説明

サスペンション装置

【課題】 電気モータを有するショックアブソーバ装置を備えるサスペンション装置において、バネ下部材の状態量を推定する場合における推定精度を向上させること。
【解決手段】 ショックアブソーバ装置30の電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61により検出された加速度に基づいてバネ下状態量が推定される。電気モータ31とバネ下部材との間にはアッパーサポート12が介在していないので、電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61の検出値に基づいてバネ下状態量を推定するに当たってその推定精度はアッパーサポート12の振動の影響を受けない。したがって、バネ下状態量の推定精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置に係り、特に、電気モータにより推進力または減衰力を発生するいわゆる電磁式サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置はショックアブソーバ装置を備える。ショックアブソーバ装置は、車両のバネ上部材にアッパーサポートを介して連結されたバネ上側ユニットと、車両のバネ下部材に連結されるとともにバネ上側ユニットに相対移動可能に連結されるバネ下側ユニットとを備える。また、ショックアブソーバ装置は、バネ上部材とバネ下部材との間の相対振動に対する減衰力を発生することにより、上記相対振動を抑制する。
【0003】
減衰力の発生源として電気モータが用いられることがある。電気モータを力の発生源として用いた場合、電気モータの通電制御によって、ショックアブソーバ装置は減衰力のみならず、サスペンションストロークを積極的に変化させるための推進力を発生する。
【0004】
特許文献1には、電気モータ(電磁モータ)を有するサスペンション装置が記載されている。このサスペンション装置は、電気モータおよびボールネジ機構からなる電磁アクチュエータと、この電磁アクチュエータに直列的に接続された液圧式ダンパを備える。液圧式ダンパにより高周波振動が減衰され、電磁アクチュエータにより低周波振動が減衰される。また、液圧式ダンパのストロークエンドを検知したときに電磁アクチュエータの制御ゲインを低下させることにより、液圧式ダンパのストッパ当たりショックが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−203933号公報
【発明の概要】
【0006】
電気モータを有するショックアブソーバ装置にあっては、上述のように電気モータが減衰力や推進力を発生する。したがって、バネ上部材とバネ下部材との間の相対振動を抑制するための減衰力や推進力の目標値は、電気モータが発生する力(モータ力)の目標値である。モータ力の目標値である目標モータ力は、バネ上部材の上下方向に沿った運動に関する状態量とバネ下部材の上下方向に沿った運動に関する状態量に基づいて演算される。例えば、目標モータ力は、バネ上部材の上下方向に沿った速度であるバネ上速度に所定のゲインを乗じた値と、バネ下部材の上下方向に沿った速度であるバネ下速度に所定のゲインを乗じた値との和により算出される。バネ上部材の状態量は、バネ上部材に設置されバネ上部材の上下方向に沿った加速度(バネ上加速度)を検出する上下加速度センサにより取得される。バネ下部材の状態量は、バネ下部材に設置されバネ下部材の上下方向に沿った加速度(バネ下加速度)を検出する上下加速度センサにより取得される。
【0007】
コスト削減などのためにバネ下加速度を直接検出する加速度センサを設置しない場合、バネ下部材の状態量はバネ上部材に設置された加速度センサにより検出されるバネ上加速度に基づいて、推定される。この場合、例えば減衰力の制御系にオブザーバを導入し、リカッチ方程式を解いてオブザーバゲインを求めることにより、バネ上加速度に基づいてバネ下部材の上下方向に沿った運動に関する状態量(バネ下状態量)が推定される。
【0008】
バネ上部材は一般的にアッパーサポートを介してショックアブソーバ装置に連結される。アッパーサポートの固有振動数はバネ下部材の固有振動数に近い。したがって、バネ上部材に設置された加速度センサにより取得されたバネ上加速度に基づいてバネ下状態量を推定する場合、アッパーサポートの振動によって推定精度が悪化し、ひいては目標モータ力の演算精度も悪化する。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされるものであり、電気モータを有するショックアブソーバ装置を備えるサスペンション装置において、バネ下状態量を推定する場合における推定精度を向上させることを目的とする。
【0010】
本発明の特徴は、電気モータを有するとともにアッパーサポートを介して車両のバネ上部材に連結されるバネ上側ユニットと、車両のバネ下部材に連結されるとともに前記バネ上側ユニットに相対移動可能に連結されるバネ下側ユニットとを備え、前記電気モータがバネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力または減衰力であるモータ力を発生するショックアブソーバ装置と、前記バネ上側ユニットに取り付けられ、前記バネ上側ユニットの上下方向に沿った加速度を検出する上下加速度センサと、前記上下加速度センサにより検出された加速度に基づいて、バネ下部材の上下方向に沿った運動に関する状態量であるバネ下状態量を推定するバネ下状態量推定手段と、前記上下加速度センサにより検出された加速度および、前記バネ下状態量推定手段により推定されたバネ下状態量に基づいて、前記モータ力の目標値である目標モータ力を演算する目標モータ力演算手段と、前記目標モータ力演算手段により演算された目標モータ力に基づいて、前記電気モータを駆動制御する駆動制御手段と、を備えるサスペンション装置とすることにある。
【0011】
上記発明によれば、バネ下状態量は、ショックアブソーバ装置のバネ上側ユニットに取り付けられた上下加速度センサにより検出された加速度に基づいて推定される。バネ上側ユニットとバネ下部材との間にはアッパーサポートが介在していないので、バネ上側ユニットに取り付けられた上下加速度センサにより検出される加速度に基づいてバネ下状態量を推定するに当たってその推定精度はアッパーサポートの振動の影響を受けない。したがって、バネ下状態量の推定精度が向上する。
