以上である場合に予め定められた一定の値とし、前記第1設定時間より短い場合に、前記余裕時間が短くなるのに伴って減少する値とするゲイン漸減部を含む請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン決定部が、前記余裕時間が、前記第1設定時間より短い第2設定時間以下である場合に、前記ゲインを0とする0決定部を含む請求項1または2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記ゲイン決定部が、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は0とする0決定部を含む請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記制御対象輪のサスペンションへの制御指令値を、前記余裕時間が前記第1設定時間以上の場合には、前記少なくとも1つのセンサによる検出値が取得された時点から、前記余裕時間から前記制御遅れ時間を引いた時間が経過した後に出力するプレビュー制御部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項6】
前記ゲイン決定部が、前記車両の直進状態において、前記ゲインを、前記余裕時間が前記第1設定時間より短い場合は長い場合より前記ゲインを小さい値に決定する余裕時間対応決定部と、前記車両の旋回状態において、前記ゲインを、操舵車輪の舵角の絶対値が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定する旋回時ゲイン決定部とを含む請求項1ないし5のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項7】
前記制御対象輪のサスペンションが、その制御対象輪を保持するばね下部材とばね上部材との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、当該サスペンション制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値と前記ゲインとに基づいて、前記上下方向力発生装置を制御する上下方向力制御装置を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項8】
前記上下方向力発生装置が、減衰力を発生させる減衰力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の絶対速度と、前記制御対象輪を保持する前記ばね下部材の上下方向の絶対速度と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対速度とのうちの1つ以上の速度を取得するとともに、少なくとも、その取得した1つ以上の速度と前記ゲインとに基づいて決まる値を目標減衰力とする目標減衰力決定部と、前記減衰力発生装置を制御して、その目標減衰力決定部によって決定された目標減衰力を出力させる減衰力制御部とを含む請求項7に記載のサスペンション制御装置。
【請求項9】
前記上下方向力発生装置が、弾性力を発生させる弾性力発生装置を含み、前記上下方向力制御装置が、前記少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、前記制御対象輪に対応する前記ばね上部材の上下方向の変位と、前記制御対象輪を保持するばね下部材の上下方向の変位と、それらばね上部材とばね下部材との上下方向の相対変位とのうちの1つの変位を取得するとともに、少なくとも、その取得した1つの変位と前記ゲインとで決まる値を目標弾性力とする目標弾性力決定部と、前記弾性力発生装置を制御して、その目標弾性力決定部によって決定された目標弾性力を出力させる弾性力制御部とを含む請求項7または8に記載のサスペンション制御装置。
【請求項10】
前記上下方向力発生装置が、前記ばね下部材と前記ばね上部材とのいずれか一方に一端部が連結され、他方に他端部が連結された弾性部材を含み、前記上下方向力制御装置が、前記弾性部材を復元力に抗して弾性変形させる駆動源を含み、前記弾性部材の弾性変形量を変化させて、前記上下方向力を制御する弾性変形量制御部を含む請求項7ないし9のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つのセンサが、前記前輪側ばね上部材の上下方向の加速度を検出する前輪ばね上加速度センサと、前記車両の前輪を保持する前輪側ばね下部材と前輪側ばね上部材との相対ストロークを検出するストロークセンサとを含み、前記上下方向力制御装置が、前記前輪ばね上加速度センサによる検出値、前記ストロークセンサによる検出値および前記ゲインに基づいて前記後輪側に設けられた前記上下方向力発生装置を制御するばね下運動依拠上下方向力制御部を含む請求項7ないし10のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
【請求項12】
車両に設けられた少なくとも1つのセンサによる検出値に基づいて、その少なくとも1つのセンサの検出対象部より後方にある制御対象輪のサスペンションを制御するサスペンション制御装置であって、
前記車両の走行速度が、前記センサの検出対象部と前記制御対象輪との間の前後方向の距離と制御遅れ時間とで決まる第1設定速度より大きい場合に、前記第1設定速度以下の場合より、前記サスペンションの制御に使用されるゲインを小さくするゲイン決定部を含むことを特徴とするサスペンション制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2009−119947(P2009−119947A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294014(P2007−294014)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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