【0012】
また、バネ上側ユニットとバネ上部材との間にはアッパーサポートが介在しているが、アッパーサポートの質量はバネ上部材の質量に比べて遙かに小さいために、バネ上部材の固有振動数とアッパーサポートの固有振動数は大きく異なる。このため、アッパーサポートの振動がバネ上部材の振動に与える影響は極めて小さい。故に、バネ上側ユニットに取り付けられた上下加速度センサにより検出された加速度をバネ上加速度に見立てることができる。
【0013】
以上のことから、バネ上部材に上下加速度センサを取り付けるのではなく、本発明のようにバネ上側ユニットに上下加速度センサを取り付けることにより、上下加速度センサにより検出された加速度に基づきバネ下状態量を正確に推定することができ、且つ、検出された加速度をバネ上加速度とみなすことができる。その結果、検出された加速度およびその加速度に基づいて推定されたバネ下状態量に基づいて、精度良く目標モータ力を演算することができる。
【0014】
前記上下加速度センサは、前記電気モータに内蔵され、前記電気モータの上下方向に沿った加速度を検出するものであるのがよい。これによれば、上下加速度センサが電気モータに内蔵されているので、電気モータのモータケーシングが上下加速度センサのセンサハウジングを兼ねる。このため上下加速度センサ固有のハウジングを設けることを要しない。よって、上下加速度センサのコンパクト化を図ることができる。加えて、電気モータと制御装置や駆動回路とを連絡する通信線(例えば電気モータの回転角検出センサの検出信号を出力する通信線や駆動回路に制御信号を出力する通信線)に用いられるコネクタと、上下加速度センサと制御装置などとを連絡する通信線に用いられるコネクタとを共用することができる。これによりコネクタの個数の低減を図ることができる。
【0015】
また、本発明のサスペンション装置は、内部に液体が封入されたシリンダと、前記シリンダ内を軸方向に移動するピストンを有し、前記ピストンが前記シリンダ内で相対移動することにより減衰力を発生するとともに、その相対移動量がストッパにより規制される液圧式ダンパ装置を備えるのがよい。そして、前記バネ下側ユニットが前記液圧式ダンパ装置を介してバネ下部材に連結されているのがよい。これによれば、ショックアブソーバ装置のバネ下側ユニットとバネ下部材との間に上記液圧式ダンパ装置が介在する。つまり、ショックアブソーバ装置と液圧式ダンパ装置が直列接続される。
【0016】
上記液圧式ダンパ装置は、高周波の振動が入力されたときに作動するものであるのがよい。つまり、高周波の振動が入力されたときにピストンとシリンダが相対移動するものであるのがよい。特に、液圧式ダンパ装置は、例えば20Hz付近の振動が入力されたときに作動するのがよい。これによれば、ショックアブソーバ装置の電気モータの作動によって対処することができない高い周波数の振動が液圧式ダンパ装置により減衰される。
【0017】
また、前記目標モータ力演算手段は、前記上下加速度センサにより検出された加速度の大きさが、前記液圧式ダンパ装置が前記ストッパに衝突したか否かを表す閾値の加速度として予め設定された基準加速度値を越えた場合には、前記電気モータの回転速度を抑制するように、前記電気モータの回転速度に基づいて前記目標モータ力を演算するものであるのがよい。つまり、上下加速度センサにより検出される加速度の大きさが基準加速度値を越えた場合には、目標モータ力演算手段は、上下加速度センサにより検出された加速度およびその加速度に基づいて推定されたバネ下状態量に基づいて目標モータ力を演算することに代えて、電気モータの回転速度を抑制するように電気モータの回転速度に基づいて目標モータ力を演算する。
【0018】
液圧式ダンパ装置とショックアブソーバ装置は直列的に接続されているため、液圧式ダンパ装置がストッパに衝突した場合にその衝撃力がショックアブソーバ装置に伝達される。この衝撃力により、電気モータに内蔵された上下加速度により検出される加速度(モータG)が増加する。またこの衝撃力により電気モータが回されて、電気モータの回転角速度も増加する。また、電気モータが回されることによりバネ上部材に上下方向に作用する加速度が変動する。これにより乗り心地が悪化する。
【0019】
これに対し、上記発明においては、上下加速度センサにより検出された加速度の大きさが、液圧式ダンパ装置がストッパに衝突したと考えられる閾値の加速度(基準加速度値)よりも大きいときに、電気モータの回転速度を抑制するように目標モータ力を演算する。これにより電気モータの回転が抑制される。電気モータの回転が抑制されることによって、液圧式ダンパ装置とストッパとの衝突によりバネ上部材に上下方向に作用する加速度の変動が抑えられる。その結果、乗り心地の悪化が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成の概略図である。
【図2】サスペンション本体の部分断面概略図である。
【図3】電気モータの制御構成を表すブロック図である。
【図4】サスペンション制御装置の内部構成を機能ごとに表した図である。
【図5】バネ下状態量推定ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】サスペンション本体の制御モデルを表す図である。
【図7】制御モデルの状態空間表現のブロック図である。
【図8】オブザーバを加えた制御モデルの状態空間表現のブロック図である。
【図9】乗り心地制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図10】上下加速度センサがバネ上部材に設置されている場合における、上下加速度センサ、電気モータ、サスペンション制御装置および駆動回路間の電気的接続関係を表す図である。
【図11】上下加速度センサが電気モータに内蔵されている場合における、上下加速度センサ、電気モータ、サスペンション制御装置および駆動回路間の電気的接続関係を表す図である。
【図12】液圧式ダンパがストッパに衝突した場合における、バネ上Gの変化と、モータGの変化と、電磁式ショックアブソーバ装置のストローク変位量の変化と、レゾルバ電圧の変化とを、時間を合わせて併記したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成の概略図である。
【0022】
このサスペンション装置は、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRと車体Bとの間にそれぞれ設けられる4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRと、各サスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRの作動を制御するサスペンション制御装置50とを備える。以下、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRおよび車輪WFL,WFR,WRL,WRRは、特に前後左右を区別する場合を除き、本明細書において単にサスペンション本体10および車輪Wと総称される。
【0023】
図2は、サスペンション本体10の部分断面概略図である。図2に示されるように、サスペンション本体10は、エアバネ装置20と、電磁式ショックアブソーバ装置30と、液圧式ダンパ装置40とを備える。エアバネ装置20は、空気の弾性(圧縮性)を利用して路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車両の重量を弾性支持する。このエアバネ装置20に支えられる側、つまり車体B側の部材がバネ上部材であり、エアバネ装置20を支持する側、つまり車輪W側の部材がバネ下部材である。したがって、エアバネ装置20,電磁式ショックアブソーバ装置30および液圧式ダンパ装置40は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に設けられる。
【0024】
電磁式ショックアブソーバ装置30は、電気モータ31とボールネジ機構32とを備える。電気モータ31は、モータケーシング311と、中空状の回転軸312と、永久磁石313と、極体314とを備える。モータケーシング311は電気モータ31の外郭を構成するハウジングであり、図示上下方向に軸を持ち上部から段階的に径が小さくなる段付円筒形状を成す。回転軸312は、モータケーシング311と同軸的にモータケーシング311内に配設され、軸受331,332によりモータケーシング311に回転可能に支持される。この回転軸312の外周面に永久磁石313が固定される。回転軸312および永久磁石313により電気モータ31のロータが構成される。永久磁石313に対向するように極体314(コアにコイルが巻回されたもの)が、モータケーシング311の内周面に固定される。極体314により電気モータ31のステータが構成される。また、極体314の図示上部に回転角検出センサ(レゾルバ)34が内蔵される。この回転角検出センサ34により電気モータ31の回転角(モータ回転角θ)が検出される。
【0025】
ボールネジ機構32は、ネジ溝321aが形成されたボールネジ軸321と、このボールネジ軸321のネジ溝321aに螺合するボールネジナット322とを備える。ボールネジナット322はモータケーシング311内に配設され、回転軸312の下端部分に接続されるとともに、ボールベアリングを介して回転可能且つ軸方向移動不能にモータケーシング311に支持される。したがって、回転軸312が回転すると、それに伴いボールネジナット322も回転する。
【0026】
ボールネジ軸321は、図に示されるように、モータケーシング311に同軸的に配置されており、モータケーシング311内にてボールネジナット322を螺合するとともに、その上方部分が回転軸312の内周側に挿入される。また、ボールネジ軸321の下方部分はモータケーシング311の下端面を突き抜けてさらに下方に延在する。
【0027】
ボールネジナット322の図示下方にスプラインナット35が配設される。このスプラインナット35はモータケーシング311の最下方部位に配置固定される。スプラインナット35にはスプラインが形成された貫通孔が設けられており、この貫通孔にボールネジ軸321が挿通される。なお、ボールネジ軸321のネジ溝321aにはスプライン溝も同時に形成されている。したがってボールネジ軸321はスプラインナット35にスプライン嵌合し、回転不能かつ軸方向移動可能にスプラインナット35に支持される。
【0028】
液圧式ダンパ装置40は、電磁式ショックアブソーバ装置30に直列的に連結するように、電磁式ショックアブソーバ装置30の下方に配置されている。この液圧式ダンパ装置40は、内部に作動液が封入されたシリンダ41と、シリンダ41の内部に配設されシリンダ41内で相対移動するバルブピストン42とを備える。バルブピストン42によってシリンダ41の内部が上室と下室とに区画される。シリンダ41の下端は、ブッシュを介してバネ下部材であるロアアームに連結される。
【0029】
本実施形態において液圧式ダンパ装置40は、ツインチューブ式のショックアブソーバ装置であり、シリンダ41が同軸配置された外筒411および内筒412を有する。外筒411と内筒412の間の空間によりリザーバ室が形成される。バルブピストン42は内筒412内に配設される。バルブピストン42が内筒412内を軸方向に移動するときに上室と下室との間を作動液が流通することにより、移動に対する抵抗力(減衰力)が発生する。また、内筒412の下方端にはベースバルブ413が取り付けられ、このベースバルブ413を介して下室とリザーバ室が連通する。バルブピストン42の移動に伴って作動液が下室とリザーバ室との間を流通することにより、移動に対する抵抗力(減衰力)が発生する。
【0030】
また、内筒412内にはピストンロッド43が挿入される。ピストンロッド43はその下端にてバルブピストン42に連結される。ピストンロッド43は、その上端にてボールネジ軸321の下端に連結され、その連結部分から図において下方に伸び、液圧式ダンパ装置40のシリンダ41の上面側から内筒412内に挿入される。よって、バルブピストン42はピストンロッド43を介して電磁式ショックアブソーバ装置30のボールネジ軸321に連結される。
【0031】
液圧式ダンパ装置40の外筒411の外周部分に環状の下部リテーナ44aが設けられる。下部リテーナ44aの外周には第1筒部21が連結される。第1筒部21は、下部リテーナ44aに連結された部分から液圧式ダンパ装置40のシリンダ41を覆うように図において上方に伸びている。第1筒部21の上端部に径内方に屈曲したフランジ部211が形成される。フランジ部211の下面側に環状の上部リテーナ44bが設けられる。さらに第1筒部21の上端側の外周面には、ストッパ用筒部27が連結している。ストッパ用筒部27は、第1筒部21との連結部位から図において上方に伸びた筒状の部分271と、筒状の部分271の上端から径外方に伸びたフランジ状の部分272を有する。
【0032】
また、ボールネジ軸321とピストンロッド43との連結部分には中央リテーナ44cが取り付けられる。中央リテーナ44cは、ボールネジ軸321とピストンロッド43との連結部分から水平方向に放射状に伸びた円板状の部分44c1と、円板状の部分44c1の外周から下方に伸びた円筒状の部分44c2と、円筒状の部分44c2から径外方に伸びた環状の鍔部分44c3とを備える。このような形状の中央リテーナ44cの鍔部分44c3と下部リテーナ44aとの間に第1コイルスプリング46aが、鍔部分44c3と上部リテーナ44bとの間に第2コイルスプリング46bが配設される。
【0033】
エアバネ装置20は、上述の第1筒部21と、第1筒部21の外周側に配置された第2筒部22と、第2筒部22の上端部分にその下端部分が接続され、その上端部分にてブラケット25を介してモータケーシング311に接続された第3筒部23と、袋状に形成されて内周部分が第1筒部21に連結され外周部分が第2筒部22に連結されたダイヤフラム24とを備える。第1筒部21と、第2筒部22と、第3筒部23と、ダイヤフラム24とにより、圧力室26が区画形成される。圧力室26には流体としての圧縮空気が封入されている。この圧縮空気の圧力によりバネ上部材が支持される。
【0034】
図に示されるように、ブラケット25の下面には、弾性材料からなる環状の第1ストッパ281が取り付けられる。また、第2筒部22の上端から径内方に屈曲された鍔状の部分の上面に弾性材料からなる環状の第2ストッパ282が取り付けられる。第1ストッパ281と第2ストッパ282との間に、ストッパ用筒部27のフランジ状の部分272が配置される。ストッパ用筒部27が上方移動したときにフランジ状の部分272が第1ストッパ281に当接し、下方移動したときにフランジ状の部分272が第2ストッパ282に当接する。第1ストッパ281および第2ストッパ282により、電磁式ショックアブソーバ装置30のストロークが規制される。
【0035】
また、中央リテーナ44cの円板状の部分44c1の下面には、第3ストッパ283が取り付けられている。また、液圧式ダンパ装置40の内筒412の上端には第4ストッパ284が取り付けられている。第3ストッパ283は、液圧式ダンパ装置40のシリンダ41がバルブピストン42に対して上方に移動したときに、シリンダ41の上面に設けられたストッパ部材41aがそれに衝突することによって、シリンダ41のそれ以上の上方移動を規制する。第4ストッパ284は、液圧式ダンパ装置40のシリンダ41がバルブピストン42に対して下方移動したときに、バルブピストン42がそれに衝突することによって、シリンダ41のそれ以上の下方移動を規制する。第3ストッパ283および第4ストッパ284により液圧式ダンパ装置40のストローク(シリンダ41に対するバルブピストン42の相対移動量)が規制される。
【0036】
以上のように構成されたサスペンション本体10においては、バッテリ電源などからの電力供給により電気モータ31が回転すると、電気モータ31の回転軸312に連結したボールネジナット322が回転する。ボールネジナット322の回転によってボールネジ軸321が軸方向移動する。ボールネジ軸321の軸方向移動に伴い、このボールネジ軸321に連結されたピストンロッド43および、ピストンロッド43に連結されたバルブピストン42も軸方向移動する。このとき、シリンダ41もバルブピストン42との間の相対移動を生じることなく軸方向移動する。これによりバネ上部材とバネ下部材との間の相対距離が変化する。このようにして、電気モータ31は、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力を発生する。
【0037】
また、バネ上共振周波数程度の低周波の外力(路面入力など)がサスペンション本体10に加えられた場合、この外力によってボールネジ軸321が軸方向に移動する。ボールネジ軸321の軸方向移動によってボールネジナット322が回転する。ボールネジナット322の回転により電気モータ31が回される。このとき電気モータ31は発電機として作用し、ボールネジ軸321の軸方向移動に対する抵抗力を発生する。斯かる抵抗力が、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する減衰力として作用し、この減衰力によりバネ上部材とバネ下部材との間の低周波振動が抑制される。なお、液圧式ダンパ装置40のバルブピストン42とシリンダ41は低周波の外力によっては相対移動しない。
【0038】
また、20Hz程度の高周波の路面入力がサスペンション本体10に加えられた場合、液圧式ダンパ装置40内にてシリンダ41がバルブピストン42に対して相対移動する。これにより減衰力が発生し、高周波振動はボールネジ機構32側に伝達されずに液圧式ダンパ装置40により抑制される。
【0039】
サスペンション本体10は、図2に示されるように、車体Bに形成される孔部から電気モータ31のモータケーシング311の上方部分が上部に突出するように配置され、且つそのような配置状態を保つように、アッパーサポート12を介して車体Bに取り付けられている。アッパーサポート12は、粘弾性を有する樹脂部材121とブラケット122とからなり、弾性的にサスペンション本体10を車体Bに連結する。
【0040】
また、電気モータ31には、電気モータ31の上下方向に沿った加速度であるモータ加速度xm"を検出する上下加速度センサ61が内蔵されている。この上下加速度センサ61は例えば静電容量式センサであり、図に示されるようにモータケーシング311内に素子部分のみが載置されている。
【0041】
上記のように構成される本実施形態の電磁式ショックアブソーバ装置30は、アッパーサポートを介して車体B(バネ上部材)側に連結される構成部品(バネ上側ユニット)と、液圧式ダンパ装置40を介してロアアーム(バネ下部材)側に連結されるとともにバネ上側ユニットに対して上下方向に相対移動可能となるようにバネ上側ユニットに連結される構成部品(バネ下側ユニット)とにより構成される。電気モータ31、ボールネジ機構32のボールネジナット322およびスプラインナット35がバネ上側ユニットに相当する。ボールネジ機構32のボールネジ軸321がバネ下側ユニットに相当する。
【0042】
図1に示されるように、サスペンション制御装置50は車体Bに搭載される。サスペンション制御装置50には、各サスペンション本体10の電気モータ31に内蔵されている上下加速度センサ61および回転角検出センサ34が接続される。回転角検出センサ34は電気モータ31の回転角(詳しくは電気モータ31のロータの回転角)θを表す信号をサスペンション制御装置50に出力する。上下加速度センサ61はモータ加速度xm"を表す信号をサスペンション制御装置50に出力する。ここで、モータ加速度xm"は、後述する理由からバネ上部材(車体B)の上下方向に沿った加速度(バネ上加速度)x2"にほとんど等しい。したがって、モータ加速度xm"はバネ上加速度x2"に見立てることができる。つまり、本実施形態においては、バネ上側ユニットである電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61により検出された加速度がバネ上加速度x2"となる。以下の説明においては、特別に明示する場合を除き、上下加速度センサ61にて検出された加速度をバネ上加速度x2"と呼ぶ。
【0043】
サスペンション制御装置50はマイクロコンピュータを主要構成とする。サスペンション制御装置50は、車両の良好な乗り心地性を得るために、バネ上部材とバネ下部材との間の相対振動に対する推進力または減衰力の目標値を演算する。上記推進力または減衰力は、電磁式ショックアブソーバ装置30の電気モータ31が発生する力であり、本明細書においてはこれらの力をモータ力と呼ぶ。また、上記推進力または減衰力の目標値を本明細書において目標モータ力と呼ぶ。サスペンション制御装置50は、演算した目標モータ力に基づいて電気モータ31を駆動制御する。
【0044】
図3は、サスペンション制御装置50による電気モータ31の制御構成を表すブロック図である。図に示されるように、サスペンション制御装置50は、駆動回路70を介して電気モータ31の駆動を制御する。駆動回路70は3相インバータ回路を構成し、電気モータ31(本実施形態では3相ブラシレスモータが用いられる)の3相電磁コイルCL1,CL2,CL3にそれぞれ対応したスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32を有する。これらのスイッチング素子は、サスペンション制御装置50からの制御信号に基づきデューティ制御される(PWM制御)。これによりバッテリから電気モータ31への通電量や電気モータ31からバッテリ側へ送られる回生電力の電流量が制御される。
【0045】
図4は、サスペンション制御装置50の内部構成を機能ごとに表した図である。図に示されるように、サスペンション制御装置50は、バネ下状態量推定部51と、乗り心地制御部52とを有する。バネ下状態量推定部51は、上下加速度センサ61により検出されたバネ上加速度x2"に基づいてバネ下状態量を推定演算する。バネ下状態量とは、ロアアーム等のバネ下部材の上下方向に沿った運動に関する状態量であり、例えば、バネ下部材の上下方向に沿った速度(バネ下速度)x1',バネ下部材の基準位置から上下方向に沿った変位量(バネ下変位量)x1,バネ下部材の上下方向に沿った加速度(バネ下加速度)x1"などが、バネ下状態量に相当する。本実施形態においては、バネ下状態量推定部51にてバネ下変位量x1およびバネ下速度x1'が推定演算される。このバネ下状態量推定部51が本発明のバネ下状態量推定手段に相当する。
【0046】
乗り心地制御部52は、上下加速度センサ61により取得されるバネ上加速度x2"および、バネ下状態量推定部51が推定したバネ下状態量を入力するとともに目標モータ力f*を演算し、演算した目標モータ力f*に基づいて、駆動回路70を介して電気モータ31を駆動制御する。
【0047】
図5は、バネ下状態量推定部51が実行するバネ下状態量推定ルーチンを表すフローチャートであり、図9は乗り心地制御部52が実行する乗り心地制御ルーチンを表すフローチャートである。いずれのルーチンも、サスペンション制御装置50の記憶素子内に制御プログラムとして記憶されている。これらのルーチンは、図示しないイグニッションスイッチのオン操作により起動し、所定の短い周期で繰り返し実行される。
【0048】
バネ下状態量推定ルーチンが起動すると、まず、バネ下状態量推定部51はステップ101(以下、ステップ番号をSと略記する)にて、上下加速度センサ61からバネ上加速度x2"を読み込む。次いで、S102にて、バネ下状態量であるバネ下変位量x1およびバネ下速度x1'を推定する。この場合、例えばサスペンション本体10の制御モデルから得られる振動系にオブザーバを付加した制御系を構築し、その制御系のオブザーバゲインを求めることにより、バネ下変位量x1およびバネ下速度x1'が推定される。オブザーバ設計の概要は以下の通りである。
【0049】
図6は、本実施形態におけるサスペンション本体の制御モデル(単輪モデル)を表す図である。図において、バネ上部材の質量がm2,バネ下部材の質量がm1,バネ上部材の基準位置から上下方向に沿った変位量(バネ上変位量)がx2,バネ下部材の基準位置から上下方向に沿った変位量(バネ下変位量)がx1,エアバネ装置20のバネ定数がK,タイヤの弾性係数がKt,電気モータ31により出力されるモータ力がfにより表される。また、電気モータ31とバネ上部材との間にはアッパーサポートが介在している。
【0050】
このモデルから導かれるバネ下部材の運動方程式は下記式(1)のように、バネ上部材の運動方程式は下記式(2)のように表される。
【数1】

【数2】

式(1)においてx1"はバネ下加速度、式(2)においてx2"はバネ上加速度である。
【0051】
式(1)および式(2)の状態空間表現は、下記式(3)のように表される。
【数3】

式(3)において、xは状態量、x'は状態量の微分値、yは観測出力、uは入力であり、それぞれ下記式(4)のように表される。
【数4】

観測出力yであるバネ上速度x2'は、上下加速度センサ61から得られるバネ上加速度x2"を近似積分することにより得られる。
【0052】
また、式(3)中の行列A,B,Cは、下記式(5)のように表される。
【数5】

【0053】
図7は、上記式(3)により表される制御系のブロック図である。また、図8は、上記式(3)により表される制御系にオブザーバを加えた制御系を表すブロック図である。オブザーバは下記式(6)により表される。
【数6】

式(6)において、x*は状態量xの推定値であり、下記式(7)のように表される。
【数7】

【0054】
式(6)中のオブザーバゲインLは、システムが可観測である場合、すなわち下記式(8)に示される可観測性行列V0がフルランクである場合、下記式(9)に示されるリカッチ方程式の解Pに基づいて決定することができる。
【数8】

【数9】

【0055】
行列A,B,Cは車両の諸元情報などにより既知であるので、その諸元情報を各行列に代入することにより式(9)を満足する解Pが求められる。そして、解Pを用いてオブザーバゲインLが式(10)のように表される。
【数10】

この式(10)から得られるオブザーバゲインLを式(6)に代入することにより、状態量xの推定値x*が演算される。
【0056】
状態量x*を演算した後に、バネ下状態量推定部51はS103に進み、状態量xの推定値x*のうち、バネ下速度x1'の推定値x1'*を出力する。その後このルーチンを一旦終了する。このように、バネ下状態量推定部51は、オブザーバ設計された制御系のオブザーバゲインLを計算し、計算したオブザーバゲインLを用いてバネ下状態量を推定する。バネ下状態量を推定する際に観測される量(観測出力)は、電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61により検出されたバネ上加速度x2"から求められたバネ上速度x2'であるから、バネ下状態量の推定値はバネ上加速度x2"に依存する。すなわち、バネ下状態量推定部51は、バネ上側ユニットに設置された上下加速度センサ61により検出されたバネ上加速度x2"に基づいて、バネ下状態量を推定する。
【0057】
また、乗り心地制御ルーチンが起動すると、乗り心地制御部52は、図9のS201にて、まず上下加速度センサ61からバネ上加速度x2"を読み込む。次いで、S202にて回転角検出センサ34からモータ回転角θを読み込む。続いて、S203にて、バネ上加速度x2"の大きさ|x2"|が、予め定められた基準加速度値x0"よりも大きいか否かを判定する。この基準加速度値x0"は、液圧式ダンパ装置40が第3ストッパ283または第4ストッパ284に衝突したか否かを表す閾値加速度の大きさであり、予め実験などにより求められる。バネ上加速度x2"の大きさ|x2"|が基準加速度値x0"よりも大きい場合には、液圧式ダンパ装置40が第3ストッパ283または第4ストッパ284に衝突したと判断され、バネ上加速度x2"の大きさ|x2"|が基準加速度値x0"以下の場合には、液圧式ダンパ装置40が第3ストッパ283または第4ストッパ284に衝突していないと判断される。
【0058】
S203の判定結果がNoである場合、すなわちバネ上加速度x2"の大きさ|x2"|が基準加速度値x0"以下である場合は、乗り心地制御部52はS204に進み、バネ上加速度x2"を近似積分することにより、バネ上速度x2'を演算する。次いで、S205にて、バネ下状態量推定部51にて推定されたバネ下速度の推定値x1'*を読み込む。そして、S206にて、目標モータ力f*を演算する。目標モータ力f*は、上下加速度センサ61により検出されたバネ上加速度x2"から計算されたバネ上速度x2'および、バネ下状態量推定部51により推定されたバネ下状態量であるバネ下速度の推定値x1'*に基づいて演算される。例えば、バネ上速度x2'に係るゲイン(バネ上ゲイン)をCs、バネ下速度の推定値x1'*に係るゲイン(バネ下ゲイン)をCgとしたときに、目標モータ力f*は下記式により算出される。
f*=Csx2'+Cgx1'*
【0059】
S206にて目標モータ力f*を演算した後は、乗り心地制御部52はS209に進み、目標モータ力f*に基づいて電気モータ31を駆動制御する。具体的には、乗り心地制御部52は、目標モータ力f*に基づいて制御量(電気モータ31の目標通電量と回転方向)を決定し、決定した制御量に応じたデューティ比で駆動回路70のスイッチング素子が開閉するように、各スイッチング素子に制御信号を出力する。これにより各スイッチング素子が指定されたデューティ比に従って開閉する。このとき電気モータ31からの回生電流が目標通電量よりも多ければ、その差分だけバッテリ側に回生電流が流れる。逆に、電気モータ31からの回生電流が目標通電量よりも少なければ、その差分だけバッテリから電気モータ31に通電される。こうした電気モータ31の制御は、各車輪W毎、つまりサスペンション本体10毎に独立して実行される。
【0060】
このようにして、電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61により取得されたバネ上加速度x2"に基づいてバネ下状態量(バネ下変位量およびバネ下速度)が推定されるとともに、バネ上速度x2'とバネ下状態量の推定値(バネ下速度の推定値x1'*)とから算出される目標モータ力f*に基づいて電気モータ31が駆動制御される。S206の処理が本発明の目標モータ力演算手段に相当し、S209の処理および駆動回路70が、本発明の駆動制御手段に相当する。
【0061】
本実施形態において、バネ上加速度x2"を検出する加速度センサ(上下加速度センサ61)は、バネ上部材に直接取り付けられてはおらず、アッパーサポート12を介してバネ上部材に連結される電磁式ショックアブソーバ装置30のバネ上側ユニットを構成する電気モータ31に内蔵されている。バネ上加速度はバネ上部材の上下方向に沿った加速度であるから、通常、バネ上加速度を検出する上下加速度センサはバネ上部材に直接取り付けられる。上下加速度センサがバネ上部材に直接取り付けられている場合、センサの取付位置(バネ上部材)とバネ下部材との間にアッパーサポートが介在する。アッパーサポートの質量はバネ下部材の質量に比較的近いので、アッパーサポートの固有振動数とバネ下部材の固有振動数は近い。このため、アッパーサポートの振動がバネ下部材の振動に影響を及ぼす。つまり、バネ上部材に直接取り付けられた上下加速度センサにより求められるバネ上加速度からバネ下状態量を推定しようとする場合、アッパーサポートの振動によってバネ下状態量の推定精度が悪化する。
【0062】
これに対して本実施形態によれば、バネ上加速度を検出する上下加速度センサがショックアブソーバ装置30のバネ上側ユニットである電気モータ31に内蔵されているので、上下加速度センサ61の取付位置とバネ下部材との間にアッパーサポート12が介在しない。このためアッパーサポート12の振動がバネ下状態量の推定に影響しない。よって、電気モータ31に取り付けられた上下加速度センサにより検出された加速度に基づいてバネ下状態量を推定することにより、バネ下状態量の推定精度の悪化が抑えられる。その結果、正確なバネ下状態量に基づいて、正確な乗り心地制御を実行することができる。
【0063】
なお、バネ上加速度を検出する上下加速度センサを電気モータ31内に内蔵した場合、本来得られる加速度は電気モータ31の加速度(モータ加速度xm")、すなわちバネ上側ユニットの加速度である。バネ上側ユニットとバネ上部材との間にはアッパーサポート12が介在している。しかし、バネ上部材の質量とアッパーサポートの質量は大きく異なるので、バネ上部材の固有振動数とアッパーサポートの固有振動数は大きく異なる。このため、アッパーサポート12の振動がバネ上部材の振動にほとんど影響しない。したがって、モータ加速度は実際のバネ上加速度とほとんど同じである。このようなことから、モータ加速度xm"をバネ上加速度x2"に見立てることができるのである。
【0064】
さらに、バネ上加速度を検出するための上下加速度センサを電気モータ31に内蔵した場合、上下加速度センサのコンパクト化が図れるとともに、電気配線を接続するためのコネクタの数が低減される。図10は、上下加速度センサがバネ上部材に設置されている場合における、上下加速度センサ、電気モータ、サスペンション制御装置および駆動回路間の電気的接続関係を表す図であり、図11は、上下加速度センサが電気モータに内蔵されている場合における、上下加速度センサ、電気モータ、サスペンション制御装置および駆動回路間の電気的接続関係を表す図である。図10に示されるように上下加速度センサがバネ上部材に設置されている場合は、上下加速度センサの素子部分がセンサハウジング内に配設されているために、センサハウジングの分だけ上下加速度センサの体積が大きくなる。これに対し、図11に示されるように上下加速度センサが電気モータに内蔵されている場合は、電気モータのモータケーシングを上下加速度センサのセンサハウジングとして共用することができる。したがって電気モータには上下加速度センサの素子部分のみを内蔵すればよい。これにより上下加速度センサの体積が小さくなり、上下加速度センサのコンパクト化を図ることができる。
【0065】
また、上下加速度センサがバネ上部材に設置されている場合は、上下加速度センサとサスペンション制御装置との間の通信線を上下加速度センサに接続するためのコネクタが必要である。これに対し、上下加速度センサが電気モータに内蔵されている場合は、電気モータと駆動回路との間の通信線(例えば、サスペンション制御装置から電気モータに駆動制御指令を出力するための通信線)を電気モータに接続するためのコネクタを利用して、上下加速度センサとサスペンション制御装置との間の通信線を上下加速度センサに接続することができる。このため上下加速度センサに固有のコネクタを廃止することができ、コネクタの個数の低減を図ることができる。
【0066】
乗り心地制御部52は、図9のS203の判定結果がNoである場合には、上記したようにバネ上速度x2'とバネ下速度の推定値x1'*に基づいて目標モータ力f*を演算する。一方、上記判定結果がYesである場合、つまりバネ上加速度x2"の大きさ|x2"|が基準加速度値x0"よりも大きいと判定した場合は、乗り心地制御部52は、電気モータ31の回転が抑えられるように、電気モータの回転速度(回転角速度)に基づいて目標モータ力f*を演算する。基準加速度値x0"は、上述したように、液圧式ダンパ装置40が第3ストッパ283または第4ストッパ284に衝突したか否かを表す閾値加速度の大きさである。
【0067】
図12は、液圧式ダンパ装置40が第3ストッパ283または第4ストッパ284に衝突した場合において、バネ上部材に上下方向に作用する加速度(バネ上G)の変化(グラフA)と、電気モータ31に上下方向に作用する加速度(モータG)の変化(グラフB)と、電磁式ショックアブソーバ装置30のストローク変位量(単位:mm)の変化(グラフC)と、回転角検出センサ34のレゾルバ電圧(単位:V)の変化(グラフD)とを、時間を合わせて併記したグラフである。加速度の変化を表すグラフの縦軸の単位はm/sec.である。また、各グラフの横軸は、測定開始からの経過時間(単位:sec.)である。なお、レゾルバ電圧の振動周期が短いほど電気モータ31が速く回転していることを表す。
【0068】
図に示されるグラフの横軸により表される経過時間が9.5secのときに、モータGが非常に大きくなっているのがわかる。また、モータGが増加した後に、バネ上Gが大きくなっているとともに、レゾルバ電圧の振動周期も短くなっている(電気モータ31の回転角速度が増加している)。ところが、電磁式ショックアブソーバ装置30のストローク変位量に大きな変動は見られない。これらのことから、時間9.5sec.のときに、液圧式ダンパ装置40が第3ストッパ283または第4ストッパ284に衝突する現象が発生した(以下、この現象をストッパ当たりと呼ぶ)と推測される。すなわち、液圧式ダンパ装置40とショックアブソーバ装置30は直列接続されているため、ストッパ当たりが発生した場合にその衝撃力が電磁式ショックアブソーバ装置30にまず伝達される。この衝撃力によりモータGがまず増加する。またこの衝撃力により電気モータ31が回されて、電気モータ31の回転角速度も増加する。また、衝撃力はやがてバネ上部材にも伝達されてバネ上Gも変動する。ストッパ当たりによってバネ上Gが変動した場合、乗り心地が悪化する。
【0069】
本実施形態では、ストッパ当たりの発生が、電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61により検出されるバネ上加速度x2"の大きさ(つまりモータG)により判断される。すなわち、S203にて、バネ上加速度x2"の大きさ|x2"|が基準加速度値x0"よりも大きいと判断されたときは、乗り心地制御部52はストッパ当たりが発生したと判断する。そして、ストッパ当たりが発生したと判断した場合、乗り心地制御部52は、S207にて、モータ回転角θを微分することによりモータ回転角速度ωを演算する。続いて、S208に進み、所定のゲインCとモータ回転角速度ωとを乗じることにより目標モータ力f*を演算する。この場合において、目標モータ力f*が減衰力(電磁式ショックアブソーバ装置30のストローク変位に対する抵抗力)となるようにゲインCが設定される。したがって、モータ回転角速度ωが大きいほど減衰力が大きくなる。S208の処理が、本発明の目標モータ力演算手段に相当する。
【0070】
S208にて目標モータ力f*を演算した後は、乗り心地制御部52はS209に進み、目標モータ力f*に基づいて電気モータ31を駆動制御する。このような制御によって、ストッパ当たりが発生したときに、モータ回転角速度の増加が抑えられる。その結果、バネ上部材の変動も抑えられる。
【0071】
以上、本実施形態によれば、上下加速度センサ61を電気モータ31に内蔵し、この上下加速度センサ61により検出されるバネ上加速度x2"に基づいてバネ下状態量が推定される。電気モータ31(バネ上側ユニット)とバネ下部材との間にはアッパーサポートが介在しないので、バネ下状態量の推定精度が向上する。また、電気モータ31のモータケーシング311を上下加速度センサ61のセンサハウジングとして利用することができるので、上下加速度センサ61のコンパクト化を図ることができる。また、電気モータ61に取り付けられるコネクタを上下加速度センサのコネクタとして利用することができるので、コネクタ類の低減を図ることができる。
【0072】
また、電気モータ31に内蔵された上下加速度センサ61により検出されるバネ上加速度x2"の大きさが基準加速度x0"を越えた場合には、電気モータ31の回転速度を抑制するように目標モータ力f*が演算される。このためストッパ当たりの発生時に電気モータ31の回転が抑制される。その結果、ストッパ当たりによりバネ上部材に作用する加速度の変動が抑えられ、乗り心地の悪化が抑制される。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、バネ下状態量としてバネ下変位量およびバネ下速度が推定されているが、バネ下速度の推定値を微分することによりバネ下加速度が推定されるものであってもよい。バネ下加速度が推定された場合、推定されたバネ下加速度は、例えば下記式に表されるように、モータ力foutにバネ下側ユニットの慣性質量補償を考慮して目標モータ力f*を算出する際に用いられる。
f*(s)=fout(s)+ms2x1(s)
上記式において、sはラプラス演算子、mはバネ下側ユニットの質量であり、s2x1(s)がバネ下加速度の推定値である。
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…サスペンション本体、12…アッパーサポート、121…樹脂部材、122…ブラケット、20…エアバネ装置、30…ショックアブソーバ装置、31…電気モータ(バネ上側ユニット)、311…モータケーシング、32…ボールネジ機構、321…ボールネジ軸(バネ下側ユニット)、322…ボールネジナット(バネ上側ユニット)、34…回転角検出センサ、35…スプラインナット(バネ上側ユニット)、40…液圧式ダンパ装置、41…シリンダ、42…バルブピストン(ピストン)、43…ピストンロッド、50…サスペンション制御装置、51…バネ下状態量推定部(バネ下状態量推定手段)、52…乗り心地制御部(目標モータ力演算手段,駆動制御手段)、61…上下加速度センサ、70…駆動回路(駆動制御手段)、283…第3ストッパ(ストッパ)、284…第4ストッパ(ストッパ)、x0"…基準加速度値、x1'*…バネ下速度の推定値、x2"…バネ上加速度、x2'…バネ上速度、xm"…モータ加速度、θ…モータ回転角、ω…モータ回転角速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータを有するとともにアッパーサポートを介して車両のバネ上部材に連結されるバネ上側ユニットと、車両のバネ下部材に連結されるとともに前記バネ上側ユニットに相対移動可能に連結されるバネ下側ユニットとを備え、前記電気モータがバネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力または減衰力であるモータ力を発生するショックアブソーバ装置と、
前記バネ上側ユニットに取り付けられ、前記バネ上側ユニットの上下方向に沿った加速度を検出する上下加速度センサと、
前記上下加速度センサにより検出された加速度に基づいて、バネ下部材の上下方向に沿った運動に関する状態量であるバネ下状態量を推定するバネ下状態量推定手段と、
前記上下加速度センサにより検出された加速度および、前記バネ下状態量推定手段により推定されたバネ下状態量に基づいて、前記モータ力の目標値である目標モータ力を演算する目標モータ力演算手段と、
前記目標モータ力演算手段により演算された目標モータ力に基づいて、前記電気モータを駆動制御する駆動制御手段と、を備えるサスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のサスペンション装置において、
前記上下加速度センサは、前記電気モータに内蔵され、前記電気モータの上下方向に沿った加速度を検出することを特徴とする、サスペンション装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサスペンション装置において、
内部に液体が封入されたシリンダと、前記シリンダ内を軸方向に移動するピストンを有し、前記ピストンが前記シリンダ内で相対移動することにより減衰力を発生するとともに、その相対移動量がストッパにより規制される液圧式ダンパ装置を備え、
前記バネ下側ユニットは前記液圧式ダンパ装置を介してバネ下部材に連結されていることを特徴とする、サスペンション装置。
【請求項4】
請求項3に記載のサスペンション装置において、
前記目標モータ力演算手段は、前記上下加速度センサにより検出された加速度の大きさが、前記液圧式ダンパ装置が前記ストッパに衝突したか否かを表す閾値の加速度として予め設定された基準加速度値を越えた場合には、前記電気モータの回転速度を抑制するように、前記電気モータの回転速度に基づいて前記目標モータ力を演算することを特徴とする、サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−84197(P2011−84197A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239419(P2009−239419)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】